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トルクレンチを用いた樋門コンクリートの劣化点検技術に関する検討 Examination of a Technique for Using a Torque Wrench to Inspect Sluice Concrete Deterioration 内藤 勲  島多 昭典  田中 忠彦  山田 章  渡邊 尚宏 NAITOH Isao, SHIMATA Akinori, TANAKA Tadahiko, YAMADA Akira and WATANABE Masahiro 積雪寒冷地の樋門コンクリートは、滞雪し易い操作台や後付けの付属物周辺において、凍害による 劣化が発生し易く、特に、部材端部の劣化損傷が著しい。しかし、樋門の付属物周辺におけるコンク リートは、付属物自身が障害となって調査を実施することが困難な箇所もあり、このような付属物周 辺のコンクリートの劣化状況を適切に把握する点検方法は確立されていない。 本報告では、付属物の固定に多く用いられている拡張型の打込みアンカーの定着強度とコンクリー トの凍害劣化の程度との関係に着目し、トルクレンチを用いたアンカーのナット締付けトルク値から、 樋門コンクリートの凍害劣化の程度を評価する点検技術について、室内試験と実際の樋門コンクリー トでの試験調査による検討を実施した。 その結果、打込みアンカーの定着強度とコンクリートの凍害劣化の程度には相関が見られ、また、 打込みアンカーの定着強度とナット締付けトルク値にも相関が見られた。このことから、樋門コンク リートの付属物のアンカーをトルクレンチで点検する技術を用いることにより、点検が困難な付属物 周辺のコンクリートの凍害劣化の程度を評価することが可能であることがわかった。 《キーワード:樋門コンクリート、付属物、凍害劣化、点検技術、トルクレンチ》 The concrete of sluices in cold snowy regions tends to be prone to frost damage. The concrete of the operating platform, where snow tends to accumulate, and the areas surrounding the metal attachments, which are fixed after the concrete hardens, tend to be particularly prone to deterioration. Deterioration and damage to concrete are severe at the ends of the concrete members. Inspection for deterioration of sluice concrete under and around the metal attachments is difficult, because the attachments obstruct access for inspection. A reliable inspection method for concrete around the attachments of sluices has not been established. This report examines a technique for inspecting for deterioration in sluice concrete that focuses on the relationship between the anchoring strength of the expansion anchor bolts, which are frequently used to fix the metal attachments to the sluice concrete, and the degree of frost damage. The torque value for tightening the nuts of anchor bolts with a torque wrench was used to evaluate the deterioration of concrete. Onsite tests on a sluice in use and a laboratory test were performed. The anchoring strength of the expansion anchor bolts was found to correlate with the degree of frost damage and with the torque values needed to tighten the nuts. From the above, it was clarified that the degree of frost damage in concrete where access for inspection is difficult because of the metal attachments covering the area can be evaluated by using a torque wrench and inspecting the torque values of the anchor bolts used for fixing the attachment to the sluice concrete. 《Keywords:sluice concrete,the metal attachment, frost damage,technique for inspecting, torque wrench》 報 文 2 寒地土木研究所月報 №756 2016年5月

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トルクレンチを用いた樋門コンクリートの劣化点検技術に関する検討

Examination of a Technique for Using a Torque Wrenchto Inspect Sluice Concrete Deterioration

内藤 勲  島多 昭典  田中 忠彦  山田 章  渡邊 尚宏

NAITOH Isao, SHIMATA Akinori, TANAKA Tadahiko, YAMADA Akira and WATANABE Masahiro

