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県立広島大学人間文化学部紀要 7 25-35 (2012) footprint を用いた児童の足アーチ形成時期の検証 増山悦子 *1・井上洋子ネ3・中村健一 *2 序論 体力は人間の活動の源であるだけでなく,物事に取り組む意欲や気力といった精神面の充実にも深 く関わっており,健康な生活を営む上で非常に重要である。近年,子どもの体格が向上しているにも かかわらず,体力・運動能力が低下していることは,深刻な状況であるといえる。文部科学省の体力 運動能力調査報告書1)によれば, 1985 年付近をピークとし,以後20 年間以上にわたって子どもたちの 体力・運動能力の低下傾向が続いている。そこで文部科学省では,中央教育審議会答申を受け,平成 15 年度より子どもの体力向上や望ましい生活習慣の形成に向けて, r 子どもの体力向上推進事業J を展 開しているところである 2) 近年では,子どもたちの体力・運動能力の低下傾向はようやく下げ止まりの兆候もみえているが, 新たに子どもの肥満などの生活習慣病増加が深刻な社会問題となってきている。生活の利便化や生活 様式の変化は,日常生活における身体を動かす機会の減少を招き,さらに群れ遊びが減少して室内遊 びが多くなってきている。このように定常的な運動不足が懸念される子どもたちは,体力の低下のみ ならず足にも変化がおよび,足底の土踏まず(足アーチ)形成の遅れ,さらには浮き指,外反母祉, 内反小祉,小指の湾曲などの足の形態異常が増加している 3 4) 。直立二足歩行するヒトにのみ発達して いる土踏まず(足アーチ)は,立つ,歩く,走る,飛ぶ,踏ん張るなどの動作に深く関わっている。 たとえば歩行は,地面からの衝撃を足アーチで吸収し,さらに弾力性のあるパネの働きで,接地した 足の五本指で蹴り出すことによって為されている 3- 6)。足アーチすなわち土踏まずの形成を促すこと は,子どもの活発な身体活動を高め,健康な状態を保つことにつながると考えられる。 子どもの足アーチ完成時期は 6 歳頃という報告7 1 のがあるが,子どもを取り巻く環境の変化が大き い昨今において,実態を表しているかどうか検証する必要がある。足のアーチを正確に計測するには X 親撮影による解析8)があるが,多人数の児童を対象にした調査には扱いにくい方法である。そこで, 本研究では簡単に非侵襲的手法で行えるフットプリント ωに注目し,小学生の 7 歳から 10 歳までの男 女児童を対象に,足の形態のみならず足底圧測定も可能である特殊なフィルムシートを用い,裸足で 右足歩行した時のフットプリントを採取することにした。フットプリントから土踏まず率,足祉数, 足底圧とその部位を測定し,各種パラメーターの有用性について検討した。さらに年齢別,性別によ る土踏まず形成,足アーチ形成の特徴を明らかにすることを試みた。 方法 1.対象 広島市佐伯区にある A小学校の児童 7 ....... 10 歳までの男女児童を無作為抽出した計79 名を対象と *1 県立広島大学人間文化学部健康科学科 県立広島大学生命環境学部環境科学科 同広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻 25

footprintを用いた児童の足アーチ形成時期の検証harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/.../ninbunki07025.pdf · 26 増山悦子ほか footprintを用いた児童の足アーチ形成時期の検証

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県立広島大学人間文化学部紀要 7, 25-35 (2012)

