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平成 27 年 9 月 9 日
スモールビジネスにおける労務管理の 3 つのポイント
第一東京弁護士会所属
第一芙蓉法律事務所
弁護士 東 志穂
第 1 スモールビジネスにおける労務管理のポイント
1 スモールビジネスを取り巻く人材に関する状況1
・ 小規模事業者においては,質・量の面で十分な人材を確保できていない
・ 女性の従業員の割合は規模の小さな企業ほど高い
・ 55 歳以上の従業員割合は従業員規模が小さい企業ほど高い
・ 正社員比率は大企業より若干低い
・ 規模の小さな企業においては職場の配置転換が難しい
⇒ これらの状況を意識した労務管理を行うことが重要
2 労務管理上の3つのポイント
① 業務の実態に見合った労働時間制の活用
② ハラスメントに関する近時の最高裁判例を踏まえた対応
③ 近時の法改正への対応
第2 業務の実態に見合った労働時間制の活用
1 労働時間の原則と例外
(1) 原則-法定労働時間(労基法 32 条 1 項)
・ 1 日 8 時間,1 週 40 時間
・ 法定労働時間の特例として,常時 10 人未満の労働者を使用する商業,映画・
演劇業,保健衛生業,接客業については,週法定時間は 44 時間(労基法 40 条,
労基則 25 条の 2 第 1 項)
(2) 変形労働時間制2
ア 1 か月以内の期間の変形労働時間制(労基法 32 条の 2)
1 中小企業白書(2015 年版) http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H27/PDF/h27_pdf_mokujityuu.html 2 フレックスタイム制を含め変形労働時間制を採用している企業割合は 55.6%で,企業規模別に見ると1000 人以上が 70.9%,300~999 人が 66.0%,100~299 人が 59.7%,30~99 人が 53.2%となっている(平成 26 年就労条件総合調査結果)。
2
・ 事業場の労使協定または就業規則その他これに準ずるものにより,1 か月以
内の一定期間を平均し 1 週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない定
めをした場合において,特定の日又は週に法定労働時間を超えて労働させる
ことができる制度
・ 特に深夜業も含む交替制労働において利用されている
・ 常時 10 人以上を使用する事業場においては,始業・終業時刻を就業規則で
特定することを義務付けられており(労基法 89 条 1 項),就業規則において
変形期間内の毎労働日の労働時間を始業・終業時刻とともに特定しなければ
ならないが,業務の実態上就業規則による特定が困難な場合は,変形制の基
本事項(変形の期間,上限,勤務パターンなど)を就業規則で定めた上で,
各人の各日の労働時間を 1 か月毎のシフト表で特定していくことは可能
← 毎月のシフト表の作成や労働時間管理が煩雑となりうる
イ 1 年以内の期間の変形労働時間制(労基法 32 条の 4)
・ 事業場の労使協定により,1 か月を超え 1 年以内の一定期間を平均して 1
週あたりの労働時間が 40 時間を超えない定めをした場合に,特定の日又は週
に法定労働時間を超えて労働させることができる制度
・ デパートのように 1 年のうちとくに繁忙な時期(中元時,歳暮時)をもつ
事業において利用される
ウ 1 週間単位の変形労働時間制(労基法 32 条の 5)
・ 事業場の労使協定で定めることにより,1 週 40 時間の枠内で,特定の日に
ついて法定労働時間を超えて労働させることができる制度
・ 適用対象は,日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずることが多く,かつ,
これを予測した上で就業規則その他これに準ずるものにより各日の労働時間
を特定することが困難であると認められる事業(小売業,旅館,料理店,飲
食店)であって,常時使用する労働者の数が常時 30 人未満の労働者を使用す
る事業者(労基則 12 条の 5 第 1 項,2 項)
← 労基法 40条の特例事業であっても,この変形労働時間制を利用する場合は,
週 40 時間の原則によらなければならない
(3) フレックスタイム制(労基法 32 条の 3)
就業規則等により制度を導入することを定めた上で,労使協定により,一定期間
(1 か月以内)を平均し 1 週間あたりの労働時間が法定の労働時間を超えない範囲内
において,その期間における総労働時間を定めた場合に,その範囲内で始業・終業
時刻を労働者が自主的に決定することができる制度
3
← コアタイムを除き,ある時刻までの出勤や居残りを命ずることができない
(4) みなし労働時間制3
ア 事業場外みなし労働時間制(労基法 38 条の 2)
事業場外で労働する場合で労働時間の算定が困難な場合に,原則として所定労
働時間労働したとみなす制度
← 近時の携帯電話等の通信機器の普及により,事業場外において業務を行う
従業員が携帯電話等の通信機器を所持している場合は,当該通信機器を用い
て従業員が業務に従事しているかどうかを確認することが可能であり,「労働
時間の算定が困難な場合」に該当する場合は相当限られる4
イ 専門業務型裁量労働制(労基法 38 条の 3)
業務遂行の手段や時間配分などに関して使用者が具体的な指示をしない 19の業
務について,実際の労働時間数とはかかわりなく,労使協定で定めた労働時間数
を働いたものとみなす制度
← 対象業務が限定的(労基法 38 条の 3 第1項1号,労基則 24 条の 2 の 2 第
2 項)
← 裁量労働制の適用を受ける従業員が個席にいなくても上司は文句を言えな
い
ウ 企画業務型裁量制(労基法 38 条の 4)
事業運営の企画,立案,調査及び分析の業務であって,業務遂行の手段や時間
配分などに関して使用者が具体的な指示をしない業務について,実際の労働時間
数とはかかわりなく労使委員会で定めた労働時間数を働いたものとみなす制度
← 対象業務が限定的(労基法 38 条の 4 第 1 項 1 号)
← 裁量労働制の適用を受ける従業員が個席にいなくても上司は文句を言えな
い
← 導入のための要件が厳格(労使委員会における 5 分の 4 の多数決による決
