34
慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名 市立奈良病院 総合診療科 作成者:初期研修医2年目 八嶌 駿 監修:総合診療科 森川 Clinical Question 2019年8月26日 分野 :電解質 テーマ :治療

慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

  • Upload
    others

  • View
    14

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

慢性の低Na血症主にSIADHパターンについて

施設名 市立奈良病院 総合診療科

作成者:初期研修医2年目 八嶌 駿

監修:総合診療科 森川 暢

Clinical Question 2019年8月26日

分野 :電解質テーマ :治療

Page 2: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

症例 82歳男性

【主訴】 意識障害 発熱

【現病歴】 2週間前から微熱があり、徐々にADLが低下し床上生活となった。2,3日前からは辻褄が合わない発言や幻視があったが経口摂取は保たれていた。

ベッドから転落した後体動困難となり救急搬送された。

【既往歴】 34年前に交通事故で頚椎損傷、四肢の知覚鈍麻あり

高血圧、糖尿病(共にコントロール良好) 慢性C型肝炎

【内服】 エナラプリル5mg、アムロジピン2.5mg、メトホルミン250mg、ナトリックス1mg、リマプロストアルファデクス15μg、チザニジン2mg、リリカ150mg、マグミット1500mg、センノシド12mg

【生活歴】 ADLはもともと屋内伝い歩きで食事、排泄等自立。妻と2人暮らし。

介護サービスの利用なし。

JADECOM Nara City Hospital 2

Page 3: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

身体所見・検査所見

【身体所見】

VS:HR 81bpm, BP 142/81mmHg, BT 37.0℃, SpO2 98%(室内気)

一般身体診察に特記すべき所見なし

【血液検査所見】

JADECOM Nara City Hospital 3

WBC 123*10^2/uL Cre 0.72mg/dL

Hb 12.2g/dL eGFR 78.5

PLT 18.1*10^4/uL Na 112mEq/L

AST 96U/L K 4.1mEq/L

ALT 49U/L Cl 76mEq/L

LDH 266U/L Ca 9.1mg/dL

ALP 222u/L Glu 176mg/dL

BUN 21mg/dL CRP 0.6mg/dL

【画像所見】• 頭部CTでは明らかな異常所見なし• 胸腹部CTで繰り返す誤嚥性肺炎によると

思われる肺の器質化像が指摘される• 副腎腫瘍なし

Page 4: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

Clinical Question

1. 慢性低Na血症の原因の鑑別は?

2. SIADHパターンで細胞外液量の評価困難時の鑑別と治療戦略は?

JADECOM Nara City Hospital 4

Page 5: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

Clinical Question

1. 慢性低Na血症の原因の鑑別は?

