8
〔千葉医会誌 2 ,,ⶁC9 ㄹ㜰⤠ 〔総説1 脊柱側脅症に対する観血治療法の進歩 井上駿一* 整形外科領域における最も治療困難な疾患のひとつ に,発育期の小児の脊柱をおかし,後側方へ費曲しかっ 涙れを示すやっかいな「脊柱側費症」の問題がある。外 国では 䡩灰潫牡瑥s の時代より記載が見られ,幾多の 治療的発展も見られるが,ひるがえって,わが国では最 近に至るまでこの種の疾患に対して,整形外科医の聞で も放置同様無対策の有様であった。 ㄹ㘴 年日本整形外科 学会において,ようやく共同研究としてとりあげられ, 筆者も故鈴木教授と病態的研究に関し報告を行なった。 そのおり教室で行なわれた,小中学校児童 ㌳7 名の集 団検診よりの推定でわが国における本症の発生率が, 㜲% であり,外国にくらべ決して少ない数ではないと 注意を喚起した。また従来本症の原因的事項として, 先天性 ⡃潮来湩瑡氠 卣潬楯獩猩 ,麻庫性 ⡐慲慬祴楣 卣潬楯獩猩 ,筋原性⢐榍玐ꮋ 茶境枃鴻璃䊁宂좂윩 ,系統 疾患に伴うもの,ク J レ病性 ⡒慣桩瑩c 卣潬楯獩猩 そのほ かがあげられるがなお本態不明のものが半数に寄在し, これらは特発性側聾症 ⡉摩潰慴桩c 卣潬楯獩猩 と呼ばれ ている。われわれの研究はこの特発性のものの中に神経 原性のもの,および広く中枢にまで病変のおよんでいる もの,さらにアミノ酸の尿中排地異常を示すものが存在 することを指摘し,治療方針設定に際し参考とすべきこ とを述べた。その後側費症に関する関心が徐々に高ま り,後述するように治療手技にも大きな進歩が見られた 結果,今日では依然として本態不明な点が多く残されな がらも早期発見, くりかえし観察の上,体操療法,装器 療法⢃縀 j レオーキー型装具,可動装具など⦂ꢂ 톃䶃v ス療法のくみ合わせ,ないしインターパル療法を選択す ることによって,多くの症例の側壁進行が明らかに防止 され,かつ進行を防止しえぬものに対し手術的治療を積 極的に加えることにより確実な成績が期待できるように なってきた。 さて教室では ㄹ㔷 年故鈴木⢎鼩教授により側費症 の手術療法として 獴慰汥 挿入手術が行なわれて以来約 0 例の手術経験を有している。 まず ㄹ㔷 年から 年にかけ頂椎を中心とした数個椎 *千葉大学医学部整形外科教室・教授 体の凸側に 獴慰汥 挿入が行なわれ発育抑制を企図した 手術が 4 例に行なわれ,つづいて凹側肋骨切除術 ⡒楢- 牥獥捴楯温 と傍脊柱部の 獨潲t 牯瑡瑯爠 爮n 畳捬e を破 壊することによりその後の自家矯正を期待する方法が ㄹ㘰 年より 年にかけ 4 例に行なわれた。しかしいず れも側費の進行を防止しえずに終わった。 ㄹ㔹 年以降は あらかじめ,あるいは術後のギプス矯正を前提とした後 方固定手術がもっぱら行なわれるようになったが,その 背後には脊柱は本来運動器官で可樟性を有するべきであ り,また成長期の小児脊柱に対する固定手術がその後の 成長,発育に対しあたえる悪影響⢔궈 綐ꜩの危険性 を内臓するという首肯すべき反対論がある。筆者はこの 点に関しむしろ適応の問題の考え方に帰するものと考え ている。すなわち筆者も 才以下の前思春期において は早期発見,保存治療を重視,主張するものであるが, 筆者の経験よりすでに ⡃潢b 法⦂窂Ꚃ 첂ヘ その後の思春期において必ず著しい側轡の増強を示すと いう事実があり, さらに 周潲慣楣 周潲慣潬u 爮n 扡爠 卣潬楯獩s では胸廓変形という美容的な問題だけでなく 心肺機能に対する悪影響が発生する。 また 偡牡汹瑩c 丠敵牯晩 扲o爮n 愠瑯獩s による側壁症では増悪傾向が他に 比しきわめて大であるという事実もあげられよう。した がって筆者はこれらに対してはむしろ積極的に手術的治 療によって強力に進行を防止すべきであり,増悪の始ま る思春前期にこそ固定手術を行なうべきものと考えてい る。これらは待期し経過を観察するにはあまりに多くの 矯正困難な悲惨な変形の発生を筆者は見,かつ成長抑制 の危倶に対し実際上術後の胸部と肢長との 摹獰牯灯r 瑩潮 の発生が軽微であるとの事実に基づいている。 1 2 のような急速進行例に対する末期治療の困難 さを考えれば著者のいう適応を限った早期予防手術の提 唱は当然の帰結と考えられる。 さて現在最も後方囲定手術が安定した成績を示し ㄹ㘰 年より教室における側轡症手術的治療の主体をなしてい るが,この後方固定術式として当初椎板,東京突起を 捯牴楣慴楯n した後,腔骨片,冷凍保存肋骨,および異種 䥎何E 午啎䥃䡉㨠 佰敲慴楶攠 呲敡t 爮n 敮琠 潦 卣潬楯獩献 䑥灡牴 爮n 敮琠 潦 佲瑨潰敤楣 卵牧敲y 卣桯潬 潦 䵥摩捩湥 䍨楢愠 啮楶敲獩瑹 䍨楢愮 剥捥楶敤 景爠 灵扬楣慴楯n 䵡牣栠 ㄹ㜰⸠

