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いま持続可能な社会づくりへ · 2014-09-03 · いま持続可能な社会づくりへ imram-東北大学多元物質科学研究所 環境問題、エネルギー問題、地球温暖化…。我々は今、地球規模で解決しなければいけない問題に直面しています。

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いま持続可能な社会づくりへIMRAM-東北大学多元物質科学研究所

環境問題、エネルギー問題、地球温暖化…。我々は今、地球規模で解決しなければいけない問題に直面しています。東北大学多元物質科学研究所は、まさにこれらの問題を解決し、持続可能社会を実現することを目指しています。将来世代へ負の遺産を残さない「持続可能な社会(Sustainable Society))の実現。積み重ねる様々な研究により、少しずつ未来へ歩みを進めていきたいと考えています。

東北大学多元物質科学研究所 所長あいさつ

芥川 智行 教授

03

04FOREFRONT REVIEW

先端的な技術の萌芽を生む完成度の高い基礎研究

05

栁原 美廣 教授

超高分解能顕微技術で軟X線光学の新たな地平を拓く

11

石島 秋彦 教授

生命現象の定量的解明を目指し生体分子の計測システムを開発

17

福山 博之 教授

高精度の計測技術で未知の高温融体科学を拓く

23

田中 俊一郎 教授

原子集団の配列操作によるナノ構造体創成および固体界面制御

29

雨澤 浩史 教授

固体イオニクス材料に着目し新しい燃料電池・蓄電池の設計から開発まで

35

垣花 眞人 教授

「化学の力」を駆使して高機能フォトセラミックスの創製へ

41

多元物質科学研究所が推進する研究 47

編集後記 50

TAGEN FOREFRONT TAGEN FOREFRONT1 2

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 東北大学多元物質科学研究所は、選鉱製錬研究所・素材工学研究所、科学計測研究所、

非水溶液化学研究所・反応化学研究所の旧3研究所が、2001年4月に統合して発足した日本で

2番目に大きな大学附置研究所です。英語名は、Institute of Multidisciplinary Research for

Advanced Materials (IMRAM)です。「多元のシーズを世界のニーズに」をキャッチフレーズと

して、多元物質科学に関する基礎と応用の先端的研究を推進すると共に、東北大学の4研究科

(理学・工学・環境・生命)と協力して世界的視野で考え行動できる指導的人材を育成し、地

域と世界に貢献することを目指しています。

 さて、そもそも「多元物質科学」とは何を意味するのでしょうか?

 まず一つには、無機・有機・生体などの物質を融合した多元的物質を科学するということを意

味します。21世紀はカーボンファイバー複合材料が飛行機に使われるなど、多様な物質をナノか

らマクロまで複合化した新しい素材が注目されています。新しい複合素材を開発する上でキーと

なるがナノテクノロジーです。多元研ではナノメートルの空間で無機物と有機物を合成・複合する

ことにより、全く新しいマテリアルを創製する研究も行っています。これらは電子部品や蓄電池や

光デバイスなどに使われ省エネルギーや安全安心社会に貢献しています。バイオ・医療の分野で

もナノサイエンスが新しい可能性を切り拓いています。ナノサイズのキャリアに薬を乗せ、目標とす

る患部のみに薬を運ぶドラッグデリバリーシステムもその一つです。

 多元物質科学のもう一つの意味は、Multidisciplinaryという英語標記からも分かるとおり、一

つの見方にとらわれずに様々な視点で物質科学を作って行こうというものです。物理や化学や生

命や工学や環境科学など様 な々学問的視点を総合した新しい物質科学の創出を目指します。す

なわち地球環境を守り持続可能(サステナブル)な社会の実現に向けた物質科学として、1マテリ

アル(素材)、2プロセッシング、3メジャメント(測定)の3つの方向に注力しています。新しい素材

の探索・合成や機能開発はもちろん、その素材の資源確保や省エネ生産技術、利用時の安全

性や経済性、さらには廃棄・リサイクルされる事までを視野に入れたトータルなプロセスを研究して

います。そして、それらの研究を支える技術として、新型電子顕微鏡をはじめX線・レーザーなど

を用いた新しい測定技術の研究開発も行っています。

 この3つの方向性を実現するために、4つの基盤的部門(有機・生命科学研究部門、 無機材

料研究部門、プロセスシステム工学研究部門、計測研究部門)と、4つの重点研究センター(サ

ステナブル理工学研究センター、先端計測開発センター、高分子・ハイブリッド材料研究センター、

新機能無機物質探索研究センター)を設置しています。これにより多元物質科学の基盤となる部

門をしっかりと守り育てながら、喫緊の社会的要請に集中的 かつ迅速に対応できるような体制を

構築しています。

 全国的・国際的な共同研究も精力的に進めています。例えば、北大電子研‐東北大多元研‐

東工大資源研‐阪大産研‐九大先導研という全国5附置研究所をつないだ ネットワーク型共同利

用共同研究拠点として認定され、全国からの共同研究を行っています。また、日仏共同研究プロ

ジェクトFrontier2013を始め多くの国際連携研究を推進しています。さらに、2012年からはレア

メタル・グリーンイノベーション拠点や東北発素材技術先導プロジェクトの希少元素高効率抽出技

術拠点と超低摩擦技術拠点などの大型プロジェクトも走り出しました。

 これからも、 一歩一歩着実に研究・教育に努め、更なる発展に向けて教職員・院生・学生が

力を合わせて進んでまいりますので、皆様の変わらぬ御支援を宜しくお願いいたします。

東北大学多元物質科学研究所 所長

KAWAMURA, Junichi

河村純一

多元の可能性が

新しい世界を拓く

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1966年札幌市生まれ。1989年北海道大学理学部化学第2学科卒業。1991年北海道大学大学院理学研究科化学第2専攻修了。1995年京都大学大学院理学研究科化学専攻単位取得退学。1997年博士(理学/京都大学)。1995年北海道大学電子科学研究所助手。1997年文部省在外研究員フィンランド中央技術研究所。1998年科学技術振興事業団さきがけ21研究研究員。2003年北海道大学電子科学研究所准教授。2010年東北大学多元物質科学研究所教授。

http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/akutagawa/Homepage2010/index-j.html

多元物質研究所高分子・ハイブリッド材料研究開発センターハイブリッド材料創製研究分野 教授

AKUTAGAWA,Tomoyuki

FOREFRONT REVIEW

芥川智行

先端的な技術の萌芽を生む完成度の高い基礎研究

FOREFRONT REVIEW 芥川研究室は、2010年4月からスタートした、比較的新しい研究室。有機合成を出発点にして、導電性・磁性・強誘電性などの機能性分子材料・有機エレクトロニクスの開発を行っています。対象としているのは、単結晶・液晶からナノスケールの分子集合体まで。研究室の大きな特徴は、有機合成から物性評価までをカバーできるスタッフと、多くの自作による計測装置を備えていること。サイエンスを楽しむことを大切に研究が行われています。

 有機化学を基礎とした有機機能性材料と言われるものを扱います。

たとえばイオン交換にかかわるもの、磁性にかかわるもの、光学特性

や電気伝導性にかかわるものなど。最近の先端的な科学技術の多く

は、これらの有機機能性材料の開発をベースとして発展してきたもの

で、近年ではさらに生体機能材料まで視野に入ったテーマを扱い、さ

まざまな物性を示す材料の開発が多様な手法で行われている注目度

の高い分野です。

 目標に近づこうとするアプローチの仕方や、研究のステージにどん

なファクターを登場させるかということについては、さまざまな考え方が

成り立ちます。「この研究室の目標は、実用化に向かう前段階の、あ

くまでも基礎研究を高いレベルで展開すること」と指摘する芥川教授

が意図しているのは、隣接領域の知見までも見据えた完成度の高い

コンビネーションの構築です。これとこれだけで間に合うだろう、間に

合わせようという考え方ではなく、無機化学、物理化学、分析化学、

電子工学、成形加工技術など、関連分野のノウハウも惜しみなく注

ぎ込みながら、多彩な視点からの考察を試みています。「たとえばど

んなものを組み合わせていくか、それを自分のセンスで見つけていくの

が、サイエンスのおもしろさ」。メンバーそれぞれが、高い目標に向かっ

て、ひとつひとつ課題を乗り越えながら、先端的科学技術発展の基

盤を支える研究が進められています。

01FOREFRONT REVIEW

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多彩な機能性有機物を作製し物性評価にも直結

MY FAVORITEスコッチの本場のシングルモルトウイスキーをコレクション 英国に若い頃から共同研究で交流を続けているグラスゴー大学の研究者がいます。英国に出張の際には彼が本場スコッチウイスキーの蒸留所に案内してくれました。蒸留所はスコットランドに100箇所ぐらいあります。ひとつの蒸留所でも、いろんな種類をつくっていました。 シングルモルトの聖地といわれるアイラ島では、伝統的なウイスキーをつくっていて、特徴的な風味を醸し出している蒸留所があります。そういうところで、よく珍しいシングルモルトを買って集めたものです。だいぶ飲んでしまいましたが、ほんとうにレアなものは札幌の自宅にまだ大事にとってあります。

TERM INFORMATIONπ電子系化合物

ベンゼンやナフタレンなどを代表とする芳香族化合物であり、炭化水素のみで構成された芳香族炭化水素と環構造に炭素以外の元素を含むものを複素芳香族化合物がある。伝導性・光機能・磁性などの機能発現に利用可能な活性な電子を有する事から、有機エレクトロニクスへの応用が研究されている。

両親媒性物質

1つの分子内に水になじむ親水基と油になじむ疎水基の両方を持つ分子であり、界面活性剤として利用されている。また、水中で疎水部分が凝集してミセルやベシクルなどのナノからメゾスケールの特徴ある分子集合体を形成する。

巨大無機クラスター

モリブデン酸の脱水縮合により形成するポリオキソメタレートは、直径が数ナノメートルにもおよぶ環状や球状の巨大クラスター構造を形成する。ナノスケールで構造が正確に決まったクラスターは、次世代のナノ電子材料として興味深い研究対象である。また、一つのクラスター内に100個以上の遷移金属イオンを含むことから、たくさんの電子を貯蔵することが可能な多段階電子貯蔵物質として興味が持たれる。

金属錯体

分子の中心に金属、金属イオンが存在し、それを取り囲むように非共有電子対を持つ配位子と呼ばれるものからなる化合物。中心金属は、Fe, Co, Ni, Cuなどの遷移金属が一般的である。金属錯体は、有機化合物や無機化合物のどちらとも異なる多くの特徴的性質を示すため、伝導性・磁性・光機能性の観点から活発な研究が行われている。

柔粘性結晶

固体と液体の中間状態であり、結晶構造に3次元的な位置規則性があるものの、分子配向に規則性が無い状態をとなる。温度や圧力変化に対して秩序相から無秩序相への相転移を示す。柔粘性結晶の代表的な化合物として、四塩化炭素、シクロヘキサン、アダマンタン、フラーレンなどが挙げられる。

Langmuir-Blodgett膜

水面に両親媒性分子を滴下すると、水と空気の界面に1分子層からなるLangmuir膜が形成する。表面圧を上昇させ固体状態に膜を変化させ基板に累積すると、親水基と疎水基が配向した単分子膜が累積される。これを繰り返すことにより、分子レベルで厚みが制御されたLangmuir-Blodgett膜が作製できる。

有機合成の手法による分子の設計と合成 芥川研究室は「有機合成の手法による分子の設計と合成」を基本的な研究テーマとし、たとえば、π(パイ)電子系化合物・両親媒性物質・巨大無機クラスターなどを扱います。 有機化合物は、2重結合や孤立電子対でπ共役系をつなげていくことで、特徴的な物性を示すことがあるため、有機分子の光物性や電子物性に焦点をあてた研究では、π電子系化合物がキーとなります。新規なπ電子系化合物を合成するこ

とにより、有機トランジスタなど新たな導電性材料の創製を目指します。また一つの分子の中に親水性の部分と疎水性の部分とを併せ持つ場合、その分子を両親媒性を持つといいますが、この両親媒性物質の機能発現に着目したさまざまな研究も行っています。新規な構造の両親媒性分子は、生命科学、材料科学などの分野にも波及効果をもつものと期待されています。さらに、さまざまな形をした金属錯体、巨大無機クラスターなどを利用した新機能材料の創製にも取り組んでいます。

分子集合体の構造や成長メカニズムを探る また、さまざまな分子集合体を作製することにより、新しい機能を発現するような材料の開発に取り組んでいます。有機分子の集合体である結晶や薄膜を作製することにより、これらの分子から成る分子集合体の構造や成長メカニズムを探り、その集合状態を制御することで、マルチファンクショナルな分子性材料の開発を行っています。 単結晶・柔粘性結晶(プラスチッククリスタル)・液晶・ゲル・LB膜(Langmuir-Blodgett膜/ラングミュア-ブロジェット膜)など多様な分子集合体を研究対象としています。単結晶は、とくにシリコンの単結晶など半導体製造の基本として重要なものです。柔粘性結晶は、分子レべルで固体相にみられる位置規則性と液体相にみられる配向の等方性を合わせ持ち、新しいイオン伝導体材料として期待されています。またLB膜は、分子レベルでの秩序構造を有する有機超薄膜を得る有力な方法として注目されているものです。 「すぐ実用化できるような技術を目指したものではなく、こうした基礎化学の基盤となるテーマについて、高いレベルで研究を積み重ねることによって、将来的な実用性にも展開できるような土台固めをすること」と、芥川教授は研究室の方向性を

説明します。

作製した材料について測定装置を自作して物性評価 作製した材料の物性評価、たとえば、電気伝導度・磁性・誘電率の測定、単結晶X線結晶構造解析なども、芥川研究室においては重要なファクターのひとつとなっています。 ナノ構造測定室には、日本でも3台しかないという希少な装置があります。AFM

(原子間力顕微鏡)は、ふつう物質表面の構造などの形状を測定しますが、ナノスケールの物体の伝導性を測る場合に、試料表面を傷つけないようにしなければいけません。こうした課題をクリアする目的で、芥川教授はこの分野に詳しい大阪大学との共同で装置を製作したものです。今では多くの研究者の測定依頼も受けています。測定装置の自作をしながら、物

性評価のノウハウを蓄積し、材料創製段階後の研究過程にスピード感をもって臨んでいます。 「研究室のメンバーがせっかく苦労して作ったものなら、すぐにでも測定して検証してみたいという思いから」と芥川教授。

「作る」ところから「測る」ところまで、よどみなく完結できるわけです。物性評価の経験とノウハウを蓄積していくと、材料作成段階で「こういう物質では測定できない」というような予測を立てられるようになるといいます。 化学の分野では、電子回路の勉強まではふつうしませんが、化学専門でありながら、物理学、あるいは電子工学への関心が深いのは「北大にいた時に自分は化学でしたが同僚が物理専攻で、何かと身近で影響を受けたことが土台になっている。今は測定システムのプログラミングもやります」と、芥川教授は話します。

01FOREFRONT REVIEW

芥川研究室では、有機分子の設計自由度に着目した分子集合体の多重機能の構築および無機材料とのハイブリッド化を試みています。導電性・磁性・強誘電性の観点から、分子性材料の電子-スピン構造を設計し、その集合状態を制御することで、マルチファンクショナルな分子性材料の開発を行っています。

豊富な設備と試料が揃っている有機合成室で、各種の有機合成、錯体合成、結晶成長などを行い、作製した材料は、物性測定室・X線結晶構造解析室・分光測定室・ナノ構造測定室で各種の物性評価を実施。材料の作製と物性評価を研究室内で完結できるという強みになっています。

左は、X線結晶構造解析装置。X線を物質に当てると、一部は吸収されたり、原子核のまわりを回っている電子によって散乱されたりします。この散乱されたX線を観測することにより、物質の中の電子の分布、つまり物質の3次元構造を知ることができます。右は、ナノ構造測定室にあるAFMを活用したオリジナルの電導性測定装置。

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エレクトロデバイスに向けて独創的な材料開拓を目指す

OFF TIME小学校6年の時にはスキー検定1級。スキーは生活の一部 私は北海道出身で、子どもの頃から冬はスキー三昧、というかスキーは生活の一部でした。父親も当然のようにスキーが上手かったので、よくいっしょに滑りました。小学校6年の時には、スキー検定1級をとりました。これは自慢ではなく、ごく普通のことでした。その後も冬休み・春休みは毎日スキー場に行っていました。 今も自宅は札幌にあり、冬の週末は札幌に帰ってスキーをやることもあります。主にニセコで滑ります。夏は、北海道の山々に登山に行くことも多いですね。

TERM INFORMATION

「物質勘」を研ぎ澄まして新しい物性開拓を目指す 機能性有機物質の合成と物性開拓を研究のキーワードとする芥川研究室において、芥川教授自身は、主として導電性有機材料(有機超伝導、有機トランジスタ)、有機磁性体(有機強磁性、スピントロニクス)、有機強誘電体(フレキシブルメモリー、機能性界面)などの研究に携わっています。 化合物の合成において、有機 - 無機ハイブリッド材料も視野に入れながら、どの素材を選択し、どのように組み合わせ

るか。どこからスタートして、どんな手法とプロセスで進めていくのか。「経験を積まないと、その勘所はわからない」と芥川教授はいいます。いくら予測をたてても、何をどうやっても、新しい物性など出てこないことの方が圧倒的に多い。最初にたてたテーマもどんどん変わっていく場合もあるといいます。 「何か新しいものを発見できるのはめぐり逢いのようなもの。経験の積み重ねによるセンスのようなものが、突破口になることがある。何にも努力しないでめぐり逢うことはない。材料学や物性研究は、そういう

ところがある」。研究室のメンバーにも「物質勘」を磨けと、教授は声をかけます。「自分は、いろいろなアプローチがあるから、ひとつのことにあまり執着しない」そうですが、そんな自由度も、ひとつのヒントかもしれません。

強誘電体の研究から新たなブレークスルー スイッチ的な応答を示す強誘電体は、メモリー素子への応用などの観点から、デバイス化に向けた活発な研究が行われているテーマの一つです。ただ、それらの多くは無機材料を用いた研究でした。強誘電体としてよく知られる無機化合物チタン酸バリウムは、セラミックコンデンサとして使われています。 芥川教授は、先行研究とはまったく異なる新規な物質群として、有機 - 無機ハイブリッドのポリ酸クラスター(混合原子価ポリオキソメタレートクラスター)に着目し、クラスター内部に存在する電子の秩序 -無秩序転移を利用した、数GHzの超高

