18
69 早稲田大学の知的財産法制研究センター(以 下,RCLIP とする)とタイの中央知的財産国 際貿易裁判所(以下,CIPIT 裁判所とする)は, 知的財産権(IP)の裁判例に関するデータベー スプロジェクトを始動し,10年以上にわたって 共同で拡大してきた。このプロジェクトでは, CIPIT 裁判所が,主に最高裁から,タイの特 定の知財判例を選別し,要約し,コメントを付 した上で,英語に翻訳する一方で,研究所が資 金面での寄与をしている。このデータベースプ ロジェクトは,特許,実用新案,意匠,商標, 著作権,不正競争およびその他の権利の類型で 区別して,データを提供している。選別の種類 と多様性を背景として,このデータベースはタ イの様々な場面で幅広く利用され,紹介されて いる。 1.IP 事案の選別 特許,商標および著作権の分野ごとに分ける と,データベースプロジェクトに基づいてこの 10年間に選別された知財判例の現在の状況は, 次のように説明される。 1.1 特許 CIPIT 裁判所に対して提訴された特許に関 する民事事件は,タイの他の IP 事案と比較す ると少なく,トータルで2011年は12件,2010年 は25件,2009年は30件,2008年は18件である。 その結果として,最高裁判所の特許事件に関す る判断もほとんどない。 DCON Productions PCL v. Department of Intellectual Property, RCLIP- TH-376/2008 (J.IP&IT., Thailand, April 30, 2008) におい て,DCON Productions PCL (DCON) は,標準 的な四角形をしている成形済みのコンクリート 製シートパイル(矢板)を製造し,販売した。 その後,2001年に,DCON は知的財産権局(以 下,DIP とする)に対して成形済みコンクリー トの形状に関して3つの意匠特許を出願した。 DIP は,3つの全ての出願に対して特許を付与 したが,後になって,3つの意匠特許のうち2 つ(No.16,925および16,926)を取り消した。特 許出願より前に,我が国または外国において書 類または印刷された刊行物において公表され又 は記載されていた意匠と類似していたことを根 拠としていた。DIP は先行技術として米国意匠 特許 No.422,718を引用した。DCON はこの決 定に対して不服を申し立てたが,特許審判部は 訴えを棄却した。そのため,DCON は特許審 判部による決定の取消しを求めて裁判所に対し て本件訴訟を提起した。 特許の有効性の問題,すなわち No.16,925お よび16,926が有効であるかどうかの問題につい て,CIPIT 裁判所は,1979年特許法に基づい て意匠特許の独占権を主張できる製品の意匠は, 各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み カントリーレポート : タイにおける 知的財産をめぐる現在の課題 ジュンポン・ピノシンワット* * タイ控訴裁判所(Court of Appeal)判事,博士(法学)(早稲田大学)。International Journal of Private Law (IJPL)編集委員<http://www.inderscience.com/ijpl>, Journal of International Commercial Law and Technol- IJPL)編集委員<http://www.inderscience.com/ijpl>, Journal of International Commercial Law and Technol- )編集委員<http://www.inderscience.com/ijpl>, Journal of International Commercial Law and Technol- <http://www.inderscience.com/ijpl>, Journal of International Commercial Law and Technol- Journal of International Commercial Law and Technol- Journal of International Commercial Law and Technol- ogy(JICLT)編集委員:<http://www.jiclt.com/index.php/JICLT>.

各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み カン …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/06.pdfである。PIC3とPIC4は被告が付与され,未だ 有効な意匠特許No.16,808である。PIC5とPIC6

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Page 1: 各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み カン …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/06.pdfである。PIC3とPIC4は被告が付与され,未だ 有効な意匠特許No.16,808である。PIC5とPIC6

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 早稲田大学の知的財産法制研究センター(以下,RCLIP とする)とタイの中央知的財産国際貿易裁判所(以下,CIPIT 裁判所とする)は,知的財産権(IP)の裁判例に関するデータベースプロジェクトを始動し,10年以上にわたって共同で拡大してきた。このプロジェクトでは,CIPIT 裁判所が,主に最高裁から,タイの特定の知財判例を選別し,要約し,コメントを付した上で,英語に翻訳する一方で,研究所が資金面での寄与をしている。このデータベースプロジェクトは,特許,実用新案,意匠,商標,著作権,不正競争およびその他の権利の類型で区別して,データを提供している。選別の種類と多様性を背景として,このデータベースはタイの様々な場面で幅広く利用され,紹介されている。

1.IP事案の選別

 特許,商標および著作権の分野ごとに分けると,データベースプロジェクトに基づいてこの10年間に選別された知財判例の現在の状況は,次のように説明される。

1.1 特許 CIPIT 裁判所に対して提訴された特許に関する民事事件は,タイの他の IP 事案と比較すると少なく,トータルで2011年は12件,2010年

は25件,2009年は30件,2008年は18件である。その結果として,最高裁判所の特許事件に関する判断もほとんどない。 DCON Productions PCL v. Department of Intellectual Property, RCLIP- TH-376/2008 (J.IP&IT., Thailand, April 30, 2008) において,DCONProductionsPCL(DCON) は,標準的な四角形をしている成形済みのコンクリート製シートパイル(矢板)を製造し,販売した。その後,2001年に,DCON は知的財産権局(以下,DIP とする)に対して成形済みコンクリートの形状に関して3つの意匠特許を出願した。DIP は,3つの全ての出願に対して特許を付与したが,後になって,3つの意匠特許のうち2つ(No.16,925および16,926)を取り消した。特許出願より前に,我が国または外国において書類または印刷された刊行物において公表され又は記載されていた意匠と類似していたことを根拠としていた。DIP は先行技術として米国意匠特許 No.422,718を引用した。DCON はこの決定に対して不服を申し立てたが,特許審判部は訴えを棄却した。そのため,DCON は特許審判部による決定の取消しを求めて裁判所に対して本件訴訟を提起した。 特許の有効性の問題,すなわち No.16,925および16,926が有効であるかどうかの問題について,CIPIT 裁判所は,1979年特許法に基づいて意匠特許の独占権を主張できる製品の意匠は,

各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み

カントリーレポート : タイにおける�知的財産をめぐる現在の課題

ジュンポン・ピノシンワット*

* タイ控訴裁判所(CourtofAppeal)判事,博士(法学)(早稲田大学)。InternationalJournalofPrivateLaw(IJPL)編集委員<http://www.inderscience.com/ijpl>,JournalofInternationalCommercialLawandTechnol-IJPL)編集委員<http://www.inderscience.com/ijpl>,JournalofInternationalCommercialLawandTechnol-)編集委員<http://www.inderscience.com/ijpl>,JournalofInternationalCommercialLawandTechnol-<http://www.inderscience.com/ijpl>,JournalofInternationalCommercialLawandTechnol-,JournalofInternationalCommercialLawandTechnol-JournalofInternationalCommercialLawandTechnol-ogy(JICLT)編集委員:<http://www.jiclt.com/index.php/JICLT>.

Page 2: 各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み カン …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/06.pdfである。PIC3とPIC4は被告が付与され,未だ 有効な意匠特許No.16,808である。PIC5とPIC6

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3条および56条のすべての要件を満たさなければならないと述べた。1裁判所は次の通り述べている:製品の概観は,製品に特別な外観を与え,工業製品又は手工芸製品に対する型として役立つ線又は色の形態又は構成でなければならず,また工業的にみて新規の意匠でなければならない。なお,意匠は製品の特別な概観を含まなければならないが,これは製品特許において最も重要な要素である。換言すれば,このような意匠は,単に機能的な考慮によってではなく,本質的には,審美的な考慮またはその装飾のために創作されるものでなければならない。さらに,意匠はかかる製品の形状や外形に関する通常の意匠であってはならない。 特別な外観の原則は,国際条約およびその他の諸国において相当する規定に対応している1979年特許法3条および56条に規定されている。特に,TRIPS 協定25.1条は次のように規定している:「⑴加盟国は,独自に創作された新規性又は独創性のある意匠の保護について定める。加盟国は,意匠が既知の意匠又は既知の意匠の主要な要素の組合せと著しく異なるものでない場合には,当該意匠を新規性又は独創性のある意匠でないものとすることを定めることができる。加盟国は,主として技術的又は機能的考慮により特定される意匠については,このような保護が及んではならないことを定めることができる。」

 本件において,DCON の経営幹部は,成形済みのコンクリート製シートパイル(矢板)の一般的な形状は,均等にバランスをもった厚さをもつ四角形の形状のものであると明確に証言した(PIC1)。DCON は,その後,より軽量でより薄い成形済みコンクリートの意匠を必要としたため,重量を下げるためにコンクリートの部分にドリルで穴を開けた。その穴は数種類の形状をもっており,台形,半円形,および部分的に湾曲しているものを含んでいた。新しい成形済みコンクリートは,適切な耐荷重を確認するために検証および試験を受けた。その後に,

原告は,次に示すような意匠特許の出願を行った:

PIC2はその後に取消された意匠特許 No.16,925である。PIC3と PIC4は被告が付与され,未だ有効な意匠特許 No.16,808である。PIC5と PIC6はその後に取消された意匠特許 No.16,926である。

 したがって,均等なバランスをもつ薄さをもつ四角形の形状から,コンクリートに幾つかの形状をもつ穴をドリルで開けた新しい意匠にしたという,成形済みコンクリートの意匠を修正した実質的な理由は,成形済みコンクリートの耐荷重を維持しながらコンクリートの重量を減少させるというデザイン上の目的と理由によるものであった。CIPIT 裁判所は,何人かが通常の形状をもつコンクリートの一部にドリルで穴を開ける必要がある場合,最も簡単かつ基本的な形状は,明らかに幾何学的な形状,例えば,長方形,半円形あるいは三角形となるであろうと述べた。DCON の専門家である AmornPi-manmart は,成形済みのコンクリート製シートパイル(矢板)は逆さ U 字の形状と四角い枠の形状で掘り抜かれているのを知っていたと証言している。特許審判部の一人である Wera-

