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20 FDI・2015・12 川上 一郎  デジタルシネマ Now ! 7 月 8 日付のウォールストリートジャ ーナルに、パラマウントが封切り映画の家 庭向けビデオリリースをスピードアップ するとの報道が掲載され、米国の映画興 行関係者に波紋が広がっている。(http:// www.wsj.com/articles/paramount-to- braek-hollywoods-home-video-window- 1436377631)。 報道内容は、パラマウントと米国映画興 行チェーンの第 2 位と第 3 位である AMC とシネプレックスが封切り後の週末上映ス 105 105 リリースウィンドウの問題 クリーン数が 300 を割り込んだ時点で家 庭向けへの配信や DVD 販売を認めるとの 内容である。映画封切りから、家庭向け配信・ 販売開始までの期間をリリースウィンドウ と称しているが、300 スクリーン到達での リリース開始が映画興行業界全体の賛同が 得られれば、長年の商習慣であった120 日に変わって映画配給側にとっては製作資 金回収の目処が立ちやすくなるのではと期 待されている。 一方で、映画興行側にとってはなし崩し に封切り後のリリースウィンドウが短縮さ れれば、映画館に足を運ばなくても数週間 後に自宅で最新作が鑑賞できると考える観 客層の増大につながり、映画興行業界の根 幹に関わる問題としての危機感が強い背景 がある。 同様に、多額の制作資金を投入した封切 り作品が封切の週末で大ヒットとなること は 10 本に 1 本あるか無いかのリスクが大 きい制作配給側にとっては、新作映画とし ての記憶が新しい、コンテンツとしての鮮 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 Frozen Fifty Shades of Grey Transformers: Age of Extinction Jupiter Ascending Paranormal Activity 4 300 スクリーン Frozen(23) Fifty Shades of Grey(9) Transformers: Age of Extinction(8) Jupiter Ascending(8) Paranormal Activity 4(6) 引用元 :http://www.boxofficemojo.com/ の各作品 Weekend データ 図 1 上映スクリーン数の推移

リリースウィンドウの問題 - UNIW“Transformers: Age of Extinction”は 4,233スクリーンで公開したが、初期の作 品のようには観客動員ができず第8週には

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Page 1: リリースウィンドウの問題 - UNIW“Transformers: Age of Extinction”は 4,233スクリーンで公開したが、初期の作 品のようには観客動員ができず第8週には

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FDI・2015・12

川上 一郎 

デジタルシネマ Now !

 7 月 8 日付のウォールストリートジャーナルに、パラマウントが封切り映画の家庭向けビデオリリースをスピードアップするとの報道が掲載され、米国の映画興行関係者に波紋が広がっている。(http://www.wsj.com/articles/paramount-to-braek-hollywoods-home-video-window-1436377631)。 報道内容は、パラマウントと米国映画興行チェーンの第 2 位と第 3 位である AMCとシネプレックスが封切り後の週末上映ス

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リリースウィンドウの問題

クリーン数が 300 を割り込んだ時点で家庭向けへの配信や DVD 販売を認めるとの内容である。映画封切りから、家庭向け配信・販売開始までの期間をリリースウィンドウと称しているが、300 スクリーン到達でのリリース開始が映画興行業界全体の賛同が得られれば、長年の商習慣であった 120日に変わって映画配給側にとっては製作資金回収の目処が立ちやすくなるのではと期待されている。 一方で、映画興行側にとってはなし崩し

に封切り後のリリースウィンドウが短縮されれば、映画館に足を運ばなくても数週間後に自宅で最新作が鑑賞できると考える観客層の増大につながり、映画興行業界の根幹に関わる問題としての危機感が強い背景がある。 同様に、多額の制作資金を投入した封切り作品が封切の週末で大ヒットとなることは 10 本に 1 本あるか無いかのリスクが大きい制作配給側にとっては、新作映画としての記憶が新しい、コンテンツとしての鮮

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Frozen

Fifty Shades of Grey

Transformers: Age of Extinction

Jupiter Ascending

Paranormal Activity 4

300スクリーン

Frozen(23)Fifty Shades of Grey(9)

Transformers: Age of Extinction(8)Jupiter Ascending(8)

Paranormal Activity 4(6)

引用元 :http://www.boxofficemojo.com/の各作品Weekendデータ

図 1 上映スクリーン数の推移

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FDI・2015・12

度がある内に有料配信も含めてビジネスチャンスを逃したく無い切羽詰まった動機がある。

 今月号では、数年おきに繰り替えされてきた配給側と興行側とのリリースウィンドウに関する確執の背景も含めて詳細に解説していく。なお、映画作品のリリースウィンドウ関連データは米国映画興行主組 合(NATO: National Association of Theatre Owners)のリリースウィンドウデータサイト(http://natoonline.org/data/windows/)掲載データ、映画興行成績に関する情報サイト Box Office Mojo

(http://www.boxofficemojo.com/) と映画情報専門サイト IMDB( Internet Movie Data Base  http://www.imdb.com/)を参照している。   図 1 には、この新聞記事で引用されてい る 5 作 品(“Frozen”、 “Fifty Shades of Grey”、 “Transformers:Age of Extinction”, “Jupiter Ascending”、

“Paranormal Activity 4”) の 週 末 上 映スクリーン数を示したグラフである。各作品ともに 3,000 スクリーンを越えるブロックバスター型全米公開作品である。

“Frozen”では、3,742 スクリーンで封切りを行い第 23 週で 290 スクリーンとなり、300 スクリーンを割り込んでいる。

“Fifty Shades of Grey” は 3,646 ス クリーンで封切りを行ったが第 9 週で 284スクリーンにまで激減した。すっかりシリーズ物として定着してきた漢字がある

“Transformers: Age of Extinction” は4,233 スクリーンで公開したが、初期の作品のようには観客動員ができず第 8 週には206 スクリーンにまで激減した。“Jupiter Ascending”は、3,181 スクリーンで封切りをおこない、第 8 週に 252 スクリーンとなり、ホラー物のヒット作である

“Paranormal Activity 4”も 3,412 スクリーンで封切りを行ったが第 6 週に 108スクリーンにまで激減し、第 11 週で興行を終えている。

 米国での映画興行では、封切週から週を追う毎に配給側への分配率が低下していくビジネスモデルとなっており、封切週が80 ~ 85%で、その後週毎に 10% 刻みで配給側への分配率が低下していき、第 5 週以降では 35% の分配率となる形態であるが、当然のことながら大手興行チェーンや映画館ロケーション等により異なっている。封切週での配給側分配率が 80% であると、映画館側は手取りである 20%相当の金額から州毎に規定されている日本の消費税に相当する 8% 前後の州税を支払わなくてはいけないために、売店収入だけが頼りとなってくる。また、配給側にとっては封切の週末に計上される興行成績が最も見入りが良いわけであり、各種媒体に掲載されている推定制作費を超える興行成績が上がれば一安心と言ったところで有る。 一方、映画館側では封切週の売上はひたすら売店収入頼みとなるが、第 5 週以降もコンスタントに平日夜に集客が見込める作品が配給されることが望ましい。大手興行

