7
43 IHI 技報 Vol.59 No.4 ( 2019 ) 1. 緒    言 化石燃料の利用に伴う CO 2 の排出量を削減するため, 代替燃料として水素が国内外で注目されている.水素は, 再生可能エネルギーから製造可能であり,燃焼時に CO 2 を発生させない.しかし,水素は気体のままでは輸送・貯 蔵に要するコストが高いという問題がある.このため,水 素を液体水素やメチルシクロヘキサン ( MCH ),アンモニ アなどの輸送・貯蔵に適した化学物質に変換して輸送する 方法が注目されている ( 1 ) .これらの化学物質のなかでも, アンモニアは次のような優れた特徴を有している. 単位体積当たりの水素含有質量が大きい. 20℃における飽和蒸気圧力が約 9 気圧であり,容易 に液化でき輸送・貯蔵に適する. 肥料や化学原料,火力発電所における脱硝用還元剤 として広く利用されており,製造・輸送・貯蔵技術 およびインフラが整備されている. 水素に再変換することなく直接燃焼が可能である. アンモニアの利用が想定される発電用機器としては,ガ スタービン,ボイラ,燃料電池がある.これらのなかで も,ガスタービンは太陽光発電や風力発電などの再生可能 エネルギーの負荷変動調整用電源として,今後も利用され ると予想されている ( 2 ) .したがって,ガスタービンにお けるアンモニアの燃料としての利用は,持続可能な社会実 現に大きく貢献すると考えられる. 一方で,アンモニアはガスタービン用の燃料として広く 用いられている天然ガスとは大きく異なる燃焼特性をもっ ている.アンモニアは天然ガスと比べて,燃焼速度が約 5 分の 1 と小さく,発熱量も約半分と小さく,また断熱 火炎温度が約 150℃低い特徴がある ( 3 ) .ガスタービン燃 焼器は断面積および体積が非常に小さいため,燃焼器内部 におけるガス流速が大きく,ガスの滞在時間が短い特徴が ある.このような燃焼器内でアンモニアを燃焼させると, 失火や不完全燃焼により未燃焼のアンモニアがそのまま排 出されるリスクがある.また,発電用ガスタービンでは排 出ガス中に含まれる窒素酸化物 ( NO x ) の濃度が規制され ている.天然ガスの燃焼では,NO x は主に燃焼による高 温場で空気中の窒素が酸化されることで発生する.これに 対し,アンモニアの燃焼では,NO x は主にアンモニア分 子中に含まれる窒素原子が酸化されることで生成され ( 4 ) .このように,アンモニアをガスタービン燃料とし て使用する際に,天然ガス用に開発した燃焼器をそのまま 使用することは難しい.そこでアンモニアの燃焼に適した 未燃 NH 3 および NO x などのエミッションを低く抑える アンモニアガスタービンコージェネレーションシステムの開発 Development of Ammonia Gas Turbine Co-Generation Technology 伊 藤 慎太朗 技術開発本部技術基盤センター燃焼グループ 博士( 工学 ) 内 田 正 宏 技術開発本部技術基盤センター燃焼グループ 主査 博士( 工学 ) 須 田 俊 之 資源・エネルギー・環境事業領域事業開発部 部長 博士( 工学 ) 藤 森 俊 郎 産業システム・汎用機械事業領域 技監 博士( 工学 ) アンモニア・天然ガス混焼ガスタービンでは排出ガス中の NO x 濃度の環境規制適合が課題となるため,低 NO x バーナを使用した 2 MW 級ガスタービンによる実証試験を実施した.その結果,2 MW 出力条件で,アンモニアを 熱量比 20%混焼し,規制値以下の NO x 濃度を達成した.CO 2 排出量は天然ガス専焼時より約 23%削減された. コージェネレーションシステムの総合効率は,試験で得られた運転の諸データを入力値としたモデル計算により, 天然ガス専焼時と同等に維持されることを確認した. To develop an ammonia/natural-gas co-fired gas-turbine, power generation tests have been conducted using a 2 MW class gas-turbine with a low NO x combustor. Power generation of 2 MW and a reduction of CO 2 emissions with ammonia mixing ratio of 20% has been achieved. It has been confirmed that the NO x removal device can reduce NO x concentration below 7 ppm. The performance calculation of the heat recovery steam boiler using the measured data as an input value has also been performed. The result showed that the total efficiency of ammonia/natural-gas co-fired gas-turbine co-generation system can be kept at the same level as a natural-gas fired system.

