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中学校社会科のしおり 2016 ② ほりさげ授業研究 地理 アクティブ・ラーニングを取り入れた 地域の持続発展を主体的に考える力を育てる指導プラン ~「北海道地方・歴史的背景を中核とした考察」を事例として~ 東京都板橋区立赤塚第二中学校 主任教諭 中野英水 1 はじめに アクティブ・ラーニング(以下,AL)と いう言葉が飛びかうようになったのは,平成 26年,当時の下村文部科学大臣が諮問の中で 「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的 に学ぶ学習(いわゆる『アクティブ・ラーニ ング』)」の充実の必要性を述べたことなどに よる。新しい学習指導要領の骨格が見えてき ている中で,ALはこれからのスタンダード となる学習形態であろう。社会科学習におい てALの手法をどのように取り入れ,授業を 充実させていくかということが議論となる。 本稿では,中学校社会科でのALのあり方 や留意点等について,筆者の実践から見えて きたことを前半で論じる。また後半では,A Lを取り入れた地域の持続発展を主体的に考 える力を育てる授業例として,地理的分野の 指導プランを示したい。 2 アクティブ・ラーニングについて (1)手段としてのアクティブ・ラーニング 前述のように下村文部科学大臣(当時)の諮 問では, 「課題の発見と解決に向けて主体的・ 協働的に学ぶ学習」とされている。また,教 育再生実行会議の第七次提言(平成27年5月 14日)では,「課題解決に向けた主体的・協働 的で,能動的な学び」とされている。さらに 中教審・教育課程企画特別部会による論点整 理(同年8月26日)では, 「課題の発見・解決に 向けた主体的・能動的な学び」とされている。 この三つをまとめて解釈すると,ALとは, 「生徒がお互いに協働して,生徒が主体的, 能動的に学ぶ学習」といえよう。つまり,生 徒が協働的,主体的,能動的になるのである から,ALは学習の手段(学習方法)である と筆者はとらえている。あくまで手段である から,ALを使ってどのような力を生徒に身 につけさせるかが大切なのである。まず学習 目標があり,それを達成する手段としてどの ようなALが効果的なのかという考え方で授 業を組み立てることが重要である。 (2)生徒につけさせたい資質・能力 ALが目標ではないとすると,何が目標な のか。参考になるのが,論点整理の2(2) に示された資質・能力の三要素(三つの柱) である。ここでは三要素を①「何を知ってい るか,何ができるか(個別の知識・技能)」, ②「知っていること・できることをどう使う か(思考力・判断力・表現力等)」,③「どの ように社会・世界と関わり,よりよい人生を 送るか(学びに向かう力,人間性等)」(番号 は筆者による)とし,「発達に応じて,これ ら三つをそれぞれバランスよくふくらませな がら,子供たちが大きく成長していけるよう (中略)各教科等の文脈の中で身に付けてい く力と,教科横断的に身に付けていく力とを 相互に関連付けながら育成していく必要があ る」としている。 これを参考にし,実践で見えてきたものを - 26 -

地理 アクティブ・ラーニングを取り入れた 地域の持続発展を主 … · 4 アクティブ・ラーニングを どのように評価するか (1)指導のサイクルから評価を考える

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中学校社会科のしおり 2016 ②

ほりさげ授業研究 地理

アクティブ・ラーニングを取り入れた地域の持続発展を主体的に考える力を育てる指導プラン

~「北海道地方・歴史的背景を中核とした考察」を事例として~

東京都板橋区立赤塚第二中学校 主任教諭 中野英水

1 はじめに

 アクティブ・ラーニング(以下,AL)という言葉が飛びかうようになったのは,平成26年,当時の下村文部科学大臣が諮問の中で

「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる『アクティブ・ラーニング』)」の充実の必要性を述べたことなどによる。新しい学習指導要領の骨格が見えてきている中で,ALはこれからのスタンダードとなる学習形態であろう。社会科学習においてALの手法をどのように取り入れ,授業を充実させていくかということが議論となる。 本稿では,中学校社会科でのALのあり方や留意点等について,筆者の実践から見えてきたことを前半で論じる。また後半では,ALを取り入れた地域の持続発展を主体的に考える力を育てる授業例として,地理的分野の指導プランを示したい。

