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商学論集第7§巻第3号 2§絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践 直接法情報の有効活用に向けて 蓋問題提起 「財務分析」や「経営分析」と銘打った書籍を紐解くと,様々な分析手法(あるいは分析指標〉に ついての解説が行われている至}。そこで取り上げられている手法の多くは,貸借対照表や損益計算書 をデータソースとするものである。具体的には,損益分岐点分析,資本利益率分析,流動性分析な どと呼ばれる分析手法であり,それらは標準的手法として一般に受け入れられている。 一方,キャッシュ・フロー計算書をデータソースとする分析手法については,その解説に割かれ る分量が相対的に少ないように思われる。また,損益分岐点分析を始めとする上記の分析手法と比 較すると,その認知度も低いと言わざるをえない。 日本において,キャッシュ・フ冒一計算書は2§○○年3月決算期から財務諸表の一つとして位置づ けられた。財務諸表として歴史は,貸借対照表や損益計算書と比較すると圧倒的に短い。キャッ シュ・フローに関する財務分析指手法の認知度の遅れは,キャッシュ・フロー計算書の歴史の浅さ を鑑みれば当然のこととも言える。 しかしながら,財務諸表を一種の精報媒体として捕らえると,それを作成(発信/するだけでは あまり意味を持たない。財務諸表の利罵者(受信者/がその内容を解読し,意思決定に活飛しては じめて情報媒体としての意昧を持つ。キャッシュ・フロー計算書もまたその例外ではない。 本稿では,このような問題意識のもとで,キャッシュ・フ讐一計算書をデータソースとした財務 分析手法の一つとしての「キャッシュ・フロー構成比分解分析」について論じる。この分析手法は, 個別企業におけるキャッシュ・フローの構造変化の概観を時系列的に把握するのに有効な手法であ る。本稿ではケーススタディを織り交ぜて,その内容について明らかにしたい。論述に際しては, キャッシュ・フ蟹一に関する分析手法を考察するための前提として,現在開示されているキャッ シュ・フロー計算書の計算構造的特徴にも言及することとする。 蟹内外において数多くの文献が公刊されているが,嚢本の代表的文献として,経本経営分析学会[2§飼を 挙げておきたい。 9 借3

キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

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Page 1: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商学論集第7§巻第3号  2§絡年3月

