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左上:北山崎ネイチャートレッキング (提供:NPO法人 体験村・たのはたネットワーク) 左下:全国やぶさめ競技遠野大会 (提供:全国やぶさめ競技遠野大会実行委員会) 右上:スポーツ合宿で本県を訪れる大学生 (提供:スポーツリンク北上) 右下:新城ロードサイクリング (提供:右上に同じ) 岩手経済研究 2019年10月号 4 特別調査

スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

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Page 1: スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

目   

はじめに

1.スポーツツーリズムの概念

⑴ 

スポーツツーリズムとは

⑵ 

政府によるスポーツツーリズムの推進

⑶ 

旗振り役となる地域スポーツコミッション

2.県内の取組み状況

⑴ 

県によるスポーツツーリズムの取組み

⑵ 

市町村によるスポーツツーリズムの取組み

3.県内のアウトドアツーリズムの取組み

⑴ 

花巻スポーツランド

⑵ 

体験村・たのはたネットワーク

⑶ 

しずくいしYU

YUファーム

4.武道ツーリズムの可能性

⑴ 

流鏑馬を資源としたツーリズムの事例

⑵ 

本県における流鏑馬の可能性

5.本県のスポーツツーリズムの展望

⑴ 

恒常的な交流人口の拡大に向けて

⑵ 

地域資源の共有と観光コンテンツへの磨き上げ

地域資源の活用により期待される

スポーツツーリズム

左上:北山崎ネイチャートレッキング(提供:NPO法人 体験村・たのはたネットワーク)

左下:全国やぶさめ競技遠野大会(提供:全国やぶさめ競技遠野大会実行委員会)

右上:スポーツ合宿で本県を訪れる大学生(提供:スポーツリンク北上)

右下:新城ロードサイクリング(提供:右上に同じ)

岩手経済研究 2019年10月号 4

特別調査 特 別 調 査

Page 2: スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

要約

● スポーツには「観る」「する」「支える」の

側面があり、これを移動や宿泊などの共通点

から観光としてのツーリズムと融合させた概

念がスポーツツーリズムである。

● スポーツツーリズムは2010年に政府によ

り初めて提唱され、15年にはスポーツ庁が設

置されるなど取組みの基盤が整えられている。

● 18年のスポーツ庁による「スポーツツーリ

ズム需要拡大戦略」では「アウトドアツーリ

ズム」と「武道ツーリズム」が新たな重点テー

マとして掲げられている。

● 

スポーツツーリズムの推進において、ス

ポーツイベントの運営や合宿の誘致、PR活

動などを支援する「地域スポーツコミッショ

ン」が地域の旗振り役となっている。

● 

県では、「いわてスポーツコミッション」

が中心となって大会や合宿を誘致するほか、

本県の豊かな自然な自然を生かしたスポーツ

アクティビティを推進するとしている。

● 市町村の取組みでは、スポーツリンク北上

がスポーツ合宿の誘致のほかアウトドアツー

リズムを創出して地域に浸透している。

● 花巻スポーツランドは、ラフティングやカ

ヌーなどを通じて川での遊び方や地域の特色

が学べるアクティビティで首都圏の修学旅行

生を中心に幅広く誘客している。

● 体験村・たのはたネットワークのトレッキ

ングガイドは、北山崎の景観に加えて、地域

の歴史や文化に触れることができるアクティ

ビティとなっている。

● しずくいしYU

−YUファームでは山のふも

とで行うホーストレッキングや流や

ぶさめ鏑馬が体験

できるほか、小学校の体験授業を受け入れる

など地域の乗馬文化の定着にも取組んでいる。

● 青森県の十和田乗馬倶楽部が中心となって

開催する全国スポーツ流鏑馬八戸大会は馬事

文化などの地域の歴史に根差したイベントで

ある。他にも女性騎手による桜流鏑馬を開催

し「スポーツ文化ツーリズムアワード20

16」で文化庁長官賞を受賞している。

● スポーツ大会や合宿の誘致に加え、地域特

有の自然や歴史、文化を組み込んだ経験価値

の高いアクティビティを作ることにより恒常

的な交流人口の拡大が見込まれる。

● スポーツコミッションを中心に官民が一体

となってアクティビティやイベントを地域の

シンボルへと醸成することで、スポーツツー

リズムを通じた地域振興が期待される。

はじめに

総務省の人口推計によると、わが国の昨年10

月1日現在の総人口は1億2644万人で20

11年以降8年連続の減少となり、本県におい

ても近年は年間1万人以上の減少が続いている。

人口減少は消費関連支出を中心に経済活動の

縮小を招くものであり、交流人口の拡大による

域外からの「外貨」の獲得が求められるなか、

特に期待されているのが観光産業である。こう

したなか、観光庁は競争力の高い魅力的な観光

地の形成に向けたニューツーリズムの一つとし

てスポーツツーリズムの取組みを推進している。

スポーツツーリズムとは次ページで詳述する

ようにスポーツを目的とする移動や宿泊などの

特性を観光としてのツーリズムと融合したもの

である。プロスポーツや大会の観戦、スポーツ

合宿やイベントへの参加は国内外から多くの人

の流入が期待されるものであり、大会の誘致や

合宿の受入れが各地で注力されているほか、地

域の特色を生かしたスポーツアクティビティに

よる地域の活性化などが取組まれている。

そこで本稿では県内を中心とする事例を踏ま

えながらスポーツツーリズム推進の展望につい

て考察する。

5 岩手経済研究 2019年10月号

特 別調 査

Page 3: スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

図表1 スポーツツーリズムの概要

ツーリズム(移動・宿泊・体験)

