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「材料」 ( Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol. 60, No. 5, pp. 432-438, May 2011 論  文 1 緒     言 熱硬化性樹脂および熱硬化性樹脂基複合材料の成形過 程においては,硬化進展に従って硬化収縮が生じる.特 に,大型の一体成型品や金属インサートを持つ成形品に おいては,硬化収縮ひずみは熱ひずみと同様に各種成型 品に残留応力を生じさせ,成形終了時の最終的な残留応 力に影響を与える.また,成形時に発生する残留応力は 成形品の強度を大きく低下させることが知られている. 1) よって,成形終了時の残留ひずみの把握は,品質保証の 観点からも大きな意義がある.このような評価において は材料に埋め込み可能なひずみセンサが必要となる.そ こで現在,光ファイバセンサを用いた樹脂の新しい硬化 モニタリング技術が注目されている.光ファイバセンサ は細径(直径 0.04 0.125mm)で熱にも強いため,樹 脂に直接埋め込んでのモニタリングが可能である.また, 硬化後もヘルスモニタリングに使用できるなど,これま でのモニタリング手法よりも優れた点が多い. 成形過程における樹脂材料または樹脂基複合材料のひ ずみの測定については,各種の光ファイバひずみセンサ を用いた手法が報告されている.Murukeshan らは, CFRP または GFRP FBG (Fiber Bragg Grating) センサ を埋め込んで成形中のひずみを測定し,ガラス化の開始 と冷却による熱残留ひずみが測定できることを示した. 2) 者らは組み物 CFRP に埋め込まれた EFPI (Extrinsic Fabry-Perot Interferometer) センサと FBG センサを用 いて成形中のひずみを測定し,どちらのセンサによって も硬化完了後の冷却中における熱収縮ひずみの履歴を同 等に測定することができることを示した. 3) Takeda らは, 分布型 PPP-BOTDA (Pulse-PrePump Brillouin Optical Time Domain Analysis) システムと多点型 FBG センサ を用いることにより,VaRTM 成形法にて一体成型され CFRP スティフナ付きパネル,つまり大型複雑形状の 成型品について成形時のひずみ分布計測が可能であるこ とを示した. 4) Montanini らは,ひずみと温度の同時測定が 可能な FBG センサを用いて GFRP の硬化過程およびポス トキュア過程においてモニタリングを行い,硬化収縮ひず みと熱残留ひずみが測定できることを示した. 5), 6) Eum は,長ゲージ FBG センサと分布型 OFDR (Optical Frequency Domain Reflectometry) システムを用いて FRP VaRTM 成形中のひずみ測定を行い,収縮ひずみ の分布を 1mm の分解能で測定できることを示した. 7) れらの研究では,光ファイバセンサが樹脂の硬化収縮に よる影響を捉えているものがあるものの,定量的には加 熱硬化過程において生じる熱収縮ひずみの測定について 注目しており,硬化収縮によってセンサに生じるひずみ について定量的に議論された例は見られない.これは, 硬化過程において樹脂の特性が大きく変化するために, 光ファイバセンサによって測定される硬化収縮時のひず 光ファイバひずみセンサによる樹脂の硬化収縮ひずみ測定 高 坂 達 郎 逢 坂 勝 彦 ** 澤 田 吉 裕 ** Measurement of Cure Shrinkage Strain of Resin by Optical Fiber Strain Sensors by Tatsuro KOSAKA , Katsuhiko OSAKA ** and Yoshihiro SAWADA ** Strain monitoring of resin during cure process is an effective method to manufacture high-quality FRP products because it is known that residual stress generated during molding decreases strength of final products. Although both cure and thermal shrinkage occur during cure process, it is difficult to measure cure shrinkage of FRP products due to dramatic changes in mechanical properties of resin by cure reaction. Among cure monitoring methods, it is proven that fiber optic embedded strain sensors can measure cure shrinkage of resin. However, quantitative evaluation of cure shrinkage strain measured by optical fiber strain sensors has not been conducted. In the present paper, we monitored curing shrinkage of epoxy resin by an embedded EFPI sensor. Mechanical and thermochemical properties of the resin during cure process were experimentally obtained by several methods. Volume shrinkage of resin during cure process was also measured by a dilatometer. In this paper, a viscoelastic model during cure process was driven and the model was used for FEM analysis of cure shrinkage strain generated in the embedded EFPI sensor. From the results, it appeared that the calculated cure shrinkage strain of the EFPI sensors agreed well with the measured strain especially when the degree of cure was high. Therefore, it was concluded that an embedded EFPI sensor can measure cure shrinkage strain quantitatively. Key words : Polymer material, Polymer-matrix composites, Cure monitoring, Cure shrinkage strain, Fiber optic sensors, EFPI sensors, FEM analysis 原稿受理 平成 22 9 14 日 Received Sep. 14, 2010 ©2011 The Society of Materials Science, Japan 正 会 員 高知工科大学システム工学群 〒782-8502 香美市土佐山田町宮ノ口,Kochi Univ. of Tech., Tosayamada-cho, Kami, 782-8502 ** 正 会 員 大阪市立大学大学院工学研究科 〒558-8585 大阪市住吉区杉本,Graduate School of Eng., Osaka City Univ., Sumiyoshi-ku, Osaka, 558-8585

