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19 北里医学 2020; 50: 19-24 Received 18 December 2019, accepted 23 December 2019 連絡先: 川田逸人 (北里大学大学院医療系研究科環境医科学群環境微生物学) 252-0373 神奈川県相模原市南区北里1-15-1 E-mail: [email protected] シーソー効果を応用した 新規daptomycin低感受性MRSA判定用培地の開発 川田 逸人 1 ,田村 明希 2 ,矢島 千陽 2 ,堀 1 ,北里 英郎 1,2 1 北里大学大学院医療系研究科環境医科学群環境微生物学 2 北里大学医療衛生学部医療検査学科微生物学 背景: Daptomycin (DAP) は抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA) 薬の一つとして汎用されているが,近年低感受性を示すMRSAが散見されて いる。しかし,新しい抗菌薬であることやDAPの抗菌活性がCa 2+ に依存していることなどが 原因で薬剤感受性の判定システムが全国に普及していない。そこで本研究では,DAPの薬剤 感受性が低下するとβ -ラクタム系抗菌薬の薬剤感受性が上昇するシーソー効果に着目し, これを応用したDAP低感受性MRSA判定用培地の開発を試みた。 方法 : 各種β- ラクタム系抗菌薬を含有したミュラーヒントン寒天培地を作製し, Staphylococcus aureus N315株及び本研究室にて作製したDAP低感受性MRSA標準株を培養す ることでN315株のみが発育するβ-ラクタム系抗菌薬の濃度を求めた。 結果: β- ラクタム系抗菌薬の薬剤感受性を比較したところセファゾリンとペニシリンにて シーソー効果を認めた。さらにペニシリンもしくはアンピシリン2μ g/mlを含んだミュラー ヒントン寒天培地にてN315株のみの発育を認めた。 結論: 以上本研究の結果よりβ -ラクタム系抗菌薬を用いたDAP-NS MRSA判定用培地の可能 性が示唆された。 Key words: daptomycinMRSA,薬剤耐性,感染制御 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA) は院内感染の原因として 最も重要であり,現在も高い分離率を誇る。MRSAグラム陽性菌の感染症治療に用いられているβ -ラクタ ム系抗菌薬に対して耐性を有している。さらに近年で は,その他の抗菌薬に対しても耐性を拡大しているこ とから,使用できる抗菌薬が大きく制限されている 1,2 Daptomycin (DAP) 2003年にアメリカ食品医薬品局 に認可されており,10年以上のエビデンスを有する薬 である 3 Ca 2+ 依存的に陽性荷電のミセルを形成し,用して細胞膜障害誘導すること で菌菌する 4 DAPい抗菌活性を有している ことや菌のに菌破壊を生ないことから敗血 症などの性感染症に用いられている。一の菌に対しても抗菌活性を有していることやバイオ ルムを形成した菌に対しても有効であることから ラント挿入関連感染症などにも用いられている 5 的に耐性菌が生にくい抗菌薬としてられてい るが,近年の使用率増加伴って低感受性株が散見さ れている 6 DAPに対する低感受性の原因は,S. aureus 維持しているタンであるmultiple peptide resistant factor (MprF) 遺伝子変異が生その能が変化するためであると言われている。しか しそのメカニムは分なンセンスがられてい ない 7 現在,くの院が薬剤感受性の判定に微量液体釈法PCRによ遺伝子を検するloop-mediated isothermal amplification (LAMP) を用いて菌遺伝 を検する自動析装置を用いており,その上で, 追加して調べたい抗菌薬があれスクなどを用 いてめて検査を行っている。しかし,自動析装置 におる試薬変更やシステム新にはストや手間かかるため,自動析装置におDAPminimum inhibitory concentration (MIC) 定は全国的に普及して いるとはいのが現である。た,その抗菌よりCa 2+ 濃度に依存して抗菌活性が変動する。一

シーソー効果を応用した 新規daptomycin低感受性MRSA判定 ......なお,CFX 16μg/ml及びBrilliant Blue FCF含有MHA をMRSA判定用培地,β-ラクタム系抗菌薬含有MHAを

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 原  著 北里医学 2020; 50: 19-24 

Received 18 December 2019, accepted 23 December 2019連絡先: 川田逸人 (北里大学大学院医療系研究科環境医科学群環境微生物学)〒252-0373 神奈川県相模原市南区北里1-15-1E-mail: [email protected]

