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IBM Software Vison 2012 Summer

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Page 1: IBM Software Vison 2012 Summer
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PART 1 オーバービューで理解を深める 0 4 21世紀型情報システムの実現に向けて 今、我々が取り組むべきこと ポートフォリオ最新像 0 6 SOAからライフサイクル管理まで競争優位を導く製品を網羅 企業買収の経緯 10 1+1が「3」になる戦略的買収で課題解決に残されたピースを埋める ソフトウェア事業トップ対談 1 4 企業が直面している新たな課題を新世代ミドルウェアで解決する

PART 2 新潮流の波頭に立つ製品群16 “インテリジェンス”の実装で ソフトウェアは次のステージへ ビッグデータ 18 情報分析力=経営力となる時代への解答変化を味方にする分析基盤を構築する ビジネス・アナリティクス 22 経営者のためのBIから、全てのビジネス・ユーザーのためのアナリティクスへ ソーシャルビジネス 26 ソーシャルは第5の技術革新、真のコラボレーション基盤を支える セキュリティー 30 セキュリティー・フレームワークの実像 ひと、データ、アプリ、インフラのリスクに対処

PART 3 機動力を支えるコンピューティング基盤34 最新ITを取り込んで 価値創造の武器に クラウド・コンピューティング 36 ビジネスとITのギャップを解消するエンタープライズ・クラウド モバイル・コンピューティング 40 企業システムがモバイル対応する際に必要な考慮点とソリューション Dev Ops 44 開発と運用の新しい関係「DevOps」 その背景と意義を探る

C O N T E N T S

ビジネス実行環境と ITインフラストラクチャー

IT戦略ビジネス戦略

ITアーキテクチャー

還移計画

ビジネス・アーキテクチャー

・アプリケーション・データ・テクニカル

・プロセス・情報・人・拠点

ITソリューション

Application Architecture(適用処理体系)

Data Architecture(データ体系)

Technology Architecture(技術体系)

Management Process Principle Standards

 Vitality Process(EAの活用・維持する仕組み)

Business Architecture(ビジネス体系)

テクノロジー動向ビジネス機会

戦略

計画

設計と導入

Ente

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ide

focu

sPr

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t fo

cus

体系化

Page 5: IBM Software Vison 2012 Summer

│ IBM Software Vision 2012 summer │ 3

PART 1 : [オーバービューで理解を深める] 21世紀型情報システムの実現に向けた取り組み - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - p4PART 2 : [新潮流の波頭に立つ製品群] 「インテリジェンス」実装で次なるステージへ - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - p16PART 3 : [機動力を支えるコンピューティング基盤] 最新ITを取り込んで価値創造の武器に - - - - - - - - - - - - - - - - - - - p34

C O N T E N T S

IBMのソフトウェアから探る

次世代企業情報シ ス テ ム 像

弾力性に富んだシステム基盤の整備、データの高度な利活用の推進、人や組織のコラボレーションの支援、そしてシステムライフサイクル全般の一貫したサステナビリティの担保…。こららの具現化に向けて、IBMはソフトウェアの製品ポートフォリオを拡充している。全体の構成や、注目すべきプロダクトの特徴を解説する。

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の主体性が求められる。だが、ここで1つの問題が生じる。20

世紀型のパラダイムで構築され、運用中のシステムが現実に存在する。いかにして、それを21世紀型に進化させるのか。そもそも21世紀型のシステムとはどんな具体像なのか、といったことだ。

21世紀型に必要な要件とは?

後者について考えよう。21世紀型システムが満たすべき要件は多い。グローバル展開を考えると、24時間稼働、縮退性や拡張性の高さ、多言語多通貨対応、データやアプリケーションの一貫性、多様な従業員にとっての使いやすさ、堅牢なセキュリティー、ローコストであること、など。一部を除けば国内だけの企業にも通用する要件だろう。

変化対応力も重要な要件。経営や事業が求めるスピードでシステムを改変、必要な機能を追加できる柔軟性、法制度や各種規制への追従などである。スピードと費用を考え合わせると、パッケージやSaaSの活用、オフショア開発の進化、アジャイル型の開発プロセスなどを大胆に取り込むことは、マストと言える。さらにモバイル、クラウド、ソーシャル、ビッグデータ、M2M(マシン・ツー・マシン)といった新しい ITの取り込み

メインフレームからクライアント

サーバー、Webシステムへ。あるいは手組みからパッケージ利用、部分的にSaaSの利用へ─。この四半世紀の間、企業情報システムは個別システムの追加や改修を重ねてきた。使える/使われるシステムはそのまま残し、必要に応じて新システムを“増築”する繰り返しである。その間、IT全体の構造も、アプリケーションやデータの構造も、見直すきっかけがなかった。

結果、企業内には開発年代の異なる複数のシステムが混在。運用の手間やコストは徐々に、だが確実に増した。どこかに追加や変更を加えたときの影響範囲を見極めるのも難しくなった。

20世紀型VS21世紀型

それでも、これまでは何とかなっていた。システム間のデータ連携は手組み、あるいはEAIツールを利用。UIはバラバラだが、そこは使い手に慣れてもらう。マスターデータの不整合も利用部門に委ねる。ある意味、行き当たりばったりの対策だが、根本的な対策は時間も費用もリスクも過大だ。なんとかしのぐしかなかった。いささか極論に過ぎるストーリーだが、“当たらずといえども遠からず”ではないだろうか。

今、パラダイムは完全に変わった。表1を見て頂きたい。過去のパラダイムを「20世紀型」、今後のそれを「21世紀型」として、違いを対称的に示したものである。グローバル化の進展や情報技術の飛躍的進化に伴い、例えば企業の競争相手は国内の同業他社から海外の有力企業や異業種の企業に変わった。社員と企業の関係(雇用環境)もそうだ。多くの国や業種で、優秀な人材を世界中から募ることが当たり前になりつつある。

情報システムの役割も、「合理化・省力化」から「事業貢献・価値提供」へと変わった。システムそれ自体がROI

(Return on Investment:投資収益率)を生み出す分かりやすい時代は終わり、事業モデルと一体になった利活用こそが価値を生む。今やシステムはノンコアではなく、多くの企業にとってコア事業を支える不可欠な要素=“価値創出の源泉”の1つになっている。

必然的に、システムを取り巻く多くのことも変化する。事業の海外展開や経営統合、事業分離において、システムの問題が足を引っ張るようではお話にならない。インテグレータや製品ベンダーの協力を得ながら、企業自らがシステムを進化させる必要がある。スピードが何よりも重視される今日においては、システムの取り組みに対する企業

4 │ IBM Software Vision 2012 summer │

21世紀型情報システムの実現に向けて今、我々が取り組むべきこと

総   論

O r g a n i z i n g P r o d u c t P o r t f o l i o s

G u e s t E d i t o r 田口 潤インプレスビジネスメディア I T L e a d e r s 編集長

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表 1 20世紀型と21世紀型の違い 20 世紀と21世紀では、グローバル化、インターネットを中心とする情報技術の進化などにより、顧客と企業の関係、社員と企業の関係などあらゆる事柄が変化している

項目 20世紀型 21世紀型

社会 /経済 /経営

社会風土 結果平等、リスク排除,強い規制 自己責任、リスク受容、機会均等

経営環境 ・競争相手は国内の同業他社同士・高品質な製品やサービスを低価格で提供することが競争の決め手

・競争相手は海外の有力企業・従来にない斬新な製品やサービスを提供し続けることが生き残りの鍵

企業形態 事業モデル、ビジネスモデルの改善 企業モデル、社会モデルの変革

雇用環境 右肩上がりの市場の中で、新卒中心の採用、終身雇用・年功制などを維持

グローバル競争の中で、本当の成果主義が浸透。優秀な人材を世界中から募る。多様性

組織形態 縦割りの階層型 ネットワーク型、プロジェクト型

情報システム

経営における情報システムの役割

業務の合理化、省力化、効率化社員には定型業務の効率化

ビジネス・事業への貢献、価値提供社員には非定型業務の増力化

ユーザー企業の姿勢 戦略策定・企画・予算管理に特化。「餅は餅屋に」でベンダーに委ねる

自らの責任で企画から開発、運用、保守までを実施。ベンダーは能力のあるところを選んで使いこなす

システムインテグレータの姿勢

ユーザー企業の指示を待ち、忠実にこなす。どんな要求、IT関連業務でも幅広く受託できる

得意分野を持ち、その分野では他に負けない技術力を持つ。不合理なユーザー企業の指示は拒否することもある

システム構築の方針 個別最適。業務にシステム機能を合わせる (オーダーメイド)。あるいはシステム機能に合わせて業務要求を削減する

全体最適(グランドデザイン重視)。個別システムではなく、業務プロセス指向。レディメイドの製品やサービスを駆使し、開発で不足機能を充足

開発手法 ウォータフォール型 アジャイル型、マッシュアップ

システム化手段 手組み、パッケージ クラウド、コンシューマリゼーション

情報システムの特性 Reliability(信頼性 ),Availability(可用性 ),Serviceability(保守性 ,サービス性 )を重視

低コスト、変化への対応力 (柔軟性)、稼働までの期間の短さ、使いやすさを重視

ITが提供するもの 個々の業務を支援するシステム機能 データや情報、他とのコミュニケーション

情報システムの価値 優れた I T基盤とアプリケーション インタンジブル・アセット(企業文化、組織風土)

もある。少し詳細に見ると、ユーザーインタフェースではマルチデバイスや

HTML5対応、ユニファイド・コミュニケーション、アプリケーションではオンメモリー処理やクラウド連携、ミドルウェアではNoSQLデータベースの活用などだ。ビッグデータの延長線上にある「機械学習」への取り組みも、業種によっては必然になるかも知れない。

IBMソフトウェアから学ぶ

それでは、これらを満たし得るシステムはどんな構造でどのような要素を備え、現行の情報システムをその姿に近づけるにはどんな道筋があるのだろうか?この問に対する明解な解は存在しないが、ヒントはある。それが本書のメインテーマであるIBMのソフトウェ

ア製品(ソリューション)だ。ハードウェアメーカーだったIBMは

90年代半ばにソフト/サービスに大きく舵を切り、2000年代半ば以降、そのペースを加速。買収などによって拡充してきたソフトウェア製品のポートフォリオは、IT企業の中でも突出した存在になった。この間、やみくもに儲かりそうな製品、

売れそうな製品を持つベンダーを買収してきたわけではなく、むしろ企業ITが実現するべきアーキテクチャー、備えるべき要件や機能を慎重に見極め、それに適合する製品を持つベンダーを選んで買収してきたように思える。それを証明することは難しいが、強

力な競争相手がいる中でIBMが高い収益を維持していること、2012年1月に社長に就任したバージニア・ロメッティ

CEOが株主向けの年次報告書で「2015年に向けた成長の牽引役はソフトウェア。1株利益に占める割合はほぼ半分に達する」と述べていることなどが傍証になる。顧客企業の信任を得ており、株主にアピールするほどソフトウェア事業に自信を持っているからだ。もし、この見方が正しければ IBMのソフトウェア製品のポートフォリオから何かを学べるはずであり、本書はその前提で企画・編集・執筆されている。なおIBMのソフトウェア製品や戦略を知ることとそれを採用することは別次元の話である。加えて上記のことはIBMだけではなく、ほかのIT製品ベンダーにも同じことが言える。さらにIBMの製品開発や買収がすべて成功しているはずもない。どれも言うまでもないことだが、あえて付記しておきたい。

オーバービューで理解を深める

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 5

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図 1 IBM のソフトウェア製品群がカバーする領域

アプリケーション・サーバー /データベース (実行基盤)

センサーモバイルデバイスポータルセキュリティー/運用保守/資産管理

アプリケーション開発・管理

マーケ

ティング

リスク管理

物流

生産

販売

顧客

会計

人事

財務

データ統合 /マスターデータ管理(データ統合基盤)

ESB/EAI/MQ/ファイル転送(システム連携基盤)

業務アプリケーション

ビジネスプロセス管理、ビジネスルール管理

コラボレーション

ビジネス分析

eコマース

製品を利用したアプリを指す。それらを取り囲む形で、IBMのソフトウェア製品が存在する。

IBMが描く次世代システムの“絵”

そのカバー領域は大きく4つに分類できる。1つは開発年代や利用技術の異なる業務アプリケーションを連携させ、組み合わせ、そして新たなアプリケーションを構成するためのミドルウェア群である。端的に言えば、SOA(サービス指向アーキテクチャー)とDI(データ統合)を実現するための製品であり、上記の二律背反を解消する鍵を握るものと言っていい。

2番めがBI(ビジネス・インテリジェンス)/DWH(データウェアハウス)などのビジネス分析やコラボレーションといったビジネスパーソンの戦力強化の製品群、eコマース、マーケティング自動化といった企業の競争力強化の製品群、あるいはGRC(ガバナンス、リスク管理)といった企業を守る製品群だ。IBMが最近、特に強化を図っている領域である。

企業ITは自然体で複雑化を増している。無策では複雑化を

止めることはできない。そして複雑化は事業基盤としてもっとも重要な変化対応力を損なう。システムの複雑限界を意識し、少しでもシンプルにする方策に知恵を使わなければならない」。IT Leaders 2011年10月号で、企業情報システムに詳しい札幌スパークルの桑原里恵氏は、こう述べた。少し難解な表現だが、本冊子の読者なら、このコメントの重要性を痛いほど感じられるだろう。このことは IBMのようなIT製品/サービスのベンダーから見ても同じだ。

つまりIBMのソフトウェア製品ポートフォリオは、「高度なシステム機能や企業の個性の実現とシンプルさ」という、二律背反を解く方向に構成されていなければならない。そうでなければ顧客企業の離反を招き、IT企業としての地位低下に直結するからである。ではIBMは次世代の情報システム

について、どんな“絵”を描いているのか。同社が強化している領域を整理してマッピングした図1を見て頂きたい。この図の「業務アプリケーション」は、企業がスクラッチで開発したアプリや、SAPやオラクルなどの業務パッケージ

6 │ IBM Software Vision 2012 summer │

O r g a n i z i n g P r o d u c t P o r t f o l i o s

中核である業務システムの柔軟性向上、データや情報の活用力強化、人や組織のコ

ラボレーション支援、あるいはシステムライフサイクルを一貫したサステナビリティの

担保…。これらを実現するにはどんなソフトウエアが必要か。その観点で I B Mのソフ

トウェア製品ポートフォリオを見る。

IBMソフトウェアのポートフォリオSOAからライフサイクル管理まで網羅

ポ ートフォリオ 最 新 像

渡辺隆日本アイ・ビー・エムソフトウェア事業ソフトウェアマーケティングミドルウェア&ソリューション部長

G u e s t E d i t o r

田口 潤インプレスビジネスメディア I T L e a d e r s 編集長

Page 9: IBM Software Vison 2012 Summer

3つめがセキュリティーや運用保守/資産管理に関わる製品群、そしてアプリケーション開発と管理に関わる製品群が4番めである。

次に①基幹系情報システム、②ビジネス・アナリティクスとオプティマイゼーション、③コラボレーション、④システムライフサイクルのサポート、という軸に沿ってより具体的に見ていく。

①基幹系情報システム

企業における業務システム、言い換えればトランザクション処理を支援する製品群である。SOAを実現するためのESB(企業サービス・バス)などシステム連携を司る複数の製品と、DIのためのDBMSやMDM(マスターデータ管理)、そしてサービス化したシステム機能を連携させるビジネスプロセス製品、ビジネスルール管理製品などが含まれる。

既存のシステムを最小限の変更で活用しながら、変化対応力を向上させる製品群と言える。もっともSOAやDIだけでは、変化対応というには不十分。クラウドへの対応が求められるからだ。そこで最近になってプライベートクラウドのための「Workload Deployer」、パブリッククラウド連携をサポートする「WebSphere CastIron」といった製品を用意した。

eコマースを実現する「WebSphere Commerce」や Sterling Commerce製品群も、業務システムの進化の方向を示している。ブランド力を持つ欧米の企業では外部のECサイトに商品を供給するのではなく、自らECサイトを構築。直接、消費者や顧客とのリレーションを築く動きが顕在化しているといわれている。

②ビジネス・アナリティクスと

オプティマイゼーション

2008年以降、相次ぐ買収でポートフォリオを充実させているのがこの製品群だ。ビジネス・アナリティクス用の「Cognos」、統計解析やマイニング用途の「SPSS」、さらにDWHアプライアンスの「Netezza」も加わった。これ以外にもECなどの分析ツールがある。

昨年後半から日本でも大きな関心事になったビッグデータ関連のソリューションもぬかりない。「InfoSphere Big Insights」はテキストや音声など非構造データを蓄積、一括分析するソフト。IBM版のHadoop実装である。大量データをリアルタイム処理する「InfoS-phere Streams」、インメモリーDBの「solidDB」もある。

③コラボレーション

コラボレーション支援のためのIBMの製品といえば、1995年に買収したLotusの製品が知られる。主力である「Notes/Domino」は、電子掲示板や電子メール以外にアプリを開発/実行する機能を備え、大手企業中心に使われてきた。現在もそのポジションは変わらず、内部アーキテクチャーをクライアントサーバー型からWebコンピューティング型へと変換しつつ、システムのカバーする機能を拡大している。

例えば派生製品の1つ、IBM Same-time(旧Lotus Sametime)はチャットやWeb会議、テキスト/音声/ビデオのユニファイド・コミュニケーションを行う基盤ツール。IBM Connectionsは社員、取引先、顧客などビジネス向けのソーシャル・ソフトで、ブログ、ファイル共有、コミュニティの活動サポートを、セキュアな形で実行できる。

④システムライフサイクルのサポート

システム開発から管理・運用、セキュリティー、監査などを担う。企業情報システム全体にガバナンスを効かせ、業務のサステナビリティ(持続可能性)を担保する製品群と言える。システム運用管理で知られる「Tivoli」、開発ライフサイクル管理、開発ツールの「Ra-tional」がここに分類される。

図には示していないが、Tivoliを例にすると仮想化環境関連ツールだけでも、サービスと物理環境の関係を可視化する「Tivoli Application Depen-dency Discovery Manager」、サービスの可用性と性能を見る「Tivoli Business Service Manager」、プロビジョニングの「Tivoli Provisioning Manager」、ポリシーに従って自動運用する「Tivoli System Automation」など、10以上の製品があるほど多彩だ。IT資産だけでなく、非IT資産も含めてサービス管理や契約管理、調達管理を行うための「Maximo Asset Man-agement」もここに分類される。

ソフトウェアの可能性は広大

次世代システム像とその構成要素を、IBMのソフトウェア製品を参照しながら見てきた。ITベンダーであるIBMのそれは様々な業種、規模の企業に必要なソフトウェアの ”和集合”である。個々の企業の立場から見れば ”部分集合”で十分なのだが、そうだとしてもまだソフトウェア化されていない業務はたくさんあるのではないだろうか。「ビジネス・シーンにおいてソフトウェアを活用できる、あるいは活用すべき領域は広大に残されている」──。このことを感じて頂ければ幸いである。

オーバービューで理解を深める

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 7

Page 10: IBM Software Vison 2012 Summer

アプリケーション・サーバー(実行基盤)WebSphere Application Server(アプリケーションの実行基盤)WebSphere eXtreme Scale(分散オブジェクト・キャッシュ機能)WebSphere Virtual Enterprise(アプリケーション基盤の仮想化)

ビジネスプロセス管理IBM Business Process Manager(汎用 BPMツール)IBM Blueworks Live(クラウドベースの BPMツール)

Case Manager(非定型業務の BPMツール)FileNet BPM(コンテンツ指向の BPMツール)

ビジネスルール /複合イベント処理WebSphere Operational Decision Management

(旧 ILOG Jrulesを含む、ビジネスルール管理+業務上の意思決定の自動化)

ストリームデータ処理InfoSphere Streams

(大量ストリーミング・データの高速分析)

エンタープライズ・サーチVivisimo

(非構造データの検索・分析)

インメモリー処理solidDB

(リレーショナル・インメモリー・データベース)

非構造データ分析InfoSphere BigInsights(Hadoopの IBM実装)

Content Analytics(テキスト)

シングル・サインオンEnterprise Single Signon

データベース・セキュリティーInfoSphere Guardium

要求管理Rational DOORS

製品とポートフォリオ管理Focal Point

デバイスの統合管理Endpoint Manager

サーバーの稼働管理Monitoring,

SmarterCloud Monitoring

ストレージの統合管理Storage Manager

バックアップとリカバリFastBack

データモデリングと設計InfoSphere Data Architect

モデル駆動型開発Software Architect

品質管理Quality Manager

プロジェクト可視化Rational Insight

開発アセットリポジトリAsset Manager

モバイルアプリケーション開発Worklight Studio

統合開発環境Application Developer

ビルド自動化Build Forge

テスト自動化Functional Tester(機能テスト)

Performance Tester(負荷テスト)

脆弱性検査/検出Rational AppScan

セキュリティー統合管理SiteProtector

テストデータ・マスキングOptim Data Privacy Solution

セキュリティーポリシーSecurity Policy Manager

不正侵入防御Network IPS

暗号鍵のライフサイクル管理KeyLifecycle Manager

予測分析SPSS Text Analytics for SurveysS

(テキスト)SPSS Modeler(データ)

