10
平成28年度(2016年度) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実 -若手教員が活用できる滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」の作成- 内容の要約 キーワード 学級経営 学級集団づくり 授業づくり 「多様性」「主体性」「つながり」 滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」 滋賀県総合教育センター 瀬 戸 貴 宏 Ⅰ 研究の目標 Ⅱ 研究の仮説 Ⅲ 研究の進め方 1 研究の方法 2 研究の経過 Ⅳ 研究の内容とその成果 1 学校生活の基盤となる学級経営 (1) 学級経営の充実が求められる背景 (2) 学級経営の重要な“2つの車輪” (3) 学級経営の充実に向けた“3つの 柱” (1) (1) (1) (1) (1) (1) (1) (1) (2) (2) 2 学んだことを生かした実践 (1) 学級集団づくり (2) 授業づくり 3 若手教員向け滋賀県版「学級経営サ ポートブック(中学校編)」 Ⅴ 研究のまとめと今後の課題 1 研究のまとめ 2 今後の課題 文 献 (3) (3) (6) (8) (8) (8) (8) 子どもが生き生きと活動する学級を目指すために、学級集団づくりと授業づ くりを重要な“2つの車輪”ととらえ、研修と実践との往還による研究型の研 修を行った。“2つの車輪”を円滑に回すため、研究委員と協議をし、「多様 性」を認め合える人間関係づくり、子どもが自ら関わろうとする「主体性」、 協力して生活するための「つながり」を、学級経営の充実に向けた“3つの柱” として位置付けた。 また、研修での学びや研究委員の実践をまとめ、若手教員が活用できる滋賀 県版「学級経営サポートブック(中学校編)」を作成した。

子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

  • Upload
    others

  • View
    4

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

平成28年度(2016年度) 学級経営プロジェクト研究

子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

-若手教員が活用できる滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」の作成-

内容の要約

キーワード

学級経営 学級集団づくり 授業づくり

「多様性」「主体性」「つながり」 滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」

目 次

滋賀県総合教育センター

瀬 戸 貴 宏

Ⅰ 研究の目標

Ⅱ 研究の仮説

Ⅲ 研究の進め方

1 研究の方法

2 研究の経過

Ⅳ 研究の内容とその成果

1 学校生活の基盤となる学級経営

(1) 学級経営の充実が求められる背景

(2) 学級経営の重要な“2つの車輪”

(3) 学級経営の充実に向けた“3つの

柱”

(1)

(1)

(1)

(1)

(1)

(1)

(1)

(1)

(2)

(2)

2 学んだことを生かした実践

(1) 学級集団づくり

(2) 授業づくり

3 若手教員向け滋賀県版「学級経営サ

ポートブック(中学校編)」

Ⅴ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

2 今後の課題

文 献

(3)

(3)

(6)

(8)

(8)

(8)

(8)

子どもが生き生きと活動する学級を目指すために、学級集団づくりと授業づ

くりを重要な“2つの車輪”ととらえ、研修と実践との往還による研究型の研

修を行った。“2つの車輪”を円滑に回すため、研究委員と協議をし、「多様

性」を認め合える人間関係づくり、子どもが自ら関わろうとする「主体性」、

協力して生活するための「つながり」を、学級経営の充実に向けた“3つの柱”

として位置付けた。

また、研修での学びや研究委員の実践をまとめ、若手教員が活用できる滋賀

県版「学級経営サポートブック(中学校編)」を作成した。

Page 2: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

平成28年度(2016年度) 学級経営プロジェクト研究

研修

子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

目標「学級経営の大切な

“柱”を見つける」

1.私の学級経営

2.身近に起こり得る事例から

目標「学級集団づくりを

授業から広げる」

秋田県の学級集団づくりに学ぶ

目標「学級集団づくりを充実させ、

授業に生かす」

1.学級ファシリテーションについて

2.学級集団を生かす学習指導案の作成

目標「学級集団づくりを意識した

授業のあり方を考える」

学級集団づくりを意識した授業実践

(中学校)

実践

学級経営の充実に向けた研究型の研修

研修と実践の往還

目標「学級集団づくりを意識した

授業のあり方を考える」

学級集団づくりを意識した授業実践

(小学校)

多様性

つながり

主体性

学級集団づくり

授業づくり

学級経営の重要な“2つの車輪”

学級経営の充実に向けた“3つの柱”

目標「学級経営の大切さを知る」

なぜ今、学級経営の充実が

必要とされるのか?

