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新たなLNG需要 - 船舶燃料としてのLNG – 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 2019717調査部 白川

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新たなLNG需要- 船舶燃料としてのLNG –

独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構2019年7月17日調査部 白川 裕

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免責事項

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。

また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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• 2005年、船舶からの大気汚染物質の排出規制に関する規則(MARPOL 73/78条約附属書Ⅵ)が発効した。

• その後、段階的な規制強化が実施されてきたが、2015年、特定海域で厳しいSOx規制が適用。2020年以降は、一般海域においてもSOx規制が大幅に強化される。

• これを機会にクリーンエネルギーLNGが船舶燃料として使用される動きが本格化しつつある。

• ここでは、規制内容、対策案、LNG燃料化の進捗と今後のLNG需要についてまとめる。

はじめに

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MARPOL条約

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汚染物質 特性

SOx 舶用ディーゼル機関において硫黄含有燃料油を燃焼することにより発生。大気汚染および酸性雨の原因物質。

PM 舶用ディーゼル機関において高硫黄燃料油を燃焼することにより発生。大半が硫酸塩とその結晶水から構成され、硫黄分規制により低減。

NOx 物質が燃焼する時に、空気中の窒素が酸化され生成。燃焼温度が高くなるほど多量に発生。

(JPECレポート2015)

• 海洋の汚染防止は国連下部組織である国際海事機関IMO(International Maritime Organization)によって管理されている。

• IMOは、171加盟国と3準加盟国で構成され、日本は1983年3月に加盟。

• 船舶からの海洋汚染防止ルールは、マルポール条約(MARPOL 73/78)「船舶による海洋汚染の防止のための国際条約」に規定されている。これは、国際条約と議定書から構成され、国際海運分野での船舶の航行や事故による海洋汚染の防止を目的に、有害物質や大気汚染物質の排出規制等が記載されている。

• MARPOL 73/78条約附属書Ⅵ(2005年発効)は、マルポール条約締結国を旗国とする、または、条約締結国の管轄権が関与する航海に従事する400総トン以上の全ての海洋船舶から排出される大気汚染物質、SOx、PMおよびNOxを規制している。

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ECA(Emission Control Area)

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• 海洋の大気汚染に関する規制は、上記条約に基づき、一般海域、および、ECA(Emission Control Area)に分けて適用され、各国が一段と厳しい規制を設定できるようになっている。現在設定されているECAは、下記4海域(バルト海、北海、米国・カナダ、プエルトリコ)。

• また、中国では、独自に中国版ECA3水域(環渤海海域、長江デルタ、珠光デルタ)でSOx規制を適用していたが、昨年これが強化され、2019年1月以降の領海内の適合油使用、2022年1月以降の海南省域、および、2025年以降の領海内での超低硫黄燃料油の使用が義務化された。

(JPECレポート2015、JOGMEC改)世界のECA

【ECA 4海域と指定汚染物質】① バルト海周辺海域(SOx)② 北海周辺海域(SOx)③ 米国(含むハワイ)とカナダ沿海部の200

海里内の北米海域(SOx、PM、NOx)④ プエルトリコと米領ヴァージン諸島を含む

カリブ海海域(SOx、PM、NOx)

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SOx規制

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• SOxは燃料油中の硫黄分が燃焼する際に発生。すす、未燃燃料の凝縮物、硫黄化合物等で構成される粒子状物質(PM)も燃料油中の硫黄に由来する。このため、SOx、および、PM規制では、すべての船舶を対象に使用する燃料油中の硫黄濃度を規制している。

• 2020年からは、ECA以外の全ての海域において、既存船免除条項なしでSOx規制が強化されるため、海運各社等はその対応に追われている。

• 昨年、執行力を強化するために、2020年以降の船上での適合油以外の燃料油保持の禁止が条文に追加された。

IMO海洋汚染防止条約(MARPOL 73/78)ANNEX VIのSOx規制

一般海域

(1)2005年5月19日以降 : 4.50%

(2)2012年1月1日以降 : 3.50%

(3)2020年1月1日以降 : 0.50%

排出規制海域(ECA)

