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H-R図による
M39星団の距離と年齢の推定
明星大学理工学部総合理工学科天文学研究室
12s1-050 富沢優輔
12s1-059 新谷 望
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要旨
M39星団について、地球から星団までの距離を求めるとともに、年齢の推定を行った。
方法として、明星大学の天体望遠鏡(リッチークレチアン式反射望遠鏡)と冷却 CCDカメ
ラを使用し、星団を撮影して、画像の解析を行った。画像より得られたデータをもとに、
H-R図を作成した。H-R図によって、距離と年齢を計算した結果、距離は 818光年、年齢
は 2.51×108年と推定することができた。
距離については、本学の先輩が先に研究を行っていたので、その研究の問題点も視野に
入れながら、研究を進めた。
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目次
第1章 星団
1.1星団とは
1.2星団の種類
1.2-1球状星団
1.2-2散開星団
1.3 M39とは
第2章 距離の求め方
2.1原理
2.2 H-R図
2.2-1 CM図
2.3 色指数
2.4ポグソンの式
2.4-1標準星
第3章 年齢の求め方
3.1原理
3.2転回点
第4章 観測結果と処理
4.1使用機材
4.1-2ジョンソンフィルター
4.2撮影方法
4.3画像の処理
4.3-1画像合成
4.3-2測光
第5章 処理結果
5.1合成結果
5.1測光結果
第6章 計算結果
6.1 M39 CM図
6.2 M39星団までの距離
6.3 M39星団の年齢
第7章 考察
引用文献
謝辞
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第1章 星団
1.1星団とは
銀河系内またはその近くで,特に数多くの恒星が密集して雲塊状になっているもの。種
類としては球状星団と散開星団がある。
1.2星団の種類
1.2-1球状星団
数十万個から数百万個の恒星の集団。球状星団は銀河の創生から早い時期に誕生したと
考えられていることから、球状星団は老いた星々の大集団ということができる。地球が所
属する天の川銀河の中にも、球状星団は多数存在する。球状星団は銀河を包み込むように
存在することから、地球から眺めると、全天のいたるところに天の川銀河系内の球状星団
を見ることができる。(図1参照)
1.2-2散開星団
数十個から数百個の恒星が集まった天体。球状星団にくらべると星の数はずっと少なく、
集まり方もゆるやかである。暗黒星雲の中で星が生まれるときに同時に誕生した若い星々
の集まり。散開星団は銀河の円盤部分に多く存在する。天の川銀河の中にも散開星団はた
くさんあり、地球から眺めると、天の川に沿うような位置に見ることができる。(図2参照)
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図1 球状星団(M15) 引用文献 1より引用
図2 散開星団(M45) 引用文献 1より引用
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1.3 M39とは
M39
種別 散開星団
星座 はくちょう座
距離 825 光年
推定年齢 2.3~3.0×𝟏𝟎𝟖年
赤経 21h 32.2m
赤緯 +48°26'
視等級 4.6
視直径 32
図3 M39 引用文献 2より引用
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第 2章 距離の求め方
2.1原理
恒星までの距離は、見かけの等級と絶対等級の関係より求めることができる。
m:天体の見かけの等級
…観測した時に観測点で見える明るさ
肉眼で見て、もっとも明るい恒星の一群を1等星(1等級の明るさの星)とし、
肉眼でやっと見える明るさの恒星を6等星とし、その間の恒星を2等~5等と定め
た。見かけの等級は実視等級ということもある。
M:天体の絶対等級
…太陽から一定の距離(10pc=32.6光年)に天体を置いた時の明るさ
r:天体までの距離(pc)
これを用いて、
m-M=5log(r/10)
と、表すことができる。
上記の式を r=の式に直すと、
r=10^((m-M+5)/5) …(1.1)
となる。
今回は、
m:M39の星の見かけの等級
M:太陽近傍の星の絶対等級
として、計算を行う。
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2.2 H-R図
H-R図とは、Heltzsprung-Russell(ヘルツシュプルング・ラッセル)図の略。
星の絶対等級を縦軸に、スペクトル型を横軸にとって表している図のこと。(図4参照)
図4 H-R図 引用文献 3より引用
・絶対等級:太陽から一定の距離(10pc=32.6光年)に天体を置いた時の明るさ
・スペクトル型:星の表面温度
星の明るさは距離によって変わる(遠い星は暗く、近い星は明るく見える)ので、 H-R
図の縦軸は、星を同一距離においたと仮定した場合の等級(絶対等級)で書くことが原則であ
る。よって、等級に差が出た場合、それは距離によって明るさが異なって見えているとい
うことになる。その等級差、今回は m-M(m:M39 星団の見かけの等級、M:太陽近傍の星