速応答性のある強誘電体メモリーの開発に着手しています。「他ではやらないことをやるのが好きですね」と話すように、基礎的な物理化学の観点から、まったく新しい独創的な材料開発に道を拓いています。 現在、芥川教授は強誘電体についての研究にとくに力を入れており、さまざまな試みを続けています。「機能の多重化についてさらに追求していきたい。たとえば発光特性。光で制御できるような複数の機能を組み合わせるやり方」と、着想はさらに広がっています。

分子モーターなど先端的なテーマも視野に とくに有機物をつくっている狙いについて、芥川教授は「シリコンなどの半導体は折ったり曲げたりできないけれども、もし有機物でつくれば基本的にやわらかいので、たとえば紙のようなものの上に回路をつくって曲げるということもできる」と説明します。 「有機強誘電体のエレクトロニクスへの

応用は、おそらく10年ぐらいのオーダーでさまざまなものが実用化されてくるのではないか」と教授はとらえていますが、もう少し時間がかかるとみているものに「分子モーター」などの先端的な分子メカニカル材料の研究があります。超分子を用いた人工分子モーターについての研究などが活発に行われていますが、芥川教授は、分子集合体中の分子運動と連動したバルク物性の開拓から、分子メカニカルデバイスの創製に関する研究を行っています。 分子機械は、変わり続ける環境に適応し、どんな条件下でも対応できる柔軟性を実現するため、いわゆる「分子の揺らぎ」を利用すると言われています。芥川教授は「超分子ローター型強誘電体の物性制御」をテーマとした研究において、分子の揺らぎや回転の自由度を導入し、結晶格子の柔らかさを利用した新規な物性開拓を追求しています。芥川研究室では、こうした時間のかかる先端的な研究分野も視野に入れながら、幅広い機能性材料の研究に立ち向かっています。

01FOREFRONT REVIEW

スピントロニクス

固体中の電子が持つ電荷とスピンの両方を利用した物性現象やデバイス応用などと関連する研究分野であり、 スピンとエレクトロニクスから生まれた造語である。電荷の自由度のみが利用されてきたエレクトロニクスに、スピンの自由度も加味することでこれまでのエレクトロニクスでは実現できなかった機能や性能を持つデバイスの実現を目指している。

有機強誘電体

自発的に電気分極を生じる物質を強誘電体と呼び、自発分極の向きを電場によりスイッチングする事で、強誘電メモリやピエゾ素子として利用できる。その代表例は、チタン酸バリウムなどの無機化合物であるが、最近では、フレキシブルデバイスの観点から有機材料を利用した有機強誘電体の開発に注目が集まっている。

メモリ素子

デジタル情報機器に使用される基本的な記憶素子であり、大別するとハードディスクドライブ (HDD)やDVD/CDのような物理動作を必要とする記憶装置の一群と、物理動作を必要としない半導体メモリを使用した記憶装置に分類できる。強誘電体メモリは、書き換え可能な電源を切ってもデータが消えない不揮発性のメモリである。

ポリ酸クラスター

オキソ酸が縮合してできた陰イオン種であり、化学式が[MxOy]n− (M = Mo, V, W, Ti, Al, Nbなど)で表される分子性クラスターを示す。複数の酸素原子が結合しているため最高酸化数まで酸化された状態である場合が多い。例えば、 Mo(VI)、V

(V)やW(VI)などから構成されるポリ酸が典型的な化合物として知られている。

分子モーター

細胞内で化学エネルギーを機械的な動きに変換するタンパク質の集合体を分子モーターと呼ぶ。分子モーターの働きによって細胞は変形や移動を行い、細胞内における様々なイオンや分子輸送に関与している。これらの優れた機能を人工的に実現するための人工分子モーターの開発が活発に行われている。

分子の揺らぎ

室温環境下におけるナノメートルサイズの分子は、絶えず強い熱揺らぎにさらされている。この熱揺らぎは、生命分子の機能制御の本質を解明するのに重要であると考えられている。また、ある種の有機固体内においても分子の回転運動などの大きな分子ユニットの熱揺らぎが生じている場合がある。

新規な物性開拓を目指すために、芥川研究室では「物質勘」が大切なキーワードとなっています。

超分子ローター構造を利用した強誘電体材料の開発/分子性結晶内の分子運動に関する自由度を設計することで、分子がシーソーのように傾く方向を変えながら振動する運動を利用した双極子モーメントの反転が実現できます。超分子ローター構造の回転周波数・対称性・方向性などの精密制御から、強誘電体の転移温度、応答速度などの諸物性が設計可能となります。

芥川研究室は、スタッフ4名のほか大学院生15名が、それぞれの研究テーマに取り組んでいます。毎年開催される日本化学会への発表参加、論文発表、国際会議・シンポジウムへの参加、他大学との交流、各種受賞など、活発な動きを見せています。

分子ナノワイヤー金ナノ粒子ハイブリッドの量子伝導/電気伝導性を有する有機分子の集合体が形成する一次元ナノワイヤと金ナノ粒子から構成される複合ナノ構造を基板上に作製し、電気伝導度の温度依存性から、100K以下の温度領域で金ナノ粒子間のトンネル効果による量子伝導を出現させたものです。

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1949年長野県生まれ。1978年金沢大学大学院理学研究科修士課程修了。1982年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)。1982年高エネルギー物理学研究所非常勤講師。1984年東京都立大学理学部物理学科助手。1987年東北大学科学計測研究所助手。1994年同助教授。2004年東北大学多元物質科学研究所教授。2012年日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員表彰。

http://www.tagen.tohoku.ac.jp/modules/laboratory/index.php?laboid=43

多元物質科学研究所先端計測開発研究センター軟X線顕微計測研究分野 教授

YANAGIHARA,Mihiro

FOREFRONT REVIEW

栁原美廣

超高分解能顕微技術で軟X線光学の新たな地平を拓く

FOREFRONT REVIEW 栁原研究室の研究の柱は「軟X線による顕微計測技術」の研究です。歴史が比較的新しい軟X線を自在に操るため、軟X線多層膜を利用した軟X線光工学の研究を行っています。 高分解能の軟X線顕微鏡を実現させるため、いくつもの工夫を重ねた高精度の多層膜の開発が欠かせません。栁原研究室では、この高精度の多層膜を基盤とした多層膜反射型対物鏡を利用した超高分解能軟X線顕微鏡の開発に取り組んでいます。

 可視光より波長が短い電磁波の波長帯は紫外線。さらに波長が短

くなるとX線領域です。X線は非常に高いエネルギーをもち、物質へ

の透過性があります。X線の中で、紫外線に近い、比較的波長の長

い領域は「軟X線」と呼ばれ、X線でありながらエネルギーが低く透過

力も弱いという、独特の性質を表します。

 この軟X線を扱う軟X線光学は、とくに顕微鏡技術において研究開

発が進められ、期待の分野となっています。可視光ではないため見

えませんが、言わば「見えない光で極小の世界を見る」軟X線顕微鏡

の研究開発を追求しているのが栁原研究室です。軟X線顕微鏡は、

可視光より高い分解能で、ミクロなものをより正確に観察できることが

期待されています。しかし顕微鏡として「ナノの世界を見る」ためには、

いくつかの課題があります。軟X線は可視光のようにレンズを通過でき

ない。そして通常の鏡では反射しない。つまり、光学顕微鏡で行わ

れているような方法では試料を結像できない、ということです。実験に

は、高度の真空状態が必須であることも、課題のひとつということが

できます。

 軟X線顕微鏡技術の研究とは、これらの課題を克服した上で、本

来の顕微鏡として他の方式の顕微鏡を上回る高機能を実現させる、

という難問に立ち向かうことになります。栁原研究室では、研究室内

で顕微鏡装置を開発製作し、軟X線領域ならではの高分解能を達成

するなど、軟X線光学の最先端で取り組みを進めています。

02FOREFRONT REVIEW

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光学顕微鏡にも電子顕微鏡にもなし得ない機能を開発

MY FAVORITEよく検証すれば、聖書は人生の指針となる大切なメッセージ 聖書の内容は決して古いものでなく、今でも人生の指針として大変優れています。たとえば「自分にして欲しいと思うことを他の人にもする」「悪に悪を返さない」などの格言があります。 しかし、聖書のさらに重要な点は、人類に関する重要なメッセージを伝えていることです。ただし、その内容を鵜呑みにすることは盲信であり、聖書自体が厳に戒めています。 むしろ「見えない実体についての明白な論証」をし、よく研究するよう勧めています。聖書は、正しく理解し、実践してこそ意味があります。

TERM INFORMATION光学顕微鏡

微小な物体の可視光像を対物レンズと接眼レンズによって拡大結像する顕微鏡。単に顕微鏡と言えば光学顕微鏡を指す。生物の観察に用いる透過顕微鏡が主であるが、金属顕微鏡や偏光顕微鏡など特殊なものもある。

分解能

光学装置の結像性能を表すもので、光学顕微鏡の場合は、物体上の近接した2点を2点として見分けられる最小の距離を言う。光は電磁波であるので、その結像は波動としての制約を受け、大きさは一般に波長程度になる。

X線

発見者の名前をとってレントゲン線とも呼ばれる電磁波で、波長が長い軟X線(30~0.6nm)と短い硬X線(0.6~0.01nm)から成る。X線と言えば通常後者を指し、透過力が高く、医療におけるX線撮影に用いられる。

極端紫外線

波長の範囲が100~1nmの電磁波で、EUVと略記する。なお、波長を10~1nmとする研究者もおり、範囲は必ずしも確定していない。いずれにしろ、広い意味での紫外線(400~1nm)の最短波長の領域を指す。

多層膜反射鏡

軟X線に対する通常の物質の反射率や透過率は極めて低く、従来の方法では結像が難しい。多層膜反射鏡は基板の上に2種類の物質を交互に積層したもので、各界面からの反射波の強め合いの干渉で高い反射率を実現するものである。

モリブデンとシリコン

多層膜反射鏡で高い反射率を実現するには、用いる2種類の物質の吸収係数が共に小さく、かつ両者の屈折率の差が大きいことが必要である。モリブデンとシリコンの多層膜は波長13nm付近で反射率70%を実現する優れた例である。

独特の性質を持つ軟X線を活用した高性能顕微鏡 可視光線を利用し、試料に光をあて、試料からの光をレンズで結像させて観察するのが光学顕微鏡です。「可視光線のメリットは文字通り可視的であることですが、一方で光の物理的性質の制約を受けることになり、光学顕微鏡における分解能の限界は可視光線の波長によって左右されます」と栁原教授は説明します。理論的には光学顕微鏡の分解能の限界は200nm

程度。このような制約を打ち破るため、ひとつは光によらない電子顕微鏡が開発され、もうひとつは、可視光(波長800〜400nm)よりも短波長域のX線領域を利用する顕微鏡が開発されてきました。しかし、「電子顕微鏡においては、拡大率が高いけれど、視野が狭いこと、試料の帯電の影響を受けること、試料を乾燥させなければいけないなどの難点もあります」。 栁原研究室が研究の対象とする「軟X線」とは、可視光より波長が短い紫外線(波

長400〜200nm)よりも短く、目に見えない光です。波長の境目が明確にあるわけではありませんが、栁原 研 究 室では、軟X線の波長範囲を30から0.6nmととらえています。また軟X線は、

エネルギーが低く、物質に対する透過力が小さいX線と言うこともできます。従って装置の外にもれないため、軟X線を利用した顕微鏡は広く一般の研究室で使うことができます。軟X線のこの独特の性質を有効活用しようというのが、軟X線顕微鏡研究の基本です。

軟X線顕微鏡に欠かせない高精度の多層膜反射鏡 軟X線は、可視光とは違って目に見えない光です。しかし波長が短いため、軟X線を用いた顕微鏡は、可視光より高い分解能でミクロなものをより正確に観察することができます。 「ところが軟X線は、可視光のようにレンズを通過できず、通常の鏡では反射もしません。ここが軟X線顕微鏡研究のキーになります。軟X線を結像するためには、2種類の超薄膜を波長と同程度の周期で何層も正確に積層した特殊な多層膜反射鏡が必要になるのです」と栁原教授。 薄膜の積層は、何10層、場合によっては何100層にもなるといいます。この多層膜結像系を高精度化すると、原理的には原子数10個分の高解像が可能になります。つまり、軟X線顕微鏡の開発とは、多層膜結像系をいかに高精度化できるか、というテーマが中心的な課題になる、

と言い換えてもいいかもしれません。 栁原研究室では、多層膜反射鏡を基盤にした新しい高分解能軟X線顕微鏡の開発に取り組んでいます。これを用いて、電子顕微鏡ではできない、生体試料をそのままの状態で観察するということが可能となります。

軟X線顕微鏡研究の集大成となった2008年の成果 軟X線についての研究は、東北大学科学計測研究所時代の波岡武(現東北大学名誉教授)研究室を母体として始まり、同研究室メンバーだった山本正樹教授(故人)と栁原教授に引き継がれ、発展してきました。その成果は2008年、山本・栁原両教授のグループによる軟X線を利用した高性能光学顕微鏡の開発について応用物理学会で発表という形で実を結びました。 この顕微鏡は「透過型X線多層膜ミ

ラー顕微鏡」という形式で、約10年にもわたって取り組んできた多層膜鏡の開発が顕微鏡開発の基盤となったものです。

「多層膜鏡は、モリブデンとシリコンを交互に何層にも塗り重ねて軟X線を反射するようにしたもので、さらに正確に結像させるため原子の大きさの100分の1の精度で層の厚みを制御する装置を開発しました」と栁原教授。これによって1万分の1ミリの解像度で1ショット撮像を可能にし、当時世界最高分解能を達成したものです。 現在、軟X線顕微鏡研究の第一線に立つ栁原教授は、この時の成果を土台として、さらに高性能な軟X線顕微鏡を目指して、取り組みを進めています。

02FOREFRONT REVIEW

軟X線顕微鏡の多層膜反射鏡が正確に作製されているか検査・調整しています。計測装置は、重力による撓みを生じさせないため、垂直方向に起こして測定します。

軟X線多層膜反射鏡/基板の上に重ねられた多層膜の、各界面からの反射光の「強め合いの干渉」によって高い反射率を実現しています。各層の厚さは正確に制御されます。右はMo/Si多層膜の断面TEM像。

左/軟X線顕微鏡凹レンズ基板。この表面に多層膜をコーティングし、同じく多層膜をコーティングした凸面鏡と組み合わせて結像させます。右/研究室で製作中の軟X線顕微鏡の試作モデルのひとつ。機械装置を組み立て、真空容器に収容します。

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高分解能な生体試料観測から、さらにコヒーレント軟X線領域へ

OFF TIMEからだを動かすスポーツで、爽快に、楽しく、リフレッシュ 下手の横好きですが、その時々の環境でできるスポーツを何でも楽しみました。小中学校時代は野球でしたが、若い頃は登山やバレ−ボール、今はテニスと自転車を楽しんでいます。 自転車というのは、仙台市泉区の自宅から大学までロードレーサーで通勤する、ということです。西回りで陸前落合方面を経由して約20km程度、季節のいい時に週に1回はトライしています。科学計測研究所時代は、毎日苦もなく自転車通勤でした。ただし、その時の自宅は長町でしたが。 いずれにしても、私にとってからだを動かすスポーツは、ストレス解消に大きな役割を果たしています。

完成した軟X線顕微鏡/超精密装置のような外観、左ページ上の模式図を参照すると装置の構造が把握できます。

TERM INFORMATION

物質対の選択、成膜法開発を経て、驚異的な多層膜を実現 高性能な軟X線顕微鏡の実現のためには、高精度の多層膜反射鏡が不可欠、という説明を前ページでしました。「多層膜鏡の開発にも、多層膜を構成する物質対の選択や設計法、成膜法の開発など、いくつもの基礎研究と試練の段階がありました。どの物質対にすれば最も高い反射率になるかを知るには、さまざまな物質について超薄膜状態での屈折率や吸収係

数など光学定数の基礎データの収集が必要でした。表面・界面が平滑な物質で、それに適した蒸着法も確かめ、物質対のそれぞれの厚さを決める設計法も検討しました」と栁原教授は解説します。 軟X線顕微鏡の心臓部である対物鏡には、凹面鏡と凸面鏡で構成するシュヴァルツシルト反射鏡を採用。この反射鏡に開発した多層膜をスパッタ法で蒸着します。反射鏡各点で入射角が一定でないため、一定波長の軟X線を反射させるに

は、入射角が大きい外周部では厚い膜厚、入射角が小さい中心部では薄い膜厚にする必要があります。これに対しては「蒸着装置に特殊なシャッターを装備して蒸着を制御し、結果的に反射鏡

の中心波長を±0.2%という驚異的な精度で一致させることに成功しました」。

実際の生物試料の観測で広範囲、高解像度を実現 こうした軟X線顕微鏡に必要な装置や設備の開発を行いながら、最終的に顕微鏡の作製までを栁原研究室では行っています。 「独創的な研究は、反射鏡や装置も自前で開発してこそ初めて可能になるということを信条に研究してきた」と教授。東北大多元研には機械工場もレンズ工場もあり、顕微鏡本体や対物鏡のガラス基板の作製には、工場スタッフに協力してもらったといいます。「作製された部品の性能をこちらで評価して情報を還元し、修正点を協議することで、世界に2つとない性能を実現できた」と教授は評価しています。 こうして完成した軟X線顕微鏡で実際の生物試料(マウスの大脳皮質)を観察し、広い範囲を光学顕微鏡より高い解像度で観察することに成功しています。

 「この時、分解能が高くても実際にはCCD検出器のピクセルサイズで制限されていますので、この課題を克服するためには対物鏡の拡大率をさらに高くする必要があります」と栁原教授。研究室では、反射鏡の後段にさらに1枚の拡大鏡を加えて全体の拡大率を1500倍にした超高倍率軟X線顕微鏡も実現させました。この技術を用いて、次世代リソグラフィー技術として期待されている極端紫外(EUV)リソグラフィー用マスクの実波長観察で、回折限界に迫る30nmの高分解能を実証しました。「生きた生物試料の高分解能観察を可能にする軟X線顕微鏡は、今後たとえば脳の神経回路の解明を目指すコネクトームのマッピングデータの収集などに貢献できる」ものと期待されています。

コヒーレント軟X線による新たな光工学に期待 光源技術の進歩は著しく、軟X線領域においても、放射光技術を基盤にしたX線自由電子レーザーや高強度レーザーを

EUVリソグラフィー用マスクの波長13.5nmにおける観察像/左はエルボーパターンの中間像。点線の円(マスク上の直径160μm)は有効視野。右は最終像面で観察された幅240nmのエルボーパターン。

