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ラテンアメリカ・カリブ研究 23 : 1–21 © 2016 ノート〕 トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 1 ―現状と今後の展望― (Mika Y asuma) トリニダード・トバゴ はじめに 1962 したトリニダード・トバゴ(以 TT、英 から、 されたアフリカ大 わっ された して されたインド亜大 2 ったシ リア びレバノン 、ポルトガル れてきた。 TT あり、英 から 1962 カナダ した。 育を えた TT うち、 8 割が に移 しており(こ うち 8 割が英 3 に移 )、 TT っている。 に医 あり、TT 幹を るがしか 題に っている。 感を いた TT 2000 にキューバ フィリピンから 1 2015 4 23 に、 した あり、 トリニダード・トバゴ い。 2 1845 から 1917 にかけて、 インド、ネパールを むインド亜大 から 14 4,000 TT に移 した。一 に、 びそ 、「インド (Indian)」或い インド (East Indian)されている。 、「インド 」を いる。 った。 メキシコに 2 して られているフィリピン 1970 から により し移 しシステムを させ てきた。 フィリピン して している。 カリブ えており、 TT い。 TT フィリピン を対 たアンケート インタ ューを に、フィリピ TT TT TT フィリピン に対する らかにし、 TT プレゼ ンスを めつつあるフィリピン めるこ している。 お、フィリピン 7,100 から り、 80 されているこ から、 域によって が異 ているが、 において 、フィリピン びそ を「フィリピン する。また、フィリピン Overseas Filipino Worker: OFWされ、 フィリピン してい るため、 OFW する。 まず めに、TT

トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 - WordPress.com2016/06/23  · 3 Anatol, Marlon, Kirton, Raymond Mark, Nanan, Nia (2013), Becoming An Immigration Magnet:

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  • ラテンアメリカ・カリブ研究 第 23号: 1–21頁© 2016

    〔研究ノート〕

    トリニダード・トバゴのフィリピン人移民1

    ―現状と今後の展望―

    安間美香 (Mika Yasuma)

    在トリニダード・トバゴ日本国大使館

    はじめに

    1962年に独立したトリニダード・トバゴ(以

    下 TT)は、英領時代から、奴隷制の下で強制連

    行されたアフリカ大陸出身者、奴隷制に代わっ

    て導入された契約労働制の下で労働力として派

    遣されたインド亜大陸出身者2や中国人、宗教的

    迫害や経済的事情を理由に米国大陸に渡ったシ

    リア人及びレバノン人、ポルトガル人等多種多

    様な移民を受け入れてきた。

    他方 TT人の国外への移住も盛んであり、英

    国からの独立後(1962年)は米国やカナダへ

    の移住が増加した。現在では高等教育を終えた

    TT人のうち、約 8割が海外に移住しており(こ

    のうち 8割が英米加の 3か国に移住)、頭脳流

    出が TTの社会問題となっている。特に医療分

    野での人材不足は深刻であり、TTの医療制度

    の根幹を揺るがしかねない問題になっている。

    この状況に危機感を抱いた TT政府は、2000年

    代半ばにキューバやフィリピンからの医療人材

    1本稿は、2015年 4月 23日までの情報を基に、筆者個人の見解を記したものであり、在トリニダード・トバゴ日本国大使館及び外務省の見解ではない。

    2契約労働制の下で、1845年から 1917年にかけて、現在のインド、ネパールを含むインド亜大陸から約 14万 4,000人の労働者が TTに移住した。一般的に、彼ら及びその子孫は、「インド系 (Indian)」或いは「東インド系(East Indian)」と称されている。本稿では、「インド系」を用いる。

    の受け入れ決定に踏み切った。

    メキシコに次ぐ世界第 2位の移民労働者送り

    出し国として知られているフィリピンは、1970

    年代初頭から国策により自国民の海外労働を奨

    励し移民労働者の送り出しシステムを発展させ

    てきた。現在フィリピンは自国民を世界各地に

    労働者として派遣している。近年はカリブ諸国

    への派遣も増えており、TTもその例外ではない。

    本稿は、TT在住のフィリピン人を対象とし

    たアンケートやインタビューを基に、フィリピ

    ン人の TT流入の経緯と彼らの属性、彼らの TT

    社会、TTのフィリピン人社会に対する見方を

    明らかにし、近年 TT在住の移民の中でプレゼ

    ンスを高めつつあるフィリピン人移民の現状を

    纏めることを目的としている。

    なお、フィリピンは、7,100以上の島から成

    り、国全体で約 80の言語が使用されているこ

    と等から、実際には地域によって特色が異なっ

    ているが、本稿においては、フィリピン出身者

    及びその子孫を「フィリピン人移民」と見なす

    こととする。また、フィリピン人移民労働者は、

    「Overseas Filipino Worker: OFW」と呼称され、

    フィリピン政府及び国民の間で広く定着してい

    るため、本稿でも OFWを使用する。

    まず初めに、TTの移民の受け入れの歴史及

  • 2 安間美香

    び彼らに関する研究の動向を纏める。次に、公

    開情報や TT在住のフィリピン人を対象とした

    インタビュー、参与観察を基に、TTにおける

    OFW受け入れの経緯、主要なフィリピン系親

    睦団体について言及する。さらに、TTのフィ

    リピン人移民を対象としたアンケート調査を基

    に、彼らの属性等を明らかにする。最後に前述

    のアンケート調査及びインタビューを基に、彼

    らの TT社会、TTのフィリピン人社会に対する

    見方をまとめ、TTのフィリピン人移民が直面

    している問題や課題を考察し、今後の展望を述

    べる。

    1 TTにおける移民の受け入れの概要とその研

    究動向

    (1)英領時代から現代までの移民の受け入れ

    TTは約 134万人の人口を抱える小国であり

    がながらも、非常にバラエティに富んだ人種・

    エスニシティの構成を有する国である。英領時

    代に奴隷として連行されたアフリカ大陸出身者、

    奴隷制廃止後に契約労働者として受け入れられ

    たインド亜大陸出身者や中国人、経済的事情を

    理由にやってきたシリア人、レバノン人、ポル

    トガル人のほか、19世紀末からは、当時は TT

    とともに英領であった周辺のカリブの小国、ス

    ペイン語圏のベネズエラ及びコロンビアからも

    移民を受け入れてきた。TTが東カリブ地域内

    で経済的優位性を持つこと、TTが北米或いは南

    米への中継地点として認識されていることが移

    民のプル要因であると指摘されている3。また、

    域内の地域機構であるカリブ共同体 (Caribbean

    Community: CARICOM、以下カリコム) の統

    3Anatol, Marlon, Kirton, Raymond Mark, Nanan,Nia (2013), Becoming An Immigration Magnet: Mi-grant’s Profiles and the Impact of Migration on HumanDevelopment in Trinidad and Tobago, Research ReportACPOBS/2013/PUB15, p.1

