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55 はじめに 本稿の目的は,診療報酬項目のひとつである 「新生児特定集中治療室退院調整加算」(以下, 退院調整加算と記す。)の導入時の議論を検討し, この退院調整加算が,在宅移行を含む退院 1) 1 )本稿では,「退院」と「在宅移行」の語を意味に 応じて使い分ける。「退院」は,退院後の生活の 場がどこであるかに関わらず,入院治療を中止又 は終了し,当該医療機関から転出する行為を指す。 「在宅移行」は,退院後の転出先が自宅である場 合を指す。 増加を目的としながらも,在宅移行が家族生活 に与える影響や,そこで必要とされる支援につ いては十分な議論をなさないままに導入された 経緯の問題性を明らかにすることにある。 NICU 2) に入院する児とその家族は,在宅へと 移行する場合に様々な問題を乗り越えなければ ならない。医療的にみた児の状態から在宅での 生活が可能であると判断されたとしても,家族 2 )本稿では,NICU[Neonatal Intensive Care Unit] (新生児集中治療管理室)と表記する場合,その 後方支援病床であるGCU[Growing Care Unit] (回 復期治療室)については含めず,後者は GCU と 表記し区別して用いる。 原著論文 NICU 入院児の在宅移行を促進する 「新生児特定集中治療室退院調整加算」の 導入契機となった懇談会議事録の検証 在宅移行を見据えた議論の不足とその帰結について金 野   大 (立命館大学大学院先端総合学術研究科) 本稿は,在宅移行を含む退院の促進を目的とした診療報酬項目である「新生児特定集中治療室退 院調整加算」の導入契機となった議論を検証し,在宅移行により家族が受ける影響を見据えた議論 の水準とその問題点を明らかにすることを目的とする。NICU 入院児の在宅移行と支援に関する先行 研究は,家族への支援が不十分である実態を指摘してきたが,その状況下で在宅移行を促す退院調 整加算を問題と捉える指摘は為されていない。本稿の学術的貢献はこの指摘を加え,在宅移行支援 の早急な整備の必要性を強調する点にある。検証の方法として,退院調整加算の導入根拠となる議 論がなされた,厚生労働省所管「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の議事録を 用いた資料分析を行った。その結果,在宅移行に関しては在宅医療サービスに対する診療報酬の上 乗せと退院前の情報提供の必要性を指摘する発言が為されたに留まり,在宅移行後に必要とされる 支援のメニューとその確保策は検討されていないことが明らかになった。考察では,在宅医療等の 専門家を欠いた不十分な議論を行った帰結として,加算の算定要件がサービスの多様性と利用保証 を欠く設計となったことを指摘した。 キーワード:NICU,障害児,退院支援 立命館人間科学研究,No.32,55-68,2015.

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NICU入院児の在宅移行を促進する「新生児特定集中治療室退院調整加算」の導入契機となった懇談会議事録の検証(金野)

はじめに

本稿の目的は,診療報酬項目のひとつである「新生児特定集中治療室退院調整加算」(以下,退院調整加算と記す。)の導入時の議論を検討し,この退院調整加算が,在宅移行を含む退院 1)の

1) 本稿では,「退院」と「在宅移行」の語を意味に応じて使い分ける。「退院」は,退院後の生活の場がどこであるかに関わらず,入院治療を中止又は終了し,当該医療機関から転出する行為を指す。「在宅移行」は,退院後の転出先が自宅である場合を指す。

増加を目的としながらも,在宅移行が家族生活に与える影響や,そこで必要とされる支援については十分な議論をなさないままに導入された経緯の問題性を明らかにすることにある。NICU2)に入院する児とその家族は,在宅へと移行する場合に様々な問題を乗り越えなければならない。医療的にみた児の状態から在宅での生活が可能であると判断されたとしても,家族

2) 本稿では,NICU[Neonatal Intensive Care Unit](新生児集中治療管理室)と表記する場合,その後方支援病床であるGCU[Growing Care Unit](回復期治療室)については含めず,後者は GCUと表記し区別して用いる。

原著論文

NICU入院児の在宅移行を促進する「新生児特定集中治療室退院調整加算」の導入契機となった懇談会議事録の検証―在宅移行を見据えた議論の不足とその帰結について―

金 野   大(立命館大学大学院先端総合学術研究科)

本稿は,在宅移行を含む退院の促進を目的とした診療報酬項目である「新生児特定集中治療室退院調整加算」の導入契機となった議論を検証し,在宅移行により家族が受ける影響を見据えた議論の水準とその問題点を明らかにすることを目的とする。NICU入院児の在宅移行と支援に関する先行研究は,家族への支援が不十分である実態を指摘してきたが,その状況下で在宅移行を促す退院調整加算を問題と捉える指摘は為されていない。本稿の学術的貢献はこの指摘を加え,在宅移行支援の早急な整備の必要性を強調する点にある。検証の方法として,退院調整加算の導入根拠となる議論がなされた,厚生労働省所管「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の議事録を用いた資料分析を行った。その結果,在宅移行に関しては在宅医療サービスに対する診療報酬の上乗せと退院前の情報提供の必要性を指摘する発言が為されたに留まり,在宅移行後に必要とされる支援のメニューとその確保策は検討されていないことが明らかになった。考察では,在宅医療等の専門家を欠いた不十分な議論を行った帰結として,加算の算定要件がサービスの多様性と利用保証を欠く設計となったことを指摘した。

キーワード:NICU,障害児,退院支援立命館人間科学研究,No.32,55-68,2015.