融 合 = スポーツツーリズム

スポーツへの参加「観る」スポーツ・プロスポーツや大会などの観戦

「する」スポーツ・大会、イベント、アクティビティの参加・合宿の実施

「支える」スポーツ・スポーツイベントの運営・ボランティアとしての参加

資料:観光庁資料等を基に当研究所作成

港・米国・タイ・オーストラリア)の調査結果

ではアウトドアスポーツに加えて武道が「する」

スポーツ、「観る」スポーツにおいて上位となっ

た。そのため、アウトドアツーリズムは国内外

の観光客を広く誘引し、武道ツーリズムはその

中でも特に日本の文化に関心が高い訪日観光客

を惹きつけるコンテンツであると考えられる。

⑶ 

旗振り役となる地域スポーツコミッション

スポーツツーリズムを推進するうえで、地域

の旗振り役となるのが「地域スポーツコミッ

ション(以下、スポーツコミッション)」である。

団法人日本スポーツツーリズム推進機構の設立

などを通じて基盤が整備され認知が高まってき

た。また、15年にスポーツに関する施策を総合

的に推進する行政機関としてスポーツ庁が設置

され、18年には同庁より「スポーツツーリズム

需要拡大戦略」が打ち出された。同戦略では従

来から取り組まれていたスポーツイベントの開

催や合宿の誘致に加えて、わが国が持つ強みと

して「アウトドアツーリズム」と「武道ツーリ

ズム」が新たな重点テーマとして掲げられ、国

内外の旅行者の需要喚起が期待されている。ア

ウトドアツーリズムはウインタースポーツやサ

イクリング、トレッキングなど国内の自然資源

を活用したスポーツアクティビティについて

「する」ことを目的としたツーリズムであり、

武道ツーリズムは柔道や空手のほか、剣道や弓

道といった日本発祥のスポーツをその「する」

または「観る」ことを目的としたツーリズムを

指す。なお、スポーツ庁がこの二つを重点テー

マとしたのは、同庁が17年8~12月にかけて国

内外で行ったマーケティング調査の結果が根拠

となっている。国内の調査結果では旅行の際に

「する」スポーツとしてウォーキングやハイキ

ング、トレッキングといったアウトドアスポー

ツが上位となり、海外(中国・韓国・台湾・香

1.スポーツツーリズムの概念

⑴ 

スポーツツーリズムとは

スポーツには「観る」スポーツ、「する」スポー

ツ、「支える」スポーツがある。「観る」スポー

ツはプロスポーツや国際大会などの観戦、「す

る」スポーツは大会やイベントなどへの参加や

合宿の実施、そして「支える」スポーツにはイ

ベントの運営やこれを支援するボランティアな

どがあげられる。このようにスポーツには移動

や宿泊を伴うなど観光としてのツーリズム(移

動、宿泊、体験)と多くの共通点があるが、両

者はそれぞれ別の概念として認識されてきた。

そこでスポーツを旅行の目的とすることで、ス

ポーツとツーリズムを融合させたものがスポー

ツツーリズムの概念である(図表1)。スポー

ツツーリズムにより複合的でこれまでにない豊

かな旅行スタイルが創造されることで、周辺環

境の整備やスポーツに関わる人々との交流を通

じた地域の活性化が期待されている。

⑵ 

政府によるスポーツツーリズムの推進

スポーツツーリズムは2010年に政府の観

光立国推進本部で提唱され、同年のスポーツツー

リズム推進連絡会議の設置や11年のスポーツ

ツーリズム推進基本方針の策定、12年の一般財

岩手経済研究 2019年10月号 6

特別調査

Page 4: スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

図表2 東北6県の地域スポーツコミッション所在状況(2019年4月現在)都道府県 活動エリア 組織名称青森 青森市 スポーツコミッション青森

岩手岩手県 いわてスポーツコミッション盛岡広域市町 盛岡広域スポーツコミッション北上市 スポーツリンク北上花巻市 はなまきスポーツコンベンションビューロー

宮城 仙台市+7市町 スポーツコミッションせんだい秋田 由利本荘市 由利本荘市スポーツ・ヘルスコミッション山形 天童市 ホームタウンTENDO推進協議会

福島相馬市 相馬スポーツツーリズム推進協議会南会津町 伊南スポーツツーリズム実行委員会いわき市 スポーツによる人・まちづくり推進協議会

