5
ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12) 47 1.会議概要 2016年9月12日から16日にかけて、ジュネーブのITU本 部においてITU-T IPTV-GSIイベントが開催された。本イ ベントには、IPTVに関連する研究テーマを扱うSG16の以 下の研究課題が参加している。 研 究 課 題QILE(Question ILE(Immersive Live Experience:超高臨場感ライブ体験))は、高臨場感コン テンツをライブ伝送するサービスに関する新研究課題とし て、前回SG16会合(5 ~ 6月開催)において承認され、 WTSA-16の最終承認を待つ暫定的な研究課題である。ラ ポータとしてNTTの今中秀郎氏が指名されており、今回 が初会合となる。 IPTV-GSIへの参加者は46名(日本、中国、韓国、英国、 米国、ドイツ、スペイン、ブラジル、エジプト、マレーシア)、 寄書数は47件であった。国内からは、各研究課題に対し て以下のような寄書が出されている。審議結果は、3章「個 別課題審議」において述べている。 ◦Q13/16:4件(HSTP.IPTV-Guide.1修正提案(NHK、 沖電気)、H.IPTV-MAFR.13修正提案(NHK、沖電気)、 HSTP.CONF-H702修正提案(沖電気、慶応大学、早稲 田大学)、H.702 corrigendum作成提案(沖電気、慶応 大学、早稲田大学) ◦Q14/16:3件(H.DS-CASF 分 割 提 案(NEC、NTT、 三菱電機、沖電気)、H.DS-CASF及びH.DS-META修正 提案(NEC、NTT、三菱電機、沖電気)、公共の場に おけるサービスに関する新規作業項目提案(NTT、 NEC、三菱電機、沖電気) ◦Q26/16:2件(難聴対策に関する技術文章の作成提案 (KDDI、慶応大学)、F.Relay Appendix追加提案(慶 応大学) ◦Q28/16:4件(H.MBI-PFテキスト追加提案(NICT、慶 応大学、NEC)、F.SLDテキスト追加提案(KDDI、慶応 大学)、HSTP.IPTV-MEHテキスト追加提案(慶応大学)、 脳健康指標に関する新規作業項目提案(慶応大学、NEC) ◦QILE:6件(ILEに 関 わ る 新 規 作 業 項 目 提 案(NTT、 KT、ブラジル)、HSTP.ILE-UC ユースケース文章のテキ スト提案、HSTP.ILE-UC Kirari!事例の追加提案、H.ILE- Reqs要求条件文章のテキスト提案、H.ILE-FWアーキテ クチャフレームワーク文章のテキスト提案、) 2.ワークショップ 2.1 E-health – brain healthcare 本イベント期間中に、e-Healthにおける脳のヘルスケアに 焦点を当てたワークショップが9月14日(水)に開催された。 ImPACT(Impulsing Paradigm Change through Disruptive Technologies Program:内閣府革新的研究開発推進プロ グラム)とQ28/16の共同提案によるものである。世界的な 人口動態の特徴となった高齢化に伴い、昨今、脳梗塞やう つ病等の脳に関わる健康被害が注目されている。Q28/16 ラポータ川森氏(慶応大学)の議事進行により、各国での 脳情報に関わる取組みの紹介や今後の活動等に関する6件 のプレゼンテーションがあり、積極的に意見が交換された。 ITU-T IPTV-GSI会合報告(9/12-16) たにかわ 川 和 かずのり 日本電気株式会社 テレコムキャリアビジネスユニット エキスパート 表1.IPTV-GSI参加研究課題(敬称略) 課題 研究テーマ ラポータ Q13/16 IPTV Marcelo Moreno(UFJF、ブラジル) アソシエート:松原雅美(三菱電機) Q14/16 デジタルサイネージ 谷川和法(NEC) アソシエート:Shin-Gak Kang(ETRI、韓国) Q26/16 アクセシビリティ 川森雅仁(慶応大学) アソシエート:Mohannad El-Megharbel(NTRA、エジプト) Q28/16 E-health 川森雅仁(慶応大学) QILE/16 ILE(Immersive Live Experience) 今中秀郎(NTT)

ITU-T IPTV-GSI会合報告(9/12-16)