2 アクティブ・ラーニングについて

(1)手段としてのアクティブ・ラーニング 前述のように下村文部科学大臣(当時)の諮問では,「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」とされている。また,教育再生実行会議の第七次提言(平成27年5月14日)では,「課題解決に向けた主体的・協働的で,能動的な学び」とされている。さらに中教審・教育課程企画特別部会による論点整理(同年8月26日)では,「課題の発見・解決に

向けた主体的・能動的な学び」とされている。 この三つをまとめて解釈すると,ALとは,

「生徒がお互いに協働して,生徒が主体的,能動的に学ぶ学習」といえよう。つまり,生徒が協働的,主体的,能動的になるのであるから,ALは学習の手段(学習方法)であると筆者はとらえている。あくまで手段であるから,ALを使ってどのような力を生徒に身につけさせるかが大切なのである。まず学習目標があり,それを達成する手段としてどのようなALが効果的なのかという考え方で授業を組み立てることが重要である。(2)生徒につけさせたい資質・能力 ALが目標ではないとすると,何が目標なのか。参考になるのが,論点整理の2(2)に示された資質・能力の三要素(三つの柱)である。ここでは三要素を①「何を知っているか,何ができるか(個別の知識・技能)」,②「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」,③「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びに向かう力,人間性等)」(番号は筆者による)とし,「発達に応じて,これら三つをそれぞれバランスよくふくらませながら,子供たちが大きく成長していけるよう

(中略)各教科等の文脈の中で身に付けていく力と,教科横断的に身に付けていく力とを相互に関連付けながら育成していく必要がある」としている。 これを参考にし,実践で見えてきたものを

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総合すると,これからを生きる生徒につけさせたい資質・能力とは,「①これまで得てきた知識や技能を使って,②考えたり判断したりしたことをいろいろな方法で表現し,③社会の持続発展や豊かな人生に向かって行動する力」ではないだろうか。新しい学習指導要領改訂もこのことに留意しており,改訂の視点を,「何を知っているか」だけではなく,

「知っていることを使ってどのように社会・世界と関わり」より良い人生を送るかというところにおき,つけさせたい資質・能力を育むためにはALを含めた指導方法の見直しが必要になってきたのである。 後述する地理的分野の指導プランも,こうした力を育成することを念頭におき,「答えのない社会的な課題を,他者と協働しながら主体的に探究していく力」を社会科における生徒に身につけさせたい力とし,これを受けて地理的分野では「地域的特色の追究をもとに,地域の持続発展(より良い地域づくり)を他者と協働しながら主体的に探究する力」を生徒に身につけさせたい力と設定して作成した。

(3)アクティブ・ラーニングの構成要素 生徒につけさせたい資質・能力を育む効果的なALを設定する際には,論点整理2(3)②が大変参考となる。ここでは指導方法の不断の見直しの必要性を説き,ⅰ)「習得・活用・探究という学習プロセスの中で,問題発見・解決を念頭に置いた深い学びの過程」,ⅱ)「他者との協働や外界との相互作用を通じて,自らの考えを広げ深める,対話的な学びの過程」,ⅲ)「子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み,自らの学習活動を振り返って,次につなげる,主体的な学びの過程」(ローマ数字は論点整理の記述。下線は筆者。)が実現できているかどうかという見直しの視点を示している。この三つがALを設計する際の不可欠な構成要素と考える。 これを実践に即して解釈すると,ⅱ)対話的(協働的)な学びを進めることで ⅲ)自己の主体的な学びを実現し,ⅰ)問題発見・解決を念頭においた深い学びに通じるといえるのではないか。とくに�ⅰ)の「深い学び」が実現できる設計になっているかが重要である。生徒が活発に学習活動に参加することは大切なことではあるが,重要なことは生徒の