PIC2 はその後に取消された意匠特許 No.16925 である。PIC3 と PIC4 は被告が付与され,

未だ有効な意匠特許 No. 16808 である。PIC5 と PIC6 はその後に取消された意匠特許 No.16926 である。

したがって,均等なバランスをもつ薄さをもつ四角形の形状から,コンクリートに幾つ

かの形状をもつ穴をドリルで開けた新しい意匠にしたという,成形済みコンクリートの意

匠を修正した実質的な理由は,成形済みコンクリートの耐荷重を維持しながらコンクリー

トの重量を減少させるというデザイン上の目的と理由によるものであった。CIPIT 裁判所

は,何人か通常の形状をもつコンクリートの一部にドリルで穴を開ける必要がある場合,

最も簡単かつ基本的な形状は,明らかに幾何学的な形状,例えば,長方形,半円形あるい

は三角形となるであろうと述べた。DCON の専門家である Amorn Pimanmart は,成形

済みのコンクリート製シートパイル(矢板)は逆さ U 字の形状と四角い枠の形状で掘り抜

かれているのを知っていたと証言している。特許審判部の一人である Werasak

Page 3: 各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み カン …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/06.pdfである。PIC3とPIC4は被告が付与され,未だ 有効な意匠特許No.16,808である。PIC5とPIC6

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sakVongprecha もまた,タイにおいて逆さU字の形状で掘り抜かれた成形済みコンクリート製シートパイルを生産する他の製造業者がいることを証言した。 したがって,意匠特許 No.16,925および16,926における成形済みコンクリート製シートパイルの半円形および部分的な湾曲形状をもつコンクリートへの修正は,技術的あるいは機能的な理由を主な目的として,単純かつ通常の幾何学的な形状を用いたのである。これらの2つの争いの対象となった意匠特許は,審美的な考慮や装飾的な目的でデザインされたものではなく,そのために,1979年特許法3条および56条に規定される特別な外観の要素を欠いていた。 2009年,最高裁判所は,DCON の半円形および逆U字型は,概して機能的な目的から生じたものであると判断して,CIPIT 裁判所の判断を維持した。それらは装飾的な要素のためにデザインされたものではないため,特許法における意匠特許として登録を受けることができないものであったのである。

1.2 商標 タイの商標に関する訴訟の大部分は刑事事件である。2009年は民事事件56件で刑事事件4,282件,2010年は民事事件が76件で刑事事件が3,379件,2011年は民事事件が56件で刑事事件が4,282件であった。一般的に,民事紛争は争われた商標や商号の有効性の問題と関連しており,また,争点の多くは混同又は識別性をめぐる議論に関連している。 NTT DOCOMO, Inc. v. Department of In-tel lectual Property, et al. , RCLIP- TH-449/2008 (J.S.C., Thailand, December 18, 2008) において,日本法に基づく法人であるNTTDOCOMO,Inc.(NTT) は,自ら数カ国において「i-mode」という用語に関する商標と商号を登録していたと主張した(出願における iモ ー ド の デ ザ イ ン は 次 の も の で あ る:

Vongprecha もまた,タイにおいて逆さ U 字の形状で掘り抜かれた成形済みコンクリート

製シートパイルを生産する他の製造業者がいることを証言した。

したがって,意匠特許 No.16925 および 16926 における成形済みコンクリート製シート

パイルの半円形および部分的な湾曲形状をもつコンクリートへの修正は,技術的あるいは

機能的な理由を主な目的として,単純かつ通常の幾何学的な形状を用いたのである。これ

らの2つの争いの対象となった意匠特許は,審美的な考慮や装飾的な目的でデザインされ

たものではなく,そのために,1979 年特許法 3 条および 56 条に規定される特別な外観の

要素を欠いていた。 2009 年,最高裁判所は,DCON の半円形および逆 U 字型は,概して機能的な目的から

生じたものであると判断して,CIPIT 裁判所の判断を維持した。 それらは装飾的な要素の

ためにデザインされたものではないため,特許法における意匠特許として登録を受けるこ

とができないものであったのである。

1.2 商標

タイの商標に関する訴訟の大部分は刑事事件である,2009 年は民事事件 56 件で刑事事

件 4,282 件,2010 年は民事事件が 76 件で刑事事件が 3,379 件,2011 年は民事事件が 56

件で刑事事件が 4,282 件であった。 一般的に,民事紛争は争われた商標や商号の有効性の

問題と関連しており,また,争点の大多数は混同又は識別性をめぐる議論に関連している。

NTT DOCOMO, Inc. v. Department of Intellectual Property, et al., RCLIP- TH-

449/2008(J.S.C., Thailand, December 18, 2008) において,日本法に基づく法人である

NTT DOCOMO, Inc. (NTT) は,自ら数カ国において「i-mode」という用語に関する商標

と商号を登録していたと主張した(出願における i モードのデザインは次のものである:

)。2001 年 10 月 10 日に,NTT はタイでクラス 10 の商品およびサービスに

関して,タイにおいて,単語「i-mode」の商号と商標登録の出願を行った。 商標登録官は

識別性の欠如を理由として登録を拒絶した。NTT は商標登録官の判断を不服として審判部

に公訴したが,登録官の判断は維持された。知的財産局は,「i-mode」は一般的な用語で

あり,商標あるいは商号として使用する場合に十分な識別力を有していないと述べた。

CIPIT 裁判所は,「i-mode」は製品の特徴や資格と直接関係する一般の用語であると論

じた商標登録官と商標審判部の判断を取消し,最高裁もそれを維持した。最高裁は,本件

でその「i」と「mode」は,製品とサービス業に関する一般名称ではなく,また製品あるい

はサービスの性質あるいは資格に直接関連するものではなかったとして,当該商標は識別

力のある単語であり,登録することができるものであると判断している。当該標章が製品

およびサービスの性質や資格と直接関係あるかどうかの問題に関して,製品またはサービ

スに直接の結合あるいは関係をもつ「一般名称」は,公衆が製品またはサービスの性質ま

たは資格を即座に認識できる範囲の単語を意味する。また,公衆が日常的な判断(common

judgment)によって理解することができる場合,単語は製品又はサービスの性質または資

格を説明または描写するために施用されている単語は,「記述的名称」となる。

)。2001年10月10日に,NTT はクラス10の商品およびサービスに関して,タイに

おいて,単語「i-mode」の商号と商標登録の出願を行った。商標登録官は識別性の欠如を理由として登録を拒絶した。NTT は商標登録官の判断を不服として審判部に控訴したが,登録官の判断は維持された。DIP は,「i-mode」は一般的な用語であり,商標あるいは商号として使用する場合に十分な識別力を有していないと述べた。 CIPIT 裁判所は,「i-mode」は製品の特徴や資格と直接関係する一般の用語であると論じた商標登録官と商標審判部の判断を取消し,最高裁もそれを維持した。最高裁は,本件でその

「i」と「mode」は,製品とサービス業に関する一般名称ではなく,また製品あるいはサービスの性質あるいは資格に直接関連するものではなかったとして,当該商標は識別力のある単語であり,登録することができるものであると判断している。当該標章が製品およびサービスの性質や資格と直接関係あるかどうかの問題に関して,製品またはサービスに直接の結合あるいは関係をもつ「一般名称」は,公衆が製品またはサービスの性質または資格を即座に認識できる範囲の単語を意味する。また,公衆が日常的な判断(commonjudgment)によって理解することができる場合,単語は製品又はサービスの性質または資格を説明または描写するために使用されている単語は,「記述的名称」となる。 本件において,商標および商号としての「i-mode」は,一般的な辞書にはその意味が掲載されていなかった。被告は「i」が,一般的なロ ー マ 字 で あ る と と も に, 辞 書 に お い て

「mode」は,作業のシステム統御の態様,方法,形式,または数字と定義されているという証拠を引用した。しかしながら,「i-mode」は適用される商品またはサービスの特徴または資格を直接に定義するものではない。なぜなら,公衆は,この用語が,商品やサービスの特徴や資格を示すものとして理解することはできなかったからである。更に,「i-mode」,「i」,あるいは

「mode」という用語は,商品またはサービスの特徴や資格を直接に説明または描写するもので

Page 4: 各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み カン …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/06.pdfである。PIC3とPIC4は被告が付与され,未だ 有効な意匠特許No.16,808である。PIC5とPIC6

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はない。なぜなら,これらの用語をみた公衆が,登録されている商品又はサービスについて考えたりすることはないからである。したがって,商標および商号「i-mode」は,商品またはサービスの特徴あるいは資格と直接の関係はなく,登録に必要な識別性を備えていることになる。 Kentucky Fried Chicken International Hold-ings, Inc. v. Department of Intellectual Proper-ty, et al . , RCLIP- TH-436/2008 (J.S.C., Thailand, July 7, 2008) において,KentuckyFriedChickenInternationalHoldings, Inc.(KFC) は,米国の法律に基づく法人であり,

「popcornchicken」というフレーズに関するデザインを含む商標権者であり,後に「

本件において,商標および商号としての「i-mode」は,一般的な辞書にはその意味が掲

載されていなかった。被告は「i」が,一般的なローマ字であるとともに,辞書において

「mode」は,作業のシステム統御の態様,方法,形式,または数字と定義されているとい

う証拠を引用した。しかしながら,「i-mode」は適用される商品またはサービスの特徴ま

たは資格を直接に定義するものではない。なぜなら,公衆は,この用語が,商品やサービ

スの特徴や資格を示すものとして理解することはできなかったからである。 更に,「i-mode」,「i」,あるいは「mode」という用語は,商品またはサービスの特徴や資格を直

接に説明または描写するものではない。なぜなら,これらの用語をみた公衆が,登録され

ている商品又はサービスについて考えたりすることはないからである。したがって,商標

および商号「i-mode」は,商品またはサービスの特徴あるいは資格と直接の関係はなく,

登録に必要な識別性を備えている。 Kentucky Fried Chicken International Holdings, Inc. v. Department of Intellectual

