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26 PFU Tech. Rev., 28, 1,pp.26-32 (06,2017) IoT 対応を強化する BMC 搭載組込みコンピュータ Embedded Computer Equipped with BMC for Enhancing IoT Support 加藤雅則 * Masanori Kato 冨澤 成 * Naru Tomisawa 平出 剛 ** Takeshi Hirade 笘谷昌英 ** Masahide Tomatani * エンベデッドビジネスユニット エンベデッドプロダクト事業部 第二技術部 ** エンベデッドビジネスユニット エンベデッドプロダクト事業部 第四技術部 工作機械,計測装置,医療装置などの産業機器分野をはじめ,幅広い分野の製品に搭載,採用されている PFU 製組込みコンピュータ AR シリーズに,IoT 対応機器として求められる高可用性やシステム監視機能を強化するた め,本体 CPU から独立して動作する監視プロセッサである BMC を搭載した.BMC が機器の情報を確実に収集し, 記録することで,迅速なトラブルシュートを可能にし,顧客の製品やシステムの更なる安定稼働を実現する. PFU's embedded computer AR series has been used in a wide range of applications such as machine tools, measurement devices, medical devices, and other industrial devices. The AR series is now equipped with BMC, a monitoring processor that operates separately from the CPU of the main unit, to enhance the availability and system monitoring features required for IoT-compatible devices. The BMC reliably obtains and records device information. This enables fast troubleshooting and further secures operation of the customers' products and systems. 1 まえがき 組込みコンピュータ「ARシリーズ」は,高いパフォー マンスと高信頼性で幅広い分野で採用されている 参1) 最近では,高い画像処理性能が必要となっている医療 機器や高速な入出力機器を多数接続する産業機械,社 会インフラ,通信機器などに拡がりを見せている.今 般,IoT 注1) 対応機器や IoT 対応システムを支える基盤 機器として使用される AR シリーズに, IPMI 注2) 2.0 準 拠の環境監視,リモート制御プロセッサである BMC (Baseboard Management Controller)を搭載し た.BMC は,機器の稼働状態に依存せず,独立して動 作する監視専用コントローラで,機器の各センサから監 視情報を確実に収集することができる.現在,工作機械 や半導体製造装置の産業機械の分野において,工場全 体の効率的な稼働の実現を目的とした Smart Factory 化が急速に拡大している.IoT により,工場内の機器な 注1) IoT(Internet of Things,モノのインターネット)とは,情 報機器や通信機器だけでないあらゆるものをインターネットに 接続し,相互に情報をやり取りできるようにすること. 注2) Intelligent Platform Management Interface の 略. ネ ッ ト ワークを通じて,遠隔地からコンピュータのハードウェアの状 態を監視または管理する操作を行うための標準インタフェース 規格. ど製造にかかわるすべてのものをインターネットに接続 して管理しようとする動きである.このような Smart Factory の実現には,BMC により,機器の監視情報 を確実に取得し,品質や状態を見える化して,活用する ことが重要であり,リアルタイムな監視情報の共有化に より,工場全体の効率化やスループット(生産能力)向 上への貢献が期待されている. 2 開発の背景と狙い Smart Factory のような IoT 対応の環境では,予 兆保全の強化や早期の原因究明を実現するため,高い 可用性や高度なシステム監視機能が求められている. PFU では IoT の活用に向けた様々な解決策を準備して おり,顧客システムの IoT 対応を支えることができる. 従来,AR シリーズでは,ハードウェアの状態を監視 するソフトウェアである EmbedWare/SysMon ® 注3) Entry を提供している.このソフトウェアは,BIOS ログの解析,OS 動作中の機器の温度,電圧,ファン回 注3) EmbedWare/SysMon は株式会社 PFU の日本国における登 録商標です.

