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ITサービスマネジメント 育成ハンドブック ITスキル標準 ® プロフェッショナルコミュニティ ® ITサービスマネジメント委員会 2006 年度

ITサービスマネジメント 育成ハンドブック-3 - 本ハンドブックを作成するにあたって 本ハンドブックを作成するにあたって、日本のIT業界でITサービスマネジメント

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ITサービスマネジメント

育成ハンドブック

ITスキル標準®

プロフェッショナルコミュニティ®

ITサービスマネジメント委員会

2006 年度

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問い合わせ先窓口:

独立行政法人 情報処理推進機構ITスキル標準センター 企画グループ

〒113-6591 東京都文京区本駒込 2-28-8

文京グリーンコートセンターオフィス 16 階

TEL 03-5978-7544 FAX 03-5978-7516

URL: http://www.ipa.go.jp

2007年6月

©2007独立行政法人 情報処理推進機構

● 本報告書に記載している「ITスキル標準®」および「プロフェッショナルコミュニティ®」

は、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の登録商標です。また、社名および製品名

は、それぞれの会社の商標です。なお、本文中では「TM」、「®」は省略しています。

● 本報告書に記載している Web ページに関する情報(URL等)については、予告なく変更、

追加、削除(閉鎖)等する場合があります。あらかじめご了承願います。

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はじめに

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)ITスキル標準センターでは、第一線で活躍し

ている高度なスキルを持つ者同士が、社内や組織の論理にとらわれず建設的に情報交換や

議論が行えるような場において、ITスキル標準の改訂、人材育成のあり方等、次世代I

Tサービスビジネスを担う後進人材のスキルアップに貢献するための諸活動を行う目的で

「ITスキル標準プロフェショナルコミュニティ」を創設しました。

当委員会はシステム運用のプロフェショナルコミュニティである「オペレーション委員会」

として設立し、活動を開始しました。2006年度の後半からは、「ITサービスマネジメ

ント委員会」と改名し、現在に至ります。

本委員会では、システム運用の現状課題の抽出と分析やあるべき姿などの論議を行い、I

Tスキル標準への改善提案、ITサービスマネジメント業務の明確化を行い、ITサービ

スマネジメントの理想像を模索するための各社ITサービスマネジメントの討議により進

めることにしました。本委員会は詳細討議するため、レビューも並行させながら、ITス

キル標準改善提案報告書、研修ロードマップおよびITサービスマネジメント育成ハンド

ブックとしてまとめました。

本委員会のメンバー、本報告書(ITサービスマネジメント育成ハンドブック)の目的お

よび内容は以下の通りです。

・ITサービスマネジメント委員会(2007年6月現在)

木屋尾良明 : ㈱JALインフォテック

佐薙 俊士 : NECネクサソリユーションズ㈱

清水 健 : ㈱野村総合研究所

清水 康男 : ㈱CSKシステムズ

島田 洋之 : 東京海上日動システムズ㈱ (主査)

鳥居 秀弘 : ㈱日立情報システムズ

中山 孝一 : 富士通エフ・アイ・ピー㈱ (副主査)

(五十音順、敬称略)

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本ハンドブックを作成するにあたって

本ハンドブックを作成するにあたって、日本のIT業界でITサービスマネジメント

として第一線で活躍されている方への執筆をお願いし、ITサービスマネジメントと

してどのようにスキルを身につけるのか、役割責任の考え方、目指すキャリアのエッ

センスを整理しました。この方々の考え方や言葉を活かし、経験を引き継ぐことを目

的としてハンドブックとしてまとめることに留意いたしました。

ハンドブック各章の記述内容

1章では、ITサービスマネジメントの定義、役割を記述しました。

2章では、ITサービスマネジメントの能力について記述しました。

3章では、ITサービスマネジメントのキャリアパスについて記述しました。

4章では、ITサービスマネジメントを目指す人たちへの提言を記述しました。

5章では、ITサービスマネジメントを育成する人たちへの提言を記述しました。

付録では、 実際の育成の事例を掲載しました。

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目 次

1.ITサービスマネジメントとは...............................................................................................................1

1.1 ITシステムとITサービス............................................................................................................1

1.2 ITサービスの価値とリスク..........................................................................................................2

1.3 ITサービス提供のためのプロセスとタスク........................................................................5

1.4 開発と運用の分離と連携...................................................................................................................8

1.5 ITサービスマネジメントとはどのような職種か.......................................................... 10

2.ITサービスマネジメントに求められる能力...............................................................................14

2.1 能力の要素とその定義 .............................................................................................................. 14

2.2 ITサービスマネジメントに求められる知識と技術............................................... 14

2.3 ITサービスマネジメントに求められる行動様式(心構え)............................ 18

3.ITSMのキャリアパス .........................................................................................................................19

3.1 ITSMの専門分野......................................................................................................................... 19

3.2 キャリアパス・パターン............................................................................................................... 21

3.3 キャリアパスモデル......................................................................................................................... 22

4.ITSMを目指す人へ..............................................................................................................................25

4.1 キャリアアップのステップ .......................................................................................................... 25

5.ITサービスマネジメント職種を育成する立場の方へ.............................................................32

5.1 現状と課題 ............................................................................................................................................ 32

5.2 育成施策の設計................................................................................................................................... 32

5.3 育成の実施とPDCA.................................................................................................................... 35

5.4 育成体制の整備、育成施策 .......................................................................................................... 36

5.5 育成の支援 ............................................................................................................................................ 37

5.6 教育の手段 ............................................................................................................................................ 38

【付録】 ITサービスマネジメント育成の実際.................................................................................40

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1.ITサービスマネジメントとは

1.1 ITシステムとITサービス

(1)今日のITの重要性

今日の社会生活は、IT(Information Technology)を抜きに考えることはできません。

どんな企業や組織の活動も、必ずITに依存していると言ってまちがいないでしょう。通

勤・通学で利用するICカード、交通機関のダイヤ編成や運行管理、コンビニやインター

ネットショッピングをはじめとした日々の買い物の注文や配送、携帯電話サービスの多機

能化・高機能化、大事な財産の売買や管理など、枚挙にいとまがありません。 近年のI

T技術の進化、その利活用の進展が、ビジネスのITへの依存度を高め、ITは単なる道

具からビジネスの戦略を支える重要な要素、さらには社会基盤のひとつに位置づけられる

ようになって来ているわけです。

ITへの依存度が高まるとともに、その不具合による影響に対する懸念も高まっていま

す。銀行合併時のシステム統合の不具合や、証券取引システムでの誤発注問題、携帯番号

ポータビリティ制度による携帯電話申込み、変更手続き不可の障害など、障害事例が増え

ており、その影響度、影響範囲も拡大しています。ビジネスへのITの適正・的確な利活

用やITに係わる業務運営の適正化が強く求められるようになって来ており、ITに係わ

るマネジメントの成熟度を今までの延長線ではなく飛躍的に高めていく必要のある時代に

なってきているのです。

(2)ITシステムの構築とITサービスの提供

ITシステムのライフサイクルは、構築(開発)フェーズと、それ以降の運用フェーズ

に分けることができます。

① 構築(開発)フェーズ

個別システムを対象とした有期のプロジェクトであり、特定の期間に特定のビジネス

要求仕様に則った特定のシステム機能を効率的に構築・開発します。

② 運用フェーズ

組織の基盤を支えるITサービスを提供します。運用フェーズでは個別システムの集

合体であるシステム全体を対象として、システムの寿命のある間は安定的に継続して、

ITサービスを提供します。

「開発半年・運用10年」と言われることもあるように、ITシステム構築(開発)に

おいては短期的・集中的な活動が必要ですが、ITサービス提供では長期的・網羅的な活

動が必要です。開発は「有期性」のものですが、サービス提供は「継続性」のあるものな

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のです。ITシステム構築(開発)のほうが成果として目に見えがちですが、システムコ

ストの構成は開発局面が 20~30%であるのに対して運用局面が 70~80%であることが

一般的であり、運用局面での適正コストの維持は極めて重要です。さらに、ITサービス

の提供が定型的な「運行業務」だった時代と異なり、ITに係わるマネジメントの成熟度

を飛躍的に高めていく必要のある現在では、システムの運用管理は企業のリスク管理活動

の一部として捉える見識が必要です。ビジネスを支える「ITサービス」を、24時間3

65日安定的に、かつ適正コストで提供し続けるとともに、セキュリティの確保と維持を

はからなくてはならないのです。

1.2 ITサービスの価値とリスク

(1)ITサービス定義の重要性

ITサービスは、企業の経営戦略や事業の実現に向けた組織的な取り組みを支援するた

めに、IT(Information Technology)を使用したサービスです。これは、情報システム部

門やシステム会社がユーザ部門や顧客に対して提供する、システム運用やヘルプデスクな

どのシステム関連サービス全体の事で、次のような特徴があります。

① ユーザ部門や顧客の利益と密接に関連し、ITサービスの提供を行います。

② ユーザ部門や顧客に対して、ITサービスによる付加価値を実際に提供します。

③ ITサービスがビジネスに与える価値やユーザ/顧客満足度で評価されます。

④ ITサービスを安定的・正確に提供し続ける事が重要です。

⑤ ITサービスの提供は、サービスを受ける側の視点で評価、実施することが重要

です。

⑥ ITサービスを安定的・正確に提供している事の説明責任を常に有します。

このような特徴を持ったITサービスを提供するにあたっては、そもそも提供するサー

ビスがユーザ部門や顧客にとってどのような価値を持つのかをしっかり認識しながら、‘提

供するITサービス’の目的を明確化することが何よりも重要です。運用現場の業務とし

てスケジューリング・JOB登録・オペレーション・帳票出力・仕分け・配送といったタ

スクに注目する前に、それらのタスクの結果として、「インターネットショッピングサイト

を月1回のメンテナンス時間帯を除いて常時利用可能とする」とか、「入会から5何日以内

に会員証を入会者に発送する」といった目的を明らかにしなくてはいけません。さもない

と、どんな業務をどんな品質で実施すればよいか、コストパフォーマンスの判断ができな

いからです。

そして、このようにして明確化した‘提供するITサービス’の目的は、指標となる項

目とその提供レベルを明らかにし、文書化しておく必要があります。例えば、「障害発生か

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ら復旧までに要する時間は6時間以内とする」とか、「ユーザからの電話問合の80%以上

にはコールバックでなく即答する」といったように、数値等で具体的に表現します。また、

これらの項目、提供レベル(数値)はサービスレベルアグリーメント(SLA)として整

理し、ユーザ部門や顧客に説明、納得してもらい、合意しておくことが重要です。

(2)リスク管理の重要性

SLAができたら、それを提供できなくなる恐れはどんな場合にあるのか、提供できな

いとビジネスにどんな影響があるのか、そのような事態にならないためにはどんな努力を

はらうべきなのか、検討し、実施していくことが重要です。これがリスク管理です。下表

に示すように内部統制に関する社会的な要請が高まっていることも、リスク管理の重要性

を示しています。システム運用業務は明確な IT ガバナンスの下、リスクベースアプローチ

の考え方で実行され、認識・評価されるべきなのです。

表1-1:リスク管理の強化を促す内部統制強化の流れ

2005/12/8 財務報告に係わる内部統制の評価および監査の基準 金融庁

2006/6/15 情報システムの信頼性向上に関するガイドライン 経済産業省

2007/1/16 情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会(中間のまとめ) 経済産業省

2007/2/15 財務報告に係わる内部統制の評価および監査に関する実施基準 金融庁

2007/3/30 システム管理基準 追補版(財務報告にかかるIT統制ガイダンス) 経済産業省

2007/3/30 金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書(第7版追補) FISC

2007/3 事例からみたコンピュータ・リスク・管理の具体策 日本銀行

リスク管理では、潜在するリスクを把握し、そのリスクの対処を検討し、実施します。

問題となる可能性のある事柄に対し、事象が発生してからだけではなく、事前に対応し発

生の可能性をできるだけ低くするための活動を含みます。また、リスクとして想定されて

いたことが発生してしまった時に、トラブルを最小限にとどめるように処置することもリ

スク管理の大事な一面です。

ITリスク管理では、システムに係わる下記のようなリスクを十分認識・評価し、コン

トロール、モニタリングを行う必要があります。

① 機密性・・

情報漏えいの防止。(内部・外部の不正行為、ハッカー、操作ミス等のリスク防

止)

② 安全性・・

情報改竄の防止。(ハッカー、操作ミス、不正行為、プログラムバグ、ウィルス

等のリスク防止)

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③ 可用性・・

IT資源(データ・システム等)が、必要な時に、いつでも利用可能な状況の

確保。(地震、火災、水害、機器故障、停電、開発遅延、プログラムバグ、サイ

バーテロ等のリスク防止)

リスク管理は、ITサービス提供前の、できるだけ早い段階から開始します。最初は

発生する可能性の高いリスクも、対策により低くする事ができます。又、新たなリスクが

発生してくる可能性がでてくる場合もあるので、それらを見付け、問題となる前に対処す

るよう、継続的な対応が重要です。これらを適切に進めていくためには、どんな事象が起

こりうるか検討できるITに関する知識と、ビジネスにとってどんな影響があるかを認識

できる経営的センスの、両方が必要です。

(3)非機能要件の重要性

ビジネスのためのITサービスを、リスク管理ベースで提供しようとする際には、ビジ

ネス要求に応じた信頼性・安全性の水準が達成できるよう、セキュリティ対策(認証・暗

号化・伝送化など)や可用性対策(負荷分散・多重化・バックアップなど)といった非機

能要件がきちんと検討されていることが重要です。ITシステム構築プロジェクトで、ビ

ジネス要求仕様・開発期間・コストなどが優先されると、非機能要件が十分検討されない

まま「開発しっぱなし」となり、運用ロード、コストの増大や安定稼動を損ねる要因とな

る恐れがあります。経営層は、信頼性・安全性と実現・運用コストはトレードオフの関係

にあり、高い水準の達成には相応のコストを必要とすることを認識しなければなりません。

非機能要件の重要性は「情報システムの信頼性向上に関するガイドライン」(経済産業省)

