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ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。 特別号 北海道版 これからの病棟業務はいかにあるべきか ~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~ 座談会 札幌医科大学附属病院 薬剤部長 宮本 先生 市立札幌病院 薬剤部長 岩井 新治 先生 札幌南三条病院 薬剤部長 佐藤 秀紀 先生 手稲渓仁会病院 薬剤部長 本郷 文教 先生 [司会]

これからの病棟業務は - medical.mt-pharma.co.jp · ファーマスコープは 病院、保険薬局で輝く薬剤師 の ... に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フ

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Page 1: これからの病棟業務は - medical.mt-pharma.co.jp · ファーマスコープは 病院、保険薬局で輝く薬剤師 の ... に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フ

発行月 : 平成24年8月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 北海道版

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

札幌医科大学附属病院 薬剤部長宮本  篤 先生市立札幌病院 薬剤部長岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長佐藤 秀紀 先生手稲渓仁会病院 薬剤部長本郷 文教 先生

[司会]

札幌医科大学附属病院 薬剤部長

みや もと     あつし

宮本  篤 先生(司会)

手稲渓仁会病院 薬剤部長

ほん ごう  ふみ のり

本郷 文教 先生市立札幌病院 薬剤部長

いわ  い   しん  じ

岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長

さ  とう  ひで き

佐藤 秀紀 先生

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■薬剤部の方針と病棟業務の現状宮本 最初に、各施設における現状の業務体制および業務内容について、紹介していただきたいと思います。まず札幌医科大学附属病院の現状からお話しします。当院は、25診療科、938床の医科系大学附属の総合病院として、医療者の育成のほか、特定機能病院、高度救命救急センター、災害拠点病院など幅広い役割を担っています。現在、薬剤師は35人。25診療科のうち15診療科で担当薬剤師4人がフルタイムで薬剤管理指導業務を実施しています。薬剤管理指導料算定件数は月平均で約350件です。実は、当院では2006年に特定機能病院等に対して行われる特定共同指導があり、薬剤管理指導料の算定について業務記録や投薬歴の把握に一部不十分な例があったため、厚生労働省より指導を受けました。それを境に、より中身の濃い薬剤管理指導を徹底した結果、算定件数が月平均400件程度から減少した経緯があります。当院が提供する医療は幅広く専門的な領域におよぶことから、薬剤部として

もオールラウンドに対応できる総合力と専門性に基づく業務展開をめざしています。 それでは、次に4月から病棟薬剤業務実施加算の算定を開始されています札幌南三条病院の佐藤先生から現状の業務体制・業務内容の紹介をお願いします。

佐藤 札幌南三条病院は99床の中小病院です。呼吸器疾患、特に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フロアのうち3フロア75床が呼吸器内科で、24床が呼吸器外科です。「病棟薬剤業務実施加算」の新設を見越して2011年4月から病棟常駐化を試験的に開始し、7月に全病棟に拡大しました。薬剤師7人のうち、私を除く6人がシフト制で病棟業務を担当しています。1日の業務体制は、4人が病棟業務を、3人が調剤、無菌調製、手術に用いる注射薬のセット出しなどを行います。薬剤管理指導料の算定件数は月平均440件ですが、がん治療に特化していることから、86%はハイリスク薬です。抗がん剤治療のために定期的に入院

する患者さんが多く、その都度入院病棟が変わります。そこで、どの病棟に入院しても同じ薬剤師が担当する「患者担当制」を従来から採用していました。常駐化により「病棟担当制」を導入してからも、服薬指導は担当する患者さんの病棟まで出向いて行っています。この点が当院の特徴だと思います。

宮本 手稲渓仁会病院も4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。どのような体制で実現したのか、本郷先生ご紹介をお願いします。

本郷 当院はドクターヘリの基地病院として急性期総合医療を担うとともに地域がん診療連携拠点病院としてがん治療にも積極的に取り組んでいます。診療科は33科、病棟は臓器別編成で13の一般病棟と救命病棟、ICU、SCU等の計550床で、平均在院日数は11.1日、病床稼働率95%です。薬剤師はこの春、10人採用して41人になりました。1987年の開院時、当時の院長から「専門分野は専門職が行う。薬に関することは薬剤師が行う」という方針が院内で示されたため、開院時から注射剤は処方せんに基づき薬剤部で混注して供給していましたし、開院2年目から順次、病棟に薬剤師を配置して入院患者さんのケアにあたってきました。今回の病棟薬剤業務実施加算の算定にあたっては、正常分娩が大多数を占める産科病棟で、薬剤師がどのような業務に取り組み週20時間を確保するかという問題のほか、病棟業務日誌を新たに作成しなければなりませんでしたが、他の病棟では従来通りの業務で対応できています。

宮本 次に市立札幌病院の現状の業務体制・業務内容について岩井先生、ご紹介をお願いします。

岩井 市立札幌病院の病床数は810床、薬剤師は32人です。薬剤管理指導業務は病棟での臨床薬剤業務であるというコンセプトのもと、1993年に循環器内科から病棟業務を開始し、徐々に対象病棟を拡大してきました。現在は17病棟のうち8病棟で薬剤管理指導業務を実施し、算定件数は月平均800件を超えています。注射薬の個人別セットのほか医師回診やカンファレンスにも参加しています。診療科も多いので、せめてフロア対応できるように薬剤師の配置を考えていますが、2つの診療科を持つこと自体も非常に難しい状況で、人員の入れ替わりなどもあり、ここ数年は病棟の薬剤業務をなかなか拡大できない状況でした。しかし、病棟薬剤業務実施加算を算定してほしいという病院経営側の意向は強いものがあります。以前の100点業務(1988年に新設された入院調剤技術基本料)が20年かかっても全病棟に広がらないことからも分かるように、当院のような診療科の多い病院では難しいという現実もありますので、これからどう進めていこうかと計画を立てているところです。

■病棟業務でめざすもの宮本 それでは次に病棟業務の実際、また、めざす方向性について先生方のお考えをお聞かせ下さい。

佐藤 先ほど、当院が担当制を導入して薬剤師を常駐化したと話しましたが、病棟常駐化をめざした最大の目的は、処方提案やモニタリングを行うためです。余力があれば配薬や与薬準備などをしようと考えていました。現在、実施できているのは処方提案、処方意図の把握、医療スタッフへの助言・相談応需などです。処方提案のためにも医師と看護師の申し送りに同席し、病棟担当薬剤師が収集した情報を患者担当薬剤師に伝達しています。看護師からは、医師への処方依頼の負担が軽減した、薬剤に関する質問にすぐ答

えてもらえるなど高く評価されています。理想は、処方設計や処方介入がどの薬剤師も当たり前にできるようになって医師からの信頼を獲得することです。とにかく医師と話すようにと、スタッフには指導しています。

本郷 私自身20年近く病棟薬剤師をやってきましたので、その経験からですが、医師たちは病気の診断や治療のアウトカムはカンファレンスで詳細な検討を行い、治療計画を立てますが、具体的な薬剤名や投与量は主治医に任されることが多いようです。薬剤師は医師と異なる視点で薬物療法を評価できなければ、その医療チームにおける存在意義が少ないと思います。そのような考えで薬剤師は薬物療法の安全性と経済性の視点からも薬物療法を評価し、医師に処方提案するように指導しています。当院は臨床研修指定病院ですから、60名近い初期研修医をはじめ経験の少ない医師が多くいますが、病棟薬剤師が処方設計時に患者さんの状態を考慮した投与量や併用薬を指導する機会も多くあります。そのうちの幾つかはプレアボイド報告としてまとめていますが、昨年度までに2250件に達しています。また病棟薬剤師は病棟スタッフとして働くと同時に薬剤部スタッフとしての役割、業務もあります。担当病棟の常備薬の補充や薬品管理室と連携して棚卸しや有効期限のチェックも行います。また薬事委員会に提出する資料作成時には医薬品情報室の薬剤師と共に医師らと協議するなど多岐にわたる業務を担っています。

岩井 病棟業務でめざすのは、薬物療法の質的向上、患者サービスの向上、処方提案などによるチーム医療の充実、そしてさらなる薬剤師業務の拡大です。薬にかかわる全てのリスクマネジメントに貢献する業務を行うとともに、医師、看護師、栄養士などと協働して患者さんのQOL向上に貢献したいと考えています。当院では病棟業務の効率化のために、電子カルテ導入を機に無線LANによる服薬指導システムを構築しました。ノートパソコンで医師の服薬指導依頼を確認し、担当患者さんを選択すると自動的に患者情報を取り込むことができます。薬剤部に戻らなくてもどこででも確認や記録ができ、指導記録も電子カルテに反映されるので他職種との情報共有もできています。

■病棟業務のさらなる拡充のための課題宮本 次に、病棟業務をさらに拡充するための課題について、議論したいと思います。

岩井 1日4時間、病棟で活動するためには、薬剤師の居場所が必要となります。当院は病棟にスペースがありません。このため、苦肉の策として一人に一台可動式ワゴンを用意し、立ったままでベッドサイドやナースステーションでパソコンの操作ができるようにしています。病棟での居場所は早期に確保したいと考えています。

宮本 今までの薬剤師業務のハンディは、他職種から見えないところで仕事をしていたことにあるのではないでしょうか。当院でも設計段階では薬剤師の病棟薬剤業務を想定していなかったため、病棟に混注するスペースがなく、薬剤部の中で作業をしてデリバリーしています。人員配置も必要ですが、まず病棟に常にいるという環境を作ること、それが病棟業務を推進するための鉄則だと思います。札幌南三条病院ではどのような状況でしょうか。

佐藤 以前は服薬指導記録の記入、持参薬の確認、オーダ入力は薬局に戻ってやらざるを得ない状況でしたが、幸運なことに病棟に薬剤師専用スペースを確保することができました。パソコンやラベルプリンターもあり、隣にはクラークもいて情報共有できる環境になっており、ほとんどの業務を病棟で行っています。

本郷 当院は病棟薬剤師を配置して24年になります。病棟には薬剤師用の電子カルテ端末や薬剤師が使用する書藉類を置くスペースがあります。しかし薬剤師の専用スペースでのみ仕事をしていると他のスタッフに背中を向けてしまうことになりかねません。持参薬の整理や定期処方の配薬時にはそれなりの占有スペースが必要ですが、病棟スタッフの一員として働く際にはあまり自分の居場所にこだわる必要もないように思います。

岩井 薬剤師が病棟にいることは大事ですね。情報収集もできますし、信頼関係もそこで生まれます。経験の少ない薬剤師の場合は、いつ医師から質問されるかわかりませんから、精神的にもきつい状況となりますが、それを乗り越えることで成長できると思います。

宮本 次に、薬剤師の専門性と病棟業務、チーム医療の関係について伺いたいと思います。当院には認定・専門薬剤師として資格を持っている薬剤師が10人程いますが、例えばスポーツファーマシストなどの個々の専門性を尊重しながらいかに病棟業務と絡めて配置していくのか。管理する立場としては、今後配置やローテーションが難しくなると頭を悩ませています。病棟業務がルーチン化されると、専門とか認定とかをどのように活かしていくか見えない状況ですが、その辺はどのように考えていますか。

本郷 当院でも専門や認定の取得に取り組むように言っていますので、ここ数年で認定薬剤師が増えてきました。当院では病棟薬剤師の担当病棟は数年間固定していますので、薬剤師は担当病棟の診療科に関連した資格取得をめざしています。ただし将来、認定薬剤師が増えた時、専門性に応じた病棟に配置できるかどうか、悩ましいところです。がん専門薬剤師をがん患者のいない循環器科病棟に配置しても、知識やスキルを発揮できませんし、本人のモチベーションも下がります。一方で循環器科関連の認定薬剤師制度はありませんから、循環器科を担当する薬剤師は認定薬剤師の取得という目標をもてないのも現実です。またICTやNSTのように診療科、病棟をまたがって活動するチームに所属する薬剤師もいますので、そちらとの人員配置のバランスも考える必要もあり、今後の課題です。

岩井 薬剤師には認定・専門薬剤師の資格取得を推奨しており、病棟業務とも関連させています。しかし、中には1つの病棟を20年間担当している薬剤師がいます。糖尿病等の認定・専門薬剤師には、認定更新のためにも担当病棟を動かすことは難しい状況です。NSTなどチーム医療への参加も求められていますが、病棟業務の確立が優先されるとなると、現実問題としてローテーションすることは難しくなるのではないでしょうか。

■病棟薬剤業務の有用性検証にむけて宮本 今後、病棟業務の有用性についてエビデンスを提示するためにも、薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務をしっかり区分して検証する必要があります。日本病院薬剤師会の指針では、投薬前までが病棟薬剤業務、投薬後が薬剤管理指導業務に当たると説明していますが、その区分は現実的でしょうか。

本郷 保険点数が薬剤管理指導料と病棟薬剤業務実施加算という2つに分かれてしまっている現状で、それぞれを区分して有用性を検証するといった考え方がでるのは仕方がないと理解しています。しかし薬物治療は一連の流れですから、それを現場で分けることは非常に難しいと思います。このような判断基準では副作用のモニタリングは投薬後の業務ですから薬剤管理指導業務ですが、副作用に対する措置、たとえば抗がん剤に対する制吐剤の処方提案などは投与前ですから病棟薬剤業務となります。どこからどこまでが薬剤管理指導業務で、どの時点から病棟薬剤業務となるか、このような判断をすべての患者さんに一人ずつ毎日行な

っていく事は、現場で相当な混乱が生じます。ただ投薬前の業務としての意識付けにはプレアボイドの未然回避報告のような業務を行うよう指導することが有効ではないでしょうか。

宮本 次に、各病棟における業務内容と要した時間を記録する「業務日誌」の作成が必要ですが、これについてはどう対応されていますか。

佐藤 当院では汎用のデータベースソフトで、業務日誌を作成しています。何時から何時にどの業務を実施したかをボタンの選択で簡単に記録でき、1週間の集計も自動的にできます。患者さんごとの日報について、どこまで具体的に記録を残すかの課題はありますが、最初はあまり業務内容を規定せずに、何でもやってもらった方がいいと思っています。自分自身で病棟での役割を探していく中で、業務の効率化やスキルアップに取り組めるようになります。

本郷 必要とされる業務日誌のようにどのような業務をいつからいつまで行ったかという区別は現場では明確にできません。あらゆる業務は並行して行われています。とは言っても算定要件をクリアしなければならず苦労しています。現状では厚生労働省から示されたものと同様の書式に記載していますが、2週間でファイル1冊分となります。これを5年間保管するのは大変です。現在、効率化と保管の面から電子カルテネットワーク上で利用できるプログラムを検討しています。

■評価される病棟業務をめざして宮本 どの施設も薬剤業務に対する確固たる信念のもと、施設の規模や機能に応じてよく考えられた仕組みを作られていることがよく分かりました。最後に、今後の病棟業務の方向性と展望をお聞かせください。

岩井 全病棟での実施が算定要件のため、当院が算定するためには、病棟業務を行っていない病棟にも活動を広げる必要があります。単純に1人1病棟としても6~7人が不足していることになりますが、人がいないから無理だとは言えません。薬剤管理指導業務を実施する対象を早急に増やし、他のスタッフや病院経営側の理解を得ながら今後の方向性を探っていこうと考えています。

宮本 当院も同じです。体制が整う前に見切り発車はしない。まずは試行的にやってみようという方針です。薬剤管理指導業務だけでもいいので、とにかく病棟に入っていく環境を作っていこうと考えています。私の理想は、専門性の高い薬剤師を各診療科に専従で配置して、医局の一員として医師と一緒に薬物療法に深く関わることです。今はまだ夢ですが、何とか実現したいと思っています。

佐藤 全病棟への常駐という第一段階の目標は達成しましたが、忙しい時間帯は皆同じなので、病棟業務が多忙な時は薬局に薬剤師が一時不在になること、また薬剤師が休んだ時の対応をどうするかなど、改善すべき点はまだまだあります。いまも毎週のようにミーティングをして業務内容を細かく見直し、全員で業務の標準化に取り組んでいるところです。現在は薬剤師が病棟にいることに対し、医師をはじめ他職種から非常に感謝されています。これを薬剤師への信頼に変えていくととも

