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22 SOKEIZAI Vol.54 2013No.10 粉末冶金法の一種である MIM の特徴として、原料粉末に種々の金属素 粉末や合金粉末を添加、混合することで、高性能な Ti 合金の創製が期待 できる。本研究では、Ti-6Al-7Nb合金を例に、種々の混合粉末を用いて、 焼結挙動と機械的特性との関連を調べた結果を報告する。 MIMによる各種チタン合金の創製 1.はじめに Ti および Ti 合金は、軽量高強度、高い耐食性、 生体適合性など優れた特徴を有するが、材料コスト に加え、加工コストが高いという欠点を持つ。ゆえ に、小型複雑形状の金属部品を高い寸法精度で量産 できる金属射出成形法(MIM)を適用することで、 Ti および Ti 合金部品の製造コストを大幅に低減で きることが期待される。さらに、粉末冶金法の一種 である MIM のもうひとつの特徴として、原料粉末 に種々の金属素粉末や合金粉末を添加、混合するこ とで、高性能な Ti 合金の創製が期待できる。 現状では、MIM で利用できる Ti 合金粉末として は、溶製材でも多用されている Ti-6Al-4V 合金など に限られている。より高性能な各種 Ti 合金を創製す るためには、Ti 粉末と種々の合金粉末、金属素粉末 を用いた MIM プロセスの開発が必須である。すな わち、MIM による Ti 合金の技術開発にあたっては、 MIM Ti 合金に適用できる各種粉末の選定と、種々 の混合粉末を用いた場合の詳細な焼結挙動と機械的 特性との関連を明らかにすることが重要である。 本研究では、難加工材である Ti 合金を MIM の特 徴を有効に用いて高強度化、低コスト化する手法に ついて検討することを目的とし、生体用合金として 開発された Ti-6Al-7Nb 合金について、種々の混合 粉末を用いて、焼結挙動と機械的特性との関連を調 べた結果を報告 1),2) し、種々の Ti 合金へ応用した例 を紹介する。 本研究で用いた MIM プロセスの概略図を図1 示す。あらかじめ、Ti 粉末と、金属素粉末あるいは 合金粉末を混合することで、種々の合金組成に対応 できる。また、独自組成のバインダ 3) を用い、低温 で溶媒脱脂を行うことで、熱脱脂の時間短縮とバイ ンダ残渣による焼結体の炭素量増加を軽減している。 原料粉末にはガスアトマイズ法より作製されたTi 粉末(大阪チタニウムテクノロジーズ㈱:TILOP-45)、 Al-53.8Nb 合金粉末(大同特殊鋼㈱ :Al-53.8Nb)、ア トマイズ法により作製された粒径の異なる 2 種類の Al 粉末(ミナルコ㈱:Al(At) -350およびAl(At)- 600F)と、Nb粉末(㈱高純度化学研究所:Nb Powder M 45µm pass)を用いた。用いた粉末の化学組成およ び粒径を表1 に、電子顕微鏡写真を写真 1 に示す。 Ti 粉末と Al-53.8Nb 粉末、あるいは Ti 粉末と Nb 粉末、Al 粉末を、Ti-6Al-7Nb 合金の組成となるよう 2.試料および実験方法 伊 藤 芳 典 静岡県工業技術研究所 浜松工業技術支援センター

MIMによる各種チタン合金の創製 - 素形材センターsokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/201310ito.pdfできる。本研究では、Ti-6Al-7Nb合金を例に、種々の混合粉末を用いて、

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  • 22 SOKEIZAI Vol.54(2013)No.10

    粉末冶金法の一種であるMIMの特徴として、原料粉末に種々の金属素粉末や合金粉末を添加、混合することで、高性能なTi 合金の創製が期待できる。本研究では、Ti-6Al-7Nb 合金を例に、種々の混合粉末を用いて、焼結挙動と機械的特性との関連を調べた結果を報告する。

    MIMによる各種チタン合金の創製

    1.はじめに

     Ti および Ti 合金は、軽量高強度、高い耐食性、生体適合性など優れた特徴を有するが、材料コストに加え、加工コストが高いという欠点を持つ。ゆえに、小型複雑形状の金属部品を高い寸法精度で量産できる金属射出成形法(MIM)を適用することで、Ti および Ti 合金部品の製造コストを大幅に低減できることが期待される。さらに、粉末冶金法の一種であるMIMのもうひとつの特徴として、原料粉末に種々の金属素粉末や合金粉末を添加、混合することで、高性能なTi 合金の創製が期待できる。 現状では、MIMで利用できるTi 合金粉末としては、溶製材でも多用されているTi-6Al-4V 合金などに限られている。より高性能な各種Ti 合金を創製す

