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授業リフレクションシステムを用いた 「間違い探し」動画教材による ICT 活用指導力の育成 Development of Teaching Skills Using ICT with a System for Enhancing Student Reflection Using “Spot the Different Videos” 小川 美奈恵 *1 , 森本 康彦 *1 , 北澤 *1 , 宮寺 庸造 *1 Minae OGAWA *1 , Yasuhiko MORIMOTO *1 , Takeshi KITAZAWA *1 , Youzou MIYADERA *1 *1 東京学芸大学 *1 Tokyo Gakugei University あらまし:教育の情報化により,教員や教員養成課程の学生の ICT 活用指導力の向上・育成が求められ ている.その中で,教員養成課程の学生に対して「間違い探し」動画教材を用いた問題解決型の学習方法 が提案,実践され,その効果が明らかにされている (3) .一方,教員の“質の向上”“質の保証”のために 授業動画を用いて力量形成を支援する授業リフレクションシステムが開発され,実践を通してその有効性 が示されている (8) .本論文では,これらを組み合わせることで,ICT 活用指導力のさらなる向上・育成を 目指し,授業リフレクションシステムを用いた「間違い探し」動画教材による実践を行った. キーワード:間違い探し動画,ICT 活用指導力,教員養成,授業リフレクションシステム,授業研究 1. はじめに 近年,教育の情報化が進展し,教員の ICT 活用指 導力の向上,教員養成課程における ICT 活用指導力 育成のためのカリキュラムの構築や授業法,学習方 法が求められている (1)(2) .そこで,Ogawa et al.(2015) では,多様な ICT の活用場面や活用方法に対応する ことができる「間違い探し」動画教材を用いた学習 方法を提案し,その効果を明らかにしている (3) 一方,「教職課程の質保証」の重要性が指摘されて おり (4) ,教員養成に関わる高等教育機関には,教員 としてより高い実践的指導力を身につけさせる“質 の保証”と,教員として必要な資質・能力を持たせ る“質の保証”が求められている.そこで,北澤・ 森本(2014)において、学習者が授業動画を閲覧しな がら自己評価や相互評価等のアセスメント活動を繰 り返すことで,自らの授業力や学習支援などの力量 を形成することができる授業リフレクションシステ ムが開発されている (7) 本研究では,教員,及び教員養成課程の学生の実 践的な指導力としての ICT 活用指導の向上・育成を 目的とし,「間違い探し」動画教材を用いた問題解決 型の学習方法の実践に授業リフレクションシステム を使用した.本稿では,その実践とその評価の概要 について説明する. 2. 「間違い探し」動画教材を用いた問題解決 型学習方法 「間違い探し」動画教材とは,看護・医療分野で 使用されている学習者が主体的に取り組み,技術習 得に効果があるとされている e-Learning 教材に着目 し,ICT 活用指導力育成のために提案された教材で ある (5)(6) この「間違い探し」動画教材を用いて,学習者が ICT 活用指導力の育成に必要な多様な ICT の活用場 面を経験し,場面に応じた問題を認識し,解決して いくプロセスの中で ICT 活用について学習者が自身 で考えられるよう,問題解決学習にあてはめた“動 画作成による学習方法”と“動画閲覧による学習方 法”が開発,実践がされ,その効果が明らかにされ ている (3) 3. 授業リフレクションシステム 授業リフレクションシステムとは,学習者が授業 動画を閲覧しながら,アセスメント活動を繰り返す ことで,自らの授業力や学習支援などの力量形成を 支援するシステムである (7) .授業リフレクションシ ステムでは,授業動画を閲覧しながらその時点での 気付きなどをアセスメント活動として投稿すること ができる.また,投稿された自由記述のコメントは, 動画再生時間と紐付けられ最上部に表示され,コメ ントが投稿された時間と文字数は動画の再生箇所と 対応され、ひと目で確認することが可能である. この授業リフレクションシステムを用いた実践と しては,北澤・森本(2014)の情報科教育法の授業を 対象とし,自己や他者の模擬授業に対する相互評価 を行うものがあり,対面による模擬授業の相互評価 のときには気づかなかった新たな気付きが促進され ることが示唆されている (8) 4. 「間違い探し」動画教材を用いた授業リフ レクションシステムの実践 4.1 実践概要 本研究では,「間違い探し」動画教材による問題解 決型の学習方法の“動画閲覧による学習方法”の STEP1: 「間違い探し」動画教材を閲覧する,STEP2: 「問題点(間違い)を見つける」の部分に授業リフレ クションシステムを使用した. I1-15 29