に、病棟業務を確立することが今年1年間の目標です。

本郷 当院では20年以上前から1人1病棟の担当で病棟薬剤師業務を行なってきました。しかしこの間、病院の機能は変化し、平均在院日数は18日から11日と短縮し、DPCの導入により持参薬の活用機会が増え、管理には手間もかかります。また緊急性の高い措置を必要とする患者さんは年々増えています。そのような中、看護師は7:1看護に移行し増員され、医師数も約2倍となりました。病棟薬剤師だけが1人1病棟という体制を継続しているのですが完全にオーバーワークですし、当直明け等での不在時にもバックアップできる余裕はなく、配薬などを看護師に手伝ってもらうこともあります。経営側には薬剤師の増員がさらに必要なことは理解していただいているため、1病棟薬剤師2人として、より充実した病棟薬剤師業務を確立し、その責任を全うできる体制にしたいと考えています。私が病棟に行き始めた頃、一緒に仕事をしていた医師から、「責任のない仕事は面白くないし、やりがいもないよ」と言われたことが今も心に残っています。

宮本 私が危惧するのは、経営側の意向で準備不足のまま病棟業務を始めてしまう病院がないかということです。次回の診療報酬改定に向け、薬剤師の病棟業務について「調査・検証」が行われることを念頭に置きながら、情報収集をしっかりし確実に業務を実施すること、しっかり記録を残すことを徹底しないといけません。また、病棟業務にばかり傾注してしまって、調剤など他の業務で事故が起こることがないように、基本的な業務を担保しておく必要もありますね。

岩井 どう担保するかが薬剤部を運営する上で、喫緊の課題だと思います。それは例えば、薬剤師が処方せんを見て一から調剤することではないはずです。まずは薬剤部全体の業務体制と方針をしっかり確立する必要があります。

宮本 薬剤師が地道に取り組んできた活動が「病棟薬剤業務」として認知されたことにより、薬剤師への期待や評価はこれまで以上に高くなりました。その分、社会の見る目は厳しくなります。取り組むべき課題は山積していますが、常に検証を重ね、薬物療法の質向上に貢献する薬剤業務を確立していかなければなりません。今後とも情報交換をしながら、お互いに研鑽をしていきましょう。

 2012年度の診療報酬改定により「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬学6年制の第一期生が社会に巣立った年に、新たな薬剤師業務が動き出すことに感慨を覚えます。診療報酬における評価はもちろん重要ですが、実施加算の算定の有無にかかわらず、薬剤師は薬のスペシャリストとして、医療へのさらなる貢献をめざすことが責務と言えます。本日は、大学病院、公立病院、民間総合病院、そして専門病院と、規模も組織も異なる病院の薬剤部長にお集まりいただきました。このうち札幌南三条病院と手稲渓仁会病院は4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。それぞれの施設の現状を踏まえて忌憚なく話し合う中から、今後の病棟業務の方向性を見いだすことができればと思います。

座談会開催にあたって [司会] 札幌医科大学附属病院 薬剤部長 宮本  篤 先生

病棟薬剤業務の意義と目的(市立札幌病院)資料1 病棟業務の具体的内容 (手稲渓仁会病院)資料2病棟薬剤師業務日報 入力画面(札幌南三条病院)資料3

業務時間時間帯を記録

実施薬剤師名を選択

実施時間合計が自動的に算出される

業務内容7つの項目から該当する

業務を選択

※本郷先生提供資料を元に作成

持参薬の内容把握(他院処方、OTCを含む)健康食品等摂取の有無の確認持参薬における不適切な処方の有無の確認休薬を要する薬剤(術前の抗血小板薬など)の有無の確認過去の副作用・アレルギー歴の確認

服薬指導(定期薬等の配薬を含む)

薬剤の効果・副作用の確認

退院時処方の有無並びに処方内容の確認(処方内容の薬学的チェック、次回外来受診までの残数不足の有無等)入院中の処方変更について患者へ情報提供入院中に副作用が発現した場合は副作用カードを提供必要に応じ、かかりつけ薬局へ入院中の薬物療法に関して情報提供(薬薬連携)

他科処方を含め内服・外用・注射薬の全てを把握

臨床検査値モニタリング

禁忌・相互作用・同効薬重複の有無の確認投与経路・投与速度の確認体重、体表面積、肝・腎機能に応じた用法・用量の検討薬物血中濃度に基づいた処方設計検査値異常に現れる副作用の早期発見・対処

より適切な薬剤や投与量への変更を提言

副作用モニタリングに必要な検査の依頼

過去の副作用・アレルギー歴の確認

肝・腎機能等の確認

治療方針の確認

医師・看護師への持参薬情報提供

持参薬の入院後継続あるいは変更の確認

入院時

入院中

退院時

カルテ等による患者情報の収集患者面談 他のスタッフとの関わり①薬物療法の質的向上・臨床に直結した医薬品情報のサービス・処方箋による注射管理  ・薬歴管理  ・服薬指導

②患者サービスの向上・患者個々の理解力やニーズに対応した テーラーメイドの情報提供

③チーム医療の充実・各職種が得た情報のフィードバック・共有化  →患者利益の向上・医師、看護師、その他の職種が専門性を活かした業務に専念

④薬剤業務拡大・薬が関わる全てのリスクマネジメントへの貢献

薬物療法における医師と薬剤師の協働(イメージ)資料:厚生労働省保険局医療課「平成24年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要」より

医師等と協働して行う薬物療法業務

薬剤管理指導業務

資料4

医師

(持参薬の確認・評価)

医師

医師

医師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

処方へのフィードバック

的確な診断

最適な処方

調剤

服薬指導正確な使用

効果と副作用の評価

薬効・副作用モニタリング結果の伝達

・処方の提案・同一処方継続可否の提案

薬物療法プロトコルについて提案、協働で作成、協働で進行管理

医薬品適正使用サイクル

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発行月 : 平成24年8月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 北海道版

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これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

札幌医科大学附属病院 薬剤部長宮本  篤 先生市立札幌病院 薬剤部長岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長佐藤 秀紀 先生手稲渓仁会病院 薬剤部長本郷 文教 先生

[司会]

札幌医科大学附属病院 薬剤部長

みや もと     あつし

宮本  篤 先生(司会)

手稲渓仁会病院 薬剤部長

ほん ごう  ふみ のり

本郷 文教 先生市立札幌病院 薬剤部長

いわ  い   しん  じ

岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長

さ  とう  ひで き

佐藤 秀紀 先生

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■薬剤部の方針と病棟業務の現状宮本 最初に、各施設における現状の業務体制および業務内容について、紹介していただきたいと思います。まず札幌医科大学附属病院の現状からお話しします。当院は、25診療科、938床の医科系大学附属の総合病院として、医療者の育成のほか、特定機能病院、高度救命救急センター、災害拠点病院など幅広い役割を担っています。現在、薬剤師は35人。25診療科のうち15診療科で担当薬剤師4人がフルタイムで薬剤管理指導業務を実施しています。薬剤管理指導料算定件数は月平均で約350件です。実は、当院では2006年に特定機能病院等に対して行われる特定共同指導があり、薬剤管理指導料の算定について業務記録や投薬歴の把握に一部不十分な例があったため、厚生労働省より指導を受けました。それを境に、より中身の濃い薬剤管理指導を徹底した結果、算定件数が月平均400件程度から減少した経緯があります。当院が提供する医療は幅広く専門的な領域におよぶことから、薬剤部として

もオールラウンドに対応できる総合力と専門性に基づく業務展開をめざしています。 それでは、次に4月から病棟薬剤業務実施加算の算定を開始されています札幌南三条病院の佐藤先生から現状の業務体制・業務内容の紹介をお願いします。

佐藤 札幌南三条病院は99床の中小病院です。呼吸器疾患、特に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フロアのうち3フロア75床が呼吸器内科で、24床が呼吸器外科です。「病棟薬剤業務実施加算」の新設を見越して2011年4月から病棟常駐化を試験的に開始し、7月に全病棟に拡大しました。薬剤師7人のうち、私を除く6人がシフト制で病棟業務を担当しています。1日の業務体制は、4人が病棟業務を、3人が調剤、無菌調製、手術に用いる注射薬のセット出しなどを行います。薬剤管理指導料の算定件数は月平均440件ですが、がん治療に特化していることから、86%はハイリスク薬です。抗がん剤治療のために定期的に入院

する患者さんが多く、その都度入院病棟が変わります。そこで、どの病棟に入院しても同じ薬剤師が担当する「患者担当制」を従来から採用していました。常駐化により「病棟担当制」を導入してからも、服薬指導は担当する患者さんの病棟まで出向いて行っています。この点が当院の特徴だと思います。

宮本 手稲渓仁会病院も4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。どのような体制で実現したのか、本郷先生ご紹介をお願いします。

本郷 当院はドクターヘリの基地病院として急性期総合医療を担うとともに地域がん診療連携拠点病院としてがん治療にも積極的に取り組んでいます。診療科は33科、病棟は臓器別編成で13の一般病棟と救命病棟、ICU、SCU等の計550床で、平均在院日数は11.1日、病床稼働率95%です。薬剤師はこの春、10人採用して41人になりました。1987年の開院時、当時の院長から「専門分野は専門職が行う。薬に関することは薬剤師が行う」という方針が院内で示されたため、開院時から注射剤は処方せんに基づき薬剤部で混注して供給していましたし、開院2年目から順次、病棟に薬剤師を配置して入院患者さんのケアにあたってきました。今回の病棟薬剤業務実施加算の算定にあたっては、正常分娩が大多数を占める産科病棟で、薬剤師がどのような業務に取り組み週20時間を確保するかという問題のほか、病棟業務日誌を新たに作成しなければなりませんでしたが、他の病棟では従来通りの業務で対応できています。

宮本 次に市立札幌病院の現状の業務体制・業務内容について岩井先生、ご紹介をお願いします。

岩井 市立札幌病院の病床数は810床、薬剤師は32人です。薬剤管理指導業務は病棟での臨床薬剤業務であるというコンセプトのもと、1993年に循環器内科から病棟業務を開始し、徐々に対象病棟を拡大してきました。現在は17病棟のうち8病棟で薬剤管理指導業務を実施し、算定件数は月平均800件を超えています。注射薬の個人別セットのほか医師回診やカンファレンスにも参加しています。診療科も多いので、せめてフロア対応できるように薬剤師の配置を考えていますが、2つの診療科を持つこと自体も非常に難しい状況で、人員の入れ替わりなどもあり、ここ数年は病棟の薬剤業務をなかなか拡大できない状況でした。しかし、病棟薬剤業務実施加算を算定してほしいという病院経営側の意向は強いものがあります。以前の100点業務(1988年に新設された入院調剤技術基本料)が20年かかっても全病棟に広がらないことからも分かるように、当院のような診療科の多い病院では難しいという現実もありますので、これからどう進めていこうかと計画を立てているところです。

■病棟業務でめざすもの宮本 それでは次に病棟業務の実際、また、めざす方向性について先生方のお考えをお聞かせ下さい。

佐藤 先ほど、当院が担当制を導入して薬剤師を常駐化したと話しましたが、病棟常駐化をめざした最大の目的は、処方提案やモニタリングを行うためです。余力があれば配薬や与薬準備などをしようと考えていました。現在、実施できているのは処方提案、処方意図の把握、医療スタッフへの助言・相談応需などです。処方提案のためにも医師と看護師の申し送りに同席し、病棟担当薬剤師が収集した情報を患者担当薬剤師に伝達しています。看護師からは、医師への処方依頼の負担が軽減した、薬剤に関する質問にすぐ答

えてもらえるなど高く評価されています。理想は、処方設計や処方介入がどの薬剤師も当たり前にできるようになって医師からの信頼を獲得することです。とにかく医師と話すようにと、スタッフには指導しています。

本郷 私自身20年近く病棟薬剤師をやってきましたので、その経験からですが、医師たちは病気の診断や治療のアウトカムはカンファレンスで詳細な検討を行い、治療計画を立てますが、具体的な薬剤名や投与量は主治医に任されることが多いようです。薬剤師は医師と異なる視点で薬物療法を評価できなければ、その医療チームにおける存在意義が少ないと思います。そのような考えで薬剤師は薬物療法の安全性と経済性の視点からも薬物療法を評価し、医師に処方提案するように指導しています。当院は臨床研修指定病院ですから、60名近い初期研修医をはじめ経験の少ない医師が多くいますが、病棟薬剤師が処方設計時に患者さんの状態を考慮した投与量や併用薬を指導する機会も多くあります。そのうちの幾つかはプレアボイド報告としてまとめていますが、昨年度までに2250件に達しています。また病棟薬剤師は病棟スタッフとして働くと同時に薬剤部スタッフとしての役割、業務もあります。担当病棟の常備薬の補充や薬品管理室と連携して棚卸しや有効期限のチェックも行います。また薬事委員会に提出する資料作成時には医薬品情報室の薬剤師と共に医師らと協議するなど多岐にわたる業務を担っています。

岩井 病棟業務でめざすのは、薬物療法の質的向上、患者サービスの向上、処方提案などによるチーム医療の充実、そしてさらなる薬剤師業務の拡大です。薬にかかわる全てのリスクマネジメントに貢献する業務を行うとともに、医師、看護師、栄養士などと協働して患者さんのQOL向上に貢献したいと考えています。当院では病棟業務の効率化のために、電子カルテ導入を機に無線LANによる服薬指導システムを構築しました。ノートパソコンで医師の服薬指導依頼を確認し、担当患者さんを選択すると自動的に患者情報を取り込むことができます。薬剤部に戻らなくてもどこででも確認や記録ができ、指導記録も電子カルテに反映されるので他職種との情報共有もできています。

■病棟業務のさらなる拡充のための課題宮本 次に、病棟業務をさらに拡充するための課題について、議論したいと思います。

岩井 1日4時間、病棟で活動するためには、薬剤師の居場所が必要となります。当院は病棟にスペースがありません。このため、苦肉の策として一人に一台可動式ワゴンを用意し、立ったままでベッドサイドやナースステーションでパソコンの操作ができるようにしています。病棟での居場所は早期に確保したいと考えています。

宮本 今までの薬剤師業務のハンディは、他職種から見えないところで仕事をしていたことにあるのではないでしょうか。当院でも設計段階では薬剤師の病棟薬剤業務を想定していなかったため、病棟に混注するスペースがなく、薬剤部の中で作業をしてデリバリーしています。人員配置も必要ですが、まず病棟に常にいるという環境を作ること、それが病棟業務を推進するための鉄則だと思います。札幌南三条病院ではどのような状況でしょうか。

佐藤 以前は服薬指導記録の記入、持参薬の確認、オーダ入力は薬局に戻ってやらざるを得ない状況でしたが、幸運なことに病棟に薬剤師専用スペースを確保することができました。パソコンやラベルプリンターもあり、隣にはクラークもいて情報共有できる環境になっており、ほとんどの業務を病棟で行っています。

本郷 当院は病棟薬剤師を配置して24年になります。病棟には薬剤師用の電子カルテ端末や薬剤師が使用する書藉類を置くスペースがあります。しかし薬剤師の専用スペースでのみ仕事をしていると他のスタッフに背中を向けてしまうことになりかねません。持参薬の整理や定期処方の配薬時にはそれなりの占有スペースが必要ですが、病棟スタッフの一員として働く際にはあまり自分の居場所にこだわる必要もないように思います。

岩井 薬剤師が病棟にいることは大事ですね。情報収集もできますし、信頼関係もそこで生まれます。経験の少ない薬剤師の場合は、いつ医師から質問されるかわかりませんから、精神的にもきつい状況となりますが、それを乗り越えることで成長できると思います。

宮本 次に、薬剤師の専門性と病棟業務、チーム医療の関係について伺いたいと思います。当院には認定・専門薬剤師として資格を持っている薬剤師が10人程いますが、例えばスポーツファーマシストなどの個々の専門性を尊重しながらいかに病棟業務と絡めて配置していくのか。管理する立場としては、今後配置やローテーションが難しくなると頭を悩ませています。病棟業務がルーチン化されると、専門とか認定とかをどのように活かしていくか見えない状況ですが、その辺はどのように考えていますか。

