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─ 69 ─ 小地域福祉活動における コミュニティワーカーの役割と機能 金田喜弘 はじめに 社会福祉領域の実践において、地域福祉の視点がますます重要度を増してきている。高齢領 域においては、2003(平成 15)年から設置された地域包括支援センターや、その後の地域包 括ケアの考え方が浸透してきており、また障がい領域においても、例えば、精神障害者の方の 地域生活への移行支援など、住み慣れた地域で暮らしを基盤にした施策が打ち出されている。 その中において、地域福祉を推進する中核的な機関の一つとして、社会福祉協議会(以下、「社 協」とする。)があげられる。 社協は、社会福祉法第 109 条~ 111 条に謳われており、「地域福祉の推進を図ることを目的 とする団体」として位置づけられている。1951(昭和 26)年に日本社会事業協会・全日本民 生委員連盟・同胞援護会が合併し、「財団法人中央社会福祉協議会」 を結成して以来、絶えず 地域福祉課題に着目し、地域住民を主体としながら取り組んできたといえる。 1992(平成 4)年に、全国社会福祉協議会が策定した「新・社会福祉協議会基本要項」では、 近年、社会福祉領域の実践においては、地域福祉の視点がますます重要度を増してきてい る。その様な中、地域福祉推進する中核機関の一つとして社会福祉協議会があり、その期待 が高まる一方で、一部の社協においては役割を発揮しきれない状況が指摘されている。また コミュニティワークそのものの重要性の低下も見受けられる。本稿では、社協コミュニティ ワーカーの実践事例をインタビュー調査し、その役割と機能の分析を行った。インタビュイー の発言から、コミュニティワーカーの機能について抽出を行い、126 の項目が抽出され、18 のカテゴリーに整理を行った。その結果、コミュニティワークにおけるアセスメントが、人 材・地域・活動組織と多様であることと併せて、そこでの実践記録の必要性が明らかになっ た。またコミュニティワークを展開する際の、コミュニティワーカーが戦略を持つ事の重要 性、そして、地域福祉実践における、地域住民の主体形成の再認識が明らかになった。本研 究は、実践事例から理論を普遍化する一手法であり、今後の地域福祉実践を分析する手がか りとなると考える。 キーワード:小地域福祉活動、社会福祉協議会、コミュニティワーク、住民主体、主体形成

小地域福祉活動における コミュニティワーカーの役割と機能...69 小地域福祉活動における コミュニティワーカーの役割と機能 金田喜弘

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Page 1: 小地域福祉活動における コミュニティワーカーの役割と機能...69 小地域福祉活動における コミュニティワーカーの役割と機能 金田喜弘