アンモニアガスタービンコージェネレーションシス …...gas-turbine with a low NO x combustor. Power generation of 2 MW and a reduction of CO 2 emissions with ammonia

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43IHI 技報 Vol.59 No.4 ( 2019 )

1. 緒    言

化石燃料の利用に伴う CO2 の排出量を削減するため,代替燃料として水素が国内外で注目されている.水素は,再生可能エネルギーから製造可能であり,燃焼時に CO2

を発生させない.しかし,水素は気体のままでは輸送・貯蔵に要するコストが高いという問題がある.このため,水素を液体水素やメチルシクロヘキサン ( MCH ),アンモニアなどの輸送・貯蔵に適した化学物質に変換して輸送する方法が注目されている ( 1 ).これらの化学物質のなかでも,アンモニアは次のような優れた特徴を有している.① 単位体積当たりの水素含有質量が大きい.② 20℃における飽和蒸気圧力が約 9 気圧であり,容易に液化でき輸送・貯蔵に適する.

③ 肥料や化学原料,火力発電所における脱硝用還元剤として広く利用されており,製造・輸送・貯蔵技術およびインフラが整備されている.

④ 水素に再変換することなく直接燃焼が可能である.アンモニアの利用が想定される発電用機器としては,ガスタービン,ボイラ,燃料電池がある.これらのなかでも,ガスタービンは太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの負荷変動調整用電源として,今後も利用され

ると予想されている ( 2 ).したがって,ガスタービンにおけるアンモニアの燃料としての利用は,持続可能な社会実現に大きく貢献すると考えられる.一方で,アンモニアはガスタービン用の燃料として広く用いられている天然ガスとは大きく異なる燃焼特性をもっている.アンモニアは天然ガスと比べて,燃焼速度が約5 分の 1 と小さく,発熱量も約半分と小さく,また断熱火炎温度が約 150℃低い特徴がある ( 3 ).ガスタービン燃焼器は断面積および体積が非常に小さいため,燃焼器内部におけるガス流速が大きく,ガスの滞在時間が短い特徴がある.このような燃焼器内でアンモニアを燃焼させると,失火や不完全燃焼により未燃焼のアンモニアがそのまま排出されるリスクがある.また,発電用ガスタービンでは排出ガス中に含まれる窒素酸化物 ( NOx ) の濃度が規制されている.天然ガスの燃焼では,NOx は主に燃焼による高温場で空気中の窒素が酸化されることで発生する.これに対し,アンモニアの燃焼では,NOx は主にアンモニア分子中に含まれる窒素原子が酸化されることで生成される ( 4 ).このように,アンモニアをガスタービン燃料として使用する際に,天然ガス用に開発した燃焼器をそのまま使用することは難しい.そこでアンモニアの燃焼に適した未燃 NH3 および NOx などのエミッションを低く抑える

アンモニアガスタービンコージェネレーションシステムの開発Development of Ammonia Gas Turbine Co-Generation Technology

伊 藤 慎太朗 技術開発本部技術基盤センター燃焼グループ 博士( 工学 )

内 田 正 宏 技術開発本部技術基盤センター燃焼グループ 主査 博士( 工学 )

須 田 俊 之 資源・エネルギー・環境事業領域事業開発部 部長 博士( 工学 )

藤 森 俊 郎 産業システム・汎用機械事業領域 技監 博士( 工学 )

アンモニア・天然ガス混焼ガスタービンでは排出ガス中の NOx 濃度の環境規制適合が課題となるため,低 NOx

バーナを使用した 2 MW 級ガスタービンによる実証試験を実施した.その結果,2 MW 出力条件で,アンモニアを熱量比 20%混焼し,規制値以下の NOx 濃度を達成した.CO2 排出量は天然ガス専焼時より約 23%削減された.コージェネレーションシステムの総合効率は,試験で得られた運転の諸データを入力値としたモデル計算により,天然ガス専焼時と同等に維持されることを確認した.

