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Muv Luv × DEADPOOL [ALL let`s chance Alternative]

Muv-Luv × DEADPOOL [ALL let`s chance Alternative] ID:100450scene000し横浜っヷよわ捕虜収容きき目ききき次きき 部屋じき 1 ふまあ合衆国某州某所わせしそにゐみタUnlimitedscene00しン

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Muv─Luv × DEADPOOL[ALL let`s chance

Alternative]

枝豆キヨシ

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【注意事項】

 このPDFファイルは「ハーメルン」で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので

す。

 小説の作者、「ハーメルン」の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を

超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。

  【あらすじ】

 Muv─LuvとDEADPOOLの悪夢の共演。

 ヒーローもヴィランもいない、異星人BETAに人類が駆逐されつつある並行世界へ

と唐突に飛ばされた『饒舌な傭兵』デッドプール。

 あいもゆうきもそっちのけのちまみれものがたり、はじまっちゃいます。

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  目   次  

scene000「横浜ハイヴ・捕虜収容

────────────

部屋」 

1

Unlimitedscene00「ア

メリカ合衆国某州某所・デッドプールの

───────────

隠れ家」 

12

Unlimitedscene01─1

─────

「日本帝国・横浜基地」 

20

Unlimitedscene01─2

「日本帝国・横浜基地・地下17階・香月

────────

夕子の研究室」 

34

Unlimited02「日本帝国・横浜

基地・同基地衛士訓練学校・第207訓練

──────────

分隊教室」 

48

Unlimited03「日本帝国・横浜

基地・同衛士訓練学校・訓練風景」 

──────────────────────

60Unlimited04「日本帝国・横浜

基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」 

──────────────────────

73 Unlimited05「日本帝国・南

──

の孤島・総合戦技評価演習」 

92

Unlimited06─1「日本帝国・

横浜基地・同基地戦術機ハンガー」 

──────────────────────

101Unlimited06─2「日本帝国・

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横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機

─────────────

前」 

114

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scene000「横浜ハイヴ・捕虜収容部屋」

  最早、この場にいる人間たちには月日の経過などというものは誰一人たりとも気には

していなかった。

 全人類の悪夢、BETA。

 今や人口を逆転し数えることすら馬鹿々々しいほどに増殖した生物は大陸を渡り日

本は九州、首都・京都を蹂躙し。

 ついに本州は神奈川県横浜市にまで到達した。

 留まることを知らず、邁進し続けるBETAはそこに住む人々の避難など間に合わせ

ることなく、土地ごと嬲った。

 そして、生き残らされた人々はそのまま地中深くの部屋へと押しやられたのだった。

 抵抗する人も少なからずいたが、間引きよろしくその場で屠られた。

 決して広くはない部屋、薄暗く辺りには俯き身を屈める者、すすり泣き親に助けを求

める声がひっきりなしに聞こえてくる。

「たけるちゃん、こわいよぅ……私たち、どうなっちゃうの」

「純夏、大丈夫だ。……俺がついてる」

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 部屋の片隅で、お互い寄り添うように座る二人の男女。

鑑 純夏

かがみ すみか

白銀 武

しろがね たける

 

がここに連れてこられてから早二日は経っていた。

 不安と恐怖、空腹と死に怯えながらも互いに声を掛け合い励ましていた。

 だが、時が過ぎゆくにつれ、心は暗い感情に蝕まれていく。

「でも、前に連れてかれた人は戻ってこないよ。その前に、前の前に連れてかれた人も

……もしかして死」

「考えるのはやめよう、な。きっと助けが」

「こねーよ。それと、もう少しで監禁三日目に日付が変わるぜ」

 体を震わせる純夏の頭を撫でて微笑みかける武。

 そこに、野太い男性の声がかかる。

 武の視線が、いやに巨躯の一人の男を捉える。

 男はニヤつきながら二人に話しかける。

「お互いツいてねえな、こちとら腹が減りすぎて自分の腹がフライドチキンに見えてき

やがった」

「たけるちゃん、なんかあの人おっきいね。もしかしてお相撲さん?」

「えっと、貴方は……」

「自己紹介するにはまず自分から名乗るのがこの国の作法じゃなかったか? タケちゃ

2 scene000「横浜ハイヴ・捕虜収容部屋」

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んにカスミちゃん?」

「……白銀 武です」

「えっと、鑑 純夏です」

「俺はウ……チヨノサケだ。スミカちゃんのいう通り俺は力士だ」

「チヨノサケ、さん?」

「すごいよたけるちゃん、お相撲さんってまだ居たんだね」

 物珍しい動物でも見た子供のように、純夏はチヨノサケを指さす。

 チヨノサケと名乗った男は腹をさすりハハハと笑う。

「この国は力士には寛大だからな、後続勤務の傍ら体術訓練の一環って名目で相撲を

やってた」

「……チヨノサケさんは軍人、なんですか? その着てる服とかも迷彩柄ですし」

「まあな、国連から派遣されてきたんだが結果は御覧の通りだ。こんななりじゃ逃げた

くても出来ねえよ」

「……あの、チヨさん。その……」

「おっと、スミカちゃん。助けてくれってリクエストには残念ながら答えられないな。

無線も武器もここに来るとき落っことしてきちまったからな」

 部屋のあちこちで舌打ちする音と、チヨを役立たずと罵る囁きが聞こえてきた。

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 武は顔を歪めて声のした方向へ顔を向けるが、誰も彼もが俯いて表情を伺い知ること

は出来ない。

「タケルくん、いいんだ。今の日本が国連をよく思ってねえのは重々承知だし、気にもし

てない」

「チヨノサケさん……なんか、すいません」

「何でお前が謝るんだ?」

「あの、チヨさんはっ……チヨさんは、怖くないんですか。その……」

 純夏はその先を言おうと逡巡し、目を伏せる。

 おいそれとは口には出せない、死という言葉。

 死とはどこか無縁であった日本国民にとって、その概念はある日急に身を包み始め心

を病ませていった。

 ましてやここはいつ死がやってくるか分からない空間。

 おいそれとは言葉にすることは出来ない。

「怖いって、ああ。BETAに殺されるかって?」

「「っっ」」

 二人と、チヨノサケを除く全員が息を飲み身を強張らせる。

 しかしチヨノサケは、明日の天気を語っているかのように平然としていた。

4 scene000「横浜ハイヴ・捕虜収容部屋」

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「まあ、薄々そんな予感はしてるが……それでもただで死ぬ気はないな。奴らをなるべ

く巻き込んで、それから死にたい」

「でも、いくらなんでもそれは無茶じゃ……」

「おいおい、俺がいつ手ぶらで来たって言ったよ? ほら」

 チヨノサケが軍服の背中に手を回し、何かを取り出す。

 四角い、長方形の物体。

 武はしばらく考えたのち、答えを導き出し驚愕する。

「それって、もしかして……爆弾!?」

「正確にはC4爆薬だ。戦車級なら一匹、闘士級に兵士級なら何匹かは巻き込める」

「武器は持ってなかったんじゃ……」

「こんな狭い部屋使いますっていったら、こいつら騒ぎだすだろ? 出来るなら静かに

やりたくてね」

 他にも色々あるけどなと、チヨノサケは小さく囁き笑う。

「そんな、でも……どうしてそこまで」

「俺には恩人がいた。俺に相撲を教えてくれた親方、付き添ってくれた親方の娘、仲間

だった同門……みんな目の前で殺された。俺たちは裏方仕事だったからBETAとの

戦闘自体経験したことなんてなかった。戦術機適正もなかったしな。俺は無我夢中で

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親方とサザエを逃がそうとして、兵士級に後ろから殴られて気が付いたらここにいた。

気絶する前、二人が闘士級に頭を捥がれているのが見えた」

 チヨノサケはため息をつき、壁に寄り掛かる。

 二人はお互い目を伏せていた。

「もし、俺が無敵のスーパーヒーローだったら結果は違ったかもしれないがね。もう俺

には何も残っちゃいないが、少なくとも……」

 不意に、部屋に光が差し込む。

 ひっ、と誰かが小さく悲鳴を漏らす。

 部屋の唯一の出入り口、そこには三匹の兵士級が顔をのぞかせていた。

 三匹は部屋の中へと入ってくる。

 BETAは、定期的に閉じ込めた人間を何人か部屋の外へと連れ出していた。

 中には隙をついて部屋から逃げ出す人もいたが、すぐに悲鳴と何かがつぶれる音が聞

こえてくるのだった。

 皆一様にして、兵士級と顔を合わせまいと身を縮める。

「ひいぃっ離してくれぇっ! いやだあ死にたくないぃぃぃ!」

 兵士級は手近にいたサラリーマン風の男の頭を掴み、持ち上げる。

 兵士級は男をぶらぶらと宙づりにしながら部屋の外へと運んで行った。

6 scene000「横浜ハイヴ・捕虜収容部屋」

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 男はもがき喚き、ズボンに濃いシミとツンとしたアンモニア臭のする液体をまき散ら

す。

 残る二匹は、武と純夏に近づいてきた。

「こっちにくるよっ……」

「くそっ、こっちにくるんじゃねえ!」

 武は純夏の前に立ちふさがるように、庇いたてる。

 兵士級は武の前で立ち止まると、右手を大きく振りかぶる。

「たけるちゃんっ!! だめっ逃げてぇ!!」

「出来るかよ! 糞がぁ!!」

 武はそのまま右手を振りかぶり殴りかかる。

 と、同時に兵士級が右手を武の顔面めがけて横薙ぎにおろした。

「どすこいっっ!!」

 兵士級の姿が横にぶれる。

 武と純夏は呆然と、横倒しになる兵士級とその横でツッパリを放ったチヨノサケを見

る。

「「チヨノサケ(チヨ)さん!」」

「さっきの話がまだ途中だったな、少なくともお前さん二人ぐらいなら守り通せるって

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な!」

 殴られた兵士級がのそりと立ち上がる。

 その間もう一匹の兵士級がチヨノサケに両手を振り上げ接近する。

「ここが俺の千秋楽だ! おいタケちゃん! こいつをやる!」

 チヨノサケは兵士級の突進をいなしながら、武に黒い物体を投げ渡す。

 武がキャッチしたものは、拳銃だった。

「こいつら二匹は俺が相手する! 部屋を出たら右にまっすぐ進め! ここに来る道の

途中で目覚めたからわからんが、そっちからで大丈夫なはずだ!」

「だけど、チヨさんは!?」

「こいつら二匹ぐらいだいじょ、ぐあっ!」

 パキリとチヨノサケの左腕が歪に曲がる。

「早く行け! お前らも座り込んでねえで出てけ! 死にてえなら話は別だが!」

「チヨノサケさん……すみません! 俺、貴方のことは絶対忘れません! 行くぞ純夏

!」

「う……わかった!」

 二人は逡巡したのち、部屋の出入り口へと走り出す。

 ほかの人々も釣られて立ち上がり、出口へと殺到する。

8 scene000「横浜ハイヴ・捕虜収容部屋」

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「純夏!」

「たけるちゃっ……」

 武が純夏に向かって手を伸ばす。

 出入り口まであと数歩。

 純夏がその手を取ろうとしたところで。

 ぷちっと、武の頭が消えた。

「……え」

 武の身体が糸の切れたマリオネットのように、数歩足を進ませたところでバタリと前

のめりに倒れる。

 床に勢いよく血だまりが広がっていく。

 純夏も武の身体に躓き、覆いかぶさるように倒れた。

「たけ、る……ちゃん? 血が、頭、地が……え」

 純夏は武の頭があった個所を両手で塞ごうとした。

 血が手の隙間から溢れ出る。

 生暖かく、ゆっくりと。

「うわああああああああっ!」

「いやああああああっ!」

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 人々の悲鳴とともに、純夏の目の前に影を作る何かが現れる。

 ゆっくりと顔を上げる純夏の前には、武の頭を掴んだ闘士級がそこに立っていた。

「あ、あ、あああああああ……」

 純夏の目から光が失われ、ガクガクと体を震わせる。

 口から洩れる、言葉にもならぬ悲鳴は次第に大きくなっていく。

「いああアああああああああああたけるちゃあああああああああアアアアアアアアア」

 闘士級は武の頭を前方に投げ飛ばすと、純夏の横を通り過ぎていく。

 同時に純夏の背後から兵士級が肩を掴みあげる。

「ああっ、やだ、やあったけるちゃったすけてやだあっ!」

 武から引きはがさた純夏は、そのまま部屋の外へと連れ出される。

 部屋の中では、背中に武の頭が突き刺さったチヨノサケが倒れこみ、爆弾を掴んだ手

を兵士級に捥ぎ取られ、頭を捻られていて。

 闘士級が象の鼻のような一本の腕を振るい、中にいる人間をひき肉へと変えていた。

  それが、鑑 純夏が最期に見た光景だった。

  

10 scene000「横浜ハイヴ・捕虜収容部屋」

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 この世に刻まれた英雄は数あれど。

 救いはなく、報われず。

 正義のヒーローも、超上的で絶大な力を持ったミュータントも、ましてや神すらも存

在しないこの世界は。

 どうしようもなく、地獄だった。

   あいとゆうきのおとぎばなしなど、ありはしない。

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Unlimitedscene00「アメリカ合衆国某

州某所・デッドプールの隠れ家」

 「……あのさ、言いてえことは多々あんだけどさ。あんな重苦しい展開から俺ちゃんに

バトンタッチするってどうよ。こっから話もってくのすっげープレッシャーなんだけ

ど」

 ぼろいアパートの一室、やたらデカいソファに寝そべる全身赤タイツの怪人。

 この男こそが

「はいはい俺ちゃんがデッドプールですよ。つーかホントマジでタイトル詐欺にもほど

があんだろアレ。俺ちゃん要素まるで皆無だし、まああるにはあったけど原作読んでね

えやつはチンプンカンプンだろ。ちなみに『デッド・ヘッド・リデンプション』は好評

発売中だからそれ買って読めばわかると思うよ、うん。……ってあれ。これもう本番始

まってる? やっべ、完全にOFFだったわ。えっと確か台本は……」

 閑話休題。

 ぼろいアパートの一室、やたらデカいソファに寝そべる全身赤タイツの怪人。

 この男こそが『饒舌な傭兵』、デッドプールである。

12 Unlimitedscene00「アメリカ合衆国某州某所・デッドプールの隠れ家」

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「あー暇だ、最近は仕事もねえし。頭ン中の奴も出て行っちまったし、独り言いうのも飽

きたし、チミチャンガは美味しいし……」

 のそりとソファから身を起こす。

 ソファ脇に立てかけてある日本の刀を引っ掴むと、それを交差するように背負う。

「仕方ねえな、パソコンでツイッターでも……って、そうだ確かボブの奴からなんか貰っ

たんだよな」

 ボブとは世界征服をたくらむ組織・ヒドラの一員であり、デッドプールの下僕である。

 あとさりげにリア充である。

「ここでの俺ちゃんはリア充じゃねえのか」

 残念ながらこっちでは、結婚をまだしていないデッドプールはノートパソコンの横、

ピザとタコスの包装紙に埋もれた中からひとつの箱を取り出す。

 ジャパニメーション調の、女の子が一人者悲しげに描かれている。

「マブラヴ……オルタネイティブ? この女の子髪の色ありえなくね? ショッキング

ピンクとかどういうセンスしてんだよ。なんか頭から触手生えてるし。しかも、なんと

けしからん格好……まあタイツは腐るほど見てきてるけどここまでピッチピチだとこ

れは……」

 デッドプールはパッケージを凝視したのち、答えに至る。

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「そうか、これがHENTAIってやつか」

 そういって、パッケージをゴミ箱の中へと放り投げた。

 ゴトリと底へぶつかる。

「ティーンじゃあるまいし、今更CGやアニメーションなんかで興奮するかよ。ボブの

奴今度会ったら月まで吹き飛ばしてやろうかな……何がモエゲーだ、そもそも物理的に

何度も燃えてるっつーのこっちは」

 デッドプールはソファから立ち上がり、窓のほうへと歩き出す。

「大体こっちは4ageも年上なわけよ、もうちょっと前面に出してくれてもいいん

じゃねえの? 大体今更こんな場末のチラシ裏みてえなところでひっそりクロスした

ところで話題にすらならねえし、誰も得しねえだろ。こういうのはお馴染みの技術チー

トか現代転生とかで無双しときゃいいだろ、小〇家にな〇うみてえに。再生能力なんざ

あっても物量にゃ太刀打ちできねえし、ていうかむしろ俺ちゃんの能力パクられて詰む

だろ」

 マスクをずらしすと、皮膚が引きつりところどころ赤い筋繊維に覆われた醜悪な口元

が表れる。

 窓のそばに置いてあったビール瓶を掴むと、半分ほど入っていたビールを一気に流し

込んだ。

14 Unlimitedscene00「アメリカ合衆国某州某所・デッドプールの隠れ家」

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「……んで、この前置きはどこまで続けりゃいいんだ? 早く展開進めないと読者の『ま

たメタチートかよ』コメで覆いつくされるぞ」

 マスクを戻し、ビール瓶を外へ放り投げようとボロボロのカーテンを開く。

 普段なら薄汚れたレンガの壁に格子窓のついた向かいがあるはずの景色が、灰色の瓦

礫の山にへと変貌していた。

「……WTFとでもいえばいいのかこれ。唐突すぎて俺ちゃんもついていけねえぞ」

 カーテンを戻し、もう一度開く。

 ビリリと音を立ててカーテンの布が床に落ちるが、景色は先ほどと変わらず。

 民家が崩れ、かろうじて残る街路樹はミイラのように枯死していた。

 どうみてもここがアメリカどころか、元居た世界ではないことは明白であった。

「おいDM〇、テコ入れにしちゃ早いんじゃねえの? 始まってまだ一か月ぐらいしか

経ってねえだろ、コラボする予算なんてどっから捻出したんだ」

 デッドプールは酒瓶を床に放り投げ、慌てて振り返る。

 部屋はそのままの状態で存在していた。

「ふう、そういや部屋から出たらアウトなんだよな。たっく冗談じゃねえっつーの。チ

ミチャンガも碌に食えねえ世界を無料で救うほど俺ちゃんは安くないの。わかったら

すぐコンビニ行ってD〇Mポイント5万ぐらい買って店員にドン引きされてこい」

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 再びソファに座ると、PSVITAの電源を点ける。

「んじゃ、とりあえずマブカプ3でもやってるか。もちろん俺ちゃんとスパイディ、つい

でにタスキーでやってみるか」

  ──1時間後。

 「くっそ、またダウンしやがった。ボタンの動きについてこれてねえだけだろ」

  ──更に1時間後。

 「そろそろケーブルあたりが乗り込んできてもいいんじゃねえかな……あ、またやられ

た」

  ──もう更に1時間後。

 「いい加減にしねえと文字数稼ぎに思われんぞ。つーか早く誰か俺ちゃんの異常に気づ

けよ……気づいてください」

16 Unlimitedscene00「アメリカ合衆国某州某所・デッドプールの隠れ家」

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  ──またもう更にいちじk「だあぁぁぁもうわかったっつーの俺ちゃんの負けだ! 

