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249 地球シミュレータ所内課題 – Earth Simulator JAMSTEC Proposed Project – ダウンスケール手法による気候変化時の気象場詳細計算と融合可 視化・情報展開 課題責任者 杉山 徹 海洋研究開発機構 地球情報基盤センター 著者 杉山 徹 佐土原 聡 海洋研究開発機構 地球情報基盤センター 横浜国立大学 大学院都市イノベーション学府 MSSG モデルを用いて、横浜みなとみらい 21 地区内の都市公園「グランモール公園」の改修工事前後における熱環境 の変化を解析した。計算は、同公園を中心とした 5km 四方の領域で、鉛直約 1000m まで取り入れた。空間解像度は全 方向 5m である。同じ気象条件下で、改修工事前後の街区形状を再現し、スピンアップ時刻を含む2時間(12:00~14:00の計算を行った。土地利用の改善による地面温度の変化により、気温低下効果を確認できた。また、横浜港からの海風 が、同公園に流れ込み、冷涼な環境を生み出すことにつながっている事が確認できた。そのため、適応策の一つとして、 地面温度を低く保つことが挙げられる。 キーワードヒートアイランド , 海風 , 適応策 , 横浜みなとみらい 21 1. はじめに 地球温暖化適応策の必要性が社会的に認識されるよう になってきている。特に、都市部においては、都市の利 便性を損なわない適応策が必要である。そのためには、 熱環境の快適さと適応策の因果関係を明らかにすること が、社会的に重要な課題となろう。実行した適応策の効 果を評価する際に、これまで一般的に行われている手法 (気象観測による比較検証を行うのみ)では、気象条件が 異なる日時における観測値との比較とならざるを得ない ため、比較した結果が街区形状変化による影響であるか、 気象条件による影響であるかを明瞭に区別し定量的に比 較することが困難となる。一方、数値シミュレーション による解析では、同じ気象条件下で、それぞれの熱環境 を定量的に評価することができ、街区形状変化による影 響を切り出すことができる。 今回、横浜市の「みなとみらい 21」地区内の都市公園「グ ランモール公園(美術の広場前)」の改修工事に伴う気温 変化について、MSSG モデルを用いて比較解析を行った結 果、改修による樹木本数の増加や保水性舗装の設置によっ て気温を下げる効果を発揮させるためには、公園の上空を 吹いている横浜港からの比較的涼しい海風が降りて来る必 要があることが分かった [1]。ここでは、その報告を行う。 もう1つは、異なる物理量を組み合わせた同時表現手 法または融合可視化手法の開発も継続的に進めているが、 今回の報告内容からは割愛する。ただし、今後の社会実 装に活躍するツールである物として開発を継続している。 2. 結果 3 次元の放射計算や樹木の蒸散効果を取り込める LES 計算モデル(MSSG)により、MM21 を中心とした領域 (図 1 の赤線内:鉛直・水平ともに 5 mの解像度での水平 5km 四方、鉛直約 1000m)に対し、2016 7 30 12:00 14:00 の気象条件の下で計算を行った。 特に、グランモール公園(美術の広場前)の改修工事 前後の街区形状をそれぞれ再現し、気温の比較を行った。 2 に改修前後の地上高さ 2.5 mの気温分布を示す。気象 条件は全く同じにもかかわらず、改修後は気温が低い領 域が広くなっていることが分かる。土地利用状態が変わっ たことで地表面の温度(図 3)が変わり、空気の温まり方 を変えた効果と考えられる。図 4 に空気の流れ(番号順) を気温とともに示す。比較的冷涼な海風が上空から吹き 降りて来ることで公園内にもたらされ、もし、地表面で 温められることを少なくすれば、冷涼さを保つことにつ ながる。つまり、改修後の公園では、横浜港を起源とす る上空の比較的涼しい風が降りてきた後も地表面から強 く温められずに公園全体に涼しい風が広がっていくため、 気温上昇が抑制されると考えられる。 図1 計算領域

ダウンスケール手法による気候変化時の気象場詳細 …...249 Annual Report of the Earth Simulator April 2016 - March 2017 地球シミュレータ所内課題 –Ea

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Annual Report of the Earth Simulator April 2016 - March 2017 地球シミュレータ所内課題 – Earth Simulator JAMSTEC Proposed Project –