本郷 当院でも専門や認定の取得に取り組むように言っていますので、ここ数年で認定薬剤師が増えてきました。当院では病棟薬剤師の担当病棟は数年間固定していますので、薬剤師は担当病棟の診療科に関連した資格取得をめざしています。ただし将来、認定薬剤師が増えた時、専門性に応じた病棟に配置できるかどうか、悩ましいところです。がん専門薬剤師をがん患者のいない循環器科病棟に配置しても、知識やスキルを発揮できませんし、本人のモチベーションも下がります。一方で循環器科関連の認定薬剤師制度はありませんから、循環器科を担当する薬剤師は認定薬剤師の取得という目標をもてないのも現実です。またICTやNSTのように診療科、病棟をまたがって活動するチームに所属する薬剤師もいますので、そちらとの人員配置のバランスも考える必要もあり、今後の課題です。

岩井 薬剤師には認定・専門薬剤師の資格取得を推奨しており、病棟業務とも関連させています。しかし、中には1つの病棟を20年間担当している薬剤師がいます。糖尿病等の認定・専門薬剤師には、認定更新のためにも担当病棟を動かすことは難しい状況です。NSTなどチーム医療への参加も求められていますが、病棟業務の確立が優先されるとなると、現実問題としてローテーションすることは難しくなるのではないでしょうか。

■病棟薬剤業務の有用性検証にむけて宮本 今後、病棟業務の有用性についてエビデンスを提示するためにも、薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務をしっかり区分して検証する必要があります。日本病院薬剤師会の指針では、投薬前までが病棟薬剤業務、投薬後が薬剤管理指導業務に当たると説明していますが、その区分は現実的でしょうか。

本郷 保険点数が薬剤管理指導料と病棟薬剤業務実施加算という2つに分かれてしまっている現状で、それぞれを区分して有用性を検証するといった考え方がでるのは仕方がないと理解しています。しかし薬物治療は一連の流れですから、それを現場で分けることは非常に難しいと思います。このような判断基準では副作用のモニタリングは投薬後の業務ですから薬剤管理指導業務ですが、副作用に対する措置、たとえば抗がん剤に対する制吐剤の処方提案などは投与前ですから病棟薬剤業務となります。どこからどこまでが薬剤管理指導業務で、どの時点から病棟薬剤業務となるか、このような判断をすべての患者さんに一人ずつ毎日行な

っていく事は、現場で相当な混乱が生じます。ただ投薬前の業務としての意識付けにはプレアボイドの未然回避報告のような業務を行うよう指導することが有効ではないでしょうか。

宮本 次に、各病棟における業務内容と要した時間を記録する「業務日誌」の作成が必要ですが、これについてはどう対応されていますか。

佐藤 当院では汎用のデータベースソフトで、業務日誌を作成しています。何時から何時にどの業務を実施したかをボタンの選択で簡単に記録でき、1週間の集計も自動的にできます。患者さんごとの日報について、どこまで具体的に記録を残すかの課題はありますが、最初はあまり業務内容を規定せずに、何でもやってもらった方がいいと思っています。自分自身で病棟での役割を探していく中で、業務の効率化やスキルアップに取り組めるようになります。

本郷 必要とされる業務日誌のようにどのような業務をいつからいつまで行ったかという区別は現場では明確にできません。あらゆる業務は並行して行われています。とは言っても算定要件をクリアしなければならず苦労しています。現状では厚生労働省から示されたものと同様の書式に記載していますが、2週間でファイル1冊分となります。これを5年間保管するのは大変です。現在、効率化と保管の面から電子カルテネットワーク上で利用できるプログラムを検討しています。

■評価される病棟業務をめざして宮本 どの施設も薬剤業務に対する確固たる信念のもと、施設の規模や機能に応じてよく考えられた仕組みを作られていることがよく分かりました。最後に、今後の病棟業務の方向性と展望をお聞かせください。

岩井 全病棟での実施が算定要件のため、当院が算定するためには、病棟業務を行っていない病棟にも活動を広げる必要があります。単純に1人1病棟としても6~7人が不足していることになりますが、人がいないから無理だとは言えません。薬剤管理指導業務を実施する対象を早急に増やし、他のスタッフや病院経営側の理解を得ながら今後の方向性を探っていこうと考えています。

宮本 当院も同じです。体制が整う前に見切り発車はしない。まずは試行的にやってみようという方針です。薬剤管理指導業務だけでもいいので、とにかく病棟に入っていく環境を作っていこうと考えています。私の理想は、専門性の高い薬剤師を各診療科に専従で配置して、医局の一員として医師と一緒に薬物療法に深く関わることです。今はまだ夢ですが、何とか実現したいと思っています。

佐藤 全病棟への常駐という第一段階の目標は達成しましたが、忙しい時間帯は皆同じなので、病棟業務が多忙な時は薬局に薬剤師が一時不在になること、また薬剤師が休んだ時の対応をどうするかなど、改善すべき点はまだまだあります。いまも毎週のようにミーティングをして業務内容を細かく見直し、全員で業務の標準化に取り組んでいるところです。現在は薬剤師が病棟にいることに対し、医師をはじめ他職種から非常に感謝されています。これを薬剤師への信頼に変えていくととも

に、病棟業務を確立することが今年1年間の目標です。

本郷 当院では20年以上前から1人1病棟の担当で病棟薬剤師業務を行なってきました。しかしこの間、病院の機能は変化し、平均在院日数は18日から11日と短縮し、DPCの導入により持参薬の活用機会が増え、管理には手間もかかります。また緊急性の高い措置を必要とする患者さんは年々増えています。そのような中、看護師は7:1看護に移行し増員され、医師数も約2倍となりました。病棟薬剤師だけが1人1病棟という体制を継続しているのですが完全にオーバーワークですし、当直明け等での不在時にもバックアップできる余裕はなく、配薬などを看護師に手伝ってもらうこともあります。経営側には薬剤師の増員がさらに必要なことは理解していただいているため、1病棟薬剤師2人として、より充実した病棟薬剤師業務を確立し、その責任を全うできる体制にしたいと考えています。私が病棟に行き始めた頃、一緒に仕事をしていた医師から、「責任のない仕事は面白くないし、やりがいもないよ」と言われたことが今も心に残っています。

宮本 私が危惧するのは、経営側の意向で準備不足のまま病棟業務を始めてしまう病院がないかということです。次回の診療報酬改定に向け、薬剤師の病棟業務について「調査・検証」が行われることを念頭に置きながら、情報収集をしっかりし確実に業務を実施すること、しっかり記録を残すことを徹底しないといけません。また、病棟業務にばかり傾注してしまって、調剤など他の業務で事故が起こることがないように、基本的な業務を担保しておく必要もありますね。

岩井 どう担保するかが薬剤部を運営する上で、喫緊の課題だと思います。それは例えば、薬剤師が処方せんを見て一から調剤することではないはずです。まずは薬剤部全体の業務体制と方針をしっかり確立する必要があります。

宮本 薬剤師が地道に取り組んできた活動が「病棟薬剤業務」として認知されたことにより、薬剤師への期待や評価はこれまで以上に高くなりました。その分、社会の見る目は厳しくなります。取り組むべき課題は山積していますが、常に検証を重ね、薬物療法の質向上に貢献する薬剤業務を確立していかなければなりません。今後とも情報交換をしながら、お互いに研鑽をしていきましょう。

 2012年度の診療報酬改定により「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬学6年制の第一期生が社会に巣立った年に、新たな薬剤師業務が動き出すことに感慨を覚えます。診療報酬における評価はもちろん重要ですが、実施加算の算定の有無にかかわらず、薬剤師は薬のスペシャリストとして、医療へのさらなる貢献をめざすことが責務と言えます。本日は、大学病院、公立病院、民間総合病院、そして専門病院と、規模も組織も異なる病院の薬剤部長にお集まりいただきました。このうち札幌南三条病院と手稲渓仁会病院は4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。それぞれの施設の現状を踏まえて忌憚なく話し合う中から、今後の病棟業務の方向性を見いだすことができればと思います。

座談会開催にあたって [司会] 札幌医科大学附属病院 薬剤部長 宮本  篤 先生

病棟薬剤業務の意義と目的(市立札幌病院)資料1 病棟業務の具体的内容 (手稲渓仁会病院)資料2病棟薬剤師業務日報 入力画面(札幌南三条病院)資料3

業務時間時間帯を記録

実施薬剤師名を選択

実施時間合計が自動的に算出される

業務内容7つの項目から該当する

業務を選択

※本郷先生提供資料を元に作成

持参薬の内容把握(他院処方、OTCを含む)健康食品等摂取の有無の確認持参薬における不適切な処方の有無の確認休薬を要する薬剤(術前の抗血小板薬など)の有無の確認過去の副作用・アレルギー歴の確認

服薬指導(定期薬等の配薬を含む)

薬剤の効果・副作用の確認

退院時処方の有無並びに処方内容の確認(処方内容の薬学的チェック、次回外来受診までの残数不足の有無等)入院中の処方変更について患者へ情報提供入院中に副作用が発現した場合は副作用カードを提供必要に応じ、かかりつけ薬局へ入院中の薬物療法に関して情報提供(薬薬連携)

他科処方を含め内服・外用・注射薬の全てを把握

臨床検査値モニタリング

禁忌・相互作用・同効薬重複の有無の確認投与経路・投与速度の確認体重、体表面積、肝・腎機能に応じた用法・用量の検討薬物血中濃度に基づいた処方設計検査値異常に現れる副作用の早期発見・対処

より適切な薬剤や投与量への変更を提言

副作用モニタリングに必要な検査の依頼

過去の副作用・アレルギー歴の確認

肝・腎機能等の確認

治療方針の確認

医師・看護師への持参薬情報提供

持参薬の入院後継続あるいは変更の確認

入院時

入院中

退院時

カルテ等による患者情報の収集患者面談 他のスタッフとの関わり①薬物療法の質的向上・臨床に直結した医薬品情報のサービス・処方箋による注射管理  ・薬歴管理  ・服薬指導

②患者サービスの向上・患者個々の理解力やニーズに対応した テーラーメイドの情報提供

③チーム医療の充実・各職種が得た情報のフィードバック・共有化  →患者利益の向上・医師、看護師、その他の職種が専門性を活かした業務に専念

④薬剤業務拡大・薬が関わる全てのリスクマネジメントへの貢献

薬物療法における医師と薬剤師の協働(イメージ)資料:厚生労働省保険局医療課「平成24年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要」より

医師等と協働して行う薬物療法業務

薬剤管理指導業務

資料4

医師

(持参薬の確認・評価)

医師

医師

医師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

処方へのフィードバック

的確な診断

最適な処方

調剤

服薬指導正確な使用

効果と副作用の評価

薬効・副作用モニタリング結果の伝達

・処方の提案・同一処方継続可否の提案

薬物療法プロトコルについて提案、協働で作成、協働で進行管理

医薬品適正使用サイクル

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発行月 : 平成24年8月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 北海道版

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

札幌医科大学附属病院 薬剤部長宮本  篤 先生市立札幌病院 薬剤部長岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長佐藤 秀紀 先生手稲渓仁会病院 薬剤部長本郷 文教 先生

[司会]

札幌医科大学附属病院 薬剤部長

みや もと     あつし

宮本  篤 先生(司会)

手稲渓仁会病院 薬剤部長

ほん ごう  ふみ のり

本郷 文教 先生市立札幌病院 薬剤部長

いわ  い   しん  じ

岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長

さ  とう  ひで き

佐藤 秀紀 先生

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■薬剤部の方針と病棟業務の現状宮本 最初に、各施設における現状の業務体制および業務内容について、紹介していただきたいと思います。まず札幌医科大学附属病院の現状からお話しします。当院は、25診療科、938床の医科系大学附属の総合病院として、医療者の育成のほか、特定機能病院、高度救命救急センター、災害拠点病院など幅広い役割を担っています。現在、薬剤師は35人。25診療科のうち15診療科で担当薬剤師4人がフルタイムで薬剤管理指導業務を実施しています。薬剤管理指導料算定件数は月平均で約350件です。実は、当院では2006年に特定機能病院等に対して行われる特定共同指導があり、薬剤管理指導料の算定について業務記録や投薬歴の把握に一部不十分な例があったため、厚生労働省より指導を受けました。それを境に、より中身の濃い薬剤管理指導を徹底した結果、算定件数が月平均400件程度から減少した経緯があります。当院が提供する医療は幅広く専門的な領域におよぶことから、薬剤部として

もオールラウンドに対応できる総合力と専門性に基づく業務展開をめざしています。 それでは、次に4月から病棟薬剤業務実施加算の算定を開始されています札幌南三条病院の佐藤先生から現状の業務体制・業務内容の紹介をお願いします。

佐藤 札幌南三条病院は99床の中小病院です。呼吸器疾患、特に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フロアのうち3フロア75床が呼吸器内科で、24床が呼吸器外科です。「病棟薬剤業務実施加算」の新設を見越して2011年4月から病棟常駐化を試験的に開始し、7月に全病棟に拡大しました。薬剤師7人のうち、私を除く6人がシフト制で病棟業務を担当しています。1日の業務体制は、4人が病棟業務を、3人が調剤、無菌調製、手術に用いる注射薬のセット出しなどを行います。薬剤管理指導料の算定件数は月平均440件ですが、がん治療に特化していることから、86%はハイリスク薬です。抗がん剤治療のために定期的に入院

する患者さんが多く、その都度入院病棟が変わります。そこで、どの病棟に入院しても同じ薬剤師が担当する「患者担当制」を従来から採用していました。常駐化により「病棟担当制」を導入してからも、服薬指導は担当する患者さんの病棟まで出向いて行っています。この点が当院の特徴だと思います。

宮本 手稲渓仁会病院も4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。どのような体制で実現したのか、本郷先生ご紹介をお願いします。

本郷 当院はドクターヘリの基地病院として急性期総合医療を担うとともに地域がん診療連携拠点病院としてがん治療にも積極的に取り組んでいます。診療科は33科、病棟は臓器別編成で13の一般病棟と救命病棟、ICU、SCU等の計550床で、平均在院日数は11.1日、病床稼働率95%です。薬剤師はこの春、10人採用して41人になりました。1987年の開院時、当時の院長から「専門分野は専門職が行う。薬に関することは薬剤師が行う」という方針が院内で示されたため、開院時から注射剤は処方せんに基づき薬剤部で混注して供給していましたし、開院2年目から順次、病棟に薬剤師を配置して入院患者さんのケアにあたってきました。今回の病棟薬剤業務実施加算の算定にあたっては、正常分娩が大多数を占める産科病棟で、薬剤師がどのような業務に取り組み週20時間を確保するかという問題のほか、病棟業務日誌を新たに作成しなければなりませんでしたが、他の病棟では従来通りの業務で対応できています。

宮本 次に市立札幌病院の現状の業務体制・業務内容について岩井先生、ご紹介をお願いします。

岩井 市立札幌病院の病床数は810床、薬剤師は32人です。薬剤管理指導業務は病棟での臨床薬剤業務であるというコンセプトのもと、1993年に循環器内科から病棟業務を開始し、徐々に対象病棟を拡大してきました。現在は17病棟のうち8病棟で薬剤管理指導業務を実施し、算定件数は月平均800件を超えています。注射薬の個人別セットのほか医師回診やカンファレンスにも参加しています。診療科も多いので、せめてフロア対応できるように薬剤師の配置を考えていますが、2つの診療科を持つこと自体も非常に難しい状況で、人員の入れ替わりなどもあり、ここ数年は病棟の薬剤業務をなかなか拡大できない状況でした。しかし、病棟薬剤業務実施加算を算定してほしいという病院経営側の意向は強いものがあります。以前の100点業務(1988年に新設された入院調剤技術基本料)が20年かかっても全病棟に広がらないことからも分かるように、当院のような診療科の多い病院では難しいという現実もありますので、これからどう進めていこうかと計画を立てているところです。