シーソー効果を応用した

新規daptomycin低感受性MRSA判定用培地の開発

川田 逸人1,田村 明希2,矢島 千陽2,堀 翼1,北里 英郎1,2

1北里大学大学院医療系研究科環境医科学群環境微生物学2北里大学医療衛生学部医療検査学科微生物学

背景: Daptomycin (DAP) は抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (methicillin-resistant Staphylococcus

aureus: MRSA) 薬の一つとして汎用されているが,近年低感受性を示すMRSAが散見されて

いる。しかし,新しい抗菌薬であることやDAPの抗菌活性がCa2+に依存していることなどが

原因で薬剤感受性の判定システムが全国に普及していない。そこで本研究では,DAPの薬剤

感受性が低下するとβ-ラクタム系抗菌薬の薬剤感受性が上昇するシーソー効果に着目し,

これを応用したDAP低感受性MRSA判定用培地の開発を試みた。

方法 : 各種β-ラクタム系抗菌薬を含有したミュラーヒントン寒天培地を作製し,

Staphylococcus aureus N315株及び本研究室にて作製したDAP低感受性MRSA標準株を培養す

ることでN315株のみが発育するβ-ラクタム系抗菌薬の濃度を求めた。

結果: β-ラクタム系抗菌薬の薬剤感受性を比較したところセファゾリンとペニシリンにて

シーソー効果を認めた。さらにペニシリンもしくはアンピシリン2μg/mlを含んだミュラー

ヒントン寒天培地にてN315株のみの発育を認めた。

結論: 以上本研究の結果よりβ-ラクタム系抗菌薬を用いたDAP-NS MRSA判定用培地の可能

性が示唆された。

Key words: daptomycin,MRSA,薬剤耐性,感染制御

序  文

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (methicillin-resistant

Staphylococcus aureus: MRSA) は院内感染の原因として

最も重要であり,現在も高い分離率を誇る。MRSAは

グラム陽性菌の感染症治療に用いられているβ-ラクタ

ム系抗菌薬に対して耐性を有している。さらに近年で

は,その他の抗菌薬に対しても耐性を拡大しているこ

とから,使用できる抗菌薬が大きく制限されている1,2。

 Daptomycin (DAP) は2003年にアメリカ食品医薬品局

に認可されており,10年以上のエビデンスを有する薬

である3。Ca2+依存的に陽性荷電のミセルを形成し,膜

電位を利用して細胞膜を障害,脱分極を誘導すること

で菌体を殺菌する4。DAPは速い抗菌活性を有している

ことや殺菌の際に菌体の破壊を生じないことから敗血

症などの急性感染症に用いられている。一方で静菌状

態の菌に対しても抗菌活性を有していることやバイオ

フィルムを形成した菌に対しても有効であることから

インプラント挿入関連感染症などにも用いられている5。

一般的に耐性菌が生じにくい抗菌薬として知られてい

るが,近年の使用率増加に伴って低感受性株が散見さ

れている6。DAPに対する低感受性の原因は,S. aureus

の膜電位を維持している膜タンパク質であるmultiple

peptide resistant factor (MprF) の遺伝子に変異が生じ,

その機能が変化するためであると言われている。しか

しそのメカニズムは十分なコンセンサスが得られてい

ない7。

 現在,多くの病院が薬剤感受性の判定に微量液体希

釈法やPCRによって遺伝子を検出するloop-mediated

isothermal amplification (LAMP) 法を用いて菌体の遺伝

子を検出する自動分析装置を用いており,その上で,

追加して調べたい抗菌薬があればディスク法などを用

いて改めて検査を行っている。しかし,自動分析装置

における試薬変更やシステム刷新にはコストや手間が

かかるため,自動分析装置におけるDAPのminimum

inhibitory concentration (MIC) 測定は全国的に普及して

いるとは言い難いのが現状である。また,その抗菌機

序よりCa2+濃度に依存して抗菌活性が変動する。一般

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川田 逸人,他

的にDAPは50 ng/ml以上含んだ培地で測定する必要が

あると定義されているが,現在一般的に使用されてい

るミュラーヒントン寒天培地 (Mueller-Hinton agar:

MHA) はCa2+濃度がコントロールされておらず,ディ

スク法による薬剤感受性の測定が推奨されていない8。

これによってDAP低感受性の判定が遅れ,治療に難渋

する症例も報告されている9-12。以上の理由から簡易的

かつ安価にDAP低感受性MRSAを検出するマテリアル

の開発が必要であると考える。

 そこで本研究はMRSAがDAP低感受性を獲得すると

一部の細胞壁合成阻害薬に対する耐性を失うシーソー

効果に着目し,これを応用したDAP低感受性MRSA判

定用培地の開発を試みた。

対象と方法

1. 使用菌株 MRSA,DAP-NS MRSAの標準株として,先行研究

にてS. aureus N315株をレシピエントとして作製した

N315 MprF-WT株,MprF (T345P) 株を使用した13。

 また,精度管理株としてS. aureus ATCC29213株およ

び当研究室保有のEnterococcus faecalis (E. faecalis)

ATCC29212株を用いた。また,MRSA判定培地を作製

するためにStaphylococcus epidermidis (S. epidermidis) を

用いた。

2. 薬剤感受性 薬剤感受性はdry plate (栄研化学社) を用いて測定し

た。手順はキット付属のマニュアルを参照した。

3. 培地の作製方法 1枚の培地でMRSAとDAP低感受性MRSAを同時に検

出するために,2分画シャーレを使用した。あらかじめ

オートクレーブしたMHAに各種試薬及び抗菌薬を添加

し,各分画に10 ml分注した。本研究では,MRSA判定

用の薬剤としてセフォキシチン (cefoxitin: CFX) を8μg/

mlもしくは16μg/mlを,DAP低感受性MRSA判定用薬

剤としてペニシリンG (penicillin: G),セファゾリン

(ceazolin: CEZ),アンピシリン (ampicillin: ABPC) を4

μg/mlもしくは2μg/mlをそれぞれ添加した。室温にて

寒天を固形化させた後,37℃にて一晩インキュベート

し,コンタミネーションがないことを確認した上で実

験に使用した。

 なお,CFX 16μg/ml及びBrilliant Blue FCF含有MHA

をMRSA判定用培地,β-ラクタム系抗菌薬含有MHAを

DAP低感受性MRSA判定用培地とした。

4. 菌株の培養法及び解析方法 トリプトソイ寒天培地 (tryptic soy agar: TSA) にて前

培養した菌株を生理食塩水にoptical density (OD) 590 =

0.26 ± 0.02となるように懸濁した。作製した菌液を10

倍希釈し,10μlを画線分離にて塗布した後,37℃にて

Figure 1. Evaluation of effect of Brilliant Blue FCF

Standard strain, S. aureus N315 MprF-WT, was streaked on MHA and MHA + Brilliant Blue FCF(1μg/ml) and compared for the effect of Brilliant Blue FCF on bacterial growth. The diameter of eachcolony was calculated using ImageJ and described SD was shown as error bar.

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シーソー効果を応用した新規daptomycin低感受性MRSA判定用培地の開発

18時間培養した。判定方法はMRSA判定用培地に発育

し,DAP低感受性MRSA判定用培地に発育したものを

通常のMRSAとし,DAP低感受性MRSA判定用培地に

発育しなかったものをDAP低感受性MRSAとした。な

お,発育したコロニーの直径はImageJにて解析した。

結  果

1. 培地着色剤の検討 MRSA判定用培地とDAP低感受性MRSA判定用培地

を視覚的に判別するためにMRSA判定用培地にBrilliant

Blue FCFにて着色した。分画シャーレに通常のMHAと

着色したMHAをそれぞれ分注し,S. aureus N315 MprF-

WTを塗布した上で一晩培養した。すると,両方の培

地にて発育を認めた (Figure 1A)。さらに独立したコロ

ニーの直径を解析したところ,有意な差は認めなかっ

た (Figure 1B)。以上の結果より,Brilliant Blue FCFは

菌株の判定に影響を及ぼさないと判断した。

2. MRSA判定用培地の検討 Staphylococcus属の耐塩性は非常に高く,7.5% NaCl

下でも発育が可能である。そこでStaphylococcus属の選

択剤として7.5% NaClを用いた。またMRSAはoxacillin

(OXA) 4μg/mlもしくはcefoxitin (CFX) 8μg/mlに対して

耐性を獲得しているS. aureusとclinical laboratory standard

institute (CLSI) 文書に定義されている。近年,OXA感

性のMRSAが問題になっていることからMRSAの選択

剤をCFXとし,終濃度が8μg/mlとなるように添加し

Figure 2. Examination of MRSA detection agar

Four strains, S. epidermidis, E. feacalis, S. aureus ATCC 29213 (MSSA), and S. aureus N315 (MRSA),were streaked on MRSA detection agar and evaluated the concentration of CFX of MRSA detection.Right (blue agar) and left side were MRSA detection agar and normal MHA, respectively. Blue agarcontained 8μg/ml (A) and 16μg/ml (B) CFX in MHA. In S. epidermidis, the colony was detected in8μg/ml MHA agar (arrow).

