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このレポートは、アメリカでピノノワールに特化したサイト
”PinotFile(https://www.priceofpinot.com)”を主宰する RustyGaffiney 氏が同サ
イトに 2012 年 11 月に投稿したものです。オレゴンやカリフォルニアで用いられるピ
ノノワールのクローンについての知識をシェアする目的で、商用でない形で和訳させ
て欲しいとお願いしたところ、出典を明示することを条件に快く快諾して下さいまし
た。
Rusty の精力的な活動に敬意を表するとともに、ご了承を得たことに感謝いたしま
す。
拙い和訳ですが、ピノノワール好きな方々に少しでもお役に立てば幸いです。なお、
和訳に際して固有名詞は基本的に原文のままとしました。
ピノノワール スーツケースクローン 「828」
: 興味深い話が明らかに
謝辞
それぞれの経験に基づきスーツケースクローン”828”に関する貴重な情報を提供して
くれた次の方々に感謝する。そしていくつかの情報は、Gary Andrusとの個人的なつな
がりから知ることとなった。
Adam Lee (Siduri), Anna Metzinger (Archery Summit Estate), Chad Melville (Melville
Vineyards & Winery), Dick Erath (元 Erath Winery), John Haeger (North American Pinot Noir
and Pacific Pinot Noir), Eric Hickey (Laetitia Winery & Vineyards), Jason Drew (Drew Family
Cellars), Jean Yates (⼩売業, Avalon Wine, Corvallis, Oregon), Joel Myers (Vinetenders &
Siltstone Wines), Kathleen Inman (Inman Family Wines), Laurent Audeguin (French Wine &
Vine Institute), Laurent Montalieu (Hyland Estates, Soléna), Leigh Bartholomew (Archery
Summit Estate), Michael Sullivan (Benovia), Paul Lato (Paul Lato Wines), Peter Cargasacchi
(Cargasacchi Wines), Sam Tannahill (A to Z Winery, Rex Hill Winery), Stewart Johnson
(Kendric Vineyards), Ted Lemon (Littorai). この記事を書こうと思い⾄ったきっかけをく
れ、オレゴンワイン産業と歴史についての広範で詳しい知識を持ち、有益な情報を提
供しまた編集に協⼒してくれた David Adelsheim (Adelsheim Vineyard)に特にお礼を⾔い
たい。
序⽂
クローンとそれにまつわる⽤語の理解はこの論⽂の重要な部分だ。これからの話を読
む前にそれらを簡潔に思い出したい⽅は⽂末の付録をご参照されたい。
スーツケースで届いたいくつかのピノノワール
アメリカ合衆国に存在する全てのピノノワール品種はフランスから来たものである。
しかし、1930 年代、1940 年代に輸⼊されたものはウィルスに汚染されていた。この問
題を規制するために 1948 年海外検疫告知 (USDA(⽶国農務省)植物検疫規則の 319.27
編) 「植物クローンの無管理な輸⼊終了」 や 「許可を得たものを除き、いかなるヴ
ィティスヴィニフェラのアメリカ合衆国内への輸⼊持ち込み禁⽌」 が発せられた。検
疫告知は葡萄⽊の持ち込み後の検疫期間も要求され、許可を持つ植物病理学者が管理
するものも対象となった。これらの規制により葡萄が実験的あるいは科学的⽬的でア
メリカ合衆国に⼊って来ることは許されたが、ウィルステストが終わるまではリリー
スすることが許されなかった。 USDA 施設の不⼗分な予算と要員のため、政府による
新しい葡萄セレクションの導⼊は数年間禁⽌された状態だった。
1952 年、UC Davis 校の葡萄栽培とワイン醸造学部メンバーの Dr. Harold Olmo は、ウ
ィルステストを徹底し、⽣育と収量に秀でた、正しくラベルづけされた葡萄株を選抜
し、維持し、分配するために California Grape Certification Association(カリフォルニア
葡萄認定協会)を設⽴した。1958 年までにこのプログラムは UC Davis におけるフル
ーツやナッツのテストプログラムと合わせて Foundation Plant Materials Service (FPMS)
となった。2003 年に名称から“Materials” 取られて短く Foundation Plant Service (FPS)と
なった。これはアメリカ合衆国において、ウィルステストが⾏われ、認証を得た株が
葡萄⽣産者に利⽤できるようになった最初の源である。
1950 年代初めから 1988 年までアメリカ合衆国に輸⼊される葡萄のほとんどが UC
Davis によって管理されていた。 UC Davis の FPMS プログラムは 1989 年から 1993 年
まで中断したが、FPMS に National Importation and Clean Stock Facility が開設された時
に復活した。フランスとスイスから、ポマール(UCD5) と Wädenswil (ヴェーデンス
ヴィル)(UCD1A)を含むいくつかのピノノワールセレクションが輸⼊された。これら
は、1970 年代から 1980 年代の間、オレゴンの葡萄畑でとても重宝されたクローンと
なった。
1970 年代、クローンの多様性についての関⼼が⼤きく広まった。John Haeger は(North
American Pinot Noir, 2004) で次のように書いている。「クローンセレクションへの関
⼼の波は、両⽅の州(カリフォルニアとオレゴン)のピノノワールを志向するワイン
⽣産団体にとって衝撃的だった」と記している 。FPMS が主に葡萄株の選別、テス
ト、認証に関わっていた⼀⽅、葡萄栽培家たちはフランスで研究され利⽤可能となっ
たクローンの多様性に興味を持っていた。Charles Coury は、クローンに関するフラン
スの研究を最初に知ったオレゴン⼈の⼀⼈で、フンスはアルザスのコルマール
(Colmar)にある National Institute for Agronomy Research でインターンとして 1964 年まで
の数年間働いた。1974 年、Adelsheim Vineyard の設⽴者 David Adelsheim は、ディジョ
ン⼤学葡萄栽培研究者 Dr. Raymond Bernard が選んだシャルドネのクローンのテスト
を⾏うボーヌのリセ(Lycée) Agricole(農場)にいた。Bernard はディジョンの農業⽔産
