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Bloomberg 事業法人向け M&Aセミナー クロスボーダーM&A取引における 情報収拾、留意点、資本コスト 早稲田大学大学院 ファイナンス研究科 鈴木一功 1 (c) Kazunori Suzuki, 2015 無断転載を禁じます 2015421

M&Aセミナー クロスボーダーM&A取引における 情 …数年は件数ベースで、5割増。 2. 金額ベースは、大型ディールの存在によって影 響されるものの、2011年以降5兆円超が続く。

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Bloomberg 事業法人向け M&Aセミナー

クロスボーダーM&A取引における 情報収拾、留意点、資本コスト

早稲田大学大学院 ファイナンス研究科

鈴木一功

1 (c) Kazunori Suzuki, 2015 無断転載を禁じます

2015年4月21日

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クロスボーダーM&A(IN-OUT)の増加

2 (c) Kazunori Suzuki, 2015

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000 20

00

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

取引

件数

M&A件数の推移(出典:レコフ)

IN-IN IN-OUT OUT-IN

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クロスボーダーM&A(IN-OUT)の増加

3 (c) Kazunori Suzuki, 2015

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

十億

M&A公表金額の推移(出典:レコフ)

IN-IN IN-OUT OUT-IN

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クロスボーダーM&A(IN-OUT)の増加

1. 件数ベースでは、2011年以降年間500件前後、それ以前は平均して300件前後だったので、ここ数年は件数ベースで、5割増。

2. 金額ベースは、大型ディールの存在によって影響されるものの、2011年以降5兆円超が続く。

3. ここ数年の1件あたりの平均金額は、100億円程度でほぼ横ばい推移。

4 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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海外市場のマクロ的評価

1. 当該国経済実態の把握 *成長率とインフレ率、当該国における事業環境 => 事業予測の作成時に考慮すべき *金融環境の把握 国債(リスクフリー金利)・社債利回り => インフレ率と名目金利には正の相関 株式市場(主要株価指数)の状況

2. 会計・税制の問題 会計基準はIFRS準拠か 監査制度は信頼できるか 税制、海外資本企業への特例等

5 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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海外市場のマクロ的評価: インフレ率、経済成長率

6 (c) Kazunori Suzuki, 2015

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

-2% 0% 2% 4% 6% 8%

CPI

GDP YtY 成長率

CPI vs. GDP (2014/04)

インド

インドネシア

マレーシア

中国

ブラジル

ロシア

日本

米国英国ドイツ

出典:Bloomberg「ECST」頁より筆者作成

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海外市場のマクロ的評価: 国債・社債利回り

7 (c) Kazunori Suzuki, 2015

(出典:ブルームバーグ端末より)

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海外市場のマクロ的評価: 国債・社債利回り

8 (c) Kazunori Suzuki, 2015 (出典:ブルームバーグ端末より)

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海外市場のマクロ的評価: 主要株式指数

9 (c) Kazunori Suzuki, 2015

(出典:ブルームバーグ端末より)

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海外市場のマクロ的評価: 主要株式指数(香港ハンセン指数)

10 (c) Kazunori Suzuki, 2015 (出典:ブルームバーグ端末より)

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海外市場のマクロ的評価: 主要株式指数(香港ハンセン指数)

11 (c) Kazunori Suzuki, 2015 (出典:ブルームバーグ端末より)

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海外市場のマクロ的評価: 主要株式指数(香港ハンセン指数)

12 (c) Kazunori Suzuki, 2015 (出典:ブルームバーグ端末より)

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海外個別企業の情報収集

個別企業のデータ収拾 1. 各国の主力上場企業は、株式指数の構成銘柄

から検索可能 2. 関心のある業種の日本の代表的上場企業から、

同業検索することも可能 3. 関心のある業界に属する当該国上場企業の情

報収集: 業績推移、株価・マルチプル、業界状況、競合他社、M&A関連取引情報等

13 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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海外個別企業の価値評価:課題

1. 予測財務諸表の表示通貨 米ドル建 or 現地通貨建 => 資本コスト推定モデルの選択と関係 *インフレ率と見かけ上の業績伸率 インフレのある国では、見かけ上現地通貨ベースでの 売上や利益がインフレにリンクして(数値上は)増加 *経済成長率と企業成長率 名目経済成長率(=実質成長率+インフレ率)の長期 予測値は、長期的には個別企業の名目長期成長率の 上限を規定する場合が多い

14 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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海外個別企業の価値評価:課題

2. マルチプル(市場株価参照)か、DCF法か => どちらか片方だけである必要はない *マルチプル(主にEV/EBITDA倍率) 交渉時の目線合わせや初期分析に有効 同業の上場企業が当該国に存在しない場合は? => 周辺の類似の経済構造を持つ国に対象拡大 *DCF法(中期の予測財務諸表に基づく) 投資と投資収益率のバランスの確認に有効 中期予測作成時には、インフレの影響に注意 買収後の業績評価の基礎として利用可

15 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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海外個別企業の価値評価:課題

16 (c) Kazunori Suzuki, 2015

マルチプル:比較企業の参照(「RV」頁等)

(出典:ブルームバーグ端末より)