Measurement of Cure Shrinkage Strain of Resin by Optical

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「材料」 (Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol. 60, No. 5, pp. 432-438, May 2011論  文

1 緒     言

熱硬化性樹脂および熱硬化性樹脂基複合材料の成形過程においては,硬化進展に従って硬化収縮が生じる.特に,大型の一体成型品や金属インサートを持つ成形品においては,硬化収縮ひずみは熱ひずみと同様に各種成型品に残留応力を生じさせ,成形終了時の最終的な残留応力に影響を与える.また,成形時に発生する残留応力は成形品の強度を大きく低下させることが知られている.1)

よって,成形終了時の残留ひずみの把握は,品質保証の観点からも大きな意義がある.このような評価においては材料に埋め込み可能なひずみセンサが必要となる.そこで現在,光ファイバセンサを用いた樹脂の新しい硬化モニタリング技術が注目されている.光ファイバセンサは細径(直径 0.04~ 0.125mm)で熱にも強いため,樹脂に直接埋め込んでのモニタリングが可能である.また,硬化後もヘルスモニタリングに使用できるなど,これまでのモニタリング手法よりも優れた点が多い.成形過程における樹脂材料または樹脂基複合材料のひ

ずみの測定については,各種の光ファイバひずみセンサを用いた手法が報告されている.Murukeshan らは,CFRPまたはGFRPに FBG (Fiber Bragg Grating) センサを埋め込んで成形中のひずみを測定し,ガラス化の開始と冷却による熱残留ひずみが測定できることを示した.2)著者らは組み物 CFRPに埋め込まれた EFPI (Extrinsic

Fabry-Perot Interferometer) センサと FBGセンサを用いて成形中のひずみを測定し,どちらのセンサによっても硬化完了後の冷却中における熱収縮ひずみの履歴を同等に測定することができることを示した.3)Takedaらは,分布型 PPP-BOTDA (Pulse-PrePump Brillouin OpticalTime Domain Analysis) システムと多点型 FBGセンサを用いることにより,VaRTM成形法にて一体成型された CFRPスティフナ付きパネル,つまり大型複雑形状の成型品について成形時のひずみ分布計測が可能であることを示した.4)Montaniniらは,ひずみと温度の同時測定が可能な FBGセンサを用いてGFRPの硬化過程およびポストキュア過程においてモニタリングを行い,硬化収縮ひずみと熱残留ひずみが測定できることを示した.5), 6)Eumらは,長ゲージ FBGセンサと分布型 OFDR (OpticalFrequency Domain Reflectometry) システムを用いてFRPの VaRTM成形中のひずみ測定を行い,収縮ひずみの分布を 1mmの分解能で測定できることを示した.7)これらの研究では,光ファイバセンサが樹脂の硬化収縮による影響を捉えているものがあるものの,定量的には加熱硬化過程において生じる熱収縮ひずみの測定について注目しており,硬化収縮によってセンサに生じるひずみについて定量的に議論された例は見られない.これは,硬化過程において樹脂の特性が大きく変化するために,光ファイバセンサによって測定される硬化収縮時のひず

