個々人がどのような思いで暮らし - 1010.or.jp · 銭湯の経営をされている方はご存 果」や「浮力効果」があります。温じでしょうが、お風呂には「温熱効

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銭湯は地域住民の健康を守る最前

線基地なのではないか、と思ってい

ます。

なぜ、銭湯が住民の健康を守る最

前線基地なのでしょうか?

私は日曜日の夕方、手ぬぐいを

持ってぶらりと東京都大田区の下町

にある「はすぬま温泉」に出かけま

した。名前からすると温泉旅館のよ

うですが、全浴連の近藤理事長が経

営されている銭湯です。若い来客も

いましたが、80歳を過ぎたと思われ

る男性女性が次から次へと来店して

きて、まるで福祉施設のような様子

でした。カウンターにはおかみさん

がいて、来店する顔なじみの高齢者

1人1人に優しく声がけをしていま

す。下駄箱の鍵が見当たらない、と

いう高齢男性がカウンターに来ると、

いっしょに手荷物の中を探してあげ

たり、高齢者入浴補助券を忘れてき

た女性には区役所での発行手続きを

教えてあげるなど、入浴料金を徴収

するだけにとどまらない、細やかな

世話を焼いてくれていました。高齢

者が銭湯に見守られている、そんな

光景でした。

1人暮らし高齢者が増えている、

と言われる昨今、銭湯は高齢者を孤

独から守っている施設とも言えるで

しょう。浴室では顔見知り同士の高

齢者が、黄色がかった温泉に浸かり

ながら離れたところに住む孫のこと

や、体の調子を話したりと楽しそう

に世間話に花を咲かせていました。

銭湯に来ればいつもの同じ知り合い

がいる、世間話をすれば自宅では1

人であっても気の晴れるひと時を過

ごすことができるのでしょう。こう

した意味でも銭湯の役割は大きいの

です。

地域住民の高齢化が進む中、銭湯

へは住民の健康を守る最前線基地と

しての役割を期待しています。内閣

府によると、平成27年では1人暮ら

し高齢者は600万人もいると報告

されています。こうした方々にとっ

て、身だしなみを整え銭湯へ出かけ

る、入浴し、人と出会い話をする、

という一連の行為が、精神的にも身

体的にも健康を維持するのに役立っ

ていると考えています。銭湯の果た

す役目はこれからもますます大きく

なっていくことでしょう。

巻頭言 

銭湯は住民の健康を守る最前線基地�

3

毎日お風呂に入る人は�

幸せを感じやすい医学的理由��

4

ストレスがあふれる季節�

「春」の銭湯利用のポイント�

6

「夏」は銭湯の薬湯を楽しみ、�

入浴前に緑茶を飲もう�

8

紫外線で傷んだ肌を美しく�

リニューアルする「秋」の銭湯入浴法�

10

体の安全保障は�

「冬」の銭湯ならこそ守られる�12

より価値のある健康増進の施設としての�

銭湯への医学的提言�

14

早坂

信哉

宮城県出身。1933年、自治医科大学医学

部卒業後、地域医療に従事。2002年、自

治医科大学大学院医学研究科終了後、浜松医

科大学医学部講師、同大学准教授、大東文化

大学スポーツ・健康科学部教授を経て、現在、

東京都市大学人間科学部教授、一般財団法人

日本健康開発財団温泉医科学研究所所長。医

学博士、温泉療法専門医。

生活習慣としての入浴を医学的に研究する

第一人者。そのユニークな研究が注目を集

め、「やじうまテレビ!」「はなまるマーケッ

ト」「世界一受けたい授業」など、テレビ

出演多数。著書『たった1℃が体を変える 

ほんとうに健康になる入浴法』『入浴検定

公式テキスト』など。

表紙・BUNKYO GRAPH 本文デザイン・渡辺朗子

3 2

国もやっている方法で�

「幸福」を科学的に測定

「お風呂に毎日入ると幸せになれる」

最近こんな話を聞いたことはありま

せんか? 