IoT対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータ...PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 27IoT対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータ 転数の状態,RAIDの状態を監視しており,取得した情

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26 PFU Tech. Rev., 28, 1,pp.26-32 (06,2017)

IoT 対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータEmbedded Computer Equipped with BMC for Enhancing IoT Support

加藤雅則 *Masanori Kato

冨澤 成 *Naru Tomisawa

平出 剛 **Takeshi Hirade

笘谷昌英 **Masahide Tomatani

* エンベデッドビジネスユニット エンベデッドプロダクト事業部 第二技術部** エンベデッドビジネスユニット エンベデッドプロダクト事業部 第四技術部

工作機械,計測装置,医療装置などの産業機器分野をはじめ,幅広い分野の製品に搭載,採用されている PFU

製組込みコンピュータ AR シリーズに,IoT 対応機器として求められる高可用性やシステム監視機能を強化するた

め,本体CPUから独立して動作する監視プロセッサであるBMCを搭載した.BMCが機器の情報を確実に収集し,

記録することで,迅速なトラブルシュートを可能にし,顧客の製品やシステムの更なる安定稼働を実現する.

PFU's embedded computer AR series has been used in a wide range of applications such as

machine tools, measurement devices, medical devices, and other industrial devices. The AR

series is now equipped with BMC, a monitoring processor that operates separately from the

CPU of the main unit, to enhance the availability and system monitoring features required for

IoT-compatible devices. The BMC reliably obtains and records device information. This enables

fast troubleshooting and further secures operation of the customers' products and systems.

1 まえがき組込みコンピュータ「AR シリーズ」は,高いパフォー

マンスと高信頼性で幅広い分野で採用されている参1).

最近では,高い画像処理性能が必要となっている医療

機器や高速な入出力機器を多数接続する産業機械,社

会インフラ,通信機器などに拡がりを見せている.今

般,IoT注1)対応機器や IoT 対応システムを支える基盤

機器として使用される AR シリーズに,IPMI注2)2.0 準

拠の環境監視,リモート制御プロセッサである BMC

(Baseboard Management Controller)を搭載し

た.BMC は,機器の稼働状態に依存せず,独立して動

作する監視専用コントローラで,機器の各センサから監

視情報を確実に収集することができる.現在,工作機械

や半導体製造装置の産業機械の分野において,工場全

体の効率的な稼働の実現を目的とした Smart Factory

化が急速に拡大している.IoT により,工場内の機器な

注1) IoT(Internet of Things,モノのインターネット)とは,情報機器や通信機器だけでないあらゆるものをインターネットに接続し,相互に情報をやり取りできるようにすること.

注2) Intelligent Platform Management Interface の略.ネットワークを通じて,遠隔地からコンピュータのハードウェアの状態を監視または管理する操作を行うための標準インタフェース規格.

ど製造にかかわるすべてのものをインターネットに接続

して管理しようとする動きである.このような Smart

Factory の実現には,BMC により,機器の監視情報

を確実に取得し,品質や状態を見える化して,活用する

ことが重要であり,リアルタイムな監視情報の共有化に

より,工場全体の効率化やスループット(生産能力)向

上への貢献が期待されている.

2 開発の背景と狙いSmart Factory のような IoT 対応の環境では,予

兆保全の強化や早期の原因究明を実現するため,高い

可用性や高度なシステム監視機能が求められている.

PFU では IoT の活用に向けた様々な解決策を準備して

おり,顧客システムの IoT 対応を支えることができる.

従来,AR シリーズでは,ハードウェアの状態を監視

するソフトウェアである EmbedWare/SysMon®注3)

Entry を提供している.このソフトウェアは,BIOS

ログの解析,OS 動作中の機器の温度,電圧,ファン回

注3) EmbedWare/SysMon は株式会社 PFU の日本国における登録商標です.

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PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 27

IoT 対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータ

転数の状態,RAID の状態を監視しており,取得した情

報を予兆保全や異常検知に活用していたが,BMC を搭

載することで,更に高度な要求に応えることができる.

