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Atomic Energy Society of Japan 日本原子力学会2016秋の大会@久留米シティプラザ 総合講演・報告4 「断層の活動性と工学的なリスク評価」調査専門委員会活動報告 断層変位に対する工学的なリスク評価 (2) 断層変位のハザード評価 2016年9月8日 13:00~ 1 調査専門委員会委員 谷 和夫(東京海洋大学)

「断層の活動性と工学的なリスク評価」調査専門委員会活動 ...roko.eng.hokudai.ac.jp/.../aesj/H28AESJ_2/ppt_2.pdfAtomic Energy Society of Japan 日本原子力学会2016秋の大会@久留米シティプラザ

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Atomic Energy Society of Japan

日本原子力学会2016秋の大会@久留米シティプラザ総合講演・報告4「断層の活動性と工学的なリスク評価」調査専門委員会活動報告

断層変位に対する工学的なリスク評価(2) 断層変位のハザード評価

2016年9月8日 13:00~

1

調査専門委員会委員 谷 和夫(東京海洋大学)

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2

① 震源断層の活動に伴って生じる地表地震断層(主断層、分岐断層、副断層)

② 震源断層の活動以外を成因とし,その成因が将来も起こりうるもの

検討対象とする断層変位

本発表の対象

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断層変位ハザード評価のフロー

3

(1)

(2) (3)

(4)DB:データベース

地形・地質・地盤調査

断層活動性の調査・評価

断層変位量の検討

• 地質調査(di)

• 数値解析(da)

• 地表地震断層DB (dd)

検討用の断層変位量(ds)の設定

確率論的断層変位ハザード解析

(ハザード曲線の設定)

参照

構築物の基礎と地盤との境界に設定

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(1)

4

・文献調査(重力異常、微小地震等を含む)

・変動地形学的調査

・地表地質調査等

・ボーリング調査・トレンチ調査・地球物理学的調査(反射法地震探査、重力探査等)

・海域調査(音波探査等)

断層存在の可能性がある調査対象地点・地域を網羅的に抽出

• 地質構造の検討• 地質構造発達史の検討• 活動履歴の検討

位置、規模、活動性等の評価

活動性を否定する根拠

後期更新世以降の活動はない

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(1)-2 断層の活動性調査・評価

5

後期更新世以降の活動性の調査は、変動地形学的調査、露頭観察、トレンチ

調査、ボーリング調査の組み合わせ

活動性の評価では、地形・地質と断層の形成順序から活動年代を決める手法

(上載地層法)の適用を基本

後期更新世以降の地層が欠如するなどにより適用が困難な場合には、12万

~13万年以前の岩脈・鉱脈等との接触関係(切断脈法)、接触変成との関係、

断層破砕物質の性状等の観点から総合的に判断

断層の活動年代および1回あたりの変位量を推定

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(1)-3 断層の活動性調査・評価

上載地層法による評価

上載地層に変位がある/ない

上載地層の堆積以降に活動があった/なかった

上載地層の年代は,火山灰や微化石の分析などにより推定

火山灰

断層

火山灰

断層

6

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(1)-4 断層の活動性調査・評価

7

薄片スケッチ

最新面

凡例

最新面(熱水作用後)

単ニコル 直交ニコル

0.2mm

最新面

平成28年5月20日第361回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料1-2より抜粋・編集

鉱物脈が切断されていない

走査型電子顕微鏡(SEM)による粘土鉱物の観察

野島断層(×1万倍)(1995年兵庫県南部地震)

粘土鉱物が破砕されていない 粘土鉱物が破砕されている

評価対象破砕帯(×1万倍)

平成26年1月10日第66回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合資料2より抜粋

切断脈法による評価

断層破砕物質性状による評価

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(2)-1 地質調査結果によるδi

8

不確かさを適切に考慮して

1回あたりの変位量δiを設定

産総研HPより引用https://unit.aist.go.jp/ievg/group/actfault/index.html#mem

トレンチ調査の例

敷地におけるボーリング調査、

トレンチ調査、試掘坑調査などの

調査結果

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(2)-2 数値解析によるδa

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食い違いの弾性論

詳細FEM解析

パラメータスタディ

δaの検討

不確実さの考慮

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ずれを考える断層(主断層)

その他の断層(副断層)

その他の断層(副断層)

重要構造物重要構造物

①主断層と重要構造物が近いとき②主断層と重要構造物が離れているとき

詳細FEMの解析範囲

※構造物、その他の断層は食い違い の弾性論の計算では考慮されない

地表面

食い違い弾性論による変形計算

(2)-3 数値解析によるδa

震源断層

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(2)-4 数値解析によるδa

旧原子力安全委員会地震・地震動評価委員会及び施設健全性評価委員会第70回ワーキング・グループ2資料WG2第70-3-2号より抜粋・編集

境界変位 or 換算応力

詳細FEM解析の境界条件

隆起

沈降

食い違い弾性論による変形計算の例

地殻:半無限・連続・一様・線形弾性

主断層・分岐断層:不連続面にずれ

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構造物はモデルには含めない

①主断層と重要構造物が近いとき

主断層を詳細FEMの解析領域に含める

構造物はモデルには含めない

②主断層と重要構造物が離れているとき

da

da

(注)構造物はモデルには含めない

12

(2)-5 数値解析によるδa

食い違いの弾性論により算定した

境界変位 or 換算応力

詳細FEMによる断層変位計算

①主断層と重要構造物が近いとき

②主断層と重要構造物が離れているとき

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(2)-6 数値解析によるδa

旧原子力安全委員会地震・地震動評価委員会及び施設健全性評価委員会第70回ワーキング・グループ2資料WG2第70-3-2号より抜粋・編集

詳細FEMによる断層変位計算の例(要素分割図)