第 1回 研究協議会

第2回 研究協議会

第3回 研究協議会

第4回 研究協議会

第5回 研究協議会

第6回 研究協議会

Page 3: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

学級経営プロジェクト研究

(1)

学級経営プロジェクト研究

子どもが生き生きと活動する学級経営の充実 -若手教員が活用できる滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」の作成-

Ⅰ 研 究 の 目 標

子どもが生き生きと活動する学級を目指し、先進的な研究や事例等を学び、さらなる実践へつながる

研究型の研修により、充実した学級経営のあり方を探る。また、その内容をまとめ、若手教員が活用で

きる滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」を作成する。

Ⅱ 研 究 の 仮 説

子どもが生き生きと活動する学級を目指した研究型の研修で、研究委員とともに先進的な研究や事例

等を学び、その学びをさらなる実践へつなげることで、充実した学級経営のあり方を探ることができる

だろう。また、その内容をまとめた滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」を作成することで、

若手教員の学級経営の実践に活用できるだろう。

Ⅲ 研 究 の 進 め 方

1 研究の方法

研究協議会を以下の内容で、年6回実施する。研究員は、研究協議会での学びと、実践校における

実践の往還により研究を進める。

(1) 学級経営の充実が必要とされる現状や課題について知る。

(2) 学級経営において、大切な柱を明確化し、共有する。

(3) 大切な柱を意識した学級経営を進める。

(4) 先進的な研究や事例等を学び、学級経営に取り組む。

(5) 研究委員による学級集団づくりを意識した授業を構想し、実施する。

(6) 研修や実践した内容を基に、滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」を作成する。

2 研究の経過

Ⅳ 研 究 の 内 容 と そ の 成 果

1 学校生活の基盤となる学級経営

(1) 学級経営の充実が求められる背景

社会の変化が激しい今を生きる子どもにとって、学校は未来の社会に向けた準備段階としての場

4月

5月

6月

8月

9月~10月

研究構想、研究推進計画の立案

第1回研究協議会

第2回研究協議会

第1回児童生徒質問紙調査の実施

第3回研究協議会

第4回研究協議会

学級集団づくりを意識した授業の公開

10月

11月~12月

1月

2月

3月

第5回研究協議会

第6回研究協議会

第2回児童生徒質問紙調査の実施

研究報告書原稿執筆

研究発表大会準備

研究発表大会

研究のまとめ

副題があれば記載

Page 4: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

学級経営プロジェクト研究

(2)

であると同時に、現実の社会との関わりの中で、毎日の生活を築き上げていく場でもある。学校生

活の中で、毎日の生活や学習活動の基盤となるのは学級であり、いかに学級を円滑に経営していく

かが教員に求められる力量である。学習指導要領解説総則編においては、小学校においてのみ、学

級経営の充実が位置付けられ、中学校、高等学校においては位置付けられてはいない。しかし、子

どもの学習や生活における、学級の重要性がとらえ直されたことからも、小・中・高等学校を通じ

て学級経営・ホームルーム経営の充実を図り、子どもの学習活動や学校生活の基盤となる学級とい

う場を、豊かなものとしていくことが必要である。

(2) 学級経営の重要な“2つの車輪”

第1回研究協議会では、子どもが生き生きと学級で活動するため

に、「教員はどのような学級経営を行えばよいか」について講義を

受けた。その中で、学級経営を行う教員に求められていることは、

次の二つであると示された。一つは、子どもの自己有用感を育む学

級集団づくりを行うこと、もう一つは、子ども一人ひとりの意欲・

能力を最大限に引き出す授業づくりを行うことである。生徒指導提

要においても、学級担任には多様な個性や様々な人間関係を見すえ

ながら、望ましい集団・人間関係づくりを進めていく適切な指導が

求められていることや、児童生徒にとって、学校生活の中心は授業

であることが述べられており、学級集団づくりと授業づくりは、充

実した学級経営を行う上で、基盤になると考える。

これらのことから、本研究では、図1に示したとおり、学級集団づくりと授業づくりを、学級経

営の充実につながる重要な“2つの車輪”ととらえ、以後の研究と実践を進めた。

(3) 学級経営の充実に向けた“3つの柱”