【論 文】

キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

直接法情報の有効活用に向けて

佐 藤 靖

蓋問題提起

 「財務分析」や「経営分析」と銘打った書籍を紐解くと,様々な分析手法(あるいは分析指標〉に

ついての解説が行われている至}。そこで取り上げられている手法の多くは,貸借対照表や損益計算書

をデータソースとするものである。具体的には,損益分岐点分析,資本利益率分析,流動性分析な

どと呼ばれる分析手法であり,それらは標準的手法として一般に受け入れられている。

 一方,キャッシュ・フロー計算書をデータソースとする分析手法については,その解説に割かれ

る分量が相対的に少ないように思われる。また,損益分岐点分析を始めとする上記の分析手法と比

較すると,その認知度も低いと言わざるをえない。

 日本において,キャッシュ・フ冒一計算書は2§○○年3月決算期から財務諸表の一つとして位置づ

けられた。財務諸表として歴史は,貸借対照表や損益計算書と比較すると圧倒的に短い。キャッ

シュ・フローに関する財務分析指手法の認知度の遅れは,キャッシュ・フロー計算書の歴史の浅さ

を鑑みれば当然のこととも言える。

 しかしながら,財務諸表を一種の精報媒体として捕らえると,それを作成(発信/するだけでは

あまり意味を持たない。財務諸表の利罵者(受信者/がその内容を解読し,意思決定に活飛しては

じめて情報媒体としての意昧を持つ。キャッシュ・フロー計算書もまたその例外ではない。

 本稿では,このような問題意識のもとで,キャッシュ・フ讐一計算書をデータソースとした財務

分析手法の一つとしての「キャッシュ・フロー構成比分解分析」について論じる。この分析手法は,

個別企業におけるキャッシュ・フローの構造変化の概観を時系列的に把握するのに有効な手法であ

る。本稿ではケーススタディを織り交ぜて,その内容について明らかにしたい。論述に際しては,

キャッシュ・フ蟹一に関する分析手法を考察するための前提として,現在開示されているキャッ

シュ・フロー計算書の計算構造的特徴にも言及することとする。

葺 蟹内外において数多くの文献が公刊されているが,嚢本の代表的文献として,経本経営分析学会[2§飼を

 挙げておきたい。

9借3

Page 2: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商  学  論  集 第鴨巻第3号

2 分析対象データの準備 事前分析

箔1 薩接法情報の編集

表工は醤本において現在開示されているキャッシュ・フ蟹一計算書の雛形である。この雛形に示

されているように,キャッシュ・フロー計算書は3区分から構成されている2)、

        表i キャッシュ・フロー計算書

工営業活動によるキャッシュ・フ蟹一   税引前当期純利益

   減懸纏却費

   貸倒引当金の増撫額

   受取利息及び受取醗当金

   支払利息

   有形羅定資産売却益

   損害賠嬢損失

   売上績権の増撫額

   たな卸資産の減少額

   仕入績務の減少額

     小  計   稗、懸及び醍当金の受取額

   利息の支払額

   損害賠償金の支払額

   法人税等の支払額

  営業活動によるキャッシュ・フ窪一

叢 投資活動によるキャッシュ・フ聾心

   有無証券の取得による支串   有極証券の売去舞こよる収入

   有形国定資産の取得による支出

   有形固定資産の売却による駿入

   投資有癒證券の取得による支出

   投資有極証券の売却による収入   貸付け1こよる支蔑

   貸付金の懇鞭による収入

  投資活動によるキャッシュ・フロー1藝 財務活動畢こよるキャッシュ・フ冒一

   短期倦入れによる叡入   短難儀入金σ)返済による支出

   長甥借入れ1こよる収入

   長蟻欝入金の返済による支譲

   社績の発行による駿入

   社縫の償還による支鐡

   株式の発行による取入   自己株式4)取得による支墨

   醗当金の支払額

欝草聖

 ×××

 ×××

 ×××

一×××

 ×××

一×××

 ×××

一×××

 ×××

一×××

 ×××

 ×××

 ×××

一X××一×××

 ×××

一×××

×××

   財務活動によるキャッシュ・フ欝一現金及び現金同等物の増撫額(又は減少額/

現金及び現金舞等物の窮首残高

現金及び現金講等物の鰯宋残高

一×××

 ×××

一×××

 ×××

一×××

 ×X×一×××

 ×××

 ×××

 ×××

 ×××

一×××

 ×××

一×××

 ×××

一×××

 ×××

一×××

一×X× ×××

 ×××

×××

×××

×××

2/表iは,財務諸表等規則様式第五号として示されている雛形に,若干の変更を加えたものである。纒雛べ一

  スの雛形を示したのは,連結難有の問題を避けてキャッシュ・フ灘一計算書の構造を理解するためである。

一6§一

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佐藤:キャッシュ・フ簸一構成比分解分析

 これらの区分のうち,H投資活動によるキャッシュ・フロー(以下,投資キャッシュ・フ蟹一)と

醗財務活動によるキャッシュ・フ讐一(以下,財務キャッシュ・フロー〉の区分には,収入または

支出の諸項目が総額ベースで記載されている。さらに,それぞれの区分において,収入と支出の差

額として純収支額が計上されている。

 これと比較すると,i営業活動によるキャッシュ・フ冒一(以下,営業キャッシュ・フロー)の区

分は,その様相を全く異にしている。

 至営業キャッシュ・フローの区分は,「小計」を挟んで2つの部分に細分されている。そのうち,小

計以降の部分には,受取額および支払額という総額ベースのキャッシュ・フロー項目が示されてい

る。その意昧で,小計以降の部分とRおよび璽の区分に示される諸項目は同種のものである。しか

し,小計以前の部分には,収入(または受取額〉や支出(または支払額)という欝語は見当たらな

い。そこに記載されているのは,税引前当期純利益と各種の収益・費用項鼠 さらには売上債権・

たな卸資産・仕入債務といった資産および負債の増減額である。

 表蓬は,i営業キャッシュ・フローの区分について,間接法と呼ばれる表示方法を採用して表示し

た場合の雛形である。闘接法を採弔した場合,当該区分の小計以前の部分については,総額ベース

での収入と支出は表示されない。表示されるキャッシュ・フ冒一は,収入から支出を引いた差額と

しての純収支額(鍵t嬢誌飾w)だけである。

 本稿で取り上げるキャッシュ・フ冒一構成比分解分析は,総額ベースでの収入と支出の構造変化

を明らかにしょうとするものである。営業キャッシュ・フローに関する限靱表iの雛形にはそれ

が示されていない。よって,この雛形にしたがって作成されたキャッシュ・フロー計算書は,その

ままの形では本稿での分析のデータソースとはならない。

 i営業キャッシュ・フ冒一の区分についても,王{および璽の区分と同様に,総額ベースで収入と

支出を表示する方法もある。それは直接法と呼ばれる方法である。しかし,類本における開示実務

の現状を見ると,ごく一部の例外を除いて,ほとんど全ての企業が間接法を採弔している。表iに

おいて,キャッシュ・フ縫一計算書の雛形として間接法を採弔したものを示したのは,この現状を

鑑みてのことである。

 ただし,営業活動による収入と支出の金額は,間接法によるキャッシュ・フ冒一計算書をデータ

ソースとして編集することが可能である。この編集を事前分析として行えば,キャッシュ・フロー

構成比分解分析は,現状の開示実務のもとでも実践可能な分析となる。

 営業活動による収入と支轟を編集する論理は,実は,間接法によるキャッシュ・フロー計算書の

計算構造に潜んでいる。その計算構造については,既に佐藤瞬§3]で論じているが,その概要を

再度示せば次の通りである(佐藤[鴉総〕,雄ぞ2頁参照)。

 {営業キャッシュ・フローの区分の小計以前には,次の2種類の調整計算が示されている。すなわ

ちそれは,①税引前当期純利益を営業利益に転化させるための調整計算,および,②営業利益を

主たる営業活動によるキャッシュ・フローに転化させるための調整計算である。このうち②は,主

たる営業活動による利益とキャッシュとの差異要因を示すものであ甑至の区分の核心部分を構成

する。

 ②の調整計算の計算構造は次の式で示される。この式を「利益キャッシュ関係式」と名づけるこ

一6i一

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商  学  論  集 第76巻第3号

とにする$}。

(数式i) 丞4ε筑4G}+{一議4罵÷4L+」α}

 メ総:キャッシュ  〆簸。:非キャッシュ資産  L二負優

 Cぺ資本(当期利益を除く/  C妬当期利益 」:増減

 数式iは複式簿記の計算構造から導出されたものであり,全ての会計データ(勘定記録〉を対象

として成立する。また,特定範囲の会計データに限定しても,この数式は成立する。前記②の調整

計算は,主たる営業活動についての会計データに限定して数式iを適用したものである。

 数式iの右辺の中括弧に示されている諸項が,利益とキャッシュの差異要因である。表iの具体

的項目で言えば,減磁憤却費,売上債権の増加額,たな卸資産の減少額,仕入債務の減少額がそれ

に該当する。営業利益にこれらの金額を加減算することにより,キャッシュの増減額が算出される

のである。

 売上債権とたな卸資産は非キャッシュ資産(キャッシュ以外の資産)である。この非キャッシュ

資産の増減額は,数式iでは孟4醐という項で表されている。この項にはマイナスの演算符号が付

されている。したがって,キャッシュの増減額孟曳を算出する際には,非キャッシュ資産の増加額

は引き算され(正の値の引き算),減少額は足し算される(負の値の引き算〉。このことは,売上債

権やたな卸資産については,その増加がキャッシュの減少要因となり,その減少がキャッシュの増

加要霞となる,ということを意味している。なお,減癒償却費は国定資産という非キャッシュ資産

の減少を意味するため,キャッシュの増加要因となる勢。

 仕入債務は負債であり,数式iではJしという項で表されている。この項にはプラスの演算符号が

付されている。したがって,仕入債務の増加はキャッシュの増撫要因となり,その減少はキャッシュ

の減少要因となる。表玉では仕入債務の減少額が例示されているため,当該項目の金額はマイナス

となっている。

 キャッシュ・フロー計算書に記載されているこれらの諸項目は,既述の通り,数式茎を主たる営

業活動ついての会計データに適用して求められたものである。同様の論理で,会計データの範囲を

変えて数式iを遍羅すれば,売上収入と仕入支出を算出することができる(佐藤[20群3],23ぞ5頁

参照蹄。

(数式2〉  売上収入(」ん〉盤売上高(JCの一売上債権の増減額(」メ疑ε)

(数式3〉  仕入支出(コん〉二売上原緬(4Cの一商品の増減額(」メ疑)+仕入債務の増減額(」駐

 数式2は,商品の販売取引および売上鐘権の回収取引に関する会計データに限定して,数式iの

利益キャッシュ関係式を適濡したものである。この数式2より,商品の販売活動を通じて得られた

3) 講整計算の数式表理については.石摺1鎗§5窪から多くを学んでいる.

の より厳密に言えば,キャッシュ農)増加要霞とは,営業利益の金額を超えてキャッシュが増撫する要襲である。

  また,キャッシュの減少要震とは,キャッシュの増灘額が営業利益の金額を下凝る要馨である。

5/ 直接法を採霧してキャッシュ・フ蓑一計算書を作成する際にも,この論運を購いることができる。具体釣手

  法については,友蟹1鎗解iの鱗嚢紅おいてワークシート方式で説明されている。

一62一

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佐藤1キャッシュ・フ讐一構成比分解分析

収入の総額を算出することができる。

 同様に数式3は,商品の仕入れおよび払い出し取引,仕入債務の決済取引に関する会計データに

限定して,利益キャッシュ関係式を遍羅したものである。この数式3より,商晶の仕入れに要した

支出の総額を算出することができる。

 数式3および数式4の右辺の諸項のうち,売上高と売上原懸のデータについては損益計算書から

得られる。また,売上債権の増減額,商品の増減額(たな卸資産の増減額〉,仕入債務の増減額に関

するデータについては間接法のキャッシュ・フ冒一計算書から得られる鱗。したがって,慶に開示さ

れている財務諸表をデータソースとして,商品の売上収入および仕入支出というキャッジュ・フロー

の値を算出することが可能となるのである.