To develop an ammonia/natural-gas co-fired gas-turbine, power generation tests have been conducted using a 2 MW class gas-turbine with a low NOx combustor. Power generation of 2 MW and a reduction of CO2 emissions with ammonia mixing ratio of 20% has been achieved. It has been confirmed that the NOx removal device can reduce NOx concentration below 7 ppm. The performance calculation of the heat recovery steam boiler using the measured data as an input value has also been performed. The result showed that the total efficiency of ammonia/natural-gas co-fired gas-turbine co-generation system can be kept at the same level as a natural-gas fired system.

44 IHI 技報 Vol.59 No.4 ( 2019 )

燃焼技術を確立する必要がある.これまで IHI では,2 MW 級のガスタービンにおいてアンモニアを熱量比率で 20%混焼し,環境規制をクリアする燃焼技術の確立を目的としてアンモニア・天然ガス混焼用低エミッション燃焼器を開発してきた ( 5 ),( 6 ).本稿では,燃焼器開発で実施したリグ試験結果と 2 MW 級ガスタービンを用いて実施した発電実証試験の結果について紹介する.

2. アンモニア・天然ガス混焼低 NOx 燃焼器の開発

2. 1 燃焼器構造

アンモニアの燃焼で最も大きな課題となる NOx 排出を抑制するため,アンモニア混焼に適した燃焼器の開発を行った.燃焼器は天然ガスとアンモニアを混焼させることを想定し,天然ガス専焼用低 NOx 燃焼器をベースとして検討した.第 1 図に,開発したアンモニア・天然ガス混焼用燃焼器の概略を示す.図中の上部のバーナ部分(緑枠内)は,燃料を空気に対して化学量論条件よりも希薄な条件で予混合してから燃焼させる希薄予混合バーナである.本バーナは同軸二重管構造となっており,内側のバーナ 1 と外側のバーナ 2 から構成される.それぞれのバーナには燃料を噴射する燃料噴射ノズル 1 および 2 が設けられており,ここから天然ガス・アンモニアを噴射できる.さらに,この燃焼器でアンモニアを混焼し低 NOx 燃焼を達成するために,バーナ下流のライナに燃料噴射ノズル 3 を配置した.ライナに配置される希釈孔では,燃焼

用空気の一部が燃焼器内に供給されるが,希釈孔は燃料噴射ノズル 3 の下流に配置されるように燃焼器を設計した.

2. 2 アンモニア噴射位置の影響

大気圧の燃焼器試験リグを使用し,性能評価と改良設計を行った.リグ試験結果の一例として,リグ試験により得られたアンモニア噴射位置とエミッションの関係を第 2

図に示す.この試験では,燃焼器全体に供給される空気,天然ガス,アンモニアの流量を一定とし,アンモニアの燃料噴射ノズル 2 および 3 への供給配分のみを変更して,エミッションへの影響を評価した.横軸は全アンモニア供給流量に対する燃料噴射ノズル 3 への供給比率を表し,縦軸は水蒸気濃度を排除した乾き濃度とし,酸素濃度16%に換算した NOx,CO,未燃 NH3 濃度を表している.燃料噴射ノズル 3 に供給するアンモニア量が増加すると,CO および未燃 NH3 濃度は増加するが,NOx 濃度は減少することが分かる.このような火炎挙動を解明するため,数値計算によりアンモニアの反応経路を基に検討を行った.第 3 図にアンモニア・メタン・空気燃焼におけるアンモニアの主要な反応経路を示す.計算条件は試験と同様にアンモニア混焼率20% LHV(低位発熱量基準で 20%の混合比)とし,混合気条件については化学量論条件とした.計算に使用した反応機構は,Okafor らの詳細反応機構 ( 7 ) である.燃焼過程で NH3 が反応するためには,酸素の反応により生成

希薄予混合バーナ

スワラ

燃料噴射ノズル 1

燃料噴射ノズル 2

燃料噴射ノズル 3

希釈孔

タービン入口へ燃焼用空気( 圧縮機より )

ライナ

バーナ 1

バーナ 2

第 1 図 アンモニア・天然ガス混焼用燃焼器Fig. 1 Schematic of ammonia/natural-gas co-fired combustor

0

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100

150

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燃焼器出口

NO

x濃度

( p

pm )

*1

燃料噴射ノズル 3 のアンモニア供給比率 (%)

( 注 ) *1:酸素濃度 16%換算値

:NOx

:NH3

:CO

燃焼器出口

CO,未燃

NH

3濃度

( p

pm )