省と幾つかの機関の下で働きながら、また数百のピノノワールクローンを選抜するよ
り⼤きなプログラムを率いていた。多くのカリフォルニアの葡萄栽培家やワインメー
カーは利⽤可能な様々なクローンを発⾒するためフランス詣でをしていた。
オレゴン州⽴⼤学は、David Adelsheim からの働きかけによって 1975 年にヨーロピア
ンセレクションプログラムからクローン名のついた植物材料を輸⼊する許可を得た。
Adelsheim は、1975 年コルマール(1975)、 1976 年エスピゲット(Espiguette) そして
1978 年ガイゼンハイム(Geisenheim)からクローン出荷をアレンジした。1984 年、オレ
ゴン州⽴⼤学のワイン醸造学教授 Dr. David Heatherbell は、Office National
Interprofessional des Vins (ONIVINS)の Dr. Bernard を説得して彼の持つピノノワールと
シャルドネのクローンを幾つかオレゴンにもたらした。最初のピノノワールのディジ
ョンクローン(113, 114, 115)は合法的に 1984 年オレゴンに到着した。第2陣のピノノ
ワールクローン (667, 777)は、1988 年 Adelsheim その後の旅の結果到着した。シャル
ドネのクローン 76, 95, 96 は最初に出荷されたクローンに含まれていた。カリフォルニ
アの FPMS とフランスのディジョンクローンがシェアされたのは、1988-89 年のこと
である。オレゴン州⽴⼤学のこのプログラムは、許可を取得していた⼈の退職によっ
て 10 年経たないうちに結局終わることとなった。
オレゴン州⽴⼤学の研究室技官たちは、フランスディジョンからの出荷コンテナに書
かれた返送先住所にちなんで、輸⼊された挿し⽊⽤枝に「ディジョンクローン」とニ
ックネームをつけた。その名前はすぐに葡萄栽培における⽤語の 1 つとなった。アメ
リカ合衆国に輸⼊されたディジョンクローンは、もっとも広く植えられた CTPS クロ
ーン 113, 114, 115, 667, 777 (近年さらに 459 や 943 も)を含む Comité technique permanent
de la sélection (Committee of Selection of Cultivated Plants あるいは CTPS)として知られる
フランス農務省によって割り当てられた番号が明⽰されていた。 FPMS は、ディジョ
ンクローンに同じ 3 桁の番号を割り付けた。
Charles Coury は、おそらく 1964 年、フランスはアルザスコルマールの INRA で働いた
あと、オレゴンに挿し⽊⽤の枝を密かに持ち帰った。カリフォルニアの栽培家やワイ
ンメーカーの中にも、オレゴンほどではないにしろ同じことをするものもあった。葡
萄の枝はしばしば濡れた新聞紙に包まれ、スーツケースの中にしまわれたことから、
「スーツケース」あるいは「サムソナイト」クローンとして知られるようになった。
トレンチコートもまた枝を密かにアメリカ合衆国に持ち帰るのに有⽤なアクセサリー
だった。Haeger は、「1980 年代から 1990 年代にかけて、無許可で葡萄の穂⽊を輸⼊
するのが盛んだった」 と記している。これらの枝は、それ⾃体はクローンではなくフ
ィールドセレクションであった。密かに輸⼊されたセレクションの多くは、今やカリ
フォルニアで広く栽培される(Mount Eden, Swan, Chalone, Calera, Hanzell など)ピノノワ
ールのヘリテイジ(遺産)クローンの基礎となる、いわゆる「スーツケース」クロー
ンとなった。
密かに持ち帰った⼈たちは、法的にあるいはプロとして罪を認めることはできなかっ
たのでスーツケースクローンの由来を検証することはほとんど不可能である。フラン
ス⼈は 1990 年代半ばからは、彼らの畑名の保護を重要と考えたので、有名な葡萄畑の
枝をアメリカ⼈に使われることに対しては法的⾏動で脅している。とりわけ枝を使っ
ていると声に出された場合にはなおさらである。La Tâche や Romanée-Conti (いわゆる
DRC クローン) のような有名な畑からのスーツケースクローンにまつわる多くの噂が
上がるが、誰しもがフランスの知的財産法を犯すことや、アメリカ合衆国の輸⼊法を
犯すことを恐れて、誰も認めるものはいない。今⽇、葡萄栽培業やワイン関連出版物
ではスーツケースあるいはヘリテージクローンとされるだけである。
Gary Andrus と Archery Summit Estate と⾔う、個⼈と⼀つのワイナリーに源をたどるこ
とができることから、オレゴンの⼈たちが⾮常に興味を持つ 1 つのクローンがある。
「828」である。「828」の完全なそして好奇⼼をそそるような話はこれまで明らかに
されなかった。私は「828」スーツケースクローンの由来を調べてみようと思う。しか
し、このお話の中⼼となる歴史的詳細のいくつかは知ることはできなかった。と⾔う
のも、Gary Andrus はすでに亡くなっているからである。そこで彼を良く知るとともに
直接情報を得られる⼈たちに当ってみたが、フランスの知的財産法やアメリカの輸⼊
法に抵触することを気にするので、明らかにしてくれなかった。この話に直接関わっ
た⼈たちの何⼈かの名前は永久に記録に現れないままとなる。これらの制限にもかか
わらず、私はほぼ完全な「828」スーツケースクローンの由来の顛末をお話ししよう。
真のディジョン 828が最初に現れたのは検疫から
1950 年代後半のコートドール(Côte d’Or)の葡萄畑は、ウィルスの流⾏、遅い収穫、古
い葡萄栽培⼿法などから上⼿くいっていなかった。フランス⼈たちは畑を維持するた
めにマッサールセレクションを⾏なっていた。selection massale ブルゴーニュのワイ
ン醸造者たちは、彼らのワインの品質に⼀般的には満⾜していなかったので、本当に
早い援助を必要としていた。
1950 年代後半 Dr. Raymond Bernard とそのほかの研究者たちは、「クローンセレクシ
ョン(clonal selection)」のアイデアが良いと確信していた。すなわち、ウィルス感染の
兆候がなく、また⺟樹となるにふさわしい特性を持った葡萄⽊から枝を採取したので
ある。これらの⺟樹は新しく健全な葡萄畑を作るのに使われ、結果としてブルゴーニ
ュのピノノワールやシャルドネの品質を向上させたのである。当初 Bernard のアイデ
アはブルゴーニュの葡萄栽培家たちに嘲られ、彼は⾃らの資⾦と資源を使いオー・コ
ート(Hautes Côtes )の畑で実験するしかなかった。⼀⼈の葡萄栽培家が Bernard を⽀援
してくれた。ジャン・マリー・ポンソ(Jean-Marie Ponsot)である。彼は⾃分の Morey-
St.-Denis にある Clos-de-la-Roche の畑から Bernard のピノノワールクローンの試⾏のた
めの穂⽊を提供した。 これらの枝がモン・バトワの畑でディジョンクローン
112,114,115 株(1971 年認証)、667 株 (1980 年認証), 777 株(1981 年認証)などとなっ
た。クローンは、耐病性、良いフレーバー、リーズナブルな収量とブルゴーニュの寒