「頭がアクティブになること」なのである。いわゆる「活動あって,学びなし」のALとなってしまわないように注意したい。

3 �アクティブ・ラーニングを導入した�指導を充実させるには

(1)習得の重要性 ALが話題になるほど,「今はALこそが学習の正しいあり方で,教える授業スタイルは悪い指導方法である」という誤解と不安があるように感じる。しかしながら,「教える場面と,子供たちに思考・判断・表現させる場面とを効果的に設計し,関連させながら指

【資料1】育成すべき資質・能力の三つの柱を踏まえた日本版カリキュラム・デザインのための概念(出典:文部科学省HP)

どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか

主体性・多様性・協働性学びに向かう力人間性 など

個別の知識・技能 思考力・判断力・表現力等

知っていること・できることをどう使うか

何を知っているか何ができるか

どのように学ぶか(アクティブ・ラーニングの視点から

の不断の授業改善)

学習評価の充実カリキュラム・マネジメントの充実

ほりさげ授業研究 地理

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導していく」ことが大切なのである。 このことは,学校教育法第30条2項の「基礎的な知識及び技能を習得させるとともに」という部分や下村文部科学大臣諮問の「『何を教えるか』という知識の質や量の改善はもちろんのこと」,論点整理の「教える場面と,子供たちに思考・判断・表現させる場面を効果的に設計し関連させながら指導していくことが求められる」,「着実な習得の学習が展開されてこそ,主体的・能動的な活用・探究の

学習を展開することができると考えられる」(下線は筆者による)からも読み取れる。これらの下線部分は,習得と活用・探究のバランスが取れた学習活動が望ましいことを示しているといえる。(2)�アクティブ・ラーニングに対する�

生徒の理解の必要性 生徒のALに対する理解も大切だ。今年度担当している第1学年および第3学年の生徒には,年度当初から「事象には必ず意味がある」という言葉をくり返し伝え,意味を伝えることを重視している。この発想から,授業の構成やグループ学習の意味など,授業方法,学習方法についても説明してきた(資料3,4)。このような意味の指導により,生徒自身も授業の構造,グループ学習の効果や留意点を理解し,より効果的なALが進められていると感じている。

【資料2】学習プロセス概念図(筆者作成)

【資料4】ALについての板書(第3学年)

【資料3】グループ学習の板書(第1学年)

社会に参画する態度〈持続発展に向けての提言や行動〉

表現〈思考の「見える化」〉

学習に対する関心・意欲・態度〈学習活動の土台〉

協働的な学習

社会の事象から

探究的な学習

身近な地域から

思考・判断社会的課題の把握と解決

(個人・集団)

知識・理解〈思考するための道具〉

資料活用の技能〈思考するための道具〉

資料から「読み取る」「読み解く」

学習事項や生活経験から得たもの

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中学校社会科のしおり 2016 ②

4 �アクティブ・ラーニングを�どのように評価するか

(1)指導のサイクルから評価を考える 学習評価の基本的な流れは,「①【目標設定】学習観点や身につけさせたい資質・能力などを具体化した明確な学習目標を設定し,②【授業実践】設定した目標の実現に向けての具体的かつ計画的な授業デザイン(資料収集と提示の仕方,発問や学習形態の工夫,学習の順序や単元構造,ワークシートの工夫や板書計画,ICT機器等の教具の準備など)を準備・実行し,③【授業評価】設定した目標が達成されたか(つけさせたい力は生徒についたか,支援すべき点や配慮する点はどうか,計画した授業デザインは妥当であったかなど)を確認して次に生かす」というサイクルである。 こうした流れが明確にあると,目標が達成できたかどうか,達成できなかったとしたらどこに課題があり,どのように改善すれば良いのかが浮かび上がり,適切な評価につながる。評価とは,目標設定から授業実施までの一連をふり返って,目標達成の度合いを分析するものと考えるとよいであろう。(2)アクティブ・ラーニングの評価 ALをどのように評価するかは難しいとよくいわれる。理由はおよそ以下のとおりであろう。

