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ゴソコヲヨヲゴココヲ コヲヲヨヲヲソヲヲ 1醗鰯藩醗聾 1. プラズマ診断の起源 (大阪大学工学部超高温研究施設) (1984年9月18日受理) History of Pla8ma Diagnostics Tsutomu ISmMURA (Received September18,1984) Abstract Importance of pl&sma diagnostics as well as of d藍agnos by quoting the Langmuir probe with some rema■ks on its a on the diagnostics for very first z-pi皿ch experime皿t at Osaka §1.プラズマ診断の起源(1) プラズマの研究は前世紀からの大気中ア、一ク放電,低気圧グロー敢電の研究から分離し2さらに流体力学, 統計力学,電磁気学,天体物理学,宇宙物理学などと関係を深めて今日に至っている。前世紀の放電の研究 の成果について言えば,放電の電流一電圧特性,放電の巨視的形態な、どについての知識の集積もあげられる が,その最大の成果はグロー放電の研究の過程でX線,陽極線, 陰極線などが発見きれ,それらの研究を基礎にして現代の原子 物理学が建設されたことである。このようにして得られた原子 物理学の知識に基づいて,プラズマが気体分子,原子が電離し て発生した正イオン,電子および,電離の程度が低いときは, 電離していない分子,原子を含む混合物である,という概念が 確立きれた。、プラズマの研究が放電の研究から分離独立して新 しい独自の道を歩み始めたのは,この概念に基づいて,微視的 粒子の挙動からプラズマの巨視的性質を解明しようという企て が成功してからである。1920年代,ラングミュアーは図1に 示したようにグロー放電管中に平面状の探針Pを挿入して探針 図1.グロー放電プラズマの探針法に よる測定の基本回路。 探考針 Ip↑ Vp ぞ」α59παPhツs♂cs Lα60γα置oγツFαc%1オツoブEη8珈ee7厩8’05αゐαUπあεγ5甜ツ 37

History of Pla8ma Diagnostics Tsutomu ISmMURAjasosx.ils.uec.ac.jp/JSPF/JSPF_TEXT/jspf1984/jspf1984_07/...ぞ」α59παPhツs cs Lα60γα置oγツFαc%1オツoブEη8珈ee7厩8’05αゐαUπあεγ5甜ツ

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ゴソコヲヨヲゴココヲ コヲヲヨヲヲソヲヲ

1醗鰯藩醗聾             1. プラズマ診断の起源

   石  村   勉

(大阪大学工学部超高温研究施設)

 (1984年9月18日受理)

History of Pla8ma Diagnostics

    Tsutomu ISmMURA

 (Received September18,1984)

Abstract

  Importance of pl&sma diagnostics as well as of d藍agnosticians is a{ldressed

by quoting the Langmuir probe with some rema■ks on its application and topics、

on the diagnostics for very first z-pi皿ch experime皿t at Osaka U皿i》er6ity.

§1.プラズマ診断の起源(1)

 プラズマの研究は前世紀からの大気中ア、一ク放電,低気圧グロー敢電の研究から分離し2さらに流体力学,

統計力学,電磁気学,天体物理学,宇宙物理学などと関係を深めて今日に至っている。前世紀の放電の研究

の成果について言えば,放電の電流一電圧特性,放電の巨視的形態な、どについての知識の集積もあげられる

が,その最大の成果はグロー放電の研究の過程でX線,陽極線,

陰極線などが発見きれ,それらの研究を基礎にして現代の原子

物理学が建設されたことである。このようにして得られた原子

物理学の知識に基づいて,プラズマが気体分子,原子が電離し

て発生した正イオン,電子および,電離の程度が低いときは,

電離していない分子,原子を含む混合物である,という概念が

確立きれた。、プラズマの研究が放電の研究から分離独立して新

しい独自の道を歩み始めたのは,この概念に基づいて,微視的

粒子の挙動からプラズマの巨視的性質を解明しようという企て

が成功してからである。1920年代,ラングミュアーは図1に

示したようにグロー放電管中に平面状の探針Pを挿入して探針  図1.グロー放電プラズマの探針法に

                            よる測定の基本回路。

陰極

. 探考針

Ip↑ズマ ←

Vp

ぞ」α59παPhツs♂cs Lα60γα置oγツFαc%1オツoブEη8珈ee7厩8’05αゐαUπあεγ5甜ツ

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核融合研究 第52巻第1号 1984年7月

電圧yρを変え探針電流1ρを測定して図2に

示すような結果を得た1)。そしてこの結果をプ

ラズマ中の電子,正イオンが探針に流入する機

構を議論することにより説明した。その結果,

1ヵ一㌧特性はプラズマの電子温度・電子密

度を与えると定まることがわかった。プラズマ

診断の起源もまたここにあり,ラングミュァー

の探針法はその後も広くプラズマ診断に利用さ

れ,また探針法自身の研究も理論,実験両面を

通してたえまなく進歩を続けている2)’3)。

 さて,図2に示された探針の1〆㌧特性

について具体的に考えてみよう。図3に示すよ

に探針は金属平板の表面が露出し,裏面とリー

ド線は絶縁物でおおわれている。ここで探針の

電位%が,陽極を基準とする探針の外側のプ

ラズマの電位聡より大きいときは,電子は探

針に引かれイオンは退けられ,探針のまわりに

負の空間電荷をもつシースと呼ばれる部分がで

きる。このシースの外側では探針挿入の影響は

なく,電子はマクスウェル速度分布則に従う熱

運動を行い,その分布関数は

ハく∈

α

  f(v,v,v)dvdvdv   x y  z  x y z

・・一蟻)㌔({)卿㌔

                   (1)

で与えられる・ここで%・郷6・ T6はそれぞれ電

子の密度,質量,温度である。シースの表面に垂直に

探針に向う方向を2軸にとると,シースの表面の単位

面積を単位時間にプラズマ側かちシース側へ通過する

電子数は

               CI,OOO

900

800

700

600

500

400

300

200

ioO

 O

 -1

 -2

 -3

 -4 -40    -30    -20    -l O     O

        Vp(V)

図2.探針法による電流一電圧特性の測定例。放電

   条件は放電管直径,3.2cm,放電電流,6A,

   封入気体,水銀蒸気30m Torr,探針面積は

         3.6cmである。

a b

 ’a

d

f e

Vsプラズマ

シース Z

金属板絶縁物リード線

Vp

図3.平面探針の構造とプラズマ,

  シースの模式図。

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講 座 L プラズマ診断 石村勉

  の                    

・述。.dvx述。.dvy{vzf(vx・vy・vz)dvz

一・・(制{『・卿(一舞2)d・・一%(卸罪鵬〉d%

一n・(2舞)埆[一鴫)]許響  、 (2)’

となる。ここでω2はゐで規格化した9方向の運動エネルギー・・菊は電子の平均速度でそれぞれ

    meVZ2 [Wz=2T                (3、)      e

一マー(募聖)1/2        (4)      eで与えられる。そこでシrスの表面積がプローブの表面積!霊に等しいとし,電子電荷を6とすると,シース

を通過する電子による電流は

  ・ps-eAn㌔v-2・68×・・一14AneTe1/2      (5)

孝なる・ここで最後の表現ではるはeV単位・他の量はMKS単位で示した。この1ρsを飽和電子電流

という。シースを通過した電子がすべて探針に流入するとすればこれが探針電流うとなる。図2abの部分

はこのような特性に対応する部分である。なお,通常イオンの速度は遅いためイオン電流は小でその探針電

流への寄与は無視できる・つぎに・珍一聡がもっ,と大きいときにはシー神で加速された電子がシース

内部の中性原子,分子に衝突して電離を起し,発生した電子が加速されまた同様の過程で新たに電子を作る。

このようにして電子数がにわかに増大し電子電流もそれにともなって増大する。いわゆる電子のなだれ現象

である・図2のb cの部分に示したのがこの現象に対応する部分である・さて・%を減少させて%<謄

とするとシース表面を通過した電子のうち,Z方向の運動エネルギーが6(聡一%)より大きいものだ

けが探針に到着する。探針の単位面積に単位時間当り到着する電子数は(2)式でw の積分の下限を                                Zε(玲一%)/7≧にかえたものに等しく・(2)式にexp[一6(玲一一%)/る】を乗じたもの

なる。したがって探針電流も(5)式にこの因子を乗じたものとをり

・p-lps [一e(冷一V・)]      (6)            eとなる。図2のaより左の部分がこの式によって示される1ρ一%特性に対応する部分である。(6)式

の両辺の対数をとると

           e(Vs騨Vp)  1・g¥=一10glps-Te      ’、 (7)

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核融合研究 第52巻第1号 1984年7月

となるのでちを横軸・lo91ρを縦軸にとると両者の関係は直線で表わされ・その傾きから電子温度易

が求められる。このるの値と1ρsの測定値・プローブの面積』の値から(5)式により電子密度%が

求められる。図2に示した例では易=1・1eV,%6;9・5×1016㎡一3である。以上が探針によるプラ

ズマ診断法のあらましである。

 さて,%をさらに減じて(6)式で与えられる1ρが非常に小さくなったとすると,イオン電流の探針

電流への寄与を無視できなくなる。探針電位はプラズマに対して負であるから,シース表面を通過したイオ

ンはすべて探針に達するのでイオン電流は飽和しているはずである。そこで(6)式を書き直すと

Ip-Ipsexp[e(聖一Vp)]一16s     (8)            eとなる。1ρ急は飽和イオン電流である。聡一%→∞で(8)式の右辺第1項は消え,探針電流は

一1乗となる。図2e fの部分がこの飽和イオン電流に対応する部分である。普通の考えでは飽和イオン

電流1ρ急 を求めるには飽和電子電流うSを求めたのと同様にすればよく,その結果1(4),(5)両式で

%,%6,ゐのかわりにイオンの質量吻,密度物,温度丁づを代入し,

1歯一268×・畷獣AniT沸      (9)            1としてよいと思われる。ここでT∫はeV単位で,他の量はMK S単位で示されている。プラズマでは準中

性の条件

  n=n                                 (10)   i  e

が満足されているので(5),(9)式より

Ti一畳(1吋㌔    ,   (・・)     e   ps

を得る・図21こ示した実験例では1ρs;980mA・1丞=2・6mAで・ゐはすで1こ求めたように1・1

eV・物/%は材ンが水銀イオンであるから3・7×・・恥たがってイオ・ン温麟は2・9eV・す

なわち3.4万度Kとなる。幸にしてわれわれはグロー放電のイオン温度が常温より少し高い程度の温度である

ことを知っているので,上述の異常に高い温度が真のイォン温度であると主張する愚かさを避けることがで

きた。イオンと中性分子の質量は同程度であるので1回の衝突でその熱運動エネルギーのかなりの部分を交

換する結果,イオンと中性分子の温度はほぼ同じで常温より少し高い程度である。一方,電子は電界によっ

て加速されエネルギーを得るが,イオンや中性分子との衝突においてはその質量の差が大きいことによりエネ

ネルギー移動が少なく,電子温度は1万度Kをこえる高い温度を保ち得るのである。

 ともかく,常温より少し高い程度の温度のイオンが熱運動によって探針に自然に流入すると仮定したので

は実測された飽和イオン電流値よりずっと小さい値となることは明らかで,この矛盾を解決するため別途理

論的考察を進める必要がある。そこでシースとプラズマ間にプリシースという領域が存在し,この領域でイ

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講座 1・プラズマ診断の起源 石村勉

イオンはかなり加速された後シース

に流入するとする。図4にプラズマ

とプリシースの境界の電位を基準と

した電位分布を模式的に示す。イオ

ンはプリシース中で加速され,プリ

                Zシースとシースの境界で境界面に垂

直な速度成分が毎になったとする

と飽和イオン電流は

                探  16s=eAntVt(12)針                奮

誓一(2蟹Vtl)埆

        i            (13)

となる。ここで物,聾はプリシー

一スとシースの境界でのイオン密度,

電位である。シース中でのイオン密

度陶(Z)はイオン流の連続の条件から

ni(z)一nt儒i

Zt

V

.イ

オン

シ暫

Vt

ソン

1ス

図4.プラズマと探針の問の電位分布。

V

O

フ、

ラズ

,マ

(14)

脅得る。一方,電子は探針電圧が低いため退けられ探針に流入し客いのでシース中では熱平衡にあり,その

密度分布 %(z)は

ne(z)一ne卿ド1等(z)1]      (・5)              e

とする。ここで右辺の%はプラズ,マ中の電子密度である。プリシースの境界では電子密度とイオン密度は

等しく準中性の条件が満足されているとすると(15)式より

nt-ne卿(一eiぎtl)    ・ (・6)            e

となる・したがって,(15),(16)式より

五e(z)一nt∞Φ{一e〔IV(’)HVtl〕/    (・7)                 e

を得る。ここでシース中ではどこでもイオン密度吻(z)カ1電子密度秘(z>より大でいわゆるイオンシ

ースが形成されているとすると,(14),(17)式より・

騨{一e・〔IV冬1)H叩〕卜濡i   (・8)

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核融合研究 第52巻第1号 1984年7月

の条件を得る。この条件は

    elvd  a 一        ,

     T      e

(19)

    IV(z)l  x=      ,                         ・         (20)    l Vtl

と置いて書き直すと

脚{一a(x一・)}≦7≒・(x>・)    (2・)

  e即{2a(x一・)}≧x・ (.x>・)      (22)

となる。(22)式は

  2a≧1                      (23)のとき満足きれる。ここでその限界の値として2a=1を採用すると(19)式より

  elVtl-Te/2 一             (24)を得る。きらに(16),(24)式により

          1    ne  nt=nee通(一万)=(272)・/2         (25)

を得る。ただし,2.72は自然対数の底である。最後に(12),(13),(24),(25)式を用いると飽和イ

オン電流1爵を表わす式

1β,一eA穐(a缶)1μ      (26)            1を得る・(4)・(5)・(26)式により飽和電子電流1カsと飽和イオン電流1ρ急 の比は

1マs一(響プ(慕)㌦66(暑’)埆    (27)  ps          e         e

となる。ここで図2に示した実験例の場合を考えよう。水銀イオンの場合は前にも述べたように物 /%

の値は3・7×105で(27)式の右辺は400となる。ここで飽和電子電流1加の実験値980mAを用いると・

(27)式から推定される飽和イオン電流1ρsの値は2・4mAとなる。一方,実験による飽和イオン電流の

値は2.6mAであるので今まで考えてきた理論は正しいものとしてよいであろう。

 さて,これまでの飽和イオン電流に関する議論からわれわれは多くの教訓をくみとることができる。みか

け上は熱運動を行っているイオンが探針に流入するとの考えがすっきりとしていてわかりやすい。しかし,

この理論に従うと非常識に高いイオン温度が得られる。現代の核融合プラズマの研究においては多くの高級

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講座 1.プラズマ診断の起源 石村勉

な診断技術を駆使してプラズマの計測が行われている。それらの診断法は十分に吟味された理論によって裏

づけられているのはいうまでもないけれども,われわれが測定対象とする核融合プラズマはきわめて複雑で

あり,いつも診断法の理論に含まれる種々の仮定を満足しているとは限らない。そこで正規の手続を踏んで

得た測定値であっても,その値が常識からかけ離れた値であるときは,そのような値が得られたことの妥当

性にっいてさらに深く考えてみる必要がある。また別の測定手段を用いて,いわゆるダブルチェックを行う

必要もある。このようにしてある測定法が測定対象としたプラズマに適当であるか否かを判断しなくてはな

らない。これはプラズマ診断にたずさわる研究者の重要な任務である。さて,このようにしてある測定法が

対象とするプラズマに適合しないことがわかったとしても決してその段階で検討を打切ってはならない。そ

れがなぜ適合しなかったのか,それでは得られた信号は一体何を意味しているのか等々の問題を解き明かさ

ねばならない。これらの問題は多くの場合プラズマ診断学の範囲をこえた,例えばプラズマ中に起こる不安

定の問題であることもある。しかし,自分はその方面の専門家ではないから誰かがその問題を解決すべきだ

と主張したとしても,直ちにその問題を理解しその解決に積極的に努力してくれる人をみつけることは実際

問題としてほとんど不可能である。それがナラズマ診断学にかかわりがあろうがなかろうが自分の身のまわ

りに起ったことは自分で解決するほかないのである。中型,大型の核融合装置はその建設段階ではいわゆる

高温プラズマ発生の専門家が主役であるが,その完成後はプラズマ診断にたずきわる人の役割が大きくなる。

彼等はプラズマ装置の生みの親ではないがそのベターハーフである。完成後の装置の性能,長所,欠点など

の状況は彼等が最もよく知っているはずであり,その装置の以後の運命は彼等の手中にあると断言してはば

からない。プラズマ診断にたずさわる人々は核融合プラズマ研究において中心的役割をになっていることを

認識してほしいものである。

§2 プラズマ診断の起源(π)

 超高温プラズマの研究が大規模かつ組織的に行われるようになったのは,超高温プラズマ中での熱核反応

エネルギーを発電に利用しようという制御核融合の研究が1950年頃に始まってからであり,それにともな

って新しいプラズマ診断技術の開発も開始された。わが国においても1950年代なかばにzピンチ型放電プ

ラズマの研究が開始され4),これが端緒となって核融合の研究が盛んになった。

 zピンチ型放電装置というのはひとくちで言えば瞬間大電流をz方向に流し,ピンチ効果によって高温プ

ラズマを発生させる装置で,巨視的不安定が制御できないので現在その研究は下火であるが,当時は有望な

装置であるとされていた。ここでは,わが国における最初の核麟合実験であるzピンチ型放電プラズマ実験

に関連してプラズマ診断の問題をとり上げることにしよう。この実験に用いられた放電管は内径22cm,厚

さ1,5cm,高さ50cmの磁器製あるいはパイレックス・ガラス製の円筒の両端にニッケルメッキした銅製

平板電極をとりつけたものである。この放電管中に重水素ガスを5~100mTorrつめて最大値~1げAに

達するコンデンサー・バンクの放電電流を流して超高温プラズマを形成する。余談であるが,このコンデン

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核融合研究 第52巻第1号 1984年7月

サー・バンクは最大蓄積エネルギー100kJの

巨大なもので放電管はこのバンクの下にあり訪

問した人はそれがどこにあるか教えてもらうま

で気がつかなかった。さて,大電流放電によっ

て超高温プラズマが形成される過程を考えよう。

図5に示したように放電管中を流れる電流は放

電管の外側の円筒導体帰線回路を通してコンデ

ンサー・バンクに帰る。放電開始直後は放電管

を流れる電流は内壁にそって流れ,その部分に

中空円筒状のプラズマが発生する。またこの電

流によって生ずるプラズマ円筒の外側の磁界の

磁気圧力によリプラズマ円筒は半径方向内向き

の力を受けて加速きれ中心軸に向って収縮を始

める。この収縮の過程でプラズマ円筒内の気体

は雪だるま状にプラズマ円筒に吸収され電離し

てプラズマとなるため理想的にはプラズマ円筒

が中心軸に達したときには放電管中の気体は全

部プラズマとなっているはずである。そしてプ

ラズマ円筒が中心軸に達したときその内向きの

運動のエネルギーは熱エネルギーに変り超高温

プラズマ柱が形成される。プラズマ円柱の外側

の磁界の磁気圧力とプラズマの圧力がっり合っ

磁気圧力

磁界

帰線回路

電極

プラ

一比

円筒oフ

磁な鳳圧力

● 紹1テ41㌘ス

藍早

マ電 磁界

匿振

一(

絶縁物円筒

ギヤ

イツ

図5.zピンチ放電の模式図。コンデンサー・

  バンクから供給される電流は黒の矢印で

  示したようにギャップ・スイッチを通っ

  て放電管に入り,内部に形成されたプラ

  ズマ円筒表面を流れた後帰線回路を経由

   してバンクに帰る。

て超高温プラズマが保持される。以上がzピンチ方式による超高温プラズマの発生と保持のシナリオである。

 さて,図6に注目しよう。これは透明なパイレックス・ガラス製放電管を用い放電状況を放電管側面から

シャッター開放のままで撮影した写真である。この実験では重水素ガス20mTorrを放電管に満し40kVに

充電した80μFのコンデンサー・バンクの放電電流によりプラズマを発生させている。ここで,(a)の場

合は帰線回路が円筒の~75。の部分で(b)中場合は円筒の~980の部分が欠けている。写真が不鮮明で見

にくいところもあるのでそれを補うため若干説明を行う。まず(b)B図を見ると放電管の中央部にプラズマ

柱が存在するように見える。事実B方向に対し左右いずれの方向にもかたよっていない。しかしその奥ゆき

1こ関してはこの図から判断できない。そこで(b)A図をみよう。帰線回路は実際には何本かの細長い板状

導体から成っていて,この図中に縦長の2本の影が見えるが,それが帰線回路の端の部分に相当している。

帰線回路の左端の境界のすぐ外側が強く光っているのはプラズマ柱がAの方向の左右いずれにもかたよって

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講 座 1・プラズマ診断の起源 石村勉

放電管

B→

↑A

(a)

~75。

\ノ帰線回路

A

(a)

B

~98。

↑B

(b)

\A

A

(b)

B

図6.帰線回路配置変化のプラズマの巨視的形状に及ぼす影響。放電条件:80μF,40kV,

  重水素ガス20m Torr。写真はシャッターを開放して撮影された。

いないことを示している。したがってこの2つの写真からプラズマ柱は放電管の中心軸上に存在するとみな

すことができる。これに反して(a)の場合は(a)A図をみるとプラズマ柱は放電管の左側面に押しっけら

れていると考えられる。また,(a)B図をみるとプラズマ柱はB方向に対して左右いずれにもかたよっては

いない力泥の形状曙状明規貝1客琳を菟も帥て!’為西た晒て(a)の場合は前記の超高温プラ

ズマ発隼と保痔の塑獅力郷麺~確の原因は帰線回路φ存在する脚まそれを流れる電流に

よる磁界が大て㌢磁気庄力にまってヅラズマ柱力,§帰綜回路か昏遠ざけられた結果であると考えられる。もちろん

この写真は時問的に変化する放電プラズマの状況を時々刻々に追跡した写真でもないし,またどのような原

因で発射されるどのような波長の光を受光したものかわからないのでこの写真が何を意味するかをこれ以上

詮索することは不可能である。そしてこのような巨視的な観測はプラズマ診断の部類に入らないのかも知れ

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核融合研究 第52巻第1号 1984年7月

ない。しかし,たとえば写真観測などは行わずにプラズマは前記のシナリオに従って放電管の中心軸に集ま

るものとしてその光を受光して分析する分光システムを配置して測定を行ったとすると,その結果は理解不

可能なものとなるであろう。現在われわれは高級な診断技術を駆使してプラズマ診断を行い得る恵まれた状

・況にあるが,その実行前にやはり巨視的な観測によって大筋においでわれわれが予期しているようなプラズ

マが発生していることを確認して後,目的とするプラズ》診断に向うことが六切である。

 さてもとに返って(b)φ場合には帰線回路φ卑けてセ・る部分があまり大きくないのでプラズマの巨視的

挙動は帰線回路が完全な円筒状の場合と変らないと判断された。そしてこの場合B方向から観測すると放電

管内部は帰線回路にさえぎられることがないので光学観測に便利である。前記の実験は帰線回路がどの程度

の欠けまでが許されるかを明らかにし,以下に述べる実験に循えた予備実験である。さて,zピンチの現象

は両端の電極付近を除けば放電管の長さ方向,すなわちz方向に対しては一様であると考えられるので,放

囎を輪励にするよう騙         ブィルム5mmのスリ、ットを設けとの’

スリットを単る光の豫の時間、

変化を観測しプラズマの挙動

が明らかにされた。図7に示     、 .         R=iOOcm

したのは回転鏡方式の撮影装

置で,鏡が図示した位置にあ

るときはスリットからの光は                     、

矢印に従って進み,フィルム

面上紙面に垂直方向にスリッ

トの像ができる。鏡が回転す

るとスリットの豫はフィルム

の長さ方向に動くので,フィ

ルムを現像するとフィルムの

長さ方向が時間,幅の方向が

放電管径方向に対応する像が

得られる。このような写真を

朴リrク写真という・図8

は窒素ガス100㎡rorrをつ

めて40kVに充電した80μF

の,コンデンサーバンクの放

電電流によるzピンチ放電の

ンヤッター

   レンズ

回転鏡

最大毎分 20,000回転

しぼり

図7.回転鏡型高速ストリーク写真撮影装置の模式図。

一lOμS図8.zピンチ放電の高速ストリーク写真。放電条件

  窒素ガス100m Torr。

80μF, 40kV,

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講 座 1・プラズマ診断の起源 石村勉

ストリーク写真である。重水素ガスのzピンチ放電のストリーク写真も得られているが不鮮明でわかりにく

いのでζこで実例として示すこζはさしびかえた。昏て・、ここに示した2つの写真は同一の放電条件での放

電状況を写真撮影の条件を変えて全体像,発光強度の強い部分のみが強調された嫁を得たもので,それぞれ

上および下の写真に対応する。左端の扇状の像は放電初期に放電管壁付近に存在してい洋プラズマ円筒が収

縮し,約2μsで中、ら軸上に達したことを示している。そのとき放電管全体が強く発光しているが,これは

プラズマが中心軸上に達したとき運動エネルギーが熱エネルギーに変り高温プラズマが発生して,それから

発せ,られる真空紫外線,X線が管壁に衝突して蛍光を発しているものと推測される。その後2回目ピンチが

発生しているようであるが,何れにサよプラズマ柱の寿命は20~30μsでありプラぢマ柱が平衡を保って

相当時間持続するということは起ζらなかった。zピンチ型の平衡配位は磁気流体ヵ学の理論によると不安

定であること炉知られていて,この不安定によるプラズマの崩壊は不可避ではあるσ・ただし実験の立場から

みると,zピンチ型放電ではプラズマ柱はその側面は放電管壁から離れているが,両端は電極に接している

ので電極へのエネルギーの流出などで,超高温プラズマが長寿命であることは期待されていなかった。きら

に放電電流は.ヒ記の窒素ガスを用いた場合を例

にとって図9に示したように減衰振動型であり,

半周期ごとに電流が0となり,そのため閉じ込

めに必要な磁界も0となる。その瞬間は力のつ

り合いは保たれないわけであるから,プラズマ

保持をこのような振動電流による磁界で行うこ

とは無理がある。当時の状況としてはむしろ大

電流放電に成功し,zピンチによって超高温プ

ラズマを発生きせることができたことが大きく

評価きれた。図9に示きれた電流波形の第1半

周期のピーク値は玄0〉qO6Aで・このような

大電流を発生させるこど信容易なことではなか

った。

 ここで,大電流発生技術に関連して,大電流

測定法について述べよう。何分にも電流値が非

常に大きいので,直接電流測定用計器を回路に

直列に組み込む方法や,分流路を設けて測定す

る方法を適用するのは非常に困難である。1そこ

で電流の作る磁界を測定して間接的に電流を測

る方法が有力となる。図10に示したように一巻

、図9.zピンチ放電の電流波形。輝点はタィム・

   マークでその間隔は10μS,第1半波の

                  ピークにおける電流値は1.O×l O Aで

   ある。放電条件:80μF,40kV,

   窒素ガス100mTorr。

5

V

8

図10・磁気プ[コーブの模式図

47,

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核融合研究 第52巻第1号  1984年7月

きのコイルが磁界中にあると,ファラデーの電磁誘導の法則によりその両端に誘導される起電力yはコ

イルと鎖交する磁東をσとして

     dφ  V=一一                                   (28)

     dt

によって与えられる。コイルの大きさが小でコイル内で磁束密度Bが一様とみなしてよいとして

  φ=B・S=BS                      (29)          Sとなる。ここで8はコイルの囲む面積を示すベクトルで,βsは磁束密度のS方向の成分である。この

ようなコイルは磁気プローブと名付けられていて,核融合プラズマ実験装置に多数とりつけて各場所場所

における磁界の変動状況を監視するのがならわしとなっている。ある特定の場所でもSの方向が鈎ッ,

zの3方向を向いた3つのコィルをとりつけておけば磁東密度の3つの方向の成分が測定できる。この

ように磁気プローブは便利なものであるが,その                             1欠点は酵曜方酌哩聯して損U定を行う

こと鯵神礎嫡糖織め笹嚇   ,C場命綿暦可能鰍で殉きて・1・望の砺ズ戸ブ岬1嘩流を灘定す   II6の

瞬考概騨画脚鎖 .報鵠交す碑c鰭鍬アン吻瀬瞬り  /・蹴プローブ

嘆H・d嘆曜・(3・) 図11.ロオフスキー.コィ鵬理吼

が成り立つ。ここで∬は礁界,d4は線要素,

E4は磁界のd4方向の成分である。もちろん

.8とHは                           ’   、

  B;μoH        (31)

の関係で結ばれている。ここでμoは真空の透磁率である。そこで曲

膿織懸纏『四鹸 「Vt一一誰Cμ・H6Snd4一一μ・Snヨτ (132)

                               図12.ロゴフスキー・となる。したがって巧を計測すると曲線Cと鎖交する電流1が求め     コイ項の模式図。

られる。実用上はたわみやすい絶縁物の細い管に導線を巻きつけて

図12に示すように外観がヒーターのニクロム線のような形にしたも

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講座 1.プラズマ診断の起源 石村勉

のを用い,これをロゴフスキー・コイルと称している。

ただしこのようにすると導線は円形でなくらせん形に

巻かれているので導線と鎖交する磁束の計算を単純に

(29)式を用いて行ってもよいか否かが問題となる。

そこで図13の導線PQRが円管に巻きつけられた導線

の1巻きに相当するとしてPおよびRから円管の軸に

下した垂線の足をそれぞれT,Sとし,閉じた径路

PQRSTPに囲まれた面を通過する磁束σノを求め

てみよう。ただしこの付近では磁束密度Bは一定とみ

なし得るものとする。このとき

・ノーB・∫PQRSTPdS (33)