 積雪寒冷地の樋門コンクリートは、滞雪し易い操作台や後付けの付属物周辺において、凍害による劣化が発生し易く、特に、部材端部の劣化損傷が著しい。しかし、樋門の付属物周辺におけるコンクリートは、付属物自身が障害となって調査を実施することが困難な箇所もあり、このような付属物周辺のコンクリートの劣化状況を適切に把握する点検方法は確立されていない。 本報告では、付属物の固定に多く用いられている拡張型の打込みアンカーの定着強度とコンクリートの凍害劣化の程度との関係に着目し、トルクレンチを用いたアンカーのナット締付けトルク値から、樋門コンクリートの凍害劣化の程度を評価する点検技術について、室内試験と実際の樋門コンクリートでの試験調査による検討を実施した。 その結果、打込みアンカーの定着強度とコンクリートの凍害劣化の程度には相関が見られ、また、打込みアンカーの定着強度とナット締付けトルク値にも相関が見られた。このことから、樋門コンクリートの付属物のアンカーをトルクレンチで点検する技術を用いることにより、点検が困難な付属物周辺のコンクリートの凍害劣化の程度を評価することが可能であることがわかった。

《キーワード:樋門コンクリート、付属物、凍害劣化、点検技術、トルクレンチ》

 The concrete of sluices in cold snowy regions tends to be prone to frost damage. The concrete of the operating platform, where snow tends to accumulate, and the areas surrounding the metal attachments, which are fixed after the concrete hardens, tend to be particularly prone to deterioration. Deterioration and damage to concrete are severe at the ends of the concrete members. Inspection for deterioration of sluice concrete under and around the metal attachments is difficult, because the attachments obstruct access for inspection. A reliable inspection method for concrete around the attachments of sluices has not been established. This report examines a technique for inspecting for deterioration in sluice concrete that focuses on the relationship between the anchoring strength of the expansion anchor bolts, which are frequently used to fix the metal attachments to the sluice concrete, and the degree of frost damage. The torque value for tightening the nuts of anchor bolts with a torque wrench was used to evaluate the deterioration of concrete. Onsite tests on a sluice in use and a laboratory test were performed. The anchoring strength of the expansion anchor bolts was found to correlate with the degree of frost damage and with the torque values needed to tighten the nuts. From the above, it was clarified that the degree of frost damage in concrete where access for inspection is difficult because of the metal attachments covering the area can be evaluated by using a torque wrench and inspecting the torque values of the anchor bolts used for fixing the attachment to the sluice concrete.

《Keywords:sluice concrete,the metal attachment, frost damage,technique for inspecting, torque wrench》

報 文

2 寒地土木研究所月報 №756 2016年5月

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1.はじめに

 樋門構造物は、河川堤防の機能を有し、水害等を防止するための重要な河川管理施設であり、その構造は函体、ゲート開閉施設、門柱、翼壁及び管理橋等で構成されている。構造物本体はコンクリートで構成されている場合が多いが、ゲート開閉施設(巻き揚げ機、開閉ゲート)のほか、上屋、防護柵、拡幅鋼板、管理橋、ゲートストッパー等、多くの付属物が鋼製である。積雪寒冷地の樋門構造物において、このような付属物周辺のコンクリートでは、凍害による劣化が多く見られ、特に、部材端部は大きく損傷している事例も多い。さらに、樋門コンクリートの点検・調査方法が確立していないこと、付属物自身が障害となって点検や調査を実施できない箇所もあることから、付属物周辺のコンクリートの健全度を適切に把握することは難しく、結果として、劣化進行の発見が遅れて損傷が大きくなった事例も見られる。 このような背景から本報告では、点検や調査をしにくい付属物周辺のコンクリートの健全性を把握することを目的として、付属物の定着に用いられている打込みアンカーの定着強度とコンクリートの凍害劣化の程度との関係に着目し、室内試験と実際の樋門コンクリートにおいて、打込みアンカーの引抜試験、トルクレンチを用いた打込みアンカーのナット締め付けトルク値の測定、及びコンクリートの超音波測定を実施して、これらの結果の相関から付属物周辺のコンクリートの劣化程度を評価する方法について検討を行った。

2.付属物付近のコンクリートの劣化事例

 樋門コンクリートの付属物は、上述したとおり、拡張型の打込みアンカーによる後付け設置が一般的である。拡張型の打込みアンカーは、その構造上、コンクリート内部を押し広げて定着するため、アンカーが打込まれた箇所のコンクリートに微細なひび割れが少なからず発生する。この微細なひび割れに水分が浸透して凍結融解作用が繰り返されることで部分的に凍害劣化が発生し、アンカー付近に大きな劣化損傷が発生すると考えられる。 特に操作台は、その滞雪し易い形状により、凍害劣化が生じ易い部位であることが、筆者らの既存の研究調査結果により明らかにされている1)2)。操作台には多くの付属物が設置されており、防護柵、拡幅鋼板、及び上屋が打込みアンカーで固定されていることから、

