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経済産業省 第4回 コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会
2012年5月31日
江口高顯 ブラックロック・ジャパン株式会社
本報告には、ブラックロックの議決権行使基準及び議決権行使実績が含まれていますが(2~3頁)、これらはブラックロック・ジャパン株式会社の許諾を得て、参考情報としてのみ掲載しているものです。
本報告は、発表者個人のものであり、ブラックロック・ジャパン株式会社の見解を代表するものではありません。内容に関しては発表者個人が責任を負います。
新しいフェーズに入った議決権行使
資料4
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【主要な項目】
• ブラックロックの議決権行使基準の特徴―取締役選任基準。
• 議決権行使の課題―独立性の基準を巡って。
• 議決権行使の環境変化―ポスト株式持ち合いの状況。
• 議決権行使の新しいフェーズ―日本型エンゲージメントを目指して。
1.はじめに
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【行使結果】
• 出所:会社ウェッブ開示。「平成23年度 議案別議決権行使状況 (投信)」
2.ブラックロックの議決権行使
【集計対象:平成 23 年 5 月、6 月に開催の国内の株主総会】
1.会社提出議案に対する賛成・反対・棄権・白紙委任の議案件数
議案名称 賛成 反対 棄権 白紙委任 合計
剰余金処分案等 1,071 4 0 0 1,075
取締役選任(※1) 670 734 0 0 1,404
監査役選任(※1) 826 654 0 0 1,480
定款一部変更 295 23 0 0 318
退職慰労金支給 99 239 0 0 338
役員報酬額改定 78 0 0 0 78
新株予約権発行 83 53 0 0 136
会計監査人選任 36 0 0 0 36
組織再編関連(※2) 19 0 0 0 19
その他の会社提案(※3) 263 158 0 0 421
合 計 3,440 1,865 0 0 5,305
(※1)複数候補者を含む場合も1議案として集計。反対は一部反対も含む。なお「選任」には「解任」
を含む。また監査役選任には補欠監査役選任を含む。
(※2)合併、営業譲渡・譲受、株式交換、株式移転、会社分割等
(※3)自己株式取得、法定準備金減少、第三者割当増資、株式併合、役員賞与、買収防衛策(定款一
部変更等を除く)等
2.株主提出議案に対する賛成・反対・棄権・白紙委任の議案件数
賛成 反対 棄権 白紙委任 合計
合 計 6 84 0 0 90
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【行使基準の特徴】
• 取締役選任
– 委員会設置会社で独立社外取締役の数が十分でないと認められる場合、独立と認められない社外取締役に反対する。
– 委員会設置会社でなくとも、外部の一般株主への説明責任(accountability)を一
段と強化する必要性が認められる以下の場合に、委員会設置会社と同様の基準を適用する。そして、独立と認められない社外取締役の選任に反対する。さらに、社外取締役が選任されていなければ、在任取締役の再任への反対を考慮する。説明責任を高める必要性があるとは次の場合。
1. 取締役会の権限を強化して、外部の一般株主の力を相対的に弱める措置がとられている。
2. 大株主が取締役会に対する支配力を有する。
3. 重大な社会的不祥事が発生している。
2.ブラックロックの議決権行使
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【独立性の基準を巡って】
• 投資家から見て「社外取締役(監査役)を選任する」とはどういうことか。
• 事業を営む側が「自らを律する構え」を見せ、出資者の不安・懸念を軽減すること。すなわち経営側のデモンストレーション。
– 出資者側から見れば、「あの人が社外役員として睨みを効かせているから、この会社には投資しても大丈夫」という信頼感・安心感がポイント。
• 一方、一般に機関投資家が役員選任議案の判断に適用する「独立性の基準」は外形基準がほとんど。
– 具体的には、主要取引先や大株主会社の役員・元役員・従業員、役務提供者等をネガティブスクリーニングで排除。
3.議決権行使の課題
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【独立性の基準を巡って】
• 適切な外形基準は信頼感の一つの材料だが、すべてではない。
• 会社と「全く関係のない」人を見つけることが目的ではないはず。
• 信頼感・安心感の材料としては「評判」が重要。
– 日本では経営者マーケットが存在しない。
• マーケットを通した「評判」の蓄積が行われていない。
• マーケットの欠如を如何に補うか。会社側と投資家の間の情報ギャップを如何に埋めるか、が大きな問題。
– 情報が十分でないため外形基準を超える判断を行うことは容易でない。
– より良い議決権行使のために共に取り組むべき課題として会社側と投資家が認識を共有する必要がある。
3.議決権行使の課題
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【株主と経営陣の力関係】
• 日本の会社法は株主に強い議決権を付与しているが、実際に威力があると言えなかった。
• 株式持ち合いや金融機関(友好的株主)の政策投資により一般株主の議決権は「希薄化」していた。
• 威力を弱めるもう一つの要因は敵対的企業買収の機能不全。
– 活発な支配権取引は議決権の価値を高くする。
– しかし、めぼしい成功例がない。
• ただ株式持ち合いを巡る状況は変化している。
4.議決権行使を巡る環境変化
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【持ち合い解消】
• 株価の長期低迷により株式持ち合いや政策投資は最早維持できなくなった。
– バブル崩壊後、金融機関による株式保有が激減。