光ファイバひずみセンサによる樹脂の硬化収縮ひずみ測定†

高 坂 達 郎* 逢 坂 勝 彦** 澤 田 吉 裕**

Measurement of Cure Shrinkage Strain of Resin by Optical Fiber Strain Sensors

by

Tatsuro KOSAKA*, Katsuhiko OSAKA

**and Yoshihiro SAWADA**

Strain monitoring of resin during cure process is an effective method to manufacture high-quality FRP productsbecause it is known that residual stress generated during molding decreases strength of final products. Although bothcure and thermal shrinkage occur during cure process, it is difficult to measure cure shrinkage of FRP products dueto dramatic changes in mechanical properties of resin by cure reaction. Among cure monitoring methods, it is proventhat fiber optic embedded strain sensors can measure cure shrinkage of resin. However, quantitative evaluation ofcure shrinkage strain measured by optical fiber strain sensors has not been conducted. In the present paper, we monitoredcuring shrinkage of epoxy resin by an embedded EFPI sensor. Mechanical and thermochemical properties of theresin during cure process were experimentally obtained by several methods. Volume shrinkage of resin during cureprocess was also measured by a dilatometer. In this paper, a viscoelastic model during cure process was driven andthe model was used for FEM analysis of cure shrinkage strain generated in the embedded EFPI sensor. From theresults, it appeared that the calculated cure shrinkage strain of the EFPI sensors agreed well with the measuredstrain especially when the degree of cure was high. Therefore, it was concluded that an embedded EFPI sensor canmeasure cure shrinkage strain quantitatively.

Key words : Polymer material, Polymer-matrix composites, Cure monitoring, Cure shrinkage strain, Fiberoptic sensors, EFPI sensors, FEM analysis

† 原稿受理 平成 22年 9月 14日 Received Sep. 14, 2010 ©2011 The Society of Materials Science, Japan* 正 会 員 高知工科大学システム工学群 〒782-8502 香美市土佐山田町宮ノ口,Kochi Univ. of Tech., Tosayamada-cho, Kami, 782-8502** 正 会 員 大阪市立大学大学院工学研究科 〒558-8585 大阪市住吉区杉本,Graduate School of Eng., Osaka City Univ., Sumiyoshi-ku, Osaka, 558-8585

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みを定量的に評価することが困難なためである.そこで,本研究では光ファイバセンサによる硬化収縮

ひずみのより正確な測定法を確立するために,樹脂にEFPI光ファイバセンサを埋め込み,硬化時のひずみモニタリングを行った.さらに,樹脂の硬化中の粘弾性物性を測定し,硬化度計算と粘弾性解析を連成して計算することによって,硬化収縮によって樹脂に埋め込まれた光ファイバに生じるひずみを計算し,センサによって測定されたひずみと解析結果を比較した.

2 EFPI光ファイバセンサによる

樹脂の硬化収縮モニタリング

2・1 EFPIセンサ

EFPIセンサの概形を Fig. 1に示す.EFPIセンサは,入力用および反射用の 2本の光ファイバを長さ dの空隙を挟んで突き合わせ,シリカガラスチューブ内部に接着固定した構造を持つ.光ファイバの接着間距離 lgはゲージ長である.入力用光ファイバから入射した光はまず入出力用ファイバと空気の界面で反射し,一部は透過する.透過した光は空隙中の空気を伝ぱし,反射用ファイバの端面にて反射する.反射用ファイバの逆側の端部は無反射処理が施されているため,反射用ファイバに入射した光は戻ることは無い.よって,センサからは入出力用または反射用の光ファイバと空気の界面で反射した光が戻るため,光路長差 2dの干渉光を得ることができる.よって干渉周期より光路長差の変化 Δdを得ることができ,それをゲージ長さで割ることによってひずみが定義される.本研究で用いた測定システム (FTI-Buss 500,FISOTECHNOLOGIES, Inc.) は白色 LED光源とフィゾー干渉計を用いて干渉周期を求めるシステムであり,8)1μεのひずみ分解能を実現したものである.また本研究では,FISO TECHNOLOGIES, Inc. 製の EFPIセンサ(センシング部直径 230μm,ゲージ長約 1mm,ファイバ径125μm,測定可能範囲−5000~ 5000με)を用いた.シリカガラスチューブの熱膨張係数は 0.5με/Kであり,温度依存性は非常に小さい.