(1)2005年5月19日以降 : 1.50%

(2)2010年1月1日以降 : 1.00%

(3)2015年1月1日以降 : 0.10%

燃料中の硫黄分削減スケジュール

燃料油中の硫黄含有量

(%)

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NOx規制

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NOxの排出規制値は、船舶の建造年、エンジン回転数、および、対象海域毎に規定され、Tier Iと比べ、Tier IIでは20%、Tier IIIでは80%削減しなければならない。これについては、適合エンジンの使用、選択的触媒還元脱硝装置(Selective Catalytic Reduction)の設置、排ガス再循環システム(Exhaust Gas Recirculation)の設置、LNG燃料の利用によって達成可能といわれている。

IMO海洋汚染防止条約(MARPOL 73/78)ANNEX VIのNOx規制

Tier I 2001年以降に建造された130kW以上のディーゼル機関、全海域n < 130 rpm 17.0 g/kWh

130 <= n < 2000 rpm 45.0 x n^-0.2 g/kWh2000 rpm <= n 9.8 g/kWh

Tier II 2011年以降に建造された130kW以上のディーゼル機関、全海域n < 130 rpm 14.4 g/kWh

130 <= n < 2000 rpm 44.0 x n^-0.23 g/kWh2000 rpm <= n 7.7 g/kWh

Tier III 2016年以降に建造された130kW以上のディーゼル機関(24m未満のレクリエーションボートと750kW未満の適用除外船を除く)、NOx ECA(アメリカ、カナダ200海里内(アラスカ西岸などを除く)および米国カリブ海海域(プエルトリコ、バージン諸島の大西洋・カリブ海海域))

n < 130 rpm 3.4 g/kWh130 <= n < 2000 rpm 9.0 x n^-0.23 g/kWh

2000 rpm <= n 2.0 g/kWh

NOx排出削減スケジュール

NO

x排出量

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省エネ設計規制(Energy Efficiency Design Index: EEDI)

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• 2011年7月、国際船舶からのCO2排出低減に向け、ハードウエア的な改良に関する①400トン以上の新造船に適用されるエネルギー効率設計指標(Energy Efficiency Design Index、EEDI、条件要件)と、運航上の工夫や改善に関する②既存船に適用されるエネルギー効率運行指標(Energy Efficiency Operational Indicator、EEOI、任意)のMARPOL 73/78条約附属書Ⅵへの導入が合意され、2013年1月発効した。

• 1999~2008年に建造された船舶の省エネ設計規制 EEDI平均値を基準に、2013年以降に建造される船舶のEEDIを定める。

• 2020年以降に建造される船舶は20%、2025年以降に建造される船舶は30%の燃費改善が必要であるが、各種省エネの組み合わせによって達成可能と見込まれている。

CO2削減方法

(NK 2015)

構造的手法- 船体形状の改良- プロペラの改良- 船体省エネ付加物- 再生エネルギー利用運航的手法- 運航計画最適化- 減速運転- ウェザールーティング- ジャストインタイム入港- 船体、機関メンテナンス最適化省エネ設計規制 EEDI

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CO2 IMO削減目標

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• 2018年4月、船舶のCO2排出量に関し、2050年までに半減、今世紀中にCO2排出量ゼロを目指すことで合意(2008年比)。

• 当面は情報通信技術(ICT)の活用、設計や運航オペレーションの改善による燃料消費効率アップ、LNG燃料導入等で対応する。長期的には、LNG燃料化でも対応できず、グリーン水素のようなノンカーボン燃料への転換を想定する。

• 目標設定では合意したものの、それを達成するための法的拘束力を持った具体的な方法やタイムスケジュールは示されていない。

(国交省HP)

IMO GHG削減戦略

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SOx対策技術

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2020年から新たな対応が必要となるSOx対策としては、以下の方法が、現実的な選択肢として挙げられている。

