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2 基本的な考え方

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第2章

基本的な考え方

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基本的な考え方

第2章

1 小学校入学前教育カリキュラムの基本的な考え方

(1) 港区が目指す幼児教育の推進理念幼児期は、心身の発達の著しい時期で、自我の芽生え、身辺の自立、言葉の獲得など、生涯にわ

たる人格形成の基礎を培う重要な時期です。港区では、これらを踏まえ、幼児が基本的な生活習慣を身に付け、自ら主体的に人やものと関わり、幼児期にふさわしい経験を十分にできるようにすることが大変重要であると考え、次のとおり「幼児の生活に豊かな学びを保障する」を港区の幼児教育の推進理念としました。

(2)保育園・幼稚園・認定こども園・小学校の連携港区では、保幼小連絡協議会の場等を通じて、保育園・幼稚園・認定こども園・小学校の連携・

交流の推進に取り組んできました。幼児期の教育から続く小中一貫教育を推進するとともに、幼児教育の質を高めるため、保育園・幼稚園・認定こども園・小学校の、保育士や幼稚園教員・小学校教員による意見交換や合同研修会等を開催しています。公開保育や研究協議会では、子どもの見方や指導法の違いに気付き、課題を共有するなど、小学校入学前教育の充実に向けて、組織や学校種等の壁を越えて取り組んできました。また、保育園・幼稚園・認定こども園・小学校における子ども同士の交流活動、保育士、幼稚園教員・

小学校教員同士の就学に向けた連絡会、情報交換等、地域の実態に応じて交流・連携を進めています。今後は、今まで保育園・幼稚園・認定こども園・小学校が工夫してきた様々な取組を、教育課程

や全体的な計画、年間指導計画に位置付け、互いの研究保育や授業を見合う等を通して、円滑な接続が実現できるよう、協議会や研究会等の方法や内容等を工夫することが必要です。

(3)家庭と連携した質の高い幼児教育の実現港区の子どもは、何にでも興味・関心を示すなど好奇心旺盛であり、自分を発揮し表現するとい

うよさが見られます。一方で、全国的な傾向にある自然体験の不足や人とかかわる経験の不足、体を動かす経験の不足などが港区でも見られます。また、保育園・幼稚園・認定こども園・小学校の保育・教育の現場からは「すぐに『疲れた』と言う」「必要な時に必要なことが言えない」「もうひと踏ん張りしてほしいというときにあきらめやすい」など、遊びや生活の中で気になる姿が報告されています。これらの課題を解決するためには、保育士や幼稚園教員は、幼稚園教育要領等の趣旨を踏まえ、

幼児期に経験しておくことや身に付けるべきことを見落とさないよう、意図的・計画的に保育・教

幼 児 教 育 の 推 進 理 念

幼児の生活に 豊かな学びを保障する

第2章 基本的な考え方

6 「育ちと学び」をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム

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基本的な考え方

第2章

育を構成することが大切です。しかしそれは、大人の一方的な教え込みや早期教育を行うものではありません。「幼児期にふさわしい生活」が展開されるよう、園生活の主体である幼児自らが、発見したり考えたりしながら「遊び」や「生活」をつくり出していけるようにすること、つまり「幼児にとって」の視点が何より重要です。単に自由に遊ばせているという意味とは異なるのです。そのためには、家庭に対して、幼児期の遊びが誤解されないよう、遊びと学びの関係をしっかりと丁寧に発信し理解を得ることが必要です。港区の質の高い「幼児教育」の実現に向けて、保育士・幼稚園教員・小学校教員が自らの専門性

を高め、家庭と連携を図りながら、接続期(※5歳児後期から小学校1年生1学期頃)の遊びや生活を見直し、教育課程や全体の計画、年間指導計画等と合わせて、「小学校入学前教育カリキュラム」を効果的に活用することが大切です。