3 みなし労働時間制を採用している企業割合は 13.3%で,企業規模別に見ると 1000 人以上が 24.8%,300~999 人が 21.8%,100~299 人が 14.5%,30~99 人が 11.9%となっている(平成 26 年就労条件総合調査結果)。 4 阪急トラベル・サポート(派遣添乗員・第 2)事件・最高裁平 26・1・24 判決(労判 1088 号 5 頁) 募集型の企画旅行の添乗業務に従事していた添乗員が時間外割増賃金等の支払いを求めたのに対し,会社が上記添乗業務については労働基準法 38 条の 2 第 1 項にいう「労働時間を算定し難いとき」にあたるとして所定労働時間労働したものとみなされるなどと主張したが,「業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等に鑑みると,本件添乗業務については,これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認めがたく,同条項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとされた例。
4
議,裁量労働制適用についての本人の同意等が必要)
2 検討にあたってのポイント
・ 限られた人材を有効活用するためには,業務の実態をよく分析の上,最も適合
的な労働時間制を採用することが重要
・ 余りに複雑な制度を導入すると,却って労務管理の負担が重くなるだけとなり
かねないので,各労働時間制のメリット・デメリットを十分検討した上で導入す
る
・ 特定の従業員の労働時間が過重になることを防ぎ,ひいては特定の従業員が心
身の障害を来たすことがないようにする
・ 多様で柔軟な働き方を実現させるためことを 1 つの目的とした近時の労働基準
法の改正(後述)の動向にも留意する
第 3 ハラスメントの近時の判例の動向を踏まえた対応
1 セクシャル・ハラスメント
(1) L 館事件・最高裁平成 27 年 2 月 26 日判決(労判 1109 号 5 頁)
水族館の経営等を目的とする株式会社であり,大阪市が出資するいわゆる第三セ
クターとして同市に所在する水族館及びこれに隣接する商業施設の運営等を行って
いる Y において,営業部サービスチームのマネージャーの職位にあり,MO(課長代
理)の等級に格付けされていた男性従業員 X1 と,営業部課長代理の職位にあり,
MO の等級に格付けされていた男性従業員 X2 が,複数の女性従業員に対して性的な
発言等のセクシャル・ハラスメント等をしたことを懲戒事由として出勤停止の懲戒
処分を受けるとともに,これらを受けたことを理由に下位の等級に降格されたこと
について,上記各出勤停止処分の効力や上記各降格の効力を争った事案。
本判決は,X らの言動について,同一部署内において勤務していた A らに対し,X
らが職場において 1 年余にわたり繰り返した発言等の内容は,いずれの女性従業員
に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感を与えるもので,職場における女性従業
員に対する言動として極めて不適切なものであって,その職務環境を著しく害する
ものであったというべきであり,当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害
を招来するものといえるなどとして,Y が X らに対してした本件各行為を懲戒事由
とする各出勤停止処分は,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認め
られない場合に当たるとは言えないから,Y において懲戒権を濫用したものとはいえ
ず有効なものというべきであるとし,また,各降格についても Y において人事権を
濫用したものとはいえず有効とした。
(2) 上記判例を踏まえた注意すべきポイント
5
・ 言葉によるセクハラであっても軽視しない
・ セクハラの認定において,相手が明白に拒否の姿勢を示したかどうかは,必ず
しも重視されない点に留意する
・ セクハラの事実を具体的に認識した場合は,速やかに加害者に対し,必要な警
告や注意を行う
・ 均等法 11 条 1 項の事業主が雇用管理上講ずべき措置5の実施を徹底する
2 いわゆるマタニティ・ハラスメント
(1) 広島中央保険生協(C 生協病院)事件・最高裁平成 26 年 10 月 23 日判決(労判
1100 号 5 頁)
A 病院など複数の医療施設を運営する消費生活協同組合である Y に雇用され副主
任の職位にあった理学療法士である X が,労働基準法 65 条 3 項に基づく妊娠中の軽
易業務への転換に際して副主任を免ぜられ,育児休業の就業後も副主任に任ぜられ
なかったことから,Y に対し,上記の副主任を免じた措置は均等法 9 条 3 項に違反
する無効なものであるなどと主張して,管理職(副主任)手当の支払い及び債務不
履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。
本判決は,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる
事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当
該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置
により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容そ
の他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づ
いて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,
又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換
をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から
支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不
利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に
反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに
当たらないものと解するのが相当であるとして,上記特段の事情の存否について判
断することなく,原審摘示の事情のみをもって直ちに本件措置が均等法 9 条 3 項の