    るためには、Ti 粉末と種々の合金粉末、金属素粉末を用いたMIMプロセスの開発が必須である。すなわち、MIMによるTi 合金の技術開発にあたっては、MIM Ti 合金に適用できる各種粉末の選定と、種々の混合粉末を用いた場合の詳細な焼結挙動と機械的特性との関連を明らかにすることが重要である。 本研究では、難加工材であるTi 合金をMIMの特徴を有効に用いて高強度化、低コスト化する手法について検討することを目的とし、生体用合金として開発されたTi-6Al-7Nb 合金について、種々の混合粉末を用いて、焼結挙動と機械的特性との関連を調べた結果を報告1),2)し、種々のTi 合金へ応用した例を紹介する。

     本研究で用いたMIMプロセスの概略図を図1に示す。あらかじめ、Ti 粉末と、金属素粉末あるいは合金粉末を混合することで、種々の合金組成に対応できる。また、独自組成のバインダ 3)を用い、低温で溶媒脱脂を行うことで、熱脱脂の時間短縮とバインダ残渣による焼結体の炭素量増加を軽減している。 原料粉末にはガスアトマイズ法より作製されたTi粉末(大阪チタニウムテクノロジーズ㈱:TILOP-45)、

    Al-53.8Nb 合金粉末(大同特殊鋼㈱ :Al-53.8Nb)、アトマイズ法により作製された粒径の異なる 2 種類のAl 粉末(ミナルコ㈱:Al(At)-350 および Al(At)-600F)と、Nb粉末(㈱高純度化学研究所:Nb Powder M 45µm pass)を用いた。用いた粉末の化学組成および粒径を表 1に、電子顕微鏡写真を写真 1に示す。 Ti 粉末とAl-53.8Nb 粉末、あるいはTi 粉末と Nb粉末、Al 粉末を、Ti-6Al-7Nb 合金の組成となるよう

    2.試料および実験方法

         伊 藤 芳 典     静岡県工業技術研究所 浜松工業技術支援センター

  • 23Vol.54(2013)No.10 SOKEIZAI

    特集 最近の金属射出成形(MIM)とその動向

    に秤量した後、内部をAr ガスで置換したポリプロピレン製の円筒容器に封入し、手製のボールミル装置を用いて 3.6ks の回転混合を行った。バインダは30mass% ポリプロピレン、40mass% ポリメチルメタクリレート、29mass% パラフィンワックス、1mass%ステアリン酸の組成のものを用い、混合粉末とバインダを体積比で 65:35 とし、加圧式ニーダ(㈱モリヤマ:D1-5 型)を用いて 443Kにて 8.1ks の加熱混練を行い、十分冷却したのち混練物はウィレー式粉砕機(㈱吉田製作所:1029-B 型)を用いて粉砕、篩分けされて2~8mmの射出成形用コンパウンドを得た。コンパウンドは竪型射出成形機(日精樹脂工業:ST20S2V)を用いてダンベル型引張試験片(長さ 75.0mm、厚さ2.0mm、平行部幅 5.0mm、平行部長さ 30.0mm)に成形された。 得られた試験片は n- ヘキサンを用いて343K ×21.6ks の溶媒抽出処理を行い、バインダの 65~70%を除去した後、真空焼結炉(島津メクテム㈱:PVSGgr20/20)を用いて減圧Ar 雰囲気中での加熱脱脂と真空焼結(10-3~10-2Pa)を連続して行った。焼結後は高真空(10-4~10-3Pa)のまま室温まで炉内で冷却した。焼結条件については、時間を 14.4ksとし、温度を1323Kから1623Kまで50K間隔で 7水準とし、3種類の混合粉末と焼結温度が焼結体の諸特性に及ぼす影響を詳細に調べた。