 主たる営業活動に関するキャッシュ・フ冒一としては,これらに加えて,販売費及び一般管理費

に属する費罵支出(以下,販管費等支出と呼ぶ)がある。ただし,この支出項欝は多蔽にわたるた

め,上と同様の方法で項目響彗に算超することは現実的ではない。そこで,販管費等支出については,

次の数式に基づいてその総額を算出する7》。

(数式嘆) 販管費等支出二小計一売上収入一仕入支出

 小計とは主たる営業活動によって生じた純収支の金額である。キャッシュ・フロー計算書では,税

引前当期純利益を計算の起点とした調整計算とともにその金額が計上されている。この小計の金額

は,総額ベースのキャッシュ・フローで表現すれば,正の値としての売上収入と負の値としての仕

入支出と販管費等支出を合算した金額に他ならない。したがって,数式凄によって逆算的に販管費

等支出は算出されるのである。

 以上のように,数式2,数式3,および数式4によって,主たる営業活動による収入と支出の諸項

欝がそれぞれ総額として算出されうる。そこで算出された値が,本稿で取り上げるキャッシュ・フ

讐一構成比分解分析の分析対象データとなる。その意味では,これら3つの数式は,当該分析を行

うための事前分析の数式と言えよう.

 本稿でケーススタディの対象とするドラッグストアM社は,上場企業であるため,貸借対照表と

損益計算書に加えてキャッシュ・フロー計算書を作成開示している。同社のキャッシュ・フ霞一計

算書は,飽のほとんどの上場企業と同様に,亙営業キャッシュ・フローの区分について闘接法を採用

している。したがって,キャッシュ・フ獲一構成比分解分析を行うためには,上述の事前分析が必

要になる。

 表2はM社に関する事前分析の具体的内容を表示したものである。

§/売上債権,たな鐸資産,仕入籏務の増絃額は,計算機造上,当鰯と繭期の貸借対照表1こ記載されている当該

  項印)金額を比較しても算崖される。ただし,露示されている財務諸表をもとに実際1こその計算を行う払そ

  の計算結果がキャッシュ・フ灘~計算書に記載されている金額と一致するとは隈らない。その理由はケース

  のよって様々であろう(例えば,売.L積権は貸倒1こよっても減少するが,キャッシュ・フ灘一計算書では売

  上儀権の増減額から外される,といったことが考えられる/。これらの増減額1こついて嫉本稿で織キャッ

  シュ・フ窟一計算書に記載されている金額を購いることにする。

7) 数式4を驚いた計算では,収入には歪の髄,支轟には負の纏が代入され,駁管費等支鐵は負の値として算墨

  される。

一63一

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商  学  論  集 第76巻第3号

表2羅社のキャッシュ・フ讐一(事前分析〉

雛3年度 醗4年度 欝§年度 簸鰺年度 鐙7年度 搬8年度

(葺        売上高 25§,278 267,解5 275,5鮪 3総,3i2 鍛2,盤2 3蟻5,違縫

(2/        売上撰権の増減額6鈴 餌一嵩     ■  23§鵬  一一

  5警『影壁

i,7麺 i,3弱 §43

(の        売上原麺 一i鱗,232 一i鱒,369 一2§3,鎗§ 一225,蓬2馨 一22§,娼2

粥              聾灘

黷Q§2,§33

⑤        たな鐸資産の増減額 i,23蓋 蓬,23蓬 7,蓬3蓬 3,至聖 遷,2軽 至,欝違

(§〉        仕入綾務の増減額         一個                    簾葦 3,茎2§ 2,3懸

  一387酬

茎,盤3 6綴一 舘     一

   §i5躍   一

(8/        小計 i5,8綴 騒,5灘 §,騒7 i5,57§ i3,7i2 欝,824  毎                         三鼎 「

h“ 『棚    諏 楓“「■  ■■

(単位:颪万円〉

 既述の通り,表2に示されている「売上収入」,「仕入支出」,「販管費等支出」はキャッシュ・フ

β一の総額データである。その意味では,小計以降の諸項目,さらには登投資キャッシュ・フロー,

盤財務キャッシュ・フローの区分に示されている諸項目と同じ性質のデータと言える。

 この事前分析は,営業活動,投資活動,財務活動によるキャッシュ・フ冒一について,そのデー

タの性質を共通化する作業である。それによって,営業キャッシュ・フ滋一を含め,キャッシュ・

フ冒一の活動溺データを一括して分析対象とすることが可能となる。これで,キャッシュ・フロー

構成比分解分析を行うための第i段階の準備が整うことになる。

 2-2キャッシュ・フ縫一の分類と構成比率の算出

 各会計期間におけるキャッシュ・フ讐一の金額は,その期における企業活動内容を反映したもの

となる。各期のキャッシュ・フ冒一を比較して,そこに大きな変化が見られる場合は,企業活動内

容およびその元となった経営者の意思決定の変化の表れとして注視する必要がある。

 キャッシュ・フ窪一の変化は,個々のキャッシュ・フ讐一項目に着目することにより確認される。

ただし,個溺項欝を見ただけでは,キャッシュ・フローの概観を把握することは困難である。言わ

ば「木を見て森を見ず」といった状況に陥りかねない。

 キャッシュ・フローの概観を麺握するためには,個々のキャッシュ・フ誓一項目を幾つかのカテ

ゴリーに分類したうえで,相互に比較することが有効である。キャッシュ・フローが活動別に分類

されているキャッシュ・フ讐一計算書は,キャッシュ・フローの概観を知る際の手掛かりとなりう

る。

 もちろん,財務分析を行うにあたって,開示されているキャッシュ・フロー計算書の分類に従う

必要は必ずしもない。ただし本稿では,財務分析のデータソースとしてのキャッシュ・フロー計算

書の有馬性を探る意味でも,当該計算書における活動甥分類に従うことにする。

 そのうえで,インフロー(収入)かアウトフロー(支出〉かという視角からの分類を加えて,キャッ

シュ・フローを6分類する。すなわち,「営業収入」,「営業支出達,「投資取入」,「投資支串」,「財務

収入」.「財務支出」の6分類である。

 なお,分類に際しては,キャッシュ・フローの総額データ(gross雛。騰t d畿3)のみをその対

一騎一

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佐藤:キャッシュ・フ冒~構成比分解分析

象とする。キャッシュ・フロー計算書には各活動別に純収支額が記載されているが,それは純額デー

タ(麗t撚○難tδ3t&)であるため直接的分析対象からは外れることになる。キャッシュ・フ冒一

構成比分解分析では,純額における変化は総額における変化の結果である,という理解のもとで分

析を進める。

 開示されているM社のキャッシュ・フ霞一計算書1こ基づいて,キャッシュ・フ冒一を分類した結

果を表示したものが表3である。

表3 M社のキャッシュ・フβ一(§分類/

田3年度 雛垂年度 }鷺5年度 雛6年度 }賢7年度 雛8年度

営業取入 255,§鎗 2総,書騒 275,552 3巷3,§欝 3ii,§纒 3轟,鱗2

営業支墨 2蕊,倉2巷 258,護77 273,総3 29§,i懸 3縣,8鵜 327,欝欝

投資叡入 2,76i 3琴 灘 2,総8 i,縫7 3,223

投資支出 2,83§ 3,懸7 §,鍵董 5,32暮 8,672 欝,欝2

財務薮入 簸,曇春巻 7,倉(鎗 欝,鱒む 2i,635 登,窪56 8,春曇彗

財務支鐵 至8,543 ii,767 7,遵2倉 驚,慈78 欝,轄i i5,3総

総収支 53轟,7§§ 548,鎗2 575,ε鱒 6麟,3i3 6磐,欝6 7i8,558

1参考1

営業収支(純額)