いわき市スポーツコミッション泫 1. 盛岡広域スポーツコミッションは盛岡市、滝沢市、八幡平市、雫石町、

葛巻町、岩手町、紫波町、矢巾町が参画2. スポーツコミッションせんだいは宮城県、仙台市、名取市、多賀城市、

富谷市、村田町、七ヶ浜町、利府町、大和町が参画3. スポーツコミッション青森は参照資料に掲載がないものの2019年3月24

日に設立済資料:スポーツ庁「全国のスポーツコミッション所在状況」を基に当研究所作成

ン」のほか、広域市町で構成する「盛岡広域ス

ポーツコミッション」、市単位の「スポーツリ

ンク北上」、「はなまきスポーツコンベンション

ビューロー」の4団体が組成されている。

スポーツ庁はスポーツアクティビティの創出

などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

事業に対して補助金による支援を行っており、

21年までに全国のスポーツコミッションの設置

数を170に拡大することを目標としている。

2.県内の取組み状況

⑴ 

県によるスポーツツーリズムの取組み

県では2019年3月に「岩手県スポーツ推

進計画」を策定し、このなかで「ライフステー

ジに応じて楽しむ生涯スポーツの推進」、性別

や年齢、障害の有無に関わらずスポーツを楽し

む「共生社会型スポーツの推進」、アスリート

の育成など「国際的に活躍する競技スポーツの

推進」、そして「地域を活性化させるスポーツ

の推進」を掲げている。

なかでもスポーツツーリズムについては「地

域を活性化させるスポーツの推進」の施策とし

ていわてスポーツコミッションを中心に様々な

大会や合宿を誘致するほか、本県の豊かな自然

を生かしたトレッキングや川をゴムボートで下

るラフティングなどのスポーツアクティビティ

を観光資源として磨き上げるとしている。

17年に設立されたいわてスポーツコミッショ

ンは、県を中心に市町村、スポーツ団体、商工

観光団体、プロスポーツチームなど60団体で構

成されており、各市町村や団体によるスポーツ

イベントや大会、合宿の誘致に関する支援のほ

か、県内で行われている既存のアウトドアス

ポーツを資源としたスポーツツーリズムの支援

を主な活動としている。

取組みの実績として18年度にスポーツクライ

ミングのコンバインド競技(スピード、ボルダ

リング、リードの3種目複合)では国内初の大

会となる「クライミングコンバインドジャパン

カップ盛岡2018」を誘致・開催したほか、

20年には「クライミングアジア選手権盛岡20

20」の開催が予定されている。また、合宿の

誘致については18年度から各市町村の団体や旅

行代理店と共同で首都圏の大学を対象とした

「いわて合宿相談会」を開催しており、18年度

は8チームが相談会を通じて合宿を行い、46

1人が本県を訪れている。スポーツ合宿は一度

の滞在期間が一週間前後にわたることから、本

県の自然や文化、名産などに触れる機会となる

ほか、消費支出などにおいて高い経済効果が見

スポーツコミッションとはスポーツイベントの

運営や合宿の誘致、PR活動などを支援し、ス

ポーツを通じた地域振興を目指す官民一体型の

組織である。スポーツコミッションは国内で98

団体(19年4月現在)が発足しており、東北6

県では12団体が所在している(図表2)。本県

では16年に開催された「希望郷いわて国体・希

望郷いわて大会」におけるレガシーの継承など

を契機にコミッションの設立が進んでおり、県

単位の組織である「いわてスポーツコミッショ

7 岩手経済研究 2019年10月号

特 別調 査

Page 5: スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

図表3 スポーツリンク北上の活動実績(2018年度)

ツーリズム

イベント名 参加人数有森裕子ラン&ウォーク体験会in国見山 9018の清水めぐり探索会 52月山トレイル教室 (台風で中止)岩沢~夏油高原トレイルツアー 38巨木巡りサイクリング 13羽山・羽黒山縦走トレイルツアー 30新城ロードサイクリング、トークショー他 95

合宿誘致

種目(チーム数) 参加人数ラグビー(6チーム) 332陸上競技(3チーム) 114アメリカンフットボール(1チーム) 112サッカー(2チーム) 65バドミントン(1チーム) 44駅伝(1チーム) 21