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

平均予告日数 112 116 110 110 102 101 86 72 70 64 75 70 70 70 69 65 65 59 53

平均リリース日数 172 173 168 166 162 158 147 140 138 131 139 134 131 132 125 118 112 101 91

Disney 204 183 172 177 185 175 164 147 144 144 157 145 129 157 121 113 113 134 135Fox 153 181 188 152 175 164 144 135 151 131 147 121 121 123 125 105 107 100 90Paramount 185 188 169 200 158 161 156 150 138 128 119 115 121 140 120 108 94 103 63Sony 174 167 144 149 149 138 128 133 124 130 144 146 129 134 120 130 123 104 103Universal 170 177 159 157 156 173 141 136 125 124 108 139 138 118 135 110 107 83 88Warner Bros. 138 157 168 157 141 152 154 158 160 132 169 129 145 129 127 130 104 96 80

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Paramount

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Sony / Columbia

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図 2 リリースウィンドウの実態 図 3 スタジオ別四か月ルール順守の実態

図 4 メジャースタジオの興行売上シェア推移 図 5 メジャースタジオの興行売上推移

Page 2: リリースウィンドウの問題 - UNIW“Transformers: Age of Extinction”は 4,233スクリーンで公開したが、初期の作 品のようには観客動員ができず第8週には

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川上 一郎 

デジタルシネマ Now !

 7 月 8 日付のウォールストリートジャーナルに、パラマウントが封切り映画の家庭向けビデオリリースをスピードアップするとの報道が掲載され、米国の映画興行関係者に波紋が広がっている。(http://www.wsj.com/articles/paramount-to-braek-hollywoods-home-video-window-1436377631)。 報道内容は、パラマウントと米国映画興行チェーンの第 2 位と第 3 位である AMCとシネプレックスが封切り後の週末上映ス

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リリースウィンドウの問題

クリーン数が 300 を割り込んだ時点で家庭向けへの配信や DVD 販売を認めるとの内容である。映画封切りから、家庭向け配信・販売開始までの期間をリリースウィンドウと称しているが、300 スクリーン到達でのリリース開始が映画興行業界全体の賛同が得られれば、長年の商習慣であった 120日に変わって映画配給側にとっては製作資金回収の目処が立ちやすくなるのではと期待されている。 一方で、映画興行側にとってはなし崩し

に封切り後のリリースウィンドウが短縮されれば、映画館に足を運ばなくても数週間後に自宅で最新作が鑑賞できると考える観客層の増大につながり、映画興行業界の根幹に関わる問題としての危機感が強い背景がある。 同様に、多額の制作資金を投入した封切り作品が封切の週末で大ヒットとなることは 10 本に 1 本あるか無いかのリスクが大きい制作配給側にとっては、新作映画としての記憶が新しい、コンテンツとしての鮮

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Frozen

Fifty Shades of Grey

Transformers: Age of Extinction

Jupiter Ascending

Paranormal Activity 4

300スクリーン

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Transformers: Age of Extinction(8)Jupiter Ascending(8)

Paranormal Activity 4(6)

引用元 :http://www.boxofficemojo.com/の各作品Weekendデータ

図 1 上映スクリーン数の推移

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FDI・2015・12

度がある内に有料配信も含めてビジネスチャンスを逃したく無い切羽詰まった動機がある。

 今月号では、数年おきに繰り替えされてきた配給側と興行側とのリリースウィンドウに関する確執の背景も含めて詳細に解説していく。なお、映画作品のリリースウィンドウ関連データは米国映画興行主組 合(NATO: National Association of Theatre Owners)のリリースウィンドウデータサイト(http://natoonline.org/data/windows/)掲載データ、映画興行成績に関する情報サイト Box Office Mojo

(http://www.boxofficemojo.com/) と映画情報専門サイト IMDB( Internet Movie Data Base  http://www.imdb.com/)を参照している。   図 1 には、この新聞記事で引用されてい る 5 作 品(“Frozen”、 “Fifty Shades of Grey”、 “Transformers:Age of Extinction”, “Jupiter Ascending”、

“Paranormal Activity 4”) の 週 末 上 映スクリーン数を示したグラフである。各作品ともに 3,000 スクリーンを越えるブロックバスター型全米公開作品である。

“Frozen”では、3,742 スクリーンで封切りを行い第 23 週で 290 スクリーンとなり、300 スクリーンを割り込んでいる。

“Fifty Shades of Grey” は 3,646 ス クリーンで封切りを行ったが第 9 週で 284スクリーンにまで激減した。すっかりシリーズ物として定着してきた漢字がある

“Transformers: Age of Extinction” は4,233 スクリーンで公開したが、初期の作品のようには観客動員ができず第 8 週には206 スクリーンにまで激減した。“Jupiter Ascending”は、3,181 スクリーンで封切りをおこない、第 8 週に 252 スクリーンとなり、ホラー物のヒット作である

“Paranormal Activity 4”も 3,412 スクリーンで封切りを行ったが第 6 週に 108スクリーンにまで激減し、第 11 週で興行を終えている。

 米国での映画興行では、封切週から週を追う毎に配給側への分配率が低下していくビジネスモデルとなっており、封切週が80 ~ 85%で、その後週毎に 10% 刻みで配給側への分配率が低下していき、第 5 週以降では 35% の分配率となる形態であるが、当然のことながら大手興行チェーンや映画館ロケーション等により異なっている。封切週での配給側分配率が 80% であると、映画館側は手取りである 20%相当の金額から州毎に規定されている日本の消費税に相当する 8% 前後の州税を支払わなくてはいけないために、売店収入だけが頼りとなってくる。また、配給側にとっては封切の週末に計上される興行成績が最も見入りが良いわけであり、各種媒体に掲載されている推定制作費を超える興行成績が上がれば一安心と言ったところで有る。 一方、映画館側では封切週の売上はひたすら売店収入頼みとなるが、第 5 週以降もコンスタントに平日夜に集客が見込める作品が配給されることが望ましい。大手興行

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

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Disney Universal Sony Paramount Major Studios Lionsgate Fox Warner Bros.