且綜緖x(純額〉

燒ア収支(純額〉

欝,6驚

@一75|7,騒3

 8,37填

黷R,§37

齔q,7§7

 i,8欝

黷W,§5零

@2,58(1

 8,淫2§

黷R,258

@5,欝7

 5,符8

|7,鑓5

@975

 露,鮪蓬

黶I5,粥§

黷V,3§3

合  計 2,鈴2 一3鐙 一垂,銘9 鱒,325 一鐙2 一6,3{}8

(単位:頁薄霧)

 表3において,「営業収入」と「営業支出」の金額には,24における事前分析によって算出され

た売上収入,仕入支出,販管費等支出の金額のみならず,利息の受取額や支払額といった主たる営

業活動以外の収支額も含まれている書》。また,「投資収入」と「投資支出」は,1i投資キャッシュ・

フ灘一の区分に記載されている収入と支出の諸項目をそれぞれ合計したものである。同様に,「財務

収入」と「財務支出まについては,田財務キャッシュ・フローの区分に記載されている収支諸項目

から合計額を算出している。

 なお表3では,支出額も収入額と同様に正の値として取り扱われている,という点に注意された

い。その結果,総収支額は収入額と支出額の合計額となっている。

 キャッシュ・フローを分析するにあたり,表3に示されているような金額の変化に着目すること

はもちろん重要である。ただし,例えば営業収入と営業支出の金額が同じ増加率で変化した場合に

は,営業内容の変化というよりは規模の変化と理解すべきであろう。キャッシュ・フローの構造的

変化を探るためには,規模の変化を捨象する必要がある。

 規模の変化を捨象する方法としては,金額を構成比率に変換する方法がある。表婆は,M社にお

けるキャッシュ・フローの各項目の構成比率を求めたものである。

 8〉表葺こ示されているように,至営業活動によるキャッシュ・フローの小計以降には,主たる営業活動,投資

  活動,財務活動のいずれにも含まれない様々なキャッシュ・フローがまとめて表示されている。

一65一

Page 8: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商  学  論  集 第罵巻第3号

表蓬M社のキャッシュ・フ欝一(構成比率/

膿3年度 董灘嚢年痩 雛5年度 搬§年度 騰7年度 蕪建年度

営業収入 塁7.7% 磐.7% 雌7、警% 逢7.亜% 磐.§% 銘.§%

営業支鐡 薦、7% 薮、2% 蓬7.5% 蕊.霧% 護7.董% 蕊、6%

投資暇人 曇.5% §.§% §.§% 巷.3% §.2% §.蓬%

投資支崖 §.5% 暮.7% 工.§% 蓼.8% 董.3% 2.7%

財務薮入 2、i% 至.3% i.7% 3.縫% 亙.8% 董.i%

財務支離 3.5% 2.i% i.3% 2.6% i.§% 2.玉%

総収支 騰む.§% 緯書.§% 鶏群、§% 欝春.§% 驚§.§% 鶏群.§%

 表編こ示された構成比率は,収入ないし支出の各項目を総収支額で割り算した値である。換言す

れば,キャッシュ・フ冒一の方向(1離owか鰍絹owかの違い)を問わずに総流量(総収支額/を愛

として,収入および支出の各項目の流量(金額〉の比率を求めたものに他ならない。

 表3において,純収支額が参考として分けて表示されているのは,このような構成比への変換を

醗んでのことである。純収支額は,収入と支出の差額であるため,負の値をとりうる。負のデータ

は構成比率を用いた分析には麟染まない。

 財務分析領域における構成比分解分析は,Lev[ig69]や丁員el耗ig72]に見られるように,もっ

ぱら貸借対照表をデータソースとして論じられてきた。その最大の理由は,負のデータを扱わずに

済むという点にある。損益計算書をデータソースとして利益額をも直接的な分析対象とすると,負

のデータを援わざるを得なくなる。キャッシュ・フ蓑一計算書をデータソースとした場合も同様で

ある。私見によれば,構成比分解分析の財務分析領域へのさらなる応用を遅らせた原因はこの点に

ある。

 ただし,これまでに論じたように,次の方針で分析対象データを編集すれば,構成比分解分析は

フローデータにも遍羅可能となる彰。すなわちそれは,①フローの方向を闘わずに流量に着目する

(データを全て正の値として取り扱う〉,②純額を直接的な分析対象としない,の2点である。

 表3と表編ま,このような方針のもとで,2謹で論じた直接法情報の編集に続く第2段階の事前分

析の結果を表示したものである。これによって事前分析は完了し,キャッシュ・フロー構成比分解

分析の本分析に進むことになる。

3エントロピー情報の灘定 本分析

3{ 分析指標と情報キャッシュ・フ霞一計算書

 キャッシュ・フロー構成比分解分析で用いられる灘定尺度は,エントβピー織trのy〉と呼ばれ

るものである。それは次の数式で表される麟。

9/餅務分析領域1こおける構成比分解分斬のフ買一データヘの遺勲こついては,佐藤艶8鑓,Sato li鰭磯,佐

  藤li鈴7」,S畿曲[鎗§韓,佐藤憂欝嚢鑓を参照されたい。

婚〉 34の内容については,S段勧1欝鱒涯の欝.菅翻購5,佐藤1艶編の33一灘頁,佐藤・佐藤1鎗鰯の臆㍗

  m頁をそれぞれ参照されたい。

一66一

Page 9: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

佐藤:キャッシュ・フロー構成比分解分析

  (数式5)  1皿Σ4ガ董。墓童              森

 ここで声ゴと¢ゴは,異なったポイント(時点や難問など)において,ある対象をぎ分割した際の各

要素の構成比率を示している。したがって,ΣあとΣ畠はいずれもiとなる。1で示されるエント

資ピーは,その構成比率の変化(ρゴから4ゴヘの変化〉の度合いを総合的に定量化する灘定尺度であ

る。

 キャッシュ・フ讐一構成比分解分析では,表4に示されているような構成比率データをもとに1

を算鐡する。表蓬のデータと数式5との対応関係を明らかにするために,隣接する2会計期間(ズ期

と齢i期)のキャッシュ・フローの各構成比率をマトリックス形式で示せば表5のようになる。

表5キャッシュ・フローの構成比率マトリックス

取入/ノ⇒/ 支鐵(井2〉 ム購 計

営業活動(露聾

且相�ョ(仁2〉

燒ア活動(鈷3/

擁     躯

�@   幽

�@   磁

擁    伽

セ    伽

{    礎

♪玉.

タ2.

早D

儀42.晦.

合計 ♪.童    4題 声.2    磯 茎

愈♂年度の各種キャッシュ・フ震一の構成比率

劇ピ÷i年度の各種キャッシュ・フ冒一の購成比率

ぬ企業活動の種類  六取入または支墨

 表§に表示されている記号に対応させて,数式5を書き換えれば次のようになる。この数式によっ

て定義づけられるエント讐ピー1σを「キャッシュ・フロー情報」と名づける。

                      き  を  (数式6〉キャッシュ・フロー情報11、ダ郡ΣΣ4ゴ’log壷                      仁i戸里    声夢

 キャッシュ・フロー情報は,6分割されたキャッシュ・フ欝一の全てに着目して,その構成比率の

変化度合いを定量化したものである。換言すれば,キャッシュ・フローの構造が全体的にどの程度

変化したのかを,エントロピー1びというiつの値に集約させて指し示すのがキャッシュ・フ讐一情

報に他ならない。

 キャッシュ・フ霞一構成比分解分析を行う際には,まずは,このキャッシュ・フ霞一情報を算出

する。その値が大きい年度(年度閣〉には,キャッシュ・フローに影響を及ぼすような何らかの企

業活動内容の変化があったものと推察される。ただし,この情報だけでは,キャッシュ・フローの

何れの構成要素に変化があったのかを特定化することはできない。

 そこで,キャッシュ・フ誓一情報に加えて,以下のような各種のエントロピー情報も同時に算出

する。これらの情報は,特定の構成要素に限定してその構成比率の変化の度合いを灘定するもので

ある。まずは,その算出式を示せば次の通りである。

  (数式7)収備報輩蛤1・鵜傷

一67一

Page 10: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商  学  論  集 第76巻第3号

(数式8)