    合プロセスの深化、加盟国間の労働力の自由な

    移動を目的とし、2006年に設立されたカリブ

    単一市場・経済 (Caribbean Single Market and

    Economy: CSME)も TT への移民流入を促進

    する要因になっている。CSMEにはカリコムの

    14の加盟国のうち 12か国が加盟しており、本

    システムの下では、3つのカテゴリーのいずれ

    かに当てはまるカリコム市民に対し、別の加盟

    国で労働許可証を取得することなく居住し且つ

    労働する権利が付与される4。

    最近 TTに流入する移民の中で急増している

    のは中国人で、その多くが建設労働者や商店、

    レストランの従業員として活躍している。中国

    以外のアジア諸国の移民としては、医療分野や

    教育分野等で働くインド人、主に医療分野で活

    躍するフィリピン人等が知られている。ベネズ

    エラ及びコロンビアからの移民も未だに続いて

    おり、ベネズエラに関しては留学生が、コロン

    ビアに関しては性産業で働く女性が増加してい

    る5。世界各地で白衣外交を展開しているキュー

    バは、TTにも看護師を派遣している。このほ

    か、ナイジェリアを含むアフリカ諸国からの移

    民は医師や警備員として活動している。

    TT に在留する外国人数を見ると、2011年

    時点の在留者数は 48,781人であり、2000年の

    41,753人から 7,028名 (16.8%)増加した6。出

    身国別の割合を見ると、カリコム諸国出身者が

    4賃金労働者 (Wage-earners)、一時的にサービスの提供を行う自営業者 (Self Employed-Non wage-earners seek-ing to provide services on a temporary basis)、居住権を行使する自営業者 (Self-Employed-Non wage-earners seekingto exercise the Right of Establishment)の 3 つ。“CSMEOverview”, Ministry of Foreign Affairs, Government of theRepublic of Trinidad and Tobago, http://www.foreign.gov.tt/csme/, “CARICOM Single Market and Economy”, Im-migration Division, Ministry of National Security, Govern-ment of the Republic of Trinidad and Tobago, http://www.immigration.gov.tt/Services/CSME.aspx

    5 Ibid.6 Ibid., p.23

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 3

    全体の 5割以上を占め、英語圏の先進国出身者

    の割合は 20%に上っている7。

    このほか、表 1のとおり、TT政府が国内の外

    国人に対して発行した労働許可証の発行件数を

    国別に見ると、上位 3か国の米国、英国、イン

    ドが減少傾向にあるのに対し、中国については

    2004年から 2010年の間に 2倍以上に増加して

    いることが読み取れる。本稿で扱うフィリピン

    については、2004年に 46件であったのが、翌

    年には 5倍以上の 265件に急増した。2006年

    は 165件で約 4割減少したが、2007年からは

    再び増加し、2008年にはその他、中国、米国に

    次ぐ第 4位になった。しかし、他の複数国と同

    様、2008年をピークにその後は減少に転じて

    いる。

    TT政府の統計によれば、2014年 11月時点の

    不法残留者数は 11万人以上で、出身国上位 5位

    は、ガイアナ (25,884人)、ベネズエラ (10,574

    人)、セントビンセント及びグレナディーン諸

    島 (9,608人)、バルバドス (7,169人)、グレナダ

    (6,947人)と、TTの周辺国出身者が多い8。ア

    ジアについては、中国 (4,593人)、フィリピン

    (4,437人)、インド (3,651人) 及びバングラデ

    シュ (167人)という具合になっている9。しか

    し、11万人という数は TTの総人口の約 10分

    の 1にあたり、TT国民の中には本統計への信

    憑性に疑問を持つ者も少なくない。入国管理局

    をはじめとする TTの行政機関については、高

    度な知識と豊富な経験を持つ人員の不足、官僚

    主義及び劣悪なカスタマー・サービス等の問題

    がしばしば指摘されていることから、行政機関

    7Trinidad and Tobago 2011 Population and housing cen-sus demographic report, Ministry of Planning and Sustain-able development Central Statistical Office, http://guardian.co.tt/sites/default/files/story/2011_DemographicReport.pdf

    8 “Are you illegal”, Newsday, Section A Page 3, Novem-ber 6th, 2014.

    9 Ibid.

    側の手続きの遅れ等が原因で自動的に不法残留

    者とカウントされてしまったケース、実際は出

    国したにも関わらずそれが統計に反映されてい

    ないケースは少なくないと考えられる。

    また、2010年以降に強制送還の対象となった

    不法移民の数は約 1,760人に上っているが (表

    2)、先述の不法残留者数 11万人以上という統

    計と照らし合わせると極端に少ないことが分か

    る。この背景としては、不法残留者が TT国内

    各地に分散しており捜索が困難であることのほ

    か、入管当局の人員・能力が十分でないためと

    考えられる。特に人員に関しては、スペイン語

    や中国語といった外国語に精通している職員が

    不足しており、不法移民の疑いがある外国人と

    意思疎通が図れないことが障害になっていると

    思われる。

    加えて、TTを含むカリブ諸国では移民の社

    会統合を目的とした構造に限界がある。TTの

    場合は、移民に関わる問題を専門とする政府機

    関、移民労働者を保護する法的枠組みが存在せ

    ず、移民に対する支援を十分に行うことが出来

    ないという問題を抱えている。TT政府は自国

    からの頭脳流出には関心を寄せている一方で、

    近年 TTに流入する移民については、殆ど関心

    を払ってこなかった10。

    (2) TTへの移民に関する研究動向

    TTにおける移民研究の大半は、TTから三大受

    入れ国である米国、カナダ、英国への移住の概

    観を説明したもの (Nurse 2006; Thomas-Hope

    2002, 2009)、これらの国々にあるディアスポ

    ラに焦点を当てたもの (Narine , Gosine 2005;

    10Reis,Michele (2007),Vision 2020: The Role of Migra-tion in Trinidad and Tobago’s Plan for Overall Develop-ment, 8th Annual Conference “Crisis, Chaos and Change:Caribbean Development Challenges in the 21st Century”,SALIES, March 26-28, p.2.

  • 4 安間美香

    表 1 出身国別労働許可証の発行状況 (2004年–2010年)

    (単位:件)

    2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

    米国 685 985 601 444 623 482 310

    英国 462 534 460 278 330 261 120

    インド 248 302 478 359 420 369 170

    中国 178 125 387 857 1,235 787 415

    カナダ 159 219 216 141 156 151 65

    ベネズエラ 116 154 193 203 220 144 96

    ナイジェリア 68 98 139 160 209 180 60

    メキシコ 54 76 75 167 124 84 46

    コロンビア 49 115 115 204 212 156 130

    フィリピン 46 265 165 190 520 335 154

    カリコム諸国 243 104 163 240 306 316 113

    その他 1,103 1,572 1,457 2,139 3,116 3,277 1,469

    計 3,411 4,549 4,449 5,382 7,471 6,542 3,148

    出所:A-Z Information Jamaica Limited (2010) A Consultancy to Access the Im-pact of Free Movement of Persons and Other Forms of Migration on MemberStates, Programme-Caribbean Integration Support Programme (CISP) Result 1.5, Ref:CISP/CSME/1.5.1.4(b)/SER09.10, p.230を基に筆者作成。

    Teelucksingh 2010)、移民のアイデンティティや

    エスニシティに焦点を当てたもの (Allahar 2010;

    Flynn 2006)で占められている。

    一方、TTの移民の中でパイオニア的存在で

    あるアフリカ系及びインド系については、非常

    に多数の研究が蓄積されており、それぞれの移

    住の経緯を説明したもの、それぞれの文化や宗

    教、両者の関係に焦点を当てたものが多い (北原

    2007;辻 2011; La Guerre, Bissessar, eds. 2005;

    Premads 1993; Samaroo, Bisseser 2004)。

    最近TTに流入する移民に目を向けると、周辺

    のカリコム諸国からの移民については、CSMEの

    下での域内のヒトの移動の一環として調査が行

    われてきたが (A-Z Information Jamaica Limited

    2010; Pienkos 2006)、カリコム域外、特に非英

    語圏諸国からの移民については、信頼に値する

    データの不足、財政・人材不足、言語面での障害

    もあり、政府機関でさえも彼らの実態を十分に

    把握出来ておらず、学術界でも殆ど取り上げら

    れてこなかった11。ようやく近年になって、ベネ

    ズエラからの移民、人身取引の被害者となるこ

    とが多いドミニカ共和国、コロンビアからの移

    民に焦点を当てた研究が行われるようになった

    (Anatol, Kirton, Nanan 2013; Kairi Consultants,

    Ltd. 2013; Reis 2006; Waldropt-Bonair, Foster,

    Gray, Alfonso, Seales 2013)。

    また、最近急増している中国本土からの移民

    11Kairi Consultants Ltd. (2013),Human Mobility in theCaribbean: Circulation of skills and immigration from theSouth, Research Report ACPOBS/2013/PIB16, p.9.においても、同様の指摘が行われている。