資料:スポーツリンク北上

ンであり、スポーツ合宿の誘致とアウトドア

ツーリズムの創出を中心に活動している。

合宿の誘致に関する取組みとしては「いわて

合宿相談会」への参加に加え、首都圏の大学を

対象にダイレクトメールの発送も行っている。

また、同市では宿泊延べ人数が50人以上のチー

ムを対象として25~50万円を限度額とする補助

金も交付している。こうした取組みのほか国体

でリニューアルした北上陸上競技場などの施設

のPRにより、これまでにラグビーや陸上競技

を中心として14チームを誘致している。さらに、

県産食材の使用やチームの管理栄養士と連携し

たメニューの対応など、宿泊施設でも受け入れ

態勢が進んだことで合宿の定着にもつながって

いる。

アウトドアツーリズムについては17年にスポー

ツ庁の国庫補助事業の認定を受け、スポーツリ

ンク北上が独自にアクティビティを創出し、ツー

リズムの企画に取組んでいる。アクティビティ

には市内の自然の中や道路をコースとしたト

レッキングやサイクリングがあり、コースの設

定にあたっては元マラソン選手の有森裕子氏や

日本人で初めて近代ツール・ド・フランスを完

走したサイクルロードレース選手の新あ

城しろ

幸也氏

など著名なアスリートが監修を担当した。ツー

込まれ、今後も参加チームの増加とその定着に

向けて注力を図る取組みとなっている。

また、スポーツツーリズムの推進では、18年

度に「スポーツアクティビティの創出可能性調

査」を実施しており、県内の先導モデルとして

選出したアクティビティの付加価値を高め、多

くの誘客につながるコンテンツへ磨き上げると

している。政府の方針では「アウトドアツーリ

ズム」と「武道ツーリズム」が重点テーマとし

て掲げられているところであり、豊かな自然環

境にある本県では、特に「アウトドアツーリズ

ム」につながるアクティビティが多数存在して

いる。このため、いわてスポーツコミッション

では、アウトドアスポーツによるツーリズムを

推進することで国内外の観光客の需要を取込む

としている。

⑵ 

市町村によるスポーツツーリズムの取組み

いわてスポーツコミッションが地域の活動を

フォローする役割を担う一方で、市町村規模で展

開するスポーツコミッションでは大会や合宿の

受入れに関する現場の取組みのほか、新しいア

クティビティの創出も行われている。その事例と

して、スポーツリンク北上の事例を取り上げる。

スポーツリンク北上は17年に北上市が中心と

なって発足した官民共同のスポーツコミッショ

有森裕子ラン&ウォーク体験会in国見山(提供:スポーツリンク北上)

岩手経済研究 2019年10月号 8

特別調査

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⑴ 花巻スポーツランド

①北上川と周囲の自然を資源としたアクティビティ

花巻市の北上川フィールドライフクラブが運

営する花巻スポーツランドは、代表である白畑

誠一氏のもとスポーツやアウトドアを通じた川

遊びと川に関わる文化の普及を目指して199

2年から活動を行っている。

アクティビティの資源となる北上川には、1

940年代に旧松尾鉱山からの排水による水質

汚染のため人々が遠ざかっていた過去がある。

白畑氏が活動を始めた頃はすでに水質が改善さ

れ川遊びが推奨されていたが、長い期間にわた

り川で遊ぶ文化が廃れ、川の特性について学ぶ

機会が減っていたことから、子供の水難事故が

少なくなかった。こうした背景から、花巻スポー

ツランドではアクティビティを通じて様々な川

遊びを楽しむだけでなく、川の特性を学びなが

ら万が一川に流された時の対処法などが身に着

くプログラムであることも特徴の一つとなって

いる。

アクティビティにはラフティングやカヌーの

ほか、トラクターによる川辺の散策などがあり、

救命具を装着して川に浸かりながら水流の変化

を体感するなど川の性質について学べる内容と

なっている。また、宮沢賢治が命名したとされ

リズムには有森氏や新城氏と一緒にコースを巡

るものも企画され、県内外からトレッキングや

サイクリングの愛好家が訪れている(図表3)。

スポーツリンク北上ではスポーツツーリズム

の取組みに関する地域への周知にも取り組んで

おり、アクティビティを掲載したガイドブック

を作成して市内全戸に配布している。また、新

城氏が監修した「きたかみ新城ロード100」

は市内をロードバイクで周回する100キロメー

トルのコースとなっており、道路にはコースの

順路を示す表示が整備されている。こうしてス

ポーツツーリズムの取組みが地域に認知された

ことで、18年に開催されたイベントでは市内か

ら延べ200人以上の参加者を得ている。

また、リピーターの定着に向けて前年の参加

者にはダイレクトメールの発送によるイベントの

案内を行って

いるほかコー

スの一部変更

や昼食での

様々な地元食

材を使用した

料理の提供な

ど、参加者を

飽きさせない

工夫を取り入れている。こうしたスポーツアク

ティビティの定着が進む一方、他県からの参加

者の取込みはまだ不十分であるとのことで、今

後はターゲットの選定など情報発信の工夫に取

り組むとしている。

3.県内のアウトドアツーリズムの取組み

スポーツコミッションを中心に行政による施

策が進むなか、本県に広くスポーツツーリズム

を推進するうえで民間を中心とした活動も重要

となる。そこで本章ではいわてスポーツコミッ

ションが先導モデルとして選出したアクティビ

ティの事例を取り上げる。

きたかみ新城ロード100の道路標示(右は拡大)(提供:前頁写真に同じ)

北上アウトドアツーリズム ガイドブック(提供:前頁写真に同じ)