保育園・幼稚園・認定こども園

小学校 家 庭

7第2章 基本的な考え方

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基本的な考え方

第2章

2 「育ちと学び」について

保育園・幼稚園・認定こども園における育ちとは、保育園・幼稚園・認定こども園修了までに育まれる生きる力の基礎となる心情、意欲、態度のことです。(*1、*2、*3、*4参照)幼児期に期待される育ちを確実に小学校へとつなぐことが大切です。幼児の育ちをつなぐためには、豊かな学びの機会を保障することが必要となります。ここでいう

幼児にとっての学びは、大人が目的をもって学ぶこととは異なります。遊びを中心とした主体的な生活を送っている結果として学んでいることであり、具体的には、次のようなことを指します。

幼児にとって園生活は、豊かな生活体験を得る場です。心を動かされた体験の一つ一つが重なり合って関連性をもち、新たな意味や価値が生み出され、それが幼児の学びを豊かにします。保育士や幼稚園教員は、体験の一つ一つが有意性をもつよう、環境を構成し、幼児の活動に沿って、

さらに環境を再構成することを繰り返しながら、幼児とともに遊びや生活をつくり出していくことが重要です。大人が一方的に環境を決めたり与えたりするのではなく、幼児の気持ちに寄り添った、きめ細か

な教育を展開することが、豊かな学びへとつながります。そして、これらの全てが小学校以降の生活や学習の基盤となっていきます。幼児教育においては、

豊かな学びが保障されるよう、幼児の生活の基盤となる家庭と保育園・幼稚園・認定こども園が連携しながら、「育ちと学び」を確実に小学校へとつなぐことが重要です。

*1 教育基本法 (幼児期の教育)第 11条 幼児期の教育は生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることをかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。

*2 学校教育法 第 23条幼稚園における教育は、前条に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。一 健康、安全で幸福な生活のために必要な基本的な習慣を養い、身体的諸機能の調和的発達を図ること。二 集団生活を通じて、喜んでこれに参加する態度を養うとともに家族や身近な人への信頼感を深め、自主、自律及び協同の精神並びに規範意識の芽生えを養うこと。

幼 児 に と っ て の 学 び

◦幼児が様々なものや人と出会い、それらとのかかわりの中で、好奇心や探究心をもつこと◦基本的な生活習慣を身に付けること◦いろいろな遊びを通して、体を動かす心地よさを味わうこと◦試行錯誤を重ねる中で物の特性や物事の法則性に気付くこと◦目的に向かって挑戦し、多少の困難を乗り越えたときの達成感や自己肯定感を味わうこと◦言葉を獲得すること◦創造的な思考力や表現力を身に付けていくこと

8 「育ちと学び」をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム

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基本的な考え方

第2章

三 身近な社会生活、生命及び自然に対する興味を養い、それらに対する正しい理解と態度及び思考力の芽生えを養うこと。

四 日常の会話や、絵本、童話等に親しむことを通じて、言葉の使い方を正しく導くとともに相手の話を理解しようとする態度を養うこと。

五 音楽、身体による表現、造形等に親しむことを通じて、豊かな感性と表現力の芽生えを養うこと。

*3 保育所保育指針 第1章 総則 (抜粋)1 保育所保育に関する基本原則 (2)保育の目標ア 前文省略(ア)十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で子どもの様々な欲求を満たし、生命

の保持及び情緒の安定を図ること。(イ)健康、安全など生活に必要な基本的な習慣や態度を養い、心身の健康の基礎を培うこと。(ウ)人とのかかわりの中で、人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てるとともに、自主、