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が在宅で医療的ケアを十分にこなせるか否かという問題があり,また居住地域における医療資源が確保できるか否かなど,在宅生活の可否に関わる多数の問題がある。NICU 入院児は多様な疾患・障害を持つが,医療機関による機器の提供やその管理指導など,在宅生活の開始に上記の問題を抱え支援を必要とする例として,人工呼吸管理を必要とする児とその家族が挙げられる。この中から,現在に比べ医療機器や在宅支援制度が整備されていない状況にあった 1960 年代後半以降,NICUや小児科病棟からの在宅移行に踏み出す家族が現れた。これらの家族に始まる経験が蓄積され,在宅人工呼吸療法等の医療技術や機器が発達し,在宅移行の可能性と安全性は格段に向上してきた。しかし,これらの技術や機器のみを頼りに移行する例が後に続き,その後の在宅生活に問題が生じたことも明らかにされている 3)。そのため,より確実かつ安全な在宅生活を築くための支援の要求も為されてきたが,今日に至るまで満たされていない 4)。この例が示すとおり,NICU 入院児の在宅移行を支える社会的支援は未だ不足している状況にあると言える。現在,一定の要件を満たすNICU では,入院

児の家族に対し,入院早期から「退院支援計画」が作成され,その計画に基づき「退院支援」が実施されている。これは,平成 22 年度に導入された退院調整加算の算定要件とされ,これによ

3) 小児在宅人工呼吸療法と機器の発達・普及に対して親の果たした役割を八木慎一(2012)が明らかにしている。またその中で,退院時の研修や指導等の支援が不十分であったことにより,在宅生活が短期間で中断された事例に触れている。

4) 退院時の支援として,人工呼吸管理や痰の吸引,経管栄養の注入,導尿等の医療的ケアに必要な手技の確実な指導の他,家族の負担軽減策としてのレスパイトサービスは常に求められてきた。また,これらに加え必要とされている支援の内容としては,家族が自信を得られるまでの試験外泊の充実や,退院後の家族を引き続き支援するキーパーソンの配置といったものが挙げられている(人工呼吸器を付けた子の親の会<バクバクの会> 2013)。

り退院支援の実施が促進されている。算定要件では退院後の転出先は指定しておらず,同一院内の GCU や他科病床への転室,他の医療機関への転院も含み,在宅移行も含まれる。そのため,この加算により在宅移行も促され,算定数増加に伴い在宅移行数が増加している例が報告されている 5)。しかし,この加算が算定要件において医療機関に実施を求める退院支援は,家族が求めてきた支援の内容を十分に反映したものとはなっておらず,支援が不十分である状況は変わらないまま,在宅生活を始める家族の発生が促進されている状況にある。在宅移行を含む退院の増加を目的とした加算であるならば,在宅へ移行する家族への影響や支援を想定した算定の設計がなされて然るべきである。では,なぜ現行の退院調整加算は,在宅移行に向けた十分な支援が含まれていない要件で算定可能となっているのか。筆者はその原因について,この加算が,周産期救急医療が直面した危機への対処を議論する過程で必要とされ,導入されたという経緯にあると考える。本稿で後に詳述するが,NICU が多くの新生児を救命するに伴い,在宅移行が困難な児が長期に渡りNICU 病床を占有する事態が生じ,それにより周産期母子の救急救命が困難となった事態が,周産期救急医療の危機であった。そこでまず必要とされたのが,NICU の空床確保策としての退院支援及び退院調整加算であった。筆者は,この加算導入の根拠となる議

5) 退院調整加算と長期入院児の在宅移行数との関連を見ることができる資料としては,東京都における「東京都NICU退院支援モデル事業」の報告書(東京都 2012)が現在のところ唯一確認できる資料である。これによると,事業が開始された平成22 年度と平成 23 年度との比較において,退院調整加算算定数は 5 件から 89 件へ増加している。平均在院日数は事業開始前の平成 21 年度の 35.4日から平成 23 年度には 29.2 日へと減少し,これと同年度比で 6ヶ月以上の長期入院事例は,15 件から 7件へと減少している。なお,在宅移行後の児と家族の生活状況については,この資料では報告されていない。

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論がなされた懇談会に着目し,その場で児の在宅移行を見据えた議論が不足していたために,現行の加算が在宅移行支援としては不十分な設計となっているのではないかとの仮説を立て,本稿においてその検証を行うこととした。児の在宅移行とそれに際しての支援に関する先行研究は,数は少ないながらも退院前後期の家族に直接関与できる医療・看護従事者によって報告されている。斎藤(2002),晴城(2007),廣田(2011),水落(2012),関水(2012)では,退院前後の家族生活に着目しているが,いずれも医療・看護の側面からいかに児の安全な在宅生活を確保するかという観点からなされた支援実践型の研究である。これらの研究が指摘するように在宅移行支援は不十分な段階にあり,それは退院調整加算が導入された後においても同様である。そのような状況下で在宅移行を促進している退院調整加算の存在とその導入の過程を問題と捉える指摘は,現在のところ先行研究によってはなされていない。この指摘を補うことで,先行研究が等しく主張してきた在宅移行支援の充実が,より早急に検討されなければならない問題である根拠を付け加えることに,本稿の学術的貢献がある。本稿では,まず退院調整加算の導入に至るまでにNICU が置かれてきた背景を,これまでに報告された統計資料及び調査結果を基に整理する。次に,退院調整加算導入の契機となる議論がなされた厚生労働省所管「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の全議事録及び懇談会提出資料を用いて,資料分析を行う。