footprintを用いた児童の足アーチ形成時期の検証

増 山 悦 子*1・井上洋子ネ3・中村健一*2

序論

体力は人間の活動の源であるだけでなく,物事に取り組む意欲や気力といった精神面の充実にも深

く関わっており,健康な生活を営む上で非常に重要である。近年,子どもの体格が向上しているにも

かかわらず,体力・運動能力が低下していることは,深刻な状況であるといえる。文部科学省の体力

運動能力調査報告書1)によれば, 1985年付近をピークとし,以後20年間以上にわたって子どもたちの

体力・運動能力の低下傾向が続いている。そこで文部科学省では,中央教育審議会答申を受け,平成

15年度より子どもの体力向上や望ましい生活習慣の形成に向けて, r子どもの体力向上推進事業Jを展

開しているところである2)。

近年では,子どもたちの体力・運動能力の低下傾向はようやく下げ止まりの兆候もみえているが,

新たに子どもの肥満などの生活習慣病増加が深刻な社会問題となってきている。生活の利便化や生活

様式の変化は,日常生活における身体を動かす機会の減少を招き,さらに群れ遊びが減少して室内遊

びが多くなってきている。このように定常的な運動不足が懸念される子どもたちは,体力の低下のみ

ならず足にも変化がおよび,足底の土踏まず(足アーチ)形成の遅れ,さらには浮き指,外反母祉,

内反小祉,小指の湾曲などの足の形態異常が増加している3,4)。直立二足歩行するヒトにのみ発達して

いる土踏まず(足アーチ)は,立つ,歩く,走る,飛ぶ,踏ん張るなどの動作に深く関わっている。

たとえば歩行は,地面からの衝撃を足アーチで吸収し,さらに弾力性のあるパネの働きで,接地した

足の五本指で蹴り出すことによって為されている3-6)。足アーチすなわち土踏まずの形成を促すこと

は,子どもの活発な身体活動を高め,健康な状態を保つことにつながると考えられる。

子どもの足アーチ完成時期は 6歳頃という報告7,1のがあるが,子どもを取り巻く環境の変化が大き

い昨今において,実態を表しているかどうか検証する必要がある。足のアーチを正確に計測するには

X親撮影による解析8)があるが,多人数の児童を対象にした調査には扱いにくい方法である。そこで,

本研究では簡単に非侵襲的手法で行えるフットプリントωに注目し,小学生の 7歳から10歳までの男

女児童を対象に,足の形態のみならず足底圧測定も可能である特殊なフィルムシートを用い,裸足で

右足歩行した時のフットプリントを採取することにした。フットプリントから土踏まず率,足祉数,

足底圧とその部位を測定し,各種パラメーターの有用性について検討した。さらに年齢別,性別によ

る土踏まず形成,足アーチ形成の特徴を明らかにすることを試みた。

方法

1.対象

広島市佐伯区にあるA小学校の児童7歳.......10歳までの男女児童を無作為抽出した計79名を対象と

*1 県立広島大学人間文化学部健康科学科

叫 県立広島大学生命環境学部環境科学科

同広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻

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26

増山悦子ほか footprintを用いた児童の足アーチ形成時期の検証

し,2007年 2 月 ~3 月に,裸足走行による右足フットプリントを採取した。内訳は, 7, 8, 10歳は

男女児童ともに各10名 9歳児は男児9名,女児10名で,小学校関係者および児童保護者には,研究

の目的および手順を詳細に説明し,研究参加の同意を得た。

2.フットプリントの採取およびアンケー ト調査

フットプリントの採取には,児童の足底圧測定可能な極超低圧用プレスケーノレ(富士フィルム製)

を用いた(図 1A)。発色剤含有フィノレムと印字フィノレムの 2枚のフィルムの上にラパーマット

(27cm x 20cm) を重ねて置いた上を,被験者は裸足で歩行し,右足のフットプリントを採取した。通

常の歩行ができるように,歩行練習したのち採取を行った。

(A) (8)

(a) (b) (c)

図1.フットプリント採取用プレスケール(A)とフットプリント例(8)

(d)

