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438 February 2 2016 第31回「企業広報賞」受賞者インタビュー トップ広報で、社内意識と 総合商社のイメージを変える 伊藤忠商事(株)代表取締役社長 岡藤正広 ミドリムシの魅力を正しく広く 知ってもらうための発信 (株)ユーグレナ代表取締役社長 出雲 充 マスコミ事情 オウンドメディアの最新事情 シックス・アパート(株)執行役員CTO 平田大治 ANGLE (一社)日本自動車工業会 理事・事務局長 兼 広報室長 大上 工 第38巻第2号通巻438号2016年2月1日発行(毎月1回1日発行)1980年10月23日第3種郵便物認可

月刊 2 - KKC · オウンドメディアの最新事情 平田大治(シックス・アパート(株) 執行役員CTO) 12 企業広報研究 究極の3フィートでの対話

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438February

月刊 2

2016年

◆第31回「企業広報賞」受賞者インタビュー トップ広報で、社内意識と 総合商社のイメージを変える 伊藤忠商事(株)代表取締役社長 岡藤正広

ミドリムシの魅力を正しく広く 知ってもらうための発信 (株)ユーグレナ代表取締役社長 出雲 充

◆マスコミ事情 オウンドメディアの最新事情 シックス・アパート(株)執行役員CTO 平田大治

◆ANGLE (一社)日本自動車工業会理事・事務局長兼広報室長 大上 工

第38巻第2号通巻438号2016年2月1日発行(毎月1回1日発行) 1980年10月23日第3種郵便物認可

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国内3日 1月の消費動向調査結果(内閣府)5日 2015年12月の景気動向指数速報(内閣府)

8日 2015年12月と15年の国際収支速報(財務省)1月の景気ウォッチャー調査(内閣府)

15日 2015年10 ~ 12月期GDP(国内総生産)速報(内閣府)16日 2015年平均の失業率(総務省)18日 1月の貿易統計(財務省)

海外

5日2015年12月の米貿易収支(米商務省)1月の米雇用統計(米労働省)

12日 1月の米小売売上高(米商務省)17日 1月の米住宅着工件数(米商務省)26日 1月の米個人所得・消費統計(米商務省)

2 月の動き

今 月 の 表 紙

オリンパス技術歴史館「瑞古洞」。愛称の「瑞古洞」はオリンパスが開発した最初のカメラ用レンズZUIKO(瑞光)に由来し、古くからの同社製品を集めた、洞穴をイメージして付けられた同館には、オリンパスが世に送り出してきた、創業時から現在に至るまでの製品が展示され、技術的変遷や発展、同社製品がどのように社会の発展に貢献してきたかを学ぶことができる

『経済広報』では、裏表紙に関連する写真・イラストを表紙に

掲載しています。

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月の動き

発行/一般財団法人経済広報センター 国内広報部   東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館 TEL:03-6741-0021印刷/三葉株式会社 TEL:03-3294-4751※本誌掲載の記事・写真・イラスト・図版の無断掲載を禁じます。

2016年2月号目次第31回「企業広報賞」受賞者インタビュー

トップ広報で、社内意識と総合商社のイメージを変える岡藤正広(伊藤忠商事(株) 代表取締役社長)

2

ミドリムシの魅力を正しく広く知ってもらうための発信出雲 充((株)ユーグレナ 代表取締役社長)

5

企業広報研究

グローバル・リサーチを通して見る日本の広報宮部潤一郎(北海道大学 大学院メディア・コミュニケーション研究院 研究員)

8

ANGLE

豊かなクルマ社会の実現に向けて大上 工((一社)日本自動車工業会 理事・事務局長 兼 広報室長)

11

マスコミ事情

オウンドメディアの最新事情平田大治(シックス・アパート(株) 執行役員CTO)

12

企業広報研究

究極の3フィートでの対話猪狩誠也(東京経済大学 名誉教授)

14

経済広報センター活動報告

2016年度実施に向け募集始まる~教員の民間企業研修~ 16

ドイツジャーナリスト訪日プログラム 18企業PRの「明日のヒント」 vol.2

トップの役割はチーフエンゲージメントオフィサーへ岡本純子(コミュニケーションストラテジスト/(株)グローコム 代表)

23

国際プロジェクト紹介⑦

ASEAN政治家「都市政策視察プログラム」 24連載

経済広報センターNEWS 20企業広報ニュース(広報トピックス/ Book) 25企業・団体のCSR活動(オリンパス(株)) 裏表紙2月の動き 表紙裏

12016年2月号〔経済広報〕

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トップ広報で、社内意識と総合商社のイメージを変える岡藤正広(おかふじ・まさひろ)伊藤忠商事(株) 代表取締役社長

■聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長

インパクトのある情報発信を心掛ける

■「経営者(トップ)こそが最高の広報パーソン」という心構えで、社長自ら積極的な広報活動、情報発信を行っていると伺っていますが。

岡藤 トップ広報をしているという意識は特にあり

ませんでした。ただ、トップの顔が見えないと、会

社の評価にも影響すると思います。

ここの商社の社長さんは誰だったかな、と思われ

るのは少し寂しい。情報発信するときに私が大事に

しているのは、発信回数ではなく、いかに、インパ

クトのある発信をするかです。いくらニュースバ

リューのある中身でも、伝えたいことが伝わらない

のでは意味がありません。

また、業界、マスコミ関係者との個人的な関係を

構築することも重要だと思っています。相手も人間

ですので、社長の考え方や人となりを分かってもら

えれば、情報がより正確に伝わるだけではなく、記

事の中身も変わってくるはずです。

■岡藤社長の発言には、インパクトのある“名言”が多くあります。これらは意識的に発信されたのでしょうか。

岡藤 コピーライターではないので、そんなに考え

てはいませんが、私の考えを分かりやすく伝えるよ

うにしています。例えば「か・け・ふ(かせぐ・けず

る・ふせぐ)」という言葉です。当社の売り上げは大

きいが、経費や、特別損失も大きく、最終利益が出

ていなかったことがありました。稼ぐことは誰でも

考えますが、削る、防ぐということも同じように重

要だと社員に分かりやすい形で説明しようとしたと

きにその言葉が出てきました。

社員には、かっこいい言葉や抽象的な言葉で訴え

ても壁に絵が飾ってあるのと一緒で、なかなか響き

ません。それよりも、分かりやすく、具体的な言葉

で訴えた方が、効果があります。もっとも、頭文字

を取って「か・け・ふ」という言葉にしたのは、たま

たまですよ。

なぜ「朝型勤務」を導入したか

■「朝型勤務」について社長自ら、積極的に発信を行い、その認知度を広められたと伺っています。「朝型勤務」についてご説明いただけますか。

岡藤 きっかけは東日本大震災です。大震災の翌

日、大変なことが起こったと、早朝から事業会社や

取引先を回って歩きました。すると、どの会社もて

んやわんやで、ゆっくり話もできないほど慌ててい

前号では、第31回「企業広報賞」で「企業広報大賞」を受賞されたマツダの小飼雅道代表取締役社長兼CEOのインタビューを掲載したが、今月号では、「企業広報経営者賞」を受賞された伊藤忠商事の岡藤正広代表取締役社長とユーグレナの出雲充代表取締役社長のインタビューを掲載する。