─ 69 ─

小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

金 田 喜 弘

はじめに

社会福祉領域の実践において、地域福祉の視点がますます重要度を増してきている。高齢領

域においては、2003(平成 15)年から設置された地域包括支援センターや、その後の地域包

括ケアの考え方が浸透してきており、また障がい領域においても、例えば、精神障害者の方の

地域生活への移行支援など、住み慣れた地域で暮らしを基盤にした施策が打ち出されている。

その中において、地域福祉を推進する中核的な機関の一つとして、社会福祉協議会(以下、「社

協」とする。)があげられる。

社協は、社会福祉法第 109 条~ 111 条に謳われており、「地域福祉の推進を図ることを目的

とする団体」として位置づけられている。1951(昭和 26)年に日本社会事業協会・全日本民

生委員連盟・同胞援護会が合併し、「財団法人中央社会福祉協議会」 を結成して以来、絶えず

地域福祉課題に着目し、地域住民を主体としながら取り組んできたといえる。

1992(平成 4)年に、全国社会福祉協議会が策定した「新・社会福祉協議会基本要項」では、

〔 抄 録 〕

近年、社会福祉領域の実践においては、地域福祉の視点がますます重要度を増してきてい

る。その様な中、地域福祉推進する中核機関の一つとして社会福祉協議会があり、その期待

が高まる一方で、一部の社協においては役割を発揮しきれない状況が指摘されている。また

コミュニティワークそのものの重要性の低下も見受けられる。本稿では、社協コミュニティ

ワーカーの実践事例をインタビュー調査し、その役割と機能の分析を行った。インタビュイー

の発言から、コミュニティワーカーの機能について抽出を行い、126 の項目が抽出され、18

のカテゴリーに整理を行った。その結果、コミュニティワークにおけるアセスメントが、人

材・地域・活動組織と多様であることと併せて、そこでの実践記録の必要性が明らかになっ

た。またコミュニティワークを展開する際の、コミュニティワーカーが戦略を持つ事の重要

性、そして、地域福祉実践における、地域住民の主体形成の再認識が明らかになった。本研

究は、実践事例から理論を普遍化する一手法であり、今後の地域福祉実践を分析する手がか

りとなると考える。

キーワード:小地域福祉活動、社会福祉協議会、コミュニティワーク、住民主体、主体形成

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─ 70 ─

小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

社会福祉協議会の「機能」を①住民ニーズ・福祉課題の明確化、住民活動の推進機能、②公私

社会福祉事業等の組織化・連絡調整機能、③福祉活動・事業の企画及び実施機能、④調査研究・

開発機能、⑤計画策定、提言・改善運動機能、⑥広報・啓発機能、⑦福祉活動・事業の支援機

能と 7つに整理し、特に地域住民との直接的・間接的な社会福祉実践を展開してきている。

また 2003(平成 15)年に出された「市区町村社協経営指針」において社協は、「制度の谷間

にある地域福祉課題の発見・解決に努め、社会的援護を要する人々や低所得者への対応を重視

する」と明記された。近年では、2012(平成 24)年に全国社会福祉協議会・地域福祉推進委

員会より「社協・生活支援活動強化方針」が示され、改めて、地域住民の生活やくらしに寄り

添った支援活動が期待されている。

一方で、社協に対する批判も少なくない。市町村社協においては、実践が行政との区別がつ

きにくい所もある。また民間の立場で地域福祉を進める団体として、住民に意識されていない

点や、専門職の資格の一つである社会福祉士の資格保有者は、2008(平成 20)年において

は 7.3%と低い状況であり、専門性の確保についても指摘されている注1。さらに制度の狭間に

落ち込みやすい援護を要する人々への支援として、コミュニティソーシャルワークの視点など

も示され、直接的な個別支援に注目が置かれることにより、地域援助技術であるコミュニティ

オーガニゼーションやコミュニティワークの位置が角に追いやられている帰来がある。

本稿では、社協及びそこで実践しているコミュニティワーカーの実践事例を分析することに

より、改めてコミュニティワーク実践に光をあて、コミュニティワーカーの役割や意義につい

て考察する。

1.本研究の目的

本研究は、地域福祉実践におけるコミュニティワークの機能分析を第一義的な目的としてい

る。コミュニティワークの概念について、英国においては、コミュニティディベロップメント

やコミュニティオーガニゼーションを包括する言葉として用いられたが、今日的には、ほぼ同

義語として使われることもあるなど、研究者によって様々な現状である。

コミュニティオーガニゼーションについては、わが国では地域組織化と呼んでいるが、それ

を理論化した一人として、M.Ross の存在は大きい。Ross(=1968:42)はコミュニティオー

ガニゼーションについて「地域社会が自らその必要性と目標を発見し、それに順位をつけて分

類する。そしてそれを達成する確信と意志を開発して、必要な資源を内部・外部に求め、実際

行動を起こす。このようにして地域社会が団結協力して実行する態度を養い育てる過程」と定

義しており、地域組織化の重要性を示唆している。

これまでわが国のコミュニティワーク研究として、多くの先行研究がなされているが、一般

的には、間接的な援助技術であり、個別援助技術、集団援助技術と並んで社会福祉援助技術の

柱の一つとして位置づけられている。ここでは、コミュニティワークを「専門職の介入が住民・

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福祉教育開発センター紀要 第 11 号(2014 年 3 月)

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当事者の主体形成及び、生活障害への支援の組織化を促し、その過程の中で地域の民主化およ