02FOREFRONT REVIEW

シュヴァルツシルト反射鏡

凹面鏡と凸面鏡を同心になるように配置した反射鏡系で、半径を適当に選ぶことで収差を減らすことができる。両者とも球面なので、高精度な鏡面作製が容易である。軟X線の結像に用いるには表面を多層膜コーティングする。

スパッタ法

アルゴンイオンを負電圧によってターゲットに衝突させ、その衝撃でターゲット成分をたたき出し、基板上にターゲット成分の薄膜を形成する技術。基板への付着力が強く、高融点の物質でも成膜が可能という特徴を持つ。

リソグラフィー

原版に描かれた半導体デバイスの回路パターンを露光装置によってシリコン基板上に縮小転写する技術。これまでの光による微細化は限界を迎えており、短波長の光を使うEUVリソグラフィーが次世代の技術として注目されている。

コネクトーム

脳の神経細胞の詳細な接続状態を表す神経回路図を3D化したもの。これができれば、脳の活動を理解したり、脳の治療に役立つと期待されている。これを作成するには広い視野を高分解能で観察する必要がある。

X線自由電子レーザー

通常のレーザーのようにコヒーレントな性質をもった文字通りのX線のレーザー。ミラー共振器を使う通常のレーザーとは異なり、光速まで加速した電子から発生する放射光X線と電子自身との相互作用によって発生させる。詳しくは、以下を参照。http://www2.scphys.kyoto-u.ac.jp/Labos/fukisoku/fel.html

コヒーレント光

光束を2つに分割して再び重ね合わせたとき、位相が揃っていれば干渉するのでコヒーレント(可干渉)であると言い、その光をコヒーレント光と言う。レーザー光はコヒーレント光であるが、自然光は位相がランダムなのでコヒーレントではない。

マウス大脳皮質の軟X線画像/試料の厚さは500nm。図中の白線が50μm。大脳の内側から伸びた軸索が細胞体を通して樹状突起を伸ばし、その樹状突起が複雑に絡み合っている様子が明瞭に写っています。細胞体内部に見えるのは、核やその他の微細構造。

開発した透過型軟X線顕微鏡の模式図/こちら側から光源、照明光学系、試料位置、SO光学系、可視用の折り返しミラー、EUV用のCCD。両脇に排気用のポンプがつけられ、全体は除震台の上にマウントされています。

用いた高次高調波光源などのコヒーレント軟X線光源が実用化されつつあります。「これらの軟X線についても、自在に扱うためには多層膜反射鏡の開発が欠かせません」と栁原教授は強調します。 「こうした開発によって、コヒーレント光を自在に変調・制御し、高い機能性を持つ軟X線光波場をつくり出すことができます」と栁原教授はこれからの展望について話します。今後、「高輝度レーザーを多層膜ミラーで直径10nm程度に集光できれば、高分解能走査型分光顕微鏡が実現可能になる。あるいは高次高調波などの超短パルスレーザーをナノ集光すれば、超高強度場が得られ、軟X線領域でも2光子吸収など、物質の非線形応答の励起が可能になる。また可視光レーザーを用いて研究されている光渦の生成も、多層膜反射鏡を利用して軟X線領域でも可能になる」など、新たな光工学の進展への取り組みに大きな期待が寄せられています。

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1961年東京都生まれ。1986年早稲田大学大学院理工学研究科 物理学及び応用物理学専攻修了。工学博士。(株)本田技術研究所、名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻助教授、2006年より現職。日本生物物理学会所属。2000年応用物理論文賞受賞。

http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/ishijima/Index-J-tate.html

多元物質科学研究所有機・生命科学研究部門生物分子機能計測研究分野 教授

ISHIJIMA, Akihiko

FOREFRONT REVIEW

石島秋彦

生命現象の定量的解明を目指し生体分子の計測システムを開発

FOREFRONT REVIEW 石島研究室ではナノスケールの生体分子の動作原理を定量的に解明するために、アクトミオシンモーターや、バクテリアべん毛モーターなどの生体運動タンパク質のエネルギー変換機構を研究テーマに設定。ナノメートル、ピコニュートンオーダーで生体分子の運動を生きたまま計測する、1分子計測、1分子イメージング装置の開発を行っています。

 運動、情報伝達、免疫、代謝…。生命現象には、さまざまな機

能があります。これらの機能を担うのが、生体内のナノスケールの生

体分子で、生命現象を解明するには、生体分子の動きを解明してい

かなければなりません。しかし、この生体分子の動作原理はまだまだ

よくわかっていないという現状にあります。

 例えば、生体分子が動く際に必要なエネルギーという観点。人工

機械のほとんどは、化学エネルギー → 熱エネルギー → 力学エネル

ギーに変換するカタチで動いています。これは高度な機械、原子力

発電でも同じです。しかし生命分子はATPの加水分解によって得ら

れた自由エネルギーを、熱エネルギーという中間状態を経由せずに、

力学的エネルギーに直接変換しています。そして、この生体分子の

エネルギー変換メカニズムそのものは解明できていないのです。

 このように生体分子の機構には分かっていないことがたくさんありま

す。石島研究室では、このブラックボックスになっている生体分子の

解明に向けて、「タンパク質の生きた動き」特に「モータータンパク質」

をメインの対象に設定し研究を進めています。

 ナノスケールの生体分子の動作原理を解明するために石島研究室

が大切にしているポイントは「定量化」という観点です。ナノメートル、

ピコニュートンオーダーで生体分子の運動を生きたまま計測する、1分

子計測、1分子イメージング装置を開発するとともに、従来のナノ計測

システムに比べ、高時間、空間分解能を有する新世代ナノ計測シス

テムを開発し、ナノメートルレベルで生体分子の運動を正確に計測す

ることを進めています。

 そして、これらの計測装置を用いて、アクトミオシンモーター、バク

テリアべん毛モーターなどの運動タンパク質の動作原理や、細胞の情

報伝達機構の解明を目指しています。さらに、運動タンパク質以外の

生体分子にもその研究分野を広げ、生体分子のエネルギー変換機

構の解明を進めるともに、カーボンナノチューブなどの新素材の生体

分子計測への応用なども視野に入れ、研究を進めています。

03FOREFRONT REVIEW

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生命現象をナノレベルで“機能”をポイントにして解明したい

MY FAVORITEオールマイティではなく、こだわりを持った職人の生き方がいい 職人というものが好きですね。例えば、我々の研究でも非常に関係のある顕微鏡の対物レンズには職人がいてこだわりで作られています。大量生産ができないのですね。今度、研究者同士でニコンの工場を観に行こうと計画しています。職人たちが作る対物レンズに、わくわくしますね。 永六輔の著書に「職人」という本があります。職人という人たちの魅力的な生き方が描かれていますが、職人たちがそれで生きていけるような社会システムをつくらないといけないなと思っています。 「和風総本家」というテレビ番組も好きでよく見ます。職人の驚くべき技術を垣間見ることができて面白いですね。 我々の研究も特化した研究体制を作っていかないといけないなと思っています。

TERM INFORMATION生体運動タンパク質のエネルギー変換機構

生体運動タンパク質は、ATP加水分解やイオン濃度差などの化学エネルギーを利用して、変位や力などを発生させ、様々な生体運動を駆動している。この化学エネルギーから力学エネルギーへの変換機構は、ナノサイズで太古から生物が利用してきたものであるが、ノイズ程度の微小な入力エネルギーで動作するという、人工機械とは異なる特性を持っている。

生体運動タンパク質

ATP加水分解やイオン濃度差などの化学エネルギーを使って、細胞内小胞輸送や筋肉の収縮、細胞運動などを駆動するタンパク質。リニアモーターとして、微小管上を動くキネシンやダイニン、アクチンフィラメントと相互作用するミオシンが知られている。回転運動するモーターとして、F1F0-ATPaseやバクテリアべん毛モーターが知られている。

レールタンパク質

生体運動タンパク質の中でリニアモーターは、レールタンパク質と相互作用を行い、レールタンパク質に沿って直線的に移動する。レールタンパク質は、球状タンパク質が重合したものであり、チューブリンが重合した微小管やアクチンが重合したアクチンフィラメントが知られている。レールタンパク質は、リニアモーターの「レール」として機能するだけではなく、細胞を力学的に支える細胞骨格でもあり、さらには重合そのものによって細胞運動を引き起こすモーターとしても機能する。

光学顕微鏡の分解能

微小な2点(例えば点光源)を、見分けることができる最小の長さを光学顕微鏡の分解能と呼ぶ。分解能は、対物レンズの開口数と光の波長に依存するが、可視光を用いた場合は、0.2um程度である。

アクトミオシン相互作用

筋収縮では、ミオシン分子がアクチンフィラメントと結合解離しながらATP加水分解反応を行うことで運動を引き起こす。このような化学的であり力学的側面も持つアクチンとミオシンの相互作用は、アク

トミオシン相互作用と呼ばれており、筋収縮に限らず、細胞内輸送に関わるミオシンなどでも用いられている。

セリン刺激

大腸菌はセリンに対する受容体を持ちセリンに対し誘引応答する。セリンを認識した大腸菌は走化性シグナル伝達機構を用いて運動器官であるべん毛モーターの回転方向を反時計方向に制御し、セリン濃度の高い方向へ向かう。

生命はどうやって動いているかをもっと定量的に把握したい 「昔、ある先生から生物学というのはサイエンスではないね、博物学だねと言われたことがあります。それがずっと気になっています。生物学をもっと定量的に、物理と統計学を持ちいて表現したいと思っています」と話す石島秋彦教授。 教授によると、現在の生物の教科書のほとんどが、まるで百科事典のように定性的に記述されているといいます。「相互作用」と「構造変化」というような概念的な言葉を使わずに生命現象を説明できるようになりたい、もっと生命現象を「定量的に」考

えていきたいというのが教授の考えです。 「生命現象を生体分子の動作原理として定量的にとらえるために、動くタンパク質、モータータンパク質などのタンパク質をターゲットに研究をしています。動くタンパク質の動作原理の精緻な解明が、生体分子共通の動作原理の解明、そして生命現象の何らかの理解促進につながると考えています」。 わずか20個のアミノ酸の組み合わせのタンパク質が、エネルギーを変換しながら様々な生命現象を実現するという役割を担っています。その現象は解明されつつありますが、どのようにエネルギーを変換

して実現しているかが不明です。例えば、筋収縮は、「脳,脊髄からシグナルが発せられる」→「筋小胞体からカルシウムが放出される」→「筋収

縮」というようなプロセス全体は分かっています。しかし、「生体分子のエネルギー変換メカニズムそのものはまだわかっていません。つまり、ブラックボックスだということです。入力と出力をきちんと計測すれば、その間のブラックボックスを理解することができるはずです。ここで問題となるのが、いかに入力と出力をきちんと計測できるかです」。

光学顕微鏡を使うのはなぜ?1分子で計測する理由は? 「タンパク質などの生体分子は、その大きさが数十ナノメートル程度なので、波長が数百ナノメートルの可視光を使った光学顕微鏡では観察することができません。そこで波長の短い電子顕微鏡が開発され、生命現象の理解は非常に大きな進歩を遂げました。しかし、電子顕微鏡では生体分子を生きたまま観察するという点においては大きな問題があります」。 生体分子はほとんどが水溶液中で機能しますが、電子顕微鏡では、周りの水が電子線を吸収してしまい、生体分子まで届きません。したがって。水のない真空中でその形状だけを見るという手法を主にとっています。

 「我々が望むのは形状ではなく機能です。静止画ではなく、機能を解明する手がかりになる動画を撮りたいのです。機能と構造、これは車の両輪のようなもので、片方だけではだめだと考えています」。石島研究室では「機能」に重点を置いていて、光学顕微鏡を使って動く生体分子の機能を明らかにできないかを考えています。 「光学顕微鏡はナノレベルまで計測能力を上げるために、学生の時から新しい機器の開発に取り組んできました。一般的な光学顕微鏡の分解能とは、2点が近づいていった時に、どの程度まで2点として識別できるか、というものですが、この考えでは、光学顕微鏡をナノレベルまで計測できません。そこで考えたのが、画像としてではなく、像の重心位置で識別するというもの。これによりナノレベルの精度の高い計測が可能になりました」。 また、石島研究室では、1分子レベルで計測するという研究方針を掲げています。なぜ1分子レベルでの研究が重要なのでしょうか? 「例えば、筋肉の収縮。主にミオシンというタンパク質とアクチンというタンパク質がお互いに相互作用して筋肉を収縮させるのですが、先人たちは、何億という分子の総和、平均から一個一個の性質を明らかにしてきました。それなら1個の分子を直接見て、観察できればいいじゃないかというように考えていったのです」。

二つ以上のパラメータを同時に計測する手法 1990年代からの生体分子の1分子計測、イメージング技術の発展によって、生体分子の挙動を1分子レベルで観察・計測できるようになってきました。生命現象をより定量的に理解できるようになるための環境が揃ってきたと言えます。「しかし、一つの現象のみを計測して、その奥に潜む原理を推論することはなかなか困難な作業です」。いかに、主観、希望の混入をなくし、定量的に計測していくか? システムとしての生命現象を全体として理解していく方向に舵をとらなくてはいけないといいます。 石島研究室が採用する手法は、二つ以上のパラメータを同時に計測するというものでした。「例えば98年に発表したアクトミオシン相互作用の力学・化学反応の同時計測。さらには近年力を入れている細胞内情報伝達機構の解明においては、同一細胞上の二つのべん毛モーターの回転の相関、回転と回転基部体への標識タンパク質の結合、セリン刺激とべん毛モーター回転変化との相関など、二つ以上のパラメータを同時に計測する手法が多くなっています。これにより正確に定量的に現象を捉えることが可能になります」。

主にミオシンというタンパク質とアクチンというタンパク質がお互いに相互作用して筋肉を収縮させる筋肉の収縮運動。しかし、生体分子のエネルギー変換メカニズムそのものはまだわかっていません。その間のブラックボックスを理解するために1個の分子を直接見て、観察しています。

機能と構造の両輪での分析が必要ですが、現状ではナノレベル生体分子の計測においては、電子顕微鏡等による構造分析のみが先行している形になっています。石島研究室では「機能」に重点を置いていて、動く生体分子の機能を明らかにするべく、日々研究を進めています。

03FOREFRONT REVIEW

石島研究室では、研究者自らが計測装置の改良・調整を行います。自らの手で改良に改良を重ねた計測装置を用いて、運動タンパク質の動作原理、情報伝達機構の解明を目指しています。

もっと生命現象を「定量的に」考えていきたい。この想いをもとに、石島研究室では1分子計測、1分子イメージング装置の開発するとともに、従来のナノ計測システムに比べ、高い時間分解能と空間分解能を有する新世代ナノ計測システムを開発し、ナノメートルレベルで生体分子の運動を正確に計測することを進めています。

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大腸菌の分子の動きをもとに普遍的な生命の仕組みを

OFF TIME優れものの子どものおもちゃ、メカニズムの完成度の高さに感動 昔はバイクや外車などの趣味もあったんですけどね。ボルボという外車も好きで乗っていましたが、今はもうやめてしまっています。スキューバーダイビングも趣味だったんですが、東北にはできるところがないので、こちらもご無沙汰になりました。 2歳と4歳になる小さな子どもがいるので、週末はほとんど子どもたちとの遊びが主になっています。 その中で、おもちゃと言われるものの中にも優れたものがあるので驚いています。子どもの学習用の顕微鏡はまさに本物と同じメカニズムでできていてすごいです。車のおもちゃも細部にこだわって組立てられていて驚きです。スケルトンになっていて、エンジンのピストンの動きやギアチェンジの仕組みを学ぶことができる完成度の高さに感動しています。

TERM INFORMATION

考えて行動するバクテリア最も小さな生き物の運動器官の機構 「1997年研究室を独立するときに、フランスの生物学者・ジャック・モノーの『大腸菌で起こっていることは象でも同じことが起きる』という説を知って、それでは、大腸菌などのバクテリアの運動様式を研究してみようと決めました」。 単細胞生物である大腸菌は、細胞表面にらせん状の繊維であるべん毛を数本持ち、これをスクリューのように回転させ

て水中を泳ぎます。大腸菌は周囲の化学物質の濃度に応じてこの回転を制御して、より良い環境を求めて移動する「走化性」という性質を持っています。 「大腸菌などのバクテリアは考えて行動する最も小さな生き物の一つと言えます。この情報伝達システムは、真核細胞の情報伝達システムにも共通する部分があると考えられており、バクテリアの走化性システムを理解することは、生命に普遍的に存在する情報処理システムの解明につながる可能性を秘めています」。 べん毛のモーターはまるで人工的なモーターのような外見をしていることが電子顕微鏡でわかっていました。このモーターは固定子と回転子から構成されていて、細胞膜に埋め込まれています。一つの回転子の周囲に複数の固定子が配置されており、それぞれの固定子がイオンを通過させ、その際に回転子との間でトルクを発生させて回転すると考えられています。この回転は膜を横切って形成されるイオン駆動力、つまり膜電位差とイオンの

濃度差により駆動されることがわかってきました。

細胞内シグナル伝達タンパク質によるモーターの回転制御を生きた細胞の中で可視化に成功 それでは、大腸菌はどのように外界の環境を知り、それに反応するのでしょうか?