この採取装置の原理は,歩行すなわち足圧によって,無色の発色剤を封入したマイクロカプセノレが

塗布してある発色剤含有フィルムから薬剤が流出し,もう一枚の印字フィノレム上に赤色として足底像

が発色される。最上部のラパーマット(プレスケーノレマット)は 1cllIあたり 4つの円錐形の突起があ

るものを用い,加圧の強さによって直径の異なる赤色の円形をフィノレムに写し出すことができる(図

1)。足底圧測定として最適なO.01 ~ 1. OO:MPaの測定が可能な極超低圧用の装置を用いた。

フットプリント採取後,ただちに簡単なアンケート調査をした。項目は,①外と家のどちらで遊ん

でいるのが多いか,②外と家で遊ぶのはどちらが好きか,~体育は好きか,まあまあ好きか,あまり

好きではないかの三択,④小学校の長い休憩時間は外で遊ぶととが多いか(三択),⑤どんな遊びが好

きか(記述)であった。

3.足底測定および統計処理

採取したフットプリントの画像をパソコンに取り込んだ後,画像処理ソフトImage-Pro(Media

Cybemetics社)を用い,足長,足幅,土踏まず面積,土踏み面積を計測した。さらに,接地足祉数,

歩行時における最大圧力部位とその最大圧力を計測した。

土踏まず率と肥満度との相関,ならびに接地足E止数と土踏まず率,肥満度との相関は散布図を作成

し,ピアソンの相関係数を用いて検討した。統計ソフトはエクセノレ統計Statc巴12を使用した。

県立広島大学人間文化学部紀要 7, 25-35 (2012)

結果

1.フットプリント採取

実際に採取した 8歳男女児童の裸足走行時の右足フットプリント例を図 1Bで示す。加圧部分が赤

色ドットで表され,足底の形状が分かるばかりでなく, ドットの大きさは加圧力に比例しており,歩

行時の加圧状態や歩行軌跡が読み取れる。白く抜けているフットプリント内側面積を,図2のように

土踏まず部分として計測した。図 1Bの(c),(d)は(a),(b)に比べて土踏まず面積が少なく,土踏まずが

未発達である。また,歩行時の圧力のかけ方をみると, (a), (c)は,疎骨,第 1,2中頭骨付近,第 l

祉に赤いドットが大きく圧力値の極大がみられ,その順に重心移行が見られる。 (a),(c)の接地足祉数

は5祉で蹴り上げており,浮き指がみられない。 (d)はかかと部分に圧力をかけて歩行していることな

ども読み取ることができる。

2.対象児童の特性

フットプリントから画像を取り込み,画像ソフトImage-Proで足長,足幅を測定し,足示率(足長に

対する足幅の比率%)を算出した(表 1)。フットプリントを採取した 7歳から10歳までの男女児79

名の足示率平均値は38.8:1:0.24であり,足の発達は標準とみなした6)。足示率は7歳児が最大で男女

児ともに年齢に応じて減少傾向にある。このことは年齢を増すにしたがって,足幅の成長より足長の

成長が著しいことを表している。

表1.対象の身体特性とフットプリント計測

身長 体重 肥満度 足示率 土踏まず率 最大圧力

(cm) (kg) (%) (%) (l¥t1Pa) n mean S.D. mean S.D. mean mean S.D.

7歳 男子 10 123.2 :t3.91 25.8 :t4.55 6.1 41. 0 19. 7 :t5.74 0.255 女子 10 120.6 :t7.32 21. 9 :t2.20 -4.4 40.0 18.4 :t3.33 0.220

8歳 男子 10 129.6 :t 6.60 28.3 :t4.89 1.4 39.0 15.3 :t7.17 0.290 女子 10 128. 7 土7.16 28. 1 土6.73 3.3 40.0 13.5 :t4.82 0.260

男子 9 133.0 :t 6.03 29. 0 :t 5.01 -3.2 37.0 14.0 :t 6.05 0.294 9歳 女子 10 130.9 :t3.92 27.3 :t 3.87 -3.7 38.0 14.0 :t5.75 0.245

10歳 男子 10 140.0 :t4.83 36.4 土7.13 4.5 39.0 15.3 土6.04 0.325 女子 10 135. 9 土4.69 31. 5 :t7.94 1.2 37.0 16.3 土6.97 0.315

対象児童の身長,体重計測値を全国の児童10) と比較した。対象児童の身長と体重は, 9, 10歳女児

を除いて,全園児童のそれぞれの平均値との変動が少なかった。身長は-O. 6"-' 1. 3cm,体重は-1.7"-'