■病棟業務でめざすもの宮本 それでは次に病棟業務の実際、また、めざす方向性について先生方のお考えをお聞かせ下さい。

佐藤 先ほど、当院が担当制を導入して薬剤師を常駐化したと話しましたが、病棟常駐化をめざした最大の目的は、処方提案やモニタリングを行うためです。余力があれば配薬や与薬準備などをしようと考えていました。現在、実施できているのは処方提案、処方意図の把握、医療スタッフへの助言・相談応需などです。処方提案のためにも医師と看護師の申し送りに同席し、病棟担当薬剤師が収集した情報を患者担当薬剤師に伝達しています。看護師からは、医師への処方依頼の負担が軽減した、薬剤に関する質問にすぐ答

えてもらえるなど高く評価されています。理想は、処方設計や処方介入がどの薬剤師も当たり前にできるようになって医師からの信頼を獲得することです。とにかく医師と話すようにと、スタッフには指導しています。

本郷 私自身20年近く病棟薬剤師をやってきましたので、その経験からですが、医師たちは病気の診断や治療のアウトカムはカンファレンスで詳細な検討を行い、治療計画を立てますが、具体的な薬剤名や投与量は主治医に任されることが多いようです。薬剤師は医師と異なる視点で薬物療法を評価できなければ、その医療チームにおける存在意義が少ないと思います。そのような考えで薬剤師は薬物療法の安全性と経済性の視点からも薬物療法を評価し、医師に処方提案するように指導しています。当院は臨床研修指定病院ですから、60名近い初期研修医をはじめ経験の少ない医師が多くいますが、病棟薬剤師が処方設計時に患者さんの状態を考慮した投与量や併用薬を指導する機会も多くあります。そのうちの幾つかはプレアボイド報告としてまとめていますが、昨年度までに2250件に達しています。また病棟薬剤師は病棟スタッフとして働くと同時に薬剤部スタッフとしての役割、業務もあります。担当病棟の常備薬の補充や薬品管理室と連携して棚卸しや有効期限のチェックも行います。また薬事委員会に提出する資料作成時には医薬品情報室の薬剤師と共に医師らと協議するなど多岐にわたる業務を担っています。

岩井 病棟業務でめざすのは、薬物療法の質的向上、患者サービスの向上、処方提案などによるチーム医療の充実、そしてさらなる薬剤師業務の拡大です。薬にかかわる全てのリスクマネジメントに貢献する業務を行うとともに、医師、看護師、栄養士などと協働して患者さんのQOL向上に貢献したいと考えています。当院では病棟業務の効率化のために、電子カルテ導入を機に無線LANによる服薬指導システムを構築しました。ノートパソコンで医師の服薬指導依頼を確認し、担当患者さんを選択すると自動的に患者情報を取り込むことができます。薬剤部に戻らなくてもどこででも確認や記録ができ、指導記録も電子カルテに反映されるので他職種との情報共有もできています。

■病棟業務のさらなる拡充のための課題宮本 次に、病棟業務をさらに拡充するための課題について、議論したいと思います。

岩井 1日4時間、病棟で活動するためには、薬剤師の居場所が必要となります。当院は病棟にスペースがありません。このため、苦肉の策として一人に一台可動式ワゴンを用意し、立ったままでベッドサイドやナースステーションでパソコンの操作ができるようにしています。病棟での居場所は早期に確保したいと考えています。

宮本 今までの薬剤師業務のハンディは、他職種から見えないところで仕事をしていたことにあるのではないでしょうか。当院でも設計段階では薬剤師の病棟薬剤業務を想定していなかったため、病棟に混注するスペースがなく、薬剤部の中で作業をしてデリバリーしています。人員配置も必要ですが、まず病棟に常にいるという環境を作ること、それが病棟業務を推進するための鉄則だと思います。札幌南三条病院ではどのような状況でしょうか。

佐藤 以前は服薬指導記録の記入、持参薬の確認、オーダ入力は薬局に戻ってやらざるを得ない状況でしたが、幸運なことに病棟に薬剤師専用スペースを確保することができました。パソコンやラベルプリンターもあり、隣にはクラークもいて情報共有できる環境になっており、ほとんどの業務を病棟で行っています。

本郷 当院は病棟薬剤師を配置して24年になります。病棟には薬剤師用の電子カルテ端末や薬剤師が使用する書藉類を置くスペースがあります。しかし薬剤師の専用スペースでのみ仕事をしていると他のスタッフに背中を向けてしまうことになりかねません。持参薬の整理や定期処方の配薬時にはそれなりの占有スペースが必要ですが、病棟スタッフの一員として働く際にはあまり自分の居場所にこだわる必要もないように思います。

岩井 薬剤師が病棟にいることは大事ですね。情報収集もできますし、信頼関係もそこで生まれます。経験の少ない薬剤師の場合は、いつ医師から質問されるかわかりませんから、精神的にもきつい状況となりますが、それを乗り越えることで成長できると思います。

宮本 次に、薬剤師の専門性と病棟業務、チーム医療の関係について伺いたいと思います。当院には認定・専門薬剤師として資格を持っている薬剤師が10人程いますが、例えばスポーツファーマシストなどの個々の専門性を尊重しながらいかに病棟業務と絡めて配置していくのか。管理する立場としては、今後配置やローテーションが難しくなると頭を悩ませています。病棟業務がルーチン化されると、専門とか認定とかをどのように活かしていくか見えない状況ですが、その辺はどのように考えていますか。

本郷 当院でも専門や認定の取得に取り組むように言っていますので、ここ数年で認定薬剤師が増えてきました。当院では病棟薬剤師の担当病棟は数年間固定していますので、薬剤師は担当病棟の診療科に関連した資格取得をめざしています。ただし将来、認定薬剤師が増えた時、専門性に応じた病棟に配置できるかどうか、悩ましいところです。がん専門薬剤師をがん患者のいない循環器科病棟に配置しても、知識やスキルを発揮できませんし、本人のモチベーションも下がります。一方で循環器科関連の認定薬剤師制度はありませんから、循環器科を担当する薬剤師は認定薬剤師の取得という目標をもてないのも現実です。またICTやNSTのように診療科、病棟をまたがって活動するチームに所属する薬剤師もいますので、そちらとの人員配置のバランスも考える必要もあり、今後の課題です。

岩井 薬剤師には認定・専門薬剤師の資格取得を推奨しており、病棟業務とも関連させています。しかし、中には1つの病棟を20年間担当している薬剤師がいます。糖尿病等の認定・専門薬剤師には、認定更新のためにも担当病棟を動かすことは難しい状況です。NSTなどチーム医療への参加も求められていますが、病棟業務の確立が優先されるとなると、現実問題としてローテーションすることは難しくなるのではないでしょうか。

■病棟薬剤業務の有用性検証にむけて宮本 今後、病棟業務の有用性についてエビデンスを提示するためにも、薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務をしっかり区分して検証する必要があります。日本病院薬剤師会の指針では、投薬前までが病棟薬剤業務、投薬後が薬剤管理指導業務に当たると説明していますが、その区分は現実的でしょうか。

本郷 保険点数が薬剤管理指導料と病棟薬剤業務実施加算という2つに分かれてしまっている現状で、それぞれを区分して有用性を検証するといった考え方がでるのは仕方がないと理解しています。しかし薬物治療は一連の流れですから、それを現場で分けることは非常に難しいと思います。このような判断基準では副作用のモニタリングは投薬後の業務ですから薬剤管理指導業務ですが、副作用に対する措置、たとえば抗がん剤に対する制吐剤の処方提案などは投与前ですから病棟薬剤業務となります。どこからどこまでが薬剤管理指導業務で、どの時点から病棟薬剤業務となるか、このような判断をすべての患者さんに一人ずつ毎日行な

っていく事は、現場で相当な混乱が生じます。ただ投薬前の業務としての意識付けにはプレアボイドの未然回避報告のような業務を行うよう指導することが有効ではないでしょうか。

宮本 次に、各病棟における業務内容と要した時間を記録する「業務日誌」の作成が必要ですが、これについてはどう対応されていますか。

佐藤 当院では汎用のデータベースソフトで、業務日誌を作成しています。何時から何時にどの業務を実施したかをボタンの選択で簡単に記録でき、1週間の集計も自動的にできます。患者さんごとの日報について、どこまで具体的に記録を残すかの課題はありますが、最初はあまり業務内容を規定せずに、何でもやってもらった方がいいと思っています。自分自身で病棟での役割を探していく中で、業務の効率化やスキルアップに取り組めるようになります。

本郷 必要とされる業務日誌のようにどのような業務をいつからいつまで行ったかという区別は現場では明確にできません。あらゆる業務は並行して行われています。とは言っても算定要件をクリアしなければならず苦労しています。現状では厚生労働省から示されたものと同様の書式に記載していますが、2週間でファイル1冊分となります。これを5年間保管するのは大変です。現在、効率化と保管の面から電子カルテネットワーク上で利用できるプログラムを検討しています。

■評価される病棟業務をめざして宮本 どの施設も薬剤業務に対する確固たる信念のもと、施設の規模や機能に応じてよく考えられた仕組みを作られていることがよく分かりました。最後に、今後の病棟業務の方向性と展望をお聞かせください。

岩井 全病棟での実施が算定要件のため、当院が算定するためには、病棟業務を行っていない病棟にも活動を広げる必要があります。単純に1人1病棟としても6~7人が不足していることになりますが、人がいないから無理だとは言えません。薬剤管理指導業務を実施する対象を早急に増やし、他のスタッフや病院経営側の理解を得ながら今後の方向性を探っていこうと考えています。

宮本 当院も同じです。体制が整う前に見切り発車はしない。まずは試行的にやってみようという方針です。薬剤管理指導業務だけでもいいので、とにかく病棟に入っていく環境を作っていこうと考えています。私の理想は、専門性の高い薬剤師を各診療科に専従で配置して、医局の一員として医師と一緒に薬物療法に深く関わることです。今はまだ夢ですが、何とか実現したいと思っています。

佐藤 全病棟への常駐という第一段階の目標は達成しましたが、忙しい時間帯は皆同じなので、病棟業務が多忙な時は薬局に薬剤師が一時不在になること、また薬剤師が休んだ時の対応をどうするかなど、改善すべき点はまだまだあります。いまも毎週のようにミーティングをして業務内容を細かく見直し、全員で業務の標準化に取り組んでいるところです。現在は薬剤師が病棟にいることに対し、医師をはじめ他職種から非常に感謝されています。これを薬剤師への信頼に変えていくととも

に、病棟業務を確立することが今年1年間の目標です。

本郷 当院では20年以上前から1人1病棟の担当で病棟薬剤師業務を行なってきました。しかしこの間、病院の機能は変化し、平均在院日数は18日から11日と短縮し、DPCの導入により持参薬の活用機会が増え、管理には手間もかかります。また緊急性の高い措置を必要とする患者さんは年々増えています。そのような中、看護師は7:1看護に移行し増員され、医師数も約2倍となりました。病棟薬剤師だけが1人1病棟という体制を継続しているのですが完全にオーバーワークですし、当直明け等での不在時にもバックアップできる余裕はなく、配薬などを看護師に手伝ってもらうこともあります。経営側には薬剤師の増員がさらに必要なことは理解していただいているため、1病棟薬剤師2人として、より充実した病棟薬剤師業務を確立し、その責任を全うできる体制にしたいと考えています。私が病棟に行き始めた頃、一緒に仕事をしていた医師から、「責任のない仕事は面白くないし、やりがいもないよ」と言われたことが今も心に残っています。

宮本 私が危惧するのは、経営側の意向で準備不足のまま病棟業務を始めてしまう病院がないかということです。次回の診療報酬改定に向け、薬剤師の病棟業務について「調査・検証」が行われることを念頭に置きながら、情報収集をしっかりし確実に業務を実施すること、しっかり記録を残すことを徹底しないといけません。また、病棟業務にばかり傾注してしまって、調剤など他の業務で事故が起こることがないように、基本的な業務を担保しておく必要もありますね。

岩井 どう担保するかが薬剤部を運営する上で、喫緊の課題だと思います。それは例えば、薬剤師が処方せんを見て一から調剤することではないはずです。まずは薬剤部全体の業務体制と方針をしっかり確立する必要があります。

宮本 薬剤師が地道に取り組んできた活動が「病棟薬剤業務」として認知されたことにより、薬剤師への期待や評価はこれまで以上に高くなりました。その分、社会の見る目は厳しくなります。取り組むべき課題は山積していますが、常に検証を重ね、薬物療法の質向上に貢献する薬剤業務を確立していかなければなりません。今後とも情報交換をしながら、お互いに研鑽をしていきましょう。

 2012年度の診療報酬改定により「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬学6年制の第一期生が社会に巣立った年に、新たな薬剤師業務が動き出すことに感慨を覚えます。診療報酬における評価はもちろん重要ですが、実施加算の算定の有無にかかわらず、薬剤師は薬のスペシャリストとして、医療へのさらなる貢献をめざすことが責務と言えます。本日は、大学病院、公立病院、民間総合病院、そして専門病院と、規模も組織も異なる病院の薬剤部長にお集まりいただきました。このうち札幌南三条病院と手稲渓仁会病院は4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。それぞれの施設の現状を踏まえて忌憚なく話し合う中から、今後の病棟業務の方向性を見いだすことができればと思います。

座談会開催にあたって [司会] 札幌医科大学附属病院 薬剤部長 宮本  篤 先生

病棟薬剤業務の意義と目的(市立札幌病院)資料1 病棟業務の具体的内容 (手稲渓仁会病院)資料2病棟薬剤師業務日報 入力画面(札幌南三条病院)資料3

業務時間時間帯を記録

実施薬剤師名を選択

実施時間合計が自動的に算出される

業務内容7つの項目から該当する

業務を選択

※本郷先生提供資料を元に作成

持参薬の内容把握(他院処方、OTCを含む)健康食品等摂取の有無の確認持参薬における不適切な処方の有無の確認休薬を要する薬剤(術前の抗血小板薬など)の有無の確認過去の副作用・アレルギー歴の確認

服薬指導(定期薬等の配薬を含む)

薬剤の効果・副作用の確認

退院時処方の有無並びに処方内容の確認(処方内容の薬学的チェック、次回外来受診までの残数不足の有無等)入院中の処方変更について患者へ情報提供入院中に副作用が発現した場合は副作用カードを提供必要に応じ、かかりつけ薬局へ入院中の薬物療法に関して情報提供(薬薬連携)

他科処方を含め内服・外用・注射薬の全てを把握

臨床検査値モニタリング

禁忌・相互作用・同効薬重複の有無の確認投与経路・投与速度の確認体重、体表面積、肝・腎機能に応じた用法・用量の検討薬物血中濃度に基づいた処方設計検査値異常に現れる副作用の早期発見・対処

より適切な薬剤や投与量への変更を提言

副作用モニタリングに必要な検査の依頼

過去の副作用・アレルギー歴の確認

肝・腎機能等の確認

治療方針の確認

医師・看護師への持参薬情報提供

持参薬の入院後継続あるいは変更の確認

入院時

入院中

退院時

カルテ等による患者情報の収集患者面談 他のスタッフとの関わり①薬物療法の質的向上・臨床に直結した医薬品情報のサービス・処方箋による注射管理  ・薬歴管理  ・服薬指導

②患者サービスの向上・患者個々の理解力やニーズに対応した テーラーメイドの情報提供

③チーム医療の充実・各職種が得た情報のフィードバック・共有化  →患者利益の向上・医師、看護師、その他の職種が専門性を活かした業務に専念

④薬剤業務拡大・薬が関わる全てのリスクマネジメントへの貢献

薬物療法における医師と薬剤師の協働(イメージ)資料:厚生労働省保険局医療課「平成24年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要」より

医師等と協働して行う薬物療法業務

薬剤管理指導業務

資料4

医師

(持参薬の確認・評価)