写真-1に示すように、凍害劣化が特に生じ易い操作台端部に取り付けられた打込みアンカー部付近のコンクリートが劣化して剥落する等の事例が多く見られる。 一方、門柱は操作台の下に位置し、滞雪による影響が少ないことから、凍害劣化による損傷が比較的少ない部位である。門柱にはゲート扉の移動を制限するゲートストッパーが後付けで設置されている樋門が多くあり、打込みアンカーで固定されているが、操作台部とは異なり、アンカー部付近のコンクリートが劣化している事例はあまり見られない。しかし、門柱は豆板や打継不良等の初期欠陥が生じやすい部位であり、写真-2のようにひび割れが発生している近くにゲートストッパーの定着アンカーが取り付けられている事例もある。

防護柵

拡幅鋼板

上屋

写真-1 付属物の固定アンカー部の劣化・損傷事例

寒地土木研究所月報 №756 2016年5月 3

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3.室内試験

3.1 試験概要

 樋門付属物を固定する打込みアンカーの定着部付近のコンクリートが凍害劣化した状態を想定し、凍害劣化の程度とアンカーの定着強度との関係を求めるため、打込みアンカーを設置した供試体(以下、アンカー供試体)を作製し、凍結融解作用を与えた後、アンカーの引抜試験、アンカーのナットの締め付けトルクの測定、及び超音波伝播速度を測定した。

3.2 アンカー供試体の作製

 アンカー供試体は、写真-3に示すように、直径20cm ×高さ20cm の円柱供試体を28日間水中養生した後、円の中心にドリルで直径12.8mm 深さ60mm の穴を削孔して M12の打込みアンカーをハンマーで打ち込み、そこから10×10×20cm の角柱に切断して作製した。なお、打込みアンカーの打ち込みによって、供試体に割れが生じない配慮として、円柱にアンカー打ち込み、その後、角柱に切断する作製工程とした。コンクリートの配合は表-1に示すように、凍害劣化を促進させるため AE 剤を不使用とする配合とした。このアンカー供試体のアンカー定着部付近のコンクリートに凍害劣化を生じさせるため、JIS A1148 A 法に準じた水中凍結水中融解(-18℃~ 5℃)の凍結融解作用をアンカー供試体に与え、アンカー定着部のコンクリートが劣化した状態を作った。なお、アンカー定着部のコンクリート表面側から劣化するように、アンカー設置側から深さ方向に3cm 残してエポキシ樹脂系接着剤でコーティングを施した。表-2にアンカー供試体の試験ケースを示す。劣化していない健全なケースは1ケース、劣化したケースは凍結融解サイクルを66サ

表-2 アンカー供試体の試験ケース

表-1 コンクリートの配合

写真-2 門柱のひび割れ付近に取り付け

     られたゲートストッパーの事例

写真-3 アンカー供試体の作製状況

イクルと132サイクルの2ケースとした。なお、これらのサイクル数については、ケース2は66サイクルでアンカー定着部のコンクリートが大きくひび割れ、ケース3においても132サイクルで若干のひび割れが生じたことから、以降の凍結融解作用の付与を中止したことによる。

3.3 試験方法

 打込みアンカーに対する試験は、非破壊のアンカー引抜試験(以下、引抜試験)とナットの締め付けトルク値の測定(以下、トルク測定)を実施した。引抜試験は、センターホール型荷重計によって、ナットの締め付け反力からアンカーの引抜強さを測定する電気式非破壊アンカー引抜試験器を用いて行った。トルク測定は、デジタル式トルクレンチを用いて行った。測定方法は、図-1及び写真-4のように、打込みアンカーにセンターホール型荷重計を設置して専用ナットを取り付け、トルクレンチで専用ナットを締め付けて引抜強さとトルク値を同時に測定する方法(以下、引抜・トルク試験)とした。トルクレンチでの締め付けは、回転角90度を約2秒で回す速度とし、測定値は接続した記録計に0.001秒毎に記録される。また、引抜試験とトルク測定を実施する前に、コンクリートの劣化程度を測定す

