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メディカルセミナー がん薬物療法の進歩
H28年11月29日(火)
腫瘍・血液・感染症内科 田中俊裕
抗悪性腫瘍薬による癌治療成績は進歩している 再発乳癌
2 Cancer. 2004 1;100(1):44-52.改
生存率
時間(月)
1994年 パクリタキセル 1996年 ドセタキセル 1998年 トラスツズマブ
有効な抗悪性腫瘍薬の数
再発時からの生存期間
がんの分子標的治療法とは 細胞の増殖シグナルが異常活性する遺伝子異常、発がんの原因になる遺伝子異常(ドライバー変異)または、腫瘍に特異的、多く発現する分子を標的とした治療。
抗悪性腫瘍薬による癌治療成績は進歩している 進行再発大腸癌
3 World J Gastroenterol. 21, 2016; 22(23): 5332-5341
2000年以前 BSC 6 有効な抗癌剤治療がなく対象療法のみ
分子標的薬の登場
フッ化ピリミジン系抗癌剤のみ
イリノテカンやオキサリプラチンの登場
ベバシズマブ セツキシマブ/パニツムマブ レゴラフェニブ
抗悪性腫瘍薬による癌治療成績は進歩している 進行再発肺癌
4
分子標的薬治療
抗癌剤治療 のみ
JAMA. 2014;311(19):1998-2006
分子標的薬 作用機序からみた分類
5
1 腫瘍細胞の表面抗原を標的とした抗体治療(腫瘍細胞の標的化)
1-1) ADCC、CDC活性の利用
2 チロシンキナーゼ活性を阻害する治療
2-1) 細胞増殖に関わるリガンドとレセプターの結合を阻害する抗体治療
2-2)レセプターの二量体形成を直接阻害する抗体治療
2-3)細胞内チロシンキナーゼを標的とした低分子化合物治療
3 がん微少環境の是正を目的とした治療
3-1) 血管新生の阻害
3-2) プロテアソームの阻害
3-3) 免疫調節薬(IMiDs)
1 表面抗原を標的とした抗体治療 1-1)ADCC、CDC活性を利用した抗体薬の例
6
がん細胞
抗体を介して NK細胞やマクロファージが攻撃
治療薬 標的抗原 適応疾患
リツキシマブ CD20 CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫
オファツムマブ CD20 慢性リンパ性白血病
アレムツズマブ CD52 慢性リンパ性白血病
モガムリズマブ CCR4 成人T細胞白血病・リンパ腫
セツキシマブ EGFR 大腸がん、頭頸部がん
トラスツズマブ HER2 乳癌、胃癌
補体
抗体を介して、 活性化した補体が細胞膜を攻撃
がん細胞
リツキシマブ(抗CD20抗体)をCHOP療法に上乗せする事で CD20陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の生存率を改善する
7 NEJM 346:235-242, 2002
1.0
0.8
0.6
0.4
年
CHOP+リツキシマブ(202例)
CHOP(197例)
生存率
P=0.007
0.2
0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 0
びまん性大細胞型 B リンパ腫の高齢患者に対する CHOP 化学療法+リツキシマブ併用療法と CHOP 単独療法とを比較したランダム化試験
症例:70歳代女性 びまん性大細胞性B細胞リンパ腫(stageIV) リツキシマブ+CHOP療法を8サイクル施行
8
多くのがん細胞では プロテインキナーゼ(チロシンキナーゼ)が活性化している
プロテインキナーゼ とは タンパク質にリン酸基を付加する(リン酸化)酵素。 アミノ酸のうち主に、セリン、スレオニン、チロシンをリン酸化させる。 チロシンキナーゼはチロシンをリン酸化する酵素。細胞の分化,増殖に関わるシグナル伝達に関与する。 がんではチロシンキナーゼが過剰(異常)に活性化されている。
EGFRの構造 EGFRの活性化
チロシン キナーゼ
細胞質
チロシンキナーゼの異常活性化の原因 1. リガンドの過剰発現 2. レセプターの過剰発現 3. キナーゼ部位の恒常的なリン酸化
上皮成長因子受容体(EGFR) epidermal growth factor receptor EGFRファミリー(EGFR/HER1、HER2、HER3、HER4)
2 チロシンキナーゼ活性を阻害する治療
10
Nat Rev Cancer. 2006;6(9):714-27 改変.