2. SIADHパターンで細胞外液量の評価困難時の鑑別と治療戦略は?

JADECOM Nara City Hospital 5

Page 6: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

高血糖 血糖正常

細胞外液量減少

腎性喪失

サイアザイド系利尿薬

RSW

CSW

ミネラルコルチコイド欠乏

腎外喪失

下痢、嘔吐

細胞外液量正常

濃縮尿

SIADH

甲状腺機能低下

グルココルチコイド欠乏

希釈尿

多飲症

Beer potomania

Na摂取不足

不定

Reset osmostat

細胞外液量増加

有効循環血漿量低下

心不全

肝硬変

膵炎

有効循環血漿量増加

腎不全

マンニトールや高分子製剤の投与

JADECOM Nara City Hospital 6

細胞外液量に着目した低ナトリウム血症の原因の分類

Page 7: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

細胞外液量(ECF)と有効循環血漿量

体液

細胞外液

血液

有効循環血漿

JADECOM Nara City Hospital 7

有効循環血漿量の減少で抗利尿ホルモン、レニン、ノルアドレナリンなどの分泌が増加

細胞外液量の減少=脱水

血液のうっ滞=Third spaseへの移行

自由水のみを再吸収↓

血清Na値に与える影響大きい

自由水、Naを再吸収↓

血清Na値に与える影響小さい

Page 8: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

細胞外液量増加(Hypervolemic)性低ナトリウム血症

JADECOM Nara City Hospital 8

有効循環血漿量減少

心機能低下・低アルブミン血症

ADH・レニン分泌↑↑

口渇・飲水

Na再取り込み↑自由水再取り込み↑↑

自由水・Na共に増加

自由水>Na

強い浮腫低Na血症

• 心不全• 肝硬変• 膵炎• 腎不全

原疾患

Page 9: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

細胞外液量不変(Euvolemic)性低ナトリウム血症

JADECOM Nara City Hospital 9

水の大量摂取

ADHの不適正な分泌 自由水再取り込み↑↑

自由水増加Na不変

低Na血症

Na利尿による自由水・Naの

排泄

溶質の不足 自由水排泄能力の低下「ビールとおつまみ」だけの食生活

Page 10: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

SIADH

異所性抗利尿ホルモン(AVP)産生腫瘍や、下垂体でのAVP産生亢進により腎集合管での水再吸収が増加することにより希釈性の低ナトリウム血症を呈する

発症後しばらくすると水代謝、Na代謝の両面で代償機構が働き、理学的には脱水や浮腫を認めない、細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症になる

Am J Physiol. 1994;267(6 Pt 2):R1617.

JADECOM Nara City Hospital 10

Page 11: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

SIADHの診断基準

「平成22年度改定バソプレシン分泌過剰症(SIADH)の診断と治療の手引き」では

1. 低ナトリウム血症:血清ナトリウム濃度<135mEq/L

2. 血漿バソプレシン値:測定感度以上であること

3. 低浸透圧血症:血清浸透圧<270mOsm/kg

4. 高張尿:尿浸透圧>300mOsm/kg

5. ナトリウム利尿の持続:尿中ナトリウム濃度>20mEq/L

6. 腎機能正常:血清クレアチニン値<1.2mg/dL

7. 副腎皮質機能正常:血清コルチゾール>6ug/dL

「1~7の検査所見があり、かつ脱水の所見を認めないもの」を確実例と診断する。

JADECOM Nara City Hospital 11

Page 12: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

脳出血、脳梗塞、髄膜炎、脳炎、外傷、ポルフィリア

肺炎、肺膿瘍、結核、真菌症など

抗うつ薬、てんかん治療薬、向精神薬、抗がん剤、糖尿病薬、

NSAIDs、MDMAなど

肺癌(小細胞癌が有名)、十二指腸癌、膵癌、前立腺癌、悪

性リンパ腫、胸腺腫

SIADHの原因

Up to date:Pathophysiology and etiology of the syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion (SIADH)

JADECOM Nara City Hospital 12

他にHIV感染など

Page 13: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

水中毒(心因性多飲・TUR症候群)

健常人の腎臓の排泄能力を超える量の自由水の摂取により、低ナトリウム血症をきたす

何らかの理由で意図的に水を多飲したり、注腸した結果、高度の急性低ナトリウム血症をきたした症例の報告が多い

統合失調症など精神疾患を有する患者や、抗精神病薬内服中の患者に見られることが多い

(J Jpn Soc Intensive Care Med 2015;22:523-6)

他に膀胱鏡や子宮鏡の使用中、灌流液の吸収により同様の病態に陥ることがあり、TUR症候群とも言われる

(J Jpn Soc Intensive Care Med. 2008;15:225~226)

急性低ナトリウム血症の一般的対応(3%食塩水投与、水分制限など)で対応可能であることが多いが、ときに致命的となる場合もある

JADECOM Nara City Hospital 13

Page 14: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

Beer potomania

「ビールとおつまみ」だけを摂取し続けるような水とカロリーのみの摂取を続けることで溶質の摂取

が不足し、自由水の排泄能力が低下した結果、希釈性の低ナトリウム血症に至る病態

来院時、尿所見が等張尿であっても、生理食塩水や3%食塩水の補液で溶質を補充すると、

それを契機に大量の希釈尿の排泄を認める

病歴や患者の生活歴(アルコール依存や食事をとらないなど)からBeer potomaniaが想起さ

れ、上記のような希釈尿の排泄を認め血清ナトリウムの急激な上昇を認めた場合、すぐに5%

ブドウ糖液の補液に切り替え、過剰なナトリウムを増加させないことが重要である

(Lancet 2008; 371: 2144)