Gmaxmm

W/C /

kg/m3

cmW C S G

20 45 43 160 356 835 1102 8 4.5

AE

JIS A1148

cyc cyc1 0cyc 0cyc

2 150cyc 66cyc

3 300cyc 132cyc

4 寒地土木研究所月報 №756 2016年5月

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図-3 引抜・トルク試験結果

写真-4 引抜・トルク試験の試験状況

図-1 引抜・トルク試験のイメージ

図-2 超音波法・透過法測定方法 図-4 超音波伝播速度

るため、図-2に示すように、超音波法の透過法を用いてコンクリート表面から深さ方向に1cm 刻みで深さ10cm まで10点測定し、打込みアンカーの定着長60mm 付近のコンクリートの劣化状態を確認した。

3.4 試験結果

 図-3及び図-4に、引抜・トルク試験の結果、及びアンカー側のコンクリート表面から1cm 毎の超音波伝播速度を示す。ケース1及びケース3のトルク値と引抜荷重の上昇傾向は似ており、両者には相関があること

がわかる。トルク値が0に戻って増減するのは、手動式トルクレンチのため連続した締め付けではなく、トルクレンチのラチェットで90°回転して締め付けを繰り返しているためである。したがって、一回の増減で回転角度が90°となっている。なお、ケース2は、アンカーにナットを締め付ける際、アンカーが固定されていない状態であり、ナットと一緒にアンカー自身も回ってしまったことから締め付けができず、トルク値、引抜荷重共に測定できなかった。 ケース1の最大トルク値は83.6N・m、最大引抜荷重

M12

10mm10

30m

m17

0mm

寒地土木研究所月報 №756 2016年5月 5

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4.調査概要

4.1 対象樋門

 樋門コンクリートの付属物付近の劣化調査は、北海道北部の直轄河川の7樋門で実施した。表-3に対象樋門の状況と調査箇所及び調査項目を示す。供用後30~ 40年程度経過した樋門に比較的新しい付属物が取り付けられた箇所を対象とした。

4.2 引抜・トルク試験及びトルク測定

 調査箇所は、表-3に示すように、防護柵とゲートストッパーの打込みアンカー部で実施した。調査は、室内試験と同様の非破壊式の引抜試験とトルク測定を行い、3箇所で両者を併用した引抜・トルク試験、29箇所でトルク測定のみを実施した。現地での引抜・トルク試験の測定は、既存の打込みアンカーのナットを外し、センターホール型荷重計を設置して専用ナットを取り付け、トルクレンチで締め付ける方法で行った。また、トルク測定は、既存の打込みアンカーのナットを少し緩め、素手でナットを締め付けてから、トルクレンチで締め付ける方法とした。トルクレンチでの締め付けは、室内試験と同様に回転角90度を約2秒で回す速度とした。写真-5に引抜・トルク試験の測定状況を示す。なお、引抜試験を実施した打込みアンカーの実際の定着長は測定できないため、M12アンカーの一般的な標準定着長である60mm と想定した。

4.3 超音波法・表面走査法

 対象とする打込みアンカー部付近のコンクリートの凍害劣化の程度を測定する方法は、コンクリート表面からの劣化深さと劣化の程度を推定できる超音波法の

表面走査法4)を用いた。表面走査法は、劣化層が表面に存在する場合は図-5に示すイメージ図のように折れ線グラフになり、劣化層の厚さ t は式(1)で表すことができる。