Property, et al., RCLIP- TH-436/2008 (J.S.C., Thailand, July 7, 2008)において,

Kentucky Fried Chicken International Holdings, Inc. (KFC) は,米国の法律に基づく

法人であり,「popcorn chicken」というフレーズに関するデザインを含む商標権者であり,

後に「 」の商標登録を出願した。商標出願 No. 406423 はクラス 30 に関する商

品(食物香辛料(花の香油を除く),風味ソース,スパイス,香料(花の香油を除く),

ローフ,ビスケット,パン,ケーキ,デザート,ハチミツ,イースト,ベーキングパウダ

ーおよびサラダオイル)に関するものであった。商標登録官は登録を拒絶し,KFC は商標

審判部に控訴した。審判部は登録官の判断を維持し,問題となった商標には識別性を欠如

しているとの理由を示した。 この判断に対して,最高裁は,KFC は,次の 2 つの主要な部分,すなわち,ローマ字の

2 単語「popcorn」と「chicken」のデザインから構成される商標である「 」を

登録するものと判断し,識別性に関して緩やかな解釈を適用した。「popcorn」は温めると

破裂するトウモロコシを意味する一方で,「chicken」は文字通りにチキンを意味する。し

たがってこれらの 2 単語の組合せはポップコーンチキンを意味する。出願は 13 の品目,す

なわち,1) 食物香辛料,2) 風味付きソース,3)スパイス,4)香料,5)ローフ,6)ビスケッ

ト, 7)パン,8)ケーキ,9)デザート,10)ハチミツ,11)イースト,12)ベーキングパウダー,

および 13)サラダ油を含むクラス 30 の商品に関してなされた。クラス 30 における全 13 種

類の商品は食物と関係があり,そして商標はポップコーンチキンを意味する単語「popcorn chicken」から構成されており,それ自体が食物と関係するものであるが,単語「popcorn chicken」の使用は,クラス 30 に示される特定の 13 種のいずれをも直接言及するもので

はない。したがって,クラス 30 における商品とともに使用された「popcorn chicken」の

出願商標は,識別性を有しており,商標として登録することができる。 この判決に関しては検討すべき問題が少なくとも2つある。第一は,「chicken」という

単語が KFC のチキンに関する一般名称であるかどうかという点である。通常,一般名称は

」の商標登録を出願した。商標出願 No.406423はクラス30に関する商品(食物香辛料(花の香油を除く),風味ソース,スパイス,香料(花の香油を除く),ローフ,ビスケット,パン,ケーキ,デザート,ハチミツ,イースト,ベーキングパウダーおよびサラダオイル)に関するものであった。商標登録官は登録を拒絶し,KFC は商標審判部に控訴した。審判部は登録官の判断を維持し,問題となった商標には識別性を欠如しているとの理由を示した。 この判断に対して,最高裁は,KFC は,次の2つの主要な部分,すなわち,ローマ字の2単語「popcorn」と「chicken」のデザインから構成される商標である「

本件において,商標および商号としての「i-mode」は,一般的な辞書にはその意味が掲

載されていなかった。被告は「i」が,一般的なローマ字であるとともに,辞書において

「mode」は,作業のシステム統御の態様,方法,形式,または数字と定義されているとい

う証拠を引用した。しかしながら,「i-mode」は適用される商品またはサービスの特徴ま

たは資格を直接に定義するものではない。なぜなら,公衆は,この用語が,商品やサービ

スの特徴や資格を示すものとして理解することはできなかったからである。 更に,「i-mode」,「i」,あるいは「mode」という用語は,商品またはサービスの特徴や資格を直

接に説明または描写するものではない。なぜなら,これらの用語をみた公衆が,登録され

ている商品又はサービスについて考えたりすることはないからである。したがって,商標

および商号「i-mode」は,商品またはサービスの特徴あるいは資格と直接の関係はなく,

登録に必要な識別性を備えている。 Kentucky Fried Chicken International Holdings, Inc. v. Department of Intellectual

Property, et al., RCLIP- TH-436/2008 (J.S.C., Thailand, July 7, 2008)において,

Kentucky Fried Chicken International Holdings, Inc. (KFC) は,米国の法律に基づく

法人であり,「popcorn chicken」というフレーズに関するデザインを含む商標権者であり,

後に「 」の商標登録を出願した。商標出願 No. 406423 はクラス 30 に関する商

品(食物香辛料(花の香油を除く),風味ソース,スパイス,香料(花の香油を除く),

ローフ,ビスケット,パン,ケーキ,デザート,ハチミツ,イースト,ベーキングパウダ

ーおよびサラダオイル)に関するものであった。商標登録官は登録を拒絶し,KFC は商標

審判部に控訴した。審判部は登録官の判断を維持し,問題となった商標には識別性を欠如

しているとの理由を示した。 この判断に対して,最高裁は,KFC は,次の 2 つの主要な部分,すなわち,ローマ字の

2 単語「popcorn」と「chicken」のデザインから構成される商標である「 」を

登録するものと判断し,識別性に関して緩やかな解釈を適用した。「popcorn」は温めると

破裂するトウモロコシを意味する一方で,「chicken」は文字通りにチキンを意味する。し

たがってこれらの 2 単語の組合せはポップコーンチキンを意味する。出願は 13 の品目,す

なわち,1) 食物香辛料,2) 風味付きソース,3)スパイス,4)香料,5)ローフ,6)ビスケッ

ト, 7)パン,8)ケーキ,9)デザート,10)ハチミツ,11)イースト,12)ベーキングパウダー,

および 13)サラダ油を含むクラス 30 の商品に関してなされた。クラス 30 における全 13 種

類の商品は食物と関係があり,そして商標はポップコーンチキンを意味する単語「popcorn chicken」から構成されており,それ自体が食物と関係するものであるが,単語「popcorn chicken」の使用は,クラス 30 に示される特定の 13 種のいずれをも直接言及するもので

はない。したがって,クラス 30 における商品とともに使用された「popcorn chicken」の

出願商標は,識別性を有しており,商標として登録することができる。 この判決に関しては検討すべき問題が少なくとも2つある。第一は,「chicken」という

単語が KFC のチキンに関する一般名称であるかどうかという点である。通常,一般名称は

」を登録するものと判断し,識別性に関して緩やかな解釈を適用した。「popcorn」は温めると破裂するトウモロコシを意味する一方で,「chicken」は文字通りにチキンを意味する。したがってこれらの2単語の組合せはポップコーンチキンを意味する。出願は13の品目,すなわち,1)食物香辛料,2)風味付きソース,3)スパイス,4)香料,5)ローフ,6)ビスケット,7)パン,8)ケーキ,9)デザート,10)ハチミツ,11)イースト,12)ベーキングパウダー,および13)サラダ油を含むクラス30の商品に関してなされた。クラス30における全13種類の商品は食物と関係があり,そして商標はポップ

コーンチキンを意味する単語「popcornchick-en」から構成されており,それ自体が食物と関係するものであるが,単語「popcornchick-en」の使用は,クラス30に示される特定の13種のいずれをも直接言及するものではない。したがって,クラス30における商品とともに使用された「popcornchicken」の出願商標は,識別性を有しており,商標として登録することができる。 この判決に関しては,検討すべき問題が少なくとも2つある。第一は,「chicken」という単語が KFC のチキンに関する一般名称であるかどうかという点である。通常,一般名称はよく使われる単語または用語であり,しばしば辞書において見出されるものであり,商品およびサービスを識別するものとして特定の出所を指し示すものではない。そのことは通常の場合,消費者の認識に基づいて評価される。当該用語が,ひとたび,商品またはサービスに関して一般的であると判断されると,商標として当該用語を登録することはできない。最高裁は,

「chicken」の部分は,KFC がクラス30の商品に関して出願した商標の主要部分であると判断している。そのため,単語「chicken」は,KFC のチキンの一般名称であると見なされるため,KFC が商標として「chicken」を登録することは認められないことになる。 第二に,識別性の妥当な範囲についてである。1単語または複数の単語が商品の性質や資格を直接に示すものかの判断は,様々な多くの考慮がなされる。本件における「popcornchicken」の商標出願は,KFC によって用意された特定の種類のチキンに関して使用されるものとして理解しうるものであった。加えて,当該出願は食品と直接関係のあるクラス30の商品に関して商標を出願するものであったことから,「pop-cornchicken」商標の識別性も,それに特有の基準と問題点との関係で慎重に検討されるべきであった。しかし,本件において用いられた理由付けは,本願商標の識別性を単に当該用語のみに基づいて判断しているように思われる。

Page 5: 各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み カン …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/06.pdfである。PIC3とPIC4は被告が付与され,未だ 有効な意匠特許No.16,808である。PIC5とPIC6

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 Universal City Studios, Inc. v. Universal Pictures (Thailand) Co., Ltd., RCLIP- TH-444/2008 (J .S.C., Thailand, August 27, 2008) において,UniversalCityStudios, Inc.は,米国の法律に基づく法人であり,その娯楽産業におけるビジネスの幾つかの領域について商号「Universal」を使用しており,たとえば,映画事業について「UniversalPictures」,テレビ・ショーとシリーズのために「UniversalTelevision」,音楽業界について「UniversalMusic」を使用している。したがって「Univer-sal」の商号は広く知られていて,受け入れられていた。更に,UniversalCityStudios, Inc.は単語「Universal」と「UniversalPictures」とを1912年から自己の商標として世界120カ国以上で商標およびサービスマークとして登録していた。タイにおいて,UniversalCityStu-dios, Inc. は,1947年に幾つかのクラスに関する商品の使用に関して「Universal」の商標を,2002年からは地��のデザインとともに「Uni-は地��のデザインとともに「Uni-地��のデザインとともに「Uni-versal」の商標を登録している。 本件では,UniversalCityStudios, Inc. とは何の関係もないタイの会社が,ビデオテープ,CD,CVD,SVCD と DVD プレイヤーを製造,組立て,配布することを目的に「UniversalPictures (Thailand)Co.,Ltd」の会社名を登録した。同社はその後,DIP に対して,SVCDsおよび SVCD 映画を製作し,使用するために,

「UniversalPictures (Thailand)Co.,Ltd」の商標登録を出願した。

タイにおいて UniversalCityStudios, Inc. によって出願された商標の画像

被告である UniversalPictures (Thailand)Co.,Ltd. によって用いられた画像

 本件において,最高裁は,UniversalCityStudios, Inc. は,被告による名称の使用に先行して,同社の名称および商標として「Univer-salPictures」という用語をすでに使用しており,またそれを幾つかの国においてそれを商標およびサービスマークとして登録していたと述べ た。 し た が っ て,UniversalCityStudios,Inc. は,「UniversalPictures」という用語について先使用権を有しており,この用語について被告よりも優先する権利があると判断した。被告が,UniversalCityStudios, Inc. のビジネスと類似するビジネスを行おうとしていたという事実を考慮すると,被告による「UniversalPictures (Thailand)Co.,Ltd」という会社名の使用は,UniversalCityStudios, Inc. に損害をもたらす可能性がある。 最高裁はさらに敷衍して,被告による商標