「周囲の化学物質の濃度を知るための走化性受容体と呼ばれるセンサーは細胞の極にクラスター(集団)化されていて、そこで情報を得ます。そしてその情報を大腸菌内の情報処理・伝達システムでべん毛モーターまで伝え、最終的に回転を制御します」。 この情報処理・伝達システムでキーとなるのがリン酸化CheYというシグナル伝達タンパク質です。以前より、このリン酸化CheYが細胞内を伝わり、べん毛モーターに結合することで回転方向を制御すると考えられてきました。  「しかし、直接的な観察はされていませんでした。我々は、この仕組みをしっかり計測するために、遺伝子組換え技術によって、細胞内で生産されるCheYを、それに緑色蛍光タンパク質(GFP)が融合したもの

(CheY-GFP)に置き換えた大腸菌を用いました。CheY-GFPは緑色蛍光を発するので、その細胞内での位置が観察できるようになっています。CheY-GFPのふるまいとべん毛モーターの回転を同時に観察すれば、情報の伝わり方を機能として観察できるわけです。そして、蛍光の観察と通常の明視野観察を同時に行える顕微鏡システムも開発。CheY-GFPのふるまいとべん毛モーターの回転を同時に観察できるようになりました」。 観察の結果、べん毛モーターは、リン酸化CheYが結合すると時計方向へ回転し、解離すると反時計方向への回転を起こすことが確かめられ、従来の仮説は実証されました。また分析の結果、べん毛モーターに最大34分子結合できるとされるリン酸化CheYが約13分子結合すると、モーターが時計回転することも分かりました。 「高等動物は神経・リンパによって情報が伝達されますが、下等動物は拡散運動で情報が十分伝わると考えられています。ただ我々の研究で、細胞内においては、単純な拡散現象ではなく、波のような状態で情報伝達物質が伝搬することが明らかになりました。各タンパク質が協調しあってある方向性を持って伝播していくというイメージです。いままでの説とは違います」。

生命の不思議には水が関与しているのか!? 生命とは何か? この単純な質問にまだまだ生物学は明確な定義を与えることができていません。しかし、誰しも興味を持っていて、いつか答えを出したいと思っている問題ではあります。 「大腸菌ではどんな分子がシステムを構成しているかが明らかになっています。そういった興味深い生物を用いて、より単純な側から生物の普遍的な仕組みを明らかにしていきたいですね」と石島教授は熱く語ります。 また、石島教授は生命現象の解明にとって鍵となるのが「水」ではないかと言います。タンパク質は水の中でしか作用しないのですが、ナノレベルでは水分子に作用されながら、タンパク質は実に「騒がしい」ノイズレベルの中で情報をやりとりしていることになります。生体の世界で水分子をどのように捉えていくべきなのかということは、今後の課題であるといいます。 「生命というものは、とても50億年の進化でできたのかと思えないような、とても優れたものです。まだまだ、生命の解明にはほど遠いところにあります。長い長い生命現象の解明の道のりに向けて、一つ一つ謙虚な気持ちで取り組まないといけないと思っています」。

大腸菌ではどんな分子がシステムを構成しているか?その精緻な計測をもとに、生物の普遍的な仕組みを明らかにするべく、石島研究室の日々の研究は続けられています。

03FOREFRONT REVIEW

走化性

大腸菌などのバクテリアは自身にとって有益な化学物質へ向かって移動(誘引応答)し、また自身にとって不利益な化学物質から逃避(忌避応答)する。この性質は走化性と呼ばれ、走化性シグナル伝達機構によって制御される。走化性以外にも走流性(流れ)、走熱性・走温性(温度)、走磁性(磁場)重力走性(重力)などをするバクテリアも知られている。

イオン駆動力

細胞は、細胞膜の内外で物質を隔てており、電荷を持つイオンの細胞膜内外での濃度差は電気的ポテンシャルの差をもたらす。この電気化学的ポテンシャル差をイオン駆動力と呼ぶ。イオン駆動力は注目するイオンの濃度差だけではなく、様々なイオンや膜タンパク質に由来する膜電位にも影響されるが、注目するイオンが水素イオン(プロトン)の場合は、プロトン駆動力と呼ばれ、ミトコンドリア膜上におけるF1F0-ATPaseによるATP合成や、バクテリア膜上におけるべん毛モーターの駆動に用いられている。

べん毛

バクテリアの持つ運動器官。べん毛の根元には、細胞膜内外で形成されるイオンの電気化学ポテンシャル差を駆動力として回転する回転モーターが存在する。大腸菌は細胞の周囲に複数本のべん毛を持ち、走化性シグナル伝達機構を用いてこれらの回転を制御することで自身にとって有益な環境へ移動する。

受容体クラスター

大腸菌などのバクテリアは細胞外環境を受容するための受容体(センサー)タンパク質を細胞極にクラスター化させている。受容体タンパク質のクラスター化により外環境刺激に対する感度を増幅していると考えられている。

Green Fluorescent Protein(GFP)緑色蛍光タンパク質

下村脩博士によりオワンクラゲから発見されたタンパク質。青色光の照射により緑色の蛍光を発する。この性質を利用し、標的タンパク質とGFPの融合タンパク質を用いることで細胞内で働くタンパク質の可視化が可能になった。

蛍光の観察と明視野観察

GFP標識されたタンパク質の蛍光像(約500- 550nm)と赤色光(650nm以上)を用いた細胞の明視野像をダイクロイックミラーで分離し、それぞれ別々のカメラで撮影することで、細胞内タンパク質の動態と細胞応答を同時に計測した。

大腸菌内の情報処理・伝達の可視化。蛍光の観察と通常の明視野観察を同時に行える顕微鏡システムを開発することにより情報伝達機構の解明に向かって一歩一歩進んでいます。

運動タンパク質以外の生体分子にも研究分野を広げ、生体分子のエネルギー変換機構の解明を進めるともに、カーボンナノチューブなどの新素材の生体分子計測への応用なども視野に入れ、研究を進めています。

大腸菌のべん毛のモーターはまるで人工的なモーターのよう。この機構がどのようなエネルギー変換で動くのかを解明しようとしています。

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1965年生まれ。1988年名古屋大学工学部卒。1990年名古屋大学大学院工学研究科修士課程修了。1993年名古屋大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学/名古屋大学)。1993年名古屋大学工学部助手。1994年トロント大学客員研究員。1996年東京工業大学工学部助手。1998年東京工業大学工学部助教授。1998年東京工業大学大学院理工学研究科助教授。2004年東北大学多元物質科学研究所助教授。2007年東北大学多元物質科学研究所教授。2007年日本金属学会第65回功績賞受賞。2011年日本学術振興会賞。

http://www.tagen.tohoku.ac.jp/modules/laboratory/index.php?laboid=17

多元物質科学研究所無機材料研究部門高温材料物理化学研究分野 教授

FUKUYAMA,Hiroyuki

FOREFRONT REVIEW

福山博之

高精度の計測技術で未知の高温融体科学を拓く

FOREFRONT REVIEW 福山研究室では、金属精錬分野で培った伝統的な化学冶金学をベースとしながら、新しい化学熱力学を学理とする「材料創製プロセス開発に関する研究」と、そのプロセス開発を支援するための「高温熱物性測定に関する研究」の融合による先端的ものづくりを提唱しています。新しい研究には多くの課題や困難がつきものですが、研究室メンバー同士のコミュニケーションを大切にし、多くの時間をメンバーとの議論に割いて、いっしょになって研究に取り組んでいます。

 たとえば近年注目されているエネルギー産業分野の課題として、「火

力発電所の熱効率をもっと向上させることはできないか」というテーマ

があります。震災以降、原子力発電所が稼働していない状況の中で、

稼働率が高まっている火力発電所について、こうした課題が浮上して

きているわけです。「熱効率を上げるには、熱力学上の原理から作

動温度を高くしてやればよい。もし今以上に高くするにはそれに耐える

材料をつくらなければいけない」と福山教授は説明します。この材料

開発の局面において、必然的に重要になってくるのが、「高温融体

の熱物性測定」と言われる測定技術です。

 そもそも高温で融けている物質の物性データは、試料を収容する

容器自体も反応を起してしまうなど測定が難しく、また融体が対流を起

こしているため、正確な熱伝導率が得られないなど、合金はおろか

純金属においてすらデータが整備されていませんでした。しかし、正

確なコンピュータシミュレーション設計を行うためには、高精度なデータ

が必須条件になってきます。福山教授が、東北大学など4大学と1企

業が参画するプロジェクトのリーダーとして開発した、世界初の手法を

用いた超高温熱物性計測システムは、このような産業的需要や、さま

ざまな新規材料開発の研究課題に応えることができる具体論を示した

もの。文字通り未知の分野だった高温融体の物理科学に、新しい地

平を拓く技術開発と期待されています。

04FOREFRONT REVIEW

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電子デバイスに革新をもたらす新たな結晶成長技術を創製

MY FAVORITE議論も大切、コミュニケーションも大切 研究室では、スタッフや学生と研究や実験の課題になっていること、行き詰まっていることなど、よく話し合います。みんなで真剣に意見を出し合うと、けっこう突破口が見つかったりします。 ふだんから、お互いにわかり合うことも大切なので、イベントも、けっこうこまめにやっている方で、研究室サイトにも写真をたくさんアップしています。追いコンは安比にスキーに行ったり、お花見は研究室でみんなで軽く調理して、学内のきれいな桜の下で、と、とても楽しく過ごしています。受賞した学生が卒業式に賞状を見せに来てくれたりすると、ほんとうにうれしいものです。

TERM INFORMATION窒化物半導体

主に周期表の13族元素(Al、Ga、In)の窒化物またこれらが相互に溶解した固溶体を指します。これらを組み合わせると赤外から紫外領域までカバーする発光素子や太陽電池を作製できます。

結晶成長

材料の単結晶を成長させるプロセスを指します。半導体分野では、結晶品質がその素子の性能を左右するので、結晶成長時の不純物の管理や結晶欠陥の抑制がとても大切です。

液相成長法

結晶成長法の一種で、結晶の原料を溶媒に溶かして溶融状態にし、過飽和状態から結晶を成長させる方法です。私たちはGa-Al融体を溶媒とする液相成長法を開発しています。

バルク結晶

膜に対してある大きさの塊をバルクと言います。窒化物半導体のバルク結晶が実現すれば、これを基板として用いることができるため、界面の格子整合性が改善され、素子の高性能化につながります。

発光素子

p型とn型の半導体を接合し、電圧を印加することによって接合界面から光を放つ素子で、電気エネルギーを直接光に変換するので省エネで長寿命が特徴です。英語の頭文字をとってLEDとも言います。

深紫外発光素子

波長が200~350nmの紫外光を発する発光素子を深紫外発光素子と言います。水銀フリーの低環境負荷、省電力、寿命照明、光触媒励起光源として水や土壌の浄化の他、医療分野では殺菌光源として、また、高密度記録用や樹脂硬化用レーザーなどさまざま応用分野があります。

次世代技術への応用に期待窒化物半導体の開発 福山研究室における研究の柱のひとつに、化学熱力学を学理とする材料創製の研究、とくに窒化物半導体の結晶成長があります。窒化物半導体とは、Ⅲ-Ⅴ族半導体において、Ⅴ族元素として窒素を用いた半導体のことで、代表例として窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)などがあります。発光材料として有望視されるなど、多くの分野への応用が期待され、世界的

にも開発競争が激しい研究分野です。 それと同時に、窒化物半導体の基礎となる結晶成長技術は、さらに重要性を増しています。結晶成長とは、単結晶である支持結晶基板や種結晶を元にして、その結晶を成長させることで、自然界に存在する雪などが結晶する状況と似ています。これらは、成長条件を整えることにより人工的に形成することができるので、再現性に優れているのが特徴です。 窒化物半導体の結晶においても成長しやすい方向があるとされ、そういった結

晶成長に関する物理化学的な知見を蓄積しながら、研究室では結晶性向上を目指しています。

蓄積した技術から、新たな結晶成長プロセスを創製 窒化アルミニウム(AlN)などの窒化物半導体は、とくに次世代の発光素子、あるいはハイパワー半導体素子として注目されているものです。福山教授は「結晶成長の観点から、素子として適応できる窒化物半導体の組成領域を拡大し、その性能を最大限に発揮させるためには、高品質な窒化物基板の開発が求められています」と研究の要点を指摘します。 福山研究室では、窒化物半導体の結晶成長にかかわる課題を克服し、工学的な重要度の高い紫外発光素子など各種の素子としての可能性を顕在化させるため、結晶成長、物性評価および素子利用の観点から多元的な研究を進め、それによって飛躍的な素子の性能向上を目指しています。 「対象とする結晶は、窒化アルミニウム単結晶であり、サファイア基板上に従来法では得られない高品質な窒化アルミニウム薄膜の作製をするとともに、窒化アルミニウムバルク結晶の合成に成功しています」と福山教授は話します。 これらは福山研究室で開発してきた結晶成長技術をベースに、結晶成長に関する物理化学的な知見を蓄積しながら、新たな結晶成長プロセスの創製を図っていくもので、学術的にも工業的にも重要な研究テーマとなっています。

常圧で単結晶AlN膜を作製する技術を開発 福山研究室は窒化アルミニウム単結晶膜作製の研究の中で、薄膜を基板上に堆積させるという従来の発想ではなく、サファイア基板を表面から窒化させ、結晶性を飛躍的に向上させるという「サファイア窒化法」を開発しました。 さらに福山教授のグループは、2010年、住友金属鉱山との共同研究により、常圧で窒化サファイア基板上に単結晶窒化アルミニウム膜を作製する技術の開発に成功しています。これにより、深紫外発光素子(LED)の発光効率が飛躍的に向上します。紫外発光LEDは多くの産業分野での応用が期待されていますが、とくに深紫外LEDは、殺菌効果も高く、医療やバイオ分野での応用が期待されます。 「この研究の中で、Ga- Al系フラック

スを用いた新しい液相成長法(液相エピタキシャル成長法/LPE法)を開発しました。この方法の特徴は、従来のLPE法で用いられているような高圧容器を使用することなく、常圧の窒素ガス雰囲気で結晶成長を行うことができる点です」と福山教授は説明します。 窒化アルミニウムに代表される窒化物半導体は、紫外発光LEDなど次世代照明のほか、光触媒用光源や超高効率太陽電池など、環境、医療、工学、バイオ、情報、エネルギー、ナノテク分野での応用が期待されています。 また、これまでのシリコンを中心とした電子デバイスに革新をもたらすハイパワー高電子移動度デバイスなどへの応用も考えられ、グリーン・イノベーションの推進にも寄与することができるため、注目度の高い研究分野となっています。

04FOREFRONT REVIEW

上/サファイア窒化法による高品質AlN薄膜。熱力学的安定図を用いて窒化条件を検討し、サファイア表面に高品質AlN薄膜を形成します。ただし膜厚は10nmと薄い。下/Ga-Alフラックスを用いた液相成長法。10nmだったAlN薄膜が2μmまで厚膜化に成功しました。

窒化物半導体のひとつである窒化アルミニウムは、いわゆるセラミックスで熱伝導率が高く、電気絶縁性が高い。粉末状のものは空気中の水と容易に反応するため、高純度窒素ガス中で保管する。この窒化アルミニウムをテーマとして、福山研究室では、単結晶合成、サファイア窒化法による薄膜の作製、液相成長法あるいは反応性スパッタ法による厚膜の成長など、さまざまな開発を行っています。

4つの実験室に、サファイア基板窒化処理高温炉、高周波スパッタ装置、真空炉など、さまざまな高機能実験装置が備えられている福山研究室。左は最高1800度の高温下でのさまざまな雰囲気焼成テストを行う高温型縦型管状炉。右は窒化アルミニウムなどの単結晶成長装置。

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多彩な高度産業分野に展開可能な超高温物性測定

OFF TIME仙台でいちばん好きな新緑の季節を楽しむ 仙台に移り住んで10年になりますが、毎年新緑の季節が気に入っています。長い冬を通り抜けて、ついこの間まで枝が剥き出しだったのに、新しい芽から見る見る若い葉が青 と々育って、やさしい木漏れ日が降り注ぐ。そんな感じが大好きです。夏になると葉が濃くなりすぎてしまうので、やはり若 し々い新緑の木々がいちばんですね。 その好きな季節を、家でも楽しみたいと思い、庭いじりを始めたところです。まだ、小さな花を植える程度ですが、いつか素敵なガーデンになる日を楽しみにしています。

TERM INFORMATION

結晶作製、鋳造、溶接分野の熱物性値の高精度化に貢献 福山研究室においては、前ページで紹介したように、化学力学をベースとして、高温反応場における新規な材料創製を目指す研究が、一つの柱となっています。そしてもう一つは、その材料創製を支援するための高温融体の熱物性計測システムを開発していること。この2つの研究テーマを融合させたものづくりを展開しているこ

とが、福山研究室の大きな特徴となっています。 なぜ高温融体の熱物性計測が必要なのかという問いに対して、福山教授は「高温で融けている物質の熱物性計測はきわめて困難であり、純金属のデータすらほとんど整備されていないのが実情です。しかし一方、半導体の単結晶作製や、耐熱合金の鋳造、信頼性を要求される溶接分野などにおいて、一つひとつ試行錯

誤で作製した場合の時間と労力をおさえるため、コンピュータシミュレーションで作製するのが通例となっており、そのシミュレーションの精度を左右する熱物性値の高精度化が強く求められていました」と指摘します。 福山研究室では、こうした課題を克服するための取り組みを続け、世界初の手法による装置開発を実現しました。

高温融体の熱物性を測定する世界初の装置を開発 福山教授は、多元研赴任前から、この課題に挑戦していました。研究の初期段階では、北海道の地下無重力実験センター(炭鉱跡地を活用し、710mの縦穴を地下に向けて真空カプセルを落下させることで、約10秒にわたって10-5Gの微小重力状態を10秒間作り出すことができる設備。1989年開設、2003年閉鎖)において、融けたシリコンを落下させる実験も試みたことがありました。「無重力状態にして測定しようとしたんですが、失敗の連続でした」と福山教授は振り返ります。その後、教授は当時注目され始めていた超伝導磁

石に着目し、電磁浮遊法による測定の研究へと方向変換。赴任先の東北大学には、超伝導磁石を使える環境も整っていました。学内外の研究者と連携し、科学技術振興機構(JST)の研究開発事業に応募申請し、3年目にしてようやく採択を得て本格的な研究をスタートさせました。 画期的な開発を実現した測定法は、超伝導磁石による電磁浮遊法により試料融体を浮遊させ、静磁場を組み合わせて融体の振動と内部の対流を抑制することによって、融体の熱容量、真の熱伝導率および放射率を測定可能にしたものです。研究の成果は論文発表し、英国物理学会最優秀論文賞を受賞しました。

さまざまな産業分野での具体的な応用への展開 本装置の開発により、半導体・素材産業(結晶成長、鋳造、凝固、溶接などのプロセス開発)を基本として、エネルギー

産業(原子炉・核融合炉用材料、発電用タービン材料開発)、航空宇宙産業(ロケット・航空機用エンジン及び構成部材開発)など、さまざまな産業分野での応用が期待されています。たとえば近年注目されている火力発電所の熱効率向上という課題があります。「数パーセント熱効率が上がれば、たいへんな効率化になるわけですが、その熱効率を上げるには作動温度を高くしてやればいい。問題はその高温に耐える材料をつくる必要がある。高温融体の熱物性測定装置は、そういう材料開発に十分に応えることができる」と、すでに具体論の展開も進められています。 測定装置は、他の研究機関、あるいは金属鉄鋼メーカーなど企業の物性調査など、多方面からの依頼測定にも提供されています。福山教授は「この装置は、何か別のアプリケーションとの組み合わせも考えられる。もちろん材料の作製の方にも応用できる。アイデアを持っている人にはいつでも提供できるよう開放している」と話しています。 こうした幅広い分野への展開を通して、未開拓だった高温融体の物性物理に新しい可能性を拓くものと、大きく期待されています。