授業リフレクションシステムを用いた 「間違い探し …...授業リフレクションシステムを用いた 「間違い探し」動画教材によるICT 活用指導力の育成

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Page 1: 授業リフレクションシステムを用いた 「間違い探し …...授業リフレクションシステムを用いた 「間違い探し」動画教材によるICT 活用指導力の育成

授業リフレクションシステムを用いた 「間違い探し」動画教材による ICT活用指導力の育成

Development of Teaching Skills Using ICT with a System for Enhancing

Student Reflection Using “Spot the Different Videos”

小川 美奈恵*1, 森本 康彦*1, 北澤 武*1, 宮寺 庸造*1 Minae OGAWA*1, Yasuhiko MORIMOTO*1, Takeshi KITAZAWA*1, Youzou MIYADERA*1

*1東京学芸大学

*1Tokyo Gakugei University

あらまし:教育の情報化により,教員や教員養成課程の学生の ICT 活用指導力の向上・育成が求められている.その中で,教員養成課程の学生に対して「間違い探し」動画教材を用いた問題解決型の学習方法

が提案,実践され,その効果が明らかにされている(3).一方,教員の“質の向上”“質の保証”のために

授業動画を用いて力量形成を支援する授業リフレクションシステムが開発され,実践を通してその有効性

が示されている(8).本論文では,これらを組み合わせることで,ICT活用指導力のさらなる向上・育成を目指し,授業リフレクションシステムを用いた「間違い探し」動画教材による実践を行った. キーワード:間違い探し動画,ICT活用指導力,教員養成,授業リフレクションシステム,授業研究

1. はじめに 近年,教育の情報化が進展し,教員の ICT活用指

導力の向上,教員養成課程における ICT活用指導力育成のためのカリキュラムの構築や授業法,学習方

法が求められている(1)(2).そこで,Ogawa et al.(2015)では,多様な ICTの活用場面や活用方法に対応することができる「間違い探し」動画教材を用いた学習

方法を提案し,その効果を明らかにしている(3). 一方,「教職課程の質保証」の重要性が指摘されて

おり(4),教員養成に関わる高等教育機関には,教員

としてより高い実践的指導力を身につけさせる“質

の保証”と,教員として必要な資質・能力を持たせ

る“質の保証”が求められている.そこで,北澤・

森本(2014)において、学習者が授業動画を閲覧しながら自己評価や相互評価等のアセスメント活動を繰

り返すことで,自らの授業力や学習支援などの力量

を形成することができる授業リフレクションシステ

ムが開発されている(7). 本研究では,教員,及び教員養成課程の学生の実

践的な指導力としての ICT活用指導の向上・育成を目的とし,「間違い探し」動画教材を用いた問題解決

型の学習方法の実践に授業リフレクションシステム

を使用した.本稿では,その実践とその評価の概要

について説明する. 2. 「間違い探し」動画教材を用いた問題解決

型学習方法 「間違い探し」動画教材とは,看護・医療分野で

使用されている学習者が主体的に取り組み,技術習

得に効果があるとされている e-Learning 教材に着目し,ICT 活用指導力育成のために提案された教材である(5)(6). この「間違い探し」動画教材を用いて,学習者が

ICT活用指導力の育成に必要な多様な ICTの活用場

面を経験し,場面に応じた問題を認識し,解決して

いくプロセスの中で ICT活用について学習者が自身で考えられるよう,問題解決学習にあてはめた“動

画作成による学習方法”と“動画閲覧による学習方

法”が開発,実践がされ,その効果が明らかにされ

ている(3).

3. 授業リフレクションシステム 授業リフレクションシステムとは,学習者が授業

動画を閲覧しながら,アセスメント活動を繰り返す

ことで,自らの授業力や学習支援などの力量形成を

支援するシステムである(7).授業リフレクションシ

ステムでは,授業動画を閲覧しながらその時点での

気付きなどをアセスメント活動として投稿すること

ができる.また,投稿された自由記述のコメントは,

動画再生時間と紐付けられ最上部に表示され,コメ

ントが投稿された時間と文字数は動画の再生箇所と

対応され、ひと目で確認することが可能である. この授業リフレクションシステムを用いた実践と

しては,北澤・森本(2014)の情報科教育法の授業を対象とし,自己や他者の模擬授業に対する相互評価

を行うものがあり,対面による模擬授業の相互評価

のときには気づかなかった新たな気付きが促進され

ることが示唆されている (8).

4. 「間違い探し」動画教材を用いた授業リフレクションシステムの実践

4.1 実践概要 本研究では,「間違い探し」動画教材による問題解

決型の学習方法の“動画閲覧による学習方法”の STEP1:「間違い探し」動画教材を閲覧する,STEP2: 「問題点(間違い)を見つける」の部分に授業リフレクションシステムを使用した.

