201

磁気共鳴スペクトロスコピーと拡散テンソル画像を用いた

視神経脊髄炎患者の

Normal appearing gray matterの解析

眞 島 卓 弥

新潟大学大学院医歯学総合研究科

神経内科学分野

(主任 :西滞正豊教授)

Analysis of Normal Appearing Gray Matter in Neuromyelitis Optica with

Magnetic Resonance Spectroscopy and Diffusion Tensor Imaging

Takuya MASHIMA

Dim'slonofNeuTOlow,NL'1'gataUnl陀rS妙

GrBduateSchoolofMedl'calandDentalSclenee

(DL'TeCtOr:ProfMasatoyoNISHIZ4WA)

要 旨

臓 的】視神経脊髄炎 (Neuromyelitisoptiea:NMO)患者には認知機能障害が存在し,大脳

における異常との関連性が示唆されているが,類似疾患である多発性硬化症 (Mu呈出plesclero-

sis:MS)と比べて十分な検討はされていない.そこでNMO患者の大脳における変化を磁気

共鳴スペク トロヌコピ- (Magneticresonaneespectroscopy:MRS)と拡散テンソル画像

(Di軌ISiontensorimaging:DTI)を用いて検討した.

【方法】NMO患者 9名 (女性のみ),MS患者 9名 (女性 7名,男性 2名),健滞対照者 17名

(女性 12名,男性 5名)を対象とした.前部帯状皮質,大脳基底核 を関心領域 とし,Point

resolvedspectroscopy(PRESS)法および MEGA-PRESS法によるシングルボクセル MRS

(sm RS)を撞橡 し,得られた各代謝物のクレアチン (Cr)比を比較検討 した.DTIは大脳基

底核 レベルか ら放線冠 レベルの軸位断で撮像 し,SVMRSと同 じ関心領域で Fradonal

anisotropy(FA)およびTraeeを検討した.

瞳 栄】NMO患者群の前部帯状皮質におけるコリン/クレアチン比 (Cho/Cr)はMS患者群

および対照群よりも着意に低下しており,同部位におけるTrace値は対照群よりも有意に上昇

していた.またNMO患者帯の基底核におけるγ-アミノ酪酸/クレアチン比 (GABA/Cr)は対

照群よりも有意に上昇していた.前部帯状皮質の Cho/Crの低下と基底核の GABA/Crの上昇

には有意な相関が認められた,

ReprirltrequeststO:TakuyaMASH!MA

DivisionofNeurologyNiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalScience

1-757Asahimachi-doTiChuo-ku,

Niigata951-8585Japan

別剰請求先 :〒951-8585 新潟市中央区旭町通 い757

新潟大学大学院医商学総合研究科神経内科学分野

県 鳥 車 弥

202 新潟医学会雑誌 第 126巻 第 4号 平成 24午 (2012)4月

【考察】前部帯状皮質では,大脳皮質障害に伴う細胞密度の低下による細胞膜の総巌の低下を

反映してCho/Crが低下し,それに伴う細胞間腔の相対的な増加を転映してTraceが上昇して

いる可能性が考えられた,また大脳基底核では前部帯状皮質のCho/Crと相関したGABA/Cr

の変化がみられたことから,皮質障害と関連した変化が起こっている吋能性が考えられた.

キーワード:視神経脊髄炎,磁気捌 鴎スペクトロスコピ-,拡散テンソル画像,前部滞状皮質,

大脳基底枝

緒 言

視神経脊髄炎 (Neuromyelitisoptica:NMO)

では認知機能障害が存在することが報告されてい

る1).類似疾患である多発性硬化症 (Multiple

sclerosis:MS)では,発症早期より認知機能障

害が起 こることが知 られており,これは従来の

MRIでは異常の指摘 で きない白質 (Normal

appearingwhitematter:NAWM)や灰白質

猶om a豆appearinggraymatter:NAGM)での

微細な変化が関連 していると考えられており,磁

気共鳴スペク トロスコピ- 掴 agneticresonance

speetroseopy:MRS)2)や拡散 テンソル画像

(D豆軌siontensoTimaging:DTⅠ)3),磁化移動比

(Magnetiza如mtransferratio:MTR)4)などを用

いた検討が行われている.