1. 6kgであった。ところが 9,10歳女児は身長,体重とも全国平均値より低く,平均身長はそれぞれ

-2. 6cm, -4. 4cm,平均体重は約一2.8kgであった。

平成18年度から新たに導入された児童の肥満度の求め方11)により,性別,年齢別,身長別標準体重

から肥満度を算出した。肥満度が-20%未満,,-,+20%未満を標準とし, 20%以上の者を肥満傾向児

(さらに20"-'30%未満を軽度, 30"-'50%未満を中程度, 50%以上を高度の肥満額向児と分類), -20%

以下の者を痩身傾向児(さらに軽度,中等度,高度の痩身傾向児として分類)としている。対象児童

は96%が標準体型で、あったが, 10歳児童に肥満傾向児の出現割合(男子 3人/10人中,女子2人/10

27

28

増山悦子ほか footprintを用いた児童の足アーチ形成時期の検証

人中)が,全国児童の平均出現割合(男子11.6%,女子8.9%)より高かった。内訳は10歳男児に高度

肥満傾向児 1名,軽度 2名, 10歳女児に高度 l名,軽度 l名で、あった。対象の10歳男女児は,体格に

おいて個人差が大きいといえる。

3.年齢別,肥満度による土踏まずの面積割合

表 1で示す土踏まず率(%)は次式により求めた。

内側土踏まず面積土踏まず率(%) =----:J,【一 一、日一一 回r rt-IT .... 一一 x100

年齢別による土踏まず率は,男女とも 7歳児が最大で,次いで10歳児,やや少ないのが 8, 9歳児

という U字型の傾向を示している(図 2)。

25

20

士15

手率 10

D

)% O

7 8 9

年齢 (歳)

10

冨男子平均値

[]女子平均値

,宇一‘ ,戸-‘" ....:、

‘ ". 寸令島

.‘

図2.土踏まず率の経年変化

次に,土踏まず率と体格(体重と身長)

から判定した肥満度との関係を散布図

(図 3)で示す。体格の個人差の大きい

10歳児を除いた 7歳から 9歳児童(臼59名) 肥

の土踏まず率は約13~2

て分布しており札,肥満度と士踏まず率は

ピアソンの相関係数に従うと相聞がない

ことが分かった (rs=0.008)。土踏まず

率が少ない (10%以下)グループ児童の

肥満度は平均値であり,肥満傾向児グ

ループは土踏まず率が約17%でほぼ平均

を示し,土踏まず率は体重や身長に影響

を受けないことが分かる。

40.0

30.0

20.0

L'JA 10.0

ゐ 5.0

20日

ヨ0.0 一一一一一一…………一一一一-ーや…~一一一 山

土踏まず率 (%)

図3.土踏まず率と肥満度

男子

&女子

7, 25-35 (2012)

4.土踏まず形態による分類

土踏まずタイプの分類には,足底形状から高橋によるフ ットプリントの分類法12)を試みた。フット

プリントの蝶の後端と土踏まずの最凹部を結ぶ線の延長が通過する足祉の位置 (0~V) に基づく方

法で分類したのが図 4である。大きく 「べた足j や「偏平足」と称される 0, I型と「非偏平足」の

II~VO 型の 6 型に分類している 。 さらに, 10, I型」の偏平足タイプ II型以降の非偏平足群を

III, m型j の標準タイプ, IN, V, V 0型」の高アーチタイプの計 3タイプに分けた。

県立広島大学人間文化学部紀要

10

8

6

4

男児人数

2

げ誠一仇.‘,

2

也、,Z

一位、42一也E

騨問一一治,

eフットプリント分類法

打球一れ‘,e

肝側一帆‘,.

