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信頼性⼯学第1回:信頼性と信頼性⼯学(イントロダクション)
千葉⼤学 ⼤学院⼯学研究院 都市環境システムコース岡野 創http://okano-lab.tu.chiba-u.ac.jp/lecture/index.html
講義予定
1
1. 2020年10⽉ 6⽇(⽕) 信頼性と信頼性⼯学(イントロダクション)2. 2020年10⽉13⽇(⽕) 信頼性解析の基礎数理1(確率論の基礎)3. 2020年10⽉20⽇(⽕) 信頼性解析の基礎数理2(信頼性の基本量)4. 2020年10⽉27⽇(⽕) 信頼性解析の基礎数理3(故障率と確率分布)5. 2020年11⽉10⽇(⽕) データの統計解析1(統計データ処理)6. 2020年11⽉17⽇(⽕) データの統計解析2(最尤法と確率紙)7. 2020年11⽉24⽇(⽕)データの統計解析3(検定)8. 2020年12⽉1⽇(⽕) 中間試験9. 2020年12⽉8⽇(⽕) システムの信頼性1(直列,並列,ブリッジシステム)10. 2020年12⽉15⽇(⽕)システムの信頼性2(パス・カットセット)11. 2020年12⽉22⽇(⽕)システムの信頼性3(FMEA, FTA, ETA)12. 2021年 1⽉5⽇(⽕) 破壊確率と信頼性指標13. 2021年 1⽉19⽇(⽕) ベイズ推定14. 2021年 1⽉26⽇(⽕) モンテカルロ法15. 2021年 2⽉2⽇(⽕) 期末試験
授業の内容と進め⽅
2
構造分野,機械システム分野,電気電⼦システム分野の信頼性⼯学を統合した内容
基礎的な数学の知識があれば内容を理解できる⾃⼰完結型の講義
教科書にほぼ準拠した講義形式 最後の⽅では教科書外の話題も
講義ノートのWeb掲載(前⽇までに掲載)http://okano-lab.tu.chiba-u.ac.jp/
試験2回(80%),出席(20%)で評価 中間試験後に,レポート課題も準備する。試験の成績が不⾜して
いる場合は成績に考慮。
参考書
3
「システム信頼性⼯学」,室津義定・⽶澤政昭・邵 暁⽂著,機械システム⼊⾨シリーズ7,共⽴出版,3000円,1996年.ISBN4-320-08081-5
「システム信頼性⼯学」:システムとは?
4
システムとは 複雑な要素から構成されながら⼀つの統⼀体を作っている組織
→ 組織的な機械装置,構造系,都市?(都市環境システム)complex body: a combination of related elements organized into a complex whole
ENGINEERING assembly of components: an assembly of mechanical or electronic components that function together as a unit
COMPUTING set of computer components: an assembly of computer hardware, software, and peripherals functioning together
故障事例:2003年ニューヨーク⼤停電2003年8⽉14⽇午後4時から29時間アメリカ・カナダで約5,000万⼈に影響経済的損失:4,750-7,500億円と推計
5
「北⽶北東部停電事故に関する調査報告書」2004 年 3 ⽉より
停電の経緯
6
14:02: Stuart-Atlanta34.5万 送電線停⽌(樹⽊接触)
15:05: Harding-Chamberlin34.5万 送電線停⽌(樹⽊接触)
15:32: Hanna-Juniper34.5万 送電線停⽌(樹⽊接触)
15:41: Star-S Cantonr34.5万 送電線停⽌(樹⽊接触)
Sammis-Starr34.5万送電線停⽌(距離リレー)
カスケード現象によりほとんど瞬時に系統分離・広域停電
13:31停⽌
14:02停⽌
15:05停⽌
15:32停⽌
15:41停⽌
16:05停⽌
「北⽶北東部停電事故に関する調査報告書」2004 年 3 ⽉より