(数式§〉

(数式欝/

(数式ii)

支出鎌髭舞納雛1

営業活輪報輩撫㌘ 鑑r

投資活輪報距離地離r

財務活購貼譲撫9雛r

 収入情報振は分析対象を収入要素に限定して,活動璃取入(営業収入,投資収入,財務収入/の

構成比率の変化度合いを示す指標である。姦を求めるにあたっては,収入全体が玉となるように,活

動購取入の構成比率が算出される。数式7において,あiと伽がそれぞれか.玉と4.iで割り算されて

いるのはそのためである。

 支出情報みは分析対象を支出要素に限定して,活動別支出(営業支出,投資支出,財務支出/の

構成比率の変化度合いを示す指標である。収入情報と同様の理由で,数式8では,擁と擁がそれ

ぞれ声.2と4.2で割り算されたうえで支出情報1pが算出されている。

 営業活動情報為は,分析対象を営業キャッシュ・フ置一に限定して,営業活入と営業支出の構成

比率の変化度合いを示す指標である。んを求めるにあたっては,営業キャッシュ・フΩ一全体が1

となるようにキャッシュ・フ露一の構成比率が算出される。すなわち,数式9に示されているよう

に,動と砺がそれぞれ森、とαi.で割り算された比率があの計算要素となる。

 投資活動情報みは,分析対象を投資キャッシュ・フローに限定して,投資薮入と投資支出の構成

比率の変化度合いを示す指標である。同様に,財務活動椿報轟は,分析対象を財務キャッシュ・フ

ローに限定して,財務収入と財務支出の構成比率の変化度合いを示す指標である。数式鴻と数式H

では,各活動におけるキャッシュ・フロー全体がiとなるように各構成比率が算出されたうえで,み

とみの計算要素となっている。

 これらの情報にさら1こ次の2つの情報が加えられれば,より多角的な分析が可能となる。その情

報とは,6分割されたキャッシュ・フローを上位分類に統合したうえで求められるもので,算出式は

次の通りである。

               え(数式i2) 収支配分情報:/欝.二Σ441094ヴ              洞    声.プ

                ま(数式i3〉活動懸配分欝報:1ア湾=Σ4ゴ.亜。募童二

               団    あ.