ダウンスケール手法による気候変化時の気象場詳細計算と融合可視化・情報展開

課題責任者

杉山 徹 海洋研究開発機構 地球情報基盤センター

著者

杉山 徹佐土原 聡

海洋研究開発機構 地球情報基盤センター 横浜国立大学 大学院都市イノベーション学府

MSSGモデルを用いて、横浜みなとみらい 21地区内の都市公園「グランモール公園」の改修工事前後における熱環境の変化を解析した。計算は、同公園を中心とした 5km四方の領域で、鉛直約 1000mまで取り入れた。空間解像度は全方向 5mである。同じ気象条件下で、改修工事前後の街区形状を再現し、スピンアップ時刻を含む2時間(12:00~14:00)の計算を行った。土地利用の改善による地面温度の変化により、気温低下効果を確認できた。また、横浜港からの海風が、同公園に流れ込み、冷涼な環境を生み出すことにつながっている事が確認できた。そのため、適応策の一つとして、地面温度を低く保つことが挙げられる。

キーワード: ヒートアイランド , 海風 , 適応策 , 横浜みなとみらい21

1. はじめに地球温暖化適応策の必要性が社会的に認識されるようになってきている。特に、都市部においては、都市の利便性を損なわない適応策が必要である。そのためには、熱環境の快適さと適応策の因果関係を明らかにすることが、社会的に重要な課題となろう。実行した適応策の効果を評価する際に、これまで一般的に行われている手法(気象観測による比較検証を行うのみ)では、気象条件が異なる日時における観測値との比較とならざるを得ないため、比較した結果が街区形状変化による影響であるか、気象条件による影響であるかを明瞭に区別し定量的に比較することが困難となる。一方、数値シミュレーションによる解析では、同じ気象条件下で、それぞれの熱環境を定量的に評価することができ、街区形状変化による影響を切り出すことができる。今回、横浜市の「みなとみらい 21」地区内の都市公園「グランモール公園(美術の広場前)」の改修工事に伴う気温変化について、MSSGモデルを用いて比較解析を行った結果、改修による樹木本数の増加や保水性舗装の設置によって気温を下げる効果を発揮させるためには、公園の上空を吹いている横浜港からの比較的涼しい海風が降りて来る必要があることが分かった [1]。ここでは、その報告を行う。もう1つは、異なる物理量を組み合わせた同時表現手法または融合可視化手法の開発も継続的に進めているが、今回の報告内容からは割愛する。ただし、今後の社会実装に活躍するツールである物として開発を継続している。

2. 結果3次元の放射計算や樹木の蒸散効果を取り込める LES

計算モデル(MSSG)により、MM21を中心とした領域(図 1の赤線内:鉛直・水平ともに 5mの解像度での水平

約 5km四方、鉛直約 1000m)に対し、2016年 7月 30日の 12:00~ 14:00の気象条件の下で計算を行った。

特に、グランモール公園(美術の広場前)の改修工事前後の街区形状をそれぞれ再現し、気温の比較を行った。図 2に改修前後の地上高さ 2.5mの気温分布を示す。気象条件は全く同じにもかかわらず、改修後は気温が低い領域が広くなっていることが分かる。土地利用状態が変わったことで地表面の温度(図 3)が変わり、空気の温まり方を変えた効果と考えられる。図 4に空気の流れ(番号順)を気温とともに示す。比較的冷涼な海風が上空から吹き降りて来ることで公園内にもたらされ、もし、地表面で温められることを少なくすれば、冷涼さを保つことにつながる。つまり、改修後の公園では、横浜港を起源とする上空の比較的涼しい風が降りてきた後も地表面から強く温められずに公園全体に涼しい風が広がっていくため、気温上昇が抑制されると考えられる。

図1 計算領域

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Annual Report of the Earth Simulator April 2016 - March 2017

謝辞本研究は、横浜国立大学との共同研究平成 25年度~ 27年度「都市の熱環境解析とその実践的な活用に関する研究」の部分を担っています。都市形状データの作成に関し、横浜市より GIS、CADデータ提供を受けました。