医師

医師

医師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

処方へのフィードバック

的確な診断

最適な処方

調剤

服薬指導正確な使用

効果と副作用の評価

薬効・副作用モニタリング結果の伝達

・処方の提案・同一処方継続可否の提案

薬物療法プロトコルについて提案、協働で作成、協働で進行管理

医薬品適正使用サイクル

Page 4: これからの病棟業務は - medical.mt-pharma.co.jp · ファーマスコープは 病院、保険薬局で輝く薬剤師 の ... に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フ

発行月 : 平成24年8月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 北海道版

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座 談会

札幌医科大学附属病院 薬剤部長宮本  篤 先生市立札幌病院 薬剤部長岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長佐藤 秀紀 先生手稲渓仁会病院 薬剤部長本郷 文教 先生

[司会]

札幌医科大学附属病院 薬剤部長

みや もと     あつし

宮本  篤 先生(司会)

手稲渓仁会病院 薬剤部長

ほん ごう  ふみ のり

本郷 文教 先生市立札幌病院 薬剤部長

いわ  い   しん  じ

岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長

さ  とう  ひで き

佐藤 秀紀 先生

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■薬剤部の方針と病棟業務の現状宮本 最初に、各施設における現状の業務体制および業務内容について、紹介していただきたいと思います。まず札幌医科大学附属病院の現状からお話しします。当院は、25診療科、938床の医科系大学附属の総合病院として、医療者の育成のほか、特定機能病院、高度救命救急センター、災害拠点病院など幅広い役割を担っています。現在、薬剤師は35人。25診療科のうち15診療科で担当薬剤師4人がフルタイムで薬剤管理指導業務を実施しています。薬剤管理指導料算定件数は月平均で約350件です。実は、当院では2006年に特定機能病院等に対して行われる特定共同指導があり、薬剤管理指導料の算定について業務記録や投薬歴の把握に一部不十分な例があったため、厚生労働省より指導を受けました。それを境に、より中身の濃い薬剤管理指導を徹底した結果、算定件数が月平均400件程度から減少した経緯があります。当院が提供する医療は幅広く専門的な領域におよぶことから、薬剤部として

もオールラウンドに対応できる総合力と専門性に基づく業務展開をめざしています。 それでは、次に4月から病棟薬剤業務実施加算の算定を開始されています札幌南三条病院の佐藤先生から現状の業務体制・業務内容の紹介をお願いします。

佐藤 札幌南三条病院は99床の中小病院です。呼吸器疾患、特に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フロアのうち3フロア75床が呼吸器内科で、24床が呼吸器外科です。「病棟薬剤業務実施加算」の新設を見越して2011年4月から病棟常駐化を試験的に開始し、7月に全病棟に拡大しました。薬剤師7人のうち、私を除く6人がシフト制で病棟業務を担当しています。1日の業務体制は、4人が病棟業務を、3人が調剤、無菌調製、手術に用いる注射薬のセット出しなどを行います。薬剤管理指導料の算定件数は月平均440件ですが、がん治療に特化していることから、86%はハイリスク薬です。抗がん剤治療のために定期的に入院

する患者さんが多く、その都度入院病棟が変わります。そこで、どの病棟に入院しても同じ薬剤師が担当する「患者担当制」を従来から採用していました。常駐化により「病棟担当制」を導入してからも、服薬指導は担当する患者さんの病棟まで出向いて行っています。この点が当院の特徴だと思います。

宮本 手稲渓仁会病院も4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。どのような体制で実現したのか、本郷先生ご紹介をお願いします。

本郷 当院はドクターヘリの基地病院として急性期総合医療を担うとともに地域がん診療連携拠点病院としてがん治療にも積極的に取り組んでいます。診療科は33科、病棟は臓器別編成で13の一般病棟と救命病棟、ICU、SCU等の計550床で、平均在院日数は11.1日、病床稼働率95%です。薬剤師はこの春、10人採用して41人になりました。1987年の開院時、当時の院長から「専門分野は専門職が行う。薬に関することは薬剤師が行う」という方針が院内で示されたため、開院時から注射剤は処方せんに基づき薬剤部で混注して供給していましたし、開院2年目から順次、病棟に薬剤師を配置して入院患者さんのケアにあたってきました。今回の病棟薬剤業務実施加算の算定にあたっては、正常分娩が大多数を占める産科病棟で、薬剤師がどのような業務に取り組み週20時間を確保するかという問題のほか、病棟業務日誌を新たに作成しなければなりませんでしたが、他の病棟では従来通りの業務で対応できています。

宮本 次に市立札幌病院の現状の業務体制・業務内容について岩井先生、ご紹介をお願いします。

岩井 市立札幌病院の病床数は810床、薬剤師は32人です。薬剤管理指導業務は病棟での臨床薬剤業務であるというコンセプトのもと、1993年に循環器内科から病棟業務を開始し、徐々に対象病棟を拡大してきました。現在は17病棟のうち8病棟で薬剤管理指導業務を実施し、算定件数は月平均800件を超えています。注射薬の個人別セットのほか医師回診やカンファレンスにも参加しています。診療科も多いので、せめてフロア対応できるように薬剤師の配置を考えていますが、2つの診療科を持つこと自体も非常に難しい状況で、人員の入れ替わりなどもあり、ここ数年は病棟の薬剤業務をなかなか拡大できない状況でした。しかし、病棟薬剤業務実施加算を算定してほしいという病院経営側の意向は強いものがあります。以前の100点業務(1988年に新設された入院調剤技術基本料)が20年かかっても全病棟に広がらないことからも分かるように、当院のような診療科の多い病院では難しいという現実もありますので、これからどう進めていこうかと計画を立てているところです。

■病棟業務でめざすもの宮本 それでは次に病棟業務の実際、また、めざす方向性について先生方のお考えをお聞かせ下さい。

佐藤 先ほど、当院が担当制を導入して薬剤師を常駐化したと話しましたが、病棟常駐化をめざした最大の目的は、処方提案やモニタリングを行うためです。余力があれば配薬や与薬準備などをしようと考えていました。現在、実施できているのは処方提案、処方意図の把握、医療スタッフへの助言・相談応需などです。処方提案のためにも医師と看護師の申し送りに同席し、病棟担当薬剤師が収集した情報を患者担当薬剤師に伝達しています。看護師からは、医師への処方依頼の負担が軽減した、薬剤に関する質問にすぐ答

えてもらえるなど高く評価されています。理想は、処方設計や処方介入がどの薬剤師も当たり前にできるようになって医師からの信頼を獲得することです。とにかく医師と話すようにと、スタッフには指導しています。

本郷 私自身20年近く病棟薬剤師をやってきましたので、その経験からですが、医師たちは病気の診断や治療のアウトカムはカンファレンスで詳細な検討を行い、治療計画を立てますが、具体的な薬剤名や投与量は主治医に任されることが多いようです。薬剤師は医師と異なる視点で薬物療法を評価できなければ、その医療チームにおける存在意義が少ないと思います。そのような考えで薬剤師は薬物療法の安全性と経済性の視点からも薬物療法を評価し、医師に処方提案するように指導しています。当院は臨床研修指定病院ですから、60名近い初期研修医をはじめ経験の少ない医師が多くいますが、病棟薬剤師が処方設計時に患者さんの状態を考慮した投与量や併用薬を指導する機会も多くあります。そのうちの幾つかはプレアボイド報告としてまとめていますが、昨年度までに2250件に達しています。また病棟薬剤師は病棟スタッフとして働くと同時に薬剤部スタッフとしての役割、業務もあります。担当病棟の常備薬の補充や薬品管理室と連携して棚卸しや有効期限のチェックも行います。また薬事委員会に提出する資料作成時には医薬品情報室の薬剤師と共に医師らと協議するなど多岐にわたる業務を担っています。

岩井 病棟業務でめざすのは、薬物療法の質的向上、患者サービスの向上、処方提案などによるチーム医療の充実、そしてさらなる薬剤師業務の拡大です。薬にかかわる全てのリスクマネジメントに貢献する業務を行うとともに、医師、看護師、栄養士などと協働して患者さんのQOL向上に貢献したいと考えています。当院では病棟業務の効率化のために、電子カルテ導入を機に無線LANによる服薬指導システムを構築しました。ノートパソコンで医師の服薬指導依頼を確認し、担当患者さんを選択すると自動的に患者情報を取り込むことができます。薬剤部に戻らなくてもどこででも確認や記録ができ、指導記録も電子カルテに反映されるので他職種との情報共有もできています。

■病棟業務のさらなる拡充のための課題宮本 次に、病棟業務をさらに拡充するための課題について、議論したいと思います。

岩井 1日4時間、病棟で活動するためには、薬剤師の居場所が必要となります。当院は病棟にスペースがありません。このため、苦肉の策として一人に一台可動式ワゴンを用意し、立ったままでベッドサイドやナースステーションでパソコンの操作ができるようにしています。病棟での居場所は早期に確保したいと考えています。

宮本 今までの薬剤師業務のハンディは、他職種から見えないところで仕事をしていたことにあるのではないでしょうか。当院でも設計段階では薬剤師の病棟薬剤業務を想定していなかったため、病棟に混注するスペースがなく、薬剤部の中で作業をしてデリバリーしています。人員配置も必要ですが、まず病棟に常にいるという環境を作ること、それが病棟業務を推進するための鉄則だと思います。札幌南三条病院ではどのような状況でしょうか。

佐藤 以前は服薬指導記録の記入、持参薬の確認、オーダ入力は薬局に戻ってやらざるを得ない状況でしたが、幸運なことに病棟に薬剤師専用スペースを確保することができました。パソコンやラベルプリンターもあり、隣にはクラークもいて情報共有できる環境になっており、ほとんどの業務を病棟で行っています。

本郷 当院は病棟薬剤師を配置して24年になります。病棟には薬剤師用の電子カルテ端末や薬剤師が使用する書藉類を置くスペースがあります。しかし薬剤師の専用スペースでのみ仕事をしていると他のスタッフに背中を向けてしまうことになりかねません。持参薬の整理や定期処方の配薬時にはそれなりの占有スペースが必要ですが、病棟スタッフの一員として働く際にはあまり自分の居場所にこだわる必要もないように思います。

岩井 薬剤師が病棟にいることは大事ですね。情報収集もできますし、信頼関係もそこで生まれます。経験の少ない薬剤師の場合は、いつ医師から質問されるかわかりませんから、精神的にもきつい状況となりますが、それを乗り越えることで成長できると思います。

宮本 次に、薬剤師の専門性と病棟業務、チーム医療の関係について伺いたいと思います。当院には認定・専門薬剤師として資格を持っている薬剤師が10人程いますが、例えばスポーツファーマシストなどの個々の専門性を尊重しながらいかに病棟業務と絡めて配置していくのか。管理する立場としては、今後配置やローテーションが難しくなると頭を悩ませています。病棟業務がルーチン化されると、専門とか認定とかをどのように活かしていくか見えない状況ですが、その辺はどのように考えていますか。

本郷 当院でも専門や認定の取得に取り組むように言っていますので、ここ数年で認定薬剤師が増えてきました。当院では病棟薬剤師の担当病棟は数年間固定していますので、薬剤師は担当病棟の診療科に関連した資格取得をめざしています。ただし将来、認定薬剤師が増えた時、専門性に応じた病棟に配置できるかどうか、悩ましいところです。がん専門薬剤師をがん患者のいない循環器科病棟に配置しても、知識やスキルを発揮できませんし、本人のモチベーションも下がります。一方で循環器科関連の認定薬剤師制度はありませんから、循環器科を担当する薬剤師は認定薬剤師の取得という目標をもてないのも現実です。またICTやNSTのように診療科、病棟をまたがって活動するチームに所属する薬剤師もいますので、そちらとの人員配置のバランスも考える必要もあり、今後の課題です。

岩井 薬剤師には認定・専門薬剤師の資格取得を推奨しており、病棟業務とも関連させています。しかし、中には1つの病棟を20年間担当している薬剤師がいます。糖尿病等の認定・専門薬剤師には、認定更新のためにも担当病棟を動かすことは難しい状況です。NSTなどチーム医療への参加も求められていますが、病棟業務の確立が優先されるとなると、現実問題としてローテーションすることは難しくなるのではないでしょうか。

■病棟薬剤業務の有用性検証にむけて宮本 今後、病棟業務の有用性についてエビデンスを提示するためにも、薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務をしっかり区分して検証する必要があります。日本病院薬剤師会の指針では、投薬前までが病棟薬剤業務、投薬後が薬剤管理指導業務に当たると説明していますが、その区分は現実的でしょうか。

本郷 保険点数が薬剤管理指導料と病棟薬剤業務実施加算という2つに分かれてしまっている現状で、それぞれを区分して有用性を検証するといった考え方がでるのは仕方がないと理解しています。しかし薬物治療は一連の流れですから、それを現場で分けることは非常に難しいと思います。このような判断基準では副作用のモニタリングは投薬後の業務ですから薬剤管理指導業務ですが、副作用に対する措置、たとえば抗がん剤に対する制吐剤の処方提案などは投与前ですから病棟薬剤業務となります。どこからどこまでが薬剤管理指導業務で、どの時点から病棟薬剤業務となるか、このような判断をすべての患者さんに一人ずつ毎日行な

っていく事は、現場で相当な混乱が生じます。ただ投薬前の業務としての意識付けにはプレアボイドの未然回避報告のような業務を行うよう指導することが有効ではないでしょうか。

宮本 次に、各病棟における業務内容と要した時間を記録する「業務日誌」の作成が必要ですが、これについてはどう対応されていますか。

佐藤 当院では汎用のデータベースソフトで、業務日誌を作成しています。何時から何時にどの業務を実施したかをボタンの選択で簡単に記録でき、1週間の集計も自動的にできます。患者さんごとの日報について、どこまで具体的に記録を残すかの課題はありますが、最初はあまり業務内容を規定せずに、何でもやってもらった方がいいと思っています。自分自身で病棟での役割を探していく中で、業務の効率化やスキルアップに取り組めるようになります。

本郷 必要とされる業務日誌のようにどのような業務をいつからいつまで行ったかという区別は現場では明確にできません。あらゆる業務は並行して行われています。とは言っても算定要件をクリアしなければならず苦労しています。現状では厚生労働省から示されたものと同様の書式に記載していますが、2週間でファイル1冊分となります。これを5年間保管するのは大変です。現在、効率化と保管の面から電子カルテネットワーク上で利用できるプログラムを検討しています。

■評価される病棟業務をめざして宮本 どの施設も薬剤業務に対する確固たる信念のもと、施設の規模や機能に応じてよく考えられた仕組みを作られていることがよく分かりました。最後に、今後の病棟業務の方向性と展望をお聞かせください。

岩井 全病棟での実施が算定要件のため、当院が算定するためには、病棟業務を行っていない病棟にも活動を広げる必要があります。単純に1人1病棟としても6~7人が不足していることになりますが、人がいないから無理だとは言えません。薬剤管理指導業務を実施する対象を早急に増やし、他のスタッフや病院経営側の理解を得ながら今後の方向性を探っていこうと考えています。

宮本 当院も同じです。体制が整う前に見切り発車はしない。まずは試行的にやってみようという方針です。薬剤管理指導業務だけでもいいので、とにかく病棟に入っていく環境を作っていこうと考えています。私の理想は、専門性の高い薬剤師を各診療科に専従で配置して、医局の一員として医師と一緒に薬物療法に深く関わることです。今はまだ夢ですが、何とか実現したいと思っています。

佐藤 全病棟への常駐という第一段階の目標は達成しましたが、忙しい時間帯は皆同じなので、病棟業務が多忙な時は薬局に薬剤師が一時不在になること、また薬剤師が休んだ時の対応をどうするかなど、改善すべき点はまだまだあります。いまも毎週のようにミーティングをして業務内容を細かく見直し、全員で業務の標準化に取り組んでいるところです。現在は薬剤師が病棟にいることに対し、医師をはじめ他職種から非常に感謝されています。これを薬剤師への信頼に変えていくととも