これは思いつきのつくり

話ではなく、科学的な研究に基づく

話です。

個々人がどのような思いで暮らし

ているのか、ということを数値とし

て測定するツールのひとつが「幸福

度」です。国際的には先進国や途上

国でも測定されています。これは所

得と必ずしもリンクしているわけで

はなく、国際的に見ると日本では1

人あたりの所得が高くても幸福度が

低い、ということも指摘されていま

す。

我が国では内閣府が国民生活選好

度調査として幸福度を測定していま

す。具体的には、現在どの程度幸せ

かを10段階評価(「とても幸せ」を

10点、「とても不幸」を0点)で尋

ねるという方法です。私たちの研究

でも内閣府と同じ方法で幸福度を測

定しました。2012年に静岡県に

住む6000人の住民を対象に調査

したのです。

その結果、3054人の方から回

答を得ることができ、私たちの研究

グループはそのデータを解析しまし

た。そ

の結果、毎日の入浴習慣と幸福

度の関連について、お風呂に毎日入

る人は幸福度が高い人が多いという

ことが分かったのです。

10ポイントも差がついた�

「毎日湯船に浸かる」人の幸福度

この研究では、お風呂の習慣につ

いて、「週に何回湯船に浸かる入浴

をしているのか」を尋ねました。す

ると、約半数の人が週7回以上湯船

に浸かると回答しましたので、週7

回以上のグループと、週7回未満の

グループに分けて調べたのです。

また、幸福度についても半分ずつ

にグループが分かれるように、8~

10点の人を「幸福度が高いグループ」、

7点以下の人を「幸福度が低いグ

ループ」としました。

結果はなんと、週7回以上のグ

ループでは幸福度が高い人の割合が

54%、週7回未満のグループでは幸

福度の高い人の割合が44%。予想以

上に顕著に差が出たのです。

では、なぜ毎日お風呂に入る人に

幸福度が高い人が多いのでしょうか。

これは、私たちがお風呂に入って感

じる「気持ちが良い」という感覚が

数字に表れたということだと考えて

います。

銭湯の経営をされている方はご存

じでしょうが、お風呂には「温熱効

果」や「浮力効果」があります。温

熱効果で血液の循環が良くなると新

陳代謝が活発になり、体の疲れが取

れてすっきりします。また、肩こ

りや腰痛といった慢性的な

痛みも改善します。浮力効

果は、入浴中には体重の重

力からの開放をもたらしリ

ラックス効果を生み出しま

す。こ

うした効果はこれまで

多くの医学的な研究から分

かっていますが、これらお

風呂の効果の毎日の積み重

ねが、幸福感につながって

いると考えています。

シャワーだけの入浴生活

では幸せな人は少ない

この研究では同じように

シャワーについても尋ねま

した。毎日シャワーだけの

人のグループも検討したの

です。

その結果、シャワーだけ

のグループは幸福度が高い

人はわずか38%だけでした。

つまり、シャワーだけ浴びている

人は幸福度が低いということです。

シャワーでは湯に浸からないため、

得られる温熱効果も少なく、浮力

効果はありません。そのため、新陳

代謝や痛みを改善したり、リラック

スしたりする効果が少ないと考えら

れます。

最近はシャワーだけですませる人

も多いようですが、人生の楽しみを

相当量失っていると言えるかもしれ

ません。

同じ湯船でも、銭湯のように天井

が高くて広い空間での入浴は、リ

ラックス脳波といわれるα波が家庭

の狭い湯船に浸かるよりたくさん出

るという実験結果もあります。銭湯

に通うウオーキングの適度な運動も

入浴効果を高めることができます。

また銭湯は、人々とのコミュニ

ケーションなど心の触れ合いも豊か

な環境です。幸福度について、銭湯

と家庭風呂のグループに分けた調査

を行う機会があれば、きっと「銭湯

に入ると幸福」という結果が出るに

違いないと思います。

入浴が人生の楽しみの量を増やす

5 4

新しい生活環境に�

合わせようとするストレス

春は入学・就職・異動にともない、

新生活が始まる方もいることでしょ

う。周りの友人や同僚も変わり、勉

強や仕事の内容も変わるのは大きな

ストレスの種になります。新しい環

境に適応できないでいると、5月の

ゴールデンウィーク明けごろからう

つ病に似た症状がよく起こります。

医学的には「適応障害」と診断され

ることもある、いわゆる「五月病」

です。

五月病になると学校や会社に行く

のが嫌になり、同時に心身の不調を

伴ったりします。おもな症状は抑う

つ、無気力、不安感。食欲不振や不

眠、疲労を訴えるケースが特徴です。

 