〔経済広報〕2016年2月号2

第¦31¦回¦企¦業¦広¦報¦賞 受賞者インタビュー

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ました。そして、10時ぐらいに本社へ戻ってくる

と、当社の社員だけがフレックスタイム制度を利用

してゆっくり出社しているのを目の当たりにしまし

た。世間がこれだけ大変なのに、このようなことを

していると、いずれ世間との感覚のずれが大きくな

り、業績にも影響してくるだろうと考えました。

当時は、朝遅く出社し夜遅く帰るという勤務状態

であった上、会議も多く、お客さまから担当者へ電

話がかかってきても、すぐに出られないという状態

もありました。これではお客さま目線での営業とは

いえません。すぐに人事部にフレックスタイム制度

をやめるように伝えましたが、組合から大きな反発

が起こると言われてしまい、すぐに実行するのはや

めました。

その代わり、まずは非組合員の管理職以上に限定

して、「9時までの出社」を促したところ、多くの管

理職が賛同し、実行してくれて見事に成功しまし

た。それを受け、組合とも話し合ってフレックスタ

イム制度の一律適用を廃止、その1年後に「朝型勤

務」を導入しました。社員の意識を変えるためには、

ムチだけではなくアメも必要と考え、朝8時までに

出社すれば、深夜勤務と同様の割増賃金、朝食も無

料で提供するということで理解を求めました。

■「朝型勤務」を行って、どのような効果がありましたか。

岡藤 まずは、業務効率がものすごく上がりまし

た。取引先の中には、始業時間が当社より早い会社

も多いため、朝一番で商談に伺うことができるな

ど、取引先の方からの評判も非常に良いのです。そ

れは現在の業績にも深く結びついています。

女性社員の活躍支援にもプラスになりました。「朝

型勤務」の導入前は、上司が遅くまで残っているた

め、先に帰ることができない空気がありました。今

では、例えば、夕方4時には本社に隣接している社

内託児所「I-Kids」に預けた子どもと帰宅し、家で晩

ご飯の準備をして旦那さんと一緒に食事を取ること

ができているという話も聞いています。若手社員も

帰宅時間が早まったことで、語学などの自己研鑽に

使える時間を増やせたとの声があります。

併せて、結果的に、会社全体の残業代も減らすこ

とができました。ただし、残業代を減らすことが目

的ではなく、あくまで、社員の生活の質を上げて、

お客さま目線に立って仕事の質を上げることが目的

です。

さらに、ワーク・ライフ・バランスや健康に取り

組んでいるという姿勢を世間にアピールすることが

できました。以前は、商社といえば、遅くまで残業

しているというイメージがありましたが、そのイ

メージを払拭しつつあると感じています。これは弊

社のイメージだけではなく、総合商社のイメージ

アップに繋がったと思います。ワーク・ライフ・バ

ランスは、最近、世間が重視している項目であるか

らこそ、先進的な取り組みをしている企業だと認知

され、今後優秀な社員を獲得する際に、良い影響を

与えてくれるはずです。

商社への理解不足を解消する

■岡藤社長は、「ブランドビジネス」という言葉を使われています。商社の「ブランドビジネス」について、お考えをお聞かせください。

岡藤 ブランドを獲得することで、市場でイニシア

チブを取ることができる、付加価値も高められるな

ど、ものすごい効果があると考えています。例え

ば、当社が展開している中国では、日本以上にSN

S(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブ

ログでブランドが評価され、SNS利用者はそのブ

ランド価値を判断して、購買活動に繋げています。

ブランドを育てていくためには、定期的、継続的な

広報、宣伝活動をしていかなければなりません。

伊藤忠ブランドには、長い歴史、多くの先人から

の血と汗が凝縮されています。これを、一般の皆さ

まの目線まで下げて、分かりやすい形で訴えていま

す。ただし、ブランドイメージは具体的に発信しな

ければなりません。以前は、貿易輸出立国である日

本を背負って、世界へ挑戦するといったイメージが

中心で、商社の仕事内容の理解にまで進んでいませ

んでした。この商社への理解不足が、総合商社の株

価にも反映していると考えています。業績に比べ

て、商社の株価が十分に評価されているとは思いま

2016年2月号〔経済広報〕 3

第¦31¦回¦企¦業¦広¦報¦賞受賞者インタビュー

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せん。中身がよく分からない会社には投資を躊躇し

てしまうでしょう。

総合商社は、もっとその仕事内容を世間にアピー

ルしていく必要があります。当社では現在、新入社

員の目線に立ち、新人が商社の仕事に慣れていくと

いうシリーズで、世間の皆さまと同じ目線から商社

の仕事を紹介しています。昔からの企業理念もあり

ますが、時代に合わせて、より分かりやすく具体的

に、総合商社、伊藤忠商事の理解を深めてもらえる

ように広報活動を進めています。

等身大の姿を見せてトップの考えを伝えていく

■社員へのダイレクトメッセージに力を入れていらっしゃるとお伺いしました。

岡藤 以前、昼食時に社長を食堂であまり見掛けな

いので、社長室でうなぎや寿司を食べているんじゃ

ないか、外でおいしいものばかり食べているんじゃ

ないか、と言っている人がいるという話を聞きまし

た。実際にはそんなことはほとんどなくて、普段は

社内のコンビニでおにぎりやサンドイッチを買って

1人で食べていることが多いのですが……(笑)。

あまりに社長の姿が正しく理解されていないなと

思いました。戦略的に、社長は雲の上の人と思われ

る方がいい場合もあるかもしれませんが、それだと

社長の考えを社員に伝えるのが難しくなるでしょ

う。ですので、自分の考えをメッセージとして社員

に伝えていこうと思い、「社長メッセージ」を発信し

ています。頻度は月1回ほどですが、決算や人事な

ど社内にとっても重要なタイミングでは、必ず発信

し、自分自身の考えを社員へ伝えています。今年度

は9月末時点で10件発信しています。アクセス履

歴を見ても、ほとんどの社員が見てくれているよう

です。

ま た、 そ れ と は 別 に、 社 内 の イ ン ト ラ で

「TOPICS」を発信しています。こちらは、普段の私

の行動を写真付きで紹介しているもので、できるだ

け多く発信するように心掛けています。やはり、社

員からすると社長が何をやっているのかは、なかな

か分からないわけで、自分の行動を頻繁に紹介し

ていこうと思って始めました。こちらは年間80回

ほど発信しており、今年度は9月末時点で57件の

TOPICSを紹介しています。

具体的には、退職セレモニーといって、退職する

方に直筆の感謝状を渡したりしているのですが、そ

の模様を紹介したり、出張で国内外の支社や事業会

社へ出向いたときには、その場でみんなと写真を

撮って仕事内容を紹介したりすることで、私の動向

や各職場のことが社内に伝わっていくようにしてい

ます。

最近では、朝型勤務の開始により導入された朝食

提供の会場を見に行ったときの様子を紹介しまし

た。このときには、「もっと提供商品数を増やす」こ

とや、「単価が高い商品も自由に選べるようにしなさ

い」と指示したことまで書いたのですが、大きな反

響がありましたね。このように、私がどんなことを

しているのかを社員へ発信し続けています。私の理

想は率先垂範です。社員の皆さんには社長の姿を見

て、ついてきてほしいと考えていますので、続けて

いきたいと思います。

トップが広報の特性、重要性を認識する

■広報部門には、何を期待されますか。岡藤 マスコミに情報を正しく理解してもらい世間

に発信してもらうためにも、まずは人間関係をしっ

かりつくってもらいたい。難しいこともあると思い

ますが、そのような場合でも正しく発信をしてもら

えるような努力をしてほしい。あとは、トップであ

る社長の考え方をいかに正しく伝えていくかです。

広報部門の一人ひとりには、このようなことを引き

続き実践していってもらいたいです。

また、広報業務は営業と異なり、数字ですぐに成

果が出てこないという点も承知しています。広報は

長期にわたって、こつこつと努力を続けていかなけ

ればならないものです。怠けていてもすぐにはダメ

にはなりませんが、気づいたときには取り返しのつ

かない状態になってしまいます。広報には期待して

います。モチベーションを高くして頑張ってもらい

たいですね。 k

(文責:国内広報部主任研究員 西田大哉)

朝食提供場所を視察する岡藤社長(左から2人目)

〔経済広報〕2016年2月号4

第¦31¦回¦企¦業¦広¦報¦賞 受賞者インタビュー

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ミドリムシの魅力を正しく広く知ってもらうための発信出雲 充(いずも・みつる)