飽きたわ流石にっていうか電源切れたし充電できねえし!」

 「はあ、しょうがねえ。このワンフレーズでやれやれ系とかいって反応してくる奴が全

国には二人ぐらいいそうだな」

 デッドプールは渋々と、小型ナイフから大型レーザーキャノンまでが並べられた武器

庫に向かう。

 ポーチにありったけの弾薬を詰め込み。

 腰にはデザートイーグルを二丁ホルスターにさし込む。

 ときどき壊れるテレポーション装置も右腕に取り付けておく。

 壁にかかったM4カービンとFAMASを見比べる。

「どーちーらーにしーよーうーかーな、これにしよ」

 そう言ってガリルを手に取った。

 さらにMP7A1サブマシンガンを二丁取り、両肩に下げる。

「時代背景的に考えて、広く普及してる9mm使う頑丈なウージーとかのほうがいいん

じゃないですかとかいうガンオタのコメが出てくるだろうからあらかじめ言っておく

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か、何使おうが俺ちゃんの勝手だ。それにユーコせんせーがどうにかしてくれるだろう

し」

 サスペンダーのホルダーにM67手榴弾を5個ほど取り付け、M84スタングレネー

ドも二つほど取っておく。

「よし、ここでブーツを履いてナイフを胸の鞘に差し込んで、ライフル担げば……ドンパ

チ賑やかな州知事ってね。筋肉なら負けてねえよ」

 デッドプールは玄関へと歩を進める……直前で踏みとどまり、冷蔵庫を開ける。

 中には大量の酒瓶と、昨日買ったチミチャンガにブリトーが入っていた。

 チミチャンガ、ブリトーを一つずつ取り出すと、電子レンジで1分ほど温める。

 そしてブリトーをポーチに入れて酒瓶を一本取り出し、栓を開く。

「準備は万端っと、しばらくはゼリー食だ。顎を鍛えておかねえとな」

 チミチャンガを一口食べると酒を流し飲み、玄関を開いた。

  眼前には左足をなくした巨大ロボ──第三世代94式戦術歩行戦闘機『不知火』──

がビルにもたれかかる様に倒れていた。

「センチネルとはまた違った新鮮味があるな。サイバトロンも見習ったほうがいいん

じゃないかね」

18 Unlimitedscene00「アメリカ合衆国某州某所・デッドプールの隠れ家」

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 デッドプールは振り返ることはなく、歩を進める。

 向かう先は無数のアンテナの経つ丘の上、国連軍横浜基地。

  デッドプールが去ったあとには六階建てのボロアパートではなく、荒れ果てた道場と

土俵の跡が残されていた。

  To be next scene...

19

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Unlimitedscene01─1「日本帝国・横浜

基地」

  一見すると、大学の研究室のようにも見えるほどの大量の資料と本に埋もれた部屋。

 しかし、この部屋こそが世界を救う最前線……の筈であったが。

「おうどんたべたい……うどんにゅるにゅるちゅるちゅる……しるかばかうどぅん」

 ぶつぶつと拙い念仏のような少女の声が室内に響く。

 発声源である銀髪ツインテールにうさ耳カチューシャをつけた少女は、虚ろな目で体

育座りをしながら横倒しになっていた。

 そのすぐ隣では白衣を着た女性が眉間にしわを寄せ、デスクチェアに座っている。

 その手にはUSP拳銃が握られている。

「……最期に、何か申し開きたいことはあるかしら?」

 彼女の眼前には、全ての元凶が鎮座していた。空気椅子で。

 膝ガックガクの生まれたての小鹿の如くである。

 元凶である拘束着姿の全身赤タイツ変態男は、肩を竦めながら口を開いた。

 

20 Unlimitedscene01─1「日本帝国・横浜基地」

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「パティシエにはどうやってなれますか?」

  銃声が響き渡った。

   ──今から遡ること、1時間ほど前。

「ふぁ〜あ……っく」

「オイオイ寝不足か? しっかりしてくれよ相棒」

 国連軍・横浜基地の門前。

 薄っすらと口ひげの生えた門兵は首を鳴らしながら欠伸をし、それを隣の黒人の門兵

が咎める。

「しかしこうも同じ事ばかり続くとな……」

「でもこの前変な奴を見つけただろ。今日日敵はBETAだけじゃないんだぜ?」

「分かってるって、しかしあんな所で何やってたんだろうな、あいつ」

「まあ副指令が直接尋問するって言ってたし、一介の兵士が関わるもんじゃねえだろ。

んじゃ、そろそろ今日も見回り行くとするか」

「願わくば、何もないことを祈ろうかね……ん、なんだありゃ」

21

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 黒人門兵が基地に見回りへ行く旨を無線で通達しようとしたとき。

 口髭門兵が怪訝そうな表情で、右側へ続く道路を凝視していることに気付く。

「どうした相棒?」

「向こうから誰かが来る……なんか嫌に赤いっていうか、何か持ってるな」

「待て、今双眼鏡で確認する……WTF!?」

「うお、どうした……ファッ!?」

 思わずFワードを口にする黒人門兵。

 口髭門兵も双眼鏡を手に取り、のぞき込むと。

  赤いパンツのようなものを被り、全身を赤タイツと火器類で覆った人が近づきつつ

あった。

 足元はおぼつかず、フラフラと幽鬼のように揺らめいている。

「糞、最近になって忙しくなったもんだぜ! 相棒、無線入れろ! 相手は武器を持って

る!」

「分かってる! こちらガード1より司令室へ、複数の火器で武装した人間一名が当基

地に接近しつつある。目視で確認したところ身長は180cm以上、全身赤タイツでパ

ンツを被った変態だ! 射撃許可を求める!」

22 Unlimitedscene01─1「日本帝国・横浜基地」

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 二人は手にしたアサルトライフルの安全装置を解除し、弾薬を薬室へと装填した。

 変態はなおも接近し、お互いの距離は200m近くまでになっていた。

「止まれ! 武装を解除し、その場に伏せろ!」

「聞いてるのか、止まれ!」

 二人は銃口を変態に向け、怒鳴るものの反応はなく。

 ただひたすらに進み続け、脱力し手にしたガリルの銃口を地面に擦り付けていた。

「仕方ねえ、威嚇射撃だ。一発ずつ撃ち込むぞ」

「了解だ」

 二人は変態の手前の地面に目がけ、5.56㎜弾を一発ずつ撃ち込む。

 すると、変態はその場でへなりと倒れこんでしまった。

「やべえ、当たっちまったか?」

「……確認するか。相棒、カバーは頼む」

 二人は銃を構えながらそろりそろりと赤タイツの前へと近づき。

 距離が5m近くになったところで、全身赤男が何かを呟いていることに気付く。

「……を、れ」

「待て、何か言ってるぞ……」

「警戒は解くなよ相棒」

23

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 二人が止まると同時、赤タイツの男こと、デッドプールは頭だけをあげて呻く。

「……み、水」

「「水?」」

「水を……よこせ。それも、一台や二台ではない。全部だ……ウッ」

 デッドプールは再び地面とキスをして、そのまま動かなくなった。

 二人は『また厄介者だ』と言わんばかりに、苦々しい表情でお互いの顔を見合った。

   それから数時間後。

「パソコンの再起動ってホントあれウザいよな、勝手に更新されて数時間の苦労が全部

消え失せたときとか思わず世界を滅ぼしかけたZE」

 デッドプールは見知らぬ天井を見上げながら目覚めた。

 体の節々がギシギシと音をたてる。パイプ椅子に手足と胴、腰がワイヤーで固定され

ていた。

「やあ、今回もサクッとマブラヴを実況したいと思います、えーまず開幕俺ちゃんは縛ら

れていますね。見慣れない部屋で一人きり、見えるのは目の前の鉄格子と灰色の壁と

床」

24 Unlimitedscene01─1「日本帝国・横浜基地」

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 ガタガタと椅子を動かし、横倒しになる。

 右の足首に向かって、ひとまとめにされた手を伸ばした。

「これはもしや、悶絶調教されてしまう一歩手前なのでしょうか。……なんかもう、この

喋り方たるいしやめるか」

 足首の横、収納ポケットにある小型カーボンナイフを両手で取り出す。

 同時にデッドプールの前に一人の女性が姿を現した。

「あら、もうお目覚め? ずいぶんと早かったわね」

「あん、誰だしらんが俺ちゃんは今忙しいんでね。とりあえず目の前でヒンドゥースク

ワットして待っててくれる?」

「その手に持ってるもの……はぁ、武器は全部回収したって聞いてたけど、まりもはあと

でオシオキね」

「くっそう、唸れ俺ちゃんの上腕二頭筋! 早くしないと白衣の紫婆に薬漬け調教ダブ

ルピースコンボを極められてしまう!」

「もしもし私だけど……ええ、今すぐ来て頂戴。それから実弾装填した銃も持ってきて。

私が使うから。別に殺しはしないわ、少し鉛の座薬を注入するだけよ」

「うおおおおおお急げ俺ちゃん、さもないと三話でいきなりR─18タグがつけられて

しまう!」

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  やや、あって。

 駆け付けた軍服の女性は、白衣を着た親友兼上司が捕らえた不審者の足を引っ張り、

股間を格子で押し潰そうとしている現場を目撃し全力で止めたのであった。

  それからしばらく。

 牢屋の中、デッドプールは両手を縛られたまま項垂れて正座していた。

「思わずグッバイマイサンするとこだったZE」

「そのまま捥げればよかったのに。さて、アンタには色々と聞きたいことがあるんだけ

ど……まりも」

「よろしいのですか副指令? こいつが危険物だということは一目瞭然、正直二人きり

にしたくないのですが……」

「普段通りの口調で結構よ、ここには私とこの狂人しかいないんだし」

「どっちかっつーと酒が入ったそこのおさげさんのほうが危険だろ。あと画像検索的な

意味でも。一体どれだけのプレイヤーの脳裏にトラウマを刻み込んだの? まあ、お前

は脳みそ削られてたけどな!」

「はい、これ頼まれてた銃。フル装填してあるけどなるべく無駄撃ちは避けてね。普段

26 Unlimitedscene01─1「日本帝国・横浜基地」

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持ち歩いてないの?」

「あんなもの私には必要ないものよ。今は必要だけど」

「ハハハ、そんな豆鉄砲俺ちゃんのマグナムの前じゃ無駄無駄無駄ァ! 恋愛原子核小

僧の燃料棒をテメーの融合炉でバーニングラァァヴして、ワレメを絆創膏で一週間蓋し

てメルトダウン引き起こしてからまた出直してこいやフハハハハハ!」

 夕子は安全装置を解除した拳銃を牢の中に突き付け、タップダンスじみた挙動をとる

デッドプールの足に向けて引き金を引いた。

 その日、営倉中に10発の銃声と野郎の叫び声が木霊した。

  数分後。

 デッドプールの両足には8発ほどの銃創が出来上がり、床には動脈が切れたのか夥し

い血だまりが出来上がっていた。

 最初は呻き声をあげていたデッドプールも、今はもう死んだように大人しい。

「ちょっと、夕子! いくら殺すのはやりすぎじゃ……」

「いいのよ、人一人ぐらいはこっちでどうにでも出来るわ。精神錯乱者と話すほど私は

暇じゃないの」

「でも……」

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「それに武装してたんでしょ、なら100%こいつの落ち度よ。軍人でもなさそうな格

好だし、大方そこらのテロリストに雇われた傭兵でしょう。まあ、とんだ間抜けだった

けど」

 夕子は牢屋を開錠し、まりもとともに中へと入る。

 デッドプールが動く気配はない。

「でもこいつの持ち物には少し興味はあったんだけどね。去年EUドイツ軍が実験的に

制式採用したばかりのサブマシンガンを二丁も持ち歩いていた。ほかにもIEI製『と

思われるもの』のハンドガンが二丁、アサルトライフル一丁、どちらも民間では絶対出

回らないものよ。手榴弾に閃光弾はいわずもがな」

「それだけ聞くとホントにテロリストか傭兵ね。顔は割れてるの?」

「顔、ねえ……ふふ、それがあればすぐにでも割り出せてたでしょうけど」

 夕子は含み笑いを浮かべながら、デッドプールのマスクを掴む。

「先に言っておくけど、吐かないでね」

「それってどういう……うっ!」

 夕子は思い切りマスクを引っ張り上げ、?ぎ取る。

 晒されたのは、到底人とは思えぬほど醜くただれた頭だった。

 まりもは顔を顰め、口元を抑える。

28 Unlimitedscene01─1「日本帝国・横浜基地」

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「ま、こういうことよ。こいつは最初から死んでたようなもの、精密検査してみればもっ

と色々分かるかもしれないけど」

「ゆ、夕子……うぅ」

「あらら、顔真っ青にしちゃって。BETAと同じようなモンと考えればいいでしょ」

「それとはワケがちが、うっぐっ。とにかくマスクを戻して!」

「はいはい」

 夕子がマスクを戻そうとしたとき。

 かすかにデッドプールの身体が震えた。

「今、動かなかった?」

「脊髄反射ってやつよ。それよりどう処分しようかしら……グラウンドにでも埋めてく

れる?」

「私がやるの!?」

「当たり前でしょ、私は体動かしたくないの」

 まりもは頬を膨らませ、目の前でニヤニヤ笑う夕子を睨む。

 デッドプールは死んでしまったのか?

 早くも二話目でこの話は終わるのか?

 このままでは文字でできたクソと認定されてしまう!

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 だがそのとき、不思議なことがおこった!

「だらっしゃぁぁぁぁぁぁてめえらぁぁぁぁぁぁ!!」

「「ぎゃあああああああっっ!?」」

 突如としてデッドプールが勢いよく立ち上が……ろうとしたが椅子に足を固定され

たままだったので、そのまま前に倒れこむ。

「てめえこの野郎馬鹿野郎なにファーストコンタクトで特殊KILL決めてくれとん

じゃコラァ!! パニッシャーでももうちょい話聞くぞ甲殻類ヘッドども!」

「なんで、死んだはずじゃ……」

「俺ちゃんはこの程度じゃ死にましぇ〜ん。殺したきゃMARVELの編集どもか作者

に大金積んでからモノ言いな!」

 怒りに吠えるデッドプールに思わずたじろぐまりも。

 その一方で、夕子だけは顎に手を当てて、興味深そうに観察している。

「大体よお、こちとら異世界人よお? 死なない能力なんて持ってるし、まあどっかの

ニート青年みたく過去いってやり直すなんざ後付けでしか出来ねえけどさあ。ここは

トントン拍子でこの施設の説明とか新たな仲間とのイベントが待ち構えてるトコなん

じゃねえの?」

「何を言っている! ……ねえ夕子、やっぱりこいつ埋めたほうがいいかも」

30 Unlimitedscene01─1「日本帝国・横浜基地」

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「そして野に咲く一輪の花へと生まれ変わり終了……次回作にご期待くださいってかぁ

このチャン・マリモがっ!? そうはいくかってんだ……あれナイフどこいった?」

「なにを言っている……ああもう、少し黙っていろ! ねえ、夕子聞いてる?」

 喚くデッドプールとは対照的に沈黙を貫く夕子に、まりもは怪訝そうに肩を叩く。

 そして、夕子は何かを思いついたかのようにまりもに向き合う。

「ど、どうしたのよ夕子。どこに埋めるか思いついたの?」

「埋めないわよ。まりも、手錠と拘束着を持ってきてくれる?」

「拘束着って……まさか」

 動揺するまりもを尻目に、夕子はデッドプールへと視線を移す。

「さて、貴方さっき変なことを言ってたわよね。異世界からどうかとか」

「質問するのは俺ちゃんのほうだぜ、スカーレットウィッチ。今度はジャパニメーショ

ンよろしくガンダムごっこでもする気か? 庭先に乗り捨てられてたあのロボット、か

なりイカしてたぜ」

「ロボット? ああ、戦術機のことね。あとは何言ってんだかわかんないけど……とり

あえずこっちの質問にだけ答えなさい。無駄口叩いたら今度は脳天をぶち抜くわよ?」

 夕子は手にした拳銃の銃口をデッドプールの頭に向ける。

 デッドプールは気にした様子もなくヘラヘラと笑う。

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「アンタ銃をまともに撃ったことないだろ。銃口が震えてるぜ、せっかくだから隣のグ

リーンカラーに代わってもらえホワイトカラー」

「だそうよ、まりも。せっかくだし射撃の的にでもしたら?」

「冗談でもやめて。それより、ほら拘束着と手錠持ってきたわよ」

 まりもは白いベルトのついた布と銀色の手錠を手にして、檻の中へと入ってくる。

 夕子は依然とデッドプールに銃を突きつけながら言葉を投げかける。

「ところで、アンタの名前は?」

「俺ちゃんはデッドプール。泣く子はアヘる、セクシーコマンド─さ」

「そう、デッドプール」

 まりもに手錠をかけられ、拘束着を着せられるデッドプール。

 それを見下ろしながら、夕子はニヤリと笑みを浮かべる。

「最初は処分しようかと思ったけど気が変わったわ。このあと尋問するから、洗いざら

い吐いてもらうわよ」

「やれやれ、やっと尋問パートかよ……会話と文が冗長すぎんだよなあ。ってかよ、下に

『とべねくすとしね』って見えんだけど続くのこれ? こんな序盤中の序盤のどーでも

いいとこで前後に分けるとか何考えてんだ?」

「訳の分からないことばかりほざいてないで立て!」

32 Unlimitedscene01─1「日本帝国・横浜基地」

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 まりもに引き立てられ、デッドプールは牢屋からだされた。

 こうして、異端どものファーストコンタクトはお互いめったくそな感じに始まったの

だった。

  To be next scene...

