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2016年3月18日大学教育研究フォーラム@京都大学
ゲームデザインの枠組みで大学教育を捉え直す:
高等教育改善のためのゲーミフィケーション
藤本 徹
東京大学
大規模公開オンライン講座(MOOC)
• 東大のMOOCをCoursera、edXで開講中
• 登録者数25万人、修了者数1万5千人以上
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 2https://www.coursera.org/utokyo https://www.edx.org/school/utokyox
本講演のねらい
• 「ゲーム」への理解を深める
• 学校的なデザインとゲームデザインの違いを理解する
• 大学教育を「ゲームデザイン」問題として考える(ための手掛かりを持つ)
2016/3/18 3(c) 2016 Toru Fujimoto
Q1. 「ゲーム」と聞いて、どういうものをイメージしますか?
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 4
ゲームって何?(よくある回答)
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 5
インベーダー、マリオ、テトリス、パズドラ、モンハン・・・
ファミコン、DS、Wii、PS・・・
ネットゲーム、ソーシャルゲーム、格闘ゲーム、RPG、FPS・・・遊戯王、ポケモン、ムシキング・・
双六、百人一首、将棋、囲碁、メンコ・・・
麻雀、ポーカー、スロット、ルーレット・・・
ハンティング、獲物・・・
サッカー、野球、ゴルフ、卓球、陸上競技・・・
クイズ大会、ビンゴ、スタンプラリー、脱出ゲーム・・・
山手線ゲーム、ビアポン、罰ゲーム、王様ゲーム・・・
ビジネスゲーム、経営シミュレーション、コミュニケーションゲーム、
マネーゲーム、株式投資、FX、ビジネス全般・・・
恋愛ゲーム、受験競争、出世競争、サバイバル人生・・・
囚人のジレンマ、立地問題、交通渋滞・・・
ゲームタイトル
ハードウェア
ゲームのタイプ/ジャンル
トレーディングカードゲーム
古典的なゲーム
ギャンブル
狩猟
スポーツ
ゲームイベント
パーティゲーム
研修ゲーム
ビジネス=ゲーム
人生=ゲーム
ゲーム理論
Q2. どういう要素があれば「ゲーム」なのでしょう?
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 6
ゲームに含まれる要素は?
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 7
競争・勝負
ゴール
プレイヤー
ルール
アクション
謎解き
達成・征服
協力・共有
収集、探索
物語、世界観
駆け引き
創造/破壊
役割・タスク
「遊び=プレイ」の古典的4分類
8
競争(アゴン)例:スポーツ、格闘技、チェス
運(アレア)例:宝くじ、ビンゴ、じゃんけん
模倣(ミミクリ)例:演劇、物まね、ごっこ遊び
目眩(イリンクス)例:ブランコ、サーカス、ローラーコースター
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
(カイヨワ, 1958)
ゲームの定義
• ゴール:達成すべき目標
• ルール:制約条件
• フィードバックシステム:達成度の把握
• 自発的参加: 「越える必要のない障壁」(マクゴニガル、2011)
9
ルドゥス(Ludus) パイディア(Paidia)
気晴らし、騒ぎ・即興発散
目的・ルール技・努力・秩序
ゲーム的遊び お祭り的遊び
(カイヨワ, 1958)2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
Q3. 「ゲーム」について、どのようなイメージ、世界観を持っていますか?