10設男日歳男8歳男7歳男

10

4

8

6

女児人数

0

8

5

4

Z

0

8

6

4

Z

0

2

1

1

2

2

1

男女児人数

10歳女9歳女B歳女7歳女

。1臼 揖9球史8博愛7β境

29

フットタイプによる分類

7歳と 10歳の児童とも偏平足タイプは存在せず,全員が非偏平足である。半数以上は高度発達した

アーチ形態を持ち , 残りが II~m型の標準タイプであることがわかる 。 8 歳と 9 歳の児童は,男女児

とも 0, I 型の偏平足タイプの児童が20%近く存在している一方で,高アーチタイプが1O~20%を占

めるなど,個人差が大きい。図2でみられた 8歳と 9歳児童の土踏まず面積率の減少は,偏平足と定

義される児童の出現が大きく影響しているといえる o

男女児童別にみると 7歳では男女児童ともに同様な分布をしているが 8歳以上では性差がみられ

た。男児は 8,9歳では高アーチタイプが多く,半数を占めている。特に10歳男児は70%が高アーチ

タイプで,土踏まず,足アーチが正常に発達している。それに比べて女児はII,m型の標準型が年齢

に関係なく半数を占めている。

アンケート集計結果によると 7, 8歳の低学年の男児のほとんどが外で遊ぶことを好きと答えて

いるが,女児は25%が家で遊ぶことを好んでいる。 9歳男児は体育が大好きで外遊び,しかもサッ

カーや野球などの運動を好んで,小学校の休憩時聞にも外で遊ぶ児童が多いなど運動を日常的に習慣

にしている。 9歳女児も体育が好きで外遊びを好んではいるが,休憩時間などはあまり外で遊びたが

らない子どもが60%いた。一方, 10歳男女児には,休憩時間は外で遊ばないし,体育も好きでない児

童が15%存在した。

図 4.

30

増山悦子ほか footprintを用いた児童の足アーチ形成時期の検証

5.歩行時の足E止利用

最近,浮き指で足祉による蹴り上げがみられない児童が増えているととから,歩行時の蹴り上げに

何本のE止を使用しているか年齢別に調べたのが,図 5である。5祉で接地し,充分な蹴り上げ歩行が

できている児童が25~45% しかいなかった。内訳は 8 歳児が45%で多く 7 歳児は25%で少なかった。

一番多いのは小指(第 5祉)が浮いた 4sJ!:での接地で, 30~58%の児童が占めている。特に 9 歳児の

半数以上がH止で接地歩行をしていた。 7 歳児は l~H止での接地がやや多くみられ,足筋力,骨力

の発達が充分でないこと,次に示すように足圧力が低いことも反映していると恩われる。9歳児に比

べて, 10歳児は高度アーチタイプが多いとされるにもかかわらず, 5, 4 s止での接地が減少してい

る。さらに,男女児別にみると, 5 sJ上で接地しているのは9歳女児が多く 9歳男児が極端に少な

い。9歳男児は 4祉での接地が一番多く, 10歳男児は 3~H止での接地が一番多い。高学年の男児ほ

ど接地足E止数が少なくなっている。

人数 4

D

-2

20

18

16

14

12

10

。7歳

7 !

5 人 i数 4

o

4駈接地

年齢(歳)

努 1位

省Z魁

震 31.止

841止

"51止

日歳 9歳 lC歳

図5.経年別による接地足E止数

5祉接地

理男子"女子

9 10

年 齢 〈 歳 〕

2, 3祉接地10

呂 {一一一一一一一一一ー一一一一一一一一一一一一一一一

積男子怒女子

10

年齢(歳)

図6.男女児別による接地足祉数

県立広島大学人間文化学部紀要 7, 25-35 (2012)

6.歩行時にかかる圧力分布

最大圧力は年齢が増し,体重が増加するにつれて,増大する傾向にある(表 1)。正常な歩行時にか

かる圧力は,操,第 2中頭骨付近,第 l祉または第2祉部分に圧力値の極大がみられるという報告7)