に、病棟業務を確立することが今年1年間の目標です。

本郷 当院では20年以上前から1人1病棟の担当で病棟薬剤師業務を行なってきました。しかしこの間、病院の機能は変化し、平均在院日数は18日から11日と短縮し、DPCの導入により持参薬の活用機会が増え、管理には手間もかかります。また緊急性の高い措置を必要とする患者さんは年々増えています。そのような中、看護師は7:1看護に移行し増員され、医師数も約2倍となりました。病棟薬剤師だけが1人1病棟という体制を継続しているのですが完全にオーバーワークですし、当直明け等での不在時にもバックアップできる余裕はなく、配薬などを看護師に手伝ってもらうこともあります。経営側には薬剤師の増員がさらに必要なことは理解していただいているため、1病棟薬剤師2人として、より充実した病棟薬剤師業務を確立し、その責任を全うできる体制にしたいと考えています。私が病棟に行き始めた頃、一緒に仕事をしていた医師から、「責任のない仕事は面白くないし、やりがいもないよ」と言われたことが今も心に残っています。

宮本 私が危惧するのは、経営側の意向で準備不足のまま病棟業務を始めてしまう病院がないかということです。次回の診療報酬改定に向け、薬剤師の病棟業務について「調査・検証」が行われることを念頭に置きながら、情報収集をしっかりし確実に業務を実施すること、しっかり記録を残すことを徹底しないといけません。また、病棟業務にばかり傾注してしまって、調剤など他の業務で事故が起こることがないように、基本的な業務を担保しておく必要もありますね。

岩井 どう担保するかが薬剤部を運営する上で、喫緊の課題だと思います。それは例えば、薬剤師が処方せんを見て一から調剤することではないはずです。まずは薬剤部全体の業務体制と方針をしっかり確立する必要があります。

宮本 薬剤師が地道に取り組んできた活動が「病棟薬剤業務」として認知されたことにより、薬剤師への期待や評価はこれまで以上に高くなりました。その分、社会の見る目は厳しくなります。取り組むべき課題は山積していますが、常に検証を重ね、薬物療法の質向上に貢献する薬剤業務を確立していかなければなりません。今後とも情報交換をしながら、お互いに研鑽をしていきましょう。

 2012年度の診療報酬改定により「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬学6年制の第一期生が社会に巣立った年に、新たな薬剤師業務が動き出すことに感慨を覚えます。診療報酬における評価はもちろん重要ですが、実施加算の算定の有無にかかわらず、薬剤師は薬のスペシャリストとして、医療へのさらなる貢献をめざすことが責務と言えます。本日は、大学病院、公立病院、民間総合病院、そして専門病院と、規模も組織も異なる病院の薬剤部長にお集まりいただきました。このうち札幌南三条病院と手稲渓仁会病院は4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。それぞれの施設の現状を踏まえて忌憚なく話し合う中から、今後の病棟業務の方向性を見いだすことができればと思います。

座談会開催にあたって [司会] 札幌医科大学附属病院 薬剤部長 宮本  篤 先生

病棟薬剤業務の意義と目的(市立札幌病院)資料1 病棟業務の具体的内容 (手稲渓仁会病院)資料2病棟薬剤師業務日報 入力画面(札幌南三条病院)資料3

業務時間時間帯を記録

実施薬剤師名を選択

実施時間合計が自動的に算出される

業務内容7つの項目から該当する

業務を選択

※本郷先生提供資料を元に作成

持参薬の内容把握(他院処方、OTCを含む)健康食品等摂取の有無の確認持参薬における不適切な処方の有無の確認休薬を要する薬剤(術前の抗血小板薬など)の有無の確認過去の副作用・アレルギー歴の確認

服薬指導(定期薬等の配薬を含む)

薬剤の効果・副作用の確認

退院時処方の有無並びに処方内容の確認(処方内容の薬学的チェック、次回外来受診までの残数不足の有無等)入院中の処方変更について患者へ情報提供入院中に副作用が発現した場合は副作用カードを提供必要に応じ、かかりつけ薬局へ入院中の薬物療法に関して情報提供(薬薬連携)

他科処方を含め内服・外用・注射薬の全てを把握

臨床検査値モニタリング

禁忌・相互作用・同効薬重複の有無の確認投与経路・投与速度の確認体重、体表面積、肝・腎機能に応じた用法・用量の検討薬物血中濃度に基づいた処方設計検査値異常に現れる副作用の早期発見・対処

より適切な薬剤や投与量への変更を提言

副作用モニタリングに必要な検査の依頼

過去の副作用・アレルギー歴の確認

肝・腎機能等の確認

治療方針の確認

医師・看護師への持参薬情報提供

持参薬の入院後継続あるいは変更の確認

入院時

入院中

退院時

カルテ等による患者情報の収集患者面談 他のスタッフとの関わり①薬物療法の質的向上・臨床に直結した医薬品情報のサービス・処方箋による注射管理  ・薬歴管理  ・服薬指導

②患者サービスの向上・患者個々の理解力やニーズに対応した テーラーメイドの情報提供

③チーム医療の充実・各職種が得た情報のフィードバック・共有化  →患者利益の向上・医師、看護師、その他の職種が専門性を活かした業務に専念

④薬剤業務拡大・薬が関わる全てのリスクマネジメントへの貢献

薬物療法における医師と薬剤師の協働(イメージ)資料:厚生労働省保険局医療課「平成24年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要」より

医師等と協働して行う薬物療法業務

薬剤管理指導業務

資料4

医師

(持参薬の確認・評価)

医師

医師

医師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

処方へのフィードバック

的確な診断

最適な処方

調剤

服薬指導正確な使用

効果と副作用の評価

薬効・副作用モニタリング結果の伝達

・処方の提案・同一処方継続可否の提案

薬物療法プロトコルについて提案、協働で作成、協働で進行管理

医薬品適正使用サイクル

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発行月 : 平成24年8月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

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特別号 北海道版

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これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

札幌医科大学附属病院 薬剤部長宮本  篤 先生市立札幌病院 薬剤部長岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長佐藤 秀紀 先生手稲渓仁会病院 薬剤部長本郷 文教 先生

[司会]

札幌医科大学附属病院 薬剤部長

みや もと     あつし

宮本  篤 先生(司会)

手稲渓仁会病院 薬剤部長

ほん ごう  ふみ のり

本郷 文教 先生市立札幌病院 薬剤部長

いわ  い   しん  じ

岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長

さ  とう  ひで き

佐藤 秀紀 先生

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■薬剤部の方針と病棟業務の現状宮本 最初に、各施設における現状の業務体制および業務内容について、紹介していただきたいと思います。まず札幌医科大学附属病院の現状からお話しします。当院は、25診療科、938床の医科系大学附属の総合病院として、医療者の育成のほか、特定機能病院、高度救命救急センター、災害拠点病院など幅広い役割を担っています。現在、薬剤師は35人。25診療科のうち15診療科で担当薬剤師4人がフルタイムで薬剤管理指導業務を実施しています。薬剤管理指導料算定件数は月平均で約350件です。実は、当院では2006年に特定機能病院等に対して行われる特定共同指導があり、薬剤管理指導料の算定について業務記録や投薬歴の把握に一部不十分な例があったため、厚生労働省より指導を受けました。それを境に、より中身の濃い薬剤管理指導を徹底した結果、算定件数が月平均400件程度から減少した経緯があります。当院が提供する医療は幅広く専門的な領域におよぶことから、薬剤部として

もオールラウンドに対応できる総合力と専門性に基づく業務展開をめざしています。 それでは、次に4月から病棟薬剤業務実施加算の算定を開始されています札幌南三条病院の佐藤先生から現状の業務体制・業務内容の紹介をお願いします。

佐藤 札幌南三条病院は99床の中小病院です。呼吸器疾患、特に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フロアのうち3フロア75床が呼吸器内科で、24床が呼吸器外科です。「病棟薬剤業務実施加算」の新設を見越して2011年4月から病棟常駐化を試験的に開始し、7月に全病棟に拡大しました。薬剤師7人のうち、私を除く6人がシフト制で病棟業務を担当しています。1日の業務体制は、4人が病棟業務を、3人が調剤、無菌調製、手術に用いる注射薬のセット出しなどを行います。薬剤管理指導料の算定件数は月平均440件ですが、がん治療に特化していることから、86%はハイリスク薬です。抗がん剤治療のために定期的に入院

する患者さんが多く、その都度入院病棟が変わります。そこで、どの病棟に入院しても同じ薬剤師が担当する「患者担当制」を従来から採用していました。常駐化により「病棟担当制」を導入してからも、服薬指導は担当する患者さんの病棟まで出向いて行っています。この点が当院の特徴だと思います。

宮本 手稲渓仁会病院も4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。どのような体制で実現したのか、本郷先生ご紹介をお願いします。

本郷 当院はドクターヘリの基地病院として急性期総合医療を担うとともに地域がん診療連携拠点病院としてがん治療にも積極的に取り組んでいます。診療科は33科、病棟は臓器別編成で13の一般病棟と救命病棟、ICU、SCU等の計550床で、平均在院日数は11.1日、病床稼働率95%です。薬剤師はこの春、10人採用して41人になりました。1987年の開院時、当時の院長から「専門分野は専門職が行う。薬に関することは薬剤師が行う」という方針が院内で示されたため、開院時から注射剤は処方せんに基づき薬剤部で混注して供給していましたし、開院2年目から順次、病棟に薬剤師を配置して入院患者さんのケアにあたってきました。今回の病棟薬剤業務実施加算の算定にあたっては、正常分娩が大多数を占める産科病棟で、薬剤師がどのような業務に取り組み週20時間を確保するかという問題のほか、病棟業務日誌を新たに作成しなければなりませんでしたが、他の病棟では従来通りの業務で対応できています。

宮本 次に市立札幌病院の現状の業務体制・業務内容について岩井先生、ご紹介をお願いします。

岩井 市立札幌病院の病床数は810床、薬剤師は32人です。薬剤管理指導業務は病棟での臨床薬剤業務であるというコンセプトのもと、1993年に循環器内科から病棟業務を開始し、徐々に対象病棟を拡大してきました。現在は17病棟のうち8病棟で薬剤管理指導業務を実施し、算定件数は月平均800件を超えています。注射薬の個人別セットのほか医師回診やカンファレンスにも参加しています。診療科も多いので、せめてフロア対応できるように薬剤師の配置を考えていますが、2つの診療科を持つこと自体も非常に難しい状況で、人員の入れ替わりなどもあり、ここ数年は病棟の薬剤業務をなかなか拡大できない状況でした。しかし、病棟薬剤業務実施加算を算定してほしいという病院経営側の意向は強いものがあります。以前の100点業務(1988年に新設された入院調剤技術基本料)が20年かかっても全病棟に広がらないことからも分かるように、当院のような診療科の多い病院では難しいという現実もありますので、これからどう進めていこうかと計画を立てているところです。

■病棟業務でめざすもの宮本 それでは次に病棟業務の実際、また、めざす方向性について先生方のお考えをお聞かせ下さい。

佐藤 先ほど、当院が担当制を導入して薬剤師を常駐化したと話しましたが、病棟常駐化をめざした最大の目的は、処方提案やモニタリングを行うためです。余力があれば配薬や与薬準備などをしようと考えていました。現在、実施できているのは処方提案、処方意図の把握、医療スタッフへの助言・相談応需などです。処方提案のためにも医師と看護師の申し送りに同席し、病棟担当薬剤師が収集した情報を患者担当薬剤師に伝達しています。看護師からは、医師への処方依頼の負担が軽減した、薬剤に関する質問にすぐ答

えてもらえるなど高く評価されています。理想は、処方設計や処方介入がどの薬剤師も当たり前にできるようになって医師からの信頼を獲得することです。とにかく医師と話すようにと、スタッフには指導しています。

本郷 私自身20年近く病棟薬剤師をやってきましたので、その経験からですが、医師たちは病気の診断や治療のアウトカムはカンファレンスで詳細な検討を行い、治療計画を立てますが、具体的な薬剤名や投与量は主治医に任されることが多いようです。薬剤師は医師と異なる視点で薬物療法を評価できなければ、その医療チームにおける存在意義が少ないと思います。そのような考えで薬剤師は薬物療法の安全性と経済性の視点からも薬物療法を評価し、医師に処方提案するように指導しています。当院は臨床研修指定病院ですから、60名近い初期研修医をはじめ経験の少ない医師が多くいますが、病棟薬剤師が処方設計時に患者さんの状態を考慮した投与量や併用薬を指導する機会も多くあります。そのうちの幾つかはプレアボイド報告としてまとめていますが、昨年度までに2250件に達しています。また病棟薬剤師は病棟スタッフとして働くと同時に薬剤部スタッフとしての役割、業務もあります。担当病棟の常備薬の補充や薬品管理室と連携して棚卸しや有効期限のチェックも行います。また薬事委員会に提出する資料作成時には医薬品情報室の薬剤師と共に医師らと協議するなど多岐にわたる業務を担っています。

岩井 病棟業務でめざすのは、薬物療法の質的向上、患者サービスの向上、処方提案などによるチーム医療の充実、そしてさらなる薬剤師業務の拡大です。薬にかかわる全てのリスクマネジメントに貢献する業務を行うとともに、医師、看護師、栄養士などと協働して患者さんのQOL向上に貢献したいと考えています。当院では病棟業務の効率化のために、電子カルテ導入を機に無線LANによる服薬指導システムを構築しました。ノートパソコンで医師の服薬指導依頼を確認し、担当患者さんを選択すると自動的に患者情報を取り込むことができます。薬剤部に戻らなくてもどこででも確認や記録ができ、指導記録も電子カルテに反映されるので他職種との情報共有もできています。

■病棟業務のさらなる拡充のための課題宮本 次に、病棟業務をさらに拡充するための課題について、議論したいと思います。

岩井 1日4時間、病棟で活動するためには、薬剤師の居場所が必要となります。当院は病棟にスペースがありません。このため、苦肉の策として一人に一台可動式ワゴンを用意し、立ったままでベッドサイドやナースステーションでパソコンの操作ができるようにしています。病棟での居場所は早期に確保したいと考えています。

宮本 今までの薬剤師業務のハンディは、他職種から見えないところで仕事をしていたことにあるのではないでしょうか。当院でも設計段階では薬剤師の病棟薬剤業務を想定していなかったため、病棟に混注するスペースがなく、薬剤部の中で作業をしてデリバリーしています。人員配置も必要ですが、まず病棟に常にいるという環境を作ること、それが病棟業務を推進するための鉄則だと思います。札幌南三条病院ではどのような状況でしょうか。

佐藤 以前は服薬指導記録の記入、持参薬の確認、オーダ入力は薬局に戻ってやらざるを得ない状況でしたが、幸運なことに病棟に薬剤師専用スペースを確保することができました。パソコンやラベルプリンターもあり、隣にはクラークもいて情報共有できる環境になっており、ほとんどの業務を病棟で行っています。

本郷 当院は病棟薬剤師を配置して24年になります。病棟には薬剤師用の電子カルテ端末や薬剤師が使用する書藉類を置くスペースがあります。しかし薬剤師の専用スペースでのみ仕事をしていると他のスタッフに背中を向けてしまうことになりかねません。持参薬の整理や定期処方の配薬時にはそれなりの占有スペースが必要ですが、病棟スタッフの一員として働く際にはあまり自分の居場所にこだわる必要もないように思います。

岩井 薬剤師が病棟にいることは大事ですね。情報収集もできますし、信頼関係もそこで生まれます。経験の少ない薬剤師の場合は、いつ医師から質問されるかわかりませんから、精神的にもきつい状況となりますが、それを乗り越えることで成長できると思います。

宮本 次に、薬剤師の専門性と病棟業務、チーム医療の関係について伺いたいと思います。当院には認定・専門薬剤師として資格を持っている薬剤師が10人程いますが、例えばスポーツファーマシストなどの個々の専門性を尊重しながらいかに病棟業務と絡めて配置していくのか。管理する立場としては、今後配置やローテーションが難しくなると頭を悩ませています。病棟業務がルーチン化されると、専門とか認定とかをどのように活かしていくか見えない状況ですが、その辺はどのように考えていますか。