NMOの認知機能障害にもNAWM や NAGM

における何らかの異常が関連 していることが予想

されるため,MSと同様な手法を用いた検討が試

みられている.MTRを用いた研究では,NMO患

者の NAGM におけるMTRが低下 していたとす

る報告 5)があり,DTIを酢 -た研究では,前部帯

状皮質や中前頭軌 脳梁における Fractional

anisotoropy(FA)の低下やMeandi触sivity(MD)

の上昇が認知機能と相関することが報告されてい

る6).MRSを用いた研究では,主にNAWM に着

目した検討が行われているが,健常者との有意な

差を認められていない 7ト 9).NMOは脱髄 を主

体 とするMSとは病態が異なるため,NAWM に

おける変化は少ないと考えられており10),大脳

皮質や基底核のようなNAGM に著 目した検討が

必要であると考えられるが,これまで NAGM に

着目したMRSの研究はなされていない.またこ

れまでの NMOに関する報告では,MRSで得 ら

れる代謝物の うち,N-アセチルアスパラギン酸

(NA盈),コリン化合物 (Cho),ミオイノシ トール

(MI)およびそれらのクレアチン (Cr)比が検討

されていたが,editingpulseを用いた MEGA-

PRESS法を用いることにより従来のMRSでは測

定が困難であったγ-ア ミノ酪酸 (GABA)やグ

ルタミン (Gin),グルタミン酸 (Glu)の測定が

可能であり,有用と考えられるが,これまでに

NM()や MSで Ml二(;A-PRESS法を川いた MRS

の報裾 まない.そこで本研究では,NMO患者の

大脳の変化を検出することを目的とし,NMO患

者,MS愚者および健常対照者を対象とし,大脳

皮質と基底核に着冒してMRSとDTIによる検討

を行った.MRSは従来の Pointresolvedspee-

troscopy津RESS)法に加えて MEGA-PRESS法

を用いて行った.

対象および方法

対象

NMO患者 9名 (女性のみ),MS患者 9名 (女

性 7名,男性 2名),および健常対照者 17名 (女

性 12名,男性 5名)を対象とした (表 l).撮像

時の年齢は 3群間で有意な差 を認めなかった.

NMO患者群および MS患者群との間で発症年齢

に有意な差を認めなかった.NMO患者群は全員

が抗AQP4抗体陽性であり,うち4名は視神経炎

および脊髄炎を伴い,2006年の改定 NMO診断基

準 11)を満たす Di虫niteNMOであった.残 りの 5

人のうち3名は視神経炎のみ,2名は脊髄炎のみ

県毎 :磁気共鳴スペクトロスコピ-と拡散テンソル[酎象を用いた視神経脊髄炎患者のNormalappea血ggraymatterの解析

泰 1 対象者のまとめ

対照例(∩=17) NMO(∩=9) MS(∩=9)

性別 (男 :女)

年齢 (平均士標準偏差)

発症年齢 (平均±標準偏差)

視神経炎あり

脊髄炎あり

大%'病変あり

EDSS(平均±sd)

抗AQP4抗体博性

治療 副腎皮質ステロイド内服

免疫抑制剤

インターフェロンβ

5:12 0二9

43.8±7.4 45.7±7.5

37.8±13.0

7/9(78%)

6/9(67%)

2/9(22%)

2.9±2.6

9/9(100%)

8/9(89%)

4/9(44%)

0/9(0%)

2:7

37.2±10.2

32.9±10,1

5/9(56%)

7/9(78%)

9/9(100%)

1.2±1_6

0/9(0%)

1/9(11%)

0/9(0%)

7/9(67%)

略語 NMO:視神経脊髄炎 (Neuromyelitisoptica) MS:多発性硬化症 (Multipleselerosis)

EDSS:ExpandedDisabilib,StatusScaie AQP4:アクアポリン4(aquaporin4)

であり,Limitedform ofNMOIO)と考えられる症

例 で あ っ た . MS患 者 群 は 2010年 の 改 定

McDonald診断基準を満たした 12).疾患の機能障

害の程度 を表す ExpandedDisabi昔ityStatusSca瞳

(EDSS)は NMO患者群および MS患者群との間

で有意な差 を認めなかった.NMO患者群のうち

8名,MS患者群のうち 1名が MRI撮像時に副腎

皮質ステロイ ドを内服 していた.NMO愚者群の

4名が免疫抑制剤を内服 していたが,MS患者群

では内服 していなかった.MS患者群のうち 7名

がインタ-フェロンβを使用 していたが,NMO

患者群では使用 していなかった 本研究は新潟大

学倫理委員会のガイ ドラインを遵守 し,書面によ

るインフォ-ム ドコンセン トを得て施行した.