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た。各菌株を塗布し,培養した結果,MRSA判定用培

地にてS. epidermidisの発育が認められた (Figure 2A)。

そこでCFXの濃度を16μg/mlとし各菌株を培養したと

ころMRSAであるS. aureus N315株のみ発育が認められ

MRSAを選択的に分離することを可能とした (Figure

2B)。

3. β-ラクタム系抗菌薬に対する薬剤感受性の評価 我々は先行研究にて遺伝子導入を行ったS. aureus

N315 MprF (T345P) 株のMICを報告しており,DAPの

最小発育阻止濃度 (MIC) が上昇していることを報告し

ている13。加えて本研究ではシーソー効果の有無を確

認するためにβ-ラクタム系抗菌薬5剤 (penicillin G

(PCG),ampicillin (ABPC),cefazolin (CEZ),cefmetazole

(CMZ),flomoxef (FMOX)) の薬剤感受性を測定した

(Table 1)。その結果,PCGとCEZにおいてβ-ラクタム

系抗菌薬のMICが低下しており,シーソー効果が認め

られた。

4. DAP低感受性MRSA判定用培地 得られたMICをもとにPCG及びCEZについて終濃度

が4μg/ml及び2μg/mlとなるようにMHAを作製し,各

Table 1. Measurement of β-lactam antibiotics

S. aureus N315 MprF-WT S. aureus N315 MprF (T345P)

PCG 2μg/ml 1μg/mlABPC 4μg/ml 4μg/mlCEZ 4μg/ml 2μg/mlCMZ 8μg/ml 8μg/mlFMOX 2μg/ml 4μg/ml

Figure 3. The growth compared between S. aureusMprF-WT and MprF (T345P) in CEZ containingagar.

S. aureus MprF-WT and MprF (T345P) werestreaked on MRSA detection agar (right side) andDAP detection agar (left side) which contained CEZ4μg/ml (A) and 2μg/ml (B). The arrows indicatethe colonies of S. aureus.

Figure 4. The growth compared between S. aureusMprF-WT and MprF (T345P) in PCG or ABPCcontaining agar.

S. aureus MprF-WT and MprF (T345P) werestreaked on MRSA detection agar (right side) andDAP detection agar (left side) which contained PCG2μg/ml (A) and ABPC 2μg/ml (B). The arrowsindicate the colonies of S. aureus.

川田 逸人,他

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菌株を培養した。その結果,CEZ 4μg/ml含有MHAで

はS. aureus N315 MprF-WT株,MprF (T345P) 株どちら

も発育を認めなかった (Figure 3A)。また,2μg/mlでは

同等の発育となり差を認めなかった (Figure 3B)。次に

PCGを用いて検討を行ったところ,2μg/mlにてMprF-

WTの発育を認め,MprF (T345P) 株のみで強い発育抑

制が観察された (Figure 4A)。

 臨床株を用いた実験でABPCもシーソー効果が生じ

ると報告されている。そこで今回,遺伝子導入株では

シーソー効果が認められなかったABPCに関しても同

様に検討を行った (Figure 4B)。その結果,ABPC 2μg/

mlにてS. aureus N315 MprF (T345P) 株のみの発育抑制

が観察された。

考  察

 本研究によってシーソー効果を応用したDAP低感受

性MRSA判定用培地の開発を試みた結果,PCG 2μg/ml

もしくはABPC 2μg/ml含有のMHAにてMprF変異株を

検出できる可能性が示唆された。今回行った解析では

PCGもしくはABPC 2μg/ml含有MHAでもMprF (T345P)