ルール違反作品数

四ヶ月遵守作品数

18.20% 17.90%

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図 2 リリースウィンドウの実態 図 3 スタジオ別四か月ルール順守の実態

図 4 メジャースタジオの興行売上シェア推移 図 5 メジャースタジオの興行売上推移

Page 3: リリースウィンドウの問題 - UNIW“Transformers: Age of Extinction”は 4,233スクリーンで公開したが、初期の作 品のようには観客動員ができず第8週には

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FDI・2015・12

チェーンでも平均客席稼働率は 13 ~ 18%程度であり、平日は 5% 割れとなっているのが現実であることから、映画館側の配分率が 65%となってくる第 5 週以降でも客足が落ちない作品が続いてくれれば平日の客席稼働率向上に直結してくる。  図 2 にリリースウィンドウの実態を示しているが、先制パンチ的に配給側がビデオレンタル開始予告日数は 1997 年時点で112 日であり、今年の平均予告日数は実に53 日であり、120 日ルールとはかけ離れた日数である。この予告日数は、興行側の反応を見ているのか意味不明であるが、実際の日数は 1997 年の 173 日に対して確実に短縮されてきており今年の平均日数は91 日にまで短縮されている。 このハリウッドメジャー各社のリリースウィンドウ動向で特にパラマウント社は63 日にまで短縮してきており、図 3 に示している各社別 4 ヶ月(120 日)ルール遵守作品数の比較と併せてハリウッド各社の懐具合を考察すると興味深いものがある。4 ヶ月ルールを最も真面目に守っているの

はワーナーブラザーズであり約 90%の遵守率であり、60%を割っているディズニーとは大きな差がある。この背景には各社封切り作品の興行成績を詳細に解析すれば切迫した制作資金回収の懐具合も見えてくるので、詳細解析結果は別途報告させていただく。 図 4 にハリウッドメジャーの興行売上市場占有率の推移を、図 5 に興行売上の推移、そして表 2 に 2015 年の各スタジオ興行売上の実態を示している。興行売上シェアと売上金額から最近の営業成績を見るとパラマウントの低迷が顕著であり、冒頭で紹介した 300 スクリーンでの家庭向け配信開始の合意交渉を急いだ理由では無いかと考えられる。 表 2 に示している各社の公開作品数、興行売上 100 万ドルを超えた作品と、総売り替え及び平均興行売上の詳細であり、ジュラシックワールドの大ヒットでダントツに好調なユニバーサルでは 19 本の公開で7 作品がミリオンダラーとなり、総売上げも 23 億 4 千万ドル、平均売上も 1 億 2千万ドルとなっており、確実に収支バラン

スは黒字達成である。 一方で、パラマウントは 12 本の公開でミリオンセールスとなったのはミッションインポシブルとスポンジボブの 2 作品のみであり、総売上げも 5 億 8 千 5 百万ドル、平均売上が 4 千 5 百万ドルである。平均売上はワーナーブラザースを上待っているが、確実に黒字が見込めるヒット作が無いことから経営的には相当苦しいことがうかがえる。  表 1 と 図 6 に 2013 年 夏 公 開 作 品の集計バランスを解析した結果を示してい る。 こ の デ ー タ は“Future of Film I: Why Summer 2013 was Destined for Losses”、 Liam Boluk 、 Ivey Business Review による解説記事から引用したものであり、この年の惨憺たる興行成績を受けて、“これ以上赤字作品が続くとハリウッドの映画制作が止まってしまう!”等の発言が相次いで波紋を呼んだハリウッド関係者にとっては“最悪の冷夏”と言える年であった。 同年の公開された 18 作品で、黒字となったのはわずかに 4 作品(“Iron Man 3”、

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図 6 2013 年夏公開作品の収支解析 図 7 MPAA映画制作費用内訳 (1985-2005)

図 8 2005 年広告宣伝費の内訳 図 9 米国デジタルコンテンツ市場予測

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FDI・2015・12

“Fast & Furious 6”、“Despicable Me 2”、 “Monsters University”)のみである。この収益分析レポートでは、スタジオへの興行売上配分金額と実制作費(ネガティブコストと称される実映画制作費用に広告宣伝経費やローカル配給手数料などのマーケティング費用を加えた金額)金額は推定値である。 まずスタジオ配分金額の推定であるが、一般的には米国興行売上の 55%、海外興行売上の 40%がスタジオに配分されると言われており、実制作費(ネガティブコストと称される。市場開拓の為に前向きに支出する広告宣伝費や配給経費がポジティブコストであると考えた場合の対比であり、制作スタッフへのギャラ支出がネガティブであるとの意味では無い)に加えて広告宣伝や配給などのマーケティング費用は総支出額の 38%と称されている。図 7 には 2005 年までは米国映画制作者連盟が公開していた実制作費とマーケティングコストとの集計結果であり、新聞やテレビ等しか広告媒体が無かった 1985 年では実

制作費平均が 16.8 ミリオンドルであったのに対してマーケティング費用は 6.5 ミリオンドルと総制作費率が 29%であったが、2005 年では 37.6%にまでマーケティング費用が増加してきている。 2005 年の広告宣伝費内訳でネットワークへの広告費用が実に 23.2%に達しており、映画予告編費用の 4.4%に対して 5 倍以上の支出となっている。フィルム配給では 2 分程度の予告編を数作品分現像して本編のフィルム配給リールの梱包に同梱して

配送を行っていたわけであるが、デジタル化された現在でも予告編部分は本編作品のデジタル配給パッケージの中に個別識別メタデータタグが付けられてファイルに入れられている。配給費用はデジタル化により確実に減少しているが VPF モデル運営会社への分配金もあり実際の削減金額についてははっきりとした数値は出てきていない。  さて、表 1 に示している 2013 年夏公開作品の収支バランス推定であるが、Lian

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図 10 米国デジタルビデオ市場動向予測 図 11 日本の映像ソフト市場動向

図 12 米国映画館数の推移(2000-2014) 図 13 米国映画館スクリーン数の推移(2000-2014)

作品名 スタジオ配分 収益 損益 制作費 推定配分 国内売上 海外売上国内70%推定値

海外45%推定値

制作費マーケティング

マーケティング 比率

Iron Man3 774 224 0 -320 649 409 806 286 363 200 120 63%Star Trek Into Darkness 224 0 -96 -390 268 229 239 160 107 190 200 49%

Great Gatsby 166 0 -147 -454 194 145 206 101 93 105 349 23%Fast & Furious 6 448 83.2 0 -256 415 239 550 167 248 160 96 63%

Hangover Part III 173 0 0 -173 191 112 250 79 112 103 70 60%After Earth 115 0 -109 -307 125 61 183 42 82 130 177 42%

Despicable Me 2 730 294 0 -122 543 388 603 272 271 76 46 62%Men of Steel 320 0 -51 -422 373 291 377 204 170 225 197 53%

Monsters University 371 19.2 0 -326 402 268 475 188 214 200 126 61%World War Z 256 0 -64 -365 294 202 338 142 152 190 175 52%

White House Down 102 0 -147 -390 111 73 132 51 60 150 240 38%The Lone Ranger 115 0 -275 -685 140 89 171 63 77 215 470 31%