い天候で熟す⽊の性質を引き継いだ。
Bernard は研究を広げ、Côte d’Or やそれ以外の畑から枝を⼊⼿した。彼の実験畑に植
えただけでなくボーヌのリセ Viticole(ブルゴーニュのワイン産業のための葡萄栽培を
学ぶ場)にも植えた。Bernard は、ついにフランス農務省や他の組織の⽀援を受け、彼
の研究資⾦を増やして⾏った。彼は Office National Interprofessional des Vins (ONIVINS),
the French National Wine Office の地域ディレクターとなった。Bernard は、ピノノワー
ルとシャルドネのディジョンクローンの⽗と⾔われている。
クローン 828 は、ENTAV-INRA® (L’Establissement National Technique pour
l’Ameléioration de la Viticulture/Institut National de la Recherche Agronomique, France)が出
版した Catalogue of Grapevine Varieties and Clones で現在認証を受けているピノノワー
ルディジョンクローン 43 種のうちの 1 つである。ENTAV-INRA® のトレードマーク
がついたクローンは、CTPS の承認を得たのち ONIVINS によって登録されユニークな
認証番号が付与される。クローン番号は CTPS システムに新しいセレクションが加わ
った時の受⼊番号に過ぎない。ユニークな認証番号を持つ全ての⽊は、同じ⺟樹から
繁殖されたものであり、認証を受ける前に平均 10 年の厳しいテストと研究を耐え抜い
たものである。クローンの出所の正しさは保証されている。
1995 年版の Catalogue des Variétés et Clones de Vigne Cultivés en France リストのページ
には、クローン 828 の起源はソーヌ・エ・ロワール(Saône-et-Loire)、その登録は 1985
年と記されている。クローン 828 は、横に曲がる⽣育時の特徴を持つピノ・ファン・
クローンの 1 つとされている (ピノ・タルデユ・クローンと⾒なされることもあ
る) 。この分類にはディジョン 113, 114, 667, 777 などを含まれているが、葡萄⽊の枝
が垂直に伸びる 374 や 583 のような Pinot droît ピノ・ドロワ・クローンとは別であ
る。 垣根のない葡萄畑では、ピノ・ドロワ・クローンは垂れ下がるピノ・ファン・ク
ローンと容易に区別がつく。この⽣育上の違いはスーツケースクローン「828」の話の
根幹を成している。これは、まっすぐ直⽴したピノ・ドロワ・セレクションだからで
ある (これ以外の特徴は以下を参照されたい)。
ディジョン 828 クローンがアメリカ合衆国において合法的にリリースされたことはな
い。それは葡萄⽊の⾚い球体ウィルス GLRaV-2RG(しばしば LR2RG や GRGV と表記
され、この記事で使⽤する俗な⾔い回しではこの記事で使⽤する Red Globe と⾔われ
る)に感染していたことがわかったため、検疫に留め置かれたのだった。Red Globe
は、主に葡萄⽊のリーフロール複合病に関連する Closteroviridae 族に属するいくつか
のウィルス負荷の 1 つである。このウィルスは接⽊の不適合性、房の構造、実⽌りに
影響を与える。Haeger が話してくれたところによれば、UC Davis で Red Globe が⼀度
⾒つかると、ENTAV はその⺟樹を再度テストし、Red Globe 陽性だとわかればフラン
スのみならず全地域での配布をやめてしまうそうだ。それ以前、フランス葡萄とワイ
ン学会の Laurent Audeguin によれば、828 は元来北ブルゴーニュ⽤に選ばれたもので
あったが、 南ブルゴーニュのマコネ(Maconnais)で⼀般的になっていた。
Heager は、真の 828 が北アメリカにスーツケースで運ばれたとの信憑性のある報告を
⾒たことはなかった。 「私の知る限り、Red Globe 試験に陽性の横⽅向に成⻑する習
性を持つ葡萄と誰かが指摘するまで、北アメリカに真の 828 はなかった。」真の 828
だと売られたものはカリフォルニアではなかったと思うが、真の 828 だと認証された
いかなる葡萄にも気づかなかった。」 カリフォルニア州サンタローザの Siduri ワイン
オーナーワインメーカーAdam Lee は⾔う。
真の 828 は、ブリティッシュコロンビア州で Quail’s Gate Winery でワインメーカーを
務める Grant Stanley によってフランスからカナダの苗⽊屋を通じカナダに運ばれて来
た。Adelsheim は確認のために Stanley にコンタクトしたところ、横に伸びるクローン
で Red Globe に少し侵されているとのことだった。ディジョン 828 クローンは、
Quail’s Gate Family が所有していた他のピノノワールクローンとブレンドされた。
ニュージーランドには真の 828 クローン栽培の経験がある。ニュージーランドには真
のクローン 828 を不正に⼊⼿し、伝えられるところによれば単⼀クローンのワインを
作ったと⾔われる者がいる。“ディジョンクローンの初期のシリーズよりフレーバーに
ついてはとても完璧なワインができた。” (マルボーロ ワインプレス、2010 年 6 ⽉)。
フランスの免許を受けた苗⽊屋 Riversun は、ニュージーランドで使われる主な台⽊全
てと接⽊の適合性を試し、リリースすることえで ENTAV-INRA® とサインしたと報
告している。苗⽊屋はクローンは⼩さな房で中程度の収量、糖度が⾼く⾼いポリフェ
ノールを含有し、⾼品質で 115 や 777 より⼩さな房で収量はちょっと少ないと記述し
ている。 (上記の ENTAV-INRA ® コピーを参照⽅)。
オーストラリアでは、Raymond Bernard にちなんでディジョンクローンは⼀般に
“Bernard clones”と⾔われる。 828 は 2008 年に輸⼊され、2010 年にオーストラリアの
検疫からリリースされた。そして 2015 年に商⽤化される。オーストラリアの苗⽊屋
Yalumba の Nick Dry は、クローン 828 の特徴を以下のように述べている。: 中から⾼
程度ポリフェノールやアントシアニンの⽣成、低から中程度の収穫と房の重さ、中か
ら低の果実のサイズ、中程度の房の数、; ワインは、バランス良く、アロマティック
で wines are balanced, aromatic (強く、フルーティー ), 丸く⼗分で, 良い熟成のポテン
シャルを持っている。
私の良い友⼈でオーストラリア モーニントンペニンシュラで Eldridge Estate のオーナ
ーワインメーカーを務めている David Lloyd が Bernard の後継となってディジョンクロ
ーンの開発に携わっているフランス⼈ Laurent Audeguin の写真を送ってくれた。彼は
⾃分のことを「クローンレンジャー」と呼んでいるそうだ。⾃分のグラスに 828 を注
いでいる!