株が若干発育していた。これは今回使用したS. aureus

N315 MprF (T345P) 株は実際に検出された臨床分離株

よりもDAPに対する薬剤感受性の差が少なく,シー

ソー効果も弱い株であったことに起因していると考え

られる13。今回使用した遺伝子導入のレシピエントと

して使用したS. aureus N315株は薬剤に対する感受性が

高いことが黒田らによって報告されており15,これが

その原因であると考えられる。つまり,実際に臨床で

検出されるDAP低感受性MRSAとは薬剤感受性が異な

ることが考えられる。実際,DAP低感受性MRSAの判

定基準は1μg/mlを超えるMICと定義されているが,一

般的に臨床にて分離されるDAP低感受性MRSAはそれ

を大きく超えるものである。また,Renzoniらがシー

ソー効果について臨床分離株を用いて解析したとこ

ろ,DAPのMICが0.75μg/mlであった株ではオキサシリ

ンのMICが32μg/mlであったのに対し,DAPのMICが

3μg/mlに上昇するとオキサシリンのMICが1μg/mlに低

下しており,シーソー効果がより顕著であることが報

告されている15。つまり,シーソー効果はDAP低感受

性と強い相関性を示しており,より強いDAP低感受性

株ではより顕著なシーソー効果を示す可能性が示唆さ

れる。以上の理由からもシーソー効果を応用すること

でDAP低感受性 MRSAを鑑別することができると考え

られる。また,DAPではなくβ-ラクタム系抗菌薬を用

いることでCa2+に依存しないDAP低感受性MRSAの判

定を可能とするため,より簡易的にかつ安定したDAP

低感受性MRSAを低コストで検出することができると

考えられる。そこで,遺伝子導入株を用いた検討に加

えて,臨床にて実際に分離された株を用いて検討を行

う必要があると考えている。

 さらなる検討課題として,菌量に関する検討が必要

である。今回の検討では,常に一定の菌量を塗布して

いる。MRSAによる感染症が疑われる検体は敗血症の

血液検体,肺炎の喀痰検体など多岐にわたる5。これら

はそれぞれ菌量が異なり,菌量が増えれば増えるほど

相対的に薬剤濃度が減少するためDAP低感受性MRSA

の検出が困難になる可能性がある。以上のことから

も,安定してDAP低感受性MRSAを検出できるように

抗菌薬の種類や幅を増やしさらなる検討を行いたい。

謝辞: 本研究にあたり,終始ご助言いただきました北里

大学医療衛生学部微生物学研究室・中村正樹助教,前

花祥太郎助教に深く御礼申し上げます。また,本研究

を行うにあたり技術的サポートをいただきました北里

大学生命科学研究所感染制御研究センター・花木秀明

センター長,松井秀仁上級研究員に深く御礼申し上げ

ます。

利益相反

 本論文内容に関する著者の利益相反: なし

文  献

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シーソー効果を応用した新規daptomycin低感受性MRSA判定用培地の開発

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Development of daptomycin non-susceptible MRSA diagnosis agar

Hayato Kawada,1 Akane Tamura,2 Chiaki Yajima,2 Tsubasa Hori,1 Hidero Kitasato1,2

1Department of Environmental Microbiology, Kitasato University Graduate School of Medical Sciences2Department of Microbiology, Kitasato University School of Allied Health Sciences

Background: Daptomycin (DAP) is widely used in various fields for anti-methicillin-resistant Staphylococcusaureus (MRSA) antibiotics. Although DAP non-susceptibility (DAP-NS) MRSA has been detected recently,the drug susceptibility determination system has not been pervaded nationwide, because DAP is a comparativelynew antibiotic and the drug activity of DAP depends on the concentration of Ca2+. Then we have focused onthe seesaw effect, which β-lactam susceptibility is paradoxically increased accompanied with decreased DAPsusceptibility and attempt to develop the DAP-NS MRSA detection agar applied seesaw effect.Methods: Minimum inhibitory concentration of β-lactam antibiotics was measured using microdilutionmethod in laboratory strains, Staphylococcus aureus N315, and DAP-NS standard MRSA. Those strains werestreaked on Mueller-Hinton agar including various β-lactam antibiotics, and the antibiotics and concentrationthat could grow normal N315 strains was sought.Results: The seesaw effect was observed in cefazolin and penicillin, in addition, we found that only N315strains could grow in penicillin and ampicillin 2μg/ml, respectively.Conclusion: We suggest that it is possible that DAP-NS MRSA detection agar using β-lactam antibioticscould be a useful tool in clinical settings.

Key words: daptomycin, MRSA, antibiotics resistant, infection control

川田 逸人,他