(株)ユーグレナ 代表取締役社長

■聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 常務理事・国内広報部長

ミドリムシを正しく知ってもらう

■出雲社長は、内閣総理大臣賞を受賞されましたが、企業広報経営者賞を受賞されてのご感想はいかがですか。

出雲 内閣総理大臣賞(日本ベンチャー大賞)を受賞

したときよりも、私にはしっくりきています。ミド

リムシを正しく、広く皆さまに知っていただくこと

を、ユーグレナ社の社長として最も大切な仕事と位

置づけています。そして、弊社が力を入れて取り組

んできたミドリムシの広報活動を認めていただいた

ことはうれしい限りです。また、表彰式の場でも申

し上げましたが、非常に苦しい時期に弊社を助けて

くださった伊藤忠商事の岡藤社長と今回の企業広報

経営者賞を同時に受賞できたことを本当にうれしく

思っています。

ミドリムシに注目したきっかけ

■なぜ、ミドリムシに注目されたのでしょうか。出雲 ミドリムシと出合ったのは大学3年生のとき

です。大学1年生の夏休みにバングラデシュに行っ

たことがきっかけです。当時のバングラデシュは最

貧国のひとつで、大勢の子どもたちが栄養失調で苦

しんでいました。

そして、日本に戻ってから栄養の勉強を始め、農

学部へ進み、ミドリムシと出合いました。食料問題

に取り組んでいる先生の間では、ミドリムシが多く

の栄養素を持つということはよく知られていました

が、それ以外の人たちには、あまり知られていませ

んでした。それはまさに、ミドリムシの広報ができ

ていなかったということです。実際、研究もあまり

盛り上がってはいませんでした。ミドリムシは動物

と植物の両方の特徴を併せ持ち、59種類の栄養素

を含んでいます。栄養価も非常に高く、世界中で起

こっている栄養失調問題を解決するためには魅力的

なものでした。しかし、このミドリムシを商業化す

るためには、大量培養が必要でしたが、当時は誰も

実現できておらず、先生からも、ミドリムシの培養

は非常に難しいから中途半端な気持ちでは取り組ま

ない方がよいとアドバイスをいただきました。

■大学卒業後は銀行に入行され、その後、ベンチャーとして立ち上げられたと、伺いましたが。

出雲 大学では、農学部に進みミドリムシの研究を

していましたが、実際にミドリムシのベンチャーを

起こそうとしても、まずはお金をためる必要があり

ました。就職活動を行っていたときは、世の中のお

金がどのように流れているのかを知りたいと思って

いましたので、銀行に就職しました。そして、入行

してからは、平日は銀行の業務に当たり、土日は全

国各地のミドリムシを研究している先生の元へ出向

き、ディスカッションなどをしていました。

そのような生活をしていたときに、ある先生から

「出雲君は、平日は銀行員をして、土日はミドリム

シの研究を続けて、よく頑張っている。おそらく日

本でもミドリムシについてはトップアマチュア研究

者だろう。でも、大学には平日も土日もミドリムシ

2016年2月号〔経済広報〕 5

第¦31¦回¦企¦業¦広¦報¦賞受賞者インタビュー

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のことをずっと頑張って研究している研究者がたく

さんいるけど、まだ大量培養はうまくいっていない

んだよ」と言われました。おそらく先生は、せっか

く銀行に入ったのだから、未練がましく土日にミド

リムシのことばかり考えていないで、銀行の仕事に

しっかりと目を向け、立派な銀行員になりなさいと

いうメッセージを投げ掛けたのだと思います。とこ

ろが、私はそのことを全く反対に受け取り、銀行を

辞めてミドリムシに専念しました。そして、銀行を

辞めた後に、先生に事の顛末を話すとびっくりして

しまいました。先生方もまさかミドリムシに戻って

くるとは思っていなかったと思います。ただ、私が

退路を断ってしまったので、先生方も本気で取り組

まなければということで急に動き出しました。

ユーグレナの誕生

■それで、ユーグレナが誕生したのですね。創業は3人のメンバーで始められたと伺いました。

出雲 ありがたいことに、鈴木と福本と私の3人で

会社を立ち上げることができました。鈴木は学生の

ころから、本当の兄弟のように仲が良くて、ミドリ

ムシの研究センスもあり、ミドリムシを始めるなら

彼と一緒にやろうと最初から決めていました。ま

た、福本は社会人経験もあり、若い2人の重石に

なってくれました。

そして、この3人で悩みを相談しながら力を合わ

せて事業を進めていきました。あらためて思います

が、1人で偉大なことを成し遂げる方は本当にすご

いと思います。例えば、スポーツ選手や画家の方な

どは、1人で困難に立ち向かわなければならず、大

変な葛藤があると思います。そういう意味で、3人

で協力して進めていくことで、伊藤忠からの出資ま

でたどり着きました。1人ではそこまでいけなかっ

たと思います。

■その後の事業展開について教えてください。出雲 早速、ミドリムシの大量培養の実現に取り掛

かりましたが、確かに大変な研究でした。研究資

金や培養場所の確保など困難は幾つもありました。

そうした中で、今でもはっきりと覚えていますが、

2005年12月16日16時20分ごろに大量培養に成功し

たという電話がかかってきました。その当時は、研

究に何度も失敗し、1000回以上の試行錯誤を続け

ての成功でした。でも、その当時は毎日研究に必死

で、失敗した回数などは特に覚えていません。

その後、ミドリムシの大量培養に成功して製品化

に繋げましたが、ミドリムシの商品は全然売れませ

んでした。特に、2006年1月から約2年半は全く

売れなかった。研究と同じく営業でも試行錯誤を続

けていたのですが、どうしたらうまくいくのかとい

うことが見通せない中で、2年間で1つも販売でき

ず、何をしたらよいのか全く分からなくて、そのと

きは苦しかったですね。

■苦しい時期を過ごす中で、どのようにして伊藤忠商事と出合ったのでしょうか。

出雲 本当ですか、とよく聞かれるのですが、大企

業約500社に営業をかけました。しかし、採用して

くれた会社は1社もありませんでした。本当に厳し

いな、と感じていたときに伊藤忠商事と出合いまし

た。ミドリムシが担当の方の目に留まり、審査を受

けることになりました。審査は厳しかったのです

が、その厳しい審査を踏まえて、ミドリムシには

59種類の栄養素があり、また、ユーグレナ以外に

ミドリムシを大量培養できる会社はなく、技術力も

高いという評価をいただきました。伊藤忠の担当の

方から食料カンパニー長、社長、会長に至るまで、

「確かに実績はないが、実力がある企業を応援して

成長させるのが伊藤忠商事という商社の考え方のひ

とつだ」と同じことをおっしゃられました。私は本

当に感動しました。一生忘れません。

今回、伊藤忠商事の岡藤社長と授賞式でお会いし

たときにも、岡藤社長はこのミドリムシの経緯や苦

労を知ってくださっていて、「君はよく頑張った、伊

藤忠は本物を見捨てない会社だぞ」と話してくださ

いました。

正しく広く理解されるために

■ミドリムシの理解促進を進めていらっしゃいますが、どのようなことに気をつけていますか。

出雲 ユーグレナの事業を進めていく上で、ミドリ

ムシを皆さんに正しく広く知っていただくことが、

遠回りのようで実は最も大切なことだと思っていま

す。大学でミドリムシを研究していたころは、良い

ものは広報や宣伝をしなくても、皆さんがその良さ

に気づいて、研究する人が増えたり、応援してくれ

るようになると考えていました。

でも、そのようなことは起こりません。大学発ベ

ンチャーが成功するためには様々な条件があります

が、そのひとつが取り扱っている製品の良さを世の

〔経済広報〕2016年2月号6

第¦31¦回¦企¦業¦広¦報¦賞 受賞者インタビュー

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中にきちんと訴えることです。大学発ベンチャーは

自分たちの技術や製品には絶対の自信を持っていま

す。当社でしたらミドリムシの培養技術のようなも

のです。しかし、自信があるからこそ、これ以上努

力して、技術を世の中に発信したり、広く皆さまに

知ってもらうという努力を怠っていることが多いと

思います。

大学発ベンチャーだからこそ、技術の優位性を自

負するのではなく、この良いものをどうしたら分か

りやすく皆さまに知っていただけるのかを真剣に考

えるべきです。例えば、京都大学のiPS細胞研究が

世間に広く認知されているのは、山中教授がiPS細

胞を社会に発信するための広報活動に自ら精力的に

取り組んでいらっしゃるからです。そのような姿勢

を、大学の先生や、大学発ベンチャーは見習ってい

くべきだと思っています。

■受賞理由に、ベンチャーに欠けているのは“信用”と“発信”であるとありました。“信用”を獲得する上で重要なのはどのようなことでしょうか。

出雲 信用には「科学的信用」と「社会的信用」があ

ると考えています。「科学的信用」とはベンチャーに

とっては当たり前のもので、独自技術などを多くの

ベンチャーは備えているものです。その上で必要に

なってくるものが「社会的信用」です。

ユーグレナが伊藤忠商事から出資を受けた2008

年5月の前にもメディアがミドリムシ研究の取材に

くることがありましたが、弊社の商品を進んで口に

してはいただけませんでした。ミドリムシについ

て、どれだけ栄養価が高くて安全なものであるとい

う研究結果を残していても、です。当事者本人がど

れだけ訴え掛けても意味がありません。ですが、伊

藤忠商事など他社がきちんと調べて、これは大丈夫

なものだと判断し、ファミリーマートで販売してく

れれば皆さんに買っていただけます。「社会的信用」

とは、本人が大丈夫です、安心してください、信用

してくださいと言っても意味がありません。まさ

に、伊藤忠商事のような信用に足る大企業の審査に

合格して、ミドリムシはいいですよ、と伝えていた

だく。それこそが社会的信用であり、それを得られ

るためにも努力をしなければなりません。

■社内での意識共有や活性化には、どのように取り組んでいますか。

出雲 社員は約90人(受賞当時)いますが、会社の

中で社員という言葉を使ったことはありません。ま

た、株主のことも、ミドリ

ムシを応援してくれている

株主ですので、“ミドリヌ

シ”と私は呼んでいます。

弊社は、ミドリムシの研究

に本気で取り組んでいて、

ミドリムシのことを応援し

ている人で成り立っていま

す。そういう意味で、会社にきてくれている人を仲

間と呼んでいます。我々はミドリムシで研究をさせ

ていただき、ビジネスをさせていただいています。

ですから、私が偉いとかこの人が偉くないとかでは

なく、ミドリムシがあるから、今、我々の会社があ

るわけです。強いて言えば、ミドリムシが一番偉い

ですね。また、我々のような規模の会社ではあえて

複雑な組織にする必要はありません。仲間やお客さ

ま、ミドリヌシといったステークホルダーと一緒

に、ミドリムシで人と地球を健康にしていきたい。

そのために一緒に取り組んでいる人には相互に、全

員に対して、信頼と尊敬の念を持つことが重要です。

広報と農学の共通性

■ミドリムシをこれから広めていくための取り組みをお聞かせください。

出雲 ミドリムシの研究と広報活動の両方に取り組

んで感じたことですが、広報と農学は非常に似てい

ると思っています。例えば、皆さんが口にするお米

ですが、多くの品種改良を行って品質を高めたもの

を食べています。様々な種類のお米を栽培し、収穫

したお米の中でおいしいお米だけを選抜していま

す。それをこつこつと繰り返していくことで、品質

の高い安定したお米が出来上がります。

ミドリムシというと、いまだにイモムシや毛虫と

いった虫だと思っている方もたくさんいると思いま

す。その方々全員に一日でぱっと伝わるようなうま

い方法はありません。広報も品種改良と同じく、一

人ひとりに、「ミドリムシは虫ではなく、わかめなの

です、昆布なのです。藻の一種なのです」とこつこ

つとお伝えしていくしかありません。品種改良と同

じように地道に続けていくことによって、ミドリム

シの良さが、また一人また一人と正確に伝わってい

き、ミドリムシを好きになってくれる人が増えてい

くと思っています。   k

(文責:国内広報部主任研究員 西田大哉)

2016年2月号〔経済広報〕 7

第¦31¦回¦企¦業¦広¦報¦賞受賞者インタビュー

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グローバル・リサーチを通して見る日本の広報宮部潤一郎(みやべ ・じゅんいちろう)北海道大学 大学院メディア・コミュニケーション研究院 研究員

グローバルに展開する広報研究

まず下図を見ていただこう。図1は2015年8月に実施されたアジア・太平洋地域の広報実務者を対象とした調査結果のひとつである。3年後を見通した広報の重要イッシューを尋ねているが、日本の回答者は「事業戦略とコミュニケーションのリンク」を1位に選んでおり、その比率は極めて高い。他国では「デジタル化、ソーシャルウェブ対応」で、どちらかというとテクニカルな課題を1位に選んでいる。アジア・太平洋諸国の中でも日本の広報実務者は直面する広報課題について、やや異なる視点を持っているようだ。

国際化、グローバリゼーションがいわれ始めて20年を超える。この間、国境を超えた広報・コミュニケーションは一部の企業の問題から、すべての企業が考えるべき問題になったといっても過言ではない。こうした状況の中で広報の現状と近未来を、国境を超えて把握する試みが始められている。冒頭で触れた調査結果がその一部である。一連の調査はドイツ・ライプツィッヒ大学のゼルファス教授

(Prof. Dr. Ansgar Zerfass)を中心とする国際的な研究者ネットワークにより実施されている。広報・コミュニケーション活動の実態を、相互に比較可能な形で把握するこの試みは、2007年のEuropean Communication Monitor(ECM)と呼ばれるサーベイ調査から始まった。最新版の2015年調査では、欧州41カ国、約2300人からの回答を得ている。各国ごとの個別調査ではなく、ひとつの調査として同じ設問への回答を求める大規模な調査である。2014年にはECMと比較可能な設問構造を持つ調査が中南米で実施され(LCM:Latin American Communication Monitor)、中南米18カ国、約800人が回答を寄せている。そして、2015年8月にアジア・太平洋地域でECM、LCMと同じ調査枠組みによる調査が実施された(APCM:Asia-Pacific Communication Monitor)。アジアで初めての調査であったが、23の国・地域の約1200人の実務家の協力を得ることができた注1。

これで欧州、中南米、アジア・太平洋地域の82の国・地域がカバーされたことになるが、北米に関しては別に南カリフォルニア大学がこれらの調査に先行して2002年より類似の調査(GAP:Generally Accepted Practices調査)を実施している注2。

APCMの実施によって、広報に関するグローバルな調査がそろったことになる。このような、相互に比較可能な結果をもたらすグローバル調査はこれ

■図1 今後3年間の重要イッシュ― n=1,185

設問: 今後3年間の中で広報・コミュニケーションマネジメントで最も重要と思われる課題を3つ選択してください。11選択肢を提示、1位から3位までの順位付け。

出所:www.communicationmonitor.asia / MacNamara et al. 2015

オーストラリア中国

香港

インド

インドネシア

日本

韓国マレーシア

ニュージーランド

フィリピン

シンガポール

台湾

タイ

ベトナム

デジタル化、ソーシャルウェブ対応事業戦略とコミュニケーションのリンク信頼の醸成と維持情報の流れのスピードと量への対応

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〔経済広報〕2016年2月号8

企業広報研究

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まで例がなく、広報研究にとっては大きな成果といえるが、それ以上に実務家諸氏にとっては世界大の視野で日々の活動を再考する際のベンチマークになる。国内市場でも国際競争を意識せざるを得ない今日、広報活動の展開においても多元的な視点や行動を理解しておくことが重要となる。これらの調査はそのような視野を持つためのひとつのきっかけを与えてくれる。

APCMの概要

APCMの結果を見ていく前に、調査の概要を簡単に述べる。リサーチチームは上述のゼルファス教授を中心にした4名のコアチームと対象各国の研究者12名から成るリサーチチームから構成された。サーベイは特設のインターネット・サイトで実施され、設問項目は、①広報におけるマスメディアの将来、②コミュニケーションチャネル、③ソーシャルメディア対応、④重要課題、⑤計測と評価、⑥仕事満足度、⑦エクセレントな広報機能の特徴、の7領域から計25問が用意された。調査フレームと設問はECM、LCMと共通化され、従って、相互の比較が可能となっている。サーベイは2015年8月に実施され、11月末に結果報告書が公開された。なお、調査は全て英語で行われた。本稿での設問や選択肢は筆者の仮訳で、リサーチチームとしての訳ではないことをお断りしておく。

グローバル比較の中の日本の広報

さて、APCMの結果について幾つか取り上げていこう。まず、対象者のプロフィールを確認しておく。役職では、広報部署の責任者または広報エージェントの社長が43.8%、ユニットリーダー

(課長級)が33.2%、チームメンバーが17.8%である。広報関連の経験年数では10年以上が62.7%、6~ 10年が20.2%、5年以下が17.2%で、平均年齢は41.0歳である。ECMと比較すると、役職では44.0%、27.2%、22.7%、経験年数は62.3%、23.4%、14.3%、平均年齢が41.4歳でサンプル全体としては類似の集団であった。しかし、学歴ではAPCMが博士号取得者2.5%、修士号4.1%、学士号49.3%、その他41.0%であるのに対してECMでは、博士号7.9%、修士号60.8%、学士号26.1%で、この点で欧州とアジア・太平洋地域の広報実務者のプロフィールに大きな違いがある。このような属性のサンプルであることを確認の上で、幾つかの設問

を取り上げて、多国間比較の中で日本の広報を考えてみよう。図2は広報・コミュニケーション業務におけるマ

スメディアの位置づけについての設問の結果を示している。選択肢の中の2項目について図示しているが、国・地域によって顕著な違いが示されている。メディア状況や広報の置かれている環境に起因すると考えられるが、特に世論、社会への働き掛けにおけるマスメディアの重要性について、オーストラリア、中国、ニュージーランドでは増すとする回答は20 ~ 40%程度にとどまっている。日本は図示した2項目に関して相対的に高い比率ではないが、それでも概ね50%の回答者は重要性が増すとしている。一部の国と比較してマスメディアが組織の広報・コミュニケーションにとって一定の機能を果たし続けると考えられている。

次に冒頭、図1で見た今後の重要イッシューについて、ECMの結果と比較しながら検討してみよう。図3はAPCMとECMの比較で、最も多くの回答者が指摘した課題はAPCMでは「デジタル化、ソーシャルウェブ対応」だが、ECMでは「事業戦略とコミュニケーションのリンク」であった。3位までに挙がったイッシューは共通だが、1位が異