BMC は図-1に示すように,各センサから情報を取

得し,BIOS,OS,ソフトウェアなどのログを合わせ

て集約して管理を行うため,再現性の乏しい事象が発生

したとしても,機器の設置場所や稼働状態に依存するこ

となく,ネットワーク経由で原因究明に必要なログを確

認することができる.また,CPU 異常(故障)により,

機器が動作停止となってしまうような問題が発生して

も,ログを確実に記録し,管理者に通知することができ

るため,ダウンタイムの削減に大きな貢献ができる.

3 製品の概要と特長3.1 概要

AR シリーズに搭載した BMC では次の三つの機能の

強化を実現する.

(1) 監視機能

従来の,温度,電圧,ファン回転数などのセンサ情

報に加え,CPU 異常信号,POST(Power On Self

Test)状態も対象として監視機能を強化する.また,

CPU や OS から独立して監視ができるため,トラブル

発生時に取得できる情報量が従来と比べて増加し,信頼

性,可用性,保守性の向上につながる.

(2) 制御機能

ファン回転数の制御,ウォッチドッグタイマリセット,

本体装置の電源制御など,BMC から稼働状況に合わせ

た本体装置の制御を行うことができる.また,リモート

機能と組み合わせることで,離れた場所からシステム復

旧ができ,ダウンタイムの削減,現地での対応コストの

削減を実現する.

(3) リモート機能

リモート監視端末からネットワーク経由でARシリー

ズの BMC にアクセスすることによって,監視端末上の

Web ブラウザから各センサの監視情報を GUI で確認す

ることができる(BMC-Web).また,リモート KVM

(KVM Over LAN)注4),リモートメディア機能注5)に

よって,BIOS,OS,ソフトウェアの操作やアップデー

トができるようになる.このリモート機能により,本体

装置の監視,センドバック,オンサイトなどの保守対応

コストが削減できる.

また,BMC は IPMI2.0 に準拠しており,汎用の

IPMI インタフェースで監視機能,制御機能を使用でき

るため,ハードウェアや OS を変更しても継続使用す

ることができる.

以上のように BMC 搭載によって収集した情報を活

用することにより,予兆保全主体の品質管理へ転換する

ことができる.また,問題が発生したとしても,確実に,

また早期に原因究明ができるようになり,顧客の装置や

システムの安定稼働と保守性向上を確実に実現すること

で,AR シリーズの IoT 対応を強化する.

表-1に BMC の仕様概要,図-2に BMC と監視ソ

フトウェアのブロック図,図-3に BMC-Web の表示

例を示す.

3.2 特長(1) 常時独立監視

従来機器では CPU やチップセットを経由して各セン

サの監視を行い,OS 上で動作する監視ソフトウェアで

センサ情報の表示を行っていた.そのため,通常の稼働

状態では問題なく監視ができるが,何らかの事由により

CPU やチップセットまたは OS が停止した状態では監

視ソフトウェアが動作できないため,センサ情報が取得

できない.そのため,直接本体機器の中の電気信号を確

認する必要があった.

BMC を搭載することで,CPU や OS から独立して

あらゆるタイミングで監視を行う常時独立監視が可能と

注4) リモート端末から AR シリーズのコントロール画面を操作する機能.

注5) リモート端末に接続した USB メモリなどのデバイスを仮想メディアとして AR シリーズに認識させる機能.

◆図 -1 ARシリーズに搭載したBMCの役割◆

(Fig.1-RoleofaBMCinstalledintheARseries)

ARシリーズ本体

LANCPU

メモリ

PCI

ファン

電源

etc

温度

電圧

ログ

センサ

リモート端末(管理者)BMC

CPU,OSが不安定な環境下でも,確実にログ情報を採取し,原因特定につなげる

ハードウェア不具合時であっても,ログ情報の格納,取り出しが可能

※1 リモート監視端末の汎用ブラウザからBMCの監視センサ情報を視覚的に取得  することができる機能

IPMIインタフェースやBMC-Web※1によるリモート制御(監視,操作)が可能

ロギング

情報取得

監視

情報取得

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IoT 対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータ

PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)

なった.BMC は AC 電源が供給された段階で動作を開

始するため,OS 動作中だけでなく,CPU が起動して

いない状態をはじめ,POST 中や OS 起動前のドライ

バローディング中など,あらゆるタイミングで監視を行

うことができる.つまり,AC 電源さえ供給されていれ

ば各センサの監視を行うことができる.さらに,ハード

ウェア異常のログは BMC から専用 ROM に記録する

ため,重要なログを確実に残すことができる.