Pacific Rim 179 0 -128 -435 210 102 309 71 139 190 245 44%R.I.P.D. 45 0 -173 -384 44 34 45 24 20 130 254 34%

The Wolverine 186 0 -58 -301 220 133 282 93 127 120 181 40%The Smurfs 2 154 0 -19 -192 174 71 277 50 124 105 87 55%

Elysium 134 0 -64 -250 152 93 193 65 87 115 135 46%Percy Jackson: Sea Monsters 102 0 -58 -224 107 69 131 48 59 90 134 40%

Future of Film I: Why Summer 2013 was Destined for Losses - Liam Boluk | Ivey Business Review Box OfficeMojo http://www.boxofficemojo.com/

IVEY Bussiness Review 筆者推定値

表 1 2013 年夏公開作品の収益分析解析表

Page 4: リリースウィンドウの問題 - UNIW“Transformers: Age of Extinction”は 4,233スクリーンで公開したが、初期の作 品のようには観客動員ができず第8週には

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FDI・2015・12

チェーンでも平均客席稼働率は 13 ~ 18%程度であり、平日は 5% 割れとなっているのが現実であることから、映画館側の配分率が 65%となってくる第 5 週以降でも客足が落ちない作品が続いてくれれば平日の客席稼働率向上に直結してくる。  図 2 にリリースウィンドウの実態を示しているが、先制パンチ的に配給側がビデオレンタル開始予告日数は 1997 年時点で112 日であり、今年の平均予告日数は実に53 日であり、120 日ルールとはかけ離れた日数である。この予告日数は、興行側の反応を見ているのか意味不明であるが、実際の日数は 1997 年の 173 日に対して確実に短縮されてきており今年の平均日数は91 日にまで短縮されている。 このハリウッドメジャー各社のリリースウィンドウ動向で特にパラマウント社は63 日にまで短縮してきており、図 3 に示している各社別 4 ヶ月(120 日)ルール遵守作品数の比較と併せてハリウッド各社の懐具合を考察すると興味深いものがある。4 ヶ月ルールを最も真面目に守っているの

はワーナーブラザーズであり約 90%の遵守率であり、60%を割っているディズニーとは大きな差がある。この背景には各社封切り作品の興行成績を詳細に解析すれば切迫した制作資金回収の懐具合も見えてくるので、詳細解析結果は別途報告させていただく。 図 4 にハリウッドメジャーの興行売上市場占有率の推移を、図 5 に興行売上の推移、そして表 2 に 2015 年の各スタジオ興行売上の実態を示している。興行売上シェアと売上金額から最近の営業成績を見るとパラマウントの低迷が顕著であり、冒頭で紹介した 300 スクリーンでの家庭向け配信開始の合意交渉を急いだ理由では無いかと考えられる。 表 2 に示している各社の公開作品数、興行売上 100 万ドルを超えた作品と、総売り替え及び平均興行売上の詳細であり、ジュラシックワールドの大ヒットでダントツに好調なユニバーサルでは 19 本の公開で7 作品がミリオンダラーとなり、総売上げも 23 億 4 千万ドル、平均売上も 1 億 2千万ドルとなっており、確実に収支バラン

スは黒字達成である。 一方で、パラマウントは 12 本の公開でミリオンセールスとなったのはミッションインポシブルとスポンジボブの 2 作品のみであり、総売上げも 5 億 8 千 5 百万ドル、平均売上が 4 千 5 百万ドルである。平均売上はワーナーブラザースを上待っているが、確実に黒字が見込めるヒット作が無いことから経営的には相当苦しいことがうかがえる。  表 1 と 図 6 に 2013 年 夏 公 開 作 品の集計バランスを解析した結果を示してい る。 こ の デ ー タ は“Future of Film I: Why Summer 2013 was Destined for Losses”、 Liam Boluk 、 Ivey Business Review による解説記事から引用したものであり、この年の惨憺たる興行成績を受けて、“これ以上赤字作品が続くとハリウッドの映画制作が止まってしまう!”等の発言が相次いで波紋を呼んだハリウッド関係者にとっては“最悪の冷夏”と言える年であった。 同年の公開された 18 作品で、黒字となったのはわずかに 4 作品(“Iron Man 3”、

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図 6 2013 年夏公開作品の収支解析 図 7 MPAA映画制作費用内訳 (1985-2005)

図 8 2005 年広告宣伝費の内訳 図 9 米国デジタルコンテンツ市場予測

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“Fast & Furious 6”、“Despicable Me 2”、 “Monsters University”)のみである。この収益分析レポートでは、スタジオへの興行売上配分金額と実制作費(ネガティブコストと称される実映画制作費用に広告宣伝経費やローカル配給手数料などのマーケティング費用を加えた金額)金額は推定値である。 まずスタジオ配分金額の推定であるが、一般的には米国興行売上の 55%、海外興行売上の 40%がスタジオに配分されると言われており、実制作費(ネガティブコストと称される。市場開拓の為に前向きに支出する広告宣伝費や配給経費がポジティブコストであると考えた場合の対比であり、制作スタッフへのギャラ支出がネガティブであるとの意味では無い)に加えて広告宣伝や配給などのマーケティング費用は総支出額の 38%と称されている。図 7 には 2005 年までは米国映画制作者連盟が公開していた実制作費とマーケティングコストとの集計結果であり、新聞やテレビ等しか広告媒体が無かった 1985 年では実

制作費平均が 16.8 ミリオンドルであったのに対してマーケティング費用は 6.5 ミリオンドルと総制作費率が 29%であったが、2005 年では 37.6%にまでマーケティング費用が増加してきている。 2005 年の広告宣伝費内訳でネットワークへの広告費用が実に 23.2%に達しており、映画予告編費用の 4.4%に対して 5 倍以上の支出となっている。フィルム配給では 2 分程度の予告編を数作品分現像して本編のフィルム配給リールの梱包に同梱して

配送を行っていたわけであるが、デジタル化された現在でも予告編部分は本編作品のデジタル配給パッケージの中に個別識別メタデータタグが付けられてファイルに入れられている。配給費用はデジタル化により確実に減少しているが VPF モデル運営会社への分配金もあり実際の削減金額についてははっきりとした数値は出てきていない。  さて、表 1 に示している 2013 年夏公開作品の収支バランス推定であるが、Lian

$1,551 $1,941 $2,345 $2,747 $3,138 $3,506 $3,846

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35,795

37,04037,765

38,159 38,20138,605 38,902 38,974 39,056

39,368 39,356683

683666 634

640

648

650

635 633

628618 606 606

656 656

32,000

33,000

34,000

35,000

36,000

37,000

38,000

39,000

40,000

41,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

Drive-In

Indoor

図 10 米国デジタルビデオ市場動向予測 図 11 日本の映像ソフト市場動向

図 12 米国映画館数の推移(2000-2014) 図 13 米国映画館スクリーン数の推移(2000-2014)

