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マイケル・ポーターから学ぶ IoT のための競争戦略 これまでの連載で、さまざまな事例を通 して IoT の広い可能性を見てこられたと 思います。ここでは、よりビジネスへの活 用イメージを持っていただけるよう、実践 的な話をしていきましょう。 本稿では、Harvard Business Review 2015 4 月号「IoT の衝撃」にマイケル・ ポーター氏が PTC 社の CEO、ジェームズ E・ヘルプマン氏と共著で寄稿した論文 IoT 時代の競争戦略」(原題: How Smart, Connected Products Are Transforming Competition, 有賀裕子訳)で紹介されて いるフレームワークにフォーカスします。 マイケル・ポーター氏らがいう IoT とは、 この世にない新しい製品を生み出すことでは決してなく、すでにある機器・製品がインタ ーネットと接続することで、その機器・製品の能力、役割が飛躍的に拡大していくという ものです。 IoT により製品の本質が変化すると、業界構造と競争のあり方も変わります。ポーター氏 らは、様々な変化をもたらす IoT 化は、「多くの企業に「自社の事業は何だろうか」という 根本的な問いを突きつけるだろう。」といいます。 論文は、まず、IoT により製品の本質がどう変化するのかを理解するために、製品の IoT 化を 4 つの段階に分けて解説しています。次に、製品の本質の変化とともに変わる各ステ ークホルダーとの関係性を 5 フォースのフレームを用いて説明しています。 そして競争のあり方、市場環境が変わると、当然、変わってくる企業の戦略についても、 具体的な実践方法として紹介しています。 ここではちょっと難しく捉えられがちなマイケル・ポーター氏らの競争戦略について、 わかりやすく解説していきます。