の絶対等級)を利用することで、距離を導くことができる。
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2.2-1 CM図
CM図とは、Color-Magnitude(カラー・マグニチュード)図の略。星団の星一つ一つに
ついて、スペクトルをとり H-R図を描くのは容易ではない。そこで、横軸の値としてスペ
クトル型の代わりに色指数、縦軸に絶対等級を表した CM図を用いる。(図5参照)
図5 CM図 引用文献 4より引用
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2.3 色指数
色指数とは、天文学で天体の色を表す指標である。恒星の場合、その星の表面温度の目
安ともなる。色指数は天体の等級を 2 種類の異なる色のフィルターを用いて測定し、その
等級の差をとることによって得られる。
そのフィルターには、冷却CCDカメラに内蔵されている特定の波長域の光のみを透過
するバンドパスフィルターを用いる。
フィルターの種類には、
・U バンドフィルター:紫外域の光を透過
・B バンドフィルター:青色を透過
・V バンドフィルター:緑色~黄色の波長域
などがある。
この U,B,V 3色の波長域を用いる測光方法を UBV測光系と呼び、
・U-B 色指数:U バンドと B バンドの等級差
・B-V 色指数:B バンドと V バンドの等級差
などと呼ぶ。
今回の観測では、B バンドフィルターと V バンドフィルターを使用し、B-V 色指数を用
いた。
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2.4ポグソンの式
明るさの比から等級の差を求める式。
m-n=2.5log(Im/In) ...(1.2)
m:目標星団の等級
Im:目標星団内の恒星のカウント数
In:標準星のカウント数
n:標準星の等級
ポグソンの式より、各フィルターのM39の見かけの等級を求めることができる。
2.4-1標準星
星の等級や色指数を決定するための標準となる星である。標準星の等級は Aladinに示さ
れている数値を用いた。
以下は、今回使用した標準星である。基準として、明るさが一定で、M39を撮影すると
きに同じ画角に入るものを選んだ。
名前 HD 166979
座標 21h31m23s +48°21’26’’
B 等級 7.89
V 等級 7.85
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第 3章 年齢の求め方
3.1原理
H-R 図の主系列の左上端の点を「転回点」と呼ぶ。転回点の色指数から、転回点の星の
質量を推定する。推定された質量から、以下の理科年表を用いて星の年齢を推定すること
ができる。
また、理科年表の値を対数のグラフにすることで、具体的な値を出すことができる。
3.2転回点
転回点とは主系列の左上端の点である。古い星団ほど転回点が右下にある。転回点にあ
る星は、今まさに中心で水素を消費しつくして赤色巨星に進化し始めている。
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第4章 観測結果と処理
4.1 使用機材
図6 明星大学天体望遠鏡
(リッチークレチアン式反射望遠鏡)
図7 冷却CCDカメラ
(BITRAN BN-82L)
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4.1-2 ジョンソンフィルター
CCDカメラで天体の波長域の光を透過させるフィルター。フィルターを使うと天体の光
度が測定できる。今回の観測では、Bフィルター青色光(350~550nm)と Vフィルター緑
色光(480~650nm)を使用した。
図8 ジョンソンフィルターの波長図 引用文献 5より引用
4.2 撮影方法
観測日時:2015/10/19 19:00~23:00
ライトフレーム
撮影枚数:Bフィルター 20枚
Vフィルター 20枚
<露出時間 30秒>
ダークフレーム
撮影枚数:Bフィルター 10枚
Vフィルター 10枚
<露出時間 30秒>
フラットフレーム(古市拓真君データ共用 観測日:2015/11/21)
撮影枚数:Bフィルター 10枚
Vフィルター 10枚
<露出時間 0.2秒>
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4.3 画像の処理
4.3-1 画像合成
天体画像処理ソフトウェア:ステライメージを使用し、撮影した画像を合成する。
・ライトフレーム
レンズのキャップを開けて撮影した画像のことで、天体情報以外にバイアス情報(かた
より)や、ダークノイズ情報が含まれている。(図9,図10参照)
図9 Bフィルター画像
図10 Vフィルター画像
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・ダーク補正
レンズにキャップをして光が入らないようにし、ライトフレームと同じ露出時間で撮影
した画像のことで、案電流によるノイズとバイアス情報が含まれている。その情報を利用
し、ノイズを除去する。(図11参照)
図11 ダークフレーム
・フラット補正
薄明の空を撮影すると、周辺減光やゴミの影が写る。同様に、天体画像にも周辺減光や
ゴミは写っているので、フラットフレームを利用し、その周辺減光やゴミの影を消す。(図