「UniversalPictures(Thailand)Co.,Ltd.」の出願は,被告が UniversalCityStudios, Inc と関連する業務を行っていると考える可能性があるものとして,公衆が混同または誤認する可能性があると述べた。「UniversalPictures」の用語を先行して使用していた UniversalCityStu-dios, Inc. は,民商法18条に基づく商号として,被告がその用語を使用することを禁止する権利を有している。UniversalCityStudios, Inc. はタイにおいていずれの子会社をも登録していなかったが,そのことは UniversalCityStudios,Inc. が,被告が主張したようにタイにおいて将来的にいかなるビジネスも行わないということを意味するものではない。 さらに,公衆が混同または誤認する可能性があるかどうかという問題は,引用された証拠から判断することができ,本件における証人の証言も同様に証拠となるが,被告が主張に用いた証人の理解の範囲に限定されるものではない。

「Universal」と「Pictures」の用語は通常の用語であるものの,これらの用語を,商号,商標およびサービスマークとして使用するために組み合わせた原告は,商品またはサービスの所有者または出所に関して公衆を誤認混同させる方

よく使われる単語または用語であり,しばしば辞書において見出されるものであり,商品

およびサービスを識別するものとして特定の出所を指し示すものではない。そのことは通

常の場合,消費者の認識に基づいて評価される。当該用語が,ひとたび,商品またはサー

ビスに関して一般的であると判断されると,商標として当該用語を登録することはできな

い。最高裁は,「chicken」の部分は,KFC がクラス 30 の商品に関して出願した商標の主

要部分であると判断している。そのため,単語「chicken」は,KFC のチキンの一般名称

であると見なされるため,KFC が商標として「chicken」を登録することは認められない

ことになる。 第二に,識別性の妥当な範囲についてである。1 単語または複数の単語が商品の性質や資

格を直接に示すものかの判断は,様々な多くの考慮がなされる。本件における「popcorn chicken」の商標出願は,KFC によって用意された特定の種類のチキンに関して使用され

るものとして理解しうるものであった。加えて,当該出願は食品と直接関係のあるクラス

30 の商品に関して商標を出願するものであったことから,「popcorn chicken」商標の識

別性も,特有の基準と問題点との関係で慎重に検討されるべきであった。しかし,本件に

おいて用いられた理由付けは,本願商標の識別性を当該用語にのみ基づいて厳格に考慮す

るもののように思われる。 Universal City Studios, Inc. v. Universal Pictures (Thailand) Co., Ltd., RCLIP-

TH-444/2008 (J.S.C., Thailand, August 27, 2008) において,Universal City Studios, Inc は,米国の法律に基づく法人であり,その娯楽産業におけるビジネスの幾つかの領域に

ついて商号「Universal」を使用しており,たとえば,映画事業について「Universal Pictures」,テレビ・ショーとシリーズのために「Universal Television」,音楽業界に

ついて「Universal Music」を使用している。したがって「Universal」の商号は広く知ら

れていて,受け入れられていた。更に,Universal City Studios, Inc.が単語「Universal」と「Universal Pictures」とを 1912 年から自己の商標として世界 120 以上で商標とサー

ビスマークとして登録していた。 タイにおいて, Universal City Studios, Inc は,1947年に幾つかのクラスに関する商品の使用に関して「Universal」の商標を,2002 年から地

球儀のデザインとともに「Universal」の商標を登録している。 本件では,Universal City Studios, Inc. とは何の関係もないタイの会社が,ビデオテ

ープ,CD, CVD , SVCD と DVD プレイヤーを製造,組立て,配布することを目的に

「Universal Pictures (Thailand) Co., Ltd」の会社名を登録した。 同社はその後,DIPに対して,SVCDs および SVCD 映画を製作とともに使用するために,「Universal Pictures (Thailand) Co., Ltd」の商標登録を出願した。

タイにおいて Universal City Studios, Inc.によって出願された商標の画像

被告である Universal Pictures (Thailand) Co., Ltd.によって用いられた画像

本件において,最高裁は, Universal City Studios, Inc は,被告による名称の使用に先

行して,同社の名称および商標として「Universal Pictures」という用語をすでに使用し

ており,またそれを幾つかの国においてそれを商標およびサービスマークとして登録して

いたと述べた。したがって, Universal City Studios, Inc は,「Universal Pictures」という用語について先使用権を有しており,この用語について被告よりも優先する権利が

あると判断した。 被告が,Universal City Studios, Inc のビジネスと類似するビジネス

を行おうとしていたという事実を考慮すると,被告による「Universal Pictures (Thailand) Co., Ltd 」という会社名の使用は, Universal City Studios, Inc.に損害をも

たらす可能性がある。 最高裁はさらに敷衍して,被告による商標「Universal Pictures (Thailand) Co., Ltd.」

の出願 は,被告が Universal City Studios, Inc と関連する業務を行っていると考える可

能性があるものとして,公衆が混同または誤認する可能性があると述べた。「Universal Pictures 」の用語を先行して使用していた Universal City Studios, Inc.は,民商法 18 条

に基づく商号として,被告がその用語を使用することを禁止する権利を有している。

Universal City Studios, Inc. はタイにおいていずれの子会社をも登録していなかったが,

そのことは Universal City Studios, Inc. が,被告が主張したようにタイにおいて将来的

にいかなるビジネスも行わないということを意味するものではない。 さらに,公衆が混同または誤認する可能性があるかどうかという問題は,引用された証拠

から判断することができ,本件における証人の証言も同様であるが,被告が主張したよう

に証人の理解の範囲に限定されるものではない。「Universal」と「Pictures」の用語は通

常の用語であるものの,これらの用語を,商号,商標およびサービスマークとして使用す

るために組み合わせた原告は,商品またはサービスの所有者または出所に関して公衆を誤

認混同させる方法で,他人がこの用語を自己の商号,商標またはサービスマークとして悪

意で使用することを禁止することができる。

1.3 著作権 タイで提訴された他の知的財産事案の場合と同様に,大多数の著作権訴訟は刑事訴訟で

ある。たとえば,2009 年は民事事件が 18 件で刑事事件は 2,341 件,2010 年は民事事件が

16 件で刑事事件は 1,708 件,2011 年は民事事件が 25 件で刑事事件が 1,210 件である。刑

事訴訟の大部分の違反者は小規模な侵害者である。 一般的に,裁判所はすべての起訴に関

して禁固と罰金の双方を科すが,小規模な事案の場合,禁固について通常は執行猶予が与

えられる。

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法で,他人がこの用語を自己の商号,商標またはサービスマークとして悪意で使用することを禁止することができる。

1.3 著作権 タイで提訴された他の知的財産事案の場合と同様に,大多数の著作権訴訟は刑事訴訟である。たとえば,2009年は民事事件が18件で刑事事件は2,341件,2010年は民事事件が16件で刑事事件は1,708件,2011年は民事事件が25件で刑事事件が1,210件である。刑事訴訟の大部分の違反者は小規模な侵害者である。一般的に,裁判所はすべての起訴に関して禁固と罰金の双方を科すが,小規模な事案の場合,禁固について通常は執行猶予が与えられる。 Public Prosecutor v. Ladawan Rangsiratta-na, RCLIP- TH-462/2008 (J.S.C., Thailand, December 13, 2008) では,被告人は商売として侵害物を販売,販売のための申出または販売のための所有に関する罪状について起訴された。本件において,被告人および訴外の侵害者は,被害者である SonyComputerEntertainmentInc., (SONY) の Playstation の CD の形式でコンピュータプログラムと視聴覚作品に関する著作権侵害を共同して行った。SONY は日本法に基づく法人であり,当該作品の最初の発行は,タイが締約国となっている著作権の保護に関する条約の締約国である日本においてなされた。被告人は,他の侵害者によって複製された86,400枚の侵害品である CD を営利目的で販売,販売の申し出,または販売のために所持したとされ,罪状を認めている。 CIPIT 裁判所は,被告人は著作権法70条2項,31条1項および刑法83条に基づき,営利目的による著作権侵害について有罪であると判断した。被告人は1年の禁固を宣告された。しかし,裁判所は被告人の有罪答弁による情状酌量を考慮して,被告人らの刑罰を半年減刑し,6ヶ月の禁固とした。押収された86,400枚の CD は著作権者に付与されるものとされた。 最高裁判所は,CIPIT 裁判所の量刑を維持

するとともに,本件の証拠物件2に基づいて,被告人は官憲によって86,400枚の大量の CD を押収されるとともに長期型店舗において逮捕されたと述べた。侵害された CD は,112種類のものを含んでおり,被告人が大規模な小売人として著作権侵害の営業に関わっていたことを示している。こうした犯罪は,被害者の利益に対する損失を引き起こすだけでなく,一般公衆も害するものである。大規模な侵害者に対しては厳格な刑事罰がなければ,このような犯罪は増加する可能性がある。CIPIT 裁判所による被告人に対する宣告刑には執行猶予が与えられていないが,これは妥当である。 CIPIT 裁判所と最高裁判所の判決は双方とも,大規模な侵害と商業的規模の侵害に対する厳罰の必要性を共有していることを示している。そのため,1年間の禁固は執行猶予なしで宣告された。明らかなことは,押収された CD が総計86,400枚にも及んだことが,こうした量刑を決定付けた最も重要な要因のひとつであった可能性があるという点である。 さらに,タイの知的財産権者は,刑事手続による取締りと起訴手続を通して自己の権利を行使することを好む傾向がある。実務では,権利者は法的な代理人となるいくつかの組織に対して,警察に加わって,刑事手続による取締りを行う権限を与えている。通常,こうした法的な代理人は取締りを行うライセンスをさらに下請けとなる異なる組織に販売ないし転売しているが,その期間には限定を設けている。こうした実務は,適切な管理のなされない刑事取締りを増加させており,最近になって多くの問題のある事案を生み出している。 例として次のようなものがある。「パンケーキ事件」と呼ばれる事案がある。2010年1月,男性の組織が,バンコクの小さなマーケットで