第2回研究協議会では、校種、学校、学級の実態が異なる研究委員同士で、学

級経営の実践を交流し、そこから学級経営を充実させるために、大切にしなけれ

ばならないと考えられる“3つの柱”を導き出した。

一つ目は、「多様性」を認め合える人間関係づくりをすること、二つ目は、子

ども自らが関わろうとする「主体性」を引き出すこと、三つ目は、みんなで協力

して生活しようとする「つながり」のある学級集団づくりをすることであった。

本研究では、「多様性」「主体性」「つながり」を学級経営の充実に向けた“3つの柱”とした

(図2)。これらの“3つの柱”を“2つの車輪”の上にのせて、学級集団づくりと授業づくりを進

めていくことが、子どもが生き生きと活動する学級経営の充実につながると考えた。そして、“3

つの柱”から整理した目指すべき

子どもの姿を重要な視点とし、学

級集団づくりと授業づくりを進め

た(図3)。学習指導案を検討する

際に、まず目指す学級集団の姿を

設定し、指導上の留意点として、

図3における学級経営の充実に向

けた“3つの柱”と重要な視点を

意識した授業づくりを行った。

3つの柱 重 要 な 視 点

多様性 □ 一人ひとりの考えや発言をみんなが認めている …① □ 多答の問いに対して、自分の考えを安心して出すことができる…②

□ 自分にはない考えに耳を傾け、認めることができる …③

主体性

□ 自ら知りたい、見つけたい、学びたいと感じている …① □ 自らが課題意識をもち、学習を進めている …②

□ 自らの力で粘り強く考えたり、調べたりしている …③

□ 挑戦しようという気持ちになることができる …④

つながり

□ 自分の考えを先生や友達に話している …①

□ 友達の考えを聞いている …②

□ 友達の考えと比べながら、自分の考えを話している …③ □ みんなと協力して課題を解決しようとしている …④

□ 安心して学べる温かい雰囲気がある …⑤

図3 学級経営の充実に向けた“3つの柱”と重要な視点

図2 学級経営の充実に向けた“3つの柱”

図1 学級経営の重要な ・“2つの車輪”

重要な“2つの車輪”

車の両輪のように2つが回転していくことで、学級経営の充実につながると考える

学級集団づくり

授業づくり

Page 5: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

学級経営プロジェクト研究

(3)