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 5

    表 2 TT政府が強制送還した不法移民の出身国・地

     域 (2010年–2014年 10月)

    順位 出身国・地域 数 割合

    1 ガイアナ 734 41.8%

    2 ジャマイカ 325 18.5%

    3 その他カリブ諸国 201 11.4%

    4 アジア 178 10.2%

    5 中米・南米 114 6.5%

    6 カリコム 101 5.7%

    (ガイアナ及び

    ジャマイカを除く)

    7 アフリカ 70 4.0%

    8 ヨーロッパ 21 1.2%

    9 北米 13 0.7%

    計 1,757 100.0%

    出所: “AG:Malicious charges”, TrinidadExpress, December 10, 2014 http://www.trinidadexpress.com/news/AG-Malicious-charges-285320671.html 2014年 12月 9 日の上院において、ラムローガン (Anand Ramlogan)法務長官 (当時)が発表した統計。

    については、その数もさることながら、TT国

    内のインフラ・プロジェクト、商店や中華レス

    トランでの活動を通じてプレゼンスを高めてい

    ることから彼らの実態把握のニーズが高まって

    いるが、アフリカ系やインド系と比べると研究

    数は少ない。フィリピンやアフリカ諸国等から

    の移民を対象にした研究や調査はほぼ皆無であ

    り、実態が解明されていないのが実情である。

    2 フィリピン人の TT流入とフィリピン人親睦

    団体の形成

    (1) 外交関係樹立とTTにおけるOFWの受入れ

    最初のOFWが TTに到着したのは、TTが英

    国から独立して間もない 1964年のことである。

    彼らは TTの医療人材不足を補填することを目

    的として、初代 TT首相エリック・ウィリアム

    ズ (Eric Williams)の招聘の下でリクルートされ

    た医師、看護師及び薬剤師等であった12。1970

    年に TTでアフリカ系住民を主体とするブラッ

    ク・パワー運動が発生すると、複数の OFWが

    北米や英国に移住、残留者の多くも契約終了後

    にフィリピンに帰国した13。初期の移民の大半

    は、マニラ、セブ島の出身者であったという14。

    1970年代になると、国営電話会社である TT

    電話公社 (Trinidad and Tobago Telephone Com-

    pany Limited: TELCO)の再編が行われ、その中

    で複数の技術者がフィリピンから派遣された15。

    その後 1980年代までに、ガイアナで医師と

    して活躍した者が TTに移住するとともに、雇

    用機会を求めて単身で渡航してきた者、TT人と

    結婚した者等も加わり、1992年頃までには TT

    のフィリピン人は 50世帯程度にまで増えた16。

    しかし、当時はフィリピンと TTは外交関係を

    樹立しておらず、TT国内にフィリピンの公館

    はおろか名誉領事さえも駐在していなかったた

    め、TT 在住者や船員として TT に上陸する者

    がフィリピン本国から支援を受けることは困難

    であった17。このような状況の中、1994年頃か

    ら現在駐 TTフィリピン名誉総領事を務めるマ

    リア・アドヴァニ (Maria Advani)氏等が中心と

    なって、フィリピン政府に対し TTに在住する

    フィリピン人のリストを提供し、TTにおける

    在外公館の設置を求める働きかけを開始した18。

    それから 6年が経過した 2000年になってよう

    12“Filipinos makes their mark in T&T”,Daily Express,September 17th, 2012, p.9.

    13Ibid.14Ibid.15Ibid.162013年 9月 18日、アドヴァニ駐 TT フィリピン名誉総領事より聴取。

    17同上。18同上。

  • 6 安間美香

    やくフィリピンは TTとの外交関係樹立に踏み

    切った。2001年には駐ベネズエラ大使が兼任

    する形でノンレジデント大使が任命され、2004

    年にはアドヴァニ氏が名誉領事に任命された19。

    その後駐ベネズエラ大使館が閉鎖されたため、

    現在は在米大使館が TTを含む英語圏カリブ諸

    国を管轄するという体制が取られている20。

    アドヴァニ氏によれば、同氏はビジネスを営

    むインド人の夫君を頼って、TT政府関係者や

    有力企業幹部との人脈形成に尽力してきたが、

    その過程において TTでは医療人材不足が深刻

    であり、キューバ等から看護師を受け入れてい

    ることを知った。そこで、同氏は、TT政府に対

    しフィリピンは世界中に労働者を派遣している

    こと、フィリピン人労働者の多くは高学歴であ

    り TTの公用語である英語を話す旨説明した上

    で、フィリピンから医療人材を受け入れるよう

    TT政府の説得に当たった21。こうして 2005年

    に、看護師 25名、薬剤師 25名、計 50名の医療

    人材の TTへの派遣が始まった22。医療人材の

    受け入れとほぼ同じ時期には建設労働者の受け

    入れも始まったが、これは当時 TTが建設ラッ

    シュに沸いていたためである。2008年 1月に

    は、観光地であるトバゴ島を統治するトバゴ議

    会 (Tobago House of Assembly: THA)が、当時

    人手不足に喘いでいた同島のホテル業者に対し

    フィリピン人労働者の雇用を認め、これを機に

    同島でも OFWの受け入れが始まった23。

    19同上。20同上。21同上。222015年 3月 26日、第 2陣の薬剤師として TT に派遣された I さんから聴取。

    23“Demand for Filipino Workers in Trinidad and To-bago Rises”, POEA Market Update, No.4, Series of2008, Philippine Overseas Employment Administration,“Hoteliers turn to Filipino workers”, Guardian, Jan-uary 10th, 2008. http://legacy.guardian.co.tt/archives/2008-01-13/bussguardian1.html

    アドヴァニ氏によれば、その後家事労働者と

    してやって来た者も加わり、2008年までには

    TT在住のフィリピン人の数が 2,000人までに

    増加した24。金融危機後は失業者の帰国が相次

    ぎ、在留フィリピン人の数が減少、2013年 9月

    末現在は約 1,000人と見積もられている25。

    (2) TT在住のフィリピン人

    表 3のとおり 2005年から 2010年の間に新

    規雇用でフィリピンから TTに派遣されたフィ

    リピン人の数を職種別に見ると、全体では 2007

    年にピークを迎え、2009年以降は激減している

    ことが分かる。2009年以降の派遣が減少した

    背景には、2008年の金融危機があると考えられ

    る。派遣数が最も多い職種は、看護師、薬剤師、

    製造監督者、家事サービス労働者である。看護

    師と薬剤師のみで 241名に上り全体の 36.6%を

    占めている。看護師と薬剤師の派遣は、2005年

    の合計 146名がピークであり、看護師について

    はその後も 2009年まで数を減らしながら派遣

    が継続されたものの、薬剤師については 2006

    年以降の派遣はほぼゼロの状態である。最初は

    医療関係を中心に送り出し、その後は建設労働

    者、エンジニア、家事サービス労働者、ウェー

    ター/バーテンダー、料理人と職種が多様化し

    ていったと考えられる。

    なお、筆者は、2000年から 2004年の間の統

    計も確認したが、この時期に TTに派遣された

    OFWの数は掲載されていなかった。

    TT 在住のフィリピン人数 (推定) を見ると、

    2004年に 186名にしか過ぎなかったのが、5年

    242013年 9 月 18日、アドヴァニ駐 TT フィリピン名誉総領事より聴取。ちなみに、海外フィリピン人委員会(Commission on Filipinos Overseas: CFO)の統計によれば、2009年 12月現在の TT在住のフィリピン人数(推定)は 1,200人である。