(違法な)自己取締りを行った。彼らは,タイにおいてドラえもんの著作権を有する会社の代理人であると主張していた。男たちは,そのマーケットにある幾つかの店舗に対して捜索する権利を主張したが,その中に,年老いたおば

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あさんの経営する小さなパンケーキの露店が含まれていた。男たちは,年老いたおばあさんが,ドラえもんの顔をかたちどったパンケーキを生産していることがドラえもんの著作権を侵害していると主張し,彼女の露店を捜索し,パンケーキを製造する装置を没収することによって,彼女を怯えさせた(このパンケーキの写真参照)。彼らは警察が当該露店のすべての財産を差し押さえるために彼らに加わっているとも主張していた。 最終的に,彼らは5,000バーツ(およそ13,000円)をおばあさんから受け取り,マーケットを立ち去ったが,もともとのパンケーキの価格は10バーツにすぎない(およそ25円)。

おばあさんのパンケーキ出典:http://ict.in.th/2550

 この事件は,タイにおける著作権の権利執行のためのアプローチが不合理な事件をたびたび引き起こしていることを例証している。

2.知的財産法の発展

 現在,DIP は,商標法の改正案,著作権法改正案と営業秘密法改正案といった,幾つかの知的財産に関する法案を提出している。商標法の改正案は幾つかの重要な修正を含んでいる; ─ 音と香りを含むようにするための商標の

定義の拡大 ─ 出願手続の短縮と料金の値上げ ─ マドリッド・プロトコルを充足する出願

手続のための調整

 商標法の改正案は2012年2月に DIP によって下院に提出された。法案は2012年10月の第一読会で可決され,下院の第二読会を待つ段階である。 特に,タイはマドリッド・プロトコルを批准し,議会は,タイ憲法190条に基づいて,2012年10月16日に批准を承認した。商標法改正の主要な目的は,音と香りを含むように商標の定義を拡大することであり,このことは DIP がマドリッド・プロトコルに基づく義務であると考えている。

 著作権法の改正案も以下のように幾つかの重要な修正を含んでいる。 ─ 反迂回措置に関する規定(技術的保護手

段) ─ デジタル著作物とインターネットにおけ

る複製 ─ インターネットプロバイダの責任制限 ─ 著作権管理と反迂回措置に関する刑事責

任 タイの内閣は2012年10月に著作権法案を可決して,そして下院に法案を提出した。

 さらに,DIP は営業秘密法の改正を提案しており,2011年9月に内閣における検討を求めた。一方,内閣は,法案を下院における議題とすることに同意している。最終的な修正案には,営業秘密委員会に関する規定を含んでいる。新しい法案では,行政機関と民間部門から新たな有識者を加えることによって,委員会の構成を変更している。有識者の任期も新たな構成を機能させる上で修正されている。これらの有識者は,刑法に基づく担当官とみなされ,同法に基づいて保護される。 新たな法案では,営業秘密を開示した当局者に対する新たな刑事規定やその他の違反行為に対する刑事罰も設けている。

置を没収することによって,彼女を怯えさせた(このパンケーキの写真参照)。彼らは警

察が当該露店のすべての財産を差し押さえるために彼らに加わっているとも主張していた。 最終的に,彼らは 5,000 バーツ(およそ 13,000 円)をおばあさんから受け取り,マーケ

ットを立ち去ったが,もともとのパンケーキの価格は 10 バーツにすぎない(およそ 25円)。

おばあさんのパンケーキ 出典:http://ict.in.th/2550

この事件は,タイにおける著作権の権利執行のためのアプローチが不合理な事件をたび

たび引き起こしていることを例証している。

2. 知的財産法の発展

現在,知的財産局(DIP)は,商標法の改正案,著作権法改正案と営業秘密法改正案とい

った,幾つかの知的財産に関する法案を提案している。商標法の改正案は幾つかの重要な

修正を含んでいる; - 音と香りを含むようにするための商標の定義を拡大 - 出願手続の短縮と料金の値上げ - マドリッド・プロトコルを充足する出願手続のための調整

商標法の改正案は 2012 年 2 月に DIP によって下院に提出された。法案は 2012 年 10 月

の第一読会で可決され,下院の第二読会を待つ段階である。 特に,タイはマドリッド・プロトコルを批准し,議会は,タイ憲法 190 条に基づいて,

2012 年 10 月 16 日に批准を承認した。商標法改正の主要な目的は,音と香りを含むように

商標の定義を拡大することであり,このことは DIP がマドリッド・プロトコルに基づく義

務であると考えている。 著作権法の改正案も以下のように幾つかの重要な修正を含んでいる。

- 反迂回措置に関する規定(技術的保護手段) - デジタル著作物とインターネットにおける複製

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3.知的財産事件に関する統計

 タイの知的財産法は知的財産権を保護するための民事的な救済措置を有しているが,タイでは,特許権侵害を含め,10年以上の間,知的財産権の権利行使に関して刑事的なアプローチを積極的に推進してきた。この章では,CIPIT裁判所が設立されたとき(1998年)から2011年までの訴訟統計を紹介する。データの主要な

ソースは,CIPIT 裁判所の司法統計部による訴訟事件の統計値である。2 具体的なデータソースはそれぞれの表に示した。 第Ⅰ表は CIPIT 裁判所に提起された知的財産権事案の類型(民事,刑事)を示している。第Ⅱ表は,事案の類型(著作権,商標,特許,その他)に分類した民事事件の数を示している。第Ⅲ表は,事案の類型(著作権,商標,特許,その他)に分類した,刑事事件の数を詳しく示している。

第Ⅰ表:CIPIT 裁判所:受理された知的財産権の全件数

年 合計 民事 % 刑事 %

1998 1,733 90 5.19 1,643 94.81

1999 1,791 70 3.91 1,721 96.09

2000 2,243 102 4.55 2,141 95.45

2001 3,390 138 4.07 3,252 95.93

2002 3,712 155 4.18 3,557 95.82

2003 4,173 172 4.12 4,001 95.88

2004 5,553 199 3.58 5,354 96.41

2005 5,717 152 2.66 5,565 97.34

2006 7,027 176 2.50 6,851 97.50

2007 6,667 201 3.01 6,466 96.99

2008 6,574 192 2.92 6,382 97.08

2009 6,819 122 1.79 6,697 98.22

2010 5,285 138 2.61 5,147 97.39

2011 4,886 119 2.44 4,767 97.56

第Ⅱ表:CIPIT 裁判所:受理された民事事件:著作権,商標,および特許

年 合計 著作権 % 商標 % 特許 % その他 %

1998 90 15 16.67 72 80.00 3 3.33 - -

1999 70 16 22.86 51 72.86 3 4.28 - -

2000 102 38 37.26 62 60.78 2 1.96 - -

2001 138 17 12.32 108 78.26 11 7.97 2 1.45

2002 155 16 10.32 109 70.32 30 19.36 - -

2003 172 17 9.88 141 81.98 12 6.98 2 1.16

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2004 199 26 13.07 135 67.84 33 16.58 5 2.51

2005 152 21 13.82 102 67.11 22 14.47 7 4.60

2006 176 23 13.07 134 76.13 13 7.39 6 3.41

2007 201 27 13.43 150 74.63 11 5.47 13 6.47

2008 192 24 12.50 148 77.08 18 9.38 2 1.04

2009 122 18 14.75 56 45.90 30 24.59 18 14.76

2010 138 16 11.59 76 55.07 25 18.12 21 15.22

2011 119 25 21.01 52 43.70 12 10.08 30 25.21

第Ⅲ表:CIPIT 裁判所:受理された刑事事件:著作権,商標,および特許

年 合計 著作権 % 商標 % 特許 % その他 %

1998 1,643 523 31.83 1,118 68.05 2 0.12 - -

1999 1,721 583 33.87 1,127 65.49 11 0.64 - -

2000 2,141 799 37.32 1,342 62.68 - - - -

2001 3,252 1,293 39.76 1,949 59.93 10 0.31 - -

2002 3,557 1,215 34.16 2,239 62.95 16 0.45 87 2.44

2003 4,001 1,853 46.31 2,026 50.63 19 0.47 103 2.57

2004 5,354 2,799 52.28 2,411 45.03 13 0.24 131 2.45

2005 5,565 2,947 52.96 2,508 45.07 14 0.25 96 1.72

2006 6,851 3,416 49.86 3,356 48.99 12 0.17 67 0.98

2007 6,466 2,816 43.55 3,564 55.12 7 0.11 79 1.22

2008 6,383 2,409 37.74 3,896 61.04 9 0.14 69 1.08

2009 6,697 2341 34.96 4,282 63.94 10 0.15 64 0.95

2010 5,147 1,708 33.18 3,379 65.65 6 0.12 54 1.05

2011 4,767 1,210 25.38 3,473 72.85 17 0.36 67 1.41

 タイには知的財産権の事案に関する行政訴訟事件はない。商標審判部および特許審判部の判断に対する控訴は,民事事件として提訴されるので,第Ⅰ表および第Ⅱ表の統計に含まれている。第Ⅱ表において,「その他」とあるのは,ライセンス契約,営業秘密,その他の知的財産権に関する民事問題に関する紛争を含んでいる。第Ⅲ表において,「その他」とあるのは,営業秘密に関する刑事事件を含んでいる。営業秘密法は,2002年に施行された。

 第Ⅲ表の商標に関する刑事事件の数には,商標法および刑法(271条から275条の商標に関する刑事犯罪)の双方に関する刑事訴訟を含んでいる。第Ⅲ表における知的財産権に関する刑事事件の大部分は,警察によって捜査され,検察権が訴追したものである。大部分の訴追は検察官によって行われ,権利者が私人として刑事事件を訴追することはまれである。

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4.知的財産に関する司法制度と立法の見通し

 4.1 タイでは大陸法的な法典の形式を採用しているため,シビル・ローの国として分類されている。それでも,特に商法,知的財産法,証拠法の分野における発展は,コモン・ロー制度からの顕著な影響を受けている。こうしたコモン・ローの影響は,初期において部分的にコモン・ローの教育を受けた弁護士や裁判官によりもたらされた。3