9 岩手経済研究 2019年10月号

特 別調 査

Page 7: スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

また、今後はアウトドア用品メーカーとタイ

アップしたカヌーツアーの開発を検討しており、

アクティビティをきっかけに花巻市を周知する

ことで、旅行のメインの目的として同市を訪れ

る観光客を増やしていくとのことである。

⑵ 

体験村・たのはたネットワーク

①「海」「断崖」「人」を資源としたアクティビティ

田野畑村のNPO法人 

体験村・たのはた

ネットワークは北山崎特有の「海」と「断崖」、

そして地元の「人」を生かしたアクティビティ

を提供している。北山崎には年間で約50万人の

観光客が訪れているが、そのほとんどが景観を

眺めるだけの通過型観光となっている。こうし

たなかアクティビティを整備することで、滞在

型観光を促し、地域活性化につなげることを目

的に2004年に前身となる体験村・たのはた

推進協議会が発足し、08年からNPO法人とし

て活動している。

アクティビティは自然遊歩道をガイドととも

に散策する「北山崎ネイチャートレッキングガ

イド」と地元漁師の小型船による「サッパ船ア

ドベンチャーズ」の二本を柱としており、他に

も東日本大震災の語り部や地域の特産である塩

づくり体験などを行っている。

このうちトレッキングガイドは陸中海岸国立

雪遊び体験を用意しており、首都圏からの参加

者や台湾など降雪がない地域からの訪日客に人

気となっている。雪に初めて触れる参加者にとっ

て、新雪の上を歩くことそのものが貴重な体験

になっているとのことで、地域住民にとってあ

りふれた雪も観光の資源として活用されている。

花巻スポーツランドの運営を支えているのが

約180人にのぼる手伝い会員制度である。会

員は消防士のOBである白畑氏の人脈により救

急救命士が多数所属しており、インストラクター

としてアクティビティの安全な運営に携わって

いる。また、近隣の大学に通う留学生がアルバ

イトとして訪日観光客の言語応対を担うなど、

地域の住民の参加によるサポート体制が形成さ

れており、さらに、アクティビティの参加者に

近隣の宿泊施設の利用を促すなど、滞在型ツー

リズムとして地域に効果が波及する仕組みも取

られている。

②今後の取組み

花巻スポーツランドではホームページやSN

Sを利用した情報発信のほか、国内の旅行会社

を通じた台湾の旅行会社へのPRや修学旅行向

けのアクティビティを掲載した広報誌への掲載

を行っており、国内外からの誘客と修学旅行生

の受入れを拡大する意向である。

る北上川沿いの「イギリス海岸」を巡りながら、

賢治にまつわる逸話や地層の特徴に関する話が

聞けるほか、過去の河川の氾濫による地形の変

化や生息する動物に関する説明があり、地域の

文化や自然の営みについて理解を深めることも

できる。

参加者は首都圏や関西地方からの修学旅行生

が多く、本年度は800人を大きく上回る見通

しである。また、冬期はスノーモービルを使っ

たアクティビティのほか雪合戦など昔ながらの

北上川でのラフティング(提供:花巻スポーツランド)