MRI撮像方法

Signa3,OTesla画像装置 (GeneralEiectric

Med豆calSystem,Waukesha,Ⅵ7),および 8チャン

ネルフェーズ ドアレイコイルをすべての掘像に使

用 した.高速スピンエコ- (SE)法により高解像

度形態画像 を撮像 した後, シンダルポクセル

MRS (SVMRS) をPoinト resolvedspeetroseopy

汰 (PRSSS法)および MEGA-PRESS法を用い

て施行 した.PRESS法によるSVMRSは,前部滞

203

図 I MRSの関心領域

a.前部滞状皮質の PRESS法によるMRSの関心

領域 (16×16×16mm)

ら.被殻のPRESS法によるMRSの関心領域

相打後26×左右 15×上下 16mm)

C. 前 部帯状皮薯の MEGA-PRESS法による

MRSの関心領域 (30×30×30mm)

a.大脳基底核の MEGA-PRESS法によるMRS

の関心領域 (SOX30×30mm)

204 新潟医学会雑誌 第 126巻 第 4号 平成 24年 (2012)4月

表2 対照群,NMO患者群,MS患者群における関心領域毎の代謝物のCr比 (平均±標準偏差)

関心領域

(MRSシーケンス)ctr1 NMO MS pva山e

ACC(PRESS)

ACC(MEGA-PRESS)

pu｢amen(PRESS)

BGL(MEGA-PRESS)

NANCr 1372fO.105

Cho/Cr 0.306±0.022

Ml/Cr 0.816±0.091

G山/Cr 1.439±0.172

GIx/Cr 1.860±0.235

NAAノCr 1.415±0.149

GABAノCr 0.172±0.080

Glu/Cr 0.686±0.104

GIx/C｢ 0.853±0.129

NAAノCr 1.156±0.088

Cho/Cr 0.251±0.023

Ml/Cr 0.487±0.122

Glu/Cr 0.956±0.130

GIx/Cr 1.303±0.209

NAA/C｢ 1.552±0｡093

GABA/C｢ 0.208±0.057

GIu/Cr 0.653±0.194

GIx/Cr O770fO.106

1.341±0.155 1.297±0.155

0.276±0.037 0.307±0.035

0.804士0.095 0.816土0.094

1.538±0.325 1.360±0.108

1.993±0.308 1.804±0.143

1.345±0.140 1.315±0.226

0.130±0.036 0.169±0.070

0.631±0.080 0.693±0.102

0.795±0.050 0.795±0.108

1.111±0.203 1.097±0.089

0.260±0.017 0.259±0.039

0.530±0.135 0.504±0.097

0.947±0.088 0.996士0.126

1.285±0.084 1.515±0.426

1.559±0.127 1.495±0.189

0.280±0.042 0.237土0.073

0.617±0.176 0.492±0.305

0.736±0.073 0.695±0.097

392

抑

掛

川

229

3-0

㍍

329

305

5-2

6-2

7-3

647

435

530

㈹659

1

0.α

0.0.0.0.0.0.0.0.0.0.0.0.0.α

0.0

略号 ACC:前部帯状皮質 (AnteriorcizlglatecoTteX) putamen:雑穀 BGL:大脳基底核 (Basalganglia)

ctrl:耕す珊羊 NMO:視神経脊髄炎 (Neuromyehtiso画ca) MS:多発性硬化症 (Multiplesclerosis)

Crこクレアチン (Creatine) NAA:N-アセチルアスパラギン酸 佃 -aeetylaspartate) Cho:コリン (Choline)

Mr:ミオイノシト-ル (myo-inositol)(;1u:グルタミン酸 (glutamate) GIx:グルタミン+グルタミン酸

GABA:γ-アミノ酪酸 (Gamma-aminobutyl-ieacは)

状皮質 (16×16×16mm)および被殻 (26×

ま5×16mm)を関心領域とし く図1-a,b),以下

のパラメ-夕諾貸産により掘像 した (TR:1.5S,TE:

30ms,NEX:12射 . MEGA-PRESS法 による

SVMRSは,前部帯状皮質 (30×30×30mm)お

よび大脳基底核 (30×30×30mm)を関心領域

とし (図 1-C,a),以 下のパラメ-夕設定により

撮 像 した くTR:I.5S,TE:68ms,NEE:256).