■図2 戦略的コミュニケーションにおける マスメディアの意味 n=1,185

設問: 今後3年間で以下のコミュニケーション活動の重要性について評価してください。5件法で、1:大きく重要性を減じる~5:大きく重要性を増す、により評価を求めた。ここでは回答のうち4および5の比率を示す。

出所:www.communicationmonitor.asia / MacNamara et al. 2015

オーストラリア中国

香港

インド

インドネシア

日本

韓国マレーシア

ニュージーランド

フィリピン

シンガポール

台湾

タイ

ベトナム

マスメディアとの戦略的関係の重要性が増す

0%

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世論への働き掛けにおいてマスメディアの重要性が増す

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企業広報研究

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なり、かつ2位と3位がAPCMでは10ポイントの差があるのに対して、ECMでは僅差である。欧州の方が、より戦略的な課題を重視しているといえそうである。そして、図1の日本をあらためて見ると、欧州平均に近い結果となっている。ここに日本の広報のスタンスを見ることができるのではないか、という点が目下の筆者の仮説である。

次に広報活動の成果をどのように把握するか、計測と評価について見よう。図4では①有形/無形資産へのインパクト、設問では例えばブランドの経済価値との注釈がある、②財務/戦略目標へのインパクト、設問では例えばスコアカード、戦略マップを用いてとの注釈がある、の2点について12カ国の比較を示している。ここで、日本は①71.1%、②76.1%で12カ国の中でトップの実施率となっている。第2位はマレーシアで70%弱であるが、ほかは概ね50%前後で半数程度の組織でのモニタリング実施である。ECM2015で全く同じ設問を尋ねているが、結果は①35.6%、②39.4%であった。APCMの方が高い実施率になる傾向がありそうだが、日本の広報がコミュニケーションの有効性についてモニターし計測しようと努力しているという結果である。

今後の展開

さて、APCMの結果を幾つか見てきたが、レポートは簡単に入手できるので、ぜひ多くの方々にご覧いただきたい。3調査で世界82の国・地域の広報・コミュニケーション活動がカバーされているので、大げさではなく世界大の視野の中で日本の広報を見ることができ、得られる示唆が多くあると思われる。APCMの結果を眺め、またECMやLCMの結果と見比べることで、様々なことを考えることができるだろう。

リサーチチームでは次のサーベイを実施すべく検討を開始している。この種の調査は1回限りの実施では実はあまり意味がなく、継続することで潜在的な価値を顕在化できる。経済広報センターが実施されている広報活動に関する意識実態調査の実績を見れば明らかである。そして、より多くの参加があることで、結果はより示唆に富むものになる。この調査に多くの関心をお寄せいただければ、リサーチチームの一員としてこれに勝る喜びはない。 k

注1:調査報告はそれぞれのサイトからダウンロード可能。 ECM:http://www.communicationmonitor.eu/ LCM:http://www.latinamericancommunication.com/ APCM:http://www.communicationmonitor.asia/注2:GAP調査は次のサイトから詳細をダウンロード可能。 http://ascjweb.org/gapstudy/

■図3 今後3年間の重要イッシュ―欧州との比較

APCM(n=1,200)

ECM(n=2,253)

デジタル化、ソーシャルウェブ対応 53.1% 37.20%

事業戦略とコミュニケーションのリンク 41.0% 42.90%

信頼の醸成と維持 31.2% 36.60%

情報の流れのスピードと量への対応 30.4% 31.90%

経営トップの意思決定支援としてのコミュニケーション機能の強化 30.1% 31.40%

限られた資源でのより幅広いオーディエンスとチャネルへの対応 29.7% 33.40%

透明性向上要求とアクティブオーディエンスへの対応 26.2% 24.20%

持続可能性と社会的責任への対応 19.3% 16.30%

より高度な計測・評価手法の導入 15.7% 15.80%

組織改革の支援 12.6% −

トップ経営層へのコミュニケーションの価値の説明 10.8% 17.60%

モニタリングと広聴機能の確立 − 12.60%

設問: 今後3年間の中で広報・コミュニケーションマネジメントで最も重要と思われる課題を3つ選択してください。

出所: APCM: www.communicationmonitor.asia / MacNamara et al. 2015 ECM: www.communicationmonitor.eu/ Zerfass et al. 2015

■図4 広報成果の計測 n=803

設問: あなたの所属する組織では広報・コミュニケーションマネジメントに関する有効性を検証するために次の項目について観測または計測していますか。5件法で、1:全く行っていない~ 5:継続して実施、で回答を求めた。4、5を選択した回答の比率を図示した。

出所:www.communicationmonitor.asia / MacNamara et al. 2015

オーストラリア

中国

香港

インド

インドネシア

日本

韓国

マレーシア

ニュージーランド

フィリピン

シンガポール

台湾

有形/無形資産へのインパクト

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財務/戦略目標へのインパクト

〔経済広報〕2016年2月号10

企業広報研究

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日本自動車工業会(以下、自工

会)は、1967年に前身である

自動車工業会と日本小型自動車工業

会との合併により、乗用車、トラッ

ク、バス、二輪車など、国内におい

て自動車を生産するメーカーを会員

として設立され、現在は自動車メー

カー 14社によって構成されていま

す。

自動車産業は、生産・販売・整

備・輸送など広範な関連産業を持つ

総合産業であり、直接・間接に従事

する就業人口はわが国の全就業人口

の約9%、製造品出荷額は全製造業の製造品出荷額

の約18%、機械工業の約41%を占めるなど、日本

の経済を支える基幹産業のひとつになっています。

自工会は、「我が国の自動車産業の健全な発達を図

り、もって経済の発展と国民生活の向上に寄与する

こと」を目的に活動しており、従来にも増して当会

の役割と使命を自覚し、「豊かなクルマ社会の実現」

に向けて取り組んでいます。

自工会の広報活動は、まず報道関係者への対応と

して、会長記者会見の開催のほか、自工会の様々な

取り組みや見解を会長コメントやプレスリリースと

して発信するとともに、取材協力など自動車産業へ

の理解促進のための活動を積極的に行っています。

さらに、広く一般の方々を含めた対応としては、

ウェブサイト、機関誌などを通じた理解活動を行っ

ています。

自工会ウェブサイト(infoDRIVE)は、生産、販

売、輸出などの統計データベースを構築しており、

多くの方にご利用いただいています。また、自動車

業界の安全・環境への各種取り組みや市場動向調査

の紹介、自動車ユーザーに対してはクルマの正しい

使用方法の周知などを行っています。さらに、自動

車ユーザー視点に立った自動車関係

諸税の簡素化・負担軽減など業界と

しての主張・提言などについても幅

広く情報発信しています。

月刊機関誌『JAMAGAZINE』では、

自動車産業を取り巻く社会環境や国

際情勢などに関する各界の専門家に

よる分析、解説、論評を分かりやす

く紹介しています。その時々のタイ

ムリーな話題を官公庁、大使館、大

学、報道関係機関、会員メーカー、

各企業などに幅広く発信すること

で、自動車産業の理解促進を図って

います。

また、クルマやバイクの夢・楽しさを訴求する観

点より、将来を担う子どもたちにその魅力を体験

してもらえるよう、科学技術館に「ワクエコ・モー

ターランド」を出展しています。乗用車やバイクに

加え、大型トラックの運転シミュレーター体験は圧

巻で特に好評です。ほかにも環境に優しい運転「エ

コドライブ」をゲーム感覚で競い合ったり、衝突時

の衝撃を疑似体験することで安全運転の大切さを学

んだり、盛りだくさんのコーナーがあります。毎日

開催するワークショップでは、電気自動車やハイブ

リッド自動車などの「クルマが走る仕組み」につい

て、低学年/高学年別に学習できるプログラムを提

供しており、子どもたちは真剣な表情で参加してい

ます。

自工会は、「東京モーターショー」をはじめとする

様々なイベントを開催しており、それらを通じて一

人でも多くの方々に“クルマ・バイクの夢、楽しさ”

を感じてもらえるよう広報活動を継続し、「豊かなク

ルマ社会の実現」に向け、今後も積極的に取り組ん

でまいりたいと考えています。 k

豊かなクルマ社会の実現に向けて

大上 工(おおうえ・たくみ)

(一社)日本自動車工業会理事・事務局長 兼 広報室長

2016年2月号〔経済広報〕 11

ANG LE

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オウンドメディアの最新事情平田大治(ひらた・だいじ)シックス・アパート(株) 執行役員CTO

オウンドメディアとは

最近、「オウンドメディア」という言葉をよく耳にしたり、質問を受ける機会が増えてきました。

もともとマーケティング業界を中心に「トリプルメディア」という考え方がありました。2010年に出版された『トリプルメディアマーケティング』(横山隆治、インプレスジャパン)で紹介されるように、メディアを、広告などを介して購入する「Paid Media」、自分でコントロールはできないが信頼や評判を獲得する「Earned Media」、自分が所有する

「Owned Media」の3つに分類し、これらのメディアの組み合わせでマーケティングを考えていく体系です。デジタルマーケティングの影響が増大していく中、旧来のマスメディアとデジタルメディアという分類から、よりメディアの特性に応じた対応が必要になるときに有用な考え方でした。

しかし、この中の「Owned Media」が、今よく耳にする「オウンドメディア」と全く同じかというと、そんなことはありません。

最近よく語られる「オウンドメディア」は、主に自分たちでメディア(ウェブサイト)を運営すること、そのメディアを活用した広報・マーケティング施策のことを指していることが多いのです。いわゆるコンテンツマーケティングなどの一種と考えられます。

もちろん、トリプルメディアがデジタル、いわゆるインターネットに限った話ではないように「オウンドメディア」も、本来はデジタルに限らないものでした。紙の会報誌や広報誌を発行している会社はたくさんありますが、それもオウンドメディアに分類されるものです。しかし、ウェブメディアの影響力は近年ますます増大する一方、ウェブ技術の進展のおかげでコストはどんどん安くなっていくため、企業や団体が自分でメディアを所有すること、すなわちウェブメディアをつくることは広報やマーケ

ティングの観点でもリーズナブルになっていることが背景にあります。

オウンドメディアに取り組む目的

先進的な企業や団体が「オウンドメディア」に熱心に取り組んでいますが、その目的は様々です。

ひとつは、広報目的です。自社の取り組みや活動などの紹介を通して、直接ステークホルダーに情報提供を行ったり、また新聞やメディアの記者の目に留まってメディアに掲載されることを狙うこともできるでしょう。これまでもプレスリリースや広報誌などがありますが、そういったコンテンツを利用して、ウェブサイト上でニュースメディアとして運営することで情報の拡散を図ります。

また、ブランディングを目的としているサイトもあります。直接、自社や自社の製品・サービスを紹介するのではなく、広く業界や人々が関心を持ちそうなテーマを設定し、そのテーマに沿ってコンテンツを作成して提供します。自社の情報だけではなく、業界全体をリードできるような調査報告などを織り交ぜる手法は、ソートリーダーシップ・マーケティングに通じるところもあるでしょう。読者がそのコンテンツに関心を持ち、読んでもらうことを通して、最終的には認知拡大やブランドの浸透、好感度の向上を狙います。

もっと直接的に、セールス、プロモーションを意図して行っている例もあります。様々な専門的な情報を提供することで、リードの獲得や店舗への送客、ECサイトがあれば販売までを見据えた展開も可能でしょう。