*1

第 2 図 燃料噴射ノズル 3 へのアンモニア供給比率と燃焼器出口     における NOx,未燃 NH3,CO 濃度の関係(アンモニア      混焼率 20% LHV) Fig. 2 Effect of ammonia supply ratio to fuel injection nozzle 3 on NOx, unburnt NH3 and CO concentration at combustor outlet

45IHI 技報 Vol.59 No.4 ( 2019 )

される OH,O ラジカルが反応物として必要である.また同じく NO の生成反応にも OH,O ラジカルが必要となる.ここで燃焼場の酸素濃度が低い条件では酸素不足により OH,O ラジカルの生成が抑制されるため,NO の生成が抑制される可能性がある.また,同時に未燃 NH3 やNH2,NH,N ラジカルが残存しやすい条件となる.一方で,NO が還元され N2 が生成される反応では,NH や N

ラジカルが反応物として必要である.この反応メカニズムと燃焼試験結果の比較から,燃料噴射ノズル 3 からアン

モニアを噴射する効果として次のような反応挙動が生じると考えられる.燃料噴射ノズル 3 から噴射されたアンモニアは,天然ガスの燃焼により酸素濃度が低下した領域で燃焼するため,燃料噴射ノズル 2 から噴射した場合に比べ,周囲の OH,O ラジカル濃度が低い条件で燃焼する.このため,未燃 NH3 および NH2,NH ラジカル濃度は増加する.これらの効果により NO の生成が抑制され,さらに NO の還元が促進されるため,NO 排出量が低減されたと考えられる.このように燃料噴射ノズル 3 の使用は,アンモニア燃焼において NOx 低減に有効であるため,すべてのアンモニアを本ノズルから噴射することとした.一方で,未燃NH3 濃度の増加はガスタービンの運用において問題となる可能性があるため,さらに NOx 濃度を低減し,かつ未燃 NH3 濃度を同時に低減する燃焼器の開発に取り組んだ.燃料噴射ノズル 3 の配置や形状,アンモニア噴射方法などの設計パラメータの最適化に取り組んだ結果,開発当初と比較して NOx 濃度を約 5 分の 1,未燃 NH3 濃度を 1 ppm 以下にまで低減することに成功した.

3. 発電実証試験設備および試験方法

3. 1 発電実証試験設備

第 4 図に発電実証試験設備のシステムフローを示す.設備は主に,アンモニア供給装置,天然ガスコンプレッサ,ガスタービン設備,脱硝装置の四つから構成される.

NH3

NH2

NH

N

HNO

NO

N2

N2O +N,NH

+OH,H

+OH,H

+OH,H

+O

+OH

+H,M,OH+O

+NO

+NH

+H,M

+NO

+OH,O

第 3 図 アンモニア・メタン・空気燃焼におけるアンモニアの 反応経路 Fig. 3 Reaction path of ammonia in ammonia/methane/air combustion

ポンプ

ポンプ

温水気化器 アキュムレータ

温水気化器 アキュムレータ

発電機

空 気

天然ガスコンプレッサ

ガスタービン

ブロア

排出ガス

2 MW 級ガスタービン

アンモニア供給装置 脱硝装置

燃料用高圧アンモニアライン

脱硝用低圧アンモニアライン

脱硝触媒燃焼器

( 注 ) :液体アンモニア :アンモニアガス :天然ガス,空気,排出ガス

液体アンモニアタンク

第 4 図 システムフロー図Fig. 4 System flow diagram

46 IHI 技報 Vol.59 No.4 ( 2019 )

これらの設備を IHI 横浜事業所内に設置して,発電実証試験を行った.第 5 図および第 1 表に,アンモニア供給装置および設備能力をそれぞれに示す.本装置では,燃料用として 2.0 MPaG の高圧アンモニアガス,脱硝装置における還元剤用として 0.3 MPaG の低圧アンモニアガスを供給する二つの供給系統をもつ.アンモニアは,液体状態でタンクに貯蔵され,そこから液体のままそれぞれの系統に供給される.燃料用アンモニア系統では,液体アンモニアをポンプにより圧縮する.アンモニアを液体状態で圧縮することで,気化後に圧縮するよりも,ポンプの圧縮動力および設置面積の低減が可能である.圧縮した液体アンモニアは,温水気化器で気化し,ア

キュムレータで圧力変動を抑制してガスタービンに供給した.高圧のアンモニアガス供給配管内でのアンモニアの再凝縮を防止するため,配管およびアキュムレータは電気ヒータによりアンモニアの凝縮温度よりも十分に高い温度に維持した.一方,脱硝装置にアンモニアを供給するために必要な圧力は,液体アンモニアタンクの貯蔵圧力よりも低い.このため,脱硝用のアンモニアは,温水気化器の下流に設置した調圧弁で減圧してから脱硝装置に供給した.