により,普通の速度で歩行した場合,前足部の最大圧力分布によって,足底圧が第 1中頭骨骨頭に集

中するタイプA,第2中頭骨骨頭に集中するタイプB,第 3中頭骨骨頭に集中するタイプC,第 1か

ら第 3中頭骨骨頭までまんべんなく分布するタイプの四つに分類したが,接地足祉数と最大圧力部位

に相関はみられなかった。

考察

フットプリントに関しては従来,実計測7,13),墨汁法などを用いた足圧痕14),投影法のピドスコー

プ3.6.15-18)を用いた測定法, X線撮影法8)など多くの工夫がある。いずれも煩雑であったり,特殊な知

識や器械を要するため,自然な歩行時の足祉計測ができないなど,その応用範囲は極めて限定された

ものである。小学生を対象にした場合,誰にでもどこでも使用できる簡易な方法でなければならな

い。本研究で用いた極超低圧用プレスケーノレと突起のあるラパーマットを組み合わせた上を裸足で歩

行する方法制は,抵抗感が少ないことから自然の歩行状態を保ったままフットプリントが採取するこ

とができ,小学生の計測に最良の計測法であった(図 1)。

足幅/足長比を表す足示率は,実測で40以下が望ましいとされている7)。床に接地する部位は実際

の足型より全体的に小さくなり,厳密な比較をすることはできないが,フットプリントを採取した 7

歳から10歳までの男女児79名の平均値は38.8土0.24であり,他の児童と比較して足の成長に関しては

特記すべき差はないと考えられる。足示率は7歳児が高く, 10歳児まで減少する傾向にある。これは

足長が足幅に比べて成長率が大きいことが考えられ,幅広な子どもの足から,細長の成人の足へと狭

長化が生じているためと思われる。日本学校保健会で行った大規模な児童生徒の足の計測4)によると,

足長,足幅ともに男子では14歳頃,女子では12歳頃成長が鈍りだすという報告があり,足底は身長に

比べて早い年齢で完成するといえる。

土踏まず率の経年変化をみると,土踏まず率が7,10歳より 8,9歳で減少するという U字型の傾

向がみられた(図2)。アーチ高率(舟状骨高/全足長実測値)を求めた荒木らの報告7)でも同様に,

アーチ高率は 8,9歳が低く, U字型の底になっている。このことについて深く言及されていない

が 7歳で足アーチの骨格が形成されたものの, 8, 9歳児では足長の成長度が足幅,アーチ骨格の

成長に比して大きいことが考えられ,アーチ高さが低くなり,ひいては土踏まず率の減少につながる

のではないかと推測される。今までは 6歳までの時期が足アーチ形成に重要であるとされているおが,

足底の急成長期にあたる 8,9歳児にも焦点をあて,考慮していかなくてはならないと恩われる。

足には,外側縦アーチ,内側縦アーチ,横アーチの 3つのアーチが存在する3-6)。通常は単に足アー

チといえば内側縦アーチを意味し,この内側縦アーチが低下あるいは消失した状態を偏平足といい,

足底全体,またはその大部分が接地することで特徴づけられる。新生児や乳児期には豊富な脂肪組織

や靭帯弛緩性のため,偏平足を呈しているが,成長に伴い足底脂肪組織や靭帯弛緩性の減少により,

内側縦アーチが見られるようになる。そこで,児童でも足底の脂肪組織が増加した場合,つまり肥満

傾向である児童は土踏まずが減少するか検討を行った。

児童の肥満度を定量化する場合,成人の肥満度の指標とされるB阻値で表すことは,的確でないと

考え,性別,年齢別に求めた身長別平均体重から肥満度(過体重度)を算出するという,平成18年度

から新たに文部科学省で、導入された算定式を使った。その結果,図 3の散布図で示されるように,土

31

32

増山悦子ほか footp血 tを用いた児童の足アーチ形成時期の検証

踏まず率と肥満度とは相闘がないことが分かつた。土踏まず率では,足アーチの形成を表せないた

め,次に土踏まず形態を高橋の方法12)で分類し,偏平足タイプ,標準タイプ,高アーチタイプの 3タ

イプに分けて,タイプ分類が足アーチの形成の指標となり得るかを検討した。