2 学んだことを生かした実践

(1) 学級集団づくり

ア 多様な考えを認め合えるファシリテーション

子ども同士が多様性を認

め合い、合意形成を図るため

には、教員はどのようなスキ

ルを身に付けることが必要か

を考え、第4回研究協議会で

は、ファシリテーションにつ

いて学ぶ機会を設けた。

研修では、多くの演習を通

して、図4に示すような四つ

のスキルについて学んだ。ま

た、学級のどのような場面で

活用できるかを出し合い、交

流した(図5)。研究委員の振

り返りには、「ファシリテー

ションを活用して、『何がで

きたか』よりも『子どもがど

う変わったか』を見取ること

が大切だ」「学年、学級経営

にも生かしていきたい」といった記述(図

6)が見られ、ファシリテーターとして、

学級集団づくりや授業づくりに取り組ん

でいこうとする意欲が高まる研究協議会

となった。

イ 学級集団づくりを意識した授業実践

A小学校では、第4回研究協議会での

学びを基に、教員がファシリテーターと

なり、子ども同士の合意形成や、相互理

解を図る学級活動の授業に取り組んだ(p.5の図11)。

授業の導入場面では、ファシリテーター(授業者)の提案により、友達から言われるとうれしい

言葉について、意見を出し合う活動を行った。子どもからは、「ありがとう」「おはよう」とい

ったあいさつに関すること、「優しい」「おもしろい」といった性格に関すること、「掃除をい

つも頑張っている」「宿題をいつもきちんとしてきている」といった行動に関すること等、様々

な言葉が出された。ファシリテーターは、出てきた子どもの意見を板書し、意見を出しやすい雰

囲気づくりに心がけ、ミッション1につなげた。ミッション1では、子どもが「ぽかぽかカード」

(p.4の図7)に自分の名前を記入してクリップボードにはさみ、背負った状態で教室を歩きまわり、

友達のよいところを書き合う活動を行った。そして、この活動が円滑に進むように、また、子ど

もが活動する時間を確保するために、ファシリテーターは、最低限のルール(p.4の図8)を確認し

た後この活動に入った。その様子が4ページの図9である。ファシリテーターは、全体を見渡し

ながら、書いてもらう数が少ない子どもが出ないように、「あまり書かれていない人がいたら書

ファシリテーションの四つのスキル 1 場のデザインのスキル ~場をつくり、つなげる~ 2 対人関係のスキル ~受け止め、引き出す~ 3 構造化のスキル ~かみ合わせ、整理する~ 4 合意形成のスキル ~まとめて、分かち合う~

図4 ファシリテーションの四つのスキル

図5 ファシリテーションが学級のどのような場面で活用できるかを交流した様子

学級のどのような場面でファシ

リテーションが活用できるか

学びを深めた演習

の振り返り

図6 研修を終えた後の振り返り

学級集団づくりに対する意欲の高まり

Page 6: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

学級経営プロジェクト研究

(4)

いてあげてね」と声かけをし、この活動を見守った。

一定の時間が経過した後、背負った「ぽかぽかカー

ド」を外し、書かれた内容を確認した(図10)。導入

場面での雰囲気づくりの効果もあり、「ぽかぽかカ

ード」には心温まる言葉が列挙され、この活動に対

する振り返りでは、「うれしい言葉をたくさんもら

えた」「もっとそうなれるように頑張りたい」との

発言が多く見られ、自己有用感を高めることにつな

がったと考えられる。

ミッション2では、4人または5人が一組となっ

て、フープを人差し指のみで支えながら地面に下ろ

す「ヘリウムリングに挑戦」を行った。この活動は、

グループの全員が心を一つにし、協力しないと達成

できないミッションでもある。活動する前は、「簡

単そう」「すぐにできそう」と発言していたが、実

際の活動では、最初は早く地面まで下ろそうとする

あまり、誰かの人差し指が離れてしまい、どのグル

ープもなかなか上手くいかない状態が続いた。そこ

で、ファシリテーターは、「なぜ、上手くいかない

のかな。上手くいくためにはみんながどうすればよ

いのかな」と言葉がけをし、作戦会議を促した。こ

の促しにより、上手くいくためにはどうすればよい

のかという活発な作戦会議が行われ、子どもの中か

ら自然とリーダー、サブリーダー、フォロワーが生

まれた。その後、リーダーのかけ声を合図に、サブ

リーダーがリーダーを支え、フォロワーが協力し、

息を合わせて取り組んだ結果、どのグループも見事

に成功した。成功したことを喜ぶ子どもたちに、フ

ァシリテーターが成功したことの分析を促すと、子

どもは、自分への振り返りだけでなく、他者への理

解にもつなげていった(p.5の図12)。

二つのミッションを果たした子どもたちは、他者

から理解されることで、自分のよさに気付いたり、

対話しながら協力する活動を通して友達のよさを改

めて発見したりすることができたと考えられる。多

様な個性を認め合える学級集団づくりのために、教

員がファシリテーターとなり、子どもの「挑戦した

い」という主体性を引き出した。ミッションを果た

すために子ども同士のつながり合う様子が随所で見

られた活動であり、教員が研修で学んだことを実践

につなげ、子どもが生き生きと活動する学級活動と

なった。

図7「ぽかぽかカード」

自分の名前を記入し、背負う

学級の子どもが、空いたスペースに背後からその子どものよいところを記入する

図8 子どもと確認したルール

図10 書かれた内容を確認する様子

いつも元気だね。

優しいねと書いてあるわ

私には、走るのが速い

ね。いつも明るいねと書

いてあるわ

○○さんのよいところは・・・

図9 「ぽかぽかカード」に友達の よいところを書き込む様子

Page 7: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

学級経営プロジェクト研究

(5)