カスケード現象
7
16:06頃まで:エリー湖周辺とデトロイトに南から北に向けた潮流
16:08:57:⼀連の送電線停⽌により,⻄回りと東廻りのエリー湖に向けた潮流に変化
16:10:36-38:エリー湖周辺の送電線停⽌の進⾏により,クリーブランド分離
16:10:39:エリー湖を反時計廻りに巡る⼤潮流に変化
16:10:45:ペンシルベニア州とニューヨーク州を結ぶ送電線が耐えきれず停⽌
エリー湖 クリーブランド
ニューヨーク
ペンシルバニア
「北⽶北東部停電事故に関する調査報告書」2004 年 3 ⽉より
直接的な原因
8
FE(FirstEnergy)社の不⼗分な樹⽊伐採 FE社の不適切な状況認識
平時からの想定事故解析を実施していない,監視ツールの操作に未成熟,補助的な監視ツールが具備されていない,などなど
信頼度コーディネーターの不適切な判断⽀援 当該地域は信頼度コーディネーターはMISOであるが,システム
が整備途上にあった 事故と前後して,システムのダウン,再起動,再起動時のミスな
どが重なった
信頼度コーディネーター
「北⽶北東部停電事故に関する調査報告書」2004 年 3 ⽉より
背景となる原因
9
数多くの公営・私営の電気事業者から構成されている(3100社超)
メッシュ状の電⼒系統 メッシュ状のネットワークは,事故による変動を系統全体で吸収
できるので安定性は増す ⼀⽅,系統の遮断などにより事故の影響範囲を極⼩化する対策が
取りにくい 電⼒⾃由化の影響
故障事例2:2019年9⽉6⽇ 北海道 全域停電
10 //www.hepco.co.jp/corporate/company/ele_power.htmlより
北海道の電⼒系統
11
苫東厚真発電所(毎⽇新聞より)
Wikipediaより
⽇本の電⼒系統
12
北海道の電⼒構成
13
万kW⽔⼒合計 125北本連携 60
その他
352.5
3557.9
25 3517.5 7.4
35 35
57.9
60
17.57.4
1
91.2
12.5
70
12.50
50
100
150
200
250
出⼒(万
kW)
1号2号3号4号
2拠点依存加えて,2012年から
泊発電所が稼働停⽌
110
北海道電力の供給量 東京電力の供給量発電所1機の発電⼒は規格により決まるので⼀定
⽕⼒・原⼦⼒
//www.hepco.co.jp/corporate/company/ele_power.htmlより
電源構成と発電設備の構成⽐
14
電源構成⽐(発電量) 発電設備構成⽐(最⼤出⼒)
需要変動対応に使⽤している(常時使っているわけではない)
電⼒供給網の特性
15
1. 発電された電気は貯めておくことができないので,需要が⽣じた瞬間に発電しなければならない
2. 全ての発電機は同じ位相で同期して回転している3. 需要が増える(供給が減る)と,周波数が低下する4. 周波数が低下すると,まず⼀定のブロックへの給電を
停⽌する5. それでも周波数が低下が⽌まらない場合は,発電所の
破壊※を防ぐために,発電を停⽌し電⼒網から脱落する※位相ずれにより発電所に電⼒が供給されてしまう
6. ⽯炭や原⼦⼒を動⼒とする発電所は簡単に起動・停⽌が出来ない
7. 電気は瞬時に移動するので,瞬間的に事象が伝播する
地震発⽣直前の状態
16
メリットオーダー順に運転
平成30年北海道胆振東部地震に伴う⼤規模停電に関する検証委員会 最終報告より
地震発⽣直後(03:09時点)
17平成30年北海道胆振東部地震に伴う⼤規模停電に関する検証委員会 最終報告より
道東エリアの送電事故
18平成30年北海道胆振東部地震に伴う⼤規模停電に関する検証委員会 最終報告より
送電線事故による道東のルート断
19発電>需要 道東エリアの周波数上昇 道東エリアの⽔⼒停⽌
平成30年北海道胆振東部地震に伴う⼤規模停電に関する検証委員会 最終報告より
地震発⽣からブラックアウトまでの17分間
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周波数
北本潮流
負荷制限装置動作①
⽔⼒・⾵⼒脱落
需要増による数波数低下伊達2号,知内1号の出⼒調整
苫東厚真1号の出⼒低下
苫東厚真2,4号脱落
負荷制限装置動作②
負荷制限装置動作③
苫東厚真1号脱落
ブラックアウト発⽣
伊達1号,伊達2号,奈井江1号脱落
検証委員会2018/09/19資料より
地震発⽣時の総需要310万kW
50Hz
48Hz
0万kW
-60万kW
苫東厚真1号機も損傷していた
21
原因
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直接的な原因 地震直後(03:09)の苫東厚真2,4号の発電停⽌ 03:25苫東厚真1号の発電停⽌ 道東エリアのルート断,⽔⼒発電停⽌
強制停電の上限146万kW苫東厚真2,4,1号,合計:60+70+35=165万kWの脱落 >
背景にある原因 2拠点への依存(冗⻑性の⽋如) 泊原⼦⼒発電所の停⽌による⽚肺
⾶⾏
352.5
3557.9
25 35 17.5 7.4
35 35
57.960
17.57.4
1
91.2
12.5
70
12.50
50
100
150
200
250
出⼒(万
kW)
1号2号3号4号
Implication(含意,教訓)
23
1. 2拠点依存ないし1拠点依存により,冗⻑性に⽋けるシステムとなっていた
a. 他地域で,同じ理由による全停電は起こりにくい2. ⼈⼝減少の中,発電所の増設も経営的に困難
a. ただし,⽯狩新港⽕⼒(⼩樽)は建設中3. 需要対応能⼒の無い再⽣エネルギーの増加により,不
安定要因は増す4. 2020年には電⼒⾃由化の経過処置が終了し,電⼒会社
は安定供給義務から解放されるa. アメリカに似てくるので,別の要因による供給⽀障が発⽣する
かもしれない
なぜシステム信頼性が必要となったか ?(1)
24
1. システムの⼤規模化,複雑化,機能要求の⾼度化2. 航空機,新幹線,原⼦⼒発電所など⼤規模システムで
は,故障による⼈的,経済的損失が甚⼤3. 電⼒系統,コンピュータ,通信網などのシステム故障
は経済,産業等にも多⼤な損失4. 家電製品やオフィス機器は故障による不便が強く認識
され,信頼性の要求が⼤.保証期間内の故障は,メーカーの信⽤や企業間競争にも影響.⼤規模災害によるダメージは都市間の競争にも影響
なぜシステム信頼性が必要となったか ?(2)
25
5. 新しい原理の導⼊,新材料の使⽤,新しい環境下での稼働を考えたシステムは,信頼性の実現が困難
6. 多額の初期投資が必要なシステムは,⻑期間の信頼性の確保が要求される
7. 製造物責任(product liability)が法制化された.その結果,開発・設計・製造・販売の各段階で,使⽤時に発⽣する潜在的リスクを同定し,それを除去する⽅策を講ずる必要がある
信頼性⼯学の発達過程
26
第2次世界⼤戦中のドイツのロケットV2開発の管理⼿法が始まり?
戦後,⽶国国防総省で電⼦機器の信頼性に関する体系的な研究が進む
1957年にAGREE(Advisory Group on Reliability of Electronic Equipments)がレポート提出,信頼性⼯学の基礎確⽴
1960年代のアポロ計画などの⼤規模システム開発で信頼性⼯学が発展
フォン・ブラウン
フォン・ブラウン
Wikiより
信頼性⼯学の発達過程
27
製造業における品質管理⼿法として定着 機械・構造⼯学(⼟⽊・建築)分野でも,1940年代から
⽶国のFreudenthalが破損確率に基づく信頼性理論を提唱 理論的研究や⼤規模な機械・構造システムやライフライ
ンシステムへの応⽤研究が盛ん
信頼性⼯学 (reliability engineering)
28
信頼度を評価するにとどまらず,ライフサイクルコストを最⼩化したり,システム効率が最⼤になるように設計,製造,運⽤,管理することを考える総合⼯学
固有の⼯学を横断する管理の⼯学
「システム信頼性⼯学」:信頼性
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故障(failure):システムが機能を果たさなくなった状態構造物では「破損」「破壊」
信頼性(reliability):所定の期間にわたって,システムが正常に機能している性質.システムが故障しない性質.