2・2 実験方法

本研究では,樹脂にエポキシ樹脂(主剤:ビスフェノール A型 エピコート 801N,硬化剤:変性脂肪族ポリアミン エピキュア 3080,配合比 100:45,ジャパンエポキシレジン)を用いた.常温で測定された樹脂の物性を,計算で用いたガラス光ファイバの物性とともに

Table 1に示す.完全硬化させた樹脂のガラス転移温度は 52℃であった.樹脂の硬化に用いた容器とセンサの配置を Fig. 2に示す.型による拘束の影響を抑えるため,容器は厚み 3mmの柔らかいシリコンゴム製とした.容器の内サイズは 15 ×15 × 10mmである.また,樹脂の中心部は硬化反応による発熱が散逸しにくく,温度のオーバーシュートが起こる.そのため,各センサは温度管理の容易な液面下ぎりぎりの場所(~ 2mm以内)に水平方向から挿入した.温度の管理・記録に用いる熱電対も同じ場所に垂直方向から設置した.温度制御は測定した熱電対のデータより物温制御で行い,30分で常温 (25℃) より 100℃まで加熱し,その温度で保持した.そして,210分間データ取得を行った.

2・3 実験結果

Fig. 3に測定されたひずみと硬化時間の関係を温度とともに示す.図には行われた 2回の実験結果が示されている.図より,ひずみ出力は二度の実験でほとんど変わらず,本試験の再現性が高いことが分かる.硬化開始から 30分後に温度は 100℃に達しているが,それまでは温度増加に比例した正のひずみが見られる.その値は 25℃から 100℃までで約 45μεであり,センサの温度依存性にほぼ等しく,樹脂のひずみを反映したものではないことが明らかである.すなわち,樹脂の硬化が十分に進んでいない場合は,樹脂の体積変化は EFPIセンサのひずみ値に影響を与えない.硬化開始から 35分後にひずみが減少を開始し,それ以後は 100℃の定温区間において緩やかに減少することが分かる.温度が一定であるため,

†光ファイバひずみセンサによる樹脂の硬化収縮ひずみ測定† 433

Fig. 1 Structure of EFPI sensor. Fig. 2 Experimental set-up for measuring curing strain.

Table 1 Mechanical constants of resin and optical fiber.

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この区間におけるひずみが樹脂の硬化収縮の影響を受けていることは明らかである.以上より,樹脂に埋め込まれた EFPIセンサによって,

硬化収縮に伴いセンサに生じるひずみの測定が再現性よく行うことができることが明らかとなった.しかしながら樹脂の物性が硬化進展に伴い大きく変化するため,測定されたひずみは樹脂の硬化収縮をそのまま表すものではない.

3 硬化中の樹脂物性の測定

前節で示したように,EFPIセンサで取得されるひずみは硬化進展に伴い大きく変化する樹脂物性の影響を受ける.そこで本研究では,硬化中の樹脂物性を取得して硬化による樹脂物性変化の影響を考慮することを試みた.

3・1 DSCによる硬化度測定

本研究では,用いたエポキシ樹脂のDSC測定を行い,熱化学モデルを用いた硬化度曲線 α (t)を求めた.用いた熱化学モデルは以下の式で示される Kamalモデルである.9)

(1)

(2)

ここで,Rは気体定数,E1,E2は活性化エネルギー,m,nは反応次数,A1,A2は係数である.式 (1)を時間積分することにより,任意の温度パターンにおける硬化度を計算することができる.

DSC測定装置 (Pyris 1 DSC, Perkin Elmer, Inc.) を用いて,異なる 4つの昇温速度 (2, 3, 5, 10K/min.) で樹脂を加熱し,熱量を計測した.得られたデータに式 (1)のKamalモデルを当てはめ,Table 2に示す値を得た.10)

Fig. 4に,硬化モニタリングの実験と同じ温度パターン

を与えた場合の樹脂の硬化度曲線を示す.図より,約 20分後から硬化の進展が急激になり,EFPIセンサが収縮ひずみを出力し始める 36分後には硬化度が 0.69に達し,以後は硬化度が緩やかに 1に近づくことが分った.よって,本研究では硬化度が 0.69に達した後の硬化進展の振る舞いに着目する.