    25同上。

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 7

    表 3 新規雇用で TTに派遣されたフィリピン人 (職業別)(2005年–2010年)(単位:人)

    年 2005 2006 2007 2008 2009 2010計副支配人(サービス業以外) 0 0 0 0 0 1 1管理職 0 1 3 0 0 0 4プロジェクト・マネジャー(建設) 0 0 3 0 0 0 3管理職一般 0 0 0 1 0 0 1庭師 0 0 0 0 1 0 1牧畜従事者 0 0 1 0 0 0 1専門農業労働者 0 0 0 2 0 0 2農業労働者一般 0 0 0 0 0 1 1受付係・旅行業者社員 0 0 0 4 0 0 4販売員 0 0 0 1 0 0 1帳簿係・計算機係 0 0 0 1 0 0 1電気配線工 0 0 0 7 3 0 10溶接工 0 0 0 2 0 0 2製造監督者 0 19 5 1 2 0 27クレーン運転者 0 2 0 0 0 0 2金属組立工 0 0 0 5 0 0 5金属薄板工 0 0 0 2 0 0 2機械組立・精密機械組立労働者 0 0 2 0 0 0 2電気工事士 0 0 1 0 0 0 1製造関係労働者 0 0 0 4 0 0 4印刷工 0 0 0 1 0 0 1配管工 0 0 0 5 0 0 5塗装工 0 0 0 5 0 0 5食品・飲料加工関連労働者 0 0 0 0 0 1 1大工・指物師 0 0 0 17 3 1 21れんが職人・石工 0 0 0 16 3 0 19パン・菓子製造職人 0 0 0 1 0 0 1科学技術者 0 0 0 1 0 0 1測量技師 0 1 1 0 0 1 3専門技術者 0 0 1 1 0 0 2理学療法士 0 0 0 2 4 0 6薬剤師 33 0 0 0 1 0 34人材育成専門家 0 1 0 0 0 0 1看護師 113 68 17 3 6 0 207医師 4 7 0 0 1 0 12機械エンジニア 0 0 1 0 0 0 1生産エンジニア 0 0 1 0 0 0 1土木エンジニア 0 4 3 2 0 0 9エンジニア 0 0 5 4 0 0 9その他の工学技術者 2 4 2 3 3 0 14機械工学技術者 0 0 0 1 1 0 2土木技術者 0 1 1 0 0 0 2建築エンジニア 0 2 2 0 0 0 4建築士・都市設計家 0 1 1 0 0 0 2製図工 0 2 0 0 0 0 2生物・動物学者 0 0 0 0 0 1 1会計士 0 0 7 0 0 1 8ウェーター/バーテンダー 0 9 0 9 0 0 18家事サービス監督者 0 0 0 7 1 0 8家事サービス労働者 0 3 0 14 7 0 24家政婦 0 0 0 4 0 0 4サービス労働者 0 4 0 9 0 0 13洗濯業労働者 0 0 0 4 0 0 4料理人 0 1 1 11 3 1 17不明 0 9 105 0 0 7 121計 152 139 163 150 39 15 658

    出所:“OFW Statistics-OFW Deployment per Skill and Country”, the Philippines Over-seas Employment Administration, http://www.poea.gov.ph/stats/statistics.htmlより筆者作成。

  • 8 安間美香

    表 4  TT在住のフィリピン人数 (推定)  (2004年- 2012年)

    (単位:人)

    年 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

    永住 21 21 21 21 21 50 50 50 300

    一時滞在 115 295 282 550 685 1,000 1,022 1,069 189

    不法滞在 50 100 100 100 100 150 100 150 150

    計 186 416 403 671 806 1,200 1,172 1,269 639

    出所:“Stock Estimate of Overseas Filipino”, Commission on Filipinos Overseas,Office of the President of the Overseas http://www.cfo.gov.ph/index.php?option=com_content&view=article&id=1340:stock-estimate-of-overseas-filipinos&catid=134: statisticsstock-estimate&Itemid=814より筆者作成。

    後の 2009年には約 6.5倍の 1,200名に達したこ

    とが分かる(表 4)。以降は横ばい状態が続き、

    2012年の時点では 2009年の約半数にまで減少

    した。詳細を見ると、永住者は 2008年までは

    21名であったが、2009年にはその 2倍の 50名

    に、2012年には 2009年の 6倍の 300名に増

    加している。また、2012年においては、永住者

    が全体の約半数を占めている。このことは、TT

    人との結婚、TTの市民権獲得等を経て、永住

    者となったフィリピン人の割合が高いことを示

    している。一時滞在者は 2004年から 2009年の

    5年間で 8.7倍に増加、以降は横ばい状態が続

    き、2012年には 2009年の 5分の 1程度に落ち

    込んでいる。この統計はアドヴァニ氏の説明の

    とおり、医療従事者の受け入れ開始とともに、

    TTの建設ブームに乗じた形で建設労働者が増

    加した時期、その後の金融危機の影響等により

    TTが不況に陥った時期を反映している。2012

    年にフィリピン人数が激減したのは、2011年か

    ら 2012年の間に契約期間が満了した者の帰国

    が相次いだためであると考えられる。また、不

    法滞在者については、2004年に 50人であった

    のが、2005年には 100人に増加、2009年には

    150人に達した。2010年には 100名に減少し

    たものの、2011年に再び増加に転じ、2012年

    には全体の 23%を占めている。

    なお、フィリピン海外雇用庁 (Philippine Over-

    seas Employment Administration: POEA)及び

    海外フィリピン人委員会 (Commission on Fil-

    ipinos Overseas: CFO)統計の中には、POEAに

    登録されている人材派遣会社を介さず個人的な

    人脈を頼りに TTで職を見つけた者、一旦観光

    客として TTに入国しその後就職した者は反映

    されていない可能性が高く、それ故にアドヴァ

    ニ氏が公表した TT在住フィリピン人の数との

    間に開きがあると考えられる。

    (3) フィリピン系親睦団体

    フィリピンと TTが外交関係を構築した 2000

    年、初のフィリピン系親睦団体である在TTフィ

    リピン系コミュニティ協会 (Filipino Community

    Association of Trinidad and Tobago: FCATT)が

    設立された26。FCATTは、フィリピン人同士の

    交流促進、相互扶助を主な目的としており、元々

    古株世代のフィリピン人の有志の集まりであっ

    たものが TT政府への正式登録を経て現在の形

    262013年 9月 18日、アドヴァニ駐 TT フィリピン名誉総領事より聴取。

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 9

    フィリピン独立記念イベント(2013年 6月 15日筆者撮影)

    へと発展した27。2015年 1月現在の会員数は約

    200名で、一人 50TTドル (約 900円)の年会費

    を徴収の上、2年ごとに改選される名の役員の

    下運営されている28。主な活動は、フィリピン

    独立記念イベント (6月)、スポーツ大会 (四半期

    毎)及びクリスマス・パーティー (12月)の開催

    である29。特にスポーツ大会は、最も人気の高

    い行事である。当日は TT各地からあらゆる年

    齢層、職業のフィリピン人が集い、スポーツを

    通じた交流だけではなく新たなフィリピン人と

    の出会いを提供する場にもなっている。

    このほかにも宗教や芸術、スポーツを主体と

    した団体が複数存在し、その活動が TTの主要

    紙に取り上げられることもある。

    3 TTのフィリピン人移民の実態

    (1) 調査の概要

    筆者は 2013年 9月 1日から 2014年 5月 31

    日までの間、TTに居住しているまたは居住経験

    のあるフィリピン人及び彼らの子弟を対象にア

    272015年 1月 31日、フォンテレーラ=アキン (CristalFontelera-Aquing) FCATT会長 (当時) から聴取。

    28同上。29同上。

     クリスマス・パーティー (2013年 12月 1日筆者撮影)