 ALのような能動的な学習,協働的な学習

を評価するには,授業者による評価の条件設定や評価方法,評価手順等を明確に設定する必要がある。あいまいな評価方法やペーパーテストのみの評価では対応が難しい。そこで筆者は以下のように設定している。

 これに関しては「中学校社会科のしおり」2014年度1学期号の「ほりさげ授業研究 地理」に執筆しているので,そちらをご覧いただけるとありがたい。(3)パフォーマンス評価の有効性 前述のとおり,ALでつけさせたい力を,

「これまで得てきた知識や技能を使って考えたり判断したりしたことを,いろいろな方法で表現し,社会の持続発展や豊かな人生に向かって行動する力」と設定し,社会科としては「答えのない社会的な課題を,他者と協働しながら主体的に探究していく力」とし,地理的分野では「地域的特色の追究をもとに,地域の持続発展(より良い地域づくり)を他者と協働しながら主体的に探究する力」と設定した。こうした力は,いわば社会科学習のさまざま観点を含んだ総括的な力であり,その評価も一工夫がいるであろう。ALの目標を達成するための学習は,協働的,主体的,探究的なより実践を伴った学習であるため,

1:�知識の定着を測るのとは違って,ペーパーテストでは測りにくい。

2:�評価の対象が生徒の思考であり,学習の成果を「見える化」することが難しい。

3:�協働的な学習の場合,集団の中での個人という位置になるため,個人の成果がどのくらいなのかが測りにくい。

4:�協働的な学習形態の場合,同時に複数の集団が異なる活動をしたり,一人の生徒がさまざまな変容をしたりするため,一人の教師では見取りきれない。

前提①:�協働的な学習はあくまで学習方法(手段)であり,学習目標に近づくためのものである。

前提②:�ゆえに評価はあくまで個人のものであり,集団としての評価や集団の中での評価は,支援のための評価であり,評定のための評価はしない。

◆�協働学習中での観察評価(発言の回数や発言の内容など)はせず,生徒の思考の変容や過程をワークシート等で分析し評価する。

◆�さらに評価の誤差を少なくするため,できるだけ多くの課題を出し,ポートフォリオ的に評価する。

◆�評価の回数が多いと,生徒も評価や学習経験を生かして成長し,目標に到達する生徒が増える。

ほりさげ授業研究 地理

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中学校社会科のしおり 2016 ②

単なる表面的な現象を評価するものではなく,基礎的・基本的な知識や技能を活用して思考・判断し,さまざまな方法で表現されたものを評価することが望ましい。 筆者が実践をふまえて有効であると考えるのがパフォーマンス評価である。文部科学省もその有効性に着目し,論点整理には「ペーパーテストの結果に留

とど

まらない,多面的な評価を行っていくことが必要である」と記している。さらに,パフォーマンス評価の有効性を高めるものとしてルーブリック(評価のための基準,指標)の提示が有効である。

 具体的には後述する指導プランを参照いただきたい。パフォーマンス課題は,一般的な学習課題よりもリアルで,実社会の動きに即してつくられるものであり,思考の具体性をよりうながす効果がある。またルーブリックの提示は,教師の目標設定が生徒に伝わり,目標を明確にもった主体的な学習活動に取り組める。社会科や地理的分野の学習を考えてみても,実社会の課題や地域的特色を明確にとらえ,より良い地域や社会をつくり出す力を育むための有効なツールであると考える。