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Unlimitedscene01─2「日本帝国・横浜

基地・地下17階・香月夕子の研究室」

 

人類救済

「やあ、ボクの名前はデッドプール! 早速だけどボクと契約して、

する魔女に

なってほしいんだ! キュップイ!」

「質問に答えろといったはずだけど? 電圧もう一段階あげるわね」

「あばばばばばばばばばっンギモチィィィィィィィィィ」

「そう、じゃあもっと欲しければ無駄な独り言は控えるようにね」

 場所は代わり、横浜基地の地下深く。

 この基地の副指令・香月夕呼の所有する研究室は、無縁であるひと騒ぎが起きていた。

 書類の積もったデスクの前、黒革の椅子に腰掛ける夕呼。その手には5段階まで目盛

のついたリモコンが握られている。ちなみに目盛は3つ目に設定されている。

 目の前には椅子事縛り付けられている拘束着姿のデッドプールが電流を浴びて悶え

ていた。

「いい加減このネタも焙煎されすぎて聞いただけで渋い顔されるようになってきたよ

な。この間行ったコンビニの店頭でパチンコ雑誌にデカデカと特集組まれてるの見て

34 Unlimitedscene01─2「日本帝国・横浜基地・地下17階・香月夕子の研究室」

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何とも言えねえ気分になったよ」

「……で、もう一回聞くけどアンタは何者なの? ここを襲いたい連中なんて五万とい

るけど」

「だーかーらー、さっきから何度もイッテルダルロォ? 気が付いたらこんな僻地に居

たんだって、俺ちゃん生まれも育ちも北アメリカ大陸よ? たぶん」

「少なくともアンタみたいな異物、居たらすぐに気づくんだけど……」

 夕呼は眉間に皺を寄せ、一息つき。デッドプールを正面から睨みつける。

 デッドプールは意にも返さず、猛禽類じみた視線を受け止める。

「……わかったよ、いい加減このノリもクドくなってきたしな。んじゃあ博士、もし俺が

この世界の人間じゃなくって、他の異次元世界からある日突然やってきた。っていった

らアンタ信じるか?」

「ええ」

「意外とあっさり肯定したな」

「前例がいるからね。といっても、それを断定出来る証拠はない。貴方の持ち物を調べ

てみたけど、ある程度ツテがあれば手に入るものばかりだった。シリアルナンバーがあ

ればすぐに分かったけど、全部削られてたわ」

「銃の手入れは日課だからな」

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「そこでアンタが本当のことを言っているのか、確かめさせてもらうわ。カスミ、こっち

に来て」

 夕呼の呼びかけにこたえて、隣の部屋のドアから一人の少女が現れる。

 肩がエラく強調された黒い制服に身を包み、白く長い髪は両サイドで結びツインテー

ルにしている。

 極めつけは、まるでウサギの垂れた耳のような黒いカチューシャ。

 デッドプールは一目見て、肩を竦めて口笛を鳴らす。

「尋問中にバニーガールのデリバリーとは新しい展開だな。仕事帰りかい?」

「っっ!」

 デッドプールの言葉に、少女はびくりと身を震わせそそくさと夕呼の後ろに隠れてし

まった。

「照れ屋さんだな、こりゃ紳士諸君のウケもいいだろうね。三万でどう? あ、ドルじゃ

なくて円でな。持ってねーけど」

「これ以上変な発言したらその口を吹き飛ばすわよ」

 夕呼は懐からUSPを取り出し、デッドプールの頭に銃口を向ける。

やしろかすみ

「この子は

。今からこの子を使ってアンタの言ってることが本当か見極めさせて

もらうわ」

36 Unlimitedscene01─2「日本帝国・横浜基地・地下17階・香月夕子の研究室」

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「おいおいまさかとは思うけどさ、エグゼビア教授よろしく心を読めますってヤツじゃ

ねえだろうな?」

「カンがいいわね、そのとおりよ。その教授とやらは知らないけど嘘か否かぐらいは簡

単に判別できる」

「ストップだ博士。ロールシャッハとにらめっことか神経衰弱、いけないお薬注射して

からのおしゃべりぐらいなら、俺が飽きるか相手が死ぬかまで付き合えるが、そいつだ

けはダメだ」

「あら、じゃあ貴方は嘘をついてたのかしら。それともその湯だった頭の中に、読まれた

くないモノでも入ってるのかしらね?」

 夕呼は不敵に笑って見せるが、対するデッドプールは落ち着きなく貧乏ゆすりをして

あたふたと首を振る。

「イヤ、こいつだけはマジだ。子供をオシャカにした、なんて知られたら本当に殺されち

まう。さっさと学院に入学手続きでもしてウルヴィーの黒歴史でも暴いてこい」

「言っとくけどこの子にもし危害を加えたら問答無用で貴方を殺すわ」

「〇すとか物騒なこと言うんじゃねえよ、子供だって見てるんだから発言に気を付けね

えと。ていうかマジでやめてやれ」

「脱出しようだなんて考えないほうがいいわよ。出口にいるまりもにミンチにされたく

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なければね」

「俺ちゃんは博愛主義者なんだ、最近子供ができてそういうのはちょっと抵抗出てきた

んだって」

「アイツのいうことは気にしないで。カスミ、今から私がアイツに質問するからそのと

きどういう反応をしてるか教えてくれるかしら」

「……わかりました」

 霞はこくりと頷き、おずおずとデッドプールを覗き込む。

 喚くデッドプールを気にせず、夕呼は口を開く。

「では、改めて質問させてもらうわ。デッドプール、貴方は本当に異次元からやってきた

のかしら?」

「心を無にするんだ俺ちゃん、無ー無無無無無無むっむむむむムムム!?」

「……」

 霞はぼうっとデッドプールの顔を見続けている。

 夕呼は再び質問を投げかける。

「デッドプール、貴方は何者? 知っていること洗いざらい全て話しなさい」

「俺ちゃんはカナダ生まれのアメリカ育ちの傭兵だ。金を積まれれば何でもする。こっ

ちの世界に来たのはついさっきだがそれまではコミック……じゃなくてニューヨーク

38 Unlimitedscene01─2「日本帝国・横浜基地・地下17階・香月夕子の研究室」

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にいた。ていうかこっちってコミックあるのか? スパイダーマンって知ってる? 

スーパーマンにバットマンは……あ、これ別紙ね。 なんつーかまあ、こっちの世界に

は色々体弄繰り回されたり弄ったり、北欧の神様だったり宇宙人だったりしてる奴らが

正義の味方

ヒー

ロー

いっぱいいてな、俺ちゃんなんかもその一人なんだけど。そーいう奴らが

悪役ヴィラン

やってたり

やってたりするんだけどさ。あとこっちじゃ魔法なんかも使えたりし

ちゃうからさ、基本何でもありなんだよな。だからたまーに異世界に飛んじゃったりも

するけどさ、まあ簡単にまとめるとだ。

 ちょっと暇を持て余してイ

 ンターネットでもしようとしてたら

 こっちにいた

 こんな感じかな、うん。さあ話したぞ俺ちゃんにしては珍しく真面目にな」

 デッドプールは横目で霞の姿を確認すると。

 普段は無表情がデフォルトな彼女の顔は、より一層人形じみた青白くどこか虚ろな目

をしていた。

 夕呼はそれに気づかず、訝し気にデッドプールを睨んでいる。

「重要なのはアンタの質問の答えじゃなく、質問を聞いてどうイメージしたかだけどね。

どうかしら霞、何か見えたことを言ってみて」

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「………」

「霞? どうしたの、早く報告しなさい」

 霞はピクリとも動かず、ただデッドプールを凝視している。

 唐突にガクガクとヘッドバンキングを始めるまでは。

「せくしー、まざーふぁ〇かー? 目からビーム? ライアン・レイノルズ? ……お、

おおおおお」

「霞!? どうしたの!」

「あーあ……こりゃもうダメかも分らんね」

 霞はツイストダンスを踊りだし、ヘッドバンキングの速度が徐々に増していく。

 夕呼はたまらず立ち上がり、霞の身体を抑えようとするが華奢な見た目からはありえ

ないほど強烈な力で押し返される。

 尻もちをついた夕呼は霞を見上げながら大声で呼びかける。

「霞、しっかりしなさい! 目を覚まして!」

「ほしが、またたいてみえる、すいせい? でも、すいせいはもっとこうぱぁーっと、S

〇X!!」

「霞!」

「ところでこっちの世界にジャスティン・ハマーっているのかね」

40 Unlimitedscene01─2「日本帝国・横浜基地・地下17階・香月夕子の研究室」

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 霞は部屋中に響き渡るほどの声量でもって叫ぶと、白目をむいてバタリと真横になっ

て倒れ伏す。

 夕呼はしばし呆然としたあと、立ち上がりデッドプールのもとへと詰め寄った。

 デッドプールは目の前の惨状に気にしたそぶりもなく平然としている。

「アンタ……霞に手を出したらどうなるか言ったわよね」

「こっちは事前に言ったぜ、心を読むのはやめとけってな。脳が焼き切れなかっただけ

でも不幸中の幸い」

「黙って、もう喋るな」

 夕呼はUSP拳銃をデッドプールの額に突き付ける。

 不意にデッドプールの椅子が突然消失したが、本人はおろか頭に血が上っている夕呼

はそれを気にも留めない。

 霞は横倒しの状態から体育座りの姿勢となり、ぶつぶつとつぶやき始める。

 「おうどんたべたい……うどんにゅるにゅるちゅるちゅる……しるかばかうどぅん」

「最期に何か、申し開きたいことはあるかしら?」

 デッドプールは椅子に座った姿勢のまま、ため息をつく。

「おい、前回ゆーこせんせー椅子に座ってこっちに銃向けてたろ、ちゃんと修正しとけよ

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な。あとこっちの世界じゃIMIはIEIって呼ばれてるんだ後でwikiっとけよ。

あ、そうだパティシエにはどう」

 夕呼が引き金を絞り、銃口から迸るマズルフラッシュがデッドプールの額を焦がす。

 飛び出した9mmパラベラム弾が前頭葉から後頭葉に至るまで中身をかき回し、後頭

部から弾丸ごと排出された。

 床に排莢された薬莢が転がる音が部屋に響き渡る。

 夕子は拳銃の反動でわずかに痺れる右手を押さえて、ため息をついた。

「あーもうまったく、誰の部屋だと思ってんのよ」

「夕呼! これは……」

 拳銃を保持したまりもがすぐさま部屋に駆けつけ、その惨状に絶句した。

 夕呼は霞のそばに屈みこみながら、白衣のポケットから注射器と細長い管を取り出し

た。

 透明な液体の入ったそれを、注射器に差し込み霞の首筋に注入した。

「うどんちゃんうどんちゃんわたしだけのうどんちゃうっ……すぅ」

「お疲れ霞。しばらくお休みなさい」

「えっと、夕呼? これは一体」

「あらまりも丁度いいところに来たわね」

42 Unlimitedscene01─2「日本帝国・横浜基地・地下17階・香月夕子の研究室」

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 白い床にまき散らされた赤黒い血と肉の破片。

 それらを後頭部から吹き出し倒れているデッドプール。

 夕呼は何事もないように笑みを浮かべ、まりもの表情は思わず引きつる。

「ちょっとゴミ掃除したかったんだけど人手が足りなくてね。手伝ってもらおうかと

思ってたところよ」

「夕呼、これ……貴方がやったの?」

「まりも、これは命令よ。貴方は私とゴミ掃除をした。デッドプールはテロリストとし

て拘束され処分された。いいわね」

「……わかりました」

 有無を言わせぬ夕呼の威圧に、まりもはただ了承するほかなかった。

 まりもは改めてデッドプールに視線を移す。

 脳みそを吹き飛ばされ、饒舌であったその口は二度と言葉を発することはないであろ

う。

 狂人であったとはいえ、人が死ぬ様を見るのはあまり気分が良いものではないと、ま

りもは眉を顰めた。

「それじゃ、医務室から袋持ってきてくれるかしら? 手袋と洗剤、モップとバケツも

ね」

43

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「はあ、どう説明したら死体袋出してくれるんだろう」

「私の名前出せばいいのよ。とりあえず霞を寝かせてくるわ、それじゃ道具の調達お願

いね」

 夕呼は霞を抱えて、隣の部屋へと入っていった。

 その場にはまりもとデッドプールが残され、シンと静まり返る。

「それにしても、ホント変な格好というか……なんで全身タイツなのかしら。狂人だか

らといえばそれまでだけど……そもそも何者なのかもよくわからないし」

 「そりゃオメー、全身タイツはヒーローのステータスだからだよ。ヴィランも基本タイ

ツだけどな」

 「ヒーローって、確かアメリカのほうで流行ってるコミックスとかいうのだったけ? 

ホント益々よくわからない……え」

「お、こっちにもコミックはあるみたいだな。つーかんなことよりいつまで序盤に時間

かけてんだよ、俺ちゃんは早くあの全身ピチピチのエロスーツを拝みたいんだよあくし

ろよ」

「え……あ、え? 喋って、動いてる?」

44 Unlimitedscene01─2「日本帝国・横浜基地・地下17階・香月夕子の研究室」

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「頭吹っ飛ばされるなんざ俺ちゃんにとっちゃ最早挨拶レベルだ。まりもちゃんも一発

どうだい、飛び切り濃いのを期待してるぜ?」

「……はっ。き、貴様なぜ生きている!」

 デッドプールは血だまりから顔を上げ、まりもを見てヘラヘラと笑っている。

 呆けていたまりもは我に返り、腰に下げていたホルスターからUSPを取り出しデッ

ドプールに突き付けた。

「一つ教えてやるよ。ゆーこせんせーも知らないとっておきの秘密だぜ?」

「貴様、まさか……新種のBETAか?」

「あんなモンと一緒にすんじゃねえよ、俺ちゃんに頭を齧る性癖はねえ。いいか、耳かっ

ぽじって聞いとけよ?」

「動くな!」

 デッドプールは立ち上がり、まりもと正面に向き合うように歩き出した。

 まりもは睨みつけ、銃口をデッドプールの胸元に合わせる。

「俺ちゃんはな、殺しても死なねえんだ。ヒーリングファクターっつってな、受けた傷が

たちどころに治っちまう。おまけに宇宙最強の嫉妬ゴリラに死なない呪いもプレゼン

トされちまってな、たとえミンチになろうが頭だけになろうが元通りだ。羨ましいだろ

?」

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「あと一歩近づいたら貴様を撃つ」

「いいね、強気な女は好みだよ。抱いてよし、ヤッてよし、お前によしって」

 BANG! 

 まりものUSPの吐き出した9㎜パラベラム弾はデッドプールの心臓を貫き、生命活

動を停止させた。

 そのまま仰向けに倒れるデッドプール。

 硝煙を燻らせるUSPを下げ、まりもは睨んだまま目を離さない。

「……」

「……もっとも、死なないってだけで、ゲボッゴホッ、痛覚は、人並みにあるんだぜ。

ぷっ」

「なっ!?」

 デッドプールは上体だけを起こし、口元のマスクをずり上げて弾丸を吐き出した。

 弾丸はマッシュルーミングを起こして変形していた。

 呆然とするまりもに、デッドプールは口端を釣り上げ語りかける。

「さて、と。挨拶はこれぐらいにして今度はこっちが質問する番だな。その前にまず、お

医者さんを呼んでもらおうかな。あ、緑の眼鏡じゃないほうな」

 

46 Unlimitedscene01─2「日本帝国・横浜基地・地下17階・香月夕子の研究室」

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 To be next scene...