岩手経済研究 2019年10月号 10

特別調査

Page 8: スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

る。また、みちのく潮風トレイルの散策を目的

に訪れた参加者からは、隣接する市町村の観光

情報について質問を受けることが多く、近隣市

町村のエリアについても説明ができるよう研鑽

するとしている。みちのく潮風トレイル一体を

一つの観光資源としてとらえ、各市町村が互い

の地域情報を共有し発信しあうことは、広域に

わたる強力な情報発信源となるほか、観光客の

満足度の向上にもつながることが期待される。

⑶ 

しずくいしYゆ

Uー

Yゆ

Uー

ファーム

①馬と自然を資源としたアクティビティ

雫石町のしずくいしYU

YUファームでは

牧場で18頭の馬を飼育しており、自然の中で乗

馬体験ができるアクティビティを提供している。

同ファームの会長である柴田優ゆ

行こう

氏は盛岡市

で会社経営を営む傍ら乗馬を趣味としており、

2010年に雫石町の自然豊かな敷地を紹介さ

れたことを契機に、本格的な乗馬体験施設を整

備して16年にYU

YUファームを開業した。

会員制度がなくメニューも4000円からと安

価なため、乗馬を始めやすいことが特徴である。

また、乗馬に慣れた参加者向けのメニューとし

て山のふもとで行うホーストレッキングがあり、

牧場の敷地内では感じることができない解放感

のもとで馬との触れ合いを体験することができる。

②今後の取組み

サッパ船の利用者が年間で約6千人であるの

に対して、トレッキングは個人で散策する観光

客が多いため、ガイドの利用者が年間150人

程度に留まっている。しかし、みちのく潮風ト

レイルの全地域開通に伴い地域を訪れる観光客

の数が増加していることから、今後の伸び代は

大きいとみられる。

こうしたなか体験村・たのはたネットワーク

ではガイドのスキルアップの必要性を感じてお

り、話の内容を工夫することでガイドの利用を

目的とする参加者の増加につなげたいとしてい

公園の頃に整備された自然遊歩道をコースとし

て使用しており、新たに環境省のみちのく潮風

トレイルの一区間として指定されたことで誘客

が期待されるアクティビティとなっている。同

コースは、みちのく潮風トレイルのなかでも急斜

面のアップダウンや200mの断崖、手掘りの

トンネルなど他にはない魅力がある。また、中・

上級者向けのやや難易度が高いエリアがあるも

のの、ガイドによるサポートのほか初心者向け

の平坦なルートもあり、参加者の経験や体力に

合わせたコースの設定も可能である。さらに、

ガイドは漁師をはじめとする地域を熟知した地

元住人が担当しており、遊歩道の歩き方だけで

なく、かつて食料品など物資の運搬路として使

用されていたことや当時の暮らしぶりについて

説明があり、北山崎特有の歴史や文化に触れる

ことができるアクティビティとなっている。

アクティビティ参加者はトレッキング、サッ

パ船のいずれも関東地方からの観光客が多く、特

に60代以上のリタイア層に人気があり、リピー

ターとなって家族や友人を連れて再訪する方も

少なくないとのことである。また、アクティビ

ティの魅力について地域の理解を深めるために、

地元の小学校によるトレッキングの体験学習も

受け入れている。

北山崎ネイチャートレッキングガイドの様子(提供:NPO法人 体験村・たのはたネットワーク)

11 岩手経済研究 2019年10月号

特 別調 査

Page 9: スポーツツーリズム 地域資源の活用により期待される · スポーツツーリズム地域 ... 事業に対して補助金による支援を行っており、などを通じて持続的な地域の活性化に取り組む

域外の人々の交流の場にもなっている。

②今後の取組み

同ファームでは、非常勤を含めスタッフが4

名であることに加え、馬という生き物を扱う性

質上、一度に多数を受け入れることが難しいこ

とを課題として挙げている。また、乗馬は複数

回の体験により上達が見込まれることから、少

人数の長期滞在型ツーリズムが最適であると考

え、近隣の宿泊施設と連携した乗馬の上達を目

的とする個人向け商品の開発を構想しており、

こうした取組みとともに乗馬を地域の身近なレ

ジャーとして醸成し、乗馬人口の拡大を目指す

とのことである。

4.武道ツーリズムの可能性

アウトドアツーリズムは本県をはじめ全国各

地で取組みが盛んなものの、武道ツーリズムは

概念が新しいこともあり取組み事例は限られて

いる。しかし、本県でも訪日観光客が増加基調

にあるなか、その取組みを進めることは県内に

おける観光のコンテンツに幅を持たせる効果が

期待できる。

また、本県は古くより馬の生産が盛んな地域

であり、様々な馬事文化が根付いている。その

中でも流鏑馬は馬を使う武道の一つであり現在

では主に神事として行われているが、青森県で

は的への的中率を競う「スポーツ流鏑馬」とし

て地域の観光資源とする取組みがある。

⑴ 

流鏑馬を資源としたツーリズムの事例

①スポーツ流鏑馬大会の取組み

スポーツ流鏑馬は2002年に設立した流鏑

馬競技連盟が競技規定を定めており、50~60メー

トル間隔で配置された3つの的の合計得点と走

行タイムにより順位付けがされる。大会の会場

に応じてルールに多少の差異があるものの競技

としての共通化が図られており、使用する馬も

なお、同ファームでは屋内馬場が整備されて

おり雨天でも利用できるほか、馬に蹄鉄を履か

せないことで冬期でも雪上の乗馬が可能である

など通年で利用できる。また、常設のものとし

ては県内で唯一となる流や

ぶさめ鏑馬の設備があり、大

会などで使用される衣装の貸し出しを行うなど

本格的な流鏑馬体験も可能である。

しずくいしYU

YUファームの年間の利用

者は約1200人で7割が県内、3割が県外か

ら訪れている。県内では盛岡市など近郊からの

リピーターが多く、特に女性の利用者が多いと

のことである。県外では東北地方や関東地方の

ほか、ステータスシンボルとして乗馬文化が定

着しているドイツやイギリスなどからの訪日観

光客も訪れている。同ファームにはドイツ出身

の牧場経営に関するアドバイザーが在籍してお

り、外国人の言語対応を担っているほか、SN

Sなどで海外に向けた情報発信を行い訪日観光

客の誘客に繋げている。一方で、地元である雫

石町からの利用者数はまだ少ないとのことで、

しずくいしYU

YUファームでは町内の小学

校の体験授業を受け入れて乗馬や引馬による流

鏑馬などを提供し、地域の乗馬文化の定着に取

組んでいるほか、地元と県外の子供たちが参加

するキャンプイベントを企画するなど、地域と

ホーストレッキングに参加する訪日観光客(提供:しずくいしYU-YUファーム)

岩手経済研究 2019年10月号 12

特別調査

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スポーツ流鏑馬の競技ルール・個人戦は一人につき3回、団体戦は3人1組で2回出走する・110mの走路に「1の的(10点)」「2の的(20点)」「3の的(10点)」が55m間隔で設置されており、的中した的に応じて得点が加算される・合計得点の多い選手が上位となり、同点の場合はタイムの少ないほうが上位となる・階級に応じてタイム制限があり、一般の部では15秒、上級の部では12秒を超えるとタイムオーバーで無得点となる