図11 ファシリテーションを活用した学級活動の学習指導案と実際の様子

小学校 第3学年 学級活動 学習指導案 題材名「友達を大切に」

目指す学級集団の姿

・友達からの評価によって「自分自身の持ち味やよいところ」を知り、自己有用感を高める

・子ども同士が、互いに対話をしながら協力する活動を通して、友達のよさを発見し、今後もよりよい学級集団

をつくろうとする態度を育てる

授業の

流れ

学 習 活 動 指導上の留意点

(学級集団を生かすための手立てと大切にする視点)

導入

5分

1.友達から言われるとうれしい言葉

・を考え、意見を出し合う。

・思いつくままに書き込むことができるよう、ホワイト

ボードと付箋を準備しておく。(KJ法)

展開

30分

2.「ぽかぽかカード」に友達のよいと

ころを書く。

3.「ヘリウムリングに挑戦」する。

・「○○さんのよいところ」と書かれた「ぽかぽかカー

ド」を配付する。カードは、クリップボードにはさみ、

各自が背負う。また、ルールを子どもと確認する。

・教室内を黙って自由に歩き、自分が書いたと気付かれ

・ないように「友達のよさ」を書き込むようにする。

「多様性」①

・何も書いてもらえない子どもが出ないように、全体を

見渡しながら声かけを行う。

・背負ったクリップボードを外し、書かれた内容を確認

し、感じたことを学級全体で共有し合う。

・この活動を通して、思ったことを出し合い、共感でき

る雰囲気を大切にすることで、学級に所属する安心感

を育み、自己有用感を高める。 「つながり」①

・5人(4人)のグループをつくる。

・説明の際、子どもたちが「簡単そう」「すぐにできそ

う」という気分になったところで、挑戦を促す。

「主体性」①、④

・作戦会議を行うようにする。

・ファシリテーターとして、「上手くいくためにはどう

すればよいのか」という視点を大切にした作戦会議と

なるよう努める。 「つながり」④「多様性」③

・作戦会議後、もう一度挑戦し、スムーズにミッション

に取り組めるようになったことを評価する。

まとめ

10分

4.「ヘリウムリングに挑戦」を振り返る。 ・グループごとにホワイトボードを用意し、自分への振

り返りを記入した後、意見を交流する。

・誰の言動がよかったかなどを記入し、その人に向かっ

て矢印を伸ばすことで、他者理解につなげる。

「多様性」①

・リーダー以外の子にも矢印が向いていることから、周

りの支え合いで成立していることに気付くようにする。

・最後に、活動を通して気付いたことや、感じたことを

グループで話し合う。

自分への振り返り 他者理解 ・最初は簡単だと思っていたが、やってみると、難しかったです。

・先生が作戦タイムの時間をとってくれてから、みんな ・で声をかけ合って、成功することができました。 ・最初は上手くいかなくて、失敗ばかりだったけれど、最後に成功することができてよかったです。

・Aさんが「うまい、うまい」などと言ってくれて、とてもやる気が出てきました。

・Bさんが「たのむで」と言ってまかせてくれました。 ・Cさんが「せーの」と、Dさんが「もう少し、ゆっくり」と言ってくれたから成功できました。

図12 「ヘリウムリングに挑戦」後の自分への振り返りと他者理解

ミッション1に取り組む

(私にも矢印が向けられていて)うれしいわ

みんなで声をかけながらやってみよう

よし、そうしよう

ミッション2に取り組む

・最低限のルールのみを示す ・書いてもらう数が少ない子どもが出ないよう、「あまり書かれていない人がいたら書いてあげてね」と声かけを行う

活発な作戦会議となるよう促す

振り返りを 1枚のボードで行う

本研究における“3つの柱” 「多様性」「主体性」「つながり」を意識した学習指導案

Page 8: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

学級経営プロジェクト研究

(6)