作品名 スタジオ配分 収益 損益 制作費 推定配分 国内売上 海外売上国内70%推定値

海外45%推定値

制作費マーケティング

マーケティング 比率

Iron Man3 774 224 0 -320 649 409 806 286 363 200 120 63%Star Trek Into Darkness 224 0 -96 -390 268 229 239 160 107 190 200 49%

Great Gatsby 166 0 -147 -454 194 145 206 101 93 105 349 23%Fast & Furious 6 448 83.2 0 -256 415 239 550 167 248 160 96 63%

Hangover Part III 173 0 0 -173 191 112 250 79 112 103 70 60%After Earth 115 0 -109 -307 125 61 183 42 82 130 177 42%

Despicable Me 2 730 294 0 -122 543 388 603 272 271 76 46 62%Men of Steel 320 0 -51 -422 373 291 377 204 170 225 197 53%

Monsters University 371 19.2 0 -326 402 268 475 188 214 200 126 61%World War Z 256 0 -64 -365 294 202 338 142 152 190 175 52%

White House Down 102 0 -147 -390 111 73 132 51 60 150 240 38%The Lone Ranger 115 0 -275 -685 140 89 171 63 77 215 470 31%

Pacific Rim 179 0 -128 -435 210 102 309 71 139 190 245 44%R.I.P.D. 45 0 -173 -384 44 34 45 24 20 130 254 34%

The Wolverine 186 0 -58 -301 220 133 282 93 127 120 181 40%The Smurfs 2 154 0 -19 -192 174 71 277 50 124 105 87 55%

Elysium 134 0 -64 -250 152 93 193 65 87 115 135 46%Percy Jackson: Sea Monsters 102 0 -58 -224 107 69 131 48 59 90 134 40%

Future of Film I: Why Summer 2013 was Destined for Losses - Liam Boluk | Ivey Business Review Box OfficeMojo http://www.boxofficemojo.com/

IVEY Bussiness Review 筆者推定値

表 1 2013 年夏公開作品の収益分析解析表

Page 5: リリースウィンドウの問題 - UNIW“Transformers: Age of Extinction”は 4,233スクリーンで公開したが、初期の作 品のようには観客動員ができず第8週には

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FDI・2015・12

Boluk 氏 の 推 定 を、Box Office Mojo とIMDB による公開されたデータ(といっても制作費用については関係者による推定値である。実際の経費については“The Big Picture”、エドワード・J・エプスタイン著、早川書房にも記載されているように映画会社の常務以上でしか知り得ない数字である)をから逆推定を行ってみた。収益トップの

“Iron Man3”は、国内興行売上が 409 ミリオンドル、海外興行売上 806 ミリオンドルであり、米国内での封切り後の週単位興行成績に経過週別分配係数を乗算し推定していくと平均スタジオ分配率は 70%、海外興行売上については 45%と推定すると他の作品でのスタジオ分配金額推定結果に対して最も誤差が少なくなった。また、推定実制作費についてもネット上で公開されている数値から逆算していくと、“Iron Man3”はネガティブコストが 200 ミリオンドル、マーケティングコストが 120ミリオンドルとなり、マーケティングコスト比率は 63%であった。スタジオに配分された興行売上 774 ミリオンドルから支出となる制作費 320 ミリオンドルを差し引いた 224 ミリオンドルが収益となったと推定されている。  最 も、 大 赤 字 と な っ た“The Lone Ranger”では制作費 685 ミリオンドルに対して 115 ミリオンドルのスタジオ配分

しか興行売上が無く、実に 275 ミリオンドルの赤字となっている。この赤字の原因はヒットしなかったことにつきるが、685ミリオンドルにもなる巨額の制作費の内訳でジョニーデップのギャラがいくらだったのかは野次馬として興味深いところである。もっとも、ハリウッドの大物俳優は個人名義のプロダクションを制作陣に加えて応分の制作資金も自己責任で調達し、ヒットすれば出資比率見合いの配当も受け取る出演契約となっているので、単純な高額ギャラのみもらっている一般的なイメージとは異なっている。 図 6 を見ていると、18 作品中 4 作品のみが黒字で、14 作品は赤字の垂れ流しとなってしまった 2013 年夏の映画興行で、制作配給側がリリースウィンドウを短縮し、映画興行による損失を少しでも早期に回収したくなるのも理解できる現状である。 さて、リリースウィンドウが短縮された場合に映画館の集客がどの程度減少するのかについては議論が分かれるところであるが、以前の封切り後 30 日で有料配信開始を行うとのアナウンスが有ったときには、週末に家族 6 人で封切映画を観賞した場合にチケッド代金が約 50 ドル、飲み物やポップコーン等が約 70 ドルとして 120 ドルかかるのなら、30 日まって一回 30 ドルの有料配信を家庭の居間でゆっくりと見

る方が良い!!等の意見がネット上で議論されていた。“みんなが見ているのに、私は見ていない!!”、“まだ見ていないの??”と友達に言われた…等の職場や地域の中で話題になる作品であれば封切となる週末に鑑賞して、翌週の職場や学校での話題の中に入って会話が弾むために映画鑑賞の価値が出てくるのだが、家庭での視聴環境が劇的に変化して高画質化し、かつ映画館に足を運ぶ世代構成が高齢化シフト(中高生が映画に行かなくなっている)も言われ出している現状で、巨額の制作資金を投入して年間 100 作品以上を市場に投入しているハリウッドは資金回収の軸足をどこに置いていくのであろうか。 図 9 は様々な統計資料を基にして市場予測を行っている STATISTA 社(https://www.statista.com/outlook/201/109/digital-video/united-states#)の資料を基にした米国デジタルコンテンツ市場の予測である。2015 年でデジタルビデオ市場は 87 億 2 千 6 百万ドルの規模であり、2020 年には 136 億 8 千 9100 万ドルにまで成長すると予測されており、デジタルコンテンツ市場でも最大の分野であり、映像コンテンツ市場全体の未来は明るいと言える。 図 10 は、このデジタルビデオ市場の内訳予測であり、EST(Electronic-Sell-

2010 2011 2012 2013 2014 2015Warner Bros. 18.2% 17.9% 15.4% 17.1% 15.1% 16.1%Paramount 16.2% 19.2% 8.4% 8.8% 10.2% 6.5%

20th Century Fox 14.0% 9.6% 9.5% 9.5% 17.3% 11.5%Buena Vista 13.8% 12.2% 14.3% 15.7% 15.6% 16.7%

Sony / Columbia 12.1% 12.5% 16.6% 10.5% 12.2% 7.3%Universal 8.3% 10.2% 12.2% 12.2% 10.8% 26.3%