にも示されていますが、その具体的な内容は一般的に確立しているわけではありません。

サービスレベル・キャパシティ・安全性・コストといった視点を整理して、要件を具体的

に定義し、システムオーナー(CIOやシステム利用部門)・開発者・運用者らの間で合意

を形成していかなければいけません。

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1.3 ITサービス提供のためのプロセスとタスク

(1)小さな業務実施の積み重ねと説明責任

ITサービスの提供は、「ITサービスを安定して提供するための小さな業務の積み重

ね」です。しかも、その業務は確実に実施され、システムを安定して提供するためにシス

テム全体を網羅的に管理しなければなりません。

さらに、個人情報保護法や金融商品取引法などの法律の制定を考慮すれば、何か起きた

ら迅速に的確な対処と対策および報告を行う“発生事象対応型”の業務運営ではなく、問

題が発生していないことの証明を常に行うことができる業務運営である必要があります。

システム運用状況の妥当性を自ら説明する責任がある、ということを前提に日々の業務を

する必要があるのです。各企業に自己責任が強く求められる時代にあって、「何も起こさな

い」から「何も起こしていない」という“自己証明型”のシステム運用が求められてきて

いるともいえるでしょう。

一方、従来からのシステム運用スタッフは、開発されたシステムを定められた手順に沿

って稼動させるシステム運行業務に長く携わり、何か生じた時には各人の職人芸的な対応

にて如何にも何事も起きなかったような対処を図ることを得意とするが、リスクの評価や

プロセス・ルールの制定および明確化などによる業務の可視化、証拠(evidence)の確保

などは、これまで十分な経験や知識習得する機会もないため不得意な分野であることが少

なくありません。そのため、従来からの単なる運行、オペレーションでなく、今日的なI

Tサービスマネジメントを確立していくことが重要なのです。

ITサービスマネジメントは、システムの監査および管理体制を明確に定めた上で、状

況を常に把握して、システム運用をコントロールする必要があります。システムの状況の

把握はさまざまな視点と尺度で継続的に行われるべきです。それらは効率的に実効性高く、

しかも明確で誰にも分かり易くまとめる必要があります。

(2)規範とプロセス

ITサービスを安定して提供するための小さな業務の積み重ねを、継続的・網羅的に実

施し、それをきちんと説明できるようにするためには、下に挙げるような規範(基本的な

考え方や業界標準的なフレームワーク)が参考になります。

● COSO(内部統制に関する考え方や標準的なフレームワーク)

● COBIT(ITガバナンスの基本的な考え方と標準的なフレームワーク、2007

年4月に第4版日本語版公開)

● ISO20000/ITIL(ITサービスマネジメントに係わる基本的な考え方と

標準的なフレームワーク、2007年4月にISO20000はJIS化)

ITサービスマネジメントのプロセスを、これらの規範を踏まえて整理した例を下表に

示します。このようにして網羅性を確保した上で、さらに具体的な役割り分担や業務フロ

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ーを整理していくことができます。

表1-2:ITサービスマネジメントのプロセス整理例

(3)アクティビティとタスク

ITサービスマネジメントのプロセスの中で必要となるアクティビティとタスクは、ま

だ一般的には整理されているとは言えませんが、情報処理技術者試験スキル標準から抜粋

すると、例えば次の表のようになります。

カテゴリ プロセス名称 概要

サービスデスクユーザへの単一窓口(Single Point Of Contact)を提供し、ユーザからのインシデントや問い合わせ、サービス要求への対応、ITサービスについてのユーザへの情報提供を行う。

インシデント管理インシデントによる業務への影響を最小限に抑えながら、速やかに通常のサービス運用への復帰を行う。

問題管理ITインフラストラクチャにおけるエラーによって引き起こされるインシデントの根本原因を特定することで、業務への悪影響を最小限に抑えるとともに、潜在的な問題を取り除くことでインシデントの再発を防止する。

構成管理ITインフラコンポーネント、ITサービス、ドキュメント、組織など、運用環境におけるすべての構成アイテム(CI)を一元的に管理することで、他サービスマネジメントプロセスへの包括的な構成管理情報を提供する。

変更管理ITサービスおよびインフラストラクチャに対するあらゆる変更を標準化し、統制された手順で行うことで、変更を効率化、迅速化するとともに、変更に伴うインシデントを防止する。

リリースプロセス

リリース管理運用環境へのソフトウェア、ハードウェアのリリースを標準化し、統制されたやり方で行うことで、リリースの信頼性および効率を高める。

サービスレベル管理SLAの計画立案、起草、顧客との交渉および合意、監視、報告および成果についてのレビューという一連の活動を通じて、事業要求やコストに見合ったサービス品質を維持し、継続的に改善していく。

サービス報告情報に基づく判断と効率的なコミュニケーションのため、合意された信頼できる精確な報告をタイムリーに生成する。

キャパシティ管理ITインフラストラクチャ、ITサービスおよびそれらをサポートする組織のキャパシティおよびパフォーマンスを適正なコストで維持していく。

可用性管理ITインフラストラクチャやITサービスについて、事業目標に沿った費用対効果に優れた可用性レベルを維持していく。

ITサービス継続性管理災害や事故、テロなどによるITサービス中断後も、事業を継続できる最低限の業務要件をサポートできるITサービスを継続的に提供する。

ITサービス予算と会計ITサービス提供のための投資を予算化し(予算管理)、サービス提供にかかるコストを計算し(IT会計)、これらのコストをタイムリーに回収する(課金)ことで、組織財源の受託責任を果たす。

情報セキュリティ管理ITサービス提供に関わるあらゆる情報資産に対するセキュリティリスクを評価し、統制することで、情報資産を適切に保護し、セキュリティインシデントを予防するとともに、法規制などのコンプライアンスに対応する。

データ管理メディアライブラリの整備、バックアップ・リストア、データセキュリティの確保を通じて、データの品質・リアルタイム性・信頼性・万全性を保証する。

オペレーション管理オペレーション手順整備などを通じて、効率的かつミスの無いオペレーション業務を維持する。

事業関係管理事業とサービスプロバイダが相互理解を維持し、全ての事業部門と効果的かつ効率的な関係を発展させ、維持する。

サプライヤ管理全てのサプライヤおよびパートナと効果的かつ効率的な関係を発展させ、維持することにより、サプライヤの価値を充分に活用する。

解決プロセス

コントロールプロセス

サービスデリバリプロセス

オペレーション管理

関係管理

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表1-3:ITサービスマネジメントのアクティビティとタスク

(情報処理技術者試験)の整理例

情報処理技術者試験区分

業務領域 アクティビティ タスク

3-1 システムと利用実態の評価3-2 改善要求とフィードバック3-3 経営戦略実現のためのデータ活用3-4 IT活用の啓発普及5-1 セキュリティ運用手続きの実施5-2 システム動作の監視と記録5-3 システム保守5-4 利用者教育5-5 セキュリティ技術者教育6-1 事故の検知6-2 事故の初動処理6-3 事故の分析6-4 事故からの復旧6-5 再発防止策の実施6-6 セキュリティの評価7-1 技術情報の収集と評価7-2 運用上の問題点整理と分析7-3 技術上の問題点整理と分析7-4 新たなリスクの整理と分析7-5 セキュリティポリシの更新

3. 情報システム環境整備 及び利用者

3-5 利用者支援

4-1 情報システムの資源及び障害管理4-2 セキュリティとモラル2-1 システム運用2-2 ユーザ管理2-3 オペレーション管理2-4 課金管理2-5 コスト管理2-6 要員管理2-7 分散サイト管理2-8 運用管理システムの利用2-9 標準化3-1 ハードウェア管理3-2 ソフトウェア管理3-3 データ管理3-4 ネットワーク資源管理3-5 施設・設備管理4-1 障害の監視4-2 障害原因の究明4-3 回復処理4-4 障害記録・再発防止4-5 分散システムの障害管理5-1 セキュリティ管理体制の確立と方針の設定5-2 セキュリティ侵害の監視と状況分析5-3 分散サイトのセキュリティ管理5-4 セキュリティ強度の確認5-5 セキュリティ監査対応6-1 性能評価の実施6-2 キャパシティ管理6-3 分散システムの性能管理6-4 分散システムにおけるキャパシティ管理9-1 評価目的・評価対象の設定9-2 評価項目・評価基準の設定と評価の実施9-3 システム改善提案9-4 分散システムの評価10-1 ユーザの遵守事項の明確化10-2 ユーザサポート10-3 ユーザ新要求への対応10-4 ユーザコンサルティング7-1 セキュリティ管理体制の確立の支援7-2 セキュリティ侵犯の監視の支援と状況分析の支援7-3 セキュリティ強度の確認の支援7-4 セキュリティ侵犯への対応の支援7-5 セキュリティの評価の支援

テクニカルエンジニア(情報セキュリティ)

9. 運用に関するシステム評価

10. システム利用者対応

7.情報システム運用時のセキュリティ管理の支援

情報セキュリティエンジニアリングプロセス

4. 情報システムの運用管理

初級システムアドミニストレータ主要業務

初級システムアドミニストレータ

テクニカルエンジニア(システム管理)

テクニカルエンジニア(システム管理)主要業務

2. システム管理

3. 資源管理

4. 障害管理

5. セキュリティ管理

6. 性能管理

3. システム利用促進のマネジメント

5. セキュリティシステムの運用管理

6. セキュリティの分析

7. セキュリティの見直し

上級システムアドミニストレータ

情報セキュリティアドミニストレータ

情報化戦略実現マネジメントプロセス

情報セキュリティマネジメントプロセス

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1.4 開発と運用の分離と連携

(1)分離の重要性

ITサービスのリスクを減らすためには、開発と運用を分離すると効果があります。分

離には以下のような対応があります。

● 職責の分離(相互牽制体制の構築)

個人のミスおよび悪意を持った行為を排除するため、システム開発と運用のプ

ロセスおよびそれぞれの担当部門あるいは組織の明確な分離を行います。

● 環境の分離

開発環境と運用環境は明確に分離し、相互に影響を及ぼさないような策を講じ

リスクの最小化を図ります。

● アクセスの制限と管理

開発環境、運用環境それぞれ常に適切な権限を有する者のみがアクセスを可能

な状態にし、それらは常に監視している必要があります。特にユーザの個人情

報など重要データに直接アクセスできる対象者は極力最小化し、またアクセス

状況は常に監視と分析により作業の妥当性の組織担保を行います。

(2)開発と運用の連携

職責を分離した開発と運用の間では、ITサービス導入の局面に応じて、さまざまな連

携が必要です。以下では、「アプリケーション」・「基盤」・「運用」という役割分担における

連携内容の例を示します。

【アプリケーションシステム開発時】(図1-1)

アプリケーション開発担当は与えられた期間とコ

ストの範囲で要件を明らかにしながらシステムを

開発しますが、基盤担当および運用担当は、システ

ム全体を最適化するという観点からアプリケーシ

ョン基盤開発支援と運用時の効率化、安定性、コス

トを考慮した運用設計支援を行います。

【サービスイン】(図1-2)

運用担当はシステム全体を最適化するという観点

から運用時の効率化、安定性、コスト、性能、セキ

ュリティを考慮します。また、事前に明確にしてい

る基準に則って、運用に受け入れるにあたっての評

アプリ

基盤

運用

【開発時】

アプリ基盤

開発支援

運用設計

支援

アプリ

基盤

運用

【移管評価・サービスイン時】

移管

評価

  ・承認

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9

価を行います。

【アプリケーション保守時】

初期開発が終了しサービスインした後のアプリケーション保守については、「運

用・保守」といった言い方で運用といっしょにくくられることも少なくありませ

んが、「システム管理基準」(経済産業省)でも定義されているように「保守」は

「運用」とは別ものであり、むしろ「開発」と同列に論ずるべきものです。従っ

て、連携のありかたも、上記【アプリケーションシステム開発時】および【サー

ビスイン】に準じる(これらが小規模に繰り返される)ことになります。なお、

基盤の保守(維持管理)は次項に示します。

【ハードウェアや OS 等の基盤ソフトウェア等の環境

構築と変更時】(図1-3)

運用担当は運用時の効率化、安定性、セキュリティ

を考慮して、事前に明確にしている基準に則って、

運用を受け入れるにあたっての評価を行います。

【運用監視とツール開発時】(図1-4)

運用担当は運用監視をするためのツールの要件を基盤担当者に伝えます。基盤担

当はその要件を満たすツールを準備、必要であれば開発を行います。基盤担当は

そのツールの稼動をするために必要な環境を運用

管理担当に伝えます。運用担当は、運用時の効率化、

安定性、セキュリティを考慮して、事前に明確化し

てある基準に則って、運用に受け入れるにあたって

の評価を行います。受け入れ条件に合致するのであ

れば、運用担当はこのツールを承認し、基盤担当よ

り移管を受け入れます。

【通常の運用時】(図1-5)

運行監視担当は事前に定められた手順に則り

監視を行い、必要な報告を基盤担当、アプリ担

当に行います。異常発生時には事前に定められ

た手順に則り障害連絡、復旧作業を行います。

また、異常の原因の究明、抜本対策などが遺漏

無く行われることを管理します。

基盤

運用

【環境変更時】

環境変更作業

評価

  ・承認

基盤

運用

【運用環境・ツール開発時】

[

アプリオー

ナー

]

[

サプライ

ヤー

]

移管/環境変更

要件定義

評価

  ・承認

アプリ

基盤

運用

【通常運用時】

 復旧作業の指示

【障害対応】

①障害連絡

②原因調査・復旧の依頼

結果連絡、対応・作業指示

【障害以外の対応】

①エラーなどの連絡

②対応・改善依頼

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1.5 ITサービスマネジメントとはどのような職種か

(1)ITスキル標準V2 2006 における改訂のポイント

ITスキル標準は2006年4月に「ITスキル標準V2」としてバージョンアップさ

れた際、その後の見直しは毎年定期的に行う方針となり、2006年10月に公表された

「ITスキル標準V2 2006」が、初めての定期改訂版になりました。この時の主な改訂

内容は、職種「オペレーション」を見直し、職種「ITサービスマネジメント」に変更し

たことでした。プレスリリースには以下のように記しています:

『IT技術の進化に伴ってビジネスのシステムへの依存度が増加してきており、システム

の安定稼働の維持、システム運用の重要性が急速に高まっています。このような状況を背

景にシステム運用に関わるメソドロジや標準的なフレームワークが整備されてきており、

ITスキル標準としても、オペレーション職種についてシステム運用全般を担う職種とし

て内容を充実する観点から見直しを図りました。それに伴い職種の名称をシステム運用に

関する国際標準であるISO20000のベースにもなっていたITIL®等を参考にし

ながら「ITサービスマネジメント」に改めました。』

(2)職種「ITサービスマネジメント」の説明

プレスリリースからの引用を続けます:

『ITサービスマネジメント職種は、システム運用関連技術を活用し、サービスレベルの

設計を行い顧客と合意されたサービスレベルアグリーメント(SLA)に基づき、システム

運用リスク管理の側面からシステム全体の安定稼動に責任を持つ。システム全体の安定稼

動を目指し、安全性、信頼性、効率性を追及する。またサービスレベルの維持、向上を図

るためにシステム稼動情報の収集と分析を実施し、システム基盤管理も含めた運用管理を

行う。

IT投資の局面においては、開発から運用、保守までの領域で主に以下のような活動を

行う。

-開発:運用可能性の審査、本番移行計画の審査

-運用/保守:システム運用の計画、実行、監視、および障害対応管理

当該職種は、以下の専門分野に区分される。

●運用管理

ITサービスマネジメントの全般に関わり、リスクに対する予防処置を施し、

サービスを安定提供するための各プロセスを実施することを担う。また、その

実施に関わる関係者を指揮し、サービスレベル管理をはじめとするサービス提

供の責任を担う。上位レベルの技術者は運用管理の責任者として、顧客に対し

て IT サービスマネジメントの統括責任を負う。

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また、運用ガイドラインの策定、およびその遵守の徹底を図る。

●システム管理

共通運用基盤と位置づけられる部分について、IT 基盤の設計・構築・維持管理

を担う。(IT 基盤とは、ネットワーク/LAN、運用管理ツール、メインフレ

ームおよびサーバのハード/OS/ミドルウェア、アプライアンス製品)

また、IT基盤に関するシステム受入れ基準を策定する。

●オペレーション

IT システムを安定稼動させるため、定められた手順に沿って、IT システ

ムの監視・操作・状況連絡を実施する。実施内容は全て記録・保管する。

●サービスデスク

対象となるITサービスのユーザからの問い合わせ・申請等に対して窓口機能

を担う。対応内容については全て記録・保管する。』

(3)他職種との関係

職種「ITサービスマネジメント」と他の職種との関係は、下図のようにイメージする

ことができます。職種「プロジェクトマネジメント」以外の職種でもプロジェクトマネジ

メントに関する考え方やスキルが必要なように、「ITサービスマネジメント」以外の職種

でもITサービスマネジメントに関する考え方やスキルは必要であり、ITスキル標準全

体としてシステム運用領域の整理に関する検討が今後も進められていく予定です。

現時点で特に重複感が強い職種「ITスペシャリスト」の専門分野「システム管理」と

職種「ITサービスマネジメント」の専門分野「システム管理」の間では、ITスペシャ

リストがプロジェクトマネージャの指揮の下で有期的なプロジェクトの遂行をめざすのに

対し、ITサービスマネジメントはそれを司るサービスマネージャの指揮の下で継続的な

サービスの提供をめざす、という視点の違いがあります。また、ITサービスマネジメン

トでは、運用ガイドラインのうちIT基盤全般に関するシステム受け入れ基準の作成およ

び評価を担うことになるため、ITスペシャリストよりも幅広い知識(プラットフォーム・

データベース・ネットワーク・セキュリティなどを含む)が必要となります。

また、キャリアパスとしては、ITサービスマネジメントはプロジェクトマネジメント

と同様に管理職種なので、ビジネスアプリケーションやインフラに関するITの基礎的な

知識・経験は他職種で経験した上でITサービスマネジメントに携わるという流れが考え

られます。個別のビジネスアプリケーションよりは全体のITインフラに関する知識・経

験が、より重要だと考えられます。

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:キャリアパスのイメージ

技術の分野ビジネス

アプリケーション インフラ

管理の視点

個別的・有期的な

プロジェクト

全体的・継続的なサービス

プロジェクトマネジメント

ITスペシャリスト

コンサルタント・

ITアーキテクト

アプリケーションスペシャリスト

ITサービスマネジメント

図1-6:ITサービスマネジメントと他職種

<組織の特性に応じた解釈・適用>

職種「ITサービスマネジメント」の人材が、所属する組織の中でどのような体制をと

るかは、組織毎に柔軟に解釈・適用することができます。

職種の専門分野である運用管理・システム管理・オペレーション・サービスデスクにほ

ぼ対応する体制にわかれている場合もあれば、小規模組織で全ての専門分野を兼ねた体制

の場合もあります。役割分担を「アプリケーション」・「基盤」・「運用」にわけている企業

もあれば、「データセンタ運営」担当としてファシリティ管理を括りだしていることもあり

ます。システム運用業務受託を主体としている企業においては、顧客単位の体制の中で、

アカウンティング担当(顧客窓口)・運用担当・アプリケーション担当に分けている場合も

あります。

また、ITサービスマネジメントの対象となるひとつ以上のシステムで共通に用いられ

る運用管理のためのIT基盤として定義される「共通運用基盤」についても、当該組織に

おけるITサービス提供の形態により、さまざまなとらえかたが可能です。一般には、サ

ーバやネットワークの監視システム、ジョブスケジューラ、インシデント管理システム、

変更管理システム、構成管理システムなどが含まれますが、例えばサーバーリソースのホ

スティング提供の場合には、当該サーバ基盤自体を共通運用基盤ととらえることもできま

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すし、データセンタのハウジング提供の場合には、サーバ監視システムも提供先の所管で

共通運用基盤ではないととらえることもできます。

各組織によるITサービスマネジメントのとらえかたの事例については、本書末尾の「I

Tサービスマネジメント育成の実際」も参照してください。

図1-7 企業ごとの組織イメージの違い

ユーザー企業の組織イメージ例 アウトソーサーの組織イメージ例

運用

ビジネスアプリ A

ビジネスアプリ B

ビジネスアプリ C

運用

基盤

ビジネスアプリ・基盤 A社

ビジネスアプリ・基盤 B業界

ビジネスアプリ・基盤 C業界

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2.ITサービスマネジメントに求められる能力

2.1 能力の要素とその定義

(1) 知識

仕事をする上で必要、もしくは有益となる事柄について、知っている内容の

事。書籍や研修、または実際の経験により習得することができる。

(2) 技術

知識をもとに、実際の作業を実施する力。研修、または実際の経験より習得・

向上することができる。

(3) 行動様式・心構え

実際の作業を行う上で、保持している知識や技術を最大限に活用することがで

きる行動や心構え。

2.2 ITサービスマネジメントに求められる知識と技術

2006年10月に職種[オペレーション]を[ITサービスマネジメント]

という呼称に改め、同時にその中の専門分野を[運用管理]、[システム管理]、

[オペレーション]、[サービスデスク]の4種にしました。これは、現在の運

用関連部門にて担っている役割や責任が、今までの職種[オペレーション]の

それと比べて明らかに拡大していることに起因しています。この拡大した役割

や責任を遂行するには、今までの職種「オペレーション」で定義された知識や

技術の範囲では賄えない状況になっていることから、改めて現運用関連部門に

て必要とされている知識や技術項目を整理しました。

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(1)プロジェクトマネジメント

プロジェクト(作業)を実施・管理するにあたり必要とされる知識や技術。

目標を定め、チーム力を最大限に引き出す技術。また、チームが抱えるリスク

や課題を管理し、解決する知識や技術。

例)

表2-1 プロジェクトマネジメント能力の例

項 目 概 要

プロジェクトマネジメント プロジェクトの定義、組織化、計画、実施、完了

の局面における策定・管理等

(2)パーソナル

作業を実施するにあたり必要とされる人間性や精神面における知識や技術。

顧客、上司、または部下やチームメンバーとのコミュニケーションや作業推進

を円滑に効果的に進める技術。

例)

表2-2 パーソナル能力の例

項 目 概 要

リーダーシップ 作業・目標の設定・推進・管理や、メンバーの連携、

動機付け、達成感の提供等

コミュニケーション 効果的な話し方や聞き方の実践からの意思疎通、プ

レゼンテーション技術を通した情報伝達等

ネゴシエーション 交渉プロセスや効果的な交渉技法の把握と実践、信

頼関係の確立や問題解決等

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(3)ビジネス/インダストリ

職種や専門分野において知っておくべき知識。

顧客に対してITサービスを提供するうえで必要となる、顧客を取り巻く環境

の知識の把握。

例)

表2-3 ビジネス/インダストリ能力の例

項 目 概 要

最新ビジネス動向 主要な産業の経営課題やトピックス、国内外のIT

市場やビジネスのおけるIT利用等の動向

(4)テクノロジ

業務を実施するにあたり必要とされるIT知識や技術。

顧客に最も効率的で効果的なITサービスを提供する為のIT技術動向や製品

情報などの知識や技術。

例)

表2-4 テクノロジ能力の例

項 目 概 要

IT基礎 インターネット・コンピューター・データベース・

ネットワーク等のテクノロジや、各種開発手法・プ

ログラミングの基本等のソフトエンジニヤリング

システム構築 プラットホームやネットワークのハード・ソフト製

品の導入や移行、稼動環境の設定等

製品知識 プラットホームやネットワークのハード・ソフト製

最新技術動向 国内外における現在から将来に向けたIT技術と

ビジネスの発展

セキュリティ管理 情報セキュリティの重要性、不正アクセスを守るア

クセス管理方法、およびウィルス対策

システム管理 プラットホーム・ネットワーク・アプリケーショ

ン・セキュリティの管理・保守

オペレーション業務 プラットホーム・ネットワーク・アプリケーション

の運行・操作、セキュリティ・財務・設備・機器構

成等の監視

サービスデスク業務 プラットホーム・ネットワーク・アプリケーショの

把握とインシデント・ナレッジ管理

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(5)メソトロジ

業務を実施するにあたり必要とされる手法や方法論的知識や技術。

顧客に最も効率的で効果的なITサービスを提供する為の手法や方法論などの

知識や技術。

例)

表2-5 メソドロジ能力の例

項 目 概 要

システム開発基礎 アプリケーション開発におけるプラットホーム、

データベース、ミドルウェア等のテクノロジや、

業務要件分析、設計、開発、管理手法等

ITSM ITサービスマネジメントの意義や目的、およびイ

ンシデント・問題・変更・リリース・構成の各プロ

セス管理とサービスレベル・可用性・キャパシティ

ー管理

要員管理 要員の計画・管理と育成の計画と実施、又、コーチ

ングやメンタルヘルス等

危機管理 天災や障害等の不測の事態に対し、事前対応や事象

発生から復旧・回復までの対処、また障害の予防や

是正対応

ビジネスマネジメント 関連法規や規定、企業倫理等の各種ルールとその遵

守、内部統制フレームワークやサプライヤー管理、

ユーザ対応、顧客満足度管理等

ファシリティ管理 データセンタの建設、電気、安全等の施設とその防

犯や関連法規と基準等

(6)その他

例)

表2-6 その他の能力の例

項 目 概 要

コミュニティ活動 社内外のハイレベルスキルに基づく論文や講演、研

究活動

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2.3 ITサービスマネジメントに求められる行動様式(心構え)

(1)発想/思考/感情

表2-7 発想/思考/感情の行動様式

顧客指向 ユ ー ザ 業 務 へ の 影 響 を 極 力 少 な く す る 考 え

を根底におく

探究心・好奇心 誤作業を含む障害の予防や再発防止、および安全で効率

的な運用方式の追求等

冷静 如何なる状況においても感情的にならず、感情による言

動をとらない

耐ストレス 障害やクレームに対するストレスへの対処

危機意識の保持 非日常的情報や問題情報から今後発展する問題を予見

し、的確な対処を施す

(2)作業推進

表2-8 作業推進の行動様式

正確な作業/判断 定められた作業を間違いなく実施し、問題発生時には、

時と場合に応じた的確な判断が必要

ルール・規定の遵守 法律や企業規定、および運用/引継ぎルール等を、誰に

対しても厳格に守る

安全最優先 如何なる時もシステムの安定を判断の基本とする

継続的改善 安全性、生産性の向上を目指し、常に改善の意識をもつ

(3)対人関係

表2-9 対人関係の行動様式

説得力(粘り強さ) 各種調整/依頼事項を相手に承知してもらう

聞き出す力 情報提供者からの障害や問題情報を的確に認識する

的確な表現 意図、内容を的確に相手に伝え認識してもらう

協調性 他メンバーとの協力や協業で運用サービスを実現して

いることを念頭におき、情報の共有や支援体制を心がけ

説明/報告の徹底 障害やその復旧についての説明/報告同様、問題のない

場合の説明/報告が重要である

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3.ITSMのキャリアパス

3.1 ITSMの専門分野

「ITスキル標準V2 2006」の初めての定期改訂版で、リリースされた職種

「ITサービスマネジメント」(以下、ITSM)では、‘運用管理’、‘システム

管理’、‘オペレーション’、‘サービスデスク’ という4つの専門職種で構成され

ています。

ITSMは「企業の経営戦略や事業の実現に向けた組織的な取り組みを支援す

るために、ITを使用したサービスを提供する」位置付けであり、企業が顧客に

提供するシステム(ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク等)の基盤(基

地)を預かり、安全に動かし続ける事が任務です。

システムを安全に動かすことは簡単に実現できると考えがちですが、日々刻々

変化する状況において、災害等のリスクやウィルス、情報漏えいなどの脅威に対

して対応するなど非常に難しい事といえます。

また、それに従事する技術者に求められるスキルにおいても、深くではなく、

浅く広くのスキルが求められます。例えば、以下のようなことが考えられます。

①IT技術:ホスト系/オープン系、レガシー/最新技術

②個人情報保護法、金融商品取引法などの法令

③COSO、COBIT、ITILなどの標準化フレームワークの知識

④基本的にチーム単位で行動することが多いのでコミュニケーションやリ

ーダーシップといったことも必要になってきます。ITSMの各専門分野

の上位レベルの技術者はレベルの差こそあれこれらを習得していなけれ

ばなりません。

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ITサービスマネジメント育成にかかる年数のイメージ

仮に22歳をレベル1として年齢を割り当ててみると、下記のようになります。

レベル1:22歳(オペレーション、サービスデスク)