第 6 図にガスタービン設備を示す.ガスタービンにはIHI 製の 2 MW 級シンプルサイクルガスタービンであるIM270 を使用した.本設備では,ガスタービン下流の排熱回収ボイラを省略し,タービン出口を脱硝装置に直結した.ガスタービンの構成部品は,天然ガス専焼用の標準品であり,燃焼器のみ 2 章に示したアンモニア・天然ガス混焼低 NOx 燃焼器に換装して実証試験に使用した.脱硝装置は,選択触媒還元方式 ( SCR:Selective catalytic

reduction ) を採用し,還元剤はアンモニアガスを使用した.触媒は天然ガス焚

きガスタービンで標準的に使用されるものとした.

アキュムレータ( 燃料用 )

排水槽

液体アンモニアタンク

アンモニアポンプ

アンモニア希釈槽 温水気化器( 燃料用 )

温水気化器( 脱硝用 )

防液堤

( a ) 正 面

( b ) 背 面

ガスタービンへ

第 5 図 アンモニア供給装置Fig. 5 Apparatus of ammonia supply unit

吸気ダクト

吸気ダクト 燃焼器

エンクロージャ

圧縮機 タービン

タービン出口計測ダクト

脱硝装置

( a ) 全 体

( b ) エンジン本体

タービン出口排気ダクト

第 6 図 ガスタービン設備Fig. 6 Apparatus of gas-turbine

第 1 表 アンモニア供給設備能力Table 1 Spec of ammonia supply unit

項       目 単 位 燃料用 脱硝用

液体アンモニアタンク容量 t 4.5

最 大 供 給 圧 力 MPaG 2.0 0.3

ア ン モ ニ ア ガ ス 温 度 ℃ 70 周囲温度

最 大 供 給 流 量 kg/h 400 60

47IHI 技報 Vol.59 No.4 ( 2019 )

3. 2 ガスタービンの運転および試験計測方法

ガスタービンの起動から発電出力が 2 MW に到達するまでの運転は天然ガスのみを使用し,その後燃料用アンモニアを供給した.天然ガス流量は,ガスタービン回転数および発電出力を一定に保持するようにアンモニア流量に応じて自動的に調整される制御システムとした.試験では,アンモニア混焼率を 0 ~ 20% LHV まで変化させて性能を計測した.排出ガス計測は,タービン出口および脱硝装置出口で行い,低 NOx 燃焼器の性能を評価した.タービン出口では,ガスサンプリングプローブおよび熱電対を設置し,タービン出口におけるエミッションおよびガス温度を計測した.ガス分析には,ガス分析装置(株式会社堀場製作所製 MEXA-ONE-D1 および VA-3001)を使用し,CO,CO2,O2,THC( Total hydro carbon,全炭化水素,CH4

換算値),NOx,NH3 の 6 成分について濃度を計測した.脱硝装置出口にもサンプリングプローブを設置し,ガス分析装置(堀場製作所製 ENDA-C9430A)を用いて O2,NOx,NH3 の濃度を計測した.エミッションの評価方法は大気汚染防止法に定める方法に従い,水蒸気を排除した乾き濃度とし,酸素濃度 16%で換算し評価した.

4. エンジン試験結果および総合効率の検討

4. 1 エンジン試験結果

第 7 図にアンモニア混焼率の変化に対する発電出力,天然ガス供給流量の変化を示す.アンモニア混焼率を変化させても,燃焼器やエンジンに異常音,異常振動,異常温

度といった問題はなく,安定したガスタービン運転が可能であることが確認された.アンモニア混焼率 20% LHV

での天然ガス供給流量は,天然ガス専焼時に比べて約23%低減しており,アンモニア混焼率よりも CO2 排出量の削減率が高いことが確認された.これはアンモニアの低位発熱量は天然ガスの約半分であり,アンモニア混焼時にタービンを通過するガス流量が増加するためである.このガス流量が増加した効果により発電端効率が増加し,CO2

の削減率が上昇する.この効果はサイクルシミュレーションでも確認されている ( 8 ).