アメリカのH

olmes

博士とRahe

博士によって考案された有名な「ラ

イフイベントのストレス表」によ

ると、「配偶者の死」を100点と

した場合、「仕事上の変化」39点、

「転勤」35点、「進学・卒業」26点と、

新生活は高いストレスであること

が以前より指摘されています。

交感神経が継続的に高ぶり�

緊張で疲労が増える

新しい環境に身をおくと、身体は

その環境に対応しようとして、自律

神経のうち交感神経が高ぶります。

その結果血圧が上がり、脈が速くな

り、汗をかき、筋肉は緊張して体は

こわばります。交感神経の高ぶりが

続くと緊張状態も継続し、知らず知

らずのうちに身体は疲労していきま

す。新生活は交感神経が刺激され緊

張状態が続きやすい環境ですが、こ

の緊張を解くカギは副交感神経にあ

ります。

自律神経は交感神経・副交感神経

がシーソーのように対になって体の

バランスを取っています。交感神経

は興奮・戦闘態勢の神経、副交感神

経はリラックス・休憩モードの神経

です。新生活の疲れを取るためには

過敏になっている交感神経の働きを

抑え、副交感神経を刺激して心身を

休ませてあげることが大切です。

副交感神経を刺激する入浴法が�

手っ取り早い解決法

それでは、副交感神経を刺激する

にはどのようにしたらよいでしょう

か。その方法は呼吸を整える、食事

に気をつける、ヨガやストレッチを

行う、自律訓練法を行う、など多岐

に及びます。ですが、もっともお手

軽なのは、お風呂の入り方をちょっ

と工夫することでしょう。

副交感神経を刺激する入浴法はい

たってシンプルです。38℃くらいの

お湯に15分ほど肩まで浸かる全身浴

をすること。38℃で寒く感じる場合

は40℃くらいまでOKです。

なんと、これだけで新しい環境へ

の適応ストレスから解放されて元気

になることができると考えられます。

なぜかというと、ぬる湯に浸かるこ

とにより、交感神経の活動が抑えら

れて副交感神経が刺激されるから。

このことは多くの医学研究から明ら

かになっています。副交感神経の刺

激は良い睡眠にもつながり、このこ

とも心身の疲労を回復させます。

熱いお風呂に入ると�

効果は真逆

反対に42℃以上の熱いお湯に入り

ますと、今度は交感神経が高ぶりま

す。すなわち興奮状態になるため、

血圧は上がり、脈は早まり、汗をか

き、筋肉は硬直します。また、逆に

胃腸の動きは止まってしまいます。

一方、40℃程度のぬる湯につかる

と、副交感神経が刺激されて心身が

リラックスし、血圧は下がり、脈は

ゆっくり、汗もかかず、筋肉もゆる

みます。胃腸は活発に動き、消化が

よくなります。一概にお風呂の効果

といっても、わずかなお湯の温度の

違いによって体の反応は正反対に動

いてしまうのです。

このような効果の違いが分かると、

ぬる湯は心臓など身体への負担が少

なく、夜寝る前にゆっくりつかるこ

とでリラックスできて良い眠りにつ

ながることが分かります。逆に朝の

仕事前には、熱めのお風呂やシャ

ワーをさっと浴びる、というのは身

も心もシャキッとして理にかなって

います。このように温度によって体

の反応が変わるため、場面に応じて

使い分けることが重要です。

銭湯は一般に38~40℃の湯船を設

置しているところは少なかったので

すが、最近の炭酸泉ブームで状況が

変わってきました。炭酸泉の設置浴

場が増え人気を博しているようです。

炭酸泉は38℃程度の低温ですが普通

の湯よりも温かく感じる特徴があり

ます。活用してほしいものです。

無気力、食欲不振……

新生活の開始とともに環境が変化

7 6

暑い夏こそたっぷり湯船に�

浸からなければならない理由

銭湯ではいろいろな入浴剤を使っ

てお客様を楽しませています。そも

そも入浴剤の基本効果は、入浴その

ものによって得られる温浴効果(身

体を温める、痛みを和らげる、など)

と清浄効果(汚れを落とす、皮膚を

清浄にする、など)を高めることに

あります。

どちらかというと体を温めるため

に使うというイメージが強いため、

家庭では夏に入浴剤を使わなくなっ

てしまうことも多いかもしれません。

また、気温も高いのでシャワーだけ

ですませてしまう人も増えます。こ

れでよいのでしょうか?