    図 1 本研究で用いたMIMプロセスの概略図

     焼結体の評価は、密度測定、引張試験、化学分析等により行った。相対密度は、Ti-6Al-7Nb 合金溶製材の密度4)である 4.52Mg/m3 を真密度とし、全自動比重計(㈱東洋精機製作所:DENSHIMETER H)を用いてアルキメデス法により密度を測定し、1水準 5 本の平均を求めた。最大引張強度および伸びは、ビデオ式非接触伸び計測システムを備えた精密万能材料試験機(㈱島津製作所:AG-50kNIS+DVE-201)を用いて、引張試験より 3本の試験片の平均値として求めた。焼結体の酸素量、炭素量は酸素・窒素分析装置(㈱堀場製作所:EMGA-520)、炭素・硫黄分析装置(㈱堀場製作所:EMIA-920V)を用いて、引張試験後の試験片について測定を行い、それぞれ 3回測定してそれらの平均値を採用した。焼結体の結晶粒の大きさや気孔の分布状態、ミクロ組織を確認するため、光学顕微鏡(オリンパス㈱:GX71+DP71)によるミクロ組織観察を行い、各元素の拡散状況を確認するため、電子線マイクロアナライザ(㈱島津製作所:EPAM-1720)による濃度マッピングも行った。

    写真 1 用いた粉末の電子顕微鏡写真

    表 1 使用した粉末の化学成分と粒径

    粉末化学成分(mass%) 粒径

    (µm)O C FeTi 0.14 0.008 0.044 24.4

    Al-53.8Nb 0.064 0.024 0.004 (-45)

    Nb ― ― 0.004 -45

    Fine Al ― ― 0.14 5.4

    Coarse Al ― ― 0.13 (-45)

    !!

    Ti粉末

    金属素粉末合金粉末

    混合粉末

    バインダ

    ペレット化(粉砕、篩い分け)

    混練粉末混合

    射出成形

    溶媒脱脂 熱脱脂 真空焼結

    a) Ti粉末 b) Al-53.8Nb合金粉末

    c) Al微粉末 d) Al粗粉末 e) Nb粉末

    10µm

    10µm 10µm

    10µm

    10µm

         a)Ti粉末       b)Al-53.8Nb合金粉末

      c)Al微粉末     d)Al粗粉末    e)Nb粉末

  • 24 SOKEIZAI Vol.54(2013)No.10

     図 2に相対密度の焼結温度依存性を示す。Al-53.8Nb 合金粉末あるいはAl 微粉末では、焼結温度の上昇とともに密度が向上し、1623K の焼結では相対密度がそれぞれ 98.6%、97.5% に達する高密度の焼結体が得られている。また、Al-53.8Nb 合金粉末では 1323K の焼結でも 95% 程度と、素粉末混合粉と比較して高い相対密度を示した。一方で、Al 粗粉末では、1623K の焼結でも相対密度は 94%程度であった。Al 微粉末では、低い焼結温度域においてAl 粗粉末と同程度の相対密度であったにもかかわらず、1473K 以上の焼結温度では、Al-53.8Nb 合金粉末と比較してわずかに 1.4% 程度低いのみであった。 図 3、図 4に機械的特性の焼結温度依存性を示す。Al-53.8Nb 合金粉末では、1373K 以上では、焼結温度によらずほぼ一定の値となっている。Al 微粉末では、焼結温度の上昇とともに引張強度は向上するが、1473K 以上の高温域では焼結温度によらずほぼ一定の値を示している。Al 粗粉末では、焼結温度の上昇とともに引張強度が向上しているものの、他の混合粉末と比較して低い値となっている。一方、伸びについては、Al53.8Nb 合金粉末では 1373K 以上の焼結温度で、Al 微粉末では、1473K 以上の焼結温度で12%以上の高い伸びを示した。しかしながら、Al 粗粉末の伸びは、それぞれ1423Kで 10%を超える程度、1523K で 9%程度であった。 ところで、Ti 合金焼結体では、その酸素量、炭素量が機械的特性に及ぼす影響も大きいため 5)、焼結体の酸素量および炭素量を調べた結果を図 5、図 6に示す。いずれの混合粉末を用いても、酸素量、炭

    素量とも焼結温度によらずほぼ一定の値であった。いずれにしても、これらの値はきわめて低いレベルにあり、機械的特性に致命的な影響を与えものではないと考えられた。  次に、組織観察を行った結果を写真 2に示す。すべての焼結体において、針状のα+β組織が観察された。焼結温度の上昇とともに針状のα相が伸長増大していることが確認され、1523K以上の焼結では変態前のβ結晶粒(旧β粒)の大きさは100µmを超える粗大なものであったことが示唆される。Al-53.8Nb合金粉末では、1323Kの焼結でも気孔が少なく、焼結温度の上昇とともに気孔が減少している

