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定在波測定
2017年 7月 25日
注意: レポートには問についても記入する。
1 定在波測定
電磁波伝播の一例をマイクロ波回路で定在波を測定することによって学ぶ。
1.1 装置
図 1: ガンダイオード用電源の写真。
図 2: ガンダイオードの発振特性。
ガン(Gunn)ダイオード用電源
• 出力電圧 0 ∼ 10 V、電流 0 ∼ 1 Aである。
• ガンダイオードに電圧をかける場合は、必ず初期状態が 0Vになっていることを確認してか
らスイッチを入れ、徐々に電圧を上げて行くこと。
• 電源装置にバラクタ電圧の部分がついているが、今回の実験では使用しない。
1
図 3: 定在波測定用検出器断面図
定在波測定用検出器
プローブのスロットから導波管内に挿入して、管内のマイクロ波を検出器 (ダイオード)によっ
て、検出する。
導波管内の電場をプローブによって乱さないようにできるだけプローブの挿入長を短くし、その
ことによって減少した検波電流を、同調を上手く取ることによって多くするのが実験のこつである。
プローブの挿入長は頂上の小さなネジを回して加減する。また同調は内側の金属部分を外筒に対
しすべらせて上下させて使用する。
増幅器 2
上記の検波器からの出力を増幅して、マイクロアンメーターによる測定を容易にする。(これを
使用せず、検波器からの出力を直接マイクロアンメーターにつないでもよい。)
電源スイッチ
ZERO ADJ つまみ 増幅器のゼロ点調整用。マイクロ波のない状態でこのつまみを回
して、マイクロアンメータの読みが 0になるように調整する。
測定/OPEN 切り換え 「測定」側で使用。
マイクロアンメーター
増幅された検波電流を読む。メーター内の鏡を利用して指針を真上から正しく読む。
1.2 波動の伝播と定在波
一般に波動は媒質の性質が変わるとその境界面で反射を起こす。光の場合、音の場合、水面の場
合、電波の場合の反射の例を思い起こしてみると良いだろう。光の場合、屈折も反射も屈折率に
よって特徴付けられる。反射波はもとの波 (進行波)と逆方向に進むので重なりあって干渉により
定在波をつくる。従って定在波の大きさを進行波と比べることにより反射波の様子を定量的に調べ
ることが出来る。
2
実用的な面で反射を少なくすることが重要となる一例として、通信がある。すなわち、波動の形
で伝えられる信号を送信側から受信側にいかに効率よく伝えるかの問題で、減衰と並んで反射が重
要である。テレビジョンのアンテナと受像機との接続に出てくる「特性インピーダンス 75 Ω」と
か言った表現は電波の「伝わり方」を表わす表現で、この値の異なるところでは (ちょうど屈折率
の変わるところで、光が反射するように)電波の反射が起こる。反射を数字的に扱うには、波動方
程式の境界条件によって行なう。
電磁波の場合の波動方程式が、Maxwellの方程式から導出されることは既に学んだであろう。
(参考書) 有山正孝 (基礎物理学選書 8) 振動・波動 裳華房 (1970)
高橋秀俊 (物理学選書 3) 電磁気学 裳華房 (1959) P.309~
矩形導波管
この実験で用いている導波管は、通称X-Bandの導波管と呼ばれ、断面が内寸 22.9mm×10.2mm
の長方形 (矩形)である。
いま管軸方向 (z 軸と取る)の電場分布に目を向けた場合、管内波長 λg の一次元の波の振舞いを
している。λg はマイクロ波の振動数 f、導波管の形状・寸法によって決まるほか、横モードと呼
ばれる導波管断面方向の電磁場の分布様式によっても変わる。このような横モードは多数有り得る
が、いま我々の実験に関係しているモードは TE10 モードである。
(問 1) X-Band導波管について TE10 モードの遮断波長 λc を求めよ。
(問 2) 周波数 9200 MHzのマイクロ波の自由空間波長、X-Band導波管内での管内波
長を求めよ。
1.3 一次元波動と定在波比
(問 3) z 軸の正の方向に進行する波 A sin 2π(ft − z/λ) と負の方向に進行する波
A sin 2π(ft+ z/λ) の合成の式
f(t, z) = A sin 2π(ft− z
λ)−A sin 2π(ft+
z
λ)
を変形して、これが定在波であることを示せ。
また、各点における二乗の時間平均
f
∫ 1f
0
f(t, z)2 dt
を求めよ。
上の問では、正負両方向に同じ振幅の波を考えたが、次に異なる振幅の場合について考えてみよ
う。いま A > B > 0 とする。
f(t, z) = A sin 2π(ft− z
λ)−B sin 2π(ft+