  • Upload
    vumien

  • View
    227

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ITU-T IPTV-GSI会合報告(9/12-16)

ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12) 47

1.会議概要 2016年9月12日から16日にかけて、ジュネーブのITU本部においてITU-T IPTV-GSIイベントが開催された。本イベントには、IPTVに関連する研究テーマを扱うSG16の以下の研究課題が参加している。  研 究 課 題QILE(Question ILE(Immersive Live Experience:超高臨場感ライブ体験))は、高臨場感コンテンツをライブ伝送するサービスに関する新研究課題として、前回SG16会合(5 ~ 6月開催)において承認され、WTSA-16の最終承認を待つ暫定的な研究課題である。ラポータとしてNTTの今中秀郎氏が指名されており、今回が初会合となる。 IPTV-GSIへの参加者は46名(日本、中国、韓国、英国、米国、ドイツ、スペイン、ブラジル、エジプト、マレーシア)、寄書数は47件であった。国内からは、各研究課題に対して以下のような寄書が出されている。審議結果は、3章「個別課題審議」において述べている。◦Q13/16:4件(HSTP.IPTV-Guide.1修正提案(NHK、

沖電気)、H.IPTV-MAFR.13修正提案(NHK、沖電気)、HSTP.CONF-H702修正提案(沖電気、慶応大学、早稲田大学)、H.702 corrigendum作成提案(沖電気、慶応大学、早稲田大学)

◦Q14/16:3件(H.DS-CASF 分 割 提 案(NEC、NTT、三菱電機、沖電気)、H.DS-CASF及びH.DS-META修正提案(NEC、NTT、三菱電機、沖電気)、公共の場におけるサービスに関する新規作業項目提案(NTT、

NEC、三菱電機、沖電気)◦Q26/16:2件(難聴対策に関する技術文章の作成提案(KDDI、慶応大学)、F.Relay Appendix追加提案(慶応大学)

◦Q28/16:4件(H.MBI-PFテキスト追加提案(NICT、慶応大学、NEC)、F.SLDテキスト追加提案(KDDI、慶応大学)、HSTP.IPTV-MEHテキスト追加提案(慶応大学)、脳健康指標に関する新規作業項目提案(慶応大学、NEC)

◦QILE:6件(ILEに関わる新規作業項目提案(NTT、KT、ブラジル)、HSTP.ILE-UC ユースケース文章のテキスト提案、HSTP.ILE-UC Kirari!事例の追加提案、H.ILE-Reqs要求条件文章のテキスト提案、H.ILE-FWアーキテクチャフレームワーク文章のテキスト提案、)

2.ワークショップ2.1 E-health – brain healthcare

 本イベント期間中に、e-Healthにおける脳のヘルスケアに焦点を当てたワークショップが9月14日(水)に開催された。ImPACT(Impulsing Paradigm Change through Disruptive Technologies Program:内閣府革新的研究開発推進プログラム)とQ28/16の共同提案によるものである。世界的な人口動態の特徴となった高齢化に伴い、昨今、脳梗塞やうつ病等の脳に関わる健康被害が注目されている。Q28/16ラポータ川森氏(慶応大学)の議事進行により、各国での脳情報に関わる取組みの紹介や今後の活動等に関する6件のプレゼンテーションがあり、積極的に意見が交換された。

ITU-T IPTV-GSI会合報告(9/12-16)

谷たにかわ

川 和かずのり

法日本電気株式会社 テレコムキャリアビジネスユニット エキスパート

■表1.IPTV-GSI参加研究課題(敬称略)

課題 研究テーマ ラポータ

Q13/16 IPTVMarcelo Moreno(UFJF、ブラジル)アソシエート:松原雅美(三菱電機)

Q14/16 デジタルサイネージ谷川和法(NEC)アソシエート:Shin-Gak Kang(ETRI、韓国)

Q26/16 アクセシビリティ川森雅仁(慶応大学)アソシエート:Mohannad El-Megharbel(NTRA、エジプト)

Q28/16 E-health 川森雅仁(慶応大学)

QILE/16 ILE(Immersive Live Experience) 今中秀郎(NTT)

Page 2: ITU-T IPTV-GSI会合報告(9/12-16)

ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12)48

 1)Q28/16におけるe-health標準化活動(川森氏、慶応大学)