3・2 ディラトメータによる硬化収縮測定

樹脂の硬化過程における体積変化を,ディラトメータ(E型ディラトメータセル,㈱柴山科学器械製作所)で測定した.ディラトメータの概略を Fig. 5に示す.ディラトメータは試料の体積変化を 1次元の変化として測定する装置であり,直接測定できる値は樹脂の体積変化のみである.そのため,樹脂を完全等方性材料と仮定することで,一方向の硬化収縮ひずみに換算した.なお,本実験では Fig. 3に示す温度パターン(30分で常温から100℃に昇温させ,その後 200分まで温度を保持)と同じ条件を用いた.Fig. 6に,EFPIが硬化収縮に伴ってひずみの出力を開始する 36分以降における硬化時間と測定ひずみの関係を示す.これより,50分までは急激な硬化収縮を示すが,それ以降は硬化収縮の時間変化は小

*高坂 達郎,逢坂 勝彦,澤田 吉裕*434

Fig. 3 Strain measured by embedded EFPI sensorsduring cure process of epoxy.

Table 2 Material constants of epoxy resin for Kamal model.

Fig. 4 A degree of cure curve of epoxy resin for atemperature pattern used for curing epoxy.

Fig. 5 Experimental set-up for measuring curingshrinkage of resin by a dilatometer.

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さくなり,やがて一定値に達することが分かる.EFPIセンサによって得られた収縮ひずみと比較すると,ディラトメータによって測定された値が非常に大きいことが分る.これより,硬化中の樹脂の特性を考慮しなければ,EFPIセンサで取得されたひずみを定量的に評価することができないことが分る.また,硬化度と硬化収縮ひずみの関係を Fig. 7に示

す.図より,硬化度と硬化収縮ひずみの関係はほぼ線形となることが分かった.これより硬化度とディラトメータより得られた硬化収縮ひずみ εαの関係として以下の実験式を得た.

(3)

3・3 クリープ試験による粘弾性測定

硬化中の粘弾性特性を求めるのは非常に難しく,また硬化の早い段階では十分に緩和してしまうため,本研究では十分に硬化した状態の粘弾性特性を考えるものとし,完全硬化させた試験片について粘弾性特性を求めた.硬化後の樹脂に対し動的粘弾性測定装置 (Dynamic

Mechanical Analyzer, DMA7e, Perkin Elmer, Inc.) を用いて 3点曲げクリープ試験を行った.得られた単軸クリープ試験のコンプライアンスから,せん断コンプライアンスを求め,これを以下のWLF (Williams-Landell-Ferry)式で表される温度シフトファクタ ATでシフトさせることによって,クリープ曲線のマスターカーブを得た.

(4)

ここではTは試験温度,Tgはガラス転移温度であり,C1g,

C2gは定数である.本研究では,高分子の場合に一般に用いられる定数値 C1

g= 17.44,C2

g= 51.6を用いた.

Fig. 5に正規化せん断コンプライアンスと時間の関係のマスターカーブを示す.このマスターカーブを以下のProny級数で近似した.

(5)

ここで nGは級数の項数,JG0は瞬間せん断コンプライアンス,gJi,τJiは Prony級数の係数である.近似した曲線を Fig. 8に示す.図より,マスターカーブが Prony級数でよく近似できていることが分る.次に,式 (4)をラプラス変換して

~JG(s)を求め,次の関係式

(6)

からせん断剛性関数のラプラス変換である~G(s)を求めた.

さらに逆ラプラス変換を行って以下の式を満足するせん断剛性の Prony級数の係数を求めた.

(7)

ここでG0は瞬間せん断弾性率であり,本研究ではTable 1に示された値である.得られた 6次の Prony級数の係数giとガラス転移点を基準とした緩和時間 τ iを Table 3に示す.

3・4 レオメータによる硬化中のせん断剛性測定

本研究では直径 25mmの円形プレートを用い,ギャップ高さを 0.5mm,ひずみを 5000μεとし,ひずみ制御方式で回転式のレオメータ (VAR-50, Reologica Instruments

†光ファイバひずみセンサによる樹脂の硬化収縮ひずみ測定† 435

Fig. 6 Relationships between curing shrinkage and time.

Fig. 7 Relationships between curing shrinkage anddegree of cure.

Table 3 Coefficients of Prony series of epoxy resin.

Fig. 8 Relationships between logarithmic normalizedshear compliance and logarithmic time at varioustemperatures.

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Co., Ltd.) を用いて硬化中の樹脂のせん断剛性を測定した.この条件の下,昇温速度を 2.5K/min(開始 25℃,100℃到達後 100℃で 3時間保持)とし,それぞれ周波数0.1,1,10,100Hzで測定を行った.