 ここに、X0は原点から変曲点までの距離、Vd は劣化層、Vs は健全層の超音波伝播速度である。さらに、既存の研究結果4)から図-

6のように、Vd と Vs の逆数に相当

は14.6kN であった。M12の打込みアンカーの設計引抜荷重は17kN 程度が一般的であるため、ケース1の引抜荷重は若干低い値となったが、回転角度は90°が3回の270°と比較的締め付けが早く、トルク値も大きく上昇して締め付けできたため、アンカーの定着は健全であると思われる。一方、ケース3では、トルク値は低い値で停滞して回転角度は大きくなり、最大トルク値は26N・m、最大引抜荷重は4.1kN となって、設計引抜荷重17kN を大きく下回る値となった。したがって、ケース3のアンカーの定着は健全ではない状態であると推測できる。ここで、各ケースの超音波伝播速度をみると、ケース1のアンカー定着部は4.0km/s前後であり、ケース2、3は3.0km/s 以下となっている。健全なコンクリートの超音波伝播速度は一般に3.5 ~4.0km/s 程度であると言われている3)ことから、ケース1のコンクリートは健全であり、ケース2、3のアンカー定着部のコンクリートは劣化していると判断できる。このことから、コンクリートが健全の場合、ケース1のように最大トルク値と最大引抜荷重は大きく、回転角度は小さくなる。逆に、劣化している場合、ケース3のように最大トルク値と最大引抜荷重は小さく、回転角度は大きくなる傾向があることがわかった。 この室内試験の結果から、打込みアンカーのトルク値と引抜荷重は相関関係にあり、最大トルク値と回転角度を測定することで、アンカー定着付近のコンクリートの劣化状態を簡易に把握することが可能であると考えられる。 次に、実際の樋門コンクリートの付属物固定アンカーにおいて、試験的に劣化調査を実施した結果について報告する。

表-3 調査樋門と調査箇所及び調査項目

6 寒地土木研究所月報 №756 2016年5月

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抜荷重とトルク値は低い値で停滞し、回転角度は多くなっている。これらの結果は、室内試験の結果とほぼ同じ傾向であることから、A 樋門のアンカー定着付近のコンクリートは健全であり、B 樋門と C 樋門ではコンクリートが劣化していると考えられる。 ここで、相対動弾性係数を見ると、A 樋門では、打込みアンカーの定着部が相対動弾性係数51.2%のコンクリート部に定着している。これに対し、B 樋門は相対動弾性係数が40.3%と48.8%のコンクリート部、C樋門は23.9%と30.8%のコンクリート部に打込みアンカーが定着している。一般的に相対動弾性係数は、一般環境で60%を下回ると、コンクリートは凍害劣化していると判断するため、今回の超音波測定の結果では、A、B、C 樋門ともにコンクリートは劣化していると判断される。しかし、引抜・トルク試験における引抜荷重の結果から、A 樋門のアンカーの定着は比較的健全であるため、アンカー先端部の深さ60mm 以降の相対動弾性係数が76.5%となっていたことを考えると、A樋門のコンクリートの状態は打込みアンカーの定着に関しては健全であると言える。したがって、相対動弾

写真-5 引抜・トルク試験の測定状況

図-5 表面走査法のイメージ3)

図-6 表面走査法と相対動弾性係数の考え方3)

写真-6 表面走査法の測定状況

するグラフの傾きと超音波伝播速度分布の測定結果を整理する考え方において、相対動弾性係数 RE は回帰式(2)で表すことができる。

 ここに、x は表面走査法によるグラフの傾き1もしくは傾き2である。 測定は、写真-6に示す調査状況のように、調査対象の打込みアンカーから出来るだけ近い位置のコンクリートにおいて、発振子から5cm 離れた地点に受振子を設置して、5cm 間隔で受振子を移動させながら1箇所当たり6測点を測定する方法で実施した。

4.4 引抜・トルク試験結果

 図-7に、引抜・トルク試験と、超音波測定から推定した相対動弾性係数の結果を示す。各樋門の最大引抜荷重を見ると、A 樋門は設計引抜荷重17kN 程度を概ね満足しているが、B 樋門と C 樋門は10kN 以下で設計引抜荷重を満足していない。また、A 樋門の最大トルク値は70N・m 程度、B 樋門と C 樋門の最大トルク値はそれぞれ40N・m 程度、30N・m 程度であった。A樋門の引抜荷重とトルク値は比較的少ない回転角度で大きく上昇しているのに対し、B 樋門と C 樋門は、引