第 8 図にアンモニア混焼率に対するタービン出口および脱硝装置出口における NOx 濃度の変化を示す.タービン出口の NOx 濃度は,アンモニア混焼率が 0% LHV から 5% LHV に増加すると急増するが,5% LHV 以上ではほとんど変化しない.アンモニア混焼率 20% LHV の条件でタービン出口の NOx 濃度は約 290 ppm(酸素濃度16%換算値)である.一方,脱硝装置出口における NOx

濃度は,最大でも 6.1 ppm(酸素濃度 16%換算値)であり,本設備を設置した横浜市におけるガスタービンの環境規制値である 7 ppm(酸素濃度 16%換算値)を達成している.このように,アンモニア・天然ガス混焼によるタービン出口の NOx 濃度は,一般的な天然ガス専焼ガスタービンに比べて高濃度であるが,脱硝装置により実用可能なレベルにまで低減できることが確認された.タービン出口における未燃の NH3,CO,THC それぞれの濃度は,いずれも 3 ppm(酸素濃度 16%換算値)以下であった.このことから,アンモニアおよび天然ガスは,燃焼器内でほぼ完全燃焼しており,開発した燃焼器はアンモニアの安定

0

100

200

300

400

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600

700

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 5 10 15 20 25

天然ガス供給流量

( k

g/h

)

発電出力

( M

W )

アンモニア混焼率 (%LHV )

:発電出力:天然ガス供給流量

第 7 図 アンモニア混焼率と発電出力および天然ガス供給流量の 関係 Fig. 7 Effect of ammonia mixing ratio on generator output and natural-

gas supply rate

0

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100

150

200

250

300

350

タービン出口

NO

x濃度

( p

pm )

*1

( 注 ) *1:酸素濃度 16%換算値

脱硝装置出口

NO

x濃度

( p

pm )

*1

0

1

5

2

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4

6

7

9

8

10

0 5 10 15 20 25

アンモニア混焼率 (%LHV )

:タービン出口 NOx 濃度:脱硝装置出口 NOx 濃度

第 8 図 アンモニア混焼率とタービン出口および脱硝装置出口に おける NOx 濃度の関係 Fig. 8 Effect of ammonia mixing ratio on NOx concentration at turbine

outlet and SCR unit outlet

48 IHI 技報 Vol.59 No.4 ( 2019 )

燃焼および低 NOx 燃焼に有効であることが確認された.4. 2 総合効率の検討

本設備では,排熱回収ボイラが省略されているため,ボイラ使用時のシステムの総合効率をモデル計算により検討した.ここで総合効率は,発電端効率と排熱回収ボイラの熱効率の和を示す.発電端効率には実証試験結果を使用し,排熱回収ボイラの熱効率は,排出ガス流量,組成,温度の変化を考慮したモデル計算により評価した.排熱回収ボイラの仕様は,IM270 ガスタービンのコージェネレーションシステムで,標準的に用いられる自然循環式水管ボイラとし,熱収支計算用ソフトウェアを使用して計算モデルを構築した.計算において,排出ガス流量,組成,温度には,実証試験で得られた結果を入力値とした.ここでアンモニア混焼によるタービン出口ガス温度の変化については,天然ガス専焼からアンモニア混焼率 20% LHV までの間で数℃程度の僅差であり,アンモニア混焼がタービン出口温度に与える影響が小さいことが試験結果から確認されている.

第 9 図にアンモニア混焼率の変化に対する総合効率の変化を示す.アンモニア混焼率 20% LHV までの範囲では,総合効率は天然ガス専焼時とほとんど差がなく,80%以上となる.このような結果が得られた要因として,アンモニア混焼時の未燃分濃度を抑制し発電端効率の低下を抑制できたことが挙げられ,総合効率の観点からも開発した燃焼器が有用であることが確認された.