手法と取り組み事例

これら多くのサイトは、仕組みとしては比較的似た手法でつくられています。ニュースメディアに向いた軽量のCMS(コンテンツマネジメントシステ

12 〔経済広報〕2016年2月号12

マスコミ事情

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ム)やブログツールなどを使ってウェブサイトを構築します。執筆者、編集者を集めて、目的に沿ったテーマでコンテンツを作成、もしくは収集して、継続的にウェブサイトを更新して、サイトの価値を高めていきます。作成したコンテンツはソーシャルメディアなどを利用して拡散し、読者の獲得を図っていきます。読者を、コンテンツを通して動かし、そのメディアや運営する企業のことを知ってもらう、もしくは次のアクションを起こさせるよう、サイトを運営し続けることで、メディアとなっていくのです。

例えば、スマートフォンから写真入りケーキを発注できるサービスを運営しているスタートアップのBAKE(ベイク)は

「THE BAKE MAGAZINE」というオウンドメディアサイトを運営しています。掲載される記事は自社の商品情報や自社の企業理念だけでなく、社内のコミュニケーションツールやスタートアップ企業ならではの話など様々です。商品そのものだけでなく、そこで働くスタッフや会社そのものの魅力を知ってもらうことで、外部からの取材や採用を円滑に進める目的を担っています。

グ ル ー プ ウ ェ ア、コ ラ ボ レ ー シ ョ ンツールを提供しているサイボウズでは「サイボウズ式」というサイトを運営しています。サイボウズ式ではテーマを「『新しい価値を生み出すチーム』のための、コラボレーションとITの情報サイト」と位置づけて、製品やサービスの紹介ではなくチームワークや働き方に焦点を当てた情報を提供しています。メディアでの編集経験者を編集長に据えて、サイボウズのブランドを新しい顧客層に、より広げていく目的で運営されています。「FASHION HEADLINE」は三越伊勢丹ホール

ディングスとイードが共同出資したファッションヘッドライン社が運営するファッション業界に関するニュースサイトです。2012年から運営されています。外部から編集

長を招聘し、三越伊勢丹に関連する情報は10%程度に抑え、他社のニュースも含む業界全体の記事を中立的な立場で発信するサイトになっています。ブランディングだけでなく、メディアの広告収益で黒字化しており、店舗やECサイトへの集客施策にも効果を発揮していくでしょう。

最近では、大学の取り組みもあります。明治大学は「Meiji.net」を2013年 7 月 か ら 運 営しています。大学の教育、研究、社会貢献を大学が運営するオウンドメディアから発信しています。教員による専門的な情報発信や社会への提言、分かりやすい解説、卒業生の紹介、メディアカバレッジなど幅広い情報を提供することで明治大学のブランディングを担っています。また、近畿大学は2015年10月 に「Kindai Picks」というキュレーシ ョ ン サ イ ト を 立 ち上 げ ま し た。 外 部 のニュースサイトやウェブサイトに掲載されている近畿大学関連の情報、卒業生や教職員などの活躍ぶりなどをピックアップして、大学が運営するウェブサイトから発信するという方法です。在学生、受験生やその保護者だけでなく、広く一般にも大学のことを知ってもらうための新しい手法のひとつといえるでしょう。

最後に

このように、様々な取り組みが行われているオウンドメディアですが、コンテンツを軸にしたメディアであることは、どの例を取っても明らかでしょう。コンテンツをつくることはもちろんタダではありませんし、メディア化するには、ただコンテンツを集めるだけでなく、ポリシーに基づいた編集が欠かせません。また、メディアとしてブランドを確立するには時間がかかることから、短期で成果を期待し過ぎると難しいものになります。それでも「Paid Media」や「Earned Media」以外の選択肢を持てるだけでなく、企業や団体がメディア化することの価値は、“発信できる企業”というブランドを持つことですので、一度できてしまえば大きなものになり、これからも様々なチャレンジが続けられるでしょう。 k

132016年2月号〔経済広報〕 13

マスコミ事情

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究極の3フィートでの対話猪狩誠也(いかり・せいや)東京経済大学 名誉教授 

新たなリスクとは?

昨年(2015)年は第2次世界大戦後70年でもあり、

様々なメディアで〈戦後70年企画〉が特集されたこ

とは記憶に新しい。また広報・PRについても、日

本広報学会設立20周年ということもあって、学会

総会の場で、私が日本の広報・PRを回顧し、今後

を展望するという機会を与えていただいた。それと

いうのも、日本の広報・PRがどう生まれ、どう

育ってきたかについて、2011年3月、5人の友人

と分担して『日本の広報・PR100年―満鉄からC

SRまで』を上梓したという理由からだろう。

ただこの本についていえば、この本は東日本大震

災以前に校了になったため、この大震災が社会・経

済・組織に与えたインパクトにはまったく触れら

れなかった。さらに言えば、20世紀の終わりごろ

から「近代」といわれる時代そのものが創出するリ

スク――例えばドイツの社会学者・故ウルリッヒ・

ベックなどが言う「個人化社会」といった新しいリス

クにも触れることができなかったが、2015年9月

に発行した増補版『日本の広報・PR100年―満鉄、

高度成長そしてグローバル化社会』ではそこまで触

れることができた。

広報という仕事は、一方で歴史、過去の事例など

に通暁していなければならないと同時に、将来、遭

遇するかもしれない様々な問題を予測するという仕

事も守備範囲である。

少ない紙数だが、特に現代では広報・PRとして

はあまり取り上げられない現代のリスクも最後に少

し取り上げてみたい。

経営哲学としてのPR

第2次世界大戦後、GHQ(連合国軍総司令部)が

当初日本に対して行ったことは、二度と戦争ができ

ないようにすることだったが、米ソの対立が次第に

高まってくると、日本が対共産国への防波堤の役割

を果たせるように、日本への要求も変わっていっ

た。特に朝鮮戦争が始まり、日本が米軍の兵器廠の

ようになると、最新の米国の経営思想、生産技術が

導入され、米国の世界戦略の一環として組み込まれ

るようになっていく。

また労働組合運動について、GHQは当初、結成

を促していたが、朝鮮戦争が起こると、逆に経営

側に立つようになる。1948年には日経連という労

務問題を中心とする経営者団体が生まれ、51年に

は、米国へ視察団を出し、米国から学んできたのが

パブリック・リレーションズ(PR)であり、ヒュー

マン・リレーションズ(人間関係論)であった。そし

て53年、日経連に事務局を置きPR研究会が発足、

官・民・学にわたりPRに関心を持つ人びとを集め

勉強会を続けた。特に初期に力を入れたのが社内広

報活動であった。

その後、日本経済の局面が進展するとともに、企

業広報の取り組むテーマも次々に変わっていく。

60年代から70年代はテレビ、冷蔵庫に始まる家電、

自動車と日本人の生活を根底から変えた耐久消費財

のマーケティング広報の時代、さらにその高度成長

のマイナスとして現れた公害問題によって問われた

社会的責任の時代……というように、広報部門が

次第に企業の中枢に位置するようになってきたので

〔経済広報〕2016年2月号14

企業広報研究

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ある。

リスク化する社会

話は一気にグローバル化した21世紀に飛ぶ。21

世紀の社会を「リスク社会」というのは先年物故した

先述のドイツのウルリッヒ・ベックである。近代社

会はそれまでの村落共同体や大家族など古い共同体

を壊しながら、大都市で自立した個人をつくって

いったが、〈第二の近代〉といわれる現代では、それ

まで自分たちを守ってくれていた家族、会社、労働

組合などの中間組織も崩壊していった。例えば、あ

る時代には農民を守った農協、医者の権益を守った

医師会……その一時期の強さは現代ではすでに失わ

れた。個人がリスクをすべて負わなければならない

時代になっている。

20世紀最後の10年、21世紀最初の10年、日本は

長い経済危機に直面し、新自由主義・市場主義のグ

ローバル投資家集団からリストラを迫られ、大量の

人員整理を行った。家族や社会福祉からも見離さ

れ、大都市の片隅でようやく生きるだけとなった職

を失った労働者たちも増えている。そして彼らのそ

の姿はすべて自己責任の結果と捉えられる。

我々の周囲をよく見ると、ある時期に社会的に力

を持っていた集団・組織がいつの間にか社会的影響

力を失っていることに気づく。人びとは正義とかイ

デオロギーでは動かず、カネ、損得で動くように

なってきたようだ。家族、職場、近所……を繋いで

きた関係性は弱く、細い糸になりつつある。これま

で最も強く社会を統合する存在だった企業・官庁な

どにもそういう機能は期待できなくなりつつあるよ

うだ。

“絆”という言葉

東日本大震災が我々のテーマである〈広報〉に与え

てくれた教訓は多かったが、ひとつだけ挙げるなら

“絆きずな

”という言葉を挙げたい。この大災害の中で、誰

言うともなく“心の絆”という言葉が日本中に駆け

巡ったような気がする。

この巨大リスクが、あらためて多くの日本人に公

共の中の“関係性(リレーションシップ)”の大事なこ

とに気づかせたのではないか? そして“対話”の意

味、重要性を感じさせたのではないか?