12参照)
図12 フラットフレーム
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4.3-2 測光
天体教育画像解析ソフト:マカリを用いて測光する。
天体の明るさを数値として見ることができる。(図13参照)この数値をカウント値とい
い、これをエクセル上に出力する。(図14参照)このデータをもとに等級を調べることが
できる。
図13 測光画面
図14 エクセルに出力したカウント値
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第5章 処理結果
5.1 合成結果
図15 合成後 Bフィルター画像
図16 合成後 Vフィルター画像
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5.2 測光結果
測光恒星数:25個
図17 測光した恒星
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測光したカウント値
B のカウント値 V のカウント値
1 2788305 1 2817685
2 536301 2 653968
3 1011936 3 1087341
4 1256341 4 1365507
5 4280509 5 4227090
6 6501115 6 6020121
7 512857 7 558528
8 860545 8 953638
9 703843 9 1159059
10 3401443 10 3462011
11 3362777 11 3284055
12 677118 12 719189
13 699429 13 816497
14 2367360 14 2334597
15 259213 15 339016
16 403869 16 472348
17 117795 17 187424
18 2219973 18 2309287
19 5355153 19 4947636
20 1782768 20 1881835
21 341365 21 442896
22 164658 22 269271
23 630460 23 782265
24 770814 24 1368021
25 330212 25 412956
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第6章 計算結果
6.1 M39 CM図
図18 M39 CM図
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6.2 M39星団までの距離
m:M39星団の見かけの等級 7.5等級
M:太陽近傍の星の絶対等級 0.5等級
と置いたとき、m-M=7等級
M39までの距離は、
(1.1)式より r=10^((7.5-0.5+5)/5
r=251pc
=(818光年)
6.3 M39星団の年齢
転回点の色指数を-0.05と取ると、
理科年表よりその質量は、3.597太陽質量。
3.597太陽質量の主系列星の寿命は、2.51×108年
M39までの距離は、
251pc
818光年
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第7章 考察
文献 計算結果
距離 825 光年 818 光年
年齢 2.3~3.0×108年 2.51×108年
正確な値を得ることができた。
本学の過去の卒業論文(M38:生田目氏卒論/2012、M34,M38:大枝氏&阿久津氏卒論/2013)
でも、H-R図による距離の推定を行っていたが、正確な値を出すことは出来ていなかった。
しかし、今回こうして正確な値を出すことができたのは、今年度から導入されたCCDカ
メラの性能が、以前のカメラに比べて向上したと考えられる。
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引用文献
1. 理科年表オフィシャルサイト https://www.rikanenpyo.jp/
2. http://www.ne.jp/asahi/stellar/scenes/object/m39.html
3. http://www45.atwiki.jp/a0061882/pages/22.html
4. http://paofits.nao.ac.jp/Materials/CMD/text/TeachersGuide_HRdiagram.pdf
5. http://www.sbig-japan.com/UBVRI/ubvri_m.html
6. メシエ天体ガイド http://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/index-j.shtml
7. 現代物理学の基礎「宇宙物理学」
8. http://fornax8.web.fc2.com/messier/m039.html
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謝辞 今回の研究活動・論文作成にあたり、先生方や先輩方には沢山のアドバイスを頂き、最
後までご指導頂き誠にありがとうございます。研究室内では温かい目で見守って頂きあり
がとうございます。あっという間の短い期間でしたが大変お世話になりました。心から感
謝申し上げます。ありがとうございました。