5. 結    言

アンモニアをガスタービン燃料として使用するためにアンモニア・天然ガス混焼低 NOx 燃焼器を開発し,2 MW

級ガスタービンで発電実証試験を行った.燃焼器開発にお

いては,アンモニア噴射ノズルを採用し設計パラメータの最適化を行って,NOx と未燃 NH3 の両方を同時に削減することに成功した.この燃焼器を 2 MW 級ガスタービンに搭載して発電実証試験を行った結果,発電出力 2 MW,アンモニア混焼率 20% LHV の条件でガスタービンが安定運用できることを実証するとともに,以下を確認した.① 低 NOx 燃焼器の採用により,天然ガス専焼プラントで標準的に用いられる脱硝装置を使用して NOx

濃度を環境規制に適合できることを実証した.② アンモニアの単位体積当たりの発熱量は天然ガスよりも小さいため,アンモニア混焼により発電端効率が上昇する.このため,アンモニア混焼による CO2

排出量の削減率は,アンモニア混焼率より大きくなる.

③ 低 NOx 燃焼器により未燃分の排出が抑制されるため,アンモニア混焼時のコージェネレーションシステムの総合効率は天然ガス専焼時と同等レベルに維持可能である.

このようにアンモニア混焼では,アンモニア供給系統が必要となるものの,ガスタービン本体については燃焼器のみを換装するレトロフィットで対応が可能である.また,機関の総合効率を維持できることから,CO2 排出量の削減に有効な方法であることが確認された.一方で,アンモニア混焼時のタービン出口における NOx 濃度は,天然ガス専焼時に比べて依然として高く,NOx 濃度のさらなる低減はプラントの運用および導入コスト低減に寄与する.今後も,さらに NOx 排出量を削減する燃焼器の改良を実施していく.また,ガスタービンから排出される CO2 をさらに削減するため,より高いアンモニア混焼率でガスタービンを運転するための研究を実施していく.

― 謝  辞 ―

本研究は,内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム ( SIP ) 「エネルギーキャリア」(管理法人:国立研究開発法人科学技術振興機構 ( JST ))によって実施したものである.ここに記して謝意を表す.

参 考 文 献

( 1 ) 塩沢文朗:水素社会を拓くエネルギー・キャリ

ア ( 1 ),特定非営利活動法人国際環境経済研究所,解説記事 ( http://ieei.or.jp/2014/09/expl140916/ ),(参

0

20

40

60

80

100

コージェネレーションシステムの総合効率

(%)

0.0 5.0 10.2 15.1 20.3

アンモニア混焼率 (%LHV )

第 9 図 アンモニア混焼率と総合効率の関係Fig. 9 Effect of ammonia mixing ratio on total efficiency

49IHI 技報 Vol.59 No.4 ( 2019 )

照 2019. 9. 5 )( 2 ) Internat ional Renewable Energy Agency:

Perspectives for the energy transition : Investment needs

for a low-carbon energy system,https://www.irena.

org/-/media/Files/IRENA/Agency/Publication/2017/

Mar/Perspectives_for_the_Energy_Transition_2017.

pdf,(参照 2019. 9. 5 )( 3 ) H. Kobayashi, A. Hayakawa, K. D. K. A. Somarathne

and E. C. Okafor:Science and technology of ammonia

combustion,Proceedings of the Combustion Institute,Vol. 37,Iss. 1,( 2019 ),pp. 109 - 133

( 4 ) J. A. Miller, M. D. Smooke, R. M. Green and R. J.

Kee:Kinetic Modeling of the Oxidation of Ammonia

in Flames,Combustion Science and Technology,Vol. 34,Iss. 1 - 6,( 1983 ),pp. 149 - 176

( 5 ) 伊藤慎太朗:アンモニア / 天然ガス混焼ガスター

ビン燃焼器に関する研究,日本機械学会熱工学部門ニュースレター,No. 87,2019 年 4 月,pp. 3 - 8

( 6 ) 伊藤慎太朗,内田正宏,藤森俊郎,小林秀昭:詳細反応機構を用いたアンモニア / 天然ガス混焼ガスタービン燃焼器の低 NOx 燃焼方法に関する検討,日本燃焼学会誌,Vol. 61,No. 198,2019 年 9 月,pp. 368

- 375

( 7 ) E. C. Okafor, Y. Naito, S. Colson, A. Ichikawa, T.

Kudo, A. Hayakawa and H. Kobayashi:Experimental

and numerical study of the laminar burning velocity of

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