    ンケート調査を実施した。アンケート表は英語

    で作成し、Eメール或いはフィリピン人の知人

    を通じて配布・回収した。同時に、フィリピン

    人が主催するイベントの機会を活用し、筆者が

    英語で直接質問し回答をアンケート表に記入す

    るという方法も実施した。回答者数は 102名、

    このうち男性が 43名、女性が 47名、不明・無

    回答が 12名であった。

    (2) アンケート調査結果・分析

    ア 年齢・婚姻状況

    30-39歳が 43名と最も多く、全体の約 42%を

    占める(表 5)。これに、40-49歳 (18名)、50-59

    歳 (18名)の層が続く。この 3つの層だけで、全

    体の約 77%を占めており、働き盛りの層が多い

    ことが分かる。また、婚姻状況を見ると、未婚

    と既婚の割合がほぼ同じになっている(表 6)。

    既婚者の配偶者については、約 81%にあたる34

    名がフィリピン人と回答した(表 7)。フィリピ

    ン或いは他国で同郷者と結婚した後に TTでの

    海外就労の道を選択した者が多いと考えられる。

    イ 学歴・職業・年間世帯収入

    表 8のとおり、大卒者は 43名に上り全体の

  • 10 安間美香

    表 5 年齢

    A. 19歳以下 2

    B. 20-29歳 14

    C. 30-39歳 43

    D. 40-49歳 18

    E. 50-59歳 18

    F. 60-69歳 5

    G. 70-79歳 1

    H. 80歳以上 0

    無回答 1

    計 102

    表 6 婚姻状況

    A.未婚 43

    B.既婚 42

    C.その他 15

    無効・無回答 2

    計 102

    表 7 配偶者の国籍 (表 5で Bを選択した者のみ)

    A.フィリピン 34

    B. TT 6

    C.その他 1

    不明・無回答 1

    計 42

    約 42%を占める。カレッジ卒、専門学校卒、大

    卒、大学院卒を合わせると 88名 (全体の 86.3%)

    になり、高等教育機関の卒業者が多いことが分

    かる。これは OFWには高学歴保持者が多いと

    いう事実を改めて示している。

    職業別では、表 9のとおり、看護師は 25名

    で全体の 4分の 1を占めている。看護師、薬剤

    師、医師の合計は 41名で全体の約 4割に及んで

    おり、他国と同様 TTにおいても医療分野に従

    事するフィリピン人が多いことが読み取れる。

    表 8 学歴

    A.小学校卒業 2

    B.中学校または高校卒業 7

    C.カレッジ卒業 32

    D.専門学校卒業 8

    E.大卒 43

    F.大学院卒業 5

    G.その他 0

    無回答 5

    計 102

    表 9 職業

    A.看護師 25

    B.薬剤師 13

    C.医師 3

    D.建設労働者 6

    E.エネルギー関連会社の社員 4

    F.家政婦 6

    G.船員 2

    H.漁師 0

    I.学生 0

    J.失業中 0

    K.その他 34

    不明・無回答 9

    計 102

    年間世帯収入については、9万 9,999TTドル

    (約 180万円)以下と回答した者が 34名で全体

    の約 33%を占める(表 10)。これに、10万TTド

    ル以上 14万 9,999TTドル以下 (約 170万円以上

    約 270万円以下)の 21名が続いた。他方、無回

    答が全体の約 2割に達した。2008年の公立病院

    に勤務する TT人看護師の月額基本給は、6,100

    ~6,160TTドル (約 10万 9,800~11万 880円)、

    2013年のTT人の平均月収は、5,211TTドル (約

    9万 3,800円)であることから、TT在住のフィ

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 11

    表 10 年間世帯収入

    (単位:TTドル)

    A. 99,999ドル以下 34

    B. 100,000ドル以上149,999ド

    ル以下

    21

    C.150,000ドル以上199,999ド

    ル以下

    11

    D. 200,000ドル以上299,999ド

    ル以下

    7

    E.300,000ドル以上 349,999ド

    ル以下

    3

    F. 350,000ドル以上 6

    無回答 20

    計 102

    リピン人は、一般の TT人と同等か、それを若

    干上回る収入を得ていると考えられる30。

    ウ 出生地・フィリピンにおける出身地域・TT

    入国年とその目的

    出生地に関しては、フィリピンと回答した者

    がほぼ全員であり、このうち全体の約 56.6%に

    あたる 56名が 2000年から 2009年の間に TT

    に入国したと述べている (表 11、表12)。2000

    年以降の入国者は 76名で全体の 74.5%に達し

    ている。これは、アドヴァニ名誉総領事が述べ

    ていたように、フィリピンから医療関係者や建

    設労働者の流入が増加した時期と重複している。

    表 13のとおり、回答者の 63.6%にあたる63名

    が「移民労働者として働くために TTに来た」と

    述べていることからも、TTのフィリピン人も

    他国のフィリピン人と同様、海外就労を主な理

    30TT 人の平均月収については、2015 年 2 月 2日、TT 労働・中小企業開発省より入手。公立病院に勤める TT 人看護師の月額基本給については、“Fuad and nurses wage war words”,Guardian, July1st, 2012, http://www.guardian.co.tt/news/2012-07-01/fuad-and-nurses-wage-war-words

    表 11 出生地

    A.フィリピン 99

    B. TT 3

    C.その他 0

    計 102

    表 12 TT入国年 (表 11で A または Cを選択した者のみ)

    A. 1959年以前 0

    B. 1960年から 1969年の間 0

    C. 1970年から 1979年の間 4

    D. 1980年から 1989年の間 7

    E. 1990年から 1999年の間 6

    F. 2000年から 2009年の間 56

    G. 2010年以降 20

    無回答 6

    計 99

    表 13 TTに来た主な目的 (表 11で A または Cを選択した者のみ)

    A.移民労働者として働くため 63

    B.企業内転勤 2

    C.留学 0

    D.結婚 4

    E.家族と共に暮らすため 10

    F.その他 4

    無効・無回答 16

    計 99

    由としていることが分かる。

    フィリピンの出身地域については、表 14の

    とおり、全体の約 56.6%にあたる 56名がルソ

    ン島と回答した。マニラ首都圏及びカラバルソ

    ン31は、フィリピン全体で見ても海外への移民

    31カビテ州、ラグーナ州、バタンガス州、リサール州、ケソン州の 5つの州を合わせた頭字語。

  • 12 安間美香

    表 14 フィリピンの出身地域 (表 11で A を選択した者のみ)

    A. ルソン島 (マニラ首都圏、イロコ

    ス、カラバルソン、ビコール等)

    56

    B.ヴィサヤ諸島 (セブ、イロイロ、ネ

    グロス、レイテ、サマール等)

    26

    C.ミンダナオ島 (ダバオ、カガヤン・

    デ・オロ、ザンボアンガ、ソックスク

    サルジェン(注)等)

    17

    D.その他 0

    無回答 5

    計 99

    (注)南コタバト州、コタバト州、スルタン・クダラット州、サランガニ州の 4州及びジェネラル・サントス市を合わせた頭字語。

    表 15 信仰宗教

    A.カトリック 82

    B.プロテスタント 4

    C.その他のキリスト教 8

    D.イスラム教 1

    E.ヒンドゥー教 0

    F.その他 2

    無回答 5

    計 102

    が多い地域である。

    エ 宗教

    表 15のとおり、カトリック信者は 82名で全

    体の約 80.1%を占める。プロテスタントとその

    他のキリスト教を合わせると、全体の約92.2%に

    あたる 94名がキリスト教信者である。TTの主

    要な町を訪ねると、カトリック教会、プロテス

    タント教会を必ず目にするが、このように身近

    に教会があり、また英語でミサが行われている

    ことは、キリスト教徒のフィリピン人には好都

    表 16 使用言語 (複数選択可)