Ⅰ.NICUと入院児を取り巻く状況の変遷

1.NICU入院児の発生状況の変遷小児医療技術の発達により救命可能な新生児が増加し,これに伴い生存のために高度な医療機器や医療的ケアを必要とする児も増加してい

る。2014 年のWHOによる統計によると,わが国では新生児 1,000 人当たりの死亡者は 1 人となっており,他国との比較においても少なく,高度な救命率を示している(WHO 2014)。また,わが国の人口動態統計(厚生労働省 2014a)は2,500 グラム未満の低出生体重児の割合が増加していることを示しており,小児医療技術の発達により救命可能な対象が拡大していることが現れている。杉浦正俊(2008)によると,出生時体重が 1,000グラム未満の新生児のNICU入院数は,1990 年には 2,051 例だが,2005 年には 3,037 例と 1.5 倍に増加している。特に,出生時体重が 500 グラム未満の新生児については入院数が同年比で約2.7 倍に増加しており,救命可能な対象が拡大するに伴い,NICU 入院児の割合もまた増加傾向にあることを示している。

2.周産期医療水準の向上に伴う課題わが国の周産期医療は,当初産科医と看護師が専門に取り扱う未熟児医療として取り組みが始められ,1940 年代後半には未熟児医療研究とともに臨床における実践が開始されていた(由井 2015)。周産期医療として現在のNICU が取る体制に繋がる産科・小児科連携型の実践への展開の契機のひとつとして,1967 年の神戸パルモア病院(当時)における新生児対応型医療施設の建設が挙げられる。同病院の医師であった三宅廉により,小児科 18 床,産婦人科 35 床,保育器を備える未熟児室 13 床の合計 66 床を備える病棟が建設され,新生児救命を主目的とした組織的な取り組みが開始された 6)。1980 年には厚生省(当時)により新生児集中治療室施設基準が定められ,また新生児を対象とした医療技術の開発による救命の可能性も高まり,他の

6)神戸パルモア病院と三宅廉の取り組みについて,以下 URL 中の「故・三宅廉」を参照。(http://www.palmore.or.jp/about/outline.html#02)

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医療機関でもNICU病床の設置が進み 1990 年代に至るまで徐々に病床数を増してきた(楠田 2010)。しかし,1990 年代半ばからNICUの満床が問

題として指摘されるようになる。複数の自治体において,本来救急で受けるべき妊婦や新生児の受け入れがNICU 満床のため困難になっている実態が明らかになり,検証され始めた 7)。このような事態を受け,1996 年には厚生省(当時)により「周産期医療対策整備事業」が開始され,全都道府県に救急救命を要する胎児及び新生児の救命を図る周産期母子医療センターを設置することが目標とされた(厚生省 1996)。しかし,設置主体とされた都道府県の財政状況の悪化や医師の確保が困難であることなどの要因が影響し,センターとしての指定を受ける医療機関は少なく,むしろ閉鎖を希望する自治体が出る状況であった(加部 2002)。このような状況が続く中,救急処置を必要とする妊婦が,救急搬送されるも受け入れ先が見つからず,処置の遅れにより死亡あるいは死産するケースが徐々に報じられるようになった。2006 年 8 月 7 日,奈良県の大淀町立大淀病院に分娩のため入院中であった妊婦が脳出血のため高次医療機関への搬送が検討されるも,満床を理由に 18 カ所の医療機関に受け入れを拒否され,搬送開始から約 6時間後に最終搬送先にて男児を摘出,1週間後に女性が死亡している(毎日新聞 2006)。また,2007 年 8 月 29 日には同じく奈良県の橿原市で,妊婦が出血を伴う腹痛を訴え救急搬送されるも 12 カ所の医療機関に受け入れを拒否され,大阪府高槻市内の医療機関への搬送中に交通事故に遭い,女性は無事であったものの胎児は死産している(毎日新聞 2007)。

7) 新聞の報道について,朝日新聞(1995)など 1990年代に栃木県,奈良県,福岡県,鹿児島県等地方でのNICU不足を報じる記事が確認できる。また,救急搬送と満床状態の関連についての検証論文として水野(2003),桑原(2003)。

短期間に同様の事例が生じた状況を受け,2008 年 1 月 7 日に当時の舛添厚生労働大臣の私的諮問機関として発足した「安心と希望の医療確保ビジョン検討会議」の中で,主要な議題として取り上げられた。この会議では,これらの事例は地方における医師不足と診療科による医師の偏在とに起因する問題であるとの見解が採られ,検討が開始された。2008 年 6 月には「安心と希望の医療確保ビジョン」を策定し,主に医師の確保策を対策の柱として掲げている(厚生労働省 2008a)。またその後,2008 年 7 月 17日には「安心と希望の医療確保ビジョン具体化に関する検討会」が発足し,同年 9月 22 日の報告において「医師養成数の増加」と「医師手当の支給」を具体的な対策として提言し,これに基づき厚生労働省は取り組みを開始していた(厚生労働省 2008b)。

3.NICU長期入院児の社会問題化救急搬送受け入れ拒否事案への対策の開始直後,再度同様の事案が発生する。これにより,周産期救急医療の危機的状況がより深刻なものとして社会的に認識され,同時に問題の要因に対する社会的見解に変化が生じた。2008 年 10 月 4 日,東京都内で頭蓋内出血を起こした妊娠 35 週の妊婦が,救急搬送中に複数の医療機関の受け入れ拒否により処置が遅れ,最終搬送先の病院で死亡し,新聞等多くの報道に取りあげられた 8)。前述の通り救急搬送受け入れ拒否事例が頻発していた時期でもあり,政府の対策はとられ始めてはいたものの,批判的な報道と世論が沸騰した。東京都はこの事態を受けて緊急に事案に関わる調査を開始している(東京都 2008)。事案発生当時東京都内にあった 12 の総合・地域周産期