泫 大会によって走路の距離や得点が異なる場合がある資料:「全国スポーツ流鏑馬 八戸大会」資料をもとに当研究所作成

施されている。このように八戸大会では流鏑馬

を軸とした「観る」、「する」、「支える」スポー

ツとして地域の活性化に寄与している。

八戸大会の来場者の推移をみると第1回大会

が約400人、第2回大会は約750人であっ

たが、八戸市と連携が図られた第3回大会以降

は「元気な八戸づくり」市民奨励金事業の補助

金を活用して幅広く広報活動を行ったことで約

2000人を集客している。

また、十和田乗馬倶楽部では八戸大会のほか、

4月に「桜流鏑馬」、10月に「世界流鏑馬選手

権大会」を十和田市中央公園緑地で開催してい

る。当初「十和田駒フェスタ」と同時に開催し

ていた世界流鏑馬選手権大会は、第3回大会か

ら単独のイベントに移行したため来場者が減少

したものの直近では約1万5000人を誘客し

つわる歴史や文化を複合的に結び付け

たイベントであることも特徴の一つと

なっている。

八戸大会は16年に第1回大会が開催

され、以降は毎年8月に行われている。

当初は青森県十和田市の有限会社十和

田乗馬倶楽部を中心に流鏑馬関連団体

などで構成される全国スポーツ流鏑馬

八戸大会実行委員会が単独で主催して

いたが、第3回大会からは八戸市とも連携して

開催している。八戸市には藩政時代に馬産地

だった南部藩の文化として八や

幡わた

馬うま

やえんぶり

など馬に関わる工芸品や行事が残っており、南

部藩とのつながりが深い櫛引八幡宮で行われる

八戸大会は、地域の歴史に対する関心を高め、

郷土愛の育成も図るイベントとして定着して

いる。

十和田乗馬倶楽部では北里大学獣医学部の乗

馬サークルに乗馬の練習の場を提供する一方で、

学生が日常の馬の世話を手伝い、大会では選手

としての参加やボランティアとして運営に携わ

るなど連携が取られている。加えて八戸大会で

は八戸市内の中学生や高専の学生、学習塾の生

徒などによる大会運営のサポートのほか、弓道

体験や馬事文化を題材としたクイズラリーが実

日本の在来馬である和種また和種系を主とする

ほか、和装や和式馬具の使用を基本とするなど

武芸と伝統が踏襲されている。

スポーツ流鏑馬大会は北海道や東北を中心に

各地で行われており、なかでも青森県八戸市で

行われる「全国スポーツ流鏑馬八戸大会(以下、

八戸大会)」は他の大会が公園や河原を会場と

するなか、神社を会

場とした大会となっ

ている。

会場の櫛く

引ひき

八幡宮

は神事として流鏑馬

の奉納が行われてお

り、その際に使用す

る馬場を競技場とす

ることで流鏑馬のス

ポーツとしての魅力

に日本の伝統的な雰

囲気が加わり「観る」

スポーツとしての満

足度が高く、訪日観

光客の観戦者も多い。

また、競技の後に神

社の見学ツアーが行

われるなど史跡にま

全国スポーツ流鏑馬八戸大会の参加選手(提供:有限会社十和田乗馬倶楽部)

13 岩手経済研究 2019年10月号

特 別調 査

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図表4 流鏑馬大会の来場者数の推移(青森県)項目

全国スポーツ流鏑馬八戸大会 世界流鏑馬選手権 桜流鏑馬

開催回数 来場者 開催回数 来場者 開催回数 来場者

(人) (人) (人)