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〔千葉医会誌� 46,2,,-,9,1970)

〔総説1 脊柱側脅症に対する観血治療法の進歩

井 上駿一*

整形外科領域における最も治療困難な疾患のひとつ

に,発育期の小児の脊柱をおかし,後側方へ費曲しかっ

涙れを示すやっかいな「脊柱側費症」の問題がある。外

国では� Hippokratesの時代より記載が見られ,幾多の

治療的発展も見られるが,ひるがえって,わが国では最

近に至るまでこの種の疾患に対して,整形外科医の聞で

も放置同様無対策の有様であった。� 1964年日本整形外科

学会において,ようやく共同研究としてとりあげられ,

筆者も故鈴木教授と病態的研究に関し報告を行なった。

そのおり教室で行なわれた,小中学校児童16,337名の集

団検診よりの推定でわが国における本症の発生率が,�

0.72%であり,外国にくらべ決して少ない数ではないと

注意を喚起した。また従来本症の原因的事項として,

先天性� (Congenital Scoliosis),麻庫性� (Paralytic

Scoliosis),筋原性(進行性筋ヲストロフィーなど),系統

疾患に伴うもの,ク� Jレ病性� (RachiticScoliosis)そのほ

かがあげられるがなお本態不明のものが半数に寄在し,

これらは特発性側聾症� (IdiopathicScoliosis)と呼ばれ

ている。われわれの研究はこの特発性のものの中に神経

原性のもの,および広く中枢にまで病変のおよんでいる

もの,さらにアミノ酸の尿中排地異常を示すものが存在

することを指摘し,治療方針設定に際し参考とすべきこ

とを述べた。その後側費症に関する関心が徐々に高ま

り,後述するように治療手技にも大きな進歩が見られた

結果,今日では依然として本態不明な点が多く残されな

がらも早期発見, くりかえし観察の上,体操療法,装器

療法(ミ� jレオーキー型装具,可動装具など)およびギプ

ス療法のくみ合わせ,ないしインターパル療法を選択す

ることによって,多くの症例の側壁進行が明らかに防止

され,かつ進行を防止しえぬものに対し手術的治療を積

極的に加えることにより確実な成績が期待できるように

なってきた。

さて教室では� 1957年故鈴木(次)教授により側費症

の手術療法として� staple挿入手術が行なわれて以来約�

100例の手術経験を有している。

まず� 1957年から� 58年にかけ頂椎を中心とした数個椎

*千葉大学医学部整形外科教室・教授

体の凸側に� staple挿入が行なわれ発育抑制を企図した

手術が� 4例に行なわれ,つづいて凹側肋骨切除術� (Rib-

resection) と傍脊柱部の� shortrotator r.nuscleを破

壊することによりその後の自家矯正を期待する方法が�

1960年より� 61年にかけ� 4例に行なわれた。しかしいず

れも側費の進行を防止しえずに終わった。� 1959年以降は

あらかじめ,あるいは術後のギプス矯正を前提とした後

方固定手術がもっぱら行なわれるようになったが,その

背後には脊柱は本来運動器官で可樟性を有するべきであ

り,また成長期の小児脊柱に対する固定手術がその後の

成長,発育に対しあたえる悪影響(発育抑制)の危険性

を内臓するという首肯すべき反対論がある。筆者はこの

点に関しむしろ適応の問題の考え方に帰するものと考え

ている。すなわち筆者も� 10才以下の前思春期において