(2) 授業づくり

ア 子どもが自ら主体的に取り組む課題解決型の学習

“3つの柱”と重要な視点を意識した授業づくりを行うには、課題解決型の学習が有効な一つ

の手法と考えた。第3回研究協議会では、当センターの研究成果物である「授業改善近江プラン」

に示されている課題解決型の学習の授業づくりについて、学ぶ機会を設けた。課題解決型の学習

とは、子ども自身が課題を解決する過程で主体的に自らの課題を発見したり、友達と学び合いな

がら深め合ったりする学習形態であると学んだ(図13)。研修後の振り返りには、「子どもが生き

生きと授業に参加し、楽しんで学級にいられる集団づくりを目標にしたい」「学級経営力を高め

ていくためには、教科の授業をよくすることが大切、よい授業をすれば、よい学級が育つ」とい

った記述(図14)が見られ、課題解決型の学習が、学級集団づくりにもつながることを感じる研究

協議会となった。

イ 課題解決型の学習の授業実践

B中学校では、社会科の授業において“3つの柱”と重要な視点を意識した課題解決型の学習

を取り入れた(p.7の図15)。

授業の導入では、京都市内にある「外側を木で覆った自動販売機の写真」をモニターに映し出

した。写真を見た子どもは、「どこの自動販売機だろう」「いつも目にする自動販売機と何か違

う」と不思議な表情を浮かべ、周りの子どもと「なぜ、周りが木でできているのだろう」とつぶ

やき合うなど、興味を示した。インパクトのある導入で子どもの「なぜ」を引き出した後、授業

者は、「これは、京都市内にある自動販売機です。なぜ木で覆われているのだろう」と補足した。

さらに子どもが本時の学習に対して発言しやすい雰囲気をつくるために、京都の街並みについて

の印象を子どものつぶやきを拾いながら板書した。子どもからは、「京都はとても栄えている」

「観光客が多い」「美しい」「歴史的なお寺や神社が多くある」など様々な意見が出された。授

業者は、学級全体の雰囲気も和らいだところで、よい意見が多く出たことを認め、「今日は何に

ついて調べるのだろう」と子どもに問いかけた。子どもは、比較した2枚の写真と、京都の街並

みについての印象から、「京都の街並みにはどんな特徴があるのだろう」という学習課題を見い

だした。

展開では、子どもが自力解決をし、グループのメンバーと意見を交流した後、他のグループの

考えも知ることで多様な見方や考え方に触れられることを大切にした。交流する前に、授業者は

交流時間を示し、友達の考えを最後まで聞くこと、聞いた後は感想を友達に伝えて自分の考えを

話すことを確認した。交流場面では、「私の考えと似ているね」「いい考えだと思うわ」「その

考えは私にはなかったよ」などの感想を伝え、自分の意見を話した。その後、グループで出た意

見をホワイトボードに記入した。黒板に貼られたホワイトボードには多様な意見があり、授業者

図13 課題解決型の学習の構造 図14 課題解決型の学習の研修を

あ 受けた後の振り返り

授業づくりに対する意識の高まり

Page 9: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

学級経営プロジェクト研究

(7)

図15 課題解決型の学習を取り入れた学習指導案

がファシリテーターとして、それぞれの意見を関連させながらつなげていくことで、自分の考え

を深める子どもの姿が見られた。

この課題解決型の学習は、導入場面で子どもの主体性を引き出すこと、展開場面で子どもが多

様性を認め、友達と関わろうとするつながりのある学習活動にすることを重視した実践であった。

子どもが、友達とともに主体的に課題を解決しようとする姿が随所で見られた授業であったこと

から、授業者がファシリテーターとなって進めた課題解決型の学習は、学級集団づくりにもつな

げることができる授業であると考える。

中学校 第2学年 社会科 学習指導案 単元名 近畿地方 ~環境保全の視点を中心にして~

本時のねらい

・歴史的な景観の保全と都市開発について、意見を出し合い、学び合うことで自分の考えをもつことができる

目指す学級集団の姿

・生徒一人ひとりが、主体的に教師やクラスメイトと対話をしていくことで、多様な意見や見方にふれて、

自分の考えが深まる集団をつくる

授業の

流れ

学 習 活 動 指導上の留意点

(学級集団を生かすための手立てと大切にする視点)