び住民自治の形成を目的とする地域援助技術」とする。

松端(2012:6)は、地域福祉の推進方法を 2つの機能に分化できるとしている。図 1にあ

る様に、地域住民の「くらしをまもる」と「つながりをつくる」機能があり、前者を展開する

専門職として、個別支援を中心に行うとしており、後者を地域支援、すなわちコミュニティワー

クを実践する専門職として整理している。

図 1 地域福祉の 2つの機能と 2つの専門性

出典 上野谷加代子・松端克文・山縣文治編(2012)『よくわかる地域福祉(第 5版)』ミネルヴァ書房p.6

また、平野(2003:35)は地域を基盤としたソーシャルワーク、すなわち地域福祉援助技術

に関して、図 2にあるように、地域福祉を推進するためには、「地域が主体となって進める」

視点と「地域の生活を実現する」の両者のベクトルが必要と述べている。つまり、地域社会や

地域福祉活動を展開する組織に焦点をあてた社会福祉援助が重要であり、直接的な援助と合わ

せて、地域福祉課題を解決する間接的な視点が求められるといえる。

図 2 「地域福祉援助技術」の 2面性

出典 高森敬久・高田眞治・加納恵子ほか著(2003)「地域福祉援助技術論」相川書房 p.35

地域での生活を実現する

地域福祉援助技術

地域が主体となって進める

地域福祉の推進

くらしをまもる専門職

地域支援=コミュニティワーク

個別支援 つながりをつくる専門職

地域住民

くらしをまもる

つながりをつくる

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─ 72 ─

小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

さて、コミュニティワークの援助技術のプロセスは「問題(ニーズ)の把握→活動主体の組

織化→計画策定→計画実施→評価」に整理される注2。地域福祉実践の現場ではこの 5段階の流

れが規則正しい順序で活動や計画作成が進むわけでなく、問題の発生、活動主体の発生環境が

地域によって様々であるため、プロセスを行き来することもある。またこのプロセスを意識し、

評価には一般的に、タスク・ゴール、プロセス・ゴール、リレーションシップ・ゴールの視点

が重視される。タスク・ゴールは地域生活課題への問題解決であり、プロセス・ゴールは住民

の主体形成や参加・参画、また連携力や問題解決能力などの深まりの重視、そして、リレーショ

ンシップ・ゴールは人権擁護からとらえた地域の権力構造の転換などに着目をしている。

コミュニティワークを展開する際には、主体者である地域住民の存在は不可欠である。そし

て地方分権時代にあって、改めて日常生活圏域におけるまちづくりが求められている。近年で

は小地域における福祉ガバナンス研究も進められ、ますます注目がされている注3。全国的に地

域住民を中心にした主体的な福祉活動が、人々の生活に密着した小地域単位において、多様な

ニーズに対応する動きが広がっているといえる。

ただ、こうした地域福祉実践はすべて自然発生的に広がるものではなく、地域福祉に関わる

社会福祉専門職が、意図的に関わりながら展開している。その大きな役割を担っているのが、

社協に所属しているコミュニティワーカーである。社会福祉用語事典(2013:108)によると、

コミュニティワーカーとは、「地域社会の生活問題について、地域住民の主体性を高めつつ社

会福祉の間接援助技術であるコミュニティワークの技術を用いて、住民自ら、それらの問題を

明確化し、解決していくことを側面的に援助していくソーシャルワーカー」と整理しており、

法的には必ずしも社協職員だけがコミュニティワーカーとは明記されていないが、ここでは、

市町村社協の地域・ボランティア担当職員として位置づける。

上記の様な地域福祉実践を持続可能な取り組みとして展開するためには、推進組織・団体の

存在は欠かせない。全国社会福祉協議会などは一般的にそれを、「地域福祉推進基礎組織」と

総称することがあるが、実際の地域においては概ね小学校区を単位とした組織であるため、「校

区福祉委員会」や「地区社会福祉協議会」等と呼ばれている。その組織では、地域福祉課題に

対して、様々な地域福祉実践が行われており、ここでは、それを「小地域福祉活動」と呼ぶこ

ととする。

2.研究方法

本研究は、小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの実践事例のインタビューについ

て、カードワークを用いて分析を行った。塩満(2013:80)はカードワークについて「一行見

出しによる質的分析法」と整理しており、永田(2011:168)が言うように、「インタビュイー

の考えや認識を直接理解することができる」効果がある為、インタビュー調査を用いた。そし

て、インタビュイーが語る意識的・無意識的な言葉の中に、コミュニティワーカーとしての役

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福祉教育開発センター紀要 第 11 号(2014 年 3 月)

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割や機能が込められているのではないかと仮説を立てた。言い換えると、コミュニティワーカー

が意識した行為だけではなく、無意識に発した言葉や行為について改めて意味づけをすること

で、コミュニティワーク実践の役割や機能の本質が明らかになるのではないかと考える。

インタビューの概要については、以下の通りである。調査対象は市町村社協において、コミュ

ニティワーク実践を 10 年程度経験の蓄積のあるコミュニティワーカーとした。研究全体では、

大阪府内にある市町村社協に在籍する 5名のコミュニティワーカーに対してインタビューを実

施、もしくは予定をしているが、本稿においては、1名のコミュニティワーカーに焦点を当て

て整理分析を行うこととする。

調査方法としては、実際に関わった小地域福祉活動の実践事例の語りから、半構造化面接に

よるインタビュー調査を行った。全てのインタビューの内容は、同意の上で録音し、逐語録を

作成した。なお、個人情報については、名簿の管理及び分析において個人が特定されないよう

倫理的配慮を行っている。また本学における「人を対象とする研究」に関する倫理規定に基づ

き実施した。なお、表内にある引用末尾の数字は、インタビューの通し番号を示している。

3.結果

インタビュー調査の結果については以下の通りである。インタビュイーの発言から、コミュ

ニティワーカーの機能について抽出を行った。126 の項目が抽出され、18 のカテゴリーに整理

した。なお、インタビューについて対象者の言葉をできる限り示し、固有名詞や個人情報が特

定されるものについては調査者が要約し整理を行った。

(1)コミュニティワーカーの姿勢

小地域福祉活動を展開する際の、コミュニティワーカーの姿勢については、4つのカテゴリー

に整理された。まず、「住民の声を聴く」という項目である(表 1)。小地域福祉活動は住民が

主体となった実践であるため、コミュニティワーカーとして、丁寧に住民の声を聴く事を重視

しているといえる。一般の住民からの『社協なんか何も活動していない』、『住んでいるところ

では福祉活動を見たことがない』(引用 1)というような、社協や小地域福祉活動に対する意

見についてしっかりと耳を傾けている。また、社会福祉専門職である、ケアマネージャーやコ

ミュニティソーシャルワーカー(CSW)等の声もしっかりと受けとめていることが分かる(引

用 2)。さらに、小地域福祉活動を推進している、ボランティアや地域の役員から、活動に対

する評価や意見についても把握している(引用 3)。

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─ 74 ─

小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

表 1 住民の声を聴く

次に、「共感・受け止め」の項目である(表 2)。小地域福祉活動を推進する地域住民や、社

会福祉専門職などの想いに共感し、寄り添い、そして受け止めることは重要な視点といえる。

地域住民の声に『そのとおり』と共感的理解を示した上で、『こういう活動がほんとうに必要

な時期に来てる』とその意見を補完する形で返答をすることで、地域住民自身に再確認させる

意図も見える(引用 4)。また、小地域福祉活動が地域住民の主体的な取り組みに展開される

際には、『僕もほんまに、もううなずく』とあるように、何かを提案するのではなく、まさし

く受容と共感の機能を発揮している(引用 5)。

表 2 共感・受け止め

そして、「機を熟すのを待つ」の項目である。地域福祉援助技術は、個別支援の援助の時間

軸と大きく異なる部分がある。大阪府社会福祉協議会が発行した、『社協コミュニティワーク

の実践力を高めるための「記録」と「事例検討」』の報告書においても、その点を指摘している。

少し長いが引用したい。

カテゴリー 引用番号 引    用

共感・受け止め

引用 4

「やっぱり自治会単位の、今のあの委員長、今のこの校区の福祉委員会の活動やったらあかんぞと。もっとこういう取り組みが必要なんや」。ああ、この人は一貫してこれを言ってるなと思いながらも、そのとおりなんですっていうのと(中略)個人的にもほんとうに共感できるとこやったんで、いや、まさにそうなんです。この校区では、今こういう活動がほんとうに必要な時期に来てるんですっていう話をしたら、ほんとうに意気投合というような感じで。(111)

引用 5このへんまで来ると、僕もほんまに、もううなずくか、はあ、いいすっねみたいな、それだけでしたね。 (239)

カテゴリー 引用番号 引    用

住民の声を聴く

引用 1社協を非常に批判をされていたんです。「社協なんか何も活動してへんやないか」とか、「自分らの自治会、住んでいるところでは福祉活動を見たことがない」(37)