は早期発見,保存治療を重視,主張するものであるが,

筆者の経験よりすでに� 500

(Cobb法)を越えるものは

その後の思春期において必ず著しい側轡の増強を示すと

いう事実があり, さらに� Thoracic,Thoracolur.nbar

Scoliosisでは胸廓変形という美容的な問題だけでなく

心肺機能に対する悪影響が発生する。 また� Paralytic,�

N eurofi bror.na tosisによる側壁症では増悪傾向が他に

比しきわめて大であるという事実もあげられよう。した

がって筆者はこれらに対してはむしろ積極的に手術的治

療によって強力に進行を防止すべきであり,増悪の始ま

る思春前期にこそ固定手術を行なうべきものと考えてい

る。これらは待期し経過を観察するにはあまりに多くの

矯正困難な悲惨な変形の発生を筆者は見,かつ成長抑制

の危倶に対し実際上術後の胸部と肢長との� dyspropor・�

tionの発生が軽微であるとの事実に基づいている。

図� 1,2のような急速進行例に対する末期治療の困難

さを考えれば著者のいう適応を限った早期予防手術の提

唱は当然の帰結と考えられる。

さて現在最も後方囲定手術が安定した成績を示し1960

年より教室における側轡症手術的治療の主体をなしてい

るが,この後方固定術式として当初椎板,東京突起を� de・�

corticationした後,腔骨片,冷凍保存肋骨,および異種�

INOUE,SHUNICHI: Operative Treatr.nent of Scoliosis. Departr.nent of Orthopedic Surgery,School of Medicine,Chiba University,Chiba. Received for publication,March 17,1970.

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3 脊柱側費症に対する観血治療法の進歩

図1. 2才の幼時に見られた側聾症

(A.T. ♀ 2才)

骨をカーブ凹側にならべる方法がとられた。しかし本法

の矯正損失率が大であったがために 1964年より Hibbs

法に準じて脊椎小関節面を円形に大きく削除し,自家腸

骨より採取した海綿骨を充填しさらに椎板,東京突起およ

び横突起より,この小関節面にむけて屋根瓦状に有茎骨

升を重畳する規則正しい手術術式にあらためられ以後著

しく手術成績の向上をみた。しかしこの手術は術後の熟

練したギプス矯正を前提として始めて正しい位置の固定

が行なわれるため,術後矯正損失の発生例が,しばしば

見られた。これはギプス療法が肋骨を介するいわば体外

矯正(間接矯正)ゆえ,矯正損失の発生もやむをえないこ

とと思われた。さらにこれらギプス療法は本質的に重大

な欠陥を有している。それは胸廓に対する dorsolateral

よりの圧迫が肺機能の低下を招き,また顎変形を残す。

さらに長時間のギプス療法は発育期の小児に多くの肉体

的,精神的負担が大である。ここに金属を用いた体内矯

正固定の工夫が諸家により行なわれるようになり,ギプ

ス療法を可及的に短縮すベく努力が払われたことは蓋し

当然の成りゆきと思われた。

側笥症治療への内固定器具の発展

1954年 InternationalSociety of Orthopedic Sur-

gery and Traumatologyにおいて Allan1)2)3) は後方

図 2. 図 Iの症例の 14年後の変形(後側聾) (A.T. ♀ 16才)