2015 - - 第1回 19,000 第12回 12,000

2016 第1回 400 第2回 19,000 第13回 20,000

2017 第2回 750 第3回 10,000 第14回 22,000

2018 第3回 2,000 第4回 15,000 第15回 23,000

2019 第4回 2,000 第5回 - 第16回 26,000

泫 1.来場者は概数2.世界流鏑馬選手権第5回大会は2019年10月19・20日に開催予定

資料:有限会社十和田乗馬倶楽部

信と体験メニューの提供に取組むとのことであ

る。また、大会には首都圏から参加する選手が

多いものの、こうした選手の地元には流鏑馬を

行う環境が整っていないことから十和田市に数

日間滞在して練習する選手も少なくない。こう

したことから今後は流鏑馬の習得を目的とした

長期滞在型のメニューを充実させて、持続的な

誘客をつなげていくとしている。

⑵ 

本県における流鏑馬の可能性

本県では、遠野市で「全国やぶさめ競技遠野

大会(以下、遠野大会)」や子供向けの体験イ

ベントとして「遠野郷八幡宮こども流鏑馬大会」

が開催されている。このうち毎年7月に開催さ

れる遠野大会は今年で第13回を数え、東北のス

ポーツ鏑流馬の大会としては桜流鏑馬に次ぐ開

催実績を持つイベントである。

の主流となったことでその数は減少し

ている。こうしたなか、馬を資源に観

光の促進を検討していた十和田市の呼

びかけがあり、乗馬人口の拡大と和種

馬の保存、地域の活性化を図る取組み

として04年に桜流鏑馬大会が開催され

た。なお、乗馬人口の多くを女性が占

めるなか神事として行う流鏑馬の多く

は男性に限定されていた背景から、桜

流鏑馬は女流騎手に限定した大会となってい

る。桜流鏑馬は「十和田市春まつり」のイベン

トの一つとして開催し、初回から多数の来場者

を得たことで口コミなどによるPRにつながっ

たことや、大会で撮影された写真の中から投票

で翌年のポスター写真を選出する「桜流鏑馬フォ

トコンテスト」の開催などが奏功して現在では

祭りのメインイベントとして地域の活性化に貢

献しており、16年に「第20回ふるさとイベント

大賞」で内閣総理大臣賞、17年に「スポーツ文

化ツーリズムアワード2016」で文化庁長官

賞を受賞している。

③今後の取組み

大会における訪日観光客の増加など外国人の

流鏑馬に対する関心が高いことから、十和田乗

馬倶楽部では今後は訪日観光客に向けた情報発

ているほか、今年開催された桜流鏑馬は約2万

6000人となるなど、いずれの大会も来場者

は増加傾向にありスポーツ流鏑馬に対する関心

の高まりが見て取れる(図表4)。

②流鏑馬によるまちおこし

十和田乗馬倶楽部がスポーツ流鏑馬に取組む

きっかけとなったのが和種馬の減少である。か

つて十和田市は「南部馬」と呼ばれる和種馬の

産出が盛んで「駒の里」として有名であったが、

現在は乗馬人口の減少に加え、外来種馬が乗馬

フォトコンテストで選出した写真によるポスター(提供:有限会社 十和田乗馬倶楽部)

岩手経済研究 2019年10月号 14

特別調査

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5.本県のスポーツツーリズムの展望

⑴ 

恒常的な交流人口の拡大に向けて

本県では「希望郷いわて国体・希望郷いわて

大会」の際に整備された競技場をはじめ、ラグ

ビーワールドカップの会場である釜石鵜住居復

興スタジアムなど様々なスポーツ競技に対応し

た施設が備わっている。また、豊富な県産食材

や夏場の穏やかな気候など、スポーツに適した

環境を積極的にアピールすることで他県との差

別化につながり大会や合宿の誘致拡大が期待さ

れる。

さらに、今年10月に開催される「いわて盛岡

シティマラソン2019」をはじめとする大型

スポーツイベントでは全国から多くの人が本県

を訪れるとみられ、こうしたイベントで地域の

情報発信を行うことで他のアクティビティの参

加を目的とした再訪を促せば、恒常的な交流人

口の拡大が見込まれる。

一方、全国各地にトレッキングやラフティン

グなどと類似するアクティビティがあるなか、

域外からの再訪を実現するためには本県に足を

運ぶための積極的な理由が必要となる。こうし

たことから、本稿の事例のようにその地域特有

の自然や歴史、文化といった複数のコンセプト

をアクティビティに組み込み、その地域で体験

することで経験価値が高まるものに磨き上げる

ことが重要である。

⑵ 地域資源の共有と観光コンテンツへの磨き上げ

県内の事例では多くが地元小学校の体験授業

を積極的に受け入れており、こうした地域学習

としての機能が地域資源の再認識を促すほか、

地域に対する愛着や誇りを示すシビックプライ

ドの育成につながると思われる。そして広く地

域住民が地域資源の魅力を共有することはアク

ティビティやイベントを地域のシンボルへと醸

成させることとなり、ひいてはその地域のブラ

ンディングが図られるものと考えられる。

現状では地元でのアクティビティやイベント

の認知が不十分であることが少なくないが、一

方でスポーツリンク北上のようにスポーツコ

ミッションが情報を発信しアクティビティを地

域に浸透させている取組みもある。こうしたこ

とから県内のスポーツコミッションを中心にス

ポーツと観光に関わる官民が一体となって地域

資源の観光コンテンツとしての価値を磨き上げ

ることでスポーツツーリズムが促進され、交流

人口の拡大をはじめとする地域の活性化に寄与

することに期待したい。(

研究員 

青木 

俊一)

遠野大会は馬事文化を次世代に継承すること

を目的としており、宮守町の柏木平レイクリゾー

ト多目的グランドで柏木平リバーサイド祭りと

ともに開催され約2000人を誘客している。

なお、流鏑馬競技連盟の東北支部事務局であ

る十和田乗馬倶楽部はスポーツ流鏑馬の普及活

動として各地で大会運営の支援も行っており、

遠野大会を含む東北で開催される流鏑馬イベン

トを対象としたスタンプラリーの実施など、広

域で流鏑馬の振興に取組んでいる。また、遠野

郷八幡宮の流鏑馬は遠野南部の祖である南部師も

行のぶが八戸市の櫛引八幡宮へ神事として奉納した

ことが創始であるなど歴史的なつながりがあり、

こうした背景を相互にPRすることで観光客の

広域の周遊を見込むこともできる。

本県ではしずくいしYU

-YUファームのよ

うに流鏑馬体験ができる牧場があるほか、遠野

市ではこども流鏑馬大会をきっかけに流鏑馬を

始める小学生もおり、取組みを広げる素地があ

る。加えて本県には乗馬だけなく、チャグチャ

グ馬コや南部曲り家など農耕馬の歴史もあり、

流鏑馬と馬に関わる文化を複合的に結びつける

ことで馬事産業に広く相乗効果が生じることも

期待できる。

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