レベル2:25歳(オペレーション、サービスデスク)

レベル3:28歳(システム管理)

レベル4:31歳(システム管理)

レベル5:35歳(運用管理)

レベル6:40歳(運用管理)

レベル7:45歳(運用管理)

これは一例ですが、育成の目安として掲載しました。市場の動向などに柔軟に対応しなが

ら、職場の環境、仕事の内容を考慮しつつ、人材を育成していくことが望まれます。

レベル4 3年

レベル5

4年

レベル6

5年

レベル7

5年

専門分野「運用管理」をベースに育成にかかる年数を

想定して積み上げると以下の図のようになります。

レベル3 3年

レベル2 3年

レベル1 3年

22 歳

25 歳

28 歳

31 歳

35 歳

40 歳

45 歳

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3.2 キャリアパス・パターン

ITSMの各専門分野になるためには、大きく3通りのキャリアパス・パターンが考え

られます。

(1)パターンA:ITSM内の専門分野へのキャリアパス

(2)パターンB:ITSMから他職種へのキャリアパス

(3)パターンC:他職種からITSMへのキャリアパス

パターンA

運用管理 システム管理

オペレーション サービスデスク

ITSM CONS PM

ITA APS

ITS MK

Sales SWD

CS ED

パターンB

パターンC

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3.3 キャリアパスモデル

(1)ITSM内の専門分野への分野転換

職種

専門分野 運用管理

システム管理

オペレー

ョン

サー

ビスデスク

プロフェッショナル 責任者 レベル7

責任者 レベル6

責任者 レベル5

ミドルレベル  リーダ レベル4

メンバ レベル3

エントリーレベル レベル2

レベル1

ITサービスマネジメント

①オペレーション → 運用管理

日々のオペレーション業務の中で発生する障害対応や運用管理からの業務の引き継

ぎを通じて、IT技術について幅広い技術を習得する(またはきっかけとなり)こ

とにより、運用管理への分野転換を実現する。また、他専門分野をリードする立場

であるので、部下育成を通じてのリーダーシップやメンタリング技術を活用する。

②オペレーション → システム管理

日々のオペレーション業務の中で発生する障害対応や運用管理からの業務の引き継

ぎを通じて、IT技術について高い(深い)技術を習得する(またはきっかけとな

り)ことにより、システム管理への分野転換を実現する。

③サービスデスク → 運用管理

日々のサービスデスク業務を通じて、顧客の要求事項とその対応策を把握し、IT

サービスへ活用する事により、サービスの向上を図れるような運用管理への分野転

換を実現する。

④システム管理 → 運用管理

運用共通基盤を通じての知識を元に、運用全般の観点から顧客のシステムを維持管

理するとともに、最適なシステム構成を顧客に提案することができる。

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(2)他職種の経験を経たITSMへのキャリアパス

多種のキャリアパスが考えられるが、そのいくつかを紹介する。

①運用管理 → コンサルタント→運用管理

運用管理の上位レベルの技術者は、運用管理マネージャーとして既存の顧客

に対してサービスレベル合意(SLA)を遵守する立場にあり、既存システ

ム全体を経営的な観点から見ていく必要がある。その経験を活かしてビジネ

スの創造を行い、運用業務のコンサルタントとして広く企業にアピールして

いく。

さらにコンサルタントとしての経験を生かして、運用管理を行うことで更な

る付加価値を持ったITサービスの提供を行うことができる。

②オペレーション → ITスペシャリスト→運用管理

ITSMにおけるシステム管理は、ITサービスを提供しているシステムの

運用共通基盤が対象となるが、その基盤で使われている技術に対して深みと

幅を持たせることにより、ITスペシャリストへの道を歩むことができる。

ITスペシャリストとしての知識と経験を積んだ上で、運用管理を行うこと

で、高度なテクノロジを利用した、ITサービスマネジメントを行うことが

できる。

③システム管理 → プロジェクトマネジメント→運用管理

自分配下のチームについて、進捗管理、コスト管理、リスク管理等を行なっ

ており、その経験を活かして、プロジェクト管理を実施する。プロジェクト

管理の経験を生かして、より企業のエグゼクティブのニーズに沿ったITサ

ービスの提供ができるようになる。

④サービスデスク → アプリケーションスペシャリスト → 運用管理

ITスキルのほかに、業務運用を通じての業務知識を元に、アプリケーショ

ン開発の経験を積んだ上で運用管理への道を歩むことができる。

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(3)他職種からITSMへのキャリアパス

①ITスペシャリスト → システム管理

特定プロダクト、分野について深い知識を持っている。そのスキルを活かし

運用共通基盤の充実や安定稼動に役立てる。新規システム受入や既存システ

ムの拡張、変更時にその技術を活用した提案を実施する。また、キャパシテ

ィー管理、パフォーマンス管理といった技術的な仕組みをつくらなければな

らない分野においては、効果的な仕組みを作ることにより、正確なデータ分

析により的確な対策を打つことが可能となる。

②アプリケーションスペシャリスト → 運用管理

特定業界、例えば金融や流通のシステム開発を行っていた時に得られた知識

を元に、顧客とのコミュニケーションを通じてのニーズを聞き出せることが

できる。顧客の業界の特徴、動向、ひいては共通の言葉により、顧客との共

通認識のもと、コミュニケーションを通じて顧客ニーズを掘り起こし現行運

用へ反映させていくことが可能である。

③コンサルタント → 運用管理

コンサルタントでの経験を活かし、運用管理マネージャーとしてシステムや

顧客トップ層とのコミュニケーションにより顧客ニーズを掘り起こす。

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4.ITSMを目指す人へ

4.1 キャリアアップのステップ

既にITSMの職種になっている人は、今までの経験または先輩や上司の意見を参考

にしながら、自分としてはどうなりたいのかを一度じっくり考えてみてください。

・自分としては、どうなりたいのか?

・何をやりたいのか?

・今、自分は何ができるのか?

自分の進むべき道、進みたい道を明確にさせることが、重要であり、今後の出発点になり

ます。

IT産業にこれから身を投じる人は、ITSMとういう職種、他の職種がどんな事をや

るのかをまだ実感できない状態だと思います。自分の将来を見据えて、入社したら意識し

て色々な職種を探ってください。進め方のステップは以下の通りです。

◆次に、進みたい道(職種)を明確にし、イメージする (目標設定)

・どんなことをやる職種なのか ・どういったことを知っていなければならないのか

・どういったことが出来なければいけないのか

◆先ずは、現在の自分と進みたい道(職種)を整理する (現状分析)

・何をやりたいのか ・どうなりたいのか

・何が出来る ・どんなことを知っている

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◆継続的なキャリアアップ (切磋琢磨)

・レベルアップ

◆習得したスキルを実際に活用する (能力発揮の場)

・習得したスキルと実務でのスキルの差をチェックし、

今後のスキル習得に反映させる

◆スキルを習得する方法の具体的な実施 (スキル習得)

・社内研修 ・社外研修

・先輩、上司からの習得

◆それでは、目標の職種に進むには何をすればいいのか (キャリアプラン設計)

・いつまでに、どのようになっていたいか ・そのために、何をしなければいけないのか

・それをどうやって習得する

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ステップ①

◆先ずは、現在の自分と進みたい道(職種)を整理する(現状分析)

今までの実務経験、学習活動より、現在自分が身につけているスキルがどんな物

なのかを整理してみる。漠然とこれを知っているではなく、紙に書き出してみて

漏れがないようにしてください。参照するものとしては、ITSSスキルディク

ショナリに記載されているスキルを参考に、ここまでできる、ここまでなら分か

るかを整理してください。整理するに当たり、IT技術に集中しがちにならずそ

の他のスキル、コミュニケーション、リーダーシップ、法令等についても整理し

てください。

また、今後の自分の進みたい道についても考えてください。ITSMの専門職種

の中でレベルアップを図っていくのか、行く行くは、他職種へ進んでいくのか、

将来的には独立するのか等々、創造の翼を羽ばたかせ、幅を持たせてください。

そして、整理したスキルと進みたい道(職種)で必要とされるスキルとのギャッ

プを分析してください。ある程度達成しているスキルは何か、まだまだ低いスキ

ルは何か、経験のないスキルは何か。

それを行うことにより、次のステップに繋げることができます。

ステップ②

◆次に、進みたい道を明確にし、イメージする(目標設定)

・どんな事をやる職種なのか

・どういったことを知っていなければならないのか

・どういったことが出来なければいけないのか

進みたい道(職種)が見つかったら、その職種がどんな事をするのか、どんな

スキルが必要なのかを掴み自分なりのイメージを掴んでおく必要があります。I

Tスキル標準V2のキャリア編、スキル編からその情報を手に入れる事ができま

す。また、上司、先輩からも情報を聞き出すことができます。特に、ITSM内

でのキャリアアップを目指す場合には、一緒に働いている人たちを参考にするこ

とができます。

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ステップ③

◆それでは、目標の職種に進むには何をすればいいのか(キャリアプラン設計)

・いつまでに、どのようになっていたいか

・そのために、何をしなければいけないのか

・それをどうやって習得する

目標として設定した職種に向かっていくには、具体的なプランを作っておかな

ければなりません。いつまでにどのようになっているかを考えます。例えば、5

年後には運用管理のレベル6となり、その間に製造業界、製造システムの知識を

習得し、その後、3年以内にコンサルタントに転出する。そのためにも、人脈が

重要となるので、社外セミナーや講演会に積極的に参加し、人脈を拡大させる。

2年後には XX という資格を取る。そのために、YY の通信教育と ZZ の研修を受

ける。

ステップ④

◆スキルを習得する方法の具体的な実施(スキル習得)

・社内研修

・社外研修

・先輩、上司からの習得

現在の情報化社会においては、必要なスキル習得の方法は千差万別存在する。

単純に考えて、以下のようなものが考えられる。

(ア)社内研修:IT技術だけでなく、コンプライアンス、個人情報保護法、

ITILなどのITSMに関連する内容も研修の対象になって

いる企業もある。

(イ)社外研修:ベンダーやメーカーのプロダクトを中心とした研修

研修内容は、入門から上級内容までシリーズで行っているケー

スが多く、また研修方法も集合教育だけでなく、e-Learning

のように自席や自宅で学習できるなどタイプも豊富になってい

る。

(ウ)社外セミナー:社会情勢や業界動向に関連してのベンダーやメーカー

のセミナー

最近(2006-2007)では、金融商品取引法や内部統制といった

世間の動きや関心ごとに合わせたセミナーを開催し、ベンダー

やメーカーの商品紹介を行っている。

(エ)定期購読:分野テーマ(PC 全般、ネットワーク、SYSTEM 構築など)

を決めて、基礎から上位知識までを習得する。また、最新技術

や業界動向といった最新情報もタイムリーに提供してくれる。

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ステップ⑤

◆習得したスキルを実際に活用する(能力発揮の場)

・習得したスキルと実務でのスキルの差をチェックし、今後のスキル習得に

反映させる

習得したスキルを抱えたままでいては何の意味がありません。活用してこそ自

分の本当のスキルとなります。また、逆の考え方として、机上で習得したスキル

が実践で役立つとは限りません。机上で習ったことと実践で求められていること

とのギャップを自分なりに感じてください。そのギャップを埋めるように今後の

研修内容に反映させてください。

実践でしか得られない体験、技術も数多くありますのでどしどし積極的に場数

を踏んでください。

ステップ⑥

◆継続的なキャリアアップ(切磋琢磨)

IT産業に身をおいたからには常にスキルアップをはかる努力をする必要があ

ります。

技術が日進月歩で発達していく昨今において、それらを駆使したテクノロジが

ベンダーやメーカーから次々と続々と発表されています。現在の状態に満足して

いたら陳腐化し置いてきぼりにされてしまいます。また、技術だけでなく、ビジ

ネスの形態、法令、フレームワークといった内容も同様なことがいえます。レベ

ルの高い技術者ほど、管理的・経営的な要素が多くなりますので、自分自身がC

IOになった気分で広く情報を収集しておく必要があります。今のレベルや職種

に留まることなく、常に向上心をもってチャレンジしてください。

ITSMでの経験を活かし、あらゆる職種で活躍できる技術者になって欲しい。

そのための、日々の努力を行なってください。

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30

前述した内容を参考に、データセンタC社に勤務するA君の場合を一例として挙げます。

A君の職種はITサービスマネジメント、専門分野はオペレーションのレベ

ル3で、3名のチームリーダとしてサーバ関連のオペレーション業務を行ってい

ます。オペレーション業務にはそのほかに2つのチームがあり、統括責任者が1

名の合計10名の編成になっています。

自社のデータセンタには6ヶ月に1システムぐらいの割合で新しいシステム

が移管され、A君たちが監視しているシステム(サーバー、業務システム等)も増

えています。システムの監視は、自社内のシステム管理チームが監視システムの

構築を行っており、新しいシステムが移管されてくる毎に、運用管理チームやシ

ステム管理チームから引継ぎがあります。引継ぎ作業の説明会にはオペレーショ

ンチームの統括責任者が同席して、チームメンバーへ内容を説明しており、担当

業務は明確になっています。

監視システムの監視項目はどのシステムでもほぼ同様で、アラートが発生す

れば事前に決められている手順に従って、一次対応または確認して、その結果報

告やエスカレーションのために関係者へ連絡しています。

A君は監視システムの構成を自分が把握していないことが、問題と感じるよ

うになりました。監視に使用しているソフトウェアやアラートが発生する条件な

どがまったく把握できてはいませんでした。A君はこの事が将来的に重要な問題

を引き起こすのではないかと懸念して、システム管理チームの先輩に相談しまし

た。その結果、監視用ソフトウェアはQ社のパッケージソフトウェアを使用して

いることがわかりましたが、機能に関しては多岐にわたっているため、業務の合

間の時間を利用して理解するのは大変困難でした。

A君は統括責任者に相談し、このパッケージソフトウェアの講習会を受講す

ることにしました。初めは、概論から受講して、監視の仕組みについての講座を

受講し、その後システム管理者向けの講習会へとステップアップさせました。そ

れにより、アラートの出た箇所により、システム全体に及ぼす影響度も理解でき

るようになりました。また、システム管理チームからの変更連絡(例えば、XX閾

値を変更しました)についても内容が理解できるようになりました。

さらに、Q社以外の管理ソフトウェアパッケージについても、インターネット、

雑誌などで調べ、その比較も行ってみました。その結果については、統括責任者

からの推薦もあり、オペレーション業務チーム内で勉強会を行い、オペレーショ

ン業務チーム内で勉強会を行い、オペレーションメンバー全員へ説明することと

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なりました。また、日常業務で携わっていること、例えば、バックアップツール、