R 、 、

ba

P

S

、、

、竃『¥

、¥

C

    e  d   、 、T      、

図13.らせん巻線と鎖交する磁束。

Q

P,

であるがd,Sは面積要素a b c dに相当し,これは面積要素a e dと面積要素αb c eとのベクトル和であ

る。直観的にはらせん階段を想像されればよい。面積要素ae dをらせん階段の1回りにわたって加え合せ

ると円管の断面PP’の面積に等しくなる。面積ベクトルとしての方向も管軸方向である。一方,面積要素

a b c eはどの階段でも大きさが等しく,一段上がるごとに方向が一定角度だけ変る。そこでこれはらせん

階段の1回りにわたって加え合せると0となる。そこで(33)式の右辺g面積積分は円形断面PP’の面積

要素に等しく,したがってそれを通過する磁東も等しい。そこで,径路PQRSTP lこ誘導さ’れる起電力は

円形コイルPP/Pに誘導される起電力ypp/pに等しい。前者は

  Vp QRSTP=V pQR十VR S十VST十VTP   ・                     (34)

と書かれるが右辺第2項と第4項は相殺するので

  VpQR+VST=VpP/P            (35)となる。そこでロゴフスキー・コイル全体での起電力としては,図12に示したように円管の中心軸にそっ

た戻りの導線を設けておけば多数の円形コイル磁気プローブに誘導きれた起電力の合成されたものと同じ起

電力を得ることができる。なお,実際ロゴフスキー・コイルの使用にあたっては静電シールドを施し雑音を

除去するなど正確に信号を得ることにつとめている。電流測定に限らず,各種の測定は大電流放電にともな

う雑音の除去が実際上非常に重要な仕事である。正確な信号を得ることができるならば予期したこと以外に

もいろいろのことがわかる。ここで再び図g庭注自しよう。この電流波形は大まかにいえば減衰振動波形を

示しているといえるが,詳しくみると第1のピークの少し前の部分がやや変形している。これはzピンチの

際のプラズマの放電管軸への収束運動に対応している。zピンチ途上のプラズマ円筒と放電管外部の円筒導

帰線回路をあわせて考えるとこれはみかけ上同軸ケーブルと同じ構造をもっている。そこで放電管長を

4,プラズマ円筒半径召,帰線回路半径を汐とすると放電管部の自己インダクタンス五はMKS単位を用びて

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核融合研究 第52巻第1号 1984年7月

       _7    b  L=2×10  4 109一                                             (36)

            a

によって与えられる。zピンチの遍程ではσが時間的に変化し,したがってLも時間的に変化する。そこで

電流電圧の関係を表わす微分方程式も時間を複雑な形で含んだ方程式となり,典型的な減衰振動の解とは異

なった解を持つのである。一見何でもない様な電流波形も注意深く観察するとプラズマ中に起る現象を反映

していることがわかり興味深いものとなる。

 さて,プラズマの巨視的な挙動の写真撮影やプラズマ電流の測定などはわざわぎプラズマ診断法としてと

り上げるにはあまりにもありふれた技術で,いわばわれわれの生活における水と空気のような、ものだともい

える。しかし,よく考えると水と笙気はわれわれの生活において最も大切なものであるように,上記の技術

はプラズマの実験研究の基礎をなす不可欠の技術となっている。さらに最近では光電変換技術,デ』ター処

理技術などが応用きれて,これら基礎技術も内容が著しく洗練され高級な技術に転化しつつある。それと同

時に測定装置もはなはだ高価なものとなり,技術の進歩の恩恵を享受できる研究者が一部の人々に限られた

ものになるのではないかと危ぶまれる。

 話を再びもとに戻して,基礎的測定が一応終了すればプラズマの温度,密度の測定に向うのが現代の常識

であるが,当時は必ずしもそう考えられた訳ではない。もっともzピンチではプラズマ円筒の収縮速度をス

トリーク写真から読みとり,その運動エネルギーがピンチ直後に熱エネルギーとなったとするとその温度が

推定できる。20μFのコンデンサー・バンクを85kVに充電し,その放電電流を100mTorrの重水素ガ

スをつめた放電管に流したときのピンチしたプラズマの温度はこのような推測によると200万度K以上であ

った。また陽極からは強い硬X線が放射されることから高速度の電子が発生していることが想豫された。そ

れはともかくとして当時の研究者仲間では核融合は近い将来に実用段階に達すると考えられていた。そこで

その可能性を実証するにはとりあえず核融合反応

  D十D→He3十 n                                         (37)

