4
地図を立体視する 国土地理院地理情報部情報普及課 1.はじめに 立体視とは同一の対象物を異なる位置から撮影 した左右一対の写真や画像を、両眼を使ってみる 手法である。地図を立体視すると地形のきめの細 かさや形状を三次元的に観察することが可能にな る。これは地図の立体視の大きな特長である。 本稿では、地図の立体視サービスの概要、立体 視の種類や方法などを紹介するとともに、いくつ かの立体視画像を例示してみる。 2.地図の立体視サービスの概要 国土地理院では、インターネットを利用して通 称「ウォッちず」と呼ぶ2万5千分1の地図情報 の閲覧サービスを2004年3月29日から提供してい る。(URL=http://watchizu.gsi.go.jp/) 2005年7月28日から地図の立体視ができる機能 をこのサービスに付加し、その提供を開始した。 (URL=http://wss.gsi.go.jp/) 地図情報の閲覧サービスでディスプレイ上に表 示した地図上の任意の地点をクリックすると、そ の地点を中心とする立体視画像を表示できる。こ のとき、緯度・経度表示と立体視画像表示ができ るが、ラジオボタンを使って選択表示する。 今回の立体視画像は、2万5千分1の地図情報 と標高データである「数値地図50mメッシュ(標 高)」を組み合わせて作成している。 立体視画像を表示する際には、利用者が立体視 をより快適に行うために、以下の各項目について 表示方法を選択できるようにしている。 ○立体視の方法:平行法、交差法、余色法 ○画像の幅:「小」あるいは「大」 ○高さ誇張:「弱」、「中」、「強」 ○画像中心間の距離(平行法・交差法のとき): 「短」あるいは「長」 ○赤強調(余色法のとき):「弱」、「中」、「強」 これらは、過高感(=実際より起伏が大きく感 じられること)の大小や眼基線長(=両眼の中心 間の長さ、6~7cm程度)の長短などに関係し てくる。 3.立体視の種類と方法 根本正美 地図情報の閲覧サービスで地図を表示 任意の地点をクリックして立体視画像を表示 平行法 交差法 余色法 -1-

地図を立体視する - 帝国書院...地図を立体視する 国土地理院地理情報部情報普及課 1.はじめに 立体視とは同一の対象物を異なる位置から撮影

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 地図を立体視する - 帝国書院...地図を立体視する 国土地理院地理情報部情報普及課 1.はじめに 立体視とは同一の対象物を異なる位置から撮影

地図を立体視する

国土地理院地理情報部情報普及課

1.はじめに

 立体視とは同一の対象物を異なる位置から撮影

した左右一対の写真や画像を、両眼を使ってみる

手法である。地図を立体視すると地形のきめの細

かさや形状を三次元的に観察することが可能にな

る。これは地図の立体視の大きな特長である。

 本稿では、地図の立体視サービスの概要、立体

視の種類や方法などを紹介するとともに、いくつ

かの立体視画像を例示してみる。

2.地図の立体視サービスの概要

 国土地理院では、インターネットを利用して通

称「ウォッちず」と呼ぶ2万5千分1の地図情報

の閲覧サービスを2004年3月29日から提供してい

る。(URL=http://watchizu.gsi.go.jp/)

 2005年7月28日から地図の立体視ができる機能

をこのサービスに付加し、その提供を開始した。

(URL=http://wss.gsi.go.jp/)

 地図情報の閲覧サービスでディスプレイ上に表

示した地図上の任意の地点をクリックすると、そ

の地点を中心とする立体視画像を表示できる。こ

のとき、緯度・経度表示と立体視画像表示ができ

るが、ラジオボタンを使って選択表示する。

 今回の立体視画像は、2万5千分1の地図情報

と標高データである「数値地図50mメッシュ(標

高)」を組み合わせて作成している。

 立体視画像を表示する際には、利用者が立体視

をより快適に行うために、以下の各項目について

表示方法を選択できるようにしている。

○立体視の方法:平行法、交差法、余色法

○画像の幅:「小」あるいは「大」

○高さ誇張:「弱」、「中」、「強」

○画像中心間の距離(平行法・交差法のとき):

