Upload
others
View
1
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
インドネシアの投資環境
250
地域編⑧:スラウェシ、マルク・パプア
地域概要
概要
①インドネシア国内における経済的地位
スラウェシは、インドネシアの中部に位置する島の 1 つで、「蘭の花」とも称される独特の形状
を持つ。面積は約 19 万 km2 と日本の半分程度で、インドネシアの国土面積の 9.9%を占める。西
にマカッサル海峡を挟んでボルネオ島、東にモルッカ海を挟んでマルク諸島、南にフローレス海
を挟んで小スンダ列島、北にセレベス海を挟んでフィリピンと接している。香辛料などの交易の
中心地であったスラウェシ島は、17 世紀以降海洋進出を果たしたオランダの支配下に置かれたた
め、現在でもプロテスタントの信者が多い(図表 32-1)。
スラウェシは、行政上は 6 州(北スラウェシ州、中部スラウェシ州、南スラウェシ州、南東ス
ラウェシ州、ゴロンタロ州、西スラウェシ州)から成り、南スラウェシ州都のマカッサルが地域
の中心都市である。スラウェシの 2018 年の名目 GDP は 931 兆ルピアで、インドネシア全体の 6.2%を占める。南スラウェシ州が州別の名目 GDP では最大で、地域全体の約半分(49.6%)を占め、
以下、中部スラウェシ州(同 16.2%)、北スラウェシ州(同 12.9%)が続く。
主要産業は農林水産業である。2018 年の地域名目 GDP に第 1 次産業が占める割合は 24.9%と、
全国平均(12.5%)の 2 倍近くに達している。特に農業、水産業の比率が高い。北スラウェシ州
はトウモロコシ、玉ねぎ、ジャガイモ、香辛料の一種であるクローブ等の一大産地で、南スラウェ
シ州ではカカオのプランテーション栽培、マグロ・エビ・カツオ等の水産業が盛んであるなど、
同じ島内でも地域によって産物に特色がある。他方、製造業が地域の名目 GDP に占める割合は
11.0%と低く(全国平均:23.1%)、製造業の集積は薄い。
インドネシア東端のマルク・パプア地域は、行政上は 4 州(マルク:マルク州、北マルク州、
パプア:西パプア州、パプア州)から構成される。尚、パプア州は世界で 3 番目に大きい島(面
積:78.6 万 km2。日本の約 2 倍)であるニューギニア島の西半分にあたり、パプアニューギニア
と国境を接している。地域別では最大の 49.5 万 km2 の面積を持ち、インドネシアの国土面積の
25.9%を占める。地域の中心地はパプアニューギニアに近いパプア州都のジャヤプラである(図
表 32-1)。
土地の多くがジャングルで覆われているため、産業開発が全般的に遅れている。2018 年の地域
名目 GDP は 369 兆ルピアで、インドネシア全体の 2.5%を占めるに過ぎない。州別にはパプア州
が 57.1%と地域名目 GDP の過半を占め、以下、西パプア(21.6%)、マルク州(11.6%)、北マル
ク州(10.0%)が続く。
マルク・パプアの特徴は、第 2 次産業の構成比が 46.7%と GDP の半分を占めるほど高いことで
ある。特に豊富に存在する天然ガス、銅、金などの採掘が盛んであるため、鉱業・採石業は地域
名目 GDP の 26.1%を占め、全国平均の 7.8%を大きく上回る。鉱業以外では、建設業(12.2%)、
石炭・石油・ガス精製業(5.2%)なども盛んである。
第 31 章 地域編⑧:スラウェシ、マルク・パプア
251
図表 32-1 スラウェシ、マルク・パプアの位置
(出所)白地図専門店(三角形)より作成
これらの特徴から、スラウェシでは農業や水産業、マルク・パプアではカリマンタン同様に天
然資源開発を目的とした事業展開に、一定のメリットがあると考えられる。他方、1 人あたり GDPが両地域とも全国平均に比べて 1~2 割程度低く、人口密度の低さやインフラの未整備と相まって、
消費市場としての魅力は相対的に乏しい。
②工業団地・日系企業進出動向
インドネシア投資調整庁(BKPM)に拠ると、2018 年の外国直接投資(FDI)の受入総額(実
行ベース)はスラウェシ地域が 23.2 億ドルであり、マルク・パプア地域が 17.9 億ドルであり、そ
れぞれインドネシア全体の外国直接投資額の 7.9%、6.1%を占めている。スラウェシ地域の中で
は、南東スラウェシ州(6.7 億ドル)と中部スラウェシ(6.7 億ドル)がほぼ同額の外国直接投資
を受け入れ、更に南スラウェシ(6.2 億ドル)が続いている。これら 3 州で全体の 8 割超を占めて
いる。また、マルク・パプア地域ではパプア州への外国直接投資が多く、パプア州は地域全体の