8) 新聞の報道について,朝日新聞(2008a)。また,この事例の公的な経過記録として以下URL を参照。http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1105-12b.pdf

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母子医療センターのうち,受け入れを拒否した8つのセンターを対象としたこの調査では,その半数がNICU の「満床」という理由で受け入れを拒否したとされる。後に厚生労働省の研究班によって公表された研究報告もまた,NICUの満床状態が救急搬送の受け入れ拒否を生み出す原因として常態化していたことを結論づけている(楠田 2011)。この研究では全国の NICU設置医療機関を対象とした調査を実施しており,その報告によれば母体搬送の受け入れができなかった経験のある医療機関のうち,その原因としてNICU の満床を挙げたセンターが 85.5%をも占めていたことを示している。さらに,満床状態が生じる原因として,NICUにおける長期入院児の存在が問題視された。前述の東京都による調査の中で,「周産期医療体制等に対する意見」という項目に対して医療機関から次のような意見が寄せられている。

「NICUの稼働率が非常に高い状態にあり,NICU

満床により,母体搬送の受け入れができない。」

「新生児を診られる小児科医,看護師が不足して

おり,NICU増床も簡単にはいかない。」

「NICU が満床となっている背景には長期入院児

の問題もあり,重症心身障害児施設の整備も必要

である。」

(東京都 2008: 8―9)

発生間もない時点での調査に対する回答であることから,その当時すでに東京都内のNICUでは満床状態及びその原因のひとつとして長期入院児の存在が認識されていたことが窺える。また,厚生労働省の研究班は,2003 年から

2009 年までの出生児のうち 1年以上の長期入院となった事例について全国調査を行い,長期入院児の転帰について 1年後に「退院」するケースが約 30%,「転棟又は他施設」が約 20%,「死亡」が約 20%,「入院中」が約 30%であるとい

う結果を示し,多数のケースが 1年以上の長期に渡り入院を継続していることを明らかにしている(田村 2011)。2008 年 10 月には,日本産科婦人科学会が事案の発生を受けて厚生労働大臣に宛てた提言を行っており,その中で周産期医療の出口問題の項目を設け,以下の指摘を盛り込んでいる。

「NICU で治療を受けたお子さんの中で後遺障害

のため自宅退院ができない方がおられます。(中

略)NICU での超長期間の入院を余儀なくされて

います。その結果,NICU の病床不足はさらに悪

化することになります。(中略)母体救急への受

入体制整備においては,これらの問題も同時に改

善していく必要があります。」

(日本産科婦人科学会 2008: 2―3)

厚生労働省及び東京都によって検討され始めていた周産期救急医療体制の見直しにあたっては,NICU の満床及び長期入院事例の解決策を検討すべきことを提言している。2008 年 10 月 4 日の事案発生以前の段階までは,医師の不足・偏在が主要な課題とされてきたが,この事例の検証結果に加え,医師不足の顕著な地方ではなく東京都で発生したことにより,周産期救急医療の課題が「NICU の常時満床状態」と「満床原因としての長期入院児」にあると社会的な認識が改められたことも特筆すべき点である。

Ⅱ.「新生児特定集中治療室退院調整加算」の導入過程

1. 「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」の発足2008 年 10 月 4 日の事案発生に伴う報道や前述の学会提言などを受けて,舛添厚生労働大臣が緊急の懇談会を招集する。2008 年 11 月,厚

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生労働省に「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」が設置され,周産期救急医療が直面した危機への対応として,現状把握と救急搬送受け入れ拒否予防策の検討が行われた 9)。この懇談会はその趣旨を「妊産婦が安心して子供を産み・育てることができる」よう「周産期医療と救急医療の連携の在り方について検討する。」(厚生労働省医政局 2008b: 1)とし,合計 6回の議論の後,報告書を提出している。この懇談会の特徴として,開催期間の極端な短さが挙げられる。招集した舛添厚生労働大臣は,2008 年 11 月 5 日の第 1回懇談会の場で,「12月までを目途に,集中的な審議をし,周産期の緊急医療体制の強化を図りたい」と述べており,当初から短期集中的な議論を基に対策を講じる構えであった。第 5回第 6 回の最終報告書案の検討を除く実質的な議論は,2008 年 11 月 5 日から同年 12 月 8 日までの約 1ヶ月間となっている。非常に短い期間の議論を基に報告がなされ,その後の具体的施策はその報告を基に講じられたという点に留意する必要がある。厚生労働省による委員の人選は,周産期母子

9) 構成員は以下の通り。阿真京子(「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会 代表),有賀徹(昭和大学医学部救急医学講座 主任教授),池田智明(国立循環器病センター周産期科 部長),海野信也(北里大学医学部産婦人科学 教授),大野泰正(大野レディースクリニック 院長),岡井崇(昭和大学医学部産婦人科学教室 主任教授)(当懇談会座長),嘉山孝正(山形大学医学部長 脳神経外科学教授 救急部長),川上正人(青梅市立総合病院 救命救急センター長),木下勝之(順天堂大学医学部産婦人科学講座 客員教授),杉本壽(大阪大学医学部救急医学 教授)(当懇談会座長代理),田村正徳(埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター長),藤村正哲(大阪府立母子保健総合医療センター 総長),横田順一朗(市立堺病院 副院長)。以上,委員。