引用 2

ボランティアさんからも「いやあ、なかなか配食でお弁当を持っていってたのに、かかわる機会も減ってさみしいわ」みたいな声があったりとか。3か月に 1回ぐらいしかその食事会がないので、ケアマネさんから「いやあ、もっと出ていけるとこあったらいいのになあ。なんかそういう活動ってないの」みたいな声があったりとか。CSWもこのころ動きだしてたんで、CSWからも同様にそういうのを感じると。(51)

引用 3

それでも参加者の中から、僕らが感じてたことがほんとに声として出てきて、「いや、福祉の活動って小学校でやってるけど、遠かったら行かれへんし、もっとなんか身近なとこでやったほうがいいんちがうの」という声がいくつか出てきたりっていうことがあって(75)

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福祉教育開発センター紀要 第 11 号(2014 年 3 月)

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コミュニティワークは、個別援助ではなく「個」を支える地域の「基盤づくり」に

かかわる援助です。しかし一般的に、私たちはついつい目の前の解決をしなければい

けないことに目がいきがちです。(中略)個別支援を展開していく「基盤」がなければ、

地域と一緒に支援していくこともままなりません。このようにコミュニティワークは、

個別支援よりも長期にわたる時間がかかる支援であるという特徴があります。(大阪

府社会福祉協議会 2013:8-9)

表 3では、コミュニティワーカーとして、『住民の主体性を尊重すると決めたし、まあ飲み

込むかみたいな感じ』(引用 6)とあるように、地域住民自身がそれに気づくまで待つという

姿勢が伺える。また、話し合いの場と主体形成を高めるために、『ひたすらコーヒーを出し続

けた』(引用 7)行為や、活動リーダーの想いやコミュニティワーカーの展開ビジョンを、『あ

たため続けた』(引用 8)ことも、その機会を伺う動きであるといえる。

表 3 機を熟すのを待つ

さらに、「ストレングス視点」の項目があげられる(表4)。ストレングス視点とは、1980

年代後半、アメリカのソーシャルワークにおいて始まった援助観である。当事者の欠点等に着

目するのではなく、その潜在能力や環境など、その人のストレングス=強みに着目し、尊重し、

それをいかした支援をしていくことにより、援助者と協働的な関係で問題解決していく考え方

である注4。コミュニティワーク実践においては、地域住民や社会福祉専門職などの強みに着目

し支援を展開していくこととなる。地域リーダーのアセスメントにおいて、『行動力がある』(引

用 9)と評価し、それを発揮できるための座談会の場づくりを支援している点や、座談会の場

面での様々な実践を評価し、『みんなで共有され始めて、ぜひこういう座談会はもっと地域で

やっていこう』(引用 10)という気運を高めている。また、地域住民が小地域福祉活動に対して、

『地区別の活動が必要』(引用 11)との声を受けて、それを展開するための仕掛けとして役員

会に提案する動きを作っている事も、地域住民の強みを引き出し、具体的な動きに展開してい

く役割を担っているといえる。

カテゴリー 引用番号 引    用

機を熟すのを待つ

引用 6ここは、今年はもう住民の主体性を尊重すると決めたし、まあ飲み込むかみたいな感じですね。(59)

引用 7この Cさんもその校区に住んでるし、なんかこの人とおもろいことできたらいいのになとか、なんかあればいいなみたいな感じで、ひたすらコーヒーを出し続けたという感じですね。(115)

引用 8それまでさんざん思いをあたため続けてたんで、そういう地区別のこういうサロンが必要やというのは、ほんとうに僕とこの Cさんとはすごく合意をしてたんで(223)

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小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

表 4 ストレングス視点

(2)コミュニティワーク実践での技術

小地域福祉活動を支援する際のコミュニティワーカーの技術として、大きく「アセスメント」、

「地域福祉活動リーダーへのアプローチ」、「情報提供」、「活動組織への提案」の 4つのカテゴリー

に整理した。

アセスメントとは、援助を行う際に、その人や環境に関する問題状況を把握・分析し、問題

解決に向けた方向性を見いだす社会福祉援助のプロセスの一つである。コミュニティワーク実

践におけるアセスメントは、大きく①地域アセスメント、②人材アセスメント、③活動組織ア

セスメントの 3つに分類ができた。地域アセスメントでは、表 5にあるように、その地域の状

況を詳らかに行うことで、活動組織への支援や具体的な活動内容の展開に結びつけているとい

える。また、人材アセスメントでは、活動組織のリーダー、活動に参加する当事者、それに関

わるボランティアや社会福祉専門職など、幅広い人材に対してアセスメントを行っていること

が分かる。そして、活動組織アセスメントでは、小地域福祉活動を展開する基盤組織について

もアセスメントを行っている。小地域単位で組織化されている地区福祉委員会に関して、『平

成 10 年から 12 年にかけて、12 の小学校区が立ち上がっていきました』(引用 16)と歴史的経

過について理解している。また組織における各種団体の動きや、『趣旨賛同者』(引用 17)と

してのボランティアの参画の方法を整理し、『ひとり暮らし高齢者の会食会であったりとか。

最近は体操教室』(引用 18)といった具体的な活動内容やその頻度などの状況を把握している

ことが分かる。

カテゴリー 引用番号 引    用

ストレングス視点

引用 9行動力はあるんでね。こうやって、言ったことを受け止めて、たぶん自分なりに解釈をして、「よし、じゃあ座談会をやろう」みたいなことはやってくれたんで、そういう面はいいんですけどね。(61)

引用 10自分たちで一時避難場所を決めたとか、鍵の預かりを自分たちでやりだしたとか。おっ、すごいやんっていうのがみんなで共有され始めて、ぜひこういう座談会はもっと地域でやっていこう。(85)