 タイにおける知的財産法の分野の最初の立法は,1892年の最初の著作権法である「文芸著作物の保護のための VachirayanLibrary に関する国王布告(RoyalProclamation)R.S.111」までさかのぼる。この国王布告に基づいて,VachirayanLibrary は,同図書館が出版した書籍の許諾を得ない複製を禁止する独占的な権利を獲得した。4その後の著作権法は,その9年後に制定された「著作者の所有権に関する1901年法」であり,登録されたすべての出版物に対して保護が拡大された。1931年に,タイは1908年にベルリンで改正されたベルヌ条約に加盟した。ベルヌシステムの基準を満たすために,新たに文芸美術著作物保護に関する1932年法を成立させ,1901年法を廃止した。 1932年の文芸美術著作物保護法は,1978年著作権法によって廃止された。1978年著作権法は,音楽レコードと放送に対して保護を拡大するとともに,著作権侵害の罰則を強化した。現行の1994年著作権法は,1978年法を廃止し,1995年3月21日に施行された。1994年法は,TRIPS協定のルールや原則の影響を大きく受けている。5刑事罰が1978年法よりも相当程度強化された。 商標の保護に関しては,1914年に商標及び商号法が成立し,タイにおける商標登録制度を確立した。1931年,これに代わる商標法が成立し,1914年法を廃止した。現在では,新しく1991年の商標法が成立し,1931年法は廃止され,現在

効力を有している。 特許に関しては,1979年特許法が1979年9月12日に施行された。1992年と1999年の法改正によって,特許主題の拡大,特許権の保護期間の拡大のほか,幾つかの国際条約の諸原則が採用された。6各法改正において,刑事罰が相当程度強化された。

 多くの発展途上国と同様,タイは近時,知的財産の保護を拡大するために知的財産法を何度も制定し,改正してきた。主な知的財産法は以下のものである。 ─ 1979年特許法(B.E.2522) ─ 1991年商標法(B.E.2534) ─ 1994年著作権法(B.E.2537) ─ 2000年植物品種保護法(B.E.2542) ─ 2000年集積回路配置保護法(B.E.2543) ─ 2002年営業秘密法(B.E.2545) ─ 2003年地理的表示法(B.E.2546) ─ 2005年光ディスク保護法(B.E.2548)

 更に,知的財産権は,他の関連法によっても保護されている。たとえば,個人および会社の名前は,民商法典18条に基づいて追加的に保護されており,また,刑法271条から275条に商標に関する一定の犯罪行為が規定されている。

4.2 中央知的財産権国際貿易裁判所 タイの知的財産保護に関する改革として最も重要な出来事は,「中央知的財産国際貿易裁判所」(CIPIT 裁判所)が1997年12月1日に設立されたことであろう。7CIPIT 裁判所は,知的財産と国際貿易に関する問題を処理する特別裁判所として設計されている。現在,CIPIT 裁判所は全国にわたって管轄権を有している。8

 特筆するべきことは、知的財産権及び国際貿易裁判所の設置ならびに手続に関する法律

(1996年)の第30条に基づいて,CIPIT 裁判所の長官は,最高裁判所長官の承認に基づいて,知的財産と国際貿易に関する事案の手続と証拠の尋問手続について裁判所規則を制定すること

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ができる点である。ただし,これらの規定は刑事事件の被告人の抗弁権を損なうものであってはならないとされている。これにより,CIPIT裁判所の手続の変更は,議会の法律による場合よりも,迅速に行うことができる。特別な専門的意見がこの特別裁判所において発展することで,知的財産権の保護に関するより公正かつ効果的な措置が,裁判所規則に更に統合されることが予定されている。 「1997年の知的財産および国際貿易事件に関する規則」に基づく幾つかの規定により,全ての先進国で利用できるのと同じ,最も先進的な民事救済が十分に整っている。主な民事救済として,予防的差止命令(行為の開始に先立って知的財産権侵害の差止めを与える差止命令),差止命令による救済,捜索命令(侵害の関連証拠を保全するために与えられる命令),および金銭的な裁定(たとえば,現実の損害,利益,手数料,弁護士費用)がある。 1997年12月1日にタイの CIPIT 裁判所が設立された目的は,知的財産と国際貿易に関する紛争のより迅速かつ適正な手続を提供するためであった。9知的財産権を保護し国際貿易の問題を解決するため特別な専門的知識をもつ

「ユーザフレンドリーな」フォーラムを形成するために,いくつかの顕著な特徴がその裁判制度に加えられている。フォーラムの能率を促進するため「裁判所規則」を適用したことは,その時点でのタイの法制度に関して最も先進的な手続の一つであったであろう。10大部分の先進国の特別な知的財産裁判所の管轄と異なり,CIPIT 裁判所は全国における知的財産権の権利行使に関して民事および刑事の双方に関する排他的管轄権を有している。11

 1996年の知的財産権及び国際貿易裁判所の設置ならびに手続に関する法律の目的との関係で,職業的な裁判官(career judges)と準裁判官

(associate judge)の制度が,特別な専門的知識をもつフォーラムを確立するために設けられた。合議体は,知的財産権法や国際貿易の専門的知識を有する2名の職業裁判官と,法曹資格

を有しないが関連する分野で専門的な知見を有する1名の準裁判官(associate judge)で構成される。CIPIT 裁判所の判決または命令は,多数決でなされなければならない。12 現在,CIPIT 裁判所には,26名の裁判官と131名の準裁判官が存在している。13

 裁判所規則は,迅速,効率的,そして公正な審理をもたらすためのさまざまな特別の手続を用意している。こうした手続には,予防的差止め14,捜索命令15,口頭の証拠と共に宣誓証書と宣誓供述書の使用を含む。ビデオ会議方式による証拠の審理は,海外も含めて,裁判所の外部にいる証人尋問のために認められている。16

規則23条は,非常に実用的かつ利点があり,当該資料が事件の主要な争点に関する証拠ではないと考えられる場合,両当事者が合意すれば,翻訳なしで英語の証拠資料を提出することが認められる。17適切な場合には,当事者は裁判所に対して,知的財産権の保護のために,インカメラ手続または公表の禁止に関する命令を求めることができる。18

 CIPIT 裁判所の判決または命令に対する上訴は,最高裁判所の特別部である知的財産国際貿易部門において検討される。上訴は判決や命令が出された日から1ヶ月以内になされなければならない。

4.3 知的財産権のエンフォースメント タイでは,裁判所の手続を通した民事および刑事訴訟による知的財産権の保護に関して,いくつかの選択肢がある。さらに,DIP は,すべての特許および商標の出願および登録に関して責任を有している。ここでは,タイにおける主要な救済手段(民事,刑事およびその他の救済手段)について簡単に紹介する。

4.3.1 民事救済 多くの先進諸国の法律と同じように,知的財産権の保護に利用可能な民事救済がタイの法律にも存在する。権利者は主に3つの手続法に基づいて民事救済を求めることができる;

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 ─ 1996年の知的財産及び国際貿易裁判所の設置ならびに手続に関する法律

 ─ 1997年(B.E.2540)の知的財産及び国際貿易事件に関する規則

 ─ および民事訴訟法

 多くの諸国と同じように,2つの主要な民事救済として,差止による救済と金銭的な補償がある。タイにおける民事救済は,差止による救済と金銭的な補償とに分けられる。

ⅰ 差止命令による救済 訴訟提起に先立ち,あるいは民事手続の最中に,知的財産権者は,裁判所に対して知的財産権侵害を停止するための暫定的な措置を求めることができる。この手続は,裁判所規則12条,著作権法65条,特許法77条,あるいは商標法116条に基づいて行われる。これらの命令には,侵害を中止する命令,あるいは侵害行為を行うことを阻止する命令を含む。請求人は一応の証明がある事件であることを立証する事実と,裁判所においてこのような命令を与えることが適当であると思慮するために十分な理由を述べなければならない。当該請求には,申請内容を立証するため,目撃者による申請の内容たる原因の事実を認める供述も含むべきものとされる。 また,1996年の知的財産及び国際貿易裁判所の設置ならびに手続に関する法律の28条は,主張された侵害行為の関連証拠を保全するための暫定的差止命令について規定している。これは,ある程度において,いわゆるアントンピラー型命令に類似している。CIPIT 裁判所設置法28条は,請求人は,その者又は当事者は当該証拠を一括して収集するように命じることを,申立て又は動議により,裁判所に対して請求できるとしている。この細則について定める裁判所規則20条に基づいて,請求人は,事前に証拠を収集する必要性を示す事実を主張するものとされている。訴訟がまだ提起されていない場合,起訴となる事実も,請求人が収集しまたは収集する可能性のあるものについて,陳述されなければならない。なお,緊急の場合には,当該申立

ては,他の当事者または関係する第三者が事前に知らされた場合に,当該証拠が損傷,喪失,破壊あるいは,その他の理由により,後の段階で提示することが困難となる緊急の状況を示す事実を陳述する。 さらに,裁判所による命令は,侵害者が請求人に対して侵害者の家屋に入り,原告に帰属する関連する商品や文書を捜索すること,そして,当該事案の状況にしたがって,移転,検査,写真撮影,あるいは当該資料のコピーを作成することを許可する旨の侵害者に対する指示を含むことができる。19

ⅱ 金銭賠償の認定 民事事件において,権利者は暫定的差止,損害,手数料,弁護士費用の賠償,およびこれらの救済を組み合わせて求めることができる。1994年著作権法第64条において,著作権又は実演家の権利が侵害された場合,裁判所は,侵害人に対し,裁判所が逸失利益及び著作権又は実演家の権利の権利者が権利行使に必要な費用等の損害の度合いを斟酌して妥当と判断する金額を損害賠償として権利者に支払うよう命じる権限を有する。64条における「逸失利益」という文言は,権利者にとっての逸失利益を意味する。 タイの法律では,民事賠償における証明責任は原告にあるが,原告が証明に失敗した場合,裁判所は侵害の状況や重大さを考慮した賠償を与えることができる。このように賠償額は裁量的なものとなる。したがって,原告が裁判所に対して自らの損害に関する事実と系統的な計算を示す場合には,裁判所は賠償額をより正確に与えることができる。2064条における「必要な費用」は,権利者に対して,調査作業,私的な探偵作業,その他の権利執行手段を含む,より広範囲な請求を認めうる。21加えて,裁判所は民事訴訟法の付則6条により,弁護士費用を認めることが義務付けられている。当該付則は,事案の困難さ,当該事件に要した時間や労力の量を考慮に入れた,弁護士費用の最小および最大額を定めている。 著作権法と同じように,特許法77条の3は,