抗EGFR抗体 がEGFとの結合を 阻害する
チロシン キナーゼ 部位
TKIがATPと 競合阻害する
Int. J. Mol. Sci. 2012, 13(10), 12268-12286 改変
トラスツヅマブ ペルツヅマブ
レセプターの二量体形成を直接阻害する抗体治療
HER2 HER3 HER1/3/4 HER2
リガンドとレセプターの結合を阻害する抗体治療
細胞内チロシンキナーゼを標的とした低分子化合物治療
リガンド
チロシンキナーゼ活性を阻害する がん分子標的治療薬の例
11
メカニズム 治療薬 標的部位 剤型 適応疾患
ADCC/CDC活性 リガンドとの結合阻害
セツキシマブ EGFR(HER1) 抗体 大腸癌
ADCC/CDC活性 チロシンリン酸化阻害
トラスツズマブ HER2 抗体 乳癌、胃癌
二量体形成阻害 ペルツズマブ HER2 抗体 乳癌
ATPの結合阻害 ラパチニブ HER2チロシンキナーゼ 低分子化合物 乳癌
ATPの結合阻害 ゲフィチニブ EGFRチロシンキナーゼ 低分子化合物 非小細胞肺癌
ATPの結合阻害 クリゾチニブ EML4-ALKキメラ蛋白チロシンキナーゼ
低分子化合物 非小細胞肺癌
ATPの結合阻害 イマチニブ BCR-ABLキメラ蛋白チロシンキナーゼ
低分子化合物 慢性骨髄性白血病
抗EGFR抗体(セツキシマブ)は 進行大腸癌の生存率を改善する
12
N Engl J Med. 2008 23;359(17):1757-65.改変
爪囲炎 挫創樣皮疹
BSC
BSC+セツキシマブ
生存率
標準抗癌剤治療に不応となった進行大腸がんに対する BSC(ベストサポーティブケア)とBSC+セツキシマブとの比較試験
抗HER2抗体(トラスツヅマブ、ペルツズマブ)は HER2過剰発現している進行再発乳癌の生存率を改善する
13 N Engl J Med 2012;366:109-19 改変
NEJM 2001:344,783-792 改変
トラスツヅマブ+抗癌剤
抗癌剤
無増悪生存率(
%)
ペルツズマブ+ トラスツズマブ+抗癌剤
トラスツズマブ+抗癌剤
全生存率(
%)
CLEOPATRA試験 HER2陽性の転移性乳癌患者に対する初回の化学療法として、ドセタキセル+トラスツズマブの2剤にペルツズマブを加えた3剤併用療法の全生存率を比較した試験
HER2陽性の転移性乳癌患者に対する初回の化学療法として、化学療法のみと化学療法にトラスツズマブを加えた治療の無増悪生存率を比較した試験
症例:60歳代 HER2陽性局所進行乳癌 トラスツズマブ+ドセタキセルを4サイクル施行
14
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(ゲフィチニブ)は、 EGFR遺伝子変異を持った進行非小細胞肺癌の生存率を改善する
15 N Engl J Med 2008;359:1757-1765 改変
Pro
bability o
f PFS
Time (m)
Paclitaxel/ carboplatin
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0 4 8 12 16 20 24
ゲフィチニブ
Pro
bability o
f PFS
Time (m)
ゲフィチニブ
Paclitaxel/ carboplatin
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0 4 8 12 16 20 24
EGFR 変異 (-)
EGFR 変異(+)
Clin Chest Med. 2011; 32(4): 703–740 改変
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が有効
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が無効
バイオマーカー EGFRの遺伝子変異があること
抗癌剤
抗癌剤
EGFR
チロシンキナーゼ部位
症例:40代 女性 非小細胞肺腺癌 ゲフィチニブでの治療例
16
副作用で死亡した例もある
17
3 がん微少環境の是正を目的とした治療 3-1)血管新生阻害薬(抗体薬)
18
抗体薬
標的分子 適応疾患
ベバシズマブ VEGF 大腸癌 乳癌 卵巣癌 肺癌
ラムシルマブ VEGFR2 胃癌 肺癌 大腸癌
血管新生
阻害薬
がん細胞
正常細胞
ベバシズマブ
VEGFR2 血管内皮細胞
ラムシルマブ
3 がん微少環境の是正を目的とした治療 3-1)血管新生阻害薬(低分子化合物)
19
低分子化合物 標的分子 (チロシンキナーゼ)
適応疾患
スニチニブ PDGFR VEGFR KIT
GIST 腎細胞癌 膵神経内分泌腫瘍
アキシチニブ VEGFR1、2、3 PDGFR KIT
腎細胞癌
パゾパニブ VEGFR1、2、3 PDGFR Kit
腎細胞癌 軟部肉腫
レンバチニブ VEGFR FGFR PDGFRα KIT RET
甲状腺癌
レゴラフェニブ VEGFR1、2、3 TIE2 PDGFR KIT RET
大腸癌
Nature Reviews Clinical Oncology 13, 348–360 (2016) 改変
血管内皮細胞
3 がん微少環境の是正を目的とした治療 3-2)プロテアソーム阻害薬
20
San Miguel JF et al. Proc ASH 2011;Abstract 476.
VMP療法
MP療法
J. Cell. Mol. Med. Vol 18, No 6, 2014. 947-961 改変
ボルテゾミブ
VISTA試験 造血幹細胞移植非適応の未治療多発性骨髄腫患者にVMP (ボルテゾミブ、メルファラン、プレドニゾン療法とMP療法の生存率を比較した試験
3 がん微少環境の是正を目的とした治療 3-3)免疫調節薬 Immunomodulatory drugs(IMiDs)
21 N Engl J Med 2014;371:906-17.
MP+サリドマイド
レナリドミド+ステロイド 無増悪生存率(
%)
FIRST試験 未治療の、65歳以上または造血幹細胞移植が適応にならない初発の多発性骨髄腫患者に対し、レナリドミドとデキサメタゾンを継続的に行う群とMPT療法(メルファラン、プレドニゾン、サリドマイド)群の比較試験
骨髄腫細胞に対する作用 増殖抑制 細胞周期の停止 細胞性免疫の誘導 骨髄微少環境に対する作用 間質細胞との接着の抑制 血管新生阻害 抗炎症作用
抗悪性腫瘍薬による癌治療成績は進歩している 多発性骨髄腫
22 Leukemia. 2014 May ; 28(5): 1122–1128 改変
自家末梢血幹細胞移植
ボルテゾミブ、サリドマイドの登場
レナリドミドの登場
Mayo Clinicにおいて36年間に新規診断された多発性骨髄腫患者 約3000例の予後解析
まとめ
23
がん薬物療法は2,000年代以降急速に進歩している。
特に、分子標的治療薬の開発がめざましく、進行癌(乳癌、大腸がん、肺癌)や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の生命予後が大きく延長してきている。
一部の分子標的薬ではバイオマーカーが同定され、個別化治療への時代に入っている。
一方、分子標的治療薬は副作用がない訳ではない。
免疫チェックポイント阻害剤が登場し、科学的根拠に基づいた、がんに対する免疫療法の時代が幕開けした。