有馬正高(東京都立東部療育センター 院長),岡本喜代子(社団法人日本助産師会 副会長),迫井正深(広島県健康福祉局長),佐藤秀平(青森県立中央病院総合周産期母子医療センター長),照井克生(埼玉医科大学総合医療センター 産科麻酔科診療科長)。以上,参考人。

に生じ得る疾患等に連携して対応する体制を構築するため,産科,婦人科,産婦人科,小児科,脳外科,救急の各分野から専門家を選定している。医療の専門家以外では阿真委員が周産期母子医療の充実を主張する当事者団体の代表として選定されている。周産期救急医療体制整備に関して各人が代表する分野の利害が存在し,報告書及びそれに基づく政策形成に影響したことは推測できるが,NICU 入院児の在宅移行への波及的影響に焦点を絞る本稿では,各委員によりどの様な利害を周産期救急医療政策に反映させるべく主張が行われたかについての全般にわたる詳細な検討は目的を超えるため行わない。その上でこの人選から汲み取るべきは,少なくとも在宅医療・看護・福祉等在宅移行期の児と家族に関係する分野の専門家が選定されていないことである。これはそもそも周産期救急医療の今後の在り方を論じるための人選であることから当然とも捉えられるが,後に見るようにこのような委員により構成された懇談会において児の在宅移行に影響する政策案が提示され,報告書に盛り込まれたことは事実である。本稿はこのような議論の在り方を問題と捉える立場にあることを確認し,以下議事録を検証する。

2.満床原因としての「長期入院児」対策の議論第 1回懇談会では事案発生の要因について当時の課題の洗い出しが行われ,①一般救急医療と周産期救急医療の連携不足 10),②周産期医療情

10) ①に関して問題とされているのは,母体と胎児の救命に当たってどの診療科の医師が先に治療に入るかという点である。東京都の事例では,母体の救命が優先的であったものの,妊娠していることから産科医が先に診療に入り,出産が行われた。また,妊婦であることから産科と母体の救命に必要な脳外科等が同時に求められる状況であったが,両者を備えていない地域周産期医療センターは搬送段階で受け入れを断っている。この問題点を解決するため,長期的な対策としては地域周産期医療センターに母体の救命に必要となる脳外科等の診療科を整備することが挙げられている。短期的な対策としては,原則として症状の如何に関

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報ネットワークの不備 11),③医師・看護師の不足 12),④ NICU病床の不足,が主な課題として挙げられている(厚生労働省 2008a)。議論の流れとして特に注目すべきは,①②③の課題それぞれについての対策が短期的には実現困難であり,最終的に④の課題と対策の検討に収斂していることである。いずれも長期的な対策は検討されるが短期的には達成が困難であり,そのため直近の対応としてNICU 病床をまずは確保しなければならない必要に迫られている。その結果,「NICUの増床」と同時に「長期入

院の解消」が主要な取り組み項目とされた。この議論の中でも,厚生労働省の研究班として長期入院事例を調査した田村委員による以下の発言を踏まえ,検討課題として取りあげられている。

 「赤ちゃんが助かったのはいいけれども,人工

わらず搬送を受け入れ,その後に必要な診療科と連携を取り治療の体制を組むことが挙げられている。しかし,NICU 病床が仮に満床で受け入れた場合の責任の所在及び受け入れた後の安全管理が困難であることが指摘され,結果としてNICU病床の不足が短期的な対策の妨げとなっている。

11) ②について,1996 年から国の主導により整備が行われた周産期医療情報ネットワーク(厚生労働省 1996)が十分に機能していないことが指摘されている。NICU の空床状況がインターネット上で確認できるネットワークの構築が都道府県単位で進められてきたが,全体的に低調な整備状況にあり,また運用についても機能していないことが明らかにされている(海野 2007)。そもそも検索した結果,常時満床であるならばネットワークを利用する意味が無いと指摘されており,実際に東京都における 2008 年 10 月 4 日発生の事案では,受け入れを拒否した医療機関についてもネットワーク上は「空き病床あり」と表示されていたとされる。結果として,この点についても病床と人材の確保が根本的な課題として残された。

12) ③について,人材の不足は従来からの懸案事項として検討されている。医師・看護師数の状況について,杉本委員が第1回懇談会において報告を行っている。それによると,医師数は年約 4,000 人単位で増加し,その中で 2000 年以降勤務医数は約60%で横ばいであり,勤務医が減少したとする説は否定される。また,1995 年以降小児科医一人当たりの患者数が減少していることを挙げ,単に医師数が少ないことが問題なのではなく,勤務医に課せられる事務処理を含む業務の多さと訴訟等のリスクが問題であるとされている。

呼吸器を 1年以上も必要とするという長期の入院

患者がどんどん増えてきています。(中略)2003

年と 2006 年のたった 3年間の調査だけで,NICU

の中で人工呼吸器の使う病床に 1年以上入院して

いる赤ちゃんの割合が,4.15%から 6.60%に増え

ています。(中略)毎年 200 ~ 300 人のペースで

こういう赤ちゃんがNICUの中にたまり続けてい

ることが明らかになっています。そういったこと

がNICU不足の背景にありす。」

(厚生労働省 2008d: 11)