7, 10歳児は全員非偏平足タイプであったが, 8, 9歳児に偏平足型が20%の割合で見いだされた

(図4)。また,広島市南区のB小学校において同様なフットプリントを採取したところ, 6, 7, 10

歳児は非偏平足タイプであり, 8, 9歳男女児18人中 4人が 0, 1型の偏平足タイプ(未発表)に相

当したため 8,9歳児に偏平足割合が高いのは,特定の小学校にみられる現象とは考えにくい。さ

らに多くの小学校で、検証していく必要があると思われる。 8,9歳児は性差には関係なく偏平足タイ

プが出現することにより,足アーチが完成するまでの促成期にあたるのではないかと考えた。また,

偏平足と骨密度との関連が調べられた報告14) によると,小学校低学年女子で、は,偏平足を有する場

合,有意に骨密度が低いという足アーチの未発達が報告されている。今回の調査において, 10歳児の

体格の個人差が大きいにもかかわらず,全員非偏平足タイプであることから,足アーチの完成時期は

10歳頃ではないかということが示唆された。

男児は女児に比べて高アーチタイプが多いことは,アンケート結果からも分かるように,外遊びが

多く,運動を習慣にしているというのが原因ではないかと思われる。また幼児期において,土踏まず

形成は日常的な運動量の増加によって促進されるという報告16)がある。原因19) は土踏まず形成と運

動能力の聞には必ずしも有意な相闘がみられるとはいえないが,運動能力の高い子は土踏まず形成が

よいと報告した。また阿久根20) も土踏まず形成されている子は運動の基本である歩く・跳ねる・平衡

感覚において能力が高まると報告している。平成22年度の体力・運動能力調査1)によると,運動習慣

を「ほとんど毎日」から「しない」までの 4階層に分けて分析すると,小学校11歳男児の50メートル

走は「ほとんど毎日Jの子と「しないJ子の差が, 85年度に比べて拡大するという 2極化傾向がみら

れた。生活が便利になった分,健康な足アーチ形成には日常的に運動を習慣づけることが大切である

と思われる。

小学生の接地足祉についての報告は,すべて直立二足で静止した時のフットプリント採取15) に限ら

れ,歩行時の蹴り出しにどの祉を使用するかという報告はない。子どもの裸足歩行時の足祉使用につ

いて解析するには,超低圧プレスケールによる足底圧測定が最適であった。それによると,歩行に 5

祉着地は50%以下で,極めて低いことが分かった。 8歳男女児と 9歳女児に 5sJ上着地がやや多いが,

9歳と10歳の男児に浮き指が非常に多く 9歳男児は小指の浮く 4祉, 10歳男児は 3,...., 1祉で接地歩

行が多かった。接地足sJ上数と土踏まず率,肥満度などの身体的計測値とは相関がみられなかった。さ

らに小学生を対象にした接地足1hl数と運動能力総合評価に関連は認められなかったという報告15)があ

る。年齢が増すに従って,特に男児の接地足祉数が減少するのは,靴を履くことによる影響があるの

ではないかと考えられる。 9,10歳は足アーチが完成する時期であるが,急激な成長に見合った靴が

選ばれていないことが推測される。財団法人日本学校保健会でも「足について考えてみませんか・足

の健康と靴のしおり(平成21年度改訂版)J 11)において,転倒による骨折や顔,頭部のけが,外反母

E止などの足の障害が増えており,その原因は明確にはわかっていないが,足サイズより小さい靴や大

きい靴を着用した時に事故や足トラブルが多く発生すると報告されている。そこで,靴と足の健康づ

くりとして,足にあった運動靴を選ぶポイントなどを示している。

以上の結果から,土踏まずすなわち足アーチの完成時期は 6歳頃という報告6.15) もあるが,足アー

チは 8,9歳児の促進期を経て,実際は10歳頃に完成するのではないかと推測された。また,足アー

チの促成には運動を習慣づけることが重要ではないかと思われる。浮き指は身体的発達とは別の原因

県立広島大学人間文化学部紀要 7, 25-35 (2012)