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36条,63条,又は36条を準用する65条の10に基づく特許又は小特許の所有者の権利を侵害する行為があった場合,裁判所は,侵害人に対し,裁判所が逸失利益及び特許又は小特許の所有者の権利行使に必要な費用等の損害の度合いを斟酌して妥当と判断する金額を損害賠償として特許又は小特許の所有者に支払うよう命じる権限を有する。特許法における「逸失利益」と「必要な費用」は,著作権侵害の場合と同様の範囲で認められる。商標の場合,損害賠償を請求することができるが,権利者が証明した現実の賠償額にしたがって認められる。著作権や特許の場合と異なり,商標法には民事賠償に関する特別な規定がないため,民商法420条及び438条に基づく不法行為による損害賠償の一般原則が適用されることになる。

4.3.2 刑事救済 タイのすべての知的財産の法律には,法的救済の重要な一部として,刑事制裁に関する規定が含まれている。大部分の弁護士が考えているように,刑事救済はより安価,簡単かつ迅速であることから,タイにおいて知的財産権を執行するための有効な選択肢である。刑事制裁を執行するために,知的財産権者は CIPIT 裁判所に自ら訴訟を提起するか,警察または DIP に対して侵害を告発することができる。 前者の場合,権利者は裁判所に対して刑事訴訟を提起することができる。裁判所は,一応の証拠の有無を判断するために,予備審問の手続を行わなければならない。裁判所が予備的な罪状認否において,相当な理由がないと判断した場合,告訴は却下される。22後者の場合,権利者は警察に対して正式な告訴状を提出することができる。初動捜査の後,警察は CIPIT 裁判所に捜査令状または逮捕状を請求することができる。令状に基づいて,警察は侵害者の家宅を強制捜査し,すべての侵害製品や装置を押収するとともに,告発された人物を逮捕する。警察は,更なる捜査を行った上で,事件を検察官に送致する。捜査報告書を再検討した上で,検察

官は追加的な捜査を求めるか,あるいは起訴の判断を行い,その後,事件として起訴する。 タイにおいて刑事的なエンフォースメントが多いのは,おそらく,DIP の権限と深く関係している。1992年以前においては,商務省の幾つかの行政機関が自らの権限に基づいて別々に知的財産法を導入した。1992年5月,DIP が商務省に設立され,すべての関連する行政的な権限が DIP に移行した結果,すべての知的財産権の問題については一の機関で対応できるようになった。DIP の権限は大まかにいって以下のものである。すなわち,特許,商標の登録,知的財産権の保護を目的とした効率的で国際的に受け入れられるメカニズムを確立すること,知的財産権の保護を発展すること,である。23

 DIP の設定した自らの3つの使命の1つは,知的財産権侵害を防止し,鎮圧することである。24実際のところ,DIP の使命における「防止および鎮圧」という文言は,民事訴訟を含むものではない。それは特に,刑事的な取締りと訴訟を通した鎮圧を意味している。事実をみても,DIP はタイにおいて知的財産権の保護のための手段として民事訴訟を支援してこなかった。その代わりに,DIP は,1992年から現在に至るまで,各種のプログラムや活動を通して,刑事的なエンフォースメントを前述した鎮圧という使命を達成するために,警察と協力して,その内部に刑事取締りのためのセンターと機動的なプロジェクトチームを設立した。これらのセンターやプロジェクトチームは,刑事制裁を行使する上で重要な役割を果たしている。権利者は,同センターに告発を行うことができるだけでなく,DIP を通して捜査令状を請求することさえできる。 2005年の DIP の年次報告書によると,DIPが設立した戦略的な機動的プロジェクトチームが,2005年にはバンコクとその周囲の地方において1,460件の強制取締りを行ったとされる。更に,DIP は三者間(DIP,警察,レコード会社)のプロジェクトチームも設立し,2005年には302件の共同取締りを実施している。25更に,

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DIP は,1994年著作権法に対して,著作権者に著作権または実演に関する権利の所有者に対する判決に基づいて支払われる罰金の半額を配分する74条の規定を追加することによって,著作権者のインセンティブをより強化するという重要な修正を提案した。こうした「罰金の配分」の修正は,多くの著作権者が刑事の罰金の配分を受け取るために,刑訴制裁を利用するよう促進してきた。しかし,この条項は,著作権侵害に対してのみ適用されている。 現在のところ,著作権侵害は,親告罪とされているが,このことは権利者が事件を取り下げることによる解決が,最終的な判決がなされる前のいつでも可能であることを意味している。著作権者は,侵害の事実および侵害者を知ったときから3ヶ月以内に,刑事訴訟を提起し,または,警察に通報しなければならない。しかし,権利者が警察に通報した場合,裁判所に対する訴訟の出訴期限は,侵害の日から5年となる。26

 刑事罰に関して,著作権法は著作権侵害に関する幾つかの罰則を規定している。著作権のある作品の許諾を得ない複製,翻案,配布,公衆への提示の侵害行為が営利目的で行われる場合,6カ月ないし4年以下の禁固又は10万バーツないし80万バーツ以下の罰金に処され,また両者が併科されるとしている。27更に,裁判所の判決に基づいて支払われた罰金の半額は,著作権者に与えられる。28侵害を構成する物品であり,タイ国内で作成されまた輸入された物品は全て,また,69条若しくは70条に基づき,違反者の所有に属する物品の全ては,著作権者又は実演家の権利の所有者へ交付される。29違法行為をなすのに使用された物品はすべて没収されなければならない。 商標に関して,登録されている他人の商標,サービスマーク,証明標章又は団体標章を「偽造」した者に対しては,4年以下の禁固若しくは40万バーツ以下の罰金又はその両方を科され,

「模倣」した場合,その半分が科せられる。偽造または模倣された商標を付した商品を輸入し,

頒布し又は頒布のため所持する者も,同じ罰則の対象となる。30

 特許に関しては,特許権者の許諾を得ないで,特許製品を製造し,使用し,販売し,販売のため所持し,あるいは輸入する侵害行為に対する刑事罰として,2年以下の禁固,又は40万バーツ以下の罰金,又はその両方を科するとしている。31更に,法人の責任者又は代表者は,本人が知得又は同意することなくかかる違反が発生したことを立証できない限り,当該違反に対して法律が定める処罰を受けるものとされている。32

4.3.3 他の救済 タイの制度における追加的な救済措置として,行政的なアクションと税関による手続と没収がある。

ⅰ 行政的なアクション すべてのタイにおける特許,小特許,意匠特許および商標の出願および登録は,DIP に出願され,検討される。いかなる者も特許または商標登録官の判断に不服の場合には,各法における一定の期間以内に特許審判部または商標審判部に控訴することができる。利害関係人は,特許審判部または商標審判部の判断に不服がある場合,CIPIT 裁判所に対して訴訟を提起することができる。指摘しておくべきこととして,タイにも「行政裁判所」は存在し,私的なセクターと政府機関との間の当局による権力の違法な行使に関する行政上の紛争に関する管轄を有している。つまり,知的財産権の問題は,行政裁判所の管轄に属していないのである。

ⅱ 税関における手続と没収 税関における手続も,知的財産権を保護するために権利者にとって利用可能である。税関局は,侵害に関わった者を逮捕し,タイから輸出されまたはタイに輸入される知的財産権侵害物を没収する権限を与えられている。手続の詳細は商務省による告示の形式で提供されている。かかる告示は1979年(B.E.2522)の輸出入管理法5条に基づき出されたものである。33一般的

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に,同法は,偽造または模倣された製品,書籍およびその他の著作権侵害製品に関する輸出入の禁止について詳述している。34

5.データベースプロジェクト

 現在,大部分の東南アジアの諸国が WTO に加盟し,そして TRIPS 協定と同様に,ベルヌ条約とパリ条約の最低基準を満たすために自国の知的財産法を修正した。したがって知的財産法をハーモナイズするもっとも難しい段階は成功裏に達成されている。大部分の発展途上国における知的財産権の行使の実務は,とりわけ東南アジア諸国においては事実として異なっているから,知的財産権をエンフォースするための更なる段階は,更に複雑であるように思われる。早 稲 田 大 学 の 知 的 財 産 法 制 研 究 セ ン タ ー

(RCLIP)のデータベースプロジェクトは,諸外国の知的財産権のエンフォースメントの相違を比較するための最も重要なデータベースである。というのは,アジア地域およびヨーロッパ諸国において知的財産権の紛争事案(判例)を英語で展開するように設計されているからである。 私はタイのデータベースプロジェクトにおよそ10年間にわたって参加し,このプロジェクトにおけるタイの知的財産権の判例集が質的な面で発展してきていることを目撃してきた。特に向上したこととして,紛争の対象となった商標の画像を含めることができるようになったことと,編集者の分析がある。 一般的に,最高裁判所と CIPIT 裁判所の判決の大部分は,タイのすべての判例集を含めて,争われた商標の画像が存在していない。判決において争われた商標について説明だけを読むと普通は非常に複雑であるし,特に,混同に関する事例については理解が困難である。 最近の判例レポートでは,判例レポートの内容を明確にするために,商標事案の報告に関して争われた商標の画像を挿入することが奨励されている。たとえば,DCON Productions

PCL v. Department of Intellectual Property,Universal City Studios, Inc. v. Universal Pic-tures (Thailand) Co., Ltd. である。これらの事件では,最高裁判所または CIPIT 裁判所の判決文のなかに大部分の画像が挿入されていなかった。レポーターは,CIPIT 裁判所から判決書を借りて,関連文書をチェックし,必要となる画像をスキャンし,判例集に付加する必要がある。これらのすべての画像を付加することで,読者が事案をはっきりと理解できる手助けとなりうる。 更に,判例の報告者は,レポートにおいて編者としての分析を付加するよう促されている。 通常,レポーターや編者は,要約をする前に,各事案を徹底的に準備しかつ理解する必要があり,当該事案が注目するべき情報を含んでいるかどうか,あるいはデータベースの他の事案と関連するかどうかを知らなければならない。こうしたことによって,レポーターや編者は,編者の独自のコメントを含むことに自信を持つことができる。 現在,タイのデータベースプロジェクトは,最も重要な知的財産権に関する裁判例であり,一定の期間,知的財産権の研究者により幅広く使用されている。特定の機関が将来的にこの作業を継続していく可能性がある程度ある。特定の機関には,CIPIT 裁判所,DIP あるいは大学を含む。しかし,この作業を主導する役割を担うという判断は,各機関のポリシー次第である。

1 「特許法3条 「意匠」とは,製品に特別な外観を与え,工業製品又は手工芸製品に対する型として役立つ線又は色の形態又は構成をいう」;

「特許法第56条 手工芸意匠を含む新しい工業意匠に対して,本法に基づき特許が付与されるものとする。」

2 SeetheCentral IntellectualPropertyandInternationalTradeCourt,Statistics (Novem-ber15,2012)<http://www.ipitc.coj.go.th/info.