自立及び協調の態度を養い、道徳性の芽生えを培うこと。(エ)生命、自然及び社会の事象についての興味や関心を育て、それらに対する豊かな心情や思考力の芽

生えを培うこと。(オ)生活の中で、言葉への興味や関心を育て、話したり、聞いたり、相手の話を理解しようとするなど、

言葉の豊かさを養うこと。(カ)様々な体験を通して、豊かな感性や表現力を育み、創造性の芽生えを培うこと。

*4 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(抜粋)第3章(幼保連携型認定こども園)  第9条(教育及び保育の目標) 前文省略一 健康、安全で幸福な生活のために必要な基本的な習慣を養い、身体諸機能の調和的発達を図ること。二 集団生活を通じて、喜んでこれに参加する態度を養うとともに家族や身近な人への信頼感を深め、自主、自律及び協同の精神並びに規範意識の芽生えを養うこと。

三 身近な社会生活、生命及び自然に対する興味を養い、それらに対する正しい理解と態度及び思考力の芽生えを養うこと。

四 日常の会話や、絵本、童話等に親しむことを通じて、言葉の使い方を正しく導くとともに、相手の話を理解しようとする態度を養うこと。

五 音楽、身体による表現、造形等に親しむことを通じて、豊かな感性と表現力の芽生えを養うこと。六 快適な生活環境の実現及び子どもと保育教諭その他の職員との信頼関係の構築を通じて、心身の健康の確保及び増進を図ること。

学びの基礎力

保 育 園 ・ 幼 稚 園 ・ 認 定 こ ど も 園 小 学 校

持ち物のかばんを所定の位置に置く ランドセルや帽子を丁寧に置く

先生と一緒に話し合う めあてをもって先生の話を聞く

9第2章 基本的な考え方

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基本的な考え方

第2章

3 小学校入学までに目指す姿

保育園・幼稚園・認定こども園での「育ちと学び」を小学校へとつなげるために、港区の子どもの実態、特色、課題等を踏まえた小学校入学までに目指す姿は以下の通りです。

港区ではこれらを基に、平成 27年 1月に策定された港区小学校入学前教育カリキュラムを使用し、保育士、幼稚園教員、小学校教員が子どもの姿を共通理解しながら保育、教育を行ってきました。その結果、接続を意識した保育、教育が少しずつ進められるようになってきました。

(1)小1問題(*5)港区においては、現在「小1問題」が顕著に発生している状況では

ありませんが、小1問題を防止するためには、幼児教育から小学校教育へ円滑に接続することが重要です。そのための方策として、保育士、幼稚園教員、小学校教員が互いの指導内容や方法を理解し、違いや共通点について理解を深めるよう、本カリキュラムの活用を促すとともに、保育士、幼稚園教員、小学校教員の合同の研修会等を開催しています。その他、教育委員会事務局職員が、区立小学校 1年生の全学級の小学校入学時における児童や授業の様子を観察し、状況に応じて助言をすることで、小 1問題の未然防止に努めています。

*5 小1問題小学校入学後、学級内が落ち着かない状態が数ヶ月にわたり継続する状況のこと。教師の話を聞かない、指示どおりに行動しない、勝手に授業中に教室の中を立ち歩いたり教室から出て行ったりする児童が散見できるなど、授業規律が成立しない状態をいう。

小学校入学までに目指す姿

○興味・関心をもって 意欲的にかかわる○自信をもって話す○イメージや言葉が 豊かである

○規則正しい 生活を送る

○自分のことは 自分でする

○進んで運動する

○あいさつをする

○友達のよさを認める

○きまりや約束を守る

10 「育ちと学び」をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム

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基本的な考え方

第2章

4 円滑な接続に向けて

(1)三つの力の考え方と具体的な視点「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議」(平成22年 11月)における報告書では、「児童期の教育をはじめとする義務教育は、生涯にわたって自ら学ぶ態度を培う上で重要なものであるが、それらは児童期から突然始まるのではなく、幼児期との連続性・一貫性のある教育の中で成立するものであるとし、幼児期の教育(特に幼児期の終わり)と児童期の教育の目標を『学びの基礎力の育成』という一つのつながりとして捉えることとする」としています。また、「『学びの基礎力』の育成を図るため、幼児期(特に幼児期の終わり)から児童期(低学年)