SVMRSの関心領域は SE画像で明らかな病変が

含まれないことを確認 して設定 した.拡散強調画

像はエコープラナ-法を用い,基底核 レベルから

放線冠にかけての軸位断で以下のパラメータ設定

により撮像 した (撮像野:200×200mm,画素数:

128×128,スライス摩:5.0mm,スライス間隔;

2.5mm,撮像枚数:5枚,TR:5.Os,TE:82.7ms,NEX;

8,b値:1000S/mm2).

データ解析

SVMRSのスペク トル解析には悪意性を排除す

るため,自動解析ソフトであるLCModel(Stephan

preovencherlnc,Oakville,Onはね Canada)13)杏

用いて行った.PRESS法により測定された代謝物

のうち,N-アセチルア射 ちラギン醸 佃AA),コ

リン化合物 (Cho),ミオイノシ ト-ル (MI)を

解析に用いた.このうちNAAはN-アセチルアス

パラギン酸および N-アセチルアスパラチルグル

タミン酸の合計であり,また Choはダリセロホス

ホコ リンお よび ホスホコ リンの合計で あ る.

MEGA-PRESS法では γ-ア ミノ酪酸 (GABA上

グルタミン (Gh),グルタミン酸 (Glu)および

GlnとGluの合計 (GI果) が測定 された.以上狩

測定 された代謝物のクレアチン (Cr)比につい

て,NMO患者群,MS患者群,対照群の 3群によ

る一元配置分散分析を行い,有意差を認めたもの

桑島 :磁気共鳴スペタ トロスコピ-と拡散テンソル画像を用いた視神経脊髄炎恩者のNormalappearin営grayma比erの解析

a ACC SVMRSlPRESSI b ACC DTl C BGLSVMRS(MEGA-PRESS)

5

3

.3

0.

0)3JOL43

ctrl NMO MS

3

｢上

1

0

0

0

)3JVgV9

日匡

丁

由

T

･

-.1.._I

｣

.千

Tロ

ロ

-

NMO MS 〔trl NMO MS

図2

a 前部葦状皮質の SVMRS 律RFJSS法)によるCho/CHヒの比較

b 前部帯状皮質の DrmによるTraceの比較

C 大脳基底核のSVMRS (MEGAIP況濫SS法)によるGABA/Cr比の比較

略号 ACC :前部帯状皮贋 (血teriorcinglatecortex) BGL:大脳基底核 (Basalganglia)

ctrl:対照群 NMO :視神経脊髄炎 (Neuromye批isoptiea) MS:多発性硬化症 (Multiplesclerosis)

Cho:コリン (Choline) Cr:/}レアチン (Creatine) GABA :y-ア ミノ酪酸 (Gamma-amimobutyricacid)

についてFisher法を用いた検定を行った.また前

部帯状皮質と代謝物比の相関解析はスピアマン相

関係数を用いて検討 し,必要に応 じてロジスティ

ック曲線へのフィッティングを行った.統計処理

には統計ソフ トである SPSS16.0 (SPSSInc.,

Chicago,USA) を用い,全ての解析で有意水準は

5%に設定した.

DTIの解析では数値計算ソフ トウェアである

MATLAB v(､rsion7.9 (TlleMatllW orkslllC..

Naも豆ck,WA.)を用い,当教室にて作成 したプログ

ラムを用いて各ピタセル毎の Fractionalaniso-

toropy (FA) およびTrace値を計算 し,FAマ ッ

プ,Traceマップを作成 した.次いで前部帯状皮

質および大脳基底榛のそれぞれを含むスライスに

おいて MRSの関心領域に合わせた関心領域を設

定し,関心領域内の FAおよびTrace値の平均値

を算出した

結 果

前部帯状皮質におけるPRESS法によるMRS

(表 2)では,NMO患者群の Cho/Crが対照群 お

よび MS群 と比較 して有意に低下 していた (図

2-a).NAA/Cr,MI花r,Glu/Cr,Glx/Crでは 3

nU

L

n

0

rコ

4

ユJ

rr1

つ｣

nU

ハ

U

n-

O

JU

＼OLJjUUV

a.20

205

01 02 03 0.4

BGLGABA/Cr

図3 大脳基底核の GABA/CTと前部帯状攻撃の

Cho/Crの関係

略号 ACC:前部榊 尤皮質 (Anteriorcinglatecortex)

BGL:大脳基底核 (Basal卵nglia)ctrl:対照群

NMO :視神経脊髄炎 (Neuromyelitisoptica)

MS:多発性硬化症 (Multiplesclero壷)Cho:コリン (Choline)

Cr:クレアチン (Creatine)

GABA :γ-ア ミノ酪酸 暗amma-aminobutyricacid)

群 間 に有 意 な変 化 を認 め なか っ た. また

ME(~iAIPRESS法により得 られた GABA/Cr.

Glu/Cr,GI荒/Crのいずれについても3群間に有

意な変化を認めなかった.DT王の解析では,前部

206 新潟医学会雑誌 第 126巻 第 4号 平成 2後年 は012)4月

帯状皮質におけるTraeeが対照群と比較して有意

に上昇していた (図 2-ち).FAでは3群間に有意

な変化を認めなかった.

大脳基底核におけるMEGA-PRESS法による

MRS(義 2)では,NMO患者群の GABA/Crが

対照群より有意に上昇 していた (図 2-C).また,

大脳 基底 核 の GABA/Crは前 部帯状 皮 質 の

Cho/Crと有意な相関を認めた く図3).被穀にお

けるPRESS法によるMRSではいずれの代謝物

についても有意な変化を認めなかった.DT王の解

析ではFAおよびTraee値に有意な変化を認めな

かった.

考 察

本研究ではNMO患者群の前部帯状皮質におい

て,MRSの結果 NMO患者群では対照群および

MS患者群と比較して前部帯状皮質の Cho/Crが

有意に低下 しており,DTIの解析ではNMO患者

群では対照群と比較 して岡部位のTraeeが有意に

上昇 していた.NMOにおける皮質の病理変化に

関してはいまだ報告は少ないものの,Popescuら

は皮質において局所的な神経脱落,gliosisが伴う

ことを報告している14).また一般にNMO症例に

おいて画像上大脳白質の異常を墨するものは納

ま0%と少ないこと15購),MRSを酢 ､た白質の検

討で正常例と有意差が認められないこと7ト 9)が

報告されており,皮質の変化がprimaryである可

能性が示唆 されている.NMO患者では抗 AQP4

抗体が高率に認め られ,その標的抗原である

AQP4は中枢神経系ではアス トロサイトの足突起

に発現 し,拭AQP4抗体によりアス トロサイ ト障

害が起こる 17)ことが現時点での疾患発症のメカ

ニズムの一つ と考 えられてお り,標的 となる

AQP4は大脳皮質において高度に発現 しているこ

と 18) も皮質病変の存在を示唆するものである.

一方,今回得られた所見の解釈として,MRSに関

してはChoの低下ないしはCrの増加がみられた

可能性がある.MRSで見られるChoは細胞膜の

リン脂質の主要な構成成分であり,その前駆 物 質

あるいは崩壊産物であるホスホコリンやダリセロ

ホスホコリンが MRSの†言号に関り･し.細胞密度

を反映す る 19) ことが報告 されており,神経脱

落 ･グリオ-シスを伴う変性疾患をはじめとした

病 理変化 に伴い低 ドす ることが報告 されてい

る20).一方,CrのピークはCreatineshuttleを構

築するクレアチンとホスホクレアチンを含むと考

えられる,脳内クレアチンの供給源は血液脳関門

(bloodbrainbarrier:BBB)に存在するクレアチ

ントランスポ-タ-を介して血液より脳組織内に

移行する経路が 育三であり,これをグリア細胞でのク

レアチン合成が補完 していると考えられる 21)

NMOにおいては BBBの障害が示唆 されてお

り22)23),当該の病態において脳内 Crの上昇して

いる可能性は少ないと考えられ MRSにおける

Cho/Crの低下は主にChoの低下を反映 している

ものと考えられた,さらに,Traceの上昇は脳組

織内の見かけ上の水拡散を規定する因子の つ で

ある細胞間腔 (inter-celluhrspace:ICS)の相対

的な増加をきたす病態,即ち細胞密度の低下等をき

たす疾患に幅広く認められる所見である24ト 27)

以 Lを併せて考えると,本研究における前部滞状

皮質の所見は,大脳皮質障害に伴う細胞密度の低

下による細胞膜の総量の低下を反映 して Cho/Cr

が低下し,それに伴うICSの相対的な増加を反映

してTraceが L昇している可能性が考えられた.