この常時独立監視により,仮に CPU に異常が発生し

◆表 -1 BMCの仕様概要◆

機能 内容

規格 IPMI2.0 準拠

監視対象 電圧,温度,ファン回転数,CPU,POST など

制御 ファン回転数,ウォッチドッグタイマリセット など

リモート KVMOverLAN,リモートメディア機能

搭載予定モデル

AR8300モデル320K※1

対応OS Windows®※27ProfessionalSP132bit 版 /64bit 版※3,WindowsEmbeddedStandard7SP132bit 版 /64bit 版※3,Windows10IoTEnterprise64bit 版,WindowsServer®※22008R264bit版,WindowsServer2012R264bit 版,RedHat※4EnterpriseLinux7.264bit 版

※1 順次,新規開発のARシリーズに搭載予定.※2 Windows,WindowsServer は,米国MicrosoftCorporationの,米国及びその他の国における登録商標または商標である.

※3 EmbedWare/SysMon およびリモートでのアクセスのみ対応可能.

※4 RedHat は,RedHat,Inc. の米国及びその他の国における登録商標または商標である.

◆図 -2 BMCと監視ソフトウェアのブロック図◆

(Fig.2-BlockdiagramoftheBMCandthemonitoringsoftware)

◆図 -3 BMC-Webの表示例◆

(Fig.3-DisplayexampleofBMC-Web)

ARシリーズに搭載した監視ソフトウェア リモート監視

汎用IPMIドライバまたはEmbedWare/SysMonによるローカル監視・操作が可能

IPMIインタフェースまたはBMC-Webによるリモート監視・操作が可能

EmbedWare/SysMon SDK

EmbedWare/SysMon Entry V7.0汎用IPMIドライバ

リモートKVM

顧客業務ソフトウェア

CPU

顧客業務ソフトウェア

・BSoDスクリーンショット取得・BIOS設定変更

リモートメディア

・OS/ソフトウェアのインストール・BIOS更新

チップセット

各センサ温度ファン回転数

電圧

LAN

ARシリーズ機器

専用ROM

ログ

BMC

監視インタフェース

汎用IPMIドライバ経由 EmbedWare/SysMon経由

有償オプション

リモート監視端末

OS

BMC-Web

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PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 29

IoT 対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータ

本体機器の動作ができなくなった場合でも BMC にア

クセスすることで,CPU の内部異常信号の発生や電圧

異常など,原因究明につながる重要なログを確実に確認

することができる.そのため,トラブル発生時に,被疑

箇所の早期特定,ダウンタイムの短縮,原因調査期間の

短縮を図ることができる.

(2) IPMI2.0 準拠

IPMI は,特定のハードウェアシステムや OS に依存

することなく,温度,電圧,ファン,電源などといった

システムの物理的な状態監視を可能とするためのインタ

フェース規格である.ネットワークを通じて,本体装置

のハードウェア状態やイベント情報をリモートで取得す

ることも可能である.

BMC は,システムの温度,電圧,ファン回転数,電源,

CPU,メモリなどの状態を定期的に監視し,ハードウェ

アの故障予兆や被疑箇所特定といった判断情報となるよ

う,異常検知時にはイベント情報のログを記録する.ま

た,ネットワーク関連の機能が拡張された Version2.0

の IPMI 規格に準拠し,リモートによる本体装置の電源

制御をサポートしており,本体装置のリセット,電源投

入,電源切断を行うことができる.表-2に IPMI コマ

ンドの機能の抜粋を示す.