マイケル・ポーターから学ぶ IoT のための競争戦略マイケル・ポーターから学ぶIoT のための競争戦略 これまでの連載で、さまざまな事例を通

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マイケル・ポーターから学ぶ IoT のための競争戦略

これまでの連載で、さまざまな事例を通

して IoT の広い可能性を見てこられたと

思います。ここでは、よりビジネスへの活

用イメージを持っていただけるよう、実践

的な話をしていきましょう。

本稿では、Harvard Business Review

2015 年 4 月号「IoT の衝撃」にマイケル・

ポーター氏が PTC 社の CEO、ジェームズ

E・ヘルプマン氏と共著で寄稿した論文

「IoT 時代の競争戦略」(原題:How Smart,

Connected Products Are Transforming

Competition, 有賀裕子訳)で紹介されて

いるフレームワークにフォーカスします。

マイケル・ポーター氏らがいう IoT とは、

この世にない新しい製品を生み出すことでは決してなく、すでにある機器・製品がインタ

ーネットと接続することで、その機器・製品の能力、役割が飛躍的に拡大していくという

ものです。

IoT により製品の本質が変化すると、業界構造と競争のあり方も変わります。ポーター氏

らは、様々な変化をもたらす IoT 化は、「多くの企業に「自社の事業は何だろうか」という

根本的な問いを突きつけるだろう。」といいます。

論文は、まず、IoT により製品の本質がどう変化するのかを理解するために、製品の IoT

化を 4 つの段階に分けて解説しています。次に、製品の本質の変化とともに変わる各ステ

ークホルダーとの関係性を 5 フォースのフレームを用いて説明しています。

そして競争のあり方、市場環境が変わると、当然、変わってくる企業の戦略についても、

具体的な実践方法として紹介しています。

ここではちょっと難しく捉えられがちなマイケル・ポーター氏らの競争戦略について、

わかりやすく解説していきます。

IoT 時代の新たな幕開けに備え、どのような戦略設計をすべきか一緒に見ていきましょう。

マイケル・ポーターが定義した IoT 化の 4 つの段階

IoT により、あらゆる製品にセンサーやプロセッサーなどが搭載され、インターネットで

常時接続できるようになると、クラウド上に製品データを収集し、分析することが可能に

なります。そのデータをさらに製品に活かすことで、製品そのものの機能性やケイパビリ

ティが向上します。このような「接続機能を持つスマート製品」をマイケル・ポーター氏

らは「スマートコネクテッドプロダクト」と命名しました。

また、ポーター氏らは、IoT によって製品が持つ新しい機能を「1. モニタリング」「2. 制

御」「3. 適化」「4. 自律性」の 4 段階に分類、定義し、それぞれの段階の関係性を次のよ

うに示しています。

「各機能はそれ自体が有用であると同時に、次のレベルの土台としての役割も果たす。た

とえば、モニタリング機能は制御、 適化、自律性の土台になる。」

以下の図で説明すると、第一段階の遠隔監視(モニタリング)は、第二段階の遠隔制御、

第三段階の 適化、第四段階の自律化のすべての前提となる機能であり、第二段階の遠隔

制御は第三段階の 適化と第四段階の自律化の前提となる機能ということなのです。

それでは、その IoT の 4 つの段階の詳細を見ていきましょう。

第一段階.遠隔監視

論文では、製品の IoT 化に向けた第一段階・遠隔監視(モニタリング)では、以下のこ

とが可能になると説明しています。

「接続機能を持つスマート製品は、センサーと外部からのデータを使って、製品の状態、

稼働状況、外部環境のモニタリングを実現する。」

「メーカーはモニタリング機能を活かして製品の稼働の特性や履歴を追跡し、実際の使わ

れ方をよりよく理解できる。」

例えば、「製造業の事例から学ぶ!IoT を活用した経営効果とは」の記事中で紹介した

General Electric 社(GE 社)の事例を思い出してください。

製品である航空機のエンジンにセンサーを取り付け、エンジンの稼働状況や状態、エン

ジンを取り巻く外部環境をモニタリングし、データを収集。航空会社から修理の問い合わ

せが来る前に、メンテナンス箇所を把握し、あらかじめ部品を手配することで、修理・メ

ンテナンス作業の効率化を図っています。

このように、製品を遠隔監視することで、サービスの効率化や拡充が可能になるのです。