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ジョン・デューイのゲーム観
「ゲームの参加者は、自分たちが一人の
個人に操られているとか、ある権威者の
意のままに服従させられているなどとは
感じていない。」
(ジョン・デューイ, 1938)
112016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
心理学における「ゲーム」
• Berne, E. (1964) Games People Play• ゲームとは:人を不幸に導く対人交流
• 人間関係に潜む駆け引きや搾取の構造
• 結婚生活ゲーム、パーティゲーム、犯罪ゲーム・・・
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研究者人生の「ゲーム」
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 13
• Sindermann (1982) Winning the Games Scientists Play
• 研究者人生で遭遇する敵や味方との付き合い方、さまざまな試練を切り抜けるテクニックを解説した「研究者生活のゲーム攻略本」
• Happy Academic Life 2006• 人工知能学会の有志が開発した「研究者人生ゲーム」
• さまざまな将来像に向けた戦略
Happy Academic Life 2006
http://academiclife.info/
ビジネス社会における「ゲーム」
• Harragan, B. (1977) Games Mother Never Taught You
• 女性のキャリア形成を妨げる隠された「ゲーム」の勝ち方指南書
• Scheinfeld, R. (2009) Busting Loose from the Business Game
• 終わりなき「お金と仕事のレース」からの脱出マニュアル
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 14
数理モデルとしての「ゲーム」
• von Neumann & Morgenstern (1944) “Theoryof Games and Economic Behavior”
• 「ゲーム理論」:数理的な意思決定モデル
• ゲーム=現実問題のモデル
– プレイヤー
– 選択肢
– 利得
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ゲームに対する世界観
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• 楽しく夢中で参加できる
• 達成感を感じられる• 意欲を高める活動• 自発的に参加する
• 継続を支援する仕組み
• 教育に活かせる仕組み
• 否応無く勝てないゲームに組み込まれている
• 強制されるゲームは楽しくない
• 勝ち組と負け組が出る
• 勝てないゲームで「遊ばれる」のは楽しくない
• 意味の分からないゲームを他人が楽しんでいるのは面白くない
ポジティブ ネガティブ
本講演のねらい
• 「ゲーム」への理解を深める
• 学校教育的なデザインとゲームデザインの違いを理解する
• 教育改善を「ゲームデザイン」問題として考える(ための手掛かりを持つ)
2016/3/18 17(c) 2016 Toru Fujimoto
教育へのゲーム導入の変遷
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 18
エデュテインメント1990s’
シリアスゲーム2000s’
ゲーミフィケーション2010s’
シミュレーション&ゲーミング
〜1990s’ エンターテインメントエデュケーション
模倣性・システム的側面を重視
楽しさの要素を重視
インフォーマル学習ツールとしてのゲーム
2016/3/18 19(c) 2016 Toru Fujimoto
MONOPOLYThe Landlord‘s Game
トップマネジメント(光栄, 1989)
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 20
大学経営を学ぶゲーム:Virtual-U (2000)
• 「Sim City 大学版」: 大学経営
シミュレーション
• 産学連携プロジェクトとして開発
• スローン財団、スペンサー財団
がスポンサーとなり、民間ゲー
ム会社が開発、プロデュースし、
大学や研究機関がコンテンツ、
データ提供
• 全米、世界各地の大学院や
MBAなどの授業で利用された2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 21
「ゲーミフィケーション」とは
広義:
• 「社会のために「ゲームの力」を活用する」取り組み全般
– 楽しみながら学ぶ
– 知育ゲーム、学習ゲームの利用も含む
狭義:
• 「ゲーム要素」、「ゲームデザインの手法」をゲーム以外のシステムやサービスに活用する
– 「ゲーム」そのものは使わない
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根本的なデザインの前提・考え方の違い
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 23
インタラクティブ 一方向(効率優先)
ゲームデザイン 学校的教育デザイン
なるべく教えない(使っているうちに自然と学べる)
まず説明(教えなければ学べない)
自発的参加 義務・強制的参加
チャレンジや失敗を奨励失敗は恥ずかしい、チャ
レンジは避けたい
さまざまなレベル・複層的な参加
横並び・単線的な参加
ゲーム要素は既に学校に存在する
• ゴール:テストで満点、入試合格
• ルール:校則、法令
• フィードバック:成績表
– レベル:学年、習熟度別クラス
– ポイント:点数、偏差値
– バッジ:賞状、修了証
– リーダーボード:成績優秀者リスト
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ゲームのように楽しく感じられないのはなぜか?
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
本講演のねらい
• 「ゲーム」への理解を深める
• 学校教育的なデザインとゲームデザインの違いを理解する
• 教育改善を「ゲームデザイン」問題として考える(ための手掛かりを持つ)
2016/3/18 25(c) 2016 Toru Fujimoto
Q4. 大学教育のどんなところにゲームを導入できそうでしょうか?