夏の高温多湿な環境は身体への大

きなストレスや疲労を生み、また冷

房の効いた部屋に薄着で長時間いる

と、手足の末端が冷えすぎて体調不

良を引き起こす可能性があります。

これらの原因によって、食欲不振や

全身倦怠感といった、いわゆる「夏

バテ」症状が出る方もいます。この

夏特有の体調不良は、むしろ入浴に

よって改善することができると考え

られます。

なぜなら、夏といえども積極的に

お風呂に入ることによって、温熱効

果による血液循環の改善が行われ、

疲労回復作用が期待できるからです。

また入浴は温熱効果のほかに浮力作

用もあり、リラックス効果とストレ

スの軽減にもなります。

一方シャワーでは温熱効果は弱く、

浮力作用は全くありません。夏でも

湯船に入ることが夏バテの予防・回

復のコツのひとつといえるのです。

そして夏の入浴でも、入浴剤は効果

を発揮するのです。

夏にいい入浴剤は�

重曹を配合したもの

もちろん、冬とは違って気候に

合った入浴剤を選ぶことが大切です。

夏向きの入浴剤とはどのようなもの

でしょうか。入浴剤メーカーにより

ますと、「夏向けの入浴剤と冬向け

の入浴剤ではその成分が異なります。

冬向けは温める作用の成分が主です。

一方夏向けは、湯上がりをさっぱり

させる、爽快感を感じるような成分

が主になっています。もちろん、温

める作用のある成分も配合されてい

ます」とのこと。そして夏向け入浴

剤のメイン成分は炭酸水素ナトリウ

ム、いわゆる重曹なのだそうです。

重曹は皮膚の汚れを取り、なめらか

にする作用があるため、湯上がりの

爽快感が特徴。また、メントールな

どの清涼成分を配合しているものが

暑苦しさもやわらげてくれます。保

湿成分として天然クレイ成分を含む

製品もあり、すっきりした湯上がり

感が特徴です。

夏向けの入浴剤はミネラル成分だ

けでなく、色や香りも工夫されてい

るとのこと。湯船に浸かると、温熱

効果や浮力作用の恩恵を受けること

ができますし、入浴剤を上手に使っ

て、夏バテの予防を心がけるようお

客様に働きかけたいものです。

入浴前のお客様に�

緑茶を勧めよう

もうひとつ、夏の銭湯

入浴の留意点は水分補

給。41℃、15分間の入浴で

800mlもの水が体から抜

けていく、という研究報告

があるように、お風呂では

思った以上に脱水状態にな

ります。水が体から抜けて

いった結果、当然血液は粘

り気が強くなり、血栓がで

きやすくなります。これが

脳梗塞や心筋梗塞など命に

かかわる重大な病気を引き

起こすことになります。こ

のような脱水を防ぐために

も、お風呂の前後には意識

して十分な水分を摂る必要

があります。

お風呂のときに飲むべき飲み物と

して、私は「緑茶」をおすすめして

います。よく知られているように、

緑茶はカロリーゼロで、成分として

健康や美容に役立つカテキンを豊富

に含んでいます。茶カテキンはお茶

に独特の苦味や渋味を与えているポ

リフェノールの一種で、脂肪消費作

用や抗老化作用(抗酸化作用)など、

美容が気になる人にとっては嬉しい

作用があるのです。カテキンは通常

では体内に吸収されにくいのですが、

お風呂の前に緑茶を飲むとカテキン

の吸収がよくなる可能性があります。

このことは私たちの研究グループ

が、静岡の温泉で静岡産の「やぶき

た茶」を使い研究して分かりました。

緑茶を飲んだ後に温泉に入る場合と、

緑茶を飲んでそのまま室内で過ごす

場合を比較した結果、緑茶を飲んで

温泉に入った場合の方が血液中のカ

テキンの濃度が濃くなっていたので

す。これは、銭湯での緑茶飲料販売

のセールスポイントになるかもしれ

ません。

入浴前の緑茶で美肌まっしぐら

エアコンのききすぎによる体調不良は入浴が一番

9 8

紫外線と汗でボロボロになった�

秋口の危険な肌

夏は肌に悪いことが多く、特に紫

外線が悪影響を及ぼします。紫外線

を含む日光を浴びると皮膚の中にあ

るメラノサイトが増え、このメラノ

サイトがメラニン色素を作り、シミ

の原因となります。また、肌の角層

が厚くなります。皮膚の奥(真皮)