超高温熱物性計測システムの断面概念図/装置中央部のドラム中心部に試料の浮遊物質が位置します。ドラムの周囲には超伝導磁石。上部から周期加熱用レーザーを照射し、浮遊液滴下部から放射温度計にて温度応答を測定し、比熱、熱伝導率、放射率を測定します。

04FOREFRONT REVIEW

高温融体

結晶成長、鋳造、溶接分野など多くの材料プロセスでは、一旦溶融した状態を経る過程を含んでいます。得られた結晶や鋳造あるいは溶接部の品質には溶融状態における伝熱や物質移動が大きく影響しますので、高温融体を対象にした学問分野が重要です。

熱物性

密度、熱容量(比熱)、放射率、熱伝導率、表面張力、粘度、拡散係数など主に熱や物質移動に関する物性を総称して熱物性と言います。

超伝導磁石

コイル材としてNb3Snなどのような超伝導材料を用いた電磁石で大きな磁場を発生することができます。医療用の磁気共鳴画像診断(MRI)装置などが応用例です。私たちは、浮遊した金属液滴の振動や対流の抑制に用いて新しい応用分野を開拓しました。

静磁場

直流磁場とも言い、交流磁場と異なり時間変動がない磁場のこと。超伝導磁石から発生した静磁場中に金属液滴に浮遊させると、ローレンツ力により液滴の振動や内部の対流を抑制できます。

熱伝導率

熱流束は温度勾配に比例するというフーリエの熱伝導の法則を記述する物性値です。高温融体の熱伝導率は、内部に対流が存在するため、測定が困難な熱物性でしたが、私たちの研究成果により、高温融体の熱伝導率を高精度に測定できるようになりました。

熱効率

高温熱源から熱を取り出し、仕事に変換する効率のこと。熱力学的には、熱を仕事に100%変換することは不可能です。熱効率を高めるためには、タービンなど熱機関の作動温度を高温化すればよく、そのためには、高温に耐える材料の開発が必要です。

超高温熱物性計測システムでは、高温融体が電磁浮遊法によって浮遊しているのをモニターで確認。さまざまなデータを得ることができます。

中央で輝いているのが、電磁浮遊法によって高温で融けた状態で宙に浮いている金属。これは先代のシステムによる浮遊状態で、電磁コイルが巻かれたガラス管の中に高温液滴が浮いているため非常にわかりやすい見え方になっています。

超高温熱物性計測システム/高温融体は化学的にきわめて活性で容器との反応が避けられない、また融体内の対流が生じるため熱伝導率が測定できないなど、非常に困難だった高温融体の熱物性計測を、電磁浮遊法と静磁場を組み合わせて可能にした世界初の装置。左写真左奥は、開発されたシステムの元になった先代の測定システム。

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1950年、神奈川県生まれ。東北大学大学院工学研究科博士課程修了、工学博士。㈱東芝研究開発センター研究主幹、科学技術振興機構ERATO

「田中固体融合プロジェクト」総括責任者、東京大学工学系研究科客員教授、名古屋工業大学工学部教授、2005年より現職。2000年井上学術賞、2014年文部科学大臣表彰科学技術賞研究部門など

http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/tanaka/index-j.html

多元物質科学研究所プロセスシステム工学研究部門高機能ナノ材料創成研究分野 教授

TANAKA, Shun-Ichiro

FOREFRONT REVIEW

田中俊一郎

原子集団の配列操作によるナノ構造体創成および固体界面制御

FOREFRONT REVIEW 界面形成素過程を明らかにした「田中固体融合プロジェクト」 の知見をもとに、田中研究室ではボトムアップ型ナノアーキテクチャーとして

「励起反応場」に着目。多様な次元性を有する非平衡物質や低次元ナノ材料の創成、ハイブリッド構造体構築、ナノ構造と表面・界面制御、高次機能特性制御などを金属・セラミックス・半導体・高分子で実現し、広義の次世代ナノデバイス構成要素を提供することを目指しています。

 セラミックスと金属など異種材料がうまく接合できるとどんなことができ

るようになるでしょうか?セラミックスと金属など、異種材料の接着・接

合を達成することで、磨耗や腐食をなくし、長寿命化や、信頼性の

向上、耐熱性付与や高機能化を実現することができます。しかし、

従来の研究では、界面現象の理解に基づいて接合状態を原子レベ

ルで制御するまでには至っていませんでした。

 この問題に対して、田中俊一郎教授は、固体融合現象の解明と

界面制御手法の探索を目的として、固体―液体、固体―固体界面

の原子スケールのその場観察を中心に動的な界面現象を解明する、

JST‐ERATO「田中固体融合プロジェクト」を1990年代に展開しま

した。

 このプロジェクトの狙いは「異種材料界面への注目」、「ナノ構造形

成素過程の実測と制御」、「原子集団を動かしてナノ構造を創る」とい

うもの。接合時に起こる動的な界面現象の解明し、濡れや界面反応

のより詳細な理解への道を拓き、また、界面物理特性の把握、界面

近傍での残留応力分布、機械特性、電子構造などへの影響を明ら

かにしました。

 その後も田中研究室ではボトムアップ型ナノアーキテクチャーとして

「励起反応場」に着目し、多様な次元性を有する非平衡物質や低次

元ナノ材料の創成、ハイブリッド構造体構築、ナノ構造と表面・界面

制御、高次機能特性制御などを実現し、広義の次世代ナノデバイス

構成要素を提供することを目指して研究を進めています。ナノ構造創

成では、電子線やイオンなどの汎用アクティブビーム照射を用いた新

規ナノ構造体のボトムアップ的構築と、高エネルギー重粒子線の単一

飛跡内での限定空間架橋反応を利用した1次元ハイブリッドナノ構造

体誘起を研究し、その任意設計性を活かした排ガス触媒や各種ナノ

デバイス材料への応用を目指します。さらには化学反応場を用いた低

次元ナノ構造制御に基づく酸化物ナノチューブの高次機能設計と環

境・エネルギー分野への応用、ナノ複合材料の機能化、異種材料

界面制御による界面機能化および残留応力テンソル分布計測に関す

る研究を行っています。

05FOREFRONT REVIEW

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動的な界面現象を解明する田中固体融合プロジェクト

MY FAVORITEお互いの文化を認め合う、フランスとの連携の窓口に 海外の人たちと文化を認めあうことはとても大切なことだと思っています。日本酒会の会長をするぐらい日本酒が好きだったのですが、フランスに行くとやはりワインですね。南部の山間部に行って貴重なワインを見つけてくるなんてことをしていました。 大学では、フランスとの連携・共同研究の窓口になっています。東北大学は、フランス研究機関と先進材料に関する合同ワークショップを定期開催していますが、その事務局を努めています。 その際に日本酒の枡にワークショップのロゴを焼き印してプレゼントして喜ばれましたね。やはりフランスというのは、それぞれの伝統文化を尊重して、楽しむことができる国なんだなと思いました。

TERM INFORMATION濡れ

液体が固体上に滴下されたとき拡がるか丸まるかで反応しやすさの指標とすることができます。今まで原子規模で観察された例はなく田中固体融合プロジェクトで初めて動的に把える事ができました。

ナノ構造形成素過程

材料界面での融合素過程は原子規模でみると極めてダイナミックです。田中固体融合プロジェクトでは反応生成相の核生成、成長、相変態などのナノ構造変化を電子顕微鏡下でその場観察することに成功しました。

格子欠陥

固体内部をナノで観ると原子の並びが規則性を失った点状・線状の欠陥が必ず存在します。点状のものが点欠陥、線状のものの典型が転位です。異種材料界面は無理に接合しているために応力・歪とともに格子欠陥が発生しやすくその緩和法が課題です。

残留応力分布

固体に形を付与して材料・デバイスとし、システムに組み込まれる過程で様々な力が加わることで応力・歪が残留することが不可避です。特に異種材料界面近傍では弾性係数や熱膨張係数の差で大きな応力が深さ方向にも勾配をもって存在し接合強度などに影響します。応力・歪はテンソルとして扱う必要がありますが微小領域での分布を実測する手法は限られていたのを、田中教授はX線2D法で実測可能にしました。

固体界面の生成過程のダイナミックな本質に迫る システムというものは、どんなものも部品の集合体です。その部品も微視的に見ると金属、セラミックス、半導体など異質物質が2次元、3次元の界面をもって接する構造となっています。こうした構造体を作製する、ろう接・固相接合・積層・接着などのプロセス研究は、工学的見地から盛んに行われてきたものの、「界面形成の本質」に迫る総合的な研究事例は少な

かったと田中俊一郎教授は話します。 「金属とセラミックスの接合法として、拡散接合法、メタライズ法、活性金属ろう接法などさまざまな手法が実用化されてきました。中でも活性金属ろう接法は、高接合強度が得られるだけでなく複雑形状対応が可能で量産性に富む手法として、機械部品、電子部品、エンジン部品に多用されています。高強度接合体が得られる機構は、ろう材が溶融し、添加したT

i(チタン)などのⅣ族元素がセラミックスとの濡れを改善して反応した結果であると、界面生成物を解析して推定はされてきました」。 しかし、こうした従来の解析からは、高強度界面形成機構への直接的な説明はできないと田中教授は考えます。ポイントは「どのような界面原子構造が、

いかなる素過程で形成されるか?」だといいます。 「固体界面の生成過程は複雑かつダイナミックです。液相を介する接合反応や、構成原子の拡散・固溶・析出、界面生成物の核生成・成長、さらには界面近傍での格子欠陥および残留応力の生成・消滅、界面での電子状態変化などの様々な多段階反応が伴う現象です。固体融合現象の解明と界面制御手法の探索には、『動的な界面現象』を解明する必要がありました」。 固体が接したときのダイナミックな界面形成素過程を明らかにしたい。田中教授が総括責任者となった「田中固体融合プロジェクト」は、科学技術振興事業団の創造科学技術推進事業(ERATO)の一つとして1993年10月から1998年9月までの5年間実施され、界面形成の本質に迫る研究が進められました。

「その場観察」により界面の現象を動的に総合的に研究 界面形成をどのように、動的に、そして本質に迫るか? プロジェクトでは融合素過程を直視するために、その場(in-situ)観察手法を採用しました。

 まず、高分解能透過型電子顕微鏡ででき上がった接合界面の原子構造を明らかにし、続いて同顕微鏡の試料ステージ上で活性金属ろう接反応の素過程を原子または原子集団レベルで直視し、反応生成層のナノ構造形成過程を世界で初めて解明しました。 そして、高速高温X線回折装置の開発により、拡散接合での界面相変化を動的・定量的に把握し、時間─温度相関図および構成元素の拡散挙動を求めました。 このその場(in-situ)観察により、セラミックス・金属、半導体・金属のような異種材料系の「融合現象の素過程」を、電子線、弾道電子などのナノプローブ、X線、超音波、レーザーなどのマイクロプローブの下で「動的」に把握することが可能になりました。さらに融合に伴い界面近傍の微少領域に生成・消滅する残留応力分布や格子欠陥、電子構造変化を定量的に把握し、融合現象および界面物性との相関を明らかにしました。 「このようなナノからミクロまでの界面における動的挙動を理解すると、広く固体融合支配因子と界面設計に役に立ちます。また、融合界面の特性が規定する機械的・電気的・物理的諸特性を自由に制御できるようになります。このような界面設計原理の構築は、新規素子・新材料創製などを可能にしました」。

応力・歪みという現象を科学的に検証することを可能に しかし、異種材料の接合において問題となることがあります。「応力・歪み」という現象です。異種材料界面近傍には機械的性質の差に起因する「応力・歪み」が不可避に残留することは知られていました。この現象を科学的に検証する手法の確立が求められていました。 プロジェクトでは界面近傍に残留する応力や歪みの分布を実測することに成功しています。界面電子構造や機械強度への影響を把握することが可能になりました。 「最小直径25nm域の残留歪み分布測定に成功し、応力・歪という現象を科学的に検証することを可能にしました。これにより局所物性との相関を議論できるようになりました」。 従来までの研究では定量的に実証されていなかった、1% 以下の圧縮歪みが、界面における電子構造に影響を及ぼすということを実証。この成果により、半導体デバイス産業に大きな寄与ができました。 最近ではそれまで測定困難であった深さ方向の応力・歪を粗く伸びた結晶でも実測できる「X線2次元法」という手法を開発し、局所の寿命予測など安全安心への寄与が見込めるようになりました。

プロジェクトでは融合素過程を直視するために様々な計測機器の開発を行いました。でき上がった接合界面の原子構造を明らかにし、活性金属ろう接の素過程を原子または原子集団レベルで直視する「高分解能透過型電子顕微鏡」や、拡散接合での界面相変化を動的・定量的に把握し、時間ー温度状態図および構成元素の拡散挙動を把握できる「高速高温X線回折装置」などを開発しています。

SiC(炭化ケイ素)が接合し、TiC(炭化チタン)が核生成した瞬間の界面の格子像です。固体界面の生成過程は複雑かつダイナミックで様々な多段階反応が伴う現象です。

05FOREFRONT REVIEW

固体融合現象の解明と界面制御手法の探索を目ざした「田中固体融合プロジェクト」の概念図。固体―液体、固体―固体界面での原子スケールのその場観察を中心に、異種材料界面の動的形成素過程と特性を実測することを目指しました。

界面近傍に残留する応力や歪みの分布を最小50μmの領域で実測する機器を開発。最近は2次元検出器で粗粒でも、伸びた粒でも応力計測可能で、その機械強度への影響を把握することが可能になりました。

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界面操作から励起反応場での新しいナノ構造創成に発展

OFF TIME世界中の鉄道に乗る旅、学生たちにも海外に行くことを奨めています 世界中の鉄道に乗ることが趣味ですね。世に撮り鉄・乗り鉄というジャンルがありますが、私はその両方です。世界中の鉄道に乗って写真を撮るというのが好きですから。中国では夜行列車で広大な国土を優雅に旅しました。 ヨーロッパでも、大陸を横断する列車を楽しみました。オーストリアから出てドイツ、フランスというように巡りましたね。学生を連れて行って2人ヨーロッパ周遊を体験したこともあります。 自分の学生時代になかなか海外に行けなかったというアンチテーゼもあり、学生の間に世界を知ってもらいたいと欧州留学を奨めています。 フランスやドイツなど海外の優秀な研究を見る経験を学生時代にしてもらいたいと思っています。

TERM INFORMATION

界面形成過程を自由にコントロール 「田中固体融合プロジェクト」には、もうひとつの成果がありました。「原子集団を動かしてナノ構造を創る」ということです。 「電子線ビームを照射することより、Al

(アルミニウム)、Nb(ニオブ)、Au(金)、Pt(白金)等の超微粒子を生成、融合し、基板のアモルファスカーボンに玉ねぎ状のフラーレンや層間化合物を作ることができるようになりました」。 電子線照射による金属ナノ粒子の創製とマニピュレーション技術。これにより、従来困難であったAl、W(タングステン)などの易酸化性金属超微粒子の生成と移動、回転、融合および埋め込み操作など

を可能にしました。 「電子線照射強度の適正化により、Al2O3 のナノワイヤー、ナノボール複合体の創成が、また、Arイオン転写法により、Cuナノ構造パターニング(線状、メッシュ構造)ができるようになっています。超微細デバイスや触媒、電池電極などの要素技術になりうるものと思われます」。 「ナノ構造創成では、電子線やイオンなどの汎用アクティブビーム照射を用いた新規ナノ構造体のボトムアップ的構築と、高エネルギー重粒子線の単一飛跡内での限定空間架橋反応を利用した1次元ハイブリッドナノ構造体誘起を研究しました。特長は、低温にもかかわらずかなり自由度の高い設計性があるということ。この特

性を活かして排ガス触媒やナノデバイス材料などへの応用を目指します」。 さらに化学反応場を用いた低次元ナノ構造制御から様々な展開があり得ます。酸化物ナノチューブの高次機能設計と環境・エネルギー分野への応用、ナノ複合材料の機能化、異種材料界面制御による界面機能化および残留応力テンソル分布計測に関する研究を行っています。

活性物質を産み出す励起反応場を利用した革新的ものづくりへ 「そして現在、電子線・イオンなどの照射による界面操作は『励起反応場でのナノ構造創成』という概念に発展させ、現在に至っています」。 電子線、keV級イオン、集束超音波、偏光レーザー、集束マイクロ波が単独または複合照射される空間は、原子規模の活性化と励起過程によりボトムアップ的非平衡反応が誘起されます。これを「励起反応場」と呼びます。 田中研究室ではボトムアップ型ナノアーキテクチャーとしてこの「励起反応場」に着目し、多様な次元性を有する非平衡物質や低次元ナノ材料の創成、ハイブリッド構造体構築、ナノ構造と表面・界面制御、高

次機能特性制御などを金属・セラミックス・半導体・高分子で実現し、広義の次世代ナノデバイス構成要素を提供することを目指しています。 「励起反応場」利用で立体形状のナノ・マイクロ構造体創成を室温開放系で実現し、スケールアップして活性物質の低コスト革新的ものづくりを実現していきたいと考えています。 「従来の高温高圧閉鎖系装置での工業生産を脱し、室温開放系で活性な3次元ナノ・マイクロ構造体を量産できる省エネルギー、希少資源代替のものづくり技術の確立が求められています。“励起反応場”の積極的な活用・展開を考えています」。

従来の高温閉鎖型エネルギー消費工業生産様式を一変させる価値 「keV級イオンは真空・雰囲気が必要で開放系での照射には基礎研究が必須であり、いずれの励起反応場も工業生産適用にはハイリスクです。しかし室温大気中での連続照射が可能となれば、従来の高温閉鎖型エネルギー消費工業生産様式を一変させる価値があります」。 励起反応場では自己組織化では到底望めないナノ・マイクロ規模のらせん突起構造体、粒子包含チューブ、p-n接合などの3次元構造やハイブリッド構造などが得られ、飛躍的に高い物理的特性や化学的活性を示します。

 特徴は、①局所的には高温となるものの室温・開放大気系が基本で省エネルギー型であること、②位置・反応選択的で非平衡反応・ボトムアップ・操作性と走査性に富むこと、③量産inline化しやすいTable-top可搬式装置であること、④3次元ナノ構造制御がしやすいこと、⑤活性物質が得やすいのでCu,Niなどで希少元素代替となり得ること、などが挙げられます。まさに、未来に可能性を拓く技術開発であるといいます。 「これから研究室レベルの環境から実用化に向けてシステムをスケールアップしていかなくてはいけないという課題を持っています。しかし、従来得られなかった特性や機能が得られますので、省エネルギー・省資源とあわせて大きなハイリターンが期待できると考えます」と田中教授は夢を語ります。