真のディジョン 828 は、Adelsheim によれば UC Davis の FPS 施設の畑から今年利⽤可
能になるそうだ。
(http://fpms.ucdavis.edu/WebSitePDFs/Price&VarietyLists/GrapeNewSelectionList.pdf.) それ
はオリジナルの ENTAV-INRA® クローンに成⻑点培養を⾏ってウィルスフリー化し
た改良版で、もはや Red Globe ウィルスに汚染されてはいない。 真のクローン 828
は、カリフォルニとオレゴンで 2 年以内に商⽤化されるに違いない。
補⾜)成⻑点培養:芽の先 0.2mm はウィルスに侵されていないので、ここを無菌培養
するとウィルスフリーの苗⽊が作出できる。
Gary Andrusで始まった直立した「828」の話
Gary Andrus は、ブリンガムヤング⼤学で有機化学の学位を得た⼀⽅、ワールドクラス
のダウンヒルスキーヤーで、U.S.オリンピックチームに参加した。彼はオレゴン州⽴
⼤学で修⼠の学位を取得し、ボルドーでの仕事の後フランスのモンペリエ⼤学でワイ
ン学の博⼠号を得た。Andrus は、スキーリゾートコロラドのコッパーマウンテンの協
同経営者だったが、⾃分の株を売って奥さんのナンシーとナパヴァレーに移り住み、
1978 年 Pine Ridge Winery を設⽴した。
Andrus はオレゴンのピノノワールが⼤好きで、1992 年にオレゴンのダンディーヒルズ
に⼟地を購⼊した。翌年 Archery Summit Estate を設⽴。オレゴンのドメーヌドルーア
ンに隣接する場所である。そしてワイナリー初ヴィンテージとなるピノノワールをリ
リースした。グラビティーフローを⽣かせる地下にカーヴを持つワイナリーは 1995 年
に完成した。
オレゴンピノノワールは Andrus によって⼀気に有名になった。彼はオレゴンピノノワ
ールの品質と価格を押し上げた。オレゴンワインの販売に⻑く携わっている Jean Yates
よると、「陽気な性格を持ち、ワイナリーにレーザー光線で焦点を当てたような⼈」
と形容している。近しい友⼈でワインメーカー仲間でもあり、1995 年から 2002 年に
かけて Andrus のもと Archery Summit で働いた Sam Tannahill,は、「Andrus にはワイン
メーカーの DNA がある。」 と⾔う。Tannahill は彼のことを「多くを求め、猛烈で、
境界を押し広げて⾏く⼈。」と⾔う。Andrus に師事したワインメーカーJosh Bergström
は、彼のことを 「とても複雑な個性の持ち主、美⾷家そして実業家でワインメーカ
ー。」 彼は熱⼼なアウトドア⼈間で、オレゴンではフライフィッシイングに情熱を燃
やし、⼈々に⾃然を敬うように諭した。
Andrus は、ピノノワールに深みと重みそしてシルキーなテクスチャを引き出す⽊樽発
酵をオレゴンに紹介した。全房発酵を使い、オークの⾼い新樽⽐率を好んだ。彼は当
時最上級で⾼価なオレゴンピノノワールを作った。Archery Summit Estate の船出から
2,3 年のうちに、彼は$100 の価格の最初のオレゴンプレミアムワインをリリースし
た。
2001 年に奥さんの Nancy と離婚すると、Andrus は Pine Ridge Winery と Archery
Summit Estate の持分を売却しワインビジネスから引退した。その後間も無く彼は再び
結婚 (3 番⽬の配偶者となった Christine は、コロラドから来た元セールス担当だっ
た)、そして⼦供をもうけ (彼は最初の妻と 2 番⽬の妻との間に 4 ⼈の⼦供があった)、
新しい⼥の⾚ちゃん Gypsy の名前にちなんで Gypsy Dancer Estates を興した。次の写真
は Gary, Gypsy と Christine である(Jean Yates 提供) 。
彼はオレゴンのコーネリアス(Cornelius )に Lion Valley Vineyards を購⼊した。ま
た、ニュージーランドの Central Otago (Christine Lorraine Estate)にワイナリーを設⽴し
て、Central Otago と Willamette Valley からピノノワールを⽣産した。購⼊した葡萄と
エステートの葡萄で 2003 年と 2004 年にワインをリリースした。不運にも財政上の問
題から、彼は Gypsy Dancer Estates を 2006 年に閉じざるをえなかった。
Andrus は 2009 年に肺炎の合併症で死去、63 歳だった。彼はいつもオレゴンワインの
チャンピオンとして思い出されるが、彼の重要な遺産の 1 つは今やオレゴンとカリフ
ォルニアの葡萄畑の多くで広く栽培される垂直型のクローン「828」である。彼がオレ
ゴンに持ち込んだ「828」として知られるようになる葡萄の枝の⾎統の話を彼がどのよ
うに話すか推測することはできるが、私は Andrus を知っていた多くの葡萄⽣産者、ワ
イナリーオーナーそしてワインメーカーに、この興味深い話を⾊々検証するために、
直接訪ねて聞いて回った。
Andrusは、「828」として知られることになる枝をブルゴーニュからオレゴン
に 持ち帰った。
Andrus が 1992-1993 年に Dundee Hills に⼟地を買い、Archery Summit Estate を設⽴する
時に、ブルゴーニュに何回も旅⾏をした勘定書が残っている。彼はピノノワールの枝
を無許可で持ち帰っていた。Danielle Andrus-Montalieu の配偶者 Laurent Montalieu によ
って都市伝説が報告されていた。Andrus の娘 Anna Matzinger、Archery Summit Estate の
現在のワインメーカーだが、と他の者がトレンチコートの内側に隠して枝を持ち帰っ
たと⾔うのである。
枝は Archery Summit Estate の葡萄畑に植えられた。枝の 1 つは素晴らしく AS2 あるい
は ASW2 と呼ばれることになる。1997 年から 2001 年にかけて ASW2 の枝はオレゴン
とカリフォルニアへもたらされ、同様にソノマカウンティの苗⽊屋に持ち込まれた。
すぐにオレゴンとカリフォルニアの他の苗⽊屋も育て販売するようになった。著名な
カリフォルニアのピノノワール⽣産者、そして 2,3 のオレゴンの⽣産者がソノマの苗
⽊屋から「828」を購⼊した。それはフランスの ENTAV-INRA® から来たものではな
く、カリフォルニアの FPMS が輸⼊したものでもなかったので伝搬するのに制限は無
かった。ある時点で ASW2 は、 「ディジョンクローン 828」と呼ばれるようになっ
た。当時真の 828 はカリフォルニアの FPMS とフランスの ENTAV-INRA® で検疫中
であり、Red Globe ウィルスに感染していたため正式にリリースされることは無かっ
た。
これらの件に関する詳細はちょっと後ろめたいし、Andrus がフランスからオレゴンに
持ち帰った品種にはいくつかのバージョンがある。ASW2 の他にも少なくとも 1 つの
スーツケースの穂⽊を持ち帰ったとの噂があり、また Archery Summit Estate 由来の
ASW1 か ASW3 で、カリフォルニアに植えられたようだ。ピノ・ファン品種(多分真の
828 か 115)と確認されて来た。どのようにして ASW2 が「ディジョン 828」として知
られるようになったかは⾮常に興味のあるところではあるが、はっきりと説明するこ
とは難しい。
現在カリフォルニアセバストポル Littorai のオーナーワインメーカーTed Lemon は、
Archery Summit Estate の最初の 5 年間コンサルタントだった。Lemon は、葡萄畑のブ