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Unlimited02「日本帝国・横浜基地・同基地衛

士訓練学校・第207訓練分隊教室」

 「いっちねんせ〜いになった〜ら、とっもだっちひゃっくにんできるっかなっ? ……

そもそも百人いるかすら定かじゃねーし、生き残ってねえだろ。

 そんな俺ちゃんと友達以上になってくれる人募集中です。あ、女性限定ね。

 俺ちゃんの名前はデッドプール、得意技は人殺しです。これから毎日BETA焼こう

ぜ?」

「真面目に自己紹介ぐらいせんか馬鹿者がっ!」

 まりもの怒声とともに、デッドプールの脳天に拳骨が振り落とされる。

 室内にガコッといったような鈍い音が響き渡る。

「ってーな、チッ反省してまーす。そういやこれ発言したあのモップスノボー野郎今ど

うしてんだろうな」

「貴様いい加減にしないと本気で頭をかち割るぞ」

「イエースマーム。ゴホン、改めて俺はウェイド・ウィルソンだ。コードネームはデッド

プール、こっちの方が気に入ってるから皆そう呼んでくれ。色々あってこの基地で衛士

48 Unlimited02「日本帝国・横浜基地・同基地衛士訓練学校・第207訓練分隊教室」

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として再出発することになった。BETAと戦って体が滅茶苦茶になった挙句記憶が

吹き飛んじまったからな。軍から追い出されて路頭に迷ってたところをミスユーコ

……香月副指令に拾って貰って現在に至ってる。脳がオシャカになったせいで、皆には

苦労をかけるかもしれないがよろしく頼む。

 ……えーと、これでいいんだよな俺ちゃんの設定って」

「知るかバカ」

 デッドプールは時節チラチラと手元にある小さなメモ用紙を確認していた。

 まりもは呆れ顔で、顔に手を当てて仰いでいる。

 教壇の上で、まるで漫才のようなやり取りをしている二人を5人の訓練兵はただ呆然

と見ていた。

(なんだアイツ……あんなの元居た世界にいなかったぞ。まさかアレがすみ……イヤイ

ヤイヤイヤイヤありえないむしろそんなことは1ミクロンたりともありえちゃいけな

い)

(面妖な……しかしBETAと戦い抜いた衛士の末路がこれと考えるならば、我らとて

他人ごとではない。こうならないためにもここでしっかりと研鑽しておかねば)

(また、面倒な奴がきたわね……つい最近入った素人といいそろそろ限界なんだけど)

(……どうでもいいけど、うるさい)

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(はわわわわわわ変態さんだ、変態さんが来ちゃったよどうしよう)

 今入院中でこの場にいない一人を除けば、5人のデッドプールに対する評価は最低で

あった。

   今から二日前。

 基地の地下深く、香月博士のラボではある一人の男によって混沌の渦中にあった。

 眠った霞をベッドに寝かしつけた夕呼は、戻ってくるなり死んだはずの男が立ち上が

り元気に笑い飛ばす様と。

 拳銃を片手に呆然とする親友を見て。

 久方ぶりに大いに心をかき乱されたのであった。

 その後デッドプール本人から不死である理由を聞き取り、その上で今後をどうするか

を決めることにしたのであった。

「そう、殺しても死なないねえ……」

「信じがたいけど、この目で見て確かめた以上否定はもう出来ないわ」

「考えるな、感じろ。俺ちゃんは設定改変でもされねえ限りは死なねえ。細胞ひとかけ

らになってもそっから再生出来るぜ? 再生能力なくなったときもあったけど」

50 Unlimited02「日本帝国・横浜基地・同基地衛士訓練学校・第207訓練分隊教室」

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 夕呼にドタマをぶち抜かれ、まりもに心臓をも貫かれたデッドプール。

 彼に空いた二発の銃創はすっかり消え失せ、最初から何事もなかったかのように振

舞っていた。

 しかし白い床には赤黒い血の池が出来上がっている。

「ヒーリングファクター、これがもし真実ならとんでもないことになりそうね。特にか

の国が知ったなら『殺してでも奪い取ってくる』んじゃないかしら」

「やめてよ縁起でもない。敵はBETAで間に合ってるわよ」

「まあ実際俺の世界じゃ何度もそーいう目にはあってんだけどな。最近だと内臓取られ

て、それをもとに北朝鮮で超人集団を作り上げたりな」

「そう、ちなみに北朝鮮はもう存在しないわ。生き残りは世界各地に散ったみたいだけ

ど」

「ネトウヨ発狂不可避ってやつだな」

「はあ?」

「何でもねえよ、そういやこっちはインターネットってねえんだよな。こんな最新鋭っ

ぽい施設にwifiも飛んでねえし」

 デッドプールはおもむろに、ポーチからiPhoneを取り出す。

 それを見た夕呼とまりもは揃って顔を訝しめる。

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「「なにそれ?」」

「変なとこでハモんなよ、どっちが喋ってるかわかんねえだろ。siri、BETA・倒

し方」

『ネットワークが接続されていません、恐らく人類は滅亡したものと思われます』

「そっかあ」

「喋った!?」

「今のはまりもちゃんか。こう言っておかねえと益々分かんなくなるだろうし」

 目を剥いて驚愕するまりも。

 そもそもこの世界、インターネットは存在するものの大本となった軍用の域から脱し

ていない。

 パソコンもブラウン管だし柔らかソフトもリンゴもクッソ古いバージョンのままで

ある。

 この世界においては、最早ありとあらゆるソーシャルメディアが80〜90年代でス

トップしているのが現状だ。

「ただし戦術機は除くっと。もてる技術力を歩いて飛べる棺桶に全振りしてんだもの、

しょーがねーよな」

「本当に何なんだ貴様は……」

52 Unlimited02「日本帝国・横浜基地・同基地衛士訓練学校・第207訓練分隊教室」

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「俺ちゃんはデッドプール、饒舌な傭兵で、むせる最低野郎だ」

『体臭を治療できる医療施設を検索します……HITしません、この世は終わりです』

「ねえデッドプール」

「はいはい夕呼せんせー、さっきから特徴のない喋り方を必死でフォローしてる俺ちゃ

んの優しさに感動したか?」

「アンタ、ウチで働きなさい」

  ──現在。

(だからって、訓練生の中にねじ込むことないでしょ……)

 教壇の上で、まりもは重苦しくため息を吐いて項垂れる。

 彼女の目前には、机に両足を載せて椅子を傾けて座るデッドプール。

「まりもせんせー今日の授業は何ですかー? 保健体育なら予習復習きっちりこなして

きましたんで、いつでも実習出来ますよー?」

「黙れ馬鹿者ちゃんと席につけ! それから私のことは教官と呼ばんか!」

「ういうい」

「返事はハイだ!!」

 デッドプールの脳天に再びまりもの拳が落とされる。

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 デッドプールは目の端に涙を浮かべながら、殴られた箇所を擦りつつ姿勢を正した。

(すげえ、あの鬼のようなまりもちゃんに物怖じ一つしてねえ。ていうか頭大丈夫なの

か、いろんな意味で)

(何と横暴で、不真面目な輩だ。このような者が衛士だったとは思えん)

(ああもう案の定問題児じゃない。こっちは彩峰で手一杯だっていうのに)

(……あのゲジマユゲ、なぜあの赤タイツと私を見比べた)

(拝啓パパ上、私もうダメかも分かりません)

 五人はそれぞれ異なる感想を持ったものの、皆一様にして呆れた表情を浮かべていた

「まったく……ゴホン、それでは今日の座学は以前やったと思うが我々の敵、BETAに

ついてだ。今回編入した白銀とデッドプールのためにも復習を兼ねて行う」

 まりもは手元のテキストを開き、黒板にBETAと書き記す。

「さて、BETAの正式名称とは何か。榊、こたえ」

「Beings of the

 Extra

 Terrestrial origin which is

 Adversary of human race 

 直訳すりゃ人類に敵対的な地球外起源種、だろ?

54 Unlimited02「日本帝国・横浜基地・同基地衛士訓練学校・第207訓練分隊教室」

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 どっちかっつーと俺ちゃん的にはフォーリナーって呼んだほうがいいと思うんだけ

ど。

 蟻んこみてーじゃん、なんか。あ、でもUFO乗ってないしダメか」

「……デッドプール、貴様に発言を促した覚えはないんだが」

「俺ちゃんの発言がコピペみたいとか思ったやつ、その通りだよ。いちいち文字打つの

めんどくせえんだよ。

 ところでこっちの世界ドーンハンマーとかないの? あれやれば一発じゃん。

 まあやったらやったで今度は衛星まで攻撃目標にされるから無理か。

 やっぱり戦いは数とスピードだよ兄貴その点トッポってすごいよな最後までチョコ

たっぷりだもん」

「おい」

「こうなりゃいっそ死なない人間でも作れば……あ、俺ちゃんじゃなくて異能生存体的

な奴でね。ていうか最初この作品書き起こそうとしたとき冒頭でうまくキャラ把握し

きれてないウォッチャー出しそうになったり、レッドショルダーだの怒首領蜂だの咲だ

の野獣だの福本作品だのいろんな奴のごった煮で出来上がったウナギゼリー以下の汚

物にしかけたこと俺は忘れてねえからな。大体最初っから俺ちゃんがこの世界出身

他の作品

マーベルキャラ

だったら

も登場させなきゃなんねえからもっと訳わからんことになるぞ。そ

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もそもお前シュヴァルツェスマーケンなんざ原作一巻買ってそれっきりにして、アニメ

すら見てねえのによく書き起こそうとしたな。そりゃ冒頭で俺ちゃん死にかけるわ、い

ろんな意味で」

「貴様」

「赤にちなんでレッドショルダーって考え方自体が安直すぎんだよ。そんな行き当たり

ばったりでやったところでエタるのなんか目に見えてんだよ。そもそも安易に作品同

士の擦り合わせや干渉もせずに『イチゴのケーキとラーメン好きだしうまいから合わせ

てやったら美味しいんじゃね』的な思考回路でやって大爆死した作品なんざ山ほどある

んだよ、ラーメンアイス何て代物俺はぜってえに認めねえからな、同じアメリカ人とし

て。俺カナダ人だけどな」

「いい加減に」

「まったく日本国内のこんな場末のSS投稿掲示板とはいえ危うくウェポンⅪ並みの黒

歴史が誕生しかけるとこだったぜ。そういえばみんな俺ちゃんのフィギュア買った?

 すっげえグリグリ動くよ、筋肉マシマシだよ? 布教用観賞用実戦用だぞわかってる

な? ……ってあれ神宮司教官、なんで俺ちゃんの首とケツを掴んでいらっしゃるので

?」

「せんかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

56 Unlimited02「日本帝国・横浜基地・同基地衛士訓練学校・第207訓練分隊教室」

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「アダマンチウムっっ!?」

(((((な、投げたぁっ!?)))))

 まりもの怒声とともにデッドプールは教室の窓を頭から突き破り、そのまま外へと投

げ出された。

 唖然とする訓練生たちに構わず、まりもは教壇へと戻り、教科書を開く。

「さて、授業を始めるぞー」

「ちょ、まりもちゃ……じゃなかった教官! 何平然と授業やろうとしてんですか!」

「何だ白銀、何か問題でもあったか?」

「いやいやいや問題しかなかったですよ? 確かにうるせえなとは思いましたけど窓か

ら投げるってのはちょっと……」

「大丈夫だ、奴はこの程度では死なない。もういいか白銀、これ以上不毛なやり取りをさ

せるなら貴様も投げるが」

「いや滅相もございません教官殿」

「なら座れ。あーそうだ、全員に言っておくがあの赤タイツ……デッドプールが今後あ

のような問題行動を起こした際致命傷でもいいから止めていい。香月副指令直々のお

達しだからお前らも遠慮なく殺っていいぞ」

(((((ええ……)))))

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 まりもは笑顔を浮かべながら、有無を言わせぬような威圧を放つ。

 5人の訓練生は黙って、頷くほかなかった。

  To be next scene...

   omake

「そういやこの時間訓練生の座学の時間だよね」

「うん、千鶴今度は上手くやれるといいなあ……」

「だーいじょーぶよ茜、今度こそ上手くいくって!」

「水月先輩……ありがとうござ」

「アダマンチウムっっ!?」

「いますってきゃああああああ!?」

「ぎゃああああ!! ってあそこ、確か訓練生の教室じゃ……」

「じゃあ、さっき落ちた人って……ひっ、首が」

「まさか敵襲!?」

「うぎぐぐぐぐぐ……まさか廊下で立ってろならぬ校庭に突き刺さってろとはな。ホン

58 Unlimited02「日本帝国・横浜基地・同基地衛士訓練学校・第207訓練分隊教室」

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ト世も末だ、あー首が座んねえ」

「えっ、あ、なんで生きて……」

「は、なにあれ……」

「やべえ、早く治さねえとどこからともなく緑の髪したミザリー衛生兵が現れて、俺ちゃ

んをレディプールに改造してしまう」

「水月先輩、どうすれば……」

「茜……私たちは何も見なかったことにしましょうそうしましょうにげましょう」

「えっ、水月先輩、ちょっ、手痛って、ちょっと待ってぇぇぇ!」

 

こっちの方

アンリミテッド

「ん、あれは……そういやあいつらとの絡みはいつに何のかなあ、

じゃほぼ出

番ないし。こりゃ益々エタりそうだ、今のうちに次の転職先でも探しとくかね」

  とべねくすとしね

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Unlimited03「日本帝国・横浜基地・同衛士訓

練学校・訓練風景」

  基地の横にあるグラウンド。

 そこではまりもに叱咤され、訓練生たちがランニングを行っていた。

「ファミコンウォーズがで〜るぞっ♪ 父ちゃんたちには内緒だぞっ♪ ……おうタケ

ちゃんマン今にもアスガルドに旅立ちそうだぞ、大丈夫か? てかこれで二周回ぐらい

追い抜いたけど」

「ほっといて、くれよ、ひいひい……」

 かなりグロッキーな状態でふらふらと走っている武。

 その横を額に白いテープでバッテン印を付けたデッドプールが悠々と追い抜かして

いく。

「おいおいそんなんじゃヒドラの構成員一人も倒せねえぞ、あそこのタマタマなんか小

せえ割に頑張っちゃってるぜ?」

「ゲフッゲホッ! ちょっ、デッドプール、言い方どうにか、エホッ!」

「おやおや〜チェリーボーイ? 俺ちゃんはクラスメイトのことを言ってるだけなのに

60 Unlimited03「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・訓練風景」

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な〜? いったいナニを想像したんだねタマタマちゃんで?」

「ぐふ、タ、タマタマはやめてくれ……」

(はわわわわわ武さんにデッドプールさん、私の後ろで一体ナニを……)

 むせる武のよこでニヤニヤと耳打ちするデッドプール。

 そんな二人の前方を走る小柄な少女、珠瀬壬姫は顔一面を赤に染めてプルプルと震え

ていた。

 そこに顔を真っ赤にしたまりもの怒鳴り声が響き渡る。

「白銀にウィルソン! 無駄口をたたく元気があるようだな! もう三周追加!」

「そ、そんにゃあぁ、あんまりだァァァァ……ゲフッ」

「よっしゃ、これでジャパニーズガールのガイナキシングをルックし放題ってわけだ。

HEYアヤミー、俺ちゃんとトゥギャザーランニングしないかい?」

「のう、せんきゅー」

「いい加減にせんかウェイドウィルソォォォン!」

   続いて座学の授業。

 といっても、机の上には筆記用具やノート、教科書などはなく、いくつものパーツに

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分解されたアサルトライフルであった。

 武は額に汗を滲ませながら、最後のパーツを取り付けた。

「よっしゃ出来た!」

「遅いッ! どれだけ時間かけてんのよ!」

 武は容赦のない怒声にびくりと肩を震わせる。

 その隣にはストップウォッチを持った榊が険しい表情で見下ろしていた。

「まったく、特別な人間なんて聞かされてたからどれだけの腕をお持ちやらと思ったけ

ど……」

「……お荷物、押し付けられた?」

「あら彩峰、たまには意見が合うわね……なによその顔」

「別に」

 がっくりと肩を落とす武に珠瀬が声をかける。

「武さん、バレルの組み立てが遅いですよ。ここで時間とると後々に大きく響いちゃい

ますよ〜」

「そ、そうなのか。まあ、コツは掴みかけてきたからあともう少し……よしもう一回、今

度こそ時間内に」

「もう今日はここまで!! これ以上やったら日が暮れちゃうわ! ……って何やってん

62 Unlimited03「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・訓練風景」

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のアンタ」

 榊が指を指した先、日が傾きかけ、夕日に照らされた窓。

 そこでデッドプールは窓枠に手をかけ、黄昏ていた。

「やっぱ、一仕事終えた後の夕日は……格別やな。インチョーセンセもそう思わへん?」

「誰がインチョーよ、武といいその呼び方やめてくれる? ていうかアンタの机の上に

あるそれ……何?」

 榊は表情筋を引きつらせながら、デッドプールの机の上にあるモノを指す。

 そこにはアサルトライフルではなく、二つの球体とその間に挟まれるように雄々しい

鉄の棒がそそり立っていた。

 それが何かを理解した女性陣は、彩峰を除いて一斉に頬を赤く染めた。

「このイカレタ時代に対するアンチテーゼって所かな……。ふう、今日の俺ちゃんはそ

このアヤミーのおかげで出すもん全て出し切ったからな、頭が冴えわたってるぜ。あん

なにココロオドル瞬間、十二回ぐらいしか味わったことない……」

「そんなこと聞いてないわよ!! 何をどうやったらあんな……その、そんなモノが出来

るのよ!」

「はわわわわわわわあわわわわわわあうううううううアレって、アレっておちちち」

「落ち着くのだ珠瀬! そしてあまり……見るんじゃ、ない」

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「……まあ立派?」

「ありがとうアヤミー、君のおかげでもう六十回も男汁を」

「それ以上喋るな変態糞タイツ!!」

「アームストロングッ!!」

 榊はアサルトライフルをフルスイングし、机の上のデッカイモノごとデッドプールを

殴り倒した。

「……わーい、時間内に出来たぞー。みんなー見てくれよー成し遂げたぜおーい……ぐ

すん」

 一方タケちゃんマンは、もう一度組み上げたライフルを抱えて一人涙ぐんでいた。

   ──翌日。

「オッハー!! 登校前の小学生の一体何割がおはスタをフルで見られたんだろうな! 