励起反応場を用いたナノ・マイクロ構造体を創成する日々の研究。研究室では若い力により熱い研究が重ねられています。

05FOREFRONT REVIEW

玉ねぎ状のフラーレン

サッカーボール状のフラーレンを何層にも重ねていくと巨大なフラーレンができます。これを形態が似ているためにOnion-likeフラーレンといいますが、面状炭素の層間には原子が入りこみやすく層間化合物を形成します。

粒子包含チューブ

ナノスケールの化合物にはチューブ状のものがあります。筒の中には原子が入り込みやすく、原子集団や化合物の粒子が形成されることがあります。チューブの持つ特性を粒子により修飾する手法に用いることができます。

電子線ビームの照射により、Al、Nb、Au、Pt、W等の超微粒子と玉ねぎ状のフラーレンが得られることを発見しました。様々な応用が可能になると田中教授は考えます。

「励起反応場」から多様な次元性を有する非平衡物質や低次元ナノ材料の創成、ハイブリッド構造体構築、ナノ構造と表面・界面制御、高次機能特性制御を行い、次世代ナノデバイス構成要素を提供することを目指しています。

「励起反応場」の活用・展開により、従来の高温高圧閉鎖系装置での工業生産を脱し、室温開放系で活性な3次元ナノ・マイクロ構造体を量産できる省エネルギー、希少資源代替のものづくり技術の確立ができると考えています。

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1968年三重県生まれ。1991年京都大学工学部原子核工学科卒業、1993年京都大学大学院原子核工学専攻修了。1998年京都大学博士

(工学)取得。1994年から京都大学大学院人間・環境学研究科にて助手、2007年から東北大学大学院環境科学研究科にて准教授を歴任。1994-95年ノルウェー工科大学(現ノルウェー科学技術大学)招聘研究員。2012年から現職。専門は固体イオニクス、電気化学、固体化学。

http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/amezawa/index-j.html

多元物質科学研究所サステナブル理工学研究センター固体イオ二クス・デバイス研究分野 教授

AMEZAWA, Koji

FOREFRONT REVIEW

雨澤浩史

固体イオニクス材料に着目し新しい燃料電池・蓄電池の設計から開発まで

FOREFRONT REVIEW 環境問題という大きな社会的課題の解決に向けた燃料電池や蓄電池開発。特に固体の中をイオンが動く“ 固体イオニクス”材料の研究を通して、環境にやさしいエネルギー変換デバイスを実現する材料機能設計、材料開発を目指しています。

 21世紀の科学者・技術者に課せられた大きな課題のひとつとして

あるもの。それは、環境問題、エネルギー問題を解決し、持続可能

社会を実現することです。

 雨澤研究室でも、環境問題・エネルギー問題の解決をテーマに掲

げています。そして、これらの問題の解決を目指し、燃料電池や蓄

電池など、環境にやさしいエネルギー変換デバイスの実現・普及のた

めの基盤研究を行っています。

 研究のキーワードとなるのが、「固体イオニクス」材料。固体であり

ながらその中をイオンが高速移動できる注目の素材です。研究の方

向性は3つに分けられます。

①固体イオニクス現象がなぜ起きるか?─固体におけるイオン輸送、

界面反応、欠陥構造についての学理を探求するとともに、固体イオニ

クスデバイス(Solid State Ionic Devices)の開発・高性能化に向け、

固体中をイオンが動く現象の原理解明を目指しています。

②どのようなカタチで応用できるか?─燃料電池や蓄電池として活用す

ることを中心に位置づけ、材料機能設計、材料開発を行っています。

③その場測定ができるか?─パッケージされて中を見ることができない

電池の中をそのまま見ようというもので、高温/制御雰囲気/通電と

いった特殊環境下でのその場測定を可能とする高度分析技術の開

発を行っています。

 固体イオニクス材料を活用した燃料電池の一つである固体酸化物

形燃料電池(SOFC) は、水素などに代表される燃料の燃焼反応によ

り得られるギブスエネルギー変化を直接電気エネルギーに変換する発

電システムであり、その高いエネルギー変換効率から、次世代の環

境調和型エネルギー変換システムとして期待されています。燃料適応

性に優れる、排熱を利用したコンバインドサイクルの構築が可能であ

る、等の特長も有しており、分散型電源や大規模発電システムとして、

実用化に向けた活発な研究が進められています。

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固体イオニクス材料を用いたエネルギー変換デバイスの実現に向けて

MY FAVORITE大好きなスイーツ探求は、研究者魂をくすぐります 趣味はスイーツ探求なんですが、「スイーツ探求」と言っても、スイーツの食べ歩きではなく、スイーツを自身で「作る」ということなんです。休みの日によく作っています。 家庭のバースデーケーキは今までほとんど買ったことがないです。結婚して子どもができてから独学で学んだんですね。子どもたちが自分が作ったバースデーケーキで喜んでくれているのでありがたいですね。 ケーキづくりは、研究室での実験のようです。「この材料をまぜるとどうなるかな」「今度はこういうフレーバーにしてみようかな」とアレコレ試行錯誤を楽しんでます。大学の先生は料理が好きな人が多いのですが、皆さん職業柄凝り性なんでしょうね。

雨澤研究室では、固体イオニクスデバイスの開発・高性能化に向け、固体中をイオンが動く現象の原理解明を目指しています。

固体の電解質、空気極、燃料極で構成されたSOFCで電気が作られる仕組み。空気極では、気相中の酸素と外部回路からの電子から酸化物イオンの生成反応が、燃料極では、電解質からの酸化物イオンと気相中の水素からの水の生成反応が起きます。外部回路では電子が燃料極から空気極へと移動します。

TERM INFORMATIONイオン輸送

固体、液体あるいは気体の内部をイオンが移動する現象。イオンは電荷をもつため、イオンが移動することにより、物質(原子)の移動だけでなく、電荷の移動も同時に発生する。固体におけるイオン輸送の場合は、固体を構成するイオンのうち、特定のイオンが優先的に移動しやすいことが多い。

欠陥構造

理想的な結晶では、原子もしくはイオンが3次元的に規則正しく配列しているが、実在の結晶では、理想配列からのズレが必ず含まれる。このようなズレを欠陥と呼ぶ。欠陥の密度は一般にはかなり小さいが、物質の様々な性質を支配することが多い。例えば、異種元素の添加等により欠陥構造を制御することで、イオン輸送を制御することがしばしば行われる。

コンバインドサイクル

ある発電システムから出る高温排熱を回収・利用し、さらに別の発電システムを動かすことにより、高い発電効率を達成する方法。高温作動の固体酸化物形燃料電池を使用したコンバインドサイクルとしては、ガスタービン、蒸気タービンを組み合わせた、「トリプルコンバインドサイクル」が考えられている。

酸化物イオン導電体

固体でありながら、その内部を酸化物イオン(O2-)が移動できる材料。代表的な材料にイットリア安定化ジルコニア(Y2O3-ZrO2)が挙げられ、固体酸化物形燃料電池、自動車排ガス用センサー等の電解質材料に使用される。

空気極、燃料極

燃料電池は、通常の電池と同様、電解質と2種類の電極で構成される。水素に代表される燃料が反応する電極を燃料極、空気中の酸素ガスが反応する電極を空気極と呼ぶ。

コージェネレーションシステム

電気を作ると同時に、排熱を暖房や給湯等、熱として利用するエネルギー供給システム。これによりエネルギー利用効率を向上させることができる。コンバインドサイクルもコジェネレーションシステムの一形態である。

固体イオニクス材料をもとに次世代の環境調和型発電システムを 資源枯渇、地球温暖化、酸性雨といった、深刻なエネルギー・ 環境問題を背景に、高効率で環境調和性に優れたエネルギー変換デバイスの開発が期待されています。このような次世代発電技術として、近年、開発・実用化が急速に進められているのが「燃料電池」です。 燃料電池の可能性について雨澤浩史教授は以下のように語ります。「水素のよ

うな燃料の燃焼反応の際に得られる化学エネルギー変化を、直接電気エネルギーとして取り出す燃料電池は、エネルギー利用効率に優れ、サイズも小さくて済むというメリットがあります。定置用分散型電源を中心に、自動車を始めとする移動用電源、モバイル用の小型電源など幅広い用途での応用が期待されています」。 燃料電池は、電解質にプロトン導電性固体高分子膜を使用する「固体高分子形燃料電池」など、使用する電解質材料

によっていくつかのタイプに分類されます。「固体高分子形燃料電池」は、起動性に優れた低温作動の燃料電池として、日本では2009年より家庭用1kWクラスのシステムが商品化されています。

 「その中で、我が研究室が次世代の環境調和型発電システム開発に向け研究対象にしているのが、固体でありながらその中をイオンが高速で動くことのできる『固体イオニクス材料』と呼ばれる物質です。この固体イオニクス材料は、高効率で、使用燃料が多様性な電力源である固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell, 以下SOFC)や、電気自動車、携帯機器、自然エネルギーによる電力平準化のための蓄電池の電解質、電極材料としての利用が期待されています」。

他の燃料電池にはない特長SOFCの高い潜在能力 SOFCはどのような基本構成・仕組みによって発電するのでしょうか? 「SOFC単セルは、固体の電解質(一般的には酸化物イオン導電体)、空気極

(カソード)、燃料極(アノード)で構成されています。燃料に水素を使用した場合、空気極では、気相中の酸素と外部回路からの電子による酸化物イオンの生成反

応が、燃料極では、電解質からの酸化物イオンと気相中の水素による水の生成反応が起きます。これに伴い、電解質中では酸化物イオンが空気極から燃料極へ、外部回路では電子が燃料極から空気極へと移動します」。 SOFCの一 番の特 徴は、700〜1000℃という高温で作動するということ。高い動作温度を活かすことにより、電極反応に伴うエネルギーロスの低減が可能となっています。その他、「使用可能燃料が多様で、炭化水素燃料の直接導入も可能である」「電極に白金等の貴金属触媒を必要としない」「全固体電池であり、電解質の揮発・漏れや腐食の心配がない」等、 他の燃料電池にはない優れた特長を持っています。 わが国では、 新エネルギー財団(NEF)主導のもと、2007年から1kWクラスの家庭用分散型電源を中心にSOFCの実証試験が始められ、2011年秋から家庭用SOFCコジェネレーションシステムが一般向けに市販されています。 「固体高分子形燃料電池(PEFC)に比べても高いシステム発電効率(45% LH

V超)が達成されています。次世代の環境調和型発電システムとしてのSOFCの高い潜在能力が確認されています」。

固体イオニクスデバイスの高性能化に向けた原理の解明へ 「一方で、SOFCの高温作動に起因する長期耐久性の問題も指摘されています。今後の本格的な実用化に向けて、さらなる性能および耐久性の向上が課題とされています」。 高温で作動することによる耐久性の問題が出てきますが、かと言って温度を下げすぎてもメリットがなくなるといいます。600〜650℃くらいがベストであると雨澤教授は考えますが、そのバランスを取ることが難しいといいます。「電極がどういう構造であればいいか?どのような設計をすれば効果的にエネルギーを得ることができるか? など、まだまだ開発指針が定まっていない状況です。固体イオニクスデバイスの開発・高性能化に向け、固体中をイオンが動く現象の原理解明を目指しています」。

イオン導電性セラミックスを電解質に用いるSOFC。分散型電源や大規模発電システムとして、実用化に向けた活発な研究が進められています。

06FOREFRONT REVIEW

SOFCの高温作動に起因する長期耐久性の問題も指摘されています。今後の本格的な実用化に向けて、さらなる性能および耐久性を向上させる研究が進んでいます。

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その場(in situ)計測できる手法を開発し、イオン輸送や反応の機構解明に成功

OFF TIME自然志向なところがあって、ぷらっと鉱物採集に出かけます 自然の中で休日を過ごすことが好きで、山に行ったり、川に行ったりという感じでリフレッシュしています。釣りに行ったりするのも好きですね。 中でも今はまっているのは、鉱物採集です。山でいろいろ石を集めてきて喜んでいます。東北大学に赴任してきてからも、東北地方の鉱山跡など足しげく通ってます。 自然界で作られた結晶はとても美しくて見ていて飽きないですね。結晶の育ち方など、自分の研究ともリンクしてくる所で興味があります。 例えば水晶はらせん状に成長するのですが、右回りと左回りがあるんですね。水晶を眺めながら、自然の神秘を感じています。

TERM INFORMATION

大型放射光施設との共同研究によりその場(in situ)計測を可能に 今後SOFCを本格的に普及させていくには、SOFCスタック・セル・部材のさらなる高性能化、高耐久性化、長寿命化が要求されています。これを可能にするためには、電池作動時の各構成材料(電解質、空気極、燃料極など)の化学・物理状態を正確に把握することが必要不可欠となります。 しかし、SOFCは、高温、特殊雰囲気(酸

素、水素雰囲気)、通電状態という、通常の分析手法にとって苛酷な条件で作動します。そのため、これまでSOFC作動時の各構成材料の状態を正確に評価することはとても困難だったといいます。 「触媒材料や電池材料などでは、作動中の材料の構造や状態は室温、大気中に取り出した構造や状態とは異なります。それを正しく評価するには、温度や共存ガスを実際に作動している条件にあわせて測定する必要があります。つまり、求め

られる計測のポイントはその場(in situ)計測というものです。そこで測定に真空や極低温といった特殊環境を要しないX線吸収分光 (XAS)法に着目しました」。

特殊環境下におけるその場X線吸収分光法  さっそく、京都大学・高輝度光科学研究センターとの共同研究を通し、高温、制御雰囲気、通電状態における測定が可能なその場XAS測定法の可能性について検討。「その結果、大型放射光施設

(SPring-8等)での X線吸収分光法を適用することにより、高温、制御雰囲気、通電状態におけるその場(in situ)計測を可能にしました。SOFC各種材料の物理

・化学状態やSOFC電極反応の直接評価にこれらを適用してきました。最近では、これらの手法をリチウムイオン2次電池など蓄電池研究にも応用しています」。 物質にX線を照射すると、含まれる元素に応じて、特定のエネルギーをもつX線が吸収されます。これは内殻電子の励起に伴うものであり、このときの吸収スペクトルを解析するのがX線吸収分光法(XAS)です。  「材料分析手法としてのXASの一つの大きな長所は、極低温や高真空などの特別な測定条件を必要としないことです。そのため、XASを用いれば、特殊環境

における材料の化学・物理状態のその場測定が可能です。特に放射光施設で得られる高輝度のX線を利用することにより、ナノ〜マイクロメートルの高位置分解能あるいはミリ秒の高時間分解能での分析も可能となっています」。 X線吸収分光スペクトルを解析することにより、多角的な分析も可能になります。原子の価数や電子構造に関する情報は、励起された電子が遷移選択則を満たしつつ空軌道へ遷移するときのスペクトルであるX線吸収端構造 (XANES)から得ることができます。また、隣接原子の配位数、結合距離、局所歪などの局所構造に関する情報は、励起後の電子が隣接原子によって散乱されるときのスペクトルである広域X線吸収微細構造(EXAFS)の振動を解析することから得ることができます。

新規高性能固体イオニクス材料・界面の創製 現在、雨澤研究室では、固体イオニク

スデバイスのさらなる性能向上を目指し、新規高性能材料の開発も行っています。 「固体イオニクス材料は、燃料電池・蓄電池以外にも、化学センサ−、選択透過膜、触媒など、様々なカタチで活用されています。例えば、自動車の排気ガスをクリーンにするための制御用酸素センサーなどに活用されており、排気ガスの清浄化に欠かせないものとなっています」。 異種材料界面における特異な応力、化学状態を利用した高機能界面の設計など、イオン機能性を飛躍的に向上させる新規概念に基づく材料開発手法の確立を目指しながら、「固体イオニクス」を利用した新しい環境調和型デバイスの研究・開発を進めています。 「現在、東北大学内を含む、国内外の研究グループと様々な共同研究を進めています。今後も固体イオニクス材料についての研究から、新しい環境調和型エネルギー変換デバイスの創出を目指していきます」。

直面する環境問題、化石燃料などエネルギー供給の逼迫、地球温暖化などの問題。雨澤研究室では「固体イオニクス材料」を利用した環境調和型デバイスの研究・開発を通して、これらの問題の解決に貢献していきたいと考えています。

06FOREFRONT REVIEW

特殊雰囲気

固体イオニクスデバイスが作動する特殊な作動条件を指す。例えば、固体酸化物燃料電池の場合、650~1000℃の高温で作動し、かつ、その周囲の雰囲気も、空気極側は酸化性雰囲気、燃料極側は強い還元性雰囲気に曝される。

内殻電子の励起

物質に含まれる電子は、通常、低いエネルギー準位(内殻)に存在しているが、光の照射等により、ある特定のエネルギー以上のエネルギーが物質に加えられると、内殻に存在していた電子が、電子の存在していない、高いエネルギー準位へと遷移する。内殻電子の励起が起こるエネルギーは、元素の種類によって異なるため、元素分析に利用できる。

X線吸収分光法

物質にX線を照射する際、内殻電子の励起が起こると、X線の一部が物質によって吸収される。X線吸収分光法は、照射するX線のエネルギーを変化させながら、入射X線量に対する吸収X線量を測定する分析手法である。観測される吸収スペクトルより、物質に含まれる元素の化学状態や局所構造に関する情報を得ることができる。

導電率

物質の電気の流しやすさを表す物性値である。電気伝導率ともいう。抵抗率の逆数で定義され、単位はS(シーメンス)・m-1もしくはΩ-1・m-1。値が大きいほど、電気を流しやすい。

輸率

物質内を電気が流れる場合、電荷を運ぶ粒子(イオンや電子など。電荷担体と呼ぶ。)は、一般的には複数種類存在する。ある特定の電荷担体によって担われた電流の、全電流に対する割合を輸率と呼ぶ。全ての電荷担体の輸率の総和は1である。

拡散係数

粒子(分子、原子、イオン)、熱などが自発的に散らばり広がる現象を拡散という。粒子の拡散は、濃度勾配(厳密には化学ポテンシャル勾配)を駆動力として起こる(フィックの第一法則)。拡散係数は、粒子の濃度勾配に対し、単位時間に単位断面積を通って拡散する粒子量として定義される。拡散係数は、粒子の動きやすさを表す物性値である。