ロックの割付、台⽊の選択やクローンの組み合わせを⾏なった。彼は私に次のように
語った。
「Gary と私はクローンやピノノワールにまつわる⾊々なことを知るためにフランスへ
数回旅をした。私は Gary のいかなるスーツケース輸⼊にも関わらないとはっきり⾔っ
た。彼は幾度かの旅⾏で私に黙って⽊を持ち帰ったんではないかと思う。それらのう
ちの幾つかは有名な畑で単純にひっつかんだものであったり、あるものは特別なセレ
クションであったかも知れない。Archery Summit には 「828」 や「La Tache」 を含
む幾つかのセレクションが植えられた。当時 Archery Summit では期待通り最後まで遂
⾏することは可能だった訳ではない。ラベリングが正しく⾏われなかったようなこと
はしばしば起こった。 これらの問題やウィルスの件のことで、Archery Summit では、
少なくとも Gary が 「La Tache」と呼んだ株についてプログラムを終了させたはずで
ある。
「私は Archery Summit での仕事の数年間、これらのセレクションのパフォーマンス評
価を⾏なった。 そしてその後、穂⽊は Littorai バージョンの”828”となった。我々はそ
れを‘フェイク 828’と呼んだ。Littorai バージョンの「828」を⾒に来た苗⽊屋の⼈達が
いた。フランスの有名な苗⽊屋 Guillaume Nursery の Pierre Marie Guillaume も来た。
Lucie Morton もまた⾒に来た。カリフォルニアの 「828」は繁殖⼒があり垂直に伸び
るクローンで、真の 828 が持っていない 2 つの特徴を持っていた。Pierre- Marie は感覚
的にカリフォルニア「828」 は多分 ENTAV-INRA® の 583 のようなものではないか
と思った。垂直で品質の良いクローンだ。どこで Gary がそれを⼿に⼊れたかは良い質
問だ。DNA 分析をすれば真の起源は明らかになるだろうが、私はカリフォルニア
「828」として育てることを幸せに感じている。」
Lemon は、Gary のセレクションがアメリカ合衆国に着いた時、ラベルが Gary が「La
Tache」と呼んだものから、より真の 828 を思わせるものに⼊れ替わったのではないか
と推察する。これを検証する資料は何もなされていないが、根拠のある推察である。
David Adelsheim は、配偶者の Ginny と 1972 年 Adelsheim Vineyard を設⽴した。オレゴ
ンワインではアイコン的存在となり、オレゴンのピノノワールクローンスポークスマ
ンとして尊敬された。Archery Summit Estate の⽴ち上げ期に働いていた⼈が後に
Adelsheim Vineyard に雇⽤された。彼は、Adelsheim は、Andrus によってオレゴンに持
ち込まれたスーツケースの葡萄枝の歴史を引き継いだが、それは Lemon のものといく
つかの点で異なるものだった。
この⼈は Andrus のブルゴーニュへの旅に同⾏し、2 つの Domaine de la Romanée-Conti
の畑、すなわち Romanée-Conti と La Tâche、また同様に Le Musigny で枝を採取し
た。これらの枝は持ち帰られソノマカウンティーの苗⽊屋に持ち込まれ、Archery
Summit に植えられた。明らかに Romanée-Conti と Le Musigny はひどくウィルスに汚染
されており、結局これらは廃棄された。La Tâche の葡萄は軽度のウィルス汚染だった
のでソノマの苗⽊屋でクリーンアップされた。La Tâche の枝の⼦孫が今 AS2 あるいは
ASW2 と呼ばれるものであり Archery Summit や Adelsheim Vineyard を含む多くのオレ
ゴンやカリフォルニアの畑に植えられた。
Adelsheim は、ASW2 は垂直に伸びるピノ・ドロワ・セレクションで、垣根を使わない
葡萄畑なら他の垂れ下がるピノノワールのクローンと容易に判別できると⾔う。これ
は Red Globe ウィルスを持っておらず、持ったこともないのではないかと考えてい
る。
Anna Matzinger は、1999 年に Archery Summit Estate にアシスタントワインメーカーと
して参加し、2002 年に Sam Tannahill がいなくなるとワインメーカーとなった。Leigh
Bartholomew は Archery Summit の畑の担当者で、ワイナリーの記録に詳しい。彼らの
バージョンの ASW2 の起源は次の通りだと⾔う。「Andrus が 1990 年代半ばフランス
への旅⾏から帰ったら、3 種類のピノノワールの枝が他のエステートの畑同様デモン
ストレーション⽤の畑に植えられた。⼤⻄洋横断したクローンは、コートの縁に縫い
込まれていた。オーナーのコートの縁にあったものはドラマチックだった。実際にわ
かったことは誰もが想像する通りだ。枝はワイナリーでは ASW1, ASW2, ASW3 と呼
ばれた。ASW2 は好まれ穂⽊として売られた。ASW2 は Red Globe 陽性とは判定され
なかった。」
Sam Tannahill は、Archery Summit Estate での「828」(ASW2)の起源について⾔及する
ことはできない(彼は 1995 年まではワイナリーに参加していなかったし、枝が安全な
ものとなるまで周りにいなかった)、しかし、垂直に成⻑していることは確かめてい
る。彼は DNA 解析の結果 AWS2 はピノノワールであることを確めている (彼らは垂
直に成⻑するボジョレーのガメイではないかと思ったのだった)。彼が Archery Summit
のワインメーカーだった時、4つの⾯⽩いクローンがあった: 「真の」 828 (フランス
の Guillaume から来たものと推測される)、La Tâche クローン、Romanée-Conti クロー
ン、それに Musigny のクローンである。彼にはこれらのクローンのうちどれがまだ
Archery Summit Estate に植えられているかわからない。Matzinger によれば、現在
Archery Summit Estate には全部で 110 エーカーの畑があり、そのうち 5 エーカーの
ASW2 があると⾔う。
John Haeger は、2 冊の良く研究された本を出しており、これらはピノノワール、とり
わけピノノワールクローンについての信頼できる標準的な参考書籍となっている:
North American Pinot Noir (2004 年) と Pacific Pinot Noir (2008 年)である。後者の本
で、彼は Archery Summit Estate の歴史と ASW2 の⾎統について重点を置いている。
Haeger は、2000 年に Archery Summit Estate を訪ね Andrus と話をしている。ASW の名
称については話されていない。Haeger はそれらがまだ存在していなかったとの印象を
持った。Haeger にはセレクションの中に 828 と確認されたものはなかった。 数年後
Haeger が Leigh Bartholomew と話をしたとき、ASW が出て来た。伝えられるところに
よれば Romanée Conti が ASW1 と名付けられ; La Tâche を起源とするものが ASW2 と
名付けられたと⾔われる; そして Le Musigny から来たものが ASW3 と名付けられたと
⾔う。おそらく AS と⾔うのはそれぞれがブルゴーニュソースであることを⾔わない
で済むように名付けられたのだろう。ASW2 はウィルス汚染の問題が⼀番少なく、
ASW1 と ASW3 は Argyle でのトライアル中、汚染がひどかったので廃棄されたのだろ