にかけての教育においては、『三つの自立』(学びの自立、生活上の自立、精神的な自立)を養うことが必要である。」としています。

幼児期(特に幼児期の終わり)における学びの基礎力の育成において重要であるのは、幼児が人やものに興味をもち、かかわる中で様々なことに気付くとともに、それらを広げ、深めていく過程の中で、自己発揮と自己抑制を調整する力を育むことであり、それらを通じて、個人として、また社会の構成員としての自立への基礎を養うことです。具体的には、「学びの自立」、「生活上の自立」、「精神的な自立」の「三つの自立」を養うこととしています。そこで、本カリキュラムでは、幼児期の育ちと学びの上に小学校以降の教育があるという報告書

の趣旨を踏まえ、幼児教育から小学校教育をつなぎ、貫く港区ならではの「三つの力」を以下のように設定しました。

◦学びの自立自分にとって興味・関心があり、価値があると感じられる活動を自ら進んで行うとともに、人の話などをよく聞いて、それを参考にして自分の考えを深め、自分の思いや考えなどを適切な方法で表現すること

◦生活上の自立生活上必要な習慣や技能を身に付けて、身近な人々、社会及び自然と適切にかかわり、自らよりよい生活を創り出していくこと

◦精神的な自立自分のよさや可能性に気付き、意欲や自信をもつことによって、現在及び将来における自分自身の在り方に夢や希望をもち、前向きに生活していくこと

三 つ の 力

○「生活上の自立」につながる生活習慣・運動 → 生活する力○「学びの自立」につながる思考力・表現力 → 発見・考え・表現する力○「精神的な自立」につながる自己発揮・他者理解・規範意識 → かかわる力

11第2章 基本的な考え方

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基本的な考え方

第2章

保育園・幼稚園・認定こども園では、保育所保育指針や幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の五つの領域の実践と、小学校以降の教育を見据えたこの三つの力をバランスよく伸長させる指導を行うこと、小学校低学年では、保育園・幼稚園・認定こども園での育ちと学びを踏まえた指導を行うことにより、連続性・一貫性のある指導の実現を目指します。以下が三つの力の具体的な視点であり、第3章以降のカリキュラムの視点になっています。

(2)学校教育全体で育成すべき資質・能力の三つの柱港区ではこれまで、前述の幼児期から児童期をつなぎ、貫く、三つの力の育成を図ることで、幼

児教育の質の向上と、小学校教育への接続を図ってきました。しかし、めまぐるしい社会の変化の中で、人工知能の台頭や、子どもたちが変化に向き合い、他

者と協働して課題を解決していくこと、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして、新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようすること、などが求められるようになってきました。平成 28年8月に出された中央教育審議会の報告において、新しい時代にふさわしい人材を育成

するために、学校教育全体において育成すべき資質・能力の三つの柱が以下のように示されました。これは、学校教育法第 30条第2項が定める学校教育において重視すべき要素である「知識及び技能の習得」「課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」とも共通しています。

三 つ の 力 の 具 体 的 な 視 点

<具体的な視点は…>◦自分のことは自分でする◦健康で安全な生活をする◦体を十分に動かし、進んで運動しようとする

<具体的な視点は…>◦あいさつをする◦人とかかわる◦きまりや約束を守る

<具体的な視点は…>◦好奇心や探究心をもってものとかかわる

◦感じたこと・考えたことを言葉で伝える

◦文字や数量などの感覚を豊かにする

生活する力 発見・考え・表現する力 かかわる力

◦何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)◦理解していること・できることをどう使うか (未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)◦どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか (学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(平成28年8月26日)次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ

12 「育ちと学び」をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム

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基本的な考え方

第2章

この資質・能力の三つの柱は、幼児期から 18歳の高等学校卒業まで一貫して育成されるものです。その際、学校教育全体において各教科等を学ぶ際に重要な、教科ごとの見方・考え方を生かすとともに、子どもたちがその後の学習や人生において、それらを自在に働かせることができるようにすることが重要です。この資質・能力の育成については、幼稚園教育要領や学習指導要領等の改訂においても示され、