 収支配分情報は,活動の種類を問わずに,収入か支出かというキャッシュ・フローの方向の違い

に着目して算出される情報である。すなわちそれは,総キャッシュ・フ讐一に対する総収入と総支

出の構成比率の変化度合いを示す指標である。この値が大きいと,収支差額としての純収支額にも

大きな変化が見られることが予想される。

 活動購配分情報は,キャッシュ・フローの方向を問わずに,キャッシュ・フローを生ぜしめた企

業活動の種類の違いに着雪して算出される情報である。すなわちそれは,総キャッシュ・フローに

対する総営業収支と総投資収支,および総財務収支の構成比率の変化度合いを示す。この情報によ

一68一

Page 11: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

佐藤:キャッシュ・フ灘一構成比分解分析

り,企業活動の力点の変化を推離することができる。

 以上の各エントロピー情報の相互関係を一覧表示したものが,表6の情報キャッシュ・フロー計

算書である。この表から明らかなように,キャッシュ・フ讐一情報は,収入情報と支出情報の加重

平均値に収支配分情報を加えた値に等しくなる。また,営業活動情報,投資活動情報,財務活動情

報の加重平均値に活動別醜分精報を加えた値も,キャッシュ・フロー情報に等しくなる。

表§情報キャッシュ・フ震一計算書

鞍 支 分 類 活動購分類

収入情報

x墨情報

島/舜

営業活動情報           ん

且相�ョ情報          /1

燒ア活動情報          轟

加重平均

緖x醗分精報

穿.轟÷4.21避

@ 1羅

撫重平均         4玉.ん+畿.ゐ+礁轟

�ョ甥配分情報         1鷺

キャッシュ・フ鷺一構報 1び キャッシュ・フロー欝報 1ぴ

 実際の分析を行う際には,この情報キャッシュ・フ狐一計算書を作成する必要は必ずしもない。た

だし,分析結果を検証するために,この計算書に示されている方法でキャッシュ・フ冒一情報1びを

改めて算出し,その結果が数式6に基づいて算畠された値と一致することを確認することが好まし

い獅。

3老 分析プ目セスと結栗

キャッシュ・フロー構成比分解分析のプβセスを流れ図の形で示したものが,図iである。

i事繭分析  ①直接法情報の編集

  ②キャッシュ・フ冒一の分類と構成比率の算出

        ↓

2本分析  ①各種エントロピー情報の算出

  ②算出結果のグラフ化

        毒

3 分析結果の検討

  ①各種エント冒ピ一構報と構成比率および実数値との比較検討

  ②間接法梼報との比較検討

  ③飽の財務分析指標との比較検討

     霞蓋 キャッシュ・フロー構成比分解分析のプロセス

董の この検証計舞の証明については,佐藤1欝8司のi7/H7i頁を参黙されたい。

一69一

Page 12: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商  学  論  集 第孫巻第3号

 キャッシュ・フロー構成比分解分析は,24および2ぞで述べたような,分析対象となるデータを

準備する事前分析から麗始される。

 醗述の通り,直接法情報の編集(事前分析①〉は損益計算書とキャッシュ・フロー計算書(間接

法〉をデータソースとして行われる。M社に関するこの段階での事前分析の結果は,表2として示

した通りである。

 キャッシュ・フ窪一の分類,およびそれに基づくM社の各種キャッシュ・フローの構成比率も,

慶に表逢として示した(事前分析②/。なお,キャッシュ・フローの分類はこれ以外にも行われうる,

という点を再度付言しておきたい。分析目的に応じて,分析対象籔囲の限定の仕方も含めて,分類

は多種多様に行われうる。どのような分類を行うかがキャッシュ・フロー構成比分解分析の要諦と

なる。この点については,新たな分析の具体例とともに次節で改めて論じる。

 分析結果(本分析①)としての各種エントロピー情報を時系列で表示したのが,表7である。各

種梼報を算出するにあたっては,対数の底を2として計算した。したがって,灘定単位はb量tsとな

り,さらに計算結果を見やすくするために,推尊雛sで表している。もちろん,自然対数や常屠対

数を篤いて計算してもなんら問題はない。

表7 嫉社の分析結果(各種エントロピー精報〉

鐙3護漿年度 鐙を蔦年度 欝§一驚年度 穣6穫7年度 膿7一鰺年度

キャッシュ・フ賞一特報 蕪5.3 93.8 3欝.6 i2逢.8 捻3.2

収入精報 茎懲.暮 23.§ 韓董.騨 i弱、5 8§.9

支鐡情報 鱈.§ i§2.2 2総.8 鰺.8 i75.玉

営業活動情報 §.2 i.i (1.8 軽.2 エ.8

投資活動縫報 §,i73、3 2.9 i2,257.§ 重,273、亙 鐙、蓬

財務活動精報 魯、馨 i,i鱗.8 工.2 総.2 §35.9

収支配分精報 §.3 倉.荏 蓬.至 2.2 倉.蓬

活動霧翫分轄報 78.3 56.§ 馨§.i 欝3.6 98.逢

(単位:緯一号疑ts〉

 分析結果から所見を導き出すにあたっては,時系列のグラフを作成して,結果を視覚化すること

が好ましい。図2はキャッシュ・フ蟹一情報の分析結果に基づいて作成したグラフである。

 このグラフを読み取る際には,次の点に注意する必要がある。それは,グラフに表されている値

の大きさは隣接する2会計期間でのキャッシュ・フローの構造変化を示している,という点である。

グラフの動きは,分析対象期間全体にわたるトレンドを示しているものではない。捧グラフを弔い

ているのは,この点を意識してのことである。

 キャッシュ・フβ一情報以外の各種情報について,その分析結果をグラフ化したものが図3であ

る。分析対象領域を限定した場合のキャッシュ・フローの構造変化が概観されうるように,このグ

ラフは積み重ね棒グラフとなっている。ただし,積み重ね後の棒グラフの高さはキャッシュ・フロー

全体の構造変化の度合い(キャッシュ・フロ~情報の値〉を示すものではない,という点に注意が

必要である。この点については,表6の構報キャッシュ・フロー計算書で,各種情報相互間の関係

を改めて参.照されたい。

一簿一

Page 13: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

佐藤ニキャッシュ・フロー構成比分解分析

欝鰯i七s

3灘

3韓

2灘

2(矯

亙欝

欝魯

5酵

§

  醗3通垂年度

…霧

襲冊

  -/

^〆  //〆■ -〆/ //// //

馨雛

■ “輩 一 … ㎜ 一

嚢羅雛韓語騰羅雛難

鍵期鑛

襲.蒙繍繍

紳 帯�恆p簸嚢㎜蜘鼻鐵瓢湖難馨届 躍

再燃

P璃

雛 難

難燃  一

  /■

^糎撫     汽在籍    欝欝晦購蹴駈露年度      搬§嘆§華度      購翫葺隼度

図2 酸社のキャッシュ・フロー情報

鍵了一露年度

鰺畷雛欝

欝,韓暮

i2,灘尋

瞬,蟹矯

暮,蟹雄

 /イ/ /

 ./ //〆

6,韓毒『

嘆,韓む

 -//

 /■

 //

2,辞書毒  /

§

_、』欝財務活動精鞭薩議霧硬奔藩鞍

離髪麟鄭灘薮支配分情報 」灘支鐡簸譲   i

駿薮入情報   i

鑛叢

難/

猷3一雛年獲一 罎二亜輝憂    継蓑轟度    搬碁石年憂一

図露 醗社の各種エントロピー情報

醗簸8年度一一

 これらのグラフを作成するプロセスをもって,キャッシュ・フロー構成比分解分析の本分析は一

通り終了する。次第において,この分析結果の検討作業を通じて,当該分析の活驚の仕方について

改めて探っていきたい。

一7釜一

Page 14: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商  学  論  集 第76巻箒3号

4 分析結果の解釈 エント欝ピー情報を基にキャッシュ・フ縫一を概観する

 まずは,キャッシュ・フ藏一全体の鍛造変化(構成比率の変化〉の度合いを定量化した値,すな

わちキャッシュ・フロー情報を見てみよう。図2から明らかなように,M社のキャッシュ・フロー

情報は燈5曙丑6年度の値が突出している。このことは,鐙5一}難6年度においてキャッシュ・フロー

構造が最も大きく変化した,ということを示している。また,飽の年度聞においても,磁シ雛6年

度の値のi/3から至/2程度の値を示している。隣接する年度問においてキャッシュ・フロー構造が

常に変化し続けている,ということが分かる。

 ただし,キャッシュ・フロー情報からその構造変化の中身を推し量ることはできない。そこで,各

種エントロピー情報と照らし合わせて見る必要がある。

 図3を参照されたい。この図に示されているように,}難シH絡年度において,投資活動情報が極

めて大きな値を示している。このことから,当該年度におけるキャッシュ・フローの構造変化が主

として投資キャッシュ・フローの構造変化によってもたらされたものである,ということが分かる。

 この点を踏まえたうえで,表3を弔いて金額データを確認してみよう。}{iを磁6年度において,

投資収入が翠53から¥2,総8に増加している(金額の単位は百万円,以下同じ〉。一方,投資支出は

鞠,蟹iから¥5,3器に減少している。}贅5年度においてあまり行われていなかった投資の回収が

}費6年度において行われる一方,新たな投資が減少しているのである。このような構造変化の結果,

投資収支の金額(投資収入と投資支出の差額/は琴一8,958α難5年度〉から蕃一3,258侮欝年度)