今日もいいペンキ……俺ちゃんあんまし好きじゃねえんだよな、アレ。まあアレも二次

創作の形の一つだろうけどさ、なんか違うんだよなぁ……やっぱおはスタ知らない世代

は心もスレてんのかね。おや?」

 廊下を一人歩いていたデッドプールは、三十メートルほど離れた向かい側に二人の人

64 Unlimited03「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・訓練風景」

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影を見つける。

「あれはタケちゃんマンともう一人……ムムムッ?」

 よく見ると武ともう一人、青いショートヘアの女子制服を着た人と何やら話し合って

いる。

 そして、武が急にその人の後ろに回り込み、あろうことか胸をまさぐり始めたのだ。

「尊人っ、お前いくら何でも女装なんて……!」

「やっ、急に何するんだよやめてよ! ……んっ!」

 向かい側の廊下から響いてくる二人の声。

 一部始終を目撃したデッドプールは思わず目を丸くする。

「な……なんだこれはたまげたなぁ。じゃなくてだ、これは……久々に本業の出番かし

ら。あ、傭兵じゃなくてね」

 デッドプールは背中の後ろに両手を回し……空を切ったところで顔をしかめる。

「そーいや武器全部ゆーこせんせーに取られちったんだった。まああんなキッズの発情

期ぐらい、この神の手と呼ばれたような気がする俺ちゃんにかかればちょろいもんよ」

 両手の指をわきわきと動かしながら、デッドプールは姿勢を低くし足音を消しながら

二人に接近する。

 気配を完全に遮断したデッドプールに、くんずほぐれつする二人は気づかない。

65

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「くっそー俺は騙されんぞ尊人、なんかやけに生々しい感触だがこれだってきっと新素

材の胸パッドか何かを使ってるはずだ!!」

「あっん、やあ……キミ、どーしてそんな上手……じゃなくて、そろそろやめて……」

 このままでは有無を言わさずR─18に突入しそうな、危険な領域に達しつつある二

人の背後。

 武の首に赤くて太い、腕が回される。

 尊人と呼ばれた娘(?)は武の魔の手から解放される。

「警察だ! 暴れるなよ、暴れるな!」

「うがっげ!? デ、デッドプール!?」

「ひゃんっ! ってまた変態が増えた!?」

「落ちろ! 俺ちゃんはね、ホモに見せかけたノンケプレイが好きでも嫌いでもないん

だよ!」

「ちょっま、ぐええ、死ぬぅ!」

「ストップストップ! このまま絞めるとホントに死んじゃうよ!」

「うるせえ! 性の喜びを知りやがって! お前、許さんぞ! 俺ちゃんも混ぜろよ、グ

ギイィ!」

「嗚呼、なんかチャラそうな神の姿が見える……ガクッ」

66 Unlimited03「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・訓練風景」

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「し、知らない変態1号さーん!?」

「落ちたな(確信)」

 このあと、一部始終を目撃していた珠瀬に呼ばれたまりもによりデッドプールは鉄拳

制裁を受け、武は医務室に運び込まれ緑髪の衛生兵の献身的な治療により目を覚ました

のだった。

   それからややあって。

「今日から鎧衣も訓練に合流することとなった。鎧衣、白銀とウィルソンとは初対面だ

ろう、手短に紹介しておけ」

鎧衣美琴

よろいみこと

「二人とも初めまして、ボクは『

』だよ。これからもよろしくね」

「お、おう。俺は白銀武……よろしくな(なんかもうすげーいたたまれねえ……色々と気

まずさがやばい)」

「ウェイド・ウィルソンだ。なんかこんなに本名名乗ったのって中々ないから新鮮だな。

デッドプールって呼んでくれや」

「よろしく、タケルにデッドプール!」

 自己紹介が済んだところで、まりもが手を叩いて声をかけた。

67

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「さて、挨拶はもういいだろう。今日は救命治療の実習だ。仲間の命を救う重要な技術

だ、必ず身につけろ。ふざけてやることは許さんぞ、いいな?」

 ふざけての部分を強調しながらまりもはデッドプールを睨みつける。

 するとデッドプールは背筋を伸ばし、敬礼を返した。

 その目は真剣そのものである。

「はっ、了解であります教官殿! 今回の訓練、自分は真剣に取り組むであります!」

「今回だけじゃなく毎回やってほしいんだがな。では、まず止血の仕方から……」

 そんなこんなで授業は特に滞りなく進んだ。

 今回デッドプールも一切おふざけやジョークを交えることなく真剣に取り組んでい

た。

 思わずまりもも(止めるとき強く殴りすぎたか?)と逆に心配になるほどであった。

 しかし……とある技能訓練にて、悲劇は起こった。

「俺が美琴と人工呼吸!?」

「そうだよ、だからタケル。早く横になってよ」

「ダメだダメだ! それだけは絶対に! 一度閉じかけた禁断の扉が再び開いてしまう

! 今女だけど!」

 人工呼吸を行うため、横になるよう促す美琴に武は必死にNOを突きつける。

68 Unlimited03「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・訓練風景」

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 元の世界では男で親友同士であったためなのか、そんなノンケ故の拒否反応なのか、

それを受け入れる勇気は武にはなかった。

 そんな武を見かねたまりもと冥夜が説得交じりに声をかけ始める。

「何をしている白銀。命が関わる大事な技能だと私は説明したはずだが? 貴様は仲間

を恥ずかしいからなどという理由で見捨てるつもりか?」

「神宮司教官の言う通りだぞ白銀。応急処置技能の有無は仲間の生死を分ける重要なも

のだぞ」

「いや、確かにそうだけど……」

「タケル、ボクとするのは……イヤ? あんなに激しく弄んだのに……」

「だあああそれは言わないでくれ!! 嫌ってわけじゃないけど、俺は……」

 美琴に言われてもなおたじろいでいる武をみかねたまりもは、ある提案を出す。

 ここにいる誰しもが知りつつ、あえて触れなかったことを。

「そうか、白銀。そこまで嫌というならば別に構わん」

「えっ!?」

「しかし神宮司教官!」

「落ち着け御剣。さすがにやらないままというわけにもいかんしな、それに『女』とやる

のがいやなのだろう?」

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 女の部分を強調するまりもは、視線を床に向ける。

 そこには仰向けになり、両手の指を組んだデッドプールが寝転がっていた。

 しかも、マスクをずらしてケロイド状になったおどろおどろしい口元をさらけ出し、

唇をつのり上げていた。

「丁度ここに『男』で今日もっとも熱心に技能習得に励んだ者がいる」

「えっ」

「うわあ、すごいや。デッドプールのマスクの下ってこんなになってたんだ」

「面妖な……」

「さあ、皆! 遠慮することなく俺に生命の息吹を吹き込んでくれ! 死なないけど今

必死に瀕死の状態になってるから! あと三分ぐらいで心肺停止するぞ! その前に

今まで学んだ技術のすべてを俺にぶつけるんだ! 勿論俺たちは仲間だしな、助けてく

れるよな? あ、友情を超えた感情であっても受け入れるから安心してくれっていうか

むしろオールオッケーだ! ハーレムでも可! あ、タケちゃんマンがきたら逆に心肺

停止するから! むしろさせるけど、すまねえな! 友情パワーでも送っておいてくれ

! ちなみに決してやましい感情があってのことではなく」

 大の字に手足を広げ喚くデッドプールに、まりもはどうだと言わんばかりに武に視線

を向ける。

70 Unlimited03「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・訓練風景」

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「で、どうする白銀? ウィルソンはああいってはいるが目を潰し……閉ざしてやれば

出来んことも」

「美琴とやらせてくださいお願いします俺が悪かったです勘弁してください」

 こうした一幕もありつつも、救命治療の授業は終わったのだった。

   後日。

 近くの森林で行われた射撃訓練にて。

「オラアアアアアアアアア死に晒せや糞ッたれがぁぁぁぁぁぁ!! やっぱ俺ちゃんは一

人の方が性に合ってるもんねーだチクショオオオオオオオオ!!」

「すげえデッドプールの奴、アサルトライフル片手だけで撃って全部の的命中させてや

がる……」

「戦闘技術に関してはおそらく神宮司教官より上ではないか、あれは」

「地味に気にしてたのね、人工呼吸の件(おかげで白銀に言いたいこと言えなかったけ

ど)」

「……ドンマイ」

「あうあうあ〜……あんな撃ち方で当たるなんて、これじゃ私の立つ瀬がぁ……」

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 「……さすがに、あとで謝っておこうかしら」

   To be next scene...

72 Unlimited03「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・訓練風景」

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Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓

練学校・特別訓練(?)」

 「ふむ、これが噂に聞きしエンジェルパックとかいう奴ですかな社研究員殿? はたま

たカレンデバイス? やっぱこーいう重ッ苦しい世界にゃ脳みそ缶詰は基本だよねー」

「えっと……その」

 照明の消えている薄暗い部屋。

 そのど真ん中に煌々と青白い光を放っているカプセル状の鞘が一本天井から床まで

貫き立っている。

 その中には人間の脳が一つ、脊椎を垂らして浮かんでいた。

 そしてそのすぐそばには、まるで水族館に来た子供のようにカプセルにベタベタと張

り付くデッドプール。

 そこから五歩ほど引いて佇んでいる社霞がいた。

「しっかしまーなんだね、随分とすっきりしちゃったじゃないの。まあメインヒロイン

も最近じゃあ人外化が流行ってるし、ここまでやらんと人気は保てんよなぁ」

「メインヒロイン……?」

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「俺ちゃんと同じ、主役ってこと。そーいや頭は大丈夫か? あれからゆーこせんせー

が付きっきりで看病してたみたいだけど」

「アンタにだけは言われたくない台詞ナンバーワンね。あれから不用意にリーディング

しないよう調整するのにだいぶ手間取ったのだけど、どうしてくれるのかしら」

「そりゃ仕事するっきゃないでしょー。もっとも商売道具はぜーんぶせんせーが持っ

てっちまったから実質ニート学生だけどネ」

 黒一色の部屋に、エアースライド式のドアが開く音とともに白い光が入り込む。

 この部屋の主である香月夕呼は、デッドプールを憮然とした表情で睨みつける。

「この部屋にどうやって入ったか、なんて野暮な質問はする気はないけど。アンタ霞に

何もしてないでしょうね」

「ああ、何もしてないよ。だからその手に持った拳銃おろしてくれよ。こいつに当たっ

たら何もかもおじゃんなんだろ?」

「……用がないなら出ていきなさい。アンタのような暇人を相手にする時間はないの

よ」

「タケちゃんマンの探し人ってのは見つかったのかい?」

 この部屋のすぐ近くにある夕呼の研究室には、白銀が『とある用事』を伺いに訪れて

いた。

74 Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」

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 その用事とは、白銀の幼馴染・鑑純夏の消息。

 結果としては『そのような人物は存在しない』というものであったが。

「アンタは知ってるのかしら?」

「いんや全然。スミカちゃんなんて人、俺ちゃんは見てないなぁ」

「でしょうね、時間の無駄だったわ。さっさと出ていかないと一生檻にぶち込むわよ」

「おお怖い怖い。んじゃ、俺ちゃんは久々に早寝しますかね。カスミンもちゃあんと歯

磨いてから寝ろよ、夜更かしは健康の敵だぜ?」

 デッドプールはヒラヒラと手を振りながら、そそくさと部屋を後にする。

 ドアが閉まった後、デッドプールは振り返る。

「ホント知らないってのは怖いよな。囚われの姫君、会いたくとも会えない、私はすぐ近

くにいるのにこんなにも遠い、気付いてほしいけど気づかないでもらいたい……いい塩

梅にヒロインしてんじゃねえの純夏ちゃん? さてと、俺ちゃんの探し物は見つかった

ことだしさっさと教室に戻るとするかね」

 四角い輪郭を浮かべるポケット。

 それを撫でながらデッドプールは手首につけたテレポート装置──最新式の腕時計

と適当にごまかして没収を逃れたもの──を起動してその場を後にした。

 

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 「やっほうタケちゃんマン! そんな浮かねえ顔してっとせっかく立てたヒロインとの

フラグが全部俺ちゃんのモンになっちゃうゾ♪」

「おわあっ!? デッドプールいつの間に教室に?」

 教室にテレポートしたデッドプールの目の前には、ちょうど室内に入ろうとしていた

白銀の姿があった。

「俺ちゃんはいつだってどこにだっているのさ……君が覚えている限りね」

「相変わらず訳わかんねえこというなあ……(なんていうか、知り合いばかりがいるこの

環境でたった一人だけこんな奇抜な奴がいるってのが不思議だよな。場違いっていう

かまるで……まさか)」

「なーなータケちゃんマンようー」

「うわっいきなりなにすんだよデッドプール?」

「俺はこことは違う世界から来た超能力者だ」

「えっ!?」

 物思いにふける白銀の肩をおもむろに抱き寄せたデッドプール。

 ふざけた行為とは裏腹に普段のおどけた声色は鳴りを潜め、白刃のごとき鋭さを持っ

た雰囲気を漂わせている。

76 Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」

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「お前もそうなんだろ? 朝起きたらいきなりこんな訳の分からない世界に飛ばされた

……違うか?」

「デッドプール……お前、やっぱり」

「そなたら、何をしておる?」

 呆れかえった声がかかる。

 二人が振り向くと、教室の入り口の前では御剣が立っている。

 その後ろでは仏頂面の榊、気まずげに微笑む鎧衣、はわはわと慌てる珠瀬、寝ぼけ眼

をこする彩峰が立っていた。

「貴方たちよくつるんでると思ってたけど……はあ、そーいうのは他所でやってくれる

?」

「うーんと、愛は人それぞれだと思うから。ボクは別に否定はしないよ、うん。あはは」

「はわわ……タケルさんとデッドプールさんが、はわわわわ……」

「……不潔?」

「ちょ、待てよ! 別に俺はそーいうケは全くないって!」

「んまーひどぅいわたけるちゃん! あたいとは遊びだったのねん!」

「変なこと言うなデッドプール! てか頬ずりするな気持ち悪い!」

 

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「朝から騒がしいなお前ら。……で、白銀にウィルソン。一体この教室でナニをしてい

たか説明してもらおうか?」

 さらに御剣たちの後ろには、眉を引きつらせながら笑っているまりもが立っていた。

 「違うんだ、俺はれっきとしたノンケなんだぁぁぁぁ!!」

「俺ちゃんアルバイトォォォォォォォ!!」

「黙れ馬鹿ども!!」

 野郎二人の悲鳴と鈍い音が二発、教室中に響いたのだった。

 「ちっくしょう、あの赤タイツ野郎のせいでとんでもない目にあった……。俺がホモ

じゃないこと説得するのにほぼ丸一日使ったようなもんだよ今日」

 白銀は自室のベッドに寝転がり、深いため息をついた。

 ダブルピースをしながらへらへら笑う赤タイツ男の姿が頭を過ぎる。

「それでもみんなの視線がどこか冷たいし、なんとなく一歩引かれてるし……純夏ッ

シュ、俺もう疲れたよ」

 ごろりと寝転ぶと、枕元に置いておいた『ゲームガイ』が目に映る。

 それを手に取ると、電源を起動する。

78 Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」

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 ほどなく本体のスピーカーからは軽快なBGMが流れ始め、画面には何度も見慣れた

バルジャーノンのゲームタイトルが踊る。

 見慣れたもの……それを意識した途端『元の世界』での出来事が泉のように湧き上が

る。

 そこでも日常とは程遠い出来事のオンパレードではあったが……いつしかそれは忘

れえぬ大切な思い出にへと昇華していた。

「何でもないようなことが幸せだったと思う、ってなんかの歌であったけかな……」

 不意に目頭が熱くなる白銀。

 なんとなく意識しないようにしていたが、いざ自覚してしまうとそれは止めようがな

く。

 やがて鼻がツンと熱くなり、目の端から零れ落ちていく。

「……帰りてえな」

 唐突に、ドアがノックされる。

 白銀は慌ててゲームガイの電源を消すと、目元を拭う。

「白銀……少しよいか?」

「冥……御剣か。開いてるよ」

「そうか、では中に入るぞ」

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 程なく御剣が小脇に一冊の本を持って入ってきた。

 白銀の少し赤い目を見た御剣は申し訳なさそうに顔を伏せる。

「その、今朝は済まなかった。軍の男同士は衆道に目覚めやすいという噂話を耳にして

いたのでな、それでつい誤解してしまった」

「いや、誤解が解けてくれてこっちとしてはそれだけでもいいんだよ」

「他の者たちは未だ疑念を抱いたままでいる。私から後で説明しておこう。……む、何

だそれは」

 御剣は白銀の後ろ、枕元の隣に置かれたゲームガイを見つける。

携帯型GPS

ディ

「それは

ではないか。前線の兵士にしか支給されぬものが何故ここにある

?」

「プレアディス? いやこれはゲームガイっていってな」

「ゲーム? これがか……むおっ」

 ゲームガイを手に取った御剣は、無意識に本体の電源を入れた。

 再びBGMとともにバルジャーノンが始まる。

「なんなのだこれは、どうすればよいのだっ」

「まあそう焦んないで。まずはAボタンを押してスタートだ。そっからは……まあ全ク

リしたし俺のデータでやってもいいか。ちょっと進め方教えるから横いいか?」

80 Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」

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「う、うむ」

 初めてのゲーム機に戸惑う御剣の横に白銀が立ち、解説していく。

「そう、ここで機体を選ぶわけだが」

「これは戦術機か!? それも見たこともないものばかり……」

「初心者はこれがおすすめだな。選んだら難易度を選んでバトルスタートだ」

「なんと、戦術機同士で戦っているぞ!」

「右の十字キーで移動、Aボタンでパンチ、Bボタンでジャンプな。Aボタンを連続で押

せば連続攻撃出来るから、おっと回避だ」

「しかし攻撃中に機体は動かせぬぞ」

「いや、普通に動かせるぞ。ただ攻撃動作はキャンセルされるけどな。そーいう場合は

移動しながら攻撃して……」

「なんと! うぬぬぬ、小癪なやつめっ。ほっはっ、ああっ」

 御剣の操る機体はあえなく爆散し、画面に『GAMEOVER』の文字が表示される。

「ゲームオーバーと出たぞ」

「やられちまったからな、まあ最初はしょうがないか。難易度をイージーにすりゃよ

かったな」

「ぬう、しかしこれは……信じられんな! この画像の鮮明さといい何もかもがプレア

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ディス以上だ。こんな機密情報クラスの精密機械がゲームとは……」

 目を白黒させていた御剣だったが、やがて画面から目を離すと白銀を睨みつけた。

「あ、あれ? もしかして……怒ってらっしゃる?」

「……白銀よ。正直に申せ。そなたは一体何者だ!」

「な、何者って俺は」

「このようなものを個人で所有など、本当にこの国の人間か? 場合によっては軍法会

議ものだぞ!」

「ぐ、軍法会議ってそんな大げさな!」

「そなたは特別な人間と聞かされていたが……いくら何でもこれは不自然だ。さあ正直

に申せ!」

 狼狽える白銀に一歩、御剣は詰め寄る。

「そなたの目的は一体なんだ! そなたは一体そこから来た!?」

 「ういい〜〜〜っす、たっけちゃ〜〜んま〜〜〜〜ん♪ どうも〜〜〜愛しのデップ─

が遊びに来ちゃったぜ〜〜〜……ってあら? もしかして……お取込み中?」

 緊迫した空気をぶち壊すかのように、妙に間延びした声とともにデッドプールが入り

込んできた。

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 御剣はデッドプールが邪魔だと言わんばかりに睨みつける。