引用 11

まあそういう気づきとして、地区別の活動が必要やという声も出てきたし、実際に生まれてその実感としてもあるんで、これはぜひとも役員会に投げかけようということで、校区の役員会には投げかけをしたんです。(91)

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福祉教育開発センター紀要 第 11 号(2014 年 3 月)

─ 77 ─

表 5 アセスメント

次に「地域福祉活動リーダーへのアプローチ」であるが、ここでは、①リーダー分析と、②

リーダー支援に分類した(表 6)。リーダー分析は、地域活動組織や活動を支援する際のキー

パーソンになる人物の把握と分析を指している。『会社組織の感覚』(引用 19)の様に、リーダー

のこれまでの生活歴を紐解きながら考え方や支援の方法を検討していることが分かる。また、

『福祉委員会として主体的にかかわるわけではなく』(引用 20)という様に、リーダーの地域

福祉活動に対するモチーフについても分析し、より効果的な関わり方を検討する際の素材とし

て整理している。またリーダー支援としては、地区福祉委員会の活動の意味について『自治会

任せではなくて、福祉委員会としてかかわることにこそ意義がある』(引用 21)と伝えた上で、

カテゴリー 引用番号 引    用

地域アセスメント

引用 12

オールドニュータウンみたいに言われる古い新興団地です。開発 40 年ぐらいたつ住宅団地で、市街地からいちばん遠いとこなんです、駅からも遠いところで。ただ校区自体が、そういった開発された団地がいくつか離れたところにある、60 近くあるんですけど、それもそれぞれが別々のタウンになってて。校区とはいえ、そういったところの集まりというような形の地域です。(27)

引用 13市自体がわりとそういう住宅団地で、新興で開発されたとこと、昔からの地の旧村の地区とが半々ぐらいなんで、半分ぐらいはこういった同じ課題なり、同じ地域性を持っているようなところです。(29)

人材アセスメント

引用 14委員長が非常にワンマンな委員長で。このAさんという方が、この校区の委員長ですね、非常にワンマンな方で、座談会、このやり方も自由にしていた。(57)

引用 15

もともと大手の会社の役員っていうのもあって、やっぱり会社組織の感覚があって、リーダーが決めて、ばんと伝達して、招集してみたいな感じですね。あんまり話し合って、みんなでわいわい言いながら決めるタイプではないんで(63)

活動組織アセスメント

引用 16

中学校区の地区福祉委員会というのがあって、平成 10 年から 12 年にかけて、12 の小学校区が立ち上がっていきました。そこで本格的に小地域での、校区単位ですけれども、小地域での福祉活動が始まりだしたかなというところです。(7)

引用 17

各種団体の代表が、それぞれ、ここに書かれているような団体の代表が入るのと、あと趣旨賛同者といって、やっぱり地元のボランティアでやっている人たちが、割合的には半分以上がこういった趣旨賛同者として入っているという形(11)

引用 18

校区単位の活動が中心になっているんで、(中略)ひとり暮らし高齢者の会食会であったりとか。最近は体操教室とか、少しずつ頻度が増えてきているんですが、まだ校区単位で校区の福祉委員会活動ではサロンというのはほとんど行われてなかったような状況です。(13)

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─ 78 ─

小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

『役員にも提案しましょう』(引用 21)と役員会の開催を促す支援を行っている。別の場面に

おいては、『校区福祉委員会とサロンを共催で』(引用 22)行う事の情報提供をしながら、リー

ダーの想いを形に変えていく支援を行っていることが分かる。

表 6 地域福祉活動リーダーへのアプローチ

そして、「情報提供」 であるが、よりよい地域福祉活動を展開するために、他市で行われて

いる実践事例を様々な資料や映像等を通じて情報提供を行っている(表7)。そのことを通じて、

地域住民が活動のイメージを高めることができ、これまでの活動の枠組みを乗り越えるきっか

けにもなる。そこでは単なる情報提供ではなく、『意識的に』(引用 23)それを選択し提示し

ているかが、重要な視点であるといえる。

表 7 情報提供

カテゴリー 引用番号 引    用

地域福祉活動リーダー

へのアプローチ

(リーダー分析)

引用 19

もともと大手の会社の役員っていうのもあって、やっぱり会社組織の感覚があって、リーダーが決めて、ばんと伝達して、招集してみたいな感じですね。あんまり話し合って、みんなでわいわい言いながら決めるタイプではないんで(63)

引用 20一貫してるのは、福祉委員会として主体的にかかわるわけではなくて、これもその共催っていう名前を入れて回覧板を回したると、住民センターをただで抑えてあげると、そういう支援をするということで(165)

地域福祉活動リーダーへの

アプローチ(リーダー支援)

引用 21

Dさんには、自治会からもこんな声が出てるっていうのはチャンスですよ。福祉としてもこれまで 2年間ずっと座談会でこんな声が出続けてるんです。これは自治会任せではなくて、福祉委員会としてかかわることにこそ意義があるんやと。(中略)じゃあ次、役員会あるんで、2月の役員会で皆さんに、役員にも提案しましょうかと委員長と話をして、この日の役員会にのぞんだという形ですね。(205)

引用 22例えば一般の人に募集をするとか、同じ思いを持ってるとか、そういうことはどうですかというのを、この Eさんにも働きかけをしていってたんです(183)

カテゴリー 引用番号 引    用

情報提供

引用 23

地区別の、活動ではないんですけど、そういう話し合いの場を作ることが大事なんちがうかということは何となく共有され始めたんで、最後の2回ぐらいの座談会は、意識的にそういう地元での活動づくりみたいなのをビデオを流したりとか、若干のそういう提供はしましたけどね(85)

引用 24他市でもやっぱりこういう地区別の活動があってとか言って情報提供したり(117)