 2)脳の健康管理に向けたマルチメディアプラットフォームの紹介(岡氏、ImPact)

 3)イスラエルにおける活動紹介(Ms. Rotem Kopel, Israel Brain Technologies(IBT))

 4)脳のヘルスケアにおけるビジネスモデル(Dr. Maria Beatriz Muñoz Seca, IESE(Instituto de Estudios Superiores de la Empresa))

 5)脳のヘルスケアのユースケース案と人材面での課題 (Dr. Manel Peiro, Escola Superior d'Administració i Direcció d'Empreses(ESADE))

 6)E-Healthによる脳ヘルスケア実現に向けたecoシステム(Dr. Dimitrios Andritsos, école des Hautes Etudes Commerciales de Paris(HEC))

(参考)http://www.itu.int/en/ITU-T/gsi/iptv/Pages/201609WSbrain.aspx

2.2 Immersive Live Experience

 QILEの活動開始に際して、ILEを広く紹介する目的でワークショップが9/14(水)に開催された。QILEラポータ今中氏(NTT)の全体進行により、セッション1(モデレータ:Marcelo氏(UFJF))ではILEのユースケースやマーケット情報が、セッション2(モデレータ:殿村氏(NTT))では各団体/研究組織におけるVR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)といったILEに関わる活動が、一部デモを含めて紹介された(ワークショップ報告書:TD 279–Gen/IPTV-GSI)。

SESSION 1:USE CASES ON IMMERSIVE LIVE

EXPERIENCES

 1)遠隔伝送サービス“Kirari”の紹介(殿村氏、NTT) 2)DVBにおけるVR活動(Thierry FAUTIER, Harmonic)

SESSION 2:ILE TECHNOLOGIES AND

STANDARDIZATION GAPS

 1)多視点映像による高品質VRストリーミング(Cornelius HELLGE, Fraunhofer HHI)

 2)B<>Com社における研究活動紹介(Ludovic NOBLET, B<>Com)

 3)超臨場感に向けたIPTVを含む映像配信技術(山本氏、沖電気)

(参考)http://www.itu.int/en/ITU-T/gsi/iptv/Pages/201609WSILE.aspx

3.個別課題審議3.1 審議ハイライト

 Q13/16では、次回SG16会合で合意(Consent)予定のH.IPTV-TDES.5(相互接続可能なIPTV端末)を中心に、H.702(IPTVにおけるアクセシビリティ)改定、H.IPTV-MAFRシリーズ等が審議された。Q14/16では、視聴者端末との連携を含むH.DS-FIS(インタラクションサービスのフレームワーク)の作業開始や、H.DS-CASF(汎用警告通知のためのフレームワーク)の分割が議論されている。Q26/16では、新規作業項目としてH.ACC-ANPV(聴力障がい者のための音声ナビゲーション)、HSTP.AEHH(難聴者の聴力支援)、FSTP-RCSO(リモートキャプショニング)が了承されている。Q28/16では、ImPACTの活動実績を基にH.MBI-BHQ(脳健康指標に関する要求条件)が新規作業項目として了承され、また、H.81xシリーズ(ガイドライン)やH.820-850シリーズ(試験手順書)の改定作業が開始された。F.MCDC(飛行機搭乗による伝染病被害を防ぐためのモニタリング)については、WHOと今後の対応を協議している。QILE/16は、新規作業項目としてH.ILE-Reqs(ILEの要求条件)、H.ILE-FW(ILEのアーキテクチャフレームワーク)、HSTP.ILE-UC(ILEのユースケース)が了承されている。

3.2 IPTV(Q13/16)

 Q13/16は、IPTVにおける端末やミドルウェアを主な研究テーマにしており、本会合では14件の寄書があり、審議に基づいて下記の作業項目が更新されている。

会合報告

■図1.3D水中探索イメージ(B<>COM社)

Page 3: ITU-T IPTV-GSI会合報告(9/12-16)

ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12) 49

 H.702は、IPTV上でのアクセシビリティサービスのための基本機能を、メイン(Main)、拡張(Enhanced)、基本

(Basic)の3つのプロファイルとして定義している。沖電気と早稲田大学からの修正提案により、プロファイル名称の変更を含めた勧告改定案として文章が更新されている。また、本勧告の適合性試験の仕様書となるHSTP.CONF-H.702に対して、沖電気と早稲田大学より、字幕、手話、音声解説の試験方法の追加が提案され、これも了承されている。2件はアクセシビリティに関係するということでQ26/16と合同審議されている。 H.IPTV-TDES.5は、家庭内での映像共有のようなIPTV端末間での相互接続(interworking)のための端末仕様を検討する勧告草案である。Editor’s noteとして記された残課題の解決、複数デバイスイネーブラAPI仕様の追加、相互接続のためのインスタンスとユースケースの対応関係の追加等の提案が了承されている。文章は次回SG16会合で合意(Consent)を提案予定である。これに合わせて、発行済みのIPTV端末の将来的な全ての機能実装を示すH.722及びIPTV端末の基本機能を述べるH.721においても、それぞれの改訂版に端末相互接続機能の要件を追加される。 H.IPTV-TDES.6は、仮想化されたIPTV端末を扱う勧告草案である。仮想化IPTV端末が実現すべきサービスについて議論があり、IPTV基本端末の要件(H.721記載)のみを必須とすることが了承されている。また、初期化、リニアTVとVODに関する処理の追加が提案されたが、幾つか提案内容にさらなる検討が必要であり、残課題をEditor’s noteとして付記することで提案が了承されている。 H.IPTV-MAFR.10は、W3Cで 策 定 され たSVC仕 様 をIPTVの要件として整理する勧告草案で、文言や要素の属性値の修正、インタラクションのための機能要件の追加等が提案され、Editor’s noteを付記した上で了承されている。 H.IPTV-MARF.13は、IPTVサービス向けのHTML仕様をまとめる勧告草案である。沖電気より、H.762として勧告化されているLIME-HTMLとHTML4.01の共通部分を IPTV-HTML(Basic model)と位置付ける修正を提案して了承されている。 HSTP.IPTV-Guide.1は、ITU-T H.265/HEVCやDASH等を含んだ4K/8Kに関係する技術の進歩や放送規格の制定等に合わせて、IPTV端末における新たな技術項目や音声符号化のプロファイルを検討するための技術文章である。沖電気とNHKの提案により、ISDB-S3や ATSC 3.0の動向をにらんだ広帯域衛星放送のバンド幅に関する技術

要件と音声コーデックに関する情報がAppendixに追加されている。

3.3 デジタルサイネージ(Q14/16)

 Q14/16は、デジタルサイネージサービスやシステムについての勧告化を検討しており、本イベント期間中に8件の寄書が審議されている。日本からの全ての寄書は、三菱電機、NEC、NTT及び沖電気の4社の連名寄書となっている。 日本4社から、公共の場でのサービスに関する要求条件文章H.DS-PISRに対応するフレームワーク文章の新規作業項目の開始提案が出された。寄書審議により、本提案のスコープを視聴者端末とデジタルサイネージシステム間のインタラクションを中心としたインタラクティブサービスのフレームワーク文章と位置付けることが妥当ということになり、新勧告草案H.DS-FIS“Digital signage:Framework for interactive service”として作業開始が了承された。 H.DS-AMは、デジタルサイネージサービスにおいて視聴者情報(視聴者数、視聴者性別等)を収集する機能要件に関する勧告草案である。計測内容に関するメタデータ仕様の追加や文言の修正が提案され、文章が更新されている。 H.DS-CASFは、デジタルサイネージサービスにおいて、災害情報を含む各種警告情報や一般的な告知情報を配信するための要件を扱う文章である。前回Q14/16ラポータ会合で、H.DS-CASFの分割が審議及び了解されており、日本4社より、日常における告知情報の取扱いは別途検討することとした上で、警告配信のみに向けた機能フレームワーク文章とメタデータ文章に分割することを提案して了承されている。具体的な分割内容については、H.DS-CASFの現エディタが次回会合までに文章を準備して審議する。 H.DS-METAは、基本的なデジタルサイネージサービスにおいて使用されるメタデータ仕様について述べるものである。インターネットサービスでは、提示されるコンテンツの使用言語を指定するための国際標準としてRFC 5646がよく使われることから、日本4社よりこれを参照することを提案して了承されている。同様の要件がH.DS-CASFにも記載があり、両文章の該当箇所が更新されている。 H.DS-PISRでは、日本としては2020年東京オリンピックに向けたデジタルサイネージサービスの要件を勧告化することが重要である。本文章中に用語のゆれがあり、これを統一する寄書が了承されている。 HSTP.DS-Glossは、デジタルサイネージにおける用語を