に変化している。その変動幅(増加騙〉は¥5,7§○である。

 キャッシュ・フローの総額だけを見ると,営業キャッシュ・フ誓一に比べて投資キャッシュ・フ

霞一の値は圧倒的に小さい。しかし,キャッシュ・フローの総額すなわち規模が小さくても,その

構造変化が大きい場合には,収入と支出の差額としての綾取支額に大きな影響を及ぼす。H蔦{{驚

年度における営業収支(営業収入と営業支出の差額〉の変動幡(増加輻)が¥6,537であることと比

較されたい。規模的には極めて小さい投資キャッシュ・フローが,純収支額の段階に至ると,営業

キャッシュ・フ餐一1こ匹敵するほどの変化を示していることが分かる垂2}。

 投資活動情報については,雛3{{錘年度においても大きな値を示している。当該年度のキャッ

シュ・フロー情報が鐙襲搬6年度に次ぐ値を示していることを考え合わせると,やはり注目に値す

る。

 ただし,その内容は膿5{難6年度と逆の様相を呈している。鐙3年度から鐙4年度にかけて,投

資収入は響2,761からギ3倉に減少し,投資支出は撃2,836から1¥3,鮪7に増加している。H簸年度にお

いては投資の回収がほとんど行われなくなり,一方において新たな投資が増えている,ということ

が分かる。そのような構造変化の結果,投資収支の金額は¥一得から暴一3,937に変化しており,

変動編(減少幅〉はギ3,総2である。

i2〉 なお,投資収支の金額に関しては.鐙7一}歪雄年度において,響一7,§25からギー欝,嚢総へと変動しており,そ

  の変動輻¥蓼.3騒は董丑5駆落年度よりも大きい.しかし,当該年農における投資活動精報」)値は兼営に小さ

  い。このことは,雛7一灘欝年度において授資キャッシュ・フローの規模が大きくなったことにより純収支額

  に大きな変化がもたらされた,と解釈される。

一72一

Page 15: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

佐藤:キャッシュ・フ灘一構成比分解分析

 各種エント霞ピー情報の中では,財務活動情報も至難を}{欝年度と}駿7{難8年度において比較

的大きな値を示している。当該諸年度における他のエントロピー情報の値は小さく,キャッシュ・

フロー情報の値が財務活動情報の値に相当程度依存していることが分かる。

 金額データを見てみると,H欝一H焉年度において,財務収入が¥7,0§群がら墳§胸倉へ,財務支

出が¥n,767から響,婆鎗へと変化している。財務収入が増え財務支出が減るという構造変化であ

る。結果として,財務収支は蕃一准,7劔からギ2,58群へ変化し,その変動輻(増加輻/は脚β鄭であ

る。なお,同じHiをRi5年度において,営業収支の金額が響8,374から¥L889へ¥6,485だけ減少

している。これらの変化を総合して見ると,財務キャッシュ・フローの構造変化により営業キャッ

シュ・フ蟹一のマイナスが補われている,という解釈も可能となる。

 また,}離乳H欝年度では,財務収入が¥H,薦6から撃8,倉○○へ,財務支出が琴驚4雛から¥i5β§3

へ変化している。財務収入が減り財務支出が増えるという,H嚢一議5年度とは逆の構造変化である。

結果として,財務収支(財務収入と財務支出の差額〉はギ蟹5から¥一7β輪へ享8278だけ変化(減

少〉しており,無視し得ない変動纏となっている。

 財務活動情報の値は,投資活動情報の値と比べるとはるかに小さい。しかし,キャッシュ・フロー

の規模が相対的に大きいため,僅かな構造変化が大きな純収支額の変化をもたらしているのである。

このことは,営業キャッシュ・フ霞一についてより顕著に現れる。図3を見れば明らかなように,営

業活動情報の値はほとんどグラフに現れてこない。表7でその数値を見ると,撮7一欝年度のL8

b熱が最大である纈tsはi§-一塁を単位としている,以下同じ)。この値は,投資活動情報の最小値,

すなわち疑慧謹5年度の値2.%量tsよりも小さい。

 この分析結果から,営業キャッシュ・フローの構造変化は極めて小さい,ということが分かる。換

書すれば,営業キャッシュ・フ覆一は構造的に安定しているということである。

 ただし,営業キャッシュ・フローの総額(規模〉が地の活動と比べてはるかに大きいため,ごく

僅かの構造変化が純収支額のレベルでは大きな変化をもたらす。事実,営業収支の最大値は¥織9磯

(磁8年度)で最小値は¥i,889但馬年度)であり,その輻は穆5,解5である。この値は,構造変

化が激しい投資キャッシュ・フ霞一の最大値蕃一篇と最小値享一i5,弱9の編の墳5β蟹に匹敵する

値となっている。

 営業キャッシュ・フ冒一の中心となるのは,主たる営業活動によって生じたキャッシュ・フロー

(以下,主営業キャッシュ・フロー)である。そこで,この主営業キャッシュ・フ費一に分析対象を

絞って,改めてキャッシュ・フ讐一構造変化分析を行ってみよう。

 表8はその分析結果を分析対象となったデータとともに一覧表示したものである。また,分析結

果をグラフ化したものが図婆である。なお,表8において,主営業収入の金額は売上収入の金額に

等しく,主営業支出の金額は仕入支出と販管費等支出の合計額である。

 図尋を見ると,主営業キャッシュ・フロー情報は,雛445年度において最も大きな値を示してい

る。当該年度の構成比率1こ目を転じると,主営業収入が5L逢%(H慧年度/から5欝%(H欝年度)