セキュリティソフトウェアストレージテクノロジをはじめ、最新技術動向につい

ても調査するようになりました。システム管理チームや運用管理チームのメンバ

ーとも積極的にコミュニケーションを交わすようになりました。技術的な話題だ

けではなく、オペレーションチームとして抱える問題点の相談や今後の業務の変

化に関しても注意を払うようになり、オペレーション業務の改善や次善策を打つ

などチーム全体の活性化に大いに貢献しました。

さらに経験を積むうちに、A君は「システム管理」のプロフェッショナルとい

う観点で、自己を見直すことにも配慮するようになりました。

その結果、アプリケーション単位での個別最適のみだけではなく、システム汎

用基盤としての最適化の目線、視野を広げたシステムリスク管理の視点、また標

準的なフレームワークの知識をベースとした業務の客観化などが必要であること

に気がつきました。これはA君とA君の所属している組織単独で処理できること

ではないことに気がつき、さらに上位の組織を巻き込んでの体制作りや機能配分

を行うようにしました。

これらの実績が評価され、統括責任者の推薦でA君はシステム管理者チーム

へ異動になりました。A君はオペレーションチームに在籍していた時の技術的な

ノウハウと業務的なノウハウを活用して、他の分野のチームを配慮した仕組みの

もとで運用共通基盤の構築を可能にしました。これらの事からA君は社内の各部

署から「システム管理」のプロフェッショナルとして、高い評価で認知されるよ

うになりました。

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5.ITサービスマネジメント職種を育成する立場の方へ

5.1 現状と課題

(1)キャリアパスの確立が不十分あるいは狭い

一般的にではありますが、運用に関わる人材のキャリアパスは、開発など他の職

種と比べると十分に考えられてこなかったのではないでしょうか。

従って、個人にとっての目指すべき人材像やキャリアパスが描けていないケース

も多く、運用は、どちらかというと将来の目標や夢を持ちにくい職場あるいは職種

でもあったと思います。そういった環境で育っていくと、幅広い基礎力が身に付い

ていないため、ビジネス環境の変化への適応力が備わっていないなどの弊害が指摘

されるようになってきました。

期待される人材を育成していくためには、オペレーションからITサービスマネ

ジメントへと、守りで育ってきた中堅あるいはベテランの意識を変えていくことが

求められます。

(2)マネジメント層の認識

誤解を恐れずに言えば、運用に携わる人材の育成について、経営者やマネジメン

ト層の関心は、必ずしも高くなかったと思われます。優秀な人材が十分に供給され

ないという現場の声も耳にします。IT運用という職種を希望する人材が少ない、

優秀な人材が集まりにくいという事情もあるかもしれません。

第1章でも述べているように、職種「オペレーション」を「ITサービスマネジ

メント」に改変した意味を理解いただき、この職種に対する見方を変えていただく

ことが出発点です。

5.2 育成施策の設計

(1) 経営戦略としてのITSM人材育成

求める人材像を明らかにするためには、まず各社のビジネスドメイン(事業領域)

を明確にすることが必要です。新規事業に打って出たいが、必要な人材をそろえる

には? 必要な人材像は、要求スキルは、量的にはどうか?

部門長の立場でも、自部門のミッションを遂行するのに必要な人材像、スキル、

人数は? ということを明確にしなければなりません。

ゼロから考えるよりは、ITスキル標準を参考に組み立てることを勧めます。

(2) キャリアフレームワークを作る

各社の事業を成り立たせるべく、キャリアフレームワークを作成します。企業で

働く人たちにとって、自分の将来へのキャリアパスが見えるものにブラッシュアッ

プしていく努力が望まれます。

各企業の職種は、ITスキル標準で定義されたものと必ずしも対応しないと思われ

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ますが、以下に述べるスキル定義などのナレッジ活用を考慮すれば、ベースはIT

スキル標準に合わせたほうがパフォーマンスが高いと考えます。ただ、複線的な役

割の方も多いのが実情ですから、柔軟な運用ができるよう設計しておくことをお薦

めします。

繰り返しになりますが、いわゆる「運用系」人材のキャリアパスは硬直的になり

がちです。運用部隊に配属された人が、他の職種の仕事にチャレンジする例が少な

いように見受けられます。自分の将来に多くの可能性を見いだせるかどうか、キャ

リアフレームワークの設計と運用の品質がとても重要です。

(3) スキルの定義

ITスキル標準では、必要なスキルが、スキル項目・知識項目に階層化されて整

理されています。このナレッジは活用すべきですが、膨大な項目数を目にすると、

自社向けにはサブセットを作りたくなります。

でも、あえてサブセットを作らないことをお薦めします。理由はいくつかありま

す。

① 技術進歩などに追随するために自社でメンテナンスする手間が膨大。陳

腐化し形骸化する懸念がある。

② その時点で必要と考えたスキルに絞ってしまうと、例えば新事業への進

出を検討する際に組織の対応力(事業に必要な人材・スキルの状況など)

が読めないことになりかねない。

③ 全社的なパワーバランスを見たり、また現部署では不要でも人事異動に

より生かせるスキルもあるはずで、近視眼的なスキル管理にとどめるべ

きでない。

スキル項目数の多さは、本人のスキルの現状や目標をマネジメントする際に手間

がかかりすぎる懸念があります。この点は、マネジメントシステムの機能により解

決すべきで、めんどうだからとの理由だけで、スキル項目を絞ってしまうのは避け

るべきだと考えています。

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(4) 研修コースのマッピング

最近は、ITスキル標準にそった教育コースを提供する業者も多くなりました

ので、研修コースのマッピングもしやすくなりました。

自社で用意するコースと社外講習を組み合わせます。ITサービスマネジメン

ト職種(以前のオペレーション職種も同様)を対象とした研修コースは、他の職

種と比べるとその充足度が見劣りしますが、専門分野別に状況を述べます。

運用管理

ITILや内部統制に関する研修コースが多くの業者やベンダーから提

供されている。

システム管理

ITスペシャリスト向けの研修コースを活用できる。

オペレーション

できあいのコースは少ないのが実情。シフト勤務などで集合教育がしにく

いケースもあり、eラーニング等の工夫が必要。

サービスデスク

HDI-Japan が体系的な教育コースを提供している。HDI はサポートサー

ビス業界のメンバーシップ組織であり、資格の認定も行っている。

(5) 部門の視点

事業部長や部長の視点で、組織に必要な人材像を示すことも必要です。全社の

キャリアのフレームワークに示された職種やスキルのうち、どの部分にフォーカ

スするのかを部門内に示すことは重要です。個人としても組織としても、より具

体化された目標を持つことができます。

(6) 人事評価とのかねあい

スキルレベルを人事評価に利用することを検討される企業もあると思います。

もちろんスキルレベルだけで評価が決まるわけではないでしょうし、異なる職種

間での公平感を保てるかなど難しい問題もあります。慎重に検討する必要がある

と思われます。

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5.3 育成の実施とPDCA

(1) 個人別の育成計画

中長期的なキャリアの方向性と育成の課題を明確にします。第3章のキャリアパ

スも参考に、本人が将来方向性を見えるようにアドバイスしてあげることが必要で

す。目指す目標を実現するためにはその過程で何をしなければならないのか、仕事

を通じていかにスキルを修得していくかのプラン作りをします。

本人へのモチベーションアップにつながる指導。道筋を「見える化」することで、

本人と組織が思いを共有し、組織として計画的な人材確保にもつながります。

短期的には、従事する仕事で要求されるスキルも考慮して、スキルアップ目標と

かそのための具体的な方策を立案します。短期的と言いましたが、例えば6ヶ月間

くらいをPDCAの1サイクルと考えてはどうでしょうか。

本人と上司あるいはコーチが、できる限りフェースツーフェースで面談して、組

織としての本人への期待を説明し、本人の希望も配慮した上で、お互いが納得感を

もてる育成計画を作る努力をすべきです。

(2) PDCAの例

① Plan(計画)

スキル診断などにより、自信のスキルレベルを把握。

上司、コーチなどと面談し、目標を設定するとともに、スキルの修得方

法のアクションプランを作成する。修得方法は、研修の受講などの Off-JT

と、仕事を通しての育成OJTを組み合わせる。

② Do(実行)

アクションプランの実施

③ Check(評価)

例えば半年ごとに進捗を見直す。本人の評価を書き込み、上司やコーチ

と面談し、評価を合意する。

併せて組織としての評価を行う。

④ Action(改善)