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 26
ゲーミフィケーションが起こす変化
• 知識習得:
– ゲームに参加しているうちに知識が身につく
– 例:単語クイズで単語を覚えた
• 行動変容:
– ゲームに参加しているうちに問題行動が解消
– 例:授業冒頭にゲームをすると遅刻が減った
• 態度変容:
– ゲームに参加して、嫌いだったことが好きになる
– 例:情報宝探しゲームで資料集を調べる習慣が身に付いた
272016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
大学教育への「ゲーム」導入のレベル
• レベル1:教室レベル– ゲームで教える/学ぶ:ゲーム学習
– ゲームで活動を促す:ゲーミフィケーション
– ゲーム開発を通した学習
– 評価の仕組みとしてのゲーム
• レベル2:組織レベル– 教育カリキュラムのゲーミフィケーション
– 組織の問題解決のためのゲーミフィケーション
• レベル3:社会レベル– 世の中の仕組みを「ゲームフル」に変える
– 未来の「ゲームチェンジャー」の教育
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教室レベルの導入例
キャリア教育のための学習カードゲーム「ジョブスタ」(Fujimoto et al, 2015)近未来の問題状況で活躍できそうな新しい仕事を考え出す
今の自分と切り離して仕事への興味から考えられる
販売サイト: http://heart-quake.com/jobsta.html
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 29
組織レベルの導入例
• Quest To Learn:ニューヨーク市
の公立学校(中高一貫校、2009年~)
• PlayMaker School:カリフォルニア州の私立学校(2012年~)
• ゲームデザイナーと教育専門家チームが協力してカリキュラム開発や学習環境デザインを担当
• 常勤のゲームデザイナーが教材を開発2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 30
社会レベルの導入例
Speed Camera Lottery(2011)• 速度違反車の記録の代わりに、法定速度で走ると抽選で賞金が当たる設定にした
• 期間中、平均時速は大幅改善した
312016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
社会貢献支援のゲーミフィケーション
Free Rice (2007):食糧支援活動への寄付を募る学習ゲーム型募金アプリ
– 1問正解ごとに10粒が広告スポンサーから寄付
– 毎日20万人以上がプレイ
– 1日辺り7000人分の食糧支援に貢献
32http://freerice.com2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
ゲーマーの力を活かした社会問題解決
Foldit(2008)– ワシントン大学で開発されたたんぱく質構造解析ゲーム
– プレイヤーが専門家を上回る成果をあげ、ネイチャー誌に論文掲載
332016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto https://fold.it/
社会変革を起こすゲーミフィケーション
「地元選出議員の経費を調べよう」(Investigate Your MP’s Expenses)
– 2009年、英ガーディアン紙が国会議員の経費書類をオンライン公開
– 政治家の経費書類仕分けに誰でも参加できる仕組みを提供
結果:
• 公開3日間で2万人が17万通以上の文書が調査された
• 28人の議員が辞職に追い込まれた
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教育問題解決のためのゲームデザインの流れ
352016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
解決したい教育問題(学習課題)を設定する
ゴールを定義する
タスクを定義する
ルールを設定する
参加したくなる要素を組み込む
困っていること、改善したい問題を思いつくだけ書き出し(「誰が」どういう状態か具体的に)、その中から1つ選ぶ
上記で選んだ問題について、望ましい状態を具体的に書く
対象がゴールに至るためにすべきことを行動レベルで具体的に書く
ゴールに至るまでに対象が守るルールや前提、すべきでないことは?
対象がゴールに向かう状況下で知りたいこと、どういうフィードバックを行うか具体的に書く
ゲーミフィケーションのデザイン原則(1)
• ゲームデザイン=「意味ある活動(Meaningful Play)」を創り出す
• 「わざわざ乗り越える必要のない障壁」に挑戦したくなる環境・制度をつくる
–コンテスト
–イベント
–クエスト
362016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
ゲーミフィケーションのデザイン原則(2)
• 生産性/満足感/達成感を感じるフィードバックを提供する
–アクションに対する結果のフィードバック
–ポイント、レベル、バッジ、リーダーボード
–アクションする、失敗する楽しさ、心地よさ
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ゲーミフィケーションのデザイン原則(3)
• 壮大な世界観を提示する
–将来像や学びたくなるストーリー
–「より大きな世界」とのつながり
382016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
ゲーミフィケーションのデザイン原則(4)
• 「ゲームとして」楽しむ機会を提供する
–「マジックサークル」の形成
–安全に失敗できる環境
–「ゲームだからあえてやってみる」場の提供
392016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
まとめ
• ゲームの特長や多様な要素への理解を深めることが不可欠
–ゲームは本質的にインタラクティブ
–(もっと遊びましょう)
• 教室レベル・組織レベル・社会レベルのゲーム導入がある
• 学校的なデザインとゲームデザインには考え方の違いがある
• ゲームとしてデザインすることで教育の場は大いに改善できる余地はある
402016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto
さらに学びたい方への参考文献
2016/3/18 41(c) 2016 Toru Fujimoto
近刊「入門企業内ゲーム研修」
• 電子書籍(Amazon Kindle版)で発売
内容:
• ゲーム研修の効果測定
• 効果測定の考え方
• ゲームの強み
• 振り返りを促すファシリテーション
• 研修企画を通す教育学:導入のための説得ツール
• 「ゲームと学び」についての3つの誤解
• ビジネスゲームってどんなものなの?
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 42
ありがとうございました
Contact:藤本 徹 Toru Fujimoto東京大学 大学総合教育研究センター
[email protected] ID: tfujimthttp://anotherway.jp
2016/3/18 (c) 2016 Toru Fujimoto 43