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8 ビジネスコミュニケーション 2017 Vol.54 No.7 特 集 新ビジネス領域開拓の礎となるデバイスの創出に取り組む NTTデバイスイノベーションセンタ 用いた方が光レシーバの受信感度を 向上させやすい。 NTT 研究所には、10GbE の時代 から APD を用いた高感度な光レシ ーバ用の受信モジュール(ROSAの開発実績がある。そこで DIC は、 APD を用いた 400GbE 用の ROSA APD-ROSA)の開発に着手した。 400GbE APD-ROSA の実現に 当たって、当初、大きな課題となる と予想されたのが 400GbE で採用 た「PAM44-level Pulse Amplitude Modulation)」という変 調方式である。 従来のイーサネット規格では、0 1 2 値のみを使う NRZNon ため、デバイス技術 の研究開発に当た っては、標準化動向 をにらみつつ、ユー ザーとなる方々の ニーズをヒアリン グ等で掘り起こす ようにしています。 その作業を通じて 長距離化のニーズ があることを把握 できましたので、長距離化に向けた 研究開発に着手しました。」(スマー トコネクションデバイスプロジェク 主任研究員 吉松 俊英氏) 伝送距離を延ばす方法の 1 つが、 光信号を受ける光レシーバの受信感 度を上げることである。光レシーバ の中核的な素子であるフォトダイオ ー ド(PD)には主 2 つの種類があ る。一般的に使用さ れるシンプルな構造 の「pin-PD」と、構 造が複雑だが増幅機 能を備えていて受信 感度が高い「アバラ ンシェフォトダイオ ー ド(APD)」の 2 つだ。当然 APD 2017 年内の標準化を目指して、 400Gbps の伝送を実現する次世代 イーサネット規格(400GbE)の検 討が進んでいる。現在検討中の 400GbE 規格のうち、伝送距離が最 大 な の は「400GBASE-LR8」 で、 10km までの伝送に対応している。  しかし、モバイルバックホール回線 などに 400GbE を適用するケース を想定して、もっと長い伝送距離を 求める声もある。 NTT デバイスイノベーションセ ンタ(以下、DIC)では、10km の長距離伝送を 400GbE で実現す るための研究開発に取り組んでい る。「400GbE は標準化前の状態の NTT デバイスイノベーションセンタでは、次世代イーサネット規格である 400G ビットイーサネット(400GbE)の伝送距離拡大 に向けた研究開発を進めている。最近の成果の1つが、アバランシェフォトダイオード(APD)という高感度素子を用いた 400GbE用の受信モジュールの開発である。同受信モジュールを利用することで、現在検討中の規格の最大伝送距離10kmを超え た、約30kmの伝送ができる可能性がある。 アバランシェフォトダイオードを用いた 400GbE 用の高感度光受信モジュールを開発 4チャネルアレイ型APD レンズ FPC マイクロレンズアレイ PLC型波長分離素子 4チャネル線形TIA TIA トランスインピーダンスアンプ FPC:フレキシブルプリント配線板 図 1 開発した 4 チャネル APD-ROSA の構成と外観 [アクセス・モバイル融合制御技術] NTT デバイスイノベーションセンタ スマートコネクションデバイスプロジェクト [左から]プロジェクトマネージャ 木村 俊二主任研究員 吉松 俊英次世代規格 400GbE に向けて 大容量化と長距離化が必要 400GbE 用 APD-ROSA 実現の 課題になると思われた変調方式

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8 ビジネスコミュニケーション 2017 Vol.54 No.7

特 集 新ビジネス領域開拓の礎となるデバイスの創出に取り組む   NTTデバイスイノベーションセンタ特 集 新ビジネス領域開拓の礎となるデバイスの創出に取り組む   NTTデバイスイノベーションセンタ

用いた方が光レシーバの受信感度を向上させやすい。

NTT研究所には、10GbEの時代から APDを用いた高感度な光レシーバ用の受信モジュール(ROSA)の開発実績がある。そこで DICは、APDを用いた 400GbE用の ROSA

(APD-ROSA)の開発に着手した。

400GbE用 APD-ROSAの実現に当たって、当初、大きな課題となると予想されたのが 400GbEで採用さ れ た「PAM4(4-level Pulse

Amplitude Modulation)」という変調方式である。従来のイーサネット規格では、0と 1の 2値のみを使う NRZ(Non

ため、デバイス技術の研究開発に当たっては、標準化動向をにらみつつ、ユーザーとなる方々のニーズをヒアリング等で掘り起こすようにしています。その作業を通じて長距離化のニーズがあることを把握できましたので、長距離化に向けた研究開発に着手しました。」(スマートコネクションデバイスプロジェクト 主任研究員 吉松 俊英氏)伝送距離を延ばす方法の 1つが、光信号を受ける光レシーバの受信感度を上げることである。光レシーバの中核的な素子であるフォトダイオ

ード(PD)には主に 2つの種類がある。一般的に使用されるシンプルな構造の「pin-PD」と、構造が複雑だが増幅機能を備えていて受信感度が高い「アバランシェフォトダイオード(APD)」の 2つだ。当然 APDを

 

2017年内の標準化を目指して、400Gbpsの伝送を実現する次世代イーサネット規格(400GbE)の検討が進んでいる。現在検討中の400GbE規格のうち、伝送距離が最大なのは「400GBASE-LR8」で、10kmまでの伝送に対応している。 しかし、モバイルバックホール回線などに 400GbEを適用するケースを想定して、もっと長い伝送距離を求める声もある。