63.3%に相当する 11.3 億ドルの投資を受け入れている。
これらの地域に対する日本企業の進出は少ない。外務省の在留邦人統計(2017 年 10 月 1 日時
点)に拠ると、スラウェシ、マルク・パプア両地域に進出する日本企業の数は合計 13 社に過ぎず、
インドネシアに進出している日本企業全体(1,911 社)の 1%にも満たない。進出企業として、南
スラウェシ州マカッサルに進出し、仏壇の製造を行っている丸喜株式会社等が挙げられる。また
最近の進出事例として、2017 年 2 月の三菱自動車と三菱ふそうトラック・バスによるマカッサル
への販売代理店の進出等が挙げられる。
国際機関日本アセアンセンターによると、現在、スラウェシ地域には 6 ヵ所、マルク・パプア
地域には 1 ヵ所の工業団地がある。また、北スラウェシ州都であるマナドの近くでは Bitung SEZが、中部スラウェシの州都パルでは Palu SEZ が稼動している。
スラウェシ
パプア
マカッサル
マナド
ジャヤプラ
インドネシアの投資環境
252
進出日系企業から見た事業・生活環境やコスト
図表 32-2 は、スラウェシ、マルク・パプアに進出した場合のメリットと留意点を整理したもの
である。
図表 32-2 スラウェシ、マルク・パプア進出のメリットと留意点
(出所)各種文献より作成
スラウェシ、マルク・パプアに係るインフラ・物流、労働事情、生活環境、その他については
以下の通りである。
①インフラ・物流
【空港】
主要空港はマカッサルのスルタン・ハサヌディン国際空港(マレーシア等へ就航)、マナドのサ
ム・ラトゥランギ国際空港(シンガポールなどへ就航)、ジャヤプラのセンタニ空港(国内線のみ)
である。スルタン・ハサヌディン国際空港については、2025 年までに第 3 滑走路と第 2 ターミナ
ルを整備する拡張計画が立てられている。
【港湾】
スラウェシ地域のマカッサルはスカルノ・ハッタ港、同じくマナドはビタン港とそれぞれ近接
しており、国際物流の拠点として重要な位置を占める。スカルノ・ハッタ港では 2014 年の自動車
専用ターミナルが設置や 2016 年の港湾業務管理システムの導入など、拡張と改良が行われている。
【電力】
インドネシア電力公社(PLN)の「PLN STATISTICS 2018」に拠ると、2018 年の州別の電化率
は、北スラウェシが 97.29%、南スラウェシが 99.46%、西パプアは 100%となっている。
メリット 留意点
(マルク・パプア)天然ガス、金、銅などの鉱物資
源が豊富に賦存している
スラウェシは農漁業、マルク・パプアは鉱業依存の
産業構成のため、製造業や第3次産業の振興が遅れ
ている
(スラウェシ)重要な航路が近く、国際物流の拠点
として有望である交通インフラの整備が途上で、電化率も低い
パプア州(プンチャック・ジャヤ県、ミミカ県)と中
部スラウェシ州ポソ県が危険レベル2「不要不急の
渡航は止めてください」の対象 (2019年11月時点)
第 31 章 地域編⑧:スラウェシ、マルク・パプア
253
②労働事情
【人材】
スラウェシ地域の人口は 1,872 万人(同国全体の 7.3%)であり、このうち労働力は 846 万人で
ある(2015 年)。失業率は、北スラウェシが 9.0%と全国平均(6.2%)を上回っている以外は、3~5%台と比較的低い。マルク・パプア地域の人口は 687 万人(同国全体の 2.7%)であり、人口の半分
近くを占め、GDP の面でも中心であるパプア州の失業率は 4.0%で全国平均よりも低い水準とな
っている。同地域では人口の母数が比較的少ないため、いずれの地域でも労働力の確保が難しい
可能性がある。
【賃金】
2019 年の最低賃金では、スラウェシ地域の中で北スラウェシ州が最も高く 305 万ルピア(約
23,600 円)、次いで南スラウェシ州(286 万ルピア、約 22,100 円)が高く、ゴロンタロ州(238 万
ルピア、約 18,500 円)、西スラウェシ州(237 万ルピア、約 18,300 円)と続く。マルク・パプア
地域ではパプア州(324 万ルピア、25,100 円)と西パプア州(288 万ルピア、約 22,100 円)が高
く、北マルク州(251 万ルピア、約 19,400 円)とマルク州(240 万ルピア、約 18,600 円)は相対
的に安い。
③生活環境
【一般】
マカッサルは全体的に都市化が進んでおり、ショッピングモールも複数存在し、ユニクロも市
内に 2 店舗(ニパモール店、トランススタジオモール店)を展開している。また、高速道路の料