(1)適合油の使用

(2)排ガス洗浄装置(スクラバー)の設置

(3)LNG燃料の利用

(1)適合油の使用

スラクバーは既に、設置スペースが確保できるVLCC等の超大型の新造船で適用が始まっている。ただし、既存船については、全ての船の改造は2020年までには間に合わず、また、LNG燃料船化は、船の新造/改造、燃料供給インフラの設置双方に時間がかかる。従って、2020年時点で既存船においては、「適合油(硫黄分0.5%以下)」の使用が現実的な対応策と考えられる。適合油は主に「超低硫黄燃料油(硫黄分0.1%以下)」と、従来から船舶用燃料として使用されている「高硫黄重油(硫黄分3.5%以下)」

とのブレンドで製造されるとみられている。

その規格は現在ISOで検討されており、2019年中

に制定の見通し。

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(2)排ガス洗浄装置(スクラバー)の設置

従来のシステムに排ガス浄化装置(スクラバー)を付加し洗浄する方法。高硫黄重油を使用する場合でも超低硫黄燃料油レベルまでクリーン化できる。スクラバーには、排ガスを海水や苛性ソーダ溶液に吸収させる湿式と、水酸化カルシウムに吸収させる乾式があるが、船舶用のほとんどは海水にSOxを吸収させ排水を船外に排出する湿式オープンループ方式。ただし、欧米では既に排水を禁止している港も多く、スクラバー適用の障害となってきている。

スクラバー排水規制海域- ノルウェー- ドイツ(ライン川)- リトアニア- ラトビア- ベルギー- アイルランド- 米国(コネチカット州、カリフォルニア州)- 中国(渤海湾内)- シンガポール(湾内)- UAE(フジャイラ港内)

(PETROTECH 2019)

スクラバーシステム例

SOx対策技術

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SOx対策技術

(3)LNG燃料の利用

LNGは硫黄分を含まないため、燃焼時のSOx排出を100%削減できる。また燃焼温度も低いことから、エンジンの型にもよるが、NOx排出量を40~80%、CO2排出量も25%削減可能で(高硫黄重油比)、規制の厳しいECA基準を満足できる。

一方、LNG燃料の使用には、大型の断熱LNG燃料タンク、気化器、ガスエンジンの設置が必要で、建造コストが25%程度アップするとも言われる。また、極低温流体であるため、船員の教育訓練も必須となる。改造した場合は、高硫黄重油と比べ燃料タンク容積が大きくなるため貨物積載量が減少してしまうというデメリットもある。

欧州以外では、まだLNG補給(バンカリング)用供給インフラが整備途上であり、このネットワークを新たに構築する必要がある。

(国交省HP)LNG燃料供給システム例LNG燃料の環境性 (IEA)

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LNG燃料船へのコンバージョンシナリオ

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• 2020年のSOx規制強化対策として、設備費的には、

LNG燃料船化 > 高硫黄重油+スクラバー > 適合油

の順に費用がかかる。一方、燃料費としては、

適合油 > LNG燃料船化 > 高硫黄重油+スクラバー

の順に費用がかかる。

• 設備的には、既存船のLNG燃料船化や高硫黄重油+スクラバー設置などの改造は、不稼働期間、改造費用、重心位置の上昇、さらに、LNG燃料船化の場合は燃料タンクの容量アップなど課題が多く、効率的ではない。また、スクラバー設置にはある程度のスペースが必要で、小型船への適用は難しい。また、欧州以外では、LNG燃料供給設備の普及も不十分である。

• 短期的には、既存船は、2020年、まず適合油利用に移行する。その後、新造等に合わせて、中小型船では、LNG燃料船化が、また、一般海域を航行する大型船では、今以上に排水規制が広がらなければ、高硫黄重油+スクラバーが主要な代替案になると考えられる。