引用 25あとはもうほんとうの情報提供だけです。朝市をやるとなれば、豊中でこんなん今やっててねとか、住民センターで販売ってどうかなみたいなのを調べたりとか。(254)

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福祉教育開発センター紀要 第 11 号(2014 年 3 月)

─ 79 ─

最後に「活動組織への提案」であるが、小地域福祉活動における関わり方は、あくまで住民

主体の活動であるため、コミュニティワーカーは、活動組織やキーパーソンに提案という形

で側面的支援を行っている。『これはぜひとも役員会に投げかけよう』(引用 27)と働きかけ、

役員会開催につなげる動きや、『しつこくここでも提案をし続けた』(引用 28)や『もう一回

委員長に提案』(引用 29)の行為から、コミュニティワーカーの立場として、物事を伝達し、

提案する姿が見える(表 8)。

表 8 活動組織への提案

(3)コミュニティワーク実践の基底

コミュニティワーク実践を基底するものについて、以下の6点に整理ができた。1点目は、「活

動展開のイメージ」である(表 9)。コミュニティワーカーは、地域福祉課題に対して、場当

たり的な応対しているのではなく、計画された中での事物や行為を進めている。その際に、コ

ミュニティワーカーとして、小地域福祉活動の展開の姿をイメージできているかが重要である。

また、『形だけ作ったらいいんじゃない。きちんとその中で多くの人と議論』(引用 30)する

場を創ることを念頭に置きながら関わりを持っている。そして、『地区にこそ必要だとは思っ

てたんです』(引用 31)や『そういう活動がほんとうに必要な時期に来てる』(引用 32)の発

言にあるように、コミュニティワーカーとして、次の展開方針を描いているといえる。

カテゴリー 引用番号 引    用

活動組織への提案

引用 26せめて自治会内での活動なんかが必要ですよねという話を落としていったというとこですね(87)

引用 27地区別の活動が必要やという声も出てきたし、実際に生まれてその実感としてもあるんで、これはぜひとも役員会に投げかけようということで(91)

引用 28意識的に、さっき言ったみたいにビデオを流したりとか、サロン活動が必要だというのはしつこくここでも提案をし続けたという感じですね(125)

引用 29 もう 1回委員長に提案をしたんです(131)

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小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

表 9 活動展開のイメージ

2 点目として、「地域との距離感」があげられる(表 10)。コミュニティワーカーは、地域住

民の想いに寄り添いながら支援を行うが、その際に、その課題に対して、核心部まで入り込ん

で関わるのか、それとも一定の距離を置きながら地域住民の動きを見守るのかを見極めている。

言い換えると、地域との距離感を絶えず意識しながら支援を行っていることが分かる。ここが

重要な転換点と判断した場合には、『2~ 3時間あがり込んで』(引用 33)関わりを持ち、現時

点では展開が困難と判断した場合には、『引き下がりました』(引用 34)とあるように、一旦、

距離を置く場合もある。また地域の人事に関しては、『絶対に口出しはしない』(引用 35)と

明確に関与しないという立ち位置が見て取れる事が分かる。さらに、活動が円滑に展開されて

いる際には、『もう言うことはないと、僕の出番はない』(引用 36)と、地域住民の主体的な

活動を緩やかに見守っていることが分かる。

表 10 地域との距離感

3 点目としては、「場のプロデュース」がある(表 11)。“produce”には、「産出する」「生

産する」「制作する」という意味があるが、ここでは、地域住民が協議や課題を共有する「場」

を創りだす事を指している。『やっぱりみんなも共感して』(引用 37)や『紹介してくださいよっ

カテゴリー 引用番号 引    用

活動展開のイメージ

引用 30

ちょうどこの年には小学校区での福祉のまちづくり計画、小学校区での地域福祉活動計画の策定の取り組みも始まったころなんで、ちょうど担当校区には、こういう話し合いをしながら作っていきましょうねということを投げかけていった時期なんです。それを作るのも、やっぱり第 1期の反省を生かして、形だけ作ったらいいんじゃない。きちんとその中で多くの人と議論をしながら作っていきましょうねというのを呼びかけていったんです。(55)

引用 31こういったサロンづくりなんかも、こういう地区にこそ必要だとは思ってたんです。(57)

引用 32まさにそうなんです。この校区では、今こういう活動がほんとうに必要な時期に来てるんですっていう話をしたら(111)

カテゴリー 引用番号 引    用

地域との距離感

引用 33 2 ~ 3 時間あがり込んでしゃべったりとかいろいろして(149)

引用 34 (地区別の活動展開に関する提案について)引き下がりましたけど(101)

引用 35うちとしてはそういう人事には絶対に口出しはしないというのがあるんで、(185)

引用 36いちばんキーマンになる人なんでね。この人がもうこんなことまで言ってくれたら、もう言うことはないと、僕の出番はないという感じでした(243)

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福祉教育開発センター紀要 第 11 号(2014 年 3 月)

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ていう形で座談会にも来てもらいました』(引用 38)にあるように、話し合いや情報提供の場

を創りだしていることが分かる。当初はコミュニティワーカーがねらっていた、『積み重ねの

議論ができなかった』(引用 39)と、その場を創りきれなかったが、回数を重ねるごとに、目

的が達成されていった経緯が読み取れる。

表 11 場のプロデュース

4 点目は、「ファシリテーション力」である(表 12)。“facilitation”には、「知的化学反応を

促す触媒」や「人と人の間の知的相互作用を促進する働き」を意味するが、要約すると、円滑

に物事を進めるための促進機能であるといえる。住民懇談会などでは、コミュニティワーカー

自身が、『ファシリテーター』(引用 40)の役割を担うことがある。あるいは、話し合いの場

において、『意識的に話は変えて』(引用 41)、その課題について向き合う仕掛けを行っている

ことが分かる。

表 12 ファシリテーション力

5 点目は、「自己覚知」である(表 13)。社会福祉専門職として資質を向上するためには、絶

えず自己覚知を行い、専門職としての自分やその価値観について明確に認識することが求めら

れる。コミュニティワーク実践においても、コミュニティワーカーがなぜ、その言動や行動

の意味や意図を再確認することが重要である。『そういう能力も、立場もなかった』(引用 42)