「ウィルソン殿か。まさしく今は取り込み中だ、後にせよ」

「んも〜デッドプールでいいってみっちゃんよお。あ、それってもしかしてVITAか

? 丁度よかった、今日ゆーこせんせーから取り戻してきたんだけどさあ、俺ちゃん充

電器うちに置いてきちゃってさあ。タケちゃんマンなら持ってるかな〜って来たんだ

けどお」

 デッドプールは照れくさそうにポケットから、すっかり電源の切れたプ〇イステー

ションVITAを取り出す。

 それを見た御剣だけでなく、白銀も思わず驚愕で目を見開いた。

「な、ウィルソン殿。そなたまで持っていたのか!?」

「なんだそりゃ!? 画面デカッ!? 色黒っ!?」

「おいおいなんだよそんな驚くことねえ……ってそういや今って2008年だったな。

PSP─1000がバリバリ全盛期の頃じゃねえか。つーかそもそもこっちにゃPS

Pすらねえだろうし……あ〜あ骨折り損か」

 がっかりするデッドプールに、御剣は険しい顔で近づいてくる。

「どうやら白銀の持っているものとは少し違うようだが……やはりそれもゲームなの

か」

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「ゲーム……なのかね、一応。音楽聞けたり動画見れたりインターネット出来たり色々

出来るけど。ていうかむしろゲームがおまけ? 的な」

「な、なんだそりゃ!? 最早それゲーム機ですらねえだろ……ってかまるでパソコン

じゃねえか」

「おいおいタケちゃんマンよ、最近じゃVITAすら時代遅れに片足突っ込みかけてん

だぜ? 画質は劣るがスマホの方が電話もできるしメール……はLINEとかTwi

tterとかフェイスブックあるからあんま意味ねえか。まあ片手でパソコン一台も

てちゃうような時代なんだぜ今は」

「デッドプール……そういや今朝すったもんだあって聞けずじまいだったけどやっぱり

お前……それも俺とは違うどこか別の」

「二人で盛り上がっているところ失礼するがッ!」

 御剣は一喝し、二人をギロリと威嚇する。

「そなたらの話はMPのほうにじっくりと聞いてもらうのだな」

「え、MPって……」

「ミリタリーポリス、早い話が憲兵、警察ってことだよタケちゃんマン」

「ちょ、待て冥夜! 本当のことをいうから待ってくれ!」

 慌てて部屋から出ようとする冥夜を止める白銀。

84 Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」

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 一呼吸置くと、意を決して口を開く。

「実は俺は……国連軍によって秘密裏に秘密裏に教育された、スーパーエリートソル

ジャー部隊の隊員なんだッッ!!」

 ……沈黙が辺りを覆う。

 やがて御剣はため息をついて、再びその場を後にしようとする。

「話はそれだけか、ではMPに……」

「いや、本当だって!」

 「待つんだみっちゃん……いや、御剣冥夜訓練生」

「っ……!?(なんだこの異様な殺気は!?)」

 御剣を阻むように、目の前に立ちはだかるデッドプール。

 しかし身体中からじわりと只ならぬ気配を滲ませ、御剣を睨みつける。

「白銀……ホワイトシルバーの言うことは本当だ。俺たちは……アメリカ主導の『ウェ

超人兵士

ミュータントソルジャー

ポンX計画』によって生み出された『

』だ」

「ミュータント、ソルジャー……」

「今日のBETAとの終わりなき戦いが始まってから、国連内部では圧倒的強さを誇る

BETAの能力を人間にも付加できないかという議題が予てより挙がっていた。かつ

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てソ連がBETAとのコミュニケーションを図るべくESP能力者を発見・輩出したよ

うにアメリカは、BETAの特殊な能力を人間に合わせることで戦術機を使わず生身で

BETAどもと渡り合えるようにしようとしたわけだ」

「そんな馬鹿な……」

「世界各国から選りすぐった優秀な研究者・技術者、最新の設備に『賢者の遺産』と呼ば

れる莫大な資金のもと、計画はスタートした。だがその実験は苛烈を極めた……最初は

志願者も多かったが倫理観をまるで無視した実験の数々に、多くの人間が二度と太陽を

拝むことなくこの世の闇へと姿を消していった。そんな気配を察したのか人は次第に

寄り付かなくなっていった。だから今度は戦傷者や不治の病にかかったものといった

ものを集めだした。俺や白銀もその一人だった。俺は驚異的な回復能力を得たが代わ

りに一生消えない傷が体を覆いつくしてしまった。これがその証拠だ」

 デッドプールがマスクを拭う。

 ケロイド上の皮膚が張り付いた、筋繊維むき出しのおどろおどろしい顔がさらけ出さ

れた。

 顔を蒼白にする御剣と、その背後で口元を押さえて必死でこらえる白銀。

「さらに俺と白銀は目からビームを出せる手術をされそうになったが……直前で香月博

士が俺たちを助け出してくれたんだ。ちなみに白銀は薬物投与されただけで超能力の

86 Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」

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類は発生してない。ただ当時のことは一切忘れたが……まあ忘れたほうがいいな、あれ

は。ただ計画自体は未だ生きている。奴らは今後一切俺たちに手を出さない代わり一

つの要求をしてきた。それが……これだ」

 デッドプールは手にしたVITAを御剣の眼前に突き出す。

「このゲームをプレイし、その結果を香月博士を通して報告する。期限はこいつの電源

が切れるまで。それまでは一日たりとも欠かしちゃいけない。もし一日でもプレイす

アポトーシス

るのをやめたら……体内を循環するナノマシンが心臓の細胞を

させる。これは白

銀も同様だ」

 白銀は思わず胸に手を当ててしまう。

 御剣はすっかり信じ込んだようで、悲痛な面持ちで白銀とデッドプールを見る。

「俺はもう解放されたが白銀はまだみたいだな……まあ手術前に逃げられたしその当て

つけの意味も兼ねてるんだろうな。その分だとまだクリアできてないみたいだな。今

日の日付が変わるまではあと二時間弱、出来なきゃそれが寿命になるってわけだ。さ

て、御剣訓練生。俺たちの立場はわかってくれたな?」

「あ、ああ。すまないウィルソン殿、白銀……私はそなたらを誤解していた。思えばどこ

か浮世離れした所作もふざけた言動も、全てはこの暗き過去に我らを気づかせぬための

ものだったのだな」

87

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「まあ元からってのもあるけどな……さて。ここまで話しておいて何だが、当然こいつ

は極秘事項だ。ここは香月博士のお膝元、盗聴盗撮の類は今のところ見られないが、さ

すがに国連軍である以上人の出入りがある。いつだれが聞いているかわからん、くれぐ

れも口外するなよ。……俺は仲間まで手をかけたくない」

「うむ承知した。そうだ白銀、これはそなたに返そう」

「え、あ、ありがとう冥夜」

「礼など良い、早くゲームを! クリアせねば、そなたはっ……!」

 感極まったのか涙ぐむ御剣に、突飛な状況に困惑する白銀。

 どうすれば良いか白銀はデッドプールに視線を泳がせるが、ウィンクしたのちサムズ

アップしながら部屋を出ていこうとする。

「じゃあ、俺ちゃんは先に部屋に戻ってるからな。タケちゃんマンにみっちゃん、ゲーム

は1日1時間だZE★」

「ちょ、待てデッドプール!」

「白銀よこうなったら一刻も早くこのゲームの電源を使い切るのだ! 私も付き添う、

そなた一人で死と隣り合わせの苦しみを味合わせはせぬ!」

「んじゃ、バッハハ〜イ」

 白銀の命を救わんと燃える御剣に、ゲームガイをもって混乱の極みの白銀。

88 Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」

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 そんな二人を尻目に意気揚々とデッドプールはその場を後にしたのだった。

  「そ・れ・で。二人そろって私の座学がそんなに退屈で仕方なかったか? んん?」

 青筋を立て仁王立ちするまりもと、正座する白銀と御剣。

 前者はともかく、文武両道・品行方正が人となっているような御剣が『居眠り』で叱

られるという大変珍しい光景にクラスは騒然となっていた。

「いや、神宮司教官。これには事情が……」

「ほう、なんだ御剣。言ってみろ」

「それは、白銀が……あっ(そうだ、このことは誰にも言ってはならぬのだったな。ぬう、

一体どうすれば)」

「白銀と……? 貴様ら夜通しともに『ナニ』をしていたのか教えてもらいたいものだが

?」

「ちょっ、その言い方はまずいですよ!」

 まりもの意味深な物言いに再びざわつく教室。

 御剣と白銀は顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。

(なんてこと……まさか御剣が、白銀と。た、確かに顔は悪くないけどっ、それでも)

89

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(人は見かけによらないって父さんいつも言ってたけど……意外と大胆なんだね)

(大人の階段のぼる〜私はまだシンデレラです……もし私にそういう時が来たらパパ

……どうなるのかな?)

(……ゆうべはおたのしみでしたね?)

 「まーまーそこは大目に見ましょうよせんせ。青少年何てやらかしてなんぼなんですか

ら〜」

「トラブル筆頭の貴様が言うか、ウィルソン」

「まあ、俺ちゃんなんて常時下半身のフレンズがすごーいことになってますからね。ど

うです先生、今夜貴女のお部屋にお邪魔しても……」

「殺すぞ」

「とうとうオブラートどころか塩酸入った飴ガラス瓶投げつけられちゃった、でもでも

? 素直になれないアイラーヴュー? お願いティーチャーアイウォンチュー?」

「ならば今すぐアイキルユー」

「でもこれって君の愛なのぉぉっぉぉぉぉぉぉ……」

 まりもによって窓から投擲されるデッドプール。

(白銀よ……今夜もすまないが)

90 Unlimited04「日本帝国・横浜基地・同衛士訓練学校・特別訓練(?)」

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(あれだけやったのに、まだやるのか……)

「き・さ・ま・ら。こそこそ随分と仲睦まじいことだな? 今から行うランニングは二人

そろって十周多くしてやる。感謝しろよ?」

「そ、そんなっ」

「あ、あんまりだぁぁぁ……」

 その後ゲームガイの電源が完全に切れる三日間、このようなやり取りが御剣と白銀に

交わされたのだった。

   To be next scene...

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 Unlimited05「日本帝国・南の孤島・総合戦

技評価演習」

   やっほーみんなー元気ー? 俺ちゃんだはデッドプール。

 今お前等の脳内に顔面アップして語りかけている。

 な〇う特有の一人称小説にジョブチェンジしたのかって?

 大丈夫、すぐ地の文に切り替わっから。

 何だか約二年ぐらい放置プレイ食らったような感覚したけど、一週間ってホントあっ

という間だよねー。

 そういやみんな観た? 何ってもー決まってるだろ?

 映画だよ映画。

 俺ちゃんもー感動しちゃって、4回ぐらいここから抜け出して

  ドスンッ

 

92  Unlimited05「日本帝国・南の孤島・総合戦技評価演習」

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 わぺっ、口と目に砂が……ああと、なんだったっけ。

 そうそう、どんな映画観たのって決まってんじゃん。

 ジョー

  ドシュンツ!!

「ブフッベッ! だーーーもうてめえらぁぁぁ! 今俺ちゃんが喋ってる最中だろうが

神妙に致さんかい!!」

「ひゃあ!? ごごごめんさいデッドプールさん!」

 砂浜から『顔だけ』出して怒鳴り散らすデッドプール。(あっこっから地の文な)

 視線の先には、水着姿の壬姫が身長の半分くらいはある棒を片手に涙ぐんでいた。

「たま、惜しい。もう少し右だった」

「彩峰ェ……あんたもスイカの気持ち体験をご所望かしら?」

 バレーボールを千鶴の顔面へジャストミートさせつつ、壬姫にアドバイスする慧。

 千鶴が青筋を浮かべてボール片手に慧に躍りかかるも、カンフーアクション並みの攻

防を繰り広げる。

ウィルソン殿

「ふむ、スイカ割り……だったか。あえて

とスイカを並べ、視界が遮断された状況

助言サポート

から仲間の

を受けつつ、スイカと仲間を正確に見極め任務を遂行させる……中々奥

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が深いモノだ」

「なんだか今回のボクらのやってのけたことと似てるよね。仲間と助け合って目的を達

成するってさ」

 ケラケラと能天気に笑う美琴に、真剣な顔で納得したように頷く冥夜。

 じりじりと照り付ける陽光。

 穏やかに波打つ砂浜。

 その先の陸地は、鬱蒼とした木々の広がるジャングルと断崖のある険しい山々。

 デッドプール達207Bメンバーは現在、名もなき南の島へと訪れていた。

 理由は単純明快。

 総合戦技評価演習……訓練生が『衛士』になるための最後の試練を成し遂げるため。

 されど今までの訓練とはまるで訳が違う。

 限られた物資、約1週間ほどの期間で任務を達成し生き延びる……。

 それだけではなく、センサー感知式の実弾入り砲台や、海岸に止めてあったボートで

脱出目前と思いきや燃料は空……底意地の悪い人間が考えたとしか思えない罠が各地

に張り巡らされている。

 実戦さながらのこの演習、最悪命を落とす場合もある。

 

94  Unlimited05「日本帝国・南の孤島・総合戦技評価演習」

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 だが、彼らはやってのけた。

 コンマ数秒のギリギリのタイミングだが、無事試験には合格。

 衛士としての、第一歩を漸く踏み出すことが出来たのである。

「ただし戦術機に乗れるとは言ってない。しゃーねーよだってここUL世界だもの。み

つを」

「みつを?」

 一人ごちるデッドプールの前には、目隠しをして棒を高々と頭上に構える慧の姿が

あった。

「たわわに実ってるもの、絶壁なもの。みんな違ってみんないい。だって人間だもの。

北原白秋」

「……慧さーん、もうちょっと左向けばスイカに当たるよー」

「わかった」

「ちょ、待てよ!(KMTK) 騙されるなアヤミー、そいつは滅亡迅雷netの洗脳だ。

奴らの言葉に耳を貸すと腹筋が崩壊したり、渡米して筋肉修行に失敗したりするぞ」

 デッドプールは慧と美琴、両者の胸部を見比べうんうんと一人心地る。

 それが癇に障ったのか、美琴は黒い笑みを浮かべてデッドプールに天誅を下すべく慧

を誘導する。

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 「ちょっ待って、助けて! 助けてくださいお願いします! ワアァァァァァ!?(キャラ

ついで頭部崩壊)」

 慧の振り下ろした棒は、デッドプールの脳天を正確に捉えたのであった。

 一方、デッドプール達から少し離れた場所。

 訓練終了直後、今の今まで気絶していた武は一人砂浜に体育座りしていた。

「ついさっきまで気絶してた俺を差し置いて、楽しそうだなーアイツら」

「ハァ……何をしてるんだあいつらは」

「あっ教官」

 武の背後に立つまりもは、呆れた様子でデッドプール達を見てため息を漏らす。

「白銀、その様子だと大した後遺症もなさそうだな」

「俺、最後の方辺りの記憶がほぼないんですけど……あの様子だと、合格出来たんですね

俺たち」

「ギリギリだったがな。まあ間に合ってはいたし及第点だ。いつまでもここで道草を食

うわけにもいかんしな」

「そういやデッドプールのせいで文字通り道草食わされたんだよなあ、俺たち」

 遠い目をして試験を振り返る武。

96  Unlimited05「日本帝国・南の孤島・総合戦技評価演習」

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 数多の障害があった試験であったが、その大体は仲間の力で乗り越えられた。

 デッドプールという最大の障害を除いては。

「そういえば随分とウィルソンが袋叩きにされてるな、文字通り」

「アイツのやらかしたことだけまとめて、今日までの出来事で小説が書けそうですよ。

夕食に笑いタケ盛られそうになった委員長と彩峰が、二人で協力してデッドプールを

キックで崖から蹴り落して友情が芽生えかけた所なんか見てて感動したし」

「なら今から衛士返上で小説家にでもなるか白銀? その場合貴様はここで一生置いて

けぼりだが」

「こ、言葉の綾ですよ!」

 慌てふためくたけるに、まりもはふっと優し気に微笑む。

「冗談だ。それよりいつまで座ってるつもりだ、遊べるうちに遊んでおけ」

「良いんですか、こんなことしてて? 戦時中なのに」

「戦時中だからこそ楽しめるときに楽しまねばな。それに基地に帰ればもう〝衛士〞

だ」

 こんなふうに遊べる時間は、もうほとんどないだろう……。

 まりもの寂しげな呟きは、武の耳に残った。

「教官……でも俺、何もできませんでしたよ。みんなの足を引っ張ってばかりで」

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「そんなことはない、お前はお前なりに良くやった。私が口にすべき事柄ではないだろ

うが、彼女たちは色々『訳アリ』でな。各々優秀ではあるが、小隊としては最低限の結

束しか持ち合わせていなかったように見える。そんな彼女たちを結び付けたのは、外な

らぬお前の成果だ」

「でも、俺は大それたことなんて何もしてませんよ……」

「なに、変な形のピースが混じると、逆に崩れにくくなるよう結束するものだ」

「変な形……」

 武の視線の先。

 砂浜から抜け出し、覆面以外何も着けてないデッドプールが踵を返し駆け出す慧を追

い回す。

 背後から千鶴のドロップキックを食らい、治りかけの頭から血を噴いて波間に沈む

デッドプールに、慌てふためいて駆け寄ろうとしてこける壬姫。

 それを見て腹を抱えて爆笑している美琴。

 一連の騒動を武とまりもは呆然と見ていた。

「あれも……結束に欠かせないピースなんですかねぇ」

「白銀、あれはジョーカーというんだ。所謂反則だから参考にするな」

「おっす」

98  Unlimited05「日本帝国・南の孤島・総合戦技評価演習」

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「おーいタケちゃんマンやーい! スイカ割りやろうぜー! お前がスイカだがな!」

「やめぬかウィルソン! 武は先ほど目を覚ましたばかりなのだぞ!」

 武の目前まで、いつの間にやら棒を振りかざして接近してきたデッドプールに、冥夜

が羽交い絞めにして止めにかかる。

「HA☆NA☆SE☆! あっやっぱもっと抱きつけ! 背中に程よい感触がする! 