文献[1] JAMSTEC-横浜国立大学 共同プレスリリース 2017年 5月 19日

「海洋都市横浜」を海風利用で涼しくさせるまちづくりへ

―みなとみらい 21地区をフィールドとした数値シミュレーションと観測から解析―

図 2 改修後(左)と改修前(右)の高さ 2.5mの気温分布。土地利用の違いにより気温が違ってくる。特に、気温が下がっている領域が横浜美術館前で広くなっていることが分かる。

図 3 改修後(左)と改修前(右)の地面温度の分布。公園中央の通路面など 45℃に達するところが見られる一方で、木陰では 30℃程度であり、土地利用状況の違いにより地面温度が大きく変わる。その結果、地面が空気を温める様子が大きく変わり、図 2の結果を生む。

図 4 空気の流れ(番号順)と気温の変化を、MARK ISの上を超えてきた海風がグランモール公園(美術の広場前)に吹き降ろす場合の例で示す(約 3分 30秒間の空気の動き)。涼しい海風の恩恵が見られる一方で、図 2で示されている気温より高い温度の地面(図 3)によって温められる様子が分かる。

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Annual Report of the Earth Simulator April 2016 - March 2017 地球シミュレータ所内課題 – Earth Simulator JAMSTEC Proposed Project –

The thermal environment in urbanized area gets more severe because of the urban heat island in summer season and the Global Warming. Collaborations between scientifi c researchers and local government offi cers could contribute to make social plans or implementations for adaptation. For future planning of the adaptation, we have compared the spatial air temperature distribution between before and after the re-construction of a park [1]. Here, we have investigated the air temperature distribution in the Grand-Mall Park in Yokohama Minato-Mirai 21 district, which was reconstructed in 2017.

Figure 1 shows the area of the simulation. The area size is about 5 [km] horizontal square and 1000 [m] height, and the spatial resolution is about 5[m] in horizontal and vertical axis. Figure 2 shows the spatial distribution of the air temperature before (right) and after (left) the re-construction. The cooler temperature region is observed in wider area in left panel. This low temperature is the refl ection of the difference of the ground

Downscale Simulations and In-situ Visualizations

Project Representative

Toru Sugiyama Center for Earth Information Science and Technology, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology

Authors

Toru Sugiyama

Satoru Sadohara

Center for Earth Information Science and Technology, Japan Agency for Marine-Earth Science and TechnologyInstitute of Urban Innovation, Yokohama National University

We have investigated the air temperature distribution around the Grand-Mall Park in Yokohama Minato-Mirai 21 district. We have compared the distribution between before and after the park re-construction. The air temperature decreases after the construction because the area size of the higher ground temperature reduced.

We can also see that the sea breeze blows into the park through the upper region. The sea-breeze temperature keeps to be cool while it stays in the upper region. For the adaptation, it should be considered that the ground temperature keeps to be cool. Indeed, the cool sea breeze can reach even into the deep district far from the sea side.

Keywords: Heat island, Sea breeze, Adaptation, Yokohama Minato-Mirai 21

temperature shown in Fig. 3.We have also investigate the wind path from the sea side.

Fig. 1 Simulation Area

Fig. 2 Air temperature at the hight of 2.5m after (left) and before (right) the re-construction. We can see a clear difference in front of the art museum.

Fig. 3 Ground temperature distribution after (left) and before (right) the re-construction. The temperature on the path is much higher than that on the shaded area of trees. Acoording to this difference leads to the air temperature distribution as shown in Fig. 2.

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Annual Report of the Earth Simulator April 2016 - March 2017

Figure 4 shows the one of the path of the sea breeze from Yokohama-Bay. The color tube shows the air temperature. The number from (1) to (6) represent the path in time. The whole time interval in this fi gure is 3 minutes and 30 seconds. The cool sea breeze blows down into the park. Then it is warmed up from the radiation from the ground. The ground temperature is much higher than the air temperature.

Therefore, for the adaptation, it should be considered that the ground temperature keeps to be cool.

AcknowledgementThis work is a part of collaboration with YNU.The GIS, and CAD data are supported from Yokohama-City.

References[1] JAMSTEC, YNU co-press release on May, 19, 2017.

Fig. 4 Air blowing path and its temperature. The time interval is 3 minutes and 30 seconds. The cool sea breeze blows down into the park, then heated up by the hot ground as shown in Fig. 3.