学校教育全体において育成すべき資質・能力は図ア(2頁と同様)のようになります。学習指導要領の改訂においては、教科等の目標や内容についても、この資質・能力の三つの柱に基づいて再整理され、学校間の接続についても重視されています。幼児教育で育みたい資質・能力と、小学校以上の教育で育成すべき資質・能力とのつながりは、図イのようになります。

ア 学校教育全体で育成すべき資質・の三つの柱

イ 幼児教育において育みたい資質・能力と小学校以上の教育で育成すべき資質・能力とのつながり

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(平成 28年 8月 26日)幼児教育部会における審議の取りまとめについて(報告)

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(平成 28年 8月 26日)次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ

育成すべき資質・能力の三つの柱

幼児教育において育みたい資質・能力

学びに向かう力人間性等

育成すべき資質・能力の三つの柱

どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか

知識・技能

何を理解しているか何ができるか

思考力・判断力・表現力等

理解していること・できることをどう使うか

「確かな学力」「健やかな体」「豊かな心」を総合的にとらえて構造化

「確かな学力」「健やかな体」「豊かな心」を総合的にとらえて構造化

•基本的な生活習慣や生活に 必要な技術の獲得

•身体感覚の育成 •規則性、法則性、関連性等の発見•様々な気付き、発見の喜び•日常生活に必要な言葉の理解•多様な働きや芸術表現のための 基礎的な技能の獲得 等

   •試行錯誤、工夫   •予想、予測、比較、分類、確認•他の幼児の考えなどに触れ、新しい考えを 生み出す喜びや楽しさ  •言葉による表現、伝え合い  •振り返り、次への見通し•自分なりの表現         •表現する喜び 等

•思いやり •安定した情緒 •自信•相手の気持の受容 •好奇心、探究心•葛藤、自分への向き合い、折り合い•話合い、目的の共有、協力•色・形・音等の美しさや面白さに対する感覚•自然現象や社会現象への関心 等

学びに向かう力・人間性等(心情、意欲、態度が育つ中で、いかによりよい生活を営むか)

幼 児 教 育

小学校

以上

〈環境を通して行う教育〉

知識・技能 思考力・判断力・表現力等

知識・技能の基礎(遊びや生活の中で、豊かな体験を通じて、何を感じたり、

何に気付いたり、何がわかったり、何ができるようになるのか)

思考力・判断力・表現力等の基礎(遊びや生活の中で、気付いたこと、できるようになったことなども使いながら、

どう考えたり、試したり、工夫したり、表現したりするか)

遊びを通しての総合的な指導

学びに向かう力・人間性等

•三つの円の中で例示される資質・能力は、五つの領域の「ねらい及び内容」及び「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」から、主なものを取り出し、便宜的に分けたものである。

13第2章 基本的な考え方

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基本的な考え方

第2章

特に幼児教育において育みたい資質・能力は、幼児の自発的な活動である遊びや生活の中で育むことが重要であり、幼児教育と小学校の各教科等における教育との接続の充実や関係性の整理を図る必要があるとされ、次のように示されています。

  これらの資質・能力は個別に取り出して身に付けさせるものではなく、幼児の発達の実情や興味、

関心等を踏まえ、遊びを通しての総合的な指導を行う中で、一体的に育んでいくものです。さらに、幼児教育で育まれた資質・能力を小学校以上の教育で育成すべき資質・能力につなげることが重要であり、そのために円滑な接続が一層求められています。保育士・幼稚園教員は、幼児が遊びや生活の中で、環境との関わり方や意味に気付き、これらを

遊びや生活に取り込もうとして、試行錯誤をしたり、考えたりするようになるような、幼児教育における見方・考え方を生かし、幼児と共によりよい教育環境をつくっていくことが大切です。 