NMO患者群の大脳基底核では対照群に比べて

有意にGABA/Crが上昇していた.大脳基底核の

GABA/Crは前部帯状皮質の Cho/Crと有意な相

関を認めたことから,皮質における変化を反映 し

ている可能性が考えられた.これまでにNMOや

MSにおける大脳基底核の GABAに関する報告は

ないが,精神疾患では本研究と同様の方法を用い

た基底核のGABAに関する検討が行われており,紘

合失調症患者では基底枝の GABAが低下し28),

また抗精神病薬の内服により変化しうることが報

告 されている29).また死後脳による研究である

那,Parkinson病患者では線条体におけるGABA濃

度が上昇していることが報菖されている30)31)

MS患者群の前部滞状皮質におけるMRSにお

いて,いずれの代謝物についても対照群との有意

な変化を認めなかった.MS患者の NAGM およ

県鳥 :磁気共鳴スペクトロスコピーと拡散テンソル画像を用いた視神経脊髄炎患者のNormalappea血ggraymatterの解析

び NAWM ではNAA/Crが低 卜することが報lIi･さ

れている32)那, インタ-フェロン治療を受けて

いる場合,受けていない患者 よりもNAWM にお

けるNAAが高いことが報菖 されている 33).本研

究の MS患者の多くはインタ-フェロン治療を受

けており,治療内容が結果に影響 した可能性は否

定できない.

今回の NMO患者の多くは副腎皮質ステロイ ド

治療を受けているため,その影響を考慮する必要

がある.副腎皮質 ステロイ ドはホスホ リパーゼ

A2の阻害作用による細胞膜安定化作用があ り,

m iatらは,Cushing病患者の前頭葉白質および

視床において Cho/Crが低下すること34),また治

療によりそれが正常化すること35)を報告 してい

る,一方で 馳 iaもらは副腎皮質ステロイ ドを内服

している医原性 Cushing病患者ではCho/Crの有

意な低下を認めなかったことを報告 しており36),

また Scheeiらは,健常者に対 し短期間の副腎皮

質ステロイ ド内服の前後に MRSを行い,皮質お

よび白質における代謝物に変化がないことを報告

している 37).従 って副腎皮質ステロイ ド内服 に

よるMRSの結果への影響は Cushing病に比べて

小 さいと考えられる.厳密な評価のためには,ス

テロイ ドを体薬 した状態での検討が必要である

が,無治療では丙然の リスクが高いため現業的で

はない.

蘇 読

MRSおよび m を用いて NMO患者,MS患者

および対照者の前部帯状皮質,大脳基底核に関心領

域をおいた検討を行った.NMO患者群の前部帯状

皮質ではCho/Crの低下,Traceの上昇がみられ,大

脳基底核ではGABA/Crの上昇がみられた.大脳基

底核のGABA/Crは前部帯状皮質の Cho/Crとは有

意な相関を示 し,皮質における異常が反映 されてい

ると考えられた

謝 辞

御指導頂きました新潟大学脳研究所統合脳機能研究

センタ- 生体磁気共鳴学分野 五十嵐博中教授,神経

207

内科 河内泉先生,及び研究の機会を与えて下さった神

経内科 酉潤正恩教授,統合脳機能研究センター 中間

力教授に深謝いたします.

文 献

1)BlancF.ZLIphirH.lJebrunC,LabaugPP.

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Dujardina,VermerschPanddeSezeJ:Cognitive九mCtionsinneuromyelitisoptica.Arch

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2)Chr喜stodoulotAC,KnlppLB,LiangZ,HuangW,

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MacAllisterWS,LiL,TudoricaIA,LiX,RocheP

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3)RoLlaM,Ton･alvaT,Meliド.FioIM,CalLlagnOM.

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VitaI..,ManesFandC｡n･ealeJ:CognitivedefiLlits

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4)FilippiM,Tortorellac,RovarisM,BozzaliM,

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(平成23年 且2月 14日受付)