NT寝

……一人くらい、

ってもバレへんか」

「こ、この痴れ者っ!」

「出会いたい!(遺言)」

「あっデッドプールお前ふざけんな! 冥夜は俺の(親友)だぞ!」※()内の台詞は言っ

てないよ。教えてあげてる俺ちゃんってばマジ親切

「なっ武!?」

 顔を真っ赤にする冥夜と、彼女の貞操の危機に勇んで駆け寄る武。

愛刀皆流神威

 冥夜にセクハラした結果、彼女の手でどこからか取り出した

でもって鞘付きで殴

り倒されるデッドプール。

 それを尻目にまりもはその場を後にした。

 横浜基地にいる夕呼へ、試験が完了し全員合格したことを無線で報告するために。

 

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「今日は存分に楽しめ……これからが本番だ」

  これから少年少女の訓練兵から、死地へと赴く衛士になる6人。

 『死の八分』から少しでも遠ざかってくれることを祈った。

   To be next scene...

100  Unlimited05「日本帝国・南の孤島・総合戦技評価演習」

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Unlimited06─1「日本帝国・横浜基地・同基

地戦術機ハンガー」

  デッドプールは激怒した。

紫色の魔女

 必ずや、かの邪知暴虐たる

を物理的に仕留めねばならぬと決意した。

 デッドプールに政治はわからぬ。というかそもそも興味すらない。

 どのような複雑怪奇な背景や事情があろうと、ヘリウムよりも軽い口と引き金でもっ

て物事を解決してきた。

己の玩具

 だが彼は人一倍、

には関心を寄せていた。

  故に。

 惨劇は起きた。

 「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「デッ……デッドプール……嘘だろっ!?」

 

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「無礼者めが……大人しく謝ればそれで済んだことを」

  デッドプールは赤黒い血を吹き出して、地に倒れた。

 目の前に立つ、紅の帝国斯衛軍にあっという間に袈裟斬りにされて。

 彼の視界が歪み掠れていく。

 「まだ動けるのか!?」

 デッドプールは渾身の力を振り絞って、左手の人差し指を上部に差し出す。

 帝国斯衛軍の白服三人組は、その脅威の生命力に目を剥いた。

 「俺ちゃんは止まらねえからよ……連載が止まらねえ限り、その先に俺ちゃんはいるぞ。

だからよ……」

  止まるんじゃねえぞ。

  人差し指の先から、真っ直ぐと血が伝って伸びていく。

 饒舌なる傭兵、デッドプール。

102 Unlimited06─1「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー」

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 彼の目が再び開かれることはないだろう。

    冒頭より、時間は遡って。

戦術機格納庫

ガー

 武はデッドプールとともに

へと向かって歩いていた。

「〜〜〜〜♪ 〜〜〜♪」

「い、いやに上機嫌だなデッドプール」

「あったぼうよタケちゃんマン! なんせ今日はお待ちかねのアレが来るんだろ?」

 デッドプールはニコニコと表情を緩ませて、武の肩を掴んで引き寄せる。

「おわっと!? 確かに俺も……戦術機だっけか。ゲームとかでしか見れない人型ロボッ

トを実物で乗れるようになるのはワクワクするな」

「よーやくだよ……ホント。ここまで本当に永かった。戦術機も出てこないとか、Mu

v─luvタグ詐欺だから外せって何度コメントしかけたことか」

「お、おう……(コメント?)」

「だがこれで漸く俺ちゃんの新しいおもち……相棒とチームアップ出来るワケだ。そう

いやタケちゃんマンフラグ建設は順調?」

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「今おもちゃって言おうとしたよな……ってフラグ? この基地の国旗あげてるの職員

の人だろ?」

「……ハァーーー あ ほ く さ。毎朝お前を起こしてくれる幼馴染系幼女も堕とせ

ないとか……やめたら主人公?」

「なんで霞が部屋にくるの知って……ってか堕とすって! 流石に未成年に手を出すの

は犯罪だろ!」

「ここがエロゲ世界なのが運の尽きだったな、タケちゃんマン。大丈夫だよ安心しロッ

テ。例えヒロインが中学生2年生だろうと、OPで登場人物は全員18歳以上ですって

言っときゃ上手く丸く収まっから」

「何の話だよ!?」

 そうこう言っているうち、武たちはハンガーにへとたどり着く。

 すでに搬入作業が始まっているらしく、出入り口から重機の重々しい音が鳴り響いて

くる。

「あったけるさんにデッドプールさん!」

「たま! ここにいるってことはみんなも……」

「みんな中にいるよ! それよりも……ほら!」

 壬姫に促され、ハンガーへと入った二人。

104 Unlimited06─1「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー」

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 目前には、青を基調とした機体『吹雪』が鎮座していた。

「はぇ〜すっごい大きい。これが吹雪かぁ……」

「なんか芋っぽくねえよなぁ。吹雪と言えばしばふ芋だろJK」

「芝生芋って何ですかデッドプールさん?」

「食べた者を瞬く間に田舎の女子中学生に変えてしまう植物だよ、Msタマタマ。あと

何かとパンチラが多発するようになる」

「そ、そんなみょうちきりんなお芋さんがあるんですか……」

「デッドプール、たまに変なこと吹き込むなよ……」

「戦術機の前でなに変な芋談義してんのよ」

「あっ委員長もいたのか」

 3人の前にあきれ顔の千鶴がやってくる。

「デッドプールにせっかくの戦術機を台無しにされないか見張っとく必要があるでしょ

?」

「失敬な! 俺ちゃんが相棒にナニもするわけないジャマイカ!」

「じゃあその背後に隠し持ってる赤と黒の塗料スプレーをどうするのか、説明してみな

さい」

「俺ちゃんの相棒にはまず御揃いのマスク被ってもらわないとネ!」

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「ギルティ!」

 千鶴はデッドプールに掴みかかろうとするも、ひょいひょいと躱されてしまう。

「くっこのっ……! それを渡しなさい!!」

「え、やだよ(笑) ほれほれ〜い、実技断トツ一位の俺ちゃんを早く捕まえてごらんな

さ〜い」

「 つ か ま え た 」

「ヌッ!? この背中の幸せをもたらす感触……アヤミー!」

 小躍りしておちょくるデッドプールの背後から、慧が羽交い絞めにする。

 それまではしゃぎ回っていたデッドプールは、途端に目じりを緩ませて大人しくな

る。

「アヤミー、今から俺ちゃんのジプシーデンジャーでタンデムしないかい?」

「やだ(無慈悲な即答)」

「よくやったわ彩峰、さあまた頭をかち割ってやるわ」

「ちょっと委員長! 鉄パイプはまずいですよ!」

「大丈夫よ、あの試験で此奴がちょっとやそっとのことじゃ死なないって分かったし」

「脳天割りがちょっとのことなのか!?」

「はわわわわ」

106 Unlimited06─1「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー」

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 千鶴の手には鈍く光る鉄パイプ、このままでは再びデップ─割りが行われてしまう。

 デッドプールは慧に耳打ちする。

「アヤミー……背中越しの胸部圧迫に免じて俺が焼きそばパンを調達してやろう。そこ

で一つ頼みがある」

「やきそばパン? よくわからないけど何だか素敵な響き。何?」

「目の前の怪人ゲジ眼鏡を一緒に倒そう(TALK 114514% 大成功!)」

「引き受けよう」

「なっアンタ裏切ったわね!」

 デッドプールから身体を離し、千鶴の前でファイティングポーズをとる慧。

 その目はまるで椎茸の切れ目の如く、怪しく光っている。

「丁度いいわ……二人まとめて戦術機の血錆にしてやるわ」

「戦術機(鉄パイプ)ってなんだよ(当然の疑問)」

「そのゲジマユ……悪魔に憑りつかれている!」

「三人ともやめロッテ! たまが怖がってるだろ!」

「はわわわわわ喧嘩はいけないのです(INDM)」

「貴様ら……ハンガーで何を騒いでいるかっ!」

戦術機見物

まりもの説教&鉄拳制裁

 こうしてデッドプール達の

で一端収束したの

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であった。

「まったく、貴様らという奴は……榊。小隊長のおまえまでこの有様とはな」

「申し訳ありませんでした。……ッ」

 叱られ脳天に拳骨までもらった千鶴は、同じく頭部にたんこぶを作っているデッド

プールと慧を涙目で睨む。

 対して両者ともにどこ吹く風、デッドプールに至っては後ろ手を組んで口笛を吹いて

いる。

「ボクが呼んでなきゃ営倉入り不可避だったんだから感謝してよね、タケル」

「美琴ぉ……俺とたまに至っては完全な被害者だぞ今回は」

 まりもを読んだ当の本人、美琴は頭を擦る武に笑いかける。

「ところで冥夜はここにいないのか?」

「あっちのほうにいるよ」

 美琴が指さす先、武たちよりも離れた場所に冥夜は一人佇んでいた。

 彼女の視線の先には、横向きになってカバーが掛けられている一つのコンテナがあっ

た。

「冥夜……何見てんだ? あのコンテナにも戦術機が……?」

 冥夜は武たちにも目をくれず、コンテナを見つめている。物憂げで、どこか煩わしさ

108 Unlimited06─1「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー」

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も混じったような眼。

 一方、デッドプールから塗料を取り上げたまりもは詰問を開始していた。

「それで、ウィルソン? 貴様この塗料で何をする気だったか説明してもらおうか? 

弁明は結構だぞ、どのみち貴様は懲罰房逝きだ」

「懲罰房(横浜調教センター)ですねわかります。始めは鞭責め、逆さづりで力いっぱい

死ぬほどお願いしますっ!」

「教官、これ以上此奴の戯言に付き合ってると埒が明かないですよ」

「……それもそうだな」

「放置プレイ……そういうのもあるのか」

 ナニやら考え込むデッドプールをよそに、まりもは吹雪に視線をうつす。

 武はまりもに質問を投げかける。

コイツ

「教官! 今日から俺たち

に乗れるんですか!?」

「気持ちは分かるが、まあそう焦るな。搬入されたばかりで調整が終わっていない。機

体の駆動点検整備、コックピットのOS個人調整……大体見積もってあと72〜96時

間はかかるだろうな」

「「ええ……」」

 武と慧がガッカリと肩を落とす。

109

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 それに対しまりもは苦笑交じりに答える。

「そもそもお前たちはシミュレーター教練も始まっていないだろう。実機に乗るのはま

だ当分先だ」

「それもそうですけどね……」

「そもそもこの吹雪は国産初の……」

 「あれーおかしいね一台足りないね。このままじゃ一人あぶれちゃうね」

  吹雪について説明しようとしたまりもの声を遮り、デッドプールはわざとらしく声を

あげる。

 まりもは苛立たし気にデッドプールを睨む。

「ウィルソン、貴様まだ説教(暴力)が足らないか?」

「俺ちゃんの眼球がガン化して潰れてないなら、あのコンテナもあわせて六台しかない

ぜ?」

 デッドプールの言葉に皆気付く。

 確かにハンガーには吹雪が五台しかないのである。

 まりもはふと何かを思い出したようで、あっと声をあげる。

110 Unlimited06─1「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー」

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「あっそうか……確かこの間夕呼が言ってたわね。……ウェイド、貴様に大変残念なお

知らせがある」

「俺ちゃん知ってる。笑顔で悪い報告言ってくるときって、フューリー長官以外からな

ら大体どうにかなるって」

「お前がここに編入されたときにはもうすでに、吹雪の搬入台数が決まっていてな。い

くら量産機といえど横浜以外にも練習機を欲している現場はいくらでもある」

「すいませんちょっと(これ以上聞きたくないんで)止めてもらっていいですか!(焦

燥)」

「故にだ、ウィルソン『お前だけ戦術機の到着が遅れることになる』。安心しろ、機体の

手配はしてある。だがいつ届くかは分からん」

「あああああああもうやだああああああ!!!!」

 してやったりな黒い笑みをうかべるまりも。

 甲高いデスボイスとともに膝から崩れ落ちるデッドプール。

 武は落ち込むデッドプールの肩に手を置いて慰める。

「気を落とすなよデッドプール……乗れないのは俺たちも一緒なんだからさ。シミュ

レーターやってるうちに届くさきっと」

「これだからS〇GAWA〇便は嫌なんだよタケちゃんマン。やっぱAmaz〇nでの

111

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注文はクロネコ大和に限るよな……」

「さて、私はもう行くが各自見物も程ほどにしておけよ。集合時間には遅れるな」

「敬礼!」

 この場を離れようとするまりもに対して、千鶴の号令で皆敬礼する。(俺ちゃんは当

提督指揮官

艦これ

てつけに海軍式にしてやった。

はいいぞ)

 未だコンテナを見つめている冥夜を除いては。

 まりもは冥夜を咎めることもなく、ただ言葉が喉につっかえたようにハンガーを後に

した。

 武は様子のおかしい冥夜に声をかける。

「お、おい冥夜。どうしたんだよ……あのコンテナが気になるのか?」

「武……」

 冥夜が武の方へと振り返ったと同時に、トレーラーの荷台からコンテナがゆっくりと

立ちあげられる。

「あれの中身……そなたはなんだと思う」

「えっそりゃあ、戦術機じゃないのか?」

「そなたには分からぬのか……」

「俺ちゃん知ってるよ。ロボットモノならモブには量産機、エースには試作機で活躍し

112 Unlimited06─1「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー」

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てもらうって相場が決まってるもんだ。まあこの場合は、この世でたった一つの

特別仕様機体

だろうけどネ♪」

「……っ!」

 デッドプールの言葉に冥夜の表情が悲痛に歪む。

 コンテナからシートが取り払われ、中にあった機体の姿が露わになる。

 そこには青色の吹雪ではなく。

 紫に染まった、別の機体。この世界において特別、そのなかでも『異端』とも言える

ほどの威風と尊厳を放つ人類の刃。

「武御雷……!」

 千鶴の驚愕に満ちた声が、いやに大きく聞こえた。

    To be next scene...

113

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Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基

地戦術機ハンガー・戦術機前」

 「タケミ……カヅチ」

「私には、あのようなものは必要ないと言ったのだがな……」

 武は目の前にそびえたつ、濃紫の機体の名前を呟いた。

 冥夜は武御雷から逸らすように目を伏せる。

「わあ〜これが武御雷。すっごいピカピカで綺麗。材質が違うのかな……ひゃっつめた

〜い」

「案外壬姫さんってああいうの好きなんだよね〜」

 壬姫は武御雷へと走り寄ると、なんとつま先に体を寄せ頬ずりし始めた。

 それを苦笑交じりに見る美琴。

 しかし武は内心気が気ではなかった。

練習機

 他者を威圧するような見た目と風合いもさることながら、明らかに

とは用途も

異なる機体。

「(あまりにも異質すぎる……一体何なんだよこれは)」

114 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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 武が武御雷に圧倒されていたその時。

「無礼者!」

「きゃあっ!」

 パンッと、頬を叩く音とともに壬姫の身体が床に投げ出される。

 壬姫の左頬は強く叩かれたせいか赤く腫れ、切れた口の端から血が流れる。

「うう……」

「たま!? って、あ……!」

「この武御雷は冥夜様の御為に存在するもの! 貴様のような下賤の者如きが触れて良

いものではないッ!」

 壬姫に駆け寄ろうとする武。しかし、その視線の先に映った人物を見るや思わず足が

止まる。 

 壬姫を殴り檄を飛ばす、深紅の制服に身を包んだ女性。その人物に武は見覚えがあっ

た。

 武が元いた世界、冥夜の専属侍従長であり、冥夜だけではなく自分やその友人にも優

しく時に過激に接してくれた人物。

 月詠真那、その表情は武が見たことがない程に怒りを見せていた。

「(つ、月詠さん……!?)」

115

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「この程度の仕打で済んだこと、幸福と思いなさい」

「(あの三馬鹿トリオまで!? キャラ違いすぎだろ!?)」

 真那の背後に控える白色の制服に身を包んだ三人、彼女たちもまた武にとっての顔見

知り。

 神代巽、巴雪乃、戎美凪。

 同じく冥夜のメイドであり、よく三人セットで行動しては珍事を起こしていた。

 そんな愉快な人柄は今やすっかり消え失せ、壬姫に対して厳しい言葉を投げかける。

「珠瀬、大丈夫か!?」

「う、うん……ごめんなさい、武御雷触っちゃって……」

「珠瀬、そなたが謝ることではないぞ……むしろ謝らないで欲しい」

 冥夜が倒れている壬姫のもとへ駆け寄り慰めるも、もはや先程の快活さは消沈してし

まっている。

 冥夜は立ち上がると真那に向き直り、睨み付けながら詰問する。

「月詠中尉……一体どういうおつもりですか?」

「冥夜様!」「私共にそのようなお言葉遣いはお止め下さい!」「そうです、私達斯衛の者

は如何な階級にあろうとも!」

「皇帝家縁の方々にお仕えする身であります!」

116 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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 真那とその三人は口々に冥夜の言葉遣いを諫め始める。