SPSS Data Collection(データ収集)

SPSS Statistics(統計解析の基本ツール)

リスク分析OpenPages(統合リスク管理)

Algorithmics(金融リスク管理)

ビジネス・インテリジェンスCognos BI(ビジネス・アナリティクス基盤)

パフォーマンス・マネージメントCognos TM1(パフォーマンス・マネージメント基盤)

Cognos Express(部門向けビジネス・アナリティクス)Cognos Insight(パーソナル・アナリティクス)

注文、調達、倉庫管理Sterling Order Management(販売・調達のプロセス統合)

Sterling Warehouse Management(複数施設のインベントリーと生産性を管理)

サービス・リポジトリWebSphere Service Registry

and Repository

クラウド連携Cast Iron

プライベートクラウド展開Workload Deployer

PureApplication System

EコマースWebSphere Commerce(eコマース構築。実行環境。

CMS機能も備える)

マーケティングUnica

(マーケティングプロセスの自動化)Coremetircs

(デジタルマーケティングの最適化)

業務アプリケーション

 産

 売

 客

 計

 事

 務

ESB/ EAI/MQ /ファイル転送 (システム連携基盤)WebSphere MQ、WebSphere Message Broker(メッセージ連携)

WebSphere ESB(エンタープライズ・サービス・バス)WebSphere Transformation Extender(汎用のデータ変換および検証エンジン)

Connect:Direct(セキュアかつ高速のファイル転送)WebSphere DataPower(ESBのアプライアンス製品)

データ統合/マスターデータ管理InfoSphere Information Server(DataStage/QualityStage)(ETLツール)InfoSphere Master Data Management Server(マスターデータ管理ツール)

データベース/データ管理DB2、DB2 pureScale, Informix Dynamic Server(RDBMS)

solidDB(インメモリー DBMS)

ビジネス・アナリティクスとオプティマイゼーション

コラボレーション

提供Fedration Server

(異種データの仮想統合)Replication Server

(異種 DB間のデータ複製)DataEvent Publisher

(データ変更をビジネスプロセスにリンク)ChangData Capture

(異種 DB間のリアルタイム統合)

クレンジングQualityStage

理解、把握Information

Analyzer(ソースデータの分析)

Business Glossary(用語管理のための

辞書ツール)

FastTrack

変換DataStage

FastTrack

InfoSphere Information Server(データ統合)

Metadata Workbench,Metadata Server(統合メタデータ管理)

データウェアハウスInfoSphere Warehouse(データウェアハウス構築や分析ツール)

マスターデータ管理InfoSphere Master Data Management Server

構造化データの大規模並列処理Netezza(データウェアハウス・アプライアンス)

データ分析 ビッグデータ

基幹系情報システム

モバイルIBM Connectionsモバイルアプリケーションズ

イベント、サービスの管理、ビジネス影響を管理Netcool, Business Service Manager

開発プロセス管理・支援Method Composer

サービスディスク、構成、変更などクラウドの管理SmarterCloud Control Desk

クラウド環境におけるリソースのプロビジョニングSmarterCloud Provisioning

アクセス制御と ID管理Identity and Access Manager

チームのための統合開発プラットフォームTeam Concert

IT、設備資産の管理Maximo

コラボレーションLotus Notes/Domino(メール、掲示板、スケジュールなど

社内のコミュニケーション基盤)

SaaS型コラボレーションとソーシャルサービスSmarterCloud for Social Business(旧 Lotus Live、メールに依存しないファイル共有やコラボレーション、コミュニティ形成)

Webコンテンツ管理 Web Content Manager(イントラネット、エクストラネット、インターネット、ポータルの資産管理)

FileNet Content Manager Collaboration Edition(ソーシャルコンテンツ管理)

セキュリティー情報 /イベント管理 / ログ管理 QRadar

エンタープライズ・ソーシャルウェアIBM Connections

(コミュニティー、ブログなど社外を含めたビジネス・ソーシャル基盤)

情報共有Lotus Quickr

(チーム簡易ワークスペース)

ユニファイド&リアルタイム・コミュニケーションIBM Sametime(ボイス、データ、ビデオを統合するプラットフォーム)

IBM Sametime Unified Telephony(SIPベースのテレフォニー・ミドルウェア)

ポータル/ダッシュボードWebSphere Portal

システムライフサイクルのサポート

セキュリティー

システム管理、資産管理(Tivoli) システム開発(Rational)

System Architect

エンタープライズアーキテクチャの可視化

図1 日本 IBM の主要なソフトウェア製品を、4 つの適用分野別にマッピングした。IBM が考える企業情報システムの構成要素を大まかに把握できるは

8 │ IBM Software Vision 2012 summer │

O r g a n i z i n g P r o d u c t P o r t f o l i o s

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アプリケーション・サーバー(実行基盤)WebSphere Application Server(アプリケーションの実行基盤)WebSphere eXtreme Scale(分散オブジェクト・キャッシュ機能)WebSphere Virtual Enterprise(アプリケーション基盤の仮想化)

ビジネスプロセス管理IBM Business Process Manager(汎用 BPMツール)IBM Blueworks Live(クラウドベースの BPMツール)

Case Manager(非定型業務の BPMツール)FileNet BPM(コンテンツ指向の BPMツール)

ビジネスルール /複合イベント処理WebSphere Operational Decision Management

(旧 ILOG Jrulesを含む、ビジネスルール管理+業務上の意思決定の自動化)

ストリームデータ処理InfoSphere Streams

(大量ストリーミング・データの高速分析)

エンタープライズ・サーチVivisimo

(非構造データの検索・分析)

インメモリー処理solidDB

(リレーショナル・インメモリー・データベース)

非構造データ分析InfoSphere BigInsights(Hadoopの IBM実装)

Content Analytics(テキスト)

シングル・サインオンEnterprise Single Signon

データベース・セキュリティーInfoSphere Guardium

要求管理Rational DOORS

製品とポートフォリオ管理Focal Point

デバイスの統合管理Endpoint Manager

サーバーの稼働管理Monitoring,

IBM SmarterCloud Monitoring

ストレージの統合管理Storage Manager

バックアップとリカバリFastBack

データモデリングと設計InfoSphere Data Architect

モデル駆動型開発Software Architect

品質管理Quality Manager

プロジェクト可視化Rational Insight

開発アセットリポジトリAsset Manager

モバイルアプリケーション開発Worklight Studio

統合開発環境Application Developer

ビルド自動化Build Forge

テスト自動化Functional Tester(機能テスト)

Performance Tester(負荷テスト)

脆弱性検査/検出Rational AppScan

セキュリティー統合管理SiteProtector

テストデータ・マスキングOptim Data Privacy Solution

セキュリティーポリシーSecurity Policy Manager

不正侵入防御Network IPS

暗号鍵のライフサイクル管理KeyLifecycle Manager

予測分析SPSS Text Analytics for SurveysS

(テキスト)SPSS Modeler(データ)

SPSS Data Collection(データ収集)

SPSS Statistics(統計解析の基本ツール)

リスク分析OpenPages(統合リスク管理)

Algorithmics(金融リスク管理)

ビジネス・インテリジェンスCognos BI(ビジネス・アナリティクス基盤)

パフォーマンス・マネージメントCognos TM1(パフォーマンス・マネージメント基盤)

Cognos Express(部門向けビジネス・アナリティクス)Cognos Insight(パーソナル・アナリティクス)

注文、調達、倉庫管理Sterling Order Management(販売・調達のプロセス統合)

Sterling Warehouse Management(複数施設のインベントリーと生産性を管理)

サービス・リポジトリWebSphere Service Registry

and Repository

クラウド連携Cast Iron

プライベートクラウド展開Workload Deployer

PureApplication System

EコマースWebSphere Commerce(eコマース構築。実行環境。

CMS機能も備える)

マーケティングUnica

(マーケティングプロセスの自動化)Coremetircs

(デジタルマーケティングの最適化)

業務アプリケーション

 産

 売

 客

 計

 事

 務

ESB/ EAI/MQ /ファイル転送 (システム連携基盤)WebSphere MQ、WebSphere Message Broker(メッセージ連携)

WebSphere ESB(エンタープライズ・サービス・バス)WebSphere Transformation Extender(汎用のデータ変換および検証エンジン)

Connect:Direct(セキュアかつ高速のファイル転送)WebSphere DataPower(ESBのアプライアンス製品)

データ統合/マスターデータ管理InfoSphere Information Server(DataStage/QualityStage)(ETLツール)InfoSphere Master Data Management Server(マスターデータ管理ツール)

データベース/データ管理DB2、DB2 pureScale, Informix Dynamic Server(RDBMS)

solidDB(インメモリー DBMS)

ビジネス・アナリティクスとオプティマイゼーション

コラボレーション

提供Fedration Server

(異種データの仮想統合)Replication Server

(異種 DB間のデータ複製)DataEvent Publisher

(データ変更をビジネスプロセスにリンク)ChangData Capture

(異種 DB間のリアルタイム統合)

クレンジングQualityStage

理解、把握Information

Analyzer(ソースデータの分析)

Business Glossary(用語管理のための

辞書ツール)

FastTrack

変換DataStage

FastTrack

InfoSphere Information Server(データ統合)

Metadata Workbench,Metadata Server(統合メタデータ管理)

データウェアハウスInfoSphere Warehouse(データウェアハウス構築や分析ツール)

マスターデータ管理InfoSphere Master Data Management Server

構造化データの大規模並列処理Netezza(データウェアハウス・アプライアンス)

データ分析 ビッグデータ

基幹系情報システム

モバイルIBM Connectionsモバイルアプリケーションズ

イベント、サービスの管理、ビジネス影響を管理Netcool, Business Service Manager

開発プロセス管理・支援Method Composer

サービスディスク、構成、変更などクラウドの管理IBM SmarterCloud Control Desk

クラウド環境におけるリソースのプロビジョニングIBM SmarterCloud Provisioning

アクセス制御と ID管理Identity and Access Manager

チームのための統合開発プラットフォームTeam Concert

IT、設備資産の管理Maximo

コラボレーションLotus Notes/Domino(メール、掲示板、スケジュールなど

社内のコミュニケーション基盤)

SaaS型コラボレーションとソーシャルサービスIBM SmarterCloud for Social Business(旧 LotusLive、メールに依存しないファイル共有やコラボレーション、コミュニティ形成)

Webコンテンツ管理 Web Content Manager(イントラネット、エクストラネット、インターネット、ポータルの資産管理)

FileNet Content Manager Collaboration Edition(ソーシャルコンテンツ管理)

セキュリティー情報 /イベント管理 / ログ管理 QRadar

エンタープライズ・ソーシャルウェアIBM Connections

(コミュニティー、ブログなど社外を含めたビジネス・ソーシャル基盤)

情報共有Lotus Quickr

(チーム簡易ワークスペース)

ユニファイド&リアルタイム・コミュニケーションIBM Sametime(ボイス、データ、ビデオを統合するプラットフォーム)

IBM Sametime Unified Telephony(SIPベースのテレフォニー・ミドルウェア)

ポータル/ダッシュボードWebSphere Portal

システムライフサイクルのサポート

セキュリティー

システム管理、資産管理(Tivoli) システム開発(Rational)

System Architect

エンタープライズアーキテクチャの可視化

ずだ。なお、この図にマッピングしたものがIBMソフトウェア製品のすべてではなく、業務・業種に特化したものなど、ほかにも多様な製品がある

オーバービューで理解を深める

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 9

Page 12: IBM Software Vison 2012 Summer

くる。画一的な分析の域を越え、多角度からの解析と考察を重ねることで新たな「洞察」を導き出す。企業は、そのための環境整備を急いでいる。こうしたニーズに応えるため、IBMは

「Information Management」「Busi-ness Analytics」といったブランドで展開するソフトウェア製品の拡充を進め て き た。In f o rmixやF i l eNe t、DataMirrorなど、かつてから積極的な買収が目立ったこの分野だが、ここ5年ほどで見てみるとCognos(2008年)、SPSS(2009年)、Netezza(2010年)あたりが注目案件の筆頭だろう。

CognosはBI(ビジネスインテリジェンス)やパフォーマンスマネジメントの幅広い基盤を提供する業界のリーダー的存在だった。オープンスタンダードに基づく技術や、SOA(サービス指向アーキテクチャ)との親和性などを評価しIBMが買収。既存製品との連携を図りながら、カバー範囲の拡大や機能の深掘りを進めてきている。さらに統計解析やマイニングを得意としてきたSPSSの買収で予測分析を強化したり、Netezzaの買収でDWHアプライアンスというカ

企業ITの領域でビジネス展開しているメガベンダーが軒並み企

業買収に力を注いでいる。IBMも例外ではない。ソフトウェアの分野だけを見ても、2001年以降に買収した企業数は70を超える。

熾烈さを増す競争の中で、戦力を増強する有効な手段の1つとして企業買収を位置付けている点では、各社とも思惑が一致しているようだ。独自にゼロから開発する手もあるが、もし既にその分野で実績を積み始めた企業があるならば買収という手法を通じて自陣に組み込む方が、顧客企業のビジネス価値向上に迅速に応えることができるというわけだ。もっとも、もう少し踏み込んで直接

的な狙いを見てみると、案件によってスタンスが異なる場合もある。例えば、買収対象の企業が既に抱えている顧客層が魅力的に映り、それを丸ごと手中に収めるために買収を仕掛けるケースがある。他方、競合相手がある企業の買収に向けて触手を伸ばしている事実を知り、自社が不利になる状況を避けるために半ば強引に買収してしまう

ような例も少なからずある。いくつかのパターンがある中で、

IBMの買収についてはどこに力点が置かれているのか。ソフトウェア事業を統括する常務執行役員のヴィヴェック・マハジャン氏は「すべては当社が目指す製品ポートフォリオとのギャップを埋めるためであり、闇雲に買収しているわけではない」と強調する(14ページの対談を参照)。これからの企業ITに必要となる技術要素を吟味し、さらに「1+1が3になるようなシナジー効果が得られると期待できる場合に買収という手段を採っている」(同)。

以下では、ソフトウェア製品の主だった領域別に、近年の買収の系譜や、それによって強化されたポイントを見ていこう(12~13ページの図参照)。

■ 情報を「洞察」に変えるために企業が既存の複数のシステムに蓄

積しているデータ、これから本格的に扱う多種多様で新しいタイプのデータ…。こうした膨大なデータを巧く活用し、ビジネスの次の一手に生かす取り組みがこれまで以上に重要性を増して

10 │ IBM Software Vision 2012 summer │

O r g a n i z i n g P r o d u c t P o r t f o l i o s

ソフトウェアの分野で、企業買収を積極的に進めてきた IBM。すべては、理想とする

ポートフォリオを完成させる上で「足りないピースを埋める」ことに主眼がある。主な

カテゴリー別に、近年の買収の系譜を整理すると共に、その目的を概観する。

1+1が「3」になる戦略的買収で課題解決に残されたピースを埋める

最 近 の M & A の 経 緯

G u e s t E d i t o r

川上潤司インプレスビジネスメディアI T L e a d e r s 副編集長

Page 13: IBM Software Vison 2012 Summer

テゴリの先駆的製品をラインナップに加えたりして、時代の要請に応えてきた。

■ 真のコラボレーションを支えるグループウエアという市場を切り拓

いた製品の代表格がLotus Notes。開発元のLotusをIBMが買収したのは1995年のことだ。それを契機に、コラボレーション支援という企業ITに不可欠な要素を脈々と成長させてきた。

近年の買収案件は相対的に少なく見受けられるが、それにはIBM自身がR&Dに力を入れていたり、早期からラインナップ強化を図っていたりした背景がある。そうした中でも、必要に応じてエッジの利いた企業の技術や製品をポートフォリオに組み入れてきた。

Web会議サービスのWebDialogを買収し(2007年)、Lotus Sametimeの機能拡充に反映。Net Integrationを買収し(2008年)、中堅企業向けのファストスタートソリューションを追加。メッセージングソフトウェアのOut-blazeを買収し(2009年)、LotusLiveコラボレーション・スィートと統合 ─。目立ちにくい案件ではあるが、いずれも顧客ニーズに応えるための地に足の付いた買収である。

■ ビジネスの俊敏性を高める事業環境の変化やITの進化をにら

みながら、ITインフラを常に最適化させてビジネスの俊敏性を高める─。IBMは「WebSphere」ブランドの製品群を主軸に据えてソリューションを展開してきた。この領域も早期から積極的な買収を手がけてきている。近年で印象に残る案件を挙げるなら、以下のようなものがある。ビジネスルール管理システムの分野

で存在感のあったILOGを買収したのは2008年のこと。SOA/BPM(ビジネスプロセスマネジメント)をより強力かつ合理的に進める上で欠かせない技術要素を組み入れた。

2010年に買収したLombardiも、BPMに深く関わってきたベンダーだ。アジャイル志向のソフト/サービスに特徴があり、IBMのBPM関連製品の幅を広げることにつながった。

Cast Iron Systems(2010年)は複数のクラウドサービスの連携・統合が強み。企業のクラウドシフトが加速する中で、必ず出てくる課題の解決に向け、いち早く対応した格好だ。

直近では、2012年のWorklight買収が目を引く。モバイル向けのソフト開発環境を加えたことで、企業ITのエンドポイントの機動力をさらに高めることが期待できる。

■ 事業活動/保有資産の効率性追求サービスマネジメントを高度化させ

るための製品群として「Tivoli」ブランドの認知度は高い。管理対象は企業ITの枠を越え、建物やエネルギー、交通といった社会インフラまでもが視野に入っている。

資産/サービス管理に強みを持つMROを2006年に買収し、「Maximo」シリーズをTivoliファミリーに加えたのも、そうした適用範囲拡大を進める戦略に基づいている。ビル/不動産などの統合管理に秀でたTRIRIGA(2011年)を買収したのも背景は同じだ。インフラの拡大は一方ではネット

ワークの複雑化という悩ましい問題を伴う。管理の効率化は大きな課題となり、解決の一助として、ネットワーク性能管理のVallent(2006年)やネット

ワーク管理自動化のIntelliden(2010年)などを買収している。

■ 製品/サービスに革新をもたらすソフトウェアの開発ライフサイクルを効率化する取り組みも軽視できない領域である。企業ITという観点で見ればビジネス競争力を左右することにもなるし、組み込み系という側面では最終製品の性能に直結する重みを持つ。

主に「Rational」ブランドで各種ソリューションを提供しているIBMは、その機能の強化や拡充のために必要に応じて買収を手がけてきた。開発プロセスの自動化で定評のあったBuild-Forge(2006年)を傘下に収めたのはその典型だろう。そのほか、セキュリティー・コンプライアンス機能のWatch-f ire(2007年)、組み込み系の開発ライフサイクル管理のTelelogic(2008年)、ソースコード脆弱性診断のOunce Labs

(2009年)など、求めるポートフォリオに足りないピースを順次埋めてきている。

■ 業種業務の特性を究める特定の業種や業務に的を絞ったソ

フトウェア製品、つまりは「Industry Solution」についてもIBMは幅広いラインナップを揃えている。最近は、この分野を強化するための買収案件が増えている傾向にあるようだ。

例えば、ソーシャルメディアの台頭で顧客と企業との間に新しい関係が生まれている動きなどを受け、マーケティング支援にかかわる買収案件が目立つ。2010年のCoremetrics(デジタルマーケティングの最適化)やSterling Com-merce(企業間取引の統合/高度化)、Unica(マーケティングプロセスの自動化)の買収がそれを象徴している。

オーバービューで理解を深める

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 11

Page 14: IBM Software Vison 2012 Summer

「WebSphere」ブランドを中心にアプリケーション基盤やSOA/BPMのレイヤーをカバー

ビジネスの俊敏性を高める

Object Tech(1996)、OpenOrders(2000)、CrossWorlds(2001)、Holosofx(2002)、Trigo(2004)、DataPower(2005)、GlueCode(2005)、Webify(2006)

「Tivoli」ブランドを中心にサービスマネジメントを高度化。スマートシティ /スマートビルなども標榜

事業活動 /保有資産の効率性を追求

Accesiblle SW(2000)、Metamerge(2002)、Access360(2002)、Trellisoft(2002)、ThinkDynamics(2003)、Candle(2004)、Cyanea(2004)、Micromuse(2005)、Collation(2005)、Isogon(2005)、Vallent(2006)、MRO(2006)、ISS(2006)、Dorana(2006)、CIMS Lab(2006)、Rembo Tech(2006)

「Rational」ブランドを中心に開発ライフサイクル全般のイノベーションを実現

製品 /サービスに革新をもたらす

Rational(2002)、System Corp(2004)、 BuildForge(2006)、WatchFire(2007)

「Lotus」ブランドを中心に次世代のコラボレーション環境を現化

人と情報をつなげ協働を促進する

Ubique(1998)、DataBeam(1998)、Pathware(1999)、Onestone(1999)、Aptrix(2003)、Bowstreet(2005)、PureEdge(2005)、WebDialogs(2007)