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4 井上駿

侵入によりターンパック jレ式金属を脊椎横突起にかけ手

術中徐々に矯正をはかり,のち二次的に後方固定手術を

行なう新しい手術術式を発表した。 1961年 Wengerめは

同様後方侵入により肋骨,横突起を切除し肋膜外式に脊

椎側面に到達し,側壁凹側にターンパック Jレ金属をスク

リューにより装着し手術中延長矯正をはかった。

1954年より 58年までに彼は 36例に手術を行ない,

平均 34%の矯正が得られたと述べたが,全く椎体固定

手術が行なわれていない点で,果たして金属のみで長期

にわたり矯正が保持しうるかどうか, 大きな疑義があ

る。合併症として出血死が予想された I死亡例と両下肢

弛緩性麻庫をおこした l例が記載され,以後の報告を筆

者は知らない。

1962年テキサスー聞園園田町大学の Harrington7)8) は

彼の新しい内固定器具につき発表を行なった。 1949年

より改良に改良を重ねたものであり 1958年の Inter-

nationa1 Polio Congressにて世に問うた。彼の手術方

式は凹側上位中間椎の関節突起と下位中間椎より 1,2椎

下位の椎弓聞にかける伸長棒 (distractionrod)と凸側

横突起聞にかける圧縮棒 (Compressionrod)の組み合

わせよりなり,凹側の伸展力と凸側の圧迫力両者の力に

図 3. 著者の教室で使用されている Harrington

改良手術器具 L 伸長棒 (Distractionrod)

2. ジョイント付き伸長棒 3. 伸長器 (Spreader) 4. エアトーム (Surgairtome) 5. 鈎打込み棒 (Hookdriver) 6. 鈎保持器 (Hookho1der) 7. 鈎 (Hook)

8. 創外伸長器 9. 板状スケーラー 10. 負荷測定器 (Torquewrench) 11.後方固定用ノミ 12. 鈎挿入用ノミ 13. 移植骨打込み棒

より矯正をはかったのち,脊柱後方固定手術を行なうも

のである。この方法による矯正の獲得と矯正保持の優秀

性はその後の各国の追試者により確かめられ本手拡の採

用は今や世界的な流行となりつつある8河川町。しかしな

がら本法もなお観察期聞が短く,侵襲の大きさ,側費矯

正のリミットおよび内臓,脊髄適応力の問題など,多く

の未解決の問題がのこされている。

教室における Harrington手術の発展

教室では従来側壁症観血治療に対し種々の工夫が行な

われてきたが, 1966年 2月より後方固定術の一発展とも

いうべき Harrington手術をいち早くとり入れた。この

点に関し在米中 Harringtonと面識をえた立岩元講師の

果たした役割は大きい。その後現在に至るまで症例を重

ね,術後 3ヵ月以上の症例は約 50例に達している。 そ

の間術式および器具は独自に改良に改良が加えられ,現

在ほぼ満足すべき成果があげられるようになってきた。

(図 3)

図 4. 著者の標準術式

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5 脊柱側費症に対する観血治療法の進歩

a: 術前 x-p b: 術後 l年 6ヵ月 x-p

c: 術前フォト d: 術後フォト

図 5. 胸椎側膏への Harrington手術例 (Y.K. ♀ 13才)

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6 井上駿

総じて本法は従来のほかのギプス矯正,そのほかの矯

正法と比較し矯正力がより大であり,かっ適正な固定手

術を同時に行なえば術後の矯正損失も少なく,ギプス装

着期間も短縮可能で早期に後療法を開始しうるなど多く

の利点を有している。しかし本法は手術時間(平均 3時

間)出血量(平均 2000gr)のいずれからみても侵襲が

大であり,また手術中の Rodによる Jackupという,

いわば激しい矯正という点に大きな問題がある。教室山

根は本手術前後の下肢腔骨神経伝導速度を測定し,高度

側壁症例における矯正例で subclinicalながら一時的遅

延を認める例があり,伸長に応じる脊髄機能適応のリミ

ットの存在に関し新しい問題をなげかけた。また手術時

Jack upによる矯正力の加え方が術者のみの経験に頼ら

ざるをえないという欠点があり,術者がこれ以上延長で

きぬと感じるまで延長するが,この“感じ"の表現が困

難で伸長を加え過ぎたため,しばしば Hook圧により椎

弓部の破壊を生じ,再びやりなおし手術をせねばならぬ

苦い経験を筆者自身も有している。また側轡症患者の組

織の拘縮度, 強さが異なり, また 10才以下では骨が軟

骨性のため弱く,長期の金属圧迫に耐えられぬことも考

えられる。また側壁の強い側に対しては直線状 rodの反

発力のため,上位がはずれる例が存在する。このように

本手術は大きな利点を有しながらも欠陥と限界が指摘さ

れる。このため著者はまず固定手術手技の「確実な簡素

化」の工夫を行なった。すなわちエアトームを用い脊椎

後方小関節面に円孔を穿ち,海綿骨を充填したのち,横

突起,糠突起,椎弓より骨升を三方向から小関節面に向

い確実に重畳する Hibbs法改良術式を確立した。(図的

また独自の「体外伸長器」を作成し torquewrenchを

用い,手術中客観的に矯正力を測定しつつ延長をはか

までの伸長力が最も椎弓に適当な力であるこ20kgり,

とを知り,以後骨の破壊が見られなくなり,手術成績は

)。5飛躍的に向上をみることができた(図

さらに図 2に示したような高度後側費症症例に対し

Harrington手術応用の適応拡大を企図した。この種の

高度側費症はほかのいかなる側費矯正法によっても,ほ

とんど矯正不能であり,かっ当然の事ながら著しい後建

のためこのままでは Rodの押入は不可能で、あった。著

者は本来椎体前面に位置すべき,大血管,奇静脈などの

枢要血管がこれら高度側壁症では凹例に移動する事実を

知り,一次手術として凸側侵入により開胸下あるいは肋

膜外式に椎体直上に直達し,頂椎部椎間板および隣接し

た椎体を模状に切除し可動性をあたえたのち,二次手術

として Harrington手術を試みた(図 6)。現在まで 5

例に行なったのみであるが術後矯正が平均 32%に得ら

図 6. 椎体・椎間板挟状切除と Harrington手術

の合併手術

れ,ほぼ満足すべき手術成績がえられている。図 7, 8

に代表的な 2例をあげたが前者は D

椎間板模状切除を行なったものであり,後者は DJOー 11,

Dll-12 に同様手術を行なったもので,いずれも顕著な側

曹と後建の同時矯正をうることができた。脊椎の前方部

分の破壊と発育層の破壊効果が両々相まって手術の矯正

効果を確実ならしめているものと考えられるが,従来の

ほかの方法では到底得られぬ矯正獲得を示している。か

くして側壁症に対する筆者らの行なってきた Harring-

ton改良手術の発展は,さらに悲惨な変形を残し社会に

放置されたままの不幸なカリエス,クル病,そのほかの

「亀背」形成症例に対し,新しい治療法の展開を暗示す

るものであり,筆者はこの面で治療的努力をさらにすす

めたいと考えているものである。

g,D ー 10に椎体・ag_

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7 脊柱側費症に対する観血治療法の進歩

a: 術前 x-p b: 術後 6ヵ月 x-p

c: 術前フォト d: 術後フォト

図 7. Da-9' D 9-10 椎体・椎間板模状切除後 Harrington手術を行なった合併手術例

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8 井 上 駿

a: 術前 x-p(正面) b: 術後 3ヵ月 x-p(正面)

c: 術前 x-p(側面) d: 術後 x-p(側面)

図 8. 図 2の例 l乙対し D10-11,Dll-12 の椎間板椎体模状切除後 Harrington手術を行なった。

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9 脊柱側壁症に対する観血治療法の進歩�

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