個人の Plan をそのまま継続(定着)するか修正するかを判断し、次回の

Plan につなげる。

組織としては、施策を見直し、やはり次の Plan に結びつけていく。

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5.4 育成体制の整備、育成施策

(1)経営者の関与

人材育成の重要性は誰でも言いますが、組織として実行力を伴うには、経営者

の明確な関与が期待されます。経営者は育成方針を示し、それを具体化できる体

制を作る責任があります。

企業規模にもよりますが、できれば専任の人材を任用し、育成施策のデザイン

および実施の責任と権限を委譲します。

(2)人材開発部門の役割

大企業を別にすれば、人材開発部門に多くのリソースを割くことは難しいかも

しれません。その結果、育成対象である現場の実情を十分把握できなかったり、

受講管理の事務処理に追われたりで、十分な効果を上げられないことも考えられ

ます。しかし人材の育成は、相当の熱意をもった旗振り役が、しつこく継続的に

リードしていかなければ、尻すぼみになりがちです。まさに継続は力なりであり、

現場をはるかに越える見識をもった人材が、この部門のリーダシップを発揮し続

けることが求められます。

Plan

Do Check

Action

アクションプラン

の実行 評価、面談

目標設定、面談 Plan の修正

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5.5 育成の支援

(1) 経験をさせる

知識だけでなく経験させることが大切です。ITスキル標準の達成度指標

では成功裏に実施したことが求められます。現場で鍛えるためにも、ローテ

ーションの配慮も必要です。いわゆる塩漬けは厳に慎むべきでしょう。

(2) 見える化

個人のスキルの現状や目標は、本人が見える、また本人を支援する人も見

えることが大切です。

見える化のためには、スキルの現状・目標を Excel シートなどで作成・管

理することもできます。でも、本人の職務経歴や受講履歴を長期間記録した

り、あるいは組織としてのパフォーマンスを見て、人材育成計画の立案をし

たりとなってくると、データベースに蓄積して企業内で活用することが望ま

しいと考えられます。企業規模に応じて、何らかのマネジメントシステムを

用意したほうがいいでしょう。

また、上司が見てくれているということは、ES(エンプロイー・サティス

ファクション)向上にもつながります。見える化できることで、コミュニケ

ーションが成り立ち、適切な指導ができることになります。

(3) モニタリング

PDCAのサイクルを6ヶ月でということを申し上げましたが、組織とし

てその間は放置するわけではありません。個人の育成状況をモニタリングし、

計画通りにできていない場合は、何らかの手を打つ必要があります。上司や

コーチがヒアリングするなりしてもできますが、組織的にモニタリングしよ

うとするなら、データベースなどのシステムがあったほうが効率的でしょう。

(4) 見える化のしかけ

繰り返しになりますが見えなければ早めに手を打てない、上司と本人の共

通認識をもてないですね。組織の目標と本人の目標が不整合を起こしたら、

組織の人材育成計画ひいては事業目標の達成がおぼつかないことになります。

本人、コーチ、課長、部長、事業部長、経営層、それぞれの立場で人材育

成の計画。モニタリング、手を打つとやっていかなくては、とうてい効果的

な人材育成は成り立たちません。そのためには、見える化ができることが必

要です。

色々な層の人たちが情報を共有し施策につなげるためには、データベース

などで一元管理できることが望ましいと思われます。

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5.6 教育の手段

(1) 集合教育

座学、ワークショップなどの講習会は、体系立てて学ぶのに有効です。また、

他の職場や企業の人たちとのコミュニケーションのチャンスでもあります。

教育ベンダーから、ITスキル標準の研修ロードマップに準じた研修コースな

ども用意されていますから、調べてみるとよいでしょう。

(2) eラーニング

時間の制約が少ないのが利点です。シフト勤務などで、集合教育を受講しにく

い場合でも活用できます。上質な教材も増えてきましたから、今後さらに活用さ

れていくと思います。

(3) 実習、体験学習

訓練用のマシン環境を用意できないという悩みを耳にします。座学で学び、あ

とは本番環境で OJT では心許ないことになりがちです。実機にふれることができ

る研修コースの開催が望まれます。

(4) ケーススタディ

トラブルが発生した時にどう行動するかは、ITサービスマネジメント職種に

とって重要でかつ切実な問題と言えます。事例研究を交えて、その時どうするか

(体制、エスカレーション、役割)を、議論したりノウハウを継承するなどの研

修機会を設けることは効果的です。

(5) コーチングとメンタリング

組織の事情により制度として設けるかは別としても、現場のマネージャーや先

輩が知識として修得し、コーチングやメンタリングを実施していくことは大切で

す。

(6) プロフェッショナル貢献

プロフェッショナル貢献というと何か難しいことのようですが、社内教育の教

材開発や講師の経験、社内コンベンションなどでの論文発表など、身近なものか

ら挑戦させることはできます。

目先の業務に埋没させるだけでなく、視野を広めさせる意味でも、周囲に貢献

するという経験を若いうちからさせたいものです。

(7) コミュニティ

同じ目的意識を持った人たちとの交流、情報交換。コミュニティを通じた企業

内貢献の機会は、視野を広めることにもなり、ミドルレベル以上の人にはぜひ実

践してほしいと思います。最近は、SNSなどWeb2.0のしくみを活用する

ことも試みられています。

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(8) 他社との交流

ベンダー主催の研究会などに参加し、他社の技術者とふれあう機会を与えるこ

とも、ぜひ前向きに実践するべきです。とかく内にこもりがちの職種でもありま

すので、特段の配慮が望まれます。

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【付録】

ITサービスマネジメント育成の実際

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東京海上日動システムズ株式会社における

ITサービスマネジメント育成の実際

1 東京海上日動システムズにおけるITサービスマネジメントの実際

1.1 東京海上日動システムズの業務環境

システムトラブルが社会的な問題となり、システムリスクの顕在化が世間を騒がせ

ています。また、近年、個人情報保護法や SOX 法、政府セキュリティガイドライン

など、ITサービスを提供していく中で、留意・遵守すべきルールも急速に増加し

ており、これらのルール違反に対する市場の反応も厳しくなっています。

一方、IT技術の進展、ビジネスへのIT技術利活用の推進などにより、ビジネス

のシステムへの依存度が高まり、システムリスクが即ビジネスリスクに直結する事

態を顕在化する時代を迎えており、社会的なルールの遵守も含め、大きなシステム

リスクを惹起させないように、これまで以上にシステムの安定稼動やセキュリティ

維持・確保などシステムリスクの徹底したコントロールが求められています。

東京海上日動システムズは、東京海上日動火災保険株式会社を始めとするミレアグ

ループの生損保のITサービスを一手に担っています。

保険ビジネスは、募集から契約、保険金のお支払い、損害サービスに至るまでのあ

らゆる局面や場面でITに依存しています。保険ビジネスの継続性はITサービス

の継続性に掛かっていると言っても過言ではなく、24時間、365日、安定的に、

且つ安全に適正なコストでITサービスを提供し続けることが求められています。

1.2 ITサービスマネジメントとしての役割

今日的に求められるマネジメントは、自己責任の原則に則って業務の健全かつ適切

な運営を実現していく必要があり、それを自ら証明していくことが求められます。

東京海上日動システムズのITサービス本部は、「ビジネスを支えるITサービスを

24時間365日安定的にかつ、適正コストで提供し続けること」「システムの安定

稼動とセキュリティ確保を維持すること」をミッションとしており、その実現に向

けて、網羅性と妥当性の確保されたプロセスの明確化とその確実な実行を組織担保

出きるようにしています。

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1.3 ITサービスマネジメントとしての責任範囲

東京海上日動システムズでは、本番稼働環境を「お客様環境」と呼んでおり、お客

様環境で稼働するITサービス全てをITサービスマネジメントの対象範囲として

います。「お客様環境」にサービスを追加、変更することを「運用移管」と呼んでお

り、これがITサービスの管理の始まりです。ただし、新規サービスの導入や変更

はリスクを伴いますので、非機能要件など明確化してある「運用設計チェックシー

ト」を開発担当に提示するなど、サービスの開発段階から踏み込んだ管理も行って

います。

また、ITサービスの一部を機能的にアウトソースすることもありますが、アウト

ソースしていても当社がお客様に提供するサービスには変わりありませんので、そ

れも当社のITサービスマネジメントの責任範囲としています。

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1.4 組織図

1.5 共通運用基盤の範囲

ホスト、サーバなどテクノロジの異なるインフラでの差異はあるものの、基本的に

は全てのシステムを共通の運用基盤で運用しています。運用部門では、安定性、安

全性、そして効率性の確保された運用基盤や運用ルールの標準化を策定しており、

「運用設計チェックシート」として開発部門に提示しています。運用設計チェック

シートに書かれた標準運用で設計されていることが運用移管の条件になります。

IT サービス担当部門

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2 ITサービスマネジメントに携わる育成の実際

2.1 育成の目標

今日的なITサービスマネジメントを実現し、維持、進化させ続けるためには、そ

れを支える人材の育成・確保が不可欠であると考えています。ITの知識に加え、ITIL

(ISO20000)や COBIT、リスク管理、マネジメント手法などの知識を備え、各

人がそれぞれの分野で真のプロフェッションとして活躍できる人材の育成、確保を

計画的に行なっています。

ITサービスマネジメントに必要なスキルは、テクニカルスキルだけではないと考

えています。テクニカルスキル以外のコンセプチャルスキルやヒューマンスキルに

ついても、日々の業務やマネジメントシステムの一連の活動を通じて、更なる人間

形成を図ることとしています。

東京海上日動システムズは、会社全体でも人材育成に力を入れており、経営理念の

1つの柱としています。

<経営理念>

①ITを活かしてお客様のビジネスを形にし、お客様のビジネスに価値を創造す

る「バリューパートナー」になります。

②東京海上日動システムズの最大の経営資源は人財であり、ITを使って価値を

創造できるプロフェッショナルな人材を育成します。

③人との関わりを大切にし、「思いやり」と「謙虚さ」を持つとともに、「自信」

と「誇り」を持って働ける創造的な企業文化を築きます。

2.2 ビジネスとの関連

ITサービスマネジメントの実践にあたって、提供するITサービスがもたらすビ

ジネスインパクトを知ることが極めて重要であると考えています。

東京海上日動システムズは、東京海上日動火災保険株式会社を始めとしたミレアグ

ループの保険ビジネスのITサービスを担っていますので、保険業務知識は必須の

知識であると位置づけています。保険業務知識については、人事部が統括する教育

カリキュラムの中で1つの柱として位置づけており、開発部門、運用部門(ITサ

ービス部門)の垣根なく全社員の必須知識として知識習得の場を用意しています。

(集合研修、現場訪問など)

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2.3 人材育成の計画

ITサービスに従事するメンバーの育成は、概ね以下のようなフレームワークで行

なっています。

■バッチ運行管理 ■構成管理 ■パフォーマンス/キャパシティ管理 ■コスト管理

■オンライン運行管理 ■移管管理 ■スケジュール管理 ■契約管理

■変更管理 ■問題管理 ■資産管理 ■災害対策

運用管理業務 ■オンライン環境設定 ■バックアップ・リカバリー管理 ■設備管理 ■信頼性管理

■ネットワーク構築業務 ■セキュリティ管理 ■サービスレベル管理 ■アウトソーシング管理

■ネットワークアクセス管理 ■ソフトウェア配布管理 ■運用設計

■各種サーバシステムの運用支援 ■導入ソフトウェアバージョン管理

周辺業務知識 業界・業種・業務知識

ヒューマンスキル

ITテクニカルスキル バッチ運用知識

オンライン運用知識

アプリケーションシステム

開発知識

通信、ネットワーク

データベース

ホスト

サーバ

PC

セキュリティ(リスク管理)

分析・評価技術

プロジェクトマネジメント プロジェクト管理

スキル アウトソーシング

契約管理

O J T を 中 心 と し た 部 門 特 化 研 修 (各専門分野の知識高度化)

【分 類】

3年目・上期 3年目・下期1年目・上期 1年目・下期 2年目・上期 2年目・下期

基 礎 研 修

1~3年 4~6年 7~9年

概念と基礎知識を修得し上位者の支援を受けて業務を実施

上位者の支援を受けてほぼ独力で業務を実施

独力で業務を実施他への指導能力

専 門 力基 礎 力

WindowsNT,2000UNIX Notesドミノ

データマートグループウェア(Notes)

セキュリティ管理

障害監視ツール

測定ツールの知識

プロジェクト管理(PMBOK)

ミレアグループの知識

保険基礎知識

保険業務基礎知識

IT技術動向,IT業界動向,IT同業他社動向

ISO20000知識、ISO27000の知識

ビジネスマナー

報告・連絡能力

文章表現力

コミュニケーション能力

自己管理能力

モチベーション形成力

プレゼンテーション能力 コストマインド

コンプライアンスの知識

判断力

企画力 コーチング力

リダーシップ ネゴシエーション能力

マネジメント能力

Windows95,98,XP

情報システム基盤に関する構成・障害・性能・課金・セキュリティの管理、情報システムの効率的運用及び改善等に関し、必須となる高度な研修を受講する。

データベース管理者としてのシステム内データ資源管理、高品質な基幹データベースの計画・設計・構築・運用・保守等に関し、必須となる高度な研修を受講する。

ネットワークに対する、LAN、WAN、ダイヤルアクセスサービスの設置、設定、運営や高品質なサービスを実現する設定テクニック、ネットワークセキュリティを向上させる設定テクニック等に関し、必須となる高度な研修を受講する。

MVS

MSP

ロジック構築力

OSに関する基礎知識

JCL

OPC

JOCS

DBに関する基礎知識

ネットワークに関する基礎知識

伝送システム

アプリシステム概要

開発標準

プログラミング

システムテスト手法

IMS/DC

CICS

WAN

LAN

WEB

RDB(SQL)

ORACLE

DB2

IMS/DB

AIM

情報管理規定 設備知識

認証技術

ファイアウォール

ISMS JRAMリスク分析

FISC安全対策基準

METI安全対策基準

システム分析手法

レビュー方法論

品質管理知識

見積方法の知識

パートナー管理知識

財務知識

税務知識

法務知識

契約の知識

知的所有権の知識

ビジネスモデル特許の知識

サーバー・ホストの環境変更、基盤ソフトのバージョンアップ等に関し、必須となる高度な研修を受講する。

ITIL COSO、COBIT

テクニカルスキルについては、社外研修機関などを活用し、研修・教育を行い、各

担当者のスキルアップを図ることとしています。企業倫理(コンプライアンス)に

ついても、社内共通の研修・教育の他、ISMSやITSMに特化した講習も実施

しています。

また、継続的に運用していくために必要不可欠なコンセプチャルスキル・ヒューマ

ンスキルについては、全社共通の社内研修を適用しています。

特に、ITサービスマネジメントの標準的なフレームワークに関するスキルについ

ては、ITサービスマネジメント文書体系の中で「教育基準」として以下の通り明

確化しています。

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46

【必要なスキルの定義】

2.4 人材育成のための活動

東京海上日動システムズは、経営理念の1つの柱として人材育成を掲げており、あ

らゆる活動の原点に人材育成を位置づけています。

2.4.1 人事制度

東京海上日動システムズの人事制度は、人材育成をサポートする重要なスキー

ムと位置づけています。コンピテンシーと業績をベースとして、育成上の課題

を明確にした上で、成果を評価しフィードバックしています。これが人材育成

の基本になっています。

2.4.2 組織目標

会社としての経営目標は、組織の目標にブレークダウンされ、それが個人の目

標におとされます。会社の経営目標の中には必ず人材育成に関する目標が設定

され、それが組織目標や個人の目標にも反映される仕組みにしています。

ITサービスマネジメントの育成についても、毎年、ITサービス部門の組織

目標としており、①ITに関するスキル、②サービス(ビジネス)に関する知

識、③マネージメント(ITSM)に関する知識に加え、④プロフェッショナ

ルパーソンとしての人間力の向上の4つの観点で目標を立てて取り組んでいま

す。

Page 52: ITサービスマネジメント 育成ハンドブック-3 - 本ハンドブックを作成するにあたって 本ハンドブックを作成するにあたって、日本のIT業界でITサービスマネジメント

47

2.4.3 公的認証の取得と“Show&Tell”

ISO27001 や ISO20000 の公的認証の取得も、人材育成を1つの目的として

います。自分の担当している管理プロセスについて体系的に語り、課題を提起

することがITSMの知識の高度化と整理に役立ちます。担当プロセスの現状

と課題を他のメンバーの前で語り、他のメンバーからの指摘や質問を受けると

いう活動も継続的に行っています。これを「Show&Tell」と呼んでおり、PD

CAサイクルを継続的に回す原動力にしているとともに、人材育成の活動とし

ても位置づけています。

【Show&Tell 実施時の考慮事項】

・関連する法規やルールは全て理解している・業務遂行にあたって、リスク管理ベースのアプローチを実現している・ ITIL、COBITと照らし合わせて自分のプロセス

を評価、適正化している

・必要な知識を充分有しているか、理解しているか、活用しているか

■業務知識の理解

・話し手が伝えたい内容について、大切な部分をすべて正しく聞き取る・発表の要点と話し手の意図をとらえ、質問する

・大切な内容を聞き取ることができているか

■理解の能力

・説明は適切で、分かりやすい言葉で・適切な速さと声の大きさで、堂々と相手に伝える

・話すべき内容を相手に伝わるように話すことができているか

■表現の能力

・間違うことを恐れず、自信をもって話す

・話すべき内容を自分のものとし、メッセージとして聞き手に伝える・聞き手の反応を見ながら、必要であれば最も適切な説明のしかたに軌道修正を行う・話し手の発表に対してうなずくなど反応を示し、話し手が話しやすい雰囲気をつくっている

・積極的に取り組んでいるか、態度はいいか・工夫してコミュニケーションを続けようとしているか

■コミュニケーション

への関心・意欲・態度

こうあって欲しい評価のポイント評価の観点

・関連する法規やルールは全て理解している・業務遂行にあたって、リスク管理ベースのアプローチを実現している・ ITIL、COBITと照らし合わせて自分のプロセス

を評価、適正化している

・必要な知識を充分有しているか、理解しているか、活用しているか

■業務知識の理解

・話し手が伝えたい内容について、大切な部分をすべて正しく聞き取る・発表の要点と話し手の意図をとらえ、質問する

・大切な内容を聞き取ることができているか

■理解の能力

・説明は適切で、分かりやすい言葉で・適切な速さと声の大きさで、堂々と相手に伝える

・話すべき内容を相手に伝わるように話すことができているか

■表現の能力

・間違うことを恐れず、自信をもって話す

・話すべき内容を自分のものとし、メッセージとして聞き手に伝える・聞き手の反応を見ながら、必要であれば最も適切な説明のしかたに軌道修正を行う・話し手の発表に対してうなずくなど反応を示し、話し手が話しやすい雰囲気をつくっている