JADECOM Nara City Hospital 14

Page 15: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

脱水所見・喪失が自由水<Naであれば低Na血症

細胞外液量減少(Hypovolemic)性低ナトリウム血症

JADECOM Nara City Hospital 15

有効循環血漿量減少

脱水、利尿薬

ADH・レニン分泌↑↑

口渇・飲水

Na再取り込み↑自由水再取り込み↑↑

自由水・Na共に補正

腎臓からのNa・自由水喪失

Page 16: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

腎臓からの塩類喪失

尿中ナトリウム濃度の上昇、尿中ナトリウム排泄率が増加する

サイアザイド系利尿薬の服用による低ナトリウム血症が有名

他に以下の疾患群がこの疾患概念に内包される

CSWS(中枢性塩類喪失症候群)

RSW(塩類喪失腎症)

MRHE(高齢者のミネラルコルチコイド反応性低ナトリウム血症)

JADECOM Nara City Hospital 16

Page 17: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

CSWS/RSW

中枢性塩類喪失症候群は何らかの中枢神経系疾患に続発して尿中へナトリウムが流出することによる低張性の低ナトリウム血症

塩類喪失性腎症(RSW)はJ.K.Maesakaらによって提唱される疾患概念で腎臓のナトリウムトランスポーターの異常により尿中にナトリウムが流出することで低ナトリウム血症を生じるとされる。この際中枢神経系の障害の有無は問われない

SIADHの一病型に過ぎないという意見もあり、疾患概念として確立されていない

Crit Care Med. 2002;30(11):2575.

J Neurosurg. 2001;95(3):420.

理学的所見はSIADHに酷似するため、鑑別が難しい

JADECOM Nara City Hospital 17

Page 18: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

MRHE

鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症(MRHE)は高齢者にみられる低Na血症の病態で、加齢による腎におけるNa保持能減退に起因する。

尿中へのNa排泄が亢進し、低張性かつ細胞外液量減少性低Na血症を生じる。End ocrtne Journal 1996, 43(1), 101-108

軽度の脱水所見が見られることが多いと言われ、ARBやACEiが原因となりえる。

日本で生まれた疾患概念であり、海外の文献にはあまり情報がなく、報告も少ない

CSWS/RSWとオーバーラップしている概念と思われる

しかし、特にMRHEが好発する高齢者においては、脱水所見が得られにくいことに加え、MRHEでの循環血漿量減少は数%にとどまるとの報告もあり、診断が遅くなりがちである