(3)幼児期の終わりまでに育ってほしい姿中央教育審議会答申(平成 28年 12月 21日)(*6)において、幼稚園教育要領等に示される

5領域の内容や資質・能力の三つの柱等を踏まえ、5歳児の終わり頃までに育ってほしい具体的な姿として、右頁の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が示されました。これは改訂となった幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領にも同様に記載されています。「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は、幼稚園教育要領等に示された5領域の内容やねらいに基づき、各園で幼児期にふさわしい遊びや生活を積み重ねることにより育まれる幼児の具体的な姿であり、主に5歳児後半に見られるようになる姿です。それぞれの項目が個別に取り出されて指導されるものではなく、ましてや到達目標でもありませ

ん。幼児の自発的な活動としての遊びを通して、発達の特性に応じてこれらの姿が育っていくもので、全ての幼児に同じように見られるものではありません。時期や発達にふさわしい指導の積み重ねが「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」につながる

ため、5歳児だけでなく、3歳児、4歳児の指導においても、念頭におくことが重要です。

*6 中央教育審議会答申(平成 28年 12月 21日)幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について

○「知識及び技能の基礎」豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分かったり、できるようになったりする

○「思考力・判断力・表現力等の基礎」気付いたことやできるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする

○「学びに向かう力・人間性等」心情、意欲、態度が育つ中で、よりよい生活を営もうとする

幼稚園教育要領 平成29年3月告示

14 「育ちと学び」をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム

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基本的な考え方

第2章

幼 児 期 の 終 わ り ま で に 育 っ て ほ し い 姿

◦健康な心と体 園生活の中で、充実感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる。

◦自立心 身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したり、協力したりし、充実感をもって行動するようになる。

◦協同性 友達と関わる中で、互いの思いや考えなどを共有し、共通の目的の実現に向けて、考えたり、工夫したり、協力したりし、充実感を持ってやり遂げるようになる。

◦道徳性・規範意識の芽生え 友達と様々な経験を重ねる中で、してよいことや悪いことが分かり、自分の行動を振り返ったり、友達の気持ちに共感したりし、相手の立場に立って行動するようになる。また、きまりを守る必要性が分かり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、きまりをつくったり、守ったリするようになる。

◦社会生活との関わり 家族を大切にしようとする気持ちをもつとともに、地域の身近な人と触れ合う中で、人との様々な関わり方に気付き、相手の気持ちを考えて関わり、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に親しみをもつようになる。また、園内外の様々な環境に関わる中で、遊びや生活に必要な情報を取り入れ、情報に基づき判断したり、情報を伝え合ったり、活用したりするなど、情報を役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用するなどして、社会とのつながりなどを意識するようになる。

◦思考力の芽生え 身近な環境に積極的に関わる中で、物の性質や仕組みなどを感じ取ったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる。また、友達の様々な考えに触れる中で、自分と異なる考えがあることに気付き、自ら判断したり、考え直したりするなど、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。

◦自然との関わり、生命尊重 自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、好奇心や探究心をもって考え言葉などで表現しながら、身近な事象への関心が高まるとともに、自然への愛情や畏敬の念をもつようになる。また、身近な動植物に心を動かされる中で、生命の不思議さや尊さに気付き、身近な動植物への接し方を考え、命あるものとしていたわり、大切にする気持ちをもって関わるようになる。

◦数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚 遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚をもつようになる。

◦言葉による伝え合い 保育士、教員や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付け、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる。

◦豊かな感性と表現 心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、意欲をもつようになる。

15第2章 基本的な考え方

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基本的な考え方

第2章

保育士・幼稚園教員と小学校教員は、この「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」についての話し合いを通して、それぞれがもつ5歳児の終わり頃の姿を共有し、幼児教育と小学校教育との接続の一層の強化を図ることが重要です。小学校学習指導要領(令和2年4月1日施行)においては、「幼児期の終わりまでに育ってほしい