によって発生する中性子nを検出するこ,ξであるとされ,その検出に多大の努力が払われた。この実験で中

性子の検出に用いられた方法は,まず(37)式で与えられる反応によって発生した2.45MeVのエネルギ

ーの中性子を厚さ約10cmのパラフインで減衰して熱中性子とし,これを銀板に吸収させて発生する銀の放

射性同位元素Aglloから放射きれるβ線をシンチレーション・カウンターによって計数し,Ra-Beの標

準中性子源を利用して実験値を較正した結果,1回の放電によって106~107ケの中性子が発生していると

された。なお,この標準中性子源は放射性のRa226からのα粒子がBeと反応して中性子を発生することを

利用したもので,この実験に用いられた中性子源は毎秒106ケの中性子を発生するものであった。 さて,

このニュースはニューヨークタイムス紙に報道されたことからもわかるように当時大きなセンセーションを

ひき起こレた。楽観論者はこの実験によって制御核融合の科学的基礎概念が実証されたと考えたが,この意

見が大勢を占めるには至らなかった・プラズマ中に発生する不安定にともなう電界によってプラズマ中の重

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講座 L プラズマ診断の起源 石村勉

水素イオン、が加速され放電管壁に重水として吸着されている重水素原子と衝突して核融合反応を起し中性子が発

生する機構も考えら祁る・観測された中性子がこのような機構によって発生したものでないことを理論的に

説明することも実験的に検証することも当時においては不可能であった。また逆に観測された中性子の発生

数がプラズマ中での核満合反応によるものと考えて妥当であるかどうかについては,プラズマの温度,密度

の測定を行う手段の乏しかった当時としてはプラズマパラメータrの実験値に基づいて定量的議論を行うご

とはできなかった。そこで議論は次第に科学的色彩を帯びたものから政治的色彩を帯びたものに変容し,そ

の結果このzピンチ実験は中止せざるを得ないという不幸客結果を招いた。当事者がもっと冷静に対処すれ

ばよかったのではないかとの批判もあり得るが,当時わが国の各主要重電メーカーが核融合実験装置を自社

内に設置し実験を始融たFとから推察される様!こ核融合発電は時間の聞題だと考えに人が数多くいて主導権

争いを行っていた状況の下では冷静に事態を見直す余裕などないというのが実情であった。しかし数年後,

人々は冷静にならざるを得なかった。世界各国の主要な核融合実験装置でプラズマの不安牢g抑止が困難で

あることが次第に判明し,核融合発電の夢ははるか遠くに去ってしまったのである。理論,実験両面共にプ

ラズマ中に起る諸現象の詳細を解明することの重要性が認識きれ,核融合の研究は見かを変えればこの時点

において輔牒ったといえよ,う・⑩頃からプラズマ診断の専門家も登場しはじ耽のである・

 プラズマ診断の専門家は例えば前記の中性子測定の専門家であるど共に他の測定法にも精通している必要

があり,さらに各種測定を総合して検討を行い実験装置内で発生しているプラズマについて診断を下さねば

ならない立場にある。特に得られたプラズマパラメーターの値などが常識に照して異常な場合,例えぱイオ

ン温度の測定値が異常に高い場合などには再検討を行い,他の測定法によるクロスチェックを行うと共に,

その様な事実が起り得るか否かという理論的解明も同時に行わねばならない。その様な過程を経て初めて測

定値が信頼できることがわかり同時に新しい現象の発見につながる契機ともなるのである。また,不用意に

行われた測定によって異常な値を得たのではないかと思われる研究発表を見聞した場合に卒直に警告を発す

るのもプラズマ診断の専門家の任務である。多くの場合,これらの値は不勉強のため測定法を正しく適用し

なかった結果得られたもので,適切な忠告は大いに感謝されるものである。しかし場合によっては問題がこ

じれることも覚悟しておかねばならない。立派な実験結果に対して何を言うか,という様な態度をとる人も

ある。そのようなやりとりは第三者からみると単なる口論に過ぎないようにもみえる。水かけ論に終らせな

いためには示されたデーターを得るために使用したもとのデーターの提出を求めるのが適切である。だんだ

んと上流にきかのぼると,不適当な処理が行われた場所があればそれが判明し,それが最終結果にどのよう

に影響しているか指摘することができる。要するに直接に得られた実験データーから出発して議論を重ねれ

ば共通の認識に達することも可’能であろう。特にその実験データーの解釈がその実験研究プロジェクトの運

命を左右するような場合議論が事実の解明を目標として進められねばならないと痛感する。このような実験

内容に深く立ち入った議論を行うには実験データーを得るために用いた測定法にしても単にその測定原理を

知っているだけでは不十分で,どのような測定器はどのようにして較正するか,どのようなプラズマが測定

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核融合研究 第52巻第1号  1984年7月

対象であるときはどのような雑音に惑わされやすいか,もとの生データーの誤差がどの位であると最終的に

は得られたプラズマパラメーターの値の誤差はどの位1こなるか,などの豊富な実戦上の知識が必要である。

幸にしてこの講座を執筆の諸先生は優れた学力と豊富な体験をお持ちの方々ばかりであり,具体例を提示し

てプラズマ診断の理論と実際について御教示頂くものと期待している。そこで初学者の方々もこの講座を精

読して頂けばプラズマ診断についての実地に役立つ知識が得られるものと信ずる。

参 考 文 献

1) 1.Langmuir and L.Tonks: G.E.Review27(1924)449,538,616,762,810.

琴) F.F.Chen: Plαs伽α1)∫α8ηos面c Techη」¢鶴e5,ed.R.H.Hud41esto皿e a,n{l S。L。Leonard

  (Academic Pre忌s,New York,1965)Chaわ.4.

3) L.Schott:PJαs勉α1)∫αgηo鋭cs,ed.W.Lochte・Holtgreven,North・Holla皿d,Amsterdam,

  (1968)Chap』11.

4) K.Nishiguchi et al.: Tech.Reports Osaka Univ.10(1960)423,593.

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