う。
Haeger によれば、ASW2 は最初 Archery Summit Estate winery に隣接するデモンストレ
ーションブロックに植えられ、次いで Renegade Ridge のブロック 1 に、そして Looney
の Red Hills にあるブロック 21 に植えられた。「Andrus は、Renegade Ridge に植えら
れていた不法に輸⼊したセレクションの起源について、全く⽤⼼深くも寡黙でもなか
った。実際のところ、Renegade Ridge がどのように命名されたかについて少なくとも
Gary はこう⾔っていた:彼の「背教的(renegade)」 ⾏動の対象を植えた場所。当時
(2000 年)、Renegade Ridge のセレクションの起源は次の畑として知られていた: La
Tâche, La Romanée-Conti そして Le Musigny。セレクションのどれもが 828 であるとは
私には確認できなかった。" 828 は当時特別な話題ではなかったので、Haeger は深く詮
索しなかった。Haeger は、ASW2 が垂直に成⻑する特性があることは確認した。
Haeger は、ASW2 がどのようにしてディジョン 828 として知られるようになったかに
ついて以下のように考えている。 「理由は完全には明らかではないが、しかし、伝え
聞くところでは Andrus が ASW2 の枝を⼊⼿した葡萄栽培家の何⼈かと会話した内容
から、他の葡萄畑に伝わり、苗⽊屋によりさらに分配された間にディジョン(あるいは
CTPS)828 として知られるようになった。そのこと⾃体が確からしくないとしても。こ
の正しくない正体が明らかになるにつれ、それを faux-828 と呼ぶ栽培家も出て来
た。」
Haeger は、Bartholomew が Archery Summit Estate から葡萄の枝を⼊⼿した第3者が
Archery Summit Estate によって 828 と書かれていたとする記録の証拠は何も⾒つけて
いないことを思い出す。 「この⾝元確認は第3者によって⾏われたものだ。たとえ、
第3者の中の誰かが Andrus が彼らにそう話したとしてもである。私には、Gery が彼
のスールケースのセレクションが 828 だったと思っていたとは信じられない。私が知
る限り、フランスの葡萄畑で知られているクローンを植えていたソースとなる畑はな
かったのだから。」Ted Lemon が、Andrus は有名な葡萄畑と特定のセレクションの枝
をひっつかんだと⾔い、信じていたことを思い出して欲しい。
Adelsheim は、「828」をカリフォルニアの苗⽊屋 Sunridge Nursery から購⼊し、
Archery Summit から採られた ASW2 と並んで植えた。それらは同じに⾒える。彼は、
2012 年ヴィンテージから別々にワインを作ろうと計画している。
ASW2 がどうして「828」と呼ばれるようになったかの問題は多分答えが出ないだろ
う。 我々は ASW2 がとても素晴らしいワインを作ることを知っている。 Adelsheim
記している。「2000 年以降のいつか, 彼 (Andrus) は 「828」から作ったワインのバレ
ルサンプル提供を始めた。それはとても美味しかった。我々は、彼がそれをスーツケ
ースに⼊れてアメリカ合衆国へ持ち込んだことを疑う理由がなかった。」 Adelsheim
によれば、ディジョンクローン 828 はアメリカ合衆国にはなかった。しかし、フラン
スでリリースされると、828 はすぐにブルゴーニュで⼈気のクローンとなって、その
ポテンシャルの⾼さからグレード「A」を受けた。アメリカのピノノワール⽣産者
は、次の⼈気ディジョンクローンに関⼼を寄せていた(“Make mine Dijon please”が当時
のキャッチフレーズだ)。 そしてフランスからの 828 のレポートに⼼そそられた。
Matzinger は、ASW2 がどのようにして 828 と呼ばれるようになったかは良く知らない
と⾔ったが、私にもっともらしくこう⾔った。「多分 Andrus は、それが 828 であるべ
きだ、828 だろうと思った、あるいは単純に 828 であった欲しいと思ったんだろ
う。」 Montalieu は、私が話した他の⼈たちと同様に、ASW2 がどうやって 828 と呼
ばれるようになったかはわからないけれど、当時 828 はブルゴーニュでホットなクロ
ーンで、Andrus は 828 を⼿に⼊れたと思ったんじゃないだろうか。彼は真の 828 を⼿
に⼊れようと試みたんだろうけれど、知らずに何か他のものを⼿に⼊れたんだろう。
Dick Erath は私に⾔った。 「もの知りの Gary は、ホントのものを掴んだって思ったん
だろう。」 違法に持ち帰った枝に Andrus が名前をつけるのをフランスが阻⽌しよう
として潜在的に脅したと⾔う訳でもない。Archery Summit Estate と Oregon Pinot Noir の
視界を築こうとする誰かが、Andrus が彼の同僚たちから感嘆を引き出す⽅法として、
所謂名誉となるように、最初に 828 を得るチャンスを持たせようとしたと推測できる
かも知れない。
Matzinger は、2001 年に Andrus が Archery Summit Estate を引退したのち、Archery
Summit Estate から売られた穂⽊には ASW2 トラベルが付けられ、以前購⼊した⼈たち
にも名前の変更が知らされたと⾔う。苗⽊屋は彼らのカタログに「828」をリストしオ
ファーするが、購⼊しようとする⼈たちには、それは真のディジョン 828 クローンで
はないと知らせている。
Faux 「828」 が持つラベルの名前と特徴
ASW2 は多くのタグを持たされた。私はすでに faux 「828」を挙げたが、 スーツケー
ス 「828」 とか CA 「828」とも呼ばれた。垂直に成⻑するので、「Viagra clone」
と呼ぶものもいた。同じ理由から 「Don King clone」と呼ぶものもあった。Joel Myers
は、「black dog clone」 と⾔うのを好んだ。と⾔うのは、フラット・コーテッド・レ
トリバーは良い猟⽝であるが⾎統書を持たない(証明されていない)からである。
「gumboot (ゴム⻑靴)clone」 とも⾔われた。理由は明⽩だろう。
faux 「828」クローンで仕事をした葡萄⽣産者やワインメーカーは⼀般に 気候が重要
ではない場所では良く繁殖すると考えている。Haeger は、⼤抵のピノ・ドロワ・セレ
クションは多く実を結ぶが、品質があまり良くないと指摘する。 葡萄品種学者で元
ENTAV のディレクターJean-Michel Boursiquot は同意してこう⾔う、「垂直に伸びるク
ローンほど品質の劣ったワインを作ると考えられている。」 これらの警鐘にも関わら
ず、いくつかのピノ・ドロワについては、faux「828」 を含み、アメリカ合衆国に置
いては良い成果を挙げている。
Ted Lemon は、CA 「828」についての経験に⾃信を持っている。 「⼀度ウィルスか
らクリーンアップされると(Oregon に来たものは Red Globe 以外のウィルスも持ってい
た), それは⽣産性が向上し、ソノマコーストような難しい環境下でもすくすくと育
つ。それは良く育つ傾向にあり、まばらにすることも重要だ。年々いろんなバリエー
ションが⽣じるから決めつけるべきではない。⾊は⼀般に良い。古いディジョンセレ
クションと⽐べるとヴェライゾンは遅く、熟すのは少し後になる。」
カリフォルニアサンタリタヒルズの葡萄⽣産者でワインメーカーの Peter Cargassachi
は、 「「828」 ピノ・ドロワ・クローンは⻑く、緩んだ房をつける。同じくピノ・ド
ロワ・クローンの Mariafeld UCD 23 に似ている。」
メンドシーノカウンティ、エルクにある Drew Family Cellars の Jason Drew によると、
現在「828」が植えられているブロックがある 2 つの区画で仕事をしているが、2 つの
「828」の区画は明らかに形態が異なる。どちらも 101-14 台⽊に植えられている。1 つ
のセレクションは、⼩さな果実に⼩さな房でほんのわずかの⽣産量しかない。そのセ
レクションは、素晴らしい豊かさと深みを持ったワインができる。もう⼀つの「828」
は、Archery Summit から来たものと推測されるのだが、葡萄の成⻑が明らかに異なっ
ているのだ。果実はとても⼤きく、房は時に他の 828 に⽐べ 2 倍くらい⼤きい。葡萄
はよりすくすくと育ち先端の勢いは⼒強くより垂直に育つ。この「828」からできたワ
インは、良い強さを持っているが⼩さな 828 が持っているタンニンや⼝当たりは無
い。より精⼒的なバージョンは熟すのがゆっくりで良い成熟したフレーバーを持つ
が、⼩さなバージョンが持つ深みはなく、より⼥性的でデリケートである。Jason は⾔
う、「もし私が明るいフレーバーと軽いタンニンを望むなら、faux 「828」のブレン
ドを考えるだろう。逆に⾔えば、より凝縮感がある品質と豊かなタンニンを望むなら
⼩さな 828 を使うだろう。⽪⾁なことに、もしブレンドすればそれらはとても素晴ら
しいペアになる。だから⼆つのではなく ‘one’ 828 と呼ばないか。」
次の写真は、カリフォルニアとオレゴンの葡萄畑のまさに収穫前に撮られたもので、
faux 「828」の垂直な成⻑習性が明らかだ。房は⻑く⼤きく、垂直な若い枝が房が⾃
由にぶら下がり⾒え易く保っている。収穫の最後に糖分が房に蓄えられると、房は落
ちるような傾向となるのが写真で良く⾒える。特に Rosella’s Vineyard で撮られた写真
である。
Dundee Hills, Archery Summit Estate の ASW2, Anna Metzinger提供
Dundee Hills, Archery Summit Estate の ASW2, Anna Metzinger提供
Russian River Valley, Inman Family Winery, Olivet Grange Vineyardの Faux “828”
Kathleen Inman提供
Faux “828,” 典型的な大きな房, 収穫の 3日前, Russian River Valley, Inman Family
Winery, Olivet Grange Vineyard, Kathleen Inman提供
Santa Lucia Highlands, Rosella’s Vineyard, Faux “828,” Adam Lee提供
Faux 「828」から作られるワイン
Faux 「828」は、多くのクローン同様、植えられた場所によってパフォーマンスは⼀
定しない。Haeger が著書 North American Pinot Noir で指摘しているように 「ピノノワ
ールは、クローンやクローンセレクションに対してかけられた情熱にも関わらず、不
動産についてのマントラの呪⽂のようだ; 場所, 場所, 場所。」著名なワインメーカー
Merry Edwards は、Russian River Valley のセバストポルに近い Laguna Ridge に
Coopersmith Vineyard を作る際、2001 年 Archery Summit Estate から⼊⼿した faux
「828」クローンを元りんごの果樹園だった 9.5 エーカーのうち 50%に植えた。クロー
ンはそこのテロワールに合わないことが判明し、2008 年までに Mount Eden UCD 37 に
植え替えられた。わずか北東に数マイル離れた Kathleen Inman が所有する Inman
Family Wines Olivet Grange Vineyard では faux「828」がたくましいクローンであること
が証明されているのにもかかわらず。
真実は、葡萄栽培家 Joel Myers は、faux 「828」 は、「好きなものもいるし、そうで
ないものもいる。」と表現したが核⼼をついている。⼤⽅は凝縮感のあるフレーバー
でとても良い⾊のワインができることに賛成している。ワインメーカーPeter
Cargasacchi は、Sta. Rita Hills で育った faux 「828」から作る彼のワインを、「濃い⾊
で、⽔気が多くブラックベリーやダークチェリーのキャラクター。」 と⾔う。同じく
Sta. Rita Hills の Melville Vineyards and Winery のワインメーカーChad Melville は、直接
Archery Summit Estate から得たものと Merry Edwards から得た 2 つの faux 「828」 を
植えている。「それらは、⽊に⽣っている時もワインとしても⾒た⽬が異なる。とて
も砂が多い⼟壌に植えられた faux 「828」は、エレガントな⼝当たりに乾いたバラ、
ドライハーブのとても可愛らしいアロマの性格を持っている。Merry Edwards の
「828」は重い粘⼟質の⼟壌に植えられているが、より暗い⾊でリッチな味わいだ。」
Arroyo Grande Valley 、Laetitia Vineyard & Winery のワインメーカーEric Hickey は、9
エーカー強の場所に 「828」ピノ・ドロワ・セレクションを植えている。「Laetitia の
フレーバーは明るく、⾚い果実のフルーツものとして知られているが、 「828」はよ
りダークな⿊系果実で、少しタニックなピノノワールだ。それはブレンドすると我々
の嗜好にちょうど合う。 「828」は我々が育てている 10 のピノノワールクローンの 1
つだが、「828」単⼀クローンのワインをリリースしようと思う。と⾔うのは、我々の
ワインはこれらクローンのブレンドで、それぞれのクローンにハイライトをあて、パ
トロン達がこれらのクローンがもたらすものを認識し、Laetitia で成⻑した時どんなふ
うになるかを知ってほしいからだ。」
Russian River Valley、Siduri Wines のワインメーカーAdam Lee は、カリフォルニア州の
⾄る所の葡萄畑と、オレゴン州でさえ、仕事をしているが、 「実の所、ちょっとうん
ざりしている。777 を思い出させる。ワインの素晴らしい中間部を作り出すんだが、
興味深くするには周りに何か必要なんだ。⼀般に、777 より遅く熟し、より厚い果⽪
を持ち、 (そう⾔う意味では、マルティニみたいなんだ。あんなに極端じゃないけ
ど。)、そして素晴らしいフレーバーに感じる。しかし、誰にも植えることは勧めな
い。」
Marin County , Kendric Vineyard の Stewart Johnson は、faux “828”を植え、農場には最も
易しいクローンだと感じている。と⾔うのは、それは格⼦垣のワイヤに沿ってまっす
ぐに育ち、若枝の位置をちょっと正してやれば良いだけだからだ。たくさん実をつ
け、遅く熟す傾向にある。以前は分けて醸造していた。しかし、⾊合いがかなり明る
く、私にとっては沢⼭のキャラクターを⾒せてくれる訳ではない。「詰め物みたいな
ものだ。」 あまり⾯⽩くない。
Santa Maria Valley、Paul Lato Wines のオーナーワインメーカーPaul Lato は、彼のコン
サルティング顧客 Hilliard Bruce のワインでのみ「828」を使っている。彼の限られた
経験からは、そのクローンは単純で、複雑味に⽋け、エキサイティングではない。彼