環境調和型エネルギー変換デバイスに関わる固体反応、固体内・界面イオン移動現象。これらを正しく理解するには、実際に作動している条件にあわせて現象を観測する必要があります。高温その場(in situ)測定という直接評価の手法の開発を行っています。

求められる計測のポイントはその場(in situ)計測というものです。高温雰囲気制御型in situ X線吸収分光測定装置により真空や極低温といった特殊環境を要しないSOFC材料反応の直接観察を実現しました。

X線吸収分光法を用いることにより、特殊環境における固体イオニクス材料の化学・物理状態のその場測定が可能になりました。特に放射光施設で得られる高輝度のX線を利用することにより、短時間、微小領域の分析も実現しています。

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1954年東京都生まれ。1983年東京工業大学大学院 総合理工学研究科エネルギー科学専攻修了。理学博士。防衛大学校化学教室助手、東京工業大学工業材料研究所助教授、東京工業大学応用セラミックス研究所・助教授、2004年より現職。

http://www.tagen.tohoku.ac.jp/modules/laboratory/index.php?laboid=38

多元物質科学研究所新機能無機物質探索研究センター無機材料創製プロセス研究分野 教授

KAKIHANA, Masato

FOREFRONT REVIEW

垣花眞人

「化学の力」を駆使して高機能フォトセラミックスの創製へ

FOREFRONT REVIEW垣花研究室では、無機材料を研究の対象とし、化学プロセスを駆使した材料の高機能化及び新物質探索に関する研究を行っています。特に、「蛍光体」や「光触媒」などの光機能性フォトセラミックスをテーマに、「合成・構造・機能」の相互関係を深く理解することで、新物質の開発や高機能化を行っています。  垣花研究室は無機材料の機能の飛躍的向上、そして新無機物質

の探索を可能にする材料化学の確立を目指しています。

 現在、我々は携帯電話やパソコン、家電製品など便利な材料に囲

まれて生活しています。これらの材料をさらに高い機能にするために

はどうしたらいいか?垣花研究室では、「ある物質に際立った機能が

備わっているのはなぜか?」を知るためには、その構造を深く知る必要

があると考えます。物質における機能と構造との相関が明らかになれ

ば、新物質や新機能を設計・開拓できるといいます。

 垣花研究室の特徴は、より良い材料を手にするために“化学”のあ

らゆる力を活用するということ。例えば、デザインされた溶液を活用す

ることで、今まで以上の機能を持つ光触媒や蛍光体を“つくる”ことが

できます。また、結晶の“かたち”を制御することで光触媒の機能を飛

躍的に向上させることができます。物質における「合成・構造・機能」

の相互関係を深く理解し、より高機能な無機材料を提供できる化学プ

ロセスを展開すると共に新物質及び新機能の探索をします。

 具体的な研究対象は、「光触媒」と「蛍光体」に分かれます。

 「光触媒研究」は結晶の形態や露出結晶面を制御する化学プロセ

スを開発することで光触媒の性能を飛躍的に向上させます。バンドエ

ンジニアリングをはじめとする物理化学的アプローチにより、新しい水

分解光触媒の設計・開発を行っています。

 「蛍光体研究」では、結晶学的な観点からの新物質設計・合成に

よる様 な々特性の蛍光体を開発します。ありふれた鉱物を手本に、多

数の試料を同時に合成できる溶液並列合成法を駆使し、新しい蛍光

体の探索を行います。社会からの要請の強い、可視光応答型光触

媒や白色LED用蛍光体を想定した、新しい酸化物及び非酸化物系

フォトセラミックスの開発と、産学連携による実用化にも注力しています。

 実際に使える材料の開発を視野に入れた産学連携を強力に推進し

ています。民間企業への技術移転を積極的に推進すること、また“モ

ノづくり”に必要な高度な知識および技術を身につけた有為な人材を

育成することで、研究室における成果を社会に還元しています。

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結晶を制御する化学プロセス研究で光触媒の性能を飛躍的に向上

MY FAVORITEものごとに対する共感できる「佳き人」との対話を大切に 日常の中には、いろいろなシチュエーションがあります。楽しいこともあれば、いやなこともあり、いろんな理不尽なこともあります。この日常の中で「佳き人」との出会いというものを大切したいですし、もし出会えたとしたら一番の喜びだと思います。 佳き音楽との出会い。本当に人生を変えてしまうような書物との出会い。そして佳き人との出会いは、日常における「エネルギー源」だと思います。 「佳き人」とは大切なことに対して共感できる人ということであり、世の中の理不尽なことに「おかしいんじゃないか」と同じように怒れる人だと思います。年配の方でも若い人でも共感することができれば、それは佳き人です。私にはそういう佳き人がたくさんいて、幸せに思います。

垣花研究室で、研究の対象とするとのは「蛍光体」や「光触媒」など光機能性のフォトセラミックス。酸化物、硫化物、酸窒化物、リン酸塩など多様なセラミックスを対象として、セラミックスを構成する元素の種類や組成を制御することで新しい物質の開発を目指しています。

TERM INFORMATIONフォトセラミックス

光に応答するもしくは光を信号として発信する機能性セラミックスの総称。蛍光体や光触媒以外にも、非線形光学材料、フォトニックス結晶、フォトクロミズム材料が知られている。

露出結晶面を制御

一般的なセラミックス結晶は、秩序のないランダムな表面もしくは安定な結晶面のみを露出している。結晶表面で化学反応が進行する光触媒反応では、露出する結晶面の性質が重要な要素の一つとなっている。化学プロセスを駆使することで、露出する結晶面を制御することが可能で、条件によっては通常は露出されない結晶面を露出する結晶を合成することが可能になる。

励起電子

半導体である光触媒が光を吸収すると、価電子帯の電子が伝導帯へと励起される。その結果、伝導帯には励起電子が、価電子帯には正孔が形成される。これら励起電子・正孔によって酸化還元反応が誘起されることで光触媒反応が進行する。

バンドエンジニアリング

励起電子・正孔により酸化還元反応が誘起される光触媒反応では、伝導帯および価電子帯のポテンシャルが、それぞれ光触媒の還元力および酸化力を決める要素の一つとなっている。また、伝導帯と価電子帯のエネルギー差はバンドギャップと呼ばれ、光触媒の光応答性を決定している。そのため、光触媒の伝導帯および価電子帯のポテンシャルを制御することは、光触媒特性を制御するうえで重要な研究テーマであり、特にバンドエンジニアリングと呼ばれている。

正孔のポテンシャル(VBM)制御

光触媒の酸化力は、正孔のポテンシャルつまり価電子帯上端のポテンシャル(VBM)によって主に決定されている。バンドエンジニアリングのうち、価電子帯制御のことを特に、正孔のポテンシャル制御という。

精緻な結晶構造を生み出すために溶液を活用する化学プロセス研究 垣花研究室の研究対象となるのが無機の固体材料。特に蛍光体や光触媒など光機能性のフォトセラミックスについて新物質の開発や高機能化を行っています。そして垣花教授は、この無機の固体材料に対して「作る」と「探す」という二つのアプローチがあると言います。 「まず作るという観点ですが、従来は焼き物の世界だったんですね。原料をこね

て、電気炉に入れて焼き固めるという作り方をしていました。しかし、この方法だと精緻な材料を作りこむことができないので、携帯電話などの電子機器には使えません。結晶というカタチで、きちんと制御することが必要です」。 どのような手法を使えば、精緻な結晶構造を作りだせるのでしょうか?まず考えられるのが、気体をガスのようなカタチにして吹き付けて基板のようなもので反応させ結晶の膜を作るという方法。しかし、この

手法だど、高真空に保たないといけないなど、実現するための設備が大変で、工業的に難しいといいます。 「これに対して我々の研究室が研究を進めている手法

が、金属が均一に溶けている溶液を利用して固体を作るという化学プロセスです」。 化学プロセスを用いることにより、コストをかけずに高性能な無機の材料を作ることができるといいます。安全な溶媒を使えば、環境にもやさしいというメリットがあり、いま注目されています。

太陽光で水素エネルギーを得るクリーンな水分解光触媒 垣花研究室の加藤英樹准教授を中心に進めている具体的な研究テーマの一つが、光を吸収して化学反応をおこす固体材料「光触媒」です。光触媒の特徴は、光のエネルギーによって光触媒の中に生じる励起電子と正孔が活性種として働き、光触媒の表面にあるさまざまな化学物質に対して酸化還元反応を起こすこと。例えば、水が電子と正孔により還元、酸化されると、それぞれ水素と酸素が生成します。「本多−藤嶋効果」として知られている反応で、この反応により、光のエネルギーを化学エネルギーに変換することができます。 「この水分解光触媒は、無尽蔵な太陽光を使って水素エネルギーを得ることができる高いポテンシャルを秘めた技術です。

持続可能社会を実現するためクリーンエネルギーを得ることができるため、現在力を入れて研究しています」。 水分解光触媒を実用化するためには、太陽光下において高効率で駆動する光触媒を構築することが求められています。この課題に対して垣花研究室では、溶液法を代表とする「新規合成法の開拓」、ならびに「形態」および「露出結晶面」の制御を行うことにより高効率化を図っています。 さらに新規光触媒を指向した「バンドエンジニアリング」をキーワードとして研究を行っています。「電子・正孔のポテンシャルを制御するバンドエンジニアリングは、可視光応答性光触媒を設計する上で有用な手法です。研究室では、酸窒化物光触媒について、酸化物との固溶体形成により光触媒の窒素含有量を調節することで正孔のポテンシャル(VBM)制御を可能にしました。VBMと水の酸化電位とのポテンシャル差(△E)を大きくすることにより酸素生成能を有する新しい酸窒化物光触媒の開発に成功しています」。

水溶性チタン錯体を利用して精緻な酸化チタンの合成 水分解以外にも光触媒はいろいろなところに活用されています。通常の空気中や

水中で光触媒に光をあてると、空気に含まれる酸素が励起電子により還元されると同時に、いろいろな有機、無機の化合物が酸化されます。例えば、室内の空気中にあるホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物が酸化される「無機化」がおこります。このように化学物質が分解除去される光触媒酸化反応は、さまざまな製品に応用されています. さらに応用がすすめられているのが光誘起超親水化現象。酸化チタンなどの光触媒をコーティングした表面に光を照射すると、うすい水の膜状にひろがるという表面の「超親水化」がおこります。ビルの外壁やガラスなどにコーティングすると汚れがつきにくく、「セルフクリーニング」効果が期待できます。 その他、例えば酸化チタンは電池部材や誘電体などとしても利用できます。この酸化チタンには、常温常圧で8種類の多形が存在しますが、面白いことにそれぞれが異なる機能を示します。「従って、多形の作り分けは非常に重要です。研究室では、独自に開発した水溶性チタン錯体を原料に用いることで、合成が困難な多形を含む4種類の酸化チタンを合成することに成功しています」。 さらに、水溶性チタン錯体の高い安定性を利用し様々な分子制御剤を用いることで、特異な形態を有する酸化チタン結晶の合成にも成功。このような特異な形態を有する酸化チタンが、高い機能を発揮することも見出しています。

光触媒による水分解の様子。水分解光触媒は、太陽光エネルギーと水を用いて水素を作り出す、夢のエネルギー技術です。

“うに”状やナノロッドボールアレイ型ルチルなど、分子制御による特異な結晶形態を有するルチル型酸化チタン合成が可能となります。 07

FOREFRONT REVIEW

垣花研究室では、新機能の発現もしくは高機能化を目指して、様々な化学プロセスを利用した合成手法もしくは修飾処理の検討を行っています。酸化物多形の選択的合成や形態制御を可能にする金属錯体の開発をケミカルデザインの観点から行っています。

TAGEN FOREFRONT TAGEN FOREFRONT43 44

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結晶学的な新物質設計・合成で様 な々特性の蛍光体を開発

OFF TIME心の充電のために、古い音楽を、現代の楽器で聴いています バロック期とかの古い音楽、いわゆるクラシックと言われる音楽を好んで聞きます。特にピアノのために書かれた音楽がいいと思っています。 ただ、古い音楽と言っても、古い楽器で聞くというのは好きではないですね。現代の楽器で聞くのが好きです。音楽に詳しい方には怒られるかも知れませんが、バッハやベートーヴェンあるいはモーツアルトという普遍的な音楽を書いた人は楽器を超えたものを書いたと思いますし、現代に生きていたらきっと、現代の楽器で演奏しただろうと思います。 人間というのは心の面が大きいですし、心強くしていくためにエネルギーが必要です。音楽が心の充電になると思っています。

TERM INFORMATION

高発光効率の白色LED用蛍光体の合成 垣花研究室のもう一つの研究テーマと言えるのが「蛍光体」です。現在一般に使われている蛍光管には水銀のガスが入っていて、廃棄において環境に影響を与えるという問題点があります。 その対策として生まれたのが白色LEDで、現在、青色チップと黄色蛍光体 (YAG蛍光体 )を組み合わせたもので作られています。 「しかし、現行のものは、例えば赤いものが暗い赤色に見えてしまうという傾向が

あります。より精度を高めた蛍光体を作ることができれば、より自然な色に見えてくるはずです」。 白色LEDがより一般的に使用されるようになるために、広くより自然な光を出せるような蛍光体を探す必要があります。蛍光体の特性を調べる上で、様々に合成された試料づくりが必要になりますが、固体の蛍光体のサンプルを作ることはとても大変だと垣花教授は語ります。 「有機化学反応であれば分子と分子の反応なので、高い収率で精製することができます。しかし、無機の材料ではとても

合成が難しいですね。物理的には混ざったけど、原子レベルでは並んでいないという問題があるのです」。 そこで研究室で現在採用している手法が「溶液法」というものです。 「研究室では、代表的な黄色蛍光体と比較して強く黄色発光する優

れた蛍光体(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+を開発しましたが、これは溶液法によるものです。水に分散可能なケイ素化合物(グリコール修飾シラン:GMSと呼びます)を使ってケイ酸塩を合成する手法を開発しています」。 この蛍光体(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+を開発することにより、高発光効率の白色LED用蛍光体の合成に成功しています。

鉱物をヒントにした溶液並列合成による蛍光体探索 どの化合物が蛍光体として使えるかは、実際に作ってみないと誰も予測できないので、いい蛍光体を見つけるためには、要素となる化合物を合成をして試料を数限りなく作らなければなりません。 「しかし、一つの試料を合成するのに2日はかかるので、簡単には新しい蛍光体を発見することができないという効率の悪さがあります」。 そこで垣花教授が注目したのがコンビナトリアル化学という考え方です。組み合わせ論に基づいて列挙し設計された一連の

ケミカルライブラリーを系統的な合成経路で効率的に同時合成するための実験手法です。  「コンビナトリアル化学の考え方をベースに、数十の試料を一度に合成できる『溶液並列合成法』を開発しました。これにより蛍光体の探索に要する時間を大幅に短縮する技術を確立しました」。 目的試料の化学組成と一致するように原料溶液を混合し、一連の溶液並列合成・ゲル体合成・熱処理を経て多数の蛍光体を一度に合成します。ハンディランプで光を照射して発光を目視観測し、候補物質を絞り込みます。「例えば、その種類が1万9千を越えるケイ酸塩鉱物を対象に、私たちは、溶液並列合成法を適用することにより、新しい蛍光体を次から次へと発見することに成功し、国内外で大きな注目を集めています」。

結晶サイト工学による蛍光体の発光色の制御 さらに新材料を発見する手法として、現在研究室が取り組んでいるものに「結晶サイト工学」というものがあります。

 「蛍光体が何色で光るかは、発光の源であるイオン(賦活剤)の種類と賦活剤の位置で決まります。賦活剤が占有する位置を制御することで性能を制御することを

『サイト工学』と呼びます」。 Ca1.2Eu0.8SiO4という蛍光体を例にとると、この蛍光体の賦活剤であるユーロピウムイオン(Eu2+)が、結晶の中の2種類の異なるカルシウムのサイトを占有することで2色の発光をすることが分かりました。同じカルシウムであっても、その環境(いくつの酸素と結合しているかなど)が全く異なりますので、賦活剤のユーロピウムイオンが受ける影響が変化し、発光色が変わるのです。 従来は、カルシウムの1だけしか注目していませんでした。このカルシウム2に注目することで、今までだれも見い出せなかった機能を生み出すことができます。白色LED用の赤色蛍光体として使うことができるので重要なのです。このような発光現象は、酸化物では事実上初めての例で、驚くべきことです。 「新しい物質を作る上で自然がいろいろ教えてくれます。鉱物をお手本にして新しい物質を探す。これがこれからの化学のあり方かも知れません」。

垣花研究室は無機材料の機能の飛躍的向上及び新無機物質の探索を可能にする材料化学の確立を目指しています。世の中を豊かにすると同時に産業界で活躍できる有為な人材の育成に注力しています。

07FOREFRONT REVIEW

グリコール修飾シラン:GMS(Glycol-Modified Silane)

シリコンにグリコールが結合した化学種。従来までの溶液シリコン源とは異なり、中性の水に一様に分散させることが可能。GMSの利用により、シリコン含有材料の合成法の選択肢が広がった。

コンビナトリアル化学

コンビナトリアル=集積化を活用した化学。多種類の合成や反応を一度に実施し、その中から目的物質、反応を効率よく探索することができる。

溶液並列合成法

コンビナトリアル化学を応用した材料探索法。類似化合物群をライブラリーとして構築後、その構成元素の混合溶液を原料として準備し、同条件でライブラリーの化合物を一度に合成する。本手法により組成が精密に制御された物質が、一度に大量に合成できる。

賦活剤

ある物質に対して機能を付与するイオン。蛍光体においては賦活剤が発光中心となり、発光を担う。通常、賦活剤の量は、母体に対して数%程度の少量でよく、少量の賦活剤をいかに均一に対象物質に分散させるかが蛍光体の高輝度化において重要である。

サイトを占有

結晶性の材料では、構成元素は空間の決まった場所に存在し、その場所をサイト、そのサイトに元素が存在することを占有、という。賦活型の蛍光体の高輝度化や発光色制御において、賦活剤がどのサイトを占有するのかを理解し制御することが重要である。

次世代の固体照明として脚光を浴びている白色LEDに使用される蛍光体。垣花研究室では、水溶液プロセス(低環境負荷プロセス)を用いて、優れた性能を示す蛍光体の合成する手法を研究開発しています。

青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせで作る白色光を示します。溶液法により合成した黄色蛍光体(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+の励起・発光スペクトル

(標準YAG:Ce3+との比較)

Ca1.2Eu0.8SiO4という蛍光体の賦活剤であるユーロピウムイオン(Eu2+)がカルシウム1とマークした位置を占有すると黄色の光が発光し、一方、ユーロピウムイオンがカルシウム2とマークした位置を占有すると深赤色が発光します。

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多元物質科学研究所が推進する研究

研究室(教授)/研究分野 主な研究テーマ有機・生命科学研究部門

永ナ ガ ツ ギ

次  史フ ミ

生命機能分子合成化学研究分野

効率的遺伝子発現制御を目指した新規架橋反応の開発遺伝子選択的化学修飾を目指した低分子プローブの開発遺伝子高次構造の制御を目指した方法論の開発新規核酸医薬開発に向けた方法論の開発

和ワ ダ

田 健タ ケ ヒ コ

彦生命機能制御物質化学研究分野

がん細胞特異的核酸医薬の開発生体高分子を不斉反応場とする環境調和型光不斉光化学反応反応系の創製高感度・高時間分解能を有する円二色(CD)スペクトル測定装置の開発酵素活性などの細胞内in situ&in vivo検出系構築に向けた分割型蛍光タンパク質システムの開発

金キ ン バ ラ

原  数カズシ

生命類似機能化学研究分野

タンパク質を制御する機能物質の開拓膜タンパク質を模倣した機能物質の開拓生体分子を利用した機能物質の開拓光機能材料のスピン光化学

稲イ ナ バ

葉 謙ケ ン ジ

次生体分子構造研究分野

細胞におけるタンパク質品質管理機構の分子基盤の解明タンパク質の高次構造形成に関わるジスルフィド結合形成酵素群のX線結晶構造解析小胞体に張り巡らされたレドックスネットワークの網羅的解析細胞内カルシウム恒常性維持機構の構造基盤の確立

齋サ イ ト ウ

藤 正マ サ オ

男タンパク機能解析研究分野

ヘム分解酵素、ヘムオキシゲナーゼ、反応機構の解明結核菌・黄色ブドウ球菌におけるヘム分解・鉄獲得機構の解明ヘムのトランスポーターなど新規ヘムタンパク質及びヘム依存型転写因子の生物化学・生物物理学的研究

石イ シ ジ マ

島 秋ア キ ヒ コ

彦生物分子機能計測研究分野

バクテリアべん毛モーターの回転機構の解明、走化性システムにおける情報伝達機構の解明アクトミオシンのエネルギー変換動作機構の解明褐色脂肪細胞の熱計測CNTを用いた新しい計測システムの開発

高タ カ ハ シ

橋  聡サトシ

生命分子ダイナミクス研究分野

タンパク質フォールディング機構の解明人工タンパク質の新デザイン戦略の開発がん抑制タンパク質p53のDNA認識機構の解明

無機材料研究部門

大オ オ タ ニ

谷 博ヒ ロ シ

司計算材料熱力学研究分野

クラスター法を用いたFe基侵入型合金における原子間相互作用の理論的研究Fe基磁性材料の電子論的探索法の開発と試作金属固溶体や液体、粒界、積層欠陥などの熱力学物性の電子論計算不純物を効率的に除去できるプロセスを用いた高純度金属の作製

鈴ス ズ キ

木  茂シゲル

機能材料微細制御研究分野

多様な水酸化鉄と酸化鉄の構造解析と制御酸化物や金属・合金のナノ粒子の合成と評価形状記憶効果などの特異な変形挙動を示す各種合金の構造評価放射光を用いた機能性化合物中の金属の酸化還元挙動の解析

佐サ ト ウ

藤  卓タ ク

スピン量子物性研究分野

遍歴電子系、特に鉄系超伝導体における反強磁性と超伝導の研究低次元フラストレート量子スピン系における巨視的量子現象の研究トポロジカルスピンテクスチャーのスローダイナミクス研究中性子非弾性散乱分光法および解析法の開発

北キ タ カ ミ

上  修オサム

ナノスケール磁気デバイス研究分野

単一磁性ナノ粒子の物性・スピンダイナミクス巨大磁気異方性材料の設計・開発新規超高密度磁性メモリー技術の提案・開発永久磁石の保磁力決定機構

横ヨ コ ヤ マ

山 千チ ア キ

昭超臨界流体・反応研究分野

アモノサーマル法による窒化物半導体結晶の作製超臨界アンモニア中への窒化物半導体の溶解度イオン液体と超臨界二酸化炭素を用いた化学プロセスの開発糖類からの有用化学原料製造プロセスの開発

福フ ク ヤ マ

山 博ヒ ロ ユ キ

之高温材料物理化学研究分野

高温化学反応場における機能材料プロセスの創製窒化物半導体結晶成長の物理化学とプロセス創製高温融体の高精度熱物性計測システムの開発と高温融体の科学強磁場形状記憶合金の薄膜化とマイクロアクチュエータの開発

プロセスシステム工学研究部門

北キ タ ム ラ

村 信シ ン ヤ

也基盤素材プロセッシング研究分野

製鋼スラグを利用した津波で被災した田園地帯の復興 反応界面積の極大化による超高速精錬プロセスの追求鉄鋼副産物からの有価金属元素の高純度分離回収

加カ ノ ウ

納 純ジ ュ ン ヤ

也機能性粉体プロセス研究分野

コンピュータシミュレーションによる粉体プロセスの最適化メカノケミカル法による機能性粉体の創成と希少金属の回収バイオマスおよび樹脂廃棄物からの水素製造プロセスの創成

研究室(教授)/研究分野 主な研究テーマプロセスシステム工学研究部門(つづき)

田タ ナ カ

中 俊シュンイチロウ

一郎高機能ナノ材料創成研究分野

電子線・イオン励起反応場での新規ナノ構造体のボトムアップ構築および非平衡物質の創成高エネルギーイオンビーム照射を用いた無機・有機ハイブリッドナノ構造体誘起と機能制御セラミックス基ナノ複合材料の高次構造設計と機能化異種材料接合界面など局所での残留応力テンソル実測

阿ア ジ リ

尻 雅タ ダ フ ミ

文超臨界ナノ工学研究分野

超ハイブリッドナノ粒子の創製プロセス超ハイブリッドナノ粒子系の科学数学との連携による新規ナノ材料の開拓

佐サ ト ウ

藤 俊シュンイチ

一光物質科学研究分野

高強度光の場における物質変換・ナノ合金粒子合成プロセスベクトルビームの開発と新分野への応用技術開発ベクトルレーザービームを用いたナノイメージング

村ム ラ マ ツ

松 淳ア ツ シ

司ハイブリッドナノ粒子研究分野

有機−無機ハイブリッドナノ粒子の合成シングルナノサイズ金属粒子の合成と機能性材料への応用部分硫化による可視光応答性光触媒材料の開発液相還元法による新規触媒材料

佐サ ト ウ

藤 修ノ ブ ア キ

彰エネルギーシステム研究分野

アクチノイド化合物の固体および溶液化学の研究核燃料サイクルにおけるフロントおよびバックエンド化学の研究原発事故に関わる環境修復および放射性廃棄物の処理・処分に関する研究放射性物質を含むレアメタル資源のグリーンプロセス開発

計測部門

上ウ エ ダ

田  潔キヨシ

電子分子動力学研究分野

光電子回折を用いた分子の自己ダ イナミックイメージング分子集合体における分子間電子緩和ダイナミクスFELパルスと物質との相互作用X線FELパルス用いたダイナミックイメージング

高タ カ ハ シ

橋 正マ サ ヒ コ

彦量子電子科学研究分野

時間分解電子運動量分光の開発による化学反応の電子レベルでの可視化分子座標系電子運動量分光による分子軌道の運動量空間イメージング多次元同時計測分光の開発による電子・分子衝突の立体ダイナミクスの研究

百モ モ セ

生  敦アツシ

量子ビーム計測研究分野

X線干渉光学に基づく高感度計測技術研究X線・中性子位相イメージング技術の開拓実用化高度X線位相撮像装置の開発

木キ ム ラ

村 宏ヒ ロ ユ キ

之構造材料物性研究分野

多重極限下(高圧・極低温・強磁場・高電場)におけるX線・中性子回折手法の開発強誘電体・磁性体・有機伝導体などの新奇機能性物質の構造物性研究超精密X線単結晶構造解析による遷移金属酸化物の軌道秩序状態の可視化中性子回折装置とその応用法の開発(JAEA東海研究用原子炉にあるFONDERと2D-PSD)

栗ク リ ハ ラ

原 和カ ズ エ

枝ナノ界面化学研究分野

表面力測定による分子間・表面間の相互作用の研究固ー液界面、閉じ込め空間の液体の研究ナノトライボロジー電気化学表面力装置による電気化学反応の研究

髙タ カ ク ワ

桑 雄ユ ウ ジ

二表面物理プロセス研究分野

リアルタイム光電子分光による表面反応キネティクスの研究 ストリークカメラ反射高速電子回折による表面構造ダイナミクスの研究 光電子制御プラズマによるナノ炭素材料合成プロセスの開発 CMOSゲートスタックの極薄誘電体膜形成機構の解明

秩チ チ ブ

父 重シ ゲ フ サ

英量子光エレクトロニクス研究分野

環境に優しい(Al,In,Ga)Nおよび(Mg,Zn)O系ワイドバンドギャップ半導体微小共振器 を用いた、励起子と光の相互作用に基づく新しいコヒーレント光源の研究 フェムト秒レーザおよびフェムト秒電子線を用いた(Al,In,Ga)N および(Mg,Zn)O系 ワイドバンドギャップ半導体量子ナノ構造の時間空間分解スペクトロスコピー 有機金属化学気相エピタキシーおよび分子線エピタキシーによる(Al,In,Ga)N系量子 ナノ構造形成と深紫外線~長波長発光デバイス形成

(Mg,Zn)O系酸化物半導体のヘリコン波励起プラズマスパッタエピタキシーと機能性酸 化物薄膜形成

サステナブル理工学研究センター

本ホ ン マ

間  格イタル

エネルギーデバイス化学研究分野

次世代リチウムイオン電池・高容量キャパシタグラフェン量産化技術太陽電池化合物半導体薄膜の安価大面積プロセス開発ナノテクノロジーの資源エネルギー技術への応用技術開発

雨ア メ ザ ワ

澤 浩コ ウ ジ

史固体イオニクス・デバイス研究分野

固体酸化物形燃料電池/リチウムイオン二次電池の高性能化・高信頼性化電気化学エネルギー変換用デバイス・材料評価のための高度その場分析技術の開発ヘテロ界面における電気化学現象に関する基礎研究新規固体イオニクス材料の設計と創製

河カ ワ ム ラ

村 純ジュンイチ

一固体イオン物理研究部門

核磁気共鳴法による革新電池の高度解析技術開発リチウムイオン電池のin situ劣化診断技術の開発固体電解質を用いた全固体薄膜電池の研究超イオン伝導体・ガラス・過冷却液体のイオンダイナミクス

TAGEN FOREFRONT TAGEN FOREFRONT47 48

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多元物質科学研究所が推進する研究

編 集後 記

TAGEN FOREFRONT 04

 FOREFRONT第4号となります。

 これまで登場した教授は全部で28人。

ようやく半分の教授を紹介することがで

きました。今回も7人の真理の探究に打

ち込む姿、そして顔、目が、クローズアッ

プされています。

 研究内容はそれぞれ違いますが、研究

にかける情熱の熱さは競い合うほどに高

く、そしてそれが続いています。多元研

が世界に発信する全く新しく斬新な研究

成果は、その熱き心によるものなのです。

 次号も、さらに熱い研究者7人を紹介

します。

 是非、感想をお寄せください。よろし

くお願いします。

(A.M )

■編集・発行

国立大学法人東北大学多元物質科学研究所 広報委員会〒980-8577宮城県仙台市青葉区片平2丁目1番1号TEL 022-217-5204FAX 022-217-5211www.tagen.tohoku.ac.jp2014年8月29日発行

取材を終えて

 今回の取材で面白い話を聞きました。研究者という方々の中には「料理が好きな人が多い」ということ。この食材を入れるとどうなるか?この調味料はどうだろうか?様々な調理のプロセスがすべて実験に通じるということらしいです。 いつも取材をしていて感じることですが、先生方の謎に向かう姿勢がとてもキラキラしていること。謎を解明するステップの話がとても楽しそうだということ。まさに、スペシャルな料理人たちが、苦労した料理のプロセスを楽しそうに話すように。 今後また多元研のシェフたちがどんな研究成果というスペシャルディナーを見せてくれるのでしょうか。次の取材が楽しみです。

広報委員会

委員長 福山 博之 雨澤 浩史 米田 忠弘 髙橋  聡 秩父 重英 村松 淳司

和田 健彦

研究室(教授)/研究分野 主な研究テーマサステナブル理工学研究センター(つづき)

埜ノ ガ ミ

上  洋ヒロシ

環境適合素材プロセス研究分野

素材製造プロセスの多相反応シミュレーション技術新規エネルギー変換・貯蔵・回収プロセスの開発反応・伝熱高効率化のための境膜制御技術開発高温混相流動系内の物質の変形と相変化

柴シ バ タ

田 浩ヒ ロ ユ キ

幸材料分離プロセス研究分野

溶融ケイ酸塩の熱物性と構造Fe基合金における包晶反応・変態の速度論レアメタルのリサイクルに関わる溶融塩の構造と物性難燃性マグネシウム合金空気電池を用いた非常用電源開発

中ナ カ ム ラ

村  崇タカシ

金属資源循環システム研究分野

非鉄金属製錬における新規プロセス開発と環境負荷元素制御希土類金属の新規製錬プロセス・リサイクル技術開発超音波場を利用した新規技術開発(洗浄、分離、ナノ材料創成プロセス開発)

「人工鉱床~Reserve to Stock~」新しい金属リサイクルへの取り組み

先端計測開発センター

柳ヤナギハラ

原 美ミ ヒ ロ

廣軟X線顕微計測研究分野

高視野・高分解能軟X線顕微鏡の開発と応用極紫外リソグラフィー・マスクの実波長観察生物試料の軟X線分光顕微観察軟X線用高反射率多層膜ミラーの開発

寺テ ラ ウ チ

内 正マ サ ミ

己電子回折・分光計測研究分野

高分解能EELSによるナノマテリアルの光学物性評価法の開発と応用分光収束電子回折法によるナノ領域の精密結晶構造解析法の開発と応用ナノスケール軟X線発光分析システムの開発と材料研究への応用

進シ ン ド ウ

藤 大ダ イ ス ケ

輔電子線干渉計測研究分野

電子線ホログラフィーによるナノスケール電磁場計測の高精度化電磁場制御と伝導性評価のための電顕内探針操作技術の開発電場解析による帯電・電子放出機構の解明先端磁性材料、高温超伝導体、強相関電子系新物質の磁束イメージング

米コ メ ダ

田 忠タ ダ ヒ ロ

弘走査プローブ計測技術研究分野

走査プローブ顕微鏡の高度化により、原子レベルで物質を化学分析できる顕微鏡の開発電子が持つスピンをより明確に可視化し、操作する技術の開発省エネルギーと量子コンピューター等の高度情報処理の両方から期待される、分子を 材料とし、スピンを利用するエレクトロニクス=分子スピントロニクスの開発

高分子ハイブリット材料研究開発センター

三ミ ツ イ シ

ツ石 方マ サ ヤ

也高分子ハイブリッドナノ材料研究分野

高分子ハイブリッドナノ材料の開発高分子ナノ材料の配向・配列構造制御技術の開発高分子ハイブリッドナノ構造を利用した光電子機能発現高分子ハイブリッドナノ材料からなるソフト系表面・界面の特性解明

及オ イ カ ワ

川 英ヒ デ ト シ

俊有機ハイブリッドナノ結晶材料研究分野

新規有機ナノ結晶(フォトクロミックナノ結晶、錯体ナノ結晶、デンドリマーナノ粒子など)の創出と物性評価次世代フォトニック材料を目指した有機ハイブリッドナノ結晶の集積・階層化プロセスの構築と光機能発現多孔質および逆オパール周期構造を有する高分子薄膜の作製と光・電子(誘電)特性生理活性物質のナノ結晶粒子化とナノ純薬の創製

京キョウタニ

谷  隆タカシ

ハイブリッド炭素ナノ材料研究分野

均一なナノ空間を反応場としたハイブリッドナノカーボンの合成ナノカーボン材料および複合材料を用いたエネルギー貯蔵デバイスの開発炭素被覆メソポーラス構造体を用いたバイオ燃料電池の開発実用炭素材料の超精密分析とそれによる性能向上

芥アクタガワ

川 智ト モ ユ キ

行ハイブリッド材料創製研究分野

多重機能を有する分子性材料の創成有機強誘電体薄膜メモリーの開発n型有機半導体材料の開発有機−無機ハイブリッド型ポリオキサメタレートの材料化

中ナ カ ガ ワ

川  勝マサル

光機能材料化学研究分野

ナノインプリント材料の開発ナノインプリントリソグラフィデバイスの創出シングルナノ制御に基づく光・磁気デバイスの創出

新機能無機物質探索研究センター

山ヤ マ ネ

根 久ヒ サ ノ リ

典無機固体材料合成研究分野

多元系酸化物や窒化物の新規物質探索と構造解析および結晶化学的研究活性金属を利用した非酸化物系セラミックスの新規合成プロセスの開拓ナトリウムを用いた金属間化合物の低温合成と構造解析および特性評価

蔡サ イ

  安ア ン ポ ウ

邦金属機能設計研究分野

準結晶の創製と高比強度Mg材料への応用準結晶の構造解析と数理モデル金属組織制御による触媒の調製価電子構造制御による新触媒の探索

佐サ ト ウ

藤 次ツ ギ オ

雄環境無機材料化学研究分野

ソルボサーマル反応によるセラミックスのパノスコピック形態制御と環境調和機能可視光応答性光触媒の合成と環境浄化機能無機紫外線・赤外線遮蔽剤の開発革新的自動車排ガス浄化触媒の開発

垣カ キ ハ ナ

花 眞マ サ ト

人無機材料創製プロセス研究分野

白色LEDへの応用を目指した高機能な新規蛍光体の開発太陽光エネルギー変換を目指した新規光触媒の構築金属錯体をビルディングブロックとして利用した特異構造の金属酸化物および無機ー有機ハイブリッドの創製

TAGEN FOREFRONT TAGEN FOREFRONT49 50

Page 27: いま持続可能な社会づくりへ · 2014-09-03 · いま持続可能な社会づくりへ imram-東北大学多元物質科学研究所 環境問題、エネルギー問題、地球温暖化…。我々は今、地球規模で解決しなければいけない問題に直面しています。