 そんな中。

「オイィ? 俺ちゃんが『一仕事』やってる間に随分とシリアスちゃんしてんじゃないの

? ちなみに選べる建造やっても全然こなかったよコンチクショー」

「きゃあっ!? ウ、ウィルソン殿!?」

「「「「……は?」」」」

 デッドプールは冥夜の肩を引き寄せるな否や、己の胸板へと引き寄せた。

 目の前で唐突に行われた無礼沙汰に、斯衛の四人は思わず思考が停止し気の抜けた声

が出る。

 しかしデッドプールは尚も態度を変えず冥夜を片手で抱きしめながら言葉を続ける。

「大体さあ、俺ちゃんのこと抜いて話進めたらただのMuv─luvじゃねーかよ。現

にここまでコミカライズ版やらwikiやら読み漁って書いてたし。ふざけんじゃね

えよオォン?! 主役は俺ちゃんダルォ!?」

「ウィルソン殿、急に何の真似だ!? 離れてくれ、でないとそなたにも」

「喧しいわこの猿ゥ! お前らは俺ちゃんのあくまで添え物なの、ドゥーユーアンダス

タン?」

「……冥夜様を、猿?」 「……添え物だと?」 「貴様ァ……!」

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「………」

「デ、デッドプールストップストップ! 止まれお前! てか冥夜からも離れろって!」

 デッドプールが喋るたびに、四人のこめかみに血管が浮き出る。

 やがて殺気で背景まで歪み始めているような錯覚が見え始めたので、武と冥夜はデッ

ドプールを止めようとする。

饒舌な傭兵

DEADPOOL

 だがその程度で

は止まらない。

「第一な、お前等の出番何ぞオルタネイティブ編でもなきゃポッと出の端役も端役、ただ

の嫌味おばさんとズッコケ三人組だろうがよ?」

「ウィルソン止さぬか! この者達に悪気はないのだ!」

「うるせえよ! お前らさてはアレか? 漸く念願のスパロボに参戦できたから調子こ

いてやがんな? そうだろ?」

「先程から此方が黙っていればッ!」 「戯言を好き勝手ほざくなッ!」 「冥夜様から離

れろ無礼者めがッ!」

「…………」

 三人は最早デッドプールを殺さん勢いで怒鳴り声をあげる。

 その一方で真那はデッドプールを見据えたまま、腰に下げている刀の柄に手を置いて

いた。

118 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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 最早冗談ではすまされない様子の四人に、武はたまらず冥夜を引き離そうと近づき

……デッドプールの腰のベルトにささった二つの缶に気付く。

「頼むってマジでやめてくれデッドプール! ……って、お前その腰に挿してるの、まり

もちゃんから没収された塗料スプレーだよな?」

「お、いいとこに気が付いたねタケちゃんマン。すり替えておいたのさ!」

「ウィルソン殿、話が見えんのだが……そのスプレーは何に使うものだったのだ?」

「良い質問ですね、流石お客様は目の付け所が違う。最初の台詞で言ってたろ? 今ま

で俺ちゃんは仕事をしてたのさ」

 デッドプールは誇らしげに胸をはり、空いている手を仰々しく横に挙げる。

 皆の視線が、戦術機の方へと向く。

 そして……いの一番に異変に気が付いたのは、壬姫だった。

「あっ! 戦術機の目が……」

「ちょっと嘘でしょう!?」

「死んだね(確信)」

「うっわ……これは、ボクも擁護出来ないよコレ……」

 次いで千鶴、慧、美琴が戦術機の異変に気付く。

 吹雪、そして武御雷。

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「オイオイオイ……嘘だろ、デッドプール」

「なんということを……」

 武と冥夜がそれぞれ額と口に手を当て驚愕する。

 丁度人の頭部の目に当たる部分。

 デッドプールのマスクと同じく、黒い菱形の縁取りが一対塗りたくられていた。

 さらに武御雷に至っては、角と右肩が真っ赤に塗られている。

「驚いたか? 俺ちゃんの機体がないなら、せめて俺ちゃんの意志を継いで乗ってもら

おうってね。あっ武御雷はエース機だから通常の三倍動けるようにってツノとついで

に右肩を赤く塗っといたぜ☆」

  それは、一瞬で行われた。

 迅速かつ確実に。

 明確な殺意と目的、それを実行出来うるだけの能力が可能とした。

 巽、雪乃、美凪はまずデッドプールの手に囚われた冥夜の身柄を確保した。

 それぞれがデッドプールの手の関節をへし折り、冥夜を引きはがし、最後に三人が

クッションになる様に抱えて横へ飛ぶ。

 次いで真那は縮地でもってデッドプールの前にへと瞬時に移動、抜刀し彼の右肩口目

120 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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がけて刃を振り下ろす。

 居合道では袈裟斬りと称される技。

水月みぞおち

 デッドプールの

にまで至った刃が体外へ抜き取られ、床に勢いよく血が飛び散

る。

 この間、実に十秒にも満たぬ早業であった。

  デッドプールの右肩口、切られた動脈からバシュウウゥゥと音を立てて勢いよく血が

噴き出す。

 直後、壬姫の悲鳴がハンガー中に響き渡った。

 武の呆然とした声も、デッドプールの耳に届く。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「デッ……デッドプール……嘘だろっ!?」

 刃から血払いし、納刀する真那は冷え切った目で膝をつくデッドプールを睨む。

「無礼者めが……貴様のような下衆は初めて見たぞ。あのままそこの娘が謝って、何も

なければそれで済んだことを」

「月詠中尉……そなた、なんということを……」

「冥夜様、ご無礼をお許しください」 「私共の使命は冥夜様を御護りすること」 「あの

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者は冥夜様を愚弄するだけでは飽き足らず」

「尊きあの御方の思いまでも、そこの下衆は踏み躙ったのです。それは例えここが国連

軍の庇護下であっても見過ごせぬ事」

 斯衛の四人は冥夜の下に跪き、頭を下げる。

 冥夜はどうしたらよいか分からず、助けを求めるように武たちを見る。

 だが期待とは裏腹に、そこには冥夜がもっとも見たくない光景が広がっていた。

 突然の仲間の死を受け入れられず、口元を押さえて蹲る武。

 普段は207B小隊長として毅然としている千鶴も、顔を青くして慧に寄り添うよう

にして漸く立っている状態だ。

 泣き叫ぶ壬姫を抱きしめて何事か呟いて慰める美琴も、死の恐怖で体を震わせてい

る。

 冥夜の視界が溢れる涙で滲んでいく。

 同時にこの事態を……デッドプールの死を止められなかった自分を責めた。

 自分はいつか人類を守る刃となると決めたのに、仲間の暴走とその死すら止められな

かった。

 そんな人間が人類の守護など務まろうものか。

 俯き涙をこぼす冥夜を背に、斯衛軍の四人は立ち上がり武たちを睨んで叫ぶ。

122 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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「此度の沙汰、その次第全てを元帥府に報告させてもらう!」 「此度の無礼千万、前代未

聞なり!」 「貴様らの処遇に関しては国連軍の預かりである故関与はせん! ただし

!」

「最早冥夜様をこのような下衆のいる場所には置いておけぬ! 今ここで身柄を日本帝

国斯衛軍の預かりとさせてもらう!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ月詠さん! 冥夜を連れてくって……そんなの無茶苦茶

だろ!」

 真那の言葉に、それまで吐き気を耐えていた武は思わず声を荒げた。

 しかし、真那は武に対して殺気交じりに怒鳴りをあげる。

「貴様に名を許した覚えはないぞ白銀武!」

「え……俺の事、知ってるのか?」

「やはり見間違いではなかったか、白銀武」「貴様は何者だ!!」「冥夜様に近づいた目的は

何だ!!」

「何者って……俺の名前呼んでるじゃないですかさっきから!」

 狼狽える武に向かい、真那は指を指し向け迫る。

「とぼけるなよ白銀武……死人の貴様が何故ここにいる?」

「な……!? 死……何だって……?」

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 真那の言葉に動揺する武を畳みかけるように、三人が責め立てる。

「国連軍のデータベースを改竄してまでここに潜り込んだ理由はなんだ!!」「政府の管理

情報までは手が回らなかったか? 随分と舐めた真似をしてくれる!!」「それともまさ

か追及されないとでも思っていたか!?」

「答えてもらおうか白銀武! 事と次第によっては貴様も斬り捨てるッ!」

 真那が再び刀に手をかけるのを見て、武は脂汗と動機が止まらなくなっていた。

 心臓が痛いほどに鼓動し、顔からは血の気が引いていく感覚がする。

 デッドプールの死、何より己がすでに死んでいるなどと入ってきた情報が飲み込めず

混乱している為か、口も上手く動かせない。

 どうすればよいか逡巡していると、目の前に庇い立つように人の影が出来る。

「デ、デッドプール……!? あ、あぁ……」

「なんて声出してやがる……白銀ェ」

「なっ……!」「お前は……!?」「まだ動けるのか!?」

「何故……生きている!?」

 武の前には、未だ血を流し続けるデッドプールが立っていた。

 その場にいる全員が驚愕した表情でデッドプールを見つめる。

「だって……お前、そんなに血が出て……ない、ぞうも……オヴェッ(決壊)」

124 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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「俺は実験部隊Xフォース隊長……ウェイド・ウィルソンだぞ。こんぐらいなんてこ

たぁねぇ(日常茶飯事)」

「そんな……そなたは……やはりあの話は真であったのか(純粋)」

「仲間守るのがX─MENの仕事だ」

 デッドプールが足を引きずりながらも前に歩み出し、正面に立つ真那はいつでも抜刀

出来るよう構える。

 武はひとしきり内容物を吐いた後、デッドプールに声をかける。

「何やってんだよ……デッドプール!」

「いいから(飯食いにPXへ)行くぞ。京塚のおばちゃんが出番を待ってんだ。それに

辿り着く場所

……(ボブやっと分かったんだ。俺たちには

なんていらねぇ。ただ進み続

道連載

けるだけでいい。止まんねぇかぎり、

は続く)」

  〜 回想 〜

「かっこいい、それは戦車道にとって大切なことかな。むしろ主役より薄い本の内容が

濃いお母さんチームの急造こそ今後に必要じゃないかな?」(ポロロン♪

「戦車道は人生の大切な全てのことが詰まってるんだよ。でも、ほとんどの人はそれに

気づかないんだ。……あっはいもしもし。えっ家賃ですか。今月はちょっと鹵か……

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貰った戦車の修理費でちょっと……。はい、来週まで待ってもらえませんか?」

「人は失敗する生き物だからね。大切なのはそこから何かを学ぶってことさ。だから今

夜だけ泊めてくれないかな? ……違う、風と一緒に流れてきたのさ。一晩好きにして

くれるなら? ……刹那主義には賛同できないね」

「しかし彼女たちの判断を信じよう。流石にミッコとアキ以外でスるのは初めてだから

緊張するね……えっあっなにそれ待ってそんな大きいの無理無理無理挿入らないって

待って待ってやめてとめてやめてとめてひぎっ」

「ほら、あっという間に戦車が描けましたね。簡単でしょう?」(録画失敗)

 〜 回想終了 〜

 デッドプールは数歩進んだところでとうとう力尽き、倒れ伏した。

 倒れた同時に左手を上に突き出し、人差し指を真っ直ぐと指し示す。

「俺ちゃんは止まらねえからよ……連載が止まらねえ限り、その先に俺ちゃんはいるぞ。

だからよ……」

  止まるんじゃねえぞ。

  人差し指の先から、真っ直ぐと血が伝って伸びていく。

126 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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 饒舌なる傭兵、デッドプールは死んだ。

 彼の目が再び開かれることはないだろう。

   「んなわけねえだルォッッ!! スパイディの新作とガルパン最終章完結するの観るまで

俺ちゃんはゼッテー死なねぇ!!」

 一度生命活動を停止したデッドプール。

治癒能力

ヒーリングファクター

 しかし、彼には不死身の肉体と

が備わっている。

 もはやありとあらゆる意味で死を克服している彼に、刃傷沙汰などチャメシ・インシ

デントであった。

 一連の奇怪な現象を見せつけられた四人組は、思わず冷や汗が流れる。

 こいつは白銀武以上に厄介な人物ではないか。そもそも本当に人なのか?

 そんな思考が四人の脳裏に過ぎる。

「正確にはミューテイツだ。日本語だと後天的超能力者。これでもれっきとした人だぜ

?」

「うっ……」「き、貴様一体なんだその顔は……うぶっ」「も、もはや人ではありません……

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!」

「なんなんだ……貴様は」

 そう言って、デッドプールはマスクを脱いで素顔を曝け出す。

 ガン化した細胞に覆われた、死すら生ぬるい地獄の如き容貌……四人はたまらず目を

背け口元をおさえる。

 そんな四人の前に、泣き腫らした目をこすり、冥夜が前にへと出る。

「もう止せ。どうかウィルソン殿と武……皆を許してもらえませぬか」

「「「冥夜様!?」」」

「それは……なりませぬ。如何様な事があろうとそ奴は冥夜様を愚弄し、あまつさえ武

御雷を……」

「そなたたちは知りえなかったのだろうが、ウィルソン殿と武は確かに潔白な人とは呼

べぬかもしれん。ウィルソン殿はここに来る以前、BETAと戦った末に一生消えぬ傷

を負い正気までも失ってしまった。武に至っては非道な人体実験に晒された上、命まで

も奪われかけたのだ」

「なんと……」「そのようなことが……」「人体実験……まさか」

かの国

「だがそれらは全て

が仕組み押し付けた事。今はもうすでに過去となり、ここで

再びやりなおす機会を得たのだ」

128 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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 冥夜の弁説に、巽・雪乃・美凪はすでに納得したように頷いている。

 デッドプールは内心舌を巻いていた。

「(やべーわこの娘、冗談を伏線にしてきやがったよ。流石は元祖幼馴染系メインヒロイ

ン、説得クリティカル出しスギィ……もっともメイド長はまだ半信半疑みてえだが)」

「成程、その者たちの事情は分かりました。ですがやはり、そのような不安定な者の傍に

は……」

「月詠中尉、わかっていますでしょう。私がここを離れるという事……それはかの者を

危険にさらすということを」

「くっ……それは」

「(効いてる効いてる〜よし、ここで机バンからの28ヵ所の刺し傷の追及だ)」

「そなたらの献身はまことに感謝しています、だからこそ、私も一人前の衛士になること

でその恩に報いたい。ここにいる者達が、お互いに護るべきもののために。だから

……」

 此度の事には目を瞑ってもらえませぬか。

 冥夜はそう締めくくって、頭を下げた。

 真那はしばらく考え込んだ後、刀を鞘に納めた。そして武とデッドプールを交互に睨

み付け言葉を発する。

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「……白銀武、ウェイド・ウィルソン。今日中に武御雷と吹雪の汚れを磨いておけ。それ

が出来なければ次はない」

「月詠っ……!」

「頭をあげてくださいませ冥夜様。……貴様ら二人、冥夜様の寛大な心に感謝しろ。元

帥府への報告も留め置いておく」

「えっそれは……」「まずいですよ!」「手打ちの際には必ず事後報告をせよと……」

「その手打ちにした者は『死んでいるのに生きている』。白銀武以上に不可解な者をどう

報告する? それに国連での沙汰は国連軍にも知れ渡る。ひいてはかの国にも聞き及

ぶことになるだろう。これ以上の詮索は無用な混乱を招く。行くぞ」

 真那は踵を返し、四人はハンガーの出口へと向かい歩き出した。

 その間、冥夜はずっと四人に向かって頭を下げ続けていた。

 足元の床に真新しい水滴を作りながら。

 デッドプールは中指を立てていたところを千鶴に見つかり、冥夜を除いた訓練生メン

バーに袋叩きにされていた。

   一方、基地の屋上。

130 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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 まりもは生徒の前では滅多にみせなくなった笑顔で、休憩に来ていた夕呼と会話をし

ていた。ア

イツ

デッドプール

「それで

ったら変な声上げて、膝からストーンって崩れ落ちちゃってね……流石

にちょっと可哀想だったかしら?」

「何よそれ絶対面白い奴じゃない。見たかったわね〜アイツの残念がる顔」

 もっともその話題のほとんどは、例の問題児『デッドプール』であった。

 まりもはそういえばと、武御雷を受け入れた件について聞いてみようと話題を変え

る。

「それにしても随分と急がせたわね、吹雪の搬入。もうちょっと待てばアイツの分も貰

えたでしょうに、代わりに例のアレが届いて。整備班が泣いてたわよ、やけに特別待遇

ね」

「……」

 夕呼は答えず、思案するように空を見つめている。

 まりもは話を続ける。

「ああ、違うわね。肩入れしてるのは……デッドプール。彼でしょ?」

「……確かにアイツも気になるけど、優先順位は下の方よ」

「あら、そうなの? ヒーリングファクターだったけ……もっと食いついてそうなもの

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だと思ったけど」

「生物学は専門外よ。そもそも私とは反りも合わないし、洗脳も出来ないから駒として

も微妙なのよ。ホントいっそのことアメリカに捨ててこようかしら」

「アハハ……本気でやらないわよね、それ。それじゃあ、気になってるのは白銀武の方?

 彼一体何者なの?」

「最初に言わなかったかしら? 彼は特別……」

 突然、夕呼の会話を遮るように白衣のポケットから無線端末の着信音が鳴り響く。

 夕呼は顔を顰めてインカムの電源を入れる。

「なあにピアティフ、急用以外なら切るわよ? ……何、斯衛が? デッドプールを?」

 まりもから無線の内容は聞こえないが、会話のたびに夕呼の眉の皺がどんどん深くな

るのを見て察した。

アイツ

デッドプール

 また

がやらかした、と。

 無線を切った夕呼は、エクトプラズムでもでるんじゃないかというくらい深くため息

を吐いた。

「どうしたの夕呼。貴女がそんな露骨に機嫌悪くなるなんて珍しいじゃない」

「……聞きたいかしら、まりも。アンタもそんな顔しちゃいられなくなるわよ」

 

132 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」

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 まりもは夕呼から全てを聞いた後、デッドプールをグラウンドに呼び出し全身打撲と

顔面を粉砕骨折を負わせた。

 その日のうち、デッドプールは営倉に一週間ぶち込まれることとなった。

塗料落書き

 なお武は真那の言葉もあってか、デッドプールとともに戦術機の

を落とすことに

なった。

 冥夜も加わろうとしたものの、誰もいない筈の物陰から濃密な殺気を感じたので、武

は全力でお断りの説得をするハメになったのであった。

  それから、特に帝国軍からお咎めもなくデッドプールが営倉から出るまで一週間、武

たち207Bは座学と体力作りに専念した後。

 漸くシミュレーション訓練に取り掛かる……前にまた、ひと騒動あるのだがまた別の

話。

    To be next scene...

 

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134 Unlimited06─2「日本帝国・横浜基地・同基地戦術機ハンガー・戦術機前」