パブリック・リレーションズは欧州からアメリカ

大陸へ渡ってきた人びとが、まったく未知だった人

びととタウン・ミーティングに出て、自分の意思を

表わし、意見を戦わせ、ときに妥協しながらリレー

ションシップを形成していったもので、それが米国

のデモクラシーの原点とすれば、日本人も同じ体験

をしてきたと思う。

3フィートからの出発

日本人は議論はできても、対話が下手である。議

論には勝ち負けがあって、負ければ自分の意見は

引っ込めて、相手の言うことを聞かなければならな

い。しかし対話には勝ち負けはない。相手の良いと

ころをプラスしていくのが対話だからである。

米国の国際関係学者ナンシー・スノーは、その著

書『情報戦争――9・11以降のアメリカにおけるプ

ロパガンダ』の中で「放送ジャーナリズムの巨人」と

いわれ、ケネディ大統領時代にアメリカ文化情報局

(United States Information Agency)の長官だった

エド・マローの言葉「国際コミュニケーションの連

鎖を決定的に連結させるものは、個人的な接触を最

善の形で橋渡しする“究極の3フィート”(last three

feet)すなわち他者との対話である」という言葉を引

いて次のように述べている。

「彼の“究極の3フィート”の議論で、彼が確信し

ていたのは、個人的な交流や率直な対話は、国家の

長期的利益に大いに資するものであり、それはその

国の世界での全体的イメージを向上させようとする

マーケティング・キャンペーンのいかなるものも陵

駕するということであった」。

現代の大衆説得技術は、SNS(ソーシャル・

ネットワーキング・サービス)などを含め、あまり

にも進み過ぎた。これからの広報・PRパーソンが

考えなければならないのは、マス・メディア、ソー

シャル・メディア……あらゆるメディアを総動員し

て人を動かすことではなく、究極の3フィートの距

離で対話することではないか? そして、優れた広

報PRパーソンは、あらゆるところで、対話をつく

り出す人である必要があるだろう。 k

2016年2月号〔経済広報〕 15

企業広報研究

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2016年度実施に向け募集始まる~教員の民間企業研修~

過去最高となる1409名の教員が103社の研修に参加

経済広報センターは、将来の日本を担う子どもた

ちの育成を図るため、教育界とビジネス界とのコ

ミュニケーション促進活動の一環として、「教員の

民間企業研修」を実施している。この研修は、小・

中・高等学校などの教員が民間企業での様々な研修

を通じて、企業活動の考え方や人材育成、環境への

取り組みなどについての理解を深め、研修を受けた

教員が、企業で学んだことを授業や学級活動など

を通じて子どもたちに伝え、今後の学校運営に生

かしてもらうことを目的としている。33年目であ

る2015年の夏は、過去最高となる1409名の教員が、

103の企業・団体の研修に参加した。

■受け入れ企業数と参加教員数の推移

企業の特性を生かした実践的なプログラム

この研修に決まったプログラムはなく、受け入れ

企業が教員の窓口となる各教育委員会の要望を受け

ながら自由に策定する。その内容は様々で、企業理

念や事業概要、人材育成の取り組み、環境対策・C

SR(企業の社会的責任)活動などについての講義も

あれば、ビジネスマナー研修や危険体感研修など、

実際に社員が受ける研修を体験できる企業もある。

富士電機は、グローバル人材育成の取り組みとし

て社内で実施しているワークショップを研修に取り

入れた。チームビルディングやコミュニケーション

演習を通じて、

自身の思いを他

者に分かりやす

く伝えることや

固定観念を持た

ずに様々な意見

を受け入れるこ

と、組織として動くことの重要性などを伝えた。「普

段子どもたちに伝えているコミュニケーションにつ

いて、自身が体験し、楽しさや難しさを感じること

により、あらためてその重要性を学ぶことができ

た」と参加教員からは好評だ。ほかにも自動販売機

の分解や障がい者雇用を促進している特例子会社見

学など、独自のプログラムでモノづくりの楽しさや

工夫、同社の企業活動を幅広く学んだ。

三菱自動車工業では、自動車のスケッチデザイン

業務体験や生産

工場見学、実車

試乗や計器試験

体験などを実施

し、企業活動に

ついての理解を

深めた。スケッ

チデザイン体験では、ひとつのコンセプトの下に

チーム一丸となってデザインを決定していくプロセ

スを体験し、生産ライン見学では、ロボットによる

オートメーション化が進む中でも、最後は人の手で

確実に取り付けや検査が行われている様子を見学し

た。人と機械がそれぞれの役割を果たしながらモノ

づくりを行う現場に触れ、参加教員からは「企業の

組織力とそこで働く社員のプロ意識について子ども

たちに伝えたい」との感想が寄せられた。同社では、

新人技能系教育指導員との懇談も行っていて、人を

教えるという同じ立場から、それぞれの思いや悩み

についての意見交換を行った。

明治安田生命は、生命保険商品についての講義や

営業現場体験、コミュニケーションセンター見学を

実施し、社会保障制度を補完する生命保険の役割、

教育現場にも通じる「対面のアフターフォローの価

0

200

400

600

800

1000

1400

1600名 社

120

100

80

60

40

20

0

1200

51 27

4

43

8

342

46566

61

1983 1985 1990 1995 2000 2005

633

88

2010

975

116

2014

1149

105

2015

1409103

■ 参加教員数(名) ■ 受け入れ企業数(社)

チームビルディング研修(富士電機)

計器試験を体験(三菱自動車工業)

〔経済広報〕2016年2月号

経済広報センター活動報告

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値」を伝える。営業所を見学し成果が目に見える掲

示の工夫や、情報管理のための徹底した整理整頓の

様子に、参加教員は感心していた。コミュニケー

ションセンターでは、実際にコミュニケーターがお

客さまとやり取りする様子を見学し、電話応対の質

やコミュニケーターのモチベーション向上のための

取り組み、コミュニケーターの管理指導者によるO

JTの仕組みなどを学んだ。参加教員からは「相手の

思いを考えて、とても丁寧にかつ分かりやすく対応

している様子は、保護者との対応にも生かせると感

じた」と教育現場で活用できるとの声が寄せられた。

2016年度の実施に向け募集開始

現在、2016年度民間企業研修実施に向けて、企

業と教育委員会への募集を行っている。特に都市部

においては、参加教員数の増加が見込まれることか

ら、会員企業・団体に、継続・新規受け入れをお願

いしていく予定だ。

今後も引き続き、当センターは教育界と民間企業

とのコミュニケーションを促進させる役割を担うこ

とで、教員には企業での研修体験を多彩な形で子ど

もたちに伝えていただくとともに、学校運営の改善

などにも活用していただけるよう、工夫・改善を重

ねて、より良い研修運営に取り組んでいく。 k

■2015年度「教員の民間企業研修」受け入れ企業・団体(企業・団体名は実施時)

アイシン・エィ・ダブリュ株式会社アイシン精機株式会社旭化成グループ朝日生命保険相互会社株式会社イトーヨーカ堂株式会社伊予銀行SMBC日興証券株式会社株式会社NTTデータだいち

(NTTデータ特例子会社)大阪ガス株式会社一般社団法人大阪銀行協会株式会社大林組オムロン株式会社オリックス株式会社カーディフ・ジャパン

(カーディフ生命・カーディフ損保)カシオ計算機株式会社鹿島建設株式会社関西電力株式会社キッコーマン株式会社京セラ株式会社株式会社きんでん 京葉ガス株式会社 株式会社神戸製鋼所コマツ五洋建設株式会社山九株式会社JSR株式会社JX日鉱日石エネルギー株式会社JNC株式会社JFEスチール株式会社 静岡ガス株式会社株式会社資生堂清水建設株式会社一般社団法人情報サービス産業協会一般社団法人信託協会

新日鉄住金株式会社一般社団法人生命保険協会一般社団法人全国銀行協会全日本空輸株式会社(ANA)綜合警備保障株式会社(ALSOK)双日株式会社ソニー生命保険株式会社第一生命保険株式会社株式会社大京大成建設株式会社大日本印刷株式会社(DNP)太平洋セメント株式会社株式会社大和証券グループ本社株式会社竹中工務店株式会社千葉銀行 中外製薬株式会社中部電力株式会社TIS株式会社

(ITホールディングスグループ)株式会社デンソー一般財団法人電力中央研究所東京海上日動火災保険株式会社東京ガス株式会社株式会社東芝東邦ガス株式会社東レ株式会社戸田建設株式会社凸版印刷株式会社トヨタ自動車株式会社株式会社豊田自動織機 豊田通商株式会社トヨタ紡織株式会社中日本高速道路株式会社ナブテスコ株式会社株式会社ニコン西日本電信電話株式会社

西日本旅客 道株式会社株式会社ニチレイニッケニッセイアセットマネジメント株式会社日本航空株式会社(JAL)日本証券業協会日本生命保険相互会社日本通運株式会社株式会社日本取引所グループ

(東京証券取引所)一般社団法人日本貿易会日本郵船株式会社株式会社野村総合研究所(NRI)野村ホールディングス株式会社日立建機株式会社富士電機株式会社富士フイルム株式会社古河電気工業株式会社丸紅株式会社ミサワホーム株式会社みずほ証券株式会社三井化学株式会社三井物産株式会社三井不動産株式会社三菱地所株式会社三菱自動車工業株式会社三菱商事株式会社三菱電機株式会社三菱マテリアル株式会社三菱UFJニコス株式会社明治安田生命保険相互会社ヤマト運輸株式会社ライオン株式会社株式会社リコー株式会社りそなホールディングス

(文責:国内広報部主任研究員 大野祥子)

2016年2月号〔経済広報〕

経済広報センター活動報告

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ドイツジャーナリスト訪日プログラム

経済広報センターでは、2015年11月30日から12月4日にかけて、ドイツと主要国との交流を手掛ける

ロバート・ボッシュ財団と協力し、「独ジャーナリスト訪日プログラム」を実施した。当センターでは、政治、

経済、文化など、それぞれのジャーナリストのテーマに沿った取材活動に協力するとともに、11月30日に

「ドイツと欧州:その課題と未来」と題するシンポジウムを開催した。

各種面談・取材活動への協力

当センターがボッシュ財団と独ジャーナリストの

訪日プログラムで協力するのは今回で4回目。今年

度は、ハンデルスブラット紙、フランクフルター・

アルゲマイネ紙、ドイツ公共放送など、ドイツの新

聞、テレビ、ラジオ、雑誌などの主要メディアの

ジャーナリスト12名が来日し、河野太郎国家公安

委員長・行政改革相、細野豪志民主党政調会長、舛

添要一東京都知事をはじめ、経済、外交安全保障、

エネルギー、CSR(企業の社会的責任)、コーポ

レートガバナンス、女性活躍、社会保障、シニアビ

ジネス、雇用問題、若者研究、オリンピック・パラ

リンピックといった幅広い分野の専門家と面会し、

日本の経済・社会の現状などについて懇談した。企

業、NPO、研究者、一般市民などに対する個別取

材も含め、独ジャーナリストに対して、当センター

が設定した会合や取材機会は、訪日期間中の5日間

で74に及んだ。

シンポジウム「ドイツと欧州:その課題と未来」

また、当センターでは、日本経済新聞社の菅野幹

雄編集局次長兼経済部長をモデレーターに、11月

30日に「ドイツと欧州:その課題と未来」と題する

シンポジウムを開催した。テロ・難民問題、経済問

題などに揺れる欧州の課題について、率直な意見交

換が行われた。以下は、講演した3名のジャーナリ

ストの発言概要である。

ドイツ統一25周年と難民問題

スザンネ・ベーツバイエルン放送 ポリティカル・エディター/博士

ドイツは2015年、東西統一25周年を迎えた。統

一後、旧東側では、インフラは改善し、生活の質も

向上した。しかし、旧西側との所得の格差は拡大し

ている。このため、旧東側に対しては各種補助金が

支給され、その総額は2兆ユーロに上るにもかかわ

らず、旧西側への人口流出が止まっていない。

この中で、現在、ドイツは難民の大量流入とい

う、統一以来の最大の課題に直面している。ドイツ

には、第二次世界大戦の反省から、難民に対して寛

容な風潮があるが、今や、難民の流入は無秩序な状

〔経済広報〕2016年2月号

経済広報センター活動報告

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況となっており、当局の対応能力も限界に達してい

る。ドイツ政府は、トルコに資金援助を条件に受け

入れの分担を働き掛けるなど、対応策を検討してい

る。

独経済界は各種の専門人材の確保などの観点か

ら、難民の受け入れに依然として前向きな姿勢を示

しているが、一部には、難民流入による追加的な経

済負担を危惧する声も出始めている。加えて、各地

では、外国人排斥運動も見られるなど、一部では、

難民に対する抵抗感が高まっている。この結果、メ

ルケル政権の支持率は低下し、外国人排斥意識のよ

り強い東側で、極左、極右政党が共に勢力を伸ばす

という状況となっている。2016年には3州で選挙

があり、与党がどの程度集票できるかが今後を占う

ことになる。難民問題に絡んで政府与党の支持者が

他の政党に少しずつ傾きつつあり、メルケル政権に

は不安要素だ。

難民政策については、受け入れ後の融合も大きな

課題だ。難民を労働市場や社会にうまく組み込める

かどうかが大きなカギとなる。難民がドイツの価値

観を着実に受け入れていくことも必要だ。

難民の問題については課題が山積しているが、ド

イツが先例のない東西再統一を幾多の困難を経て成

し遂げたように、必ず解決策が見いだされるだろ

う。

高齢化社会とその資本市場への影響

ディーテゲン・ミューラー『ベールゼン・ツァイトゥング』紙 金融市場エディター

ドイツでも日本と同様、少子高齢化に伴い社会保

障コストが増大している。ドイツはEU(欧州連合)