第二段階.遠隔制御

製品の IoT 化における第二段階・遠隔制御は、以下のように説明されています。

「接続機能を持つスマート製品は、製品機器あるいは製品クラウド上の遠隔コマンドやア

ルゴリズムによって制御できる。」

つまり、第二段階では、インターネット経由で製品や製造機械を遠隔操作し、その動作

をコントロールすることができるという意味です。

例えば、山奥の採掘場所などの人が行きにくい場所にある重機をソフトで制御して、遠

隔操作したりすることが可能になります。

また、遠隔操作だけでなく、施設内の気温が一定に達したら空調をつける・あるいは消

すなど、条件設定による自動運転をさせることもできます。

第三段階. 適化

製品の IoT 化における第三段階では、以下のことが可能になると述べられています。

「接続機能を持つスマート製品がもたらす潤沢なモニタリング・データを、製品の働きを

制御する機能と組み合わせると、数々の方法による製品性能の 適化が可能になる。」

「接続機能を持つスマート製品は、現在および過去のデータにアルゴリズムやアナリティ

クスを適用して、産出量、稼働率、効率を劇的に向上させることができる。」

例えば、ひとつの製品を作るために複数の生産ラインがあるとしましょう。第二段階ま

での IoT 化では、あるひとつの生産ラインに不具合が生じたらその生産ラインを遠隔操作

で修理したり、ラインを止めたりすることが可能でした。

第三段階では、生産ラインごとが連携しているため、ひとつの生産ラインに不具合が生

じてライン効率が下がると、別の生産ラインの稼働率を自動で上げて、全体の生産量を一

定に維持することが可能になるのです。また製造機器に不具合が生じる以前に、故障の前

兆を検知して、自動で予防や保守を実施し、常に 適な状況に維持することも可能です。

第四段階.自律性

第四段階では、第三段階までのすべての機能が生かされます。

ポーター氏は、この第四段階では「モニタリング、制御、 適化の各機能が結びつくと、

接続機能を持つスマート製品に、かつては夢でしかなかったような高い自律性が備わる」

といいます。

一定の条件を満たすと指示通りに自動運転するのが第三段階だったのに比べ、第四段階

ではそのもう一歩先をいき、他の製品やシステムと自動的に連携し、過去や現在の自己診

断によって自動制御することまでもが可能になるのです。

ポーター氏らは論文の中で iRobot 社のお掃除ロボット、ルンバを例にあげ、「より洗練さ

れた製品は、環境がどうなっているかを把握し、必要な修理内容を自己診断し、利用者の

嗜好に対応する」と述べています。

ドイツの Industry 4.0 で目指すつながる工場(スマートファクトリー)も、機械と機械

が自律的に動作する第四段階をもって実現します。

もうひとつ、製品の完全自動化に重要な要素としてデータ解析技術があります。製品が

自律した行動をするためには、センサーで収集された膨大なデータはもちろん、企業のバ

ックエンドシステムに格納されているデータや外部データなどから必要なデータを取捨選

択し、処理・分析する必要があるからです。現在、人工知能(AI)や機械学習などによる

分析が進められており、今後のキーファクターになるでしょう。

5 フォースでみる業界の競争領域の変化

IoT 化が進むと、業界構造が変化し、事業領域も拡大していきます。ポーター氏の「5 フ

ォース(5 つの競争要因)」のフレームを用いると、競争の変化について分かりやすく整理

することができます。5 フォースとは、マイケル・ポーター氏が 1980 年に上梓した「競争

の戦略」の中で提唱した有名な戦略フレームワークです。ここでは、IoT 戦略を考えるうえ

で役立つ、その 5 つの競争要因について解説します。

出典:Harvard Business Review 2015 年 4 月号「IoT の衝撃」

1. 買い手の交渉力

買い手の交渉力とは、製品を購入する側の交渉力のことを指します。この交渉力は、買

い手の数や買い手側が持つ情報量、選択肢の幅や予算などによって変動します。

ポーター氏は、IoT 化した製品は、「製品差別化の機会を劇的に拡大するため、競争の軸は

価格だけではなくなる。」また、「豊富な時系列データや製品利用データを入手すると、買

い手が新たなサプライヤーに乗り換える際のコストは上昇する。」と述べています。

つまり、IoT の技術で製品そのものの機能的な付加価値をあげるだけでなく、ユーザー(買

い手)の購入履歴や利用状況のデータを活用し、継続的な製品利用を促進することで、買

い手の他社製品へのスイッチングコストを上げることができるというわけです。

その一方で、「買い手はまた、製品の使用データを入手すれば、メーカーの助言や支援に

頼る度合いを減らせると気づくかもしれない。」と、逆に買い手の交渉力が強まる可能性に

ついても言及しています。

例えば、工場に製造部品を提供するメーカーを例にとって考えてみましょう。客先の工

場に設置した機器の利用状況や外部環境などのデータを収集すると、事前に故障の兆しを

検知し、先回りでメンテナンスサービスを提供することができるようになります。しかし、

工場側に故障の兆しがわかるデータを入手されると、簡単な修繕であれば自社で直してし

まうでしょうし、もしくはもっとコストの安い他社に修繕のみ依頼したり、あるいは故障

のパターンを見極めて故障を防ぐ行動を起こしたりする可能性も考えられます。

極端な例でしたが、可能性としてはゼロでないことを念頭に置いておく必要はあるでし

ょう。

製品の IoT 化を考える際は、機能の向上という側面だけでなく、どのユーザーのどのよ

うなデータを取得し、それをどうサービスとして活用するか、そしてユーザーが仮にデー

タを取得した際にどのようなリスクが発生するかまで考慮した上で検討しなければなりま

せん。

2.サプライヤーの交渉力

サプライヤーの交渉力とは、材料や部品を供給する側との力関係を指します。一般的に、

サプライヤーの企業数が少なかったり、他社にない技術を有している場合は、サプライヤ

ー側の交渉力が強まるといわれています。

ポーター氏らは、製品の IoT 化によるサプライヤーとの関係性の変化について、以下の

ように述べています。

「製品の構成要素のうち、物理的なものよりもスマート部品や接続機能の価値が相対的に

大きくなるにつれて、物理的な部品はありきたりなものとなり、やがてソフトウェアにと

って代わられるおそれさえある。さらに、ソフトウェアの力を借りると、製品の物理的特

性を変えなくても顧客ニーズに合わせられるため、物理的な部品の種類を減らすこともで

きる。」

つまり、製品に追加の機能を付加したい場合、物理的な部品を交換、改造するよりもソ

フトウェアでカバーする方が、コストが安く済むため、部品の種類を減らすメーカーが増

える可能性があり、そうなると従来の部品を提供するサプライヤーの交渉力が低下してし

まう、というわけです。

しかし見方を変えると、新たなサプライヤーの登場も意味しているとポーターらは述べ

ます。

「センサー、ソフトウェア、接続機能、組み込み OS、データ・ストレージ、アナリティク

ス、さらにはテクノロジー・スタックの他の部分の提供企業である。そのなかには、グー

グル、アップル、AT&T のように、本業においても巨大で他を圧倒する企業も含まれる。」

また、企業単位ではなく、業界によって統一・標準化された方が望ましい構成要素もあ

り、従来存在し得なかったサプライヤーが登場する可能性もあります。

論文では、オープン・オートモーティブ・アライアンス(OAA)という、GM、ホンダ技

術工業、アウディなどの自動車メーカーが旗揚げしたアンドロイドプラットフォームを推

進する団体を例にあげています。

また、この例だけでなく、「2016 年の 新動向:IoT の技術標準化のまとめ」で紹介した

ように、ドイツ、アメリカを中心に IoT 技術の標準化は進められており、日本企業も海外

の標準化組織に会員として参加するケースが出てきています。

このように技術の統一・標準化が業界で進むことでも、サプライヤーの交渉力にも変化

が生まれます。投資したコストが無駄にならないよう、どの技術においてどのような標準

化が進められているかをウォッチし続けることも非常に重要です。

3.業界内での競争

既存の競合との関係性については、「接続機器を持つスマート製品は、差別化や付加価値

サービス提供の新たな方法を多数もたらし、既存企業同士の競争のあり方を変える可能性

も持つ。また、特定の市場セグメントに合わせた製品やサービスを提供したり、さらに踏

み込んで個別顧客向けにカスタマイズしたりして、いっそうの差別化や正味価格の向上を

図ることにも寄与する」と説明しています。

つまり、製品の IoT 化により遠隔監視や遠隔制御が可能になると、これまでの提供価値

とは異なる新たな価値を顧客に提供することができるようになり、価格だけで戦わなくて

よくなるということを意味しています。

例えば、「IoT 事例集:日本と海外の産業別取り組み例」の中で紹介した、アメリカの電

気自動車メーカー、Tesla Motors 社の事例を思い出してください。自動車に自動運転ソフ

