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118 レジデント 2014/10 Vol.7 No.10 第 35 回 narrow QRS 頻拍の鑑別(long RP 頻拍とは?) レジデント 2014/10 Vol.7 No.10 119 福田恵一(ふくだ けいいち) 慶應義塾大学医学部 循環器内科 教授 1983 年 慶應義塾大学医学部 卒業。1990 年 慶應義 塾大学医学部 助手,1991 年 国立がんセンター研究 所 細胞増殖因子研究部 留学,1992 年 ハーバード大学ベスイスラエ ル病院 留学,1995 年 慶應義塾大学医学部 助手,1999 年 同 講師, 2005 年 同 再生医学 教授を経て,2010 年より現職。 本連載では,慶應義塾大学病院循環器内科で実際に行われたカンファレンスのなかで面 白い症例,興味深い症例を紹介していきます。実際の議論の様子をそのままお伝えして いきます。その臨場感を感じながら,楽しく,かつ勉強になるコーナーにしていきたい と考えています。 高月誠司(たかつき せいじ) 慶應義塾大学医学部 循環器内科 准教授 1990 年 慶應義塾大学医学部 卒業。1994 年 慶應義塾 大学医学部 循環器内科 助手,1998 年 同大学 救急医 学 助手,2000 年 同 循環器内科学 助手,2005 年 パ リ第 7 大学ラリボワジエール病院 留学,2007 年 慶應義塾大学医学部 心血管炎症学講座 助手,2008 年 同 講師,2011 年 同 循環器内科 講 師を経て,2014 年より現職。 司 会 監 修 参 加 者 第 35 回 narrow QRS 頻拍の鑑別 (long RP 頻拍とは?) 〔専門医〕 〔学生〕 〔受持医〕 〔研修医〕 〔専修医〕 頻脈性不整脈は QRS 幅によって wide QRS 頻拍と narrow QRS 頻拍に分け られます。narrow QRS 頻拍は上室性頻拍と 考えてよいのですが,房室結節リエントリー性 頻拍,房室回帰頻拍や心房頻拍に分けられます。 頻拍中の心電図で P 波と QRS 波の感覚によっ 71 歳・男性 主訴:動悸 現病歴:X − 2 年ごろからとくに誘因な く,急に動悸を自覚するようになった。改 善がみられないため,X − 1 年に近所の総 合病院を受診したところ,受診時の 12 誘 導心電図で narrow QRS 頻拍を認めた。 アデホスの静注で数秒は洞調律に回復する ものの,すぐに頻脈発作の再発があった。 しかし,ワソラン ® の点滴で洞調律に戻っ たため,その日は帰宅となった。以降は息 こらえである程度コントロールできていた が,1 か月に数回以上の発作があり,カテー テルアブレーションを希望したため,X 年 に当院を紹介受診された。今回はアブレー て,long RP 頻拍と short RP 頻拍に分けら れます。ここではどのような鑑別疾患があるか, 考えてみましょう。 ション施行目的で X 年 7 月に入院となった。 introduction 症 例 V1 V2 V3 V4 V5 V6 aVR aVL aVF 脚注:1 上室性頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia) 症例提示 :今回は PSVT 1 の症例を取り上げま す。また,電気生理検査の実際につい て勉強したいと思います。ではまず,病歴のプ レゼンテーションをお願いします。 お願いします。症例は 71 歳の男性 で,主訴は動悸でした。現病歴ですが, X − 2 年ごろからとくに誘因なく,急に動悸 を自覚するようになったということです。改 善がみられないため,X − 1 年に近所の総合 病院を受診され,受診時の 12 誘導心電図で narrow QRS 頻拍を認めました。アデホスの 静注で数秒は洞調律に回復するものの,すぐに 頻脈発作の再発がありました。しかし,ワソラ ® の点滴で洞調律に戻り,その日は帰宅さ れています。以降は息こらえである程度コント ロールできていましたが,1 か月に数回以上の 発作があり,カテーテルアブレーションを希望 されたため,X年に当院を紹介受診されました。 今回はアブレーション施行目的で X 年 7 月に 入院となりました。 :ありがとうございます。これは規則 正しい動悸なのでしょうか? リズムが乱れるというよりは,トト トトっと急に速くなるといいますか ……。 :この動悸は医療機関を受診しないと 止まらないのですか? いえ,急に始まって,こう,フッと 息をこらえたときなどに止まるという のは,病院を受診される前から自覚されていたよ うです。それでほとんど止まっていたそうです。 :息をこらえると止まる,それはどう いう不整脈を示唆しますか? 迷走神経刺激によって停止するの で,房室伝導をブロックできて止まる PSVT 症を考えます。 :では,学生さんにこの発作時の心電 図を読んでもらいましょうか(図1)。 心拍数は 150 回 / 分で規則正しい頻 拍となっています。 :QRS の波形はどうですか? QRS の波形は,QRS 幅が狭いので 上室性の頻拍であると考えられます。 :洞調律と比べて,何が違いますか? Ⅱ誘導で P 波の陰性化があります。 :はい,他の誘導だと? 図1 他院で記録され た発作時の 12 誘導心電図: 体表面心電図は narrow QRS で 心拍数 180 回 / 分程度の頻拍です。 Ⅱ,Ⅲ,aVF 誘導でネガティブの P 波 を認めています。重要なのは P 波と QRS の間隔で,この場合は P 波のあ とに QRS が来ているので,long R-P' 頻拍と呼ばれる頻拍です。