5 �指導プラン「北海道地方・歴史的背景を�中核とした考察」を事例として

 以上のような考えをもとに,地理的分野「北海道地方・歴史的背景を中核とした考察」の単元でALの手法を応用した指導プランを作成した。◆生徒に身につけてもらいたい能力

◆単元の目標 北海道地方について歴史的背景を中核とした考察の仕方をもとにして,地域的特色をとらえさせるとともに,学習の成果を活用して,北海道地方の持続発展を他者と協働しながら主体的に考え,地域の発展に参画する態度を養う。◆単元の評価基準

「パフォーマンス評価」観察や対話による評価,実技テスト,自由記述による筆記テストなどを手がかりに,習得した知識や技能の活用力や,思考力・判断力・表現力等を総括的に評価するもの。「パフォーマンス課題」パフォーマンス評価を実施する際の学習課題。具体的な事例などを設定して,知識や技能の活用を含めた思考力・判断力・表現力を使いこなすように考えられた課題。「ルーブリック」習得した知識や技能の活用力や,それをもとにした思考力・判断力・表現力等を総括的に表すものの特徴を段階的に示した評価の指標(評価基準)。※�パフォーマンスとは,生徒の単なる実技ではなく,習得した知識や技能の活用力や,それをもとにした思考力・判断力・表現力等を総括的に表すものを示す。

答えのない社会的な課題 を他者と協働しながら主体的に探究していく力

地域的特色の追究をもとに,地域の持続発展 (より良い地域づくり)を他者と協働しながら主体的に探究する力

ア:関心・意欲・態度北海道地方の地域的特色や地域の持続発展に対する関心を高め,それを意欲的に追究し,とらえようとしている。

イ:思考・判断・表現北海道地方の地域的特色や地域の持続発展を,歴史的背景を中核とした考察の仕方をもとに多面的・多角的に考察し,その過程や結果を適切に表現している。

ウ:資料活用の技能北海道地方の地域的特色や地域の持続発展に関するさまざまな資料を収集し,有用な情報を適切に選択して,読み取っている。

エ:知識・理解北海道地方について,歴史的背景を中核とした考察の仕方をもとに地域的特色や地域の持続発展を理解し,その知識を身につけている。

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中学校社会科のしおり 2016 ②

◆評価計画

※関心・意欲・態度は単元を通じて評価していく。

◆単元指導計画

◆第5・6時のパフォーマンス課題

◆ルーブリック(地域的特色の活用,地域的特色を生かした思考,持続発展性の3観点でパフォーマンス課題に対する評価基準を作成)

 あなたは北海道庁に就職し,地域活性課(仮)に配属となりました。勤務が始まるとすぐに新人研修が行われ,北海道の自然や産業の特色について学びました。この研修で,北海道の特色は,地域の歴史が大きく背景にあることや,北海道の自然や産業にも良さや課題があることを知りました。 さて,新人研修も最終日となり研修修了試験がおこなわれます。試験の課題は「北海道の良さや課題の克服の歴史を題材とした『観光プラン』を企画し,観光で地域をより良いものにしていく」というものです。研修での学びを生かして北海道の自然環境や産業,地域の特色(良さや課題)を分析し,研修に参加したグループのメンバーとお互いのプランの良いところや改善点を話し合いながら,オリジナリティーある「観光プラン」をつくりましょう。なお,プラン作成にあたっては,「北海道の特色ある歴史を必ず盛り込むこと」という条件がついていますので,注意してください。

関意態 思判表 技能 知理

第1時 ◎ ○ ○

第2時 ○ ◎ ○

第3時 ○ ◎ ○

第4時 ○ ◎ ○

第5時 ◎ ◎

第6時 ◎ ◎

学習項目・学習活動・学習課題

第1時

◆北海道地方の自然環境北海道の自然環境をさまざまな資料から読み取り,広大で冷涼という厳しい自然環境という地域の課題をのりこえてきた歴史に興味をもつ。・�厳しい自然環境に,地域の人々はどのように対応しているのか。