• 長期的には、LNG燃料船化のメリットが大きい。規模の大きい運航者は、新造船についてはLNG Ready化(LNG燃料船への改造を想定した建造)を開始している。また、LNGバンカリング事業へも参加し始めている。

• 何れの対応策でも大幅なコスト増は避けられない。運航者は荷主等関係者と継続的に協議を進めている。

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ECA Regulation Surcharge

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対象航路 料率 per FT

米州航路 USD 3.50

欧州・地中海航路 USD 3.00

(NYK HP)

• 運航者は、顧客の意向も尊重しながら対応方法を検討し、排ガス規制強化によるコストアップを顧客にも負担してもらっている。

• NYK、MOL等は、2015年から規制対応燃料油の消費が義務付けられたことに対応し、この規制対応燃料油は、現行使用している燃料油価格よりもはるかに高く運航による自助努力のみでは吸収できないレベルである、として、ECA Regulation Surcharge(顧客負担)を導入した。

NYK ECA Regulation Surcharge

適用開始日 : 2015年 1月 1日以降積載分

対象航路及び料率 : ECA 対象地域

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環境規制と適用シナリオ

152050 210020302015

100

50

(Year)

SO

x(x1

0^-

2%), N

Ox(

x10^-

1g/

kWh), E

ED

I, C

O2削

減率

(%)

0

0.1% → (当面)超低硫黄燃料油使用 → (新造時)LNG燃料船化

1.0%

4.5%

1.5%

0.5% → (当面)適合油使用 → (新造時)LNG燃料船化、高硫黄重油+スクラバー設置

Tier II → (新造時)適合エンジン使用

Tier I

NOx (一般海域)

EEDI

SOx (ECA)

SOx (一般海域)

NOx (ECA)

IMO CO2削減

-30% → (新造時)各種省エネ

-50% → グリーン燃料化?

3.5%

Tier III → (新造時)SCR、EGR、LNG燃料船化

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LNGバンカリング方法

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(1)LNG補給基地からの供給(Shore/Tank to Ship)

LNG補給基地を建設し、LNGタンクからアームやホースなどで接岸したLNG燃料船にLNGを供給する方法。LNG燃料船はLNG補給基地への回航が必要になる。

(2)LNGバンカリング船からの供給(Ship to Ship)

LNGバンカリング船を建造し、海上や着桟状態でアームやホースを使いLNG燃料船にLNGを補給する方法。LNGバンカリング船を増やし供給力を整備する必要がある。

(3)LNGローリー車からの供給(Truck to Ship)

岸壁のLNGローリー車から、着桟したLNG燃料船にLNGを補給する方法。設備新設が不要で多くの港湾で対応可能であるが、ローリー容量に制限があるため大型船舶には適さない。

LNGバンカリング方法

(DNV)

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LNGバンカリング設備

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• 現在、実際にLNGバンカリングが行われている港湾は世界で50港程度。欧州がその8割を占める。特にノルウェーでは、早くからLNG補給インフラが整備され、地域向けの小規模LNG液化基地や小規模LNG受入基地40か所程度が建設されている。また、LNGを補給するLNGバンカリング船等は欧州を中心に9隻が就航している。

• ちなみに、日本には、大型LNG受入基地が36ヵ所、内航船基地が6ヵ所あり、バンカリング用に転用可能と思われるLNG内航船は6隻が運航中。

世界のLNGバンカリング設備 (各種資料よりJOGMEC作成)

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LNGと競合燃料との価格比較

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• LNGと競合燃料との価格差が、高額なLNG燃料船を導入する際のインセンティブである。下記グラフの値がマイナスになるほどLNG燃料船化の経済性がアップする。通常の高硫黄重油を燃料とする船舶より25%高いLNG燃料船のCapexを回収するためには、LNGの方が$2~6/MMBtu安価である必要があるとも言われる。

• 欧州、北米では、高油価であった2014年まではLNGが優位であったが、油価が下落した2015年を境にLNGと超低硫黄燃料油の価格差は縮小。また、欧州では補助金が適用されている。