narrow QRS頻拍の鑑別 (long RP頻拍とは?)て,long RP頻拍とshort RP頻拍に分けら れます。ここではどのような鑑別疾患があるか,考えてみましょう。ション施行目的でX年7月に入院となった。introduction

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    第 35 回 narrow QRS 頻拍の鑑別(long RP 頻拍とは?)

    レジデント 2014/10 Vol.7 No.10 119

    福田恵一(ふくだ けいいち)慶應義塾大学医学部 循環器内科 教授1983 年 慶應義塾大学医学部 卒業。1990 年 慶應義塾大学医学部 助手,1991 年 国立がんセンター研究

    所 細胞増殖因子研究部 留学,1992 年 ハーバード大学ベスイスラエル病院 留学,1995 年 慶應義塾大学医学部 助手,1999 年 同 講師,2005 年 同 再生医学 教授を経て,2010 年より現職。

    本連載では,慶應義塾大学病院循環器内科で実際に行われたカンファレンスのなかで面白い症例,興味深い症例を紹介していきます。実際の議論の様子をそのままお伝えしていきます。その臨場感を感じながら,楽しく,かつ勉強になるコーナーにしていきたいと考えています。

    高月誠司(たかつき せいじ)慶應義塾大学医学部 循環器内科 准教授1990 年 慶應義塾大学医学部 卒業。1994 年 慶應義塾大学医学部 循環器内科 助手,1998 年 同大学 救急医学 助手,2000 年 同 循環器内科学 助手,2005 年 パ

    リ第 7 大学ラリボワジエール病院 留学,2007 年 慶應義塾大学医学部 心血管炎症学講座 助手,2008 年 同 講師,2011 年 同 循環器内科 講師を経て,2014 年より現職。