本郷 当院でも専門や認定の取得に取り組むように言っていますので、ここ数年で認定薬剤師が増えてきました。当院では病棟薬剤師の担当病棟は数年間固定していますので、薬剤師は担当病棟の診療科に関連した資格取得をめざしています。ただし将来、認定薬剤師が増えた時、専門性に応じた病棟に配置できるかどうか、悩ましいところです。がん専門薬剤師をがん患者のいない循環器科病棟に配置しても、知識やスキルを発揮できませんし、本人のモチベーションも下がります。一方で循環器科関連の認定薬剤師制度はありませんから、循環器科を担当する薬剤師は認定薬剤師の取得という目標をもてないのも現実です。またICTやNSTのように診療科、病棟をまたがって活動するチームに所属する薬剤師もいますので、そちらとの人員配置のバランスも考える必要もあり、今後の課題です。

岩井 薬剤師には認定・専門薬剤師の資格取得を推奨しており、病棟業務とも関連させています。しかし、中には1つの病棟を20年間担当している薬剤師がいます。糖尿病等の認定・専門薬剤師には、認定更新のためにも担当病棟を動かすことは難しい状況です。NSTなどチーム医療への参加も求められていますが、病棟業務の確立が優先されるとなると、現実問題としてローテーションすることは難しくなるのではないでしょうか。

■病棟薬剤業務の有用性検証にむけて宮本 今後、病棟業務の有用性についてエビデンスを提示するためにも、薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務をしっかり区分して検証する必要があります。日本病院薬剤師会の指針では、投薬前までが病棟薬剤業務、投薬後が薬剤管理指導業務に当たると説明していますが、その区分は現実的でしょうか。

本郷 保険点数が薬剤管理指導料と病棟薬剤業務実施加算という2つに分かれてしまっている現状で、それぞれを区分して有用性を検証するといった考え方がでるのは仕方がないと理解しています。しかし薬物治療は一連の流れですから、それを現場で分けることは非常に難しいと思います。このような判断基準では副作用のモニタリングは投薬後の業務ですから薬剤管理指導業務ですが、副作用に対する措置、たとえば抗がん剤に対する制吐剤の処方提案などは投与前ですから病棟薬剤業務となります。どこからどこまでが薬剤管理指導業務で、どの時点から病棟薬剤業務となるか、このような判断をすべての患者さんに一人ずつ毎日行な

っていく事は、現場で相当な混乱が生じます。ただ投薬前の業務としての意識付けにはプレアボイドの未然回避報告のような業務を行うよう指導することが有効ではないでしょうか。

宮本 次に、各病棟における業務内容と要した時間を記録する「業務日誌」の作成が必要ですが、これについてはどう対応されていますか。

佐藤 当院では汎用のデータベースソフトで、業務日誌を作成しています。何時から何時にどの業務を実施したかをボタンの選択で簡単に記録でき、1週間の集計も自動的にできます。患者さんごとの日報について、どこまで具体的に記録を残すかの課題はありますが、最初はあまり業務内容を規定せずに、何でもやってもらった方がいいと思っています。自分自身で病棟での役割を探していく中で、業務の効率化やスキルアップに取り組めるようになります。

本郷 必要とされる業務日誌のようにどのような業務をいつからいつまで行ったかという区別は現場では明確にできません。あらゆる業務は並行して行われています。とは言っても算定要件をクリアしなければならず苦労しています。現状では厚生労働省から示されたものと同様の書式に記載していますが、2週間でファイル1冊分となります。これを5年間保管するのは大変です。現在、効率化と保管の面から電子カルテネットワーク上で利用できるプログラムを検討しています。

■評価される病棟業務をめざして宮本 どの施設も薬剤業務に対する確固たる信念のもと、施設の規模や機能に応じてよく考えられた仕組みを作られていることがよく分かりました。最後に、今後の病棟業務の方向性と展望をお聞かせください。

岩井 全病棟での実施が算定要件のため、当院が算定するためには、病棟業務を行っていない病棟にも活動を広げる必要があります。単純に1人1病棟としても6~7人が不足していることになりますが、人がいないから無理だとは言えません。薬剤管理指導業務を実施する対象を早急に増やし、他のスタッフや病院経営側の理解を得ながら今後の方向性を探っていこうと考えています。

宮本 当院も同じです。体制が整う前に見切り発車はしない。まずは試行的にやってみようという方針です。薬剤管理指導業務だけでもいいので、とにかく病棟に入っていく環境を作っていこうと考えています。私の理想は、専門性の高い薬剤師を各診療科に専従で配置して、医局の一員として医師と一緒に薬物療法に深く関わることです。今はまだ夢ですが、何とか実現したいと思っています。

佐藤 全病棟への常駐という第一段階の目標は達成しましたが、忙しい時間帯は皆同じなので、病棟業務が多忙な時は薬局に薬剤師が一時不在になること、また薬剤師が休んだ時の対応をどうするかなど、改善すべき点はまだまだあります。いまも毎週のようにミーティングをして業務内容を細かく見直し、全員で業務の標準化に取り組んでいるところです。現在は薬剤師が病棟にいることに対し、医師をはじめ他職種から非常に感謝されています。これを薬剤師への信頼に変えていくととも

に、病棟業務を確立することが今年1年間の目標です。

本郷 当院では20年以上前から1人1病棟の担当で病棟薬剤師業務を行なってきました。しかしこの間、病院の機能は変化し、平均在院日数は18日から11日と短縮し、DPCの導入により持参薬の活用機会が増え、管理には手間もかかります。また緊急性の高い措置を必要とする患者さんは年々増えています。そのような中、看護師は7:1看護に移行し増員され、医師数も約2倍となりました。病棟薬剤師だけが1人1病棟という体制を継続しているのですが完全にオーバーワークですし、当直明け等での不在時にもバックアップできる余裕はなく、配薬などを看護師に手伝ってもらうこともあります。経営側には薬剤師の増員がさらに必要なことは理解していただいているため、1病棟薬剤師2人として、より充実した病棟薬剤師業務を確立し、その責任を全うできる体制にしたいと考えています。私が病棟に行き始めた頃、一緒に仕事をしていた医師から、「責任のない仕事は面白くないし、やりがいもないよ」と言われたことが今も心に残っています。

宮本 私が危惧するのは、経営側の意向で準備不足のまま病棟業務を始めてしまう病院がないかということです。次回の診療報酬改定に向け、薬剤師の病棟業務について「調査・検証」が行われることを念頭に置きながら、情報収集をしっかりし確実に業務を実施すること、しっかり記録を残すことを徹底しないといけません。また、病棟業務にばかり傾注してしまって、調剤など他の業務で事故が起こることがないように、基本的な業務を担保しておく必要もありますね。

岩井 どう担保するかが薬剤部を運営する上で、喫緊の課題だと思います。それは例えば、薬剤師が処方せんを見て一から調剤することではないはずです。まずは薬剤部全体の業務体制と方針をしっかり確立する必要があります。

宮本 薬剤師が地道に取り組んできた活動が「病棟薬剤業務」として認知されたことにより、薬剤師への期待や評価はこれまで以上に高くなりました。その分、社会の見る目は厳しくなります。取り組むべき課題は山積していますが、常に検証を重ね、薬物療法の質向上に貢献する薬剤業務を確立していかなければなりません。今後とも情報交換をしながら、お互いに研鑽をしていきましょう。

 2012年度の診療報酬改定により「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬学6年制の第一期生が社会に巣立った年に、新たな薬剤師業務が動き出すことに感慨を覚えます。診療報酬における評価はもちろん重要ですが、実施加算の算定の有無にかかわらず、薬剤師は薬のスペシャリストとして、医療へのさらなる貢献をめざすことが責務と言えます。本日は、大学病院、公立病院、民間総合病院、そして専門病院と、規模も組織も異なる病院の薬剤部長にお集まりいただきました。このうち札幌南三条病院と手稲渓仁会病院は4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。それぞれの施設の現状を踏まえて忌憚なく話し合う中から、今後の病棟業務の方向性を見いだすことができればと思います。

座談会開催にあたって [司会] 札幌医科大学附属病院 薬剤部長 宮本  篤 先生

病棟薬剤業務の意義と目的(市立札幌病院)資料1 病棟業務の具体的内容 (手稲渓仁会病院)資料2病棟薬剤師業務日報 入力画面(札幌南三条病院)資料3

業務時間時間帯を記録

実施薬剤師名を選択

実施時間合計が自動的に算出される

業務内容7つの項目から該当する

業務を選択

※本郷先生提供資料を元に作成

持参薬の内容把握(他院処方、OTCを含む)健康食品等摂取の有無の確認持参薬における不適切な処方の有無の確認休薬を要する薬剤(術前の抗血小板薬など)の有無の確認過去の副作用・アレルギー歴の確認

服薬指導(定期薬等の配薬を含む)

薬剤の効果・副作用の確認

退院時処方の有無並びに処方内容の確認(処方内容の薬学的チェック、次回外来受診までの残数不足の有無等)入院中の処方変更について患者へ情報提供入院中に副作用が発現した場合は副作用カードを提供必要に応じ、かかりつけ薬局へ入院中の薬物療法に関して情報提供(薬薬連携)

他科処方を含め内服・外用・注射薬の全てを把握

臨床検査値モニタリング

禁忌・相互作用・同効薬重複の有無の確認投与経路・投与速度の確認体重、体表面積、肝・腎機能に応じた用法・用量の検討薬物血中濃度に基づいた処方設計検査値異常に現れる副作用の早期発見・対処

より適切な薬剤や投与量への変更を提言

副作用モニタリングに必要な検査の依頼

過去の副作用・アレルギー歴の確認

肝・腎機能等の確認

治療方針の確認

医師・看護師への持参薬情報提供

持参薬の入院後継続あるいは変更の確認

入院時

入院中

退院時

カルテ等による患者情報の収集患者面談 他のスタッフとの関わり①薬物療法の質的向上・臨床に直結した医薬品情報のサービス・処方箋による注射管理  ・薬歴管理  ・服薬指導

②患者サービスの向上・患者個々の理解力やニーズに対応した テーラーメイドの情報提供

③チーム医療の充実・各職種が得た情報のフィードバック・共有化  →患者利益の向上・医師、看護師、その他の職種が専門性を活かした業務に専念

④薬剤業務拡大・薬が関わる全てのリスクマネジメントへの貢献

薬物療法における医師と薬剤師の協働(イメージ)資料:厚生労働省保険局医療課「平成24年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要」より

医師等と協働して行う薬物療法業務

薬剤管理指導業務

資料4

医師

(持参薬の確認・評価)

医師

医師

医師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

処方へのフィードバック

的確な診断

最適な処方

調剤

服薬指導正確な使用

効果と副作用の評価

薬効・副作用モニタリング結果の伝達

・処方の提案・同一処方継続可否の提案

薬物療法プロトコルについて提案、協働で作成、協働で進行管理

医薬品適正使用サイクル

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発行月 : 平成24年8月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 北海道版

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

札幌医科大学附属病院 薬剤部長宮本  篤 先生市立札幌病院 薬剤部長岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長佐藤 秀紀 先生手稲渓仁会病院 薬剤部長本郷 文教 先生

[司会]

札幌医科大学附属病院 薬剤部長

みや もと     あつし

宮本  篤 先生(司会)

手稲渓仁会病院 薬剤部長

ほん ごう  ふみ のり

本郷 文教 先生市立札幌病院 薬剤部長

いわ  い   しん  じ

岩井 新治 先生札幌南三条病院 薬剤部長

さ  とう  ひで き

佐藤 秀紀 先生

特別号 北海道版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■薬剤部の方針と病棟業務の現状宮本 最初に、各施設における現状の業務体制および業務内容について、紹介していただきたいと思います。まず札幌医科大学附属病院の現状からお話しします。当院は、25診療科、938床の医科系大学附属の総合病院として、医療者の育成のほか、特定機能病院、高度救命救急センター、災害拠点病院など幅広い役割を担っています。現在、薬剤師は35人。25診療科のうち15診療科で担当薬剤師4人がフルタイムで薬剤管理指導業務を実施しています。薬剤管理指導料算定件数は月平均で約350件です。実は、当院では2006年に特定機能病院等に対して行われる特定共同指導があり、薬剤管理指導料の算定について業務記録や投薬歴の把握に一部不十分な例があったため、厚生労働省より指導を受けました。それを境に、より中身の濃い薬剤管理指導を徹底した結果、算定件数が月平均400件程度から減少した経緯があります。当院が提供する医療は幅広く専門的な領域におよぶことから、薬剤部として

もオールラウンドに対応できる総合力と専門性に基づく業務展開をめざしています。 それでは、次に4月から病棟薬剤業務実施加算の算定を開始されています札幌南三条病院の佐藤先生から現状の業務体制・業務内容の紹介をお願いします。

佐藤 札幌南三条病院は99床の中小病院です。呼吸器疾患、特に肺がんの診療を中心としており、平均在院日数は11.3日です。4フロアのうち3フロア75床が呼吸器内科で、24床が呼吸器外科です。「病棟薬剤業務実施加算」の新設を見越して2011年4月から病棟常駐化を試験的に開始し、7月に全病棟に拡大しました。薬剤師7人のうち、私を除く6人がシフト制で病棟業務を担当しています。1日の業務体制は、4人が病棟業務を、3人が調剤、無菌調製、手術に用いる注射薬のセット出しなどを行います。薬剤管理指導料の算定件数は月平均440件ですが、がん治療に特化していることから、86%はハイリスク薬です。抗がん剤治療のために定期的に入院

する患者さんが多く、その都度入院病棟が変わります。そこで、どの病棟に入院しても同じ薬剤師が担当する「患者担当制」を従来から採用していました。常駐化により「病棟担当制」を導入してからも、服薬指導は担当する患者さんの病棟まで出向いて行っています。この点が当院の特徴だと思います。

宮本 手稲渓仁会病院も4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。どのような体制で実現したのか、本郷先生ご紹介をお願いします。

本郷 当院はドクターヘリの基地病院として急性期総合医療を担うとともに地域がん診療連携拠点病院としてがん治療にも積極的に取り組んでいます。診療科は33科、病棟は臓器別編成で13の一般病棟と救命病棟、ICU、SCU等の計550床で、平均在院日数は11.1日、病床稼働率95%です。薬剤師はこの春、10人採用して41人になりました。1987年の開院時、当時の院長から「専門分野は専門職が行う。薬に関することは薬剤師が行う」という方針が院内で示されたため、開院時から注射剤は処方せんに基づき薬剤部で混注して供給していましたし、開院2年目から順次、病棟に薬剤師を配置して入院患者さんのケアにあたってきました。今回の病棟薬剤業務実施加算の算定にあたっては、正常分娩が大多数を占める産科病棟で、薬剤師がどのような業務に取り組み週20時間を確保するかという問題のほか、病棟業務日誌を新たに作成しなければなりませんでしたが、他の病棟では従来通りの業務で対応できています。

宮本 次に市立札幌病院の現状の業務体制・業務内容について岩井先生、ご紹介をお願いします。

岩井 市立札幌病院の病床数は810床、薬剤師は32人です。薬剤管理指導業務は病棟での臨床薬剤業務であるというコンセプトのもと、1993年に循環器内科から病棟業務を開始し、徐々に対象病棟を拡大してきました。現在は17病棟のうち8病棟で薬剤管理指導業務を実施し、算定件数は月平均800件を超えています。注射薬の個人別セットのほか医師回診やカンファレンスにも参加しています。診療科も多いので、せめてフロア対応できるように薬剤師の配置を考えていますが、2つの診療科を持つこと自体も非常に難しい状況で、人員の入れ替わりなどもあり、ここ数年は病棟の薬剤業務をなかなか拡大できない状況でした。しかし、病棟薬剤業務実施加算を算定してほしいという病院経営側の意向は強いものがあります。以前の100点業務(1988年に新設された入院調剤技術基本料)が20年かかっても全病棟に広がらないことからも分かるように、当院のような診療科の多い病院では難しいという現実もありますので、これからどう進めていこうかと計画を立てているところです。