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海外企業の資本コスト:課題

1. 米ドル建て(グローバルCAPM等) vs. 現地通貨建て(ローカルCAPM) <=現地資本市場や、当該企業のグローバル度

2. リスク・フリー金利とカントリー・リスク・プレミアム 3. マーケット・リスクプレミアム(MRP)の推定

Dimson, Marsh, Staunton: CS Research Fernandez: IESE Business School

4. ベータの推定

17 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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海外企業の資本コスト:手法

1. ローカル・マーケットCAPM 2. グローバルCAPM 3. 国債イールド・スプレッドモデル 【注意】 自社の日本における資本コストや調達コストを用いて、他国企業の業績や価値を評価するのは、理論的に誤り。仮に、世界中の子会社の資金調達を、日本国内で一括して行っているとしても、上記の何れかのモデル(もしくはより高度なモデル)による資本コストを用いるべき。

18 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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ローカルマーケットCAPM

評価対象国通貨建て リスクフリー金利:対象国国債長期金利 マーケットPF:対象国株価指数 MRP:対象国ヒストリカル or インプライド ベータ:対象国株価指数対比

19 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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ローカルマーケットCAPM

【問題点】 国債流通利回りは信頼できるか

流動性、国債自体のリスク 対象国株価指数は、「十分に分散された

PF」といえるのか 株式市場の歴史が短い場合のヒストリカ

ルMRPの信頼性 非上場企業の場合のベータ推定に、「類

似業種上場企業」がない場合が多い 20 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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グローバルCAPM

米ドル建て リスクフリー金利:米国債長期金利 マーケットPF: MSCI World Index MRP:

MSCIヒストリカル+S&P 500ヒストリカル => 5.4~6.1% もしくは、 Dimson et al. “Globally Diversified PF” => 3.2%

ベータ:MSCI World Index 対比 21 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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グローバルCAPM

【問題点】 予測財務諸表は米ドル換算が必要

=> インフレ率の差をどのように換算レートに反映させるか

ベータの推定(回帰分析)は、現地通貨の株価を米ドルに換算した収益率で行う

外国企業のベータは低く推定される傾向がある(Harvey (2005))

22 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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国債イールド・スプレッドモデル

米ドル建て リスクフリー金利:

評価対象国発行米ドル建国債利回り リスクフリー金利部分に、カントリーリスク

プレミアムを加味したモデル マーケットPF: MSCI World Index MRP:グローバルCAPMと同じ ベータ:MSCI World Index 対比

23 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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国債イールド・スプレッドモデル

【問題点】 CAPMのリスクフリー金利部分に、一律の

当該国カントリー・リスク・プレミアムを加味 => 個別企業の当該国のリスクへのエクスポー ジャーの多寡が反映されず

当該国が米ドル建国債を不発行、かつ、CDS相場がない場合、カントリー・リスク・プレミアム推定不能

米ドル建てであることによる問題点は、グローバルCAPMに準ずる

24 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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実例:タタ・モーター(インド) 会社概要 (「DES」画面)

25 (c) Kazunori Suzuki, 2015 (出典:ブルームバーグ端末より)

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実例:タタ・モーター(インド) ローカルCAPM 【インド国債利回り】 (2015/4) 7.80%(10Y)

26 (c) Kazunori Suzuki, 2015 (出典:ブルームバーグ端末より)

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実例:タタ・モーター(インド) ローカルCAPM 【タタのベータ】 (2015/3/末):1.466(週次5年)

27 (c) Kazunori Suzuki, 2015

y = 1.4657x + 0.0032

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

-8% -6% -4% -2% 0% 2% 4% 6% 8%

TTMT_BETA_SENSEX

出典:Bloombergの株価データを基に筆者作成

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実例:タタ・モーター(インド) ローカルCAPM 【インドのMRP】

Dimson 他:データなし Fernandez (2014): 8.0%(平均、中央値とも)

【推定資本コスト】

28 (c) Kazunori Suzuki, 2015

%53.19

%8466.1%8.7TATA,

=

×+=Er

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実例:タタ・モーター(インド) グローバルCAPM 【米国債利回り】 (2015/4) 1.87%(10Y) 【タタのベータ】 (2015/3/末):1.43(週次5年)

29 (c) Kazunori Suzuki, 2015

y = 1.43x + 0.0028

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

-10% -8% -6% -4% -2% 0% 2% 4% 6% 8% 10%

TTMT_BETA_MSCI_WORLD

出典:Bloombergの株価データを基に筆者作成

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実例:タタ・モーター(インド) グローバルCAPM 【MRP】

MSCIヒストリカル:5.4% Fernandez (2014): 5.4%

【推定資本コスト】

*インド国債のCDS (10Y): 209bp (2015/4)

30 (c) Kazunori Suzuki, 2015

%59.9

%4.543.1%87.1TATA,

=

×+=Er

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実例:タタ・モーター(インド)

【ローカルCAPM vs.グローバルCAPM】(2015/4) ローカルCAPM: 19.53% グローバルCAPM: 9.59% 国債イールドスプレッドモデル: 11.68%

【両国の実績インフレ率】 (2015/4) 米国:0.0% インド:5.2% 差は、5.2%

31 (c) Kazunori Suzuki, 2015

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実例:タタ・モーター(インド) 【参考】 インドSENSEX指数の構成銘柄は、30社

金融機関の比率が比較的高い

32 (c) Kazunori Suzuki, 2015 (出典:ブルームバーグ端末より)