に,主営業支出が48.6%(縫聾年度/から49.i%α丑5年度)に変化している。その差は僅か蛎ポ

イントであるが,収入が減少して支出が増加するという構造変化が生じている。その結果,主営業

収支の金額(主営業取入と主営業支出の差額)が¥慧,弱9から¥19,騒7に減少している。その変動輻

一73一

Page 16: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商  学  論  集 第76巻第3号

表8 M社の主営業キャッシュ・フ獲一(データと分析結果〉

1金額データ1

}餐3年度 欝護年度 鐙§年度 鐙6年度 欝7年農 鐙8年度

主営業取入

蜑c業支鐵

255,§§撃

Q3§,8編

2総,836

Q52,277

275,537

Q65,鱒§

3巷3,5露

Q総,鍵§

3難,583

Q留,87i

3襲,8i7

R2蓬,鱒3

主営業収支 i5,暮綴 縫,§弱 §,騒7 亙5,5簿 i3,7i2 i§,82塁

(単位:再万円〉

1構成比率3

鐙3年度 雛違年度 墨{欝年度 雛6年度 鐙7年度 雛8年度

主営業暇入

蜑c業支趨

5i.6%

bW.蓬%

5i.鐘%

S8.6%

灘.§%

ニ§.i%

5i.3%

チ.7%

5亙、i%

チ.§%

謎、§%

ァ8.5%

[分析結果韮

欝3嚢年度 鰹騒護5年度 登蔦一欝年度 鐙6護7年度 鐙7一憾年穫

主営業キャッシュ・フ鷺一億報 緯、7 78、3     騒.7 欝、§ 36.尋

(単位:欝4醸s〉

春.8{}{》

毒.7費青

む.総毒

暮.5善春

里{ド毒害i宅s {》、垂(}(》

§.3{}毒

昏.2巷書

蓼.i轡む

巷.魯韓

    醗3綾里年度

辮撒謄■

-〆

|麟

毒//

鑛・簸灘霧

 /■^/一

旨  盟

w  購

ノ/

㈱ 灘

/鱗 難

巷 撚

鼎螂欄㎜  一 一 脂 一      一 糠

開 灘// 灘 獲

/ 灘 轍贈β 彗灘

馨 灘 霧

離職懸

霧鞠『繋

麟蒙雛馨

懸 灘卿. 灘/

 / /

灘.灘難難

一 一

遡難.凋継離

』 旧 一 皿

難 灘

懸轍羅

懸難曲

〆/ / 麟

置簿・

絡漸鱗

/鍵辮・ 難騰

g灘

灘難饗

鰹難

灘霧

欝欝健 難

騰饗

雛繍

綴織 /-

i/〆

  鑑を懇年凌■■ …一『議5ご露華度 一…一一■■■一縦岸搾輩度一““

図蓬 灘社の主営業キャッシュ・フ滋一情報

縦7一雀8輩震“

(減少幅)は¥5,艇2である。

 主営業キャッシュ・フ資一情報は,Ri§護6年度においても相対的に大きな値を示している。当該

年度の構成比率は,主営業取入が弱.9%(}賞5年度)から騒.3%(H驚年度〉に,主営業支出が鈴、i%

(膿5年度)から48.7%(H驚年度〉に変化している。その差ははやり§.4ポイントと僅かであるが,

この年度では収入が増加し支出が減少するという構造変化が生じている。これは欝4謹5年度とは

一7漿一

Page 17: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

佐藤:キャッシュ・フロー構成比分解分析

逆の構造変化であり,前の年度問に悪化した主営業キャッシュ・フ冒一の構造を立て直す動きと解

釈しうる。なお,主営業収支額は鞠,騒7から¥焉,579に¥6,鍵2増加している。

 このように,主営業キャッシュ・フローについては,僅かな構造変化も見過ごすことができない。

そのためにも,ここで取り上げたような,主営業キャッシュ・フローに分析対象を限定した構造変

化分析を付加することが好ましい。

 なお,主営業キャッシュ・フローに関する分析結果の解釈にあたっては,間接法情報を併用する

ことが有効である.醗述の通り,間接法梼報は利益とキャッシュとの差異要因を示すものであ瓶一

種の財務分析情報である。特に注目すべき要因は,売上債権の増減額,たな卸資産の増減額そし

て仕入債務の増減額の3項目である。

 改めて表2を参照されたい。Hi手雛5年度においては,たな卸資産の増加額が¥蘭誕から

¥7,尋誕に変化し,仕入債務の増減額が¥2,3総(増加)から¥一387(減少)に変化している。いず

れの変化も主営業収支を減少させるものであり,これら2項目だけで雛5年度はH懇年度に比し

て琴5,器3だけキャッシュ・フローのマイナス要因が増えているのである。

 H錘{難5年度における主営業キャッシュ・フローの構造変化の主な要因はここにある。すなわ

ち,騰違年度から墨丑5年度にかけてたな卸資産がさらに増加し,一方において仕入債務が減少に転

じたことが主営業キャッシュ・フローの構造を変化させている,と解釈されるのである。

 一方,m5護6年度においては,たな卸資産の増加額がギ7,磐4から琴3,i毅に変化し,仕入債務の

増減額が琴一387(減少)から毅,総8(増加〉に変化している。すなわち当該年度において,主営業

収支の減少要函としてのたな卸資産の増加額は,嚢,2磐だけ少なくなっている。また,仕入債務の

増減は主営業収支の減少要因から増加要因に転じており,その変動額は欝,載5である。ただし,主

営業収支の減少要因としての売上債権の増加額が,¥59から¥i,7錘に比較的大きく変化している。

その結果,主営業収支の減少要霞が脚,88倉から¥3,867へと減っている。

 端的に言えば,H欝46年度においては,たな卸資産の増加度合が鈍り,仕入債務が増加に転じた

ことが,主営業キャッシュ・フローの構造を変化させていると解釈される。なお,鐙をH鶏年度の

金額を見ると,主営業キャッシュ・フローの総額も増えている。構造変化に規模の拡大が撫わ甑主

営業収支は琴9,547から¥蔦,5簿と大幅に好転しているのである。

 この間接法情報に加えて,さらに次のような直接法清報を用いた分析を行うと,主営業キャッ

シュ・フローの構造変化がより立体的に明らかになる(佐藤・石原12§§2L%轡6頁参照)。キャッ

シュ・フロー構造変化分析を起点とする分析の展開例として示しておきたい。

(数式i6) 売上高売上収入比率二売上収入/売上高

(数式i7/ 売上原憾仕入支出比率二仕入支出/売上原磁

 計算結果をグラフ化したものが図5である。売上高売上収入比率は,何れの年度もi{1倉%を若干下

睡った値で推移している.このことは,各年度において売上高の金額にほぼ相当する売上収入が得

られている,ということを意味している。ドラッグストアであるM社は概ね現金販売であることが

推察されるが,そのことと分析結果が合致している。したがって,主営業キャッシュ・フ冒一に関

しては,とくに支出面に注目する必要がある。

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7

Page 18: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商  学  論  集 第冨巻第3号

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 売上原麺仕入支出比率はH捻年度を除き,どの年度も騰%を上回った値を示している。験徳

ベースでの商品販売額よりも仕入支出額の方が相当程度大きい,ということをこの分析結果は示し

ている。特に,雛をR欝年度では欝i.○%から鐙3.8%に急上昇し,H蔦騒照年度では再び欝i.○%

に急下降している。

 このことは,間接法情報としてのたな卸資産の増減額および仕入債務の増減額の変化と照らし合

わせると興味深い。これらは仕入支出の金額に影響を及ぼすキャッシュ・フローの増減要因であり,

その値が売上原懸仕入支出比率の値にも係ってくるからである。

 なお,この図5を見る限り,Hi7-i8年度の変化はそれほど大きいという印象は受けない。しかし,

売上高売上収入比率と売上原懸仕入支出比率の講者が韓§%に近寄ってきている,という点に着欝

すべきである。これらは主営業キャッシュ・フ霞一を好転させる動きである。事実,主営業収支の

値は,欝,7i2から男g,8鍵へとプラス方向に大きく変化しているのである。

 欝7護8年度における主営業キャッシュ・フロー精穀の値を見ると,それは他の年度と比べて決し

て小さな値ではない。すなわち,一定程度の構造変化が見られるということである。このように,構

成比分解分析を行うことにより,他の分析だけでは見落としがちな点を浮き彫鱗こすることもでき

るのである。

5結論 直接法情報の有効活用に向けて

 構成比分解分析は,従来は予備的分析として位置づけられてきた。たしかに,構造変化の大きい

箇所を特定してさらなる分析のターゲットを絞る,という意味で有効な分析手法である。この点は,

キャッシュ・フ資一を分析対象としたキャッシュ・フロー構成比分解分析でも同様である。

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佐藤:キャッシュ・フロー構成比分解分析

 ただし,構成比分解分析は予備的分析の域に留まるものではない。分析対象の全体像のみならず

特定部分についても,相当程度の知見を得ることができるのである。この点については,本稿で取

り上げたキャッシュ・フ欝一構成比分解分析について特に顕著である。

 前節で述べたM社のキャッシュ・フ蟹一に関する知見は,キャッシュ・フロー構成比分解分析の

予備的分析を超える有用性を物語るものである。

 その第iは,キャッシュ・フ資一の構造的変化と規模的変化を酸飛して認識することができる,と

いう点にある.純収支額(純額レベルにおけるキャッシュ・フロー)は,構造的変化と規模的変化

の講者の影響を受けて変動する。キャッシュ・フロー構成比分解分析によって構造変化を定量化す

ることにより,純収支額の変動に対する構造変化の影響度合いを探ることができる。

 純収支額が変動していてもエント冒ピーの値が小さい場合は,前年度の延長線上で企業活動がな

されていると推察される。その場合は,規模の変化方向(拡大または縮小〉に着目すればよい。一

方,エントロピーの値が大きい場合は,キャッシュ・フローに影響を及ぼす企業活動内容に大きな

変化があった可能性があり,注意が必要である。

 第2は,キャッシュ・フローの僅かな構造変化をも浮き彫りにすることができる,という点であ

る。この点は,営業キャッシュ・フローを分析する際に特に重要となる。

 騒社の営業活動情報は小さく,営業キャッシュ・フローは構造的に安定していると理解される。た

だし,その規模が投資キャッシュ・フ資一や財務キャッシュ・フ窟一に比べてはるかに大きいため,

僅かな構造変化が純収支額レベルでは大きな変化となって現れる。本稿では,主営業キャッシュ・

フロ~に分析対象を絞って構成比分解分析を行った。その結果,僅かな構造変化をも浮き彫りにす

ることができ,それが主営業収支額に大きな影響を与えているという知見が得られた。

 M社のような状況は,他社においも多く見られると推察される。M&Aなどによって業務内容が

大きく変化しない限り,営業キャッシュ・フローの構造は比較的安定しているであろう。しかし,そ

の規模を鑑みると僅かな構造変化を見逃す事はできない。そのためにも,キャッシュ・フロー構成

比分解分析が有効な分析手法となる。

 なお,構成比分解分析の結果を解釈する際には,間接法構報を併罵することが有効である。言い

換えれば,当該分析の結果と間接法情報を照らし合わせることによ甑キャッシュ・フローの状況

はよ参立体的に明らかにされうるのである。

 田本では,キャッシュ・フロー計算書を開示するにあたり.ほぼ全ての企業が間接法を選択適篤

しているのが現状である。そのため,直接法情報を用いたキャッシュ・フ資一分析はあまり議論の

対象とならない。しかし,本稿で述べた事前分析を行って直接法情報を編集すれば,企業活動全般

にわたって,まさにラ毒二1と巻白むたキャッシュ・フロー分析が可能となる。本稿で取り上げた

キャッシュ・フロー構成比分解分析は,その主要な分析手法の一つとして位置づけられよう。

参考文献

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Page 20: キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践...商学論集第7 巻第3号 2 絡年3月 【論 文】 キャッシュ・フロー構成比分解分析の論理と実践

商  学  論  集 第76巻第3号

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