・積極的に取り組んでいるか、態度はいいか・工夫してコミュニケーションを続けようとしているか

■コミュニケーション

への関心・意欲・態度

こうあって欲しい評価のポイント評価の観点

また、自ら担当する業務を客観的に評価して文書化することにより、更に知識

の整理が進 むと考えて おり、情報 誌などへの 執筆も積極 的に行ない 、

「Show&Tell」活動と併せて、「語れる人」作りを目指しています。

2.4.4 外を知る

知識や技術をいくら習得しても、お客様や社会環境で受け入れられなければ意

味がありません。「井の中の蛙」にならないことが重要であり、その為の活動を

会社全体で行っています。保険業務の現場や保険会社本社部門の現場を知るた

めの交流、社外活動や研究会への参加、他社との積極的な情報交換などについ

て組織的に推進しています。

Page 53: ITサービスマネジメント 育成ハンドブック-3 - 本ハンドブックを作成するにあたって 本ハンドブックを作成するにあたって、日本のIT業界でITサービスマネジメント

48

2.5 人材育成の方法論

東京海上日動システムズは、「自ら成長する」ことを育成理念としています。変化が

激しい時代に、迅速にニーズを捉えて適切なソリューションを行うためには、「指示

されたことをこなすだけ」でなく、「自ら考え、工夫することができる」ことが必要

であると考えているからです。育成の風土と同時に、「自ら考えて成長する」自立意

識も醸成し、成長できる場に溢れた会社を目指しています。

その理念の実践として、OJTと集合研修のバランスを重視しています。「自ら考え、

仕事を通じて成長する」ことが基本となりますので、OJTの役割が大きく、それ

を支える基本知識を教育するのが集合研修という位置づけにしています。

e-ラーニングは教育ツールとして有効であると考えていますが、現時点では試行

段階です。

ITサービスマネジメントについては、最初はトップダウンの教育を実施しました。

ITサービスマネジメントの導入により現行業務のプロセスの見直しを行いました

ので、OJTで知識が身に付くものではなかったことが大きな理由です。

ITサービスマネジメントは、管理プロセスそのものを学ぶ事よりも、そのプロセ

スの背景や考え方を理解することが重要であるため、それを伝え続けるための集合

研修は定期的に続ける必要があると考えています。

また、ITサービスマネジメントについては、資格取得も有効な方法であると考え

ています。ITSMに携わるメンバーはITILファウンデーションを取得するこ

ととしており、約40名のメンバーが取得しました。その他にも、CISA、IS

MS審査員資格など様々な資格取得を励行しており、会社からもコスト負担してい

ます。

Page 54: ITサービスマネジメント 育成ハンドブック-3 - 本ハンドブックを作成するにあたって 本ハンドブックを作成するにあたって、日本のIT業界でITサービスマネジメント

49

2.6 人材育成の問題点

ITサービスマネジメントは、標準のフレームワークやツールを導入すれば良いの

ではなく、PDCAサイクルが継続的に回ることが重要です。その為には、ITサ

ービスマネジメントを動かすメンバー一人一人が、単にITSMの知識を習得する

だけではなく、自分のプロセスの意義や本質を十分に理解し、常に改善の意識を持

って行動することが求められます。

このような活動は、時間が経つと形骸化し、ITSMの現場では「現場場慣れ」が

生じ、マネジメントには「現場離れ」が生じます。こうなることが、最大の問題点

であると認識しています。

2.7 問題への対策方法

マネジメントシステムのPDCAを円滑に回し続けるためには、それを支える「文

化、社風」が必要です。マネジメント層がリスクに敏感であることや、マネジメン

ト層の関与度合い、効率に過度に偏重しない文化とか、悪い情報をオープンする文

化、或いは、基本動作を怠らない社風、変化に柔軟な社風 などなど、そのような

文化や社風が必要であると考えています。

そのためには、トップが繰り返し、ぶれのないメッセージを伝え続けることがポイ

ントであると考え、当社はそうしてきました。

2.8 育成の効果

現在、ITサービスマネジメントに携わるメンバーが150名程いますが、その多

くのメンバー一人ひとりがリスク管理の考え方を身に付け、自分のプロセスについ

ても、その意義から目的、管理方法、課題などについて意識し語れるようになって

来ています。

Page 55: ITサービスマネジメント 育成ハンドブック-3 - 本ハンドブックを作成するにあたって 本ハンドブックを作成するにあたって、日本のIT業界でITサービスマネジメント

50

2.9 ビジネス活動への反映

お客様に提供するサービスを明確にし、そのサービスを確実に提供し続けるための

プロセスを実直に実行。それをモニタリングし、改善する。そのようなビジネスプ

ロセスが、ITサービスに限らず、あらゆるサービスで求められていると考えてい

ます。

プロセスマネージメントの重要性、説明責任の重要性について、ITサービス部門

から発信して行きたいと考えています。

また、米国 SOX 法や日本版 SOX 法とも言われる「金融商品取引法」に代表される

ように、現在企業は業務プロセスの透明性や情報の完全性を強く求められるように

なっています。このような社会環境の中で求められる人材は、創造性やイノベーシ

ョン能力があるだけではなく、常にリスク管理を意識して、決められたルールや手

順を守り、当たり前の事を当たり前に出来ること、そしてその説明責任を果すこと

が求められます。ITサービスマネジメントは、まさにそのような人材を育てるの

だと考えています。

2.10 今後の課題

東京海上日動システムズとして、人材育成上の最大の問題点は「技術力の低下」で

あると認識しています。

アプリケーション開発担当は、その役割を上流にシフト(企画や要件定義)したこ

とにより、システムの具体的な設計(非機能設計を含む)や構築のスキルを外部に

依存し、システム設計技術力が空洞化する傾向にあります。

また、システム基盤に係わる技術力についても、アウトソースやベンダー依存が高

くなる中で、同様の傾向が見られます。

運用部門においては、運行中心の業務からその役割をITSMにシフトしており、

IT技術との距離が出てきました。

このように、開発、基盤、運用の全ての分野においてIT技術の外部依存が高まっ

ており、品質や継続性の観点で十分な評価が出来なくなるリスクを懸念しています。

現在、技術力の底上げを会社の重要課題として位置づけ、技術研修の充実やコア業

務の明確化、内製化の推進などの対策を講じています。

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51

株式会社野村総合研究所における

ITサービスマネジメントの実際

1.ITサービスマネジメントの実際

1.1 ITサービスマネジメントの業務環境

野村総合研究所では、自社のデータセンタにお客様のシステムをお預かりし

て運用するアウトソーシング事業や、自社のデータセンタからサービスを提

供するASP事業を行っており、これらデータセンタに設置されたシステム

の運用管理がITサービスマネジメントの主要な業務です。また、一部のI

Tサービスについては、エンドユーザー向けのサービスデスクやオンサイト

サポートも提供しています。

1.2 ITサービスマネジメントとしての役割

システム運用業務の専門集団として、周辺環境にも配慮した最先端のデータ

センタを擁し、圧倒的に高い安全性・効率性のもとで、お客様へ安定したシ

ステム運用を提供し続けることをビジョンとしています。

1.3 ITサービスマネジメントとしての責任範囲

受入審査を経てリリースされた本番システムについて、事前に合意された役

割分担に応じてサービスを提供しています。

1.4 組織図

アプリケーション開発は業種・顧客別事業部、基盤・運用はそれぞれ一部門、

という組織構成となっています。各部門に主に関係するITスキル標準の主

要職種は下図の吹き出しの通りです。

業種・顧客別事業部 業種・顧客別事業部

業種・顧客別事業部

基盤サービス部門 サーバー・ネットワーク

システムマネジメント部門 オペレーション・運用管理 ファシリティ管理 運用基盤・運用設計・運用品質

PM・ アプリケーション スペシャリスト

ITスペシャリスト

ITサービス マネジメント

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52

1.4 共通運用基盤の範囲

メインフレームについては、基盤全般を共通運用基盤として管理しています。

サーバシステムについては、個別の監視/ジョブ運行ツールは各お客様シス

テム内でご用意いただき、ファイアウォールを介して接続する統合監視/障

害ナビゲーションシステムを共通運用基盤として管理しています。また、メ

インフレーム/サーバ系にかかわらず、リリースや特別作業の工程管理シス

テムも共通運用基盤として管理しています。

2.ITサービスマネジメントに携わる育成の実際

2.1 育成の目標

全社的に「人財」を最大の価値ととらえており、ITサービスマネジメント

においてもプロフェッショナルな人財の育成をめざしています。

2.2 人材育成のための活動

全社員に対して資格要件・経験要件によるレベル認定を実施しており、キャ

リアフィールドとして「プロジェクトマネージャ」・「ITスペシャリスト」

などとならんで「サービスマネージャ」を設定しています。

中核人材の育成を目指す社内認定制度の中に、「プロジェクトマネージャ」・

「ITアーキテクト」などとならんで「ITシステムマネージャー」を設定

しています。また、認定候補者向けの社内研修を実施しています。

オペレータ層の底上げのため、サーバ系障害対応基礎スキルに関する e ラー

ニングと認定試験を実施しています。

データセンタ

・・・

共通運用基盤 ファイアウォール

統合監視/ 障害ナビゲーション

システム

リリース/ 特別作業

工程管理システム

メイン フレーム 基盤

顧客システム (メイン フレーム)

顧客システム (メイン フレーム)

顧客システム (メイン フレーム)

顧客システム(サーバ) 顧客システム(サーバ)

顧客システム(サーバ) 個別監視/

ジョブ運行ツール

Page 58: ITサービスマネジメント 育成ハンドブック-3 - 本ハンドブックを作成するにあたって 本ハンドブックを作成するにあたって、日本のIT業界でITサービスマネジメント

53

2.3 人材育成の問題点

ITサービスマネジメントのプロフェッショナルと言える人財の数が少なく、

この分野でのリーダークラス以上の人財の数を増やすことが急務です。

2.4 問題への対策方法

2.2に記した活動を根気強く続けていくほか、中途採用を積極的に行って

いきます。

2.5 今後の課題

ITサービスマネジメントに対する社会的な期待や要請は日々大きくなって

きており、規範や制度も次々と改訂されていくので、そのような変化を先取

りして人材育成をはかっていくことが継続的な課題です。

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54

A社における

ITサービスマネジメントの実際

1.ITサービスマネジメントの実際

1.1 ITサービスマネジメントの業務環境

アウトソーシングベンダーの運用管理部門(顧客システムの運用管理および

技術支援サービス)

1.2 ITサービスマネジメントとしての役割

ITサービスマネジメント職種における4つの専門分野のスタッフを統括す

る立場です。サービスマネージャ。

1.3 ITサービスマネジメントとしての責任範囲

顧客に対するサービスの統括責任、SLA/品質の維持。社内のバックヤー

ド部隊への指示、統制。顧客へのサービスビジネスの損益責任を担います。

1.4組織

アウトソーシングビジネスを統括する本部組織で、以下のとおりです。

管理部門

顧客担当として、顧客へのサービス責任を担う部門。サービスマネージャお

よびシステムエンジニアの集団。

(専門分野: 運用管理、システム管理)

ビジネスプロセスアウトソーシングを担う部門

(専門分野: 運用管理、サービスデスク)

データセンタのオペレーションを担う部門

(専門分野: オペレーション)

データセンタのファシリティおよび共通インフラを担う部門

(専門分野: ファシリティマネジメント(職種カスタマサー

ビス)、システム管理)

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55

1.5共通運用基盤の範囲

アウトソーシングベンダーでもあり、お客様の要件によりバリエーションがあ

りますが、一般的な例を示します。

(1) インターネット接続環境については、プロバイダへの接続点など共通環

境を利用する例が多く、データセンタ側(ITサービスマネジメント職

種)が設備および運用管理を一手に提供します。

(2) サーバなどの監視およびトラブル一時対応などのサービスを提供する

ケースでは、監視機器・ソフト等を共通基盤として用意しています。

(3) 顧客の業務サーバ等をリソース提供(ホスティングサービス)するケー

スでは、インフラ(ハード、OS等)の機器選定から設計・構築・運用

保守まで一貫してITサービスマネジメント職種が担っています。

2.ITサービスマネジメントに携わる育成の実際

2.1人材育成の方法論

①OJT

入社1年目の社員を対象に実施。新人の所属グループの先輩社員をトレ

ーナに任命。事前にトレーナ教育を実施し、OJTの意義を認識させて

います。

OJT計画書を作成し、目標と実績を管理します。

OJT終了時のまとめとして、1年間の業務活動を通して得た成果と今

後の目標について発表する機会を設けている。社長等役員もできるだけ

出席し、新人のモチベーションを高めるよう配慮しています。

②研修

社内の人材開発部門が企画する技術教育、グループ企業(研修サービス

業)主催の研修コースを組み合わせて、豊富な研修メニューを用意しま

す。

特定部門で必要とされるスキルについては、ローカルに講習会・勉強会

を開催します。

③e-ラーニング

集合教育と使い分けをしています。まとまった時間をとれない場合や、

同時に受講することが難しいシフト勤務者などには有効です。

品揃えが課題です。

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56

2.2 人材育成の問題点

(1) 専門職種オペレーションやサービスデスクから抜け出すのが簡単ではあ

りません。(特に中堅層以上に対して過去は、教育機会の不足や、他職種

などへのキャリアパスが不明確なケースも見られます)

(2) 新たなビジネス領域に踏み出そうとすると、必要なスキルの育成が間に合

いません。応用がきかない人が多いようです。

2.3 問題への対策方法

(1) キャリアフレームワーク、キャリアパスの提示

2.4 今後の課題

(1) 教育コースの充実

トラブル時の行動など事例研究を盛り込んだ実践講座

実機(ハード、ソフト)による実習環境整備

eラーニング教材の品揃え

(2) レガシーからオープンへ・・・エンジニアの再教育

(3) ビジネスプロセスアウトソーシングなどへの対応人材の育成

運用管理スキルをベースに、顧客アプリケーション(業務)も

理解し、業務分析・設計ができる・・・(ITサービスマネジメ

ント職種の枠を超えたマルチ人材)

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B社における

ITサービスマネジメントの実際

1.ITサービスマネジメントの実際

1.1 ITサービスマネジメントの業務環境/組織

[日常運営]

開発部門 メーカー

基盤/運用支援

移管管理 問題管理

スケジュール

障害受付 オペレーション

運用総括

基盤/運用支援 スケジュール

運用統括

(シフト長)障害受付

【カ ゙ 】

オペレーション

【 】

システム引継ぎ

アプリ引継ぎ

作業管理 変更管理

移管引継ぎの流れ

変更引継ぎ・作業依頼の流れ

シシフフトト部部門門 ((336655日日2244hh))

日日勤勤部部門門

コールログ

インシデント管理

品質管理事務局

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58

[移管・変更リリース判定]

移管・変更リリースの際に不具合が発生した場合の想定影響度が、オンラインユ

ーザーサービスに影響を及ぼす恐れのある作業については、上記メンバーにてテ

ストの網羅性や問題発生時対応準備状況等について確認します。不備のある場合

はリリースを承認しません。

[品質管理委員会]

可用性向上を目的に、問題管理と移管・変更リリース管理の月次分析結果を事務

局より報告し、各部門からは問題管理の重要障害に関する発生状況/対応状況/

再発防止状況を連絡し情報を共有します。又、課題の進捗を管理します。

定例会議は月1回開催します。

承認者 基盤担当部長/担当者 運用担当部長/担当者

作業実施 変更・移管実施部門 部長/担当者

運営

品質管理事務局

品質管理委員会委員長(事業担当役員)

マネージメントボード

開発担当役員、基盤・運用担当役員

基盤担当部長、運用担当部長

各開発部門代表

品質管理事務局

ネットワーク部門代表 基盤・ファシリティー

部門代表

運用部門代表

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59

[お客様への報告]

・ 週次会議(担当者間)

問題管理上のオンラインユーザーサービスに影響を与えた障害について、復

旧対応および再発防止対応の状況を確認します。

また、移管・変更については、前週の実績と今週の予定を確認します。

・ 月次会議(顧客と基盤・運用部門管理者)

SLA状況の報告に加え、月間の問題管理と変更リリース管理状況について

の分析結果を報告します。

問題管理については、オンラインユーザーサービスに影響を与えた障害に関

する発生状況/復旧対応状況/再発防止対応状況を共有します。

移管・変更については、重要変更の件数と変更失敗への対応状況/再発防止

状況を共有します。又、課題の進捗確認を実施します。

1.2 ITサービスマネジメントとしての役割・責任

SLAを遵守はもとより、安定的に各種システム機能を提供して、一層のシステ

ムの可用性の向上を追求し実現します。

その為の的確な設備の管理や要員の確保・育成を実施し、品質とコストの管理運

営を主管する。開発保守から基盤・運用の範囲で影響力を発揮する責任・権限体

制が必要です。

1.3 共通運用基盤の範囲

システムの監視・操作・情報管理提供のためのシステム運用に関する仕組みを共

通運用基盤と位置づけています。

[例]

・ メインフレームの監視・自動化・作業簡略化の仕組み

・ 分散システムの異常メッセージを統合監視する仕組み

・ ネットワーク資源を統合監視する仕組み

・ 問題管理/変更管理/業務日誌等のDBを管理する仕組み

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60

2.ITマネジメントの携わる育成の実際

2.1 育成の目標

オペレーション、サービスデスク、システム基盤といった従来の運用範囲での

要員育成から、今後はこれを網羅した幅広い分野(開発/基盤/運用/ユーザ

ー業務)の知識・経験を有し、しかも交渉力やプレゼン力、危機管理力等のヒ

ューマンスキルを兼ね備えたITサービスマネジメント要員の育成に移行しま

す。

2.2 人材育成の方法論

(1)社内教育

・ OJT

・ OFFJT(座学教育)

・ eラーニング

(2)社外教育

・ 集合教育

・ eラーニング

全社教育と部内教育があり、いずれも部門単位に個人の年間教育計画を作成し

実施しています。個人で進めなければならない資格取得準備のための学習等に

ついては、メンター制度を取り入れて相談・確認体制をとっています。

社内資格制度として、運用スペシャリストを設定しており、ITILのファウ

ンデーション資格の取得を奨励しています。

又、品質維持向上の意識や思考の定着を目的に、全員参加のQC活動を実施し

ています。

2.3 人材育成の問題点と対策

・オペレーションやサービスデスク等の専門分野の育成だけでも長い期間を要

しています。

=>各専門分野の育成教育計画を、作業項目の見直しから実施しています。

長期間必要となっている原因を究明中です。

・オペレーションやサービスデスクの育成計画しかなく、運用管理要員の育成

が計画的にできていません。

=>検討中です。

・一般的な積極性や交渉力、創造力向上等の教育は受講しているものの、なか

なか身につかないことが問題になっています。

=>教育受講後のフォロー体制を検討中。又、担当分野を持たせ責任・権限

を付与します。

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61

・個人の将来を見据えた育成計画がありません。

=>現在サンプルを作成中です。

・近年、海外のセンターとのやり取りが増加しており、英語力の強化が必要と

なってきています。

=>語学学習費の支援を実施。

・メンバーのモチベーションや問題意識の維持が難しい状況です。

=>ITサービスマネジメントの役割と必要知識・スキルを明確にし、人事

評価項目に的確な課題項目を設定、その結果を人事評価に表現しています。

2.4 今後の課題

先にも述べた通り、ITマネジメント担当は、幅広い分野(開発/基盤/運用

/ユーザ業務)の知識・経験と交渉力やプレゼン力、危機管理力等のヒューマ

ンスキルを兼ね備えた人が望まれます。

これは、委託化やベンダー依存を進める中にあって、自社内にその知識・スキ

ルを維持することと、これからの新任の早期育成を実現することが大きな課題と

認識しています。

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62

C社における

ITサービスマネジメントの実際

1.ITサービスマネジメントの実際

1.1 ITサービスマネジメントの業務環境

近年の技術革新の速度、顧客の事業環境やビジネススタイルの変化、グロー

ル化が促進する中、IT業界は質、内容とも革新を迫られています。

特に、ただソフトウェアを作っていればいいという時代からビジネス遂行に

必要不可欠なものとなった現在のITシステムの安定的な維持、運営はその重

要性を増しているが世間一般的にはまだまだその認識が十分ではありません。

1.2 ITサービスマネジメントとしての役割

① 安定的なサービス(データセンタ・コールセンタ運用)提供のための設備、

人員・技術の品質およびコスト管理運営手法の確立と定着を行っています。

② ビジネスをサポートするSE人材の育成を行っています。

2.ITサービスマネジメント育成の実際

2.1 ITサービスマネジメントの仕事と育成の実際

時々刻々と変化しているビジネス環境の中で求められているのは、変化を察

知し、その変化に応じた業務とそれを支えるITサービスの改善を継続的に提

案できる人材です。それは、『サービスの提供を通じてお客様のビジネスに貢

献できる人』を意味しています。

別の言い方をすると、スペシャリストを束ね、組織として対応することで組

織の力を最大限に引き出し、社内外の関連部門と交渉や調整を行い、大型案件

のマネジメントができる力を有しています。当然の事ながら、お客様の業務を

理解して、ベストプラクティスを提案でき、サービスをグランドデザインでき

なければなりません。

そのためには、オペレーション監視やインシデント、アカウントマネジメン

トをはじめ、企画力・計画力・設計力・構築力・折衝交渉力・実践指導力など

さまざまなスキル・ノウハウが必要です。

そのためいくつかの階層に分け目標を定めています。

例えば、エントリークラスでは『実践力のあるサービスエリートの育成』を

掲げ、エンパワーメント(自分で判断し行動する)なサービス提供のために一人

ひとりがサービス現場を任されるリーダーとしての価値観を体得できるよう

にするとともに、率先行動して「何が正しいか」「なぜ正しいか」「何を実行する

か」の実践と「考える力」「考えを簡潔にまとめる力」「人に伝える力」の育成に重

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63

点を置いています。

2.2 人材育成の方法論

育成は全社の人材育成をにらみながら、知識を学び、気づきを与える集合制

の研修と、実際の業務に則ったOJTにより実施しています。

求められる人材像をもとに、1年間のスキルアップ計画を立て、半期に 1 度

PDCAサイクルをまわすことが必要になっています。

2.3 人材育成の問題点

育成対象者だけでなく、その上司の指導力にも大きく影響されるため、上司

を含めた意識合わせが重要です。

さらに、OJTにも関わるがジョブローテーションの整備などもこれから急

がねばならないことです。

2.4 問題への対策方法

育成担当者だけではなく、全体を統括しているものを含めて、問題点や到達

度などお互いの意識合わせの場を定期的に持ち経過を確認の上、見直しを実施

しています。

2.5 今後の課題

ITサービスマネジメント育成は運用(サービス)部分だけではなく、システ

ム設計・開発を含めた一連の流れの理解が必要です。如何にして一連の流れを

経験させ理解させるかは課題となっています。

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64

D社における

ITサービスマネジメントの実際

1.ITサービスマネジメントの実際

1.1 ITサービスマネジメントの業務環境

企業のビジネス活動がITに依存している昨今において、ITサービスを提

供している企業として、永年のノウハウを活用して、システムマイグレーシ

ョン、運用コンサルティング、インフラ構築、IT運用管理、アウトソーシ

ングと幅広いサービスを提供しています。

1.2 ITサービスマネジメントとしての役割

顧客システムの安定稼動を実現するための運用サービスの提供と、顧客のビ

ジネススタイルに迅速に対応する運用の構築を行っています。

1.3 ITサービスマネジメントとしての責任範囲

顧客システムの安定稼動を実現するとともに、より効率的で効果的な運用業

務の改善提案を継続して実施しています。

2.ITサービスマネジメントに携わる育成の実際

2.1 育成の目標

(ア) 技術革新の早い現在において、最新技術の習得を図るとともに、既存技

術の

確実な習得を行っています。

(イ) 効率的で安定したプロジェクト管理を行う。

2.2 人材育成の計画

年間計画をもとに、半期に一度、上司と面談しながら個人ごとに短期目標を

設定します。

2.3人材育成のための活動

上記計画の進捗状況を半期に2度の面談時に確認する。実施できていない項

目については、キャッチアップ方法をその時に話し合い、実施します。

2.4 人材育成の方法論

①OJT

職場にての教育内容、教育スケジュールを作成しており、新規で配属された

メンバーに対して、それに沿って教育を実施します。

作業については、用意されたドキュメントに則って実施され、初期段階では

上級者が付いてチェックします。

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②研修

職務ごとの標準的な研修項目が示されています。研修項目としては、技術教

育、プロジェクト管理手法、法令/法務関係、業界の業務内容、営業戦略/

経営戦略に関すること等々、幅広く用意されています。

業務上の必要に応じて、またはスキルアップを目指して上司推薦、自個選択

で申請、受講しています。技術教育は、社内だけではなく、ベンダー主催の

研修も用意されています。

③e-ラーニング

年1回、個人情報、コンプライアンスに関する研修が全社員に対して実施さ

れます。

集合教育を行わなくても実施できる研修については、徐々に e-ラーニング

に移行されています。

2.5 人材育成の問題点

技術的なことは、研修や実務を通じて習得することはできるが、顧客固有の

業務に関する知識は経験年数が必要です。実施内容については、マニュアル、

手順書としてドキュメント化を進めていますが、文章では表現できない細か

いニュアンスがノウハウとして蓄積されています。

2.6 問題への対策方法

① 業務の可視化を行ない、どこにノウハウが必要(存在する)かを明確にし

ます。明確化された業務について、ドキュメント類にワンポイントアドバ

イスとしてノウハウを明記します。

② 主要な業務や頻度が低い業務については、他メンバーへOJTを通じてス

キルトランスファーを実施します。

2.7 今後の課題

要件定義、運用設計(基本設計、詳細設計)といった上流工程の業務ができ

る技術者の数を増やすことが必要です。

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E社における

ITサービスマネジメントの実際

1.ITサービスマネジメントの実際

1.1 ITサービスマネジメントの業務環境

近年の多様化する情報社会におけるITサービスは、一般社会生活において

その高い可用性、完全性を持って社会基盤そのものして認識されています。

その中で、ITサービスを提供する事業者はより質の高い・安定的なサービ

スの提供を求められています。

1.2 ITサービスマネジメントとしての役割

ITサービスマネジメントの役割は、安定的にサービスを提供するための資

源の調達・維持・管理であり、それを安定的に運用し提供するものです。

1.3 ITサービスマネジメントとしての責任範囲

ITサービスマネジメントは、全てのユーザに対し、サービスレベルに応じ

たサービスを提供することを責務とします。

また、これの実現のための資源の維持管理を行います。

1.4 共通運用基盤の範囲

共通運用基盤とは、データセンタ運用を行う上でベースとなるシステム(設

備)と考えます。

・監視システム(システム監視、ネットワーク監視)

・ネットワーク基盤

2.ITサービスマネジメントに携わる育成の実際

2.1 育成の目標

ITサービス全体を統制する立場として、経営的視点でITシステムを見る

ことのできる人材を育成することを目標とします。

2.2 人材育成のための活動

各個人のスキルレベルに応じた目標設定を行うことにより、具体的なスキル

アップの項目を設定し、継続的な人材の育成を行います。

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2.3 人材育成の方法論

①OJT

業務に即した業務知識の習得に関してはOJTによるところが大きいと思わ

れます。

これは研修では得られない生のビジネス知識を習得することができ、貴重な

経験として生かすことができます。

②研修

新入社員の導入教育や若手社員のスキルアップ教育など幅広い知識の習得に

有効です。

また、主任、課長研修など、対象者のステージに合わせた研修を実施してい

ます。

③e-ラーニング

一般的な広い範囲(対象者)への知識教育に実施しています。

2.4 人材育成の問題点

各スペシャリストの専門知識を持った育成担当者がおらず、各現場でのスペ

シャリストが人材育成にあたることになります。

そのため教育の成果が指導者の力量に左右されることとなります。

2.5 問題への対策方法

現場知識を十分に持ち合わせた育成担当者を育て、一元的に教育計画を管理

することが必要です。

2.6 今後の課題

企業インフラを支えるITサービスマネジメントの重要性を認識し、組織だ

った育成は必須です。