2010 2011 2012 2013 2014 2015Warner Bros. $1,923.9 $1,826.2 $1,665.4 $1,863.3 $1,562.4 $1,428.1Paramount $1,713.8 $1,957.1 $914.4 $966.9 $1,052.9 $572.0

20th Century Fox $1,482.2 $977.9 $1,025.4 $1,064.2 $1,790.5 $1,021.1Buena Vista $1,456.4 $1,240.7 $1,551.4 $1,711.0 $1,617.5 $1,477.3

Sony / Columbia $1,282.9 $1,273.7 $1,792.2 $1,144.6 $1,261.5 $650.2Universal $882.0 $1,040.6 $1,323.9 $1,433.3 $1,115.3 $2,328.4

興行チェーン名称,本社所在州 スクリーン数 映画館数1 Regal Entertainment Group Knoxville, TN 7,295 5652 AMC Entertainment Inc. Leawood, KS 4,960 3443 Cinemark USA, Inc. Plano, TX 4,499 3354 Carmike Cinemas, Inc. Columbus, GA 2,892 2805 Cineplex Entertainment LP Toronto, ON 1,635 1616 Marcus Theatres Corp. Milwaukee, WI 681 537 Harkins Theatres Phoenix, AZ 446 318 Southern Theatres LLC New Orleans, LA 445 399 B & B Theatres Liberty, MO 409 5010 National Amusements, Inc. Norwood, MA 409 32

MPAA Member Company Distribution of Advertising Costs by Media

Year Total $ Newspaper Network NetworkInternet/ Online

TrailersOtherMedia

OtherNon-Media

2005 32.36 12.7 23.2 12.9 2.6 4.4 22.3 21.92004 30.61 12.8 22.9 13.3 2.4 7.4 22.2 19.02003 34.84 12.8 23.2 15.7 1.3 4.4 21.9 19.52002 27.31 13.5 23.0 17.6 0.9 4.5 21.4 19.12001 27.28 13.1 25.4 16.9 1.3 5.1 20.2 17.9

MPAA U.S. Theatrical Market: 2005 Statics

Percentage of Total総作品数総興行売上平均興行売上

作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上

Jurassic World $651,889,581Avengers: Age

of Ultron$459,005,868 American Sniper $348,797,073 The Martian $183,121,850

HotelTransylvania 2

$156,035,264Mission:

Impossible -Rogue Nation

$195,042,377The Divergent

Series:Insurgent

$130,179,072

Furious 7 $352,786,830 Inside Out $355,597,857 San Andreas $155,190,832 Home (2015) $177,397,510 Spectre $128,981,285The SpongeBobMovie: SpongeOut of Water

$162,994,032

Minions $334,992,380Cinderella

(2015)$201,151,353

Mad Max: FuryRoad

$153,636,354Kingsman: TheSecret Service

$128,261,724

Pitch Perfect 2 $183,785,415 Ant-Man $179,267,303 Spy $110,825,712

Fifty Shades ofGrey

$166,167,230

Straight OuttaCompton

$161,058,685

Trainwreck $110,038,130

ミリオンヒット作品

22$366,978,532.00$366,978,532.00

Sony/Columbia18

$828,412,971.00$46,022,943.00

20 12$585,382,574.00$45,781,881.00

Lionsgate19

$2,340,478,329.00$123,183,070.00

13$1,490,776,852.00$115,997,279.00

35$1,544,370,879.00

UNIVERSAL BUENA VISTA Warner Bors. 20th Century Fox Paramount

$41,553,454.00$1,147,389,135.00

$57,369,457.00

表 6 米国映画興行チェーン Top10

表 2 2015 年スタジオ興行売上の実態

表 3 ハリウッドメジャーのシェア推移

表 4 ハリウッドメジャーの興行売上推移

表 5 ハリウッドメジャー広告宣伝費の推移

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FDI・2015・12

Through or Download-to-own) 有 料 でダウンロードできる形態のデジタルビデオサービスでる。TVod ( Transactional-Video-on-Demand)視聴ごとに課金されるビデオ配信サービスでスポーツイベントやコンサート映像の配信に多い形態である。SVoD(Subscription-based-Video-on-Demand services)は定額見放題型のネットフリックス等に代表されるビデオ配信サービスである。 この市場予測では、定額見放題の SVoD が最も市場を伸ばすと予測しており、2015 年で 47 億 4 千 7百万ドルの市場が、2020 年には 75 億 1千 1 百万ドル規模まで成長し、TVod の都度課金型市場が横ばいでとの予測に対して対照的である。

 日本でもネットフリックスの本格参入が始まっているが、定着するか否かはコンテンツ次第である。日本でも通信系の会社が幾度となく定額のコンテンツサービス事業に参入したが、いかんせん映像サービス事業として定着するまでの作品が揃えられていなかった。端的に言ってしまえばレンタルビデオ店でほこりをかぶっている作品しか並んでいなければ顧客がつかないだけの結末である。コンテンツ事業の参入に対して、キャリア系の知名度さえあれば作品は揃う!との思い込みなのか、作品の買い付けに対するリスク回避なのかは疑問であるがコンテンツ事業に対する理解の無さとしか言いようが無い結果である。 図 11 は、日本の映像ソフト市場の動向を示しているが、レンタルビデオ市場は衰退の坂道を転げ落ちており 2010 年に

2,672 億円であった市場規模が 2014 年には 2,103 億円にまで減少している。同様に売切ビデオも 2010 年の 2,635 億円の市場が 2,287 億円にまで縮小しており米国で大半のレンタルビデオチェーンが撤退したのと同じ状況となってきている。2013 年から有料動画配信の市場規模についても集計が始まっているが、気にかかるところは日本の映像ソフト市場そのものが衰退しているところである。

 米国でもネットフリックスが出資する新作映画の話題などが時たま報道されているが、新人映像作家の登竜門として定着するか否かは未知数である。米国で最も知名度の高いインディペンデント映像フェスティバルであるサンダンス映画祭も、以前から映画祭参加作品をフェスティバル開催時期に合わせて DVD 発売開始を行う等の既存映像マーケットの枠組みを超える活動を行ってきているが、常設映画館の必要性に迫られ東海岸・西海岸にわずかではあるが自ら映画館を買い取って優秀作品の上映を行っている。やはり、映画作品として、しっかりと映画館で鑑賞して作品の問いかけ、価値観、世界観を、映画館ならではの画質と音響で感じ取ることが映画作品の最大の楽しみであることは言うまでも無い。

 ハリウッド作品のリリースウィンドウ短縮については映画興行ビジネスの根幹に関わる問題であるものの、封切初日に米国都市部の 100 メートルを越えるブロックを越えて入場待ちの観客が行列する“ブロックバスター”の語源にも成っている魅力あ