「Information Management」「Business Analytics」ブランドを中心にデータ利活用を革新する

情報を「洞察」に昇華させる

IW Manager(1998)、KnowledgeX(1998)、Informix(2001)、Tarian(2002)、CrossAccess(2003)、Green Pasture(2003)、AlphaBlox(2004)、Venetica(2004)、SRD(2005)、iPhrase(2005)、DWL(2005)、Ascential(2005)、FileNet(2006)、Unicorn(2006)、LAS(2006)、DataMirror(2007)、Prinston Softech(2007)

「Industry Solution」として業種を絞った課題解決策を展開

業種に最適な環境を提供する

◆InfoDyne / 2008.04データ高速配信(金融取引市場)

◆Cognos / 2008.01BIとパフォーマンス・マネジメントのソリューション基盤

◆OpenPages / 2010.09

リスク管理 /セキュリティー対策/法令順守などの問題を「インテリジェンス」で解決※図中に着色したセキュリティー関連の買収企業の技術も適用していく

鉄壁のリスク管理を目指す

リスク・マネジメントとコンプライアンスの統合ソリューション

◆SPSS / 2009.10統計解析やデータマイニング

◆Algorithmics / 2011.09金融リスク・マネジメント・ソリューション

◆Exeros / 2009.05複数DBのデータ関係管理

◆Clarity Systems / 2010.10財務報告管理ソリューション

◆Guardium / 2009.11統計解析やデータマイニング

◆Netezza / 2010.11DWHアプライアンス

◆Initiate Systems / 2010.03データ統合(MDM)

◆Q1 Labs / 2011.10セキュリティー分析

◆Intelliden / 2010.02ネットワーク管理自動化

◆TRIRIGA / 2011.04ビル /不動産などの統合管理

◆Lombardi / 2010.01アジャイル指向 BPM

◆Cast Iron Systems / 2010.05クラウド統合

◆Outblaze / 2009.04

Webメッセージサービス

◆Coremetrics / 2010.08デジタルマーケティングの最適化

◆Sterling Commerce / 2010.08企業間取引の統合 /高度化

◆i2 / 2011.08ビッグデータ分析による犯罪防止

◆Unica / 2010.10マーケティングプロセスの自動化

◆Curam Software / 2011.12行政向け社会福祉アプリケーション

◆Emptoris / 2012.02支出監理ソリューション

◆DemandTec / 2012.02Eコマース最適化 /分析

◆Datacap / 2010.08紙文書など非構造化データの取り込み

◆PSS Systems / 2010.10データガバナンス(法務関連 eDiscovery)

◆Net Integration / 2008.02

SMB向けコラボレーション・スィート

◆AptSoft / 2008.01複合イベント処理

◆Telelogic / 2008.04組込系の開発ライフサイクル管理

◆Green Hat / 2012.01ソフトウェアテストとテスト仮想化

◆Worklight / 2012.01モバイル向けアプリ基盤

◆FilesX / 2008.04データ保護 /リカバリー

◆Encentuate / 2008.03

ID/アクセス管理

◆Ounce Labs / 2009.07ソースコード脆弱性診断

◆Big Fix / 2010.07エンドポイント管理

◆Solid Information Tech/ 2008.01インメモリー DB

◆ILOG / 2008.12ビジネスルール最適化

20122011201020092008

図 IBM は「戦略的買収」によってソフトウェア領域のポートフォリオを拡大してきた

12 │ IBM Software Vision 2012 summer │

O r g a n i z i n g P r o d u c t P o r t f o l i o s

Page 15: IBM Software Vison 2012 Summer

「WebSphere」ブランドを中心にアプリケーション基盤やSOA/BPMのレイヤーをカバー

ビジネスの俊敏性を高める

Object Tech(1996)、OpenOrders(2000)、CrossWorlds(2001)、Holosofx(2002)、Trigo(2004)、DataPower(2005)、GlueCode(2005)、Webify(2006)

「Tivoli」ブランドを中心にサービスマネジメントを高度化。スマートシティ /スマートビルなども標榜

事業活動 /保有資産の効率性を追求

Accesiblle SW(2000)、Metamerge(2002)、Access360(2002)、Trellisoft(2002)、ThinkDynamics(2003)、Candle(2004)、Cyanea(2004)、Micromuse(2005)、Collation(2005)、Isogon(2005)、Vallent(2006)、MRO(2006)、ISS(2006)、Dorana(2006)、CIMS Lab(2006)、Rembo Tech(2006)

「Rational」ブランドを中心に開発ライフサイクル全般のイノベーションを実現

製品 /サービスに革新をもたらす

Rational(2002)、System Corp(2004)、 BuildForge(2006)、WatchFire(2007)

「Lotus」ブランドを中心に次世代のコラボレーション環境を現化

人と情報をつなげ協働を促進する

Ubique(1998)、DataBeam(1998)、Pathware(1999)、Onestone(1999)、Aptrix(2003)、Bowstreet(2005)、PureEdge(2005)、WebDialogs(2007)

「Information Management」「Business Analytics」ブランドを中心にデータ利活用を革新する

情報を「洞察」に昇華させる

IW Manager(1998)、KnowledgeX(1998)、Informix(2001)、Tarian(2002)、CrossAccess(2003)、Green Pasture(2003)、AlphaBlox(2004)、Venetica(2004)、SRD(2005)、iPhrase(2005)、DWL(2005)、Ascential(2005)、FileNet(2006)、Unicorn(2006)、LAS(2006)、DataMirror(2007)、Prinston Softech(2007)

「Industry Solution」として業種を絞った課題解決策を展開

業種に最適な環境を提供する

◆InfoDyne / 2008.04データ高速配信(金融取引市場)

◆Cognos / 2008.01BIとパフォーマンス・マネジメントのソリューション基盤

◆OpenPages / 2010.09

リスク管理 /セキュリティー対策/法令順守などの問題を「インテリジェンス」で解決※図中に着色したセキュリティー関連の買収企業の技術も適用していく

鉄壁のリスク管理を目指す

リスク・マネジメントとコンプライアンスの統合ソリューション

◆SPSS / 2009.10統計解析やデータマイニング

◆Algorithmics / 2011.09金融リスク・マネジメント・ソリューション

◆Exeros / 2009.05複数DBのデータ関係管理

◆Clarity Systems / 2010.10財務報告管理ソリューション

◆Guardium / 2009.11統計解析やデータマイニング

◆Netezza / 2010.11DWHアプライアンス

◆Initiate Systems / 2010.03データ統合(MDM)

◆Q1 Labs / 2011.10セキュリティー分析

◆Intelliden / 2010.02ネットワーク管理自動化

◆TRIRIGA / 2011.04ビル /不動産などの統合管理

◆Lombardi / 2010.01アジャイル指向 BPM

◆Cast Iron Systems / 2010.05クラウド統合

◆Outblaze / 2009.04

Webメッセージサービス

◆Coremetrics / 2010.08デジタルマーケティングの最適化

◆Sterling Commerce / 2010.08企業間取引の統合 /高度化

◆i2 / 2011.08ビッグデータ分析による犯罪防止

◆Unica / 2010.10マーケティングプロセスの自動化

◆Curam Software / 2011.12行政向け社会福祉アプリケーション

◆Emptoris / 2012.02支出監理ソリューション

◆DemandTec / 2012.02Eコマース最適化 /分析

◆Datacap / 2010.08紙文書など非構造化データの取り込み

◆PSS Systems / 2010.10データガバナンス(法務関連 eDiscovery)

◆Net Integration / 2008.02

SMB向けコラボレーション・スィート

◆AptSoft / 2008.01複合イベント処理

◆Telelogic / 2008.04組込系の開発ライフサイクル管理

◆Green Hat / 2012.01ソフトウェアテストとテスト仮想化

◆Worklight / 2012.01モバイル向けアプリ基盤

◆FilesX / 2008.04データ保護 /リカバリー

◆Encentuate / 2008.03

ID/アクセス管理

◆Ounce Labs / 2009.07ソースコード脆弱性診断

◆Big Fix / 2010.07エンドポイント管理

◆Solid Information Tech/ 2008.01インメモリー DB

◆ILOG / 2008.12ビジネスルール最適化

20122011201020092008

オーバービューで理解を深める

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 13

Page 16: IBM Software Vison 2012 Summer

もソフトウェアを開発し、あるいはソフトウェア企業を買収していきます。田口:まだまだ買収でポートフォリオを拡大していくわけですね(笑)。マハジャン:闇雲に買収するわけではありませんよ(笑)。IBMが目指すポートフォリオとのギャップを埋める戦略的買収であり、1+1が3になるような相乗効果が期待できる時に、買収しているということです。コモディティ化されているソフトウェアは必要ありません。

新時代で重要性がますます高まるエンタープライズ・アーキテクチャー

田口:今年の重点領域として、ビッグデータ、ソーシャルビジネス、セキュリティーを挙げられていますが、クラウドやモバイルはそれをつなぐような位置づけになるのでしょうか。マハジャン:当社ではプライベートクラウドを構築するためのツールも提供していますし、「10円クラウド」と呼ばれるサービスも提供しています。ただ、クラウドはすべての解決策にはなりません。既存のシステムと共存し、データを連

田口:IBMのソフトウェア製品のポートフォリオは良く考えられていますね。一方で種類が多く複雑にも思えます。マハジャン:確かにカバーしている範囲が非常に広く、製品の数が多いので、全部を理解してもらうのは難しいかも知れません。私としては、製品1つひとつではなく、全体のビジョンをご理解いただきたいと思います。まず重要なポイントは、IBMとしてソフトウェア事業を大変重視しているということです。20年前から、ビジネスの中心を、ハードウェアからサービスへとシフトしてきましたが、これからの20

年はソフトウェアがビジネスの中心となると考えています。2015年には利益の50%をソフトウェア事業から得ることを目標に掲げています。

一方でユーザー側にも新たな課題が生まれています。ITプラットフォームは、ビジネスの変化にローコストで柔軟に対応できなければなりません。この課題を解決するために、ソフトウェアには6つの能力が求められます。情報を知見に変えて活用できること、業務の統合と最適化を推進できること、インフラとサービスの価値を最大化できること、ソフトウェア開発で業務サービスと製品を変革できること、コラボレーションによって社員力を強化して顧客との関係を強化できること、そして、リスクやセキュリティー、コンプライアンスが管理できることです。これらの能力を高めるために、今後

14 │ IBM Software Vision 2012 summer │

田口潤IT Leaders 編集長1984年、日経マグロウヒル(現日経 BP社)入社。「日経コンピュータ」編集長など、I T分野のメディア編集に携わる。2008年 5月、インプレスグループに入社。同年 9月に「 I T Leaders」を創刊以来、編集長として情報発信を続ける。インプレスビジネスメディア取締役編集局長。

Jun Taguchi

O r g a n i z i n g P r o d u c t P o r t f o l i o s

IBMのソフトウェア事業のポートフォリオは広く、複雑である。日本のソフトウェア事業を

統括するヴィヴェック・マハジャン<専務執行役員 ソフトウェア事業担当>は、どんなア

プローチで日本市場での事業拡大を目指すのか。企業 IT専門の月刊誌「 I T Leaders」

の田口潤 編集長との対談で熱く語った。(文中敬称略)

企業が直面している新たな課題を新世代ミドルウェアで解決する

写真 的野 弘路

ソフトウェア 事 業トップ 対 談

Page 17: IBM Software Vison 2012 Summer

動させる仕組みも必要になります。IBMはその分野を含めてカバーしています。もう1つのモバイルは、間違いなく今

年の戦略の目玉になります。モバイルの活用は大きく広がっていきますし、IBMが他社よりも明らかにワンランク上のポジションにいるからです。田口:モバイルで? 具体的に説明いただけますか。マハジャン:ポイントは2つあります。1つは、多様なデバイスのサポートです。モバイルデバイス・アプリケーション開発・実行環境を提供するWorklight社を買収し、モバイルの特徴を生かしたアプリケーションをスマートフォンやタ

ブレットなど様々なプラットフォームで動かすことができるようになりました。もう1つがセキュリティーです。これは他社よりもはるかに進んでいます。モバイルを企業で活用するために必要なエンドツーエンドの管理ソリューションや高いセキュリティーレベルを実現するソリューションを提供しています。田口:なるほど。そうした新しいITの一方で既存のITについてどう見ていますか。IBMとしての優先度は低い?マハジャン:そんなことはありません。ビッグデータやモバイル、クラウドなどを効果的に活用するには、ITインフラがしっかりしていなければならない。その意味でエンタープライズ・アーキテクチャー(EA)の重要性は高まっています。

多くの日本企業では、EAが構築されていません。この状態では、変化への柔軟で迅速な対応は望めません。当然、グローバルで戦うこともできません。

私は“新世代ミドルウェア”というメッセージを通して、堅牢で、柔軟で、スケーラビリティのあるインフラの必要性を訴えています。それがソフトウェアレ

ベルのEAです。そこにIBMにとって最大の商機があると考えています。田口:IBMはEAについて提唱してきたリーダーですが、最近は発信されるメッセージが少ない気がします。改めて力を入れていってほしいと思います。

最大のミドルウェアベンダーとしてソフトウェア事業のブランド力を強化

田口:ところでIBMのグローバルと日本では、当然、ソフトウェア事業の戦略も違ってくると思います。日本における課題はどんなところにあるとお考えでしょうか。マハジャン:大きく3つの課題があると考えています。1つめは、ソフトウェア事業としてのブランド力を強化することです。ソフトウェアを買おうとしたときに「IBMから買いたい」と思ってもらえるようにしたいですね。IBMは世界最大のミドルウェアベンダーなのですが、まだ日本では浸透していません。

例えば、企業向けのソーシャル・ネットワーク・サービスではアメリカでNO.1であることや、DB2のコストが同等の競合製品の 3 分の1で あ ること、Rationalがゼネラル・モーターズなどで使われ、組み込み分野でも高い評価を得ていることなど、知られていない事実が沢山あります。

2つめは、先程もお話したEAですが、ソフトウェアレベルのアーキテクチャー

があることで、どれだけのメリットがあ

るのかを伝えきれていません。3つめは、“ソリューショニング ”の推

進です。IBMは単なるソフトウェアベンダーではありません。優れた製品の上で活用できるソリューションも提供しています。B2BのSterling Commerceや販促ツールのUnicaなどがそれです。パートナーと一緒にソリューションの提示を強化することで、Win-Winの関係を築けると考えています。田口:日本の企業はパートナーに任せすぎる傾向があります。どんなところからアプローチしていくのでしょうか。マハジャン:パートナーに任せても、全体の戦略はIT部門が自ら考えなければなりません。特に、業務の変化にスピーディかつ低コストで対応する鍵は、EAにあることを分かってもらいたいですね。これはどの会社にも言えることです。

ITは業務から切り離せない存在です。だからこそビジネスの目標達成のためにIT部門がもっとリーダーシップを執るべき。その手段の1つがEAです。田口:IBMのソフトウェア事業のポートフォリオは、これからのITインフラを考える上で、なるほどと思わせる要素が込められています。IBMには是非、それを広めて欲しいと思います。

オーバービューで理解を深める

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 15

ヴィヴェック・マハジャン日本アイ・ビー・エム 専務執行役員  ソフトウェア事業担当Tandem Computers 、General Electric Company 、Siebel Systemsなどを経た後、2004年 6月に日本オラクル常務執行役員。2010年 10月に日本アイ・ビー・エムに入社し、執行役員として営業 /グローバル・ソリューションズ担当、ソフトウェア事業ブランド・セールス&オペレーションズ担当などを歴任。2012年 1月より現職

Vivek Mahajan

Page 18: IBM Software Vison 2012 Summer

表 1 “ インテリジェンス ” に的を合わせた IBM の買収

年月 買収企業名 保有するソリューション

2008年 1月 AptSoft ビジネス・イベント処理

2008年 7月 ILOG ビジネス・ルール、最適化エンジン

2010年 6月 Coremstrics エンタープライズ・マーケティング管理

2010年 10月 PSS Systems 情報分析・データガバナンス

2011年 8月 i2 捜査情報分析

2011年 9月 Algorithmics 金融リスク管理

2011年 10月 Q1 Labs セキュリティー・インテリジェンスとイベント管理

AptSoft社の技術は現在、ILOG社のビジネスルール管理技術とあわせてオペレーショナル、つまり日常業務における意思決定ソリューションとして提供している。人間が判断するには難しい、様々な大量データの相関関係を定義することで、“ビジネスにインテリジェンスを提供している”と言えるのだ。すなわちBI製品ではなく、インテリジェンスの提供が IBMの目的である。

次に、ソフトウェア開発プロジェクトとセキュリティーを例にとり、インテリジェンスの意味と役割を掘り下げてみよう。

ソフトウェア開発におけるインテリジェンス

ソフトウェアの「品質」「コスト」「納期」の3点に対して当初の計画を達成できたかという指標で「プロジェクトの成功」を測ると、その成功率は約3割とされる。少々乱暴な言い方をすれば、SaaSやPaaS、パッケージソフトのようなサービスや製品がここ数年の間に大きく進化している一方で、ソフトウェア開発の手法はこの10年間、大きな進歩

I BMによるCognosとSPSS(2008年)、Netezza(2010年)の買収は

比較的大型の買収だったので、覚えている読者も多いのではないだろうか。その理由を「IBMは単にBI関連製

品を強化しているだけ 」と考えた方も少なくなかったと思う。実のところ2008年から2012年1月時点の約4年間でIBMは46社を買収したが、中でも情報分析に強い企業を買収しているという特徴がある(表1)。

例えば2008年1月に買収したApt-Soft社は、いわゆるBEP (ビジネス・

イベント処理)のソリューションを提供するベンダーだ。BEPやCEP(複合イベント処理)は、リアルタイム高速処理が欠かせないアルゴリズム取引などで活用されている技術である。業務プロセスにおいて発生する大量のイベントを捕捉し、イベント間の相関関係を定義しておくことで、新たな事象の発生を即座に捕捉する。例えば、1時間以内に東京と大阪で同一人物によるクレジットカード利用があった場合に不正利用の可能性があると判断するソリューションである。

16 │ IBM Software Vision 2012 summer │

S o l u t i o n s f o r N e w I T T r e n d s

ビジネス・アナリティクス、ビッグデータ、ソーシャル・ビジネス、ソフトウェア開発、そ

してセキュリティー。これらに共通し、同時に次の企業 I Tが目指すべき方向を示すキー

ワードが、“インテリジェンス”である。ここではインテリジェンスの意味を明らかにする。

“インテリジェンス”の実装でソフトウェアは次のステージへ

渡辺隆日本アイ・ビー・エムソフトウェア事業ソフトウェアマーケティングミドルウェア&ソリューション部長

総   論

Page 19: IBM Software Vison 2012 Summer

図1 Rational Insight のダッシュボード画面。プロジェクトの実態を把握できる

がなかったと言っていい。しかし進歩が皆無だったわけではない。成功している企業には「定量評価」の手法を取り入れている共通点があるのだ。定量評価とは「現在の傾向のどれがコストとスケジュールに影響する可能性が高いか?」、「新しい欠陥の発生率は?」、「要件の変動性や安定性は?」といった質問に答えるために正確で客観的な情報を取得し、評価するアプローチである。

難しいのは「どの評価軸でデータを取るべきか」、「分散しているプロジェクトデータをどのように一元的に管理するか」といった点だ。これをクリアできれば、プロジェクトの行方をプロアクティブに予測し、対策を打てる。そこでIBMはプロジェクト活動のデータをリアルタイムに収集し、予測や意思決定を支援する「開発インテリジェンス」を提唱。実際のソリューションとして「IBM Rational Insight」を提供している。

Rational Insightは開発ライフサイクル管理に利用される「Rational Team Concert」や「Rational Qual-ity Manager」といったIBM製品、あるいはMicrosoft Projectのような他社製品から情報を収集し、データウェアハウスに格納する機能を持つ。加えて変更管理や構成管理、品質管理、要求管理、プロジェクト管理の5つのドメインに分類されたメトリクス(評価基準)を提供する。ユーザーはこのメトリクスをもとに、

データウェアハウスに格納されたデータを分析、定量評価を実施できる。経営層やプロジェクト・マネージャ、開発メンバーなど、ステークホルダーの役割に応じて視覚的に表示するダッシュボー

ドも備えている(図1)。

セキュリティーにおけるインテリジェンス

特定の企業を狙った標的型メール攻撃が起きる昨今、セキュリティーの脅威は日々増大し、従来型のセキュリティー製品では対処が困難になっている。そこで注目されるのが、ユーザーやアプリケーション、システム基盤のセキュリティーに関わるデータをリアルタイムで収集・分析し、脅威を予測する「SIEM(セキュリティー・インテリジェンスとイベント管理)」と呼ばれる技術だ。IBMも2011年10月にSIEMのリーディング・ベンダーの1社であるQ1 Labsを買収。セキュリティー・インテリジェンスを強化・拡充している。

Q1 Labsの製品でどんなことができるのか?1つはユーザーやシステム、ネットワークの挙動を監視すること。過去のデータに基づいて普段と異なる挙動を検出する、文字通りのセキュリティー・インテリジェンスだ。同時に

ネットワークのトポロジーといったリス

ク要素の評価や、脅威のモデリング/シミュレーション機能も備える。悪意に対する事前の予測分析を可能にするためである。

Q1 Labsだけではない。銀行や保険、医療や防衛、警察を顧客とする、犯罪捜査や詐欺防止のための情報分析ソフトウェア企業であるi 2も、2011年8月に買収した。i 2が蓄積するノウハウや「糸口・手掛かり・標的」を創出する能力を、IBMのビッグデータ・ソリューションと統合することで、詐欺やセキュリティー脅威と戦っている国、地方自治体、国際機関、企業を支援することが買収の目的である。ここで見てきたソフトウェア開発やセキュリティーは、インテリジェンスの活用例のほんの一例に過ぎない。本パートの以下の記事では、ビッグデータやビジネス・アナリティクス、ソーシャルビジネス、セキュリティーについて解説する。そのバックボーンには、“インテリジェンス”というキーワードがあることに、ご留意いただきたい。

新潮流の波頭に立つ製品群

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 17

Page 20: IBM Software Vison 2012 Summer

図 1 変化を味方にする情報分析を実践するためのサイクル

洞察

行動 蓄積

フィードバック

分析計画

顧客の嗜好の変化顧客の行動の変化トレンドの変化…

俊敏で正確な 行動から得られたデータを

み取って的確な意思決定を下すことが非常に難しい。経営者には、これまでの経験や勘に加えて、データの高度な分析から導き出される統計学的な意思決定も不可欠になりつつあるわけだ。

俊敏で正確な行動をとり、そこからのフィードバックを蓄積し、さらに分析をかけて洞察を得る──。この行動・蓄積・洞察のサイクルを回すことが、ビジネス環境の変化に強い経営を実現するカギになるというのがIBMの見解だ(図1)。その際に求められるのが、先進的なITを駆使してビッグデータの中に潜む示唆を引き出す仕組みの構築である。これによって経営判断の精度は飛躍的に高まり、競争優位性の確保や新たな事業機会の創出につながっていく。

ビッグデータの実態を表す「3つのV」

時代のキーワードとして各所でさまざまな説明がなされてはいるが、ビッグデータという現象の実態がはっきり見えてこないというユーザーはいまだ多

周知のように、情報に対する社会的なニーズの高まりとそれに応

えるITの進化によって、企業で扱う情報・データが指数関数的増大を続けている。長年、企業のITシステムに蓄積されてきた業務データに加えて、近年では無線ICタグやセンサーが自動収集する情報や、TwitterやFacebookに代表されるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)での投稿など、新

しい情報ソースが多数出現し、情報爆発にいっそう拍車をかけている状況だ。そうした中、さまざまなタイプの膨大なデータを収集して分析し、ビジネスに貢献する「洞察」を獲得するビッグデータの取り組みに、世界中の企業が熱いまなざしを送っている。ビジネスを取り巻く環境が激変する

現在では、企業内にある既存のデータを分析するだけでは、市場の変化を読

18 │ IBM Software Vision 2012 summer │

情報に対するニーズの高まりと、それに呼応する技術の進歩によって、企業が扱うデー

タが爆発的に増えている、こうした背景の中、ビッグデータの活用に世界中の企業が

多大な期待を寄せている。ここでは、ビッグデータに対する IBMの着眼点と、そこか

ら導き出されたビジネスへの真の活用のための有効なアプローチを解説する。

情報分析力=経営力となる時代への解答変化を味方にする分析基盤を構築する

中林紀彦日本アイ・ビー・エムソフトウェア事業 インフォメーション・マネジメント事業部マーケティング・マネージャー

ビッグデ ー タ

S o l u t i o n s f o r N e w I T T r e n d s

Page 21: IBM Software Vison 2012 Summer

図 2 ビッグデータの特性を示す 3 つの「V」

これまでのデータベースとはデータの「規模」が根本的に異なる

Volume

多くの企業内ではデータが膨張を続けており、その容量は数 TB(テラバイト)から数 PB(ペタバイト)にまで及ぶ

絶対量

多種多様なデータ形式で情報が蓄積されるVariety

ビッグデータの“中身”は、非構造化データが大半を占める。音声、画像、ビデオ、地理情報、SNSなどバラエティに富む

多様性

従来よりもきわめて短い周期でデータを収集するケースが増える

Velocity

巨大な情報ストリームを利活用するにはバッチ処理からリアルタイム処理への転換も必要に

速度や頻度

い。IBMは、今日の企業が扱うデータの実態として、「3つのV(Volume, Variety, Velocity)」に着目。3つのVがそれぞれ拡張を続けている動きこそがビッグデータの実態であるとして研究を重ね、特性の異なる多様なデータに対するベストなアプローチをユーザーに提供していくというスタンスを打ち出している(図2)。3つのVの特性は以下のとおりだ。

①Volume(容量):企業が扱うデータ容量の急激な増大は、ビッグデータの最大の特徴と言ってよい。今日、多くの企業内ではデータが膨張を続けており、その容量は数PB(ペタバイト)にまで及んでいる。またデータを処理するための計算量も指数関数的に増えている。

②Variety(種類):ビッグデータの“中身”は、RDBMSが扱うような構造化データばかりではなく、むしろ、これまで管理が難しかった非構造化データがその大半を占めている。テキスト、音声、画像、ビデオ、地理情報、SNSのアクティビティストリーム、ログファイルなど、非構造化データの種類は非常に多岐にわたっている。

③Velocity(頻度):TwitterやFa-cebookをはじめインターネット上、および I Cタグなどのセンサーなどからものすごい速度でデータが生成されているなか、これらのデータをリアルタイムに処理することが求められている。

ビッグデータ分析を可能にする2種類のアナリティクス技術

Smarter Planetの取り組みなどの

知見から導き出された、企業がビッグデータを活用し経営に役立てるための具体的なアプローチとして、IBMは、以下の2種類のアナリティクス(分析)技術を定義している。

①ディープ・アナリティクス:企業内に蓄積された過去のデータに対して深い分析をかける技術を指す。活用例としては、長年にわたって蓄積された膨大な購買履歴などに深い分析をかけて、新しいマーケティング手法を生み出すケースがある。

②リアクティブ・アナリティクス:連続的に流れる現時点のデータをリアルタイムに処理しながら分析を行う技術を指す。センサーなどによってリアルタイムで監視・収集する気象情報データや医療情報データなどへの分析で活用されている。

この2種類のアナリティクス技術によって、3つのVで示される爆発的な増

加だけにとどまらず、複雑化・多様化している今日のデータに対して、適材適所で処理を行うことが可能になる。そのさまを示したのが図3で、この図にある2種類のアナリティクス技術に基づき提供されるIBMのビッグデータ・ソリューション群がユーザー企業にとっての解決策となる。

以下では、図3に示したリアクティブ・アナリティクスとディープ・アナリティクスのそれぞれの分析処理を担うIBMのビッグデータ・ソリューションの特徴を紹介する。

大量のデータの高速分析を実現する

IBMInfoSphereBig Insights

「IBM InfoSphere BigInsights」は、3つのVのうち、特に容量と種類が拡大したデータに対応する、ディープ・アナリティクスに位置づけられたソリューションで、主に非構造化データの管理・分析を担う製品となっている

新潮流の波頭に立つ製品群

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 19

Page 22: IBM Software Vison 2012 Summer

図 3 複雑化・多様化するデータに対して適材適所で処理を実行する製品を用意

新しい種類の非構造化データ

従来の構造化されたデータ

InfoSphereBigInsights

ディープアナリティクス

InfoSphereStreams

Netezza

リアクティブアナリティクス

恒常的なデータ 変動的なデータ

ス・アプライアンス」は、RDBMS、サーバー、ストレージを膨大なデータの処理向けに最適化し、1つの筐体に統合した専用データベース・アプライアンスである。独自の並列アーキテクチャーによる高速な処理性能や、 特別なチューニングが要らない容易な運用管理性を兼ね備えたソリューションとなっている。

図2に示したように、Netezzaが主として担う領域は、典型的なビッグデータではなく、構造化データを中心とした従来型のデータとなる。冒頭で述べた、企業がビッグデータを活用する意義を考えれば、3つのVで表される新しいタイプのデータにのみ対応するだけでは不十分で、従来型のデータにも高度かつ高速な処理が可能な管理・分析基盤が必要になる。IBMが同製品をビッグデータ・ソリューションのラインアップに加えている理由はこの点にある。

上述の3つのソリューションをビジネス要件に照らして組み合わせることで、企業は、リアクティブ・アナリティクスとディープ・アナリティクスの両方の仕組みを備えたビッグデータ活用基盤を構築することができる。なお、現行のプラットフォーム/ソリューションにおいて、例えば、IBM InfoSphere Big Insightsによって構築された分析モデルを、IBM InfoSphere Streamsで再利用するといったソリューション間の連携が一部可能になっているが、IBMは、最終的な完成形として、将来的には互いが完全に統合された、プラットフォーム/ソリューション全体を包含するアプライアンスとして提供することを目指している。

のが特徴だ。データ管理・分析基盤には、オープ

ンソースの高速データ分散処理フレームワークであるApache Hadoopが採用されたことで、従来よりも低コストで大規模な分析システムを構築することを可能にしている。

同製品は、分析機能に加えて、HDFSにWebベースでアクセスすることを可能にする、「BigSheets」や、大規模で利用するための管理機能、ワークフロー機能、プロビジョニング機能およびセキュリティー機能も備えている。複雑かつ大規模な分析をする開発者にとっても、一般ユーザーにとっても使いやすいソリューションであるのが特徴だ。

リアルタイム分析を可能にする

IBMIn foSphereSt reams

「IBM InfoSphere Streams」は、3つのVのうち、頻度と量が極端に高い

データに対応する、リアクティブ・アナリティクスに位置づけられたソリューションで、連続的に発生するデータをわずか1ミリ秒以下、ときにはマイクロ秒以下のレスポンスタイムで継続的にデータ処理・分析する基盤を提供する。

同製品が威力を発揮するのは、格納が追いつかないほど連続的に発生するデータ、あるいはその場で処理しなくては意味をなさないようなデータを扱うときである。こうした真の意味でのリアルタイム処理を可能にしているのは、CEP

(Complex Event Processing:複合イベント処理)技術をベースにIBMが2003年より研究開発を重ねてきたストリーム・コンピューティング技術である。

ビッグデータ専用分析システム

NetezzaDWHアプライアンス

「IBM Netezza データウェアハウ

20 │ IBM Software Vision 2012 summer │

S o l u t i o n s f o r N e w I T T r e n d s

Page 23: IBM Software Vison 2012 Summer

図 4 ビッグデータのプラットフォーム・ビジョン

インテグレーション 

Info

rmatio

n Server

データウエアハウスInfoSphereWarehouse

情報統合Netezza

マスターデータ管理InfoSphere MDM

データベースDB2

コンテンツ分析ECM

マーケティングUnica

ビジネス分析Cognos & SPSS

データ管理InfoSphere Optim

ソリューション

ビッグデータアナリティクス

テキスト等の静的データ /動画・音声 /金融データ /位置データ /数学的統計データなど多種多様な形式

◆コネクタ ◆アプリケーション ◆テンプレート

ビッグデータエンタープライズ・エンジン

◆ストリーミング処理(InfoSphere Streams)◆インターネット・スケール分析(InfoSphere BigInsights)

◆データウエアハウス(Netezza)

ビッグデータプラットフォーム◆オープンソースの基盤コンポーネント

◆ハードウェアテクノロジー◆ワークロード管理と最適化

◆管理ツール

IBMのソリューション

ユーザー /パートナーのソリューション

既存のITシステムとの連携

ビッグデータを活用する取り組みで得られる効果を最大化するためには、ビジネスやコンプライアンスの要件を満たすかたちで既存のデータベースやアプリケーションとの連携・統合がきちんとなされる必要があるのは言うまでもない(図4)。「IBM InfoSphere Information Server」は、上述のビッグデータ・ソリューションで管理・分析されたデータに対して標準化やマージ、修正などを行って、既存のITシステムとの確実な連携・統合を実現するためのデータ統合管理ソリューションである。同製品を軸にビッグデータ時代の情報管理基盤を整えることで、経営の意思決定や顧客満足度の向上、コストの削減に不可欠となる、単一かつ正確なデータ・ビューを提供することが可能になる。

国内外のビッグデータ先進事例

IBMのビッグデータへの取り組みの大元となっているのは、2008年11月より全社で掲げている「Smarter Planet」ビジョンだ。同ビジョンは、IBMが長年グローバルで培ったテクノロジーと経験、知見から、医療、環境、交通、治安など広範な領域での世界的な共通課題に対して、より賢く、より効率的な解決策を提示するというものである。その実践の1つとして、地球上のありとあらゆるデータから競争優位やビジネス価値につながる洞察を引き出すビッグデータ活用が位置づけられているのである。

最後に、このSmarter Planetビジョ

ンに沿った海外の医療分野での事例と、ビジネスでの先進活用のケースとして日本の金融分野での事例の要旨を紹介する。

■ 海外医療分野新生児の生命を救うリアクティブ・アナリティクス

カナダのオンタリオ 工科大学(UOIT)はIBMとの共同プロジェクトで、リアクティブ・アナリティクス技術

(ストリーム・コンピューティング)を活用した、新生児集中治療室(NICU)における予測分析システムを構築した。重症の未熟児のバイタル・データを24時間体制で監視して罹患リスクとの相関関係を分析し、迅速な処置を行える体制を整えることで、患者の死亡・罹患リスクを大幅に低下させることに成

功している。

■ 国内金融分野SNSから収集するデータと株価変動の関係を分析

カブドットコム 証券株式会社 は、ディープ・アナリティクス技術を駆使して、SNSから収集した膨大な情報を収集・分析するシステムを構築した。膨大な量で、しかも日々更新される情報を遅れなく処理する必要があることから「IBM InfoSphere BigInsights」を導入し、分散処理による高速な収集・分析を実現。現在は本稼働に向けて、得られた結果に対して株価の動向との関連の検証を行っている。今回、収集・分析対象銘柄となったのは46社で、将来的には最大で約3600銘柄を収集・分析対象とする計画にあるという。

新潮流の波頭に立つ製品群

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Page 24: IBM Software Vison 2012 Summer

図 1 IBM のビジネス・アナリティクス・ソリューションの全体ポートフォリオ

ビジネス・アナリティクス&オプティマイゼーションのソリューション

インフォメーション・マネージメントとガバナンス

ワークロードに最適化されたシステム

ビジネス・アナリティクス

金融 公共 流通

インフォメーション・マネージメントとマスターデータ管理データウェアハウス

コンテンツ管理 データ管理

製造 通信

財務・経理

ビジネス・インテリジェンス

予測分析、高度なアナリティクス

パフォーマンス・マネージメント、戦略管理

リスク分析

人材 サプライチェーン&オペレーション 顧客

まで増加している。早期からビジネス・アナリティクス

に着手した企業は、新規顧客の獲得やコストの削減、リスクの管理や不正防止など、さまざまな業務領域においてアナリティクスを実行し、得られた洞察から大きな成果を生み出している。

次に何が起きるか見えない不確実性の時代に、ビジネスを堅調に伸ばしていくにあたっては、ビジネス・アナリティクスによって得られる洞察や知見が経営の意思決定上、重要なカギを握ることになる。しかも、このアナリティクスを活用するのは経営者だけでなく、経理・財務、人事、営業、マーケティング、IT部門など、社内のあらゆる部門のメンバーが、あらゆる情報、あらゆる視点、そしてあらゆる意思決定の局面において、常に最適解を導くことが求められている。

ビジネス・アナリティクスのポートフォリオ

IBMは数年前より、情報・データを経営予測モデルや意思決定に変換し

ビジネス・アナリティクスの価値に着目し、新たに発見された機

会を活用して変革を遂げている企業と、そうした取り組みにまだ至っていない企業との間に“格差”が広がっている。MIT Sloan Management ReviewとIBM Institute for Business Value

が全世界の経営者、管理者、アナリティクス担当者4500名以上を対象に実施した共同調査の結果によれば、企業の競争優位性を生み出すのはビジネス・アナリティクスであると回答した企業の割合が2010年の37%から、2011年には58%と、わずか1年の間で1.6倍に

22 │ IBM Software Vision 2012 summer │

ビジネスにまつわるあらゆる情報の可視化を通し、「現状の正確な把

握」「将来起こりうる変化の予測」「ビジネスリスクの統合的な管理」

などを企業内のさまざまな職種のユーザーを対象に具現化する、

IBMのビジネス・アナリティクス・ソリューションを紹介する。

経営者のためのBIから、すべてのビジネスユーザーのアナリティクスへ

日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業

田村浩二インダストリーソリューション事業部エンタープライズ マーケティングマネジメント ソリューションコンサルタント

高澤正道ビジネス・アナリティクス マーケティング マネージャー

畠慎一郎ビジネス・アナリティクス SPS S マーケティング

ビジネス・アナリティクス

S o l u t i o n s f o r N e w I T T r e n d s

Page 25: IBM Software Vison 2012 Summer

図 2 パーソナル・アナリティクスをもたらす「IBM Cognos Insight v10.1」

Cognos Insight

What if分析

データ探索

ビジュアル化

共有

プランニング

シナリオ作成、仮説検証、モデル最適化

必要に応じた計画や予算、予測の修正

ファイルの共有やサーバへの発行、Cognosファミリーとして拡張

ドラッグ&ドロップによるデータの取り込み、スマートな

データ絞込み、直観的な分析

説得力のある最新のグラフやWidgetの追加、テーマ(スタイル)の適用

新製品 IBM Cognos Insight v10.1ビジネス・ユーザーのためのパーソナル・アナリティクス

て競争優位を実現するためのキーテクノロジーとしてビジネス・アナリティクスを位置づけ、研究開発や企業買収などの継続的な投資によって、すぐれた製品/ソリューション/サービスをユーザー企業に提供することに注力している。

図1に、IBMが提供するビジネス・アナリティクス・ソリューションの全体ポートフォリオを示す。この図にあるように、IBMは、ビジネス・インテリジェンス(BI)、予測分析/高度なアナリティクス、パフォーマンス・マネージメント/戦略管理、リスク管理の4つの分野をカバーするビジネス・アナリティクス・ソフトウェア製品群を、各業種・業界ごとに最適化して提供している。また、アナリティクス・ソフトウェア

製品群がそれぞれ単体の製品として各種の機能を備えているだけではなく、その下のレイヤーに位置する全社的なイ

ンフォメーション・マネジメント/ガバナンスを司る製品群や、一番下のレイヤーに位置するワークロードに最適化されたシステムと緊密に統合することが可能である点も特徴と言える。

次節で、IBMのビジネス・アナリティクス・ソフトウェア製品群が備える特徴や機能を紹介する。

BAのソリューション基盤を提供する「Cognos10」ファミリー

「IBM Cognos」の現行バージョンである「IBM Cognos 10」ファミリーは、企業内のあらゆる立場のビジネス・ユーザーとIT部門双方のニーズに応えるビジネス・アナリティクスのソリューション基盤である。ビジネス・ユーザーに必要な情報をそれぞれのワークスタイルに合わせて提供し、洞察に基づく整合性の取れたアクションを可能にする

一方、費用対効果の高い拡張性と集中管理を実現し企業全体のビジネス・アナリティクスのニーズに応える。また、同ファミリーは、優先度の高い課題への迅速な対応が求められる局面においてスモールスタート型で利用が始められ、その後、ビジネスの成長に応じて分析対象や利用ユーザー範囲を柔軟に拡張することが可能だ。同ファミリーを構成するのは以下の3製品である。

■ I B M C o g n o s E n t e r p r i s e

企業内のあらゆる職種のビジネス・ユーザーによる、ビジネスにまつわるあらゆる局面での意思決定をサポートする、企業全体で使える拡張性に富んだビジネス・アナリティクスのソリューションが展開できる。BIとパフォーマンス・マネージメントに加え、What-if分析、プランニング、予測分析、エン

新潮流の波頭に立つ製品群

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 23

Page 26: IBM Software Vison 2012 Summer

リングを行えるデータマイニング・ツール。膨大なデータから高速にパターンと傾向を発見し、ビジネス価値につながる洞察を抽出する。

■ I B M S P S S T e x t A n a l y t i c s f o r S u r v e y s

高速処理が特徴のテキストマイニングツール。自由回答形式のアンケートを容易にコード化・視覚化して、ビジネスの改善や以降の計画に役立てることができる。

■ A m o s

共分散構造分析(構造方程式モデル)のためのツール。回帰分析、因子分析、相関分析、分散分析などの標準的な多変量解析を拡張し、より現実的なモデルを作成できるほか、ユーザー自身でモデルを指定、推定、検証することもできる。

■ IB M S P S S D a t a C o l l e c t i o n

複数の国・地域でのアンケート/市場調査などで定評のあるデータ収集ツール。調査対象者のスタンスや嗜好、行動などについて深く理解し、その貴重な洞察を意思決定プロセスに組み込むことが可能だ。

顧客主導のマーケティングに応える「IBMEMMソリューション」

情報活用の巧拙が競争優位性を左右する今の時代に、ビジネス・アナリティクスが効果を生む業務領域は広範にわたる。その中でも近年、特に利用が活発化している業務領域の1つがマーケティングである。その背景に、消費者の購買行動の大

タープライズ・コラボレーションといった機能を統合し、過去・現在・未来のデータを分析し活用することができる。

■ I B M C o g n o s E x p r e s s

Cognos Enterpriseと同等程度の機能を企業の部門あるいは中堅規模の顧客層に提供するソリューション。BIから、あるいはパフォーマンス・マネージメントから始めることが可能。またCognos Enterpriseと同じテクノロジーを採用することで、将来の移行もスムースになる。

■ I B M C o g n o s I n s i g h t

すべての人、情報、視点、意思決定にアナリティクスを提供するという同ファミリーのコンセプトに沿って2012年3月にリリースされた新しいパーソナルなアナリティクス・ソリューション(図2)。ユーザーが IT部門の助けを借りずに同製品をPCに導入して、自身の業務で必要な分析を、グラフィカルなダッシュボードなどを用いて手軽に行えるようになる。もちろん、分析で得られた洞察は業務の改善のためのアクションにつなげることができるようになっている。

ビジネスの将来を予測する「IBMSPSS」ファミリー

上述のIBM Cognos 10ファミリーが担うビジネス・アナリティクスは基本的に、データからビジネスの現在および過去の状況を可視化して正しく把握し、人が判断するためのアナリティクス・テクノロジーである。これに対し、「IBM SPSS」ソフトウェア・ファミリーは、統計分析やデータマイニングなどの手法を駆使して、データから過

去に起こったパターンを編み出し、ビジネスの予測分析を可能にするためのアナリティクス・テクノロジーである

(図3)。統計解析とデータマイニングテクノ

ロジーは、1968年に開発されて以来この分野で長い歴史と実績を持つSPSSのコアテクノロジーである。データマイニングは、過去から現在までに蓄積された大量のデータからパターンを導き出し、現在・過去の傾向に基づいた近似値型の予測を行う。また、統計解析は、データおよび戦略の正当性を図るために仮説・KPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)をセットしたうえで統計的手法からの精緻な検証を行う。

両手法によるビジネスの将来予測のための分析基盤を整え、ビジネスプロセスに組み込むことで、企業は、予測分析から得られる洞察を、企業内の複数の部門が関連し合う、複雑な経営課題の解決に役立てることが可能になる。IBM SPSSソフトウェア・ファミリーを構成する製品ラインアップは以下のようになっている。

■ I B M S P S S S t a t i s t i c s

企業、官公庁、調査機関、学術機関で豊富な実績を持つデータ統計解析ツール。ユーザーは、ウィザードを利用して高度な分析やデータ加工を手軽に実行することができ、作成した分析結果やグラフ、表をExcel、Power-Point、PDFなどの文書ファイルにレポート出力することが可能だ。

■ I B M S P S S M o d e l e r

直感的なGUI操作から、さまざまな形式のデータのアクセス・整理・モデ

24 │ IBM Software Vision 2012 summer │

S o l u t i o n s f o r N e w I T T r e n d s

Page 27: IBM Software Vison 2012 Summer

図 3 IBM のビジネス・アナリティクス・ソリューションのカバー領域

DWHアプライアンス

Netteza

予測分析BA

見える化BI

BI=現状・過去の把握BA=過去のパターンから将来起こりうる近似値を導き出す(予測分析)

統計解析、データマイニングを付加価値とした Business Analyticsの推奨

現在・過去の傾向に基づいた近似値型の予測

モデリング過去・現在の大量データより、パターンを導き出す

統計的アプローチによる仮説検証型の予測

統計分析データ・戦略の正当性を図る為に仮説・KPIをセットし、統計的手法にて検証する

戦略的 KPIの状況把握モデリング的確な情報で戦略と業務を連携

情報の見える化を促進ダッシュボードひと目で企業業績を確認、測定、管理

過去・現在の状況を把握クエリーとレポーティングスマートな意思決定を実現する包括的なクエリー機能とレポーティング機能

今後のアクションに対するシミュレーション

分析スマートな意思決定を導く、誰もが活用できる幅広い分析機能

SPSS

TM1

Cognos

きな変化がある。世界中の消費者の間でオンライン・ショッピングやSNS、モバイル・デバイスの利用が進んだことで、マーケットの主導権が事業者から消費者にシフトしつつある。今日、大多数の消費者はこれらのサイトやツールを介して、価格、品質、使い勝手といった商品の評価を共有し、自身が最も求めている商品を選ぶようになっている。このマーケットの主導権の逆転現象が、消費者・顧客の購買動向を把握・分析する活動の重要性を促すこととなり、ターゲット顧客の正確な絞り込み、効果的なキャンペーンの企画といった、顧客満足度やカスタマー・エクスペリエンスの向上のためのマーケティング施策にビジネス・アナリティクスを活

用する企業が増えているのである。IBMは、こうした顧客主導の時代に

ふさわしいアプローチを「EMM(エンタープライズ・マーケティング・マネジメント)」として体系化し、大きく以下の3分野のソリューション群を提供している。

■ I B M U n i c a E n t e r p r i s e

クロスチャネル対応の統合マーケティング管理ソリューション。Webやメール、電話、カタログなど企業と顧客を結ぶあらゆるチャネルにわたって、パーソナライズされたコミュニケーショ

ンやクロスチャネル・キャンペーンの計画・作成・実行・測定をはじめとするマーケティング施策展開を支援する。

■ I B M C o r e m e t r i c s

Web上での顧客行動データを一元的に管理するデジタル・マーケティング最適化ソリューション。ECサイトやソーシャル・メディアなどさまざまなWebチャネルにおけるマーケティング施策に必要な情報収集、分析、測定、レポートや外部サービス連携などの豊富な機能を備えている。

■ I B M D e m a n d T e c

価格設定やプロモーションなどのマーチャンダイジングおよびマーケティ

ングにおいて、消費者の購入傾向に応じた最適価格やプロダクトミックスの決定を支援するクラウド・アナリティクス・ソリューション。

新潮流の波頭に立つ製品群

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 25

Page 28: IBM Software Vison 2012 Summer

IBMはこうした歴史を踏まえ、まず社内でテクノロジーを活用し、ビジネスに役立つことを確信してから普及を図る方針を採っている。ソーシャルについても同様で、すでに数々のノウハウを蓄積できている。そしてそのノウハウが凝縮されたIBMのソーシャル関連製品の中でも中核となるソフトウェアが「IBM Connections」である。

実体験のノウハウを凝縮したIBMConnect ions

IBM Connectionsを紹介する前に、IBMのソーシャルビジネスソリューションについて簡単に触れておこう。

当社は企業ソーシャルの方向性を大きく「対社内」と「対顧客」という2つの視点に分けて捉えている。一方だけを重要視するというものではなく、車の両輪のようにどちらも共に推進していくことが望ましいあり方だ。

IBMでは企業ソーシャルを実現するソリューションを5つの層から成るフレームワークとして定義している(図1)。本稿では、この中のソフトウェア層

I BMは1997年からグローバルレベルで積極的なソーシャル技術の活

用を進めてきた。いわば企業がソーシャルをビジネスに持ち込むためのインキュベーションをIBM自身が行ってきた、と表現することもできる。

現在、IBM社内では、ファイル共有やToDo管理といったコラボレーション、専門スキルを有する社内のエキスパート検索、社内コミュニティによるアイデア創出など、ソーシャルを活用したネットワークがグローバルで広がっている。その結果、いわゆる一般的な電子メールの数は極端に減少した。ソーシャルのインフラ上であらゆる情報を確認し、すべてのアクションを起こせる基盤がすでに整っていると言ってよい。ソーシャルはもはやIBMにとって”ビジネスの根幹”なのだ。

ソーシャルな世界感はビジネス領域でも必須に

そして、ソーシャル時代の本格的な幕開けを感じさせた出来事が、今年1

月に新CEOに就任したバージニア・ロメッティの社内向けビデオメッセージだった。このメッセージはIBMのソーシャルネットワークで全従業員に向けて公開され、720を超えるコメントが寄せられた。CEOに対して一従業員が公開コメントを送る──。これまで考えられなかったコミュニケーションのスタ

イル、良い意味で敷居の下がったコミュニケーションが始まったことを全社的にひしひしと体感した。

現在、TwitterやFacebookなどソーシャルメディアが爆発的に普及する一方で、企業での採用には懐疑的だったり消極的だったりする例は少なくない。だが、ソーシャル化の流れは無視できないトレンドであり、向き合わずにいることはビジネス上、得策ではないことは自明である。いつの時代でもコンシューマ分野で

発展・普及した技術を企業に適用しようとすると、必ずそれを阻止しようとする動きが起こる。今でこそ当たり前に使われているWebブラウザだが、世に出た当初はビジネス用途で使うものではないとの声が上がった過去もある。

26 │ IBM Software Vision 2012 summer │

Facebookや Twitterなど、コンシューマレベルでのソーシャルメディアの爆発的な

普及が、エンタープライズの世界にも少しずつ影響をもたらしはじめている。ソーシャ

ルが企業コミュニケーション /コラボレーションをいかに変えようとしているのか、そし

て IBMは企業のソーシャル化をどのように支援しようとしているのかを解説する。

ソーシャルは第5の技術革新真のコラボレーション基盤を支える

ソーシャルビジネス

米持幸寿日本アイ・ビー・エム クラウド& S C事業 テクノロジー・エバンジェリスト

行木陽子日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 L o t u s ビジネス戦略 ソーシャルウェア エバンジェリスト

S o l u t i o n s f o r N e w I T T r e n d s

Page 29: IBM Software Vison 2012 Summer

図 1 IBMが描くソーシャルビジネスのフレームワーク

Customer Experience Framework

Social Business APIs and Standardsソリューションの組み合わせ

Workforce Optimizationインフラ

Transform OptimizeAdoptEnableEnvision各種サービス

Customer Care and Insight Product and Service Innovation Workforce Optimization …得られる価値

ソフトウェア

Engagement appsSocial Content

Context and relevance

Social content platform

Enga

geOwned social networksSocial Networking

Channels

Social connectors

Reac

h

BPM Rules

Connectors ESB

Process Management

MDM Data warehousing

Information Management

Open Standards

IL G&M Security

Community gov. Mobile

Governance and Lifecycle

Act

AnalyticsSocial Analytics

Monitoring

OptimizationDis

cove

r

Information Integration

に着目して話を進める。ソフトウェア層は、「Reach : ソーシャルネットワーキング」「Engage : ソーシャルコンテンツ」「Discover : ソーシャル分析」「Act : プロセス管理/情報管理/ガバナンス&ライフサイクル」の4つに分類している。

重要なのはAPIが公開されているオープンスタンダードであるという点だ。これにより製品同士を組み合わせて使ったり、サードパーティによるアプリケーション開発が容易になる。ソーシャルの活用シーンをさまざまに拡げていくことができるというわけだ。さて、IBM Connectionsである。前

述の通り、このプロダクトはIBMのノウハウを凝縮した企業ソーシャルの基盤となるソフトウェアである。対社内/対顧客どちらにも対応でき、ネットワーク内のユーザーに安全で迅速なアクセスを提供できる点が特徴だ。企業システム全般に深く関わりを持ってきた責任と自負があることから、既存システムとのインテグレーションにも十分に

配慮している。現在のバージョンは3.0.1で、次版の「Connections NEXT」は2012年半ばにリリースされる予定だ。

誌面の制約ですべての機能を紹介するわけにはいかないので、代表的なものを以下に概観する。

■ プロフィール

IBM Conncetionsの中心的な機能。個々の利用者の経験や専門分野といった“個性”(=プロフィール)を公開するもので、濃密な協働を促進するベースとなる。例えば、「ディレクトリ」ページで、求める専門スキルを持ったユーザーを直感的な操作でリストアップする。これはと思う人のコンタクト先をクリックすれば、詳細なプロフィールを確認できる。

連絡を直接とることもできるし、誰に仲介を得ればよりスムーズにつながりを持てるかなども視覚的に把握できるのが特徴だ。コラボレーションに欠かせない “Know Who”を支える機能である。

■ コミュニティ

分散した環境で作業しているメンバーを1つに集約する役割を果たす。アイデアを投稿することでメンバーからフィードバックを受けたり、そのアイデアをメンバー全員で共有できる。テキストだけでなくビデオなどのリッチコ

ンテンツも投稿可能。公開前に管理者が投稿をチェックするといった運用にも対応できる。

■ ファイル

文書やイメージ、プレゼンテーション資料などを共有する。ファイルに対してコメントを付けたり、推奨ボタンを押すなど、ソーシャル的なファイル共有が可能になる。

特定のファイルを「フォロー」するとそのファイルが更新されたときに通知がくる。関心のあるファイルのみを1つのフォルダに集約したり、「押しピン」でブックマークしておくといった機能は、地味に感じるかもしれないが実際の業務ではとても役立つ。

新潮流の波頭に立つ製品群

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 27

Page 30: IBM Software Vison 2012 Summer

図 2IBM Connect ionsアイデアブログによるソリューション

や個の発信によるつながりが、コンシューマーだけではなくビジネスにも

大きく影響することが自明だからである。クラウドやモバイルの普及も手伝って、仕事全体がスピーディになっている。こうなるとソーシャルへの流れは止められない(図3)。そう言い切る理由の1つに、ソーシャルが持つストレスフリーな仕組みが挙げられる。極端に言ってしまえば、IBM Connections上で仕事をするというのは、イメージ的にはFacebookの中で業務を完結するというのに近い。そのメリットは、ブラウザベースの使いやすいユーザーインタフェースということに加え、統一されたUIであるがゆえに「思考が中断されない」点にある。たとえばメールソフトでメールを書

いている途中に、調べ物をするためにWebブラウザを開き、その横の画面でExcelに数値を入力…といった作業をしている人も多いだろう。各ソフトの違いすぎるUIに”思考が中断”される思いを抱くケースは少なくないはずだ。

IBM Connectionsではそれがない。使っていてストレスを感じることが少ない業務環境は生産効率の向上に大きく寄与する。

インテリジェンスをまといさらに機能に磨きをかける

本パートに共通する「インテリジェンスの実装」という観点では、その代表例の1つとして前述のバックエンドの分析エンジン、SaNDが挙がる。これは、ソーシャル上に大量に蓄積する非構造化データを分析して新たな洞察に結び付けようという発想が根底にある。イスラエル・ハイファにあるIBM研

■ アクティビティ

仕事の進捗やタスクを整理する、いわば ”ソーシャルTo Do”として機能する。テンプレートでアクティビティを自動作成し、特定のメンバーにアサインするといった作業を効率的に進められる。これをベースにすれば、業務進行の流れが自然に標準化されてくるという効果が期待できる。

■ ソーシャル分析

役立つコミュニティやユーザーに加え、ファイルやブックマークなどを対象に自動的かつ適切に検索/提案する機能。プロフィール内にある3つのウィジェット「ご存知ですか」「共通のもの」「ユーザーの関係」などで使われている。SaND(Social Networks & Dis-covery)というIBMが開発した分析エンジンを適用している。

■ S o c i a l E v e r y w h e r e

ワークスタイルの変化やモバイルの普及を受け、どこからでも接続できるようにアプリケーションを拡大。メールクライアント、Windowsエクスプローラ、ポータル、業務アプリなどを統合できるのが特徴だ。iOSやAndroidなど

メジャーなモバイルOSのネイティブアプリケーションを提供している。

このように、自分の求める専門スキルをもったユーザーの発見やこれまで接触のなかったユーザーとの共通点を見つけ出していくことに非常に重きを置いている。IBMでは実際、日本の社員が海外のエキスパートと新たにつながりを持ち、業務の高度化につなげるような事例が増えている。従来の一般的なグループウェアに比べると、つながる規模も、共有できる情報も、その先に拡がっていく可能性も桁違いに大きいというのが実感だ。それが企業ソーシャルであり、IBM Connectionsが具現化する世界である(図2参照)。

ストレスフリーな業務遂行環境を提供

IBMはソーシャルを”第5の技術革新”と捉えている。メインフレームで業務の革新を図った時代を第1の革新とし、以降、分散コンピューティング、PC、インターネットと技術は進化と発展を遂げてきた。ソーシャルがそれらに連なる第5の革新と言い切れるのは、もは

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S o l u t i o n s f o r N e w I T T r e n d s

Page 31: IBM Software Vison 2012 Summer

図 3 ソーシャル技術をビジネスに活用する視点や例

・ コミュニティと顧客との対話を通したブランド価値の構築・ 信頼性・親密性を通したロイヤリティーの 確立、売り上げ拡大

・ 洞察を共有することによる、斬新な アイデアの創出、市場投入までの 期間短縮、シェアの獲得

・ 迅速なビジネスの判断、機会の最大化、 コストの削減を実現するために、プロフェッショ ナルなビジネス上の結びつきを活用

・ 従来のチャネルを介した「プッシュ」型・ 企業主体のブランド・イメージと メッセージ構築

マーケティング顧客サービス

・ R&Dに投資・ 社内で新規アイデアの創出、具体化・ 市場での可能性を検証

製品サービス開発

・ eメールと電話が主な コミュニケーション・ 業務知識のサイロ化

業務運営

人材開発

従 来 型ビジネス

新しいビジネス

顧客との関係を強化

新規アイデアの迅速な創出・具現化

人財の可能性を最大化

すでにソーシャル的活動を開始している分野

ソーシャルの適用で高い効果が期待される分野

究所で開発されたSaNDは、書き込みの内容そのものだけでなく、ユーザーの行動(いいね!を押す、シェアをする、特定のコミュニティに参加する…)や、その履歴も分析の対象とする。ユーザーの興味の変化や行動の傾向をすばやく捉えることができ、ユーザーやコンテンツの推奨を最適化する効果がある。

次バージョンの「NEXT」では、幾つかの注目すべき機能強化を図る考えなので以下に触れておく。

■ アクティビティ・ストリームへの対応

外部のソーシャルメディアや業務システム、他社製ソフトなどの情報を集約してConnections上に表示できるようになる。具体的には、現在提供しているニュースフィードを拡張し、標準技術である『Activity Streams』に対応させる。

■ メールクライアントの装備

Connections Mailと呼ぶ、ソーシャル・メールクライアント機能を追加する。メールやカレンダーをConnections上から直接扱えるようになる。例えば

Lotus NotesとMicrosoft Exchangeに対応する予定である。

■ コミュニティ機能の拡充

メーラーを使った投稿や、共有ファイルのキメ細かい管理(ロックや一括ダウロードなど)、LDAPとのより密接な連携など、既存ユーザーから多く寄せられていた要望を反映させる。

■ B 2 CやB 2 Eへの適用

WebSphere Portalとの連携を図る両者の間でタグやレイティング機能を統合できるようにするほか、顧客コミュニティ用のポートレット、モバイルデバイスの位置情報を活用したチェックイン機能などを装備する予定である。

他のソリューションとの連携でさらなるポテンシャルを発揮

コラボレーション基盤として、これからの時代に必要な機能を十分に備えているIBM Connectionだが、例えばそれが特定の業務に特化したソリューションと密接に連携すれば、より大きなポテンシャルを発揮することにつな

がる。IBMはこうした方向性も推し進めており、具体例としてはソフトウェア開発プロジェクトをより円滑に進めるための「IBM Rational Team Concert」との連携がある。メンバーが作業の進捗や成果物を

共有しながらユーザーとも自発的なコミュニケーションを伴ってプロジェクトを効率的に進める「コラボレーティブ・ライフサイクル・マネジメント(CLM)」を具現化するための有効な方策となる。

IBM Rational Team Concertは作業管理や構成管理を担うもので、他のツールと連携・統合を図るオープンなインタフェース「OSLC(Open Ser-vices for Lifecycle Collaboration)」を業界に提案している。これを介して、IBM Connectionsと結び付けるのが具体的な利用方法となる。

用途は色々と考えられるが、例えば開発メンバーのみならず、エンドユーザーとも気軽にコミュニケーションがとれる場として使うことができる。作業途中の成果物を逐次見てもらい、意見や要望といったフィードバックを得ながら、より目的に合致したものに仕上げていくといったことが可能になる。

新潮流の波頭に立つ製品群

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Page 32: IBM Software Vison 2012 Summer

図 1 セキュリティー対策を難しくしている背景

データの氾濫 日々の取引情報、文書データ、ソーシャル情報、音声・画像・動画情報、センサー情報などデータ量の増加が加速している

情報技術の大衆化 スマートデバイスの普及、ソーシャルメディアの利用拡大などにより、業務とプライベート、デバイスとデータの境界がなくなりつつある

企業情報の分散化 オンプレミスのDB、仮想化、クラウド、企業ソーシャルなど、情報の分散化が進展

サイバー攻撃の高度化 愉快犯から経済犯、国家レベルのサイバー戦争など、攻撃の手段は日々高度化している

ティー・リスクを包括的に把握し、網羅的に個別の脆弱性に対する対策を立てるための「IBMセキュリティー・フレームワーク(IBMSF)」を提供している(図2)。対策を施すべき対象を「ひと」「データ」「アプリケーション」「インフラストラクチャー」の各ドメイン(領域)に分類。それぞれへの対策を用意することで、網羅性を高める。それぞれの対策の結果として得られる情報を一元的に集約し、脆弱性を分析する「セキュリティー・インテリジェンス&アナリティクス」と呼ぶドメインも、IBMSFは備えている。万一、被害が発生した際の事後対策を容易にすることに加え、攻撃の傾向を察知するなど事前対策を可能にすることがその目的だ。本稿ではIBMSFの各ドメインについて、企業におけるセキュリティー上の課題と対策を述べる。

I B M S F❶ひと

ID管理にフォーカス

どれほどシステムやデータのセキュ

リティーを強化しても、データを扱う

情報セキュリティー対策は、今やどんな企業にとっても喫緊の課

題だ。Webサイトやコールセンターによる顧客の声の収集、RFIDが発する物流の状況、社員がやりとりする電子メール…。例を挙げるまでもなく守るべきデータ量は日々増大している。一方で情報を蓄積、処理する手段は多様化・分散化の一途を辿る。利用者サイドではPCに加えスマートデバイスの普及、サーバーサイドでは、クラウド・コンピューティングが好例だ。そこにサイバー攻撃 やセキュリティー犯罪の高度化が加わる。ブランド・イメージ低下、業務妨害、重要データ詐取など目的はともかく、脅威の増大を示す事例は枚挙にいとまがない。

データやシステムを守る側から見ると極めてやっかいな状況だ(図1)。

包括的セキュリティー対策の重要性

必然的にファイアウォールやウィルス対策、データの暗号化など単一の対策による特定の脅威の排除だけでは不十分になった。脅威の大きさや要するコストを把握した上で、優先順位付けを行い、包括的なセキュリティー対策をとることが求められる。このこと自体、決して簡単なことではない。何に対してどんな策をどのレベルで実施すればいいのか、それが見えにくいのだ。この問題に対し、IBMはセキュリ

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セキュリティーに関する大きな難題の1つが「何に対してどんな施策をどのレベル

でとればいいのか」が見えにくいことだろう。IBMはこの問題に対して「 IBMセキュ

リティー・フレームワーク」を提供し、「ひと」、「データ」など 4つのドメインから包

括的な解決策と、情報分析による対策改善のソリューションを提供している。

「IBMセキュリティー・フレームワーク」の実像ひと、データ、アプリ、インフラのリスクに対処

セキュリティー

森秀樹日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 セキュリティーシステムズ事業部 クライアント・テクニカル・プロフェッショナルズ主任 I Tスペシャリスト 丹羽奈津子同シニア・アーキテクト

田村小貴同マーケティング ミドルウェア・グループ

S o l u t i o n s f o r N e w I T T r e n d s

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図 2 IBM セキュリティー・フレームワークの全体像

先進的なセキュリティー&脅威の研究

ITインフラストラクチャー オペレーショナル・セキュリティー・ドメイン

セキュリティー・インテリジェンス&アナリスティクス

シングル・サイン・オン 暗号鍵ライフサイクル管理 セキュリティー・ポリシー 異常検知メインフレーム・セキュリティー

ID管理診断評価サービス、導入サービス、

ホスティングサービス

データ・セキュリティー評価サービス

暗号実装サービス、データ漏えい保護サービス

アプリケーション診断評価サービス

Firewall、IDS/IPS、UTMセキュリティー

運用監視

侵入テスト診断サービス

モバイル・デバイス管理サービス

統合認証管理 テスト・データ・マスキング

Webセキュリティー・ゲートウェイ セキュリティー統合管理 仮想化環境セキュリティー

ID管理、認証 データベース・セキュリティー Webアプリの脆弱性 不正侵入防御 エンドポイント管理

ひと データ アプリケーション インフラストラクチャー

セキュリティー情報とイベント管理 ログ管理 リスク管理 監査、コンプライアンスの評価

「ひと」の管理を疎かにすれば意味がない。不正権限やなりすましによる重要データへのアクセス、意図的あるいは不注意によるデータ流出といった事件・事故を防げないからだ。ここで「ひと」には社内データを扱う企業の正社員や契約社員のほかに、関連会社の社員、企業システムにアクセスする外部の顧客やユーザーなども含んでいる。セキュリティーの観点から見ると、このドメインには①管理対象の数が多く、管理負荷が大きい、②社員の入退社、人事異動、取引先企業の変化といったことから管理対象の属性・所属が逐次変化し、適切な把握が困難である、③クラウドなど外部システムも含め、様々なシステムの乱立により、「ひと」と対象システム・アカウントの紐付けが適切に行われない(休眠アカウントの存在を許してしまう)、④多くの場合、適切な権限管理を行うための統一的なポリシーや申請ワークフローが存在せず、存在しても適切に実施されない、といった問題がある。そこでIBMSFでは、ユーザー ID管

理を中核として「ひと」ドメインのセキュリティー対策をとることを推奨している。まず統合的なID管理環境を導入・構築して、「ひと」とアカウント権限を結びつける。その上で休眠アカウントなどの管理漏れを防止するために、ライフサイクル管理を導入する。さらにクラウドなどの外部環境も統合した形のシングルサインオンを導入すれば、アクセス権限を一元管理できる。ここまで来れば「ひと」に関して必要最低限の管理をできることになる。もちろんこのような環境を実現するためのソリューション(製品)も提供する。ユーザー IDの管理やクラウドも含めたシングルサインオン機能を備える「Identity and Access Management Suite」がそれだ。いうまでもなく「ひと」ドメインでは、

これ以外にも実施すべきことは多い。ポリシーを遵守しているか、怪しいサイトやメールを開いていないかなどが、その一例だ。先に「必要最低限の管理」と述べたのは、ユーザー IDの管理を様々な対策のベースと位置づけているから

である。なおPCやモバイル機器の管理については、IBMSFでは「インフラストラクチャー」で規定している。

I B M S F❷データ

暗号化とアクセス管理が鍵

「データ」とは、社内システム(主にデータベース)に存在する、顧客の個人情報や社内機密情報など外部からの参照や外部への流出から守るべきものを指す。サイバー犯罪では多くの場合、データが攻撃や盗難の目的・対象物となるため、そのセキュリティー対策の必要性は自明であり、かつ優先度が高い。一方でその対策は「ひと」に比べればシンプルで、アクセス制御と暗号化が基本となる。そこでIBMでは、具体策としてデータベースのアクセス制御・管理を行うソリューション、データを保護する暗号鍵を一元管理するソリューションを提供している。前者は、セキュリティー強化のためのアプライアンス製品「Info-Sphere Guardium」。データベースへ

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図 3 セキュリティー・インテリジェンス&アナリティクスの考え方。分析により、手作業による事後対応から自動化による事前対応への移行を目指す

高度に適応セキュリティーがIT基盤やビジネス運営の各層に組み込まれている

基本外部との境界線を防御し、アクセス制御と手作業のレポートを実施

最適化高度に適応最適化前兆を予見する自動化された分析的なセキュリティー

最適化

基本

高度に適応

自動化

手作業

事前対応 事後対応

を結ぶ通信ネットワークのこと。外部インターネット環境へのサービス提供や電子メールでの情報のやり取り、クラウドのような外部サービスの利用は、すべてネットワークを経由する。マルウェアや標的型攻撃などから重要データ・機密情報を保護するための最後の砦と言えるのが、ネットワークのセキュリティー対策である。もう1つの耳慣れない言葉「エンドポイント」は、業務に使用するPCやスマートデバイス、あるいは各種サーバー

(仮想マシンを含む)などを指す。エンドポイントには重要な顧客データや機密情報が格納され、例えば端末盗難による機密情報漏えい、外部記憶デバイスによるデータの持ち出しといったリスクが存在する。やはりセキュリティー対策、セキュリティー・ポリシーによる統合的な管理が必要である。ではどんな対策があるのか? ネット

ワークのセキュリティー対策として一般に、ファイアウォールや脆弱性対策のためのセキュリティー・パッチ適用が知られる。しかしファイアウォールで許可された通信による攻撃や、新種・亜種のウィルスに対しては、これらは不十分である。そこでIBMでは「IBM Security

Network Intrusion Prevent ion System (以降IPS)」を提供している。これは「X-Force」(別項記事参照)による脆弱性研究の成果を反映したバーチャル・パッチ・テクノロジーにより、脆弱性の保護を行うとともに、通信内容を解析して不正と見られる通信を遮断。不正侵入からネットワークを防御する仕組みだ。バーチャル・パッチ・テクノロジーとは、脆弱性に対する攻撃を検知、防御することで、脆弱性が存

の、適切なアクセス制御やアクセス記録の取得、リアルタイムの監視などを負荷を最小限に抑えながら実行する。

後者は、暗号鍵のライフサイクル管理ソリューションである「Tivoli Key Lifecycle Manager」であり、暗号鍵の集中管理、証明書有効期限切れ通知機能を提供する。ディスク装置やテープ装置にあるデータやファイルを保護する暗号鍵の紛失を防ぐ。暗号鍵の紛失防止および適正なライフサイクル管理は意外に難しく、この種のソリューションは非常に有用である。

I B M S F❸アプリケーション

2つの方法で脆弱性を検査

セキュリティー対策で往々にして見過ごされがち、あるいは軽視されがちなドメインが、「アプリケーション」である。しかし特にWebアプリケーションの場合、脆弱性を内包したまま実装していたり、セキュリティー対策を施していない状態のままだと、外部からの格好の攻撃対象となり得る。機能停止に追い込まれたり、重要情報の流出につながる恐れもあるため、対策は当然必要だ。

セキュリティー面から見たアプリケーションの品質を確保するには、開発工程におけるJavaやC、.NETなどのソースコードを調べるホワイトボックステスト、およびHTTPリクエストによる擬似的な攻撃を仕掛けるブラックボックステストによる脆弱性検査が必要となる。そこでIBMでは、脆弱性検査ソリューション「Rational AppScan Source Edition/Standard Edition」を提供している。Source Editionがホワイトボックステスト、Standard Edi-tionがブラックボックステストを、それぞれ受け持つ組み合わせである。これらを組み合わせると、「アプリケーション」の開発から公開・運用にわたるすべてのフェーズにおいて、網羅的な脆弱性チェックを実施できる。

I B M S F❹インフラストラクチャー

ポリシーの徹底とパッチの管理

4番目の「インフラストラクチャー」は社内のシステム基盤技術を意味する。IBMSFでは、それを「ネットワーク」と「エンドポイント」の2つに大きく分類している。ネットワークは社内外

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在するサーバーに対して、仮想的にセキュリティー・パッチが適用されている状態を作りだす技術である。

端末やサーバーなどのエンドポイントの対策では、複数のソリューションを提供している。その1つ、「Tivoli Endpoint Manager」は、エンドポイントのセキュリティー遵守状況を可視化し、ポリシー違反を自動修正する機能を持つ。具体的には、USBメモリーのような外部デバイスによるデータ持ち出し制限、セキュリティー・パッチの確実な適用、ウィルス対策ソフトの導入、Winnyなど禁止ソフトの起動の抑制といったことを、エンドポイントに対して強制実行できる。モバイル・デバイスについては、盗難時にリモートワイプ(遠隔データ消去)を実行する。クラウドなど 仮想環境向けには、

「IBM Secur ity Virtua l Server Protection for VMware」がある。バーチャル・パッチ・テクノロジーにより、仮想マシン間や外部からの脆弱性に対する攻撃を防御するだけでなく、新規仮想マシン生成時のパッチ未適

用のタイミングを狙った攻撃に対しても、安全性が確認されるまでネットワークから隔離できる。

I B M S F⑤情報分析

脆弱性分析で事前対策へ

「ひと」「データ」「アプリケーション」「インフラストラクチャー」の各ドメインに関するセキュリティー上の課題や対策を見てきた。これらの対策を別々に実施すると、最初はともかく時間とともに運用が非常に煩雑になる。結果としてコスト増大につながりかねない。そこで対策を継続的に実施するためには、各ドメインのセキュリティー対策について、統合的に情報を一括管理する必要がある。

IBMSFではこのために、4つのドメインの上位に「セキュリティー・インテリジェンス&アナリティクス(SI&A)」と呼ぶドメインを設けている。各ドメインからのセキュリティー対策情報ログの収集、ログ統計情報を元にした脆弱性分析、脆弱性の可視化といった一連

のフローを自動化し、事前的なセキュリティー対策を実施する。これにより場当たり的とも言えるセキュリティー対策から脱却し、システム全体に最適化した形でのセキュリティー対策をとることが可能になる(図3)。

SI&Aを実行するための具体的なソリューションとして「IBM Security QRadar」がある。これはSIEM(Secu-rity Information and Event Man-agement)分野での世界的なリーダー企業であるQ1 Labs社を、2011年に買収することで立ち上げた製品である。

各ドメインのソリューションが出力するログを収集し、正規化して分析することで、不正の兆候を可視化する。蓄積されたログから不正の証跡を追跡調査することも、事前に設定したポリシーに従ってリアルタイムでセキュリティー・イベントを生成させ、監視することも可能だ。文脈による推論機能および相関分析機能も備えており、通常の挙動から逸脱した企業内部のアクションを自動的に検知・通知。社員による情報への不正アクセスなどの不正行為の防止を支援する。

最後に、IBMSFを活用した4つのドメインのセキュリティー対策は、いわば包括的なセキュリティー対策の“入り口”であることを改めて強調しておきたい。これらへの対策を網羅した上で、さらに事後的なアプローチから、事前的な脆弱性対策へと進めていくことが必須だと筆者らは考える。そのためのアプローチが「SI&A」であり、今後、各ドメインのセキュリティー・ソリューションの強化とともに、IBMのセキュリティー研究開発機関であるX-Forceの最新の研究成果を反映させたSI&Aソリューションの充実に注力する。

C O L U M N

実はIBMはセキュリティー分野では世界有数の存在である。それを示すのが社内組織の「X-Force」。インターネットの脅威や脆弱性(セキュリティー・ホール)、攻撃の状態について、グローバルな規模で調査・研究を行っている。加えてX-Forceを頂点として、30拠点を超える社内のセキュリティー専門のセンターや研究所が日々、世界130カ国以上で120億件ものセキュリティー・イベントをリアルタイムで監視。顧客企業へのサービスを提供するほか、得た知見を製品やサービスに反映する。セキュリティー分野を担う専門家は、総勢6000人以上。民間企業では最

大規模と言える3000件ものセキュリティー関連特許も保有している。

新潮流の波頭に立つ製品群

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セキュリティー 研 究 開 発 機 関

「X - F o r c e」とは?

Page 36: IBM Software Vison 2012 Summer

今、企業情報システムに携わる人々がやるべきことは、ITを業務効率化の道具から、事業価値をもたらす武器へと発展させていくことである。そのことを考えればモバイルやクラウドに限らず、最新技術の取り込み・活用は必然といえる。

SOAの実装を急ぐべき

しかしここで疑問が生じる。現在の企業ITは、スマートデバイスやクラウドをフルに活用できる状況にあるのか、という点だ。結論を言えば多くの企業において、答はNoである。開発年代や利用技術が異なる多種多様なシステムが混在するため、仮にハードウェア基盤は仮想化技術を使って集約・統合したとしても、データやアプリケーションになると連携さえ簡単にはできないのが実態ではないだろうか。そこで必要かつ喫緊の課題が、企業

ITの進化である。第一歩は、ビジネス・プロセスやデータ、アプリケーションなどのレイヤーにおける情報システム全体を、EA(エンタープライズ・アーキ

インターネットの爆発的な広がりとそれに伴う様々な技術──クラ

ウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータなど──の進化を受けて、企業情報システムは今、変化を迫られている。

例えばモバイル。「消費者(=従業員)が直接慣れ親しんでいるコンピュータ技術=スマートデバイス」を、企業が考慮に入れないわけにはいかない。スマートフォンやタブレットなど、いわゆるスマートデバイスの企業ITにおける活用は、必然的にどんどん進んでいく。

スマートデバイスと企業I Tが連携

実際、スマートデバイスに備わっている直感的な操作性、GPS機能や各種センサーなどは、使いようによっては企業情報システムに大きなメリットをもたらす。例えば設備の保守作業を行う際に、タブレットに表示した地図とGPSで場所を案内。到着したら詳細な手順や作業指示を行う。作業を終えたらカメラで設備の写真を撮影し、デバイスを傾けるだけで完了報告を送信する。

こんな仕組みがあれば、特別な訓練なしに作業員がスムーズに仕事をこなせるようになる。こうして時間と場所を選ばないプラットフォームとして、企業ITの利用シーンが広がっていくのだ。

一方、取引先との協業や事業の海外展開、BCP(事業継続)といった課題を考えたとき、クラウドコンピューティングの本格活用も、重要なテーマだ。プライベートクラウドは当然として、IaaS/SaaS /PaaSなど外部のパブリック・クラウドサービスが視野に入ってくる。その際に最も必要なのは、既存情報システム環境とのシームレスな運用である。

例えばオンプレミスで運用しているシステム基盤の能力が不足した際に、クラウド環境と連携して動的に負荷を分散する。あるいはオンプレミス環境で扱うデータや業務プロセスをクラウド上のそれらと連携させるといった組み合わせだ。外部SaaS上で入力した契約データを、オンプレミスで運用している会計ERPパッケージのデータとリアルタイム連携させるといった用途も増えるだろう。

34 │ IBM Software Vision 2012 summer │

モバイルやクラウドなど最新のテクノロジーの利点を企業が享受するには何が必要な

のか? その答は企業情報システム自体を進化させることにある。鍵を握るのが「SOA

(サービス指向アーキテクチャー)」だという。

次世代企業情報システムに求められる要件最新ITを取り込んで価値創造の武器に

総   論

渡辺隆日本アイ・ビー・エムソフトウェアマーケティングミドルウェア&ソリューション部長

P r o d u c t s t h a t S u p p o r t F l e x i b l e I T P l a t f o r m s

Page 37: IBM Software Vison 2012 Summer

図 今こそ EA の考え方に則ってシステム全体を可視化する必要がある

ビジネス実行環境と ITインフラストラクチャー

IT戦略ビジネス戦略

ITアーキテクチャー

還移計画

ビジネス・アーキテクチャー

・アプリケーション・データ・テクニカル

・プロセス・情報・人・拠点

ITソリューション

Application Architecture(適用処理体系)

Data Architecture(データ体系)

Technology Architecture(技術体系)

Management Process Principle Standards

 Vitality Process(EAの活用・維持する仕組み)

Business Architecture(ビジネス体系)

テクノロジー動向ビジネス機会

戦略

計画

設計と導入

Ente

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体系化

テクチャー)のアプローチによって整備し、全体像を描くこと(図)。自社のIT資産の棚卸しと言える。そして描いた全体像の実現に向けて、SOA(サービス指向アーキテクチャー)の適用を検討、実施する。これが第2ステップだ。「SOAは死んだ」とか「絵に描いた餅」などSOAに対する否定的見解は少なからずあるようだが、既存システムを生かしながら最新のテクノロジーを活用できるようにするには、SOAは最適解である。こうした考えの下、IBMは「Web-

Sphere」ブランドで多様なソリューションを提供している。SOAによるシステム連携のための「WebSphere Enterprise Service Bus(ESB)」、ESBでは難しい標準外フォーマットを使用しているシステムの連携のための「WebSphere Message Broker」ハードウェア一体型の連携基盤「Web-Sphere DataPower SOA アプライアンス」などである。

ESBと並ぶもう1つの柱、サービス化したシステム同士を業務視点で連携して新たなプロセスを作成するためのBPM(ビジネスプロセス管理)ソリューションも同様である。BPMの開発・実行基盤である「IBM Business Process Manager」、ビジネスルールやイベント処理によって意思決定を支援する「WebSphere Operational Decision Management」などの製品を提供している。「いろいろあり過ぎて却って分かりにくい」との見方もあるかも知れないが、ユーザー企業が擁する情報システムの規模や複雑性は文字通り千差万別である。多くの企業のニーズに応えられるよう、IBMは今後も製品ラインアップを拡充する計画だ。

求められる企業ITの進化

こうしたソリューションを活用して、企業ITを進化させれば、それでスマートデバイスやクラウドをはじめとする最

新のテクノロジーを、自在に駆使できるようになるだろうか?実のところ、そう簡単にはいかない。スマートデバイスは画面サイズや開発言語がバラバラだし、何よりもセキュリティーや運用管理上の問題がある。クラウドについても、既存システムとの連携、既存システムのクラウドへの展開(稼働)、既存システムとクラウドをまたがった運用管理や資産管理、セキュリティーなど、考慮すべきことは多岐にわたる。さらに、SOAを適用すればそれで企業情報システムが万全になるわけではなく、それ自体の進化も必要だ。そこで以下では、スマートデバイス、クラウドコンピューティングについて、企業情報 システムと 連携 させるソリューションを見ていく。続いて、アジャイル開発やクラウドやモバイルといった新しい基盤の体系が複雑に絡む中、開発と運用チームがどのように連携し、システムの生産性や品質を高めていくべきなのかを解説する。

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 35

機動力を支えるコンピューティング基盤

Page 38: IBM Software Vison 2012 Summer

図 1 IT サービスを動的に提供し、ビジネス価値を最大化させる

Server

Storage Network+ 仮想化共通

基盤標準化された

管理オペレーション

自動化 サービス提供の最適化

持続的な基盤提供ビジネスへの貢献

ビジネス・バリュー

ば、今後3~5年で最も影響を及ぼす要因として、多数のCEOがITを挙げている。

一方、ITサービスを提供する側のIT部門はどうか。厳しい経済環境の下、IT予算が厳しく制約されて必要なシステム増強や人材補充もままならないうえに、複雑化が進んだ結果、IT基盤は柔軟性を欠き、システムやアプリケーション、クライアントPC環境の運用管理にかかる負荷は増大の一途をたどっているのが実情だ。こうしたビジネスとITのギャップを

埋める有力なアプローチの1つと目されているのがクラウド・コンピューティングである。クラウドの効果的な活用は、今日の急激なビジネス環境の変化に追従できなくなった既存のIT基盤を再生し、「経営に直接貢献するIT」の実現を可能にする取り組みだと言える。

仮想化から標準化・自動化へクラウドによる運用管理の効率化

「ITサービス提供モデルの工業化」を促すクラウド・コンピューティング

システムを「作る」に加えて、「使う」という選択肢をもたらすクラ

ウド・コンピューティング。この新しいITモデルが企業にとっての ITのあり方を大きく変えつつある。クラウドの採用が早くから進んだ欧米の企業に続いて、国内においても多数の企業がクラウドに注目するに至った背景として、経営陣や事業部門の期待とITサービスとの間のギャップが拡大しているこ

とが挙げられる。事業のグローバル展開、BCM(事業

継続管理)、コンプライアンスや情報セキュリティーの強化など今日のさまざまな経営課題を解決するためのキーファクターとして経営陣がITにかける期待は非常に高く、多くの企業がITへのさらなる投資が必要であると考えている。IBMがグローバルで実施している年次調査「IBM CEO Study 2010」によれ

36 │ IBM Software Vision 2012 summer │

弾力性に富んだシステム基盤を用意するため、クラウド・コンピューティングの採用に踏

み切る企業が増えている。IBMが注力しているのは、運用管理の効率化、セキュリティー

の確保、既存システムとの統合・連携、ビジネス・プロセスの再設計といった業務システ

ムの要件を高いレベルでクリアするエンタープライズ・クラウドの提供である。

ビジネスとITのギャップを解消するIBMの「エンタープライズ・クラウド」

クラウド・コンピューティング

西倉誠日本アイ・ビー・エムT i v o l i マーケティング・マネージャ

原口知子日本アイ・ビー・エム W e b S p h e r eクライアント・テクニカル・プロフェッショナル

水谷有貴日本アイ・ビー・エム W eb S p h e r e マーケティング・マネージャ

P r o d u c t s t h a t S u p p o r t F l e x i b l e I T P l a t f o r m s

Page 39: IBM Software Vison 2012 Summer

図 2 IBM SmarterCloud の体系

マネージド・クラウド・サービスクラウド・サービス

IBMデータセンター IaaS,、PaaS

Business Process as a ServiceSoftware as a Service

Platform as a Service

Infrastructure as a Service

導入設計 運用

クラウド・ビジネス・ソリューションクラウドを活用した新しいサービス

SaaS、BPaaS

IBMクラウド・コンピューティング・リファレンス・アーキテクチャー /オープン・スタンダード

プライベート / ハイブリッド・クラウドソフトウェア・ハードウェア製品

導入・構築サービス

IBM SmarterCloudServices

IBM SmarterCloud

IBM SmarterCloudSolutions

IBM SmarterCloudFoundation

では、従来の人手に頼っていた作業の機械化・システム化が不可欠であり、そのためには、ITリソースの共有を図る仮想化や作業プロセスの標準化および自動化が必要となる。企業がクラウドを採用し活用する過程においては、この仮想化・標準化・自動化をこの順番で推し進めていくことになる。まず、ハードウェア・リソースの管理を下位レイヤー内に分離する仮想化は、近年多くの企業がすでに着手し、ITシステム利用効率の向上と初期投資の抑制といった効果を上げている。

仮想化の次のステップは標準化である。標準化のための各種手法とテクノロジーによって、各ITサービスをサービス・カタログとして体系立てて可視化するで、ITシステムやアプリケーションの集約・統合が容易になる。

最後のステップは自動化で、要求されたリソースを自動的に構成し配備するプロビジョニング機能によって、IT部門にかかる運用管理業務の負荷軽減やITコストの削減が図られるようにな

る。こうしてクラウドによって推進される

仮想化・標準化・自動化が、企業のIT基盤を全体最適の形で刷新し運用管理効率を大きく高めることで、IT部門では、ビジネス部門に対して迅速でかつ高品質なITサービスを提供していける体制・仕組みが整う。

IBMでは、クラウド・コンピューティングを、仮想化・標準化・自動化されたIT基盤上で、動的に提供されるITサービスとその利用の新しいスタイルと定義している(図1)。

エンタープライズ・クラウド「IBMSmarter Cloud」

IBMは、グローバルで長年培った仮想化技術や自動化技術を含むサービス・マネジメントやアセットを開発し着実に進化させることによって、企業ITシステムの要件を満たす「エンタープライズ・クラウド」を構築・運用するための製品群として「IBM Smarter-

Cloud」ポートフォリオを提供している(図2)。そして、エンタープライズ・クラウド

環境の基盤を支える製品群として位置づけられているのが、プライベート・クラウド、オンプレミス、あるいはパブリック・クラウドを含めたハイブリッド環境において、さまざまなサービス/アプリケーションのインストール、管理、設定および構築の自動化を図る統合ソリューション「IBM SmarterCloud Foundation」である。

以下では、主要製品の特徴を紹介しながら、クラウドの構築と運用、そしてハイブリッド・クラウドを検討するうえで重要な留意点を挙げていく。

PaaS環境の迅速な構築を可能にする「IBMWorkloadDeployer」

プライベート・クラウドは、高いセキュリティー・レベルやパフォーマンスを確保しながらビジネス・ニーズに即して迅速にシステムを立ち上げたい場

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 37

機動力を支えるコンピューティング基盤

Page 40: IBM Software Vison 2012 Summer

表1 プライベート・クラウドの運用改善に向けたポイント

申請管理(Control)

利用者がいつでも申請できるシステムとメニュー提供

申請~終了までワークフローによる一貫したプロセス管理

構成管理情報(リソースの空きなど)と連携できる仕組み

自動構築(Automation)

誰でもセットアップできる環境 (属人性の排除)

指定した日に環境が準備されている仕組み

利用後に環境が自動的に消去される仕組み

統合監視(Visibility)

正常稼動しているか、障害になりそうな要因は無いか

複雑な仮想化環境の全体構成と状態をいつでも把握

過去のデータをチェックしてリソース不足や振舞いを確認

ある。同製品は、IT環境全体にわたるシステム障害・問題、変更、構成、リリースおよびIT資産を対象とし、サービス・カタログ、サービス・デスク、およびITIL V3準拠プロセスのための各種管理機能を提供する。同製品を導入することで、サービス継続性やシステムのレスポンス、管理効率などを向上させることが可能だ。

一方、「IBM SmarterCloud Provi-sioning」は、数分で数百個の仮想マシンの起動が可能な超高速プロビジョニング管理製品で、「仮想イメージ・スプロール」と呼ばれる、クラウド環境の拡張を進めるに伴って仮想イメージの数が増大し運用管理に破綻を来してしまう問題を解決できるようになる。

クラウド/オンプレミス連携を容易にする解を用意

クラウド・テクノロジーの進展によって、オンプレミス、プライベート・クラウド、パブリック・クラウドの各モデルを適材適所で採用するハイブリッド・クラウドの導入が多くの企業にとって現実味を帯びつつある。しかしなから、異なるモデルで構築されたシステム間をどのように連携するかという問題をはじめ、全体でのセキュリティーの確保の問題や運用管理の複雑化の問題など、その構築と運用にあたっては難度の高い課題が存在する。「IBM WebSphere Cast Iron Cloud インテグレーション」は、従来、数カ月単位の開発期間を要していた、クラウドとオンプレミス間でのアプリケーションやデータを容易に連携する製品である。

同製品は、SAPやSalesforce CRM

合に有効なクラウド・モデルである。「IBM Workload Deployer」は、このプライベート・クラウドのPaaS(Plat-form as a Service)基盤の導入・構築を容易に行うためのアプライアンス製品である(図3)。

IBM Workload Deployerには、アプリケーションの実行基盤(仮想マシン群)を迅速にデプロイし効率的に運用管理するための機能が備わっている。PaaS /仮想システムの稼働基盤は「IBM WebSphere」を軸とした複数のミドルウェア製品とそれらの設定や構成情報が事前に定義されている「パターン」として提供される。これらによって、オールインワンで一括導入・構築が可能な仕組みになっている。

同製品を導入することでユーザー企業は、PaaSの構築に要する期間を大幅に短縮できると同時に、デプロイされるアプリケーションの種類や既存のシステムとの接続・連携などを意識することなく運用することができ、ITコストの削減が図られる。なお、2011年11月にリリースされた現行バージョンの

v3.1では、新たにAIX/Linuxサーバーの「IBM System p」用の仮想アプリケーション・パターンをサポートしたのをはじめ、多数の機能拡張が施されている。

IT環境全般のサービス・マネジメントを司る

飛行機の操縦方法に例えるなら、従来のオンプレミスのみの環境の管理は有視界飛行に相当し、プライベート・クラウド環境の管理は、自動化を追求した計器飛行に相当する。その際、管理の単位はサービスとなり、すべてのサービスを包括的に管理可能なサービス・マネジメントの仕組みが不可欠となる。なお、表1にプライベート・クラウドの導入時になされる運用の改善ポイントを示す。「IBM Smar terC loud Con t r o l Desk」は、オンプレミスとクラウドの両環境に対応したサービス・マネジメントにおいて主に申請管理を担う製品で、2012年3月に発表された新製品で

38 │ IBM Software Vision 2012 summer │

P r o d u c t s t h a t S u p p o r t F l e x i b l e I T P l a t f o r m s

Page 41: IBM Software Vison 2012 Summer

表 2 その他の IBM SmarterCloud Foundationソフトウェア製品

図 3 IBM Workload Deployer の概要プライベート・クラウドでのミドルウェア環境構築の時間短縮とTCO の削減を実現するアプライアンス

仮想化環境対応済みの IBMミドルウェア製品(Hypervisor Edition)を使用し、仮想化環境に最適なミドルウェアを素早く配布

仮想システム・パターン

仮想アプリケーションのパターンである、「ワークロード・パターン」を配布。一元的な管理とモニタリング機能により、ライフサイクル全体に渡り管理可能

仮想アプリケーション・パターン

2種類の配布モデルをサポート

ハードウェア・アプライアンス

製品パターン

HypervisorEditionの仮想イメージ

ワークロードパターン

プライベート・クラウドにPaaS環境を素早く構築 x86

System p

x86

System p

System z(z/Linux)

仮想化環境New v3.1

製品名 概要

IBM SmarterCloud Monitoring仮想化・クラウド環境の監視とキャパシティー・プランニング

IBM SmarterCloudContinuous Delivery OSLCに基づいた開発・運用ツール連携

IBM SmarterCloud Virtual Storage Center ストレージリソースの仮想化とプロビジョニング

IBM Tivoli Storage Manager for Virtual Environment

仮想化環境のバックアップ

IBM Security Virtual server Protection for VMware

仮想化環境のセキュリティー保護

のようなパッケージ、DB2やOracleのようなRDBMSとの連携を実装する数百種のテンプレートを用意している。そのためコーディングすることなく直感的な操作で、データの連携や移行、アプリケーションのUIマッシュアップやプロセス統合を行うことが可能だ。なお導入は、ユーザーの環境に応じてハードウェア・アプライアンス、ソフトウェア・アプライアンス(Hypervisor Edi-

tion)、SaaS(Cast Iron Live)のいずれかを選べるようになっている。また、IBM Service Management Exten-tion for Hybrid Cloudと組み合わせればプライベート、パブリックの両方を統合管理できるようになる。

◇ ◇ ◇

これまで紹介したほかにもIBMは、電子メールやWeb会議などにおいてソー

シャル・ネットワーク型コラボレーション機能を提供するSaaS「IBM Smart-erCloud for Social Business」や、柔軟性・安全性・信頼性を兼ね備えたIaaS環境を1時間10円から提供する「IBM SmarterCloud Enterprise」

(プライベート・クラウド型も用意)といったパブリック・クラウド・サービスを提供している。

IBMはクラウド・コンピューティングを、今日のITに求められる高い俊敏性・柔軟性・効率性を実現する「Re-think IT(ITの再生)」と、業務プロセスを変革しイノベーションの創出につなげる「Reinvent Business(ビジネスの創生)」を共に実現するものと位置づけている。運用管理の効率化を主眼に置いてIBMのクラウド・テクノロジーを紹介した本項の内容が、読者のIT環境の再生とビジネスの創生への取り組みのヒントになれば幸いだ。

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 39

機動力を支えるコンピューティング基盤

Page 42: IBM Software Vison 2012 Summer

③ 連携する既存業務システムの増強

「いつでも、どこでも処理ができる」というモバイルデバイスの特性から、システムにリアルタイム性が求められる。また、接続する端末が増えれば、既存システムへのアクセス量も増大するので、パフォーマンス対策を検討しなければならない。

一方、社外から頻繁にアクセスするという状況に鑑みれば、モバイル端末のみならず業務システムへのセキュリティー強化も不可欠になる。

④ ユーザーエクスペリエンスの提供

「新たな価値の提供」という視点を持って取り組むことも重要だ。

例えば、デバイスのGPSで把握することのできる位置情報と、在庫管理システムのデータを組み合わせれば、顧客の現在地に最も近くて現物を確認できる売り場を案内するようなサービスが可能となる。モバイル展開で競争優位を獲得す

るには、業務システムとの多面的な連携を視野に入れて知恵を絞ることが重要性を増す。

大きな可能性を秘めたモバイルデバイスを企業システムにも取り

入れようとの模索が始まっている。業務システムに「いつでもどこでも簡単に」アクセスできる環境を整備し、ビジネスチャンスの獲得や、顧客や取引先の満足度向上などにつなげようという考えだ。

本パートでは、企業システムにモバイルデバイスを組み入れる際の考慮点と、IBMが提供するソリューションについて解説する。

モバイルデバイスの企業利用念頭に置くべき4つの留意点

まず、モバイルデバイスを業務で使う際に念頭に置いておかなければならないポイントを整理してみよう。

① 多機種への対応

業務システムにアクセスするモバイル端末は従来、ある程度標準化されたノートPCが主流だった。このため、クライアント環境を限定してアプリケーションを開発することができた。

ところが今は、 iPhoneやAndroid端末、Blackberryなど多様な端末が混在し、画面サイズや開発言語がバラバラな状況にある。次々に新機種が登場することや、BYOD(Bring Your Own Device:個人所有デバイスの業務利用)の流れに照らせば、機種を特定して展開するのは非現実的だ。開発とその後のメンテナンスを容易にするためにも、共通の言語で開発し、修正・変更の際にも工数を削減できるような新たな基盤が必要となる。

② 運用管理とセキュリティー

常に社内LANに接続されているとは限らず、むしろ外出先で頻繁に使われることを想定しなければならない。とりわけ重要なのは紛失や盗難時に

速やかに対応することだ。もしモバイル端末に機密情報を入れたままの状態を放置すると、漏洩につながりかねない。リモートで対処できるような仕組みが必要になる。

緊急のパッチ適用など、OSやアプリケーションを全ユーザーを対象に常に最新版に保つことも欠かせない。

40 │ IBM Software Vision 2012 summer │

これからの企業システムは、進化著しいモバイルデバイスを巧く取り込んでいかなけれ

ばならない。その際の考慮点と IBMが提供するソリューションを解説する。

企業システムのモバイル対応に必要な考慮点とソリューション

モバイル・コンピューティング

原口知子日本アイ・ビー・エム W e b S p h e r e クライアント・テクニカル・プロフェッショナル

水谷有貴日本アイ・ビー・エム W e b S p h e r e マーケティング・マネージャ

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Page 43: IBM Software Vison 2012 Summer

図 1 モバイル・アプリケーションの種類

メンテナンス・コスト(TCO)

ポータビリティ(マルチ・デバイス対応)

リッチなモバイル画面のサービスの提供

ハイブリッド・モバイル・アプリケーション

コードの大部分を再利用可能なWeb技術を使って開発。デバイス依存の機能はネイティブ・コードで補完

ネイティブ・モバイル・アプリケーション

ネイティブの言語を使用して開発。パフォーマンスが高く、デバイス固有の機能を活用できるが、開発・テストの負荷が高い

モバイルWebアプリケーション

オープンな技術(HTML5、CSS、JavaScript)を使用。開発生産性やポータビリティは高いが、デバイス特有の機能は使えない

アプリケーション・ストアからダウンロードして導入モバイルのブラウザ上で実行

IBMが描くモバイルエンタープライズ戦略

日々の業務を遂行する端末として、今後はモバイルデバイスがごく一般的に使われるようになるだろう。IBMでは、先に見た課題を解決するためのソリューションを拡充している(図1)。

2012年 2月 に 買収 を 発表 し た

Worklightと、2012年3月にリリースした「IBM Endpoint Manager for Mobile Devices」を中心に、既存の業務システムを構成するミドルウェアとの連携を強め、よりモバイルに適した開発/実行/運用環境の提供を進めている。

企業がモバイル対応に取り組む時に考慮すべきポイントとして、以下の6つの項目が挙げられる。・ モバイルアプリケーションの開発・ モバイルアプリケーションと既存システムの連携

・ モバイルデバイスとアプリケーションの管理

・ セキュリティー・ 既存アプリケーションのモバイルデバイスへの展開

・ 新しい機会創出によるビジネス変革以下では、開発、管理とセキュリ

ティー、既存基幹システムの増強にフォーカスして、解説する。

迅速で工数を削減するモバイル向け開発・実行環境

モバイルアプリケーションの開発における課題は、多機種に起因する作業の複雑さにある。

最近ではWebの標準技術としてHTML5やCSS3が浸透してきており、

サードパーティ製のJavaScriptライブラリーと一緒に使用することで、モバイル向けWebアプリケーションを比較的容易に作成できるようになっている。

JavaScriptライブラリーとしては、オープンソースのjQuery MobileやDojo Mobileがよく利用されている。標準技術を利用すると開発生産性が高く、iPhoneやAndroidといったプラットフォームに依存しないアプリケーションを構築できる。だが、その反面、デバイス特有のカメラやGPSを活用することができないというデメリットがある。これらの課題を解決する方法として、

最近では「ハイブリッドアプリケーション」と呼ぶ方式が注目されている(図1)。 大部分 をHTML5 やC S S3、JavaScriptを用いて作成し、一部にネイティブアプリケーションを組み込むことで、デバイスとの連携やセキュリティーの向上を実現するアプローチである。企業は、開発生産性を向上しながらも、Webアプリケーションだけでは実現できなかった高度なユーザーエクスペリエンスを提供するアプリケーションを構築できるようになる。

IBMが提供するモバイルアプリケーションの開発・実行環境としては、Java

EEのアプリケーションサーバーである「WebSphere Application Server

(WAS)」と、先日買収 が 完了した「Worklight」がある。アプリケーション基盤として長年多くの企業で採用されているWASは「Feature Pack for Web 2.0 and Mobile」という無償のアドオン製品の提供を2011年に開始し、Webベースのモバイルアプリケーションの開発・実行の機能を追加した。この製品は、オープンソースのDojo

Mobileをベースに、企業向けの拡張をIBMが提供するという位置付けにある。WASのサポート契約を結んでいるユーザーには、オープンソースのDojoについてもサポートが得られるというメリットがある。短期間でモバイルWebアプリケーションを開発したり、既存のJava EEアプリケーションに対してモバイルインタフェースを追加したりするのに適している。

MEAPとして提供するWork l ightの特徴

モバイルデバイスの特性をさらに生かすアプリケーションについては、統合的なモバイルエンタープライズアプリ

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 41

機動力を支えるコンピューティング基盤

Page 44: IBM Software Vison 2012 Summer

図 2 モバイルコンピューティングにおける包括的なエンタープライズフレームワークを提供

セキュリティーゲートウェイWebSphere DataPower

ライフサイクル管理Rational Collaborative Lifecycle Management

キャッシュWebSphere eXtreme Scale WebSphere DataPower XC10

セキュリティー /デバイス管理IBM Endpoint Managerfor Mobile Devices

ビジネスプロセス管理IBM Business Process Management

意思決定の自動化WebSphere Operational Decision Management

モバイルアプリケーション基盤Worklight

エンタープライズアプリケーション

業務システム連携基盤(SOAなど)WebSphere Message Broker,WebSphere MQ(MQTT),WebSphere Cast Iron,WebSphere Services Registry and Repository

築し、さらにその1カ月後にはAndroidにポーティングすることに成功した事例もある。このように、Worklight使用によって、高度なユーザーエクスペリエンスを提供するモバイルアプリケーションを短期間で開発することを実証している。

運用管理とセキュリティーMDM機能で万全を期す

企業内でのBYODが進むにつれ、デバイスの管理やセキュリティーの重要性も認識されてきている。最近では、モバイルデバイスマネージメント(MDM)という用語が一般に使われるようになり、MDMを実現するソフトウェアやクラウド型のサービスが企業でも利用され始めた。

IBMでは、サーバーやPCを管理する製品としてIBM Endpoint Managerを提供してきたが、2012年3月にはMDM対応の製品として「IBM End-point Manager for Mobile Devices」の提供を開始し、モバイルデバイスを含む企業の端末全体を統合的に管理できるようにした。

ケーションプラットフォーム(MEAP)として提供するWorklightがカバーする。「HTML5とハイブリッドアプリケーションのためのオープンで先進的なプラットフォーム」というコンセプトを基に、Worklightは、Eclipseベースの統合開発環境、クライアントライブラリー、サーバーランタイムとコンソールで構成している。

開発環境として提供する「Worklight Studio」は、1つのアプリケーションの中で、iPhone/iPad/Android/Black-berry/Windows Phoneといった複数プラットフォームに対応できるのが特徴だ。つまり“Bui ld Once , Run anywhere”を実現している。さらにHTML5、jQuery、Dojo、PhoneGapといった主要なライブラリーを組み込むことができるため、拡張性にも優れている。もちろん、カメラやGPSなど端末固有の機能と連携したアプリケーションを作ることも可能だ。最終的にはネイティブアプリケーションとしてパッ

ケージングするので、Apple AppStoreやGoogle Playに公開できる。この他にも、Worklightの主な特徴

として以下が挙げられる。

・ デバイスに導入されたアプリケーションのWebリソースを、サーバーから直接更新することが可能。これにより、ユーザーがAppStoreやGoogle Playから最新バージョンのアプリケーションを導入していない場合でも、必ず最新のアプリケーションに更新できる。

・ Webサービス(RESTおよびSOAP)接続および JDBC接続の機能を提供し、バックエンドシステムと容易に連携できる。

・ プッシュ通知のフレームワークを提供し、1つのアプリケーションからiOSやAndroidの異なるAPIを利用することが可能。

・ 認証によるアプリケーション保護やキャッシュ暗号化によるセキュリティー向上。

・ Worklightコンソールからアプリケーションのバージョン管理やプッシュ通知の管理が可能。また高度なレポート機能を提供し、BIシステムと連携可能。すでに海外では、100以上の画面を

持つリッチなハイブリッドアプリケーションをわずか3カ月でiOS向けに構

42 │ IBM Software Vision 2012 summer │

P r o d u c t s t h a t S u p p o r t F l e x i b l e I T P l a t f o r m s

Page 45: IBM Software Vison 2012 Summer

IBM Endpoint Managerは、IBM社内で既に44万台の端末を管理している実績があり、非常にスケーラビリティの高い製品である。集中管理を担う管理サーバーとクライアント用のエージェントで構成しており、1台の管理サーバーで、25万台までのモバイルデバイスを監視・管理ができる。

MDMの機能としては、端末のモデル名、シリアル番号、OS情報、ユーザー情報、アプリケーション情報などを管理サーバーで一元管理する。また、地図上で端末の位置情報をリアルタイムに確認することにも対応済みだ。セキュリティーを向上するために、パスワードルールの設定やデータの暗号化、カメラやメール機能の制限といった機能も

備える。端末の紛失・盗難時やコンプライアンス違反時には、遠隔からデバイスの画面をロックしたり、データを消去(ワイプ)できる。

今後、モバイルアプリケーションが普及すると、重要な経営情報をモバイルデバイスから簡単に参照したり、デバイス上に保存できるようになるため、企業はセキュリティーポリシーの策定と実装についてもアプリケーションの開発と同時に検討していくべきである。

専用ソフトやアプライアンスで連携する既存業務システムを増強

モバイルを活用したシステム全体を最適化するため、IBMはモバイルプ

ラットフォームを拡張する様々なソフトウェアやアプライアンスを提供している。例えば、モバイルプラットフォームの前段にセキュリティーのアプライアンス「DataPower」を配置することで、メッセージレベルでのセキュリティー

向上を図る。インメモリーキャッシュを担うソフトウェア「WebSphere eXtreme Scal e」や、キャッシュ・アプライアンス「DataPower XC10」と連携することで、モバイルアプリケーションの応答時間を短縮し、サーバーへの負荷を軽減することができる。さらに、バックエンドのESB製品やBPM製品と連携することで、モバイルデバイスを活用した新しいマルチチャネルアプリケーションを

構築することができるようになる。

モバイルに特化したアプリケーションやデバイスを管理する製品のほか、既存のIBMソフトウェアにおいてもモバイル対応を着々と進めている。「I B M C o g n o s M o b i l e」 は、i P h o n e / A n d r o i d /B lackber ryに対応済みで、常にネットワークに接続していなくても、どこでもB I環境にアクセスすることができる。すでにオフィスのPCで慣れた親しんだインタフェースを生かし、モバイル上で自在に情報活用して、どこにいても迅速に意思決定できることを徹底して追求した。また、ソーシャルを活用する企業をサポートする「IBM

Connections」でも、モバイル対応を進めることで、創造的なコミュニケーションの活性化を目指している。場所を問わずモバイルデバイスから必要な資料にアクセスできるのはもちろんのこと、移動時間や短い空き時間にWik iやコミュニティーに投稿するのも簡単だ。オフィス空間に縛られない自由度は、個人のアイディアを逃すことなく、コミュニケーションを高め、企業内に優位な情報を蓄積することにつながるはずだ。このほか、「Lotus Notes/Domino」「Coremetrics」「Unica」などもモバイルに対応しており、既存資産や企業内システムの活用の幅を広げるための一翼を担っている。

ソーシャルビジネス系

IBM Lotus Notes Traveler

IBM Connections

IBM Sametime

IBM Lotuslive Meetings

IBM Symphony

ビジネスアナリティクス系

Coremetrics for Mobile

IBM Cognos Mobile

コマース系

IBM Stering Integrator Mobile

IBM Stering Store Associate Mobile

IBM Stering TMS Carrier Mobile

IBM Stering Field Sales Mobile

IBM Stering Order Management Administration Mobile

IBM Stering Control Center Mobile

IBM Stering InFlight Data Management Mobile

IBM Stering Document Tracking Mobile

表 モバイル端末に対応済みの主要なアプリケーション

│ IBM Software Vision 2012 summer│ 43

機動力を支えるコンピューティング基盤

既存ソフトウェアでのモバイル対応C O L U M N

Page 46: IBM Software Vison 2012 Summer

ロセスの整備に多くの時間とコストをかけてきた事例が少なくない。部門内での最適化が進んだ結果、管理している様々な情報が、他部門と関連性が取られていなかったり共有されておらず、多くの無駄な作業を生み出している。クラウド技術の進展によってインフ

ラそのものがアジリティーを獲得するのに呼応して、”ビジネス要求に応えたITサービスを提供する”という大目標をもとに、「開発部門と運用部門のコラボレーションによる価値の最大化」としてのDevOpsが提唱されるに至っている。

DevOpsを形にするためのIBMの3つのアプローチ

IBMでは、開発部門と運用部門との間に横たわるギャップを埋めるため、両部門に橋渡しをし全体最適を加速するために「プロセス」「人的側面」「ツール」の3つのアプローチを提唱している。

【1】プロセス面でのアプローチ

ひとつは両部門が運営するプロセス面での統合度合いを高めるというアプ

“DevOps”は、その綴りから想像できるように、開発(Devel-

opment)と運用(Operations)とをつなぎ合わせた造語である。2009年頃から海外で各種の記事やイベントで使われ始め、国内でも昨年DevOpsを冠したカンファレンスが開催されるなど、注目度が上がっている。

新しい概念ゆえ、その定義は曖昧なところもあるが、以下に挙げる要素の多くは共通し、(やや抽象度の高い)定義として賛同を得られだろう。・ DevOpsは、開発部門と運用部門(場合によっては品質管理部門)を結び付け、コラボレーションを促進する枠組み(メソドロジーやプロセス、ツール)に対して与えらる総称である。

・ DevOpsがカバーする業務領域とその狙うところは、「開発」「運用」という限定された部門単位の”個別最適化”ではない。企画→開発→サービス提供&フィードバック(インシデント)→(次の)企画…という、終わることのないシステムのライフサイクル全般が対象で、”全体最適”を狙う。

両部門の利害に不一致情報共有も不十分だった

このような概念が必要とされてきた背景を整理しよう(図1)。・ アジリティーに対するプレッシャー

GoogleやFacebookに代表されるインターネットビジネス勢力にとって、競合に先んじ矢継ぎ早に魅力的なサービスを提供し続けること、および急激なユーザーベースの増加に即応できることは、顧客基盤の確立とその維持拡大のために、至上命題となっている。このような、状況の変化に即応できる「アジリティー」へのプレッシャーが、開発部門でのアジャイル開発や新技術の積極的な採用を後押ししている。しかし、その一方で、伝統的なハードウェアやソフトウェアを自社所有する運用部門は、新規性よりも安定性を重視する傾向があり、両部門の利害が必ずしも一致していない。・ ”部門最適化”がサイロ化を助長

国内でも昨今のコンプライアンス重視の流れを受けて、両部門の責務や権限を明確に分離し、自部門の業務プ

44 │ IBM Software Vision 2012 summer │

開発部門と運用部門はこれまで、必ずしも密な連携がとれていない状態が続いてき

た。だが、ビジネスの俊敏性を追求するためには、システムのライフサイクル全般を

対象に、”全体最適 ”のアプローチで一丸となる必要がある。そのための枠組みとなる

DevOpsの最新動向を解説する。

開発と運用の新しい関係「DevOps」その背景と意義を探る

藤井智弘日本アイ・ビー・エム ソフトウエア開発研究所R a t i o n a l エマージング・ビジネス・サービス

D e v O p s

P r o d u c t s t h a t S u p p o r t F l e x i b l e I T P l a t f o r m s

Page 47: IBM Software Vison 2012 Summer

図 1 開発部門と運用部門それぞれの「個別最適化」は避けなければならない

サポート

運用 最適化管理

変更

設計

開発 構築分析

テスト

プロセス

ツール

I Tサービス

ビジネス要求

イニシアティブの競合

不十分なコラボレーション

運用部門開発部門

安定性即応性

調整が非効率コミュニケーション方法が確立されていない

ローチである。これまで開発部門はCOBITやCMMIを、運用部門はITILを横目に、各部門のプロセスを整備してきた。DevOpsとは、”開発部門のプロセス+運用部門のプロセス”といった個別最適化されたプロセス同士の単純な足し算ではない。

例を挙げよう。運用部門が管理しているサービスに関する様々な情報(稼働状況/利用率/改善要望等のインシデント/運用環境の情報など)は、開発部門にとっては、継続した機能改善や新規開発に対する有力なインプットであり、また設計上の各種の環境制約事項ともなる。その情報が十分には共有されておらず、考慮されていないことにより、結果としてリリース直前でのやり直しやリリース直後のトラブル発生の原因となっている。モジュールや資産の管理に必要なメ

タ情報が部門により異なっていることも多い。モジュールのデプロイ時に人が情報ギャップを埋め、さらに手作業が多く介在することで、多くの間違いや時間ロスを引き起こしている。ソフトウェア開発の現場では、”要求

管理の弱さ”を弱点として挙げる組織は多いが、運用環境に起因することが多い非機能要件(応答性能、スケーラビリティなどの要件)について、きちんとした管理体系が決められている組織は思いの外少ない。こうした例を踏まえると、プロセス面では、以下の3点がポイントなる。・ ライフサイクル全般を考慮し、情報の共有と活用を意識した、全体最適アプローチとしての見直し

・ SLAに直結した運用要件の明確化と、システム開発側への非機能要件としての取り込み

・ メタ情報の共通化により、コミュニケーションロスや手作業による無駄の排除

【2】人的側面でのアプローチ

開発部門と運用部門ではそもそも技術員のスキルセットも大きく異なる。さらに、新しい開発スタイルの導入や、クラウドの展開では、従来開発や運用に求められたスキルとも異なるロールモデルが提起されている。

自動化ツールを導入すれば良い、という単純な話ではないことは明かだ。組織全体での意識の醸成や教育に関わる施策が必須と考える。念頭に置くべきは以下のような取り組みである。・ トップマネージメントの主導

DevOpsが部門間を横断するアプローチである以上、各部門の担当者レベルでできることには限界がある。トップマネージメントの強いコミットメントとリーダーシップがDevOpsの実現には不可欠であることは明らかだ。・ 共通目標の確立その際に、開発・運用双方の部門の

共通目標-例えば「リリースサイクルの×ヵ月短期化」など-を提示することが重要である。その目標を実現するた

めに、各部門がどう貢献するのか、それをどのように実現するのか…という施策を体系化することで、全員の意識を共通目標に向けて常に動機付けすることが重要だ。・ 部門間の人材異動とキャリアパスおよび教育の充実アジャイル開発の世界では、従来の

開発スタイルとは異なるやり方を促進するために、”スクラムマスター ”のような新しいロールモデルが提示されてきたが、それと同様にDevOpsの世界でも、”リリース・コーディネータ”といった新しいロールが提唱されている。もちろん、開発・運用双方の業務に通じているようなITスーパーパーソンがいるのが理想だが、そのような人材は待っていても得られるわけではない。

共通目標の下で、開発部門と運用部門がコラボレーションするには、まず相互の理解を深めることが重要だ。お互いの仕事を理解し、知識やスキルを共有するためには、部門間の人材交流や定期的な異動などの人事施策でのサポートも有効である。また、新しいロールモデルをキャリアパスの1つとして明確化することも、要員のモチベーション向上には大きな効果がある。教育の

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機動力を支えるコンピューティング基盤

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図 2 DevOpsを機能させるための基本コンセプト

開発モデル、データ

プラットフォーム統合

運用モデル、データ

開発ツール

ライフサイクル・プロセスの自動化

アセット連携

運用ツール

Design& BuildReport

Define

Deliver Test

開発RelateGovern

Discover

Automate Control

運用

ツール間の連携は多岐にわたる。代表的なところを幾つかピックアップしてみよう。・ エンタープライズ・アーキテクチャー

策定の際に、「現行のシステム環境の情報」を運用側のリポジトリから収集し、開発側のエンタープライズ・アーキテクチャー・ツールにモデルとして取り込む。これにより、現状の正確なモデルをベースに、精度の高いモデリングが可能となる。

・ 運用側で収集した各種のインシデント情報を、開発側のタスク管理・変更管理ツールと連携させることにより、情報間のトレーサビリティを確立する。これを利用して、情報の抜け・漏れを回避し、ユーザリクエストへの対応状況の向上(=満足度の向上)や、変更内容のアカウンタビリティ、監査対応能力を向上させる。

・ 運用中のサービスに関する性能情報を、開発ツールに直接取り込むことで、問題箇所と修正箇所確実かつ短期間に判別する。これにより、サービスイン後の障害発生時のターンアラウンドタイムを短縮する。DevOpsというと、ともすると”開発

から運用への引き渡しの自動化”という狭義で語られがちである。が、開発と運用が関わるのは、モジュールのデプロイ時だけではないし、その際にやりとりされる(べき)モノも、”できあがったシステム”だけに限定するモノでもない。多くのところに効率化の余地が隠れている。

③ライフサイクルプロセスの自動化これが狭義のDevOpsに近いと言えるだろう。拠点の分散化、セキュリティーの考慮、資産保全、社内のハー

重要性については、敢えて触れるまでもない。

【3】ツール面へのアプローチ

IBMのソフトウェアグループでは、これまで開発部門へのソリューション提供は「Rational」ブランドが、運用部門へのソリューション提供は「Tivoli」ブランドが主に担当してきた。近年DevOpsを機能させるために、ブランド横断でのツール連携を強化して、ソリューション体系を構築している。その全体像を表したのが図2である。このアーキテクチャは、「アセット連

携」「プラットフォーム統合」「ライフサイクルプロセスの自動化」の3つのレイヤーからなっている。

① アセット連携開発部門も運用部門も、それぞれが

管理する情報は多種多様だ。開発部門であれば現在開発中のシステムに関わる各種の資産(要望書、設計書、コード、テストアセットなど)を管理し、運用部門であれば運用中の資産に関する

構成情報(プログラムのリスト、デプロイ情報など)を管理している。従来は、これらの情報の管理リポジトリを部門単位で持ち、各種の作業に最適化するためのツールがその管理リポジトリと連携するシナリオで、業務の効率化・最適化を実現してきた。しかし、開発から運用へシステムを

引き渡す段階で、連携の糸が切れてしまうのが通例であった。アセット連携のレイヤーでは、開発における資産管理リポジトリと運用における構成管理リポジトリとの間で連携を取る(図3)。これによって、成果物の特定-例えば「現在サービス提供しているモジュールのソースコードはどれか?-を短期間で確実に実行できるようになる。これにより、「メタモデルの整備と電

子的なリンクによる整合性の確保」「障害発生時の問題判別の容易化と作業の短期化」「影響範囲調査の容易化」などの実現を狙っている。

② プラットフォーム統合 (ツール・インテグレーション)

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P r o d u c t s t h a t S u p p o r t F l e x i b l e I T P l a t f o r m s

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図 3 RationalとTivoli 製品の連携のイメージ

開発アセットと構成アイテムの連携

開発 運用

Software Architect Team Concert BuildForge

QualityManager

TivoliApplication

Discovery

TivoliProvisioning

Manager

TivoliComposite

App Manager

TivoliAsset

Mgmt for IT

アーキテクチャーに合致した設計

バージョン付けされたアセットや参照成果物に対するトレーサビリティー

アセットのデプロイ テスト計画と結果の管理

デプロイされているアセットの発見

システムのデプロイ サービスレベルの把握

S/Wライセンスの管理

Package

Test Plan

Source

Package

Defect Problem

Service

Application

ServerDeploymentTopology

Topology Software

ApplicationTivoli

Change and Configuration

Mgmt Database

RationalAsset Manager

ド/ソフト資産の多様化・増大などで、運用部門による環境の設計と管理は、これまでも十分に複雑な物になっている。これをインフラとして稼働する個々のシステムでも、アーキテクトはその運用検討の段階で、これらの複雑な要素を無視することはできない。また、このような複雑な環境へのデプロイに効率的に対処するために、リリースコーディネータやリリースエンジニアと呼ばれる専門職の必要性が叫ばれる事態にもなっている。これらに対処し、開発・テスト・デプロイの時間を短縮化、作業リスクを軽減し監査対応を強化するため、次のような利用シナリオを実現している。① 複雑なインフラ環境の状況はあらかじめモデル資産として、開発運用部門双方で共有しておく。

② 開発側はアーキテクチャー検討およびシステム設計時に、UMLの配置図などを使ってシステムのモジュールと稼働するノードとの配備関係を、運用モデルの一環として設計する。開発ツールはこの配備モデルから、

実際のモジュール配備処理を自動化するスクリプトを生成する。

③ 運用環境でのモジュール配信メカニズムは、開発部門で作成された配備モデルとそれから生成された配備自動化スクリプトを使って、モジュールを自動配布する。

DevOpsもオープンに具現化を主導するOSLC

ツール連携のシナリオに多くの方が抵抗を覚えるのは、それが特定ベンダーの囲い込みを想起させるからであろう。IT部門が扱うあらゆる技術領域について、技術の進歩と多様化は目を見張るものがあり、特定ベンダーのソリューションに縛られずに、選択肢の自由度を手許に残しておきたいと願うのは、無理からぬところでもある。しかし、アジリティーが強く求められる今のビジネス環境では、ツールを活用しない手作業主体の運用はすでに限界に達しているのは、これまで見てきた通りだ。

IBMでは、RationalとTivoliという2ブランドのツールを連携させることで、DevOpsの実行環境を提供しているが、ツール連携をこの2ブランドに閉じた、排他的な世界を提供することは意図していない。複数のブランドやベンダーをまたがった、包括的なツール連携のための枠組み作りとして、IBMは数年前から「Open Services for Lifecycle Collaboration(OSLC)」というイニシアチブを主宰している。アクセンチュア、ボーイング、GM、シーメンス、オラクルなどが参画しており、特定ベンダーによる囲い込みとは一線を画す取り組みだ。これまでOSLCは、開発で取り扱われる各種の情報(要求、テスト項目、設計要素など)のメタ情報の標準化に注力してきたが、今後は運用におけるメタ情報の標準化への注力する方向である。OSLCに準じたREST APIを介して、異なるベンダー間のツールが相互に連携してDevOpsを実現する姿を目にするのも、そう遠い将来ではないことを期待したい。

参考: Open Services for Lifecycle Collaboration 公式サイト http://open-services.net/

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機動力を支えるコンピューティング基盤

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○ 編集責任者 渡辺 隆

○ 編集スタッフ 水谷 有貴 佐藤 暢佳

○ 執筆スタッフ 高澤 正道 田村 小貴 田村 浩二 中林 紀彦 行木 陽子 西倉 誠 丹羽 奈津子 畠 慎一郎 原口 知子 廣末 佳子 藤井 智弘 水谷 有貴 森 秀樹 米持 幸寿

○ コーディネーター 浦畑 奈津子 太田 菜香子 服部 京子 藤田 百合

IBM Software Vision 2012 summeribm.com/software/jp/発行:日本アイ・ビー・エム株式会社東京都中央区日本橋箱崎町19- 21 〒103 - 8 510発行日:2012年 5月27日

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