トを搭載し、新しい機能をリリースするとインターネットを経由して自動で販売後の自動

車のソフトをアップデートするというものです。これにより顧客は常に新しい機能を体験

するというこれまでにない価値提供を受けています。

ただ一方で、ポーター氏らは「接続機能を持つスマート製品の機能や性能の飛躍的拡大

を受けて、各社はライバルに負けじと製品の特徴や機能を増やす一方、性能向上を価格に

転換するのを控えようとする可能性がある。」というリスクも指摘しています。

この側面も考慮すると、製品の IoT 化を進めるにあたって、いかに他社が真似できない

新たな付加価値を生み出すかが、重要な要素となりそうです。

4.代替品・代替サービスの脅威

4 つ目の脅威が、代替品・代替サービスの脅威です。IoT 化により製品に新たな付加価値

がつくと、これまでの代替品の脅威が低減することは容易に想像できるでしょう。

その一方でポーター氏らは、「多くの業界において新しいタイプの代替の脅威をも生み出

している。」といいます。

つまり、製品が IoT 化により新しい機能を有することで、これまで想定していたものと

は異なる新たなサービスや製品も代替品や競合となりうることを意味しています。

例えば、ドイツのメーカーBragi 社販売したワイヤレスイヤホンの The Dash には、音楽

プレイヤーとしての機能だけでなく、心拍数や消費カロリー、歩数なども測れる機能が実

装されています。イヤホンという製品の幅を超えて、万歩計や脈拍計に代替する役割を担

っているといえます。

このように、製品を IoT 化する際は、現状の代替品、代替サービスだけでなく新製品開

発後に脅威となりうる代替品とその脅威の度合いも考慮する必要があるのです。

5.新規参入の脅威

IoT 化の大きな壁となるものは、何といってもコストでしょう。当然、ポーター氏らも、

新規参入の脅威に関して「接続機能を持つスマート製品分野への新規参入者は、複雑な製

品設計、埋め込み技術、複数の階層から成る 新の IT インフラにかかる高い固定費をはじ

めとして、大きな障壁に直面する。」と言及しています。

また、価格以外の面においては「俊敏な既存企業が製品データを収集・蓄積して、それ

を基に製品やサービスを改善したり、アフターサービスを刷新したりすることにより、貴

重な先行者利益を手に入れた場合にも、参入障壁は高まる。」とも言っています。

製品の IoT 化には膨大なコストがかかるものの、それがネックで二の足を踏んでいると競

合他社に先をこされ、より参入障壁をあげられる、というわけです。

ただ、本連載の後半で紹介しますが、膨大なコストをかけずにスモールスタートで IoT

の取り組みを始められる方法もあります。大事なのは何を目的にどこを IoT 化すべきかを

いちはやく見極めること、そして小さくてもいいので競合他社よりも早く始めることでし

ょう。

製品が IoT 化すると一つの機能追加やデータ取得により、これまでのターゲットや競合、

供給業者までもが大きく変化する可能性があります。競争のプレッシャーを避けやすいポ

ジションがどこなのかを見極めるために、5 フォースのフレームは活用できるでしょう。

IoT 戦略立案のための 10 のポイント

5 フォースを通して、製品が IoT 化す

ることで業界構造そのものが変化し、ス

テークホルダーとの関係性が変わって

くること、そしてそれにより考慮すべき

ポイントも変化することをわかっても

らえたでしょうか。

それでは、従来のビジネスよりも複雑

化したように思える IoT ビジネスにおいてどのように戦略を立てれば良いのでしょうか。

ポーター氏らは、次の 10 個の考慮すべき項目を明示しています。

論文では各項目における詳細な考え方が掲載されていますが、ここではそれを要約して

簡単なポイントのみ紹介します。

1. 製品にどんな特性、機能を追求するか

IoT 化により、製品が備えられる機能や特性が増えますが、それらがコストを上回る価値

をもたらすかどうか、他社製品との競合、どの市場セグメントに狙いを定めるか、自社製

品の競争優位につながるかを検討する必要があります。(ポーター氏らの論文より要約)

2. 製品とクラウドのどちらにどんな機能を組み込むか

どんな機能を持つ製品にするかが決まったら、次はその機能を製品自体かクラウドか、

それとも両方に組み込むかを判断する必要があります。コスト、レスポンス時間、オート

メーション、セキュリティ、使用場所、頻度、といった要素が判断基準になります。(ポー

ター氏らの論文より要約)