る大型作品を制作するハリウッドメジャーに金と人が集まらなくなってしまえば 10スクリーン以上のシネマコンプレックスと称される業態も成立しないことは明白であり、今回の記事で紹介した 3,000 スクリーン以上で封切りした作品の週末上映スクリーン数が 300 を割り込んだ時点で、家庭向け有料配信を配給会社に認めるとの合意が米国の映画興行業界全体として認知されるかが大いに注目されるところである。

 また、日本でソフトバンクと提携して本格参入したネットフリックスが映像作品の品揃えをどこまで充実させ、かつ新作映画やテレビドラマ、そしてバラエティー番組も含めて多様な番組構成で日本市場に受け入れられるのかが大いに注目されるところである。

そして、新人映像作家の登竜門となるべく、アマチュアバンドの登竜門であった人気の深夜番組“イカ天”に取って変わる、“イケてる映画天国”などの企画があれば、地方映画祭の上映だけで終わってしまう無数の作品から金の卵が見いだされるのではと期待している。 

Ichiro Kawakami デジタル・ルック・ラボ

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Page 6: リリースウィンドウの問題 - UNIW“Transformers: Age of Extinction”は 4,233スクリーンで公開したが、初期の作 品のようには観客動員ができず第8週には

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FDI・2015・12

Boluk 氏 の 推 定 を、Box Office Mojo とIMDB による公開されたデータ(といっても制作費用については関係者による推定値である。実際の経費については“The Big Picture”、エドワード・J・エプスタイン著、早川書房にも記載されているように映画会社の常務以上でしか知り得ない数字である)をから逆推定を行ってみた。収益トップの

“Iron Man3”は、国内興行売上が 409 ミリオンドル、海外興行売上 806 ミリオンドルであり、米国内での封切り後の週単位興行成績に経過週別分配係数を乗算し推定していくと平均スタジオ分配率は 70%、海外興行売上については 45%と推定すると他の作品でのスタジオ分配金額推定結果に対して最も誤差が少なくなった。また、推定実制作費についてもネット上で公開されている数値から逆算していくと、“Iron Man3”はネガティブコストが 200 ミリオンドル、マーケティングコストが 120ミリオンドルとなり、マーケティングコスト比率は 63%であった。スタジオに配分された興行売上 774 ミリオンドルから支出となる制作費 320 ミリオンドルを差し引いた 224 ミリオンドルが収益となったと推定されている。  最 も、 大 赤 字 と な っ た“The Lone Ranger”では制作費 685 ミリオンドルに対して 115 ミリオンドルのスタジオ配分

しか興行売上が無く、実に 275 ミリオンドルの赤字となっている。この赤字の原因はヒットしなかったことにつきるが、685ミリオンドルにもなる巨額の制作費の内訳でジョニーデップのギャラがいくらだったのかは野次馬として興味深いところである。もっとも、ハリウッドの大物俳優は個人名義のプロダクションを制作陣に加えて応分の制作資金も自己責任で調達し、ヒットすれば出資比率見合いの配当も受け取る出演契約となっているので、単純な高額ギャラのみもらっている一般的なイメージとは異なっている。 図 6 を見ていると、18 作品中 4 作品のみが黒字で、14 作品は赤字の垂れ流しとなってしまった 2013 年夏の映画興行で、制作配給側がリリースウィンドウを短縮し、映画興行による損失を少しでも早期に回収したくなるのも理解できる現状である。 さて、リリースウィンドウが短縮された場合に映画館の集客がどの程度減少するのかについては議論が分かれるところであるが、以前の封切り後 30 日で有料配信開始を行うとのアナウンスが有ったときには、週末に家族 6 人で封切映画を観賞した場合にチケッド代金が約 50 ドル、飲み物やポップコーン等が約 70 ドルとして 120 ドルかかるのなら、30 日まって一回 30 ドルの有料配信を家庭の居間でゆっくりと見

る方が良い!!等の意見がネット上で議論されていた。“みんなが見ているのに、私は見ていない!!”、“まだ見ていないの??”と友達に言われた…等の職場や地域の中で話題になる作品であれば封切となる週末に鑑賞して、翌週の職場や学校での話題の中に入って会話が弾むために映画鑑賞の価値が出てくるのだが、家庭での視聴環境が劇的に変化して高画質化し、かつ映画館に足を運ぶ世代構成が高齢化シフト(中高生が映画に行かなくなっている)も言われ出している現状で、巨額の制作資金を投入して年間 100 作品以上を市場に投入しているハリウッドは資金回収の軸足をどこに置いていくのであろうか。 図 9 は様々な統計資料を基にして市場予測を行っている STATISTA 社(https://www.statista.com/outlook/201/109/digital-video/united-states#)の資料を基にした米国デジタルコンテンツ市場の予測である。2015 年でデジタルビデオ市場は 87 億 2 千 6 百万ドルの規模であり、2020 年には 136 億 8 千 9100 万ドルにまで成長すると予測されており、デジタルコンテンツ市場でも最大の分野であり、映像コンテンツ市場全体の未来は明るいと言える。 図 10 は、このデジタルビデオ市場の内訳予測であり、EST(Electronic-Sell-

2010 2011 2012 2013 2014 2015Warner Bros. 18.2% 17.9% 15.4% 17.1% 15.1% 16.1%Paramount 16.2% 19.2% 8.4% 8.8% 10.2% 6.5%

20th Century Fox 14.0% 9.6% 9.5% 9.5% 17.3% 11.5%Buena Vista 13.8% 12.2% 14.3% 15.7% 15.6% 16.7%

Sony / Columbia 12.1% 12.5% 16.6% 10.5% 12.2% 7.3%Universal 8.3% 10.2% 12.2% 12.2% 10.8% 26.3%

2010 2011 2012 2013 2014 2015Warner Bros. $1,923.9 $1,826.2 $1,665.4 $1,863.3 $1,562.4 $1,428.1Paramount $1,713.8 $1,957.1 $914.4 $966.9 $1,052.9 $572.0

20th Century Fox $1,482.2 $977.9 $1,025.4 $1,064.2 $1,790.5 $1,021.1Buena Vista $1,456.4 $1,240.7 $1,551.4 $1,711.0 $1,617.5 $1,477.3

Sony / Columbia $1,282.9 $1,273.7 $1,792.2 $1,144.6 $1,261.5 $650.2Universal $882.0 $1,040.6 $1,323.9 $1,433.3 $1,115.3 $2,328.4