Page 4: ITU-T IPTV-GSI会合報告(9/12-16)

ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12)50

整理した技術文章ある。文章校正の見直しやこれまでの他作業項目文章の更新に合わせた内容の修正が提案されて了承されている。 このほか、W3C総会においてデジタルサイネージに関する新たなWorking Groupの立ち上げが検討されることから、W3CとQ14/16の良好な連携に向けて、総会中にQ14/16活動内容を紹介することとした。 3.4 アクセシビリティ(Q26/16)

  Q26/16では、広くマルチメディアサービス全般におけるアクセシビリティについて検討を進めている。本イベント期間中に6件の寄書が審議されている。 KDDIと慶応大学より、難聴者への聴力補助を取り扱う新規作業項目が提案された。提案内容がレビューされ、幾つかの補助情報を付加し、技術文章草案HSTP.AEHH

“Audio enhancement for the hard-of-hearing”として作業開始が了承されている。 G3ictより、幾つかの国における実証実験を基に、視覚障がい者向けのネットワーク機能を活用した音声ナビゲーションに関するユースケースとその技術的なガイドラインを取り扱う新規作業項目の提案があった。本件審議により勧告草案H.ACC-ANPV“Audio-based network navigation system for persons with vision impairment”として作業開始することが了承された。 また、G3ictからは、音声配信と字幕を同時に提供する Remote Captioningサービスに関する新規作業項目の提案があった。このサービスにより、視覚障がい者との通話において、手話通訳のような支援者の介在を不要とすることができる。主要評価指標やサービス品質に関する章が追加され、技術文章草案FSTP-RCSO“Technical paper on remote captioning services”として作業開始が了承されている。 F.Relayは、聴覚障がい者と健常者の間に支援者としてのオペレータが介在する電話リレーサービス(文字−音声や手話−音声翻訳)を扱う勧告草案である。慶応大学より、VRS(Video Relay Service)をIPTVで提供する事例をAppendixに加える提案があり、これは了承された。当該審 議においてVRSとVRI(Video Remote Interpreting)の内容や法的な取扱いの違いについて議論され、本Appendixでは異なる場所からの通話内容を手話で伝えるVRSのみに言及している。

3.5 E-health(Q28/16)

 Q28/16は、ICTによるe-Health全般に渡る要求条件、システム要件及びその相互運用に関するガイドライン等を取り扱っている。本イベント期間中に16件の寄書が審議されている。 慶応大学とNECの提案により、新たな作業項目H.MBI-BHQ“Requirements on Key performance indicators and protocols for establishing Brain Healthcare Quotients in MBI-Platform”が了承されている。これはImPACTの活動成果に基づくもので、可視化された脳情報の流通を促進するためのMBI(Multimedia Brain Information)プラットフォームで扱われる脳健康指標に関する要求条件文章である。本作業項目の提案に併せて、H.MBI-PFにも脳健康指標に関する記述が追加されている。 H.81xシリーズが参照するPHCA(Personal Connected Health Alliance(旧Continua Health Alliance))ガイドラインが改定されており、これに伴いH.81xシリーズ第4版の改定作業が開始しており、次回SG16会合での完成を目指す。 また、上記H.81xシリーズに対応する試験手順仕様書であるH.820-850シリーズにおいて、H.841、H.842、H.843、H.844、H.845.10、H.845.16、H.846、H.847、H.849、H.850、の第3版の改定が提案されて了承されている。 F.SLDは、大音量による聴覚障がいの発生を未然に防ぐための安全な音響のためのシステム/端末のガイドラインである。慶応大学より、6月に開催された安全な音響のための標準化に関するITU-Tワークショップでのプレゼンテーションや意見交換の内容を基にした文章修正の提案が出された。審議の中で「ノイズ」と「音楽」の相違について議論され、特に「音楽」鑑賞時の実効的なガイドラインの検討を深める必要性が指摘されている。 HSTP.IPTV-MEHは、e-Healthにおけるアプリケーション 仕 様(MAFR:Multimedia Application Framework)に関する技術仕様書である。本文章に対して、遠隔治療に関するユースケースの記述を追加する提案が慶応大学から出され、Q28/16とQ13/16が合同で審議した。審議の中で、遠隔学習を扱うF.742が遠隔医療に密接に関係することが指摘され、Q13/16において改定について検討することとなった。また、e-Learningや遠隔教育に関する検討が充実した時点で、新たな研究課題の設立を検討することが了解されている。 F.MCDCは、飛行機搭乗に際する伝染病被害を防ぐた

会合報告

Page 5: ITU-T IPTV-GSI会合報告(9/12-16)

ITUジャーナル Vol. 46 No. 12(2016, 12) 51

めのモニタリングに関する勧告草案である。会合に際して、本勧告草案の臨時文章(TD:Temporary Document)がエディタから出され、WHOの専門家を交えて議論された。審議冒頭、WHOよりエボラ出血熱のような脅威が顕在化しており、早期対応に向けた治療に関する遠隔教育や指導が有効であり、e-Health分野に大きな期待を寄せている旨が紹介された。本件では、特に搭乗者のプライバシーの扱いが議論された。一般に、搭乗者名簿は非公開であり、どのようにプライバシーを守りながら健康状況をモニタリングするのか、その実現性について疑問が寄せられた。少なくとも搭乗者からのモニタリングの事前承諾が必須であり、承諾をどのような形で得るのか、実際のモニタリングの場所や期間等の検討事項について引き続き寄書を募ることとした。 また、WTSA-16に際して、SG20においてもe-Healthに関する作業項目が扱われていることから、具体的なSG16-SG20間の連携について議論されている。 3.6 超臨場感ライブ体験(QILE/16)

 QILE/16は、パブリックビューイング等での活用が期待される高臨場感コンテンツをライブで伝送する技術及びサービスに関する(暫定)研究課題である。6件の寄書が、映像サービスとして関連するQ13/16及びQ14/16と共に合同審議された。 NTT、KT、ブラジルより、ILEに関するユースケース文章、要求条件文章、アーキテクチャフレームワーク文章の3つの作業項目が提案され、下記文章の作業開始が了承された。

 H.ILE-Reqs“Requirements for immersive live experience(ILE)services”は、ILEの要求条件文章で、用語定義、一般的な要求条件及び機能的な要求条件が扱われる。NTTより文章構成案と具体的なテキストが提案された。特にILEの定義の議論に時間が割かれ、下記の定義を用いることが了承された。

Immersive Live Experience(ILE):A shared viewing experience which stimulates emotions within audiences at both the event site and remote sites, as if the ones at remote sites wandered into substantial event site and watched actual events in front of them, from high-realistic sensations brought by a combination of multimedia technologies such as sensorial information acquisition, media processing, media transport, media synchronization and media presentation.

HSTP.ILE-UC“Technical paper:Use cases for immersive live experience(ILE)services”は、ILEのユースケース文章であり、NTTより文章の構成案及び具体的なユースケースとしてNTTの“Kirari!”を記載することが提案され、了承されている。 H.ILE-FW“Architectural framework for immersive for live experience(ILE)services”は、ILE実現のためのアーキテクチャを検討する勧告草案で、NTTより文章校正とテキストが提案されている。ハイレベルなアーキテクチャと必須機能及びサービス実現に向けた事業者(イベントプロモータ、メディア配信プロバイダ、ライブビューイング主催者等)間の関係をスコープとする勧告草案で、提案は了承された。

4.今後の予定 これまで8年間に渡って活動してきたJCA-IPTV及びIPTV-GSIイベントは、その役目を終えたと判断され、今研究会期を以て終了することが了承されている(TD 499 R1-Plen/16)。SG16としては、エンドユーザに近接するマルチメディアサービス全般について、ITU-T及び外部標準化団体との横断的な活動を目的としたJCA-e-Serviceを次会期に立ち上げることを予定しており(TD 566-Plen/16)、該当分野における日本からの積極的な活動が期待されている。 以上

■図2.Kirari!概要