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完全自律型ロボットコンテスト「NEST ロボコン 2012」 -学年を超えて、世代を超えて、みんなで創るロボットコンテスト- 特定非営利活動法人 科学技術教育ネットワーク 理事 中島 晃芳 [email protected] キーワード:ロボット,ICT 科学技術教育,小学生,中学生,高校生,協働 1.はじめに (1) NPO 法人 科学技術教育ネットワーク ICT 科学技術教育のカリキュラム制作とその実践を 2003 年より行ってきた「RISE 科学教育研究会」を 2012 年に NPO 法人化した団体。ロボット教室「こど もロボット研究室」 (2001)、データロギング活動「サ イエンス・キャンプ」(05)、「オーシャン・プロジ ェクト」 (10)、「ロボット教育指導者養成講座」 (2011 )を毎年開催し、2004 年からロボカップジュニアの 大会運営にも協力している。 (2) NEST ロボコン 2005 年より毎年夏休みに行っているロボットコン テスト「RISE サマーチャレンジ」を、法人化に伴い NEST ロボコン」に改称。対象は小学生~高校生(専生)。最大の特徴は、各競技にエントリーした参加 希望者の中から学年の枠を超えた 2 (以上)をランダ ムに組み合わせ、チームを組んで競技することにある。 また、当日行った審判講習会に参加した指導者や父母 が審判を務めたり、参加者たちも副審として運営に参 加したりすることが特徴として挙げられる。 2.実践の概要 東京都立産業技術高等専門学校品川キャンパスの ご協力で施設を貸して頂き、2012 8 26 ()午前 8 時~午後 5 時まで行った。東京・神奈川・埼玉 の小学校 3 年生~高校 2 年生までの 114 名が参加し、 60 名のスタッフで運営。 3.実践内容 3.1 競技内容 競技は、中・上級者向けのロボット・サッカーと ロボット・レスキュー、初心者向けの「KokohoreWanWan(ここほれ、ワンワン)」の 3 種目。いずれ も、子供たちが自分で作ったオリジナルのロボットで あり、各種センサーを用いてプログラムを作成して制 御する『完全自律型ロボット』でなければならない。 (1) ロボット・サッカー 国際的なロボットコンテストである「ロボカップジ ュニア」のサッカーA ライトウェイトリーグの 2012 年国際ルールで行い、赤外線をするボールを使って、 1 チーム 2 台のロボットでサッカーの対戦をする。実 際のサッカー同様、多く得点したチームが勝つ。 (2)ロボット・レスキュー ロボカップジュニアのレスキューA をベースに、2 階建ての家を模したフィールドで、2 台のロボットが 協力して、被災者に見立てた銀色の缶を避難場所に運 ぶ競技。制限時間内に避難場所に運んだ被災者の数を 競う。 (3)KokohoreWanWan「ポチ」という名の犬型ロボットを作り、白地に貼 った黒や銀色のシールや銀紙を巻き付けたレンガを宝 の隠し場所とみなし、ロボットが宝の隠し場所を見つ けて、何らかのパフォーマンスを行って見つけたこと を知らせる競技。制限時間内に見つけた個数を競う。 3.2 プレゼンテーションポスター 参加者には、自分のロボットの特長や工夫した点、 プログラムの流れ、戦略などを紹介するプレゼンテー ションポスターを作成し掲示することを義務づけた。 優秀なプレゼンテーションポスターを作成した子供に は「ベスト・プレゼンテーション賞」を授与。 - 66 -

完全自律型ロボットコンテスト「NESTロボコ エンス・キャンプ」 ... の「初めてのロボットプログラミング ... また、正しい運営を実現するために、大人

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完全自律型ロボットコンテスト「NEST ロボコン 2012」

-学年を超えて、世代を超えて、みんなで創るロボットコンテスト-

特定非営利活動法人 科学技術教育ネットワーク 理事 中島 晃芳

[email protected]

