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(21) 1. 火花点火機関の特徴と課題 火花点火機関は廉価で小型軽量,比出力が高い,排ガス 浄化が容易であることから,自動車の動力源からポータブ ル発電機やチェンソーなどの小型動力源として幅広く使わ れている.しかも,持ち運びが容易でエネルギー密度が高 い液体燃料を使用するため,電気や燃料インフラが整って いないところでもすぐに使用可能という優れた特徴を有す る. 一方,二酸化炭素排出削減要求や燃料の高騰を受けて, 熱効率の大幅な向上が課題とされている.火花点火機関の サイクルはオットーサイクルで,理論的に熱効率は圧縮比 とガスの比熱比だけで決まる.しかし実際の影響因子とし て,機械損失,ポンプ損失, 熱損失があり,単純ではない. 機械損失は摩擦や補機類による損失で,負荷には大きく依 存せずエンジン回転数とともに大きくなる.ポンプ損失は, 火花点火機関が量論比で運転されるため低負荷時は混合気 ガス量を絞る必要があり,この絞りによる損失である.熱 損失はシリンダやピストンなどから熱が仕事に変換される 前に逃げてしまう損失である. ディーゼル機関では排ガスの浄化が課題となっている が,自動車用の火花点火機関では,量論比で三元触媒を使 用するため,都市部においては周囲の大気よりも二酸化炭 素を除けば有害成分を減らして排出する “動く空気清浄機” になっている.但し,今後燃料をシリンダ内に直接噴射す る直噴方式が増えると,目には見えない微小な粒子の排出 が問題になる可能性がある. 2. 熱効率の改善と異常燃焼 火花点火機関の熱効率を改善するためには,圧縮比の増 大,比熱比の増大,各種損失の低減が必要である.乗用車 に搭載されている火花点火機関では,低負荷で大きな損失 となっているポンプ損失を減らすために,無段変速機 (CVT) と組み合わせて,できるだけ回転は下げて負荷は上 げて動力を出す制御が行われている.また,圧縮比を上げ ても異常燃焼が起きないように燃料の直噴化が行われてい る.(直噴化することで蒸発潜熱が利用でき,圧縮開始時の 混合気温度が 20 K 程度低減できる) 欧州や米国では過給機 と組み合わせることで,必要な出力は確保しつつ排気量を 減らして各種損失を減らす “ダウンサイジング” が普及し ている. * Corresponding author. E-mail: [email protected] 日本燃焼学会誌 第 54 170 号(2012 年)237-242 Journal of the Combustion Society of Japan Vol.54 No.170 (2012) 237-242 ■特集/FEATURE―オクタン価の意味/What is Octane Number? 火花点火機関におけるノッキング及びプレイグニッション克服への課題 Issues to Overcome Knocking and Pre-ignition in SI Engines 森吉 泰生 * MORIYOSHI, Yasuo* 千葉大学大学院工学研究科 〒263-8522 千葉市稲毛区弥生町 1-33 Chiba University, 1-33 Yayoi-cho,Inage-ku, Chiba 263-8522, Japan Abstract : Spark ignition engines are widely used for a small generator as well as a passenger vehicle. The exhaust gas emissions no longer have pollution problem by adopting a combination of three-way catalyst and stoichiometric mixture control, but an improvement of thermal efficiency is an urgent task. To achieve this, an increase of compression ratio and down-sizing with a turbo-charger are solutions. However, employing these methods causes abnormal combustion of such as knocking and pre-ignition that will bring about damages to engine components. In this article, why these phenomena occur and how to solve the issues are briefly mentioned with some author's ideas: since autoignition itself does not lead to a heavy knocking, a quick expansion at early expansion stroke and a spatial temperature distribution of mixture inside the cylinder can control the knocking intensity. As pre-ignition at low engine speed is not well analyzed, this phenomenon must be quantitatively examined. Key Words : SI engine, Thermal efficiency, Abnormal combustion, Compression ratio, Down-sizing

Issues to Overcome Knocking and Pre-ignition in SI Engines

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Page 1: Issues to Overcome Knocking and Pre-ignition in SI Engines

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1. 火花点火機関の特徴と課題

 火花点火機関は廉価で小型軽量,比出力が高い,排ガス浄化が容易であることから,自動車の動力源からポータブル発電機やチェンソーなどの小型動力源として幅広く使われている.しかも,持ち運びが容易でエネルギー密度が高い液体燃料を使用するため,電気や燃料インフラが整っていないところでもすぐに使用可能という優れた特徴を有する.  一方,二酸化炭素排出削減要求や燃料の高騰を受けて,熱効率の大幅な向上が課題とされている.火花点火機関のサイクルはオットーサイクルで,理論的に熱効率は圧縮比とガスの比熱比だけで決まる.しかし実際の影響因子として,機械損失,ポンプ損失, 熱損失があり,単純ではない.機械損失は摩擦や補機類による損失で,負荷には大きく依存せずエンジン回転数とともに大きくなる.ポンプ損失は,火花点火機関が量論比で運転されるため低負荷時は混合気ガス量を絞る必要があり,この絞りによる損失である.熱損失はシリンダやピストンなどから熱が仕事に変換される前に逃げてしまう損失である.

 ディーゼル機関では排ガスの浄化が課題となっているが,自動車用の火花点火機関では,量論比で三元触媒を使用するため,都市部においては周囲の大気よりも二酸化炭素を除けば有害成分を減らして排出する “動く空気清浄機”になっている.但し,今後燃料をシリンダ内に直接噴射する直噴方式が増えると,目には見えない微小な粒子の排出が問題になる可能性がある.

2. 熱効率の改善と異常燃焼

 火花点火機関の熱効率を改善するためには,圧縮比の増大,比熱比の増大,各種損失の低減が必要である.乗用車に搭載されている火花点火機関では,低負荷で大きな損失となっているポンプ損失を減らすために,無段変速機 (CVT) と組み合わせて,できるだけ回転は下げて負荷は上げて動力を出す制御が行われている.また,圧縮比を上げても異常燃焼が起きないように燃料の直噴化が行われている.(直噴化することで蒸発潜熱が利用でき,圧縮開始時の混合気温度が 20 K 程度低減できる) 欧州や米国では過給機と組み合わせることで,必要な出力は確保しつつ排気量を減らして各種損失を減らす “ダウンサイジング” が普及している.

* Corresponding author. E-mail: [email protected]

日本燃焼学会誌 第 54巻 170号(2012年)237-242 Journal of the Combustion Society of JapanVol.54 No.170 (2012) 237-242

■特集/FEATURE■

―オクタン価の意味/What is Octane Number? ―

火花点火機関におけるノッキング及びプレイグニッション克服への課題Issues to Overcome Knocking and Pre-ignition in SI Engines

森吉 泰生*

MORIYOSHI, Yasuo*

千葉大学大学院工学研究科 〒263-8522 千葉市稲毛区弥生町 1-33Chiba University, 1-33 Yayoi-cho,Inage-ku, Chiba 263-8522, Japan

Abstract : Spark ignition engines are widely used for a small generator as well as a passenger vehicle. The exhaust gas emissions no longer have pollution problem by adopting a combination of three-way catalyst and stoichiometric mixture control, but an improvement of thermal efficiency is an urgent task. To achieve this, an increase of compression ratio and down-sizing with a turbo-charger are solutions. However, employing these methods causes abnormal combustion of such as knocking and pre-ignition that will bring about damages to engine components. In this article, why these phenomena occur and how to solve the issues are briefly mentioned with some author's ideas: since autoignition itself does not lead to a heavy knocking, a quick expansion at early expansion stroke and a spatial temperature distribution of mixture inside the cylinder can control the knocking intensity. As pre-ignition at low engine speed is not well analyzed, this phenomenon must be quantitatively examined.

Key Words : SI engine, Thermal efficiency, Abnormal combustion, Compression ratio, Down-sizing

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日本燃焼学会誌 第 54巻 170号(2012年)

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 圧縮比を上げると問題になるのは,ノッキングである.ノッキングは火炎伝播の進行に伴い圧縮された未燃ガスの自着火により局所的に発生した高圧部が圧力波の形で伝播する時の共振現象である.圧力波がシリンダ内を音速で往来する際,壁面で反射する時に位相が反転するために壁近くで波の振幅が大きくなる.この結果,自着火が発生した付近の壁や,その反対側の壁で特に圧力と温度が上昇して熱伝達が増大し,ピストン等の損傷を招く異常燃焼となる. ダウンサイジングで問題になっているのは低回転高負荷時に生じるプレイグニッションである.プレイグニッションとは点火栓により混合気が点火する前に何らかの理由で先に着火が起こり火炎伝播が始まることで,場合によっては極めて強いノッキングに至りエンジンが直ちに破損する異常燃焼である.これら 2 つの異常燃焼を抑制することがいま火花点火機関の研究者に対してもっとも求められていることである.

3. ノッキング現象の解明とその対策

3.1. ノッキングの発生要因 火花点火機関の熱効率を上げる際に最大の障害となっているノッキングに関しては,これまでも様々な研究成果が報告されてきた[1-5].しかしながら,従来のノッキング抑制のアプローチは「自着火の回避」が一般的であった.しかし実際にエンジンで問題となるのは強い圧力振動に伴う部品の損傷であり,自着火の発生そのものではない.例えば,HCCI (均一予混合圧縮着火) エンジンのようにシリンダ内全域でほぼ同時に自着火する場合は,シリンダ内で強い圧力振動は起こらない. ここでは,まず自着火の発生について説明した後,自着火が起きてもノッキング強度を抑制する二つの方法について説明する.図 1 は,燃料,乱れ強さ,空気過剰率 λ さらに圧縮比 ε がノッキングの発生限界に対してどのように変化するかを示したものである[5]. 乱れが強いほど,またオクタン価 RON が高い燃料ほどノック限界が広がる.ノッキングは未燃混合気が燃焼によって末端部で圧縮され,高温になって化学反応が生じて

自着火が始まることがトリガーとなる.乱れが強いと温度や化学種の拡散が促進されるため,ノッキングが抑制される.また,圧縮比を下げるほど,空気過剰率が 1 からずれるほどノック限界が広がっている.圧縮比が下がればガス温度が下がり反応が遅れる.空気過剰率が 1 からずれるほど雰囲気温度が下がり反応が遅れる.さらに図には示されていないが,過給すると反応時間が短縮されノッキングが起きやすくなる.自着火開始に一番影響を与えるのは温度であり,温度を下げるために,圧縮比の低減,燃料直噴化,比熱の増大 (排ガス再循環:EGR) が行われる.最近,排ガスをいったん冷やしてから再導入するクールド EGR がノッキング回避に使われている[6].これは,温度低減に加え反応抑制効果も利用できることによる.

3.2. 急速膨張によるノッキング回避 次に自着火が起きても強いノッキング強度に至らせない方法を紹介する.一つは圧縮上死点後にピストンを急速に動かし急速膨張させることである[7,8]. 図 2 の実線で示すようにクランク軸と出力軸の間に一対の葉形歯車を挿入することで,上死点直後にピストンを急速に動かして急速膨張を行わせることができる.これにより,低回転で圧縮比を 14 程度まで上げてもノッキングは生じない.図 3 に示す図示平均有効圧を 200~700 kPa に変化させた時のみかけの熱発生率の比較をみると,負荷が

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図 1 乱れの有無,燃料 (実線が 92RON,波線が 100RON) 空気過剰率 λ,圧縮比 ε がノッキング発生に及ぼす影響

図 2 ピストン位置の変化

図 3 圧縮比 14 運転時の熱発生率

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森吉泰生,火花点火機関におけるノッキング及びプレイグニッション克服への課題

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低い時は熱発生率の形は単調な山型であるが,負荷が 500 kPa を超えると,熱発生率に変曲点が見られる.最初は火炎伝播によるものと考えられるなだらかな増加であるが,上死点後に急激に大きくなる.これは末端部の未燃混合気が一気に自着火し燃焼したためと考えられる.しかしピストンが急激に降下するため,大きな圧力振動は発生しない.

3.3. 混合気温度分布によるノッキング強度抑制 自着火が起きても強いノッキングに至らせないもう一つの方法は,シリンダ内の混合気に空間的な温度分布を与えるものである[9,10].実機に近い状況でシリンダ内の混合気に初期温度分布を与えるため,図 4 に示す急速圧縮膨張装置 (RCEM) を用いた.本装置の駆動は,蓄圧タンクに充填された圧縮空気をトリガ信号により駆動シリンダに流入させ駆動部のピストンを押し出すことで開始する.これに伴いピストン先端に連結されたカムが水平移動し,カムの移動方向と垂直方向に移動するロッドがカムに沿って上下し,ロッドの先のピストンが上下することで燃焼室の圧縮・膨張行程を模擬する.約 480 cc の排気量で,エンジン相当回転数は 600 rpm である. シリンダ壁温を制御するために使う冷水及び温水は各タンクから供給され,シリンダ壁に設けられた 8 本の流路を循環させられる.別タンク内で作成した予混合気は電磁弁により下死点付近から高速充填され,稼動中のピストン位置はレーザ変位計を用いて測定する.シリンダヘッドには,ノッキング発生時の圧力振動を計測するため,点火側及びエンドガス側の各位置にピエゾ式圧力センサ (Kistler 6052C) を取り付けた. 実験条件を表 1 に示す.燃料はレギュラーガソリンにオクタン価が近く,混合気作成に適した沸点を有するノルマルブタンを用い,混合気濃度は量論比,吸気圧力は大気圧力より少し低い 90 kPa とした.実験時の壁面温度分布の条件を表 2 に示す.表の数値は,シリンダ壁から 2 mm 以内の位置で熱電対を用いて計測した値である.壁温パターン

を計測点における平均温度が 65 ℃となるよう,表 2 に示すように A から D までの条件を設定した.点火栓の位置は図中のパンケーキ型燃焼室左端にある. 図 5 に点火時期 20 deg.BTDC における各シリンダ壁温分布パターンに対する燃焼室内混合気温度分布の計算結果を示す.(上死点における中心断面) 図中星印で示す点火栓位置に対して,異なる空間温度分布が形成されることが分

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図 4 急速圧縮膨張装置とその仕様

表 1 RCEM による実験条件

表 2 シリンダ壁面温度分布 (A~D)

図 5 点火時期における混合気温度分布

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日本燃焼学会誌 第 54巻 170号(2012年)

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かった. 均一温度分布の A は,シリンダ中心部付近の高温領域から末端部に近づくにつれ壁面付近の低温領域へと,緩やかな温度勾配のある混合気分布となっている.B は点火栓側を高温にして,対向する未燃側を低温にすることで,火炎伝播により高温混合気が消費され,自着火時には比較的低温混合気が未燃部分に残留することを狙っている.反対に C では低温混合気が燃焼し,未燃部分には高温混合気が残留すると考えられる.D は点火栓から火炎伝播方向に対し左右に温度分布をつけている.このため,低温混合気及び高温混合気が同時に消費されて火炎が進行し,未燃部分にも低温・高温の両領域が存在することを狙っている. 次に,点火後の火炎伝播の様子,さらに自着火発生位置や圧力振動の様子を観察するため,燃焼室の上壁を石英ガラスに交換し,高速度カラービデオ (Photron SA1.1) を使用して直接撮影を行なった.得られた各条件の画像を時系列で図 6 に示す.図 7 には各画像における熱発生率と圧力変化を示す.30000 fps で撮影し,最初にエンドガス部で発光した時間を自着火時期とした.条件 B 及び C では未燃ガス部の中央付近の 1 箇所から自着火し,0.2 ms 後には未燃部全域に火炎が広がっている様子がわかる.一方,条件 A では未燃ガス部の複数点から自着火が発生し,D は最初の自着火が未燃領域の端で発生し,その 0.1 ms 後にも別の位置で自着火している.さらに A 及び D は,B,C と同じ 0.2 ms 後の画像でも未燃領域が存在している. 自着火が発生した瞬間及びその後の可視化画像より,エ

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図 6 各条件における直接可視化画像

図 7 各条件での熱発生率と圧力変化

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森吉泰生,火花点火機関におけるノッキング及びプレイグニッション克服への課題

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ンドガス部の一点から自着火が発生する場合に比べ,エンドガス部の複数個所から自着火が発生する場合や複数個所から順次自着火が生じる場合に,図 7 に示した圧力上昇率やノッキング強度を抑制できる事がわかった.

4. プレイグニッション現象

 昔の火花点火機関では高速高負荷時に高温になった点火栓や排気バルブが表面着火源となってプレイグニッションが生じていた.これまでに高温表面を作らない工夫がなされ,この現象は回避できるようになった.今問題になっているのは低回転高負荷時のプレイグニッションである[11-14]. プレイグニッションとは点火栓で点火する前に,何らかの理由で火炎伝播が始まる現象で,(つまり,点火時期を進めたことと同じ) その結果として,非常に強いノッキングが発生する場合がある.このノッキングの強度はきわめて大きく,最大圧力が 30 MPa を超える場合もあり,スーパーノックと呼ばれ一発でエンジンが損傷する.図 8 に正常燃焼時とプレイグニッションによるスーパーノック時の圧力履歴の例を示す.高過給低回転高負荷運転時はもともとノッキングが起きやすい条件なので,点火時期は大幅にリタードし上死点後に行う.一方,プレイグニッションは上死点前に発生し,スーパーノックが発生する.ノッキングの抑制にはオクタン価の高い燃料を使用すればよいが,プレイグニッションの抑制に高オクタン価ガソリンが有効かどうかは明らかになっていない. プレイグニッションの特徴として,定常運転を続けているにもかかわらず突然発生し,しかも図 9 のように周期的に発生することである.可能性として図 10 に示すものが挙げられているが,特に可能性が高い原因として以下の 2 つが挙げられている[11]. 一つは油滴説である.図 11 に示すように,ピストンクレビス部に溜まったオイルと燃料の混合物が上死点付近で

液滴として噴出したものが自着火するというものである.オイル成分は蒸発しにくいが自着火しやすいためである. もう一つの有力な説はデポジット説である.壁面に付着したデポジットがはがれて,それが自着火源となるというものである.いずれの説も一部可視化や数値計算によって可能性が示されている.しかし,周期的な発生や,それが突然止まることなど合理的に説明のつかないことが未だ多い. このプレイグニッションを,現在は混合気をリッチにしたり,この領域を変速機との組み合わせで制御して使わなくして回避している.しかし,更なるダウンサイジングや熱効率の改善のためには,現象を明らかにし,直接的な対策を施す必要がある.

5. まとめ

 コンパクトで安価で取り扱いの容易な動力源である火花点火機関の熱効率改善で問題となっている異常燃焼の現状

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図 8 正常燃焼時とプレイグニッションによるスーパーノック時の圧力履歴[13]

図 9 プレイグニッションにより周期的に変化する圧力

図 10 プレイグニッションの原因

図 11 油滴による自着火発生

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日本燃焼学会誌 第 54巻 170号(2012年)

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と課題について説明した.ある程度コストをかければ熱効率は改善できるが,コストアップは最小限にして効率改善はできるだけ大きくするのに,まだ燃焼面からの新しいアイデアによるアプローチがあると思われる.その検証には数値解析の活用が有効と考える.プレイグニッションに関しては未解明の部分が多く,実機での可視化と数値解析を組み合わせた検証が必要である. 本稿では現状のガソリンを使用することを想定して,研究事例の紹介と課題の説明を行った.しかし今後は,原油の質の悪化,現状品質を確保するための製油コストの増大,バイオ燃料や新燃料の導入などが考えられる.単純にオクタン価の維持・増大が LCA 評価で二酸化炭素低減に結びつくかどうかは疑問であり,燃料と異常燃焼との関係について再検討することや,新たな燃焼方式への対応と評価のための燃料インデックスの定義が必要になると思われる.

References

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2. J.B. Heywood, Internal Combustion Engine Fundamentals, McGrawHill (1988) 457.

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Cooled EGR on Engine Performance and Efficiency, SAE 2012-01-1149 (2012)

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8. Y. Moriyoshi et al., Effect of Active Piston-Movement Control on Thermal Efficiency in Different Heat Release Profiles SAE Paper No. 2005-32-0067 (2005)

9. S.F.Wong et al. (in Japanese),自動車技術会春季大会前刷 No.20125048 (2012)

10. Y.Moriyoshi et al. (in Japanese) ,第 23 回内燃機関シンポジウム前刷 (2012)

11. C.Dahnz et al., Investigations on Pre-Ignition in Highly Supercharged SI Engines, SAE Paper No. 2010-01-0355 (2010)

12. M. Amann and T. Alger, The Effect of EGR on Low-Speed Pre-Ignition in Boosted SI Engines, SAE Paper No. 2011-01-0339 (2011)

13. A. Zahdeh et al., Fundamental Approach to Investigate Pre-Ignition in Boosted SI Engines, SAE Paper No. 2011-01-0340 (2011)

14. T. Inoue et al., Abnormal Combustion in a Highly Boosted SI Engine - The Occurrence of Super Knock, SAE Paper No. 2012-01-1141 (2012)

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