第2時

◆厳しい自然環境を克服した稲作の歴史寒い気候や泥炭地であるなど厳しい自然環境を長年の農地開発や品種改良によって克服した北海道の稲作の歴史を,資料を活用して読み取る。・�石狩平野が全国有数の米の生産地になるために,人々はどのような努力をしてきたのか。

第3時

◆大規模化してきた畑作や酪農,漁業広大な土地を生かした畑作,寒冷な気候でも可能な酪農,厳しい国際情勢の中で工夫する漁業など,さまざまな課題を努力で克服してきた北海道の産業の歴史を,資料を活用して読み取る。・�地形や気候,社会情勢などさまざまな課題を,人々はどのように克服してきたのか。

第4時

◆返還をめざす北方領土の歴史と産業第二次世界大戦後に勃発した北方領土問題が地域経済に今もなお影響を与えていることや,北方領土問題解決に向けての努力の歴史を,資料を活用して読み取る。・�北方領土問題が地域経済(漁業)にどのような影響を与えているのか。

第5時

第6時

◆歴史や北国の自然を生かした観光業北海道の良さや課題の克服の歴史を題材とした「観光プラン」を地域の人々の立場に立って企画し,地域の持続発展を考える。・�北海道の良さや課題の克服の歴史をもとに,観光で地域を持続発展させることを考える。

評価基準の具体的な内容

・�北海道の自然環境や産業,地域の特色(良さや課題)を具体的に生かしたプランである。・�北海道の特色を生かして北海道の活性化をねらった具体的なプランである。・�根拠が示されていて論理的な構造であり,北海道の持続発展を意識したプランである。

・�北海道の自然環境や産業,地域の特色(良さや課題)を生かしたプランである。・�北海道の特色を生かして北海道の活性化をねらったプランである。・北海道の持続発展を意識したプランである。

・�北海道の自然環境や産業,地域の特色(良さや課題)の生かし方が不十分なプランである。・�北海道の特色の生かし方が不十分なプランである。・�北海道の持続発展性が不十分なプランである。

ほりさげ授業研究 地理

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中学校社会科のしおり 2016 ②

◆第5・6時の授業展開

第5時までの個人課題と第5時の展開

○  第4時までの学習内容をワークシートに整理する。

○  良さや課題をふまえながら「観光プラン」の個人原案を考える。

第6時までの個人課題と第6時の展開

○  修正をもとにして観光プランのポスターを作成する。

 本指導プランは資料2の学習プロセス概念図にもとづき作成した。広大で冷涼という厳しい自然環境とそれをのりこえて発展してきた北海道の歴史を学ぶことで,これから始ま

る北海道の学習に対する意欲を高める学習を土台(第1時)として,北海道の良さを生かしたり,課題を克服したりしてきた北海道の産業と歴史について資料から読み取る学習を展開し,北海道の地域的特色をとらえる(第2時〜第4時)。具体的な学習例としては,教科書p.257の写真⑤や資料「防災」と写真⑦(資料5)から広大で冷涼という厳しい自然環境をのりこえてきた工夫を,生徒自身の生活と比較させながら実感させたり,教科書p.258の写真①(資料6)や模式図③,教科書p.261の写真⑧などから課題を克服してきた北海道の産業と歴史をとらえさせたりする。

 また,第2時〜第4時の学習では,地理シリーズ「日本のすがた7北海道地方」や「別巻・日本と世界の領土」も活用すると良い。これらの資料を活用することで,課題を克服してきた北海道の産業と歴史を生徒に考えさ

※�時後に掲示された各クラスの代表作品の中から期間を決めて

投票し最終作品を選ぶ。(ランキング3)