日内誌 2014, 103(6), 1382-1384

JADECOM Nara City Hospital 18

Page 19: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

高血糖 血糖正常

細胞外液量減少

腎性喪失

サイアザイド系利尿薬

RSW

CSW

ミネラルコルチコイド欠乏

腎外喪失

下痢、嘔吐

細胞外液量正常

濃縮尿

SIADH

甲状腺機能低下

グルココルチコイド欠乏

希釈尿

多飲症

Na摂取不足

不定

Reset osmostat

細胞外液量増加

有効循環血漿量低下

心不全

肝硬変

膵炎

腎不全

マンニトール投与後

Una<10FENa<1%

JADECOM Nara City Hospital 19

Una>20FENa>1%

Uosm>100

Uosm<100 尿浸透圧で鑑別

尿中ナトリウムで鑑別

低Na血症の原因のまとめと鑑別

Page 20: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

SIADHパターンと脱水

細胞外液量の減少が著しければ、身体所見などから鑑別は比較的容易

しかし、細胞外液量の減少が軽度であるときなど、鑑別が困難な場合もある

低Na血症患者で、臨床所見(病歴、身体所見)では約40‐ 50%の患者で

HypovolemicかEuvolemicかの鑑別が出来ない

Am J Med 83:905-908,1987/Am J Med:348-355,1995

JADECOM Nara City Hospital 20

Page 21: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

SIADHパターンと脱水

SIADHパターン…身体所見上、細胞外液量の明らかな異常所見を認めない(≒Euvolemic)尿所見では尿中Na値、FENaの上昇を認める

JADECOM Nara City Hospital 21

尿/血清Cre比?

FeNa>0.5%Or

FeUrea>55%

FeNa>0.15%Or

FeUrea>45%

SIADHパターン

脱水

脱水

>140

<140

満たさない

満たさない

満たす

満たす

Nephron Physiol. 2004;96(1):P11-8.

Page 22: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

もっと簡単に考えると

尿中Na<20mEq/L ⇒脱水/摂取不良

尿中Na>40mEq/L ⇒SIADHパターン

尿中Na 20-40mEq/L ⇒判定保留

JADECOM Nara City Hospital 22

Page 23: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

利尿剤を使用している場合

利尿剤で尿中ナトリウム排泄が上昇しているFENaは不正確でありFEUAの値で判断する

FEUA>12% ⇒感度86% 特異度100%でSIADHと診断J Clin Endocrinoal metab. 93 2991, 2008

FEUA:尿UA/尿Cre×血清Cre/血清UA×100

JADECOM Nara City Hospital 23

Page 24: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

SIADHパターンの鑑別疾患

SIADH

利尿剤(サイアザイド)内服

甲状腺機能低下症

副腎不全

腎不全

嘔吐直後、下痢

Reset osmostat*

Beer potomania

CSWS/RSW

MRHE

JADECOM Nara City Hospital 24

*慢性的にナトリウムのセットポイントが低値になっている病態

Page 25: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

細胞外液量の評価困難なときは?

細胞外液量減少

腎性喪失

サイアザイド系利尿薬

RSW

CSW

ミネラルコルチコイド欠乏

腎外喪失

下痢、嘔吐

細胞外液量正常

濃縮尿

SIADH

甲状腺機能低下

グルココルチコイド欠乏

希釈尿

多飲症

Na摂取不足

不定

Reset osmostat

細胞外液量増加

有効循環血漿量低下

心不全

肝硬変

膵炎

腎不全

JADECOM Nara City Hospital 25

Una>20FENa>1%

Una<10FENa<1%

Uosm>100

Uosm<100

病歴聴取で鑑別

血液・尿検査で鑑別

SIADHパターン

鑑別が困難…

Page 26: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

Clinical Question

1. 慢性低Na血症の原因の鑑別は?

2. SIADHパターンで細胞外液量の評価困難時の鑑別と治療戦略は?

JADECOM Nara City Hospital 26

Page 27: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

SIADH

抗利尿ホルモンの不適切な分泌により

細胞外液量が過剰

原則は飲水制限

バソプレシン受容体阻害薬の利用も可能

CSWS/RSW、MRHE

腎臓からのNa流出に伴う細胞外液量の減少

原則は補水と塩類の補充

鉱質コルチコイドの補充が有効 MRHEには著効する

CSW/RSWに効果ありという報告あり

JADECOM Nara City Hospital 27

SIADHパターンの鑑別がなぜ必要か

治療方針は全く異なる

この2つの疾患概念の区別が重要

Page 28: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

SIADHとCSWS/RSW、MRHEの検査所見比較

JADECOM Nara City Hospital 28

SIADH CSWS/RSW MRHE

細胞外液量 ↑ ↓ ↓

尿中ナトリウム ↑ ↑ ↑

血漿レニン活性 ↓ →~↑ →~↓

血漿アルドステロン濃度 ↓ ↑ →

FEUA ↑ ↑↑ ?(報告ないがおそらく↑)