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php?cid=19&pm=19>3 SeePrasobsookBoondechetal.,theJudicial

SysteminThailand,AnOutlookforaNewCentury7(2002).

4 SeeTachchaiSubhapholsiri,KodmaiLitkasit4-5 (Bangkok:NitithamPublishingHouse,2001)(inThai).

5 SeeTachchaiSubhapholsiri,supranote2,at4-5.Also seeJakkritKuanpoth,Thailand, inIntellectualPropertyLawinAsia340(ChristopherHeath,ed.,2003).

6 SeeJakkritKuanpoth,Thailand,inIntellec-tualPropertyLawinAsia,340-341(ChristopherHeath,ed.,2003).

7 「知的財産及び国際貿易裁判所の設置ならびに手続に関する法律」は,1996年10月25日に制定された。

8 1996年の知的財産及び国際貿易裁判所の設置ならびに手続に関する法律に基づいて(知的財産国際貿易裁判所設置法),CIPIT 裁判所は大都市バンコク及びその他の5つの県において管轄権を有するとともに,これらの地域外で生じた事件に対する裁量権も有している。知的財産国際貿易裁判所設置法は,地方の知的財産国際貿易裁判所についても,管轄と場所を指定するものと規定し,これを設立する準備をしていた。しかし,現在に至るまで,地方の知的財産国際貿易裁判所は設立されていない。そのためCIPIT 裁判所は全国にわたる管轄権を有している。

9 知的財産国際貿易裁判所設置法に添付された目的について記載した備考は次のように述べている;

「知的財産及び国際貿易に関する事件は,一般的な刑事及び民事事件とは異なる特徴を有している。すなわち,知的財産及び国際貿易に関する事件の知識や理解を有する裁判官が判断を下す場合には,事件の手続きがより迅速かつ適切な…ものとなる。」

10 知的財産国際貿易裁判所設置法30条参照。 「第30条 手続における利便性,迅速性かつ公

正さを確保するため,知的財産及び国際貿易裁判所の長官は,最高裁判所長官の承認に基づいて,知的財産及び国際貿易関係の裁判手続および証拠尋問に関する規定を公布する権限を有するものとする。ただし,同規定は,刑事事件における被告人の抗弁権を損なうものであってはならない。

前述の規定は,官報の公示日に発効するものとする。」

11 知的財産国際貿易裁判所設置法7条参照。 「第7条 知的財産及び国際貿易裁判所は,以

下の事件について管轄権を有する。   ⑴ 商標,著作権及び特許に関する刑事

事件   ⑵ 刑法第271条ないし第275条の違反に

関する刑事事件   ⑶ 商標,著作権及び特許に関する民事

事件で,かつ技術移転契約あるいはライセンス契約の紛争から生じた事件

  ⑷ 刑法第271条ないし第275条の違反に関する民事事件

〈中略〉   ⑼ 半導体集積回路の配置,科学的発見,

商号,地理的表示,商業秘密及び植物品種の保護に関する紛争をめぐる民事事件又は刑事事件

  ⑽ 知的財産国際貿易裁判所の管轄に服するものとして定められている民事事件あるいは刑事事件

〈後略〉」12 知的財産国際貿易裁判所設置法14,15,19条

参照。 「第14条 知的財産及び国際貿易裁判所の裁

判官は,司法公務員法に基づく司法公務員から国王により任命され,知的財産及び国際貿易の問題に関する知識及び理解を有していなければならない。」

「第15条 準裁判官は,司法公務員法に基づく司法委員会が,省令が規定する規則及び方法に基づいて,知的財産及び国際貿易の分野において熟練した者から国王によって任命され,以下の⑴から⑷までの条件を満たすとともに,⑸から⑼の条件を満たさない者であること。」

「第19条 第20条,第21条にしたがって,少なくとも2名の裁判官と,1名の準裁判官が事件の審理のための合議体を形成するために加わるものとする。裁判所による判決又は命令は多数決による決議とする。」

13 SeetheCentral IntellectualPropertyandIntellectualPropertyCourt, Judges, (Nov.25,2012)<http://www.ipitc.coj.go.th/index.php>.

14 裁判所規則12条および著作権法65条,特許法77条および商標法116条参照。

15 知的財産国際貿易裁判所設置法28条および裁

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判所規則20条参照。16 裁判所規則32条参照。17 裁判所規則23条参照。18 裁判所規則24条参照。19 SeePrasobsookBoondechetal.,supranote4,

at109.20 Seeid.at113.21 Seeid. 「第64条 著作権又は実演家の権利の侵害に

あたっては,著作権又は実演家の権利が侵害された場合,裁判所は,侵害人に対し,裁判所が逸失利益及び著作権又は実演家の権利の権利者が権利行使に必要な費用等の損害の度合いを斟酌して妥当と判断する金額を損害賠償として著作権又は実演家の権利の権利者に支払うよう命じる権限を有する。」

22 刑事訴訟法161条,162条参照。23 SeeDepartmentofIntellectualProperty,Mi-

nistryofCommerce,AnnualReport2005,28(2005).

24 2006年から2010年における DIP の3つのミッションは次の通りである;⑴全体的な効率性を向上させるために知的財産権制度の発展させること,⑵知的財産権の創作と商業的利用の促進,⑶知的財産権侵害を防止し鎮圧するとともに,知的財産権の公正な利用を確保すること。Seeid.at32-33.

25 Seeid.at45-47.26 刑法95条参照。27 著作権法69条2項参照。 「第69条 第27条,第29条,第30条及び第50条

に定める著作権又は実演家の権利を侵害する者は,2万バーツないし20万バーツ以下の罰金に処せられる。

   前項に定める違法行為が営利行為のために行われるときは,その違反者は,6カ月ないし4年以下の禁固又は10万バーツないし80万バーツ以下の罰金に処され,又は両者が併科される。」

28 著作権法76条参照。権利者は判決に基づいて与えられた罰金を超える部分を求めるために,侵害者に対して民事訴訟を提起することもできる。

「第76条 判決により科せられた罰金の二分の一は,著作権者又は実演家の権利の所有者に支払われる。著作権者若しくは実演者の権利の所有者が受領した罰金の二分の

一を超える額の損害賠償を求める民事訴訟を提起する著作権者若しくは実演家の権利の所有者の権利は影響を受けない。」

29 著作権法75条参照。 「第75条 本法により,著作権又は著作者の権

利を侵害すると構成される物品でタイ国内で作成されまた輸入された物品はすべて,また,第69条若しくは第70条に基づき,違反者の所有に属する物品の全ては,著作権者又は実演家の権利の所有者へ交付され,違法行為をなすのに使用された物品はすべて没収されなければならない。」

30 商標法108条ないし110条参照。 「第108条 タイで登録されている他人の商

標,サービスマーク,証明標章又は団体標章を偽造した者に対しては,4年以下の禁固若しくは40万バーツ以下の罰金,又はその両方を科する。」

「第109条 タイで登録されている他人の商標,サービスマーク,証明標章又は団体標章を,当該他人の商標,サービスマーク,証明標章又は団体標章であるかの如く公衆を欺瞞するために模倣した者に対しては,2年以下の禁固若しくは20万バーツ以下の罰金,又はその両方を科する。」

「第110条⑴ 第108条に基づいて偽造した他人の商標,サービスマーク,証明標章若しくは団体標章を付した製品,又は第109条に基づいて模倣した他人の商標,サービスマーク,証明標章若しくは団体標章を付した製品をタイに輸入し,頒布し又は頒布のため所持する者,又は⑵第108条に基づいて偽造した他人のサービスマーク,証明標章若しくは団体標章を使用して,又は第109条に基づいて模倣した他人のサービスマーク,証明標章若しくは団体標章を使用してサービスを提供し又はサービスの提供を申し出る者に対しては,それらの条文で規定した通り罰する。」

31 特許法36条および63条,85条参照。 「第85条 特許権者の許可を得ずに第36条又

は第63条に基づく行為をなした者に対しては,2年以下の禁固,又は40万バーツ以下の罰金,又はその両方を科する。」

32 特許法88条参照。 「第88条 本法により処罰されるべき違反者

が法人である場合,その法人の責任者又は代表者は,本人が知得又は同意することな

Page 18: 各国・地域の知的財産保護法制の10年の歩み カン …win-cls.sakura.ne.jp/pdf/36/06.pdfである。PIC3とPIC4は被告が付与され,未だ 有効な意匠特許No.16,808である。PIC5とPIC6

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くかかる違反が発生したことを立証できない限り,当該違反に対して法律が定める処罰を受けるものとする。」

33 例として以下の告示がある ; 輸出入の管理に関する1987年(B.E.2530)10月14日の商務省告示,輸出入の管理に関する1993年(B.E.2536)4月21日の商務省告示(94号),および輸出入の管理に関する1993年(B.E.2536)4月21日の商務省告示(95号)。

34 SeeBoonmaTejavanija,Legal Action against intellectual Property Infringement in Thailand,inLegalActionagainstIPInfringement inAsia,518TheKoreaIndustrialProperty lawAssociation,(2004).