■病棟業務でめざすもの宮本 それでは次に病棟業務の実際、また、めざす方向性について先生方のお考えをお聞かせ下さい。

佐藤 先ほど、当院が担当制を導入して薬剤師を常駐化したと話しましたが、病棟常駐化をめざした最大の目的は、処方提案やモニタリングを行うためです。余力があれば配薬や与薬準備などをしようと考えていました。現在、実施できているのは処方提案、処方意図の把握、医療スタッフへの助言・相談応需などです。処方提案のためにも医師と看護師の申し送りに同席し、病棟担当薬剤師が収集した情報を患者担当薬剤師に伝達しています。看護師からは、医師への処方依頼の負担が軽減した、薬剤に関する質問にすぐ答

えてもらえるなど高く評価されています。理想は、処方設計や処方介入がどの薬剤師も当たり前にできるようになって医師からの信頼を獲得することです。とにかく医師と話すようにと、スタッフには指導しています。

本郷 私自身20年近く病棟薬剤師をやってきましたので、その経験からですが、医師たちは病気の診断や治療のアウトカムはカンファレンスで詳細な検討を行い、治療計画を立てますが、具体的な薬剤名や投与量は主治医に任されることが多いようです。薬剤師は医師と異なる視点で薬物療法を評価できなければ、その医療チームにおける存在意義が少ないと思います。そのような考えで薬剤師は薬物療法の安全性と経済性の視点からも薬物療法を評価し、医師に処方提案するように指導しています。当院は臨床研修指定病院ですから、60名近い初期研修医をはじめ経験の少ない医師が多くいますが、病棟薬剤師が処方設計時に患者さんの状態を考慮した投与量や併用薬を指導する機会も多くあります。そのうちの幾つかはプレアボイド報告としてまとめていますが、昨年度までに2250件に達しています。また病棟薬剤師は病棟スタッフとして働くと同時に薬剤部スタッフとしての役割、業務もあります。担当病棟の常備薬の補充や薬品管理室と連携して棚卸しや有効期限のチェックも行います。また薬事委員会に提出する資料作成時には医薬品情報室の薬剤師と共に医師らと協議するなど多岐にわたる業務を担っています。

岩井 病棟業務でめざすのは、薬物療法の質的向上、患者サービスの向上、処方提案などによるチーム医療の充実、そしてさらなる薬剤師業務の拡大です。薬にかかわる全てのリスクマネジメントに貢献する業務を行うとともに、医師、看護師、栄養士などと協働して患者さんのQOL向上に貢献したいと考えています。当院では病棟業務の効率化のために、電子カルテ導入を機に無線LANによる服薬指導システムを構築しました。ノートパソコンで医師の服薬指導依頼を確認し、担当患者さんを選択すると自動的に患者情報を取り込むことができます。薬剤部に戻らなくてもどこででも確認や記録ができ、指導記録も電子カルテに反映されるので他職種との情報共有もできています。

■病棟業務のさらなる拡充のための課題宮本 次に、病棟業務をさらに拡充するための課題について、議論したいと思います。

岩井 1日4時間、病棟で活動するためには、薬剤師の居場所が必要となります。当院は病棟にスペースがありません。このため、苦肉の策として一人に一台可動式ワゴンを用意し、立ったままでベッドサイドやナースステーションでパソコンの操作ができるようにしています。病棟での居場所は早期に確保したいと考えています。

宮本 今までの薬剤師業務のハンディは、他職種から見えないところで仕事をしていたことにあるのではないでしょうか。当院でも設計段階では薬剤師の病棟薬剤業務を想定していなかったため、病棟に混注するスペースがなく、薬剤部の中で作業をしてデリバリーしています。人員配置も必要ですが、まず病棟に常にいるという環境を作ること、それが病棟業務を推進するための鉄則だと思います。札幌南三条病院ではどのような状況でしょうか。

佐藤 以前は服薬指導記録の記入、持参薬の確認、オーダ入力は薬局に戻ってやらざるを得ない状況でしたが、幸運なことに病棟に薬剤師専用スペースを確保することができました。パソコンやラベルプリンターもあり、隣にはクラークもいて情報共有できる環境になっており、ほとんどの業務を病棟で行っています。

本郷 当院は病棟薬剤師を配置して24年になります。病棟には薬剤師用の電子カルテ端末や薬剤師が使用する書藉類を置くスペースがあります。しかし薬剤師の専用スペースでのみ仕事をしていると他のスタッフに背中を向けてしまうことになりかねません。持参薬の整理や定期処方の配薬時にはそれなりの占有スペースが必要ですが、病棟スタッフの一員として働く際にはあまり自分の居場所にこだわる必要もないように思います。

岩井 薬剤師が病棟にいることは大事ですね。情報収集もできますし、信頼関係もそこで生まれます。経験の少ない薬剤師の場合は、いつ医師から質問されるかわかりませんから、精神的にもきつい状況となりますが、それを乗り越えることで成長できると思います。

宮本 次に、薬剤師の専門性と病棟業務、チーム医療の関係について伺いたいと思います。当院には認定・専門薬剤師として資格を持っている薬剤師が10人程いますが、例えばスポーツファーマシストなどの個々の専門性を尊重しながらいかに病棟業務と絡めて配置していくのか。管理する立場としては、今後配置やローテーションが難しくなると頭を悩ませています。病棟業務がルーチン化されると、専門とか認定とかをどのように活かしていくか見えない状況ですが、その辺はどのように考えていますか。

本郷 当院でも専門や認定の取得に取り組むように言っていますので、ここ数年で認定薬剤師が増えてきました。当院では病棟薬剤師の担当病棟は数年間固定していますので、薬剤師は担当病棟の診療科に関連した資格取得をめざしています。ただし将来、認定薬剤師が増えた時、専門性に応じた病棟に配置できるかどうか、悩ましいところです。がん専門薬剤師をがん患者のいない循環器科病棟に配置しても、知識やスキルを発揮できませんし、本人のモチベーションも下がります。一方で循環器科関連の認定薬剤師制度はありませんから、循環器科を担当する薬剤師は認定薬剤師の取得という目標をもてないのも現実です。またICTやNSTのように診療科、病棟をまたがって活動するチームに所属する薬剤師もいますので、そちらとの人員配置のバランスも考える必要もあり、今後の課題です。

岩井 薬剤師には認定・専門薬剤師の資格取得を推奨しており、病棟業務とも関連させています。しかし、中には1つの病棟を20年間担当している薬剤師がいます。糖尿病等の認定・専門薬剤師には、認定更新のためにも担当病棟を動かすことは難しい状況です。NSTなどチーム医療への参加も求められていますが、病棟業務の確立が優先されるとなると、現実問題としてローテーションすることは難しくなるのではないでしょうか。

■病棟薬剤業務の有用性検証にむけて宮本 今後、病棟業務の有用性についてエビデンスを提示するためにも、薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務をしっかり区分して検証する必要があります。日本病院薬剤師会の指針では、投薬前までが病棟薬剤業務、投薬後が薬剤管理指導業務に当たると説明していますが、その区分は現実的でしょうか。

本郷 保険点数が薬剤管理指導料と病棟薬剤業務実施加算という2つに分かれてしまっている現状で、それぞれを区分して有用性を検証するといった考え方がでるのは仕方がないと理解しています。しかし薬物治療は一連の流れですから、それを現場で分けることは非常に難しいと思います。このような判断基準では副作用のモニタリングは投薬後の業務ですから薬剤管理指導業務ですが、副作用に対する措置、たとえば抗がん剤に対する制吐剤の処方提案などは投与前ですから病棟薬剤業務となります。どこからどこまでが薬剤管理指導業務で、どの時点から病棟薬剤業務となるか、このような判断をすべての患者さんに一人ずつ毎日行な

っていく事は、現場で相当な混乱が生じます。ただ投薬前の業務としての意識付けにはプレアボイドの未然回避報告のような業務を行うよう指導することが有効ではないでしょうか。

宮本 次に、各病棟における業務内容と要した時間を記録する「業務日誌」の作成が必要ですが、これについてはどう対応されていますか。

佐藤 当院では汎用のデータベースソフトで、業務日誌を作成しています。何時から何時にどの業務を実施したかをボタンの選択で簡単に記録でき、1週間の集計も自動的にできます。患者さんごとの日報について、どこまで具体的に記録を残すかの課題はありますが、最初はあまり業務内容を規定せずに、何でもやってもらった方がいいと思っています。自分自身で病棟での役割を探していく中で、業務の効率化やスキルアップに取り組めるようになります。

本郷 必要とされる業務日誌のようにどのような業務をいつからいつまで行ったかという区別は現場では明確にできません。あらゆる業務は並行して行われています。とは言っても算定要件をクリアしなければならず苦労しています。現状では厚生労働省から示されたものと同様の書式に記載していますが、2週間でファイル1冊分となります。これを5年間保管するのは大変です。現在、効率化と保管の面から電子カルテネットワーク上で利用できるプログラムを検討しています。

■評価される病棟業務をめざして宮本 どの施設も薬剤業務に対する確固たる信念のもと、施設の規模や機能に応じてよく考えられた仕組みを作られていることがよく分かりました。最後に、今後の病棟業務の方向性と展望をお聞かせください。

岩井 全病棟での実施が算定要件のため、当院が算定するためには、病棟業務を行っていない病棟にも活動を広げる必要があります。単純に1人1病棟としても6~7人が不足していることになりますが、人がいないから無理だとは言えません。薬剤管理指導業務を実施する対象を早急に増やし、他のスタッフや病院経営側の理解を得ながら今後の方向性を探っていこうと考えています。

宮本 当院も同じです。体制が整う前に見切り発車はしない。まずは試行的にやってみようという方針です。薬剤管理指導業務だけでもいいので、とにかく病棟に入っていく環境を作っていこうと考えています。私の理想は、専門性の高い薬剤師を各診療科に専従で配置して、医局の一員として医師と一緒に薬物療法に深く関わることです。今はまだ夢ですが、何とか実現したいと思っています。

佐藤 全病棟への常駐という第一段階の目標は達成しましたが、忙しい時間帯は皆同じなので、病棟業務が多忙な時は薬局に薬剤師が一時不在になること、また薬剤師が休んだ時の対応をどうするかなど、改善すべき点はまだまだあります。いまも毎週のようにミーティングをして業務内容を細かく見直し、全員で業務の標準化に取り組んでいるところです。現在は薬剤師が病棟にいることに対し、医師をはじめ他職種から非常に感謝されています。これを薬剤師への信頼に変えていくととも

に、病棟業務を確立することが今年1年間の目標です。

本郷 当院では20年以上前から1人1病棟の担当で病棟薬剤師業務を行なってきました。しかしこの間、病院の機能は変化し、平均在院日数は18日から11日と短縮し、DPCの導入により持参薬の活用機会が増え、管理には手間もかかります。また緊急性の高い措置を必要とする患者さんは年々増えています。そのような中、看護師は7:1看護に移行し増員され、医師数も約2倍となりました。病棟薬剤師だけが1人1病棟という体制を継続しているのですが完全にオーバーワークですし、当直明け等での不在時にもバックアップできる余裕はなく、配薬などを看護師に手伝ってもらうこともあります。経営側には薬剤師の増員がさらに必要なことは理解していただいているため、1病棟薬剤師2人として、より充実した病棟薬剤師業務を確立し、その責任を全うできる体制にしたいと考えています。私が病棟に行き始めた頃、一緒に仕事をしていた医師から、「責任のない仕事は面白くないし、やりがいもないよ」と言われたことが今も心に残っています。

宮本 私が危惧するのは、経営側の意向で準備不足のまま病棟業務を始めてしまう病院がないかということです。次回の診療報酬改定に向け、薬剤師の病棟業務について「調査・検証」が行われることを念頭に置きながら、情報収集をしっかりし確実に業務を実施すること、しっかり記録を残すことを徹底しないといけません。また、病棟業務にばかり傾注してしまって、調剤など他の業務で事故が起こることがないように、基本的な業務を担保しておく必要もありますね。

岩井 どう担保するかが薬剤部を運営する上で、喫緊の課題だと思います。それは例えば、薬剤師が処方せんを見て一から調剤することではないはずです。まずは薬剤部全体の業務体制と方針をしっかり確立する必要があります。

宮本 薬剤師が地道に取り組んできた活動が「病棟薬剤業務」として認知されたことにより、薬剤師への期待や評価はこれまで以上に高くなりました。その分、社会の見る目は厳しくなります。取り組むべき課題は山積していますが、常に検証を重ね、薬物療法の質向上に貢献する薬剤業務を確立していかなければなりません。今後とも情報交換をしながら、お互いに研鑽をしていきましょう。

 2012年度の診療報酬改定により「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。薬学6年制の第一期生が社会に巣立った年に、新たな薬剤師業務が動き出すことに感慨を覚えます。診療報酬における評価はもちろん重要ですが、実施加算の算定の有無にかかわらず、薬剤師は薬のスペシャリストとして、医療へのさらなる貢献をめざすことが責務と言えます。本日は、大学病院、公立病院、民間総合病院、そして専門病院と、規模も組織も異なる病院の薬剤部長にお集まりいただきました。このうち札幌南三条病院と手稲渓仁会病院は4月から病棟薬剤業務実施加算を算定されています。それぞれの施設の現状を踏まえて忌憚なく話し合う中から、今後の病棟業務の方向性を見いだすことができればと思います。

座談会開催にあたって [司会] 札幌医科大学附属病院 薬剤部長 宮本  篤 先生

病棟薬剤業務の意義と目的(市立札幌病院)資料1 病棟業務の具体的内容 (手稲渓仁会病院)資料2病棟薬剤師業務日報 入力画面(札幌南三条病院)資料3

業務時間時間帯を記録

実施薬剤師名を選択

実施時間合計が自動的に算出される

業務内容7つの項目から該当する

業務を選択

※本郷先生提供資料を元に作成

持参薬の内容把握(他院処方、OTCを含む)健康食品等摂取の有無の確認持参薬における不適切な処方の有無の確認休薬を要する薬剤(術前の抗血小板薬など)の有無の確認過去の副作用・アレルギー歴の確認

服薬指導(定期薬等の配薬を含む)

薬剤の効果・副作用の確認

退院時処方の有無並びに処方内容の確認(処方内容の薬学的チェック、次回外来受診までの残数不足の有無等)入院中の処方変更について患者へ情報提供入院中に副作用が発現した場合は副作用カードを提供必要に応じ、かかりつけ薬局へ入院中の薬物療法に関して情報提供(薬薬連携)

他科処方を含め内服・外用・注射薬の全てを把握

臨床検査値モニタリング

禁忌・相互作用・同効薬重複の有無の確認投与経路・投与速度の確認体重、体表面積、肝・腎機能に応じた用法・用量の検討薬物血中濃度に基づいた処方設計検査値異常に現れる副作用の早期発見・対処

より適切な薬剤や投与量への変更を提言

副作用モニタリングに必要な検査の依頼

過去の副作用・アレルギー歴の確認

肝・腎機能等の確認

治療方針の確認

医師・看護師への持参薬情報提供

持参薬の入院後継続あるいは変更の確認

入院時

入院中

退院時

カルテ等による患者情報の収集患者面談 他のスタッフとの関わり①薬物療法の質的向上・臨床に直結した医薬品情報のサービス・処方箋による注射管理  ・薬歴管理  ・服薬指導

②患者サービスの向上・患者個々の理解力やニーズに対応した テーラーメイドの情報提供

③チーム医療の充実・各職種が得た情報のフィードバック・共有化  →患者利益の向上・医師、看護師、その他の職種が専門性を活かした業務に専念

④薬剤業務拡大・薬が関わる全てのリスクマネジメントへの貢献

薬物療法における医師と薬剤師の協働(イメージ)資料:厚生労働省保険局医療課「平成24年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要」より

医師等と協働して行う薬物療法業務

薬剤管理指導業務

資料4

医師

(持参薬の確認・評価)

医師

医師

医師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

薬剤師

処方へのフィードバック

的確な診断

最適な処方

調剤

服薬指導正確な使用

効果と副作用の評価

薬効・副作用モニタリング結果の伝達

・処方の提案・同一処方継続可否の提案

薬物療法プロトコルについて提案、協働で作成、協働で進行管理

医薬品適正使用サイクル