と自己をふりかえることや、『今やったらもっとじっくりこの人の話を聞いたり、校区の役員

カテゴリー 引用番号 引    用

場のプロデュース

引用 37やっぱりみんなも共感して、「そんな取り組みがあるの」みたいなとこから始まって、「ぜひ他の地区でもこんなんできたら」って、(157)

引用 38ぜひ来て、これ紹介してくださいよっていう形で座談会にも来てもらいました(155)

引用 39

9 月からずっと 5回連続で開催をして、(中略)積み重ねの議論ができなかったんです。それでも参加者の中から、僕らが感じてたことがほんとに声として出てきて、「いや、福祉の活動って小学校でやってるけど、遠かったら行かれへんし、もっとなんか身近なとこでやったほうがいいんちがうの」という声がいくつか出てきたりっていうことがあって、あっ、これはまあよかったなと。で、ぜひまあそんな声も出てきたし、校区の福祉委員会で受け止めてほしいなというのは思ってたんです(75)

カテゴリー 引用番号 引    用

ファシリ

テーション力

引用 40 住民懇談会といえば社協が出てきて、進行役、ファシリテーターをするみたいなのは地域の中でも認識はあるんで(71)

引用 41まさに住民の生活を一人一人が変えていかないと無理なんで、そんなことはなかなかすぐには難しいなというのはあったんで、ちょっと意識的に話は変えていきましたけどね(89)

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小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

さんと話し合ったり、担当者と一緒に話をする』(引用 43)とあるように、現在の経験値や立

場を自己覚知していることが分かる。

表 13 自己覚知

6 点目は、「地域住民の主体形成」の項目である(表 14)。小地域福祉活動の主体は、地域住

民である。地域住民の主体性が向上しないかぎり、どれほどコミュニティワーカーが働きかけ

ても、よりよい展開が望めない。『地区の時代からやり続けてたことが、そのまま中心となって、

活動が続いている』(引用 44)と、主体的な小地域福祉活動が根づいていることや、『地区別

の活動が必要や、という声も出てきた』(引用 45)と地域住民の声を引き出す役割を果たして

いるといえる。そして、絶えず『主体性を意識しながら』(引用 46)コミュニティワーク実践

が展開されていることが分かる。

表 14  地域住民の主体形成

4.結論

本インタビュー調査の結果から、小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機

能について、大きく 3点が明らかになった。

まず、コミュニティワークのアセスメントの多様性である。本インタビュー分析にもあるよ

うに、アセスメントと①地域アセスメント、②人材アセスメント、③活動組織アセスメントに

分類することができた。コミュニティワーク実践においては、対象者が生活課題を抱えている

カテゴリー 引用番号 引    用

自己覚知

引用 42 この時はまだそういう能力も、立場もなかったということです(45)

引用 43今やったらもっとじっくりこの人の話を聞いたり、校区の役員さんと話し合ったり、担当者と一緒に話をするかな(43)

カテゴリー 引用番号 引    用

地域住民の主体形成

引用 44 今まで地区時代にやっていた活動をある種、そのまま継続をしながら、こういう食事会とか世代間交流とかっていうのをずうっと地区の時代からやり続けてたことが、そのまま中心となって、活動が続いているという形です(15)

引用 45 地区別の活動が必要や、という声も出てきたし、実際に生まれてその実感としてもあるんで、これはぜひとも役員会に投げかけよう(91)

引用 46 ほんとうに主体性を意識しながらなんですけど(中略)いろんなところで、何か可能性があればとりあえずちょっかい出してみて、でもまあ深追いはせずみたいなところでやり続けて、最終的に何かいろんな、ほんとうにパーツがそろったみたいなところがあるんで、それぞれにあまり無理をせず、あたため続けたみたいなところは大きかったなという感じです(263)

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福祉教育開発センター紀要 第 11 号(2014 年 3 月)

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当事者や、ボランティア活動を行っている支援者、また、その地域で実践している専門職、時