    A. 英語 79

    B.フィリピノ語/タガログ語 78

    C.その他のフィリピンの言語 55

    D.その他 15

    無回答 5

    計 232

    合であろう。

    オ 使用言語

    使用言語に関し、英語、フィリピン語/タガ

    ログ語と選択した者は、それぞれ 79名、78名で

    全体 (102名)の 75%以上を占める(表 16)。ま

    た、その他のフィリピンの言語を選択した者は

    55名で全体の 53.9%に達し、アンケート用紙

    の空欄に書かれた言語は、ヴィサヤ諸島及びミ

    ンダナオ島の大部分で使用されているセブアノ

    語、西ヴィサヤ諸島で使用されているイロンゴ

    語を含め 20種類に上った。フィリピンの公用

    語である英語、フィリピン語/タガログ語のほ

    かに、出身地域或いは両親の使用言語を話す者

    が回答者の半数以上を占めると推測出来る。

    また、その他興味深いのは、7名がアラビア

    語を話すと回答した点である。これは、過去に

    中東地域での就労経験がある、或いは同地域で

    勤務することを念頭にアラビア語の語学研修を

    受けていた可能性が高いことを示している。

    このほか、2名が日本語を話すと回答した。

    カ 今後の展望

    「一生 TTに住むつもりか」という問いに対

    し、表 17のとおり、全体の約 86.2%にあたる

    88名が「いいえ」または「分からない」と回答

    した。その理由として、表 19のとおり、全体の

    約 42.2%にあたる42名が「家族や親戚がフィ

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 13

    表 17 一生 TTに住むつもりか

    A.はい 11

    B.いいえ 33

    C.分からない 55

    無回答 3

    計 102

    表 18 表 17で A を選択した者のみ、その主な理由

    (複数回答可)

    A. TTに家族がいるため 5

    B. TTで仕事をしているため 2

    C. TTが好きであるため 2

    D.フィリピンや他の国よりも、TTで暮

    らした方がいい生活が送れるため

    4

    E.その他 2

    計 15

    表 19 表 17で B または Cを選択した者のみ、そ

    の主な理由 (複数回答可)

    A. 家族や親戚がフィリピン及び/或い

    は他の国に住んでいるため

    42

    B.他の国での雇用機会を探す可能性が

    あるため

    34

    C. TTが好きでないため 2

    D. TTよりもフィリピンや他の国で暮ら

    した方がいい生活が送れるため

    5

    E.その他 4

    F.無回答 15

    計 102

    リピン及び/或いは他の国に住んでいるため」

    を選択した。これに「他国での雇用機会を探す

    可能性があるため」の 34名 (33.3%)が続いた。

    これらを踏まえると、彼らの多くが家族や親戚

    が居住するフィリピンや他国に戻る或いは移住

    する可能性、TTでの雇用契約が終了した後に、

    他国で職を見つける可能性を視野に入れている

    ことが分かる。

    一方、「はい」と回答した 11名のうち 5名が

    その理由として「TTに家族がいるため」を選択

    した (表 18)。この回答を選択した者全員がTT

    人と結婚していると考えられる。また、4名は、

    「フィリピンや他の国よりも、TTで暮らした方

    がいい生活が送れるため」を選択した。

    4 TTのフィリピン人移民の TT社会及びフィ

    リピン人社会に対する見方

    以下では、アンケート調査、インタビューの

    内容を基に、TTのフィリピン人移民が TT社会

    や TTのフィリピン人社会をどのように捉えて

    いるのかを取り上げたい。

    インタビューに関しては、2013年 11月から

    2015年 3月の間に 9名に対し、フィリピン人

    同士の集まりの機会を捉えて或いは筆者が先方

    宅を訪問するという形で実施した。多忙のため

    都合がつかなかった 2名、既に帰国した 1名に

    ついては、ソーシャル・メディアのチャットを

    通じて質問をした。協力者 9名のプロフィール

    は以下のとおりである。

    A さん

    30代女性。2000年代初期に TTに入国。水

    産加工会社での勤務、TT人男性との結婚を

    経て、現在は薬剤師として活動。

    Bさん

    20代女性、2000年代半ばに海外で知り合っ

    た TT人の恋人を頼って TTに入国。その後

    別の TT人男性と結婚し、現在は夫と共に中

    古自動車関係のビジネスに従事。

    Cさん

    50代男性。2000年代初期に既に TTに生活

  • 14 安間美香

    基盤を築いていた姉を頼って入国。現在は、

    教育機関で会計関連の仕事に従事。

    Dさん

    60代女性。ヨーロッパ留学中に知り合った

    TT人男性と結婚し 1970年代初頭に TTに入

    国。TT政府機関での仕事を経て、現在は

    自宅勤務。

    Eさん

    30代女性。幼少期であった 1980年代初頭に

    両親と共に TTに移住。TT人男性と結婚し、

    現在は石油関連会社に勤務。

    Fさん

    30代女性。台湾での勤務を経て、TT政府と

    フィリピン政府の取り決めの下 2000年代後

    半に TTに看護師として入国。トリニダード

    島北西部にある公立病院での勤務の後、現

    在は同島北西部にある私立病院に勤務。

    Gさん

    20代男性。既に薬剤師として TTに在留して

    いた母親を頼って 2000年代後半に観光査証

    で TTに入国。その 1年後に看護師として採

    用され、トリニダード島北部の公立病院や私立

    病院に勤務。5年間 TTに滞在した後、母親を

    残してフィリピンに帰国。

    Hさん

    30代男性。カリブ諸国へのOFW派遣実績を

    持つ人材派遣会社経由で 2010年代前半に TT

    に入国、TT政府の執事として約 5年勤務した

    が、2015年 9月の総選挙で政権が交代した

    影響で契約が終了し、同年末にフィリピンに

    帰国。

    I さん

    50代女性。第 2陣の薬剤師として 2000年代

    中旬に TTに入国。現在はトリニダード島南

    部の公立病院に勤務。

    (1) TT社会に対する見方

    TTでは 2000年代にインフラ開発が急速に進

    んだというのが一般的な見方であり、これはフィ

    リピン人のTT流入が本格的に始まった 2000年

    代半ば以前から TTに滞在する者にも共通して

    見られる見方である。具体的には次のとおりで

    ある。

    Aさん「自分が来た当時は、TTには今のように

    近代的なビルはなく田舎であったが、その後

    発展した」32

    Bさん「当時のTTで一番高い建造物は中央銀行

    で、ハイアット・リージェンシー・ホテル(注:

    現在の首都ポート・オブ・スペイン代表をす

    る高層ビル)はなかった。クラウンプラザ・

    ホテル(現ラディソン・ホテル)も今ほど良

    い施設ではなかった」33

    Cさん「(自分が来た後に)TTのインフラが改

    善され、ショッピング・モールが増えた。道

    路や住宅が多く建設され、渋滞がひどくなっ

    た」34

    Dさん「石油価格が上昇した後、TT人は物質

    主義に傾倒するようになった。以前のポート・

    オブ・スペインには高い建物はなく、新車を購

    入するのは至難の業で最低 1年待たなくては

    いけないほどであった」35

    他方、アンケートの中で TT生活の中で体験

    した問題について質問したところ、「劣悪な治

    安」及び「劣悪なカスタマー・サービス」がそ

    れぞれ 6割を占めた(表 20)。

    「劣悪な治安」については一般の TT人にとっ

    ても最大の懸念事項である。筆者はこれまでの

    322013年 11月 29日、A さんより聴取。332014年 3月 8日、B さんより聴取。342014年 11月 21日、Cさんより聴取。352015年 1月 17日、D さんより聴取。