    3.結果

    図 2 3種類の混合粉末を用いたTi-6Al-7Nb合金焼結体の相対密度に及ぼす焼結温度の影響      

    図 4 3種類の混合粉末を用いたTi-6Al-7Nb合金焼結体の伸びに及ぼす焼結温度の影響        

    85

    90

    95

    100

    1273 1373 1473 1573 1673

    (%)

    (K)

    Ti+Al-53.8NbTi+Nb+AlTi+Nb+Al

    焼結温度

    微粉末

    粗粉末

    相対密度

    0

    5

    10

    15

    1273 1373 1473 1573 1673

    (%)

    (K)

    Ti+Al-53.8NbTi+Nb+AlTi+Nb+Al

    焼結温度

    微粉末

    粗粉末

    伸び

    図 3 3種類の混合粉末を用いたTi-6Al-7Nb合金焼結体の引張強度に及ぼす焼結温度の影響      

    400

    500

    600

    700

    800

    900

    1273 1373 1473 1573 1673

    (MPa)

    (K)

    Ti+Al-53.8NbTi+Nb+AlTi+Nb+Al

    焼結温度

    微粉末

    粗粉末

    引張

    強度

  • 25Vol.54(2013)No.10 SOKEIZAI

    特集 最近の金属射出成形(MIM)とその動向

    ことが分かる。一方、Al粗粉末では、数10µm以上の大きな気孔が数多く観察された。これらの粗大な気孔は焼結の初期段階において粗大なAl粉末の溶融により生成した流出孔と考えられ、焼結温度を上げても粗大な流出孔はほとんど縮小しないため、焼結体の相対密度は向上せず、機械的特性の低下を招いたものと考えられる。Al微粉末を用いた場合、同様に流出孔は生成すると考えられるが、粉末そのものの粒径が小さいことから、生成する流出孔もAl粗粉末と比較して小さかったため、高い焼結温度域では、高密度で良好な機械的特性を有する焼結体が得られたものと考えられる。また、1323Kで焼結されたAl粗粉末においては、マトリクスと異なる微細な針状組織(写真 2中白丸で表示)も確認された。 写真 3、写真 4にAl およびNbの濃度分布を測定した結果を示す。α相安定化元素であるAl は、金属

    図 6 3種類の混合粉末を用いたTi-6Al-7Nb合金焼結体の炭素量に及ぼす焼結温度の影響       

    0.00

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    1273 1373 1473 1573 1673

    (%)

    (K)

    Ti+Al-53.8NbTi+Nb+AlTi+Nb+Al

    焼結温度

    微粉末

    粗粉末

    炭素量

    図 5 3種類の混合粉末を用いたTi-6Al-7Nb合金焼結体の酸素量に及ぼす焼結温度の影響       

    0.10

    0.15

    0.20

    0.25

    0.30

    1273 1373 1473 1573 1673

    )%(

    (K)

    Ti+Al-53.8NbTi+Nb+AlTi+Nb+Al

    焼結温度

    微粉末

    粗粉末

    酸素量

    組織で明るく観察される α相に濃化しており、Al-53.8Nb 合金粉末では 1323K で、他の混合粉末では1373K の焼結で偏析は確認されなくなり、基地中に十分拡散していることがわかる。β 安定化元素であるNbは、金属組織で黒く観察される β 相に濃化しており、Al-53.8Nb 合金粉末では 1323K の焼結でも十分に拡散していることが分かる。一方、粗粉末混合粉では、1373K の焼結ではいずれの混合粉末を用いても、十分に拡散していないことがわかった。また、1323K の焼結で Nb が濃化している部分は、微細な針状組織が確認された部分と一致している。結果的に、素粉末混合粉ではNbを十分に拡散させるためには 1423K以上での焼結が必要であるが、 Al の拡散にはAl 微粉末を用いれば 1323K の焼結で十分であることがわかった。 以上の結果から、Al-53.8Nb 合金粉末あるいは