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Page 2: 授業リフレクションシステムを用いた 「間違い探し …...授業リフレクションシステムを用いた 「間違い探し」動画教材によるICT 活用指導力の育成

実践には 4つの「間違い探し」動画教材を用い,東京学芸大学,東京学芸大学教職大学院で開講され

ている 3つの講義で行った.実践で使用した画面を図 1に示す.

図 1 授業リフレクションシステム実画面例 1) 実践1(6)

時期:2014年 5月 対象:東京学芸大学「授業における ICT 活用」,受講者 43名

2) 実践 2 時期:2015年 5月 対象:東京学芸大学「授業における ICT 活用」,受講者 33名

3) 実践 3 時期:2015年 6月 対象:東京学芸大学教職大学院「教育ネットワー

クの構築方法」,受講者 20名

4.2 実践結果 各実践において学生の ICT活用に関して,活用法

と工夫について 2種類のマインドマップの作成,質問紙による調査を行った.本稿では,実践 2の調査の一部を以下に示す. (1) マインドマップのノード数の変化 実践 2の動画閲覧前後で作成した活用法と工夫に

ついてマインドマップのノード数を対応のある t 検定を用いて比較したところ,有意差が認められた(ノ

ード数の活用法:t(25)=5.72, p<.01,ノード数の工夫:t(25)=8.38,p<.01).動画閲覧前後の平均値を見てみると,閲覧前が 8.40(活用法), 5.32(工夫),閲覧後が 13.68(活用法),11.72(工夫)であったことから,今回新たに実施した実践 2 も前年度の実践 1(6)

と同様に,動画閲覧後のほうが閲覧前よりもその平

均値が有意に高いことが示唆された.

(2) 自由記述の回答 「間違い探し」動画教材を用いた授業リフレクシ

ョンシステムの実践の効果として“実際に動画を見

ることでイメージがしやすくなり,意見を共有でき

たので自分の気付かなかった部分がわかり,勉強に

なった”,“間違い探しをするだけでなく,どの時点

で間違っているのかがコメントでき共有できてよか

った”といった記述が認められた. 上記の結果より,「間違い探し」動画教材を用いた

リフレクションシステムでの実践は,ICT 活用に関する知識の増加や理解を深めさせることができるこ

とが示唆された.

5. おわりに 本論文では,教員,及び教員養成課程の学生の実

践的な指導力としての ICT活用指導の向上・育成を目的とし,「間違い探し」動画教材を用いた問題解決

型の学習方法に授業リフレクションシステムを使用

した実践を行った.実践の結果から,学生から概ね

好評を得ることができ,実践的指導力としての ICT活用指導力を身につけさせることができたと考えら

れる.今後も,継続的に授業等での実践を重ね,そ

の評価を行っていく予定である.

謝辞 本研究の一部は,科研費(26350311)の助成を受けた.

参考文献

(1) 中央教育審議会: “新たな未来を築くための大学教育の質転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力

を育成する大学へ〜(答申)”,文部科学省(2012) (2) 森下孟:“教員養成学部生における ICT 活用指導力の

現状と課題” , 鹿児島大学教育学部実践研究紀要 , Vol.23, pp.201-208 (2014)

(3) Ogawa.M, Morimoto.Y,Kitazawa.T,Miyadera.Y: ”A “Spot the Different Videos” Training Method to Build Up Teaching Skills Using ICT in Pre-service Teacher Education” , Proceedings of Society for Information Technology & Teacher Education International Conference 2015,pp.2499-2506 (2015)

(4) 文部科学省: “第 2期教育振興基本計画” (2013) (5) 岩本真紀, 南妙子, 山内加絵, 水野静枝:”無菌操作演

習における間違い探しビデオ教材の有効性の検討”, 香川大学看護学雑誌, 第 10巻, 第 1号,pp.33-44 (2006)

(6) 小川美奈恵,森本康彦,北澤武,宮寺庸造:”ICT活用指導力育成のための「間違い探し」動画教材を用いた

問題解決型学習方法の評価”, 日本教育工学会研究報告集, 14(1),pp.48-56 (2014)

(7) 森本康彦,北澤武: “授業動画を用いた授業観察を支援する授業リフレクションシステムの開発と東京学芸

大学への導入”, 教育システム情報学会第 39回全国大会 大会講演論文集, pp.4-5(2014)

(8) 北澤武, 森本康彦:”情報科教育法における授業リフレクションシステムを活用した模擬授業の効果”, 日本情報科教育学会誌, 7(1),pp.29-36 (2014)

教育システム情報学会 JSiSE2015

第 40 回全国大会 2015/9/1~9/3

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