⾃⾝、このクローンためにどこか葡萄畑を探すことはないと⾔う。
Russian River Valley、Benovia Winery のワインメーカーMichael Sullivan は、私に faux
「828」について以下のように話した。「faux 「828」 を使って来たが、結果に関し
ては多少ハッピーだった。よりストラクチャーがあり(よりタンニン)酸が⾼く、他
の多くのディジョンセレクションより⾊が濃い傾向にある。単⼀で使うよりは良いブ
レンド品種だ。faux 「828」 は房が⼤きく葡萄が過剰⽣産になりうるので、収穫をま
ばらにしなければならない。」
ほとんどのワインメーカーが faux 「828」は他のクローンとブレンドするのが⼀番良
いと⾔うことに合意する。 そのため、faux 「828」から商業的に単⼀クローンのワイ
ンがリリースされることは滅多にない。カリフォルニアでは Buena Vista, Del Dotto、
Halleck、Laetitia と Melville Vineyards and Winery の例がある。オレゴンでは Duke’s
Family Vineyards がある。次の 2 つのワインは私が最近レビューしたものだ。どちらの
ワインも明るく、フルーティーで、相対的にシンプルで顕著にタンニンがあり、フィ
ニッシュは短い。
2009 Laetitia Clone 828 Arroyo Grande Valley Pinot Noir
アルコール度数 13.9% 、$32 グラスでは中程度の⾚紫⾊。ゆっくりと開き、ブラック
チェリー、ブラックラズベリー、プルーン、スパイスとオークの⾹りが現れて来る。
ソフトでスムーズな⼝当たり、適度にリッチなダークレッドチェリーやベリーフレー
バーに、トーストしたオークの⾹りが上塗りされて来る。良くしっかりとバランスが
取れており、タンニンがまとまっている。
2006 Halleck Clone 828 Sonoma Coast Pinot Noir
アルコール度数 14.2% 、 266 ケース製造、$55 Annapolis の近くの畑をソースとす
る。30% フレンチオークの新樽で熟成。グラスでは中程度の明るい⾚紫⾊。ブラック
チェリーやスパイス、バルサムのアロマ。⾵味豊かで中重。ブラックチェリーをコア
にし、背景にちょっとスモーキーなオーク。しっかりしたタンニンに包まれ、軽い⼝
当たりでチェリー主体の印象。Good。
要約
* 記録に残らない葡萄⽊が 1800 年代半ばフランスからアメリカ合衆国へ持ち込まれ
た。著名なワインメーカーTony Soter は、過去にカリフォルニアからの予⾒として、
“⾃分⾃⾝をピノノワールの聖杯探索者と⾒なす者の中では、密輸は伝統の⼀部だと理
解されている。「オレゴンでは、オレゴン州⽴⼤学が輸⼊許可を持っており、オレゴ
ンのワイン⽣産者が欲しいと思うものは喜んで運んだ。ピノノワールには事実上密輸
のスーツケースクローンはない。Adelsheim によると “Coury の噂と Andrus のセレク
ションを聞いただけで、他にはない。」
* Gary Andrus, the founder of Napa valley は Pine Ridge Winery と Willamette Valley の
Archery Summit Estate そして Central Otago と Willamette Valley の Gypsy Dancer Estates
は、噂によると 1990 年代初期フランスからアメリカ合衆国へブルゴーニュの有名な葡
萄畑から穂⽊を密輸した。穂⽊の真の出所はわからない。
* トレンチコートに縫い込まれて Andrus が持ち込んだ枝は Archery Summery Estate に
届いた。⼀つは ASW2 と呼ばれ、最⾼のパフォーマンスを⽰し、ほとんどウィルス汚
染はなかった。それはピノ・ドロワで良いワインができた。
* 1997 年の初め、ASW2 の枝はオレゴンとカリフォルニアのワイナリーや苗⽊屋に広
く分配された。そのセレクションは認証されていなかったので、伝搬に制限はなかっ
た。ある時点でミステリアスな理由により、ASW2 はクローン「828」として知られ
るようになった。真のディジョンクローン 828 は、Red Globe ウィルスのためフランス
と UC Davis で隔離検疫された。
* 真のディジョン 828 は、UC Davis の FPS 施設の畑で今年新たに利⽤可能となっ
た。それはオリジナルの ENTAV-INRA クローンの Red Globe ウィルスのないクリーン
アップバージョンである。2001 年に Andrus が Archery Summit Estate を売却してから、
販売された ASW2 には 「828」と区別するため ASW2 とラベルがつけられ、購⼊者
たちは名前の変更に気づいた。
* 現在、葡萄栽培家の売買では ASW2 は faux 「828」あるいは垂直の 「828」と呼ば
れる。アメリカ合衆国で、真の 828 が利⽤可能となった時、ASW2 が何と呼ばれるか
興味深い。
あとがき
オレゴン州⽴⼤学園芸学助教授 Laurent Deluc は、オレゴン州⽴⼤学のゲノムとバイオ
コンピューティングセンターと協⼒して、いくつかのピノノワールクローンについて
遺伝⼦配列を解読する⻑期プロジェクトを進めている。現在オレゴン州⽴⼤学は研究
ワークフローと RNA を⽤いたデータ表現の解析が可能な⽣物情報学のプラットフォー
ムがある。ASW2 が、いくつかのピノノワールクローンに完全にマップされる可能性
がある。これはもちろん ASW2 の真の起源を⾒つけ出すことに繋がる。成果に期待し
よう !
付録
クローンと⾔う単語はギリシャ語の twig から来ている。クローンは別々の葡萄であ
り、遺伝的にその⺟親の植物を確定できる。それらは、同じ成⻑、修正、フレーバー
や熟す時間を持っている。クローンは、⼩枝をとり異なる葡萄に挿し⽊をすることで
無性⽣殖的に伝播する。伝播に種⼦は適さない。受粉後新しい種⼦は遺伝的に同⼀で
はないからだ。
ピノノワールのクローンは、⼟壌やマイクロクライメット等のテロワールと同様、ワ
インのフレーバーの特徴を決める。クローンには、発芽、熟す時間、房の構成、収穫
量、果実のサイズ、果実の品質などの特徴に違いがある。
クローンは南フランスの ENTAV (Etablissment National Technique pour l’Amélioration de
la Viticulture) で承認され、UC Davis の FPS に登録される。承認されたクローンは、同
じ親に由来し、特定のウィルステストが⾏われ、クリーンに保たれる。これら認証さ
れたクローン葡萄は、名前か番号がつけられ枝は苗⽊屋が利⽤可能となる。
異なる葡萄樹から採られた枝は共通の親を持たない。これらは異なる遺伝形質を持つ
のでマサル・セレクションとかマス・セレクションと呼ばれる。 例えば、カリフォル
ニアに植えられている所謂ヘリテージあるいはスーツケース「クローン」は真のクロ
ーンではない。1 つの葡萄畑のいくつかの葡萄の⽊から採られた複数の枝は、栽培品
種かセレクションを表している。例えば、所謂ピノノワールの Swan 「クローン」
は、厳密には Swan セレクションと呼ばれるべきだ。Swan セレクションは、Paul
Masson が Romanée-Conti から穂⽊をとってアメリカに持ち帰りカリフォルニアサラト
ガに植えたと⾔われている。彼の後継者 Martin Ray は、Masson の畑から枝をとって新
しい畑に植えた。そこは Mount Eden として知られるようになった。Joseph Swan は、
Martin Ray の畑から枝をとって Russian River Valley に植えた。Swan の穂⽊はカリフォ
ルニア中に広がって⾏った。