キーワード:ロボット,ICT科学技術教育,小学生,中学生,高校生,協働

1.はじめに(1) NPO法人 科学技術教育ネットワーク

ICT 科学技術教育のカリキュラム制作とその実践を

2003 年より行ってきた「RISE 科学教育研究会」を

2012 年に NPO 法人化した団体。ロボット教室「こど

もロボット研究室」(2001~)、データロギング活動「サ

イエンス・キャンプ」(05~)、「オーシャン・プロジ

ェクト」(10~)、「ロボット教育指導者養成講座」(2011~)を毎年開催し、2004 年からロボカップジュニアの

大会運営にも協力している。

(2) NESTロボコン

2005 年より毎年夏休みに行っているロボットコン

テスト「RISE サマーチャレンジ」を、法人化に伴い

「NEST ロボコン」に改称。対象は小学生~高校生(高専生)。最大の特徴は、各競技にエントリーした参加

希望者の中から学年の枠を超えた 2 人(以上)をランダ

ムに組み合わせ、チームを組んで競技することにある。

また、当日行った審判講習会に参加した指導者や父母

が審判を務めたり、参加者たちも副審として運営に参

加したりすることが特徴として挙げられる。

2.実践の概要 東京都立産業技術高等専門学校品川キャンパスの

ご協力で施設を貸して頂き、2012 年 8 月 26 日(日)に午前 8 時~午後 5 時まで行った。東京・神奈川・埼玉

の小学校 3年生~高校 2年生までの 114名が参加し、

60 名のスタッフで運営。

3.実践内容3.1 競技内容

競技は、中・上級者向けのロボット・サッカーと

ロボット・レスキュー、初心者向けの「Kokohore!WanWan!(ここほれ、ワンワン)」の 3 種目。いずれ

も、子供たちが自分で作ったオリジナルのロボットで

あり、各種センサーを用いてプログラムを作成して制

御する『完全自律型ロボット』でなければならない。

(1) ロボット・サッカー

国際的なロボットコンテストである「ロボカップジ

ュニア」のサッカーA ライトウェイトリーグの 2012年国際ルールで行い、赤外線を発するボールを使って、

1 チーム 2 台のロボットでサッカーの対戦をする。実

際のサッカー同様、多く得点したチームが勝つ。

(2)ロボット・レスキュー

ロボカップジュニアのレスキューA をベースに、2

階建ての家を模したフィールドで、2 台のロボットが

協力して、被災者に見立てた銀色の缶を避難場所に運

ぶ競技。制限時間内に避難場所に運んだ被災者の数を

競う。

(3)Kokohore!WanWan!