※�他者からの学びやランキングの結果を生かして北海道の地域

的特色や持続発展についての自分の考えをレポートとして書

かせて,最終評価する。

【資料6】 『社会科�中学生の地理』�p.258「①大正時代の泥炭地の開発のようす」(石狩平野)〈北海道大学附属図書館所蔵〉

【資料5】 『社会科�中学生の地理』�p.257「⑦道路沿いの防雪柵と路肩を示す標識」(弟子屈町,2012年撮影)〈写真:アフロ〉

第6時の学習活動 指導上の留意点

導入

完成したポスターを班内で評価し合い,班の代表作を決める。(ランキング1)

班内の生徒の作品を比較しながら評価させ,作品の良さなどを話し合いながら進めさせる。

展開

代表作を教室内に掲示し,全員で評価し合い,クラスの代表作を3作品決める。(ランキング2)

混雑を避けるため,掲示場所を分け,班ごとにローテーションで評価や意見交換をさせる。

まとめ

各クラスの代表作を学年フロアに掲示する。

投票用紙には優秀作と選んだ理由を書かせる。

第5時の学習活動 指導上の留意点

導入

作成してきた個人原案の発表の準備をする。

ルーブリックにもとづき,工夫点を確認させる。

展開

個人原案を発表しながら,グループで意見交換をする。(原案の良いところや改善点を赤と青の付箋で整理する)

自分の作品の工夫点を他者に明確に伝えさせる。ルーブリックにもとづいて評価させる。

まとめ

意見交換をもとに個人原案を修正する。

評価の付箋を生かして原案を修正し,ポスターを作成させる。

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中学校社会科のしおり 2016 ②

せる資料が豊富にあり,より深い学習が展開できるであろう。 そしてこれらの学習成果を生かして,観光から北海道の発展を考えるパフォーマンス課題を考える過程で,北海道地方の持続発展を主体的,協働的に探究する学習で深めるという展開である(第5時,第6時)。この指導プランは,本稿で論じたとおり習得・活用・探究を計画的に配置した単元構造となっている(資料7を参照)。また,答えのない社会的な課題を,他者と協働しながら主体的に探究していく力をグループ活動やランキングというALを用いて北海道の持続発展を探究するという形で身につけさせることをねらっている。さらに第5・6時は限られた時間を協働学習に多く配分できるよう,個人での活動は授業外の個人活動とし,生徒が集まる授業時間は協働的な活動が充実するよう配慮した。授業の展開は前述したとおりであるが,これは教科書p.118にある「技能をみがく15 展示発表の仕方」(筆者による実践)をもとにして考えた。本指導プランの第6時は,教科書の写真②(資料8)のイメージである。 ワークシートには班内での評価(ランキング1)とクラス内での評価(ランキング2)の記入欄を用意しておく。記入欄は4段階の評価とその理由を書き込めるように構成する。班代表やクラス代表を選ぶ得点集計は班単位

で効率よく行う。また班内ではワークシートを見せ合い,他者の評価を自己の学びに生かせるよう指導する。 ヨーロッパ州の実践でも見られたが,ワークシートに書かれた他者からの評価や理由は,具体的なはげましや修正の手だてになる。また,ランキングの導入は,学習に対する生徒の意欲をより高める。このようなALの工夫によって深い学びを実現するのである。

6 おわりに

 本稿での指導プランの構造は,学校教育法第30条2項の内容を意識している。学習指導要領も含めた法体系の観点からもこの視点は重要ではないか。また,学習指導要領改訂の視点が資質・能力の育成になっていることも意識している。本稿が,ALをたくみに活用し,生徒の資質・能力の育成に重点をおいた授業づくりのきっかけになれば幸いである。

【資料8】『社会科�中学生の地理』 p.118「②ポスターを掲示して展示発表を行うようす」

広大で冷涼という厳しい自然環境地域の課題をのりこえてきた歴史

北海道の良さや課題克服の歴史稲作・畑作・酪農・漁業

第 2時から第 4時までの学習(ポートフォリオにして蓄積)

第5・6時

北海道を「観光」で持続発展させる

(パフォーマンス課題)

(単元の導入:学習への意欲)

【資料7】単元構造図

ほりさげ授業研究 地理

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