所定の期間,故障しないで機能する確率で表す
なぜシステム信頼性は確率で表現するのか?
信頼性⼯学は⼤規模なシステムを扱うために発達
30
⼤規模なシステムは多数の構成要素からなる
多くの要素は⼤⼩の不確定性を持つ
確率統計的⼿法を⽤いる必要がある
システムの信頼性への影響因⼦
要素の信頼性
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システムの規模 システムが⼤規模な法が不安定とは限らない 規模が⼩さい⽅が不安定な場合もある
(Ex.北海道の停電)
システムの構成=要素の接続⽅法
システムの特性
要素の不確定性
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信頼性⼯学の⽤語:信頼度,故障確率,リスク
33
信頼度をRとする
不信頼度すなわち故障(破損)確率PfはPf = 1 − R
リスク 故障によって⽣じる損害がDで与えられるとリスクは,
fRisk D P
リスク=損傷が起きたときの損害額×損傷が起こる確率
リスク≠損傷確率
信頼性に関する種々の不確定要因
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物理的不確定性 (physical uncertainty) 確率統計的な数学モデルで表現可能な不確定性=randomness e.g. 使⽤(荷重)条件,材料特性,製造条件
統計的不確定性 (statistical uncertainty) 確率分布やパラメータを決定するためのデータ不⾜に起因する
不確定性; e.g. 地震/⾵などの荷重条件
モデルの不確定性 (model uncertainty) ⼊⼒に対する応答(出⼒)を求める解析的/数値モデルに起因
する不確定性: e. g. ⾮線形挙動の線形仮定,境界条件;
信頼性⼯学の⽤語:信頼度
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信頼性の定量化 故障の原因となる各種のパラメータを定量化し,システムの機能
と関連づける必要. 多くの場合,パラメータの値はバラツキを持つため,確率統計⼿
法を⽤いる必要. 信頼度(reliability)
「規定の条件のもとで,意図する期間中,規定の機能を遂⾏する確率」(JIS Z 8115)
システムの機能(故障状態)を明確にした上で,使⽤条件,使⽤期間を規定し,機能を果たす確率を計算する.
信頼性理論(reliability theory) 信頼度を算定するための理論や⼿法の総称
荷重と強度の確率モデル
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Resistance: RLoad: S
確率
密度
関数
Prob
abili
ty D
ensit
yFu
nctio
n
rs
s : a specific value of S
破壊(破損)確率(Probability of Failure)Pf= P(R<S)
Pf= P(R/S<1)
世界の⼤都市域の災害リスク指数(ミュンヘン再保険会社)
37
710 東京・横浜
92 大阪・神戸・京都
42 ニューヨーク
167 サンフランシスコ湾岸
100 ロスアンジェルス
No. 1
No. 4
No. 6
No. 3
No. 2
ハザード:地震、台風等、水害、その他の発生危険性
脆弱性:住宅の構造特性、住宅密度、都市の安全対策水準の3指標から構成
経済上の影響規模に関連する指標:各都市の家計、経済水準等に基づく
リスク=ハザードx脆弱性xストック
信頼性⼯学の⽤語:保全度,アベイラビリティ
38
保全性(maintainability):システムが故障した場合の”直しやすさ”
保全度(maintainability):保全性の定量的な尺度.故障したシステムの修理が規定期間内に完了する確率.
アベイラビリティ(availability):信頼度と保全度を組み合わせた評価尺度ある使⽤条件のもとで特定の期間内にシステムが所定の機能を発揮している確率
アベイラビリティの表⽰
39
A(アベイラビリティ)U(動作可能時間)D(動作不能時間)
0
D D D
U U
DUUA
またはMTBF:平均故障間隔(mean time between failures)MTTR:平均修復時間(mean time to repair)
MTTRMTBFMTBFA
アベイラビリティを⼤きくするにはMTBFを⼤きくする(信頼性(耐久性)の向上)MTTRを⼩さくする(保全性の向上)