    写真 2 3種類の混合粉末を用いた Ti-6Al-7Nb合金焼結体の金属組織

    Ti+Nb+

    Al 粗

    粉末 

    1423K

    Ti+Nb+

    Al微

    粉末 

    Ti+

    Al-53.8Nb

    1323K 1623K1523K

    50µm

  • 26 SOKEIZAI Vol.54(2013)No.10

     Ti-6Al-7Nb 合金をMIMで創製するため、Al 基合金粉末あるいは市販されている金属素粉末を用い、Ti 粉末とそれらを混合した混合粉末と焼結条件が、焼結体の金属組織、相対密度、機械的特性など諸特性に及ぼす影響について検討を行った結果、以下の結論を得た。 Al-53.8Nb 合金粉末を用いることで、比較的低温の焼結でも高密度で良好な機械的特性を有するTi-6Al-7Nb 合金焼結体を得ることができた。素粉末混合法でも、微細なAl 粉末を用い、焼結温度を高くすることで、高密度で良好な機械的特性を有するTi-6Al-7Nb 合金焼結体を得ることができた。Al 粗粉末では、粗大なAl 粉末が焼結初期段階で溶融して生成した流出孔が縮小せず残留し、多数の粗大な気孔が金属組織中に観察され、相対密度、機械的特性とも低い値となった。Nb を十分に拡散させるた

    4.混合粉末のまとめ

    めには 1423K 以上の焼結温度が必要であった。 今回用いたAl 基合金粉末は、受注生産であるためTi 粉末と比較して高価となるが、重量比で 13%の添加であるため、ラボレベルでの混合粉末のコストとしては、素粉末混合粉とほとんど差は無く、Ti粉末と比較しても2倍に満たなかった。また、 焼結性、機械的特性も良いことから、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si 合金6)など、Al を含む既存合金に応用できると考えられる。また、高融点金属のNbでは、粉末の粒径が -45µm であったため、十分に拡散させるためには高い焼結温度が必要であったが、Moにおいては、粒径が数 µm程度の微細な粉末を用いることで比較的低温の焼結でも十分に拡散されることが確認できている7),8)。いずれにしても、微細な粉末を混合することで、流出孔の影響を軽減でき、高融点の元素も比較的低温で焼結できると考えられる。

     通常の粉末冶金と同様に、MIMにおいても合金粉末混合法あるいは素粉末混合法により各種Ti 合

    金の焼結体を作製可能であることが示されたことから、筆者らが検討した各種Ti 合金の例を紹介する。

    5.各種 Ti 合金への適用例

    写真 3 3種類の混合粉末を用いたTi-6Al-7Nb合金焼結体のAl元素分布               

    写真 4 3種類の混合粉末を用いたTi-6Al-7Nb合金焼結体の Nb元素分布               

    Ti+Nb+

    Al粗

    粉末 

    1373K

    Ti+Nb+

    Al 微

    粉末 

    Ti+Al-53.8Nb

    1323K

    50µm

    1373K1323K

    Ti+Nb+

    Al粗

    粉末 

    Ti+Nb+

    Al 微

    粉末 

    Ti+Al-53.8Nb

    50µm

    Al 微粉末を用いると、Al の溶融による数 10µmを超える粗大な流出孔が生成することなく、高密度で良好な機械的特性を有する焼結体を得ることができた。いずれにせよ、Al-53.8Nb 合金粉末あるいはAl

    微粉末を用いることで、溶製材に匹敵する 750MPa以上の強度と 10%以上の伸びを有するTi-6Al-7Nb合金焼結体を得ることができた。

  • 27Vol.54(2013)No.10 SOKEIZAI

    特集 最近の金属射出成形(MIM)とその動向

     既存合金である、Ti-6Al-4V 合金9)、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si 合金6)、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo 合金 8)、Ti-4.5Al-3V-2Fe-2Mo 合金10)などにもMIMプロセスを適用し、また、Ti-6Al-4V 合金をベースに各種元素添加を施したTi-6Al-4V-4Mo 合金 7)、Ti-6Al-4V-2Fe 合金 11)など新規の合金組成にも対処できている。これらの焼結合金の機械的特性は、表 2に示すとおり、焼結のみで 1000MPa を超える高い引張強度と、伸びも 10%を超える良好な延性を呈しており、通常の溶製材と比較しても全く遜色ない結果を得ている。ただし、金属組織に関して、焼結後は通常高真空のまま炉内で冷却されるため、上記のニアαあるいは α+β 型に分類される合金では、写真 2のTi-6Al-7Nb 合金で示したとおり、数 10µm以上に成長した旧 β 粒から変態した針状 α+β 組織が出現する。したがって、さらなる機械的特性の向上には焼結時における旧 β 粒の成長抑制が今後の課題となることも考えられる。 いずれにしても、粉末の種類、粒度などを適切に選択すれば、優れた機械的特性を有する様々な Ti合金の創製が可能であり、MIMの形状自由度の高さ、優れた量産性、十分な機械的特性、さらには各種Ti合金への適用拡大などにより、さらなる応用の拡大が期待される。

     参考文献1 ) Y. Itoh, H. Miura, K. Sato and M. Niinomi: Fabrication of T-6Al-7Nb Alloys by Metal Injection Molding, Materials Science Forum, 534-536(2007)357-360.

    2 ) Y. Itoh, H. Miura, T. Uematsu, K. Sato, M. Niinomi and T. Ozawa: Effect of Mixed Powders on the Properties of Ti-6Al-7Nb Alloy by Metal Injection Molding, Ti-2007 Science and Technology, 2(2007)1185-1188.

    3 ) 伊藤芳典,針幸達也,佐藤憲治,三浦秀士:加熱脱脂

    および溶媒脱脂を考慮したMIM用バインダの検討,粉体および粉末冶金,49,6(2002)518-521.

    4 ) R. Boyer, G. Welsch and E. W. Collings: Materials Properties Handbook: Titanium Alloys, ASM International(1994)693.

    5 ) 伊藤芳典,植松俊明,佐藤憲治,三浦秀士:Ti-6Al-4V 合金MIM焼結体の引張特性に及ぼす相対密度および酸素量の影響,粉体および粉末冶金,56,5(2009)259-263.

    6 ) 伊藤芳典,針幸達也,佐藤憲治,三浦秀士:MIMによる near-α型Ti 合金の創製,粉体および粉末冶金,52,1(2005)43-48.

    7 ) 伊藤芳典,植松俊明,佐藤憲治,三浦秀士,新家光雄:Mo添加によるMIM Ti-6Al-4V合金の組織制御に関する検討,粉体および粉末冶金,53,9(2006)750-754.

    8 ) 伊藤芳典,植松俊明,佐藤憲治,三浦秀士,新家光雄:MIMによる高強度 α+β 型Ti 合金の作製,粉体および粉末冶金,55,10(2008)720-725.

    9 ) Y. Itoh, T. Harikou, K. Sato and H. Miura: Improvement of Ductility for Injection Moulding Ti-6Al-4V Alloy, Proceedings of Powder Metallurgy World Congress & Exhibition PM2004,4(2004)445-450.

    10) 伊藤芳典,植松俊明,佐藤憲治:金属粉末射出成形法(MIM)による Ti-4.5Al-3V-2Fe-2Mo 合金の作製,静岡県工業技術研究所研究報告書,1(2008)99-104.

    11) 伊藤芳典,植松俊明,佐藤憲治,三浦秀士,新家光雄:Fe,Cr 添加によるTi-6Al-4V 合金MIM焼結体の高強度化,粉体および粉末冶金,56,5(2009)253-258.

    静岡県工業技術研究所浜松工業技術支援センター〒431-2103 静岡県浜松市北区新都田 1-3-3TEL. 053-428-4156 FAX. 053-428-4160http://www.iri.pref.shizuoka.jp/hamamatsu/

    表 2 各種チタン合金MIM焼結体の機械的特性

    相対密度(%)

    引張強度(MPa)

    伸び(%)

    酸素量(%) 使用した粉末

    Ti-6Al-4V9) 97.5 930 15.8 0.34 Ti and fine Al-40V

    Ti-6Al-7Nb1),2) 97.7 800 12.6 0.20 Ti and Al-53.8Nb

    Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si6) 96.4 910 14.1 0.24 Ti and pre-alloyed

    Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo8) 98.1 1010 14.7 0.25 Ti, fine Mo and pre-alloyd

    Ti-4.5Al-3V-2Fe-2Mo10) 98.2 1020 12.6 0.29 Ti, Al-40V, Fe and fine Mo

    Ti-6Al-4V-4Mo7) 99.4 970 13.8 0.30 Ti, Al-40V and fine Mo

    Ti-6Al-4V-2Fe11) 98.8 1010 11.2 0.32 Ti, Al-40V and Fe

    Ti-6Al-4V-4Cr11) 99.4 1040 16.1 0.30 Ti, Al-40V and Cr