0 50 100m

主断層0 50 100m

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(2)

14

原子力安全推進協会(2013)より引用・編集原子力発電所敷地内断層の変位に対する評価手法に関する調査・検討報告書http://www.genanshin.jp/archive/sitefault/

0

10

20

30

40

50

60

70

0 1 2 3 4 5

副断層の変位量(cm

)

主断層からの距離((km)

屈曲部

被覆層

岩盤

DB:データベース

・主断層および副断層の変位量に関する既存のDB(例:JANSIのDB)

・独自に構築または追加したDB

不確かさを適切に考慮してδdを設定

評価対象断層とDBにおける断層を比較し、活動履歴・規模、地形条件、地質条件等を検討

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(3)-1 確率論的断層変位ハザード解析Probabilistic Fault Displacement Hazard Analysis (PFDHA)

ν(d)d= ν0 ×P1p × P2d× P3d

ν0 :活断層が活動する1年あたりの頻度P1p:活断層が活動したときに,主断層の断層変位が地表で発生する確率P2d:主断層による断層変位が地表で発生した場合に,活断層から離れた場所で副断層の断層

変位が地表で発生する確率P3d:副断層の断層変位が評価地点で発生した場合にその断層変位がある値を超過する確率

副断層による断層変位の年超過頻度を計算する場合のPFDHA

P3d

副断層の変位量の確率密度分布

d

ν0

P2dP1p

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(3)-2 確率論的断層変位ハザード解析Probabilistic Fault Displacement Hazard Analysis (PFDHA)

高尾ほか(2014)より引用高尾誠、上田圭一、安中正、栗田哲史、中瀬仁、京谷孝史、加藤準治:確率論的断層変位ハザード解析の信頼性向上、日本地震工学会論文集、第14巻、第2号、2014年、pp.16-36.

Mw:6.8R :5,000年、7,000年、9,000年

活断層かどうかで意見が分かれているMw:6.8R :50,000年、70,000年、90,000年

Mw:6.8, 7.0, 7.2R :2,000年、4,000年、6,000年

【例題】 断層A,BまたはCが活動した場合に,評価地点で副断層の変位量がある値を超過する頻度?

Mw:地震規模R :活断層の平均活動間隔

1km

10km5km

断層A(主断層)

断層C(主断層)

断層B(主断層)

評価する断層(副断層)

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(3)-3 確率論的断層変位ハザード解析

ロジックツリー

Probabilistic Fault Displacement Hazard Analysis (PFDHA)

高尾ほか(2014)より引用

断層A 活断層 Mw=7.0 R=4,000

Mw=6.8

Mw=7.2 R=6,000

R=2,000

断層B 活断層 Mw=6.8 R=7,000

R=9,000

R=5,000

断層C

活断層 Mw=6.8 R=70,000

R=90,000

R=50,000活断層ではない

0.2

0.1

0.50.5

0.3

0.6

0.2

0.2

0.7

0.2

0.1

1/3

1/3

1/3

0.9

地震の規模 平均活動間隔(年)

分岐の重み:総和は1.0。通常、専門家へのアンケートに基づき設定。

評価地点から10km

評価地点から5km

評価地点から1km

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(3)-4 確率論的断層変位ハザード解析

フラクタイルハザード曲線の例 高尾ほか(2014)より引用

Probabilistic Fault Displacement Hazard Analysis (PFDHA)

1.0E-11

1.0E-10

1.0E-09

1.0E-08

1.0E-07

1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

年超過頻度

副断層の変位量(m)

0.950.840.50.160.05平均

フラクタイルの数値は、重みを確率とみなした場合の、全ハザード曲線に対する非超過確率のレベルを示す。例えば、0.84フラクタイル曲線は、アンケートに参加した専門家の84%がこれより小さいと認める年超過頻度を表す曲線である。

フラクタイル

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項目地質調査結果に基づくδi

数値解析結果に基づくδa

地表地震断層DBに基づくδd

不確実さを考慮した設定値

1回あたりの変位量+

ばらつき(例えば、標準偏差)

パラメータスタディの結果

DBから求めた平均値+

DBから求めたばらつき

(例えば、標準偏差)

δs

• δi、δaおよびδdを総合的に勘案

• PFDHAの結果を参照

• 構築物の基礎と地盤との境界に設定

(4) 検討用の断層変位量δsの設定

19DB:データベース

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まとめ

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断層変位のハザード評価に関して、これまでに関連分野

で得られている知見を最大限活用し、不確実さも考慮した

適用可能な方法として取りまとめた。

今後とも知見の蓄積を継続し、関連する学術分野間での

連携・協調を深化させながら、より一層信頼性の高いもの

にしていく努力が必要である。