寒地土木研究所月報 №756 2016年5月 7

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性係数が60%を下回り、コンクリートの強度が多少低下していたとしても、アンカーの定着を確保できるコンクリートの劣化程度を、引抜・トルク試験によって判断することは可能であると思われる。

4.5 トルク測定結果

 室内試験と引抜・トルク試験の結果を基に、最大トルク値と回転角度のみの測定によってコンクリートの劣化状態を確認することを目的として、7樋門29箇所において、トルク測定と超音波測定を行った。結果の一例を図-8に示す。トルク値の最大トルク値と回転角度は、室内試験及び引抜・トルク試験の結果とほぼ同様の結果となり、A 樋門・防護柵②と G 樋門・ゲートストッパー①のように、短い時間でトルク値が上昇して最大トルク値が70 ~ 80N・m 程度まで大きくなるケースと、B 樋門・防護柵②と C 樋門・防護柵②のように、低いトルク値40N・m 前後で停滞するケースが見られた。その他、B 樋門・防護柵④と E 樋門・ゲー

図-7 引抜・トルク試験と超音波測定結果の例

トストッパー①のように、最大トルク値は大きい(65 ~80N・m 程度)が上昇傾向は比較的緩めで測定時間も長くなるケースがあった。それぞれのケースにおけるコンクリートの相対動弾性係数は、短時間でトルク値が大きく上昇した A 樋門・防護柵②と G 樋門・ゲートストッパー①は、相対動弾性係数が51.7%と51.0%であり、低いトルク値で測定時間が長い B 樋門・防護柵②と C 樋門・防護柵②は、39.5%と43.3%であった。また、最大トルク値は大きいが回転角度が比較的大きい B 樋門・防護柵④と E 樋門・ゲートストッパー①では、相対動弾性係数が深さ方向に35.7%から66.1%、39.7%から61.6%に変化している箇所にアンカーが定着していた。これは、コンクリート表面の脆弱層とコンクリート内部の健全層にまたがって打込みアンカーが定着していることを意味する。このようなケースでは、アンカー定着部が部分的に定着しており、定着強度が分散したために、最大トルク値は大きくなったが、回転角度も大きくなったと思われる。

8 寒地土木研究所月報 №756 2016年5月

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のマーカーは、回転角度が360°を超えて比較的測定に時間を要した箇所を示しているが、これらの箇所は最大トルク値が50N・m 未満に多く存在する傾向が見られた。なお、相対動弾性係数は高いが、最大トルク値は低くなった箇所が数箇所あったが、これは、打込みアンカーの設置時に何らかの原因でアンカーの定着が不調になった箇所と思われる。 以上の結果から、本点検手法における劣化の閾値を回転角度360°以上、最大トルク値50N・m 未満と仮定し、図-10に示すように、室内試験の結果も含めた最大トルク値と回転角度の関係から「健全域」「劣化域」

「中間域」の3つに分類する劣化判定グラフを作成した。 最大トルク値が50N・m 未満で回転角度が360°以上のアンカーの箇所は、コンクリートは劣化していると判定する。この中にはアンカー自体の不調のケースもあるが、アンカーの定着に不備があるため何らかの対策等が必要であると判断できる。一方、回転角度が360°未満のアンカーの箇所では、最大トルク値が70N・m 前後より上のコンクリートは健全と判定する。