    司 会

    監 修

    参 加 者第 35 回

    narrow QRS 頻拍の鑑別(long RP 頻拍とは?) 〔専門医〕

    〔学生〕

    〔受持医〕

    〔研修医〕

    〔専修医〕

    頻脈性不整脈は QRS 幅によって wide

    QRS 頻拍と narrow QRS 頻拍に分け

    られます。narrow QRS 頻拍は上室性頻拍と

    考えてよいのですが,房室結節リエントリー性

    頻拍,房室回帰頻拍や心房頻拍に分けられます。

    頻拍中の心電図で P 波と QRS 波の感覚によっ

    71 歳・男性

    主訴:動悸

    現病歴:X − 2 年 ご ろ か ら と く に 誘 因 な

    く,急に動悸を自覚するようになった。改

    善がみられないため,X − 1 年に近所の総

    合病院を受診したところ,受診時の 12 誘

    導心電図で narrow QRS 頻拍を認めた。

    アデホスの静注で数秒は洞調律に回復する

    ものの,すぐに頻脈発作の再発があった。

    しかし,ワソラン ® の点滴で洞調律に戻っ

    たため,その日は帰宅となった。以降は息

    こらえである程度コントロールできていた

    が,1 か月に数回以上の発作があり,カテー

    テルアブレーションを希望したため,X 年

    に当院を紹介受診された。今回はアブレー

    て,long RP 頻拍と short RP 頻拍に分けら

    れます。ここではどのような鑑別疾患があるか,

    考えてみましょう。

    ション施行目的で X 年 7 月に入院となった。

    introduction

    症 例

    V1

    V2

    V3

    V4

    V5

    V6

    aVR

    aVL

    aVF

    脚注:1 上室性頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia)

    症例提示

    :今回は PSVT1 の症例を取り上げま

    す。また,電気生理検査の実際につい

    て勉強したいと思います。ではまず,病歴のプ

    レゼンテーションをお願いします。

    受 :お願いします。症例は 71 歳の男性

    で,主訴は動悸でした。現病歴ですが,

    X − 2 年ごろからとくに誘因なく,急に動悸

    を自覚するようになったということです。改

    善がみられないため,X − 1 年に近所の総合

    病院を受診され,受診時の 12 誘導心電図で

    narrow QRS 頻拍を認めました。アデホスの

    静注で数秒は洞調律に回復するものの,すぐに

    頻脈発作の再発がありました。しかし,ワソラ

    ン ® の点滴で洞調律に戻り,その日は帰宅さ

    れています。以降は息こらえである程度コント

    ロールできていましたが,1 か月に数回以上の

    発作があり,カテーテルアブレーションを希望

    されたため,X 年に当院を紹介受診されました。

    今回はアブレーション施行目的で X 年 7 月に

    入院となりました。

    :ありがとうございます。これは規則

    正しい動悸なのでしょうか?

    受 :リズムが乱れるというよりは,トト

    トトっと急に速くなるといいますか

    ……。

    :この動悸は医療機関を受診しないと

    止まらないのですか?

    受 :いえ,急に始まって,こう,フッと

    息をこらえたときなどに止まるという

    のは,病院を受診される前から自覚されていたよ

    うです。それでほとんど止まっていたそうです。

    :息をこらえると止まる,それはどう

    いう不整脈を示唆しますか?

    受 :迷走神経刺激によって停止するの

    で,房室伝導をブロックできて止まる

    PSVT 症を考えます。

    :では,学生さんにこの発作時の心電

    図を読んでもらいましょうか(図1)。

    学 :心拍数は 150 回 / 分で規則正しい頻

    拍となっています。

    :QRS の波形はどうですか?

    学 :QRS の波形は,QRS 幅が狭いので

    上室性の頻拍であると考えられます。

    :洞調律と比べて,何が違いますか?

    学:Ⅱ誘導で P 波の陰性化があります。

    :はい,他の誘導だと?

    図 1 他院で記録され

    た発作時の12 誘導心

    電図:

    体表面心電図は narr

    ow QRSで

    心拍数 180 回 / 分程

    度の頻拍です。

    Ⅱ,Ⅲ,aVF 誘導で

    ネガティブの P 波

    を認めています。重要

    なのは P波と

    QRS の間隔で,この

    場合は P 波のあ

    とに QRSが来ている

    ので,long

    R-P' 頻拍と呼ばれる頻

    拍です。