興行チェーン名称,本社所在州 スクリーン数 映画館数1 Regal Entertainment Group Knoxville, TN 7,295 5652 AMC Entertainment Inc. Leawood, KS 4,960 3443 Cinemark USA, Inc. Plano, TX 4,499 3354 Carmike Cinemas, Inc. Columbus, GA 2,892 2805 Cineplex Entertainment LP Toronto, ON 1,635 1616 Marcus Theatres Corp. Milwaukee, WI 681 537 Harkins Theatres Phoenix, AZ 446 318 Southern Theatres LLC New Orleans, LA 445 399 B & B Theatres Liberty, MO 409 5010 National Amusements, Inc. Norwood, MA 409 32

MPAA Member Company Distribution of Advertising Costs by Media

Year Total $ Newspaper Network NetworkInternet/ Online

TrailersOtherMedia

OtherNon-Media

2005 32.36 12.7 23.2 12.9 2.6 4.4 22.3 21.92004 30.61 12.8 22.9 13.3 2.4 7.4 22.2 19.02003 34.84 12.8 23.2 15.7 1.3 4.4 21.9 19.52002 27.31 13.5 23.0 17.6 0.9 4.5 21.4 19.12001 27.28 13.1 25.4 16.9 1.3 5.1 20.2 17.9

MPAA U.S. Theatrical Market: 2005 Statics

Percentage of Total総作品数総興行売上平均興行売上

作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上 作品名 興行売上

Jurassic World $651,889,581Avengers: Age

of Ultron$459,005,868 American Sniper $348,797,073 The Martian $183,121,850

HotelTransylvania 2

$156,035,264Mission:

Impossible -Rogue Nation

$195,042,377The Divergent

Series:Insurgent

$130,179,072

Furious 7 $352,786,830 Inside Out $355,597,857 San Andreas $155,190,832 Home (2015) $177,397,510 Spectre $128,981,285The SpongeBobMovie: SpongeOut of Water

$162,994,032

Minions $334,992,380Cinderella

(2015)$201,151,353

Mad Max: FuryRoad

$153,636,354Kingsman: TheSecret Service

$128,261,724

Pitch Perfect 2 $183,785,415 Ant-Man $179,267,303 Spy $110,825,712

Fifty Shades ofGrey

$166,167,230

Straight OuttaCompton

$161,058,685

Trainwreck $110,038,130

ミリオンヒット作品

22$366,978,532.00$366,978,532.00

Sony/Columbia18

$828,412,971.00$46,022,943.00

20 12$585,382,574.00$45,781,881.00

Lionsgate19

$2,340,478,329.00$123,183,070.00

13$1,490,776,852.00$115,997,279.00

35$1,544,370,879.00

UNIVERSAL BUENA VISTA Warner Bors. 20th Century Fox Paramount

$41,553,454.00$1,147,389,135.00

$57,369,457.00

表 6 米国映画興行チェーン Top10

表 2 2015 年スタジオ興行売上の実態

表 3 ハリウッドメジャーのシェア推移

表 4 ハリウッドメジャーの興行売上推移

表 5 ハリウッドメジャー広告宣伝費の推移

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FDI・2015・12

Through or Download-to-own) 有 料 でダウンロードできる形態のデジタルビデオサービスでる。TVod ( Transactional-Video-on-Demand)視聴ごとに課金されるビデオ配信サービスでスポーツイベントやコンサート映像の配信に多い形態である。SVoD(Subscription-based-Video-on-Demand services)は定額見放題型のネットフリックス等に代表されるビデオ配信サービスである。 この市場予測では、定額見放題の SVoD が最も市場を伸ばすと予測しており、2015 年で 47 億 4 千 7百万ドルの市場が、2020 年には 75 億 1千 1 百万ドル規模まで成長し、TVod の都度課金型市場が横ばいでとの予測に対して対照的である。

 日本でもネットフリックスの本格参入が始まっているが、定着するか否かはコンテンツ次第である。日本でも通信系の会社が幾度となく定額のコンテンツサービス事業に参入したが、いかんせん映像サービス事業として定着するまでの作品が揃えられていなかった。端的に言ってしまえばレンタルビデオ店でほこりをかぶっている作品しか並んでいなければ顧客がつかないだけの結末である。コンテンツ事業の参入に対して、キャリア系の知名度さえあれば作品は揃う!との思い込みなのか、作品の買い付けに対するリスク回避なのかは疑問であるがコンテンツ事業に対する理解の無さとしか言いようが無い結果である。 図 11 は、日本の映像ソフト市場の動向を示しているが、レンタルビデオ市場は衰退の坂道を転げ落ちており 2010 年に

2,672 億円であった市場規模が 2014 年には 2,103 億円にまで減少している。同様に売切ビデオも 2010 年の 2,635 億円の市場が 2,287 億円にまで縮小しており米国で大半のレンタルビデオチェーンが撤退したのと同じ状況となってきている。2013 年から有料動画配信の市場規模についても集計が始まっているが、気にかかるところは日本の映像ソフト市場そのものが衰退しているところである。

 米国でもネットフリックスが出資する新作映画の話題などが時たま報道されているが、新人映像作家の登竜門として定着するか否かは未知数である。米国で最も知名度の高いインディペンデント映像フェスティバルであるサンダンス映画祭も、以前から映画祭参加作品をフェスティバル開催時期に合わせて DVD 発売開始を行う等の既存映像マーケットの枠組みを超える活動を行ってきているが、常設映画館の必要性に迫られ東海岸・西海岸にわずかではあるが自ら映画館を買い取って優秀作品の上映を行っている。やはり、映画作品として、しっかりと映画館で鑑賞して作品の問いかけ、価値観、世界観を、映画館ならではの画質と音響で感じ取ることが映画作品の最大の楽しみであることは言うまでも無い。

 ハリウッド作品のリリースウィンドウ短縮については映画興行ビジネスの根幹に関わる問題であるものの、封切初日に米国都市部の 100 メートルを越えるブロックを越えて入場待ちの観客が行列する“ブロックバスター”の語源にも成っている魅力あ

る大型作品を制作するハリウッドメジャーに金と人が集まらなくなってしまえば 10スクリーン以上のシネマコンプレックスと称される業態も成立しないことは明白であり、今回の記事で紹介した 3,000 スクリーン以上で封切りした作品の週末上映スクリーン数が 300 を割り込んだ時点で、家庭向け有料配信を配給会社に認めるとの合意が米国の映画興行業界全体として認知されるかが大いに注目されるところである。

 また、日本でソフトバンクと提携して本格参入したネットフリックスが映像作品の品揃えをどこまで充実させ、かつ新作映画やテレビドラマ、そしてバラエティー番組も含めて多様な番組構成で日本市場に受け入れられるのかが大いに注目されるところである。

そして、新人映像作家の登竜門となるべく、アマチュアバンドの登竜門であった人気の深夜番組“イカ天”に取って変わる、“イケてる映画天国”などの企画があれば、地方映画祭の上映だけで終わってしまう無数の作品から金の卵が見いだされるのではと期待している。 

Ichiro Kawakami デジタル・ルック・ラボ

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