Fig. 9に,樹脂のせん断剛性と時間の関係を示す.なお,グラフの縦軸は樹脂のせん断剛性 Gの対数値である.樹脂の剛性は,昇温が終了する開始約 40分後から急激に上昇し,その後硬化反応に従って緩やかに一定値に収束した.本研究では,0.1Hzにて得られたせん断剛性を完全に応力が緩和した値とし,それを硬化完了時の剛性で無次元化した緩和せん断剛性

−G∞を求めた.Fig. 10に

硬化度と−G∞の関係を示す.図より,硬化度と無次元緩

和せん断剛性がほぼ直線の関係となることが分かった.そこで

−G∞を Aα(α)とおいて実験式を求めた.

(8)

本研究では,Aα(α)を剛性の硬化度シフトファクタと呼ぶ.ただし,硬化度が 0.69以下の場合は,樹脂によって光ファイバセンサが拘束されないため,本研究では考慮しないものとする.また,式 (7)より

(9)

となるので,本研究における仮定では緩和せん断剛性と瞬間せん断剛性の硬化度シフトファクタは等しい.よって,硬化度 αにおける樹脂のせん断剛性は

(10)

と書くことができる.4 FEM解析による硬化ひずみの評価

本節では,EFPIセンサで測定したひずみを定量的に議論するために,第 3章で取得した硬化中の樹脂の各種物性と本節で提示する硬化中の樹脂の粘弾性構成方程式を用いて,FEM解析を行った.以下にその詳細を記す.

4・1 硬化中の樹脂の粘弾性構成方程式

一般によく知られた線形等方性粘弾性体の構成方程式は以下のように畳み込み積分の形で表される.

(11)

ここで, は応力テンソル,eは偏差ひずみテンソル,G

はせん断弾性率,Kは体積弾性率,I は単位テンソル,φ

は体積ひずみ,τは温度-時間換算の効果を含んだ換算時間 (Reduced time) である. をグリーンひずみテンソルとするとき,等方熱ひずみ εTと硬化ひずみ εαを含まない機械ひずみテンソル εmは

(12)

となり,

(13)

(14)

と表される.樹脂の硬化過程における物性測定試験より,樹脂物性が硬化度に大きく依存することが明らかになった.そこで本研究では,粘弾性体の特性が樹脂の硬化進展に伴って変化し,硬化度 αの関数となると仮定して式 (11)を拡張した.拡張された硬化度に依存する等方性粘弾性体の構成方程式は以下のようになる.

(15)

上式を偏差応力テンソル S と圧力 pの式にそれぞれ分けると

(16)

(17)

と表される.ただしここで,体積弾性の粘弾性特性は小さく無視できるものとした.樹脂のせん断剛性は式 (10)によって与えられるので,式 (16)から

(18)

が得られる.ここで

(19)

(20)

であり,本論文では ~e を疑似偏差機械ひずみ,~eiを疑似

*高坂 達郎,逢坂 勝彦,澤田 吉裕*436

Fig. 10 Relationships between normalized shearmodulus and degree of cure.

Fig. 9 Relationships between shear modulus andcuring time at various frequencies.

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粘性ひずみと呼ぶ.また,本研究では体積弾性については

(21)

と仮定して取り扱う.ここで K0は完全硬化時の体積弾性率である.よって

(22)

(23)

であり,~φを疑似体積ひずみと呼ぶ.以上の式 (18)~(23)を構成方程式とし,差分化することによって数値計算を行った.

4・2 FEM解析

前節で示した硬化中の粘弾性構成方程式を樹脂に適用して,Fig. 6で示された樹脂の硬化収縮に伴って EFPIセンサに生じるひずみを FEM解析によって求めた.計算は以下の各ステップの順に行った.1) 樹脂の硬化度 αを計算する2) 式 (3)より樹脂の硬化収縮ひずみ増分を求め,式 (12)から機械ひずみ増分を計算する.なお,本研究では温度は一定であるため,熱ひずみは考慮しない.ただし,100℃における換算時間は式 (4)によって求められる.

3) 硬化度から式 (8)を用いて剛性の硬化度シフトファクタ Aαを計算する.