の中でも出生率が低く、老年人口指数(15 ~ 64歳

の生産人口に対する65歳以上の比率)は、現在は約

30%だが2060年には倍増するという予測もある。

このためドイツは年金制度の大改革を行った。す

なわち、受給年齢の引き上げ、人口動態を考慮した

公的年金の給付抑制、年金保険料の企業負担率に関

する上限の設定などだ。これらは一定の成果を挙げ

たが、今後は、年金制度の財政負担を抑え持続可能

性を高めるため、私的年金をさらに多様化させ魅力

を高める必要がある。

また、高齢化の進展は資本市場に影響を及ぼすこ

とが知られている。老齢保障を確保するために資本

市場に資金が流れれば金利は低下し、逆に医療費な

ど消費に資金が回れば金利が上昇する。社会保障政

策や経済政策においては、このように人口動態が資

本市場に与える影響にも目を配る必要がある。

選挙民の高齢化による「シルバー民主主義」の下で

は、高齢者に厳しい政策が打ちにくい事情がある。

これは理解できるが、選挙をにらんで年金制度改革

などの課題解決を先送りするのは得策ではない。政

府は新財源の確保や給付抑制など、持続可能な方法

に果敢に取り組むことが必要だ。

ドイツのエネルギー転換政策の課題

オリバー・シュトック『ハンデルスブラット』紙 副編集長

ドイツでは、社会民主党(SPD)と緑の党の連立

政権下の2000年に、電力会社との間で原子力発電

所の最長稼働年数を32年とする合意がなされ、そ

の後、2002年に立法化された。2009年に発足した

メルケル政権では脱原発政策を一部緩和し、原発の

稼働年数の延長を認めた。しかし、2011年の東日

本大震災を機に再度、脱原発政策を強化し、2022

年までに全ての原子力発電所を段階的に閉鎖するこ

とを決めた。

再生エネルギー関連では、採炭地の太陽光発電へ

の有効活用や、風力発電や蓄電技術の進歩などの取

り組みが進んでいるが、一方では、送電網拡充によ

るコスト増加や景観の悪化、再生エネルギー発電促

進賦課金による消費者電力価格の上昇といった課題

も出てきている。再生可能エネルギー発電推進によ

る電力の過剰供給から電力市場価格が下がり、電力

会社の経営危機問題も発生している。脱原発に向け

再生可能エネルギーへのシフトを着実に進めていく

ためには、これらの課題を乗り越える必要がある。

k

(前 国際広報部主任研究員 田中 勲)

2016年2月号〔経済広報〕

経済広報センター活動報告

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N E W S

Keizai Koho Center News

10月23日~ 11月21日

富士通総研の金堅敏経

済研究所主席研究員を講

師に、講演会「日本、中国、韓国、ASEANのアジア市場・経済統合戦略と行方」を開催した。金氏

は、「TPP(環太平洋経済連携協

定)の合意は、日本にとって有益

な環境ができた一方で、中国は、

短期的には自由貿易試験区を活用

した中国国内の制度整備、中期的

には米中・欧中投資協定の推進、

長期的にFTAAP(アジア太平

洋自由貿易圏)の締結へ軸足を移

す戦略を取る」と述べた。参加者

は約100名。

「 フ ィ ナ ン シ ャ ル・ タ

イムズの編集方針と日本

への関心」をテーマに、「フィナンシャル・タイムズ東京支局長との懇談会」を開催した。講師は、

『フィナンシャル・タイムズ』のロ

ビン・ハーディング東京支局長。

参加者は82名。

早稲田大学理工学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「21世紀における

科学技術と社会~センシング技術

の現状と展望~生体センサー」、

講師:山森 伸二 日本光電 上席執

行役員 荻野記念研究所所長)

慶應義塾大学総合政策

学部・環境情報学部で「企業人派遣講座」を実施した。(テー

マ:「21世紀の企業の挑戦~ブ

ロードバンド時代のビジネス戦略

~クラウドによるビジネス変革」、

講師:木野 亨 富士通 デジタルビ

ジネスプラットフォーム事業本部

本部長代理)

早稲田大学商学部で「企業人派遣講座」を実施し

た。(テーマ:「日本企業のイノ

ベーションと成長戦略~第1次

産業における取り組み(2)」、講

師:宮芝 望 住友化学 健康・農業

関連事業業務室部長)

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先端

と将来展望~自動車業界における

エネルギー・環境先端技術」、講

師:茂木 和久 トヨタ自動車 環境

部調査グループ主査)

広報実務の実践的な演

習と他社の広報部員との

交流を目的とした「第2回広報実務担当者向け実践フォーラム・交流会」を開催した。講師はクロス

メディア・コミュニケーション

ズの雨宮和弘代表取締役。雨宮氏

は、ウェブサイトやSNS(ソー

シャル・ネットワーキング・サー

ビス)を使って企業の価値を伝え

るためには、企業活動の実態(思

いや考え)を写真や映像など、目

に見える形で素早く伝えていくこ

とが重要であると説明し、その

後、グループワークを行った。参

加者は62名。

早稲田大学理工学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「21世紀における

科学技術と社会~センシング技術

の現状と展望~ウェアラブルデ

バイス」、講師:加納 俊彦 セイ

コーエプソン ウエアラブル機器

事業部S企画設計部部長)

10/23

10/26

6/30

10/26

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慶應義塾大学総合政策

学部・環境情報学部で「企業人派遣講座」を実施した。(テー

マ:「21世紀の企業の挑戦~ブ

ロードバンド時代のビジネス戦略

~マイクロソフトのワークスタイ

ル変革事例紹介~業務効率とワー

クライフバランスの向上~」、講

師:小柳津 篤 日本マイクロソ

フト エンタープライズ&パート

ナーグループエグゼクティブアド

バイザー)

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先端

と将来展望~発電用ガスタービン

技術開発の現状と展望」、講師:

正田 淳一郎 三菱日立パワーシス

テムズ ガスタービン技術本部副

本部長)

中日本高速道路の新東

名高速道路工事現場、コ

ミュニケーション・プラザ川崎、

川崎道路管制センター(神奈川県)

で「企業と生活者懇談会」を開催

し、社会広聴会員19名が参加し

た。見学や質疑懇談を通して、同

社の安全で安心・快適な高速道路

空間を提供するための取り組み

や、環境対策、災害発生時に高速

道路が果たすべき役割など、多岐

にわたり理解を深めた。

早稲田大学理工学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「21世紀における

科学技術と社会~センシング技術

の現状と展望~自動車」、講師:

小川 伯文 マツダ 開発調査部主

幹)

広 島 市 立 大 学 で「企業人派遣講座」を実施した。

(テーマ:「21世紀の企業の挑戦

~ブロードバンド時代のビジネス

戦略~夢があるところに人は育つ

~血液輸送無人ヘリコプター実現

へ向けて~」、講師:松坂 晃太郎

ヒロボー 代表取締役社長)

早稲田大学商学部で「企業人派遣講座」を実施し

た。(テーマ:「日本企業のイノ

ベーションと成長戦略~第2次

産業における取り組み(3)」、講

師:緒方 宏俊 凸版印刷 情報コ

ミュニケーション事業本部トッパ

ンアイデアセンターマーケティン

グ本部本部長)

静岡県立大学の小川和

久特任教授を講師に、「企業広報講演会」を開催した。テー

マは「危機管理の死角 狙われる

企業、安全な企業」。小川氏は、

「海外へ進出する企業が増えてい

るが、海外でのテロや自然災害な

どの危機発生時に対応したマニュ

アルを整備し、定期的な演習を行

い、危機発生時に対応するシステ

ムの完成度を上げていく必要があ

る」と訴えた。参加者は51名。

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先端

と将来展望~鉄鋼業界におけるエ

ネルギー・環境先端技術と地球温

暖化対策」、講師:手塚 宏之 J

FEスチール 技術企画部理事地

球環境グループリーダー)

日本経済新聞に「数字で

見る『経団連ビジョン』④」

と題する「意見広告」を掲載した。

11/3

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N E W S

Keizai Koho Center News

10月23日~ 11月21日

米 国( ル イ ジ ア ナ 州

ニューオーリンズ)で「全米社会科協議会年次総会(NCSS)北米社会科教育関係者招聘プログラム・フォローアップ活動」を行った。(詳細は、本誌1月号を参

照)

「第112回事業企画委員会」(委員長:内田章 東レ

常務取締役)を開催し、駐日大使

との懇談会の開催について検討

し、了承された。さらに、今後の

活動予定を説明するとともに、「情

報源に関する意識・実態調査」の

結果など4件について報告した。 

早稲田大学理工学部で

「企業人派遣講座」を実施

した。(テーマ:「21世紀における

科学技術と社会~センシング技術

の現状と展望~住宅用エネルギー

管理システム(HEMS)」、講

師:袖岡 隆信 パナホーム 住宅・

技術研究所技術企画・構造・構法研

究室)

経団連会館で「企業広報講座(第4回東京会場)」を

開催し、プラップジャパンの別井

孝士デジタルコミュニケーション

部アカウントスーパーバイザー

が、「『ソーシャルメディア対応の

危機管理』~リスク状況ごとの対

策ポイントの解説~」をテーマに

講演した。別井氏は、昨今のSN

S上での不適切な投稿が炎上する

までのメカニズムを説明し、企業

はSNS分野でもクライシス対応

の仕組みづくりをする必要がある

などと述べた。参加者は64名。

京都大学で「企業人派遣講座」を実施した。(テー

マ:「21世紀の企業の挑戦~ブ

ロードバンド時代のビジネス戦

略」、講師:平田 正信 朝日放送

技術局技術戦略部長)

早稲田大学商学部で「企業人派遣講座」を実施し

た。(テーマ:「日本企業のイノ

ベーションと成長戦略~第2次

産業における取り組み(4)」、講

師:中島 一浩 キヤノン インク

ジェット事業本部インクジェット

技術開発センター担当部長)

東京工業大学・大学院

で「企業人派遣講座」を実

施した。(テーマ:「科学技術特論

~エネルギー・環境技術の最先端

と将来展望~浮体式洋上風力発

電の現状と課題」、講師:佐藤 郁

戸田建設 価値創造推進室技術開

発センターエネルギーユニット部

長)

沖縄電力の吉の浦火力

発電所(沖縄県中頭郡中城

村)で「企業と生活者懇談会」を開

催し、生活者8名が参加した。沖

縄電力初のLNG(液化天然ガス)

を燃料とする同発電所を見学し、

最新技術による発電効率の向上や

CO2(二酸化炭素)排出量の削減

など環境面においても優れた発電

所について学んだ。 k

(国内広報部 鈴木陽子)

定価:1300円(税込)編集・発行株式会社宣伝会議購読申込月刊「広報会議」読者サービスセンターTEL:03-3475-3010インターネットからもお申し込みいただけます。http://sendenkaigi.com/

3月号

[巻頭特集]

ベンチャー乱立時代一歩抜きん出るためのPR

[青山広報会議]

増えるIPO企業投資家に評価される広報とは?