ANP/BNP →~↑ →~↑ →~↑

AVP ↑ ↑ ↑

Kidney International (2009) 76, 934–938 Table1、Fluid management Renaissance(2013)3 50 Table3 を一部改変引用

レニン、アルドステロンの測定で3疾患の鑑別は可能だが、採血時の状況に結果が左右されやすいなど現実的には難しいか

Page 29: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

SIADHとCSWS/RSW、MRHEの鑑別

JADECOM Nara City Hospital 29

細胞外液量減少における各身体指標の感度、特異度および尤度(LR*)

今日の臨床サポートより引用

リファレンス:The rational clinical examination. Is this patient hypovolemic? / 雑誌名: JAMA. 1999 Mar 17;281(11):1022-9. / PMID 10086438

• いかにして細胞外液量が正確に推定できるかが鍵

Page 30: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

鑑別に苦慮する場合どうするか

高張性輸液で補正が必要な低ナトリウム血症であれば、補正を開始する

その際、治療開始前に尿中尿酸値を測定しておく

血清ナトリウム濃度の補正後に再び尿中尿酸値を測定する

FEUAが原疾患の鑑別に寄与する

JADECOM Nara City Hospital 30

• SIADHでもMRHEでも低ナトリウム血症のとき、FEUAは11%以上に上昇する

• SIADHであればNa補正後にFEUAが正常化すると言われている。

J Clin Med. 2014 Dec; 3(4): 1373–1385.

Page 31: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

鑑別に苦慮する場合どうするか

高張性輸液で補正が不要な低ナトリウム血症のとき

現時点で明確な診断法がない…

RSWの提唱者は等張液輸液を開始し、24-36時間後に血清ナトリウム濃度が上昇するかどうかを確認することを推奨している もし低ナトリウム血症の原因がRSWであれば24時間で4-6mEq/Lの血清ナトリウム濃

度上昇を認める。低ナトリウム血症の改善を認めなければSIADHの可能性が高い。

Am J Med Sci. 2018 Jul;356(1):15-22.

しかし現状SIADHに対しては等張液輸液は禁忌とされることがほとんど

またMRHEにおいても適応可能かは検討されていない

JADECOM Nara City Hospital 31

Page 32: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

実際は、鑑別に苦慮する場合どうするか

脱水の病歴に乏しく、経口摂取良好であればSIADHとして飲水制限を開始

→脱水所見が顕在化しないか、血清ナトリウム濃度が改善するか観察

病歴上脱水が疑わしく、経口摂取も不良であれば等張液投与を優先

→血清ナトリウム濃度の推移にフォローして調整を行う

JADECOM Nara City Hospital 32

いずれにせよ、ナトリウム値をこまめに測定して調整する

Page 33: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

症例のその後…

病歴上は経口摂取は保たれており、身体所見上も明らかな脱水は否定的であったが、FeUAは14%とSIADHパターンであった。

肺炎を契機に発症したSIADH、 ACEiによるMRHE 、利尿剤による薬剤性低ナトリウム血症を考え、内服薬を中止した上で飲水制限を開始した。

しかし血清ナトリウム濃度は119mEq/Lから上昇しなかった。

MRHEとしてフロリネフを開始したところ、開始後5日目には血清ナトリウム濃度は132mEq/Lとほぼ正常化した。

JADECOM Nara City Hospital 33

Page 34: 慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについてhospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/...慢性の低Na血症 主にSIADHパターンについて 施設名

Take home message

➢低ナトリウム血症の原因検索のためには、まず病歴、内服チェック!

➢未加療時の尿を採取し尿中Na、K、Cr、UAのオーダーを!

➢病歴から脱水を疑うならまずは生食投与から

➢脱水の病歴なく、身体所見上細胞外液量の変化がなさそうなら飲水制限を

➢ナトリウムの値をこまめに測定して調整することが大切

JADECOM Nara City Hospital 34