には専門機関なども包含されている。つまり、コミュニティワークとは、「人(個人または集団)」、

「団体・組織」・「地域」と次元の違うものを総合的に関わっている実践であることがわかる。特に、

アセスメントの内容については、地域の状況や活動組織の改選に伴う人の変更など、日々状況

や関係性が変化するものを対象にするため、一度のアセスメントだけではなく、定期的な再ア

セスメントを行うことが求められる。そのためには、コミュニティワーク実践の蓄積と記録化

が重要であるといえる。藤井(2006:31)は『コミュニティワーク実践が、「現場に根ざした

方法論」として蓄積されていかない直接的な要因として、コミュニティワーク記録と事例検討

法の不在がある』と指摘しており、実践記録を蓄積し、分析することが求められる。

つぎに、コミュニティワーク実践を展開するための戦略の重要性である。調査結果にもある

ように、「活動組織への提案」や「機を熟すまで待つ」という動きは、小地域福祉活動が展開

するための、戦略を持ちながらその行為を判断しているといえる。また、「地域との距離」に

おいても、ワーカー自身の立ち位置や役割を認識した上での行動である。言い換えると、コミュ

ニティワーカーは、地域住民や活動組織に対して、一定の距離感ではなく、絶えず変化をさせ

ながら、行動していることが分かる。さらにいえば、その場での役割も意識的に、「ファシリテー

ター」、「提案者」、「寄り添い・見守り」などと、場面において顔を変えながら立ち振る舞いを

していることが分かった。

そして、地域住民の主体形成の重要性の認識である。1962(昭和 37)年に社協発足後、10

年間の実践を総括し、その性格、目的、機能、組織の方向を位置づけた基本指針書「社会福祉

協議会基本要項」(以下、「基本要項」とする。)が発表された。この中で特に、社協の活動原

則として規定されたのが『住民主体の原則』である。基本要項の「性格」の項目にあるように、

「社会福祉協議会は一定の地域社会において、住民が主体となり、社会福祉、保健衛生その他

生活の改善向上に関連のある公私関係者の参加、協力を得て、地域の実情に応じ、住民の福祉

を増進することを目的とする民間の自主的な組織である」と謳われ、地域福祉実践の主人公は

地域住民であることが明記されている。住民主体の原則は、今日においても決して揺るがない

原理・原則として息づいているといえる。先のインタビュー分析での、「住民の声を聴く」、「共感・

受け止め」、「地域住民の主体形成」の項目でも分かるように、コミュニティワーカーは、常に

主体者である地域住民を中心に据えながら、地域組織化や小地域福祉活動の展開を側面的に支

援していることが、改めて浮き彫りとなった。特に、話し合いや協議の「場」をプロデュース

することと、それに伴って、様々なものを繋ぐ役割についても明らかとなった。

5.今後の課題

本研究では、社協においてコミュニティワークを主として実践を行っている職員の実践から、

コミュニティワーカーの役割と機能について分析を行った。改めて、コミュニティワーカーの

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小地域福祉活動におけるコミュニティワーカーの役割と機能

動きの多様性と総合性、そして、コミュニティワーク実践の基盤についても明らかになった。

エビデンスを実証することが困難な地域福祉実践領域において、実践事例を分析し、それらを

普遍化する手法は、一定有効であると考える。

一方で、本研究は一人のコミュニティワーカーの実践事例から抽出し分析したものであるた

め、実践事例の内容や、その人の動きについて個別性が高く、普遍化されたものであるとは言

いがたい。今後は、現在継続している複数のコミュニティワーカーのインタビュー分析を実施

する事と併せて、同じコミュニティワーカーから、別事例のインタビュー分析を行うことで、

その普遍性を高めていきたいと考える。また、コミュニティワーカーが様々な場面において判

断した意図やねらいについて、その要因分析についても今後の研究課題としたい。

注1 社会福祉協議会の現状と課題に関する整理については、全国社会福祉協議会(2008)『地域におけ

る「新たな支え合い」を求めて──住民と行政の協働による新しい福祉』に詳しい。

2 地域福祉実践のプロセスについては、永田幹夫(2000)『改定二版 地域福祉論』全国社会福祉協

議会 p.193 に整理したものが、端的にまとめられている。

3 ガバナンス研究について、1990 年代以降、経済学や経営学においては、「コーポレートガバナンス」

論や、国際的な観点から見る「グローバル・ガバナンス」論など、様々な分野・領域において研

究の蓄積がなされている。ガバナンス研究の動向については、金田喜弘(2012)「小地域福祉ガバ

ナンスの基礎的研究」 『福祉教育開発センター紀要』第 10 号 pp.67-84 に詳しい。

4 ストレングス視点の考え方は、1982(昭和 57)年から実施されたカンザス大学における精神障害

者の社会復帰支援のケースマネジメントが始まりといわれている。

参考文献藤井博志(2007)「コミュニティワーク実践の分析と記録化の視点」『日本の地域福祉』20 巻 31 - 42

Fran Rees(1998)The Facilitator Excellence Handbook, Pfeiffer(=2002, 黒田由貴子・P.Y. インター

ナショナル訳『ファシリテーター型リーダーの時代』プレジデント社)

牧里毎治編著(2000)『地域福祉論 住民自治型地域福祉の確立をめざして』川島書店

M.G.Ross(1967)Community Organization : Theory, Principle and Practice, Harper & Row.(=

1968, 岡村重夫監訳『コミュニティ・オーガニゼーション 理論・原則と実際』全国社会福祉協議会)

永田幹夫(2000)『改定二版 地域福祉論』全国社会福祉協議会

永田祐(2011)『ローカル・ガバナンスと参加 イギリスにおける市民主体の地域再生』中央法規

大阪府社会福祉協議会(2013)『社協コミュニティワークの実践力を高めるための「記録」と「事例検

討」 業務研究会~社協コミュニティワークの実践力を高める報告書~』

高森敬久・高田真治・加納恵子ほか著(1989)『コミュニティ・ワーク 地域福祉の理論と方法』海声

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福祉教育開発センター紀要 第 11 号(2014 年 3 月)

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高森敬久・高田眞治・加納恵子ほか著(2003)『地域福祉援助技術論』相川書房

田中千枝子編集代表 日本福祉大学大学院質的研究会編集(2012)『社会福祉・介護福祉の質的研究法 

実践者のための現場研究』中央法規

上野谷加代子・松端克文・山縣文治編(2012)『よくわかる地域福祉(第 5版)』ミネルヴァ書房

山縣文治・柏女霊峰編集委員代表(2013)『社会福祉用語事典 第 9版』ミネルヴァ書房

全国社会福祉協議会(2008)『地域における「新たな支え合い」を求めて──住民と行政の協働による

新しい福祉』

付 記

本研究は平成 24 年度~ 25 年度科学研究費補助金(若手研究 B)「小地域における福祉ガバ

ナンス及び住民の主体形成に関する理論的・実践的研究」(研究代表者:金田喜弘)の研究成

果の一部である。

(かねだ よしひろ  佛教大学福祉教育開発センター)