があると思われ,靴による弊害が考えられたが,今後多くの事例で検証していくことが必要と思われ

る。

子どもの心身の発育のために,足底の健康が重要であるが,子どもを取り巻く生活の利便化や生活

様式の変化は,日常生活において身体を動かす機会の減少を招いている。日常的に運動する習慣を身

につけるために,家庭のみならず長時間を過ご、す小学校での生活も見直す必要があると思われる。文

部科学省で勧めている校庭の芝生化を取り入れ,児童が裸足で安心して動き回り,楽しく体を動かせ

るように,施策を積極的に活用していくことも重要であると思われる。

要約

7歳から10歳までの小学生児童79名を対象に,歩行時のフットプリントを採取し,足底計測,土踏

まず形態の分類を行った。その結果,①7歳児は土踏まず率が一番高く,標準タイプと高アーチタイ

プが半数であった。全世接地歩行の割合が25%と年齢別では一番低かった。② 8,9歳児は,土踏ま

ず率が低く,偏平足タイプが男女ともに約25%存在した。③10歳児は土踏まず率が高く,高度足アー

チタイプが多かった。④ 9,10歳児に接地足祉数,高アーチ出現率において性差が認められた。 1

10歳男児は女児に比べて高アーチ出現率が高く,浮き指が多くみられた。以上のことから,男女児と

もに 8,9歳は足アーチ促成期にあたり, 10歳頃に完成すると推定された。また,外遊びなどで足祉

の積極的な使用が足アーチ形成に大きく影響すること,浮き指は靴着用の弊害などが示唆された。

本研究は,県立広島大学重点研究(地域課題解決研究)によるもので,関係の方々,ご協力いただ

いた被験者の皆様に深く感謝いたします。

文献

1)文部科学省・平成22年度全国体力・運動能力,運動習慣等調査結果. 2011

2 )文部科学省 :h即://www.mext.go.jp/a_menu/sports/tairyokuJ1266260.htm

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6)野田雄二:はだしの健康学.講談社, 1981

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11)糊日本学校保健会:児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版). 2007年3月

12) 山崎信寿編:足の事典.朝倉書庖, 1999

13)堀本ゆかり,丸山仁司:健常成人における足底庄中心軌跡の特徴.理学療法科学, 25(5), 687-691,

2010

14)近藤高明他:小中学生のfootprintを用いた偏平足の評価と骨密度との関連.社会医学研究 23, 1

33

34

増山悦子ほか footp血 Iを用いた児童の足アーチ形成時期の検証

-8, 2005

15)三村寛一,田中真由美,辻本健彦,秋武 寛・小学生におけるピドスコープを用いた接地足蹴と

運動能力に関する研究.大阪教育大学紀要 58(2), 161-171, 2010

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17)中 俊博:接地時における幼児の足ゆび圧と活動性.和歌山大学教育学部教育実践研究指導セン

タ一紀要 246-53, 1993

18)松田繁樹他:接地足蹴と運動種目差.岐阜聖徳学園大学短期大学部紀要, 43, 175-181, 2011

19)原田碩三,長谷川勝一,坂下喜佐久:幼児と運動能力と足の発達.教育医学, 40, 175-180, 1995

20)阿久根英昭:今子供たちの足の裏が危ない.主婦の友社, 1988

Abstract

Determining foot arch development period in children based on footprint analysis

Etsuko MASUYAMA *\ Hiroko INOUE*3, Ken-ichi NAKAMURA *2

Footprints were obtained from 79 elementary school children aged 7 to 10 years to study about foot

arch development period in children. By an analysis of plantar measurements and arch classification on the

footprints, results were as follows. 1) The highest rate of foot arch was observed in 7-year-olds with 50%

possessing normal- or high-arch type. Incidence of walking with all toes in contact with the ground was lowest

in this age group (25%).2) Rate of foot arch was low in 8- and 9-year-olds, and flat feet were present in 25%

of both boys and girls. 3) In 10-year-olds, rate of foot arch was high and high arch types were appeared. 4) In

9- and 10-year-olds, a gender difference was observed in number of toes contacting the ground and high arch

incidence, with greater prevalence of high arches and floating toes among boys. These findings suggest that 8

to 9 years old is the period in which the foot arch develops and that the development is complete by about 10

years of age. It was also suggested that the foot arch development is greatly affected by active use of the feet

such as by playing outdoors and that an adverse effect of floating toes occur by wearing shoes.

* 1 Department of Health Sciences, Prefectural University of Hiroshima, Hiroshima.

* 2 Department of Environmental Sciences, Prefectural University of Hiroshima, Hiroshima.

* 3 Programs for Biomedical Research, Graduate School of Biomedical Sciences, University of Hiroshima, Hiroshima.

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