 「短」あるいは「長」

○赤強調(余色法のとき):「弱」、「中」、「強」

 これらは、過高感(=実際より起伏が大きく感

じられること)の大小や眼基線長(=両眼の中心

間の長さ、6~7cm程度)の長短などに関係し

てくる。

3.立体視の種類と方法

根 本 正 美

地図情報の閲覧サービスで地図を表示

任意の地点をクリックして立体視画像を表示

平行法 交差法 余色法

○○

○○

○○

○○

○○

-1-

Page 2: 地図を立体視する - 帝国書院...地図を立体視する 国土地理院地理情報部情報普及課 1.はじめに 立体視とは同一の対象物を異なる位置から撮影

      

 今回の立体視サービスでは、平行法、交差法、

余色法のいずれの場合も左側の地図のみ処理が行

われ、右側の地図はもとのままである。

 左側の地図では標高や高さ誇張に応じて画素を

横方向にずらす処理を行っている。このとき、標

高が高いほどあるいは高さ誇張が強いほどずらす

量は大きくなる。図に示すとおり、平行法と余色

法では右側に、交差法では左側にずらす。

5.地図の立体視サービスの利用可能性

 地形をきめ細かくかつ三次元的に観察できると

いう地図の立体視画像の特長を踏まえると、地図

の立体視画像には教育をはじめレジャー、観光、

防災などいろいろな分野で利用の可能性があると

考えられる。たとえば、高校や中学校での地理授

業において地形や土地利用を立体的に観察するた

めの資料として利用するなどである。

6.立体視画像で地形や土地利用をみる

 地形や土地利用に関して典型的特徴を示すいく

つかの立体視画像を例示してみる。

 掲載したすべての立体視画像とも平行法、画像

の幅は 「大」、高さ誇張は「強」、画像中心間の距

離は「短」である。

(1)桂川中流部に形成された河岸段丘

 河岸段丘は河川の中・下流域に流路に沿って発

達する階段状の地形である。ここでは山梨県大月

市鳥沢付近の桂川中流部に形成された河岸段丘を

(1)平行法

○右眼で右側の地図、左眼で左側の地図をみる。

○広い範囲を立体視したいときや左右の地図の

間隔が広いとき、立体視が難しくなる。

○交差法に比べて地図が少し大きくみえる。

○左右の地図の間と顔の眉間の間にノートなど

の仕切りを置いて練習すれば、慣れてくると

はっきりみえるようになる。

(2)交差法

○寄り目にし、右眼で左側の地図、左眼で右側

の地図をみる。

○範囲の広さや左右の地図の間隔に左右されず

にみることができる。

○平行法に比べて地図が少し小さくみえる。

○2つの地図が合致した部分をみるように練習

すれば、慣れてくるとはっきりみえるように

なる。

(3)余色法

○赤青メガネを通してみると左右の眼に各々の

地図が自然に映り、地図が立体的にみえる。

○ひとつにみえる地図は、左右それぞれの地図

を余色関係にある赤色と青色で色分けし合成

したものである。

○とくに練習しなくても自然に立体感を得られ

る。

○余色法による立体視または画像等はアナグリ

フと呼ばれる。

4.立体視画像の作成方法

 カメラで撮影した左右一対の写真である立体写

真の代わりに、幾何学的に描いた立体図を使って

も立体視は可能である。今回提供する立体視画像

は立体図を使って作成している。立体図の作成方

法には、立体透視図による方法および立体斜投影

図による方法の2つの方法があるが、ここでは後

者の方法を採用している。

 立体斜投影図による方法は、図に示すとおり視

線の異なる2つの斜投影図を作り奥行きの距離に

比例した横方向の視差(=左右の画像におけるず

れの大きさ、図中のdP)を与えるものである。

斜投影を用いた立体図の作成

立体視画像

地点a

地点b

Pa

dP Pb○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

-2-

Page 3: 地図を立体視する - 帝国書院...地図を立体視する 国土地理院地理情報部情報普及課 1.はじめに 立体視とは同一の対象物を異なる位置から撮影

(3)唐桑半島のリアス式海岸

 リアス式海岸とは隆伏の激しい地形が沈降して

形成された地形である。ここでは宮城県北部の唐

桑半島のリアス式海岸を示す。この沿岸一帯では

1963年にチリ地震による大津波の来襲で甚大な被

害が発生したことがよく知られている。

(4)山梨県甲州市内のぶどう畑

 ぶどうの産地として有名な山梨県甲州市の勝沼

付近の立体視画像である。田は低標高・平坦地に

極めて高い割合で分布するのに対して、果樹園は

中標高の斜面にも分布することが確認できる。

示す。段丘面上の平坦地に市街地が形成され、中

央自動車道や中央本線などの交通機関が発達して

いることが立体的に読み取れる。

(2)大室山

 大室山は伊豆半島にある火山砕屑物だけが累積

した円錐状の山体のスコリア丘で、山体の中央部

は深さ約30mの火口跡の凹地であり、南側の山腹

の小火口などの特徴も捉えられる。

 地図の読図に不慣れな人でも、立体視により地

形の立体感を容易に得ることができる。

-3-

Page 4: 地図を立体視する - 帝国書院...地図を立体視する 国土地理院地理情報部情報普及課 1.はじめに 立体視とは同一の対象物を異なる位置から撮影

(5)神戸市における山地および市街地

 神戸市灘区における地図の立体視画像である。

地図中のほぼ中央を西南~北東に走る遷穏線(=

急傾斜から緩傾斜に変わるところを結んだ線のこ

と)を境に上側の勾配は急、下側の勾配は緩やか

である。これに対応して明瞭に山地と市街地に区

分されることが読み取れる。

 山地の標高の高いところや勾配の大きいところ

は人々の社会的・経済的活動に利用されにくいた

め、結果として平野に都市機能が集中することが

この立体視画像からもよく分かる。

 因みに国土地理院の国土環境モニタリングによ

ると、我が国の国土の約73%は森林域であり、残

りの約27%の地域に農作域や都市域が分布してい

る。とくに都市域は約2%しかなく、ここに様々

な土地利用がひしめいている。

(6)黒部ダム

 黒部ダムは発電をおもな目的として富山県東部

の黒部川上流に建設されたアーチ式コンクリート

ダムである。堤高は186mを誇り国内最高である。

1963年に完成した。また立山アルペンルートの観

光名所としても有名で、多くの観光客が訪れる。

 地図を立体視することにより、急峻な山岳地域

に建設された壮大な建造物を立体的に連想するこ

とができる。

7.おわりに

 もっと広い範囲を一度に立体視したいとの意見

要望が寄せられている。平行法では原理的に不可

能だが交差法では可能であり、早急に対応したい

と国土地理院では考えている。このような対応も

含め、様々な分野での立体視画像の利用可能性を

検討しつつ今後も普及啓発に努めていきたい。

〈備考〉赤青メガネの作り方

●厚紙をメガネの形状に切り取り、レンズの部分

をくりぬく。両眼の間隔は使う人に合わせるが、

通常は6~7cm程度。

●メガネの左眼に赤色セロハン、右眼に青色セロ

ハンを貼り合わせればできあがり。厚紙とセロ

ハンはデパートや文房具店で購入できる。

●なお、簡易なものであれば赤色(左眼用)と青

色(右眼用)のセロハンを各々片眼が入るサイ

ズで横に少し大きめに切り、両セロハンをホッ

チキスやセロテープで繋ぎ合わせても良い。

赤色・青色セロハン

厚紙6~7cm

-4-