まで到達した紫外線は、肌の張りや

弾力を保つコラーゲンまで劣化、変

性させて、肌のたるみやシワの原因

になります。

また、汗も肌を刺激して肌荒れの

原因になります。汗をかくと、もと

もと弱酸性だった皮膚がアルカリ性

側に傾きます。その結果、皮膚表面

で細菌が繁殖しやすくなり、子供の

場合はトビヒ、大人の場合はニキビ

などの細菌感染症になりやすいので

す。また、汗によって角層がふやけて

剥がれ落ちやすくなり、擦れたりし

て肌荒れを起こします。汗孔(汗の

出口)がつまり、あせもなどの皮膚ト

ラブルを引き起こすこともあります。

このように、夏は肌がとても荒れ

やすい季節であり、秋は積極的に肌

のリカバリーをしなければならない

季節でもあります。

入浴で血流を改善し�

メラニン色素を体外に出す

秋の肌のリカバリーには銭湯の温

熱効果による血流改善がとても役立

ちます。メラノサイトの増加による

メラニン色素の増加の改善には、適

切な皮膚のターンオーバーがとても

重要なのです。皮膚の基底層で皮膚

細胞がどんどん作られ、古くなった

細胞は順次皮膚の外側へ押し出され、

角層となり、最後には垢となって皮

膚から剥がれ落ちます。これをター

ンオーバーといいます。メラニン色

素もターンオーバーによって排泄さ

れます。皮膚細胞が作られるために

は、血流によってアミノ酸などの細

胞の原料が潤沢に運ばれてくること

が重要です。血流を良くすることは

このターンオーバーを改善すること

につながり、結果として夏にできた

過剰なメラニン色素を適切に減少さ

せることにつながります。

また、コラーゲンは皮膚の繊維芽

細胞によって作られるので、夏の間

に傷んだコラーゲンの再生にも、皮

膚細胞の再生と同様に、血流の改善

が有効です。血流改善には銭湯によ

る温熱作用が効果的と考えられます。

銭湯では、血流の改善はもちろん

のこと、清浄作用により皮膚の汚れ

や汗が落ち、感染症の予防につなが

ります。このように、秋は夏に傷ん

だ肌を改善させるのに銭湯を活用す

るとよいでしょう。 

美肌のためには�

熱い風呂と長風呂はNG

秋の入浴は美肌作りの絶好期です

が、実は美肌のためには長風呂はN

Gです。その理由は皮膚の構造と保

湿成分セラミドにあります。皮膚は

表皮と真皮の二層になっていて、そ

の薄さはわずか2㎜です。特に表皮

の一番表面の角層といわれる部分は

わずか0.

02㎜ですが、角質細胞

が何重にも積み重なっている構造に

なっていて、セラミドなどの「角質

細胞間脂質」がその隙間を埋めてい

ます。

この角層がバリアとなって、体の

外の有害な物質が体の中に入り込ま

ないようになっています。また、こ

の角層は20~30%程度の水分を含ん

でいますが、これはセラミドが保湿

成分として働いているためです。

長風呂をすると、皮膚表面の皮脂

やこのセラミドが流失するのです。

皮脂やセラミドが流失すると、角層

が水を保つことができなくなり、さ

らには肌の内部の水分まで失うこと

となります。結果として、うるおい

肌どころか、逆に乾燥肌になってし

まう可能性があります。「お肌のた

めに」と頑張っていた長風呂が、そ

の思いとはうらはらに肌にダメージ

を与えていたということにもなりか

ねません。

以上のことを考えると、お肌に優

しい入浴法としては38~40℃、長く

ても15分程度で上がることをお勧め

しています。もっと熱いお湯を好ま

れる方もいるかもしれませんが、そ

れはお勧めできません。42℃以上の

熱い湯では、ヒスタミンというかゆ

みの原因物質ができたり、皮膚のバ

リア構造に変化をきたしたりと、肌

に悪い影響を与える可能性があるか

らです。

保湿成分を含む入浴剤を用いるこ

とも対策の一つです。このような入

浴剤を使うことで入浴後の皮膚水分

量の減少を抑えることができるとい

う研究があります。また、お風呂か

ら出たら浴室内ですぐ塗るタイプの

保湿剤も開発されてきました。

コラーゲンの変化変性がたるみやシワの原因に

夏の紫外線で秋口の肌はボロボロ

11 10

年間1万9000人の入浴事故死と�

冬の風呂場の注意点

2016年1月に消費者庁が発表

した「入浴に関する事故の注意喚起」

によって、入浴に関連する事故につ

いて非常に注目が集まり、私たち研

究者をはじめ、温泉や入浴に関係す

る業界では驚きが走りました。入浴

に関連する事故の実態は、いくつか

の調査によって報告されています。

一つは厚生労働省による人口動態調

査による報告です。

この報告は、人が亡くなった場合

の法的な届出によって死因が分類さ

れたものです。これによると家庭の

浴槽で溺死したと報告された人が、

年間5000人弱いることが分かり

ます。一方、救急車が対応した事例

から推定された入浴に関連する事故

死の数は1万9000人といわれて

います。この入浴に関する事故は高

齢者に多く、季節性の変化があり、

特に冬に圧倒的に多いのが特徴です。

その原因は様々な調査からいくつ

かの病気が指摘されています。一つ

は脳梗塞や脳出血といった脳卒中と

いわれるものです。

もう一つ関連があると考えられる

のが心筋梗塞などの心臓疾患による

ものです。さらに近年は熱中症の関

連も指摘されています。いずれにし

ても、入浴中の事故についてはまだ

完全に原因が解明されていないのが

実態です。

お風呂での事故を防ぐために、消

費者庁は5つのことを挙げています。

入浴前に脱衣場や浴室を暖めま

しょう。

湯温は41℃以下、湯に浸かる時間

は10分までを目安にしましょう。

浴槽から急に立ち上がらないよう

にしましょう。

アルコールが抜けるまで、また食

後すぐの入浴は控えましょう。

入浴する前に同居者にひと声掛け

て、見回ってもらいましょう。

お風呂は安全に入れば健康に非常

に良い生活習慣です。

最新の意識調査結果では�

ヒートショック予備軍は約5割

給湯機メーカーのリンナイ株式会

社では、入浴習慣の実態を探るべく、

全国の20~70代の男女合計960人

を対象に、「入浴習慣」と「入浴時

のヒートョック(急激な温度の変化

により血圧の乱高下や脈拍の変動が

起こること)」に関する意識調査を

実施しました(2016年10月)。

結果を簡単にまとめると、「冬の

入浴危険度」の高いヒートショック

予備軍の人は、全国どこでも、どの

世代でも予想以上に多いことが分

かったのです。調査結果として、6

項目を以下に示します。

ヒートショック危険度数の高い

「ヒートショック予備軍」は、約5

割と多数いる。

予備軍が多い中、対策ができてい

る人はわずか約3割。メタボ、糖

尿病、高血圧など、もともとヒー

トショックのリスクの高い人ほど

対策をしている人は少なく、約2割。

ヒートショック認知率は7割。し

かし4割が言葉を知っているだけ

で、ヒートショックの詳細を理解

していない。

年末年始は宴会の多いシーズン。

危険な飲酒後の入浴経験者は約6

割と多数。若い人も油断できない。

42℃以上の危険な浴槽入浴を行っ

ている人が4割もいる。70代が最

も多い。

冬場の浴室は「寒い」が約7割。

九州が一番寒く、北海道が寒くな

いという意外な結果に。浴室が寒

いとヒートショックのリスクが大

きい。

メタボなどがあると、若くても動

脈硬化が進みやすくなるため油断は

できません。また、動脈硬化を患うと、

ヒートショックによって脳卒中など

の大きな病気にかかりやすくなって

しまいます。

ヒートショックに対する�

安全性の高さを銭湯はもっと叫べ

冬場の入浴のリスクについて説明

してきましたが、銭湯という入浴施

設はその危険を回避するうえで適切

な場といえるでしょう。最大の問題

である脱衣場と浴室の温度は、銭湯

の場合20℃以上に保たれていると思

いますから十分にクリアしています。

ヒートショックによる浴室での孤

独死も、銭湯ならば他のお客さんの

目もありますから、家庭よりははる

かに回避しやすいはずです。した

がって、銭湯経営者は消費者庁の挙

げた注意点のうち、②、③、④につ

いてお客さまに注意を促し、万全を

期しましょう。

家庭で起きやすいヒートショックも銭湯なら安心

飲酒後の入浴は銭湯でも危険

13 12

ソーシャルキャピタルの醸成の場�

として期待される銭湯

巻頭でも書いたとおり、銭湯は地

域住民の健康を守る最前線基地なの

だと思っています。地域にはホーム

ドクターを兼ねるクリニックが存在

しますが、機能こそ異なるものの似

たような役割を果たしているのが銭

湯ではないでしょうか。いわゆる

「ソーシャルキャピタル」醸成の一

翼を担っているのです。

朝日新聞によると、ソーシャル

キャピタルとは、「社会関係資本」

と訳され、他者への信頼、つきあい

や交流、社会参加などを要素とする

ものです。ソーシャルキャピタルが

豊かなほど、人々の協調行動が活発

になって、治安、経済、健康、幸福

感などへ良い影響があり、社会の効

率性が高まるとされます。

いわば物質的に豊かになった社会

が次に目指すものが、ソーシャル

キャピタルの蓄積ではないでしょう

か。公衆衛生学的な見地から申し上

げますと、ソーシャルキャピタルの

醸成は地域住民の健康度の向上に大

いに貢献するはずです。

一例を挙げますと、独居の高齢者

が1日一度、地域の方々と触れ合う

「場」があることによって、彼らの

社会的な接点が強化され、相互の支

え合いを自然に促進することが期待

されます。まさに江戸時代の銭湯が

そのような場であったように。