3. 開放的なシステムか、閉鎖的なシステムか

閉鎖的なシステムにすれば、製品のデータは独自仕様で、社内にしか公開されませんが、

莫大なコストを要します。一方で、開放的なシステムなら、第三者が新しいアプリケーシ

ョンを開発できるためイノベーションが生まれやすくなりますが、利益を独占することは

難しいというデメリットも。(ポーター氏らの論文より要約)

4. 技術開発は社内か、外注すべきか

製品を内製する企業は、製品やデータを思いのままにしやすく、競争優位が働きやすく

なる一方で、開発が遅延する可能性も。外注の場合は、開発スピードは早いが、コストが

かかり、差別化の能力が衰える可能性があります。(ポーター氏らの論文より要約)

5. どのようなデータを取得し、どう分析するか

十分な ROI を得られるデータを見極めるには、取得するデータが製品の機能やバリュー

チェーンにどう影響するか、収集期間や保管期間はどの程度が適切か、セキュリティリス

クはないかなどを考慮することが必要です。(ポーター氏らの論文より要約)

6. データの使用権、アクセス権をどのように管理するか

どのデータを収集、分析するかが決まったら、使用する権利をどう確保し、アクセス権

をどう管理するかを決めなくてはいけません。データの帰属先がキーになります。(ポータ

ー氏らの論文より要約)

7. 販売、サービスチャネルを排除すべきか

IoT 化すると顧客と直につながり、関係性を深めることができるため、流通チャネルのパ

ートナーへの依存度が低下します。一方で、事業パートナーが果たしていた役割を自社で

はじめるにはハードルが高い可能性もあります。(ポーター氏らの論文より要約)

8. ビジネスモデルを変えるべきか

スマートコネクテッドプロダクトは、それまでのビジネスモデルを激変させる可能性が

あります。製品の売り切りモデルだけでなく、製品の所有権を自社に残し使用料だけを徴

収するモデル、またはそれらのハイブリッド・モデルなど、どのモデルにするかを決める

必要があります。(ポーター氏らの論文より要約)

9. データを第三者に販売するか

製品から取得したデータは、従来の顧客だけでなく第三者にも価値があるかもしれませ

ん。その際、主要顧客の反発を買わずに提供する仕組みを考える必要があります。(ポータ

ー氏らの論文より要約)

10. 事業の範囲を拡大すべきか

スマートコネクテッドプロダクトは製品自体のあり方だけでなく、自社の業界領域を広

げる役割を果たすこともあります。領域を拡大する際のリスクも考慮すべきポイントです。

(ポーター氏らの論文より要約)

製品の IoT 化は、これまで提供していたサービスの内容そのもの、そしてビジネスモデ

ルをも大きく変革します。そのため、既存製品の拡張という考え方ではなく、新たな領域

で新たな製品を開発するという姿勢で戦略設計に望むことが必要です。ターゲット設定、

ポジショニング、提供価値の定義、チャネルの選定、パートナーの選定、収益モデルの設

計など、まさに一からビジネスを構築することと同じなのです。

上記のような新たなビジネスモデルの構築と聞くと、IoT 化がとても大々的な取り組みに

感じられるかもしれませんが、まずはシンプルに IoT 化の第一段階である遠隔監視からは

じめられることをおすすめします。特定の工程や製品にセンサーを設置しデータを収集、

可視化することで、今まで認識していなかったビジネスの種を発見する可能性があるため

です。

IoT 化は、あらゆる業界を直接的かつ間接的に変化させ、大きなビジネスチャンスを生み

出します。様々な変動要素を踏まえることが IoT 成功への近道といえるでしょう。

次の記事では、実際に IoT の取り組みを推進するために知っておきたい 4 つのステップ

と、考慮すべきリスクについて解説します。