• アジアの価格差は全ての期間でプラス。LNG燃料船化の追加コスト回収は難しい。

LNG燃料と超低硫黄燃料油、高硫黄重油との価格差推移

(OIES 2018、JOGMEC改)

欧州、北米:船舶燃料用のLNG価格と超低硫黄燃料油の価格を比較。多くの欧米の港湾でスクラバー排水規制が広がってきており、高硫黄重油+スクラバーの利用は現実的ではないため。

アジア:LNG価格と高硫黄重油+スクラバー設置を比較。スクラバー排水規制海域が限定されており、適合油より安価な高硫黄重油+スクラバーがまだ適用できるため。

燃料価格差

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LNG燃料船の隻数

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• 2018年5月時点で、全世界のLNG燃料船は122隻、建造中、発注済みの新造船は132隻。

• 世界の商船10万隻の0.3%を占め、130~300万t-LNG/年のLNGを使用。現在2.6億t-LNGに相当する世界の船舶用燃料油需要の1%程度。

• ちなみに、寿命を20年とすれば、新たに建造される船舶は5,000隻/年。

(DNV 2018)LNG燃料船の隻数

(隻)

(年)

LN

G燃料船隻数

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LNG燃料船の船種

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(DNV 2018)LNG燃料船の船種

• LNG燃料船化しやすい船は、– 規制の厳しいECA内を航行しなければならない船、

– 燃料供給インフラコスト、LNG燃料船化コストを回収しやすい燃料消費量の大きな船(LNGが価格優位である場合)、

– 燃料供給スケジュールが予測しやすい定期航路を走る船、

– 政策援助のある国の船、

– 長期的な戦略を立てられる大規模な会社がオーナーである船、

である。

• これまでは燃料補給設備の整備された、欧州と北米のECAを航行するフェリー、タグボート、石油開発用プラットフォーム支援船等が中心だったが、一般海域でのSOx規制強化を見据えて、大型コンテナ船やクルーズ船の発注が増加し、世界各地で導入を進める動きが出てきた。ただし、ECAが設定されていないアジア・オセアニア、中東では新たなプロジェクトは多くはなく、欧州・北米との差が大きくなりつつある。一方、自動車メーカーは環境意識が高く、トヨタ(日本-北米)、フォルクスワーゲン(欧州-北米)などの自動車運搬船でLNG燃料化が予定されている。

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船舶燃料用LNG需要予測

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• 船舶燃料用LNGの需要見通しは、高硫黄重油からの切り替えタイミングを考慮し、いくつかの機関で予測されている。

• 従来は、2025年断面で、1,000~7,000万t/年と予測されていたが、最新の予測はこれより低く、700~3,000万t/年(液化プロジェクト数件に相当)。

• IEA GAS2019では、初めて直近からの船種内訳を明示した需要が提示され、2024年で500万t/年を予測。

(OIES 2018他各種資料からJOGMEC作成)

(OIES 2016)

船舶燃料用LNG需要予測

船舶燃料用

LN

G需要

船舶燃料用

LN

G需要

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まとめ

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• 2020年からのIMO SOx規制強化は、適合油使用、スクラバー、LNG燃料船化のいずれかで対応可能。

• 適合油はコスト大、スクラバーは排水規制強化のリスクが高く、長期的には、LNG燃料船化のメリットは大きい。

• 今後のLNG燃料船化の進展は、主に環境規制強化のスピード、および、LNG-油価差異に左右される。

• 今後も規制で先行する欧州を中心にLNG燃料船化は進み、船舶燃料用LNG需要は大きな伸びが期待される。2024年で500万t/年、2030年で1,000~4,000万t/年。

• アジアでの進展は遅い。

• NOx規制は設備的に対応可能。EDDI規制は、構造的、運航的手法で対応可能。

• 2050年からのCO2規制は、LNG燃料船化でも対応できない。今後、グリーン燃料、蓄電池、液化水素等新たな対応方法を開発する必要がある。