この長期入院児の問題について,どのような具体策が検討されたのか。懇談会中で関連する最初の発言としては,第 2回懇談会での藤村委員の発言が確認できる。

「「後方病床の確保」,一般病院の小児科にインセ

ンティブを与えてほしい。(中略)政策的な点数

を付けないといけないということで,実はNICU

や後方病床,回復病床の後ろにひかえている膨大

な小児科病棟にこういう子供を見ていただく。そ

のために超重症児管理料というものを設定しては

どうか。」

(厚生労働省医政局 2008c: 12)

児の退院が議題に挙げられた第 4回の懇談会では,上の発言を行った藤村委員と有馬参考人が発言者として指名されている。藤村委員はNICU入院児について,

「多くの患者はハイリスク新生児(中略)いろい

ろな赤ちゃんがおられます。最終的に治癒して,

あるいは療育中であるけれど,自宅介護は可能で

す。問題は,長期療養の子どもで,(中略)退院

できずに残るわけですが,(中略)小児科ないし

重症心身障害児施設は,在宅では難しい,あるい

は在宅の条件が整わない等の子ども達に,後方支

援施設の役割を果す,そのような体制で進めてい

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くのが今後の 1つのシステムではないかと思いま

す。」

(同)

と述べ,基本的に在宅介護が可能である児は在宅へ移行することを前提としながら,移行が困難である児については小児科等の病床又は施設での受け入れを検討すべきとしている。また,有馬参考人は重症心身障害児施設を代表して提言を行い,2008 年まで施設の置かれてきた状況について,下記の通り発言している。

「NICUの不足を解決するために,NICUに長期入

院していて,なかなか帰れない障害児を受ける後

方病院がないだろうかという話です。(中略)こ

のことがもう 10 年ぐらい前から言われておりま

す。私たちも「お宅で引き取れないのか」という

話が,個人的には随分あったわけです。(中略)

どんな人たちが入っているか。(中略)人工呼吸

器装着が 20 名,そのほかに気管切開をやった人

が 36 名,全然食べられないので管あるいは胃に

胃ろうを作った人が 90 人のうちの 52 名というこ

とで,過半数がそういう人たちです。NICU で帰

れなかった人たちも,小児科病棟に溜まって 10

年も帰れなかったような人たちも,私たちがお受

けした人たちは,ほとんどがこういう状態に入る

人たちだったわけです。」

(厚生労働省医政局 2008e: 10―11)

重症心身障害児施設として,東京都内のNICUや小児科病棟の長期入院児を多数受け入れてきた実績は一定評価できるとしているが,この発言に続いて今後の見通しについての質問に応え,

「今後,こういう人たちを受けるためにはどうす

ればいいだろうか。少なくとも我々としては小児

病棟から受けた人,NICU から受けた人,家庭の

状況で受けた人ということで,重症の方を全部受

けてしまったので,これ以上は受けられないとい

うのが今のところの感想です。」

(前掲 : 11)

と述べ,現状における受け入れの限界を訴えている。また,現在の施設では「7:1 看護という普通の大学病院などに相当するような看護を,なんとか確保してはい」るが,重症児をさらに受け入れるのであれば「NICU のように 3:1 看護」という水準が「少なくとも中間期には必要」であり,「そういう人を受けた重症心身障害児施設のほうも,診療報酬上それなりの配慮はしないと,今のままではやはり人的にできないだろう」(以上,前掲 : 12)とし,診療報酬の増額を要求している。以上の発言に見る後方病床の活用という案は,在宅移行の困難が大きく長期入院が余儀なくされる児の療養を確保しつつ,NICU 病床も同時に確保する策としては有効であると考えられる。しかし,後方病床でどれほど在宅移行までの期間が用意されるのかといった点や,後方病床からの退院後をいかに手当てするのかといった点は検討されていない。NICU 病床を空けるための一時的な移行先として,後方病床での受け入れを促進する診療報酬の加算が提案されたに過ぎず,後方病床の論点では在宅移行による家族への影響を見据えた議論までは届いていなかったと言える。

3.「在宅移行後の家族生活」を見据えた議論後方病床活用策以外に,在宅移行後の家族とその生活についてどの程度議論されたのか。直接在宅へ移行した場合のその後の家族生活について,議事録を検討すると唯一,先に発言を引用した藤村委員のみが言及し,下記の通り提言を示している。

「在宅医療です。家族が苦労している重症の子供

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でも在宅で頑張っている。そういう人を 1カ月に

1週間ほど,病院に移してあげる。(中略)レスパ

イトはいま診療報酬がもらえません。これは非常

に非人道的な話だと思います。そういう子供を病

院に預かってあげるとき,「レスパイト入院管理

料」を設定すべきではないか。」

(厚生労働省医政局 2008c: 12)

「NICU の病床確保に関する提言ですが,(中略)

病床確保では流れをよくするということで,(中

略)在宅ケアへの地域福祉サービス,訪問看護の

充実は非常に重要だと思います。重症の子どもを

抱えて家庭で毎日奮闘するご家族,特にお母さん

は,このまま続けるのは難しい状況がはっきりし

ております。レスパイト入院は絶対必要で,(中略)

日本ではこの目的で小児科に入院しても診療報酬

がありません。(中略)療育施設がレスパイトを

行うこともあります。また,これを進めるための

コーディネーターが必要です。」

(厚生労働省医政局 2008e: 5)

この提言について質問は出ておらず,またそれ以外の在宅移行に関わる問題点を追求する発言もなされていない。なぜこの提言に対しては補充意見も出されなかったのか。前述の通り,この懇談会が当初から在宅生活への識見を有する専門家を含まない構成となっていたことが影響したことは間違いない。厚生労働省も懇談会の議論の結果が在宅移行を選択する家族に影響を及ぼすことを想定できていなかったと考えられる。上記提言を行った藤村委員も,従来からNICU 入院児の退院に関わる主張を有するものの,その主な内容は本稿Ⅱの 2にて検討したNICU の後方病床としての小児科病床活用案である(藤村 2008)。藤村委員による文献及び学会報告には在宅移行期の児と家族の生活実態や在宅医療を論じたものは確認できず,その中心はNICU 退院児等重篤な状態の児を小児科病床でいかに受け入れるかと

いう小児科の専門領域を対象とした内容になっている(藤村 2005)。このように在宅移行期に関わる専門家を欠いた委員の構成で児の退院を論じた影響は,議論の中で「退院」とこれに含まれる「在宅移行」の概念整理がなされず,他の病床への転出と在宅移行とが当の児と家族に対して全く異なる影響を及ぼすにも関わらずNICU 病床確保の方法として同列に扱われていることにも現れている。仮にこの概念整理が行われ,NICU からの退院の中でも同一医療機関内の他科又は他医療機関の病床へと移転した場合に限り,NICU 病床確保への貢献として評価するという議論がなされていたならば筆者は異論を挟まないが,現になされた議論及びその後の制度設計はそのようには進まなかった。藤村委員による上記の提言は,早期退院に向けた「入院早期からの院内における支援」を行う必要性に加え,退院後の児の医療的な安全確保のため,「短期入所病床を整備することに対する支援」と「訪問看護ステーションの活用促進に向け,その整備への支援」を行うとして,最終報告書案の項目に盛り込まれた 13)。また,児と地域の医療・福祉サービスをつなげ,その早期退院を支援するため,「患者ニーズと地域の医療・福祉サービス等の支援の詳細を熟知しており,退院を支援する担当者(NICU 入院児支援コーディネーター)を,総合周産期母子医療センター等が配置することを支援する」(厚生労働省 2009:14)として,制度の改正に向けた方針が盛り込まれた。最終報告書案の検討が行われた第 6回懇談会で示された同案では,退院を支援する「入院児支援コーディネーターを配置する」と盛り込ま

13) 2010(平成 22)年度診療報酬改定において,訪問看護については乳幼児加算・幼児加算の引き上げが行われている。また,同様にレスパイトサービス提供へのインセンティブとして,超重症児(者)入院診療加算の引き上げ及び在宅重症児(者)受入加算の導入が行われた。

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れていたが,これに対して藤村委員が下記の修正要望を述べている。

「「NICU 入院児支援コーディネーターを,総合周

産期母子医療センターに配置する」となっている

のですが,(中略)これは「配置する」というよ

うな第三者的な言い方では促進されないので,(中

略)「コーディネーターを置くことを義務づける」

とか,そういう強制力を入れないと」

(厚生労働省医政局 2008f: 8)

また,その強制力の持たせ方について,意見に同調する田村委員が,「例えばNICU入院児支援コーディネーターを配置しているかどうかも評価に入れるとか,そういう形で具体的に強制力を持たせていただきたい。」(同)と述べ,実質的に診療報酬上の評価によって強制力を調達する必要性が示された。

4.新生児特定集中治療室退院調整加算の導入平成 21 年 3 月に厚生労働大臣に提出された懇談会の最終報告書を受け,厚生労働省は医療提供体制の確保に関する基本方針を改正している。この改正により,厚生労働省医政局から周産期救急医療の整備主体たる都道府県知事に対して,「周産期医療協議会の設置」と「周産期医療体制整備計画の策定」,「総合(地域)周産期母子医療センターの指定(認定)」等の具体的な対応が指示されている(厚生労働省医政局 2010)。この中で,本稿が注目するNICU 入院児の退院に影響する施策の方針を見ると,この基本方針中の「周産期医療体制整備計画」において,「NICUを退院した児童が生活の場で療育・療養できる環境の整備」として,「訪問看護やレスパイト入院等の支援が効果的に実施される体制の整備を図る」とし,具体的には「NICU入院児支援コーディネーター」を配置することとされた(厚生労働省 2010b)。

この整備指針を反映し,平成 22 年度診療報酬改定において,周産期救急医療体制の充実を目的とした各種加算の新設・拡充が行われた。その中で,NICU からの退院に向けた支援の実施にインセンティブを与えるため,「新生児特定集中治療室退院調整加算」が新設された(厚生労働省 2010a)。この加算の導入目的は,「NICUの満床状態の解消が周産期救急医療における課題となっていることから,NICU 入院中の患者等についての退院支援を評価する。」として,満床状態の解消を目的としていることが明確に表意されている。懇談会の最終報告書の中では,「NICU入院児支援コーディネーターの配置を支援する」とのみ表現され,診療報酬上の加算を付けることまでは明言されていなかった。しかし,前節で引用した第 6回懇談会における藤村委員及び田村委員の意見のとおり,実施への強制力を調達するため,診療報酬上の加算が付けられることになったと捉えられる。この退院調整加算の加算額は 300 点と設定され,看護師又は社会福祉士が,患者の同意を得て退院支援のための計画を策定し,退院・転院に向けた支援を行った場合,退院時 1回に限り算定することとされている。支援の内容としては,入院早期から退院後の移行先の選定や,地域における医療・福祉機関との事前連絡及び調整を行うこととされており,何より最も重要な算定要件である「退院の実施」が求められることとなった 14)。

14) その後,平成 24 年度(厚生労働省 2012),平成26 年度(厚生労働省 2014b)の 2度の改定を経ているが,主に加算点数の上乗せがなされている。また,長期入院児を入院初期からスクリーニングにより選定することが要件に追加され,長期入院の抑制に向けた実効性がより高められている。さらに,入院 7日以内に家族との話し合いを行うという要件が追加されており,家族の意向を尊重するかのように捉えられるが,医療機関側の責任軽減策として用いられている可能性はないか,危惧される点である。

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Ⅲ.考察

本稿の分析の結果,懇談会では在宅移行後の家族とその生活への影響及び必要とされる支援の議論として,「レスパイトを含む地域医療サービス提供への診療報酬の上乗せ」と,「NICUと地域医療サービス機関との退院前の連携・調整」が提言されたに留まることが明らかとなった。周産期救急医療の危機への対応が急がれる中で,病床確保のため退院を促進する策が波及して在宅移行を選択する家族に影響を及ぼすことについては,懇談会では深く考慮されていなかったと結論づけられる。周産期救急医療の体制整備は,救急搬送の問題を契機に生じた社会的な要請を受けて検討された課題であり,それ自体は政策目的として正当かつ必要な取り組みであった。また,本稿で検討したとおり,真にその状況改善のために必要な対策は長い時間を要するものが多く,早急な解決が強く求められる中で短期間の内に実施可能な対策として退院の促進策が必要とされたことは理解できる。しかし,退院の促進策を導入するのであれば,それが在宅移行を選択する児と家族にも影響することを認識し,在宅移行期の生活実態に詳しい専門家を参考人として招致するなど,必要な支援のメニューとそれらを確実に得られる仕組みを検討するべきであったと考える。あるいは,この懇談会の委員構成では在宅移行による生活への影響を詳細に検討することは不可能であると認め,安易に言及すること無く在宅移行の場合については退院を促す対象からひとまず除外する方法も取り得たはずである。議論の結果導入された退院調整加算がその算定要件において医療機関に要請している支援とは,まさに退院に際しての調整であり,その本質は在宅移行先の地域医療サービス提供機関への「情報提供」である。平成 22 年度の診療報酬

改定により,レスパイトサービス提供機関や居住地域にある小児科,訪問看護ステーション等への加算はなされたが,実際にそれらを利用できるか否かは,現状退院時点では判断されない。仮に利用できない場合でも,情報提供を行い家族の了承の上で在宅移行がなされたのであれば,その時点で加算の算定は可能となっている。最も肝心な,それらサービスの確実な利用が退院時点で保証されていないという点において,現状の退院調整加算は支援の不確定な環境へ家族を送り出す役割を担っていると捉えられる。これが,その導入時の議論において,在宅移行を見据えた議論が不十分であったことに由来する,最も重要な問題点である。

Ⅳ.終わりに

本稿においては,退院調整加算の導入過程における議論の不足を検証したが,この加算により,児の在宅移行やその後の生活にいかなる影響が生じているかについては,詳細な検証ができなかった。特に,診療報酬の導入や上乗せがなされたレスパイト入院・訪問看護・地域小児科での重症児診察について,サービスの供給量と内容の充実が果たされているのか,診療報酬による影響を把握する必要がある。また,退院調整加算による支援を受けて在宅へ移行した児と家族のその後の生活実態について,在宅生活が安定して継続されてきたのか,把握が必要であると考える。現在のところこれに関する報告はなされておらず,この検証も今後の課題となる。

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(受稿日:2014. 12. 1)(受理日:2015. 5. 8)

Page 14: NICU入院児の在宅移行を促進する 「新生児特定集 …r-cube.ritsumei.ac.jp/repo/repository/rcube/6405/GL32_p...55 NICU入院児の在宅移行を促進する「新生児特定集中治療室退院調整加算」の導入契機となった懇談会議事録の検証(金野)

立命館人間科学研究 第32号 2015. 8

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Original Article

Examining the Minutes of an Ad-hoc Committee on the Introduction of Additional Discharge Fees for Neonatal Intensive Care Units (NICUs): Consequences of the Lack of Argument about Transitioning to Home Care

KONNO Hiroshi(Graduate School of Core Ethics and Frontier Sciences, Ritsumeikan University)

This study examines a discussion about the introduction of additional discharge management fees for neonatal intensive care units(NICUs). These fees fall under the medical treatment fee item that aims to promote hospital discharges, including transitioning to home care. The aim of this study was to clarify the committee’s discussion on the possible effects on families by the transition to home care and its associated difficulties. Previous research on transitioning to home care and support for children who are hospitalised in NICUs revealed insufficient support for families upon their child’s transition to home care. However, these previous studies did not consider the perspective that the difficulties are associated with the original objective of the additional fees, which is to encourage the transition to home care, and the process of their introduction. Therefore, this study’s academic contribution is to highlight this perspective and emphasise the need to urgently support hospital discharges. I analyzed all of the minutes of the “Committee to Secure and Coordinate Perinatal Medical Care and Emergency Treatment” held under the jurisdiction of the Ministry of Health, Labour and Welfare. This committee was the catalyst for the introduction of the additional discharge management fees for NICUs. The analysis revealed that home care transition was only discussed in terms of the necessity of having additional home care fees and informing patients prior to their discharge. No mention was made of a menu of support required after the home care transition or ways of guaranteeing such support. I argued that this committee was insufficient since home care specialists did not participate. As a consequence, the calculation requirements for the additional fees were not designed to facilitate diverse services or guarantee their utilization.

Key Words : NICU, disabled child, discharge supportRITSUMEIKAN JOURNAL OF HUMAN SCIENCES,No.32,55-68,2015.