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 15

    TT在住フィリピン人との会話の中で、地元住

    民複数に囲まれ暴力を受けたケース、複数の地

    元男性に婦女暴行を受けたケース、自宅前で銃

    を突きつけられたケース、空き巣被害に遭い貴

    重品を盗まれたケース等を耳にし、地元住民だ

    けでなくフィリピン人も犯罪の脅威に晒されて

    いる状況を知った。これに関し、Bさんは「当

    初住んでいたセント・ジェームス(トリニダー

    ド島北西部)からランジ・パーク(同島中部)

    に引っ越した後、ある日ジョギングをしていた

    ところを突然襲われ、iPodを盗まれた。それ以

    来、身の危険を感じ、一人で運動するのを止め

    た。今の家には防犯カメラがついているので周

    囲の動きが確認出来るが、外では銃撃されて死

    亡した人もいるので安全ではない。今は徒歩で

    家の外に出ることはない」と述べていた36。

    「劣悪なカスタマー・サービス」についても

    TT 人や TT 在住の外国人の間で問題視されて

    おり、主要紙の読者投稿欄にはしばしば劣悪な

    カスタマー・サービスを体験した読者からの便

    りが掲載されている程である。

    「劣悪な治安」、「劣悪なカスタマー・サービ

    ス」の後には、「地元住民からの差別」が続いて

    いる。筆者はアンケートの最後にコメント欄を

    設けたが、TT人からの差別、TT人との軋轢を

    経験し、TTに対し抱いているネガティブな感

    情をコメント欄に書き込む回答者が目立った。

    TT 政府で執事として活躍していた H さんは、

    職場でフィリピンの出身地域が同じ同僚とその

    地方の言語で仕事の作業について話していたと

    ころ、職場に出入りしていた TT人業者に二人

    が自身を中傷する発言を行っていると誤解を受

    け、「英語を話せ」と言われた挙げ句、「おまえ

    達の貧乏な国に帰ってバナナでも食べろ!」と

    362014年 3月 8日、B さんより聴取。

    暴言を吐かれたと筆者に対し興奮気味に述べて

    いた37。これとは対照的に、台湾での勤務経験

    を有する Fさんは、「これまで TT住民から表

    だった差別を受けたことはなく、台湾で家畜の

    ように扱われたことがあるため、TTでの生活

    の方がはるかに良い」と語っていた38。

    「高い生活コスト」に関し、エネルギー及び

    観光を主産業とする TTにおいては、製造業が

    それほど発展しておらず、多くのモノを欧米や

    中国からの輸入に依存している。また、東南ア

    ジアと比較すると TT の人件費は割高である。

    従って、モノ・サービスにかかるコストはフィ

    リピンの倍以上になる。出来るだけ多くの額を

    家族や親族に送金したい、出来るだけ頻繁に故

    郷に里帰りしたいと考えるフィリピン人にとっ

    ては、悩みの種になっていると言っても過言で

    はないであろう。

    言語に関して、フィリピンは英語を公用語の

    一つとしているが、フィリピンの英語は米語を

    基本としているほかフィリピン独自のスラング

    も含んでいる。早口で訛りが強く独特のスラン

    グを持つ TT英語に慣れるのに苦労を要すると

    いうのは自然な流れである。

    これらの他に TT生活の中で体験した問題と

    して挙げられた点は、ジェンダー差別、交通、TT

    人の国民性、 TT人との労働倫理・仕事に対す

    る意識の違い、TTの社会・文化的状況等があっ

    た。労働倫理、仕事に対する意識の違いに関し

    ては、TT の水産加工会社で TT 人の研修指導

    員的役割を経験した Aさんは、「TT人を研修す

    るのは本当に大変だった。子供の面倒を見てい

    るのも同然でものすごくイライラした。TT人

    は他に条件のいい仕事を見つけるとすぐに辞め

    てしまうので、結局数百人から 1,000人近くを

    372015年 3月 26日、H さんより聴取。382015年 2月 7日、Fさんより聴取。

  • 16 安間美香

    表 20 TT生活の中で体験した問題 (複数選択可)

    A. 劣悪な治安 63

    B.劣悪なカスタマー・サービス 62

    C.高い生活コスト 22

    D.地元住民からの差別 34

    E.言語 13

    F.その他 9

    なし 3

    無回答 7

    計 213

    研修する羽目になった」と発言していた39。看

    護師として活躍していた Gさんは、「TT の医

    療システムの主な問題点は、技術面・効率性で

    遅れを取っていることだと感じている。多くの

    TT人がフィリピン人のように働かず、人種差

    別的で視野が狭いという TTの文化に原因があ

    ると考える。TT人は医療システムの発展のた

    めであっても、外国人看護師が現場をリードし

    たり、各部署の長になることを認めない。これ

    は、フィリピン人婦長が活躍している中東とは

    異なる」と述べていた40。

    その一方、TT在住歴 40年以上の Dさんは、

    「TTはとても良い国だと思う。貧困地域にもテ

    レビやケーブルテレビがあり、貧富の格差はそれ

    ほど大きくないと感じている」と述べている41。

    このほか、TTに 10年以上在住しているCさん

    は、「フィリピンにいる時よりも比較的簡単に

    職を得られると感じている。また、競争も少な

    いと思う」と前向きな意見を述べていた42。

    392013年 11月 29日、A さんより聴取。402015年 3月 4日、Gさんより聴取。412015年 1月 17日、D さんより聴取。422014年 11月 21日、Cさんより聴取。