また,BMC はハードウェアの違いを吸収し,IPMI

インタフェースへの変換を行っている.これにより,ソ

フトウェア開発者は,ハードウェアの差異を意識するこ

となく,本来のソフトウェア開発に専念することができ,

IPMI インタフェースに対応したソフトウェアはハード

ウェアや OS を変更しても継続使用することができる

(図-4参照).

(3) リモート監視,リモート制御

BMC はネットワーク環境に接続することで,リモー

トで本体装置の温度や電圧などのハードウェア状態の確

認,OS のログの確認,本体装置の電源制御などを可能

とした機能をサポートしている.

この機能により,本体装置と離れた場所からでも本体

装置の状態を監視することができ,ハードウェアの故障

予兆や被疑箇所特定につながる情報を取得することがで

きる.

また,一つの管理端末から複数の本体装置にリモート

接続することで,一つの拠点から各本体装置の状態を監

視が可能である(図-5参照).

4 製品開発のポイントBMC を搭載する上で以下の取り組みを行っている.

4.1 BMC故障時(異常時)の監視機能維持BMC は機器の監視だけでなく,取得した温度センサ

のデータをもとに,冷却ファンの回転数を最適な設定に

する制御を行っている.顧客システム運用中に,監視

を行っている BMC 自体に万が一異常が発生した場合,

◆表 -2 IPMI コマンドによる機能の抜粋◆

タイプ IPMI コマンド 機能内容

制御 GetDeviceID デバイス IDの取得

ChassisControl 本体装置の電源投入,電源切断,リセット

イベントログ

GetSELInfo SEL(ログ)に関する情報を取得

GetSELEntry SEL(ログ)のレコードを取得

AddSELEntry SEL(ログ)のレコードを設定

ClearSEL SEL(ログ)をクリア

センサ GetSDR SDR(SensorDataRecord)情報を取得

GetSensorReading 現在のセンサ状態を取得

GetSensorEventStatus センサ状態を取得

GetSensorType センサのタイプ情報を取得

GetSensorThreshold センサの閾値を取得

LAN SetLANConfigurationParameters

LANオペレーションの情報を設定

GetLANConfigurationParameters

LANオペレーション情報を取得

◆図 -4 BMCと IPMI ソフトウェア◆

(Fig.4-BMCandIPMIsoftware)

IPMI対応ソフトウェア IPMI対応ソフトウェア

BMC BMCデバイスAの温度

デバイスBの温度

デバイスAの電圧

デバイスBの電圧

ファンAの回転数

ファンBの回転数

デバイスAの温度

新デバイスの温度

デバイスAの電圧

新デバイスの電圧

ファンAの回転数

新ファンの回転数

BMCがハードウェアの違いを吸収

異なるハードウェア

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IoT 対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータ

PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)

監視ができなくなるだけでなくファン回転数制御もでき

なくなり,機器の運用に大きな影響が発生する.そこで

PFU では,BIOS が POST 中に BMC 自体の異常を

検知した場合に,機器の監視を本体側に切り替える仕組

みを構築した.これにより,BMC に異常が発生し動作

できない状態でも,機器の監視を継続し最適なファン回

転数を維持できるため,顧客システムの運用を継続する

ことができる.発生した BMC 自体の異常については,

ユーザーに通知され,最適なタイミングで機器の交換対

応を行うことで,顧客システム運用への影響を最低限に

抑えることが可能である.

4.2 システムハングアップ検出の実現方法BMC はシステムハングアップを検出するために,シ

ステムの電源投入からシステムの稼働状態に至るすべ

てのフェーズにおいて,BIOS および EmbedWare/

SysMon Entry と連携し死活監視を行っている.

PFU が開発した BMC では,システムハングアップ

の検出に加え,BIOS,EmbedWare/SysMon Entry

と連携し,BIOS の POST 情報および進捗フェーズを

管理することにより,システムハングアップ発生時の

障害追跡情報の充実を図っている(図-6参照).また,

BMC は,死活監視が途絶えた際に自動的にシステムリ

セットを行うことで,早期に業務を再開させることを可

能としている.

4.3 共通インタフェース(SDK提供)BMC は機器に搭載された監視センサにアクセスし,

各種センサやアラート情報を取得し,それらの監視情

報を共通規格である IPMI インタフェースにより提供し

ている.しかし,IPMI は汎用性が高く,多くの機能を

有しており,活用するためには十分なノウハウを必要と

する.そこで,センサ値から温度や電圧などわかりや

すい値へ変換する処理や,各センサのアラーム情報の

取得処理などを,EmbedWare/SysMon Entry およ

び EmbedWare/SysMon SDK の中で行うようにし

た.これにより,顧客のソフトウェアにおける IPMI イ

ンタフェースへの対応負荷を減らすことができる.また,

BMC の搭載,非搭載に依存しない共通インタフェース

を提供することで,顧客の従来のソフトウェア資産を流

用することも可能とした(図-7参照).

4.4 更なる可用性とシステム品質強化への取り組み

AR シリーズは様々なセンサやデバイスを搭載してお

り,それらを常時モニタリングおよびコントロールす

ることで,温度,電圧,ファンの状態や CPU,チップ

セットの信号などのハードウェア情報を収集および解析

◆図 -5 リモート監視の例◆

(Fig.5-Remotemonitoringexample)

◆図 -6 システムハングアップ監視◆

(Fig.6-Monitoringsystemhang-ups)

メンテナンス作業の効率化緊急トラブル対応でも,確実なログ収集による被疑箇所特定および遠隔電源制御による業務復旧が可能

リモート環境

メール通報

ログ収集

電源OFF/ON制御

画面/キーボード操作

OSインストール/設定

BMCBMCBMCBMC

Gatewayサーバ

構内ネットワーク

BMC

死活監視

フェーズ,POST状況管理

死活監視途絶 ⇒ システムリセット

BIOS(1st)

BIOS(2nd)

BIOS(loader)

OSEmbedWare/SysMon

◆図 -7 共通インタフェースによるソフトウェア資産の流用◆

(Fig.7-Reusingsoftwareassetsusingacommon

interface)

顧客業務ソフトウェア 顧客業務ソフトウェア

BMC非搭載 BMC搭載

BMC

共通インタフェース

EmbedWare/SysMon SDK

EmbedWare/SysMon Entry V7.0

EmbedWare/SysMon SDK

EmbedWare/SysMon Entry V7.0

各センサ温度ファン回転数

電圧

各センサ温度ファン回転数

電圧

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PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 31

IoT 対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータ

し,情報表示や異常検出を行う.BMC はこれらのハー

ドウェア情報をそのまま見せるのではなく,センサやデ

バイスの情報や信号の特性に応じたチャタリング注6)除

去,一時的なノイズなどによる不正な情報取得に対する

リトライ,さらに各センサに応じたリセットなどを行う

ことで,高い可用性を実現している.

また,そのままでは理解できないハードウェア情報は

論理変換を行い,一目で理解しやすく,また処理しやす

くなるように細部まで配慮した設計を行っている.

以上のように,これまで基幹システム向けコンピュー

タの開発で培ってきた PFU のノウハウを活用し,ハー

ドウェア特有の動きに対する処理を BMC 内に集約し

た.これにより,過度な状態変化に伴うデータ量増加を

抑えるとともに,より管理しやすい情報に加工すること

で,システム全体の負荷軽減や品質強化につなげている.

5 活用事例5.1 OS停止状態からのリモート復旧

システムがハードウェアの異常やソフトウェアの処理

矛盾を検出した場合,ブルースクリーン注7)となり処理

が停止する場合がある.このような場合,現地にて画面

確認,装置の再起動および調査情報の採取が必要であっ

た.一方,BMC 搭載装置では,リモート監視端末から

ブルースクリーン画面を視認することで状況の把握がで

きる.また,リモート端末から装置を再起動することで

早期にシステムの復旧が可能となるため,IoT 対応機器

やシステムに必要な高い可用性を実現できる(図-8参

照).

5.2 オンサイトおよびリモートサイトでトラブルシューティング

CPU 異常信号などの CPU の故障や,電圧低下など

システムが突然停止する異常の場合,障害発生時のロ

グが採取できず,現品を回収して継続した再現試験が

必要となるなど,真因の追及が長期化する場合がある.

BMC は,本体装置の CPU から独立した環境で動作し

ているため,CPU 異常信号や電圧の異常状態を捕捉し

ログに残すことが可能である.つまり,現地でログを確

注6) 機械式スイッチ(リレー接点も含む)において ON またはOFF のたびにスイッチの接点が跳ね返ったり,擦れたりすることでスイッチが ON/OFF を短時間繰り返す現象.電子機器の誤動作の原因の一つとなる場合がある.

注7) Microsoft Windows において,OS に何らかの異常が発生した際に表示されるメッセージおよび,その画面全体を指す通称.BSoD とも呼ぶ.

認し,被疑箇所を特定することができるようになるため,

早期のトラブル対応が可能である.また,事前に BMC

に接続されたネットワーク経由でログ採取や調査をする

ことで,現地での調査は不要となり,現地対応コストを

削減することもできる(図-9参照).

6 むすびAR シリーズに BMC を搭載することで,安定稼働,

メンテナンス強化を実現した.また,PFU の長年培っ

てきたコンピュータ技術によりソフトウェア作成を支援

する SDK の準備など開発支援も行っている.

今後はトラブル発生時の CPU ログダンプ機能や予兆

◆図 -8 リモート復旧◆

(Fig.8-Remoterestoration)

◆図 -9 トラブル対応力向上◆

(Fig.9-Enhancedtroubleshootingability)

OS非稼働状態でもリモートからダイレクトにログ採取・装置再起動により早期システム復旧可

BMC-Webリモート監視端末

①システム管理者へ通知 リモート通報(E-mail)

OS停止

SYSTEMDOWN

ブルースクリーン

②ログ情報採取

ログ採取SYSTEMDOWN

ログ

③リモートからダイレ クトに装置を再起動

電源リセット

④早期に業務復旧!!

通常運用

Logon

復旧!!

再現性が乏しい事象でも確実にログ採取しトラブル解決に繋げる!

再現性の乏しい事象でも‚被疑箇所特定の重要ログを保持!!エンドユーザーに対するトラブル対応力の向上

(例)CPU異常信号発生

<BMCログ サンプル>24 ¦ 10/06/2016 ¦ 10:19:34 ¦ Processor #0x92 ¦ IErr3d ¦ 12/31/1999 ¦ 19:00:22 ¦ Voltage #0x4f ¦ Lower Critical going low 3e ¦ 12/31/1999 ¦ 19:00:22 ¦ Voltage #0x50 ¦ Lower Critical going low 3f ¦ 12/31/1999 ¦ 19:00:22 ¦ Fan #0x70 ¦ Lower Critical going low 40 ¦ 12/31/1999 ¦ 19:00:22 ¦ Fan #0x71 ¦ Lower Critical going low

エンドユーザーからの調査依頼→未再現

従来

今後

《BMC未搭載》ログなし調査難航

・継続再現確認・トラブル対応長期化

《BMC搭載》ログあり

被疑部品特定

・部品交換・トラブル対応最小化

  ダウンタイムの削減 → 被疑箇所特定可による早期部品交換

  現地対応工数の削減 → リモートサイトからログ採取可 → オンサイト(現地サポート対応)でも被疑箇所特定可

  トラブル対応の最小化 → 調査長期化によるエンドユーザー対応時間の最小化 → 原因不明による装置交換対応が不要

メリット大

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IoT 対応を強化するBMC搭載組込みコンピュータ

PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)

保全機能の強化など内蔵ファームウェア変更による機能

追加を進め,更なる顧客システムの安定稼働へ貢献し,

IoT 対応を強化する.

参考文献参1) 組込みコンピュータホームページ

http://www.pfu.fujitsu.com/embedded/product/ar/