4.6 トルク測定による樋門コンクリートの点検

 図-9に、最大トルク値と相対動弾性係数との関係を示す。最大トルク値が小さくなると相対動弾性係数も小さくなる傾向が見られる。今回の調査において、相対動弾性係数が60%以下の調査箇所が多かったが、相対動弾性係数が多少低くても、打込みアンカーの定着を保持しているコンクリートが多くあった。このような箇所は、最大トルク値が70N・m 前後もしくは70N・m 以上に多く見られ、現段階で特に対策を講じる必要はないことから、コンクリートは健全であると判定できる。反対に、最大トルク値が50N・m 未満では、打込みアンカーの定着に何らかの問題が生じていることが考えられ、コンクリートの劣化が進んでいると判定できる。中間域となる最大トルク値50 ~ 70N・m に該当する箇所については、コンクリートの劣化によってアンカーの定着が低下し始めている箇所と考えられる。また、回転角度の違いも打込みアンカーの定着に影響していることから、トルクレンチが一回転する回転角度360°を閾値と仮定した。ここで、図中の赤色

図-8 トルク測定と超音波測定の結果の一例

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(1) 引抜荷重とトルク値には相関があり、測定時の上昇傾向はほぼ同じである。測定値の上昇傾向には少ない回転角度で測定値が大きくなるケースと回転角度が多く測定値が低くなるケースがある。

(2) 最大トルク値が低下すると超音波伝播速度や相対動弾性係数も低下する傾向がある。なお、脆弱層と健全層にまたがって定着している場合、回転角度は大きくなる傾向がある。

(3) 樋門コンクリートの打込みアンカーのトルク測定により、アンカー定着部のコンクリートの簡易な劣化判定が可能である。例えば、最大トルク値が50N・m 未満で回転角度が360°超の箇所はコンクリートが劣化していると判定できる。

 今回の調査結果から、トルクレンチを用いた点検手法は、樋門コンクリートの凍害劣化を点検する一手法として有効であることが確認できた。今後、室内実験及び実構造物での検証数を増やし、劣化判定値の精度を向上させる予定である。 本手法は、簡易で短時間の作業で実施できることから、定期点検時に十分実施可能であると考える。今回の現地調査時にナットが緩んでいた箇所等もあったことから、今後の定期点検において、ナットの確認を兼ねて、トルクレンチによる点検手法を活用することは、樋門コンクリートの維持管理に非常に有効であると考える。

謝辞

 現地調査にあたり、国土交通省北海道開発局の各関係者に多大なるご協力を頂いた。ここに記して深甚な謝意を表する。

参考文献

1) 内藤勲、島多昭典、渡邊尚宏:積雪寒冷地の樋門コンクリートの凍害劣化補修に関する研究、第57回北海道開発技術研究発表会、2014.2

2) 渡邊尚宏、内藤勲:樋門コンクリートの凍害劣化と点検手法に関する検討、第57回北海道開発技術研究発表会、2014.2

3) 魚本健人、加藤潔、広野進:「コンクリート構造物の非破壊試験」、森北出版、p.37、1990

4) 遠藤裕文、田口史雄、林田宏:コンクリート部材の凍害診断への表面走査法の適用に関する研究、第55回北海道開発技術研究発表会、2012.2

それ以外は中間域として点検時では経過観察の対象となる。 このように、非常に簡易な劣化判定手法ではあるが、付属物自身によってコンクリートの劣化等が確認できない箇所において、打込みアンカーのトルク測定によってコンクリートの劣化をある程度の範囲で点検が可能であり、樋門コンクリートの健全性を評価する一手法として有効であると考えられる。

5.まとめと考察

 本調査結果から得られた知見は、以下の通りである。

図-9 最大トルク値と相対動弾性係数

図-10 打込みアンカーの定着状態から推定する

コンクリートの劣化程度の判定

10 寒地土木研究所月報 №756 2016年5月

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内藤 勲NAITOH Isao

寒地土木研究所寒地保全技術研究グループ耐寒材料チーム主任研究員

渡邊 尚宏WATANABE Masahiro

北海道開発局札幌開発建設部公物管理企画課長補佐

島多 昭典SHIMATA Akinori

寒地土木研究所寒地保全技術研究グループ耐寒材料チーム上席研究員技術士(建設)

田中 忠彦TANAKA Tadahiko

寒地土木研究所寒地技術推進室道北支所主任研究員

山田 章YAMADA Akira

寒地土木研究所寒地技術推進室道北支所研究員

寒地土木研究所月報 №756 2016年5月 11