PR・IR・危機管理

11/13

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企業PRの「明日のヒント」

岡本純子(おかもと・じゅんこ) 

コミュニケーションストラテジスト/(株)グローコム 代表

岡本純子(おかもと・じゅんこ)読売新聞記者、電通PRコンサルタントを経て渡米。帰国後、独立し、企業のPR支援などを手掛ける。

「トップコミュニケーション」分野の経験が豊富。(http://www.glocomm.co.jp/)

トップの役割はチーフエンゲージメントオフィサーへvol.2

企業にとって、トップは最大のPR資産である。

その指導力が組織の命運を左右するだけではなく、

最も重要なスポークスパーソンであり、会社の顔で

もある。米国では、トップであるCEOとはChief

EngagementOfficerのことで、つまり、社員、お客

さま、取引先などのステークホルダーとのエンゲー

ジメント(絆)づくりこそが最もプライオリティーの

高い責務を負っていると唱える人もいる。社内外で

揺るぎない絆をつくり、リーダーシップを発揮して

いくために必要なもの、それが強いコミュニケー

ション力だ。

一昔前までは、トップのコミュ力はそれほど重視

されてこなかったかもしれない。日本流の「以心伝

心」文化の中で、「伝える努力」はしなくてもなんとな

く伝わる、と錯覚されてきた。しかし、グローバル

化、マスメディアの地盤沈下、ソーシャルメディア

の台頭など、時代は大きく変わっている。今や、商

品発表会やIR説明会、株主総会までが動画中継さ

れ、世界にリアルタイムで発信される時代だ。一部

のマスメディアを通して、言いたいことだけを伝え

さえすればいいという考え方は通じない。社内外の

全方位のステークホルダーに対して、直接的に対話

をしていくための、まさに360度、365日のコミュ

力が求められている。

米国の企業幹部1700人に聞いた調査では、企業

の評価の45%、さらに企業の市場価値の44%がC

EOの評価に起因するとし、81%が「企業が社会的

に高い評価を得るためにCEOの露出は欠かせな

い」と回答した。

同調査では、特にイベントでのスピーチ、メディ

ア露出、企業サイトでの露出など、マルチな場面

で、そのプレゼンスが求められていることが浮かび

上がった。(図1)

また、図2のように、多様なステークホルダーに

アプローチしていくためには様々なメディア、プ

ラットフォームを通して、メッセージを伝えていか

なければならない。それ

ぞれのメディアの特性や

ターゲットに応じた、き

め細かい発信戦略が求め

られるわけだ。

とはいえ、日本のトップは往々にして、コミュ

力に(根拠もなく)自信を持っているか、あるいはあ

まり重要性を感じていない方も多く、広報担当者

の方々が「鈴をつけにくい」のも事実。次回からは、

トップのコミュ力、対話力を上げたい!と思ってい

らっしゃる方々のための、実践的アドバイスをご紹

介したい。  k

■図1 あらゆる場面で求められるプレゼンス

■図2 伝えるチャンスもステークホルダーも多様化

2016年2月号〔経済広報〕 23

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国際プロジェクト紹介⑦

一行は、横浜市にあるJX日鉱日石エネルギーの「創エネハウス」を訪問。

燃料電池や太陽光パネルによる家庭での発電とIT技術を連携させたエネ

ルギー利用最適化の最新システムを見学した。横浜市役所では、インター

ネットを通じてオフィスビルや商業施設のエネルギー利用量を自動制御す

る「横浜スマートシティプロジェクト」の仕組み、また、これにより電力の

ピーク使用量を2割以上低減させた実績などについて説明を受けた。「スカ

イツリー地域冷暖房システム」の見学では、高効率熱源機器、地中熱利用

システム、大容量水蓄熱槽の活用などにより、墨田区押上地区約10.2ヘク

タールのエリアからのCO2(二酸化炭素)排出量を半減させたとの説明を受

けた。

首都高速道路では、徹底したデータ分析に基づく交通量マネジメントと

道路補修・新設計画について話を聞き、道路企業への国・地方公共団体の

関わり方について討議した。東京都都市交通局では、鉄

道、道路を含めた総合的な渋滞解消策の重要性や道路計画

の長期的な取り組みの必要性について議論した。

有明水再処理センターでは、最新の微生物利用技術を用

いて水質浄化する設備を見学し、各国の現状と比較検討し

た。多様な産業廃棄物の処理を行っている高俊興業では、

全体リサイクル率90%以上を実現している設備を見学し、

騒音や粉塵を出さない工夫を中心に意見交換した。

これら日本の企業や地方自治体の取り組みの紹介を通じ、参加各国の都市問題の解決に具体的な糸口を提供す

ることが期待されている。参加者からは、自国への導入や民間企業との協力関係など、今後に向けた前向きな声

が寄せられた。  k

【招聘者】

フィリピン(5名)アナベル・タンソン(オーロラ州サンルイス町長)、レイ・カローイ(南レイテ州リバゴン副町長)、 他

マレーシア(3名)ゴー・チューンケン(ペナン州ペナン市議会議員)、チュー・ウェイケン(セランゴール州議会議員)、 他

インドネシア(4名)オキ・スィレガール(北スマトラ州テビン・ティンギ市副市長)、プラセチョ・ウィカクソノ(ジャカルタ州スマートシティチームIT部長)、 他

東ティモール(1名) カーリト・ヌネス(FRETILIN党〔東ティモールの政党〕代表)

(国際広報部主任研究員 長谷川正彦)

スカイツリー地域冷暖房システムにて

首都高速道路にて

JX日鉱日石エネルギー「創エネハウス」にて

経済広報センターは、2015年11月30日から12月4日にかけて、有識者などの国際交流を推進するドイツのフリードリッヒ・エーベルト財団と協力し、ASEAN諸国の地方議会議員や地方自治体関係者らを招いた「都市政策視察プログラム」を実施した。今回来日したのは、フィリピン、マレーシア、インドネシア、東ティモールの都市問題専門家13名で、省エネ、渋滞対策、汚水処理、リサイクルなどに関する企業や地方自治体の取り組みを視察した。

ASEAN政治家「都市政策視察プログラム」

〔経済広報〕2016年2月号24

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Book

広  報トピックス

企業広報ニュース

危機管理広報についての実務書は多く出版されているが、

同書は法的な位置づけから危機管理広報にフォーカスした一

冊だ。

弁護士である同書の著者は、危機管理広報を行うことは、

企業の社会的責任であると同時に、会社法で取締役に課せら

れた法律上の義務「善管注意義務(忠実義務)」であると述べ

る。不祥事や危機が発生した際に、「これ以上は広報を求めら

れても回答する法的義務はない。しかし、社会的責任の観点

からは広報した方がよいケースがある」。この判断は法的問

題であり、同書では、どこまで、またどのように広報すれば

善管注意義務を果たしたことになるのか、法的な観点から実

務対応を解説する。

その内容は、「謝罪をしたら法的責任を認めたことになるの

か」「謝罪のセリフの巧拙」「記者会見の弁護士同席の是非」「企

業がリリースや謝罪文を送る場合の言葉遣い」「企業が訴えら

れた・訴訟で負けた・和解したとき」など具体的だ。

時系列で解説されているため、一読することで危機発生時の対策とその手順を確認できる。

k

(国内広報部主任研究員 大野祥子)

『危機管理広報の基本と

実践』

中部電力静岡支店では、8月に小学生とその保護者を対象に、「夏休み親子施設見学会」を開催した。親子に電力の安定供給への取り組みを現場で直接見学してもらい、電気に対する理解

を深めてもらうことが目的だ。2015年は、一般公募で集まった親子110組267人が参加した。

2015年1月に運転を開始した「メガソーラーしみず」では、ソーラーパネルを見学し、参加

者は太陽光発電のメリット・デメリットを学んだ。「浜松給電制御所」では、小学生が同社の制

服を着て「こども指令長」となって記念写真撮影を行い、「原島変電所」では、検電器を使って目

に見えない電気を確認したり、高所作業車の試乗体験を行った。その他にも、周波数変換所と

変電所機能を併せ持つ「東清水変電所」や同社管内で電気容量と敷地面積が最大の「駿遠変電所」

での見学、「浜岡原子力館」では、原子力発電の仕組みや、現在進めている地震や津波に対する

安全性向上工事についての見学など幅広く施設見学

を開催した。

電力の安定供給に取り組む現場の“人”に焦点を当

て、現地の社員が直接、案内や説明を行うことで、

現場の熱い思いや姿勢を伝えることができたとい

う。中部電力は、「予定を上回る応募をいただきまし

た。今後も、関心を持っていただけるようなイベン

トを企画していきます」としている。 k

(国内広報部主任研究員 西田大哉)

中部電力、「夏休み親子

施設見学会」を開催

浅見隆行著、中央経済社 2015年10月発行、2500円(税別)

原島変電所で検電器を用いて目に見えない電気を確認

2016年2月号〔経済広報〕 25

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発行:一般財団法人 経済広報センター   Printed in Japan

企業・団体のCSR活動

平成28年2月1日発行(毎月1回1日発行)

昭和55年10月23日第3種郵便物認可

http://www.kkc.or.jp/

第38巻第2号通巻438号

2016

2

オリンパスは1919年、顕微鏡を量産化し、疫学を通して広く国民の健康に資するという使命感から

創業した。現在では、内視鏡や処置具などの「医療

事業」、最先端の「イメージング」技術を持つ顕微鏡

といった「ライフサイエンス・産業事業」、そしてデ

ジタルカメラを中心とする「映像事業」と幅広く展開

している。東京都八王子市にあるオリンパス技術歴

史館「瑞古洞」では、創業時から現在に至るまでのオ

リンパス製品を展示しており、現在展開する大きく

3つの事業分野の歴史を振り返ることができる。

「ライフサイエンス・産業事業」では、同社初の顕

微鏡「旭号」(1920年)をはじめ、顕微鏡の歴史的変

遷を見学できる。また、航空機のエンジンや橋梁な

どの検査で欠かせない非破壊検査装置も紹介されて

いるほか、体験コーナーでは、生物顕微鏡や実体顕

微鏡、工業用スコープなどを実際に操作することが

できる。

「映像事業」では、同社初のカメラ「セミオリンパ

スⅠ型」(1936年)、フィルム時代の「オリンパスペ

ン」や「OMシリーズ」など名機の数々を見学できる。

また、マイクロカセットレコーダーから現在のIC

レコーダーまで歴代音響製品も展示している。

「医療事業」では、世界で初めて開発した実用的な

胃カメラ(1952年)から、今日までの医療機器を展

示している。内視鏡システムや内視鏡に使う処置

具、内視鏡外科手術に使う機器など、同社が世界を

リードする様々な内視鏡技術を体験することができ

る。

同社は、会社設立以来、受け継がれてきた「もの

づくりのDNA」こそ、最大の財産であり、技術力

の誇りと責任を再確認して、これからも新しい価値

のある製品・ソリューションを世に送り出すこと

で、社会の発展に貢献していきたいとしている。 

k

(国内広報部主任研究員 西田大哉)

オリンパス(株)

お問い合わせ先オリンパス技術歴史館「瑞古洞」TEL:042-642-3086 

HP http://www.olympus.co.jp/jp/technology/zuikodo/

オリンパス技術歴史館「瑞ず い こ ど う

古洞」

実体顕微鏡によるサンプルの観察が体験できる

発行人/渡辺 良 編集人/佐桑 徹

[ISSN0918–4600

東京都千代田区大手町一-

三-

経団連会館

(本体価格三〇〇円+税)

電話〇三-

六七四一-

〇〇二一 〒一〇〇-

〇〇〇四

(送料別、賛助会員の購読料は会費に含む)

同社初のカメラ「セミオリンパスⅠ型」

内視鏡外科手術に使う機器を実際に操作できる