    (2) TTのフィリピン人社会に対する見方

    フィリピンにおける出身地域・使用言語や TT

    における職業・階層による分断と世代交代

    筆者がインタビューしたフィリピン人の多く

    は、TTにおけるフィリピン人数の増加に伴い、

    フィリピンにおける出身地域や使用言語、TTに

    おける職業・階層による分断化が進んでおり、以

    前よりもフィリピン人同士の関係が希薄になっ

    たと述べている。これに加えて、世代交代に伴

    うフィリピン文化やフィリピン人としてのアイ

    デンティティを継承する上で課題に直面してい

    るという声もあった。具体的には、以下のとお

    りである。

    Cさん「以前は、毎週末フィリピン人同士で

    集まっていた。その後派閥が出来分裂してい

    った」43

    Dさん「1998年頃の TTのフィリピン人数

    は 100人程度で当時は結束力が強かった。現

    在のフィリピン人社会内部には階級格差があ

    る。フィリピンの出身地域ごと、職業ごとで

    纏まっている面もある。昔はフィリピン人の

    子供達は、フィリピン関連のイベントでダン

    スを披露し、フィリピン人としてのアイデン

    ティティも持っていた。子供達同士の仲も良

    かった」

    Eさん「1990年代には毎年会場となる家を替

    えてクリスマス・パーティーを開催していた。

    また、昔は各家をローテーションし、毎週末

    麻雀大会を開催していた。昔フィリピン人が

    開催した文化イベントでは、フィリピン人の

    子弟も活躍していた。自分以外の第 1世代の

    子弟は皆海外に移住してしまった。新しく来

    たフィリピン人とはあまり付き合いがない。

    今は、フィリピン人の数が多く、それぞれの

    43同上。

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 17

    グループがある。彼らを取り込むためには、

    何かしらの活動をしていることを示さなけれ

    ばいけないと感じる。自分の息子はフィリ

    ピン人としての心を受け継いでおり、これま

    でに2回フィリピンにも行ったが、タガログ語

    を話すことが出来ない。自分が流暢でないた

    め教えることが出来ない。新しく来た人々は

    子弟にタガログ語を教えているが、第1世代は

    子弟にタガログ語を教えなかった」44

    フィリピン系親睦団体に対する見方

    現存のフィリピン系親睦団体は、FCATTを除

    くと設立から 10年経過しておらず、組織として

    は発展途上の段階にある。FCATTもその他団

    体も独立した事務所を有していないばかりか、

    ソーシャル・メディアを活用した広報にもそれ

    ほど積極的ではない。メンバーの勧誘はフィリ

    ピン人間の口コミに依存している。職場や街で

    同国人と出会うことのないフィリピン人がこれ

    ら団体の存在を承知していないケースも散見さ

    れると思われる。このため、フィリピンでの出

    身地域や使用言語が同じ、或いは TTでの職業

    が同じ者同士の集まり、仲の良い友人同士の集

    まりになりやすい。また、団体の運営は、中心メ

    ンバーそれぞれの資質及び都合に左右される傾

    向が強い。中心メンバー及びその友人・知人が

    事務、イベント運営の大部分を担当することが

    多いことから、関係者は多大な負担を強いられ

    ることになる。さらに、組織内部には縁故主義

    が根強く、幹部ポストの人選や資金の使途、活動

    の方向性等を巡って中心メンバー、新旧幹部の

    間で不和が生じ、結果として活動が停滞するこ

    ともある。このほか、TTでの生活基盤が脆弱で

    地元社会との関わりが限定されている層にとっ

    442015年 1月 31日、Eさんより聴取。

    て、トラブル・事故発生時や求職中にいかにし

    て同胞から支援を得るかは切実な問題である。

    特に、TTにフィリピンの在外公館がなく本国か

    らの支援が手薄な現状においては尚更である。

    不法滞在者に絡むケースのほか、強盗被害に遭

    う、その他のトラブルに巻き込まれるケースは

    後を絶たないが、フィリピン政府機関やフィリ

    ピン系親睦団体からの支援や情報共有が不十分

    であると不満を唱える者は少なくない45。フィ

    リピン系親睦団体に対するインタビュー協力者

    の見方は以下のとおりである。

    Bさん「以前は、FCATT幹部とも付き合いが

    あったが、彼らは他のフィリピン人が強盗被

    害に遭ったり、婦女暴行を受けたり、職を探

    していても全く協力的ではない。FCATTは

    困っているフィリピン人に手を差し伸べる

    べきである。こういった事情があり、最近

    は FCATTとは距離を置いている。その一方

    でトバゴ島にいるフィリピン人は団結力が

    あり、互いに助け合っている」46

    Cさん「現在(2014年当時)の FCATTの運営

    方法に賛同出来ないため、FCATTから距離

    を置いている。最近の FCATT会長は、以前

    自分の姉が FCATT会長を務めていた時に築

    き上げた財政を台無しにしてしまった」47

    Eさん「以前は、TT人がFCATTを応援し、フィ

    リピンの文化イベントを楽しんでいた。昔と

    今は状況が異なるため、別のアプローチをし

    なければならない。FCATTが出来ることは

    もっとあるが、成功させるためには周りのフィ

    リピン人の協力が必要である。最近は、TT人

    45“Pinoys help Cebuanos”,Inquirer, Septmeber 27th,2008. http://globalnation.inquirer.net/cebudailynews/news/view/20080927-163235/Pinoys-help-Cebuanos

    462014年 3月 8日、B さんより聴取。472014年 11月 21日、Cさんより聴取。

  • 18 安間美香

    は、FCATTが排他的な小集団 (clique)で、パー

    ティーを開催することにしか興味がないと考

    えているようである」48

    おわりに

    これまでの数々の研究で指摘されているとお

    り、TTにおける移民政策、移民を専門とする政

    府機関、移民を保護する法的枠組みの欠如は、

    移民に対する支援、移民の実態把握の大きな障

    害となっている。実際、今回の調査を実施する

    にあたっては、TT政府が公表しているデータ、

    先行研究不足等もあり、TTのフィリピン人移

    民に関する多くの情報を在住フィリピン人への

    インタビュー、アンケート調査に依存せざるを

    得なかった。その結果、TTのフィリピン人数

    は 1992年頃までは 50世帯程度に過ぎなかった

    が、医療人材不足に喘ぐ TTが 2000年代半ば

    にフィリピン人看護師・薬剤師の受け入れを開

    始すると増加し、これに建設労働者、エンジニ

    ア、家事サービス労働者等も加わり、2008年ま

    でには約 2,000人までに膨れあがったこと、こ

    れに伴い FCATTを始めとする親睦団体も誕生

    したことが判明した。また、アンケート調査か

    らは、TTのフィリピン人は、30歳から 59歳ま

    での層が 77%を占め働き盛りの層が多いこと、

    医療関係者が 4割を占めること、高等教育機関

    卒業者が全体の 9割近くに上ること、約 57%が

    2000年代に TT に入国したこと等が明らかに

    なった。インタビューにおいては、TTの発展

    を目の当たりにし感心する一方で、「劣悪な治

    安」及び「劣悪なカスタマー・サービス」が TT

    で生活する上で問題とする見方が多いことが分

    かった。このほか、フィリピンにおける出身地

    域・使用言語や TTにおける職業・階層よる分

    482015年 1月 31日、Eさんより聴取。

    断、世代交代に伴うフィリピン人としてのアイ

    デンティティの継承問題、フィリピン系親睦団

    体の在り方に対する懸念も示された。

    TTのOFWの数は 2000年半ばに急増し、金

    融危機後には減少に転じた。その一方で TTに

    おいては頭脳流出が深刻な社会問題となってお

    り、近い将来 TTにおいて OFWの受け入れが

    再び増加する可能性は大いにある。特に、医療

    人材不足は医療サービスの質低下に関わる問題

    であることから、TT政府も見過ごすことの出

    来ない問題として受け止めている。若年層の雇

    用問題、貧困問題を抱えるフィリピンとしては、

    これまでの欧米や中東、アジアに加え、新興市

    場である TTへの OFW派遣を一層拡大したい

    ところであろう。

    第 2陣の薬剤師として TTにやって来た I さ

    んによると、フィリピン人医療人材の受け入れ

    を開始した当初は、待遇悪化や失業を危惧した

    TTの医療現場からの反発があり、メディアで

    報じられる程の騒動に発展したとのことだが、

    今日 TTの医療機関や薬局で OFWの姿を目に

    することは当たり前の光景になっており、医療

    関係に留まらず、建設産業、サービス産業にお

    いても、OFWの活躍が目立ってきている49。複

    数回に亘る契約更新の末 TTでの滞在が長期化

    したOFWの中には、TT人と結婚し TTに生活

    基盤を構築する者も増えてきている。TTが英

    語圏であること、フィリピンも TTもスペイン

    の植民地時代を経験した歴史を持ち、宗教等の

    文化面で共通点が多いこと、TTでの職業経験

    が欧米先進国への移住に有利に働くこと、既に

    TT国内に 1,000人近くのフィリピン人が滞在

    していること等を考慮すると、TT人との結婚、

    フィリピンや他国に居住する家族の呼び寄せと

    492015年 3月 26日、第 2陣の薬剤師として TT に派遣された I さんから聴取。

  • トリニダード・トバゴのフィリピン人移民 19

    いった動きは、TT経済が好ましい状況にある

    限りにおいては、増加の一途を辿ると思われる。

    本稿では、TTのフィリピン人移民の現状を

    明らかにすることを主な目的としたが、フィリ

    ピン人移民と地元住民との関係、フィリピン人

    移民の子弟へのアイデンティティ継承等につい

    ては、今後の研究課題としたい。

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