NTTデバイスイノベーションセンタ(以下、DIC)では、10km超の長距離伝送を 400GbEで実現するための研究開発に取り組んでいる。「400GbEは標準化前の状態の

NTTデバイスイノベーションセンタでは、次世代イーサネット規格である400Gビットイーサネット(400GbE)の伝送距離拡大に向けた研究開発を進めている。最近の成果の1つが、アバランシェフォトダイオード(APD)という高感度素子を用いた400GbE用の受信モジュールの開発である。同受信モジュールを利用することで、現在検討中の規格の最大伝送距離10kmを超えた、約30kmの伝送ができる可能性がある。

アバランシェフォトダイオードを用いた400GbE用の高感度光受信モジュールを開発

4チャネルアレイ型APD

レンズ

FPC

マイクロレンズアレイ

PLC型波長分離素子 4チャネル線形TIA

TIA : トランスインピーダンスアンプFPC : フレキシブルプリント配線板

図1 開発した4チャネルAPD-ROSAの構成と外観

[アクセス・モバイル融合制御技術]

NTTデバイスイノベーションセンタスマートコネクションデバイスプロジェクト

[左から]プロジェクトマネージャ 木村 俊二氏主任研究員 吉松 俊英氏

次世代規格400GbEに向けて大容量化と長距離化が必要

400GbE用APD-ROSA実現の課題になると思われた変調方式

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9ビジネスコミュニケーション 2017 Vol.54 No.7

特 集 新ビジネス領域開拓の礎となるデバイスの創出に取り組む   NTTデバイスイノベーションセンタ特 集 新ビジネス領域開拓の礎となるデバイスの創出に取り組む   NTTデバイスイノベーションセンタ

Return to Zero)という変調方式を採用していた。これに対して PAM4では、0 ~ 3の 4値を使う。「0と1のどちらの状態かを判別できれば良かった NRZに対して、PAM4では 4つの状態を受信側で判別しなければならないため、できるだけ信号波形を劣化させないようにしなければなりません。それには、PDにおける入力光の強さと出力電流の関係が一定であることが重要です。つまり、PDの入出力特性が線形性を持つ必要があります。しかし、APD

は非線形的な入出力特性を持つため、400GbEへの適用は困難ではないかと予想していました。」(吉松氏)結果的にこれは杞憂だった。実際に APD-ROSAを作製して PAM4信号を流して検証したところ、APDの非線形性が信号波形に与える悪影響はほとんどなかったからである。「調査を進めると、出力電流の平均値は非線形的な特性を示す一方、TIAの許容入力レベルまで入力光のパワーを大きくしても、出力電流の PAM4波形の 0~ 3レベルのバランスは崩れることはなく、悪影響が出ないことが分かりました。」(吉松氏)

400Gbps用の APD-ROSAの研究開発は 2016年 10月までにひとまず終了し、図 1のような構成と外観の 4チャネル APD-ROSAを開発した。これ 1つで PAM4信号を使った 200Gbpsの通信に対応でき、400Gbps用の光トランシーバには

能であることを示したのは非常に大きな成果と言える。「今回の開発は比較的スムーズに進められました。ただそれは、NTTがこれまで培った要素技術があってこそだと考えています。」(吉松氏)近々、10km超の伝送距離に対応する 400GbE規格の標準化に向けた検討が始まる見通しである。そこでは、DICが開発した APD-ROSA

の性能をベースに議論が進められると予想されている。今後は、単体で 400Gbpsの通信

に対応できる ROSAの開発に取り組んでいく考えだ。ボーレート(変調速度)を 2倍にすれば 400Gbps

に対応できるが、実現はそう簡単ではないという。「物理的な限界が近づいていることもあり、一筋縄ではいきません。実装方法を最適化して高周波特性を改善することで何とか実現できるのではないかという感触を得ています。」(吉松氏)

2つの APD-ROSAを入れることで対応する。「2つ入れた場合にも、光トランシーバの最新規格 CFP8で規定されるサイズに収まるように、APD-ROSAのサイズを抑えました。」(吉松氏)作製した 4チャネル APD-ROSA

の受信特性を調べた結果が図 2である。縦軸がビットエラーレートを表し、これが赤線で示した誤り訂正の限界値を超えると信号を正しく受信できなくなることを意味している。開発した APD-ROSAの最小受信

感度はマイナス 21.2dBmで、これは 400GBASE-LR8が要求する最小受信感度に比べて 9.3dBも高感度である。つまり、400GBASE-LR8よりも伝送距離を延ばせることになる。「400GBASE-LR8の ROSAだけを今回開発したものに置き換えれば、約 30kmの長距離伝送が可能になると推定できます。」(吉松氏)400GbEで 10km超の伝送が可

入力光パワー OMAinner (dBm) -25 -20 -15 -10 -6

10-1

10-2

10-3

10-4 10-5 10-6 10-7

誤り訂正の限界値

チャネル1チャネル2チャネル3チャネル4

受信感度に9.3dBの余裕

400GBASE-LR8にて要求される最小受信感度(-11.9dBm)

検証したAPD-ROSAの最小受信感度(-21.2dBm)

最大10kmの伝送ができる400GBASE-LR8よりも受信感度に余裕があり、伝送距離を約30kmにまで延長できる可能性がある

ビットエラーレート

図2 4チャネルAPD-ROSAの受信特性

APD-ROSAの受信特性を調査し約30kmの伝送可能性を確認