金支払や社会保障の給付が電子化されたことなどから、マカッサルでは現金以外での決済の普及
も進んでいる模様である。2019 年 10 月には、日本工営がマカッサルとの間でスマートシティ開
発に関する覚書を交わし、交通分野や遠隔医療をはじめ、公共サービス向上に向けた協力を行う
としている。一方で、インドネシア都市計画協会(IAP)が 2017 年に実施した主要 26 都市の住
みやすさに関する調査では、マカッサルは最下位(26 位)で、満足度は 55.7%であった。尚、1位は中部ジャワ州のスラカルタ(ソロ)で、満足度は 66.9%である。
【食事】
日本食を提供できるレストランは多くはないが、うどんチェーンの「丸亀製麺」は、マカッサ
ルに 3 店舗を展開している(ニパモール店、マカサール・ラトゥインダモール店、マカサーパナ
クカン店)。また、和食レストランとして、「Koi Japanese Restaurant」、「Sushi Tei」、「Shogun Restaurant」等の人気が高い模様である。
インドネシアの投資環境
254
【教育】
いずれの地域にも日本人学校はなく、外国人の子弟向けにマナドの Manado Independent Schoolやマカッサルの Makassar International School 等が開校している。
【住居】
マカッサルやマナドではサービスアパートがいくつか利用可能であり、ホテル予約サイトから
の予約も可能である。ホテルでは、マカッサルにはノボテルやメリアなどもあり、時期にもよる
が、1 泊 5,000 円から 7,000 円程度とされている。
【治安】
日本国外務省の「海外安全ホームページ」の中でパプア州(プンチャック・ジャヤ県、ミミカ
県のみ)と中部スラウェシ州ポソ県には危険度レベル 2:「不要不急の渡航は止めてください」が
発出されており、2019 年 11 月 3 日時点で有効となっている。
パプア州と西パプア州では分離独立を求める声があり、一部の地域では治安当局との衝突等が
散発的に発生している。特にパプア州の当該地域周辺では、OPM(パプア分離独立運動グループ)
と見られる武装集団が治安当局等を襲撃する事案が散発的に発生している。
中部スラウェシ州ポソ県は、1998 年末に起こったイスラム教徒住民とキリスト教徒住民間の衝
突以降の不安定な状況は沈静化したが、同県郊外の山岳地帯にイスラム過激派が拠点を作り、治
安部隊や地元住民を襲撃する事件が発生したため、治安当局による掃討作戦が実施されている。
残党が潜伏している可能性があり、不要不急の渡航を止めるよう求められている。
【その他】
スラウェシ地域には北スラウェシ日本人会と南スラウェシ日本人会がある。
2017 年 5 月、愛知県の医療法人「偕行会グループ」がマカッサルのインドネシア国立ハサヌデ
ィン大学病院と覚書を交わし、医師・医療従事者の交流、透析医療での医療技術指導・共同研究、
医療ツーリズムでの相互情報提供・患者受け入れについて提携・協力を行うこととしている。な
お、同グループはジャカルタにクリニックを有し、南スラウェシ州内のパレパレ市では透析医療
技術の提供を行っている(2017 年 5 月 27 日付け偕行会グループのプレス・リリースより)。
第 31 章 地域編⑧:スラウェシ、マルク・パプア
255
主要工業団地
スラウェシ島、マルク・パプアに立地する主要工業団地を以下の表にまとめた。
【スラウェシ】
【マルク・パプア】
No. 工業団地名 Address(県/市)総開発面積
(ha)
1 Bitung Industrial Estate Bitung 22
2 Dinnelator Bitung Industrial Estate Bitung 93
3 Kawasan Industri Kauditan Minahasa 150
4 Kawasan Industri Palu (Palu IndustrialEstate)
Dinas Perindustrian, Perdagangan, Koperasi& UKM Jl. Balai Kota No.1 Palu, SulawesiTengah
1,500
5 Lembah Palu Nagaya Kompl Lik Trans Bumi Roviga Palu 100
6 Kawasan Industri Makassar (MakassarIndustrial Estate)
Jl. Perintis Kemerdekaan Km .15 Daya,Makassar 703
No. 工業団地名 Address(県/市)総開発面積
(ha)
1 Leon Pasific Utama Sorong 200