z
λ)
= (A−B) sin 2πft cos2πz
λ− (A+B) cos 2πft sin
2πz
λ
3
t = 0,
1
2f,1
f, · · · のとき 最大振幅 A+B
t =1
4f,
3
4f, · · · のとき 最小振幅 A−B
ここで、f(t, z) として電磁波の電場を考えたとき最大振幅と最小振幅の比A+B
A−Bを電圧定在波
比 Voltage Standing Wave Ratio (V.S.W.R.)と呼ぶ。
いま、反射率を Γ とすると、これは反射波と進行波の比であり、
Γ =B
A
よって
V.S.W.R. =1 + Γ
1− Γ
さて、後に示すように、検波電流は電場の二乗の時間平均に比例している。従って、それがどの
ようになるか見てみよう。
f(t, z)2 = (A−B)2 sin2 2πft cos22πz
λ+ (A+B)2 cos2 2πft sin2
2πz
λ
−2(A2 −B2) sin 2πft cos 2πft cos2πz
λsin
2πz
λ
f
∫ 1f
0
sin2 2πftdt = f
∫ 1f
0
cos2 2πftdt =1
2, f
∫ 1f
0
sin 2πft cos 2πftdt = 0
より
f
∫ 1f
0
f(t, z)2 dt = (A−B)2
2cos2
2πz
λ+
(A+B)2
2sin2
2πz
λ=
A2 +B2
2−AB cos
4πz
λ(1)
(問 4) 式 (1)について、横軸に z、縦軸に検波電流をとってグラフをプロットしたとし
たとき山及び谷の場所の縦軸の値、及び山と山の間隔、谷と谷の間隔を A, B, λ で表わ
せ。またそれを利用して管内波長、V.S.W.R.を実測のグラフから求める方法について述
べよ。
1.4 マイクロ波の検出と二乗検波特性
図 4: ダイオードの二乗検波特性
マイクロ波の検出 (検波)に最も一般的に使われるのは、半
導体と金属との接触面での整流作用を利用したダイオードであ
る。Siの表面にタングステンの細い針を立てた点接触型、GaAs
等の表面につくった薄い絶縁層に小さい孔をあけて、その部分
だけを導通状態にしたショットキーバリヤー型などがある。
一般にダイオードにかかる電圧 V と電流 I の関係は図 4の
ようになる。V < 0 では I ∼= 0 すなわち電流がほとんど流れ
ない。V > 0 の領域のうち原点のごく近傍では (すなわちマイ
クロ波の電場が十分弱いところでは)、この曲線は二次曲線で
近似できることが知られている。入力電圧 V の二乗に比例した検波電流 I ∝ V 2 が流れるので、
これを二乗検波特性と呼ぶ。実際の回路では、検波器とその周辺の回路の時間的応答がマイクロ波
の周期に比べて遅いので、実際にはマイクロ波の電場の二乗の時間的平均 (従って電力に比例する
もの)を検出していることになる。
4
1.5 実験の手順
1. 電源スイッチが offの状態になっていることを確かめ、ガン用電圧コントロールが最小 (左に
回しきった状態)にして、電源スイッチを入れる。
2. 電圧コントロールを動かして 0 ∼ 10 Vの間でガン電圧 - 電流の関係を測定し、図 2とほぼ
同じであることを確認する。異なる場合は教員か TAに報告する。
3. ガンの電圧を 8 Vにする。以降、電圧は一定にして用いる。
4. マイクロアンメーターのふれを見ながらプローブの挿入長を変えてみる。20 µA 程度の読み
になるようにして、次に同調回路を調整して、ふれが大きくなるところを捜す。ふれが 30 µA
程度を越えたらプローブ挿入長を短くする。
5. ガン電圧を 0にして、いったんマイクロ波を止める。増幅器 2の Zero ADJ.つまみを回し
て、マイクロアンメーターの読みがゼロになるように調整する。(増幅器を使用しなかった場
合は 3.の後半は不要。)
6. 電磁ラッパをはずし金属板をつける。
7. 再びガンダイオードを 8 Vで発振させ、検出器の位置を導波管方向に変えてゆき、1 mmご
とにマイクロアンメーターの読みを記録する。なおグラフにも同時にプロットする。
8. 金属板に代えて、誘電体入りの導波管、開放 (何もつけない)、電磁ラッパのそれぞれについ
て、5.と同様に行なう。導波管を接続するときには断面が正しく重なりあうよう注意せよ。
電磁ラッパをつけた測定ではラッパ正面 (マイクロ波の向かっていく方向)に物体 (例えば検
出計の電磁ラッパ)を置いた場合と置かない場合で比べてみよ。これらのデータも1枚のグ
ラフにまとめてプロットせよ。特徴がわかりやすい。
9. 結果を解析し、定在波比、管内波長、マイクロ波の周波数をそれぞれについて求めよ。
(問 5) マイクロ波の物質による反射について、実験結果をもとに述べよ。
A Appendix : 導波管内の電場・磁場
A.1 矩形導波管
電磁波はMaxwellの方程式で
rotH− ∂D
∂t= 0, rotE+
∂B
∂t= 0, divB = 0, divD = 0 (2)
と書かれる。ここで、H, D, E, B はそれぞれ磁場、電束密度、電場、磁束密度である。
媒質は等方的でかつ均一とし、誘電率 ϵ、透磁率 µ とすると、z 方向へ進む波の電場と磁場は
E(x, y)ejωt−γz, H(x, y)ejωt−γz (3)
とおくことができる。ここで ω は角振動数、γ = α+ jβ は伝播定数 (α は減衰定数、β は位相定
数)である。
5
式 (3)を用いてMaxwellの方程式は
∂2E
∂x2+
∂2E
∂y2+ k20E = 0,
∂2H
∂x2+
∂2H
∂y2+ k20H = 0 (4)
と変形される。ただし、
k20 = γ2 + ω2ϵµ (5)
v =1
√ϵµ
(v は自由空間中の波の速度)
A.2 矩形導波管のモード
図 5のように矩形導波管の座標を取る。
A.2.1 TE波 (transverse-electric wave又はH波) · · · Ez = 0 の波の場合
図 5: 矩形導波管
TE波の Hz の境界条件として、
(a) x = 0 と a で∂Hz
∂x= 0, (b) y = 0 と b で
∂Hz
∂y= 0 (6)
が得られ、式 (4)から Hz に対して
∂2Hz
∂x2+
∂2Hz
∂y2+ k20Hz = 0 (7)
と得られる式を (6)の境界条件を入れて解くと
Hz = H0 cos(mπ
ax)· cos
(nπby)· ejωt−γz (8)
k20 =(mπ
a
)2
+(nπ
b
)2
(9)
となる。Hx, Hy も同様にして求められる。
ここで、m, n は整数で少なくとも一方は 0でない。普通、m = 1, 2, · · ·, n = 0, 1, 2, · · · とする。このモード (mode=振動姿態)の波を TEmn 波と呼ぶ。
A.2.2 TM波 (transverse-magnetic wave又は E波) · · · Hz = 0 の波の場合
この解は
Ez = E0 sin(mπ
ax)· sin
(nπby)· ejωt−γz (10)
となり、他の成分も同様に求められ、k0 は式 (9)と同じである。この波は TMmn 波と呼ぶ。
6
A.3 遮断周波数, 遮断波長
導波管についての減衰定数 α = 0 (損失がない)とし、k2 = ω2ϵµ とおくと、式 (5)は
k20 = (jβ)2 + k2 又は β2 = k2 − k20 (11)
と表される。また、波の位相速度 vp は vp =dz
dt=
ω
βの関係があるから、波が z の正方向へ伝播
する (vp > 0)ためには β が実数であれば良い。この場合は式 (11) より
k2 − k20 > 0
の関係が得られる。
k2 = ω2ϵµ = k20 の時の周波数を fc とすると ωc = 2πfc を用いて
ωc√ϵµ =
√(mπ
a
)2
+(nπ
b
)2
(12)
から
fc =1
2π√ϵµ
√(mπ
a
)2
+(nπ
b
)2
(13)
が得られる。この fc のことを遮断周波数 (cutoff frequency)という。
また、k = ω√ϵµ において ω = 2πf ,
√ϵµ =
1
fλ(λ は波長)を用いると、k =
2π
λとなるから、
k = k0 のときの波長を λc とすれば
2π
λc=
√(mπ
a
)2
+(nπ
b
)2
(14)
より
λc =2√(m
a
)2
+(nb
)2(15)
となる。この λc を遮断波長 (cutoff wave length)という。k > k0 のときに波が伝播するが、k < k0
となる λc より長い波長の波は、導波管の中を伝播することができない。
A.4 管内波長
導波管の管軸方向の波長を λg とするとき、λg のことを管内波長という。式 (11)
β2 = k2 − k20
において、β =2π
λg, k =
2π
λおよび k0 =
2π
λcとおけるので、
(2π
λg
)2
=
(2π
λ
)2
−(2π
λc
)2
(16)
となるから
λg =λ√
1−(
λ
λc
)2(17)
となる。λ を自由空間波長 (free space wave length)という。導波管を波が伝播するには λ < λc に
なることが必要であるから、式 (17)より λg > λ が成り立つ。すなわち管内波長は常に自由空間
波長より大きい。
7