禁止する取扱いに当たらないとした原審の判断には,審理不尽の結果,法令の解釈
適用を誤った違法があるとした。
(2) 上記判例を踏まえた注意すべきポイント
5 均等法 11 条 2 項において,同条 1 項に基づき事業主が講ずべき措置に関し,その適切かつ有効な実施を図るために厚生労働大臣が定めるものとする指針として,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)
6
・ そもそも女性従業員が妊娠し,産前産後休業(労基法 65 条 1 項,2 項)や育
児休業の取得を申し出た場合に,法令に則った対応ができているか
・ 特に,管理職である女性従業員が妊娠して軽易業務への転換を申し出た場合
にどのように対応するか
第 4 近時の法改正への対応
1 特に注意すべき近時の法改正
(1) 平成 24 年の派遣法改正における労働契約申込みみなし制度(平成 27 年 10 月 1
日施行)
次の違法派遣の場合,派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入
れている場合には,派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみな
す制度
・ 禁止業務に従事させた場合
・ 無許可事業主等から派遣労働者を受け入れた場合
・ 派遣可能期間の制限に違反した場合
・ いわゆる偽装請負等の場合
→ 上記の何れかに該当しうる場合は,速やかに違法状態を解消するよう努める
(2) 平成 26 年の労働安全衛生法改正におけるストレスチェック制度(平成 27 年 12
月 1 日施行)
・ 従業員数 50 人未満の事業場は当面の間は努力義務
・ 一定の要件を満たした上で実施した場合は助成金を受けられる6
(3) 平成 25 年の行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関す
る法律に基づくマイナンバー制度の開始(平成 27 年 10 月 5 日施行)
・ マイナンバー取得の際は,利用目的を通知または公表するとともに,本人確
認を厳格に行う
・ 利用目的以外にマイナンバーを利用・提供しない
・ マイナンバーは必要がある場合のみ保管し,必要がなくなったら速やかに廃
棄・削除する
・ マイナンバーをその内容に含む個人情報を漏えいしたり喪失したりしないよ
う安全管理措置を厳格に行う(漏えい等の違反に対しては厳格な罰則あり)
※ 安全管理措置については,中小規模事業者に特例あり7
6 独立行政法人労働者健康福祉機構
http://www.rofuku.go.jp/sangyouhoken/stresscheck/tabid/1006/Default.aspx 7 中小規模事業者とは,事業者のうち従業員の数が 100 人以下の事業者であって,次に掲げる事業者を除く事業者をいう。
7
(4) 労働基準法等の一部を改正する法律案
・ 月 60 時間超の時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について,中小企業
への猶予措置を廃止(3 年後実施)
・ 一定の日数の年次有給休暇の確実な取得
・ フレックスタイム制の見直し(「清算期間」の上限を 1 か月から 3 か月へ)
・ 企画業務型裁量労働制の見直し(対象業務の追加,手続の簡素化等)
・ 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
(5) 派遣法等の一部を改正する法律案
・ 現行の専門 26 業務とそれ以外の業務による期間制限の区分を廃止し,新たに
事業所単位の 3 年の期間制限と個人単位の 3 年の期間制限とする
→ 事業所単位で,3 年の期間制限を超えて派遣労働者を受け入れる場合は,過
半数労働組合等からの意見聴取が必要
→ 派遣元で無期雇用されている派遣労働者については,何れの期間制限も対
象外
2 近時の法改正への対応のポイント
・ 近時,重要な法改正が続く中,中小企業にも義務化される制度について,まずは
優先的に対応する
・ その上で,より業務の実態に適合的な制度の導入も検討する
・個人番号利用事務実施者 ・委託に基づいて個人番号関係事務又は個人番号利用事務を業務として行う事業者 ・金融分野(金融庁作成の「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」第 1 条第 1 項に定
義される金融分野)の事業者 ・個人情報取扱事業者
8
参 考 資 料
1 最高裁平成 27 年 2 月 26 日判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/883/084883_hanrei.pdf
2 厚生労働省・「事業主の皆さん 職場のセクシャル・ハラスメント対策はあなたの義務
です!!」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyok
u/00.pdf
3 最高裁平成 26 年 10 月 23 日判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/577/084577_hanrei.pdf
4 厚生労働省・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに関する解釈通達について
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyok
u/0000089158.pdf
5 厚生労働省・妊娠・出産,育児休業等を理由とする不利益取扱い禁止 関係法令
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyok
u/0000089161.pdf
6 厚生労働省・妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係る Q&A
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyok
u/0000089160.pdf
7 厚生労働省「STOP!マタハラ 例えば・・・『妊娠したから解雇』『育休取得者はと
りあえず降格』は違法です」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyok
u/0000088990.pdf