姿を踏まえた指導を工夫することにより、幼稚園教育要領等に基づく幼児期の教育を通して育まれた資質・能力を踏まえて教育活動を実施し、児童が主体的に自己を発揮しながら学びに向かうことが可能となるようにすること」と記され、あらためて幼児教育との接続の重要性が示されています。

(4)幼児教育から小学校教育への円滑な接続これまで港区は、幼稚園教育要領等の五つの領域を踏まえた実践と、幼児教育から小学校教育を

つなぐ「生活する力、発見・考え・表現する力、かかわる力」の三つの力をバランスよく伸長させる指導を行ってきました。小学校低学年でも、保育園・幼稚園・認定こども園での育ちと学びを踏まえた指導を行うことにより、連続性・一貫性のある指導の実現を目指してきました。しかし、幼稚園教育要領等で「幼児教育において育みたい資質・能力」や「幼児期の終わりまで

に育ってほしい姿」が示されたことで、これまで港区が大切にしてきた「生活する力、発見・考え・表現する力、かかわる力」との関係を明らかにする必要が生じました。次頁の図はそれを明らかにしたものです。幼児は、園生活において、幼稚園教育要領等で示された5領域の内容やねらいに基づき、各園で

幼児期にふさわしい遊びや生活を積み重ねる中で、幼児教育において育みたい資質・能力の「知識・技能の基礎」「思考力・判断力・表現力の基礎」「学びに向かう力・人間性等」の三つの柱を伸長させていきます。保育士や幼稚園教員は、幼児教育から小学校教育へと「育ちと学び」をつなぐ「生活する力、発見・

考え・表現する力、かかわる力」の三つの力を伸ばすことを念頭に置き、保育、教育を進めていきます。その結果、5歳児の後半から小学校教育への接続期には、発達の差や個人差はありますが、資質・

能力が育まれている幼児の具体的な姿である「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が見られるようになります。この姿を手掛かりに、保育士や幼稚園教員が、小学校教員と幼児の姿を共有することが、育ちと

学びの連続性につながります。小学校教員が「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえた指導を工夫することにより、幼児期の教育を通して育まれた資質・能力がさらに伸長し、児童が主体的に自己を発揮しながら学びに向かう姿へとつながります。

16 「育ちと学び」をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム

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(5)接続のイメージ図

幼稚園教育要領等に示されている5領域

幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(到達目標ではない)

かかわる力

生活する力

小学校以降の教育

幼児教育

接続期

社会生活との関わり社会生活との関わり

思考力の芽生え思考力の芽生え

自然との関わり・生命尊重

自然との関わり・生命尊重

言葉による伝え合い言葉による伝え合い自立心自立心 協同性協同性

数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚

数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚

道徳性、規範意識の芽生え

道徳性、規範意識の芽生え

豊かな感性と表現豊かな感性と表現

健康な心と体健康な心と体

発見・考え・

表現する力

高等学校教育

学びに向かう力・人間性等

学びに向かう力・人間性等思考力・判断力・表現力等思考力・判断力・表現力等知識及び技能知識及び技能

知識及び技能の基礎

思考力・判断力・表現力等

の基礎学びに向かう力・人間性等

中学校教育

小学校教育

保育士、幼稚園教員、小学校教員が幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を共有する

保育士、幼稚園教員、小学校教員が幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を共有する

【健康・人間関係・環境・言葉・表現】

認定こども園幼稚園 保育園

遊びや生活を通した学び

情緒の安定・家庭教育

第2章

基本的な考え方

17第2章 基本的な考え方

Page 14: 基本的な考え方 - city.minato.tokyo.jp€¦ · 基本的な考え方 第2章 三 身近な社会生活、生命及び自然に対する興味を養い、それらに対する正しい理解と態度及び思考力の芽生え

18 「育ちと学び」をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム