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イノベーションに挑む 日本のロジスティクス 2017年928(木) 財務省財務総合政策研究所 研究員 小笠原 渉 歌川広重 (3代目) 明治8年「東京名所之内新橋 ステンション蒸氣車鐵道圖」 ※内国通運(日本通運の前身)の丸通マークの 印半纏を着た人物が描かれている錦絵である。 出所:日本通運㈱ホームページ 1

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イノベーションに挑む日本のロジスティクス

2017年9月28日(木)

財務省財務総合政策研究所

研究員 小笠原 渉

歌川広重 (3代目) 明治8年「東京名所之内新橋

ステンション蒸氣車鐵道圖」

※内国通運(日本通運の前身)の丸通マークの

印半纏を着た人物が描かれている錦絵である。

出所:日本通運㈱ホームページ

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1.日本のロジスティクスの課題

①新時代のロジスティクス・イノベーション「Logistics 4.0」への対応具体的には、IoTやAI等の先進技術の導入

②物流量増加、人手不足への対応

③グローバル化、ECの拡大へ対応する新しいプラットフォームの提供

④サプライチェーン全体の効率化・見える化・標準化

厳しい状況下で、どのようにイノベーションや標準化によって

生産性を向上し、企業価値を高めて行けば良いのだろうか?

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2.世界における日本の貿易・物流の評価

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出所: World Bank Logistics Performance Index 2016

世界における日本の貿易・物流の効率性の評価は12位

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3.アメリカと比較して低い日本の運輸・倉庫業の労働生産性

○日米の労働生産性格差は運輸業や卸売・小売で拡大している。○日本の労働生産性はアメリカと比較して近年では約6割と低く、人件費も高い。

出所:通商白書2013

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4.事業所単位での日本とアメリカの運輸・倉庫業の比較

○日本の運輸・倉庫業の事業所数は、米国と市場規模比で比べて、かなり多い。○大規模事業所のみで見ると、米国が22.1%に対し、日本は僅か4.4%である。

アメリカでは業界の再編が進み、100人以上の大規模で効率的な事業所の比率が高いのが、生産性が高い一因である。

出所:(株)日本政策投資銀行地域企画部レポート2015年7月

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5.日本型物流と欧米型物流の違い

6出所:(一財)運輸政策研究機構運輸政策研究所「日系物流事業者の海外展開の課題」

Customization(カスタム化)

Standardization(標準化)

<日本型オペレーション> 

契約範囲:あいまい

オーダーメード、過剰サービス

個別改善・値引き

受け身営業

(提案力不足、現場力依存)

日系荷主に依存

↓転換↓<欧米型オペレーション>

契約範囲:はっきり

プラットフォーム適用

全体最適・適正料金

提案型営業

(客観的指標と知識の裏付け)

国際入札に強い

○Industrie 4.0は欧米型ベース、日本型からの転換が必要

プラットフォーム化

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・M&Aによる事業領域・規模拡大とプラットフォーム標準化

Fedex&DHL→大規模M&Aにより、ネットワーク拡大、円滑にPMI実施一貫したITシステムを持ち、全て自社の手段で輸送、輸送品質・納期で有利なインテグレーター

※FedEXは、政府のオープンスカイ政策の後押しで、ハブ&スポークというプラットフォームを政府と共に標準化

日本の企業→M&Aや統合による再編に失敗、再編が進まず、中堅企業が群雄割拠、日系貨物のみを扱う。

・企業のパートナーとしてグローバル展開に対応~ネットワーク構築の速さ~

Fedex&DHL→荷主企業と共に海外でもグローバルなサプライチェーンを構築し、成長下請けを脱し、荷主の理解を得て、価格決定力を持ったプライスメーカー

日本の企業→「従来型の物流」の荷主の下請けとして、品質とサービスの向上に注力流通業界の価格破壊に代表される値下げ圧力との板挟みに苦しむ。

値下げ圧力と国内競争による採算性悪化に翻弄、日系荷主のグローバル展開に対応できず、海外荷主獲得に出遅れた。宅配便に代表されるように品質は高いが、海外での汎用性が低くガラパゴス化し、標準化が遅れた。

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5-1.FedEXやDHLが事業規模の拡大に成功したのは、なぜか?~日本企業との比較~

出所:筆者作成

例えば、日本郵便と日通の共同出資会社JPエクスプレスや日本郵便のトール・ホールディングス買収の失敗

ネットワーク構築は日系荷主の進出次第、現地のM&Aでなく自前で構築するため非効率で遅い。集配は自社、幹線輸送は航空機を持つ業者を利用するフォワーダー、インテグレーターは未完成

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5-2.海運業界の苦境と再編~アライアンス化と国際競争力向上~

○日本郵船、商船三井、川崎汽船の国内海運大手3社とハパックロイド、陽明汽船がアライアンスを設立(2017年4月~)

→最大手AP・モラー・マースクに対抗し、共同運航で供給過剰と過当競争を回避、収益改善を目指す。

○コンテナ港湾の国際競争力強化~アジアの港湾との競争力向上~

→大型船への対応等のハード面に加え、ソフト面での改善が急務港湾運営の民営化等による効率化・コスト低減、港湾業務24時間化、国際コンテナ戦略港湾強化

→トランシップ貨物の奪還釜山や香港等で積み替えをして日本各地の港湾に入ってくるトランシップ貨物を国内の京浜港等の国際コンテナ戦略港湾に取り戻すかが課題。 出所:東京税関

    国際物流懇談会資料水色:トランシップ(積み替え)貨物ピンク:直送貨物 8

出所:筆者作成

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○ 上海からシンガポールの約7,000kmの陸路輸送ルート「SS7000」を整備、定期混載サービスを提供→国内のトラック輸送のノウハウを生かし、クロスボーダー輸送

○ マレー鉄道を活用した日通のタイ-マレーシア間の国際鉄道輸送サービス→環境問題、渋滞、ドライバー不足対策、現在は週1便

○ インドネシアにおけるRORO船を活用した海上物流システム近代化に係る実証事業→日本と同じ海洋国家のインドネシアで日本の仕組みを

導入した国交省の海外実証事業

○ タイ、インドでのミルクランサービスとJIT物流→自動車部品等のミルクランサービスを提供、

倉庫運営を含む高品質なJIT物流を実現�

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5-3.プラットフォームの海外での標準化~日通のASEAN展開例~

日本国内や中国進出で培ったノウハウを世界で標準化できるものから水平展開

高付加価値・環境対策が日本の物流の強みであり、アジアのプラットフォーマーになるための障壁打開には荷主企業や現地企業との連携と制度面では官民連携が不可欠

出所:全て日本通運(株)ホームページ

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6-1.ロジスティクスにおけるイノベーションの変遷とLogistics 4.0

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物流におけるイノベーションの歴史は新しいプラットフォームの誕生による変遷の歴史である。

川上(調達/製造)サプライチェーン・マネジメント(川上から川下まで全てを情報で繋ぎ、把握・管理)

川下(販売/AfterService)

出所:日本通運(株)ホームページ

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6-2.Logistics 1.0 と 2.0 で確立された国際海上コンテナ輸送システム(イノベーションの典型例)

Malcolm McLean

出所: hankstruckpictures.com出所: seagatesteam.com

1934年マクリーン運送を起業 1954年には、全米ベスト10のトラック会社に成長

1913年ノースカロライナ州に生誕

大量で安価な輸送の為に、トレーラの荷台とシャーシを分離し、荷台(箱)だけ船で輸送することを思いつく。

1955年ウォーターマン汽船を子会社のパンアトランティック汽船と共に買収。

タンカーを改造した世界最初のコンテ船”Ideal X”を建造(1956年4月初航海)。

出所: legacy.joc.com出所: nzshipmarine.com

スプレッダーとツイストロックを用いたコンテナ荷役方式を開発

出所: lomag-man.org

会社はSealandへと発展。

ガントリークレーンとコンテナ

ヤード管理方式を開発。

出所: container-transportation.com

出所:ローランド・ベルガ—

出所:ローランド・ベルガ—

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6-3.Logistics 4.0におけるロジスティクス・イノベーションの近未来(導入が進む新技術)

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1. 現在のロジスティクスのあり方を大きく変える動き -Industrie 4.0、IoT、 ビッグデータ、

オムニチャネルなど

2. 製造業など他の産業で注目されている(他の産業より導入が遅い)新技術の導入

-コンピュータの処理能力向上、通信技術・センサー技術の高度化、ビッグデータの

取得、AI(非自律系→自律系)、物流の可視化、スマートグラス、パワードスーツなど

3. 輸送の自動化を実現する技術 -自動運転、隊列走行、ドローンなど

4. 倉庫内の自動化を実現する技術 -AI、ロボティクス、クラウド、自動搬送、RF-IDタグ、

センサー技術、需要予測の精度向上・共有化など

知見をデータ化して分析・活用、かつIoTの新技術のトレンドを的確に

先んじて捉えて実用化・標準化できる体制を整えた企業が生き残る。

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7-1.新時代のロジスティクス・イノベーション「Logistics 4.0」への対応

出所:豊田通商ホームページ(トラック隊列走行の実証風景   NEDO/エネルギーITS推進事業/2012年度)

○日本通運㈱の例 グループ経営計画2018の一環、「物流エンジニアリングの研究開発、及び実用化の強化」

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7.日本のロジスティクスはどこに向かうべきなのか?~事例を交えて~

→新技術をプロセス・イノベーションに留まらず、プロダクト・イノベーションに繋げる。→日本企業の強みは蓄積したノウハウである。それらを集めたリアルデータをAIやIoTを

活用し、いかに課題の解決に活用するかが、日本企業の国際競争力強化の要である。��

出所: Fraunhofer IMLホームページ

倉庫の棚卸し業務にドローンを活用、欧州日通の倉庫でも実証実験、2017年内に効果を検証

出所:(左)総務省「ビッグデータの流通量の推計及びビッグデータの活用実態に関する調査研究」(平成27年)、(右)日本通運(株)

1万台のトラックを可視化・分析する「オペレーション支援システム」を2014年にクラウド化、運用中。

→物流はデータ活用効果が高い。

・「ロジスティクスエンジニアリング推進室」の新設と取組み内容今年5月に新設。最先端技術の研究・開発や輸送・荷役の自動化・省人化・効率化

による生産性向上に専任体制で取り組む。

無人倉庫の開発、隊列走行と求貨求車システムの組合せの実用化、

AIやIoT、ロボット等の新技術を応用した独自サービスの開発

キヤノンマーケティングジャパン、プロドローンと共同でドローン

を倉庫での在庫管理や警備に活用する実験をTokyo C-NEXで

実施。半自律飛行でカメレオンコードを読み取る世界初の試み

出所:日本通運(株)

出所:日本通運(株)

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7-1.新時代のロジスティクス・イノベーション「Logistics 4.0」への対応~IoTやAI等の導入~

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○AIやIoT、RF-IDタグを利活用した日立製作所の取組み

・AIによる最適化(Hitachi AI Technology/H)

人員・車両・在庫の最適配置、最適な輸送モードの選択

インバリアント分析、異種混合学習、自律適応制御

→ビッグデータから需要変動や業務現場の改善活動を理解し、

適切な業務指示を行うAIを開発、物流業務効率を8%向上。

○ヤマト運輸のラストワンマイルへの取組み、「バリューネットワーキング」構想

○ロボネコヤマト非効率な再配達解消の決定打となるか。DeNAと協業を行い、藤沢市で実証実験中。

○羽田クロノゲート~日本版ハブ&スポーク~

ラストワンマイルネットワークを高機能な国内ハブで融合させ、物流のスピード、コスト、品質全てを高める仕組み作りの中心。ロボットアーム等の導入による自動化や立地条件の良さによるスピードと付加価値機能を一体化し提供。

出所:(株)DeNAホームページ

出所:(株)日立製作所

出所:ヤマト運輸(株)

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・ 「サービスが先、利益は後」という小倉昌男の理念とのジレンマ2016年度宅配便取扱数は過去最高、しかし2017年3月期連結純利益は52%減

・ 顧客利便性を損なわずに、再配達を減らし、物流を効率化するには?自治体や他業種(宅配ボックスならば住宅メーカ-等)・競合他社との連携、消費者とヤマト運輸・通販事業者との間のコミュニケーションの強化

・ ブラック企業というイメージの払拭残業常態化の改善のため、宅急便の総量抑制や値上げ、配達指定見直し正社員の週休3日制導入、宅配ボックス専門集配業務への高齢者活躍→総量抑制報道翌日のヤマトHD株価は8%上昇

○女性・高齢者・外国人の活躍を推進しつつ、関係する全てのプレーヤーとの連携による

イノベーションを通じて、時代に即したプラットフォームを構築することが求められている。

○Logistics 4.0に対応できる人材の育成をAIやIoTの導入と並行して行う必要がある。

7-2.物流量増加・人手不足への対応(IoTやAI等の導入以外の対応)

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・ 今年5月に「ダイバーシティ推進室」を新設→人材多様化と働き方多様化、従業員への意識醸成、満足度の向上について専任体制でを企画・立案。

・ 今年5月9日に企業向け物流の全ての取引先への値上げ要請を発表。→人手確保のコストの転嫁

○日本通運(株)の事例

○ヤマト運輸(株)の事例

出所:筆者作成

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7-3.グローバル化、ECの拡大へ対応する新しいプラットフォームの提供

出所:日本通運「海外展開ハイウェイ」パンフ

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○輸出のハードルを下げ、意欲のある中小企業の輸出を促進する「海外展開ハイウェイ」貿易事務代行、まとめ輸送、海外在庫が特徴の新しいプラットフォーム

従来の越境ECと比べて、おまかせ、簡単、低コストが強み

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「海外展開ハイウェイ」について、日本経済新聞2017年5月24日朝刊一面に掲載された。

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7-3.グローバル化、ECの拡大へ対応する新しいプラットフォームの提供

出所:インターネットリテイラー社「Global 100:eコマースの世界的な改革」をもとに筆者作成

世界のEC市場は大手10社で約半分を占め、トップのアリババが26.6%、2位のアマゾンが13.0%を占める。 17

・中国のアリババと提携、同グループの「ビックデータ物流プラットフォーム企業」菜鳥網絡(ツァイニャオネットワーク)と日本発の物流プラットフォームを構築。

・アリババの越境ECサイト「T-MALL国際(天猫国際)」に出店する日本企業の販売支援

→顧客ニーズを的確に把握し、このようなプラットフォームをいかにして世界で標準化、定着させて行くかが重要である。

出所:日本通運(株)ホームページ

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7-4①. サプライチェーン全体の効率化(国際物流・貿易、NACCS)

ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携基盤実現に向けたコンソーシアム○貿易業務では、各社のシステムが連携しておらず、企業や業態を跨ぐ手続きを書面に頼っており非効率。

○貿易のサプライチェーン全体(銀行・保険・総合物流・輸出入)から13社が参加、ブロックチェーン技術を活用することで企業や業態を跨ぐ貿易情報連携を円滑に実現、事務手続きの効率化・迅速化・利便性向上を図る。

出所:㈱NTTデータホームページ

現状のNACCSはベトナムやミャンマーなどで導入される等、海外での標準化が進んでいるが、ブロックチェーンを活用して各システムを連携させることで、さらなる国際競争力強化を図る。

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7-4②.サプライチェーン全体の効率化(国内物流における企業間連携)

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○アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーのビール大手4社の道東地区共同輸送ビール大手4社が、環境負荷低減及びトラックドライバー不足への対処を目的に、道東エリアで共同物流。

各社は各々の製造・物流拠点からトラック配送を行っていたが、今後は4社の製造・物流拠点から集荷、

日通の倉庫に商品を集積、配送先ごとに仕分け・積み込み、鉄道で釧路へ輸送、道東エリアに配送する。

出所:日本通運(株)ホームページ

平成28年度の物流総合効率化法の制度改正によって、食品・飲料・ビール業界以外にも共同輸送の流れが広がっており、トラック運転手の不足による運送コスト上昇等、共通の課題を抱えるライバル企業間のサプライチェーンの最適化、ライバル企業の協業による新たな業界共通プラットフォームの構築は近年のトレンドとなっている。

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→ 物流版Uber~荷主と中小運送業者を仲介するベンチャー企業を中心としたシェアリングサービス~

具体的には、米の「Flexport」や「Convoy」、香港の「Lalamove」や「GoGOVan」、日本の「MOVO」、「PickGo」、「ハコベル」

↓○関係する業者のデータをクラウドで一元管理、依頼・見積りから完了報告までワンストップ

発送から到着まで商品がリアルタイムに全てオンライン上でトラッキング可能

ただし、貨物輸送は旅客輸送に比べ、運ぶものが多種多様でありノウハウが必要、人とドライバーの単純なマッチングではない。

<今後の方向性>

○ラストワンマイルの軽貨物の短距離輸送ならば、Uberの仕組みの導入が容易に可能。

○大口荷主や大手物流業者等のスポンサーの協力なしには、物流版Uberの長距離輸送への応用やAIによる輸配送システム構築・輸配送自動化と融合した新しいサービスは実現不可。

○業務提携やM&Aが今後の展開に不可欠と思われる。

○創業者はAmazonの元従業員。その縁もありAmazonのジェフ・ペソスCEOやSalesforseのマーク・ベニオフCEOと

いった流通やソフトウェア業界の旗手からの投資を受けています。

○当初は短距離でのサービスを提供していましたが、物流倉庫を用いた長距離の物流を実現しました。

○Bloomsburgによると、ユニリーバとコンボイの契約は4年間。年間数百万ドル以上の売り上げを見込めるといい

ます。

○今回の契約により、コンボイは大企業との協業という大きな実績を得ることに成功しました。

7-5.プラットフォーム化や業界の課題解決は、大企業だけが取り組むものではない。

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(株)Hacobu「MOVO」の画面出所:(株)Hacobuサービス紹介資料

○従来は関係する中小業者のデータが共有されておらず、手続きの煩雑さやリードタイムの長期化が問題

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補論:イノベーションが企業業績に与える影響~ROEや設備投資額への反映~

○例:日本通運㈱のROEと設備投資額(連結)・4~6月期の経常利益が前同比2割増、4~9月期の純利益が前同比9%増の見込み。ROEは7%まで改善。

・設備投資額は、2018年までの3年間で2,000億円の設備投資を計画、さらに追加で1,000億円を調達。→東京・名古屋・大阪の倉庫を大型倉庫に再編・効率化、自動・省人化設備を導入、アジアで倉庫を建設。

→物流施設整備や物流システム投資等の設備投資を継続的に行っているか株主は注視している。

2018年までの3年間で、 3,000億円の設備投資

【2012年前後の日本通運の動き】

・スクラップアンドビルドを行った。

→宅配便の撤退、旅行事業分離

・企業物流で国内の足固めを行い、

国際物流に経営の軸を移した。

→パナソニックとNECの物流会社、

米・独・香港の物流会社のM&A

出所:日本通運アニュアルレポートより 筆者作成

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補論:イノベーションが企業価値に与える影響~株価への影響~

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○中小企業の輸出支援である「海外展開ハイウェイ」事業やロジスティクスエンジニアリング戦略室の新設等の組織改正、運賃の見直しによる値上げは、敏感に日通の株価上昇に影響を与えた。

出所:筆者作成

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ベトナムのホーチミン郊外にある多機能倉庫「ソンタンロジスティクスセンター」

出所: 日本通運㈱ホームページ

○日本はLogistics 3.0までは後塵を拝したが、イノベーション(従来から得意とするプロセス・イノベーションに加えて、新技術や経営資源のフル活用によるプロダクト・イノベーション)を継続的に起こすことで、生産性と国際競争力を高め、Logistics 4.0で勝ち抜く。

○業界や国の枠を超えてプラットフォームを構築し、プラットフォームの世界での標準化に成功した企業が今後のロジスティクス業界で生き残る。

<8.結論>