「ポチ」という名の犬型ロボットを作り、白地に貼

った黒や銀色のシールや銀紙を巻き付けたレンガを宝

の隠し場所とみなし、ロボットが宝の隠し場所を見つ

けて、何らかのパフォーマンスを行って見つけたこと

を知らせる競技。制限時間内に見つけた個数を競う。

3.2 プレゼンテーションポスター

参加者には、自分のロボットの特長や工夫した点、

プログラムの流れ、戦略などを紹介するプレゼンテー

ションポスターを作成し掲示することを義務づけた。

優秀なプレゼンテーションポスターを作成した子供に

は「ベスト・プレゼンテーション賞」を授与。

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3.3 併設イベント

ロボット教育普及を目的に、「ロボカップ 2012 メ

キシコ世界大会」のジュニア部門に出場したチームの

指導者による報告会や、熱源を被災者とみなして迷路

を進みながら被災者を見つけて知らせるロボカップジ

ュニアレスキューB と NHK 高専ロボコンに参加した

ロボットのデモンストレーション、未経験の子供向け

の「初めてのロボットプログラミング講座」を行った。

4.実践のねらい4.1 チーム編成

ロボットコンテストは、「これまでの学習成果の発

表の場」であると同時に、別々の地域や環境で学んで

きた参加者同士がお互いに学び合ったり刺激し合った

りする「絶好の学習の機会」でもある。学年の境を超

えた者がチームを組むことによって、年少者は年長者

から学び、年長者や豊富な経験を持つ者は年少者・初

心者に教え、1 つのチームとして協力・協働の場を創

出したいと考えた。

4.2 ロボットとプログラミング

参加者は異なる学習環境で、様々なキットや素材

でロボットを作っており、ソフトや言語で制御プログ

ラムを組んでいるため、ハードやソフトの制約は一切

設けないことにした。このことにより、課題達成のた

めのアプローチも異なるので、実に多様なロボットの

形状や機構、デザインが見られ、また使用するセンサ

ーも学習の達成度や戦略によってかなりの違いがある。

当然プログラムの組み方も実に千差万別であり、オー

プンエンドの問題解決学習の実現を目指した。

プログラミングの学習レベルや経験に応じて競技

が選べるように 3 種類の競技を用意した。また、得点

条件も複数段階設定した。さらに、初心者向けの

Kokohore!WanWan!では、宝の隠し場所を発見し

た時に行うパフォーマンスを審査員が評価し、「ベス

ト・パフォーマンス賞」を用意し、独創性を発揮させ

るようにした。

4.3 プレゼンテーションポスター

プログラム開発のオープンソースの考えを援用し、

競技中に他チームのロボットとその動きを実際に見る

だけではなく、その背景となっている多様な考え方や

問題に対するアプローチの仕方、様々な技術を学び合

える環境を作り出そうと考えた。

4.4 運営スタッフ

子供がやっている競技をただ観戦しているだけで

はなく、自らも参加することによって、子供たちがど

んなことをしているかを理解し、子供たちの活動を応

援している気持ちを目に見える形で子供たちに伝える

ことができるのではないかと考え、先生や父母にスタ

ッフとして運営に携わっていただいた。このことによ

って、子供の学習意欲が向上するだろうし、教室や家

庭でも共通の話題としてより多く上ることで、コミュ

ニケーションの機会を増やすことができるのではない

か、という期待を抱いたからである。

参加者の子供たちが副審を担当する意義は、競技

運営者としてルール運用の実際を経験することによっ

て、よりルールに対する理解を深めることにある。ま

た、主審担当の先生や父母の審判助手をすることによ

り、コンテストの成功という同一の目的に向かって大

人と子供が協力し合える状況を作り出すことを意図し

た。

5.実践の成果 参加者は、活動地域や年齢が異なるだけではなく、

まだプログラミングを学んで半年に満たない者から、

ロボカップ世界大会の出場者や優勝者までいた。その

ため、学年差・経験差が大きな同士でチームを組む場

合も多かった。そのような中で、初対面の者同士が、

チームとして競技で良い成績を出すために協力せざる

をない状況を作り出すことができた。お互いにコミュ

ニケーションをとり、チームワークを良くする努力を

しなければならない。自分のロボットやプログラムを

紹介し合い、チームとしてどのような戦略を採るかを

話し合っていた。また、年長者や経験が豊富な者は、

年少者が分からなかったりつまずいていたりする箇所

を積極的に教えていた。また、チーム間の交流もあり、

チームを超えて学び合う場面も頻繁に見られた。たっ

た一日の活動ではあったが、多くのことを学び取ると

同時に、多くの友達を作ったようである。

加えて、主審の補助役である副審として競技の運営

に携わることにより、コンテストを運営してくれてい

る人々の苦労を知り、感謝の気持ちも芽生えたようで

ある。また、正しい運営を実現するために、大人と子

供が真剣に意思疎通を図り、自然に協力し合ってい

た。

一方、運営に参加して下さった先生や父母は、子供

たちが真剣に夢中で取り組んでいる姿に間近で接する

ことにより、彼らの熱心さを十分感じとり、子供たち

の活動をより深く理解し、さらに支援していきたいと

いう気持ちが強まったようである。

併設イベントの世界大会報告会は子供も大人も真剣

に聞き入り、高い目標を目指す意識を刺激できたと思

う。また、「初めてのロボットプログラミング講座」

に参加した子供たちは、プログラミングを学ぶだけで

なく、実際の競技を見学することができたので、自分

もやってみたいという気持ちになった様子である。

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