• 金融機関による持ち合い保有:96年度に株式全体の10.7%→08年度に4.1%
(*)。
– 上場事業会社同士で持ち合いを実施している割合は、95年度に上場事業会社全体の76%だったが、00年度までに50%までに低下し、10年度は47%(**)。
4.議決権行使を巡る環境変化
* 宮島英昭・新田敬祐「株式保有構造の多様化とその帰結」宮島英昭編『日本の企業統治』第2
章、東洋経済新報社(2011年)。
** 伊藤正晴「銀行を中心に、株式持ち合いの解消が進展―株式持ち合い構造の推計: 2010年版「DIR市場分析レポート(2010年11月)。
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【議案否決が視野に】
• 2008年のアデランスの定時総会で7名の取締役の再任が否決。
• 多くの会社で役員選任議案へ多数の反対票が投じられる。
– 発行会社にとって困った事態。
– しかもこうした投票結果は開示が義務化されている(2010年)。
• 役員選任への反対比率が30%以上あったケース。
– 社内取締役: 6社。
– 社外取締役: 6社。
– 社外監査役: 4社が反対比率40%以上。 7988ニフコでは51%の反対で否決。
• 事業法人株主を除くと
– 社外取締役: 7社が50%以上の反対割合。
– 社外監査役: 12社が50%以上の反対割合。
• 出所:IRジャパン「2011年6月定時株主総会動向」2011年7月20日。
4.議決権行使を巡る環境変化
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【議案否決が視野に】
• “反対比率が特別決議で20%、普通決議で30%を超えた議案は実質的に多くの株主の賛同を得ていない”と言える。
– 西山賢吾「11年議決権行使結果」2011年9月29日。
• 持ち合い等の安定株主の存在を考慮して試算。
【建設的な対話を求めて】
• 新しい状況に即した株主対応が求められる。
• 先進的な発行会社が機関投資家との対話を強化。
– 機関投資家のコーポレート・ガバナンス活動も発行会社との対話が占める割合が増大している。
• 課題は対話の新しい枠組みの確立。
– 日本型エンゲージメント(日本に適合したエンゲージメント・スタイル)。
4.議決権行使を巡る環境変化
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【エンゲージメントとは何か】
• 株主による議決権行使を前提にした発行会社の経営陣と株主との対話。
– アクティビストでない機関投資家にとって、意思決定の主体である経営陣に対する交渉力の確保が議決権行使の目的。
• 交渉の緊張感の中で対話を進めるのがエンゲージメント。
• 歴史的には英国での主要機関投資家による発行会社の経営陣への働きかけを指した。
– 強い株主権限や特有の株式保有構造を背景に主要機関投資家が大きな交渉力をもっていた。
– 経営への積極介入を株主に求める政策意図に後押しされた面もある。
– 最近は会社のオーナーとして会社を良導する責務(stewardshipという)が唱導された。
5.日本型エンゲージメントを目指して
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【エンゲージメントの条件】
• 英国における成立条件(90年代における状況)。
1 株主の強い法的権限。
• 強力な取締役選解任権と株主提案権。
• 取締役は常に罷免のリスクにさらされている。
2 株式保有と運用の集中化(*)。
• 主要機関投資家(保険会社、年金、投信)が株式の半分以上を保有。
• 委託先の運用会社も国内の数十社に集中化。
3 緊密な投資家のコミュニティー(*)。
• 意見の集約化、共同歩調が容易 。
• 支える法制。
4 株主価値を強調する資本市場文化。
5.日本型エンゲージメントを目指して
* 英国では90年代後半以降、株式の保有構造が急速に変化。エンゲージメントを担っていた国内機関投資家および運用会社の保有割合が低下。一方、外国投資家、ヘッジファンド等の保有比率が上昇。90年代に主要機関投資家のエンゲージメント活動を支えていた条件が崩れているとの指摘。B. R. Cheffins (2009) Corporate Ownership and Control: British Business Trnasformed
Oxford U.P., ditto (2010) “Stewardship Codes’ Achilles’ Heel” The Modern Law Review 73(6),
1004-1025 (November).
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【エンゲージメントの条件】
• 日本の場合。
– 特に3,4の条件が不十分。
3 緊密な投資家のコミュニティー。
– 意見の集約化、共同歩調が容易 。
– 支える法制。
4 株主価値を強調する資本市場文化。
• エンゲージメントのインフラ整備が必要。
– 法制面のバックアップ。
– 情報インフラ整備への資源投入。
– 本当に機能する対話フォーラムの構築。
• 建設的な対話を促進して資本市場のものの見方を浸透させることも重要。
– 議決権行使を担う主要運用会社は発行会社のサウンディング・ボードの役割を果たせるのではないか。
5.日本型エンゲージメントを目指して
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【その他の条件】
• 発行会社でのトップダウンの決断とコミットメントが重要。
– 経営トップが「出資者の不安・懸念を軽減する」姿勢を明確にしなければならない。
• 「情報発信」強化への問題意識が重要。
– 日本の発行会社は情報発信を強めるべきではないか。
• ガバナンスは投資家へのアピール。
• 収益力ある会社だけが高い水準のガバナンスを実施できる。
• 差別化の機会と位置づけるべきではないか。
– 機関投資家は企業の情報発信を助けられる。
– 会社側は意識してSR(株主対応)とIRを連動させることが必要。
5.日本型エンゲージメントを目指して