導入

5分

1.身近にある自動販売機と、京都にある自動販売機を比べ、違いを見つける。

2.学習課題を確認する。

・身近にある自動販売機と、京都にある自動販売機を比べることを通して、本時の学習内容に興味をもたせ、学習課題へとつなげる。 「主体性」①

展開

40分

3. 京都や奈良の建物の特徴や歴史について、 資料を基に調べ、意見を出し合う。

・古都と呼ばれる。 ・文化財が多い。

・電柱がない。

・都市開発が進み、ビルが建ち並ぶ。

4.京都や奈良の歴史と街並みについて考え

・たことを、友達と意見交流し合う。

・京都・奈良のもつ二面性(歴史的な側面と現代的な側面)に目が向くように、歴史的な街並み(清水寺に近い三年坂)の写真と、現代的な京都駅前の写真を示す。

・グループで意見を交流するときには、一人ひとりの考えをしっかり聞くことを大切にし、意見は箇条書きで、ホワイトボードに書くよう助言する。

「つながり」①、②「多様性」②

・歴史的な景観の保全の大切さと、都市開発のメリットの、どちらにも気付くことができるように、立場を決めて話し合う場を設定する。

・全体の話合いでは、生徒の疑問や質問を取り上げながら、発言をつないでいくようにする。

「つながり」④

・多様な意見や見方にふれて、生徒が自分の考えを構築できるようにする。 「多様性」③

まとめ

5分

5.本時の学習のまとめをする。

6.本時の学習を振り返る。

・生徒の発言から、まとめとなるキーワードを引き出す。

・本時の学びを振り返り、次時への学習意欲がもてるよう、振り返りの視点を示す。

本研究における“3つの柱” 「多様性」「主体性」「つながり」を意識した学習指導案

よい考えだと思うわ。 私はこう考えたわ、聞いてくれる?

私はこう思うけれど、あなたは?

自分の考えは・・

「なぜ」を引き出し、子どもが主体的

に学ぼうとする学習課題を設定する

今日の学習のポイントはどこかな?

歴史的な景観を守りながら都市開発も進められているところです

京都の街並みには、どんな特徴があるのだろうか

(身近にある自動販売機) (外側を木で覆った自動販売機)

Page 10: 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実...学級経営プロジェクト研究 (1) 学級経営プロジェクト研究 子どもが生き生きと活動する学級経営の充実

学級経営プロジェクト研究

(8)

3 若手教員向け滋賀県版「学級経営サポートブック(中学校編)」

研究協議会での学びや、研究委員の実践をまとめることによって、県内の新

規採用教員および若手教員の学級経営の実践に活用できるように、滋賀県版

「学級経営サポートブック(中学校編)」(以下「サポートブック」という。)を

作成した(図16)。「サポートブック」は、大きく3章構成とした。

第1章「学級経営とは?」では、本報告書の1項の内容、第2章「学級集団

づくり」と「授業づくり」では、本報告書の2項の内容を基にまとめた。さら

に第3章「先輩教員の学級経営」では、研究委員の実践を「ここく発!先輩の

声」として掲載した。この「サポートブック」は、当センターのホームページ

に掲載し、自由に活用できるようにしている。

Ⅴ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

(1) 研修での教員の学びと、明確化した“3つの柱”「多様性」「主体性」「つながり」を意識して

学級経営の実践を行ったことで、子どもが生き生きと活動する学級集団づくりにつなげることがで

きた。

(2) 研修での学びや、実践の内容をまとめることで、若手教員が活用できると考える「サポートブッ

ク」を作成することができた。

2 今後の課題

(1) 学級集団づくりと授業づくりを学級経営の“2つの車輪”として、“3つの柱”を大切に学級経

営の充実を図ったが、それらの柱を有効に活用する重要な視点について、さらに検討していく必要

がある。

(2) 若手教員対象の研修等で紹介するなど、「サポートブック」の普及と活用に努める必要がある。

文 献

文部科学省「生徒指導提要」、平成22年(2010年)

文部科学省中央教育審議会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」、平成28年(2016年)

滋賀県教育委員会「平成28年度 学校教育の指針」、平成28年(2016年)

文部科学省国立教育政策研究所教育課程研究センター「学級・学校文化を創る特別活動中学校編」、平成26年(2014年)

滋賀県総合教育センター「授業改善 近江プラン」、平成28年(2016年)

研 究 委 員

□大津市立真野中学校教諭 濱村 知

□□□□草津市立老上中学校教諭 北村 大輝

□□□□東近江市立能登川中学校教諭 廣田真由子

守山市立守山南中学校教諭 水野 恵

□□□□大津市立真野北小学校教諭 堀江多佳子

□□□□甲賀市立伴谷東小学校教諭 小梶 正之

日野町立必佐小学校教諭 寺島 敬博

図16 「サポートブック」