4) 1)で計算された硬化度における応力増分を,3)で得られた Aαと第 3章で得られた粘弾性物性値を用いて,式 (18)~(23)を差分化した粘弾性構成方程式を数値的に解くことによって計算する.本研究では FEM計算を,汎用有限要素法ソフトウェ

ア ABAQUS (ABAQUS, Inc.) を用いて行った.差分化された構成方程式を ABAQUSのユーザー関数として FOR-TRAN 90でプログラミングし,ABAQUSにリンクさせて計算を行った.

Fig. 11に計算に用いた FEMモデルを示す.モデルの軸方向長さは実験で用いた材料のサイズとした.EFPIはファイバのセンサ部の半径が 100μm,ファイバ部が62.5μmであり,センサ部の長さは 8820μm,端部からの先頭位置は 1000μmとした.これらの値は実際のファイバから実測したものである.さらに,EFPIのセンサ部の内部では光ファイバは応力フリーの状態であり,荷重を受け持たないために空洞とした.また,実験では直方体のシリコン容器にファイバが埋め込まれていたが,光ファイバから離れているところは応力分布が一様であることから計算を簡単にするためにファイバを中心とした円筒部を切り取り,軸対称モデルを作成した.用いた拘束条件は対称軸最下点の節点を完全拘束とし,それ以外の面はフリーとした.また,メッシュに用いた要素は主として 8節点二次軸対称要素であり,一部に 6節点二次軸対称要素を使用した.各モデルに用いた材料定数は,Table 1に示したよう

に光ファイバ部にガラスの材料定数を用い,樹脂にはTable 1~ 3で示した粘弾性材料の材料定数を用いた.

4・3 解析結果および考察

FEM解析結果より EFPIのゲージ長に生じたひずみ分布を求め,積分平均値を EFPIのひずみとして求めた.Fig. 12に,計算結果を EFPIによって測定された 2つのデータと共に示す.図より,解析結果は 75分までは実験値よりも大きなひずみ値を示しているものの,75分以降は実験値とほぼ同じ値の圧縮ひずみ増加量を示しており,全体として硬化進展に伴う収縮ひずみの増加傾向は比較的よく表していることがわかる.実験値と解析値の相違は,硬化進展により変化する物性を硬化度の関数として近似する過程での誤差によるものと考えられる.したがって,硬化進展に対する樹脂の物性を,硬化度の関数としてより精密に表すことができれば,解析結果は実験結果をより精度よく表現できるものと思われる.以上の結果より,EFPIセンサは,樹脂の硬化進展に

†光ファイバひずみセンサによる樹脂の硬化収縮ひずみ測定† 437

Fig. 11 An FEM model of epoxy in which an EFPIoptical fiber sensor is embedded.

Fig. 12 Calculated and measured curing shrinkage strain.

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*高坂 達郎,逢坂 勝彦,澤田 吉裕*438

伴う残留応力に影響を及ぼす体積収縮量を,樹脂の物性変化を介して圧縮ひずみとして検出していることを,定量的に示すことができたものと思われる.また,硬化中の樹脂物性のモデルを改良することによって,EFPIセンサの出力から樹脂の硬化収縮ひずみを得ることも可能であると予想される.

5 結     言

本研究では,エポキシ樹脂に EFPI光ファイバセンサを埋め込み,硬化過程におけるひずみ測定を行って,EFPIセンサが樹脂の硬化進展に伴う収縮ひずみを検出できることを明らかにした.そして,EFPIセンサにより測定された圧縮ひずみが,樹脂の硬化収縮ひずみであることを定量的に明らかにするため,有限要素法によるひずみ解析を行った.まず,硬化過程で変化する樹脂の物性を定式化するため,硬化過程における粘性変化をレオメータで測定し,硬化樹脂のクリープ試験を行って得られた粘弾性特性と組み合わせて,温度と硬化度の関数としての粘弾性特性を求めた.そして,ディラトメータにより,樹脂の硬化過程における体積変化を測定し,硬化度と体積変化の関係を求めた.これらの結果を離散化してサブルーチンとしてプログラム化し,汎用の有限要素法プログラムに組み込んで解析を行った.その結果,解析結果は,全体として硬化進展に伴う樹脂の収縮ひずみの増加傾向を比較的よく表すことがわかった.この結果より,EFPIセンサは,樹脂の硬化進展に伴う残留応力に影響を及ぼす体積収縮量を,樹脂の物性変化を介して収縮ひずみとして検出できることを,定量的に示すことができた.

参 考 文 献

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