8 内閣府「マイナンバー社会保障・税番号制度が始まります! 中小企業のみなさんへ
(入門編)平成 27 年 5 月版」
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/download/kojinjigyou.pdf
9 厚生労働省・労働基準法等の一部を改正する法律案の概要
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/189-41.pdf
10 厚生労働省・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法
律等の一部を改正する法律案の概要
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhake
nyukiroudoutaisakubu/gaiyou_2.pdf
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妊娠中の軽易業務への転換を「契機として」降格処分を行った場合
妊娠・出産、育児休業等を「契機として」不利益取扱いを行った場合
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに関する解釈通達について 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第9条第3項や育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)第10条等では、妊娠・出産、育児休業等を「理由として」解雇等の不利益取扱いを行うことを禁止している。
男女雇用機会均等法に違反(妊娠中の軽易業務への転換を「理由として」降格したと解される)
○降格することなく軽易業務に転換させることに業務上の必要性から支障がある場合であって、
○その必要性の内容・程度、降格による有利・不利な影響の内容・程度に照らして均等法の趣旨・目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するとき
違反には当たらない
○軽易業務への転換や降格により受ける有利・不利な影響、降格により受ける不利な影響の内容や程度、事業主による説明の内容等の経緯や労働者の意向等に照らして、労働者の自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき
【平成26年10月23日の最高裁判所判決のポイント】
男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に違反 (妊娠・出産、育児休業等を「理由として」不利益取扱いを行ったと解される)
違反には当たらない
○業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、
○その業務上の必要性の内容や程度が、法の規定の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在するとき
例外①
○契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、
○有利な影響の内容や程度が当該取扱いによる不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき
例外②
※「契機として」は基本的に時間的に近接しているか否かで判断
【解釈通達(雇用均等・児童家庭局長)※のポイント】(※)平成27年1月23日付け雇児発0123第1号「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」及び「育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」の一部改正について
原則
原則
例外①
例外②
参照条文
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法) 第9条 1項・2項(略) 3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項 の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項 の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 略 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法) 第10条 事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをし
てはならない。 ※介護休業、子の看護休暇、介護休暇、子供を養育する労働者の所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限・所定労働時間の短
縮措置等、要介護家族を介護する労働者の時間外労働の制限・深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置等についても同様にこれらを理由とする不利益取扱いが禁止されている。
妊娠中・産後の女性労働者の… ・妊娠、出産 ・妊婦健診などの母性健康管理措置 ・産前・産後休業 ・軽易な業務への転換 ・つわり、切迫流産などで仕事ができない、労働能率が低下 ・育児時間 ・時間外労働、休日労働、深夜業をしない 子どもを持つ労働者の… ・育児休業 ・短時間勤務 ・子の看護休暇 ・時間外労働、深夜業をしない 注:ほかにも、妊産婦の坑内業務・危険有害業務の就労制限、変形労働 時間制の場合の法定労働時間外労働をしないことも含まれる
不利益取扱い(例) ・解雇 ・雇い止め ・契約更新回数の引き下げ ・退職や正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要
・降格 ・減給 ・賞与等における不利益な算定 ・不利益な配置変更 ・不利益な自宅待機命令 ・昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行う ・仕事をさせない、もっぱら雑務をさせるなど就業環境を害する行為をする
以下のような不利益取扱いを行うことは違法 以下のような事由を理由として
参考:男女雇用機会均等法、育児・介護休業法で禁止されている不利益取扱いの例