高齢者が定期的に訪れる場所では、

日常のコミュニケーションを広げる

コミュニティを推進することが期待

できます。外出する機会が少ないほ

ど肉体面や精神面の健康水準が低く

なることは明らかになっており、高

齢者が引きこもりの傾向を強めるこ

とによって心と体への悪影響が増し

て社会性が失われていくことを考え

れば、銭湯という場を通して入浴仲

間のコミュニティが果たす機能は決

して小さくないでしょう。少なくと

も70年代以降社会問題になっている

「独居老人の孤独死」という悲劇の

回避には大いに貢献するはずです。

医学から見た�

湯の質向上の方法

ところで、銭湯は平成16年に一部

改正された公衆浴場の確保のための

特別措置に関する法律によって健康

増進のために重要な役割を担ってい

る施設と位置づけられましたが、こ

の観点から銭湯を経営する方々に提

案したいのが「お湯のクオリティ

アップ」というテーマです。

いろいろ努力されていることは承

知していますが、銭湯のサービスと

して可能なお湯のクオリティ向上は

水質と水温についてです。専門家が

再三提言していることですが、生理

学的には入浴時の水温は38~42℃が

理想です。地域にもよりますが、東

京の銭湯は条例で42℃以上とされて

いた時代もあることから水温の高い

お店が目立ちます。江戸っ子の熱湯

好きという言葉もあるくらいで、体

質的に高い温度のお風呂に慣れてい

る方が多く、ぬるくするとお客さま

から不満が出る事情はあるようです

が、若年層で熱いお湯が不慣れの人

が確実に多くなっており、温浴の効

果や安全性、そして将来性に鑑みれ

ば、徐々にでも理想の水温に近づけ

ていくのが賢明かと考えられます。

水質という点ではどうでしょうか。

ミネラル成分の比較的多い井戸水は

温熱効果では水道水より合理的と言

えますが、水道水で沸かした場合で

も入浴剤の活用でその弱点を軽減す

ることができます。いろいろなタイ

プの入浴剤がありますが、薬機法で

規制された医薬部外品や浴用化粧品

の入浴剤を使えば、それ自体がセー

ルスポイントになりうるでしょう。

立地が最大の問題ですが、もし温

泉を活用できる銭湯ならば、おそら

く最強のセールスポイントになるの

ではないでしょうか。鹿児島市内の

銭湯は多くが温泉を利用しており、

うらやましい限りですが、関東地方

にも黒湯という素晴らしい温泉素材

があります。非火山性の弱アルカリ

性冷鉱泉ですが、太古の植物成分由

来の腐植質(フミンなど)を含み黒

色で泉質が劣化しないのが特徴で、

美肌効果が期待できる貴重な温泉で

す。この黒湯の銭湯が都内には数十

軒もあり、その気になれば遠出する

ことなく毎日利用できるのですから、

これは今後大いにアピールするべき

でしょう。

ただし火山性も非火山性も温泉が

出るという立地の壁がありますから、

どなたも取り組めるわけではありま

せん。季節の植物を使った伝統的な

薬湯も魅力的ですし、温泉的な要素

があり、理想的な水温の入浴環境を

提供するとなると、高濃度の「人工

炭酸泉」が健康増進にとって現時点

で最も有効なものかもしれません。

炭酸泉は特徴として低温でも体感

的には温かく感じるので、

燃料の節

約にもなりますし、治療面や美容面

での効果の研究も進んでいますから、

設備拡充の際にはぜひ検討していた

だきたいと思います。

銭湯はソーシャルキャピタルの象徴

人工炭酸泉が目玉になる

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